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明細書 :ショ糖リン酸合成酵素遺伝子を利用した植物の草丈の制御

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3790811号 (P3790811)
公開番号 特開2000-262283 (P2000-262283A)
登録日 平成18年4月14日(2006.4.14)
発行日 平成18年6月28日(2006.6.28)
公開日 平成12年9月26日(2000.9.26)
発明の名称または考案の名称 ショ糖リン酸合成酵素遺伝子を利用した植物の草丈の制御
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
A01H 5/00 A
請求項の数または発明の数 8
全頁数 15
出願番号 特願平11-068604 (P1999-068604)
出願日 平成11年3月15日(1999.3.15)
審査請求日 平成15年6月24日(2003.6.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】石丸 健
【氏名】小野 清美
【氏名】大杉 立
【氏名】大川 安信
【氏名】小沢 憲二郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100108774、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 一憲
審査官 【審査官】小暮 道明
参考文献・文献 The Plant Cell,1991年10月,vol.3, no.10,1121-1130
日本植物生理学会年会およびシンポジウム講演要旨集,1998年 5月,vol.38,162(F2a-04)
調査した分野 C12N15/00-15/90
PubMed
BIOSIS/WPI(DIALOG)
JICSTファイル(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
イネ科植物において、植物由来のショ糖リン酸合成酵素をコードするDNAの発現を制御することを特徴とする、該イネ科植物の草丈を制御する方法。
【請求項2】
イネ科植物がイネである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ショ糖リン酸合成酵素をコードするDNAが単子葉植物由来である、請求項に記載の方法。
【請求項4】
ショ糖リン酸合成酵素をコードするDNAが単子葉植物由来である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
単子葉植物がイネ科植物である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
単子葉植物がイネ科植物である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
単子葉植物がトウモロコシである、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
単子葉植物がトウモロコシである、請求項4に記載の方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ショ糖リン酸合成酵素遺伝子を利用した植物の草丈の制御に関する。
【0002】
【従来の技術】
ショ糖は植物体内における光合成産物(photoassimilate)の主な輸送形態であり、ショ糖リン酸合成酵素(EC2.4.1.14,SPS)とショ糖リン酸フォスファターゼ(EC3.1.3.24,SPP)により触媒される2つの反応を経てUDPGとF6P(フルクトース-6-リン酸)から合成される。ショ糖リン酸合成酵素(SPS)は、糖代謝全体を制御するキーエンザイムであり、一般に、ショ糖リン酸合成酵素はショ糖合成の律速酵素となると考えられている(Huber S.C., 1983, Plant Physiol 71:818-821; Stitt M.ら, 1987, "Control of photosynthetic sucrose formation" in Hatch M.D. and Boardmann N.K. eds., The Biochemistry of Plants, Vol. 10, Photosynthesis, Academic Press, New York, 327-409)。HuberおよびIsraelはダイズ植物体を用いて、葉のデンプン含量はショ糖リン酸合成酵素活性と負に相関(r=-0.71)していることを示し、ショ糖リン酸合成酵素はショ糖だけでなくデンプンの形成を調節する鍵となっていると結論づけた(Huber S.C. and Israel D.W., 1982, Plant Physiol 69:691-696)。
【0003】
ショ糖リン酸合成酵素はある種の植物(オオムギ、トウモロコシ、イネ、ホウレンソウ、およびテンサイ)では光により活性化するが、他の種(ダイズ、エンドウ、タバコ、アラビドプシス(Arabidopsis thaliana)、キュウリ、およびメロン)では明期/暗期の移行に影響を受けない(Huber S.C.ら, 1989, Plant Cell. Physio1. 30:277-285; Lunn J.E. and Hatch M.D., 1997, Aust. J. Plant Physiol. 24: 1-8.)。ショ糖リン酸合成酵素活性はタンパク質のリン酸化により調節されている(Huber J.L. ら, 1989, Arch. Biochem. Biophys. 270: 681-690; Huber S.C. and Huber J.L., 1990, Curr. Top. Plant. Biochem. Physiol. 9: 329-343; Huber S.C. and Huber J.L., 1990, Arch. Biochem. Biophys. 282: 421-426; Huber S.C. and Huber J.L., 1991, Plant Cell Physiol. 32: 319-326)。ショ糖リン酸合成酵素には活性型と不活性型がある。不活性型は、ショ糖リン酸合成酵素がショ糖リン酸合成酵素キナーゼによりリン酸化されると生じ、活性型は、ショ糖リン酸合成酵素がショ糖リン酸合成酵素フォスファターゼにより脱リン酸化されると生じる。明期/暗期の移行における活性制御に関しては、トウモロコシショ糖リン酸合成酵素の主なリン酸化調節部位は、Ser162と同定されている(Huber S.C. ら, 1995, Am. Soc. Plant Physiol., 35-44)。イネのショ糖リン酸合成酵素にもまた相同のセリン残基があり、その周辺のアミノ酸もトウモロコシのショ糖リン酸合成酵素と相同である(Valdez-Alarcon J.J.ら, 1996, Gene 170:217-222)。
【0004】
ショ糖とデンプン間の炭素分配は種によって異なっている(Huber S.C., 1981, Z.Pflanzenphysiol. Bd. 101:49-54; Lunn J.E.and Hatch M.D., 1995, Planta 197:385-391)。ダイズやキュウリなどでは、主に葉にデンプンを蓄積する。一方、イネやホウレンソウなどのようにショ糖を葉に蓄積するものもある。これまでのところ、トウモロコシショ糖リン酸合成酵素遺伝子を高発現するトランスジェニック植物体は、トマト(Worrell A.C.ら, 1991, Plant Cell 3: 1121-1130; Galtier N.ら, 1993, Plant Physiol. 101: 535-543; Galtier N.ら, 1995, J. Exp. Bot. 46: 1335-1344; Micallef B.J.ら, 1995, Planta 196: 327-334)やアラビドプシス(Signora L.ら, 1998, J. Exp. Bot. 49: 669-680)のように、葉において光合成産物をよりデンプンに分配する植物からしか作出されていない。これらのトランスジェニック植物体においては、トウモロコシショ糖リン酸合成酵素の高発現により、葉におけるショ糖/デンプン比が増加した(Galtier N.ら, 1993, Plant Physiol. 101: 535-543; Signora L.ら, 1998, J. Exp. Bot. 49: 669-680)。しかしながら、葉において光合成産物をよりショ糖に分配する植物においても同様な効果が得られるかどうかは不明確であった。
【0005】
また、トマト、アラビドプシスでの形質転換体の解析から、ショ糖リン酸合成酵素の高発現により収量が野生種に比べ有意に増加したことが報告されている(Micallef et al., 1995, Planta 196: 327-334)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
植物体の草丈を制御することは、農業や園芸において様々な意義を有する。例えば、草丈を増加させることで、バイオマスを増大させ、農作物の収量を増加させることが可能である。逆に、草丈を減少させることで、実用的な利用が期待できる。例えば、窒素の高投入による草丈の増加に伴い、倒伏が引き起こされる。倒伏は減収および品質の低下を引き起こす。また、倒伏したイネの収穫には、多大の労力が必要となる。草丈を低下させることにより、窒素高投入下での倒伏を抑制することが可能であると考えられる。さらに、グランドカバーとして用いられる芝の草丈を減少させることで、芝の維持の労力の軽減を期待することができる。しかしながら、これまでショ糖リン酸合成酵素遺伝子を利用した植物の草丈の制御については何ら報告されていない。
【0007】
本発明は、ショ糖リン酸合成酵素遺伝子を利用した植物の草丈の制御方法を提供することを課題とする。また、本発明は、ショ糖リン酸合成酵素遺伝子の導入により草丈の生育が改変された植物体を提供することをも課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、まず、トウモロコシショ糖リン酸合成酵素遺伝子をもつイネ(Oryza sativa L.cv.Nipponbare)のトランスジェニック植物体を作成し、トウモロコシショ糖リン酸合成酵素遺伝子の高発現がショ糖とデンプンの間の炭素分配に及ぼす影響の検討を行った。その結果、植物体におけるトウモロコシショ糖リン酸合成酵素タンパク質量とショ糖リン酸合成酵素活性は正の相関を示し、また植物体におけるデンプン含量はショ糖リン酸合成酵素活性と負に相関し、ショ糖/デンプン比がショ糖リン酸合成酵素活性と正の相関を示した。即ち、本発明者らは、イネにおいてショ糖リン酸合成酵素遺伝子導入により炭素分配が改変されることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、ショ糖リン酸合成酵素遺伝子の導入によりショ糖リン酸合成酵素活性が高められたトランスジェニックイネ植物体の生育について検討を行った。その結果、本発明者らは、ショ糖リン酸合成酵素遺伝子が導入されたトランスジェニックイネ植物体が野生型植物体と比較して、その草丈の生育が有意に増加することを見出した。
【0010】
従って、本発明は、ショ糖リン酸合成酵素遺伝子を利用した植物の草丈の制御方法並びにショ糖リン酸合成酵素遺伝子の導入により草丈の生育が改変された植物体に関し、より具体的には、
(1)植物の草丈を制御するために用いる、ショ糖リン酸合成酵素をコードするDNA、
(2)単子葉植物由来である、(1)に記載のDNA、
(3)イネ科植物由来である、(1)に記載のDNA、
(4)(1)から(3)のいずれかに記載のDNAを含むベクター、
(5)(1)から(3)のいずれかに記載のDNAを発現可能に保持する形質転換植物細胞、
(6)(5)に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体、
(7)単子葉植物である、(6)に記載の形質転換植物体、
(8)イネ科植物である、(6)に記載の形質転換植物体、
(9)野生型植物体と比較して草丈が改変されている、(6)から(8)のいずれかに記載の形質転換植物体、
(10)(6)から(9)のいずれかに記載の形質転換植物体の繁殖材料、
(11)植物細胞内においてショ糖リン酸合成酵素をコードするDNAの発現を制御することを特徴とする、植物の草丈を制御する方法、
(12)ショ糖リン酸合成酵素をコードするDNAが単子葉植物由来である、(11)に記載の方法、
(13)植物が単子葉植物である、(11)または(12)に記載の方法、
(14)植物がイネ科植物である、(13)に記載の方法、に関する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、ショ糖リン酸合成酵素遺伝子の導入および発現により草丈が改変された植物体およびその作出方法を提供する。
【0012】
本発明における草丈の生育が改変された植物体の作出に用いる、ショ糖リン酸合成酵素をコードするDNAとしては、その由来する植物に特に制限はない。単子葉植物由来であっても、双子葉植物由来であってもよいが、例えば、草丈の生育が改変された単子葉植物の植物体を作出するためには、単子葉植物由来のショ糖リン酸合成酵素遺伝子を用いることが好ましいと考えられる。単子葉植物としては、例えば、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ソルガム等が挙げられる。また、コムギ、オオムギ、エンドウ、ホウレンソウ、ソラマメのように葉において光合成産物をよりショ糖に分配する植物であっても、トマト、アラビドプシスのように葉において光合成産物をよりデンプンに分配する植物であってもよい。
【0013】
また、ショ糖リン酸合成酵素をコードするDNAとしては、天然型のショ糖リン酸合成酵素遺伝子のみならず、ショ糖リン酸合成酵素活性を有する限り、その変異体を用いることも可能である。
【0014】
本発明においてショ糖リン酸合成酵素活性とは、フルクトース-6-リン酸とUDPGから、ショ糖リン酸とUDPを生成する反応を触媒する酵素活性を指す。該活性は、基質の一つであるUDPGから生成物の1つであるUDPがつくられる速度を、さまざまなUDPG濃度で測定し、Lineweaver-Burk Plot により算定した最大活性を求めることにより算出することができる(実施例3参照)。
【0015】
また、ショ糖リン酸合成酵素をコードし得るものであればDNAの形態に特に制限はなく、例えば、cDNAであっても、ゲノムDNAであってもよい。
【0016】
ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。例えば、ゲノムDNAは、ショ糖リン酸合成酵素をコードする遺伝子の公知の塩基配列情報から適当なプライマー対を設計して、目的の植物から調製したゲノムDNAを鋳型にPCRを行い、得られる増幅DNA断片をプローブとして用いてゲノミックライブラリーをスクリーニングすることによって調製することができる。また、同様にプライマー対を設計して、目的の植物から調製したcDNAまたはmRNAを鋳型にPCRを行い、得られる増幅DNA断片をプローブとして用いてcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ショ糖リン酸合成酵素をコードするcDNAを調製することができる。
【0017】
ショ糖リン酸合成酵素をコードするDNAが導入された形質転換植物体の作製は、一般的に、該DNAを適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させることにより行う。
【0018】
ベクターにおいては、ショ糖リン酸合成酵素をコードするDNAは該DNAの植物細胞内での発現を保証する制御配列(例えば、プロモーター、エンハンサー)の下流に結合している。用いられるプロモーターとしては、植物細胞内での遺伝子発現を保証するものであれば特に制限はなく、例えば、Cabプロモーター(クロロフィル a b 結合タンパク質プロモーター)が用いられる。一例としては、イネCabプロモーター(Kyozuka J, et al. Plant Physiol., 1993, 102: 991-1000)を用いることができる。
【0019】
植物細胞への植物発現ベクターの導入には、植物細胞の種類に応じて、例えば、アグロバクテリウムを介する方法や直接細胞に導入する方法を用いることが可能である。アグロバクテリウムを介する方法としては、例えば、Nagelらの方法(Microbiol. Lett. 67, 325 (1990))やイネの場合Raineriらの方法(BIO/TECHNOLOGY 8, 33-38 (1990))が用いられる。この方法は、植物発現ベクター(pUC系のベクターなど。例えば、pCAMBIAベクター(Medical Research Council)など)を用いてアグロバクテリウムを形質転換し、形質転換されたアグロバクテリウムをリーフディスク法やカルス法等によって植物細胞に導入する方法である。植物発現ベクターを直接細胞に導入する方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、リン酸カルシウム法、及びポリエチレングリコール法などが挙げられる。
【0020】
ベクターを挿入する植物細胞としては、特に制限はない。単子葉植物の細胞であっても、双子葉植物の細胞であってもよい。好ましくは、イネ、コムギ、トウモロコシ、オオムギ、サトウキビ、芝類(ノシバ、コウライシバ、ベントグラス)、牧草(チモシー、オーチャードグラス、イタリアンライグラス、トールフェスク、ソルガム)等の産業上有用な単子葉植物の細胞である。特に好ましいものとしては、イネなどのイネ科植物の細胞である。なお、本発明の「植物細胞」としては、その形態に特に制限はない。本発明の「植物細胞」には、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなど植物体に再生可能なあらゆる形態の植物細胞が含まれる。
【0021】
ベクターを挿入したトランスジェニック植物細胞からトランスジェニック植物体の再生には、植物の種類に応じて、様々な方法を用いることができる。例えば、カルスの再分化法(Kyozuka, J. and Shimamoto, K. (1991) Plant Tissue Culture Manual. Kluwer Academic Publishers, pp B1, 1-16)やプロトプラストを用いた再分化法(Shimamoto, K. et al. (1989) Nature 338, 274-276 ; Kyozuka, J. et al. (1987) Mol. Gen. Genet. 206, 408-413、Tada Y.ら, 1990, Theor. Appl. Genet. 80: 475-480)などが用いられ得る。
【0022】
これにより作出されたトランスジェニック植物体またはその繁殖材料(例えば、種子、塊根、塊茎、果実、切穂、地下茎、ほふく茎など)から育成した植物体は、野生型植物体と比較して草丈の生育能力が高く、その生育に伴い野生型植物体と比較して草丈が増加する。
【0023】
また、本発明は、植物細胞内におけるショ糖リン酸合成酵素をコードするDNAの発現を制御することを特徴とする、植物の草丈の制御方法を提供する。本発明における「ショ糖リン酸合成酵素をコードするDNAの発現の制御」および「植物の草丈の制御」には、正の制御および負の制御が含まれる。
【0024】
ショ糖リン酸合成酵素をコードするDNAを利用して植物の草丈を増加させる方法としては、上記のようにショ糖リン酸合成酵素をコードするDNAを植物細胞内へ導入し、該細胞内で高発現させる方法を用いることが可能である。
【0025】
一方、ショ糖リン酸合成酵素をコードするDNAを利用した植物の草丈の減少は、植物における内在性ショ糖リン酸合成酵素遺伝子の発現を抑制することにより行うことができる。具体的には、後述するアンチセンスDNA、リボザイムをコードするDNA、共抑制のためのDNA、またはドミナントネガティブの形質を有するDNAを、上述したベクターに導入し、上述したように植物細胞に導入してこれを植物体に再生すればよい。
【0026】
具体的には、下記のようにして行うことができる。
この方法の態様としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者に最もよく利用されている。植物細胞におけるアンチセンス効果は、エッカーらが一時的遺伝子発現法を用いて、電気穿孔法で導入したアンチセンスRNAが植物においてアンチセンス効果を発揮することで初めて実証した(J.R.EckerおよびR.W.Davis, Proc.Natl.Acad.USA.83:5372,1986)。その後、タバコやペチュニアにおいても、アンチセンスRNAの発現によって標的遺伝子の発現を低下させる例が報告されており(A.R.van der Krolら Nature 333:866,1988)、現在では植物における遺伝子発現を抑制させる手段として確立している。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などである。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する(平島および井上「新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現」,日本生化学会編,東京化学同人,pp.319-347,1993)。本発明で用いられるアンチセンス配列は、上記のいずれの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的であろう。しかし、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製されたDNAは、公知の方法で、所望の植物へ形質転換できる。アンチセンスDNAの配列は、形質転換する植物が持つ内在性ショ糖リン酸合成酵素遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス配列を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンスDNA の長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さら に好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンスDNAの長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。
【0027】
内在性遺伝子の発現の抑制は、また、リボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことをいう。リボザイムには種々の活性を有するものがあるが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNAの部位特異的な切断を目的とするリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子,蛋白質核酸酵素,35:2191,1990)。
【0028】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15のC15の3'側を切断するが、活性にはU14が9位のAと塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はCの他にAまたはUでも切断されることが示されている(M.Koizumiら,FEBS Lett.228:225,1988)。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することが可能である(M.Koizumiら,FEBS Lett. 239:285,1988, 小泉誠および大塚栄子,蛋白質核酸酵素,35:2191,1990, M.Koizumiら, Nucleic Acids Res. 17:7059,1989)。
【0029】
また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(J.M.Buzayan Nature 323:349,1986)。このリボザイムも、標的特異的なRNA切断を起こすように設計できることが示されている(Y.Kikuchi およびN.Sasaki Nucleic Acids Res. 19:6751,1992, 菊池洋,化学と生物 30:112,1992)。
【0030】
標的を切断できるよう設計されたリボザイムは、植物細胞中で転写されるようにカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターなどのプロモーターおよび転写終結配列に連結される。しかし、その際、転写されたRNAの5'末端や3'末端に余分な配列が付加されていると、リボザイムの活性が失われてしまうことがある。このようなとき、転写されたリボザイムを含むRNAからリボザイム部分だけを正確に切り出すために、リボザイム部分の5'側や3'側に、トリミングを行うためのシスに働く別のトリミングリボザイムを配置させることも可能である(K.Tairaら, Protein Eng. 3:733,1990, A.M.DzianottおよびJ.J.Bujarski Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 86:4823,1989, C.A.GrosshansおよびR.T.Cech Nucleic Acids Res. 19:3875, 1991, K.Tairaら Nucleic Acids Res. 19:5125, 1991)。また、このような構成単位をタンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにして、より効果を高めることもできる(N.Yuyamaら Biochem.Biophys.Res.Commun.186:1271,1992)。このようなリボザイムを用いて本発明で標的となる遺伝子の転写産物を特異的に切断し、該遺伝子の発現を抑制することができる。
【0031】
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有するDNAの形質転換によってもたらされる共抑制によっても達成されうる。「共抑制」とは、植物に標的内在性遺伝子と同一若しくは類似した配列を有する遺伝子を形質転換により導入すると、導入する外来遺伝子および標的内在性遺伝子の両方の発現が抑制される現象のことをいう。共抑制の機構の詳細は明らかではないが、植物においてはしばしば観察される(Curr.Biol.7:R793,1997, Curr.Biol.6:810,1996)。例えば、ショ糖リン酸合成酵素遺伝子が共抑制された植物体を得るためには、ショ糖リン酸合成酵素遺伝子若しくはこれと類似した配列を有するDNAを発現できるように作製したベクターDNAを目的の植物へ形質転換し、得られた植物体から草丈が減少している植物を選択すればよい。共抑制に用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、好ましくは90%以上の配列の同一性を有する。
【0032】
さらに、本発明における内在性遺伝子の発現の抑制は、標的遺伝子のドミナントネガティブの形質を有する遺伝子を植物へ形質転換することによっても達成することができる。ドミナントネガティブの形質を有する遺伝子とは、該遺伝子を発現させることによって、植物体が本来持つ内在性の野生型遺伝子の活性を消失もしくは低下させる機能を有する遺伝子のことをいう。ドミナントネガティブタンパク質を発現するように形質転換された植物は、標的遺伝子の機能が阻害されると考えられる。
【0033】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0034】
[実施例1] トランスジェニックイネ植物体の作製
Worrellらにより記載されたトウモロコシショ糖リン酸合成酵素遺伝子の塩基配列(Worrell A.C.ら, 1991, Plant Cell 3: 1121-1130)に基づき、特異的なプライマーを作成し、PCR法によリトウモロコシのmRNAからcDNA断片を増幅させた。断片を用いてトウモロコシの緑葉より作成したcDNAライブラリーから、ショ糖リン酸合成酵素遺伝子のcDNA完全長を含むクローンを選抜した。イネ(Oryza sativa L.cv.Nipponbare)のカルスは、OzawaおよびKomamine(0zawa K. and Komamine A., 1989, Ther. Appl. Genet. 77: 205-211)に従いN6培地(Chu C.C.ら, 1975, Sci. Sin. 18: 659-668)を用いて誘導し、懸濁培養で維持した。イネのcab(光化学系IIのクロロフィルa/b結合タンパク質)プロモーターに結合したトウモロコシショ糖リン酸合成酵素 cDNAを含む pBS-SKは、カリフラワーモザイクウイルス(農業生物資源研究所のDr. A. Katoにより提供された)の35Sプロモーターに連結させたハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hpt)遺伝子を含むプラスミドと共にTadaらの方法に従いエレクトロポレーションにより導入した(Tada Y.ら, 1991, EMBO J. 10: 1803-1808)。プロトプラストの単離、エレクトロポレーション、および植物体再分化は、Tadaら(Tada Y.ら, 1990, Theor. Appl. Genet. 80: 475-480)の方法に従い処理を行った。
【0035】
上記の方法により、T0世代の13の植物体を得た。野生型よりもショ糖リン酸合成酵素活性が低い、あるいは高いT1植物体を自殖のために選抜した。トランスジェニック植物体のT2世代(#54-3, 54-8, 54-9, 59-1, 69-6, 69-7, 100-4, 100-9, 139-4, 139-5,および139-9)および野生型植物体(対照)は自然条件下にて育成を行った。生長温度、光周期、および光強度については調節を行わなかった。#54-3, 54-8および54-9は全てT1#54の種子から生育した個体であった。T1#54, 59, および69は全て同じ植物体の種子から生育した個体であった。T1#100または139は他の植物体の後代であった。1998年6月10日に植物体を、水田の土壌を含むポット(1/5000 アール)へと移植し、肥料(1ポットあたりN:P2O5:K2O=0.18:0.18:0.18 g)を与えた。トランスジェニックイネ植物体は、PCRにより同定したトウモロコシショ糖リン酸合成酵素 cDNAの有無、またはウェスタンブロッティングによるトウモロコシショ糖リン酸合成酵素の発現の検出により選抜した。得られた植物体を維持する一方、開花して2日めの9月11日、止葉の葉身を午後2:00から2:30のあいだに採集し、液体窒素で直ちに凍結させ、-80℃で保存をした。この試料を用いて生化学的解析を行った。
【0036】
[実施例2] ショ糖リン酸合成酵素タンパク質量の測定
上記の試料を乳鉢と乳棒を使い、液体窒素中で細かなパウダーになるまですりつぶした。そして可溶性タンパク質を、100mM リン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)、0.1g L-1不溶性ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、10mL L-1 2-メルカプトエタノール、および1mM PMSF(フェニルメチルスルフォニルフルオライド)を含むバッファーで抽出した。10,000 x gで5分間遠心分離を行いその後、12μgまたは24μgの可溶性葉タンパク質を、1g L-1 SDSを含む12.5%(w/v)ポリアクリルアミドゲル上でSDS-PAGEにかけた。電気泳動を行った後、タンパク質をニトロセルロース膜(Protran, Schleicher & Schuell, NH, U.S.A.)へと転写した。そして、トウモロコシショ糖リン酸合成酵素あるいはイネショ糖リン酸合成酵素に対するウサギポリクローナル抗体、およびアルカリホスファターゼを結合させたヤギ抗ウサギイムノグロブリンG抗体(Bio-Rad, U.S.A.)を用いてウエスタンブロッティングを行った。なお、トウモロコシショ糖リン酸合成酵素およびイネショ糖リン酸合成酵素に対するウサギポリクローナル抗体は、まず、イネおよびトウモロコシのショ糖リン酸合成酵素 cDNA 全長をpET vector(Novagen社)に導入し、タンパク質を発現させ、得られたタンパク質を用いて常法に従いウサギに免疫して一次抗体を作成した。一次抗体の作成は岩城硝子に受託した。タンパク質濃度は、Bradfordのプロトコルに基づき、市販のキット(Bio-Rad Protein Assay. Bio-Rad, U.S.A.)を用いて測定を行った(Bradford M.M., 1976, Anal. Biochem. 72: 248-254)。ショ糖リン酸合成酵素タンパク質の量は画像解析ソフト(UMAX PowerLook 2000, UMAX Data System, Inc, Taipei, R.O.C., ZERO Dscan, MA, U.S.A.)を用いて定量した。
【0037】
その結果、検出されたトウモロコシショ糖リン酸合成酵素タンパク質の量は、トランスジェニックイネ植物体によって異なっていた(図1A)。トウモロコシショ糖リン酸合成酵素タンパク質に対する抗体は、対照のレーンに示すようにイネショ糖リン酸合成酵素タンパク質と交差反応を示さなかった。いくつかのトランスジェニック植物体(100-9, 139-4, 100-4, 139-9, および139-5)はトウモロコシショ糖リン酸合成酵素タンパク質をほとんどもっていなかったのに対し、他の植物体(69-7, 54-9, 54-8)は、トウモロコシショ糖リン酸合成酵素タンパク質を多量にもっていた。後者の植物体は、トウモロコシの対照と比較すると約3倍以上のショ糖リン酸合成酵素をもっていた。抗イネショ糖リン酸合成酵素抗体を用いて別の解析を行った(図1B)。トウモロコシショ糖リン酸合成酵素タンパク質は抗イネ抗体にわずかに交差反応を示した。いくつかのトランスジェニックイネ植物体(100-9, 139-4, 100-4, 139-9, および139-5)では、対照のイネ植物体よりもイネショ糖リン酸合成酵素タンパク質の量に低下がみられた。イネショ糖リン酸合成酵素 cDNA(Valdez-Alarcon J.J.ら, 1996, Gene 170:217-222)はトウモロコシショ糖リン酸合成酵素 cDNA(Worrell A.C.ら, 1991, Plant Cell 3: 1121-1130) に対し78.4%の相同性があるため、この低下は共抑制(co-suppression)によるものと考えられる。
【0038】
[実施例3] ショ糖リン酸合成酵素活性の測定
トランスジェニックイネ植物体のショ糖リン酸合成酵素活性を、LunnとHatch(Lunn J.E. and Hatch M.D., 1997, Aust. J. Plant Physiol. 24: 1-8)の方法を少し改変して測定を行った。実施例1の試料(50-100mg)に氷冷した抽出バッファー(50mM Hepes-KOH(pH 7.5), 10mM MgCl2, 1mM EDTA, 1mM EGTA(エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸〔ethylene glycol-bis(β-aminoethylether)-N,N,N',N'-tetraacetic acid〕), 5mM DTT(ジチオスレイトール; dithiothreitol), 1mM PMSF, 5mMε-アミノカプロン酸, 5g L-1 BSA(ウシ血清アルブミン), 1mL L-1 Triton X-100, 20g L-1 ポリビニルピロリドン)を8容量加え、乳鉢と乳棒を用いてすりつぶして抽出を行った。10,000 x gで5分間遠心分離を行い、上清をSephadex G-25(Pharmacia,Uppsala,Sweden)のカラムに通し脱塩処理をした。ショ糖リン酸合成酵素は、UDPG(ウリジンジフォスフォグルコース)からUDPの、F6P-依存的生成の測定(Lunn J.E. and ap Rees T., 1990, Phytochemistry 24: 1057-1063)により分析を行った。反応混合物(100ml)は、50mM Hepes-KOH(pH7.5), 10mM MgCl2, 様々な濃度のUDPG、8mM F6P(フルクトース-6-リン酸), 27.6mM G6P(グルコース-6-リン酸)および20μlの抽出物を含む。粗抽出物の一部(50μL)を分取し、80%アセトン中でクロロフィル測定を行った(Arnon D.I., 1949, Plant Physiol. 24:1-15)。
【0039】
その結果、対照植物体のショ糖リン酸合成酵素活性は、10mM UDPGでほとんど飽和状態に達した(図2)。高発現している植物体のうちの1つ(54-8)は、対照植物体よりも高いショ糖リン酸合成酵素活性がみられたが、その活性は20mM UDPGでも飽和に至らなかった。この基質条件下にて、対照と共抑制植物体100-9のショ糖リン酸合成酵素活性は明らかに飽和に達した。低い基質濃度でのトランスジェニック植物体(54-8)のショ糖リン酸合成酵素活性は、54-8では対照植物体よりも高かった。ショ糖リン酸合成酵素の見かけのVmax の値を、Lineweaver-Burk Plotにより算定した(図3A)。トランスジェニック植物体(54-8)のショ糖リン酸合成酵素活性は対照植物体に較べ約10倍の高さを示した。共抑制植物体(100-9および139-4)の活性は、対照植物体の3分の1であった。トウモロコシショ糖リン酸合成酵素タンパク質量は、葉のショ糖リン酸合成酵素の最大活性に対し正の相関を示した(相関係数(r)=0.867)。高発現している植物体におけるショ糖リン酸合成酵素のUDPGに対するKm値は、対照植物体に較べ高い傾向が見られた(図3B)。それは野生型トウモロコシショ糖リン酸合成酵素のUDPGに対するKm値よりも高かった。Lunn and Hatchは、十分晴れた日の正午に収穫したトウモロコシ葉のショ糖リン酸合成酵素のUDPGに対するVmaxおよびKm値が、それぞれ3.2μmol min-1 mg-1 Chl および3.1mMであったと報告した(Lunn J.E. and Hatch M.D., 1997, Aust. J. Plant Physiol. 24: 1-8)。UDPGに対するKm値はショ糖リン酸合成酵素活性の最大値と正の相関があった(r=0.939)。この結果より、トランスジェニックイネ植物体におけるトウモロコシショ糖リン酸合成酵素はその基質に対し親和性が低く、また、たとえショ糖リン酸合成酵素の量が大幅に増加しても、組換えタンパク質の全てが十分に活性化するわけではないことを示唆している。トウモロコシショ糖リン酸合成酵素遺伝子を組み込んだトランスジェニックトマト植物体を用いて、Galtierらは、無機リン酸存在下における基質律速の条件下(生体内に近い)で測定した活性をVmax活性で割った値は、Vmax活性に対し負に相関があったと報告している(Galtier N.ら, 1995, J. Exp. Bot. 46: 1335-1344)。トランスジェニックトマトは、対照のトマト植物体に対しVmax活性は約3倍、無機リン酸存在下における基質律速での活性(selective assay activities)は約1.5倍の高さを示した。Galtierらは、トウモロコシショ糖リン酸合成酵素はトマトの細胞質酵素であるショ糖リン酸合成酵素キナーゼおよびショ糖リン酸合成酵素ホスファターゼにより調節されていないのではないかと議論した(Galtier N.ら, 1995, J. Exp. Bot. 46: 1335-1344)。トウモロコシショ糖リン酸合成酵素(Huber S.C.ら, 1989, Plant Cell. Physiol. 30: 277-285; Huber S.C. and Huber J.L., 1991, Plant Cell Physiol. 32: 319-326; Lunn J.E. and Hatch M.D., 1997, Aust. J. Plant Physiol. 24: 1-8)およびイネショ糖リン酸合成酵素両方は、明期/暗期の移行により調節されている。トウモロコシショ糖リン酸合成酵素がイネにおけるタンパク質リン酸化により調節されているかどうかは不明確であるが、トウモロコシショ糖リン酸合成酵素における相同のセリン残基はイネにおいてリン酸化されている可能性が高い。高発現しているトウモロコシショ糖リン酸合成酵素のレベルは、イネ植物体においてショ糖リン酸合成酵素キナーゼおよびショ糖リン酸合成酵素ホスファターゼの調節を上回っている可能性も考えられる。ショ糖リン酸合成酵素の不活性化の機構としては、ショ糖リン酸フォスファターゼ(SPP)による調節も考えられる。ショ糖リン酸合成酵素にSPPを加える量を増加させると、ショ糖リン酸合成酵素活性が上昇したことから、ショ糖リン酸合成酵素とSPPは、互いに結合して多酵素複合体を形成していることが示唆されている(Echeverria E.ら, 1997, Plant Physiol. 115: 223-227)。本発明者らのショ糖リン酸合成酵素量の増加したトランスジェニックイネ植物体において、高生産されたトウモロコシショ糖リン酸合成酵素は、イネSPPと結合しておらず、また活性化していないことが予測される。
【0040】
[実施例4] 炭水化物含有量の測定
対照およびトランスジェニック植物体の止葉葉身において、ショ糖およびデンプンの量を測定した。凍結させた試料は、液体窒素中で乳鉢および乳棒を用いて細かな粉末状にすりつぶし、80%エタノールに懸濁させた。2,000 x gで5分間遠心分離を行い、ペレットを80%エタノールに再懸濁し、再び2,000 x gで5分間遠心分離を行った。上清は集めてドライアップし、水に再懸濁し、ショ糖の含有量の測定に用いた。ショ糖は酵素的に定量を行った(Bergmeyer H.U. and Bert E., 1974, "Methods for determination of metabolites: Carbohydrate metabolites: Sucrose." in Bergmeyer, H.U., ed., Methods of enzymatic analysis, 2nd Ed, vol. 3, Academic Press,New York. 1176-1179)。ペレットは水に懸濁後、沸騰水中に湯浴し、アミログリコシダーゼで分解し、新たに生成したグルコースをKeppler と Decker(Keppler D.and Decker K., 1974., "Methods for determination of metabolites: Carbohydrate metabolites: Glycogen." in Bergmeyer, H.U., ed., Methods of enzymatic analysis, 2nd Edn,vol.3, Academic Press, New York, 1127-1131)の記載に従い酵素的にデンプンの含有量を測定した。
【0041】
その結果、対照と高発現植物体とを比較してみると、1つの高発現植物体を除き、葉のショ糖含有量には顕著な変化は認められなかった(図4A)。共抑制植物体におけるショ糖含有量は、対照よりも低かった。ショ糖含有量とショ糖リン酸合成酵素活性のあいだの相関係数は、0.372であった。一方、高発現植物体におけるデンプン含有量は、対照よりも低かった(図4B)。デンプン含有量とショ糖リン酸合成酵素活性のあいだには高い負の相関があった(r2=0.733)。ショ糖リン酸合成酵素活性の増加により、ショ糖/デンプン比が増加した。ショ糖/デンプン比は、ショ糖リン酸合成酵素活性に対し高い正の相関があった(r2=0.898)(図4C)。
【0042】
高いショ糖リン酸合成酵素活性を示すトランスジェニックトマト植物体のショ糖/デンプン比は、対照植物体と比較すると2倍以上であった(Galtier N.ら, 1995, J. Exp. Bot. 46: 1335-1344)。この結果は、ショ糖/デンプン比が、葉において光合成産物をよりショ糖に分配する植物であるイネにおいてもショ糖リン酸合成酵素活性の増加とともに増加したことを示している(図4C)。ショ糖/デンプン比は、ある高発現植物体では、対照植物体と較べて約70%の増加を示した。この変化は、トマトのような葉において光合成産物をよりデンプンに分配する植物にみられる効果と比較してもあまり大きいものではない。
【0043】
イネは、葉身ではデンプンよりもショ糖を多く形成する。しかし、穂発達時には葉鞘にデンプンが蓄積する。そのようにして蓄積されたデンプンは、種子発達時には速やかに減少する(Perez C.M.ら, 1971, Plant Physio1. 47: 404-408)。高発現しているイネ植物体では、トウモロコシショ糖リン酸合成酵素も葉鞘において検出された。浮きイネ植物体(Oryza sativa L.)を用いて、Hiranoらは、13C-光同化産物の輸送速度がショ糖リン酸合成酵素の V limiting 活性に対し正に相関があったことを示した(Hirano T.ら, 1997, Jpn. J. Crop. Sci. 66:675-681)。本発明のトランスジェニックイネ植物体において高発現したトウモロコシショ糖リン酸合成酵素は、デンプンからショ糖へ高効率の転換、つまり穂への炭水化物の移送に貢献している可能性がある。
【0044】
光合成調節における同化産物利用の重要性は、光およびCO2両方が増加するとき最も高くなると考えられている(Stitt M., 1991, Plant Cell and Environ. 14:641-762)。CO2を高めた環境下で生長したイネは、ショ糖だけでなくデンプンも葉に蓄積する(Nakano H.ら, 1997, Plant Physiol 115: 191-198)。本発明にて開発したトランスジェニックイネ植物体を用いて、CO2を高めた環境下での炭素分配を制御できる可能性がある。
【0045】
[実施例5] 草丈の測定
得られた形質転換体を自殖させた第3世代の中から、トウモロコシショ糖リン酸合成酵素及び該酵素タンパク質のcDNAの存在を確認後、草丈を測定した。生育はグロースチェンバー内で行った。グロースチェンバー(コイトトロン)におけるイネ栽培は、
JP0003790811B2_000002t.gifの条件で行った。育苗箱に播種し、約3週間後、田圃の土を詰めたポット(5000分の1アール)に1ポット当たり3個体のイネを移植し、まず自然光下、日長および温度制御を行わずに生育させた。移植9日後(5番目の葉が展開中に)、不完全葉を除いて数えた下から3番目の葉をサンプリングし、DNAを抽出し、トウモロコシショ糖リン酸合成酵素 cDNAの存在を確認した。さらに、移植37日後の最上位展開葉からタンパク質を抽出し、ウェスタンブロッティング法を用いてトウモロコシショ糖リン酸合成酵素の存在を確認した。移植21日後から、グロースチェンバー(コイトトロン)内において上記の条件で栽培を行った。草丈の測定は、移植後20日後から、約1週間おきに行った。
【0046】
また、イネ止葉をサンプリングし、ショ糖リン酸合成酵素活性を 8mM F6P、27.6mM G6P存在下でUDPG濃度を変えて測定し、Lineweaver-Burk Plotにより回帰して最大活性を求めた。対照として野生型の植物についても同様に測定した。
【0047】
その結果、止葉のショ糖リン酸合成酵素活性は、対照に比べ、トランスジェニック植物体(2個体の平均)では有意に高い活性を示した(図5)。また、トランスジェニック植物体は、対照に比べ草丈が有意に高くなることが判明した(図6)。
【0048】
【発明の効果】
本発明により、ショ糖リン酸合成酵素遺伝子の導入による草丈の制御が可能となった。草丈の増大は、バイオマスの増大、受光態勢の改良に役立つと考えれる。イネだけでなくイネ科穀類及び牧草においても同様の作用が期待できる。特に、牧草及び子実収穫後のイネ、 トウモロコシにおける、飼料として利用可能なバイオマスの増大が期待される。また、アンチセンス技術によりショ糖リン酸合成酵素遺伝子発現を抑制させることで、草丈を低下させられる可能性も考えられる。草丈の低下は、窒素高投入に対する倒伏防止における実用的な利用が期待される。また、グランドカバーとして用いられる芝の草丈を抑えることで、維持の労力の軽減が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】上段のパネルが、トランスジェニックイネ植物体におけるショ糖リン酸合成酵素タンパク質のウェスタンブロット解析の結果である。12μg(A)または24μg(B)のタンパク質を各々のレーンに流し、12.5%ポリアクリルアミドゲル上で分離した。ブロッティングののち、膜をトウモロコシ(A)またはイネ(B)のショ糖リン酸合成酵素に対する抗体を用いてプローブした。下段のバンドの強度は、ウェスタンブロットの結果の画像をスキャナーで取り込み、画像解析ソフトを用いて定量したものである。
【図2】(A)は、高発現しているイネ植物体(54-8)、共抑制されたトランスジェニックイネ植物体(100-9)および対照(野生型)植物体のショ糖リン酸合成酵素活性を示した図である。(B)は、対照植物体と100-9のあいだの相異を明らかにするため拡大したもので、同じデータである。止葉葉身は午後の2:00から2:30のあいだに収穫し、ショ糖リン酸合成酵素活性を、8mM F6P, 27.6mM G6P, および異なる濃度のUDPGを含む条件下で計測した。数値は、植物体の止葉の葉身の1つを用いた1回の試験の結果である。
【図3】トランスジェニック植物体および対照植物体の止葉の葉身における最大ショ糖リン酸合成酵素活性(A)およびUDPGに対するKm(B)を示す図である。数値はLineweaver-Burk plotにより算定した。数値は同植物体の異なる3枚の止葉の平均である。バーは標準誤差を表している。
【図4】トランスジェニックイネ植物体および対照植物体の止葉における最大ショ糖リン酸合成酵素活性とショ糖含有量のあいだの相関(A)、最大ショ糖リン酸合成酵素活性とデンプンとの相関(B)、最大ショ糖リン酸合成酵素活性とショ糖/デンプン比との相関(C)を示す図である。数値は、同植物体の異なる3枚の止葉の平均である。白四角;対照植物体、 黒丸;高発現している植物体、白丸;共抑制された植物体。
【図5】ガラス室内において、水耕栽培によって生育させたイネ止葉のショ糖リン酸合成酵素活性を測定した結果を示す図である。8mM F6P、27.6mM G6P存在下でUDPG濃度を変えて測定した結果を、Lineweaver-Burk Plotにより回帰して求めた最大活性を示す。サンプリングは10:00 a.m.と正午の間に行った。トランスジェニック植物体(T3世代、69-7)は2個体、野生型は3個体の平均値である。
【図6】グロースチェンバー内において田の土をつめたポット(5000分の1アール)で栽培したトランスジェニックイネを示す。トランスジェニック植物体(T3世代、69-7)は2個体、野生型は3個体の平均値である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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