TOP > 国内特許検索 > 水銀イオンの検出方法及びキット > 明細書

明細書 :水銀イオンの検出方法及びキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5618264号 (P5618264)
公開番号 特開2010-210250 (P2010-210250A)
登録日 平成26年9月26日(2014.9.26)
発行日 平成26年11月5日(2014.11.5)
公開日 平成22年9月24日(2010.9.24)
発明の名称または考案の名称 水銀イオンの検出方法及びキット
国際特許分類 G01N  31/00        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
FI G01N 31/00 T
G01N 21/64 Z
請求項の数または発明の数 12
全頁数 22
出願番号 特願2009-053416 (P2009-053416)
出願日 平成21年3月6日(2009.3.6)
審査請求日 平成24年2月20日(2012.2.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
発明者または考案者 【氏名】小野 晶
【氏名】岡本 到
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】三木 隆
参考文献・文献 特開2005-058213(JP,A)
特開2002-098698(JP,A)
特開2005-080637(JP,A)
特開2010-081907(JP,A)
Angewandte Chemie (International ed. in English). 2007, Vol.46, No.22, p.4093-4096
Anal Chim Acta,2005年,Vol.549, No.1-2, Page.10-13
調査した分野 G01N 31/00
G01N 21/64
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
被験試料、下記一般式(1)
【化1】
JP0005618264B2_000017t.gif
(式中、Exはエキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基を表し;T’は置換されていてもよいチミンを表し;Nはアデニン、チミン、シトシン又はグアニンを表し;a、b、g、h、nおよびmは、それぞれ独立して0~10の整数を表し;c及びfはそれぞれ独立して1~10の整数を表し;d及びeは3を表し;並びに、5’及び3’はそれぞれ5’末端側及び3’末端側であることを表す。ただし、T’及びNは、それぞれ互いに同一でも異なってもよい)
で示される塩基配列を含む第一の一本鎖核酸、及び下記一般式(2)
【化2】
JP0005618264B2_000018t.gif
(式中、Ex;T’;a;b;c;d;e;f;g;h;n;m;5’及び3’は上記と同義であり;及び、N'g、N'e、N'd及びN'bは、それぞれ上記Ng、Ne、Nd及びNbと相補的な塩基を表す)
で示される塩基配列を含む第二の一本鎖核酸を含む溶液を得ること;及び、
得られた溶液に励起光を照射し、該照射により発生するエキシマー発光を検出することを含む、水銀イオンを検出する方法であって、
前記エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基が、下記一般式(5)
【化3】
JP0005618264B2_000019t.gif
(式中、Rはピレンを表し、Xは塩基を表し、及びkは2を表す)
で示される、方法
【請求項2】
前記第一の一本鎖核酸又は前記第二の一本鎖核酸における置換されていてもよいチミンの総数が、1個~10個である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記置換されていてもよいチミンが、無置換のチミン、又はチミンの5-メチル基が水素、ハロゲン若しくはシアノ基で置換されたチミンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第一の一本鎖核酸が下記一般式(3)
【化4】
JP0005618264B2_000020t.gif
(式中、Ex;T’;5’及び3’は請求項1と同義である)
で示される塩基配列を含み、かつ前記第二の一本鎖核酸が下記一般式(4)
【化5】
JP0005618264B2_000021t.gif
(式中、Ex;T’;5’及び3’は請求項1と同義である)
で示される塩基配列を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第一の一本鎖核酸及び前記第二の一本鎖核酸が、前記第一の一本鎖核酸の3’末端と前記第二の一本鎖核酸の5’末端とがリンカーを介して連結された一本鎖核酸である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記水銀イオンが、2価の水銀イオンである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
下記一般式(1)
【化6】
JP0005618264B2_000022t.gif
(式中、Exはエキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基を表し;T’は置換されていてもよいチミンを表し;Nはアデニン、チミン、シトシン又はグアニンを表し;a、b、g、h、nおよびmは、それぞれ独立して0~10の整数を表し;c及びfはそれぞれ独立して1~10の整数を表し;d及びeは3を表し;並びに、5’及び3’はそれぞれ5’末端側及び3’末端側であることを表す。ただし、T’及びNは、それぞれ互いに同一でも異なってもよい)
で示される塩基配列を含む第一の一本鎖核酸及び下記一般式(2)
【化7】
JP0005618264B2_000023t.gif
(式中、Ex;T’;a;b;c;d;e;f;g;h;n;m;5’及び3’は上記と同義であり;及び、N'g、N'e、N'd及びN'bは、それぞれ上記Ng、Ne、Nd及びNbと相補的な塩基を表す)
で示される塩基配列を含む第二の一本鎖核酸を含む、水銀イオンを検出するためのキットであって、前記エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基が、下記一般式(5)
【化8】
JP0005618264B2_000024t.gif
(式中、Rはピレンを表し、Xは塩基を表し、及びkは2を表す)
で示される、キット
【請求項8】
水銀イオンの検出が、エキシマー発光を検出することにより実施される、請求項に記載のキット。
【請求項9】
前記第一の一本鎖核酸又は前記第二の一本鎖核酸における置換されていてもよいチミンの総数が、1~10個である、請求項又はに記載のキット。
【請求項10】
前記置換されていてもよいチミンが、無置換のチミン、又はチミンの5-メチル基が水素、ハロゲン若しくはシアノ基で置換されたチミンである、請求項のいずれか1項に記載のキット。
【請求項11】
前記第一の一本鎖核酸が下記一般式(3)
【化9】
JP0005618264B2_000025t.gif
(式中、Ex;T’;5’及び3’は請求項9と同義である)
の塩基配列を含み、かつ前記第二の一本鎖核酸が下記一般式(4)
【化10】
JP0005618264B2_000026t.gif
(式中、Ex;T’;5’及び3’は請求項9と同義である)
の塩基配列を含む、請求項10のいずれか1項に記載のキット。
【請求項12】
前記第一の一本鎖核酸及び前記第二の一本鎖核酸が、前記第一の一本鎖核酸の3’末端と前記第二の一本鎖核酸の5’末端とがリンカーを介して連結された一本鎖核酸である、請求項11のいずれか1項に記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸を利用した水銀イオンの検出方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、わが国や欧米などの先進国だけでなく、中国などの開発途上国において、水銀の排出が問題となっている。溶液中の水銀イオン(Hg(II)イオン)は、生物体に摂取されると、メチルコバラミンなどの酵素によってメチル化されメチル水銀に変換される。メチル水銀は、強い中枢毒性があり、水俣病に代表されるような神経系疾患を引き起こし得る。また、メチル水銀は、脂溶性が高く、生物濃縮により多種多様な生物種に影響を及ぼす可能性の高い拡散性の強毒性物質である。
【0003】
溶液中のHg(II)イオン濃度の検出は、一般的に、気化された水銀蒸気の特有の紫外吸収スペクトルを測定する、原子吸光分析法により実施されている。また、近年では、多種類の微量元素を同時に測定することができる、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法も利用されている。これらの分析法は、それぞれ原子吸光分析装置及びICP発光分光分析装置を用いて実施される。
【0004】
原子吸光分析装置やICP発光分光分析装置を用いた分析法は、高感度のHg(II)イオンの定量を可能とする。しかし、原子吸光分析装置やICP発光分光分析装置の移動は困難であり、これらの装置の保守や利用に際しては、専門知識を有する熟練経験者を必要とする。したがって、これまでの原子吸光分析法やICP発光分光分析法は、利便性及び迅速性を欠く方法であった。
【0005】
一方、本発明者らは、これまでに、DNAの二本鎖中のチミン-チミン(T-T)塩基対にHg(II)イオンが選択的に結合することを見出し報告している(非特許文献1及び2を参照)。また、チミンはウラシルの5位がメチルである5-メチルウラシルであるが、この5位のメチルを水素、ハロゲン、シアノ基などで置換したウラシル類もまたHg(II)イオンを結合し得ることも見出し報告した(非特許文献3を参照)。
【0006】
以上の知見を基にして、本発明者らは、被験試料中にHg(II)イオンが存在する場合に、分子内でT-Hg-T塩基対を形成する一本鎖DNAを合成し、さらにこの一本鎖DNAを用いて溶液中のHg(II)イオンを検出する方法を開発した(非特許文献4を参照)。上記一本鎖DNAは、第一の塩基配列及び第二の塩基配列がリンカーを介して連結されており、末端に蛍光性基(フルオレセイン)と消光性基(ダブシル基)を有する。上記一本鎖DNAは、被験試料中にHg(II)イオンが存在しない場合は、一本鎖の状態を維持して蛍光発光する。しかし、被験試料中にHg(II)イオンが存在すると分子内でT-Hg-T塩基対を形成し、蛍光は消光する。したがって、上記一本鎖DNAを用いたHg(II)イオン検出法は、被験試料中の蛍光消光の程度を検出することにより、被験試料中のHg(II)イオン濃度を簡便かつ迅速に検出することができる方法であった。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Yoko Miyake et al., J. Am. Chem. Soc., 128, 2172-2173 (2006).
【非特許文献2】Yoshiyuki Tanaka et al., J. Am. Chem. Soc., 129, 244-245 (2007).
【非特許文献3】Itaru Okamoto et al., Angew. Chem. Int. Ed., 48, 1648-1651 (2009).
【非特許文献4】Akira Ono & Humika Togashi, Angew. Chem. Int. Ed., 43, 4300-4302 (2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、蛍光の消光は被験試料中の溶存物質が存在することによっても生じ得ることから、蛍光消光の検出は、蛍光発光の検出と比べて困難である。また、上記一本鎖DNAにおける蛍光性基は、ヘテロ原子を含む芳香環構造であり、Hg(II)イオンその他の重金属イオンと直接的に結合し得る。したがって、上記Hg(II)イオン検出法は、被験試料によっては、検出感度に多大な影響を受け得る方法である。
【0009】
そこで、本発明の目的は、被験試料においてHg(II)イオンが存在する場合に蛍光発光し、かつ上記一本鎖DNAよりも重金属イオンに対する影響の少ない物質を用いた、被験試料中のHg(II)イオンを検出する方法を提供することにある。さらに本発明の目的は、該方法を実施するためのキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、芳香環からなる蛍光性基を有し、かつHg(II)イオンの存在下において、Hg(II)イオンの非存在下には見られない蛍光発光を生じ得る物質について種々検討を重ねた。その結果、本発明者らは、エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基を合成し、さらにこの塩基の対及びHg(II)イオンに結合可能なT-T塩基の対を形成し得る第一の一本鎖核酸及び第二の一本鎖核酸を合成することに成功した。これらの一本鎖核酸を使ってさらに検討を進めたところ、驚くべきことに、エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基の対とT-T塩基の対との距離が所定の関係にある場合に、Hg(II)イオンの存在下で、エキシマー形成可能な蛍光性基によるエキシマー発光が生じることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
したがって、本発明によれば、被験試料、下記一般式(1)
【化1】
JP0005618264B2_000002t.gif
(式中、Exはエキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基を表し;T’は置換されていてもよいチミンを表し;Nはアデニン、チミン、シトシン又はグアニンを表し;a、b、g、h、nおよびmは、それぞれ独立して0~10の整数を表し;c及びfはそれぞれ独立して1~10の整数を表し;d及びeはそれぞれ独立して3~10の整数を表し;並びに、5’及び3’はそれぞれ5’末端側及び3’末端側であることを表す。ただし、T’及びNは、それぞれ互いに同一でも異なってもよい)
で示される塩基配列を含む第一の一本鎖核酸、及び下記一般式(2)
【化2】
JP0005618264B2_000003t.gif
(式中、Ex;T’;a;b;c;d;e;f;g;h;n;m;5’及び3’は上記と同義であり;及び、N'g、N'e、N'd及びN'bは、それぞれ上記Ng、Ne、Nd及びNbと相補的な塩基を表す)
で示される塩基配列を含む第二の一本鎖核酸を含む溶液を得ること;及び、
得られた溶液に励起光を照射し、該照射により発生するエキシマー発光を検出することを含む、水銀イオンを検出する方法が提供される。
【0012】
本発明の水銀イオンの検出方法の好ましい態様は、前記第一の一本鎖核酸又は前記第二の一本鎖核酸における置換されていてもよいチミンの総数が、1個~10個である。
【0013】
本発明の水銀イオンの検出方法の好ましい態様は、前記置換されていてもよいチミンが、無置換のチミン、又はチミンの5-メチル基が水素、ハロゲン若しくはシアノ基で置換されたチミンである。
【0014】
本発明の水銀イオンの検出方法の好ましい態様は、前記第一の一本鎖核酸が下記一般式(3)
【化3】
JP0005618264B2_000004t.gif
(式中、Ex;T’;5’及び3’は請求項1と同義である)
で示される塩基配列を含み、かつ前記第二の一本鎖核酸が下記一般式(4)
【化4】
JP0005618264B2_000005t.gif
(式中、Ex;T’;5’及び3’は請求項1と同義である)
で示される塩基配列を含む。
【0015】
前記エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基が、下記一般式(5)
【化5】
JP0005618264B2_000006t.gif
(式中、Rはエキシマー形成可能な蛍光性基を表し、Xは塩基を表し、及びkは1~5の整数を表す)
で示される。
【0016】
本発明の水銀イオンの検出方法の好ましい態様は、前記エキシマー形成可能な蛍光性基が、ピレン又はピレン誘導体である。
【0017】
本発明の水銀イオンの検出方法の好ましい態様は、前記第一の一本鎖核酸及び前記第二の一本鎖核酸が、前記第一の一本鎖核酸の3’末端と前記第二の一本鎖核酸の5’末端とがリンカーを介して連結された一本鎖核酸である。
【0018】
本発明の水銀イオンの検出方法の好ましい態様は、前記水銀イオンが、2価の水銀イオンである。
【0019】
本発明の別の側面によれば、下記一般式(1)
【化6】
JP0005618264B2_000007t.gif
(式中、Exはエキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基を表し;T’は置換されていてもよいチミンを表し;Nはアデニン、チミン、シトシン又はグアニンを表し;a、b、g、h、nおよびmは、それぞれ独立して0~10の整数を表し;c及びfはそれぞれ独立して1~10の整数を表し;d及びeはそれぞれ独立して3~10の整数を表し;並びに、5’及び3’はそれぞれ5’末端側及び3’末端側であることを表す。ただし、T’及びNは、それぞれ互いに同一でも異なってもよい)
で示される塩基配列を含む第一の一本鎖核酸及び下記一般式(2)
【化7】
JP0005618264B2_000008t.gif
(式中、Ex;T’;a;b;c;d;e;f;g;h;n;m;5’及び3’は上記と同義であり;及び、N'g、N'e、N'd及びN'bは、それぞれ上記Ng、Ne、Nd及びNbと相補的な塩基を表す)
で示される塩基配列を含む第二の一本鎖核酸を含む、水銀イオンを検出するためのキットが提供される。
【0020】
本発明のキットの好ましい態様は、水銀イオンの検出が、エキシマー発光を検出することにより実施される。
【0021】
本発明のキットの好ましい態様は、前記第一の一本鎖核酸又は前記第二の一本鎖核酸における置換されていてもよいチミンの総数が1~10個である。
【0022】
本発明のキットの好ましい態様は、前記置換されていてもよいチミンが、無置換のチミン、又はチミンの5-メチル基が水素、ハロゲン若しくはシアノ基で置換されたチミンである。
【0023】
本発明のキットの好ましい態様は、前記第一の一本鎖核酸が下記一般式(3)
【化8】
JP0005618264B2_000009t.gif
(式中、Ex;T’;5’及び3’は請求項9と同義である)
の塩基配列を含み、かつ前記第二の一本鎖核酸が下記一般式(4)
【化9】
JP0005618264B2_000010t.gif
(式中、Ex;T’;5’及び3’は請求項9と同義である)
の塩基配列を含む。
【0024】
本発明のキットの好ましい態様は、前記エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基が、下記一般式(5)
【化10】
JP0005618264B2_000011t.gif
(式中、Rはエキシマー形成可能な蛍光性基を表し、Xは塩基を表し、及びkは1~5の整数を表す)
で示される。
【0025】
本発明のキットの好ましい態様は、前記エキシマー形成可能な蛍光性基が、ピレン又はピレン誘導体である。
【0026】
本発明のキットの好ましい態様は、前記第一の一本鎖核酸及び前記第二の一本鎖核酸が、前記第一の一本鎖核酸の3’末端と前記第二の一本鎖核酸の5’末端とがリンカーを介して連結された一本鎖核酸である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の水銀イオンの検出方法によれば、モノマー発光と異なる波長のエキシマー発光を検出することにより、被験試料中の水銀イオンを検出することができる。本発明の方法によれば、モノマー発光(バックグラウンド)の影響を抑制した、高感度の水銀イオンの検出が可能となる。さらに、本発明の方法に用いる一本鎖核酸におけるエキシマー形成可能な蛍光性基がピレンやアントラセンである場合には、これらはヘテロ原子を有するものでないことから、蛍光性基に水銀イオンその他の重金属イオンが直接的に結合するとの問題が回避できる。これにより、本発明の方法によれば、被験試料の含有物質の影響を低減させた水銀イオンの検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ピレン結合2’-デオキシシチジン保護体の合成経路の概略図である。
【図2】2価の水銀イオンを介してチミンが対を形成することを示した模式図である。
【図3】ピレンが結合した第一及び第二の一本鎖核酸を用いた、本発明の水銀イオンの検出方法の具体例を示した概略図である。
【図4】本発明の水銀イオンの検出方法の実施例による、水銀イオンの検出結果を示した図である。
【図5】本発明の水銀イオンの検出方法の比較例による、水銀イオンの検出結果を示した図である。
【図6】本発明の水銀イオンの検出方法の比較例による、水銀イオンの検出結果を示した図である。
【図7】本発明の水銀イオンの検出方法の比較例による、水銀イオンの検出結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明の水銀イオンの検出方法は、被験試料、下記一般式(1)
【化11】
JP0005618264B2_000012t.gif
(式中、Exはエキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基を表し;T’は置換されていてもよいチミンを表し;Nはアデニン、チミン、シトシン又はグアニンを表し;a、b、g、h、nおよびmは、それぞれ独立して0~10の整数を表し;c及びfはそれぞれ独立して1~10の整数を表し;d及びeはそれぞれ独立して3~10の整数を表し;並びに、5’及び3’はそれぞれ5’末端側及び3’末端側であることを表す。ただし、T’及びNは、それぞれ互いに同一でも異なってもよい)
で示される塩基配列を含む第一の一本鎖核酸、及び下記一般式(2)
【化12】
JP0005618264B2_000013t.gif
(式中、Ex;T’;a;b;c;d;e;f;g;h;n;m;5’及び3’は上記と同義であり;及び、N'g、N'e、N'd及びN'bは、それぞれ上記Ng、Ne、Nd及びNbと相補的な塩基を表す)
で示される塩基配列を含む第二の一本鎖核酸を含む溶液を得ること、及び、得られた溶液に励起光を照射し、該照射により発生するエキシマー発光を検出することを少なくとも含む。

【0030】
本発明の方法は、図2に示すように水銀イオン、特に2価の水銀イオン(Hg(II))が1対のチミン又はチミンの一部の基が他の基によって置換されているチミン誘導体(以下、これらを合わせて「置換されていてもよいチミン」ともいう)の間に選択的に結合すること、及びダイマーに形成すると、モノマー時と異なる波長で発光(エキシマー発光)する蛍光性基(以下、「エキシマー形成可能な蛍光性基」ともいう)を利用して、被験試料中の水銀イオンを検出するものである。

【0031】
より詳しくは、本発明の方法は、水銀イオンの存在下で、互いに相補的な塩基対(以下、「ワトソン・クリック型塩基対」ともいう)、水銀イオンを介した置換されていてもよいチミンの対、及びエキシマー形成可能な蛍光性基の対を含む二本鎖核酸を形成し得る、2種の一本鎖核酸を用いて、エキシマー発光を検出することにより水銀イオンを検出する。

【0032】
本明細書にいう「水銀を検出する」とは、水銀イオンの存在の有無の検出や水銀イオンが存在する量の検出(すなわち、定量)などを含む、最も広い概念として解釈できる。以下、本発明の方法について、順を追って説明する。

【0033】
1.第一の一本鎖核酸
第一の一本鎖核酸は、上記一般式(1)に示す塩基配列にある通り、置換されていてもよいチミン(T’)、エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基(Ex)、及びワトソン・クリック型塩基対を形成し得る塩基(N)を含む。

【0034】
(1)置換されていてもよいチミン
置換されていてもよいチミンとは、無置換又は基の一部若しくは全部が置換されており、かつ水銀イオンを挟んで対を形成することができるものをいう。基の一部若しくは全部が置換されているチミンとしては、例えば、チミンの5-メチル基が水素、ハロゲン、シアノ基などに置換されたチミンを挙げることができる。

【0035】
5-メチル基が水素及びハロゲンに置換されたチミンは、2'-デオキシウリジン及び5-ハロゲノ-2'-デオキシウリジンとして、それぞれ市販されている。5-メチル基がシアノ基に置換されたチミンは、例えば、イノウエらの文献(Inoue, H., Ueda, T., Chem. Pharm. Bull., 1987, 26, 2657)に記載の方法に従って、市販の5-ブロモ-2'-デオキシウリジンから5-シアノ-2'-デオキシウリジンへ変換することによって製造することができる。

【0036】
置換されていてもよいチミンの好ましい例は、非特許文献3に記載のある通り、水銀イオンに対して選択性が高い、無置換のチミンである。

【0037】
(2)エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基
第一の一本鎖核酸におけるエキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基は特に制限されないが、例えば、エキシマー形成可能な蛍光性基を有する、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、又はウラシルを挙げることができ、好ましくはエキシマー形成可能な蛍光性基を有するシトシンである。

【0038】
エキシマー形成可能な蛍光性基は、ダイマー化した際に、モノマー時の発光と異なる波長のエキシマー発光を生じ得る蛍光性基であれば特に制限されない。エキシマー形成可能な蛍光性基としては、例えば、ピレン及びピレン誘導体、アントラセン及びアントラセン誘導体、並びにナフタレン系、フルオレン系及びシアニン系色素などを挙げることができるが、好ましくはピレン及びピレン誘導体であり、より好ましくはピレンである。ピレンは、励起波長340nmで照射されると、モノマー時は約380nmに極大を有する蛍光を発するが、ダイマー時には約480nmに極大を有する蛍光を発する。

【0039】
エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基は、エキシマー形成可能な蛍光性基と塩基とが直接結合していてもよいし、適当な長さのリンカーを介して結合していてもよく、種々の態様をとり得る。エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基は、例えば、下記一般式(5)
【化13】
JP0005618264B2_000014t.gif
(式中、Rはエキシマー形成可能な蛍光性基を表し、Xは塩基を表し、及びkは1~5の整数を表す)
で示される化合物を挙げることができる。上記一般式(5)の化合物は、エキシマー形成可能な蛍光性基が、-C(CO)NH(CH2k-で表されるリンカーを介して塩基と結合する。リンカーは特に制限されなく、例えば、炭素数が1~20個程度のアルキル基やエーテル基などのリンカーも用いることができるが、これらに制限されるものではない。

【0040】
エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基のより具体的な例は、下記式(6)
【化14】
JP0005618264B2_000015t.gif
のものを挙げることができる。以下、エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基の製造方法について、後述する実施例に記載の上記式(6)の塩基の製造方法に則して説明する。


【0041】
図1は、上記式(6)の塩基を塩基部とする化合物8の合成経路を示す。

【0042】
まず、通常知られる方法を用いて、2'-デオキシヌクレオシド、例えば2'-deoxyuridine (図1の化合物1)のそれぞれのOH基を互いに異なる保護基で保護したOH保護2'-デオキシヌクレオシドを得る。このようにして得られたOH保護2'-デオキシヌクレオシドの具体例は、図1に示される化合物3である。次いでOH保護2'-デオキシヌクレオシドに、末端がアミノ基などの塩基性基で修飾されたアルキル基を結合し、さらにエキシマー形成可能な蛍光性基の酸、例えば1-Pyreneacetic acidと反応させると、上記式(6)の塩基を有するOH保護2'-デオキシヌクレオシドを得る。上記式(6)の塩基を有するOH保護2'-デオキシヌクレオシドの具体例が、図1の化合物6である。次いで通常知られる方法により、上記式(6)の塩基を有するOH保護2'-デオキシヌクレオシドの4位のOH基を脱保護し、さらにN,N-Diisopropylethylamineや2-Cyanoethyl N,N-diisopropylchlorophosphoramiditeなどと反応させることにより、上記式(6)の塩基を有するアミダイトを得る。この上記式(6)の塩基を有するアミダイトの具体例が、図1の化合物8である。

【0043】
2'-デオキシヌクレオシドから上記式(6)の塩基を有するアミダイトを合成する過程において、各中間体はシリカゲルカラムなどの通常知られる有機化合物の分離精製方法によって分離及び/又は精製され、さらにTLCや1H-NMRなどの通常知られる有機化合物の分析法により、所望の化合物が得られたことや合成した化合物の構造を解析することができる。

【0044】
合成に用いる原料となる化合物は市販のものや通常知られる方法によって合成したもののいずれを用いてもよい。合成に用いる溶媒や合成条件なども特に制限はなく、例えば、有機合成に詳しいCurrent Protocols In Nucleic Acid Chemistry (john Wiley & Sons, Inc., ISBN 0-471-24662-X)などの文献に記載の方法を参照して適宜設定することができる。

【0045】
OH基の保護基は特に制限されないが、例えば、ジメチルトリチル基、t-ブチルジメチルシリル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、tert-ブチル基、メトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリアルキルシリル基、トリアリールシリル基、テトラヒドロピランエーテル基などを挙げることができ、好ましくはジメチルトリチル基及びt-ブチルジメチルシリル基である。

【0046】
(3)ワトソン・クリック型塩基対を形成し得る塩基
ワトソン・クリック型塩基対は、通常知られている意味のものであり、例えば、互いに相補的なアデニン(A)とチミン(T)、シトシン(C)とグアニン(G)などの組み合わせが挙げられる。したがって、ワトソン・クリック型塩基対を形成し得る塩基とは、第一の一本鎖核酸と第二の一本鎖核酸が二本鎖を形成した場合に、向かい合う塩基に対してA、T、C又はGをとり得るものである。第一の一本鎖核酸に含まれるワトソン・クリック型塩基対を形成し得る塩基は、互いに同一でも異なってもよい。例えば、上記一般式(1)のNdのdが3である場合、AAAでもATGでもAATでもいずれの態様もとり得る。

【0047】
(4)第一の一本鎖核酸の配列
第一の一本鎖核酸は、上記一般式(1)で示される塩基配列を1又は2以上含み得る。上記一般式(1)で示されるa、b、g、h、nおよびmは、それぞれ独立して、0~10、好ましくは1~5、より好ましくは1~3の整数を表し;c及びfは、それぞれ独立して、1~10、好ましくは1~5、より好ましくは1~3の整数を表し;d及びeは、それぞれ独立して、3~10、好ましくは3~5、より好ましくは3又は4の整数を表す。上記一般式(1)やその他の一般式や式の5’及び3’は、単に方向を表しているにすぎず、末端部であることを表すものではない。

【0048】
第一の一本鎖核酸において、置換されていてもよいチミンの総数は、特に制限されないが、水銀イオンの検出能を高めるためには多数であることが好ましく、例えば、1~100個、より好ましくは1~50個、さらに好ましくは1~20個、なおさらに好ましくは1~10個、特に好ましくは2~8個である。ただし、置換されていてもよいチミンの総数が多過ぎると感度が下る傾向にある。これは水銀イオン結合サイトのチミンは二本鎖構造を不安定化する可能性が高いからである。したがって、水銀イオン検出の感度を上げるためには、置換されていてもよいチミンの総数を減らすことが好ましい。

【0049】
これらの複数の置換されていてもよいチミンは、互いに同一でも異なってもよい。例えば、上記一般式(1)のT’cのcが4である場合、T’cは無置換のチミンが4個あっても、無置換のチミン、5-メチル基が水素で置換されたチミン、5-メチル基がハロゲンで置換されたチミン及び5-メチル基がシアノ基で置換されたチミンの計4個であってもよい。

【0050】
第一の一本鎖核酸は、エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基を1~複数個、好ましくは1個含み得る。第一の一本鎖核酸において、複数個、例えば、2~10個のエキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基が含まれる場合は、これらのエキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基の間に十分な数の塩基、例えば、少なくとも5~20個程度の塩基があることが好ましい。エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基の数が増えると蛍光強度が増加するので、水銀イオンの検出に用いる第一及び第二の一本鎖核酸の濃度を下げることができる。

【0051】
第一の一本鎖核酸における、エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基が配置される部位は、エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基と置換されていてもよいチミンとの間に上記一般式(1)のd及びeが示す個数のワトソン・クリック型塩基対を形成し得る塩基があれば、特に制限されない。

【0052】
第一の一本鎖核酸は、置換されていてもよいチミンのアミダイト体とエキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基のアミダイト体を用いて、通常知られるDNAの合成法であるホスホアミダイト化学(ホスホアミダイト法、H-ホスホネート法、その他既知のDNA合成法)による固相合成法によって合成することができる。ホスホアミダイト化学による固相合成法によるDNA合成で使用されるその他の材料、方法、装置等は、ホスホアミダイト化学による固相合成法に通常用いられるものであれば特に制限されないが、例えば、後述する実施例に記載のものを挙げることができる。ホスホアミダイト化学による固相合成法としては、実施例に記載した方法以外にも、例えば、丹羽峰雄著 “DNAの化学合成法”(廣川 化学と生物 実験ライン 22)ISBN 4-567-18220-0(平成4年)、廣川書店の記載を参照できる。

【0053】
例えば、ホスホアミダイト化学による固相合成法によるDNA合成は、Applied Biosystems社の394 DNA/RNA SynthesizerなどのDNA自動合成機を用いて実施され得る。より具体的には、DNA自動合成機を用いて、CPG(controlled pore glass)などのガラス性の固相担体に結合した適当な濃度のヌクレオシド保護体から出発し、DNA自動合成機の製造業者が推奨するプロトコールをそのまま、又は修正を加えてDNAを合成することができる。置換されていてもよいチミンのアミダイト体やエキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基のアミダイト体の縮合時間は、例えば、10~20分程度の時間で実施し、通常使用される塩基のアミダイトの縮合時間よりも長く設定することが好ましい。縮合収率の測定は特に制限されないが、DNA自動合成機に内臓の測定器により測定できる。

【0054】
上記した方法などによって得られた第一の一本鎖核酸は、DNAを精製する通常知られる方法、例えば、濃アンモニア水などのDNA溶解液に溶解し保護基を除去するとともに固相担体を取り除いた後にろ過法し、濾液を濃縮し、次いで濃縮物を再度DNA溶解液を含む脱イオン水に溶解させた後に、逆相シリカゲルカラムを用いたHPLCなどによって精製することができる。得られた第一の一本鎖核酸は、例えば、ゲル電気泳動で電気泳動した後に、第一の一本鎖核酸のバンドに励起光を照射し蛍光を目視で検出するなどの方法により確認することができる。

【0055】
第一の一本鎖核酸の長さは特に制限されないが、例えば、7~数百塩基、好ましくは7~200塩基、より好ましくは10~100塩基、さらに好ましくは10~50塩基、なおさらに好ましくは10~20塩基程度の長さである。

【0056】
2.第二の一本鎖核酸
第二の一本鎖核酸は、上記一般式(2)に示す通り、第一の一本鎖核酸と同様に、置換されていてもよいチミン(T’)、エキシマー形成可能な蛍光性基を有する塩基(Ex)、及びワトソン・クリック型塩基対を形成し得る塩基(N’)を含む。

【0057】
第二の一本鎖核酸において、ワトソン・クリック型塩基対を形成し得る塩基(N’)は第一の一本鎖核酸のワトソン・クリック型塩基対を形成し得る塩基(N)と相補的な塩基を示し、NとN’との関係は、N:N’=A:T、C:G、T:A又はG:Cである。したがって、例えば、Neのeが4であり、具体的にはATCGである場合は、N’eはCGATである。

【0058】
第二の一本鎖核酸は、上記配列を含めば、第一の一本鎖核酸よりも短くても、長くても、又は同じ長さでもよい。

【0059】
第一の一本鎖核酸と第二の一本鎖核酸の例は、例えば、第一の一本鎖核酸(5’→3’):第二の一本鎖核酸(5’→3’)=T'NNT'NNNExNNNT'T'NN:NNT'T'NNNExNNNT'NNT’;T'T'T'NNT'T'NNNExNNNT'T'T'NT'T'T':T'T'T'N'T'T'T'N'N'N' ExN'N'N'T'T'N'N'T'T'T';T'NNNT'NNNNExNNNNNT'T'NNNN:N'N'N'N'T'T'N'N'N'N'N' ExN'N'N'N'T'N'N'N'T’などを挙げることができ、より具体的な例は、T'CCT'CCAExTGCT'T'GC:GCT'T'GCAExTGGT'GGT'である。

【0060】
第一の一本鎖核酸と第二の一本鎖核酸は、2個の一本鎖核酸であってもよいが、例えば、第一の一本鎖核酸の3’末端と第二の一本鎖核酸の5’末端とがリンカーを介して連結された1個の一本鎖核酸であってもよい。第一の一本鎖核酸及び第二の一本鎖核酸がリンカーを介して連結されている場合は、水銀イオンが存在するとき、第一の一本鎖核酸及び第二の一本鎖核酸は分子内で二本鎖を形成し得る。

【0061】
第一の一本鎖核酸及び第二の一本鎖核酸の連結物を製造する方法は特に制限されず、例えば、これまでに知られている繰り返し反復配列の製造方法や非特許文献4に記載の方法に従って製造することができる。また、第一の一本鎖核酸及び第二の一本鎖核酸の連結部であるリンカーも特に制限されず、種々のものを用いることができるが、例えば、4塩基以上あるものが好ましい。第一の一本鎖核酸及び第二の一本鎖核酸の連結物の具体例は、5’-TCCTCCAExTGCTTGC-CCCC-GCTTGCAExTGGTGGT-3’である。

【0062】
3.被験試料、第一の一本鎖核酸、及び第二の一本鎖核酸を含む溶液
本発明の水銀イオンの検出方法は、被験試料、第一の一本鎖核酸、及び第二の一本鎖核酸を含む溶液を得ることを含む。

【0063】
被験試料は特に制限されず、通常は、水銀イオンを含む又は水銀イオンが含まれる可能性のある溶液を用いる。被験試料に含まれる水銀イオンは、2価の水銀イオン(Hg(II))であることが好ましい。したがって、被験試料に1価の水銀イオンやその他の水銀化合物が含まれている場合は、これらを酸化剤により2価の水銀イオンに酸化した後に、本発明の方法に供することが好ましい。被験試料中にエキシマー発光の測定を阻害する物質等が存在する場合は、被験試料を希釈すること、マスキング剤などを添加すること、固形物を除去することなどの前処理をしてもよい。

【0064】
被験試料における水銀イオン濃度と第一の一本鎖核酸及び第二の一本鎖核酸の濃度との関係は、被験試料のその他の含有物によっても影響を受けるが、例えば、水銀イオンと第一の一本鎖核酸又は第二の一本鎖核酸の濃度の比(水銀イオン濃度/第一の一本鎖核酸又は第二の一本鎖核酸の濃度)は、0.1~100が好ましく、0.2~10がより好ましく、0.1~2がさらに好ましい。具体的には、水銀イオンが1~100μMに対して、第一の一本鎖核酸及び第二の一本鎖核酸のそれぞれの濃度は、1~10μMが好ましい。

【0065】
被験試料、第一の一本鎖核酸、及び第二の一本鎖核酸を含む溶液を得る方法は、特に制限はなく、例えば、これらを混合した溶液として得ることができる。例えば、混合方法としては、被験試料、第一の一本鎖核酸及び第二の一本鎖核酸を接触させた後に、10℃~45℃、数秒間~数時間の条件下で、静置して、又は撹拌子やヴォルテックスなどの撹拌機器や手動によって撹拌して、若しくはこれらを組み合わせることによって実施することができる。

【0066】
被験試料、第一の一本鎖核酸、及び第二の一本鎖核酸を含む溶液は、第一の一本鎖核酸と第二の一本鎖核酸が水銀イオンと結合するために、pHは弱酸性~中性付近であることが好ましく、pHは6~8であることがより好ましい。

【0067】
4.エキシマー発光の検出
本発明の水銀イオンの検出方法は、得られた溶液に励起光を照射し、該照射により発生するエキシマー発光を検出することを含む。

【0068】
溶液に励起光を照射する方法や該照射により発生するエキシマー発光を検出する方法は特に制限されないが、例えば、市販の蛍光を測定する機器、より具体的には島津社製RF-5399PCなどの蛍光光度計を用いて実施することができる。

【0069】
励起光及びエキシマー発光の波長は、エキシマー形成可能な蛍光性基によって適宜設定され、例えば、エキシマー形成可能な蛍光性基がピレンの場合は、励起光は340nmであり、かつエキシマー発光は480nm付近の波長の光として検出することができる。エキシマー発光の検出に供する混合溶液は、上記3の混合工程で調製した溶液の一部であってもよいし、全部であってもよい。また、定期的に被験試料の貯槽の一部を混合槽に送り、次いで混合槽にて被験試料、第一の一本鎖核酸及び第二の一本鎖核酸を含む溶液を得て、次いでこの溶液の一部を蛍光検出部に送液する系を確立すれば、定期的に自動で被験試料中の水銀イオンを検出することができる。

【0070】
5.キット
本発明の別の側面によれば、第一の一本鎖核酸及び第二の一本鎖核酸を含む、水銀イオンの検出方法に使用するためのキットが提供される。本発明のキットの使用例は、本発明のキットに含まれる第一の一本鎖核酸及び第二の一本鎖核酸と被験試料とを含む溶液を得て、次いで得られた溶液に励起光を照射し、次いでエキシマー発光を検出すれば、水銀イオンを検出することができる。本発明のキットは、第一の一本鎖核酸及び第二の一本鎖核酸を含めば特に制限されないが、例えば、緩衝液、pH調製液、希釈液、マスキング剤などの被験試料を処理するための溶液や薬剤を含み得る。

【0071】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0072】
例1.ピレン結合2’-デオキシシチジン保護体の合成方法
図1に、ピレン結合2’-デオキシシチジン保護体(図1の化合物8)の合成経路を示す。以下、図1の化合物2~8の合成方法及び合成結果を示す。なお、ピレン酢酸はaldrich 社から購入し、その他の化合物は和光純薬から購入した。
【実施例】
【0073】
(1)化合物2の合成
化合物1である2'-deoxyuridine(5.03 g, 22.1 mmol)を脱水pyridineで2回共沸し、脱水pyridine(40 ml)に溶解した後、DMTrCl(8.97 g, 26.5 mmol, 1.2 eq)を加え室温で100分間攪拌した。TLCで反応が進行したことを確認し、EtOH(2 ml)を加え20分間静置後、減圧下濃縮した。残渣にCHCl3と飽和NaHCO3水を加えて分液し、水層をCHCl3で2回抽出後、集めた有機層をNa2SO4で乾燥させ、濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(C60シリカゲル 100 g, 展開溶媒 CHCl3, MeOH)で精製し、濃縮して淡黄色泡状の化合物2(10.0 g, 18.9 mmol;収率 86%)を得た。
1H-NMR 500M Hz (DMSO-d6) : δ ppm = 11.31 (s, 1H, N-H), 7.63 (d, 1H, J = 8.0 Hz, H-5), 7.37-6.88 (m, 13H, DMTr), 6.13 (dd, 1H, J = 6.5 Hz, 6.5 Hz, H-1'), 5.36 (d, 1H, J = 8.0 Hz, H-6), 5.32 (d, 1H, J = 4.5 Hz, 3'-OH), 4.27 (m, 1H, H-3'), 3.86 (m, 1H, H-4'), 3.73 (s, 6H, DMTr),3.24-3,16 (m, 2H, H-5'), 2.17 (m, 2H, H-2')
【実施例】
【0074】
(2)化合物3の合成
得られた化合物2(1.89 g, 3.57 mmol)とImidazole(0.36 g, 5.35 mmol, 1.5 eq)を脱水DMFで共沸し、脱水DMF(30 ml)に溶解した後、TBDMSCl(0.65 g, 4.28 mmol, 1.2 eq)を加え室温で一晩攪拌した。TLCで反応が進行したことを確認し、EtOH(2 ml)を加えて20分間静置後、減圧下濃縮した。残渣にCHCl3と飽和NaHCO3水を加えて分液し、水層をCHCl3で抽出後、集めた有機層をNa2SO4で乾燥させ、濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(C60シリカゲル 45 g, 展開溶媒 CHCl3, MeOH)で精製し、濃縮して淡黄色泡状の化合物3(2.23 g, 3.46 mmol;収率 97%)を得た。
1H-NMR 500M Hz (DMSO-d6) : δ ppm = 11.41 (s, 1H, N-H), 8.01 (d, 1H, J = 8.0 Hz, H-5), 7.42-6.95 (m, 13H, DMTr), 6.18 (dd, 1H, J = 6.5 Hz, 6.5 Hz, H-1'), 5.48 (d, 1H, J = 8.0 Hz, H-6), 4.47 (m, 1H, H-4'), 3.80-3.79 (m, 7H, H-3', DMTr), 3.42-3.24 (m, 2H, H-5'), 2.33-2.22 (m, 2H, H-2'), 0.84 (s, 9H, TBDMS), 0.06-0.00 (each s, 6H, TBDMS)
【実施例】
【0075】
(3)化合物4の合成
Arで置換した二口フラスコ中の化合物3(1.97 g, 3.06 mmol)をCH3CN (20 ml) に溶解し、MS4Aを加えた。次いでEt3N(9.81 ml, 70.3 mmol, 23 eq)、1,2,4-Triazole(4.76 g, 68.9 mmol, 22.5 eq) を加え、溶液を氷冷した。POCl3(0.85 ml, 9.18 mmol, 3 eq)を加え、発熱が終了した時点で溶液を室温に戻し、7時間攪拌した。TLCで反応が進行したことを確認し、析出した白色個体をろ過して取り除いた後、飽和NaCl水で4回洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥させ、濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(C60シリカゲル 45 g, 展開溶媒 AcOEt, Hexane)で精製し、濃縮して白色泡状の化合物4(1.86 g, 2.68 mmol;収率 88%) を得た。
1H-NMR 500M Hz (DMSO-d6) : δ ppm = 9.46 (s, 1H, H-Triazole), 8.62 (d, 1H, J = 6.5 Hz, H-5), 8.41 (s, 1H, H-Triazole), 7.37-6.90 (m, 13H, DMTr), 6.67 (d, 1H, J = 6.5 Hz, H-6), 6,11 (dd, 1H, J = 6.3 Hz, 6.3 Hz, H-1'), 4.43 (m, 1H, H-4'), 3.95 (m, 1H, H-3'), 3.74 (s, 6H, DMTr), 3.36 (m, 2H, H-5'), 2.36 (m, 2H, H-2'), 0.77 (s, 9H, TBDMS), 0.00-(-0.06) (each s, 6H, TBDMS)
【実施例】
【0076】
(4)化合物5の合成
化合物4(1.86 g, 2.68 mmol)をCH3CN(20 ml)に溶解し、Ethylenediamine(0.89 ml, 13.4 mmol, 5 eq)を加え室温で1時間攪拌した。TLCで反応が進行したことを確認し、EtOHで2回共沸した後、減圧下濃縮した。残渣にCHCl3と飽和NaHCO3水を加えて分液し、水層をCHCl3で2回抽出後、集めた有機層をNa2SO4で乾燥させ、濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(C60シリカゲル 25 g, 展開溶媒 CHCl3, MeOH)で精製し、濃縮して白色泡状の化合物5(1.61 g, 2.35 mmol;収率 88%)を得た。
1H-NMR 500M Hz (DMSO-d6) : δ ppm = 7.70 (m, 2H, NH2), 7.40-6.90 (m, 14H, DMTr, H-5), 6.16 (dd, 1H, J = 6.0 Hz, 6.0 Hz, H-1'), 5.64 (d, 1H, J = 7.4 Hz, H-6), 4.40 (m, 1H, H-4'), 3.80 (m, 1H., H-3'), 3.75 (s, 6H, DMTr), 3.35-3.14 (m, 4H, linker, H-5'), 2.66 (t, 2H, J = 6.5 Hz, linker), 2.14 (m, 2H, H-2'), 0.79 (s, 9H, TBDMS), 0.00-(-0.06) (each s, 6H, TBDMS)
【実施例】
【0077】
(5)化合物6の合成
化合物5(343 mg, 0.50 mmol)を脱水DMF(30 ml)に溶解し、WSC(192 mg, 1.0 mmol, 2 eq)、1-Pyreneacetic acid(195 mg, 0.75 mmol, 1.5 eq)を加え室温で2時間攪拌した。TLCで反応が進行したことを確認し、減圧下濃縮した。残渣にCHCl3と飽和NaHCO3水を加えて分液し、水層をCHCl3で2回抽出後、集めた有機層をNa2SO4で乾燥させ、濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(C60シリカゲル 25 g, 展開溶媒 CHCl3, MeOH)で精製し、濃縮して白色泡状の化合物6(325 mg, 0.35 mmol;収率 70%)を得た。
1H-NMR 500M Hz (DMSO-d6) : δ ppm = 8.52-7.82 (m, 11H, pyrene, N-H), 7.48-6.95 (m, 14H, DMTr, H-5), 6.28 (dd, 1H, J = 5.0 Hz, 5.0 Hz, H-1'), 5.71 (d, 1H, J = 5.0 Hz, H-6), 4.48 (m, 1H, H-4'), 4.28 (s, 2H, pyrene-CH2), 3.90 (m, 1H, H-3'), 3.79 (s, 6H, DMTr), 3.40-3.26 (m, 6H, linker, H-5'), 2.23 (m, 2H, H-2'), 0.84 (s, 9H, TBDMS), 0.05-0.00 (each s, 6H, TBDMS)
【実施例】
【0078】
(6)化合物7の合成
化合物6(300 mg, 0.32 mmol)を脱水THF(20 ml)に溶解し、TBAF 1.0 M solution / THF(0.39 ml)を加え室温で3時間攪拌した。TLCで反応が進行したことを確認し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(C60シリカゲル 15 g, 展開溶媒 CHCl3, MeOH)で精製し、濃縮して黄色泡状の化合物7(239 mg, 0.29 mmol;収率 92%)を得た。
1H-NMR 500M Hz (DMSO-d6) : δ ppm = 8.39-7.61 (m, 11H, pyrene, N-H), 7.38-6.87 (m, 14H, DMTr, H-5), 6.19 (dd, 1H, J = 6.3 Hz, 6.3 Hz, H-1'), 5.55 (d, 1H, J = 7.5 Hz, H-6), 5.29 (d, 1H, J = 4.5Hz, 3'-OH), 4.25 (m, 1H, H-3'), 4.18 (s, 2H, pyrene- CH2), 3.87 (m, 1H, H-4'), 3.71 (s, 6H, DMTr), 3.38-3.15 (m, 6H, linker, H-5'), 2.00-2.20 (m, 2H, H-2')
【実施例】
【0079】
(7)化合物8の合成
化合物7(233 mg, 0.29 mmol)を脱水pyridineで4回、脱水Tolueneで2回共沸した後、CH2Cl2(7 ml)、N,N-Diisopropylethylamine(85.9μl, 0.49 mmol, 1.7 eq)、2-Cyanoethyl N,N-diisopropylchlorophosphoramidite(95.3μl, 0.44 mmol, 1.5 eq)を加え室温、Ar雰囲気下で1時間攪拌した。TLCで反応が進行したことを確認し、少量のEtOHを加え10分間静置後、減圧下濃縮した。残渣にCHCl3と飽和NaHCO3水を加えて分液し、水層をCHCl3で2回抽出後、集めた有機層をNa2SO4で乾燥させ、濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(N-Hシリカゲル 15 g, 展開溶媒 CHCl3)で精製し、濃縮して黄色泡状の化合物8(234 g, 0.23 mmol;収率 79%)を得た。
1H-NMR 500M Hz (DMSO-d6) : δ ppm = 8.21-7.69 (m, 11H, pyrene, N-H), 7.48-6.85 (m, 14H, DMTr, H-5), 6.36 (dd, 1H, J = 6.5 Hz, 10 Hz, H-1'), 5.51 (d, 1H, J = 7.5 Hz, H-6), 4.67 (m, 1H, H-3'), 4.24 (s, 2H, pyrene-CH2), 4.17 (m, 1H, H-4'), 3.72 (s, 6H, DMTr), 3.84-3.31 (m, 10H, linker, H-5', DMTr, O-CH2), 2.73-2.62 (each t, 2H, J = 6.0 Hz, CN-CH2), 2.57-2.26 (m, 2H, H-2'), 1.23-0.01 (m, 14H, CH(CH3)2)
【実施例】
【0080】
例2.ピレン標識DNAの合成方法
(1)DNA自動合成機によるODNの合成
DNAはDNA自動合成機(Applied Biosystems 394 DNA/RNA Synthesizer)上、ホスホアミダイト化学による固相合成法により合成した。固相担体(CPG, controlled pore glass)に結合したヌクレオシド保護体(1μmol)から出発し、Applied Biosystems社の推奨するものに若干の修正を加えたプロトコールを用いた。即ち、図1の化合物8のアミダイトユニットの縮合時間は13分であり、天然型アミダイトのそれよりも長時間の縮合時間を用いた。縮合収率は自動合成機内臓の測定器の数値を用いた。
【実施例】
【0081】
(2)化合物8を導入したODNの精製
5'末端のDMTr基が結合した状態で合成を終了した。固相担体に結合したDNAをバイアルに移し、濃アンモニア水(1 ml)を加えて密栓し、55℃で5時間処理した。固相担体を綿線ろ過で取り除き、ろ液を濃縮した。残渣を脱イオン水(900μl)に濃アンモニア水(20μl)を加えた溶媒に溶解し、逆相シリカゲル担体(ODS-3 カラム)を用いるHPLCにより精製した。目的のフラクションは減圧下濃縮し脱イオン水で共沸した。残渣に80%酢酸水(5 ml)を加え室温で20分間静置した。反応液を濃縮し、残渣を脱イオン水で共沸した後、残渣を脱イオン水に溶解しジエチルエーテルで洗浄した。水層を減圧下濃縮し、残渣を脱イオン水(1 ml)に溶解した。
【実施例】
【0082】
例3.ピレン残基によるエキシマー発光の測定
上記1及び2の方法に従って、下記式の通りに、ピレン結合残基含有ODN1~4を作製した。
【化15】
JP0005618264B2_000016t.gif
(式中、5はピレン残基を示す。)
【実施例】
【0083】
Hg検出用緩衝液(10mM MOPS(pH = 7.0), 100mM NaNO3)に2μMのピレン結合残基含有ODN1~4のいずれか1種と9.5μMのHg(II)を加えて、18℃で、0.1分間、手動で混合した。混合後、溶液の蛍光を島津RF-5399PCを用いて、励起波長340nmで測定した。測定結果を図4~7に示す。ピレン結合残基の隣にT-Hg(II)-Tペアがあるピレン残基含有ODN2では、Hg(II)イオンの存在下であってもエキシマー発光は生じなかった(図5を参照)。また、ピレン結合残基とT-Hg(II)-Tペアの間にワトソン・クリック型塩基対を挿入したピレン結合残基含有ODN1、3及び4において、T-Hg(II)-Tペアの左右に3個のワトソン・クリック塩基対があるピレン結合残基含有ODN1ににおいてエキシマー発光が見られた(図4、6及び7を参照)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6