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明細書 :ポリグルタミン病の予防・治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4982739号 (P4982739)
公開番号 特開2007-320919 (P2007-320919A)
登録日 平成24年5月11日(2012.5.11)
発行日 平成24年7月25日(2012.7.25)
公開日 平成19年12月13日(2007.12.13)
発明の名称または考案の名称 ポリグルタミン病の予防・治療剤
国際特許分類 A61K  38/00        (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A61K 37/02 ZNA
A61P 25/00
A61K 48/00
C12Q 1/02
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
A61K 31/7088
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 8
全頁数 36
出願番号 特願2006-154059 (P2006-154059)
出願日 平成18年6月1日(2006.6.1)
審査請求日 平成21年1月23日(2009.1.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
発明者または考案者 【氏名】岡澤 均
個別代理人の代理人 【識別番号】100107515、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 浩一
【識別番号】100107733、【弁理士】、【氏名又は名称】流 良広
【識別番号】100115347、【弁理士】、【氏名又は名称】松田 奈緒子
【識別番号】100136858、【弁理士】、【氏名又は名称】池田 浩
【識別番号】100108833、【弁理士】、【氏名又は名称】早川 裕司
【識別番号】100112830、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 啓靖
審査官 【審査官】横田 倫子
参考文献・文献 国際公開第04/061456(WO,A1)
Neuroreport, 15[18] (2004) p.2735-9.
Cell Mol Life Sci., 60[7] (2003) p.1427-39.
Curr Biol., 12[4] (2002) p.R141-3.
Nat Med., 7[5] (2001) p.528-530
調査した分野 A61K 38/00-38/58
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
HMGB1タンパク質及びHMGB2タンパク質の少なくともいずれかを含有する、ポリグルタミン病の予防・治療剤。
【請求項2】
HMGB1タンパク質及びHMGB2タンパク質が、下記(a)又は(b)に記載のタンパク質である、請求項1に記載の予防・治療剤。
(a)配列番号2、4、又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2、4、又は6に記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、ポリグルタミン病において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性を有するタンパク質
【請求項3】
前記(b)に記載のタンパク質が、転写促進活性、DNA修復促進活性及び細胞死抑制活性のうち1種以上の活性を有する請求項2に記載の予防・治療剤。
【請求項4】
HMGB1タンパク質及びHMGB2タンパク質の少なくともいずれかを発現し得る組換えベクターを含有する、ポリグルタミン病の予防・治療剤。
【請求項5】
前記組換えベクターが、下記(c)~(f)のいずれかに記載のDNAを含む請求項4に記載の予防・治療剤。
(c)配列番号2、4、又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号2、4、又は6に記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、ポリグルタミン病において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号1、3、又は5に記載の塩基配列からなるDNA
(f)配列番号1、3、又は5に記載の塩基配列からなるDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであって、ポリグルタミン病において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項6】
前記(d)又は(f)に記載のDNAがコードするタンパク質が、転写促進活性、DNA修復促進活性及び細胞死抑制活性のうち1種以上の活性を有する請求項5に記載の予防・治療剤。
【請求項7】
in vivo(ただし、ヒトを除く)又はin vitroにおいて、試験物質が、HMGB1タンパク質及びHMGB2タンパク質の少なくともいずれかと、ポリグルタミン病において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質との結合を阻害するか否かを判別し、前記結合を阻害する試験物質をポリグルタミン病に対して予防・治療効果を有する物質としてスクリーニングする工程を含む、ポリグルタミン病に対して予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法。
【請求項8】
in vivo(ただし、ヒトを除く)又はin vitroにおいて、試験物質が、HMGB1タンパク質及びHMGB2タンパク質の少なくともいずれかをコードする遺伝子の発現を誘導するか否かを判別し、前記発現を誘導する試験物質をポリグルタミン病に対して予防・治療効果を有する物質としてスクリーニングする工程を含む、ポリグルタミン病に対して予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患(例えばポリグルタミン病)の予防・治療剤、及び神経変性疾患(例えばポリグルタミン病)に対して予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンチントン病等のポリグルタミン病は、原因遺伝子産物に存在する異常に伸長したポリグルタミン鎖によって引き起こされる神経変性疾患である。これまでに、筋収縮に関わるクレアチン、アポトーシス抑制剤であるミノサイクリン等の投与が、ハンチントン病モデルマウスに対して有効であるという報告はあるものの、ポリグルタミン病に対して予防・治療効果を有する物質の報告は非常に少ない。また、ポリグルタミン病モデル細胞ではアポトーシスによって細胞死が起こることが広く指摘されているが、実際にアポトーシス抑制剤を臨床で用いることは困難である。
【0003】
このような状況の下、異常に伸長したポリグルタミン鎖が核内で不溶性タンパク質凝集体の形成を誘起することに着目し、異常に伸長したポリグルタミン鎖が誘起するタンパク質凝集を阻害できる物質を、ポリグルタミン病の予防又は治療に用いることが提案されている。例えば、特許文献1には、異常に伸長したポリグルタミン鎖が誘起するタンパク質凝集を阻害することによりポリグルタミン病を予防又は治療できる物質として、オリゴ糖又はオリゴ糖部分を含む化合物が開示されている。神経細胞内でのタンパク質凝集体の形成は、ポリグルタミン病だけでなく、アルツハイマー病等の神経変性疾患にも共通の特徴であることから、神経細胞内でのタンパク質凝集を抑制することにより、種々の神経変性疾患を予防又は治療できるものと期待される。
【0004】
一方、HMGBファミリータンパク質は、HMG(High Mobility Group:高速移動群タンパク質)の一種である。HMGは、クロマチンから0.35M NaClにより抽出され、電気泳動で高い移動度を示す一群の非ヒストンタンパク質であり、全ての高等生物の核に存在し、そのアミノ酸配列は高等生物間で高度に保存されている。HMGBファミリータンパク質は、核に豊富に存在し、種間でよく保存されており、このことにより、HMGBファミリータンパク質が核において重要な役割を果たすことを示唆される。HMGBファミリーの正確な機能は未知であるが、HMGBタンパク質は、DNA結合のための2つのHMGボックスを有し、転写因子、部位特異的組換えタンパク質、DNA修復タンパク質、サイレンシング複合体、ウイルスタンパク質と相互作用すること(非特許文献1)、C末端に酸性及び塩基性アミノ酸リッチな領域を有し、DNA及びヒストン複合体間に挿入され、ゲノムDNAの再形成に重要な役割を果たすこと(非特許文献1,2)、distorted DNAに優先的に結合し、 DNAを湾曲させ、Wrapped DNAを緩め、クロマチン再形成複合体の近接性を促進することにより、ヌクレオソームの再形成を促進すること(非特許文献2)等が報告されている。

【特許文献1】特開2003-267874号公報
【非特許文献1】Agresti, A. 等, Curr. Opin. Genet Develop. 13, 170-178. (2003)
【非特許文献2】Travers A.E. EMBO reports 4, 131-136. (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、第一に、神経変性疾患(例えばポリグルタミン病)の予防・治療剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、第二に、神経変性疾患(例えばポリグルタミン病)に対して予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、HMGBファミリータンパク質が、ポリグルタミン病等の神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質と結合し、核封入体に取り込まれることにより、核内で機能するHMGBファミリータンパク質の減少が生じ、これにより、ポリグルタミン病等の神経変性疾患が生じること、並びに、核内で機能するHMGBファミリータンパク質の減少を補う(例えば、減少したHMGBファミリータンパク質を補充する)又は減少を抑制する(例えば、HMGBファミリータンパク質と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合を阻害する)ことにより、ポリグルタミン病等の神経変性疾患を予防・治療できるという新たな知見に基づいて完成されたものであり、上記課題を解決するために、本発明は、以下の神経変性疾患の予防・治療剤、及び神経変性疾患に対して予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法を提供する。
【0007】
(1)HMGBファミリータンパク質又はその誘導体を含有する、神経変性疾患の予防・治療剤。
(2)前記HMGBファミリータンパク質が、下記(a)又は(b)記載のタンパク質である、前記(1)記載の予防・治療剤。
(a)配列番号2、4、6又は8記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2、4、6又は8記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性を有するタンパク質
(3)前記(b)記載のタンパク質が、転写促進活性、DNA修復促進活性及び細胞死抑制活性のうち1種以上の活性を有する前記(2)記載の予防・治療剤。
(4)HMGBファミリータンパク質又その誘導体を発現し得る組換えベクターを含有する、神経変性疾患の予防・治療剤。
(5)前記組換えベクターが、下記(c)~(f)のいずれかに記載のDNAを含む前記(4)記載の予防・治療剤。
(c)配列番号2、4、6又は8記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号2、4、6又は8記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号1、3、5又は7記載の塩基配列からなるDNA
(f)配列番号1、3、5又は7記載の塩基配列からなるDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであって、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性を有するタンパク質をコードするDNA
(6)前記(d)又は(f)記載のDNAがコードするタンパク質が、転写促進活性、DNA修復促進活性及び細胞死抑制活性のうち1種以上の活性を有する前記(5)記載の予防・治療剤。
(7)試験物質が、HMGBファリミータンパク質又はその誘導体と、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質との結合を阻害する否かを判別し、前記結合を阻害する試験物質を神経変性疾患に対して予防・治療効果を有する物質としてスクリーニングする工程を含む、神経変性疾患に対して予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法。
(8)試験物質が、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子の発現を誘導するか否かを判別し、前記発現を誘導する試験物質を神経変性疾患に対して予防・治療効果を有する物質としてスクリーニングする工程を含む、神経変性疾患に対して予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ポリグルタミン病等の神経変性疾患の予防・治療剤、及びポリグルタミン病等の神経変性疾患に対して予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の神経変性疾患の予防・治療剤は、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体、あるいはHMGBファミリータンパク質又はその誘導体を発現し得る組換えベクターを含有する。
【0010】
「HMGBファミリータンパク質」には、HMGBファミリーに属するいずれのタンパク質も含まれる。HMGBファミリーに属するタンパク質としては、例えば、HMGB1、HMGB2、HMGB3等が挙げられる。HMGBファミリーに属するタンパク質が共通して有する性質、機能等としては、例えば、クロマチンから0.35M NaClによって抽出され、電気泳動で高い移動度を示す一群(High Mobility Group)の非ヒストンタンパク質であること、約200アミノ酸で構成され HMG Boxというモチーフを有すること、HMG Boxを介してDNA構造を柔軟に認識し塩基配列非特異的に結合すること、DNA分子を湾曲させ転写調節をすること、ヌクレオソーム間のリンカーDNAに作用しクロマチンリモデリングに関与すること、転写因子、部位特異的組み換え酵素、DNA修復タンパク質、ウィルス由来タンパク質等の多くの分子と相互作用すること(Agresti,A.& Bianchi,M.E.(2003) HMGB proteins and gene expression. Curr.Opin.Genet Develop.13 170-178)等が挙げられる。
【0011】
「HMGBファミリータンパク質」には、いずれの高等生物由来のHMGBファミリータンパク質も含まれる。すなわち、HMGBファミリータンパク質のアミノ酸配列は高等生物間で高度に保存されているので、予防・治療対象生物種と同一種由来のHMGBファミリータンパク質はもちろん、異種由来のHMGBファミリータンパク質を予防・治療のために使用してもよい。例えば、予防・治療対象がヒトである場合、ヒト由来のHMGBファミリータンパク質の他、ヒト以外の高等生物由来のHMGBファミリータンパク質を使用してもよい。但し、予防・治療対象がヒトである場合、ヒト由来のHMGBファミリータンパク質を使用することが好ましい。
【0012】
「HMGBファミリータンパク質」には、野生型HMGBファミリータンパク質に加え、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性を保持する変異型HMGBファミリータンパク質も含まれる。変異型HMGBファミリータンパク質は、野生型HMGBファミリータンパク質のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなる。野生型HMGBファミリータンパク質のアミノ酸配列において欠失、置換、付加又は挿入されるアミノ酸の個数及び位置は、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性が保持される限り特に限定されるものではない。欠失、置換、付加又は挿入されるアミノ酸の個数は、通常20個以内、好ましくは10個以内(例えば、5個以内、3個以内、1個)である。
【0013】
変異型HMGBファミリータンパク質は、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性に加え、転写促進活性、DNA修復促進活性、細胞死抑制活性等のうち1種又は2種以上の活性を保持することが好ましい。神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性を保持する変異型HMGBファミリータンパク質は、異常型ポリグルタミンタンパク質と結合することにより、内因性HMGBファミリータンパク質が異常型ポリグルタミンタンパク質と結合して封入体に取り込まれ、核内で機能する内因性HMGBファミリータンパク質の減少を抑制することができ、これにより、神経変性疾患を予防・治療することができる。野生型HMGBファミリータンパク質は、変異型HMGBファミリータンパク質と同様の作用機序により神経変性疾患を予防・治療することができる他、封入体に取り込まれた内因性HMGBファミリータンパク質の代わりに機能することにより、神経変性疾患を予防・治療することができる。変異型HMGBファミリータンパク質が、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性に加え、転写促進活性、DNA修復促進活性、細胞死抑制活性等の活性を保持する場合、変異型HMGBファミリータンパク質は、封入体に取り込まれた内因性HMGBファミリータンパク質の代わりに機能することにより、神経変性疾患を予防・治療することができる。
【0014】
HMGBファミリータンパク質としては、例えば、下記(a)又は(b)記載のタンパク質が挙げられる。
(a)配列番号2、4、6又は8記載のアミノ酸配列からなるタンパク質(以下「タンパク質(a)」という。)
(b)配列番号2、4、6又は8記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性を有するタンパク質(以下「タンパク質(b)」という。)
【0015】
配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質は、ヒト由来のHMGB1であり、配列番号4及び6記載のアミノ酸配列からなるタンパク質は、ヒト由来のHMGB2であり、配列番号8記載のアミノ酸配列からなるタンパク質は、ヒト由来のHMGB3である。配列番号4及び6記載のアミノ酸配列からなるタンパク質はスプライシング変異体であると考えられる。
配列番号2、4、6又は8記載のアミノ酸配列において欠失、置換、付加又は挿入されるアミノ酸の個数及び位置は、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性が保持される限り特に限定されるものではない。欠失、置換、付加又は挿入されるアミノ酸の個数は、通常20個以内、好ましくは10個以内(例えば、5個以内、3個以内、1個)である。
【0016】
タンパク質(b)には、タンパク質(a)に対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導入したタンパク質の他、欠失、置換、付加等の変異が導入された状態で天然に存在するタンパク質や、それに対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導入したタンパク質も含まれる。欠失、置換、付加等の変異が導入された状態で天然に存在するタンパク質としては、例えば、ヒトを含む哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット等)由来のタンパク質(これらの哺乳動物において多型によって生じ得るタンパク質を含む。)が挙げられる。
【0017】
「神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質」は、神経変性疾患の原因遺伝子に、ポリグルタミン鎖をコードする3塩基(CAG)の繰り返し配列が付加されることにより生じる、異常伸長ポリグルタミン鎖が付加されたタンパク質である。神経変性疾患及びその原因遺伝子としては、ハンチントン病/ハンチンチン遺伝子、脊髄小脳変性症/アタキシン-1, -2, -3, -6, -7, -17遺伝子、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症/DRPLA遺伝子、球脊髄性筋萎縮症/アンドロゲン受容体遺伝子等が挙げられる。異常型ポリグルタミンタンパク質に含まれる異常伸長ポリグルタミン鎖は、通常40個以上のグルタミン残基を含む。
【0018】
「HMGBファミリータンパク質の誘導体」には、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性が保持される限り、いかなる誘導体も含まれる。HMGBファミリータンパク質の誘導体としては、例えば、糖鎖が付加されたHMGBファミリータンパク質、医薬的に許容されるHMGBファミリータンパク質の塩、HMGBファミリータンパク質を含む融合タンパク質等が挙げられる。
【0019】
HMGBファミリータンパク質に付加される糖鎖の種類、位置等は、HMGBファミリータンパク質の製造の際に使用される宿主細胞の種類によって異なるが、HMGBファミリータンパク質の誘導体には、いずれの宿主細胞を用いて得られるタンパク質も含まれる。
【0020】
医薬的に許容されるHMGBファミリータンパク質の塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アンモニウム等の無毒性アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、無毒性酸付加塩等が挙げられる。無毒性酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、硼酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩(トシレート)、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、スルホン酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0021】
HMGBファミリータンパク質と融合させるタンパク質又はペプチドとしては、例えば、β-ガラクトシダーゼ、プロテインA、プロテインAのIgG結合領域、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ、ポリ(Arg)、ポリ(Glu)、プロテインG、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、ポリヒスチジン鎖(His-tag)、Sペプチド、DNA結合タンパク質ドメイン、Tac抗原、チオレドキシン、グリーン・フルオレッセント・プロテイン、ヘマグルチニンタンパク質(HA)-tag、FLAG-tag、Myc-tag、GAL4-AD、T7遺伝子10タンパク質、ウシパピローマウイルスL1タンパク質、ストレプトアビジン、VSV-G-tag、TAT(Trans-activating protein)、TAT由来PTD(protein transduction domain)、等が挙げられる。例えば、HMGBファミリータンパク質とヘマグルチニンタンパク質(HA)-tag、FLAG-tag、GAL4-AD等とを融合させることにより、HMGBファミリータンパク質の細胞内安定性を向上させることができる。また、HMGBファミリータンパク質とTAT(Trans-activating protein)、TAT由来PTD(protein transduction domain)等とを融合させることにより、HMGBファミリータンパク質に細胞膜通過能を付与することができる。
【0022】
「HMGBファミリータンパク質又はその誘導体を発現し得る組換えベクター」は、HMGBファミリータンパク質又はHMGBファミリータンパク質を含む融合タンパク質をコードするDNAと、その上流に設けられたプロモーターとを含む。組換えベクターは、適当な発現ベクターのプロモーターの下流に、HMGBファミリータンパク質又はHMGBファミリータンパク質を含む融合タンパク質をコードするDNA断片を挿入することにより作製することができる。HMGBファミリータンパク質又はHMGBファミリータンパク質を含む融合タンパク質をコードするDNA断片は、その機能が発揮されるように発現ベクターに組み込まれることが必要であり、発現ベクターは、プロモーターの他、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー(例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子)、リボソーム結合配列(SD配列)等を有していてもよい。
【0023】
発現ベクターとしては、予防・治療対象生物種の細胞において自立複製が可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を使用することができる。プラスミドベクターとしては、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pRSET、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB110、pTP5)、酵母由来のプラスミド(例えば、YEp13、YEp24、YCp50)が挙げられ、ファージベクターとしては、例えば、λファージ(例えば、Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP)が挙げられ、ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス等の動物ウイルス、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスが挙げられる。
【0024】
HMGBファミリータンパク質をコードするDNAとしては、例えば、下記(c)~(f)記載のDNAが挙げられる。
(c)配列番号2、4、6又は8記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA(以下「DNA(c)」という。)
(d)配列番号2、4、6又は8記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性を有するタンパク質をコードするDNA(以下「DNA(d)」という。)
(e)配列番号1、3、5又は7記載の塩基配列からなるDNA(以下「DNA(e)」という。)
(f)配列番号1、3、5又は7記載の塩基配列からなるDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであって、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性を有するタンパク質をコードするDNA(以下「DNA(f)」という。)
【0025】
配列番号1、3、5及び7記載の塩基配列からなるDNAは、それぞれ配列番号2、4、6又は8記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする。
【0026】
「ストリンジェントな条件」としては、例えば、42℃、2×SSC及び0.1% SDSの条件、好ましくは65℃、0.1×SSC及び0.1% SDSの条件が挙げられ、配列番号1、3、5又は7記載の塩基配列からなるDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAとしては、配列番号1、3、5又は7記載の塩基配列からなるDNAと80%以上、好ましくは95%以上(例えば、97%以上、98%以上、99%以上)の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0027】
DNA(d)及び(f)には、DNA(c)又は(e)に対して人為的に変異を導入したDNAの他、変異が導入された状態で天然に存在するDNAや、それに対して人為的に変異を導入したDNAも含まれる。変異が導入された状態で天然に存在するDNAとしては、例えば、ヒトを含む哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット等)由来のDNA(これらの哺乳動物において多型によって生じ得るDNAを含む。)が挙げられる。DNA(c)又は(e)に対する人為的な変異は、例えば、部位特異的変異誘発法等によって導入することができる。変異の導入は、例えば、変異導入用キット、例えば、Mutant-K(TaKaRa社製)、Mutant-G(TaKaRa社製)、TaKaRa社のLA-PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて行うことができる。
【0028】
HMGBファミリータンパク質をコードするDNAは、ヒト等の哺乳動物組織(例えば脳、肝臓、腎臓等)の組織から抽出したmRNAを用いてcDNAライブラリーを作製し、配列番号1、3、5又は7記載の塩基配列に基づいて合成したプローブを用いて、cDNAライブラリーから目的のDNAを含むクローンをスクリーニングすることにより得ることができる。また、塩基配列が既に決定されている場合には化学合成することもできる。DNAの化学合成は、市販のDNA合成機、例えば、チオホスファイト法を利用したDNA合成機(島津製作所社製)、フォスフォアミダイト法を利用したDNA合成機(パーキン・エルマー社製)を用いて行うことができる。
【0029】
cDNAライブラリーは、例えば、次のようにして作製することができる。ヒト等の哺乳動物の組織(例えば脳、肝臓、腎臓等)から全RNAを得た後、オリゴdT-セルロースやポリU-セファロース等を用いたアフィニティーカラム法、バッチ法等によりポリ(A)+RNA(mRNA)を得る。この際、ショ糖密度勾配遠心法等によりポリ(A)+RNA(mRNA)を分画してもよい。次いで、得られたmRNAを鋳型として、オリゴdTプライマー及び逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成した後、該一本鎖cDNAから二本鎖cDNAを合成する。このようにして得られた二本鎖cDNAを適当なクローニングベクターに組み込んで組換えベクターを作製し、該組換えベクターを用いて大腸菌等の宿主細胞を形質転換し、テトラサイクリン耐性、アンピシリン耐性を指標として形質転換体を選択することにより、cDNAのライブラリーを得ることができる。cDNAライブラリーを作製するためのクローニングベクターは、宿主細胞中で自立複製できるものであればよく、例えば、ファージベクター、プラスミドベクター等を使用することができる。宿主細胞としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等を使用することができる。大腸菌等の宿主細胞の形質転換は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム又は塩化ルビジウムを共存させて調製したコンピテント細胞に、組換えベクターを加える方法等により行うことができる。なお、ベクターとしてプラスミドを用いる場合は、テトラサイクリン、アンピシリン等の薬剤耐性遺伝子を含有させておくことが好ましい。
【0030】
cDNAライブラリーの作製にあたっては、市販のキット、例えば、SuperScript Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(Gibco BRL社製)、ZAP-cDNA Synthesis Kit(ストラタジーン社製)等を使用することができる。
【0031】
cDNAライブラリーから目的のDNAを含むクローンをスクリーニングする際には、配列番号1又は3記載の塩基配列に基づいてプライマーを合成し、これを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、PCR増幅断片を得る。PCR増幅断片は、適当なプラスミドベクターを用いてサブクローニングしてもよい。
【0032】
cDNAライブラリーに対して、PCR増幅断片をプローブとしてコロニーハイブリダイゼーション又はプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、目的のDNAを得ることができる。プローブとしては、PCR増幅断片をアイソトープ(例えば、32P、35S)、ビオチン、ジゴキシゲニン等で標識したものを使用することができる。目的のDNAを含むクローンは、抗体を用いたイムノスクリーニング等の発現スクリーニングによっても得ることができる。
【0033】
取得されたDNAの塩基配列は、DNA断片をそのまま、又は適当な制限酵素等で切断した後、常法によりベクターに組み込み、通常用いられる塩基配列解析方法、例えば、マキサム-ギルバートの化学修飾法、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法を用いて決定することができる。また、373A DNAシークエンサー(Perkin Elmer社製)等の塩基配列分析装置を用いて配列決定することもできる。
【0034】
以上のようにして、HMGBファミリータンパク質をコードするDNAを得ることができ、得られたDNAを以下の工程に従って宿主細胞中で発現させることにより、HMGBファミリータンパク質を製造することができる。
【0035】
〔組換えベクター及び形質転換体の作製〕
組換えベクターを作製する際には、目的とするタンパク質のコード領域を含む適当な長さのDNA断片を調製する。また、目的とするタンパク質のコード領域の塩基配列を、宿主細胞における発現に最適なコドンとなるように、塩基を置換したDNAを調製する。
【0036】
このDNA断片を適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより組換えベクターを作製し、該組換えベクターを適当な宿主細胞に導入することにより、目的とするタンパク質を生産し得る形質転換体を得ることができる。上記DNA断片は、その機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要であり、ベクターは、プロモーターの他、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー(例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子)、リボソーム結合配列(SD配列)等を含有することができる。
【0037】
発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を使用することができる。プラスミドベクターとしては、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pRSET、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB110、pTP5)、酵母由来のプラスミド(例えば、YEp13、YEp24、YCp50)が挙げられ、ファージベクターとしては、例えば、λファージ(例えば、Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP)が挙げられ、ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス等の動物ウイルス、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスが挙げられる。
【0038】
宿主細胞としては、目的とする遺伝子を発現し得る限り、原核細胞、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等のいずれを使用してもよい。また、動物個体、植物個体、カイコ虫体等を使用してもよい。
【0039】
細菌を宿主細胞とする場合、例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌を宿主細胞として使用することができる。具体的には、Escherichia coli XL1-Blue、Escherichia coli XL2-Blue、Escherichia coli DH1、Escherichia coli K12、Escherichia coli JM109、Escherichia coli HB101等の大腸菌や、Bacillus subtilis MI 114、Bacillus subtilis 207-21等の枯草菌を宿主細胞として使用することができる。この場合のプロモーターは、大腸菌等の細菌中で発現できるものであれば特に限定されず、例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等の大腸菌やファージ等に由来するプロモーターを使用することができる。また、tacプロモーター、lacT7プロモーター、let Iプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーターを使用することもできる。
【0040】
細菌への組換えベクターの導入方法としては、細菌にDNAを導入し得る方法であれば特に限定されず、例えば、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等を使用することができる。
【0041】
酵母を宿主細胞とする場合、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomycescerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)等を宿主細胞として使用することができる。この場合のプロモーターは、酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えば、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等を使用することができる。
【0042】
酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入し得る方法であれば特に限定されず、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等を使用することができる。
【0043】
動物細胞を宿主細胞とする場合、サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等を宿主細胞として使用することができる。この場合のプロモーターは、動物細胞中で発現できるものであれば特に限定されず、例えば、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTR(Long Terminal Repeat)プロモーター、CMVプロモーター、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を使用することができる。
【0044】
動物細胞への組換えベクターの導入方法は、動物細胞にDNAを導入し得る方法であれば特に限定されず、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等を使用することができる。
【0045】
昆虫細胞を宿主とする場合には、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞、Trichoplusia niの卵巣細胞、カイコ卵巣由来の培養細胞等を宿主細胞として使用することができる。Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞としてはSf9、Sf21等、Trichoplusia niの卵巣細胞としてはHigh 5、BTI-TN-5B1-4(インビトロジェン社製)等、カイコ卵巣由来の培養細胞としてはBombyx mori N4等が挙げられる。
【0046】
昆虫細胞への組換えベクターの導入方法は、昆虫細胞にDNAを導入し得る限り特に限定されず、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等を使用することができる。
【0047】
〔形質転換体の培養〕
目的とするタンパク質をコードするDNAを組み込んだ組換えベクターを導入した形質転換体を通常の培養方法に従って培養する。形質転換体の培養は、宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
大腸菌や酵母等の微生物を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、該微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを使用してもよい。
【0048】
炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類を使用することができる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物等を使用することができる。無機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を使用することができる。
【0049】
形質転換体の培養は、振盪培養又は通気攪拌培養等の好気的条件下で行う。培養温度は通常30~37℃、培養時間は通常12~16時間であり、培養期間中はpHを6.0~8.0に保持する。pHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行うことができる。また、培養の際、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0050】
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0051】
動物細胞を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、EagleのMEM培地、α-MEM培地、DMEM培地又はこれら培地に牛胎児血清等を添加した培地等を使用することができる。形質転換体の培養は、通常5% CO2存在下、30~37℃で1~7日間行う。また、培養の際、必要に応じてカナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、ネオマイシン、ハイグロマイシン、ブラストサイジン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0052】
昆虫細胞を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているTNM-FH培地(ファーミンジェン社製)、TC-100 培地 (Gibco BRL社製)、Sf-900 II SFM培地(Gibco BRL社製)、ExCell400、ExCell405(JRHバイオサイエンシーズ社製)等を使用することができる。形質転換体の培養は、通常25~28℃で48~96時間行う。また、培養の際、必要に応じてゲンタマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0053】
目的とするタンパク質は、分泌タンパク質又は融合タンパク質として発現させることもできる。融合させるタンパク質としては、例えば、β-ガラクトシダーゼ、プロテインA、プロテインAのIgG結合領域、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ、ポリ(Arg)、ポリ(Glu)、プロテインG、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、ポリヒスチジン鎖(His-tag)、Sペプチド、DNA結合タンパク質ドメイン、Tac抗原、チオレドキシン、グリーン・フルオレッセント・プロテイン、ヘマグルチニンタンパク質(HA)-tag、FLAG-tag、Myc-tag、T7遺伝子10タンパク質、ウシパピローマウイルスL1タンパク質、VSV-G-tag等が挙げられる。
【0054】
〔タンパク質の単離・精製〕
形質転換体の培養物より目的とするタンパク質を採取することにより、目的とするタンパク質を得ることができる。ここで、「培養物」には、培養上清、培養細胞、培養菌体、細胞又は菌体の破砕物のいずれもが含まれる。
目的とするタンパク質が形質転換体の細胞内に蓄積される場合には、培養物を遠心分離することにより、培養物中の細胞を集め、該細胞を洗浄した後に細胞を破砕して、目的とするタンパク質を抽出する。目的とするタンパク質が形質転換体の細胞外に分泌される場合には、培養上清をそのまま使用するか、遠心分離等により培養上清から細胞又は菌体を除去する。
【0055】
こうして得られるタンパク質は、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、イオン交換クロマトグラフィー法、疎水性クロマトグラフィー法、ゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法等により精製することができる。
【0056】
タンパク質は、そのアミノ酸配列に基づいて、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によって製造することもできる。この際、市販のペプチド合成機を使用することができる。
【0057】
本発明の神経変性疾患の予防・治療剤は、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体、あるいはHMGBファミリータンパク質又はその誘導体を発現し得る組換えベクターのみから構成されていてもよいが、通常は、医薬上許容される1種以上の担体、添加剤、細胞にDNA又はタンパク質を導入するための試薬等をとともに常法に従って製剤化される。
【0058】
医薬上許容される担体としては、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース等が挙げられる。
【0059】
製剤化に際して使用される添加剤としては、例えば、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、賦形剤、安定化剤、抗菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤等が挙げられ、これらの添加剤は製剤の投与単位形態等に応じて適宜選択される。これらのうち、通常の蛋白製剤等に使用される成分、例えば、安定化剤、抗菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤等が好ましく選択される。細胞にDNA又はタンパク質を導入するための試薬は、導入方法に従って適宜選択される。
【0060】
添加剤の具体例を以下に列挙する。
安定化剤:ヒト血清アルブミン;グリシン、システイン、グルタミン酸等のL-アミノ酸;グルコース、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖等の二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等の多糖類及びそれらの誘導体等の糖類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース誘導体等。
界面活性剤:ポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルエ-テル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系等の界面活性剤。
緩衝剤:ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε-アミノカプロン酸、グルタミン酸及びそれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)。
等張化剤:塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリン等。
キレート剤:エデト酸ナトリウム、クエン酸等。
【0061】
投与経路及び投与剤形は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましい。投与経路の一般例としては、経口投与の他、脳内、腹腔内、口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内及び静脈内等の非経口投与が挙げられるが、本発明の神経変性疾患の予防・治療剤は、神経変性疾患の予防・治療を必要とする標的部位へ直接投与することが好ましい。標的部位への投与は、例えば、注射、カテーテル、切開術等を用いて行うことができる。投与剤形の一般例としては、例えば、噴霧剤、カプセル剤、リポソーム剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤等が挙げられる。
【0062】
本発明の神経変性疾患の予防・治療剤の投与量及び投与回数は、目的とする効果、患者の年齢や体重等に応じて適宜調節することができ、投与回数は投与量、投与経路、投与剤形等に応じて適宜調節することができる。
【0063】
予防・治療対象となる神経変性疾患は特に限定されるものではないが、ハンチントン病、脊髄小脳変性症、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、球脊髄性筋萎縮症等のポリグルタミン病に加え、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症等の神経変性疾患が挙げられる。本発明の神経変性疾患の予防・治療剤は、神経変性疾患おいて生じる神経細胞機能障害、神経細胞死等の予防・治療に特に有用である。
【0064】
本発明の神経変性疾患に対して予防・治療効果を有する物質のスクリーニング方法は、試験物質が、HMGBファリミータンパク質又はその誘導体と、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質との結合を阻害する否かを判別し、前記結合を阻害する試験物質を神経変性疾患に対して予防・治療効果を有する物質としてスクリーニングする工程、あるいは、試験物質が、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子の発現を誘導するか否かを判別し、前記発現を誘導する試験物質を神経変性疾患に対して予防・治療効果を有する物質としてスクリーニングする工程を含む。
【0065】
試験物質の種類は特に限定されるものではなく、例えば、高分子化合物、低分子化合物、細胞培養物、組織抽出物、抗体、タンパク質、ペプチド、核酸、糖質、無機塩類、金属錯体、これらの複合体等が挙げられる。なお、「核酸」には、DNA、RNA及びこれらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエートDNA等)が含まれる。
【0066】
試験物質が、HMGBファリミータンパク質又はその誘導体と、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質との結合を阻害する否かは、例えば、次のようにして判別できるが、判別方法はこれに限定されるものではない。
【0067】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質とを試験物質の存在下又は不存在下で接触させた後、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合量を測定し、試験物質の存在下における結合量と試験物質の不存在下における結合量とを比較する。その結果、試験物質の存在下における結合量が試験物質の不存在下における結合量よりも少なければ、試験物質が、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合を阻害すると判別することができる。
【0068】
ポリグルタミン病等の神経変性疾患は、HMGBファミリータンパク質が異常型ポリグルタミンタンパク質と結合して封入体に取り込まれ、核内で機能するHMGBファミリータンパク質が減少することにより生じる。したがって、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合を抑制できる物質は、核内で機能するHMGBファミリータンパク質の減少を抑制することにより、ポリグルタミン病等の神経変性疾患を予防・治療することができる可能性がある。すなわち、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合を抑制できる物質を、ポリグルタミン病等の神経変性疾患に対する予防・治療効果を有する物質としてスクリーニングすることができる。
【0069】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合を抑制できる物質は、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体、又は異常型ポリグルタミンタンパク質のいずれか一方に作用する物質であってもよいし、両方に作用する物質であってもよい。また、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合を抑制できる物質には、解離状態にある両者の結合を抑制できる物質、結合状態にある両者を解離させることができる物質等が含まれる。
【0070】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質とは、in vitroで接触させてもよいし、in vivoで接触させてもよい。
【0071】
in vitroで接触させる場合、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体、あるいは異常型ポリグルタミンタンパク質として、(i)目的とするタンパク質を発現している細胞又は組織から抽出した内因性タンパク質、(ii)目的とするタンパク質を発現できる組換えベクターを宿主細胞に導入して形質転換体を作製し、当該形質転換体の培養物から抽出した組換えタンパク質、(iii)化学合成したペプチド等を使用することができる。
【0072】
in vivoで接触させる場合、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体、あるいは異常型ポリグルタミンタンパク質として、(i)細胞内に存在する内因性タンパク質、(ii)目的とするタンパク質を発現できる組換えベクターを宿主細胞に導入することにより作製された形質転換体内に存在する組換えタンパク質等を使用することができる。
【0073】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質とを接触させる際、HMGBファミリータンパク質としては、野生型HMGBファミリータンパク質、又は神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性を保持する変異型HMGBファミリータンパク質を使用することができる。HMGBファミリータンパク質の誘導体としては、神経変性疾患において生じる異常型ポリグルタミンタンパク質に対する結合活性が保持される限り、いかなる誘導体も使用してもよく、例えば、糖鎖が付加されたHMGBファミリータンパク質、医薬的に許容されるHMGBファミリータンパク質の塩、HMGBファミリータンパク質を含む融合タンパク質、標識物質が付加されたHMGBタンパク質等を使用することができる。標識物質としては、例えば、フルオレセイン、ローダミン、フィコエリトリン、Cy系色素、Alexa系色素、BODIPY系色素等の蛍光性化合物;ルミノール、ルシゲニン、アクリジウムエステル等の化学発光性化合物;アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ等の酵素;ルシフェラーゼ、ルシフェリン等の生物発光性化合物;32P、35S等のラジオアイソトープ(RI)等が挙げられる。
【0074】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質とを接触させる際、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合に影響を与える条件を調節し、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合が試験物質の有無に依存するようにする。
【0075】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合に影響を与える条件としては、例えば、温度、溶媒の種類、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体の濃度、異常型ポリグルタミンタンパク質の濃度等が挙げられる。
【0076】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合量は、例えば、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合体量、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合によって生じるシグナル量等を指標として測定することができる。
【0077】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合体量は、例えば、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体及び異常型ポリグルタミンタンパク質のいずれか1種類以上に標識物質を付加しておき、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質とを接触させた後、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との複合体を分離し、当該複合体が有する標識物質量を指標として測定することができる。具体的には、GST pull down法を利用して次のように測定できる。HMGBファミリータンパク質又はその誘導体及び異常型ポリグルタミンタンパク質のいずれか一方にRIを付加するとともに、他方をGSTとの融合タンパク質としておき、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質を接触させた後、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との複合体をグルタチオンセファロースカラムに吸着させる。カラムを洗浄した後、カラムに結合したタンパク質を溶出する。溶出したタンパク質をSDS-PAGEに供してHMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との複合体を分離した後、当該複合体が有するRI量を指標として、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合体量を測定する。
【0078】
また、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合体量は、公知のタンパク質解析技術、例えば、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との複合体に反応できる抗体又はその断片を使用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA、組織免疫染色法等によって測定することができる。なお、「抗体」には、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれもが含まれ、「モノクローナル抗体」及び「ポリクローナル抗体」には全てのクラスのモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体が含まれる。また、「抗体の断片」には、Fab断片、F(ab)'2断片、単鎖抗体(scFv)等が含まれる。
【0079】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合によって生じるシグナルの種類は特に限定されるものではないが、例えば、レポーター遺伝子の発現、蛍光エネルギー移動(FRET)、表面プラズモン共鳴(SPR)又は水晶振動子の振動数移動による局所密度変化の検出等が挙げられる。
【0080】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合によって生じるシグナルがレポーター遺伝子の発現である場合、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合量は、例えば、転写活性化因子を利用して次のように測定することができる。
【0081】
同じ細胞内で、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体及び異常型ポリグルタミンタンパク質のいずれか一方を、転写活性化因子であるGAL4タンパク質のDNA結合ドメインとの融合タンパク質として発現させ、他方をアクティベータドメイン(TA)との融合タンパク質として発現させる。HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質とが相互作用しない場合、GAL4 DNA結合ドメインとアクティベータドメインとは近接せず、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質とが相互作用をする場合、GAL4 DNA結合ドメインとアクティベータドメインが近接することになる。後者のとき、UASGを上流にもつレポーター遺伝子が酵母細胞に導入されていれば、その発現量が上昇し、これによってHMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質の相互作用の有無及び強度を測定することができる。
【0082】
レポーター遺伝子としては、例えば、βガラクトシダーゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子等が挙げられ、レポーター活性としては、例えば、βガラクトシダーゼ活性、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ活性、ルシフェラーゼ活性、アンピシリン耐性、テトラサイクリン耐性、カナマイシン耐性等が挙げられる。
【0083】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合によって生じるシグナルが蛍光エネルギー移動(FRET)である場合、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合量は、例えば、次のように測定することができる。
【0084】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質のいずれか一方を蛍光タンパク質(ドナー)と融合するとともに他方を蛍光タンパク質(アクセプター)と融合しておき、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質とを接触させた後、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体と異常型ポリグルタミンタンパク質との結合によって生じる蛍光量を測定する。この際、蛍光タンパク質(ドナー)としては、CFP(cyan fluorescent protein)、蛍光タンパク質(アクセプター)としては、YFP(yellow fluorescent protein)を使用することができる。蛍光エネルギー移動(FRET)は、ある分子の蛍光団(ドナー)から他の分子の蛍光団(アクセプター)へ励起エネルギーが移動する現象で、励起された蛍光団はそのエネルギーを熱や新たな蛍光として放出する。蛍光エネルギー移動(FRET)が効率良く起こるためには、2つの分子がある程度近くにある必要があるので、細胞内で起こるタンパク質間の相互作用を検出する有効な手段として利用することができる。
【0085】
試験物質が、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子の発現を誘導するか否かは、例えば、次のようにして判別できるが、判別方法はこれに限定されるものではない。
【0086】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子を発現する細胞と試験物質とを接触させた後、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子の発現量を測定し、試験物質の接触後の発現量と、試験物質の接触前の発現量とを比較する。その結果、試験物質の接触後の発現量が試験物質の接触前の発現量よりも多ければ、試験物質が、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子の発現を誘導すると判別することができる。
【0087】
また、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子を発現するモデル動物に試験物質を投与した後、脳、脊髄、末梢神経等の組織におけるHMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子の発現量を測定し、試験物質投与後の発現量と、試験物質投与前の発現量とを比較する。その結果、試験物質投与後の発現量が試験物質投与前の発現量よりも多ければ、試験物質が、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子の発現を誘導すると判別することができる。
【0088】
ポリグルタミン病等の神経変性疾患は、HMGBファミリータンパク質が異常型ポリグルタミンタンパク質と結合して封入体に取り込まれ、核内で機能するHMGBファミリータンパク質が減少することにより生じる。したがって、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子の発現を誘導できる物質は、核内で機能するHMGBファミリータンパク質の減少を補うことにより、ポリグルタミン病等の神経変性疾患を予防・治療することができる可能性がある。すなわち、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子の発現を誘導できる物質を、ポリグルタミン病等の神経変性疾患に対する予防・治療効果を有する物質としてスクリーニングすることができる。
【0089】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子の発現を誘導できる物質には、遺伝子のmRNAへの転写を誘導できる物質、及びmRNAのタンパク質への翻訳を誘導できる物質が含まれる。
【0090】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子を発現する細胞としては、例えば、(i)目的とするタンパク質を内因性タンパク質として発現している細胞、(ii)目的とするタンパク質を発現できる組換えベクターを導入して作製した形質転換体等を使用することができる。
【0091】
モデル動物としては、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子を発現する動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ等)を使用することができる。モデル動物としては、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子を人為的に発現させたトランスジェニック動物を利用することもできる。
【0092】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子の発現量は、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体量、又はmRNA量に基づき測定することができる。
【0093】
HMGBファミリータンパク質又はその誘導体量は、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体に対する抗体又はその断片を用いて定量することができる。この際、例えば、放射能免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、化学発光測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)等を利用することができる。また、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体量は、HMGBファミリータンパク質又はその誘導体の活性を測定することによって行うこともできる。HMGBファミリータンパク質又はその誘導体の活性は、例えば、当該タンパク質に反応し得る抗体又はその断片を利用したウェスタンブロッティング法、ELISA法等の公知の方法によって測定することができる。なお、「抗体」には、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれもが含まれ、「抗体の断片」には、所定のタンパク質に反応し得る限り、いかなる断片も含まれる。抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab)'2断片、単鎖抗体(scFv)等が挙げられる。「反応し得る」には、所定のタンパク質のいずれの部分と反応する場合も含まれる。
【0094】
mRNA量の測定にあたっては、公知の遺伝子解析技術、例えば、ハイブリダイゼーション技術(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイ法等)、遺伝子増幅技術(例えば、RT-PCR等)等を利用することができる。mRNAの存在量の具体的測定方法について、RT-PCRを利用する場合を例にして説明する。HMGBファミリータンパク質又はその誘導体をコードする遺伝子を発現する細胞から全RNAを得た後、オリゴdT-セルロースやポリU-セファロース等を用いたアフィニティーカラム法、バッチ法等によりポリ(A)+RNA(mRNA)を得る。cDNAを合成した後、合成したcDNAを鋳型とし、当該cDNAにハイブリダイズし得るプライマーセットを用いてPCRを行い、PCR増幅断片を定量することによってmRNAの存在量を測定する。この際、PCRは、PCR増幅断片生成量が初期鋳型cDNA量を反映するような条件(例えば、PCR増幅断片が指数関数的に増加するPCRサイクル数)で行う。PCR増幅断片の定量方法は特に限定されるものではなく、PCR増幅断片の定量には、例えば、ラジオアイソトープ(RI)を用いた定量方法、蛍光色素を用いた定量方法等を利用することができる。RT-PCRを利用する場合には、例えばABI PRISM 7700(Applied Biosystems社)等の市販の装置を利用して、遺伝子増幅過程をリアルタイムでモニターリングすることにより、PCR増幅断片のより定量的な解析を行うことができる。
【0095】
遺伝子の発現レベルの測定値は、発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、β-アクチン遺伝子、GAPDH遺伝子等のハウスキーピング遺伝子)の発現レベルの測定値に基づいて補正することが好ましい。
【0096】
スクリーニングされた物質は、例えば、ハンチントン病、脊髄小脳変性症、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、球脊髄性筋萎縮症等のポリグルタミン病に加え、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症等の神経変性疾患の予防・治療に有用であり、これら神経変性疾患おいて生じる神経細胞機能障害、神経細胞死等を予防・治療することができる。
【実施例】
【0097】
1.方法
(1)初代神経細胞の培養及び核抽出物の調製
皮質神経細胞及び小脳神経細胞を公知の方法(Tagawa, K. et al., J. Neurochem. 89, 974-987. (2004) ; Fernandez-Funez, P. et al., Nature 408, 101-106. (2000))により調製し、培養した。AxCAwt、AxCAwt-HMGB1、AxCAwt-HMGB2、AxCA-htt20Q、AxCA-Htt111Q、AxCA-AT1-30Q又はAxCA-AT1-82Qを感染させた後2日目に、神経細胞を回収した。6×107個の初代神経細胞から、公知の方法(Dignam, J.D. et al., Nucleic Acids Res. 11, 1475-1489. (1983) ; Okamoto, K. et al., Cell 60, 461-472. (1990))により核抽出物を調製した。すなわち、細胞を8倍容量の溶解用緩衝液(20mM HEPES (pH 7.9), 1mM EDTA (pH 8.0), 1mM DTT, 10% グリセロール, 0.5mM スペルミジン, 1mM フェニルメチルスルホニルフルオライド, 1μg/ml ロイペプチン, 1μg/ml ペプスタチンA, 0.3μg/ml アンチパイン, 0.3% NP-40)中に懸濁し、DounceホモジナイザータイプBを用いてホモジナイズした。分離した核を遠心に供した後、1M KClを含有する溶解用緩衝液に再懸濁し、4℃、100,000×gで30分間遠心に供した。上清を回収し、PlusOneTM mini dialysis kit(Amersham Biosciences)を用いて溶解用緩衝液に対して4℃で一晩透析した。溶液を17,400×gで15分間遠心に供し、上清を核抽出物として使用した。なお、そのアリコートを-80℃で保存した。
【0098】
(2)二次元ゲル電気泳動及び銀染色
核抽出物を上記のように調製し、定量した(BioRad)。二次元ゲル電気泳動は、標準的方法(Amersham Biosciences)に従って行った。すなわち、核抽出物 50μgを8M 尿素及び2% CHAPSに対して2時間透析し(2回)、固定化pHグラジエントゲル(immobilized pH gradient gel:IPG)片(pH 3-10, 18cm, Amersham Biosciences)中で一晩再水和した。等電点電気泳動(Isoelectric focusing:IEF)は、Electrophoresis Power Supply ESP 3500 XL(Pharmacia Biotech)を用いて、500Vで1分間、3500Vで1.5時間及び3500Vで16時間の条件で行った。IPG片は、IEF後直ちに使用するか、又は-80℃で保存した。二次元電気泳動による分離後、IPG片を50mM Tris-HCl (pH 8.8)、6M 尿素、30% グリセロール、2%(w/v) SDS及び0.0125% ブロモフェノールブルーで10分間平衡化した(2回)。なお、1回目の平衡化の際には、10mg/ml ジチオスレイトールを添加し、2回目の平衡化の際には、25mg/ml ヨードアセトアミドを添加した。その後、IPG片をポリアクリルアミドゲル(ExcelGel XL SDS 12-14, 245×180×0.5mm)上に置き、1000V/20mAで45分間及び1000V/40mAで2時間40分間電気泳動した。電気泳動後直ちにポリアクリルアミドゲルを銀染色キット(Amersham Biosciences)で染色し、ImageMaster 2D Elite ver. 4.01(Amersham Biosciences)でスキャンしてタンパク質スポットを定量化した。
【0099】
(3)ゲルのトリプシン消化及びTOF-Mass
TOF-MASSによるスポット同定のために、二次元電気泳動を再度行い、ゲルをSilver Stain MS kit(Wako)で染色した。ポリアクリルアミドゲルの候補スポットを、A及びB溶液(Silver Stain MS kit, Wako)で脱染色した。ゲルを50% アセトニトリル(Aldrich)、50mM 炭酸アンモニウム中で10分間インキュベートし(3回)、さらに100% アセトニトリル中で5分間インキュベートし、室温で10分間乾燥させた。ゲルを、20μlの消化用溶液(50ng/μl sequence grade トリプシン(Promega), 30% アセトニトリル, 50mM 炭酸アンモニウム)中、30℃で一晩消化し、30分間真空乾燥し、0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)で再溶解した。溶液中のペプチドをZiPtip(Millipore)を通過させることにより回収し、脱塩及び精製のために0.1% TFAで3回洗浄し、1μlの溶出用溶液(10μg/μl α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(CHCA), 50% アセトニトリル, 0.1% TFA)で溶出し、SHIMAZU/KRATOS MALDI-TOF/MS AXIMA-CRF(SHIMAZU BIOTECH)に供した。生じた1をAXIMA-CFR(S/W Version 2)で解析し、結果をMASCOT(http://www.matrixscience.com)リサーチエンジン(NCBIデータベースへ照会する)に提出し、対応するタンパク質を同定した。
【0100】
(4)免疫細胞化学
HeLa細胞(5×104)及び皮質由来初代神経細胞(1.7×106)を6cmディッシュで培養し、アデノウイルスベクター感染2日後に固定した(Tagawa, K. et al., J.Neurochem. 89, 974-987. (2004))。1次抗体としては、抗Httヤギポリクローナル抗体(N-18;1:100;Santa Cruz)、抗AT1ヤギポリクローナル抗体(H21;1:100;Santa Cruz)、抗HMGB1ウサギポリクローナル抗体(1:1000;BD Bioscience)及び抗HMGB2ウサギポリクローナル抗体(1:200;BD Biosciences)を使用し、2次抗体としては、Alexa Flour 488抗ヤギ抗体(Molecular Probes)及びCy3 抗ウサギ抗体(Jackson Immuno-Rearch)を使用した。細胞を最初にH21又はN-18と室温で1時間インキュベートし、次いでAlexa Flour 488 抗ヤギ抗体(2次抗体)と室温で1時間インキュベートした。二重染色のために、細胞を5%スキムミルクと30分間インキュベートし、抗HMGB1抗体又は抗HMGB2抗体と4℃で一晩インキュベートし、Cy3 抗ヤギ抗体(2次抗体)と室温で1時間インキュベートした。
【0101】
(5)ウエスタンブロット解析
サンプルをサンプルローディング用緩衝液(62.5mM Tris/HCl (pH6.8), 2%(w/v) ドデシル硫酸ナトリウム(SDS), 2.5%(v/v) 2-メルカプトエタノール, 5%(v/v) グリセリン, 0.0025%(w/v) ブロモフェノールブルー)に溶解し、100℃で3分間加熱した。電気泳動後、ゲルをポリビニリデンジフルオライド膜(Fine Trap, Nihon Eido)に転写し、1次抗体とインキュベートし、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合2次抗体と1時間インキュベートし、enhanced chemiluminescence Western Blotting Detection System(Amersham Biosciences)により可視化した。1次抗体の希釈条件は次の通りである。1C2(1:2000;Chemicon),CAG53b(1:2000)(Scherzinger, E. et al., Cell. 90, 549-558. (1997)),HMGB1(1:5000;BD Biosciences),HMGB2(1:2000;BD Biosciences),AT1H21(1:500;Santa Cruz),GFP(1:1000;Clontech)
【0102】
(6)免疫沈降
10cmディッシュ中のHeLa細胞(1×106個)にpEGFP-N1、pEGFP-N1-HMGB1又はpEGFP-N1-HMGB2をSuperFect(invitrogen)によりトランスフェクトした。また、アデノウイルスベクター(AxCAwt、AxCA-HMGB1、AxCA-HMGB2、AxCA-htt20Q、AxCA-htt111Q、AxCA-AT1-30Q又はAxCA-AT1-82Q)を上記と同様に感染させた。免疫沈降は、公知の方法(Okazawa, H. et al., Neuron. 34, 701-713. (2002))に従って実施した。すなわち、HeLa細胞を回収し、TNE緩衝液(10mM Tris-HCl(pH7.8),10% NP-40,0.15M NaCl,1mM EDTA)中、4℃で1時間インキュベートし、17,400×gで20分間遠心した。上清をプロテインG-セファロース(Amersham Biosciences)と4℃で2時間プレインキュベートした後、遠心した。上清を抗HMGB1抗体(1:600,BD Biosciences)、抗HMGB2抗体(1:600,BD Biosciences)又は抗GFP抗体(1:600,Clontech)と一晩インキュベートし、プロテインG-セファロースと2時間インキュベートした。プロテインGビーズを遠心(2,000×gで5分)により回収し、TNE緩衝液で5回洗浄した。結合タンパク質をサンプル緩衝液で溶出し、SDS-PAGEで分離し、CAG53b抗体(Scherzinger, E. et al., Cell. 90, 549-558. (1997))でブロットした。
【0103】
(7)プルダウンアッセイ
GST、GST-HMGB1/2、HMGB1/2-△C1及びHMGB1/2-△C2融合タンパク質を発現させ、製造業者のプロトコル(Glutathione Sepharose 4 FastFlow;Amersham Pharmacia Biotech)に従って精製した。すなわち、大腸菌BL21にpGEX-3X、pGEX-3X-HMGB1/2、pGEX-3X-HMGB1/2-△C1又はpGEX-3X-HMGB1/2-△C2プラスミドをトランスフェクトし、培養した。融合タンパク質をIPTG(1.0mM)により誘導した。大腸菌を回収し、1mM EDTA及び1mM PMSFを含有するPBS中に懸濁させ、超音波処理し、Triton-100(1%)を加えて4℃で30分間インキュベートし、10,000×gで5分間遠心した。上清をグルタチオン-セファロース4B(Amersham Biosciences)ビーズで精製した。GST融合タンパク質をグルタチオン緩衝液(50mM Tris-HCl,10mM Glutatione-reduced form)で溶出し、上清を500×gで遠心して回収した。GST融合タンパク質をウエスタンブロットにより検出した。プルダウンアッセイのために、IP用サンプルをGS4Bビーズと振盪しながら4℃で1時間プレインキュベートした。上清を遠心により回収し、GST、GST-HMGB1/2、GST-HMGB1/2-△C1、GST-HMGB1/2-△C2と一晩インキュベートした。GS4Bビーズを遠心(2,000×gで5分)により回収し、TNE緩衝液で5回洗浄した。結合タンパク質をサンプル緩衝液で溶出し、SDS-PAGEで分離し、CAG53b抗体(Scherzinger, E. et al., Cell. 90, 549-558. (1997))でブロットした。
【0104】
(8)トランスジェニックマウス脳の免疫組織化学
64週齢R6/2ハンチンチントランスジェニックマウス(Scherzinger, E. et al., Cell. 90, 549-558. (1997))又は40週齢SCA1(154Q/2Q)ノックインマウス(Watase, K. et al., Neuron. 34, 905-919. (2002))及びそれらの同腹子から脳組織を調製した。切片を脱パラフィンし、再水和し、0.1M 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)で前処理した。SCA1(154Q/2Q)ノックインマウス用として、切片を11NQ(抗ポリグルタミンウサギポリクローナル抗体,1:100,ref35)とインキュベートし、次いでAlexa flour 488抗ウサギ抗体(Molecular Probes)と室温で1時間インキュベートした。ハンチンチントランスジェニックマウス用として、切片を0.3% 過酸化水素で30分間処理し、内因性過酸化水素を阻害し、抗Httヤギポリクローナル抗体(N-18;1:20;Santa Cruz)及び抗ヤギHRP標識2次抗体とそれぞれ室温で1時間インキュベートした。次いで、切片をFlurorescine Amplification Reagentを用いて室温で5分間検出した(1:50;TSA BIOTIN SYSTEM;PerkinElmer)。二重染色のために、切片を5% スキムミルク-PBSでブロッキングした後、さらに抗HMGB1ウサギポリクローナル抗体(1:100;BD Bioscience)又は抗HMGB2ウサギポリクローナル抗体(1:50;BD Bioscience)と4℃で一晩、Cy3抗ウサギ二次抗体と室温で1時間インキュベートした。um2あたりのシグナル強度をAquacosmos(HAMAMATSU)により測定した。
【0105】
(9)クローニング及びプラスミド構築
プラスミドpBS-HMGB1/2、pEGFP-N1-HMGB1/2、pCI-HMGB1/2及びpGEX-3X-HMGB1/2は、それぞれ、プラスミドpBluescript II SK+ (Clontech)、pEGFP-N1 (Clontech)、pCI-neo (Clontech)及びpGEX-3X (Amersham) にラット由来の全長HMGB1 cDNA(配列番号9)又はHMGB2 cDNA(配列番号11)を挿入することにより構築した。pGEX-3X-HMGB1-△C1/2及びpGEX-3X-HMGB2-△C1/2は、pGEX-3XにC末端領域欠損HMGB1 cDNA又はHMGB2 cDNAを挿入することにより構築した。全ての構築物について、配列解析による確認を行い、コードされるタンパク質の発現レベルをウエスタンブロットにより調べた。なお、pGEX-3X-HMGB1-△C1に含まれるC末端領域欠損HMGB1 cDNAは、ラットHMGB1(215アミノ酸、配列番号10)の1-186アミノ酸をコードする領域を含み、pGEX-3X-HMGB1-△C2に含まれるC末端領域欠損HMGB1 cDNAは、ラットHMGB1(215アミノ酸、配列番号10)の1-146アミノ酸をコードする領域を含む。また、pGEX-3X-HMGB2-△C1に含まれるC末端領域欠損HMGB2 cDNAは、ラットHMGB2(210アミノ酸、配列番号12)の1-186アミノ酸をコードする領域を含み、pGEX-3X-HMGB2-△C2に含まれるC末端領域欠損HMGB2 cDNAは、ラットHMGB2(210アミノ酸、配列番号12)の1-165アミノ酸をコードする領域を含む。
【0106】
(10)アデノウイルス構築及び発現確認
アデノウイルスAxCA-HMGB1及びAxCA-HMGB2は、製造業者の説明書(Takara)に従って構築した。すなわち、HMGB1及びHMGB2 cDNA断片をそれぞれpBS-HMGB1及びpBS-HMGB2からXhoI-EcoRI断片として切り出し、Blunting kit(TOYOBO)を用いて平滑末端化し、pAxCAwt(Takara)のSwaI部位にサブクローニングした。これらのアデノウイルスによるHMGB1及びHMGB2タンパク質の発現は、使用前に確認した。アデノウイルスベクターAxCA-htt111Q及びAxCA-htt20Qは、それぞれ111個及び20個のポリグルタミン鎖をコードする3塩基(CAG)の繰り返し配列が付加されたヒトHttエクソンIを含み、AxCA-AT1-30Q及びAxCA-AT1-82Qは、それぞれ30個及び82個のポリグルタミン鎖をコードする3塩基(CAG)の繰り返し配列が付加された全長ヒトAT1 cDNAを含み、これらのアデノウイルスベクターは公知の方法により構築した(Tagawa, K. et al., J. Neurochem. 89, 974-987. (2004))。
【0107】
(11)プルキンエ細胞の初代培養
小脳神経細胞は、20-21日齢Wistarラット胎児から調製し、公知の方法(Hirai, H. et al., J. Neurosci. 20, 5217-5224. (2000))で培養し、プルキンエ細胞の生育及び樹状突起分化のための解析を行った。すなわち、ポリL-オルニチンでコーティングした12ウェルプレートに、40μl(5×106細胞/ml)の播種用溶液(10% FBS含有DMEM/F-12)を用いて、2×105細胞/ウェルの細胞を播種した。播種3時間後、FBSを含有しない培養液 1mlを添加した。播種後17日目に、小脳神経細胞にアデノウイルスベクターを感染させ、その4日後に固定化した。プルキンエ細胞の形態学的分析のために、抗マウスモノクローナル calbindin-28k 抗体(1:200,Sigma-Aldrich)を用いて、室温で1時間、免疫染色を行った。
【0108】
(12)細胞死アッセイ
初代皮質神経細胞の細胞死アッセイのために、6ウェルプレートの神経細胞(1.6×105細胞/ウェル)に、播種3日後、AxCA、AxCA-HMGB1、AxCA-HMGB2、AxCA-htt20Q又はAxCA-htt111Q(m.o.i 300)を感染させた。その48時間後、1:1000に希釈したヨウ化プロピジウム(PI)を培養液に加え、20分間インキュベートした。神経細胞を洗浄し、1% パラホルムアルデヒドを含有する0.1M リン酸緩衝液で洗浄し、PI陽性細胞をカウントした。
【0109】
(13)BrU 転写アッセイ
AxCA、AxCA-HMGB1、AxCA-HMGB2、AxCA-htt20Q、AxCA-htt111Q、AxCA-AT1-30Q又はAxCA-AT1-82Qの感染3日後、初代神経細胞をBrUと3時間インキュベートし、1% パラホルムアルデヒド含有0.1M リン酸緩衝液で固定化し、抗BrUマウスモノクローナル抗体(1:200,Sigma-Aldrich)で染色した。BrU免疫反応性は公知の方法(Hoshino, M. at al., Biochem Biophys Res Commun. 313, 110-116. (2004))で定量した。
【0110】
(14)ショウジョウバエ遺伝学
ハエの培養及び交配は25℃で行った。P{GMR-GAL4}(BL8121)、P{GMR-HD120Q}(BL8533)(Jackson, G.R. et al., Neuron. 21, 633-642. (1998))は、Bloomington Stock Centerから得た。ヒト変異型AT1トランスジェニックハエ(y1w1118UAS:SCA182Q[F7];GMR-GAL4)は公知である(Fernandez-Funez, P. et al., Nature. 408, 101-106. (2000))。UAS-HMGB1トランスジェニックハエは、pUASTトランスフォーメーションベクターにラットcDNAをクローニングし、DNA構築物を分割w(cs10)卵(Dura, J.M. et al., J Neurogenet. 9, 1-14. (1993))に導入することにより作成した(Rubin, G.M. et al., Science. 218, 348-353. (1982))。ヒトhtt120Q又はSCA182Qの発現により誘起される光受容体神経細胞変性及び/又は特徴的な目の表現型に対するHMGB1の効果をF1集団間で比較するために、オスy1w1118UAS:SCA182Q[F7];GMR-GAL4又はGMR-HD120Q;GMR-GAL4を、メスUAS-HMGB1/Cyoと交配させた。遺伝子型の評価のために、異なるオスとの独立した交配を少なくとも4回行った。
【0111】
(15)ショウジョウバエ組織学
ハエ光受容体神経細胞の切片を得るため、成虫ハエ(0-10日)の頭を2%ホルムアルデヒド及び2.5%グルタルアルデヒド含有0.1M リン酸緩衝液(PB)で、4℃、一晩固定化した後、1% オスミウムで、室温、3時間固定化し、次いで、エタノールで脱水し、Eponに組み込み、縦断面及び横断面の切片(2μm)を作成し、toluidene blueで染色した。電子顕微鏡(SEM)のために、ハエの頭を2.5% グルタルアルデヒド含有0.1M PBで固定化した後、1% オスミウム含有0.1M PBで固定化し(それぞれ4℃で2時間)、エタノールで脱水し、臨界点乾燥した。各遺伝子型及び時間について、少なくとも5個体を用いた。
【0112】
2.結果及び考察
変異型ポリグルタミンタンパク質により引き起こされる核機能障害のパターンを理解するためには、転写、RNA修飾、クロマチン再構築等が行われるドメインにおける可溶性核タンパク質量の変化を定量することが必要である。しかしながら、核封入体の成分については知られているものの、核マトリックスにおける可溶性タンパク質の変化については知られていない。
【0113】
そこで、変異型ハンチンチン(Htt111Q)又は変異型アタキシン-1(AT1-82Q)を発現する初代神経細胞における可溶性タンパク質のプロテオーム解析を行った。なお、ハンチンチン(huntingtin:Htt)はハンチントン(Huntington's disease:HD)の原因遺伝子産物であり、アタキシン-1(ataxin-1:AT1)は1型脊髄小脳性運動失調症(spinocerebellar ataxia type 1:SCA1)の原因遺伝子産物である。
【0114】
核封入体を含まない核マトリックスから可溶性タンパク質を単離するために、核タンパク質精製の標準プロトコル(Dignam, J.D. et.al., Nucleic Acids Res. 11, 1475-1489 (1983))に従う図1に示す工程を行った。ポリグルタミンを発現するアデノウイルスベクターのトランスフェクション2日後(細胞死が生じる前)、核を神経細胞から分離した。核膜を穿孔することなく、核タンパク質を塩化カリウムの浸透圧により溶出させた。凝集体が完全に除去されていることを、ウエスタンブロット解析により確認した(図2)。Httタンパク質の凝集体(ゲル上部に堆積)は、予想通り核ペレットに含有されていた(図2,棒線)。AT1タンパク質の大部分も除去された(図2,矢印)。核抽出物を低カリウム緩衝液で透析した後、遠心することにより核膜を透過可能な非可溶性タンパク質を分離した。遠心後、上清を二次元電気泳動に供した(図2,レーン2)。可溶性核タンパク質フラクションは、変異型タンパク質の大きな凝集体及び小さな中間体又は変性体のいずれも含まなかった(図2,レーン2)。変異型ポリグルタミンタンパク質は、核抽出物のうち、核フラクション又は非可溶性フラクションに分離された(図2,レーン1及び3)。変異型タンパク質を含有する非可溶性フラクションは、この実験ではこれ以上使用しなかった。AT1及びHttタンパク質の予想分子量はそれぞれ93.6及び21.5kDであり、立体構造変化によりSDS-PAGEにおける移動が遅れたために、主要バンドが予想分子量よりも大きくなったと考えられる(図2)。オリゴマー又はマルチマーの形成も、非可溶性フラクションにおいて高分子量バンドを発生させ得ると考えられる(図2,レーン1及び3)一方、低分子量バンドは分解産物に相当すると考えられる。なお、図2は、変異型ポリグルタミンタンパク質(AT1-82Q)発現皮質神経細胞又は変異型ポリグルタミンタンパク質(Htt111Q)発現皮質神経細胞の細胞溶解物全体(レーン1)、同細胞から調製した核抽出物の可溶性タンパク質フラクション(レーン2)及び非可溶性フラクション(レーン3)に関する、CAG53b抗体(Sherzinger, E. et al. Cell. 90, 549-558. (1997))を用いたウエスタンブロット解析の結果を示す。各ポリグルタミンタンパク質の特異的バンド(AT1-82Qのレーン1,Htt111Qのレーン1)を矢印で示す。高分子量の変異型Htt凝集体(ゲル上部に堆積)を棒線で示す。AT1-82Q(レーン1,矢印)の主要バンドは核抽出により消失した(レーン2,3)。これは、AT1-82Qが核膜孔を透過できず核内に残存したことを示す。一方、Htt111Qは核から抽出されたが、非可溶性のために調製中に沈殿した(レーン3,矢印)。変異型タンパク質は可溶性核タンパク質フラクション中では検出されなかった。
【0115】
正常型又は変異型ポリグルタミンタンパク質を発現する皮質又は小脳初代神経細胞由来の可溶性核タンパク質を、二次元ゲル上で分離した。コントロールとして、非感染神経細胞及びAxCA mockウイルス感染神経細胞由来の可溶性タンパク質を用いた。解析は独立して3回行った。銀染色により二次元ゲル上に約400スポットが検出され、これらのスポットに順に番号を付けた。400スポットのシグナル強度をImageMaster 2D Elite ver.4.01(Amersham Biosciences)により定量し、正常型ポリグルタミンタンパク質発現ベクター(AxCA-htt20Q)感染、変異型ポリグルタミンタンパク質発現ベクター(AxCa-htt111Q)感染、AxCA mockベクター(AxCA)感染及び非感染の神経細胞間で比較した。正常型及び変異型ポリグルタミンタンパク質を発現する神経細胞間の相違に焦点を当て、大きな相違(2倍以上)を示すスポットをTOF-MASS解析用に選択した。代表的なスポットを拡大して示す(図3)。このスポットのタンパク質は、正常型Htt(Htt20Q)発現皮質神経細胞と比較して、変異型Htt(Htt111Q)発現皮質神経細胞において、発現が劇的に減少していた。このスポット由来のペプチドマスフットプリントについて、Mascot Reserch Engineを用いてさらに解析した。その結果、このスポットがHMGB1であることが判明した。類似の解析を、正常型AT1(AT1-30Q)又は変異型AT1(AT1-82Q)を発現する皮質神経細胞、及び正常型AT1又は変異型AT1あるいは正常型Htt又は変異型Httを発現する小脳神経細胞について行った。次いで、ゲルから切り出した200スポットをTOF-MASSに同様に供した。いくつかのスポットは数個の候補タンパク質に対応し、等電点による同定が可能であった。これらのうち59タンパク質が最終的に同定され、それらのスポットに関して、正常型及び異常型ポリグルタミンタンパク質発現神経細胞間のシグナル強度の比率を求めた結果、HD又はSCA1患者において、変異型Htt及びAT1は定常的にHMGBファミリータンパク質を減少させることが明らかとなった(表1)。表1に示すように、HMGB1及び2は、変異型AT1を発現する小脳神経細胞及び変異型Httを発現する皮質神経細胞において減少していた。小脳及び皮質神経細胞は、それぞれSCA1及びHDにおいて悪影響を受ける。一方、HMGBタンパク質は、変異型AT1を発現する皮質神経細胞では減少しなかった。皮質神経細胞はSCA1では悪影響を受けない。核抽出物の可溶性フラクションにおけるHMGB1及び2の減少は、ウエスタンブロットにより再確認した(データは示さない)。
【0116】
【表1】
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【0117】
HMGBファミリータンパク質及び変異型ポリグルタミンタンパク質の関係を解析するため、変異型ポリグルタミンタンパク質を発現する初代神経細胞の免疫組織化学を行った。皮質神経細胞の封入体において、HMGB1及び2は、変異型Htt又はAT1とともに共局在していた(図4)。変異型ポリグルタミン凝集体を有する細胞の場合、封入体の外側の核マトリックスにおいて、HMGB1及び2は減少していた(図4)。外因性HMGB及び過剰発現変異型ポリグルタミンタンパク質に関する類似の共局在が、HeLa細胞において観察された(データは示さない)。このことは、変異型ポリグルタミンタンパク質がHMGB1及び2と相互作用することを示唆する。なお、図4は、抗HMGBタンパク質抗体及び抗Htt(N18)抗体又は抗AT1(H21)抗体による、アデノウイルスベクター感染初代皮質神経細胞(感染後3日)の免疫組織化学を示し、白色矢印は、核マトリックスにおいてHMGBタンパク質が減少していた、核封入体を有する細胞を示す。
【0118】
HMGBファミリータンパク質及びポリグルタミンタンパク質が相互作用することを試験するために、免疫沈降及びプルダウンアッセイを行った。免疫沈降の前に、様々な抗ポリグルタミン抗体の特異性をウエスタンブロット解析により特徴付けた(データは示さない)。CAG53b抗体は、正常型及び変異型ポリグルタミンタンパク質(AT1及びHtt)と反応した。抗AT1抗体(H21)は、正常型及び変異型AT1を検出したが、Httは検出しなかった。1C2抗体は、変異型Htt及びAT1に優先的に反応した。これらの特異性を考慮し、免疫沈降及びプルダウンアッセイは、CAG53b抗体を用いて行った。
【0119】
pEGFP-N1-HMGB1/2プラスミドをHeLa細胞にトランスフェクションした後、正常型又は変異型ポリグルタミンタンパク質発現アデノウイルスベクターを感染させ、正常型又は変異型ポリグルタミンタンパク質を発現させた。ポリグルタミンタンパク質及びHMGB-EGFPタンパク質の発現レベルは、CAG53b抗体及び抗GFP抗体を用いたウエスタンブロットによりチェックした(図5の左パネル)。免疫沈降は、抗HMGB又は抗EGFP抗体を用いて行った。変異型ポリグルタミンタンパク質は、HMGB1及びHMGB2と共沈殿したが、正常型ポリグルタミンタンパク質はしなかった(図5の右パネル)。ポリグルタミンタンパク質を発現するHeLa細胞を用いたプルダウンアッセイにより、変異型ポリグルタミンタンパク質とHMGBタンパク質との相互作用が確認された(図6)。なお、図5中、レーン1はpEGFP-N1-HMGB1トランスフェクション及びAxCA感染、レーン2はpEGFP-N1-HMGB1トランスフェクション及びAxCA-AT1-30Q感染、レーン3はpEGFP-N1-HMGB1トランスフェクション及びAxCA-AT1-82Q感染、レーン4はpEGFP-N1-HMGB2トランスフェクション及びAxCA感染、レーン5はpEGFP-N1-HMGB2トランスフェクション及びAxCA-AT1-30Q感染、レーン6はpEGFP-N1-HMGB2トランスフェクション及びAxCA-AT1-82Q感染、レーン7はpEGFP-N1-HMGB1トランスフェクション及びAxCA感染、レーン8はpEGFP-N1-HMGB1トランスフェクション及びAxCA-htt20Q感染、レーン9はpEGFP-N1-HMGB1トランスフェクション及びAxCA-htt111Q感染、レーン10はpEGFP-N1-HMGB2トランスフェクション及びAxCA感染、レーン11はpEGFP-N1-HMGB2トランスフェクション及びAxCA-htt20Q感染、レーン12はpEGFP-N1-HMGB2トランスフェクション及びAxCA-htt111Q感染の結果であり、AはAT82Qを表し、HはHtt111Qを表す。また、図6中、レーン1はAxCA感染、レーン2はAxCA-AT1-30Q感染、レーン3はAxCA-AT1-82Q感染、レーン4はAxCA感染、レーン5はAxCA-htt20Q感染、レーン6はAxCA-htt111Q感染の結果であり、AはAT82Qを表し、HはHtt111Qを表す。
【0120】
さらに、変異型Httトランスジェニックマウス及びAT1ノックインマウスを用いた免疫組織化学による解析を行った。変異型Httトランスジェニックマウスを用いた結果により、封入体におけるHMGB及び変異型ポリグルタミンタンパク質の共局在、及び封入体を有する神経細胞の核マトリックスにおけるHMGBの減少が確認された(図7)。なお、図7の左パネルは、Httトランスジェニックマウスの線条体神経細胞の封入体において、HMGBが変異型Httタンパク質と共局在することを示し、64週齢R6/2マウスの線条体は抗Htt(N-18)及びHMGB抗体で染色した。また、図7の右パネルは、100以上の神経細胞から得られた核マトリックスのシグナル強度の定量的解析結果を示し、この結果から、封入体陽性細胞の核マトリックスにおけるHMGBの減少が明らかとなった(*:p<0.01,Student t-test)。変異型Httトランスジェニックマウスとは対照的に、封入体は、プルキンエ細胞と同様に、AT1ノックインマウスの神経細胞ではほとんど観察されなかった。一方、海馬及び大脳皮質では、多数の封入体が観察された(データは示さない)。AT1ノックインマウス(AT1-KI)の組織免疫化学により、HMGBはプルキンエ細胞及び顆粒細胞の核マトリックスにおいて減少することが明らかとなった(図8)。なお、図8の上パネルは、11NQ抗体を用いたAT1ノックインマウスの免疫組織化学による解析結果を示し、下パネルはそれぞれ100以上の細胞から得られたシグナルの定量的解析結果を示す(*:p<0.01,**:p<0.05,Student t-test)。上記結果は、変異型AT1タンパク質を発現する初代脳神経細胞の可溶性核タンパク質フラクションにおけるHMGBタンパク質の減少と一貫する。コントロールマウスにおけるHMGBレベルは、他の神経細胞よりもプルキンエ細胞において減少した。AT1ノックインマウスのプルキンエ細胞において、HMGBの核シグナルは、細胞質シグナルよりもさらに減少した(図8)。これらの結果は、封入体へのHMGBの取り込みは、HMGBの減少にとって必須ではないが、その減少は、HD及びSCA1モデルマウスの神経細胞における共通の特徴の特徴であることを示唆する。HMGB及び凝集前ポリグルタミンタンパク質(モノマー又はオリゴマー)間の相互作用は、HMGBの減少に重要であるが、タンパク質複合体の変性様式は2つのマウスモデルで異なると考えられる。HMGBの減少が、ポリグルタミン病にどのように影響するかを調べるために、アデノウイルスベクターを用いたHMGBの供給により、初代神経細胞がポリグルタミンタンパク質毒性から保護されるか否かを試験した。まず、皮質神経細胞のHtt誘導細胞死に対するHMGBタンパク質の影響を観察した。細胞死はバックグラウンドレベルまで減少した(図9a)。このことは、HMGBがHtt誘導細胞死を抑制できることを示す。変異型HttがHMGBとともに発現されていること確認した(図9b)。Httトランスジェニックマウス由来の初代神経細胞をこのアッセイに用いた。なお、図9aは、皮質神経細胞の変異型Htt誘導細胞死に対するHMGBの抑制効果を示し、細胞死の割合はアデノウイルスベクター感染3日後のPI陽性細胞の割合により算出した。図9aに示されるように、細胞死はHtt111Qを発現するアデノウイルスベクターにより増加し、この増加はAxCA-HMGB1又は2の共感染により抑制されたが、mockアデノウイルスベクターの共感染により抑制されなかった。また、図9bは、初代皮質神経細胞におけるHtt及びHMGBタンパク質の発現レベルの、ウエスタンブロットによる確認結果を示す。図9b中、レーン1はAxCA及びAxCAの共感染、レーン2はAxCA-HMGB1及びAxCAの共感染、レーン3はAxCA-HMGB2及びAxCAの共感染、レーン4はAxCA及びAxCA-Htt111Qの共感染、レーン5はAxCA-HMGB1及びAxCA-Htt111Qの共感染、レーン6はAxCA-HMGB2及びAxCA-Htt111Qの共感染の結果を示す。
【0122】
脳神経細胞のAT1誘導毒性に対するHMGBタンパク質の効果を試験した。変異型AT1は、ヒトSCA1病理から予想されるように、顆粒神経細胞の細胞死を誘導しなかったから、プルキンエ細胞における効果を調べた。変異型AT1はプルキンエ細胞の生存、神経突起伸長、神経突起分岐を妨げた(図10a、AT82Q)。しかし、AxCA及びAxCA-AT30Qウイルス感染は、プルキンエ細胞に顕著な影響を与えなった(mock,AT30Q)。HMGB1及び2タンパク質は、プルキンエ細胞の神経突起伸長、神経突起分岐、生存に対する変異型AT1の毒性を緩和した(図10a,AT82Q+HMGB1 AT82Q+HMGB2)(p<0.01)(図11a-c)。AT1ノックインマウス及びSCA1ヒト病理と同様に、プルキンエ細胞には、顆粒細胞とは対照的に封入体が観察されなかった(図10a)。しかし、AT1及びHMGBタンパク質の発現は確認された(図10b)。新生AT1ノックインマウスから調製した初代脳神経細胞を用いた類似の実験を行った。HMGBタンパク質による同様の改善傾向が観察されたが、統計的には確認できなかった。これは、無症状の新生マウスの脳神経細胞において、変異型AT1の毒性は極めて小さいからである。なお、図10aにおいて、プルキンエ細胞は抗カルビンジン(calbindin) 28K抗体で染色し、Aquacosmos(HAMAMATSU)を用いて生存及び神経突起伸長を測定した。図10bは、感染初代皮質神経細胞におけるAT1及びHMGBタンパク質の発現レベルの、ウエスタンブロットによる確認結果を示し、レーン1はAxCA感染、レーン2はAxCA-AT30Q感染、レーン3はAxCA-AT82Q感染、レーン4はAxCA-AT82Q及びAxCA-HMGB1感染、レーン5はAxCA-AT82Q及びAxCA-HMGB2感染の結果を示す。図11aはプルキンエ細胞の生存に関する定量的解析結果であり、20個の視野について解析した(*:p<0.01,Student t-test)。図11bはプルキンエ細胞の神経突起伸長に関する定量的解析結果であり、AxCA-AT1-82Q(n=20)以外の各感染については50以上のプルキンエ細胞を解析した(*:p<0.01,Student t-test)。図11cはプルキンエ細胞の神経突起分岐に関する定量的解析結果であり、AxCA-AT1-82Q(n=20)以外の各感染については50以上のプルキンエ細胞を解析した(*:p<0.01,Student t-test)。ポリグルタミンの毒性に対するHMGBタンパク質の保護効果をさらに明らかにするために、HMGB1タンパク質トランスジェニックハエを作成し、ヒト変異型AT1及びHtt発現ショウジョウバエ(Fernandez-Funez, P. et al., Nature 408,1001-106 (2000) ; Jackson, G.R. et.al., Neuron. 21, 633-642 (1998))と交配させた。我々が作成したトランスジェニックハエにおいてHMGB1タンパク質は、GMR-GAL4によって、発生段階及び成虫の目において特異的に発現する(データは示さない)。変異型AT1を発現するショウジョウバエの目の変性は、光学顕微鏡で検出し、電子顕微鏡を用いて1~10日間25℃でスキャンした(図12)。ヘテロ接合体HMGB1(HMGB1-2.1)ハエを、AT1-82Qホモ接合体トランスジェニックハエ(F7, ヒトAT1遺伝子はXクロモソーム上に位置する)と交配させ、両遺伝子を発現するハエ及びAT1-82Qのみを発現するハエの集団を発生させた。LM及びSEMを用いた解析により、HMGB1は、in vivoにおいて、変異AT1による神経変性を抑制することが明らかとなった。類似の効果が、HMGB1トランスジェニックハエ(HMGB1-4.1)の別の系でも確認された。AT1-82Q発現が、UAS-AT1-82Q及びUAS-HMGB1-2.1間でのGL4タンパク質に対する競合により減少したことの可能性を排除するために、2種のハエ(UAS-AT1-82Q/X;GMR-GAL4/Cyo及びUAS-AT1-82Q/X;GMR-GAL4/UAS-HMGB1-2.1)におけるAT1-82Qの発現を調べ、AT-82Qはこれらのハエにおいても等しく発現されていることが確認された(データは示さない)。なお、図12の上パネルは光学顕微鏡による観察結果を示し、図12の下パネルは電子顕微鏡による観察結果を示し、レーン1はX/Y;GMR-GAL4/Cyo、レーン2はX/Y;GMR-GAL4/UAS-HMGB1-2.1、レーン3はUAS-AT1-82Q/X;GMR-GAL4/Cyo、レーン4はUAS-AT1-82Q/X;GMR-GAL4/ UAS-HMGB1-2.1の結果を示す。
【0124】
ショウジョウバエのHtt誘導目変性に対するHMGB1の効果を観察した。変異Httトランスジェニックハエは粗い目の表現型を示さないので(Jackson, G.R. et.al., Neuron. 21, 633-642 (1998))、目の切断面の組織学的分析によりHMGB1の効果を調べた。変異Htt発現は、個眼の構造を乱し、光受容体細胞を破壊した(図13a、パネル4)。HMGB1発現は、光受容体神経細胞の破壊を回復させた(図13a、パネル8)。この効果は、GMR-GAL4発現単独による効果でも(図13a、パネル7)、UAS-HMGB1トランスジーン単独による効果(図13a、パネル6)でもない。個眼あたりの感桿分体数の定量解析により、HMGB1発現によるこの効果が支持された(図13b)。これらの結果から、HMGB1は、ショウジョウバエモデルにおけるポリグルタミン誘導神経変性を抑制することが確認された。EP-HMGD(HMGボックス及び塩基性/酸性領域を有するショウジョウバエHMG)は、AT1誘導神経変性の抑制因子であり、EP-DSP1(2つのHMGボックスは有するが塩基性/酸性領域は欠いているショウジョウバエタンパク質)は、その病理の促進因子であり、このことは、HMGBタンパク質がポリグルタミン病の抑制因子であることを支持する。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】核タンパク質精製の標準プロトコルを示す図である。
【図2】変異型ポリグルタミンタンパク質(AT1-82Q)発現皮質神経細胞又は変異型ポリグルタミンタンパク質(Htt111Q)発現皮質神経細胞の細胞溶解物全体(レーン1)、同細胞から調製した核抽出物の可溶性タンパク質フラクション(レーン2)及び非可溶性フラクション(レーン3)に関する、CAG53b抗体を用いたウエスタンブロット解析の結果を示す。
【図3】正常型及び変異型ポリグルタミンタンパク質を発現する神経細胞核抽出物の可溶性タンパク質間で大きな相違(2倍以上)を示す代表的スポットを示す図である。
【図4】抗HMGBタンパク質抗体及び抗Htt(N18)抗体又は抗AT1(H21)抗体による、アデノウイルスベクター感染初代皮質神経細胞(感染後3日)の免疫組織化学による解析結果を示す図である。
【図5】CAG53b抗体及び抗GFP抗体を用いたウエスタンブロット結果と、抗HMGB又は抗EGFP抗体を用いた免疫沈降結果を示す図である。
【図6】ポリグルタミンタンパク質を発現するHeLa細胞を用いたプルダウンアッセイ結果を示す図である。
【図7】変異型Httトランスジェニックマウス及びAT1ノックインマウスを用いた免疫組織化学による解析結果と、シグナル強度の定量的解析結果を示す図である。
【図8】AT1ノックインマウスの免疫組織化学による解析結果と、シグナル強度の定量的解析結果を示す図である。
【図9】aは、皮質神経細胞の変異型Htt誘導細胞死に対するHMGBの抑制効果を示す図であり、bは、初代皮質神経細胞におけるHtt及びHMGBタンパク質の発現レベルの、ウエスタンブロットによる確認結果を示す図である。
【図10】aは、プルキンエ細胞を抗calbindin 28K抗体で染色し、Aquacosmos(HAMAMATSU)を用いて生存及び神経突起伸長の程度を示す図であり、bは、感染初代皮質神経細胞におけるAT1及びHMGBタンパク質の発現レベルの、ウエスタンブロットによる確認結果を示す図である。、
【図11】aはプルキンエ細胞の生存に関する定量的解析結果を示す図であり、bはプルキンエ細胞の神経突起伸長に関する定量的解析結果を示す図であり、cはプルキンエ細胞の神経突起分岐に関する定量的解析結果を示す図である。
【図12】変異型AT1を発現するショウジョウバエの目の変性の、光学顕微鏡及び電子顕微鏡を用いた観察結果を示す図である。
【図13】ショウジョウバエのHtt誘導目変性に対するHMGB1の効果を示す、目の切断面の組織学的分析結果を示す図である。
図面
【図1】
0
【図11】
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【図2】
2
【図3】
3
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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