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明細書 :筋特異的チロシンキナーゼの活性を制御するポリペプチドをコードするDNA

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5339246号 (P5339246)
登録日 平成25年8月16日(2013.8.16)
発行日 平成25年11月13日(2013.11.13)
発明の名称または考案の名称 筋特異的チロシンキナーゼの活性を制御するポリペプチドをコードするDNA
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
C07K  16/18        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61P  21/00        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 101
C07K 14/47
C07K 16/18
C12Q 1/68 A
A61K 31/7088
A61K 37/02
A61K 39/395 Y
A61P 21/00
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 13
全頁数 30
出願番号 特願2008-520460 (P2008-520460)
出願日 平成19年4月26日(2007.4.26)
国際出願番号 PCT/JP2007/059050
国際公開番号 WO2007/141971
国際公開日 平成19年12月13日(2007.12.13)
優先権出願番号 2006158987
優先日 平成18年6月7日(2006.6.7)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年4月19日(2010.4.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
発明者または考案者 【氏名】山梨 裕司
【氏名】樋口 理
【氏名】岡田 久未子
【氏名】井上 茜
個別代理人の代理人 【識別番号】100106002、【弁理士】、【氏名又は名称】正林 真之
審査官 【審査官】幸田 俊希
参考文献・文献 OKADA,K. et al.,The muscle protein Dok-7 is essential for neuromuscular synaptogenesis.,Science,2006年 6月23日,Vol.312, No.5781,pp.1802-5
BEESON,D. et al.,Dok-7 mutations underlie a neuromuscular junction synaptopathy.,Science,2006年 9月29日,Vol.313, No.5795,pp.1975-8
Mus musculus RIKEN cDNA A930013K19 gene, mRNA (cDNA clone MGC:107606 IMAGE:6759981), complete cds,Database GenBank/DDBJ/EMBL/GeneSeq, Accession No. BC089590,2005年 9月 9日,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/58476251?sat=11&satkey=5744379
調査した分野 C12N 15/09
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号1記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA。
【請求項2】
筋特異的チロシンキナーゼを活性化するポリペプチドをコードする以下の(a)または(b)に記載のDNA。
(a)配列番号1記載のアミノ酸配列において50以下のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(b)配列番号2記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNA
【請求項3】
請求項1または2に記載のDNAを含むベクター。
【請求項4】
請求項3記載のベクターが導入された形質転換体。
【請求項5】
請求項1または2記載のDNAによりコードされるポリペプチド。
【請求項6】
請求項5記載のポリペプチドに結合する抗体又は抗体フラグメント。
【請求項7】
請求項1または2に記載のDNA又は該DNAがコードするポリペプチドを有効成分として含む、神経筋接合部位の異常に由来する疾病の治療または予防のための医薬組成物。
【請求項8】
先天性筋無力症候群の検査方法であって、
被験者の細胞からDNAを抽出する抽出手順と、
抽出された前記DNAを鋳型とし、配列番号2記載の塩基配列からなるDNA又はその発現制御領域のDNAの一部又は全部を特異的に増幅できるプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応を行う増幅手順と、
増幅されたDNAの塩基配列を解読する解読手順と、
解読された前記塩基配列を、配列番号2に記載の塩基配列と比較する比較手順と、
解読された前記塩基配列が配列番号2に記載の塩基配列と相違する場合、前記被験者が先天性筋無力症候群に罹患し得ると判断する手順と、を含む検査方法(ただし、医師による判断工程を含むものは除く)。
【請求項9】
先天性筋無力症候群の検査方法であって、
被験者の細胞における配列番号2記載の塩基配列を有するDNAの発現量を検出する検出手順と、
検出された前記DNAの発現量を、健常者における配列番号2記載のDNAの発現量と比較する比較手順と、
検出された前記DNAの発現量が、健常者におけるDNAの発現量と有意に相違する場合、前記被験者が先天性筋無力症候群に罹患し得ると判断する手順と、を含む検査方法(ただし、医師による判断工程を含むものは除く)。
【請求項10】
配列番号2記載の塩基配列からなるDNA又はその発現制御領域のDNAの一部又は全部を特異的に増幅できるプライマー、又は、請求項6記載の抗体又は抗体フラグメントを有効成分とする先天性筋無力症候群の検査薬。
【請求項11】
神経筋接合部位の異常に由来する疾病の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
請求項5記載のポリペプチドと被検物質とを接触させる手順と、
前記ポリペプチドと前記被検物質との結合を検出する手順と、を含むスクリーニング方法。
【請求項12】
神経筋接合部位の異常に由来する疾病の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
被検物質の存在下及び非存在下において、配列番号1記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたは筋特異的チロシンキナーゼと結合活性を有するその断片と、筋特異的チロシンキナーゼとを接触させる手順と、
前記被検物質の存在下における前記結合活性と、前記被検物質の非存在下における前記結合活性とを比較する手順と、を含むスクリーニング方法。
【請求項13】
神経筋接合部位の異常に由来する疾病の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
配列番号2記載の塩基配列を有するDNAを発現する細胞と被検物質とを接触させる手順と、
前記DNAの発現量の変化を検出する手順と、を含むスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、筋特異的チロシンキナーゼの活性を制御するポリペプチドをコードするDNA、このDNAを含むベクター、このベクターが導入された形質転換体、DNAによりコードされるポリペプチド、このポリペプチドに結合する抗体、DNAが欠損又は変異された非ヒト形質転換動物、DNA及び/又はポリペプチドを含む医薬組成物、神経筋接合部位の異常に由来する疾病(例えば、先天性筋無力症候群)の検査方法及び検査薬、神経筋接合部位の異常に由来する疾病の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
運動神経末端と筋が接合してなる神経筋接合部位(以下、「NMJ」とも称する)は、運動神経による、例えば神経伝達物質アセチルコリンを介した骨格筋の制御に不可欠なシナプスである。骨格筋の制御が適切に行われるためには、神経筋接合部位のシナプス後領域において、アセチルコリン受容体(以下、「AChR」とも称する)が密集してなる高密度部位(以下、「クラスター」とも称する)が形成される必要がある。アセチルコリン受容体の高密度部位が正常に形成されなかった場合、先天性筋無力症候群や重症筋無力症等の神経筋伝達障害が発生することが分かっている(非特許文献1、2参照)。
【0003】
運動神経末端は、筋特異的チロシンキナーゼであるMuSKを活性化するため、糖タンパク質アグリンを分泌することが報告されている(非特許文献3参照)。そして、アグリン依存的に起こるMuSKの活性化が、アセチルコリン受容体の高密度部位を含めたシナプス後構造を形成し、維持するために不可欠であることが報告された(非特許文献4、5参照)。
【0004】
しかし、筋が神経支配を受ける前であっても、AChR高密度部位は、神経及びアグリンに非依存的に、且つ、MuSK依存的に、筋管の終板付近に形成されることが発見された。この発見は、発達の初期段階における筋由来の機構により、AChR高密度部位が形成されることを示唆する(非特許文献6~8参照)。
【0005】
また、アセチルコリンの産生能を失うことによって、AChRの密集に対する神経伝達依存的な阻害作用を排除したマウスにおいては、アグリン非依存的なNMJの形成が発見されている。この発見は、アグリン以外にもMuSKの活性化因子が存在することを示唆する(非特許文献9、10参照)。
【0006】
更に、遺伝学的研究の結果、軸索の適切な成長のみならず、AChR遺伝子の正常な発現、次いで起こるAChRの密集は、MuSK依存的な筋由来の機構により制御されていることも示された(非特許文献7、8参照)。
【0007】
このように、神経筋伝達障害を防止するためにはAChRの密集が不可欠であり、このAChRの密集には、MuSKの活性化が必須であることが分かってきた。

【非特許文献1】A.G.Engel、K.Ohno and S.M.Sine著、「Nature Reviews Neuroscience」、4、339(2003)
【非特許文献2】A.Vincent et al.著、「Annals of the New York Academy of Sciences」、998、324(2003)
【非特許文献3】D.J.Glass et al.著、「Cell」、85、513(1996)
【非特許文献4】S.J.Burden著、「Genes and Development」、12、133(1998)
【非特許文献5】J.R.Sanes and J.W.Lichtman著、「Nature Reviews Neuroscience」、2、791(2001)
【非特許文献6】T.M.DeChiara et al.著、「Cell」、85、501(1996)
【非特許文献7】W.Lin et al.著、「Nature」、410、1057(2001)
【非特許文献8】X.Yang et al.著、「Neuron」、30、399(2001)
【非特許文献9】T.Misgeld et al.著、「Proceedings of the National Academy of Sciences,U.S.A」、102、11088(2005)
【非特許文献10】W.Lin et al.著、「Neuron」、46、569(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、MuSKが活性化する機構は、その大部分が不明である。このため、MuSKが活性化する機構を明らかにし、MuSKの活性を制御できるようになることが強く望まれている。
【0009】
本発明は、MuSKの活性を制御できるポリペプチドをコードするDNA、このDNAを含むベクター、このベクターが導入された形質転換体、DNAによりコードされるポリペプチド、このポリペプチドに結合する抗体、DNAが欠損又は変異された非ヒト形質転換動物、DNA及び/又はポリペプチドを含む医薬組成物、神経筋接合部位の異常に由来する疾病(例えば、先天性筋無力症候群)の検査方法及び検査薬、神経筋接合部位の異常に由来する疾病の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、様々な細胞活動(成長、生存、移動、分化等)を制御するDokファミリータンパク質(細胞内情報伝達タンパク質の一種)に属する新規なポリペプチド(以下、「Dok-7タンパク質」とも称する)を発見した。そして、Dok-7タンパク質が筋組織において高発現し、MuSKの活性化に関与することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、具体的には、以下のようなものを提供する。
【0012】
(1) 筋特異的チロシンキナーゼの活性を制御するポリペプチドをコードする以下の(a)から(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号2記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号2記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)配列番号1記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(d)配列番号2記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNA
【0013】
(2) (1)記載のDNAを含むベクター。
【0014】
(3) (2)記載のベクターが導入された形質転換体。
【0015】
(4) (1)記載のDNAによりコードされるポリペプチド。
【0016】
(5) (3)記載の形質転換体を培養し、この形質転換体又はその培養液から合成されたポリペプチドを回収する手順を含む(4)記載のポリペプチドの製造方法。
【0017】
(6) (4)記載のポリペプチドに結合する抗体又は抗体フラグメント。
【0018】
(7) 配列番号2記載の塩基配列からなるDNA又はその発現制御領域のDNAの少なくとも一部が欠損又は変異された非ヒト形質転換動物。
【0019】
(8) (1)記載のDNA又は(4)記載のポリペプチドを有効成分として含む医薬組成物。
【0020】
(9) 神経筋接合部位の異常に由来する疾病の検査方法であって、
被験者の細胞からDNAを抽出する抽出手順と、
抽出された前記DNAを鋳型とし、配列番号2記載の塩基配列からなるDNA又はその発現制御領域のDNAの一部又は全部を特異的に増幅できるプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応を行う増幅手順と、
増幅されたDNAの塩基配列を解読する解読手順と、
解読された前記塩基配列を、配列番号2に記載の塩基配列と比較する比較手順と、を含む検査方法。
【0021】
(10) 神経筋接合部位の異常に由来する疾病の検査方法であって、
被験者の細胞における配列番号2記載の塩基配列を有するDNAの発現量を検出する検出手順と、
検出された前記DNAの発現量を、健常者における配列番号2記載のDNAの発現量と比較する比較手順と、を含む検査方法。
【0022】
(11) 配列番号2記載の塩基配列からなるDNA又はその発現制御領域のDNAの一部又は全部を特異的に増幅できるプライマー、又は、(6)記載の抗体又は抗体フラグメントを有効成分とする神経筋接合部位の異常に由来する疾病の検査薬。
【0023】
(12) 神経筋接合部位の異常に由来する疾病の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
前記ポリペプチドと被検物質とを接触させる手順と、
前記ポリペプチドと前記被検物質との結合を検出する手順と、を含むスクリーニング方法。
【0024】
(13) 神経筋接合部位の異常に由来する疾病の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
被検物質の存在下及び非存在下において、配列番号1記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド又は筋特異的チロシンキナーゼと結合活性を有するその断片と、筋特異的チロシンキナーゼとを接触させる手順と、
前記被検物質の存在下における前記結合活性と、前記被検物質の非存在下における前記結合活性とを比較する手順と、を含むスクリーニング方法。
【0025】
(14) 神経筋接合部位の異常に由来する疾病の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
配列番号2記載の塩基配列を有するDNAを発現する細胞と被検物質とを接触させる手順と、
前記DNAの発現量の変化を検出する手順と、を含むスクリーニング方法。
【0026】
(15) 神経筋接合部位の異常に由来する疾病の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
請求項7記載の非ヒト形質転換動物に被検物質を投与する手順と、
前記非ヒト形質転換動物における神経筋接合部位の異常の改善を検出する手順と、を含むスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るDNA等によれば、MuSKの活性を制御できる。このため、これらのDNA等によれば、神経筋伝達障害を防止し得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のDNAの各器官における転写量を示す図である。
【図2】本発明のポリペプチドの各器官における発現量を示す図である。
【図3】本発明のポリペプチドの局在性を示す図である。
【図4】本発明のポリペプチドと筋特異的チロシンキナーゼとの相互作用を示す図である。
【図5】本発明のポリペプチドと筋特異的チロシンキナーゼとの相互作用を示す図である。
【図6】本発明のポリペプチドと筋特異的チロシンキナーゼとの相互作用を示す図である。
【図7】本発明のDNAの導入量と、アセチルコリン受容体の密集化との関係を示す図である。
【図8】本発明のポリペプチドとアセチルコリン受容体との共密集化を示す図である。
【図9】本発明のDNAの発現とアセチルコリン受容体の密集化との関係を示す図である。
【図10】本発明のDNAの強制発現により誘導されたアセチルコリン受容体の密集化の状態を示す図である。
【図11】本発明の遺伝子のmRNAの局在性を示す図である。
【図12】本発明のポリペプチドと筋特異的チロシンキナーゼとの相互作用を示す図である。
【図13】本発明のポリペプチドと筋特異的チロシンキナーゼとの相互作用を示す図である。
【図14】本発明のポリペプチドと筋特異的チロシンキナーゼとの相互作用を示す図である。
【図15】本発明のポリペプチドと筋特異的チロシンキナーゼとの相互作用を示す図である。
【図16】本発明のDNAの強制発現により誘導されたアセチルコリン受容体の密集化の状態を示す図である。
【図17】本発明のDNAの発現抑制により変化された筋特異的チロシンキナーゼ及びその基質のリン酸化を示す図である。
【図18】本発明のDNAの発現抑制により変化されたアセチルコリン受容体の密集化の状態を示す図である。
【図19】本発明のポリペプチド、及び、筋特異的チロシンキナーゼの、リン酸化の経時的変化を示す図である。
【図20】本発明の遺伝子のマップである。
【図21】本発明のDNAのノックアウトの存否を示す図である。
【図22】本発明のポリペプチドの存否を示す図である。
【図23】本発明のDNAのノックアウトにより変化された肺の状態を示す図である。
【図24】本発明のDNAのノックアウトにより変化されたアセチルコリン受容体の密集化の状態を示す図である。
【図25】本発明のポリペプチドと筋特異的チロシンキナーゼとの相互作用を示す図である。
【図26】本発明のポリペプチド及びその相同タンパク質のN末端領域を示す図である。

【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0030】
<DNA>
本発明における「DNA」は、センス鎖又はアンチセンス鎖(例えば、プローブとして使用できる)のいずれでもよく、その形状は一本鎖と二本鎖のいずれでもよい。また、ゲノムDNAであっても、cDNAであっても、合成されたDNAであってもよい。
【0031】
本発明のDNAの最も好ましい態様は、配列番号2記載の塩基配列を有するDNAであるが、本発明のDNAには、更に、筋特異的チロシンキナーゼの活性を制御する種々の変異体やホモログが含まれる。ここで「筋特異的チロシンキナーゼの活性の制御」には、筋特異的チロシンキナーゼの活性を向上すること(つまり、活性化)、及び抑制することが含まれる。「筋特異的チロシンキナーゼの活性化」とは、筋特異的チロシンキナーゼ分子内のチロシンがリン酸化される、及び/又は、AChRの密集を促すことができることを指す。
【0032】
配列番号2記載の塩基配列を有するDNAの変異体やホモログには、例えば、配列番号2記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNAが含まれる。ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えば、通常のハイブリダイゼーション緩衝液中、40~70℃(好ましくは、60~65℃)で反応を行い、塩濃度15~300mM(好ましくは、15~60mM)の洗浄液中で洗浄を行う条件が挙げられる。
【0033】
また、配列番号1記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAも含まれる。ここで「1もしくは複数」とは、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、更に好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、1アミノ酸)である。筋特異的チロシンキナーゼを活性化する能力を維持する場合、変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。
【0034】
あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有する蛋白質がその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662-5666、Zoller,M.J.& Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487-6500、Wang,A.et al.,Science 224,1431-1433、Dalbadie-McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409-6413)。
【0035】
配列番号1記載の1~230番のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し(ただし、配列番号1記載の1~60番のアミノ酸配列を有する)、且つ、筋特異的チロシンキナーゼの活性を制御するポリペプチドをコードするDNAは、本発明のDNAの好ましい態様の一つである。
【0036】
更に、配列番号2記載の塩基配列を有するDNAの変異体やホモログには、配列番号2記載の塩基配列と高い相同性を有する塩基配列からなるDNAが含まれる。このようなDNAは、好ましくは、配列表の配列番号2記載の塩基配列と90%以上、更に好ましくは95%以上(96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の相同性を有する。アミノ酸配列や塩基配列の相同性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877,1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.J.Mol.Biol. 215:403-410,1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメータを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0037】
本発明のDNAを取得する方法としては、特に限定されないが、mRNAから逆転写することでcDNAを得る方法(例えば、RT-PCR法)、ゲノムDNAから調整する方法、化学合成により合成する方法、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーから単離する方法等の公知の方法(例えば、特開平11-29599号公報参照)が挙げられる。
【0038】
<ベクター>
本発明のベクターは、適当なベクターに上述のDNAを挿入することにより、作製できる。
【0039】
「適当なベクター」とは、原核生物及び/又は真核生物の各種の宿主内で複製保持又は自己増殖できるものであればよく、使用の目的に応じて適宜選択できるものである。例えば、DNAを大量に取得したい場合には高コピーベクターを選択でき、ポリペプチドを取得したい場合には発現ベクターを選択できる。その具体例としては、特に限定されず、例えば、特開平11-29599号公報に記載された公知のベクターが挙げられる。
【0040】
<形質転換体>
本発明の形質転換体は、前述のDNAを含むベクターを宿主に導入することにより、作製できる。
【0041】
このような宿主は、本発明のベクターに適合し形質転換され得るものであればよく、その具体例としては、特に限定されないが、細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞等の、公知の天然細胞もしくは人工的に樹立された細胞(特開平11-29599号公報参照)が挙げられる。
【0042】
ベクターの導入方法は、ベクターや宿主の種類等に応じて適宜選択できるものである。その具体例としては、特に限定されないが、プロトプラスト法、コンピテント法等の公知の方法(例えば、特開平11-29599号公報参照)が挙げられる。
【0043】
<ポリペプチド>
本発明のポリペプチドは、例えば、前述のDNAを含む発現ベクターが導入された形質転換体を使用することで、作製できる。即ち、まず、この形質転換体を適宜の条件で培養し、このDNAがコードするタンパク質(ポリペプチド)を合成させる。そして、合成されたタンパク質を形質転換体又は培養液から回収することにより、本発明のポリペプチドを得ることができる。
【0044】
形質転換体の培養は、ポリペプチドが大量に且つ容易に取得できるように、形質転換体の種類等に応じて、公知の栄養培地から適宜選択し、温度、栄養培地のpH、培養時間等を適宜調整して行うことができる(例えば、特開平11-29599号公報参照)。
【0045】
ポリペプチドの単離方法及び精製方法としては、特に限定されず、溶解度を利用する方法、分子量の差を利用する方法、荷電を利用する方法等の公知の方法(例えば、特開平11-29599号公報参照)が挙げられる。
【0046】
<抗体、抗体フラグメント>
本発明の抗体又は抗体フラグメントは、上述した本発明のポリペプチドに結合する。
【0047】
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよい。また、抗体には、ウサギ等の免疫動物に本発明のポリペプチドを免疫して得られる抗血清、全クラスのポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体、ヒト抗体や遺伝子組換えによるヒト型化抗体、種々の修飾が施された抗体が含まれる。
【0048】
なお、本発明の抗体の作成方法としては、例えば、従来公知のハイブリドーマ法が挙げられる(Kohler and Milstein, Nature 256: 495 (1975))。
【0049】
また、本発明の抗体フラグメントとしては、Fab、F(ab’)2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェーンFv(scFv)(Huston, J. S. et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988)85,5879-5883)が挙げられる。
【0050】
<医薬組成物>
本発明の医薬組成物は、前述のDNA及び/又はポリペプチドを有効成分として含有させることで、作製できる。
【0051】
この医薬組成物によれば、DNA及び/又はポリペプチドを有効成分として含むので、MuSKを活性化させ、AChR高密度部位の形成を促進できる。このため、この医薬組成物は、神経筋接合部位の異常に由来する疾病(例えば先天性筋無力症候群)の治療薬もしくは予防薬として使用し得る(後述する実施例参照)。
【0052】
本発明の医薬組成物は、経口あるいは非経口(例えば、注射による筋肉への直接投与)で投与できる。投与量は、患者の年齢、性別、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるため、適宜選択すべきものである。
【0053】
「有効成分として含む」とは、神経筋伝達障害の治療用医薬品もしくは予防用医薬品として有効である程度に含むという意味であって、他の任意成分を含むことを除外するものではない。
【0054】
他の任意成分としては、特に限定されないが、賦形剤、希釈剤、増粘剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝材、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘調剤、溶解補助剤等の担体等が挙げられる。これらの任意成分によれば、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、注射剤、液剤、カプセル剤、トロー剤、エリキシル剤等の様々な形態の医薬組成物を容易に調整できる。
【0055】
<形質転換動物>
本発明のDNAを非ヒト動物に導入、変異、又はノックアウトすることにより、非ヒト形質転換動物を作製できる。
この非ヒト形質転換動物によれば、本発明のDNAが導入、変異、又はノックアウトされているから、この動物体内における遺伝子発現の態様が変化する。このため、この形質転換動物は、本発明のDNAの動物体内における機能の解析手段や、この機能を調節する物質のスクリーニング系等として用いることができる。
【0056】
非ヒト動物としては、特に限定されないが、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ等が挙げられる。
【0057】
非ヒト形質転換動物の作製方法は、例えば、次の通りである。まず、本発明のDNA、DNAの変異、又はDNAと相同組換えされるDNAを非ヒト哺乳動物の受精卵に導入する。そして、この受精卵を雌個体子宮に移植して発生させることにより、本発明のDNAが形質転換された非ヒト形質転換動物を作製できる。
【0058】
非ヒト形質転換動物の作製は、より具体的には、例えば、次のように行うことができる。
即ち、まず、ホルモン投与により過剰排卵させた後の雌個体を、雄と交配する。次いで、交配後1日目の雌個体の卵管から受精卵を摘出し、本発明のDNA、DNAの変異、又はDNAと相同組換えされるDNAを含むベクターを、この受精卵にマイクロインジェクション等の方法により導入する。そして、導入後の受精卵を適当な方法で培養した後、生存している受精卵を、偽妊娠させた雌個体(仮親)の子宮に移植し、新生仔を出産させる。この新生仔においてDNAが形質転換されているか否かは、この新生仔の細胞から抽出したDNAについて、サザン解析により確認できる。
【0059】
その他、胚性幹細胞(ES細胞)株において遺伝子導入及び選別を行った後、生殖系列に寄与したキメラ動物を作製し、交配することによって、非ヒト形質転換動物を作製してもよい。
【0060】
<検査方法、検査薬>
本発明のDNAは、神経筋接合部位の異常に由来する疾病(例えば、先天性筋無力症候群)に罹患しているか否かについての検査に利用できる。
即ち、神経筋接合部位の異常に由来する疾病(例えば、先天性筋無力症候群)の検査方法は、被験者の細胞からDNAを抽出する抽出手順と、;抽出されたDNAを鋳型とし、配列番号2記載の塩基配列からなるDNA又はその発現制御領域のDNAの一部又は全部を特異的に増幅できるプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応を行う増幅手順と、;増幅されたDNAの塩基配列を解読する解読手順と、;解読された塩基配列を、配列番号2記載の塩基配列と比較する比較手順と;を含む。
【0061】
この検査方法によれば、先天性筋無力症候群の被疑者の有するDok-7遺伝子のDNA塩基配列を、正常者の有するDok-7遺伝子のDNA塩基配列(配列番号2記載)と比較する。この比較の結果、被疑者の有するDok-7遺伝子のDNA塩基配列が、正常者の有するDok-7遺伝子のDNA塩基配列(配列番号2記載)と相違する場合、被疑者が神経筋接合部位の異常に由来する疾病(例えば、先天性筋無力症候群)に罹患しているものと判断し得る。
【0062】
また、本発明の検査方法は、例えば、増幅手順において増幅されたDNAを、筋管(例えば、野生型筋管、MuSK欠損筋管)等に導入し、筋特異的チロシンキナーゼが活性化されるか否かを判断する判断手順を更に備えてもよい。これにより、増幅されたDNAの塩基配列と配列番号2記載の塩基配列との差異が単なる多型である場合等を排除できるので、検査精度が向上する。
【0063】
なお、この検査方法において、Dok-7遺伝子の他、先天性筋無力症候群に関与することが既に知られている遺伝子(コリンアセチルトランスフェラーゼ、AChRs、アセチルコリンエステラーゼ、Rapsyn、MuSK等)についても、併せて塩基配列を比較してもよい。これにより、先天性筋無力症候群の診断の精度が、より高まる(例えば、A.G.Engel and S.M.Sine著、「Current Opinion Pharmacology」、5、308(2005)参照)。
【0064】
別の検査方法は、被験者の細胞における配列番号2記載の塩基配列を有するDNAの発現量を検出する検出手順と、;検出されたDNAの発現量を、健常者における配列番号2記載のDNAの発現量と比較する比較手順と、を含む。
【0065】
ここで「DNAの発現」には、転写レベル(mRNAの発現)及び翻訳レベル(タンパク質の発現)が含まれる。
【0066】
この検査方法によれば、被験者及び健常者の間で、配列番号2記載の塩基配列を有するDNAの発現量を比較する。この比較の結果、被験者におけるDNAの発現量が、健常者におけるDNAの発現量と有意に相違する場合、被疑者が神経筋接合部位の異常に由来する疾病(例えば、先天性筋無力症候群)に罹患しているものと判断し得る。
【0067】
また、神経筋接合部位の異常に由来する疾病(例えば、先天性筋無力症候群)の検査薬は、配列番号2記載の塩基配列の一部又は全部を有するDNAを特異的に増幅できるプライマー、又は、上述した抗体又は抗体フラグメントを有効成分として含有する。
【0068】
<治療薬の候補化合物のスクリーニング方法>
本発明のポリペプチドは、神経筋接合部位の異常に由来する疾病(例えば、先天性筋無力症候群)の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法に利用できる。
即ち、スクリーニング方法は、上述したポリペプチドと被検物質とを接触させる手順と、ポリペプチドと被検物質との結合を検出する手順と、を含む。
【0069】
このスクリーニング方法によれば、ポリペプチドとの結合が検出された被検物質を、治療薬の候補化合物として特定できる。
【0070】
また、別のスクリーニング方法は、上述した被検物質の存在下及び非存在下において、配列番号1記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド又は筋特異的チロシンキナーゼと結合活性を有するその断片と、筋特異的チロシンキナーゼとを接触させる手順と;被検物質の存在下における結合活性と、被検物質の非存在下における結合活性とを比較する手順と;を含む。
【0071】
このスクリーニング方法によれば、被検物質の存在下における結合物質の結合活性が、被検物質の非存在下における結合物質の結合活性と異なることが検出された被検物質を、治療薬の候補化合物として特定できる。
【0072】
また、別のスクリーニング方法は、配列番号2記載の塩基配列を有するDNAを発現する細胞と被検物質とを接触させる手順と、;DNAの発現量の変化を検出する手順と、を含む。
【0073】
ここで「DNAの発現」には、転写レベル(mRNAの発現)及び翻訳レベル(タンパク質の発現)が含まれる。
【0074】
このスクリーニング方法によれば、細胞内のDNA発現量の変化が検出された被検物質を、治療薬の候補化合物として特定できる。
【0075】
また、別のスクリーニング方法は、上述した非ヒト形質転換動物に被検物質を投与する手順と、;非ヒト形質転換動物における神経筋接合部位の異常の改善を検出する手順と、を含む。
【0076】
このスクリーニング方法によれば、非ヒト形質転換動物における神経筋接合部位の異常の改善が検出された被検物質を、治療薬の候補化合物として特定できる。
【0077】
以上のスクリーニング方法に用いられるスクリーニング用キットは、本発明のポリペプチドを備える。また、本発明は、以上のスクリーニング方法によって特定された治療薬の候補化合物も包含する。
【0078】
<その他>
[記録媒体]
前述したDNAの塩基配列、及び、ポリペプチドのアミノ酸配列は、コンピュータ読み取り可能記録媒体に保存されてよい。この記録媒体によれば、保存されている本発明のポリペプチドのアミノ酸配列、及び、DNAの塩基配列を、コンピュータを用いてデータベース化することができる。このため、このアミノ酸配列や塩基配列を配列情報としても活用できる。
【0079】
記録媒体としては、コンピュータ読み取り可能であれば、特に限定されず、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ等の磁気媒体、CD-ROM、MO、CD-R、CD-RW、DVD-R、DVD-RAM等の光ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。
【0080】
[網羅的解析用ツール]
本発明のDNA及びポリペプチド、並びに、これらの部分断片は、基盤上に、担体として結合させた状態で、使用することもできる。本発明のポリペプチドやDNA以外に、更に、他のポリペプチドやDNAを結合させた基盤は、本発明のポリペプチドやDNAを含めた網羅的な解析に使用できる。
【0081】
基盤としては、特に限定されないが、ナイロン膜、ポリプロピレン膜等の樹脂基板、ニトロセルロース膜、ガラスプレート、シリコンプレート等が挙げられる。また、ハイブリダイゼーションの検出を、例えば蛍光物質といった非放射性同位体物質を用いて行う場合、基盤として、蛍光物質を含まないガラスプレート、シリコンプレート等を好ましく使用できる。
なお、ポリペプチドやDNAの基板上への結合は、公知の方法で行うことができる。
【実施例】
【0082】
<実施例1> cDNAの作製
まず、Dokファミリー分子において、高度に保存されているPTBドメインのアミノ酸配列(約100アミノ酸程度から構成される)を既知のデータベース(例えば、NCBIのBLASTSearch)に入力し、高い相同性を示すクローンを探索した。この探索の結果得られたクローンの配列情報中の、翻訳開始コドン及び翻訳終止コドンの位置情報を基に、Dok-7のORF(タンパク質をコードする塩基配列領域)を推測した。そして、ORFの塩基配列情報を基に、以下に示すオリゴプライマーを設計し、常法に従いPCR法により、ヒトDok-7のORF領域に相当するcDNAを単離した。単離された全長cDNAの塩基配列は、公知の方法により解読したところ、配列表の配列番号2記載の塩基配列であった。
5’-atgaccgaggcggcgctggtgg-3’
5’-tcaaggaggggggtttaccttg-3’
【0083】
<実施例2> cDNA挿入ベクターの作製
得られたcDNAを、哺乳動物細胞用発現ベクターである「pcDNA3.1(商品名)」(クロンテック社製)、「pcDNA3.1-myc/His(商品名)」(クロンテック社製)、「pEGFP-N3 plasmid」(クロンテック社製)、及び、大腸菌細胞用発現ベクターである「pGEX-4T-2」(アマシャムファルマシア社製)に、配列番号1記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを作成できる読み枠で挿入した。
【0084】
この挿入は、挿入されるベクターのマルチクローニングサイト内の制限酵素部位にあわせて制限部位を付加して設計されたプライマーを用いたPCR手順と、PCR後の増幅産物及びベクターを制限酵素処理する手順と、制限酵素処理された増幅産物及びベクターをリガーゼ処理する手順と、リガーゼ処理後のベクターを大腸菌に形質転換する手順と、形質転換された前記大腸菌を所定期間培養し、培養後の前記大腸菌からベクターを精製する手順と、からなる周知の方法により行った。
【0085】
「pcDNA3.1-myc/His」によれば、ポリペプチドは、そのN末端にポリヒスチジンタグが融合され、そのC末端に、FLAGタグ及びmycタグが融合された形で合成される。また、「pEGFP-N3 plasmid」によれば、ポリペプチドは、そのC末端に、緑色蛍光タンパク質(EGFP)が融合された形で合成される。また、「pGEX-4T-2」(アマシャムファルマシア社製)によれば、ポリペプチドは、そのN末端にグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(以下、「GST」とも称する)タグが融合された形で合成される。これらのタグやエピトープは、合成後の用途に応じ、例えば酵素処理することで、適宜除去すればよい。
【0086】
<実施例3> 形質転換体の作製
次のような手順で形質転換C2筋原細胞株を作製した。即ち、まず、ATCC(American Type Culture Collection)から入手したC2筋原細胞株(C2C12)を、20vol%仔牛血清(FBS)を添加したダルベッコ改良イーグル(DME)培地中で培養した。次いで、適宜の細胞数まで培養したC2筋原細胞株に、「Lipofectamine2000」(インビトロジェン社製)を用いて、前述した本発明のDNAを含む「pcDNA3.1-myc/His」を導入することにより、形質転換体を作製した。
【0087】
また、次のような手順で形質転換293T細胞株を作製した。即ち、まず、ヒト培養細胞(非筋肉細胞)である293T細胞株を、10vol%FBSを添加したDME培地中で培養した。次いで、適宜の細胞数まで培養した293T細胞株に、「Lipofectamine2000」(インビトロジェン社製)を用いて、上述したDNAを含む「pcDNA3.1-myc/His」を導入することにより、形質転換体を作製した。
【0088】
また、次のような手順で形質転換大腸菌を作製した。即ち、まず、LB培地内で、適宜の菌体濃度になるまで培養した大腸菌に、周知のヒートショック法により、上述したDNAを含む「pGEX-4T-2」を導入し、形質転換体を作製した。
【0089】
<実施例4> ポリペプチドの作製
次のような手順で、本発明のポリペプチドを作製した。即ち、まず、上述した形質転換大腸菌を、LB培地内で適宜の菌体濃度になるまで培養し、培養後の菌体を遠心分離により集めた。次に、集めた菌体を、50mMリン酸緩衝液(pH8.0)に懸濁した後、超音波により細胞壁を破砕した。次に、破砕物を遠心分離し、目的のタンパク質を含有する膜画分を得た。そして、この膜画分を界面活性剤「トリトンX-100」を用いて可溶化して得た粗溶液から、常法に従いグルタチオンセファロース(アマシャムファルマシア社)を用いて、目的のタンパク質を単離、精製した。
【0090】
<実施例5> 抗体の作製
上述の方法により作製された、ヒトDok-7ポリペプチド断片(配列表の配列番号1記載の214番~291番のアミノ酸配列を含む)とグルタチオンSトランスフェラーゼとの融合タンパク質を、抗原として、ウサギ及びラットの各々に注射投与することで、抗Dok-7抗血清を得た。この抗血清は、ウェスタン解析の結果から、ヒト、マウス、ラット由来Dok-7タンパク質を認識したが、トラフグ由来Dok-7タンパク質は認識しないことが分かった(図示はしていない)。
【0091】
<実施例6> Dok-7遺伝子の解析
(A)Dok-7遺伝子のmRNA局在性について
Dok-7遺伝子のmRNAの概略的局在性を解析するため、ヒトの脳、心臓、骨格筋、大腸、胸腺、脾臓、腎臓、肝臓、小腸、胎盤、肺、末梢白血球(この順に、図1中の1~12に各々対応する)の各々から抽出したRNAブロット(「ヒトマルチティッシュブロット」(クロンテック社製)を使用した)を被検体として、常法に従いノーザン解析を行った。この結果を図1に示す。
【0092】
図1に示されるように、ヒトDok-7遺伝子の転写活性は、心臓及び骨格筋においてのみ検出された。なお、図1下側は、β-アクチンの解析結果(対照区)を示す。
【0093】
(B)Dok-7タンパク質の局在性について
Dok-7タンパク質の概略的局在性を解析するため、マウスの心筋(CM)、大腿筋(TM)、肝臓(Lv)、脾臓(Sp)、横隔膜筋(DM)の各々から抽出したタンパク質を被検体として、常法に従いウェスタン解析を行った。なお、ウェスタン解析に使用した抗体は、抗Dok-7抗血清、及び、抗β-アクチン抗体「I-19」(サンタクルス社製)であった。この結果を図2に示す。
【0094】
図2に示されるように、マウスDok-7タンパク質は、心筋と、骨格筋(大腿筋及び横隔膜筋)とにおいてのみ検出された。なお、図2下側は、β-アクチンの解析結果(対照区)を示す。
【0095】
次に、Dok-7タンパク質の細胞レベルでの局在性を解析するため、常法に従い、坐骨神経切除の前後におけるマウス腓腹筋の、筋神経筋接合部位のシナプス後領域周辺における免疫染色を行った。なお、免疫染色に使用した抗体は、抗Dok-7抗血清、抗シナプトフィシン抗体「SVP38」(サンタクルス社製)であった。
【0096】
シナプトフィシン(SYN)は、シナプス前小胞の構成成分であり、シナプス前領域等の位置を示す対照区である。バンガロトキシン(Btx)は、AChRの位置を示す対照区である。この結果を図3に示す。図3左側は坐骨神経切除前の組織を用いた場合の結果を、図3右側は坐骨神経切除の1週間後の組織を用いた場合の結果を示す。なお、Dok-7及びBtx各図を混合した図は図示していないが、図3左側及び右側における各図は、同一切片の同一視野における図である。また、図3中のバーは20μmに対応する。
【0097】
図3に示されるように、シナプトフィシンは坐骨神経切除後には消失していたのに対し、Dok-7タンパク質はAChRと共局在し、且つ、この共局在は神経切除の前後を通じて保持されていた。
【0098】
以上の結果から、Dok-7は、神経ではなく筋肉で発現されるタンパク質であり、神経筋接合部位のシナプス後領域において、AChRに関連する機能を有することが示唆された。
【0099】
<実施例7> Dok-7タンパク質の機能解析
Dokファミリーに属するタンパク質の分子内に存在するPTBドメインは、リン酸化チロシンキナーゼと相互作用する例が報告されている(F.Cong,B.Yuan and S.P.Goff,Mol.Cell Biol.19,8314(1999);J.Grimm et al.,J.Cell Biol.154,345(2001);R.J.Crowder,H.Enomoto,M.Yang,E.M.Jr.Johnson and J.Milbrandt,J.Biol.Chem.279,42072(2004)等参照)。更に、MuSK分子内のNPXYの4アミノ酸(配列表の配列番号1記載の550~553番)から構成されるPTBドメインターゲットモチーフは、MuSK活性化に必須であると報告されている(H.Zhou,D.J.Glass,G.D.Yancopoulos,&J.R.Sanes,J.Cell Biol.146,1133(1999);R.Herbst and S.J.Burden,EMBO J.19,67(2000);R.Herbst,E.Avetisova and S.J.Burden,Development 129,5449(2002)等参照)。そこで、Dok-7タンパク質とMuSKとの相互作用を通じて、Dok-7タンパク質の機能解析を行った。
【0100】
(A)非筋肉細胞
293T細胞株に、ヒトDok-7、mycタグに融合された、野生型(以下、「WT」とも称する)マウスMuSK又はキナーゼ不活性型変異MuSK(以下、「MuSK-KA」とも称する)の各々のDNAが挿入されたベクターを、上述の方法により導入し、形質転換293T細胞株を作製した。なお、野生型(WT)マウスMuSKのDNAは、特異的に結合するプライマー対を用いたRT-PCR法により作製し、作製したDNAを、所望のアミノ酸配列の読み枠になるように、上述の方法に従い「pcDNA3.1-myc/His」に挿入した。MuSK-KAのDNAは、配列番号3記載のアミノ酸配列における608番のリジンをアラニンに置換したアミノ酸配列をコードするよう、野生型(WT)マウスMuSKのDNAに変異を加えることで作製した。この変異は、周知の変異工学的手法で行った。
【0101】
各々の形質転換された293T細胞を、10vol%FBSを添加したDME培地中で、所定の細胞数になるまで培養した後、RIPA緩衝液(50mM トリス-HCl pH8.0、150mM NaCl、1mM Na3VO4、50mM NaF、1% Nonidet P-40、0.5% デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS)に溶解させることで、全細胞可溶物(WCL)を得た。次いで、この全細胞可溶物に対して、常法に従い、抗mycタグ抗体(αmyc)を用いた免疫沈降を行い、免疫沈降物(IP:αmyc)を得た。
【0102】
各形質転換体から得られた、全細胞可溶物及び免疫沈降物の各々について、ウェスタン解析を行った。なお、ウェスタン解析に使用した、Dok-7抗体(IB:αDok-7)は、上述の手順で得られたDok-7タンパク質で免疫したマウス血清から精製されたポリクローナル抗体であった。また、抗リン酸化チロシン抗体(IB:αPY)は「4G10」(アップステートバイオロジー社製)、抗mycタグ抗体(IB:αmyc)は「9B11」(セルシグナリング社製)であった。この結果を図4に示す。図4の上側は、この解析に用いた各293T細胞に導入されているDNAの組み合わせを示す。
【0103】
図4に示されるように、Dok-7を293T細胞内で強制発現させると、野生型(WT)MuSKのチロシンリン酸化は強く促進されたが、キナーゼ不活性型変異体であるMuSK-KAのチロシンリン酸化の促進は検出されなかった。
【0104】
同様の手順で、トラフグDok-7(F7)、及び、ヒトDok-1~7の各々が導入された形質転換293T細胞株を用いて、ウェスタン解析を行った。なお、トラフグDok-7、ヒトDok-1~6の各々のDNAは、各々に特異的に結合するプライマー対を用いたRT-PCR法により作製し、作製したDNAを、所望のアミノ酸配列の読み枠になるように、上述の方法に従い「pcDNA3.1-myc/His」に挿入した。この結果を図5に示す。図5の上側は、この解析に用いた各293T細胞に導入されているDNAの組み合わせを示す。
【0105】
図5に示されるように、トラフグDok-7タンパク質は、ヒトDok-7タンパク質と同様に、MuSKのチロシンリン酸化を促進できた。この結果から、Dok-7の性質は脊椎動物に共通することが示唆された。一方、ヒトDok-1~6のタンパク質については、いずれもMuSKのチロシンリン酸化を検出できなかった。
従って、Dok-7は、脊椎動物一般に保存された、MuSKの特異的活性化物質であることが示唆された。
【0106】
(B-1)筋管
上述の手順で得た、ヒトDok-7が形質転換されたヒトC2筋原細胞を飽和細胞密度にまで増殖させ、2vol%馬血清を添加したDME培地中で5~7日間培養し、筋管(C2筋管)に分化させた。
【0107】
このC2筋管を、2vol%ウマ血清を添加したDME培地中で、所定の細胞数になるまで培養した後、アルカリ可溶化液(50mM トリス-HCl pH9.5、1mM Na3VO4、50mM NaF、1% デオキシコール酸ナトリウム、1% トリトン-X100)に溶解させることで、全細胞可溶物(WCL)を得た。次いで、この全細胞可溶物に対して、常法に従い、抗MuSK抗体「N-19」及び「C-19」(いずれも、サンタクルス社製)を用いた免疫沈降、もしくは、Btxを用いたAChR複合体のプルダウンを行い、各々の沈降物を得た。
【0108】
C2筋管から得られた全細胞可溶物(WCL)、及び、この全細胞可溶物に対して、免疫沈降を行って得られた免疫沈降物(IP:αMuSK)、Btxによるプルダウンを行って得られた単離物(BP)の各々について、ウェスタン解析を行った。なお、ウェスタン解析に使用した、抗リン酸化チロシン抗体(IB:αPY)は「4G10」(アップステートバイオロジー社製)、抗MuSK抗体(IB:αMuSK)は「AF562」(R&Dシステムズ社製)、抗チロシンリン酸化AChRβ1抗体は「Tyr-390」(サンタクルス社製)、抗AChRα1抗体は「C-18」(サンタクルス社製)、Dok-7抗体は上述の抗血清(IB:αDok-7)、αチューブリン抗体(IB:αチューブリン)は「DM1A」(シグマ社製)、であった。この結果を図6に示す。なお、図6左側は、挿入配列のない「pcDNA3.1-myc/His」をC2筋原細胞に導入した場合における結果を示す対照区である。
【0109】
図6に示されるように、Dok-7を筋管内で過剰発現させると、内在性MuSKのチロシンリン酸化が促進され、その基質であるAChRβ1のチロシンリン酸化も促進された。
【0110】
(B-2)Dok-7とAChRとの関係
様々な量のDok-7含有プラスミドを形質導入したC2筋管におけるAChRの密集状態を次の手順により調べた。即ち、まず、筋管を、1ng/mlのAlexa594結合Btxと1時間反応させた後、洗浄し、3.7%PFAを混合したPBSで固定した。固定化した筋管の画像は、「DFC350FX CCD camera」(ライカ社製)を接続した「DM6000B microscope」(ライカ社製)により収集した。対物40倍の10フィールドを無作為に選択し、AChRクラスター(直径5μm以上)数を計測した。この結果を図7に示す。
図7に示されるように、Dok-7の強制発現によってAChRクラスターが誘導され、AChRクラスター数は、Dok-7含有プラスミドの注入量に相関していた。
【0111】
次に、EGFPに融合されたDok-7を筋管内で強制発現させた際の局在性を、AChRと併せて、共焦点顕微鏡観察によって調査した。この結果を図8に示す。なお、AChR及びDok-7各図を混合した図は図示していないが、各図は同一切片の同一視野における図である。なお、図8におけるバーは、20μmを示す。
図8に示されるように、強制発現されたDok-7はAChRとともにクラスターを形成していた。この結果は、図3に見られる結果とも一致する。
【0112】
なお、AChRは、MuSKの活性化によって、筋管内でMuSKとともにクラスターを形成することも知られている(Kummer,T.T.,Misgeld,T.,Lichtman,J.W.&Sanes,J.R., J.Cell Biol.164,1077-1087(2004)、Sander,A.,Hesser,B.A.&Witzemann,V. J.Cell Biol.155,1287-1296(2001)参照)。
【0113】
(B-3)AChRの密集
上述のヒトDok-7が導入されたC2筋管、及び、挿入配列のない「pcDNA3.1-myc/His」が導入されたC2筋管(対照区)における、AChRの密集状態を上述した手順により観察した。この結果の一部を図9に示す。図9中のバーは200μmを示す。
【0114】
図9に示されるように、ヒトDok-7が形質転換されたC2筋管には、対照区に比べて、はるかに多いAChRの密集が観察された。また、図示はしないが、ヒトDok-1~6が形質転換されたC2筋管には、対照区と比べて、AChRの密集についての有意な差は観察されなかった。
【0115】
AChRβサブユニットのチロシンリン酸化は、MuSKの活性化に伴って起こることが報告されている(例えば、C.Fuhrer,J.E.Sugiyama,R.G.Taylor and Z.W.Hall,EMBO J.16,4951(1997)参照)。この報告を踏まえれば、図6及び図9に示す結果から、Dok-7タンパク質は、MuSKの活性化を介して、AChRβ1のチロシンリン酸化を促進し、AChRの密集を促進できることが示唆された。
【0116】
次に、分化の過程で、C2筋原細胞に対して、上述した形質転換C2筋管、及び、10ng/mlの神経性アグリンで7日間処理したC2筋原細胞について、より詳細な観察を行った。この結果を図10に示す。図10中のバーは40μmを示す。
【0117】
図10に示されるように、外来遺伝子であるDok-7により誘導されたAChR密集部位は、高度に分岐化された複雑構造を有していた。また、Dok-7により誘導されたAChR密集部位は、アグリンにより誘導された密集部位、もしくは、自発的に形成された密集部位に比べ、大きかった。なお、観察された密集部位の複雑構造は、インビトロ及びインビボで観察が報告された分化後のプレッチェル様AChR密集構造(例えば、T.T.Kummer,T.Misgeld,J.W.Lichtman and J.R.Sanes,J.Cell.Biol.164,1077(2004)参照)に似ていた。
【0118】
<実施例8> Dok-7mRNAの生体内局在
Dok-7遺伝子のmRNAの生体内局在をより細かく解析するため、C57BL/6由来のマウス胚から得られた横隔膜筋を被検体として、以下のような手順で、インサイチュハイブリダイゼーション解析を行った。
【0119】
マウス胚から得られた横隔膜筋をPBS中の4%パラホルムアルデヒドで固定し、プロテイナーゼKで処理し、更に、マウスDok-7のジゴキシゲニン(DIG)標識されたアンチセンス又はセンスリボプローブによって、プローブした。これらのプローブは、マウスDok-7cDNA(AB220919)のヌクレオチド1-999に対応するものである。インサイチュハイブリダイゼーションを常法に従って行い、アルカリフォスファターゼ抱合抗DIG抗体によって検出されたシグナルをNBT及びBCIPによって現像した。撮影は、カメラ「DP-70」(オリンパス社製)が取り付けられた立体顕微鏡「MZ16」(ライカ社製)を用いて行った。この結果を図11に示す。なお、図11中のバーは、500μmを示す。
【0120】
図11に示されるように、アンチセンスリボプローブは、終板領域を含む横隔膜の中央領域に特異的に結合し、この終板領域にセンスリボプローブは結合していなかった。従って、マウスDok-7のmRNAは、板領域を含む横隔膜の中央領域に特異的に発現していることが示唆された。
【0121】
<実施例9> Dok-7の変異株解析
Dok-7の変異株、MuSKの変異株を用いて、Dok-7タンパク質によるMuSKのチロシンリン酸化に必須な部位の決定を試みた。
【0122】
(A)MuSKについて
PTBドメインのターゲットモチーフであることが報告されているMuSKのアミノ酸配列(NPXY)に変異を有する変異型MuSK(NA、YF)、チロシンキナーゼ不活化変異型MuSK(KA)を発現するDNAを、常法に従って、点変異導入法により作製した。そして、これらのDNA、及び、野生型Dok-7を発現するDNA、を各々発現する形質転換293T細胞株を、上述の方法と同様の手順により、作製した。ここで、NAは配列番号3記載のアミノ酸配列550番のアスパラギンをアラニンに置換した変異型で、YFは配列番号3記載のアミノ酸配列553番のチロシンをフェニルアラニンに置換した変異型で、KAは配列番号3記載のアミノ酸配列608番のリジンをアラニンに置換した変異型である。なお、MuSK及びその変異体にはmycタグが融合されている。
【0123】
各々の形質転換細胞株から得られた全細胞可溶液(WCL)に対して、抗mycタグ抗体を用いて免疫沈降を行い、免疫沈降物(IP:αmyc)を得た。そして、この全細胞可溶液及び免疫沈降物について、ウェスタン解析を行った。使用した抗体は、上述の抗体と同じ抗体であった。この結果を図12に示す。なお、図12の上側は、野生型MuSK、NA変異体、YF変異体に関するPTBドメインターゲットモチーフを含む周辺のペプチド配列を示す。また、図12の中央部は、この解析に用いた各293T細胞に導入されているDNAの組み合わせを示す。
【0124】
図12に示されるように、293T細胞においては、野生型MuSK(WT)はDok-7と結合し共沈降したことが確認された。一方、YF、NAのいずれも、Dok-7と結合し共沈降したことは確認されなかった。この結果から、NPXYを含むPTBドメインのターゲットモチーフが、Dok-7とMuSKとの結合に関与することが示唆された。更に、293T細胞においては、YF、NAはいずれも、Dok-7により誘導されるMuSKのチロシンリン酸化を妨害することはないことも示唆された。
【0125】
(B)Dok-7について
まず、野生型ヒトDok-7(WT)、野生型ヒトDok-7のうちN末端側に存在するPHドメイン(配列番号1記載のアミノ酸配列の8~107番)の一部を欠損させた変異型Dok-7(ΔN)、野生型ヒトDok-7のうちC末端側領域を欠損させた変異型Dok-7(ΔC)、を各々発現し、且つMuSKを強制発現する形質転換293T細胞株を、上述の方法と同様の手順により、作製した。ここで、ΔNは配列番号1記載のアミノ酸配列61~504番にまで削除した変異型で、ΔCは配列番号1記載のアミノ酸配列1~230番にまで削除した変異型である。なお、Dok-7及びその変異体にはFLAGタグが融合され、MuSKにはmycタグが融合されている。
【0126】
そして、各々の形質転換細胞株から得られた全細胞可溶液について、ウェスタン解析を行った。ウェスタン解析に用いた、抗mycタグ抗体(IB:αmyc)、抗FLAGタグ抗体(IB:αFLAG)、抗リン酸化チロシン抗体(IB:αPY)は、総て、上述したものと同じものであった。この結果を図13に示す。図13の上側は各Dok-7の構造概略図である(詳細は図26参照)。また、図13の中央部は、この解析に用いた各293T細胞に導入されているDNAの組み合わせを示す。
【0127】
図13に示されるように、MuSKのチロシンリン酸化は、野生型ヒトDok-7及びΔCについては確認されたが、PHドメインを欠損したΔNについては確認されなかった。この結果により、PHドメインが、MuSKのチロシンリン酸化に必須であることが示唆された。
【0128】
次に、ヒトDok-7のPTBドメイン内のアミノ酸配列(配列番号1記載のアミノ酸配列の109~204番)中の158、159、174番のアルギニンがアラニンに置換された変異型Dok-7(RA)のDNAを、常法に従って、点変異導入法により作製した。このRA、野生型ヒトDok-7(WT)を各々発現し、且つMuSKを強制発現する形質転換293T細胞株を、上述と同様の手順で、作製した。ここでも、MuSKにはmycタグが融合されている。
【0129】
そして、各々の形質転換細胞株から得られた全細胞可溶液(WCL)に対して免疫沈降を行い、得られた免疫沈降物(IP:αmyc)についてウェスタン解析を行った。使用した抗体は、上述の抗体と同じ抗体であった。この結果を図14に示す。図14の上側は、この解析に用いた各293T細胞に導入されているDNAの組み合わせを示す。
【0130】
図14に示されるように、野生型ヒトDok-7はMuSKと結合し共沈降したのに対し、PTBドメインに変異を有するRAはMuSKと結合し共沈降したことは確認されなかった。この結果から、PTBドメインが、Dok-7とMuSKとの結合に関与することが示唆された。
【0131】
一方、Dok-7のRAがMuSKのチロシンリン酸化を促進することから、少なくとも293T細胞内では、Dok-7のPTBドメインがMuSKのチロシンリン酸化の誘導に重要ではないことが示唆された。
【0132】
更に、同様の解析を、分化開始3日後及び6日後における各C2筋管(Dok-7のWT、△C、RAの各々が既に遺伝子導入されている)から得られた全細胞抽出液(WCL)、及び、この全細胞抽出液に対して免疫沈降を行って得られた免疫沈降物(IP:αMuSK)について行った。この結果を図15に示す。なお、分化開始3日後ではわずかなC2筋管しか形成されておらず、分化開始6日後では分化が完了していた。
また、分化開始7日後の各C2筋管のAChRクラスター数を、上述の通りの手順で、計測した。この結果を図16に示す。
【0133】
図15に示されるように、分化開始3日後及び6日後において、野生型Dok-7タンパク質は、内在性MuSKのチロシンリン酸化を促進できた。一方、RA、ΔCについては、分化開始3日後(分化の途中)では内在性MuSKのチロシンリン酸化を促進できたが、分化開始6日後(分化完了後)では内在性MuSKのチロシンリン酸化を促進しなかった。
【0134】
また、図16に示されるように、野生型Dok-7タンパク質は、AChRクラスター数を増加した。一方、RA、ΔCについては、分化後のC2筋管におけるAChRクラスター数の増加は、ほとんど見られなかった。
【0135】
これらの結果から、PTBドメイン及びC末端領域は、分化後のC2筋管におけるMuSKの活性化、AChRの密集に必要であることが示唆された。また、図13に示されるDok-7のΔNについては分化後のC2筋管においてもMuSKのチロシンリン酸化を促進せず、AChRの密集を誘導しなかった(図示せず)。一般に、PHドメインはタンパク質の膜局在に関与することが知られていることから、MuSKのチロシンリン酸化に関して、Dok-7の膜局在が重要な役割を果たしていることが示唆された。
【0136】
以上の結果をまとめると、筋管への分化の過程で、MuSKの活性化に対する細胞内阻害要素が強化される機構が推測される。
【0137】
<実施例10> 逆遺伝学的解析
(A)アグリンとの関係
Dok-7の発現を特異的に抑制するsiRNA(siD-7)及び、対照区に用いたsiRNA(対照区)の塩基配列は以下の通りであった(いずれも、キアゲン社製)。
siD-7: 5’-CACCACTATGACACACCTCGA-3’
対照区: 5’-AATTCTCCGAACGTGTCACGT-3’
【0138】
そして、このsiRNAをC2筋原細胞に導入し、分化させることにより、Dok-7発現が抑制された形質転換筋管を作製した。なお、この形質転換の方法は、「Lipofectamine2000」の代わりに「X-tremeGENE siRNA reagent」(ロシュ社製)を使用したことを除き、上述の方法と同様の手順で行った。
【0139】
この形質転換筋管及び野生型筋管をそれぞれ、神経性アグリン(Ag)10ng/mlで15分間処理した後又は無処理の細胞可溶物に対して免疫沈降を行って得られた免疫沈降物(IP:αMuSK、IP:αDok-7)、Btxを用いたプルダウンを行って得られた単離物(BP)の各々について、ウェスタン解析を行った。使用した抗体は、上述した抗体と同じ抗体であった。リン酸化チロシン抗体の検出は、検出時間を10秒間、1分間として行った。この結果を図17に示す。
【0140】
また、神経性アグリン(Ag)10ng/mlで12時間処理を行った後、又は、無処理の各筋管におけるAChRクラスター数を計測した。この結果を図18に示す。
【0141】
また、C2筋管を神経性アグリン10ng/mlで30分間処理した際の、MuSK及びDok-7のチロシンリン酸化の経時的変化(処理開始後1分、5分、10分、30分)を、各々の抗体による免疫沈降物(IP:αMuSK、IP:αDok-7)をウェスタン解析することにより調べた。この結果を図19に示す。
【0142】
図17に示されるように、siD-7により内在性Dok-7の発現が抑制されると、アグリンの非存在下におけるMuSK及びAChRβ1のチロシンリン酸化が妨げられた。同様に、アグリンに依存的な、MuSK活性化、AChRβ1のリン酸化も妨げられた。
【0143】
また、図18に示されるように、siD-7により内在性Dok-7の発現が抑制されると、アグリン依存的及び非依存的なAChRの密集がともに妨げられた。
【0144】
ちなみに、アグリンによるAChRの密集化にMuSKが不可欠であることは、既知の事実である(H.Zhou、D.J.Glass、G.D.Yancopoulos、 and J.R.Sanes著、「Journal of Cell Biology」、146、1133(1999)、 R.Herbst、 and S.J.Burden著、「EMBO Journal」、19、67(2000)参照)。
【0145】
これらの結果から、Dok-7は、筋管におけるMuSKの活性化及びMuSKに依存したAChRの密集化に必須の役割を果たしていることが分かった。
【0146】
なお、図19に示されるように、アグリン刺激を施したC2筋管細胞において、内在性MuSKのチロシンリン酸化、及び、内在性Dok-7のチロシンリン酸化は、同様の経時的変化をたどっていた。このため、上述した結果にかかわらず、Dok-7がMuSKの関与するシグナル伝達経路の下流における役割を果たしている可能性は、否定できないことが示唆された。
【0147】
<実施例11> 逆遺伝学的解析(個体レベル)
(A)ノックアウトマウスの作製
マウスdok-7遺伝子座を含むバクテリア人工染色体(BAC)クローンは、BACPAC Resource Centerより入手した(図20上段)。組換えベクターは、dok-7遺伝子の第1、第2エキソン(各エキソンは、番号1~7で表される)をネオマイシンフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子で置換し、このネオマイシンフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子DNAがdok-7遺伝子DNAの5’断片(1.8kb)及び3’断片(7.3kb)に隣接するように、構築した(図20中段)。このコンストラクトを直線化して、129/Ola由来の胚性幹細胞にエレクトロポレートし、3つのホモ組換体を同定した。キメラの雄をC57BL/6雌と交配し、キメラ生殖系列ひいてはヘテロ接合体を得た。図20において、BはBglII制限部位、XはXhoI制限部位を表し、neoはネオマイシン耐性遺伝子を表す。
【0148】
組換えベクターが挿入されたことを確認するために、野生型マウス、ヘテロマウス、ヌルマウスの各々の尾からDNAを精製し、このDNAにBglIIによる制限処理を施した後、図20段に示される配列に対応するプローブを用い、常法に従ってサザン解析を行った。この結果を図21に示す。
【0149】
図21に示されるように、野生型マウス及びヘテロマウスにおいては、7.6kbにバンドが検出されたのに対して、ヌルマウスには、このバンドが検出されなかった。更に、野生型マウスにおいては検出されなかった3.5kbのバンドがヘテロマウス及びヌルマウスにおいて検出された。以上の結果から、ヌルマウスにおいては、組換えベクターによってエキソン1及び2が相同組換えされ、ヌル対立遺伝子となっていることが確認された。
【0150】
更に、野生型マウス及びヌルマウスの各々の筋肉抽出液を試料とし、エキソン6及び7の部分に対応するペプチドを検出可能な抗Dok-7抗体を用いたウェスタン解析を行った。この結果を図22に示す。
【0151】
図22に示されるように、野生型マウスではDok-7と予想されるバンドが検出されたのに対して、ヌルマウスでは何のバンドも検出されなかった。従って、ヌルマウスにおいては、Dok-7タンパク質が合成されていないことが確認された。
【0152】
(B)呼吸について
同腹仔である野生型マウス及びヘテロマウスは正常な状態を示したのに対して、Dok-7ヌルマウスは、誕生時において動けず、生後すぐに死亡した。また、ヌルマウスには呼吸不全が予想されたため、ヌルマウスの肺を、ヘマトキシリン・エオシン染色した後、観察した。この結果を図23に示す。
【0153】
図23に示されるように、肺胞のエアサックが野生型マウスでは広がっていたのに対して、ヌルマウスでは広がっていなかった。この結果から、ヌルマウスにおける呼吸不全が確認された。
【0154】
(C)NMJについて
野生型マウス及びヌルマウスの各々の胚(14.5日胚、18.5日胚)から、横隔膜筋を調整し、この横隔膜筋に、抗ニューロフィラメント染色及びBtx染色を行うことで、神経及びAChRをそれぞれ可視化した。可視化された横隔膜筋を観察した結果を図24に示す。なお、図24中のバーは100μmを示す。
【0155】
図24に示されるように、ヌルマウスの14.5日胚及び18.5日胚の双方において、横隔膜筋の終板領域にはAChRクラスターが検出されなかった。一般に、14.5日胚では神経/アグリンに非依存的に発生期AChRクラスターが形成され、18.5日胚では神経/アグリンに依存的にAChRが密集化することから、いずれのタイプのMuSK依存的シナプス後特化にもDok-7が必要であることが示唆される。更に、ヌルマウス18.5日胚において、運動神経幹から延びる軸索側枝は、横隔膜の終板領域において異常に長く、神経幹近傍で終結しなかった。
【0156】
これらの異常性は、MuSK欠損マウスにおいて見られる異常性と区別できないことから、Dok-7は、神経筋シナプス形成というMuSK依存的生体プロセスにおいて、必須の役割をインビボで果たしていることが示唆される。
【0157】
<実施例12> Dok-7と先天性筋無力症候群との関係
先天性筋無力症候群は、AChRを含めたシナプス後構造に影響を与える遺伝的変化と関連することが報告されている(前述の非特許文献1、2参照)。そして、先天性筋無力症候群の原因となった遺伝的変化の一例として、MuSK遺伝子の点変異が報告されている(例えば、F.Chevessier et al.,Hum.Mol.Genet.13,3229(2004)参照)。この報告された点変異によれば、変異型MuSK遺伝子は、無発現対立遺伝子と、MuSK-VMと、からなる。そこで、Dok-7とMuSK-VMとの相互作用について調査することとした。
【0158】
MuSK-VM(mycタグ標識)及びヒトDok-7を、上述の方法で、293T細胞に導入し、形質転換293T細胞を作製した。次いで、この形質転換293T細胞から得られた全細胞可溶物(WCL)と、この全細胞可溶物に対して免疫沈降を行って得られた免疫沈降物(IP:αmyc)とについて、ウェスタン解析を行った。使用した抗体は、上述した抗体と同じ抗体であった。この結果を図25に示す。図25の上側は、この解析に用いた各293T細胞に導入されているDNAの組み合わせを示す。
【0159】
図25に示されるように、Dok-7を強制発現する形質転換293T細胞においては、野生型MuSKタンパク質(WT)が野生型Dok-7タンパク質と結合するのに対して、変異型MuSKタンパク質(VM)は野生型Dok-7タンパク質とほとんど結合しなかった。
【0160】
以上の結果をまとめると、先天性筋無力症候群の機構として、次のような機構を推測できる。即ち、MuSK及び/又はDok-7における遺伝的変化により、MuSKとDok-7との相互作用が減少する。この結果、筋管内におけるAChRの密集化が阻害されるために、先天性筋無力症候群の症状が表れる。
【産業上の利用可能性】
【0161】
Dok-7遺伝子DNA内における変異により先天性筋無力症候群に罹患している患者に対して、本発明のポリペプチド及び/又はDNAを投与することにより、MuSKのチロシンリン酸化、AChRβ1のリン酸化を介してAChRの密集化が促進され、結果として先天性筋無力症候群を治療又は予防し得る。また、本発明のDNA塩基配列を決定することにより、先天性筋無力症候群を検査できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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