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明細書 :発酵大豆およびその製法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3809477号 (P3809477)
公開番号 特開2005-065588 (P2005-065588A)
登録日 平成18年6月2日(2006.6.2)
発行日 平成18年8月16日(2006.8.16)
公開日 平成17年3月17日(2005.3.17)
発明の名称または考案の名称 発酵大豆およびその製法
国際特許分類 A23L   1/20        (2006.01)
A23L   1/30        (2006.01)
A61K  36/48        (2006.01)
A61P   7/02        (2006.01)
FI A23L 1/20 E
A23L 1/30 B
A61K 35/78 J
A61P 7/02
請求項の数または発明の数 2
全頁数 10
出願番号 特願2003-299695 (P2003-299695)
出願日 平成15年8月25日(2003.8.25)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 日本応用きのこ学会第7回 講演要旨集A-22
審査請求日 平成15年8月25日(2003.8.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】599125249
【氏名又は名称】学校法人武庫川学院
発明者または考案者 【氏名】松井 徳光
個別代理人の代理人 【識別番号】100079382、【弁理士】、【氏名又は名称】西藤 征彦
審査官 【審査官】中島 庸子
参考文献・文献 特開昭62-014759(JP,A)
特開昭62-145027(JP,A)
国際公開第01/044488(WO,A1)
特開平11-155518(JP,A)
特開平06-181714(JP,A)
特開昭60-188042(JP,A)
調査した分野 A23L 1/20
A23L 1/30
A61K 36/48
A61P 7/02
特許請求の範囲 【請求項1】
エリンギダケおよびマスタケの少なくとも一方に由来するプロテアーゼ活性を有する担子菌により蒸煮大豆を発酵させてなることを特徴とする発酵大豆。
【請求項2】
求項1記載の発酵大豆の製法であって、蒸煮大豆を準備する工程と、この蒸煮大豆にエリンギダケおよびマスタケの少なくとも一方に由来するプロテアーゼ活性を有する担子菌を接種する工程と、担子菌を接種した蒸煮大豆を好気条件下で発酵させる工程とを備えていることを特徴とする発酵大豆の製法
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵大豆およびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物を利用して製造される発酵食品には、多種多様なものがある。とりわけ、納豆は、日本の伝統的な発酵食品であるとともに、最近では、その栄養学的機能の他に生体調節機能に対する評価が高く、重要な食品の一つとなっている。納豆特有の生体調節機能としては、血栓症予防効果が有名である。これは、納豆菌によって生成される強力な血栓溶解酵素(ナットウキナーゼ)の作用により得られる効果である。ところで、通常、納豆は、大豆を蒸煮(水を加えず加圧蒸気により行われる加熱処理)したものに、バチルス・ナットウ(Bacillus natto),バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis) 等の納豆菌を接種し、発酵を促すことにより製造することができる(例えば、特許文献1参照)。

【特許文献1】特開平8-275772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、納豆は、上記のように血栓症予防等に優れるといった利点を有するものの、一般的に、特有の不快臭を有することから、食べ慣れていない人にとっては非常に食べづらいといった難点がある。また、納豆には、特有の粘性(糸引き性)もあり、これも食べづらくしている要因である。これらのことから、納豆のように血栓症予防効果等に優れ、かつ納豆の苦手な人であっても毎日の食生活に容易に取り入れることのできる食品の開発が待望されている。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、血栓症の予防効果を奏する全く新規な発酵大豆およびその製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明は、エリンギダケおよびマスタケの少なくとも一方に由来するプロテアーゼ活性を有する担子菌により蒸煮大豆を発酵させてなる発酵大豆を第1の要旨とする。
【0006】
また、上記発酵大豆の製法であって、蒸煮大豆を準備する工程と、この蒸煮大豆にエリンギダケおよびマスタケの少なくとも一方に由来するプロテアーゼ活性を有する担子菌を接種する工程と、担子菌を接種した蒸煮大豆を好気条件下で発酵させる工程とを備えている発酵大豆の製法を第2の要旨とする。
【0007】
すなわち、本発明者は、前記課題を解決すべく、大豆の発酵に関して各種の実験研究を重ねていた。その過程で、従来の納豆菌に代えて、有用な生理活性物質を産出する担子菌を用いることを想起した。そして、更なる研究の結果、多種の担子菌のうち、エリンギダケおよびマスタケの少なくとも一方に由来するプロテアーゼ活性を有する担子菌が有効であることを見いだしたことから、本発明者は、この特定の担子菌を、蒸煮大豆に接種し、発酵させることを試みた。その結果、その担子菌の生産するプロテアーゼの作用により、大豆タンパク質が加水分解されて、呈味成分の一つであるアミノ酸を遊離し、特有のうま味成分を生ずるとともに、線溶活性(血栓を溶かす作用)等も得られるようになることから、血栓症予防においても有意な効果が得られることを突き止めた。しかも、この発酵により得られた発酵大豆は、これらの有用性を備えつつ、納豆のような臭いや糸引き性を有しないことから、全く新規な発酵食品となり得ることを突き止め、本発明に到達した。
【0008】
また、本発明の発酵大豆は、特定の担子菌によって製造されたものであるため、納豆にはみられない有用生理活性物質を含有したものとなる。すなわち、抗腫瘍性,免疫活性,抗アレルギー性,食物繊維効果を発揮するβ-D-グルカンや、食物繊維効果を発揮するキチン質,ヘテロ多糖〔ペクチン質,ヘミセルロース,活性ヘミセルロース複合体(AHCC,Active hemicellulose complex),ポリウロナイド,リグニン〕等を含有するものとなる。したがって、本発明の発酵大豆は、従来にはない全く新規なものとなり、機能性・健康食品ともなりうる。
【0009】
なお、本発明において、担子菌とは、子実体が「きのこ」といわれているものをいい、微生物分類学上の担子菌類(ハラタケ類,ヒダナシタケ類,腹菌類,キクラゲ類)のほか、子のう菌類の一部をも含む概念で用いている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の発酵大豆は、エリンギダケおよびマスタケの少なくとも一方に由来するプロテアーゼ活性を有する担子菌により発酵させてなるものである。そのため、血栓症予防において特に有意な効果を得ることができる。また、特有のうま味を有するとともに、従来の納豆のような不快な臭いや粘り(糸引き)がなく、納豆の苦手な人であっても無理なく食べることができる。さらに、従来の納豆にはない、抗がん性物質(β-D-グルカン)等も含有するため、機能性・健康食品として用いることもできる。
【0011】
また、本発明の発酵大豆の製法は、上記発酵大豆を効率よく生産することを可能とすると共に、特定の担子菌を用いること以外は従来の納豆の製法とほぼ同じであるため、納豆の工業的生産施設をそのまま利用して生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0013】
本発明の発酵大豆は、蒸煮大豆を、エリンギダケおよびマスタケの少なくとも一方に由来するプロテアーゼ活性を有する担子菌により発酵させてなるものである。
【0014】
上記蒸煮大豆とは、加圧蒸気により加熱処理された大豆をいい、通常、水洗した生大豆を、ゲージ圧98~196kPaに調整した加圧釜にて、110~120℃で150~300秒間の加熱処理することにより得られる。なお、上記大豆としては、本発明では、狭義の大豆、すなわち黄大豆のみならず、黒大豆、枝豆、えんどう豆等の豆類も含むものとする。なかでも、枝豆は、それ自体が線溶酵素(血栓を溶かす作用を有する酵素)を備えていることから、血栓症予防効果を得るのに有用である。
【0015】
上記蒸煮大豆に接種する特定の担子菌としては、エリンギダケ(Pleurotus eryngii,プレロトス エリンギ) およびマスタケ(Laetiporus sulphureus ,ラエチポラス スルフレス)の少なくとも一方に由来するプロテアーゼ活性を有するものが用いられる上記特定の担子菌は、スクリーニング等により、プロテアーゼ活性を有するものを選別し、用いられる。これにより、優れた線溶活性が得られるとともに、血栓を作りにくくする抗トロンビン活性物質も有意に得られ、心筋梗塞や脳血栓等の血栓症の予防において、より優れた効能を発揮することができるなお、上記特定の担子菌に加え、必要に応じ、各地の森林等で採取される、エノキタケ(Flammulina velutipes,フラムリナ ベルチペス)、マイタケ(Grifola frandosa,グリフォラ フランドサ)、タモギタケ(Pleurotus cornucopiae var. citrinopileatus,プレロトス コルヌコピア バル シトリノピレタス)、ホウネンタケ(Roseofomes subflexibilis ,ロゼオフォメス サブフレキシビリス) 、アラゲキクラゲ(Auricularia polytricha,アリキュラリア ポリトリシャ)、カイガラタケ(Lenzites betulina ,レンジテス ベチュリナ)、カワラタケ(Coriolus versicolor ,コリオルス ヴャジカラア)、キチチタケ(Lactarius chrysorrheus,ラクタリアス クリソレウス)、ギベルラキン(Gibellula formosana ,ギベルラ フォルモサナ)、クロアワビタケ(Pleurotus 属)、サンゴハリタケ(Hericium ramosum,ヘリシウム ラモサム)、スエヒロタケ(Schizophyllum commune ,シゾフィラム コムネ)、ツエタケ(Oudemansiella radicata,オウデマンシエラ ラジケータ)、ハナサナギタケ(Isaria japonica ,イサリア ジャポニカ)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus ,プレロトス オストレタス)、ヒマラヤヒラタケ(Pleurotus 属)、ブナシメジ(Hypsizygus marmoreus,ヒプシジガス マルモレス)、フミヅキタケ(Agrocybe praecox,アグロサイブ プレコクス)、マンネンタケ(Ganoderma lucidum ,ガノデルマ ルシダム)、ムラサキシメジ(Lepista nuda,レピスタ ヌダ)、ヤケノシメジ(Lyophyllum anthracophium,ロフィラム アンスラコフィアム)、ヤナギマツタケ(Agrocybe cylindracea,アグロシベ シリンドラセア)およびヤマブシタケ(Hericium erinaceum,ヘリシウム エリナセム)等の担子菌を併用してもよい。
【0016】
ここで、上記特定の担子菌のプロテアーゼ活性は、アルカリ性条件の場合、例えば、つぎのようにして確認することができる。すなわち、まず、上記特定の担子菌を、pH8.5の10mM(mmol/リットル)トリス-HCl緩衝液等に懸濁し、20kHzの超音波破砕器により、8℃未満の条件下で16分間、超音波処理し、続いて、この懸濁液を、10000×gの遠心力で20分間遠心分離し、未破壊の担子菌細胞およびその砕片と分離し、上澄を得、これをプロテアーゼ液とする。つぎに、基質溶液として、Hammerstenカゼイン(DIFCO社製)の1.2%懸濁液等を準備する。そして、上記のようにして得られたプロテアーゼ液と、上記基質溶液とを、適当な緩衝液中で反応させる。反応後、遠心分離し上澄液を得る。その後、この上澄液に、0.55M(mol/リットル)炭酸ナトリウム水溶液と、フェノール試薬とを添加し、35℃で20分間反応させた後、660nmの吸光度値を測定する。この吸光度値が、プロテアーゼ液の代わりに水を用いた場合における660nmの吸光度値よりも増加しておれば、プロテアーゼ活性を有するものであるといえる。
【0017】
また、上記特定の担子菌のプロテアーゼ活性は、酸性条件の場合、例えば、つぎのようにして確認することができる。すなわち、まず、上記特定の担子菌を、pH5.0のMcIlvaine 緩衝液等に懸濁し、20kHzの超音波破砕器により、8℃未満の条件下で16分間、超音波処理し、続いて、この懸濁液を、10000×gの遠心力で20分間遠心分離し、未破壊の担子菌細胞およびその砕片と分離し、上澄を得、これをプロテアーゼ液とする。つぎに、基質溶液として、ヘモグロビン溶液(ナカライテクス社製)の0.6%懸濁液等を準備する。そして、上記のようにして得られたプロテアーゼ液と、上記基質溶液とを、適当な緩衝液中で反応させる。反応後、遠心分離し上澄液を得る。その後、この上澄液の280nmの吸光度値を測定する。この吸光度値が、プロテアーゼ液の代わりに水を用いた場合における280nmの吸光度値よりも増加しておれば、プロテアーゼ活性を有するものであるといえる。
【0018】
なお、先に列挙した担子菌であっても、上記の方法によりプロテアーゼ活性が確認されないものは、本発明において用いることはできない。
【0019】
そして、上記一連の担子菌のなかでも、プロテアーゼ活性が0.01ユニット〔μmol/mg(protein)/min〕以上のものが好適であり、特に1ユニット〔μmol/mg(protein)/min〕以上のものが最適である。すなわち、プロテアーゼ活性が低すぎると、担子菌を多量に使用する等の手段を講じなければならず、食品の製造上好ましいとはいえないからである。なお、上記プロテアーゼ活性は、具体的には、次のようにして算出することができる。すなわち、まず、担子菌を超音波処理,遠心分離処理したのちに得られる上澄液を粗酵素液(プロテアーゼ液)として用い、これと、Hammerstenカゼイン(酸性プロテアーゼの場合)あるいはヘモグロビン(アルカリ性プロテアーゼの場合)といった基質溶液とを反応させ、その後、遠心分離し、上澄液を得る。そして、Hammerstenカゼイン等を用いた場合は、上澄液とフェノール試薬とを反応させ660nmの吸光度値を測定し、ヘモグロビン等を用いた場合は、上澄液そのものの280nmの吸光度値を測定する。また、それぞれの条件においてプロテアーゼ液の代わりに水を用いた場合の吸光度値も測定する。そして、これら各吸光度値を用い、予め下記の方法で作成しておいた各検量線によってチロシン換算値を求め、これと下記に示す数式(1)とによって、プロテアーゼ活性を算出することができる。なお、上記プロテアーゼ活性の1ユニットは、牛の血清アルブミンの結晶(和光純薬社製)をスタンダードとして、使用したプロテアーゼ液中のタンパク質量を算出し、使用したプロテアーゼ液中のタンパク質1mg当たり、1分間で1μmolのL-チロシンの形成を触媒する量として定義したものである。
【0020】
〔検量線の作成〕
まず、L-チロシン(試薬特級)を、イオン交換水と1N水酸化カリウム溶液とを用いて溶解する。ついで、得られた混合溶液を数種類の濃度に希釈し(アルカリ性プロテアーゼの場合は、さらにフェノール試薬等を添加後、35℃で20分間反応させ)、それぞれについて上記プロテアーゼ活性の測定に用いる分光光度計にて吸光度値(アルカリ性プロテアーゼの場合は660nmの吸光度値で、酸性プロテアーゼの場合は280nmの吸光度値)を測定する。そして、この測定値を用い、検量線を作成する。
【0021】
【数1】
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【0022】
本発明の発酵大豆は、例えば、次のようにして得ることができる。すなわち、まず、蒸煮大豆を準備し、これに、特定の担子菌を、従来の納豆菌の製法に準じて接種した後、上記蒸煮大豆を、温度20~30℃、湿度60~70%の好気条件下で10~30日間発酵させる。なお、上記担子菌は、純粋培養したものを液体培養し、菌糸体として生育させたものを用いることが好ましい。また、上記担子菌のプロテアーゼ活性はpHに大きく依存することから、発酵時のpHは、使用する担子菌により最適な条件となるよう適宜調整するのが好ましい(通常、pH=5.0~8.5)。そして、この発酵段階が経過した後、適宜、発酵させた蒸煮大豆を冷蔵し熟成させて、本発明の発酵大豆を製造することができる。
【0023】
このようにして得られた発酵大豆は、アミノ酸を遊離しており、特有のうま味成分を有するとともに、血栓を溶かす作用がある線溶酵素を有し、さらには、血栓を作りにくくする抗トロンビン活性物質を有するものもあることから、心筋梗塞や脳血栓等の血栓症の予防においても有意な効果を奏する。また、上記発酵大豆は、従来の納豆等の大豆食品の風味にはないきのこ風味が付与されたものとなり、嗅覚的にも、担子菌のほのかな味が加わり、全く新規なものとなる。さらに、血栓症予防効果においては納豆と類似しているものの、その味覚や食感は特有で、納豆のような不快臭や糸引き性がない。しかも、担子菌由来の生理活性物質であるβ-D-グルカン等も含有しているため、がん予防効果、広範囲にわたる疫病予防効果、アレルギー予防効果(アトピーに有効)、食物繊維効果等も得られる。また、エルゴステロール(プロビタミンD2 )を含有したものとなったり、抗菌活性(保存性を高める)を発揮するものともなり得る。さらに、血糖降下作用(ガノデラン,ペプチドグルカン等による)、血圧降下作用(糖タンパク質等による)、コレステロール低下作用(エリタデニン等による)といった、生活習慣病の予防につながる作用効果も期待できる。
【0024】
しかも、本発明の発酵大豆は、保存性に非常に優れており、例えば、常温常湿環境下に1年以上放置した場合であっても、腐敗することなく、むしろ、熟成された独特の旨味を呈するようになる。そして、先述のような血栓症の予防効果等が、上記熟成により失活することもない。また、放置により乾燥状態となることがあるが、このような場合であっても、別段固くなり過ぎるといったことが起こらないことから、この放置が食感に悪影響を及ぼすこともない。
【0025】
なお、本発明の発酵大豆には、稀に、その表面に、担子菌による子実体(いわゆる「きのこ」)を形成することがあるが、食用上何ら問題がないことから、この子実体が形成された発酵大豆も、本発明に含まれるものとする。
【0026】
つぎに、実施例について説明する。
【実施例1】
【0027】
〔担子菌(菌糸体)の培養〕
まず、2%の麦芽エキス含有培地(pH5.6、ナカライテクス社製)を準備した。そして、滋賀県の足尾谷で採取したマスタケ(Laetiporus sulphureus MWU-W8)から子実体組織0.15gを採取し、これを、上記培地を用いて組織培養(無菌培養)することにより、担子菌(菌糸体)の培養を行った。詳しくは、まず、上記培地(寒天培地)の入ったシャーレ上に、上記子実体組織を植えつけ、培養した。ついで、別途準備したスラント(上記寒天培地を用いたスラント)上に、培養によって組織から生育した菌糸を移植し、引き続き培養した。その後、培養した菌糸体を少量取り、上記培地(寒天不含の液体培地)200mlの入った500ml三角フラスコ中に接種し、培養した。この液体培地による培養は、回転式シェーカー(回転数:100rpm)により、25℃の好気条件下にて2週間行った。これにより培養された担子菌(菌糸体)を、10000×gの遠心力で10分間、遠心分離を行い、オートクレーブ処理された冷食塩水により2度洗浄することにより純化を行い、目的とする担子菌(菌糸体)を得た。
【0028】
〔発酵大豆の作製〕
大豆(つるのこ大豆,北海道産)20gを水洗し、室温にて一晩浸漬後、水を切り、98kPaの圧力下で30分間オートクレーブ(蒸煮)した。この蒸煮大豆を室温にまで冷ました後、これに、先述のようにして得られた担子菌(菌糸体)1gを接種し、温度25℃±1℃、湿度70%の好気条件下で12日間発酵させ、目的とする発酵大豆を得た。
【実施例2】
【0029】
担子菌として、実施例1の方法に準じ、市販のエリンギダケ(Pleurotus eryngii MWU-C21) から培養した担子菌(菌糸体)を用いた。これ以外は、実施例1と同様にして、発酵大豆を製造した。
【0030】
このようにして得られた実施例の発酵大豆について、下記の基準に従って各特性の評価を行った。これらの結果を、後記の表1に併せて示した。なお、担子菌の接種を行わずに蒸煮処理のみ行った大豆をコントロール(対照例)とし、納豆菌(バチルス・ナットウ)を用いて得られた通常の納豆を従来例とした。これらについても、下記の基準に従って各特性の評価を行った。また、後記の表において、評価を行っていないものについては、欄内に横線を引いた。
【0031】
〔プロテアーゼ活性〕
各発酵大豆に使用する菌糸(担子菌)0.5g(鮮重量)を、pH8.5の10mMトリス-HCl緩衝液0.5mlか、あるいは、pH5.0の10mM McIlvaine緩衝液0.5mlにそれぞれ懸濁し、超音波破砕器〔ブランソン社製(20kHz)〕により、8℃未満の条件下で16分間、超音波処理した。続いて、これらの懸濁液を、10000×gの遠心力で20分間遠心分離し、未破壊の担子菌細胞およびその砕片と分離し、上澄を得、プロテアーゼ液とした。そして、pH8.5の10mMトリス-HCl緩衝液を用いた場合のプロテアーゼ活性は、基質溶液として、Hammerstenカゼイン(DIFCO社製)の1.2%懸濁液を用い、これとプロテアーゼ液とを反応させ、その後、遠心分離し、得られた上澄液に、フェノール試薬と0.55M炭酸ナトリウム水溶液とを添加し、35℃で20分間反応させた後、分光光度計(島津製作所社製の島津紫外可視分光光度計UV-160A)により660nmの吸光度値を測定し、さらに、プロテアーゼ液の代わりに水を用いた場合における660nmの吸光度値も測定し(ブランク)、これら各吸光度値を用い、予め下記の方法で作成しておいた検量線によってチロシン換算値を求め、これと下記に示す数式(1)とによって、プロテアーゼ活性を算出した。一方、pH5.0の10mM McIlvaine緩衝液を用いた場合のプロテアーゼ活性は、基質溶液としてヘモグロビン溶液(ナカライテクス社製)の0.6%懸濁液等を用い、これとプロテアーゼ液とを反応させ、その後、遠心分離し、得られた上澄液の分光光度計により280nmの吸光度値を測定し、さらに、プロテアーゼ液の代わりに水を用いた場合における280nmの吸光度値も測定し(ブランク)、これら各吸光度値を用い、予め下記の方法で作成しておいた検量線によってチロシン換算値を求め、これと下記に示す数式(1)とによって、プロテアーゼ活性を算出した。なお、上記プロテアーゼ活性の1ユニットは、牛の血清アルブミンの結晶(和光純薬社製)をスタンダードとして、使用したプロテアーゼ液中のタンパク質量を算出し、使用したプロテアーゼ液中のタンパク質1mg当たり、1分間で1μmolのL-チロシンの形成を触媒する量として定義したものである。
【0032】
〔検量線の作成〕
まず、L-チロシン(試薬特級)を、イオン交換水と1N水酸化カリウム溶液とを用いて溶解する。ついで、得られた混合溶液を数種類の濃度に希釈し(pH8.5の10mMトリス-HCl緩衝液を用いた場合は、さらにフェノール試薬等を添加後、35℃で20分間反応させ)、それぞれについて上記プロテアーゼ活性の測定に用いる分光光度計にて吸光度値(pH8.5の10mMトリス-HCl緩衝液を用いた場合は660nmの吸光度値。pH5.0の10mM McIlvaine緩衝液を用いた場合は280nmの吸光度値。)を測定する。そして、この測定値を用い、検量線を作成する。
【0033】
【数2】
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【0034】
〔旨味〕
得られた各発酵大豆の旨味を、パネラーの味覚により評価した。すなわち、コントロールである蒸煮大豆を基準とし、旨味が感じられたものを○、コントロールと同じか、あるいは不快な味であったものを×とした。なお、上記評価は、専門パネラー10名による評価の平均をとったものである。
【0035】
〔不快臭の有無〕
得られた各発酵大豆の臭いを、パネラーの臭覚により評価した。すなわち、不快な発酵臭を有するものを「有り」、不快な発酵臭がなかったものを「無し」とした。なお、上記評価は、専門パネラー10名による評価の平均をとったものである。
【0036】
〔糸引き性の有無〕
得られた各発酵大豆の状態(糸の引き具合)を目視により評価した。
【0037】
〔線溶活性〕
発酵大豆1gを水4mlに懸濁させて、超音波破砕器〔ブランソン社製(20kHz)〕により、8℃未満の条件下で3分間、超音波処理した。続いて、この懸濁液を、10000×gの遠心力で10分間遠心分離し、未破壊の担子菌細胞およびその砕片と分離し、上澄を得た。そして、0.4%の牛のフィブリノゲンをトロンビンにより凝固させてなる人工血栓が形成されたフィブリン平板(5671mm2 )を準備し、その表面に、上澄30μlを円形に散布し(散布面積19.6mm2 )、1時間放置後の溶解面積を測定した。
【0038】
〔抗トロンビン活性〕
発酵大豆1gを水4mlに懸濁させて、超音波破砕器〔ブランソン社製(20kHz)〕により、8℃未満の条件下で3分間、超音波処理した。続いて、この懸濁液を、10000×gの遠心力で10分間遠心分離し、未破壊の担子菌細胞およびその砕片と分離し、上澄を得た。そして、上澄50μl、12.5NIHユニット/mlのトロンビン(持田製薬社製のBovineα-thrombin )50μlおよび0.33%の牛のフィブリノゲン200μlを含む反応混合物(37℃)のトロンビン凝固時間(フィブリノゲンからフィブリンに変化し凝固するまでの時間)を、KC1A凝固測定装置(ヘンリッチ・アムラング社製)を用いて測定した。なお、600秒を超えるものは「600*」と示した。
【0039】
〔β-D-グルカンの有無〕
各発酵大豆の懸濁液中にβ-D-グルカンが存在するか否かを確認するために、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてβ-D-グルカンの検出を行った。そして、β-D-グルカンのピークを確認できたものには「有り」、確認できなかったものあるいは若干のピークが確認できたが他の実験〔酵素(β-1,3-グルカナーゼ)処理実験〕によりそのピークがβ-D-グルカンでないことを確認したものには「無し」をつけた。
【0040】
【表1】
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【0041】
1の結果から、プロテアーゼ活性を有する担子菌によって発酵させて製造した本発明の発酵大豆(実施例1~品)は、コントロール(対照例)と比べると、いずれも、旨味が得られているとともに、線溶活性の向上がみられる。しかも、実施例1~品は、コントロールと比べると、抗トロンビン活性の向上も確認できる。これらのことから、本発明の発酵大豆は、血栓症の予防に優れた効果を発揮することがわかる。また、本発明の発酵大豆は、いずれも、従来の納豆にはない生理活性物質であるβ-D-グルカンが含まれていることがわかる。さらに、本発明の発酵大豆は、従来の納豆のように、不快臭や糸引き性がみられず、全く新規な発酵大豆であることがわかる。