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明細書 :発酵豆乳およびその製法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4735981号 (P4735981)
公開番号 特開2008-079536 (P2008-079536A)
登録日 平成23年5月13日(2011.5.13)
発行日 平成23年7月27日(2011.7.27)
公開日 平成20年4月10日(2008.4.10)
発明の名称または考案の名称 発酵豆乳およびその製法
国際特許分類 A23L   1/20        (2006.01)
A23L   1/23        (2006.01)
FI A23L 1/20 Z
A23L 1/23
請求項の数または発明の数 3
全頁数 11
出願番号 特願2006-262813 (P2006-262813)
出願日 平成18年9月27日(2006.9.27)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成18年3月27日 社団法人日本農芸化学会主催の「日本農芸化学会2006年度大会」において文書をもって発表
審査請求日 平成20年7月22日(2008.7.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】599125249
【氏名又は名称】学校法人武庫川学院
発明者または考案者 【氏名】松井 徳光
個別代理人の代理人 【識別番号】100079382、【弁理士】、【氏名又は名称】西藤 征彦
審査官 【審査官】濱田 光浩
参考文献・文献 特許第3809477(JP,B2)
特開2004-057043(JP,A)
調査した分野 A23L 1/20
A23L 1/23
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
G-Search
特許請求の範囲 【請求項1】
豆乳を、エノキタケ、カワラタケおよびスエヒロタケからなる群から選ばれた少なくとも一方に由来する担子菌であって、プロテアーゼ活性を有する担子菌により発酵させてなることを特徴とする発酵豆乳。
【請求項2】
調味料である請求項1記載の発酵豆乳。
【請求項3】
請求項1または2記載の発酵豆乳の製法であって、豆乳に、エノキタケ、カワラタケおよびスエヒロタケからなる群から選ばれた少なくとも一方に由来する担子菌であって、プロテアーゼ活性を有する担子菌を接種する工程と、上記担子菌を接種した豆乳を好気条件下で発酵させる工程とを備えていることを特徴とする発酵豆乳の製法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵豆乳およびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、血栓症やガンなどの生活習慣病の増加が社会的に大きな問題となっている。そこで、医食同源・予防医学の観点に立ち、毎日の食生活から病気を予防することが重要とされている。そのようななか、大豆や担子菌(すなわち、きのこ)は、抗腫瘍作用、抗血栓作用等といった、様々な機能性を示す食品素材として注目されている。このような知見に基づき、本発明者は、既に、大豆を特定の担子菌により発酵させて得られた発酵大豆を研究開発済みである(特許文献1参照)。

【特許文献1】特許第3809477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記研究開発された発酵大豆は、その機能性が高く、産業上においても極めて有用であったことから、開発後も、本発明者によって継続的に研究が行われてきた。その過程で、上記研究開発された発酵大豆が食用タイプのものであったのに対し、上記と同様に優れた作用効果を有するとともに、大豆イソフラボン等の成分が吸収されやすい状態にある液体タイプ(調味料タイプや飲料タイプ)のニーズがあった。
【0004】
一方、大豆を使った発酵調味料としては醤油が有名である。また、大豆と同様の効果が期待できる豆乳を用い、これを乳酸菌や酵母を用いて発酵させた飲料も既に開発されている(例えば、特開2006-75176公報参照)。しかしながら、担子菌を用いて、これらのようなものを製造した報告は全くないといっても過言ではない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、調味料や飲料として呈味性に優れ、さらに血栓症の予防効果等の機能性に富んだ、全く新規な発酵豆乳およびその製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、豆乳を、エノキタケ、カワラタケおよびスエヒロタケからなる群から選ばれた少なくとも一方に由来する担子菌であって、プロテアーゼ活性を有する担子菌により発酵させてなる発酵豆乳を第1の要旨とする。
【0007】
また、上記発酵豆乳の製法であって、豆乳に、エノキタケ、カワラタケおよびスエヒロタケからなる群から選ばれた少なくとも一方に由来する担子菌であって、プロテアーゼ活性を有する担子菌を接種する工程と、上記担子菌を接種した豆乳を好気条件下で発酵させる工程とを備えている発酵豆乳の製法を第2の要旨とする。
【0008】
すなわち、本発明者は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その過程で、大豆自身ではなく、豆乳を、有用な生理活性物質を産出する担子菌を用いて発酵させることを検討した。そして、多種の担子菌のうち、プロテアーゼ活性を有するものが存在するとの知見を得、また、その担子菌の生産するプロテアーゼの作用により、大豆タンパク質が加水分解されて、呈味成分の一つであるアミノ酸を遊離し、特有のうま味成分を生ずることが期待できたことから、本発明者は、プロテアーゼ活性を有する各種担子菌により豆乳の発酵を試みた。しかしながら、実際に得られたものの呈味性評価を行ったところ、たとえプロテアーゼ活性を有する菌を用いた場合であっても、実際に調味料や飲料に適用した場合に、味わってみて旨くない等、利用価値のないものが多数あった。このことから、さらに検討を重ねた結果、エノキタケ、カワラタケおよびスエヒロタケに由来しプロテアーゼ活性を有する担子菌を用いたものに、呈味性評価の優位性が認められ、さらに研究試験においても、上記のものに、遊離アミノ酸(特にグルタミン酸)が高濃度で測定された。しかも、このようにして得られた発酵豆乳は、その発酵により、豆乳中の大豆イソフラボンが、吸収性が高く生理活性の高いアグリコン型イソフラボンに変換され、豆乳中に存在するアレルゲンも分解され、さらに線溶活性(血栓を溶かす作用)、抗酸化活性(細胞の老化防止作用等)等も得られるようになることから、血栓症予防等の健康維持においても有意な効果が得られることを突き止め、本発明に到達した。
【0009】
また、本発明の発酵豆乳は、特定の担子菌によって製造されたものであるため、一般的な調味料や飲料にはみられない有用生理活性物質を含有したものとなる。すなわち、抗腫瘍性,免疫活性,抗アレルギー性,食物繊維効果を発揮するβ-D-グルカンや、食物繊維効果を発揮するキチン質,ヘテロ多糖〔ペクチン質,ヘミセルロース,活性ヘミセルロース複合体(AHCC,Active hemicellulose complex),ポリウロナイド,リグニン〕等を含有するものとなる。したがって、本発明の発酵豆乳は、従来にはない全く新規なものとなり、機能性・健康食品ともなりうる。
【0010】
なお、本発明において、担子菌とは、子実体が「きのこ」といわれているものをいい、微生物分類学上の担子菌類(ハラタケ類,ヒダナシタケ類,腹菌類,キクラゲ類)のほか、子のう菌類の一部をも含む概念で用いている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の発酵豆乳は、エノキタケ、カワラタケおよびスエヒロタケからなる群から選ばれた少なくとも一方に由来しプロテアーゼ活性を有する担子菌により発酵させてなるものである。このように特定の担子菌により発酵されたものであるため、遊離アミノ酸濃度、特にグルタミン酸濃度が高く、特有のうま味を有している。また、その発酵により、豆乳中の大豆イソフラボンが、吸収性が高く生理活性の高いアグリコン型イソフラボンに変換されていることから、肥満改善等のイソフラボン効果が高く、さらに、豆乳中に存在するアレルゲンも分解されているため、大豆アレルギーの人でも摂取することができる。また、線溶活性、抗酸化活性等も得られるようになることから、血栓症予防等の健康維持においても有意な効果を得ることができる。そして、本発明の発酵豆乳は、従来の調味料や飲料にはない、抗がん性物質(β-D-グルカン)等も含有するため、機能性・健康食品として用いることもできる。
【0012】
また、本発明の発酵豆乳の製法により、上記発酵豆乳を効率よく生産することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0014】
本発明の発酵豆乳は、エノキタケ、カワラタケおよびスエヒロタケからなる群から選ばれた少なくとも一方に由来しプロテアーゼ活性を有する担子菌により発酵させてなるものである。
【0015】
上記豆乳としては、特に限定されるものではなく、その原料として、例えば、油脂を含有した丸大豆、脱皮大豆、フレーク大豆等を用い、それらを従来公知の方法により加工することにより得られたものがあげられる。
【0016】
上記豆乳に接種する特定の担子菌としては、プロテアーゼ活性を有するものであって、各地の森林等で採取される、エノキタケ(Flammulina velutipes,フラムリナ ベルチペス)、カワラタケ(Coriolus versicolor ,コリオルス ヴャジカラア)、スエヒロタケ(Schizophyllum commune ,シゾフィラム コムネ)といったものに由来する担子菌が用いられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。上記プロテアーゼ活性を有するか否かは、スクリーニング等により判定され、選別される。
【0017】
ここで、上記特定の担子菌のプロテアーゼ活性は、アルカリ性条件の場合、例えば、つぎのようにして確認することができる。すなわち、まず、上記特定の担子菌を、pH8.5の10mM(mmol/リットル)トリス-HCl緩衝液等に懸濁し、20kHzの超音波破砕器により、8℃未満の条件下で16分間、超音波処理し、続いて、この懸濁液を、10000rpmの遠心力で20分間遠心分離し、未破壊の担子菌細胞およびその砕片と分離し、上澄を得、これをプロテアーゼ液とする。つぎに、基質溶液として、Hammerstenカゼイン(DIFCO社製)の1.2%懸濁液等を準備する。そして、上記のようにして得られたプロテアーゼ液と、上記基質溶液とを、適当な緩衝液中で反応させる。反応後、遠心分離し上澄液を得る。その後、この上澄液に、0.55M(mol/リットル)炭酸ナトリウム水溶液と、フェノール試薬とを添加し、35℃で20分間反応させた後、660nmの吸光度値を測定する。この吸光度値が、プロテアーゼ液の代わりに水を用いた場合における660nmの吸光度値よりも増加しておれば、プロテアーゼ活性を有するものであるといえる。
【0018】
また、上記特定の担子菌のプロテアーゼ活性は、酸性条件の場合、例えば、つぎのようにして確認することができる。すなわち、まず、上記特定の担子菌を、pH5.0のMcIlvaine 緩衝液等に懸濁し、20kHzの超音波破砕器により、8℃未満の条件下で16分間、超音波処理し、続いて、この懸濁液を、10000rpmの遠心力で20分間遠心分離し、未破壊の担子菌細胞およびその砕片と分離し、上澄を得、これをプロテアーゼ液とする。つぎに、基質溶液として、Hammerstenカゼイン(DIFCO社製)の1.2%懸濁液等を準備する。そして、上記のようにして得られたプロテアーゼ液と、上記基質溶液とを、適当な緩衝液中で反応させる。反応後、遠心分離し上澄液を得る。その後、この上澄液の280nmの吸光度値を測定する。この吸光度値が、プロテアーゼ液の代わりに水を用いた場合における280nmの吸光度値よりも増加しておれば、プロテアーゼ活性を有するものであるといえる。
【0019】
なお、先に列挙した担子菌(エノキタケ、カワラタケおよびスエヒロタケ)であっても、上記の方法によりプロテアーゼ活性が確認されないものは、本発明において用いることはできない。
【0020】
そして、上記一連の担子菌のなかでも、プロテアーゼ活性が0.01ユニット〔μmol/mg(protein)/min〕以上のものが好適であり、特に1ユニット〔μmol/mg(protein)/min〕以上のものが最適である。すなわち、プロテアーゼ活性が低すぎると、担子菌を多量に使用する等の手段を講じなければならず、食品の製造上好ましいとはいえないからである。なお、上記プロテアーゼ活性は、具体的には、次のようにして算出することができる。すなわち、まず、担子菌を超音波処理,遠心分離処理したのちに得られる上澄液を粗酵素液(プロテアーゼ液)として用い、これと、Hammerstenカゼイン等の基質溶液とを反応させ、その後、遠心分離し、上澄液を得る。そして、上澄液そのものか、あるいはフェノール試薬と反応させたのものの吸光度値を測定する。また、それぞれの条件においてプロテアーゼ液の代わりに水を用いた場合の吸光度値も測定する。そして、これら各吸光度値を用い、予め下記の方法で作成しておいた各検量線によってチロシン換算値を求め、これと下記に示す数式(1)とによって、プロテアーゼ活性を算出することができる。なお、上記プロテアーゼ活性の1ユニットは、牛の血清アルブミンの結晶(和光純薬社製)をスタンダードとして、使用したプロテアーゼ液中のタンパク質量を算出し、使用したプロテアーゼ液中のタンパク質1mg当たり、1分間で1μmolのL-チロシンの形成を触媒する量として定義したものである。
【0021】
〔検量線の作成〕
まず、L-チロシン(試薬特級)を、イオン交換水と1N水酸化カリウム溶液とを用いて溶解する。ついで、得られた混合溶液を数種類の濃度に希釈し(アルカリ性条件の場合は、さらにフェノール試薬等を添加後、35℃で20分間反応させ)、それぞれについて上記プロテアーゼ活性の測定に用いる分光光度計にて吸光度値(アルカリ性条件の場合は660nmの吸光度値で、酸性条件の場合は280nmの吸光度値)を測定する。そして、この測定値を用い、検量線を作成する。
【0022】
【数1】
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【0023】
本発明の発酵豆乳は、例えば、次のようにして得ることができる。すなわち、まず、オートクレーブ等により滅菌した豆乳に、特定の担子菌(エノキタケ、カワラタケおよびスエヒロタケに由来しプロテアーゼ活性を有する担子菌)を接種した後、上記豆乳を、温度20~30℃で10~50日間、回転振とう培養等を行い、発酵させる。なお、上記担子菌は、純粋培養したものを液体培養し、菌糸体として生育させたものを用いることが好ましい。また、上記担子菌のプロテアーゼ活性はpHに大きく依存することから、発酵時のpHは、使用する担子菌により最適な条件となるよう適宜調整するのが好ましい(通常、pH=5.0~8.5)。そして、この発酵段階が経過した後、適宜、発酵させた豆乳を冷蔵し熟成させて、本発明の発酵豆乳を製造することができる。なお、上記製造の際に、必要に応じ、水、食塩、ブドウ糖,乳糖,果糖等の糖類、香料等を加えてもよい。
【0024】
このようにして得られた発酵豆乳は、遊離アミノ酸濃度、特にグルタミン酸濃度が高く、ダシのように特有のうま味成分を有している。そのため、特に、調味料として有用である。また、上記発酵豆乳は、従来の豆乳等の飲料や調味料の風味にはないきのこ風味等(特にエノキタケで発酵させたものはエノキの風味がし、また、スエヒロタケはスルメのような味とにおいがする)が付与されたものとなり、嗅覚的にも、担子菌のほのかな味が加わり、全く新規なものとなる。さらに、その発酵により、豆乳中の大豆イソフラボンが、吸収性が高く生理活性の高いアグリコン型イソフラボンに変換されていることから、肥満改善等のイソフラボン効果が高く、しかも、豆乳中に存在するアレルゲンも分解されているため、大豆アレルギーの人でも摂取することができる。また、血栓を溶かす作用がある線溶酵素を有し、さらには、血栓を作りにくくする抗トロンビン活性物質を有するものもあることから、心筋梗塞や脳血栓等の血栓症の予防においても有意な効果を奏する。さらに、抗酸化活性も得られるようになることから、細胞の老化防止等において有意な効果が期待できる。そして、本発明の発酵豆乳は、従来の調味料や飲料にはない、担子菌由来の生理活性物質であるβ-D-グルカン等も含有しているため、がん予防効果、広範囲にわたる疫病予防効果、アレルギー予防効果(アトピーに有効)、食物繊維効果等も得られる。また、エルゴステロール(プロビタミンD2 )を含有したものとなったり、抗菌活性(保存性を高める)を発揮するものともなり得る。さらに、血糖降下作用(ガノデラン,ペプチドグルカン等による)、血圧降下作用(糖タンパク質等による)、コレステロール低下作用(エリタデニン等による)といった、生活習慣病の予防につながる作用効果も期待できる。
【0025】
つぎに、実施例について説明する。
【実施例】
【0026】
〔担子菌(菌糸体)の培養〕
まず、ポテトデキストロース寒天培地(ニッスイ社製)11.7gに湯300mlを加え、培地を溶解し、pH5.6に調整した後、300ml容三角フラスコ2個に150mlずつ分注し、各フラスコに寒天末(ナカライテスク社製)0.7gずつ加えた。つぎに、それを、120℃、118kPaで、30分間オートクレーブした後、寒天が固まらないうちにクリーンベンチ内で滅菌シャーレに分注し、培地の調製を行った。その後、担子菌の子実体組織0.15gを採取し、これを、上記培地を用いて組織培養(無菌培養)することにより、担子菌(菌糸体)の培養を行った。詳しくは、まず、上記培地(寒天培地)の入ったシャーレ上に、上記子実体組織を植えつけ、それを培養した後、別途準備したスラント(上記寒天培地を用いたスラント)上に、上記培養によって組織から生育した菌糸体を移植し、引き続き培養を行うことにより、目的とする菌糸体を得た。そして、上記培養を行った担子菌は、カワラタケ、カイガラタケ、サナギタケ、マスタケ、スエヒロタケ、ミミブサタケ、ハタケチャダイゴケ、スジチャダイゴケ、ブクリョウ、マンネンタケ、エノキタケ、エリンギタケ、ヒラタケ、ブナハリタケ、マイタケ、ムラサキシメジ、ヤナギマツタケ、ヤマブシタケ、NaPa(サルノコシカケ科の一種。タイ国産。)および8B-3(ブナシメジとマスタケとの融合株。「8B-3」とは、本発明者により付された実験上の番号。)の、全20種である。
【0027】
〔発酵豆乳の作製〕
市販の豆乳に、4N塩酸を加え、pH5.6となるよう調整した。その後、上記豆乳100mlをビーカーに入れ、オートクレーブ(120℃×118kPa、30分)により滅菌した。つぎに、上記培養の各担子菌(菌糸体)を、それぞれ、上記豆乳に接種(5mm角に切ったスラントを5個投入することによる植菌)し、25℃で21日間、回転振とう培養を行い、発酵させた。
【0028】
このようにして得られた発酵豆乳について、下記の基準に従って、プロテアーゼ活性、旨味、芳香性の評価を行った。これらの結果を、後記の表1~3に併せて示した。なお、後記の表において、評価を行っていないものについては、欄内に横線を引いた。
【0029】
〔プロテアーゼ活性〕
各発酵豆乳に使用する菌糸(担子菌)0.5g(鮮重量)を、pH8.5の10mMトリス-HCl緩衝液0.5mlか、あるいは、pH5.0の10mM McIlvaine緩衝液0.5mlにそれぞれ懸濁し、超音波破砕器〔ブランソン社製(20kHz)〕により、8℃未満の条件下で16分間、超音波処理した。続いて、これらの懸濁液を、10000rpmの遠心力で20分間遠心分離し、未破壊の担子菌細胞およびその砕片と分離し、上澄を得、プロテアーゼ液とした。そして、pH8.5の10mMトリス-HCl緩衝液を用いた場合のプロテアーゼ活性は、基質溶液として、Hammerstenカゼイン(DIFCO社製)の1.2%懸濁液を用い、これとプロテアーゼ液とを反応させ、その後、遠心分離し、得られた上澄液に、フェノール試薬と0.55M炭酸ナトリウム水溶液とを添加し、35℃で20分間反応させた後、分光光度計(島津製作所社製の島津紫外可視分光光度計UV-160A)により660nmの吸光度値を測定し、さらに、プロテアーゼ液の代わりに水を用いた場合における660nmの吸光度値も測定し(ブランク)、これら各吸光度値を用い、予め下記の方法で作成しておいた検量線によってチロシン換算値を求め、これと下記に示す数式(1)とによって、プロテアーゼ活性を算出した。一方、pH5.0の10mM McIlvaine緩衝液を用いた場合のプロテアーゼ活性は、基質溶液として、Hammerstenカゼイン(DIFCO社製)の1.2%懸濁液を用い、これとプロテアーゼ液とを反応させ、その後、遠心分離し、得られた上澄液の分光光度計により280nmの吸光度値を測定し、さらに、プロテアーゼ液の代わりに水を用いた場合における280nmの吸光度値も測定し(ブランク)、これら各吸光度値を用い、予め下記の方法で作成しておいた検量線によってチロシン換算値を求め、これと下記に示す数式(1)とによって、プロテアーゼ活性を算出した。なお、上記プロテアーゼ活性の1ユニットは、牛の血清アルブミンの結晶(和光純薬社製)をスタンダードとして、使用したプロテアーゼ液中のタンパク質量を算出し、使用したプロテアーゼ液中のタンパク質1mg当たり、1分間で1μmolのL-チロシンの形成を触媒する量として定義したものである。
【0030】
〔検量線の作成〕
まず、L-チロシン(試薬特級)を、イオン交換水と1N水酸化カリウム溶液とを用いて溶解する。ついで、得られた混合溶液を数種類の濃度に希釈し(pH8.5の10mMトリス-HCl緩衝液を用いた場合は、さらにフェノール試薬等を添加後、35℃で20分間反応させ)、それぞれについて上記プロテアーゼ活性の測定に用いる分光光度計にて吸光度値(pH8.5の10mMトリス-HCl緩衝液を用いた場合は660nmの吸光度値。pH5.0の10mM McIlvaine緩衝液を用いた場合は280nmの吸光度値。)を測定する。そして、この測定値を用い、検量線を作成する。
【0031】
【数2】
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【0032】
〔旨味〕
得られた各発酵豆乳の旨味を、パネラーの味覚により評価した。すなわち、コントロールである豆乳を基準とし、顕著な旨味が感じられたものを○、コントロールと同じか、あるいは不快な味であったものを×とした。なお、上記評価は、専門パネラー10名による評価の平均をとったものである。
【0033】
〔芳香性〕
得られた各発酵豆乳の臭いを、パネラーの臭覚により評価した。すなわち、発酵による芳香性の向上が顕著に確認できたものを○、特に芳香性の向上が確認できなかったか、あるいは不快な発酵臭が確認されたものを△とした。なお、上記評価は、専門パネラー10名による評価の平均をとったものである。
【0034】
【表1】
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【0035】
【表2】
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【0036】
【表3】
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【0037】
上記結果から、本実施例に使用のエノキタケ、カワラタケおよびスエヒロタケの菌糸体は、プロテアーゼ活性に優れていることが確認され、それとともに、上記使用のエノキタケ、カワラタケおよびスエヒロタケの菌糸体により発酵した発酵豆乳が、呈味性の点において特に有用であることがわかる。特に、エノキタケで発酵させたものはエノキの風味がし、また、スエヒロタケで発酵させたものはスルメのような味とにおいで、いずれも大豆由来と思われるうまみが強く感じられた。
【0038】
つぎに、上記特定の担子菌(エノキタケ、カワラタケおよびスエヒロタケに由来し、プロテアーゼ活性を有する担子菌)を用いて得られた発酵豆乳の各特性(アミノ酸濃度、グルタミン酸濃度、線溶活性、抗トロンビン活性、抗酸化活性、β-D-グルカンの有無)を、下記の基準に従って測定・評価を行った。これらの結果を、後記の表4に併せて示した。なお、ブランク(対照例)は、担子菌の接種を行わずに蒸煮処理のみ行った豆乳である。また、後記の表において、評価を行っていないものについては、欄内に横線を引いた。
【0039】
〔遊離アミノ酸濃度〕
アミノ酸分析計(L-8800型、日立製作所社製)により、遊離アミノ酸濃度(mg/100g)を測定した。
【0040】
〔グルタミン酸濃度〕
アミノ酸分析計(L-8800型、日立製作所)により、グルタミン酸濃度(mg/100g)を測定した。
【0041】
〔線溶活性〕
発酵豆乳5mlをマイクロチューブに入れ、10000rpmの遠心力で10分間遠心分離し、上澄を得た。そして、0.4%の牛のフィブリノゲンをトロンビンにより凝固させてなる人工血栓が形成されたフィブリン平板(5671mm2 )を準備し、その表面に、上澄30μlを円形に散布し(散布面積19.6mm2 )、24時間放置後の溶解面積を測定した。
【0042】
〔抗トロンビン活性〕
発酵豆乳5mlをマイクロチューブに入れ、10000rpmの遠心力で10分間遠心分離し、上澄を得た。そして、上澄50μl、12.5NIHユニット/mlのトロンビン(持田製薬社製のBovineα-thrombin )50μlおよび0.33%の牛のフィブリノゲン200μlを含む反応混合物(37℃)のトロンビン凝固時間(フィブリノゲンからフィブリンに変化し凝固するまでの時間)を、KC1A凝固測定装置(ヘンリッチ・アムラング社製)を用いて測定した。なお、300秒を超えるものは「300*」と示した。
【0043】
〔抗酸化活性〕
発酵豆乳5mlをマイクロチューブに入れ、10000rpmの遠心力で10分間遠心分離し、上澄を得た。そして、上記上澄180μl、キサンチンオキシダーゼ溶液60μl、発光試薬(MPEC)10μl、ヒポキサンチン50μmを混合し、これの発光量をルミネッセンサー(アトー社製)により測定し、その結果をもとに、化学発光法に基づき、酸化阻害率(%)を算出した。
【0044】
〔β-D-グルカンの有無〕
各発酵豆乳の懸濁液中にβ-D-グルカンが存在するか否かを確認するために、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてβ-D-グルカンの検出を行った。そして、β-D-グルカンのピークを確認できたものには「有り」、確認できなかったものあるいは若干のピークが確認できたが他の実験〔酵素(β-1,3-グルカナーゼ)処理実験〕によりそのピークがβ-D-グルカンでないことを確認したものには「無し」をつけた。
【0045】
【表4】
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【0046】
上記結果から、本発明の発酵豆乳の遊離アミノ酸濃度やグルタミン酸濃度は、いずれも、培養21日(3週間)程度で最も高い濃度を示しており、このとき、市販の濃口醤油(遊離アミノ酸濃度:6593mg/100g、グルタミン酸濃度:1366mg/100g)や魚醤(遊離アミノ酸濃度:8424mg/100g、グルタミン酸濃度:1307mg/100g)と同程度であることが確認された。
【0047】
また、カワラタケおよびスエヒロタケによって発酵させて製造した本発明の発酵豆乳は、対照例である豆乳と比べると、線溶活性の著しい向上がみられた。さらに、本発明の発酵豆乳は、いずれも、抗トロンビン活性の向上が確認できた。これらのことから、本発明の発酵豆乳は、血栓症の予防に優れた効果を発揮することがわかる。なお、カワラタケ豆乳の線溶活性は、長期間に渡って維持されることが確認された。また、スエヒロタケ豆乳の線溶活性は、加熱に強く、100℃の加熱後でも、非加熱時の11.2%の線溶活性が失活せず残っていた。さらに、上記加熱後の抗トロンビン活性においては、エノキタケ豆乳において、非加熱試料よりも加熱試料の方が高い活性を示す傾向が認められた。これは食品として用いる際に加熱調理によって抗トロンビン活性が上昇する可能性を示唆しており、食品化することを考えると有意な結果であると考えられる。
【0048】
また、担子菌で発酵していないブランクの豆乳の酸化阻害率に対し、本発明の発酵豆乳は、いずれも高い抗酸化活性を示した。なお、発酵大豆食品の抗酸化活性物質としてはアミノ酸やペプチド、イソフラボン、褐変色素などが報告されており、本実施例品も、褐色の濃い、長く培養した試料ほど高い抗酸化活性を示したこと、また培養4週間目以降は発酵豆乳中のイソフラボンやアミノ酸は分解され濃度が減少する傾向にあったことから、発酵豆乳の示す抗酸化活性はメラノイジンなどの褐変色素によるものが大きいのではないかと推測される。
【0049】
そして、本発明の発酵豆乳は、いずれも、従来の豆乳にはない生理活性物質であるβ-D-グルカンが含まれていることがわかる。
【0050】
ところで、上記発酵による豆乳中の蛋白質の変化を、SDS-PAGEの電気泳動で観察したところ、エノキタケ豆乳では、培養0週間目に見られた大豆蛋白質のバンドは培養1週間目にはほとんど分解されて消失し、2週間目以降には全く見られなくなった。スエヒロタケ豆乳では、大豆蛋白質のバンドは培養1週間目にはほぼ完全に消失し、代わりに60、32、17kDa付近に新たなバンドが登場した。このバンドは培養日数を重ねる毎に濃くなっていき、また、一部は再び薄くなっていった。カワラタケ豆乳においても、スエヒロタケ同様に、蛋白質染色バンドの分解と合成とが認められた。このように、大豆アレルギーの要因である大豆蛋白質は分解されており、大豆アレルギー患者も喫食できる可能性が示唆される。
【0051】
さらに、ブランクの豆乳中のイソフラボン組成を測定したところ、ダイジン、グリシチン、ゲニスチンといった、あまり強い生理活性を示さない糖質型イソフラボンがほとんどであったが、本発明の発酵豆乳中のイソフラボン組成は、いずれも、これら糖質型イソフラボンはほとんどなく、β-グルコシダーゼの作用によって、吸収されやすく生理活性の高いアグリコン型イソフラボン(ダイゼイン、グリシテイン、ゲニステイン)に変換されていた。