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明細書 :コンクリート構造物の中性化深さ予測装置および中性化深さをコンピュータに計算させるためのプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5261740号 (P5261740)
公開番号 特開2011-257212 (P2011-257212A)
登録日 平成25年5月10日(2013.5.10)
発行日 平成25年8月14日(2013.8.14)
公開日 平成23年12月22日(2011.12.22)
発明の名称または考案の名称 コンクリート構造物の中性化深さ予測装置および中性化深さをコンピュータに計算させるためのプログラム
国際特許分類 G01N  17/00        (2006.01)
G01N  33/38        (2006.01)
FI G01N 17/00
G01N 33/38
請求項の数または発明の数 6
全頁数 21
出願番号 特願2010-130758 (P2010-130758)
出願日 平成22年6月8日(2010.6.8)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 (1)平成21年12月10日 「Bayesian Inference for Prediction of Carbonation Depth of Concrete Using MCMC」(「コンクリートの中性化深さのMCMC(マルコフ連鎖モンテカルロ法)を用いた予測のためのベイズ推定」) http://www.akashi.ac.jp/lib/siryou/k52/index.html を通じて発表 (2)平成22年 1月21日 「ベイズ推定法によるコンクリートの中性化予測」 http://w
審査請求日 平成24年3月22日(2012.3.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
発明者または考案者 【氏名】田坂 誠一
個別代理人の代理人 【識別番号】100064746、【弁理士】、【氏名又は名称】深見 久郎
【識別番号】100085132、【弁理士】、【氏名又は名称】森田 俊雄
【識別番号】100083703、【弁理士】、【氏名又は名称】仲村 義平
【識別番号】100096781、【弁理士】、【氏名又は名称】堀井 豊
【識別番号】100109162、【弁理士】、【氏名又は名称】酒井 將行
【識別番号】100111246、【弁理士】、【氏名又は名称】荒川 伸夫
【識別番号】100124523、【弁理士】、【氏名又は名称】佐々木 眞人
審査官 【審査官】大竹 秀紀
参考文献・文献 特開2001-200645(JP,A)
特開2003-004599(JP,A)
特開2004-310381(JP,A)
特開2005-017157(JP,A)
特開2005-049235(JP,A)
S. Tesfamariam(外1名),Bayesian Belief Network to Assess Carbonation-Induced Corresion in Reinforced Concrete,Journal of Materials in Civil Engineering,2008年11月,Vole. 20, No. 11,p. 707-717
B. Sudret,Probabilistic models for the extent of damage in degrading reinforced concrete structures,RELIABILITY ENGINEERING & SYSTEM SAFETY,2008年 3月,vol. 93, No. 3,p. 410-422
調査した分野 G01N 17/00
G01N 33/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
コンクリート構造物の中性化深さを予測するために予め設定された数式モデルのパラメータを推定することにより、前記中性化深さを計算するための中性化深さ予測装置であって、
前記数式モデルにおいて、前記中性化深さは、中性化速度係数と、前記構造物の竣工後から検査までの経過時間と、前記経過時間のべき乗とによって規定されており、
前記数式モデルの誤差は、正規分布に従っており、
前記中性化深さ予測装置は、
構造物の検査によって得られた中性化深さの測定値と、当該検査時における前記構造物の竣工後の経過時間とを格納するための記憶装置と、
前記記憶装置に接続されたプロセッサとを備え、
前記プロセッサは、
推定対象のパラメータの事前分布を設定する処理を実行し、前記推定対象のパラメータは、前記中性化速度係数と、前記べき乗と、前記正規分布の分散(σ)とを含み、
前記プロセッサは、さらに、
前記測定値と、前記正規分布の標準偏差(σ)と、前記推定対象のパラメータとに基づいて尤度関数を設定し、
前記尤度関数に対してベイズの定理を適用することにより、前記推定対象のパラメータの事後分布を導出し、
マルコフ連鎖モンテカルロ法を前記事後分布に適用することにより、マルコフ乱数を生成し、
前記マルコフ乱数を用いて、前記中性化速度係数と、前記べき乗と、前記分散とを算出し、
算出した前記中性化速度係数と、前記べき乗と、前記分散とを、前記数式モデルに適用して、前記構造物の中性化深さを計算する、中性化深さ予測装置。
【請求項2】
前記数式モデルは、式(1)で表され、
C=At+ε ・・・・・・ (1)
ここで、
Cは、前記中性化深さを表しており、
Aは、前記中性化速度係数であり、
tは、前記経過時間であり、
Bは、前記経過時間のべき乗であり、
εは、前記数式モデルの誤差を表す確率変数であり、前記確率変数の平均値は零である、請求項1に記載の中性化深さ予測装置。
【請求項3】
前記数式モデルは、式(2)で表され、
lnC=lnA+Blnt+ε’ ・・・・・・ (2)
ここで、
Cは、前記中性化深さを表しており、
Aは、前記中性化速度係数であり、
tは、前記経過時間であり、
Bは、前記経過時間のべき乗であり、
ε’は、前記数式モデルの誤差を表す確率変数であり、前記確率変数の平均値は零である、請求項1に記載の中性化深さ予測装置。
【請求項4】
コンクリート構造物の中性化深さを予測するために予め設定された数式モデルのパラメータを推定することにより、前記中性化深さをコンピュータに計算させるためのプログラムであって、
前記数式モデルにおいて、前記中性化深さは、中性化速度係数と、前記構造物の竣工後から検査までの経過時間と、前記経過時間のべき乗とによって規定されており、
前記数式モデルの誤差は、正規分布に従っており、
前記プログラムは、前記コンピュータのプロセッサに、
構造物の検査によって得られた中性化深さの測定値と、当該検査時における前記構造物の竣工後の経過時間とをロードするステップと、
推定対象のパラメータの事前分布を設定するステップとを実行させ、前記推定対象のパラメータは、前記中性化速度係数と、前記べき乗と、前記正規分布の分散(σ)とを含み、
前記プログラムは、さらに、前記プロセッサに、
前記測定値と、前記正規分布の標準偏差(σ)と、前記推定対象のパラメータとに基づいて尤度関数を設定するステップと、
前記尤度関数に対してベイズの定理を適用することにより、前記推定対象のパラメータの事後分布を導出するステップと、
マルコフ連鎖モンテカルロ法を前記事後分布に適用することにより、マルコフ乱数を生成するステップと、
前記マルコフ乱数を用いて、前記中性化速度係数と、前記べき乗と、前記分散とを算出するステップと、
算出した前記中性化速度係数と、前記べき乗と、前記分散とを、前記数式モデルに適用して、前記構造物の中性化深さを計算するステップとを実行させる、プログラム。
【請求項5】
前記数式モデルは、式(1)で表され、
C=At+ε ・・・・・・ (1)
ここで、
Cは、前記中性化深さを表しており、
Aは、前記中性化速度係数であり、
tは、前記経過時間であり、
Bは、前記経過時間のべき乗であり、
εは、前記数式モデルの誤差を表す確率変数であり、前記確率変数の平均値は零である、請求項4に記載のプログラム。
【請求項6】
前記数式モデルは、式(2)で表され、
lnC=lnA+Blnt+ε’ ・・・・・・ (2)
ここで、
Cは、前記中性化深さを表しており、
Aは、前記中性化速度係数であり、
tは、前記経過時間であり、
Bは、前記経過時間のべき乗であり、
ε’は、前記数式モデルの誤差を表す確率変数であり、前記確率変数の平均値は零である、請求項4に記載のプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の経年劣化に影響する中性化深さを予測する技術に関する。より特定的には、本発明は、中性化深さを表現する統計的数式モデルのパラメータを、ベイズの定理を適用して推定し、将来の中性化深さを予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、強アルカリ性の建築材料であり、空気中の二酸化炭素との反応により、表面から内部に向けて経年的に中性化(carbonation)が進行し、内部の鉄筋の腐食の原因となる。従来、中性化深さの経年進行の予測は、フィック(Fick)の拡散モデルに基づく√t則(tは経過年)、すなわち中性化深さは√tに比例するという法則を用いて行われてきた。具体的な予測式には下記のようなものがあり、これらを利用した技術が、下記の特許文献に開示されている(特許文献1,2参照)。
C=A√t
C=A√t+B
C=A{√(t+R)-R}
ここで、Cは中性化深さ、Aは中性化速度係数、Bは実験係数、Rは表面仕上げ材の中性化抵抗を表す。
【0003】
中性化の経年進行過程は、コンクリートの物理的性質に加えて構造物の周辺環境にも依存するため、不確定な因子が支配的であるが、従来のような確定的な予測方法では、予測に内在する不確定性を定量的に評価することができない。そこで、たとえば、特許文献3,4および非特許文献1は、ベイズの定理のような確率統計的推定方法を使用する技術を開示している。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2005-49192号公報
【特許文献2】特開2005-49235号公報
【特許文献3】特開2001-200645号公報
【特許文献4】特開2005-17157号公報
【0005】

【非特許文献1】親本俊憲、阿部保彦:日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年、669-670。
【非特許文献2】玉井孝幸他:日本建築学会構造系論文集、第614号、2007年、1-7。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、中性化の過程では、化学反応により水酸化カルシウムが生成されコンクリート組織が緻密化することから、拡散係数が経年変化するようになり、√t則が成り立たず、測定データに十分適合しない場合がある(たとえば、非特許文献2)。
【0007】
また、特許文献3,4および非特許文献1に開示された技術は、いずれも√t則を用いており、また数式モデルの不確定な誤差が考慮されていない。そのため、予測精度やモデルの誤差の定量的評価に限界があった。
【0008】
本発明は、上述のような問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、数式モデルの不確定な誤差を考慮しつつ中性化深さの経年進行を精度良く予測できる中性化深さ予測装置を提供することである。他の目的は、数式モデルの不確定な誤差を考慮しつつ中性化深さをコンピュータに計算させるためのプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施の形態に従うと、コンクリート構造物の中性化深さを予測するために予め設定された数式モデルのパラメータを推定することにより、中性化深さを計算するための中性化深さ予測装置が提供される。数式モデルにおいて、中性化深さは、中性化速度係数と、構造物の竣工後から検査までの経過時間と、経過時間のべき乗とによって規定されている。数式モデルの誤差は、正規分布に従っている。中性化深さ予測装置は、構造物の検査によって得られた中性化深さの測定値と、当該検査時における構造物の竣工後の経過時間とを格納するための記憶装置と、記憶装置に接続されたプロセッサとを備える。プロセッサは、推定対象のパラメータの事前分布を設定する処理を実行し、推定対象のパラメータは、中性化速度係数と、べき乗と、正規分布の分散(σ)とを含む。プロセッサは、さらに、測定値と、正規分布の標準偏差(σ)と、推定対象のパラメータとに基づいて尤度関数を設定し、尤度関数に対してベイズの定理を適用することにより、推定対象のパラメータの事後分布を導出し、マルコフ連鎖モンテカルロ法を事後分布に適用することにより、マルコフ乱数を生成し、マルコフ乱数を用いて、中性化速度係数と、べき乗と、分散とを算出し、算出した中性化速度係数と、べき乗と、分散とを、数式モデルに適用して、構造物の中性化深さを計算する。
【0010】
他の実施の形態に従うと、コンクリート構造物の中性化深さを予測するために予め設定された数式モデルのパラメータを推定することにより、中性化深さをコンピュータに計算させるためのプログラムが提供される。数式モデルにおいて、中性化深さは、中性化速度係数と、構造物の竣工後から検査までの経過時間と、経過時間のべき乗とによって規定されている。数式モデルの誤差は、正規分布に従っている。プログラムは、コンピュータのプロセッサに、構造物の検査によって得られた中性化深さの測定値と、当該検査時における構造物の竣工後の経過時間とをロードするステップと、推定対象のパラメータの事前分布を設定するステップとを実行させる。推定対象のパラメータは、中性化速度係数と、べき乗と、正規分布の分散(σ)とを含む。プログラムは、さらに、プロセッサに、測定値と、正規分布の標準偏差(σ)と、推定対象のパラメータとに基づいて尤度関数を設定するステップと、尤度関数に対してベイズの定理を適用することにより、推定対象のパラメータの事後分布を導出するステップと、マルコフ連鎖モンテカルロ法を事後分布に適用することにより、マルコフ乱数を生成するステップと、マルコフ乱数を用いて、中性化速度係数と、べき乗と、分散とを算出するステップと、算出した中性化速度係数と、べき乗と、分散とを、数式モデルに適用して、構造物の中性化深さを計算するステップとを実行させる。
【0011】
好ましくは、数式モデルは、次式で表される。
C=At+ε
ここで、
Cは、中性化深さを表しており、
Aは、中性化速度係数であり、
tは、経過時間であり、
Bは、経過時間のべき乗であり、
εは、数式モデルの誤差を表す確率変数であり、確率変数の平均値は零である。
【0012】
好ましくは、数式モデルは、次式で表される。
lnC=lnA+Blnt+ε’
ここで、
Cは、中性化深さを表しており、
Aは、中性化速度係数であり、
tは、経過時間であり、
Bは、経過時間のべき乗であり、
ε’は、数式モデルの誤差を表す確率変数であり、確率変数の平均値は零である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、数式モデルの不確定な誤差を考慮しつつ中性化深さの経年進行を精度良く予測することができる。
【0014】
この発明の上記および他の目的、特徴、局面および利点は、添付の図面と関連して理解されるこの発明に関する次の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】中性化深さ予測装置100の構成を概念的に表す図である。
【図2】コンピュータ装置によって実現される中性化深さ予測装置100のハードウェア構成を表すブロック図である。
【図3】中性化深さ予測装置100を実現するコンピュータ装置のCPU210が実行する一連の処理の一部を表すフローチャートである。
【図4】推定対象のパラメータである中性化速度係数Aの乱数履歴を示す図である。
【図5】推定対象のパラメータであるべき乗Bの乱数履歴を示す図である。
【図6】推定対象のパラメータである分散σの乱数履歴を示す図である。
【図7】中性化深さ予測装置100が生成した乱数によりパラメータ(中性化速度係数A)の事後分布を描いた結果を示すグラフである。
【図8】中性化深さ予測装置100が生成した乱数によりパラメータ(べき乗B)の事後分布を描いた結果を示すグラフである。
【図9】中性化深さ予測装置100が生成した乱数によりパラメータ(分散σ)の事後分布を描いた結果を示すグラフである。
【図10】表1のデータに基づき非線形最小自乗法によって求めた中性化深さと経過年数tの関係を表す図である。
【図11】乱数の生成数を10,000とし、初期の1,000を破棄する方法で、式(1)を用いて作成したパラメータ(べき乗B)の乱数履歴を示す図である。
【図12】乱数の生成数を10,000とし、初期の1,000を破棄する方法で、式(9)を用いて作成したパラメータ(べき乗B)の乱数履歴を示す図である。
【図13】15年時点までの中性化深さデータを用いて、各計算法により中性化深さ予測を行った結果を表す図である。
【図14】4.5年時点までの中性化深さデータを用いて、各計算法により中性化深さ予測を行った結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。

【0017】
<第1の実施の形態>
技術思想
まず、図1を参照して、本発明の技術思想の概要について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係るコンクリート構造物の中性化深さ予測装置100の構成を概念的に表す図である。中性化深さ予測装置100は、後述のように、たとえば、周知の構成を有するコンピュータ装置によって実現される。

【0018】
中性化深さ予測装置100が実行する処理ステップは、コンクリート構造物に用いられるコンクリートの中性化深さを予測するための統計的数式モデルを設定するステップ(S1)と、検査によって得られたコンクリートの中性化深さのデータ(構造物データ)をロードするステップ(S2)と、推定対象のパラメータ(中性化速度係数、経過年数のべき乗、および分散)の事前分布と尤度関数を設定してベイズの定理を適用するステップ(S3)と、MCMC法(Markov chain Monte Carlo methods:マルコフ連鎖モンテカルロ法)によって事後分布を数値的に生成するステップ(S4)と、事後分布から当該パラメータを推定するステップ(S5)とを含む。各処理ステップの詳細は、後述する。

【0019】
本実施の形態において、中性化深さ予測装置100は、たとえば、コンクリート構造物のメンテナンスのために非破壊検査に用いられる。構造物とは、たとえば、商業ビル、工場、橋梁、マンションその他のコンクリート構造物であるがこれらに限られない。

【0020】
なお、MCMCについては、たとえば、豊田秀樹編著『マルコフ連鎖モンテカルロ法』(朝倉書店、2008年5月)に詳しい説明がある。この手法によれば、ベイズの定理における基準化定数の計算が不要となる。また、MCMC法は、モンテカルロ法の1つであるので広い範囲の確率分布に適用できる。

【0021】
ハードウェア構成
図2を参照して、中性化深さ予測装置100の具体的構成の一態様について説明する。図2は、コンピュータ装置によって実現される中性化深さ予測装置100のハードウェア構成を表すブロック図である。

【0022】
中性化深さ予測装置100は、主たる構成要素として、プログラムを実行するCPU210と、中性化深さ予測装置100の使用者による指示の入力を受けるマウス220およびキーボード230と、CPU210によるプログラムの実行により生成されたデータ、又はマウス220若しくはキーボード230を介して入力されたデータを揮発的に格納するRAM240と、データを不揮発的に格納するハードディスク250と、光ディスク駆動装置260と、モニタ280と、通信IF(Interface)190とを含む。各構成要素は、相互にデータバスによって接続されている。光ディスク駆動装置260には、CD-ROM262その他の光ディスクが装着される。

【0023】
中性化深さ予測装置100における処理は、各ハードウェアおよびCPU210により実行されるソフトウェアによって実現される。このようなソフトウェアは、ハードディスク250に予め格納されている場合がある。また、ソフトウェアは、CD-ROM262その他の記憶媒体に格納されて、プログラム製品として流通している場合もある。あるいは、ソフトウェアは、いわゆるインターネットに接続されている情報提供事業者によってダウンロード可能なプログラム製品として提供される場合もある。このようなソフトウェアは、光ディスク駆動装置260その他の読取装置によりその記憶媒体から読み取られて、あるいは、通信IF190を介してダウンロードされた後、ハードディスク250に一旦格納される。そのソフトウェアは、CPU210によってハードディスク250から読み出され、RAM240に実行可能なプログラムの形式で格納される。CPU210は、そのプログラムを実行する。

【0024】
図2に示される中性化深さ予測装置100を構成する各構成要素は、一般的なものである。したがって、本発明の本質的な部分は、RAM240、ハードディスク250、CD-ROM262その他の記憶媒体に格納されたソフトウェア、あるいはネットワークを介してダウンロード可能なソフトウェアであるともいえる。なお、中性化深さ予測装置100として機能するコンピュータ装置のハードウェアの動作は周知であるので、詳細な説明は繰り返さない。

【0025】
なお、記録媒体としては、CD-ROM、FD(Flexible Disk)、ハードディスクに限られず、磁気テープ、カセットテープ、光ディスク(MO(Magnetic Optical Disc)/MD(Mini Disc)/DVD(Digital Versatile Disc))、IC(Integrated Circuit)カード(メモリカードを含む)、光カード、マスクROM、EPROM(Electronically Programmable Read-Only Memory)、EEPROM(Electronically Erasable Programmable Read-Only Memory)、フラッシュROMなどの半導体メモリ等の固定的にプログラムを担持する媒体でもよい。

【0026】
ここでいうプログラムとは、CPUにより直接実行可能なプログラムだけでなく、ソースプログラム形式のプログラム、圧縮処理されたプログラム、暗号化されたプログラム等を含む。

【0027】
制御構造
図3を参照して、中性化深さ予測装置100の制御構造について説明する。図3は、中性化深さ予測装置100を実現するコンピュータ装置のCPU210が実行する一連の処理の一部を表すフローチャートである。

【0028】
ステップS310にて、CPU210は、数式モデルを含むデータを、ハードディスク250からRAM240のワーク領域にロードする。ロードされるデータには、メインルーチンのプログラム、当該プログラムの実行中に呼び出されるサブルーチンプログラム等が含まれる。

【0029】
ステップS320にて、CPU210は、ハードディスク250から、構造物データをRAM240のワーク領域にロードする。

【0030】
ステップS330にて、CPU210は、事前分布を算出する。
ステップS340にて、CPU210は、尤度関数を呼び出す。

【0031】
ステップS350にて、CPU210は、事前分布にベイズの定理を適用して事後分布を算出する。

【0032】
ステップS360にて、CPU210は、事後分布にMCMC法を適用して、推定対象の各パラメータ(中性化速度係数A、経過年数のべき乗B、および分散σ)の乱数を生成する。

【0033】
ステップS370にて、CPU210は、生成した乱数を用いて、推定対象の各パラメータ毎に統計量を算出する。

【0034】
ステップS380にて、CPU210は、算出した結果をハードディスク250に保存する。

【0035】
以下、中性化深さ予測装置100の処理について、さらに詳細に説明する。
[統計的数式モデルの設定]
ステップS1(またはステップS310)において、中性化深さ予測装置100は、コンクリートの中性化深さを予測するための統計的数式モデルを式(1)のように設定する。中性化深さの平均値は、中性化速度係数A、経過年数t、及び経過年数のべき乗Bによって推定するものとする。また、中性化深さ予測装置100は、当該統計的数式モデルのモデル化による誤差(平均値からの不確定な変動)を確率変数εとして考慮する。当該不確定な変動は、正負等確率で発生するものとし、平均値が零、標準偏差がσの正規分布に従うものとする。本実施の形態において、推定対象のパラメータは、中性化速度係数A,経過年数のべき乗Bおよび分散σである。

【0036】
C=At+ε ・・・・・・(1)
統計的数式モデルは、実行可能なプログラムに含まれた態様で、中性化深さ予測装置100に保持されている。使用者が、中性化深さを予測する処理の実行命令を、中性化深さ予測装置100に与えると、その命令に応答して、中性化深さ予測装置100は、プログラムをRAM240にロードする。

【0037】
[構造物データのロード]
ステップS2(またはステップS320)において、中性化深さ予測装置100は、構造物データをRAM240のワーク領域にロードする。構造物データとは、対象とするコンクリート構造物から得られる中性化深さの測定値と、中性化深さの測定時における当該構造物の竣工後の年数とをいう。構造物データは、中性化深さ予測装置100による処理の前に、当該構造物の検査担当者等によって取得され、中性化深さ予測装置100が備えるハードディスク250、または、CD-ROM262に格納されている。他の局面において、中性化深さ予測装置100は、プログラムの実行時に、構造物データを他のデータ処理装置から直接受信する構成であってもよい。この場合、中性化深さ予測装置100は、通信I/F290を介して、構造物データを受信する。通信は、有線および無線のいずれであってもよい。

【0038】
中性化深さを測定する方法として、たとえば、コア抜き試験体または「はつり部分」に適用されるフェノールフタレイン法等が考えられるが、この方法に限られず、適正な方法であればよい。中性化深さ予測装置100は、中性化深さデータを、母集団からの互いに独立で同じ分布を持つ確率標本として扱う。ここでは、母集団は正規分布を持つものとする。本手法による計算例を示すため、表1のデータを用いる。このデータは、非特許文献2から引用したものである。

【0039】
【表1】
JP0005261740B2_000002t.gif

【0040】
[ベイズの定理の適用]
ステップS3(またはステップS330~S350)において、中性化深さ予測装置100は、ベイズの定理を用いた処理を実行する。ベイズの定理を用いる処理には、事前分布の設定と、尤度関数の設定と、事後分布の導出とが含まれる。

【0041】
(1)事前分布の設定 (ステップS330)
まず、中性化深さ予測装置100は、事前分布の設定を行なう。事前分布は、推定対象のパラメータに関する事前情報の状況を確率分布で表現したものである。多数の既存データがあり、頻度分布の情報などから事前分布が設定できる場合には、その事前分布を用いればよい。しかし、事前の情報がほとんどない場合には、いわゆる無情報事前分布を採用することもできる。ここでは、一実施形態として、次のような事前分布を設定する。

【0042】
A,B ~ N(0、σ
σ ~ IG(ν、λ
ここで、「A,B ~ N(0、σ)」との表記は、推定対象のパラメータである中性化速度係数Aと、べき乗Bとが、平均値0、分散σの正規分布に従うことを意味する。IG(ν、λ)との表記は、逆ガンマ分布を表す。また、添え字0が付いたパラメータは、事前分布のパラメータである。

【0043】
パラメータに関する事前情報が豊富な場合には、それに基づいて事前パラメータσ,ν,λ等の値を設定すればよい。一方、パラメータに関する事前情報がほとんどない場合には、無情報である状態を近似的に表すために、σには十分大きい値を設定し、ν、λには、十分小さい値を設定することができる。

【0044】
事前分布は、たとえば、中性化深さの予測の対象となるコンクリート構造物自体の検査によって得られたデータから得られる。また、他の局面において、同一の時期に同様の条件で設置されたコンクリート構造物であって、検査対象であるコンクリート構造物と実質的に同等と見なせる構造物の検査によって得られるデータからも、事前分布を導出し得る。

【0045】
(2) 尤度関数の設定 (ステップS340)
構造物データは、正規分布を持つ母集団からの独立で同分布な確率標本としている。そこで、標本数をnとし、尤度関数をp(x|θ)、x=(x,x・・・x)と表わすと、尤度関数p(x|θ)は、次のように設定される。

【0046】
【数1】
JP0005261740B2_000003t.gif

【0047】
ここで、xは、中性化深さのi番目のデータを表す。xは、その平均値を意味する。パラメータθは、推定対象であるパラメータ、すなわち、中性化速度係数A、べき乗Bおよび分散σをまとめて表現した記号である。

【0048】
(3) 事後分布の導出 (ステップS350)
パラメータθに関する事前分布をp(θ)、データxが与えられた時のパラメータθの事後分布をp(θ|x)と表すと、ベイズの定理はつぎのように表現される。

【0049】
p(θ|x)=k・p(x|θ)p(θ) ・・・・・(3)
ここで、kは基準化定数である。p(θ)は上記「事前分布の設定」で説明したように設定される。中性化深さ予測装置100は、式(3)を用いて事前分布に尤度関数を乗じることにより、各パラメータ(中性化速度係数A、べき乗B、分散σ)の事後分布を導出する。

【0050】
[MCMC(マルコフ連鎖モンテカルロ)法の適用]
ステップS4(またはステップS360)において、中性化深さ予測装置100は、MCMC法を用いて各パラメータ(中性化速度係数A、べき乗B、分散σ)の乱数を生成する。MCMC法は、ベイズの定理から得られた事後分布を不変分布とするようなマルコフ乱数列を生成する手法である。MCMC法として、Gibbsサンプラー、メトロポリス法その他の多くのアルゴリズムが知られている。ここでは、中性化深さ予測装置100が式(3)に対してGibbsサンプラーによりマルコフ乱数列を生成するものとして、その生成の方法の概要を説明する。

【0051】
式(3)において、パラメータθを陽に記述すると次式のようになる。
p(A,B,σ|x) ∝ p(x|A,B,σ)p(A,B,σ)・・・(4)
ここで、記号∝は、比例を意味する。式(4)の左辺は、データxが与えられたときの各パラメータ(中性化速度係数A、べき乗B、および分散σ)の同時分布である。これを、各パラメータ毎に他の全てのパラメータ及びデータを条件とする条件付き分布に変換する。たとえば、中性化速度係数Aに対してこの操作を行うと、次のようになる。

【0052】
p(A|B、σ,x)=p(x|A,B,σ)p(A)p(B)p(σ
∝p(x|A,B,σ)p(A) ・・・(5)
ここで、p(A)、p(B)、p(σ)は、それぞれ、A、B、σの事前分布である。

【0053】
同様にして、
p(B|A,σ,x)∝p(x|B,A,σ)p(B) ・・・(6)
p(σ|A,B,x)∝p(x|A,B,σ)p(σ) ・・・(7)
を得る。

【0054】
今、中性化深さ予測装置100は、各パラメータの初期値をA(0)、B(0)、σ(0)として設定する。中性化深さ予測装置100の使用者は、これらの値を適当に定めて、中性化深さ予測装置100に入力する。次に、中性化深さ予測装置100は、これらを式(5)、(6)、(7)に代入し、以下のように事後分布から各パラメータの乱数を順次生成する。

【0055】
すなわち、中性化深さ予測装置100は、p(A|B(0),σ(0),x)からA(1)を導出し、p(B|A(1),σ(0),x)からB(1)を導出し、p(σ|A(1),B(1),x)からσ(1)を生成する。

【0056】
中性化深さ予測装置100は、この手順を繰り返して、中性化速度係数A(i)、べき乗B(i)、分散σ(i)の乱数を生成する。実際に本手法を適用する場合には、中性化深さ予測装置100は、Gibbsサンプラーのアルゴリズムを用いたパッケージソフトWinBUGSを使用する。WinBUGSを使用すると、中性化深さ予測装置100の使用者が計算を実行するためにプログラムを作成する必要がない。WinBUGSの詳細は、たとえば、Ioannis Ntzoufras, "Bayesian Modeling Using WinBUGS",(Wiley, 2009)に記載されている。

【0057】
<乱数履歴の一例>
ここで、図4~図6を参照して、各パラメータの乱数履歴について説明する。図4~図6は、中性化深さ予測装置100が表1のデータに基づいてWinBUGSを適用して求めた推定対象のパラメータである中性化速度係数A、べき乗B、分散σのそれぞれの乱数履歴を示している。中性化深さ予測装置100が計算に用いた条件は、以下のとおりである。
σ=10,000
ν=0.001
λ=0.001
乱数生成数=100,000
初期の破棄乱数の数=10,000
<事後分布の一例>
次に、図7から図9を参照して、事後分布の一例について説明する。図7から図9は、それぞれ、中性化深さ予測装置100が生成した乱数により各パラメータの事後分布を描いた結果を示すグラフである。これらの結果から分かるように、ベイズの推定法では、パラメータの推定に内在する不確定性を確率分布(事後分布)によって定量的に評価できる特徴がある。

【0058】
[パラメータの推定]
図1(または図3)を再び参照して、ステップS5(またはステップS370)において、中性化深さ予測装置100は、MCMC法によって生成した乱数を用いて、代数的な計算によってパラメータ毎に統計量(代表的な例として、平均値、中央値、標準偏差等がある。)を求める。たとえば、中性化深さ予測装置100は、推定対象のパラメータである中性化速度係数Aの平均値E[A]を次のように計算する。

【0059】
【数2】
JP0005261740B2_000004t.gif

【0060】
ここで、Nは生成乱数の総数である。表2は、このような方法で算定した各パラメータの代表的な統計量を表している。この算定例では、ベイズ推定値として事後分布の平均値を用いると、中性化速度係数Aの値は3.96、経過年数のべき乗Bの値は0.33と推定されることがわかる。

【0061】
【表2】
JP0005261740B2_000005t.gif

【0062】
図10は、式(1)の両辺の平均をとって得られる式(8)について、表1のデータに基づき非線形最小自乗法によって求めた経過年数t(横軸)と中性化深さ(縦軸)との関係を表す図である。ある実施の形態において、図10に用いられるデータは、1つの構造物の複数箇所から取得したサンプル試料に基づいている。
E[C]=At ・・・・・・(8)
なお、この場合において、表1の各々の中性化深さのデータは、E[c(t)]に対応するものと解釈している。パラメータ(中性化速度係数Aおよびべき乗B)の計算値は、以下のようになる。
A=3.92、 B=0.335
この結果はベイズの推定値(表2)とほぼ一致する。本実施の形態に係る中性化深さ予測装置100によれば、データの数が少なくても、比較的良好な予測結果が得られる。

【0063】
<第1の実施の形態の効果>
以上のようにして、本実施の形態に係る中性化深さ予測装置100によれば、モデルに含まれるパラメータ、すなわち、中性化速度係数Aと経過年数のべき乗Bとを同時に推定できるので、√t則に従わないデータにも柔軟に対応することができる。

【0064】
また、従来の中性化深さ予測は確定論的な手法が主であり、モデル式やデータの多寡等に依存する予測に内在する不確定性(すなわち、モデルが予測する中性化深さの値はどの程度の確からしさを備えているか)を定量的に考慮することができなかった。これに対して、本実施の形態に係る統計モデルを用いれば、モデルによる予測値と実測値との不確定な誤差(予測誤差)を確率分布(事後分布)の情報に基づいて定量的に評価できる。

【0065】
さらに、ベイズの定理の適用においては、パラメータに関する既存の情報に加えて、構造物の調査から得られる中性化深さデータを新たな情報として用いるため、常に最新の情報に基づいて中性化深さの予測ができる。

【0066】
なお、ベイズの定理を適用する手法によると、予測の不確定性を事後分布の計算により定量的に評価できる。しかしながら、一般に事後分布の計算は容易ではなく、特に推定するパラメータの数が多くなると計算は困難になることが多い。この点、本発明に係る各実施の形態によれば、パラメータの事後分布は、数値シミュレーション手法の一種であるマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)を適用して求められる。したがって、解析的に扱いにくい問題に対してもベイズ推定法の適用が可能となる。

【0067】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態に係る中性化深さ予測装置は、中性化深さを予測する統計的数式モデルとして、自然対数で表された式(9)を用いる点で、第1の実施の形態と異なる。なお、本実施の形態に係る中性化深さ予測装置は、第1の実施の形態に係る中性化深さ予測装置100と同様のハードウェア構成(図2)を用いて実現される。したがって、ハードウェア構成の説明は繰り返さない。

【0068】
lnC=lnA + B lnt + ε’ ・・・・・・(9)
ここで、ε’は平均値が零、標準偏差がσ’の正規分布を持つ確率変数である。

【0069】
式(9)は説明変数(lnt)に関して線形の数式モデルであり、上と同様にベイズの定理を用いて推定が可能である。式(9)のモデルによる誤差の標準偏差は、式(1)のモデルによる誤差の標準偏差よりも非常に小さくなる(σ’<<σ)ことから、結果的にMCMC法による事後分布の推定において生成する乱数の数が少なくて済むという利点がある。【0070】
次に、図1および図2を参照して、本実施形態に係る中性化深さ予測装置100についてさらに説明する。

【0071】
ステップS1にて、本実施の形態に係る中性化深さ予測装置100のCPU210は、コンクリートの中性化深さを予測するための統計的数式モデルを式(9)のように設定する。具体的には、CPU210は、ハードディスク250から、式(9)として規定されたモデルを含むプログラムを、RAM240にロードする。

【0072】
式(9)は、式(1)の本体(誤差項を除いたもの)を対数変換し、数式モデルの誤差ε’について平均値が零、標準偏差がσ’の正規分布を持つとしたものである。推定対象は、パラメータlnAとlnB、および、誤差の分散σ’である。

【0073】
[構造物データ(ステップS2)]
ステップS2にて、CPU210は、構造物データを、ハードディスク250から、RAM240にロードする。

【0074】
式(9)のパラメータを推定するために用いるデータはlnCとlntであるが、これらのデータは、表1のデータを対数変換して与えられる。

【0075】
[ベイズの定理]
ステップS3にて、CPU210は、ベイズの定理を用いた処理を実行する。事前分布では、CPU210は、ln AとBに対して正規分布N(0、σ)、を設定し、σ’については、逆ガンマ分布IG(ν、λ)を設定する。構造物データについても、中性化深さデータln Cが正規分布を持つとして、尤度関数を設定する。ベイズの定理を適用すると、式(3)と同様の事後分布が得られる。

【0076】
[MCMC法の適用]
ステップS4にて、CPU210は、WinBUGSを用いて事後分布から乱数を生成する。式(1)のモデルとの比較のため、図11および図12に、乱数の生成数を10,000とし、初期の1,000を破棄する方法で作成した乱数履歴を示す。式(9)では10,000の乱数で十分な収束が得られているが、式(1)では不十分であることがわかる。

【0077】
[パラメータの推定]
ステップS5にて、CPU210は、パラメータを推定する。表3に、本モデルを用いてベイズ推定を行った結果を示す。Aの統計量は、ln Aが正規分布を持つ条件から算定した。AとBの結果は、式(1)を使用した場合とほとんど同じである。しかし、誤差の分散については、本モデルによる分散が式(1)のモデルによる分散よりもかなり小さい。このため、本実施の形態に係る中性化深さ予測装置によれば、より少ない乱数で効率よく収束を得ることができる。

【0078】
【表3】
JP0005261740B2_000006t.gif

【0079】
<シミュレーション例>
以下、ある特定の経過年数時点(本例では25年)における中性化深さデータが与えられた時、それ以前の経過年数時点における中性化深さデータを用いて将来の中性化深さをいくつかの計算法により予測し、当該特定経過年数時点の中性化深さデータとの適合性の観点から、予測の的確性について比較検討する。

【0080】
1.使用するデータ
本シミュレーションを行なうに当たって用いるデータは、以下のとおりである。

【0081】
(1)全てのデータ
まず、表4に示すように、全てのデータとして、経過年数(t)が2年、4.5年、15年、25年における中性化深さを用いる。

【0082】
【表4】
JP0005261740B2_000007t.gif

【0083】
(2)t=2からt=15までのデータ
次に、表5に示されるように、経過年数が2年から15年の範囲に含まれる中性化深さを用いる。

【0084】
【表5】
JP0005261740B2_000008t.gif

【0085】
(3)t=2からt=4.5までのデータ
さらに、表6に示されるように、経過年数が2年から4.5年の範囲に含まれるデータを用いる。

【0086】
【表6】
JP0005261740B2_000009t.gif

【0087】
2.中性化深さ予測に用いる計算法
以下の方法を用いた。

【0088】
(1)シンプレックス法(C=A×t
(2)シンプレックス法(C=A×t0.5):√t則による予測
(3)ベイズ法(平均)(C=A×t
(4)ベイズ法(平均+標準偏差):予測の上限値
(5)ベイズ法(平均-標準偏差):予測の下限値
ここで、シンプレックス法とは、非線形最小二乗法で用いられる数値計算法の一種である。「ベイズ法(平均)」とは、パラメータ(AとB)のベイズ推定値として平均値を採用した計算法をいう。「ベイズ法(平均+標準偏差)」とは、パラメータ(AとB)のベイズ推定値として平均値+標準偏差を採用した計算法(ベイズ法(平均-標準偏差)も同様)である。なお、ここでは、推定対象のパラメータである中性化速度係数A、および、べき乗Bの不確定性の影響を例示することが目的であるので、モデリング誤差(ε)は、ベイズ推定の過程では考慮しているが、Cの予測値の計算には含まれていない。

【0089】
3.計算によって示されること
(1)25年時点の中性化深さがデータとして与えられている時、15年時点までのデータ(上記の1.使用するデータ(2)を参照)を使用して、各計算法により25年時点(およびそれ以降)の中性化深さの予測値を計算し、計算の結果を比較する。

【0090】
(2)25年時点の中性化深さがデータとして与えられている時、4.5年時点までのデータ(上記の1.使用するデータ(3)を参照)を使用して、各計算法により25年時点(およびそれ以降)の中性化深さの予測値を計算し、計算の結果を比較する。

【0091】
なお、25年時点の中性化深さとして、「1.使用するデータ(1)」のデータを用いるものとする。

【0092】
4.計算結果
(1)図13は、15年時点までの中性化深さデータ(「1.使用するデータ(2)」)を用いて、各計算法により中性化深さ予測を行った結果を表す図である。従来の√t則による方法では、25年時点の中性化深さをやや大きめに評価する傾向が見られる。

【0093】
これに対して、AおよびBを未知パラメータとするシンプレックス法およびベイズ法(平均)は、ほぼ同じ結果を与えている。ベイズ法では、中性化速度係数Aおよび、べき乗Bの確率分布を事後分布として得ることができるため、パラメータに内在する不確定性の予測に対する影響を定量的に評価できる。図13には、試みにAおよびBの平均値から±標準偏差の変動を考慮した予測結果を示している。ただし、モデル化の誤差(ε)による変動は含まれていない。これによれば、ベイズ法による予測は25年時点の中性化深さデータのばらつきを的確に捉えていることがわかる。

【0094】
(2)図14は、4.5年時点までの中性化深さデータ(「1.使用するデータ(3)」)を用いて、各計算法により中性化深さ予測を行った結果を表す図である。従来の√t則による方法では、25年時点の中性化深さを過大評価する傾向が見られる。

【0095】
これに対して、AおよびBを未知パラメータとするシンプレックス法およびベイズ法(平均)は、ほぼ同じ結果を与えており、中性化速度係数A、および、べき乗Bを同時に推定する手法の有効性が確認できる。また、これらの25年時点の予測値は、15年時点までのデータを用いた予測値とあまり変わらないことから、データが適度に存在すれば長期にわたる予測に優れていることも指摘される。

【0096】
一方、中性化速度係数Aおよびべき乗Bの±標準偏差の変動を考慮したベイズ法では、25年経過時点における中性化深さの上限値と下限値はそれぞれ18.1mmと6.17mmとなる。これらの値の幅は、√t則による予測値を包含する程度に広いものの、25年時点の中性化深さは、上限値と下限値の間に含まれており、データのばらつきを適正に反映する結果を与えている。

【0097】
<第2の実施の形態の効果>
本実施の形態に係る中性化深さ予測装置によれば、第1の実施の形態に係る中性化深さ予測装置によって奏せられる効果に加えて、以下の効果が得られる。すなわち、式(9)のモデルによる誤差の標準偏差は、式(1)のモデルによる誤差の標準偏差よりも非常に小さくなる(σ’<<σ)ため、MCMC法による事後分布の推定において生成する乱数の数が少なくなる。したがって、たとえば、中性化深さ予測装置100による計算時間が短くなる。【0098】
<まとめ>
以上詳述した点をまとめると、以下のとおりとなる。

【0099】
まず、中性化深さの予測には、適切な数式モデルとデータの組合せが不可欠である。数式モデルは、現象の不確定性(データのばらつきや将来事象の予測における不確実性)を考慮するため、本発明の各実施の形態では、確率分布を持つ誤差項を導入した統計モデルを考慮している。

【0100】
コンクリートは内部の中性化反応により経年的に組織が緻密化し、圧縮強度も増進することが知られている。このため、従来のフィック(Fick)の法則に基づく拡散モデル(拡散係数が時間に依存しない定数)では、中性化深さ予測に十分な精度が確保できない場合がある。しかしながら、一般に拡散係数あるいは中性化速度係数の時間依存性を予測モデルに反映するのは難しいため、本発明の各実施の形態では、「べき乗」のパラメータを経過時間に導入し、係数の時間依存性を捨象している。

【0101】
数式モデルに含まれるパラメータ(中性化速度係数、べき乗、および、分散)の推定として、本発明の各実施の形態は、ベイズの定理に基づく推定法を採用している。この推定法には、以下のような利点がある。

【0102】
(1)推定に必要な事前分布として、推定対象のパラメータに関する情報がほとんどない場合や、あるいは多くのデータが存在し情報確度が高い場合など、種々の状況に応じて適切な分布を設定できる。

【0103】
(2)対象構造物から得られる中性化深さに関するデータ数がわずかであっても、それに応じた推定が可能である。

【0104】
(3)推定対象のパラメータの確率分布を事後分布として得ることができるので、予測に関する不確実性を定量的かつ詳細に把握できる。

【0105】
(4)新しいデータが得られる毎にベイズの定理を適用して事後分布を更新できるので、常に最新の情報に基づいた中性化深さ予測が可能である。

【0106】
(5)事後分布を計算するため、モンテカルロ法の一種であるマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法が用いられる。MCMC法によると、ベイズの定理における基準化定数の計算が不要となる。また、モンテカルロ法であるので広い範囲の確率分布に適用できる。

【0107】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0108】
100 中性化深さ予測装置、210 CPU、220 マウス、230 キーボード、240 RAM、250 ハードディスク、260 光ディスク駆動装置、262 CD-ROM、280 モニタ、290 通信I/F。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13