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明細書 :ゲル及び該ゲルからなる医療用材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5119442号 (P5119442)
登録日 平成24年11月2日(2012.11.2)
発行日 平成25年1月16日(2013.1.16)
発明の名称または考案の名称 ゲル及び該ゲルからなる医療用材料
国際特許分類 C08H   1/00        (2006.01)
C08F 230/02        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
A61L  31/00        (2006.01)
A61L  15/64        (2006.01)
A61L  29/00        (2006.01)
A61L  33/00        (2006.01)
FI C08H 1/00
C08F 230/02
A61L 27/00 Q
A61L 31/00 T
A61L 15/04
A61L 29/00 T
A61L 33/00 T
A61L 27/00 V
請求項の数または発明の数 5
全頁数 25
出願番号 特願2007-526926 (P2007-526926)
出願日 平成18年7月28日(2006.7.28)
国際出願番号 PCT/JP2006/315050
国際公開番号 WO2007/013624
国際公開日 平成19年2月1日(2007.2.1)
優先権出願番号 2005222296
優先日 平成17年7月29日(2005.7.29)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年6月2日(2009.6.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
発明者または考案者 【氏名】岸田 晶夫
【氏名】木村 剛
【氏名】南 広祐
個別代理人の代理人 【識別番号】100108833、【弁理士】、【氏名又は名称】早川 裕司
【識別番号】100132207、【弁理士】、【氏名又は名称】太田 昌孝
【識別番号】100112830、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 啓靖
審査官 【審査官】内田 靖恵
参考文献・文献 特開2006-45115(JP,A)
特開2005-75809(JP,A)
特開2001-200480(JP,A)
特開平9-315935(JP,A)
国際公開第2001/034700(WO,A1)
特開2003-517889(JP,A)
調査した分野 C08H 1/00-1/06
A61L 15/64
A61L 27/00
A61L 29/00
A61L 31/00
JSTPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
次式(I):
【化1】
JP0005119442B2_000013t.gif
[式(I)中、R1及びR2は互いに独立して水素原子又はアルキル基を表し、R3はカルボキシル基、又はアミノ基若しくは水酸基との反応性を有するカルボキシル基の誘導基、又は次式(II):
【化2】
JP0005119442B2_000014t.gif
[式(II)中、*はコラーゲン分子との結合部位を表す。]
で表される基を表し、R4、R5及びR6は互いに独立して水素原子、アルキル基、ジアゾニウム基又はアリール基を表し、x:yは0.1:0.9~0.9:0.1であり、m及びnは1以上の整数を表す。]
で表される繰り返し単位を有する架橋基によって架橋された複数のコラーゲン分子からなる架橋コラーゲンを支持構造として有するゲル。
【請求項2】
請求項1記載のゲルが有するカルボキシル基同士を架橋して得られるゲル。
【請求項3】
前記カルボキシル基同士を1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルで架橋して得られる請求項2記載のゲル
【請求項4】
請求項1又は2記載のゲルからなる医療用材料。
【請求項5】
請求項4記載の医療用材料からなる部分又は部材を有する医療用器具。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル、該ゲルからなる医療用材料及び該医療用材料を利用した医療用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは動物の真皮、腱、骨、筋膜等に豊富に含まれる生分解性の生体由来材料であり、コラーゲンゲル(コラーゲンハイドロゲル)は医療用材料として有用である。コラーゲンゲルを調製する際、コラーゲン分子間の架橋化が必要となるが、グルタルアルデヒド等の化学架橋剤を用いてコラーゲン分子間の架橋化を行うと、コラーゲンの重要な性質である生体適合性(生体親和性)が著しく損なわれる。
【0003】
このような問題を解決することができる技術として、特許文献1には、ポリアニオンが有するカルボキシル基と、コラーゲン分子が有するアミノ基又は水酸基とを、カルボジイミドを用いてアミド結合又はエステル結合させることによりコラーゲン分子間の架橋化を行い、コラーゲンゲルを調製する方法が開示されており、こうして調製されたコラーゲンゲルは、生体組織と高い接着性を示すので、生体接着剤、止血材、閉鎖材、死腔充填材等の非成形医療用材料や、代用血管等の成形医療用として有用であることが開示されている。特許文献1には、ポリアニオンとして、ヒアルロン酸、アルギン酸、アラビアゴム、ポリグルタミン酸、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリリンゴ酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシル化デンプン等の生体に対して毒性の少ないポリアニオンが開示されている。
【0004】
一方、特許文献2~4には、生体適合性の医療用材料として、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとメタクリル酸エステル等との共重合体が開示されている。

【特許文献1】国際公開WO98/54224号パンフレット
【特許文献2】特許第2890316号公報
【特許文献3】特開2005-6704号公報
【特許文献4】国際公開WO00/01424号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、医療用材料として有用なゲル、該ゲルからなる医療用材料、及び該医療用材料を利用した医療用器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、以下のゲル、医療用材料及び医療用器具を提供する。
(1)次式(I):
【化1】
JP0005119442B2_000002t.gif

[式(I)中、R1及びR2は互いに独立して水素原子又はアルキル基を表し、R3はカルボキシル基、又はアミノ基若しくは水酸基との反応性を有するカルボキシル基の誘導基、又は次式(II):
【化2】
JP0005119442B2_000003t.gif

[式(II)中、*はコラーゲン分子との結合部位を表す。]
で表される基を表し、R4、R5及びR6は互いに独立して水素原子、アルキル基、ジアゾニウム基又はアリール基を表し、x:yは0.1:0.9~0.9:0.1であり、m及びnは1以上の整数を表す。]
で表される繰り返し単位を有する架橋基によって架橋された複数のコラーゲン分子からなる架橋コラーゲンを支持構造として有するゲル。
(2)前記(1)記載のゲルが有するカルボキシル基同士を架橋して得られるゲル。
(3)前記カルボキシル基同士を1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルで架橋して得られる前記(2)記載のゲル
(4)前記(1)又は(2)記載のゲルからなる医療用材料。
(5)前記(4)記載の医療用材料からなる部分又は部材を有する医療用器具。
【発明の効果】
【0007】
式(I)で表される繰り返し単位を有する架橋基(以下「架橋基(I)」という。)によるコラーゲン分子の架橋度を調節することにより、又は架橋基(I)によってコラーゲン分子を架橋する際の反応溶媒(水溶液)のpHを調節することにより、本発明のゲルには、1種又は2種以上の所望の機能(例えば、機械的強度(引張強度)、膨潤度(柔軟性)、形態、生分解性(コラゲナーゼに対する分解耐性)、収縮温度(水分保持性及び寸法安定性)、細胞接着性又は細胞非接着性、血液凝固活性又は血液抗凝固活性等)が付与される。したがって、本発明のゲルは医療用材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
式(I)において、R1及びR2は互いに独立して水素原子又はアルキル基を表し、R1又はR2で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基等の炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられるが、これらのうち、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
【0009】
式(I)において、R3はカルボキシル基、又はアミノ基若しくは水酸基との反応性を有するカルボキシル基の誘導基、又は式(II)で表される基を表す。式(I)において、R3の一部又は全部が式(II)で表される基であり、カルボキシル基又はアミノ基若しくは水酸基との反応性を有するカルボキシル基の誘導基と、式(II)で表される基とのモル分率は通常0:100~99:1、好ましくは10:90~90:10、さらに好ましくは60:40~40:60である。
【0010】
アミノ基又は水酸基との反応性を有するカルボキシル基の誘導基としては、例えば、次式(III):
【化3】
JP0005119442B2_000004t.gif

[式(III)中、R7は水素原子、アルキル基又はアシル基を表す。]
で表される基が挙げられる。
【0011】
式(III)において、R7で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられ、R7で表されるアシル基としては、例えば、アセチル基、トリフルオロアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基等の炭素数1~5の脂肪族アシル基;ベンゾイル基、3,5-ジメチルベンゾイル基、2,4,6-トリメチルベンゾイル基、2,6-ジメトキシベンゾイル基、2,4,6-トリメトキシベンゾイル基、2,6-ジイソプロポキシベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、アントリルカルボニル基等の芳香族アシル基が挙げられる。R7で表されるアシル基は、カルボキシル基、水酸基等の置換基を有していてもよい。
【0012】
式(II)において、*はコラーゲン分子との結合部位を表す。式(II)で表される基は、カルボキシル基又はその誘導基と、コラーゲン分子のアミノ基又は水酸基との結合により生じ、式(II)で表される基とコラーゲン分子との結合部位は-CO-NH-又は-CO-O-という構造をとっている。
【0013】
式(I)において、R4、R5及びR6は互いに独立して水素原子、アルキル基、ジアゾニウム基又はアリール基を表す。R4、R5又はR6で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基等の炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられるが、これらのうち、メチル基、エチル基等の炭素数1~2のアルキル基が好ましい。炭素数の大きいアルキル基である場合、疎水性が高まることにより、疎水性相互作用が増加し、ゲルの吸水性又は保水性が減じて、ゲルの生体適合性又は機械的強度が低下するおそれがあるからである。R4、R5又はR6で表されるアリール基としては、例えば、フェニル基、p-メトキシフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基、p-クロロフェニル基、p-フルオロフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、ナフチル基等の置換又は非置換の芳香族炭化水素基;フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピロリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラリジニル基、キノリル基、イソキノリル基等の置換又は非置換の芳香族複素環基が挙げられる。
【0014】
式(I)において、x及びyはそれぞれの重合単位のモル分率であり、x:yは通常0.1:0.9~0.9:0.1、好ましくは0.3:0.7~0.9:0.1である。
【0015】
式(I)において、m及びnは1以上の整数を表すが、mは通常2~10、好ましくは2~6、さらに好ましくは2~4の整数を表し、nは通常2~10、好ましくは2~6、さらに好ましくは2~4の整数を表す。m及びnが大きくなると収率が低下するからである。
【0016】
式(I)で表される繰り返し単位を有する架橋基(以下「架橋基(I)」という。)によって複数のコラーゲン分子が架橋されてなる架橋コラーゲンにおいて、コラーゲン分子の種類は、ゲルの支持構造を形成し得る限り特に限定されるものではない。コラーゲン分子の種類としては、例えば、I型コラーゲン、II型コラーゲン、アテロコラーゲン、アシル化コラーゲン、エステル化コラーゲン、IV型コラーゲン、チオール化コラーゲン、魚コラーゲン、合成コラーゲン等が挙げられるが、これらのうち、I型コラーゲン、II型コラーゲン等が好ましい。軟組織の大部分がI型コラーゲンから、軟骨の大部分がII型コラーゲンからなり、それぞれ疾病治療に用いられているので、I型コラーゲン又はII型コラーゲンを使用する場合、本発明のゲルを医療用材料として好適に使用することができる。
【0017】
また、架橋コラーゲンは、1種類のみのコラーゲン分子からなっていてもよいし、2種類以上のコラーゲン分子からなっていてもよいが、1種類のみのコラーゲン分子からなっていることが好ましい。反応に必要なアミン基及びカルボキシル基の数が計算できるため、反応コントロール及び生成物の物性コントロールが容易となるからである。
【0018】
本発明のゲルに保持される溶媒は通常、水である。ゲルに保持される溶媒が水である場合、本発明のゲル(ハイドロゲル)を医療用材料として好適に使用することができる。ゲルに保持される水には、塩、ミネラル、アミノ酸、ビタミン、タンパク質、有機溶媒(例えば、アルコール類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド)等が含まれていてもよい。
【0019】
本発明のゲルは、例えば、2-モルホリノエタンスルホン酸水溶液、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝液等の水溶液又は蒸留水中で、次式(IV):
【化4】
JP0005119442B2_000005t.gif

[式(IV)中、R1、R2、R4、R5、R6、R7、x、y、m及びnは前記と同義である。]
で表される繰り返し単位を有するポリマー(以下「ポリマー(IV)」という。)を、カルボジイミド類(例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-1-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、1-4—ブタンジオール-ジグリシジルエーテル(BDGE))、又はカルボジイミド類及びスクシンイミド類(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N-ヒドロキシスルホンスクシンイミド(NHSS))と反応させた後、複数のコラーゲン分子と反応させることにより得ることができる。ポリマー(IV)が有するカルボキシル基又はその誘導基は、カルボジイミド類と反応した後、スクシンイミド類が存在する場合には、スクシンイミド類と反応し、次いで、コラーゲン分子が有するアミノ基(同一分子内のアミノ基又は異なる分子のアミノ基)と反応し、ポリマー(IV)とコラーゲン分子とが-CO-NH-を介して結合する。ポリマー(IV)が複数のコラーゲン分子と結合することにより、架橋基(I)によって架橋された複数のコラーゲン分子からなる架橋コラーゲンが形成され、これにより架橋コラーゲンを支持構造として有するハイドロゲルが形成される。
【0020】
反応溶媒である水溶液のpHは、通常7.0~11.0(アルカリ条件)又は2.0~5.0(酸性条件)、好ましくは8.5~9.5(アルカリ条件)又は4.5~5.0(酸性条件)である。反応溶媒である水溶液のpHを調節することにより、形成されるゲルの機械的強度(引張強度)、膨潤度(柔軟性)、形態、コ生分解性(コラゲナーゼに対する分解耐性)、収縮温度(水分保持性及び寸法安定性)等を調節することができる。
【0021】
ポリマー(IV)と、カルボジイミド類又はカルボジイミド類及びスクシンイミド類との反応において、反応温度は通常4~37℃、好ましくは4~8℃であり、反応時間は通常30~960分、好ましくは60~240分であり、カルボジイミド類の添加量はポリマー(IV)に対して通常0.5~10モル当量、好ましくは4~7モル当量であり、スクシンイミド類の添加量はポリマー(IV)に対して通常1.5~10モル当量、好ましくは2~7モル当量である。
【0022】
カルボジイミド類又はカルボジイミド類及びスクシンイミド類と反応したポリマー(IV)と、コラーゲン分子との反応において、反応温度は通常4~37℃、好ましくは4~8℃であり、反応時間は通常30~960分、好ましくは60~240分であり、水溶液中のコラーゲン濃度は、通常0.3~5質量%、好ましくは0.5~1質量%である。
【0023】
ポリマー(IV)は、次式(V):
【化5】
JP0005119442B2_000006t.gif

[式(V)中、R1、R4、R5、R6、m及びnは前記と同義である。]
で表されるモノマーと、次式(VI):
【化6】
JP0005119442B2_000007t.gif

[式(VI)中、R2及びR7は前記と同義である。]
で表されるモノマーとを常法に従って共重合させることにより得ることができる。この反応において、反応溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、t-ブタノール、ベンゼン、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、クロロホルム等を使用することができ、重合開始剤としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスマレノニトリル等の脂肪族アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の有機過酸化物等を使用することができる。
【0024】
ポリマー(IV)を製造するにあたり、x:yが通常0.1:0.9~0.9:0.1、好ましくは0.2:0.8~0.9:0.1、さらに好ましくは0.3:0.7~0.7:0.3となるように、添加量、反応温度、反応時間等を制御する。ポリマー(IV)の分子量は、通常10,000~700,000、好ましくは10,000~500,000、さらに好ましくは100,000~300,000である。ポリマー(IV)の分子量が上記範囲にある場合、ポリマー(IV)がコラーゲンと同等の分子量及び十分な反応基を有し、コラーゲン分子間を架橋することができる。
【0025】
モノマー(V)の具体例としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(式(V)において、R1、R4、R5及びR6がメチル基であり、m及びnが2である化合物)が挙げられ、このモノマーは市販されている。
【0026】
カルボジイミド類又はカルボジイミド類及びスクシンイミド類と反応したポリマー(IV)と、複数のコラーゲン分子とを反応させる前に、予め、複数のコラーゲン分子を架橋しておいてもよい。複数のコラーゲン分子を予め架橋しておくことにより、最終的に形成されるゲルの機械的強度(引張強度)、膨潤度(柔軟性)、形態、生分解性(コラゲナーゼに対する分解耐性)、収縮温度(水分保持性及び寸法安定性)等を調節することができる。
【0027】
複数のコラーゲン分子の架橋化は例えばホルマリン、グルタルアルデヒド等の公知の架橋剤を使用して行うことができるが、本発明のゲルを医療用材料として使用する場合、生体適合性、透明性、機械的特性等の点から、コラーゲン分子のカルボキシル基(同一分子内のカルボキシル基又は異なる分子のカルボキシル基)とアミノ基(同一分子内のアミノ基又は異なる分子のアミノ基)又は水酸基(同一分子内の水酸基又は異なる分子の水酸基)とを反応させ、複数のコラーゲン分子を-CO-NH-又は-CO-O-を介して架橋化することが好ましい。このような架橋化は、例えば、2-モルホリノエタンスルホン酸水溶液、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝液等の水溶液又は蒸留水中、カルボジイミド類(例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-1-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、1-4-ブタンジオール-ジグリシジルエーテル(BDGE))、又はカルボジイミド類及びスクシンイミド類(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N-ヒドロキシスルホンスクシンイミド(NHSS))の存在下、複数のコラーゲン分子を反応させることにより得ることができる。
【0028】
反応溶媒である水溶液のpHは、通常7.0~10.0(アルカリ条件)又は2.0~5.0(酸性条件)、好ましくは8.5~9.5(アルカリ条件)又は4.5~5.0(酸性条件)である。反応溶媒である水溶液のpHを調節することにより、最終的に形成されるゲルの機械的強度(引張強度)、膨潤度(柔軟性)、形態、生分解性(コラゲナーゼに対する分解耐性)、収縮温度(水分保持性及び寸法安定性)等を調節することができる。
【0029】
カルボジイミド類又はカルボジイミド類及びスクシンイミド類と反応したポリマー(IV)と、複数のコラーゲン分子とを反応させてゲルを調製した後、当該ゲルが有するカルボキシル基同士を架橋することが好ましい。こうして得られるゲルは、高密度ネットワークを有しており、水中における安定性が高い。
架橋させるカルボキシル基同士は、コラーゲン分子が有するカルボキシル基同士であってもよいし、コラーゲン分子が有するカルボキシル基と架橋基(I)が有するカルボキシル基であってもよい。
【0030】
カルボキシル基同士の架橋は、例えば、カルボキシル基との反応性を有する官能基を複数個有する架橋剤を用いて行うことができる。カルボキシル基との反応性を有する官能基としては、例えば、アミン基、エポキシド基等が挙げられる。カルボキシル基との反応性を有する官能基を複数個有する架橋剤としては、例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-1-エチルカルボジイミド塩酸塩、ポリアミン、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル等が挙げられる。ポリアミンとしては、例えば、コラーゲン、グルタミン、リシン、グルタルアルデヒド等が挙げられる。
【0031】
1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルを用いてカルボキシル基同士を架橋する場合、反応温度は通常0~60℃、好ましくは0~37℃であり、反応時間は通常1~168時間であり、好ましくは1~48時間であり、pHは通常1~14、好ましくは3~10であり、反応溶媒としては、例えば、蒸留水、MES緩衝液、リン緩衝液、Tris緩衝液、テトラホウ酸ジナトリウム十水和物(disodum tetraborate decahydrate)緩衝液等を用いることができる。
【0032】
また、ポリアミンを用いてカルボキシル基同士を架橋する場合、、反応温度は通常0~60℃、好ましくは0~40℃であり、反応時間は通常1~168時間であり、好ましくは1~48時間であい、pHは通常1~14、好ましくは3~10であり、反応溶媒としては、例えば、蒸留水、MES緩衝液、リン緩衝液、Tris緩衝液、テトラホウ酸ジナトリウム十水和物(disodum tetraborate decahydrate)緩衝液を用いることができる。
【0033】
本発明のゲルを製造する際、架橋基(I)によるコラーゲン分子の架橋度を調節することにより、所望の機能性が付与されたゲルを製造することができる。
例えば、架橋基(I)によるコラーゲン分子の架橋度を調節することにより、コラーゲンの細胞接着性と、架橋基(I)の細胞非接着性とのバランスを調節することができ、これにより、所望の細胞接着性又は細胞非接着性が付与されたゲルを製造することができる。
【0034】
また、架橋基(I)によるコラーゲン分子の架橋度を調節することにより、コラーゲンの血液凝固性と、架橋基(I)の血液抗凝固活性とのバランスを調節することができ、これにより、所望の血液凝固活性又は血液抗凝固活性が付与されたゲルを製造することができる。なお、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが血液抗凝固活性を有することは公知である(Y. Iwasaki,et al., J. Biomed. Mater. Res. Vol. 36, pp.508-515 (1997))。
【0035】
また、架橋基(I)によるコラーゲン分子の架橋度を調節することにより、所望の機械的強度(引張強度)、膨潤度(柔軟性)、形態、表面特性(親水性、疎水性)、生分解性(コラゲナーゼに対する分解耐性)、収縮温度(水分保持性及び寸法安定性)等が付与されたゲル(例えば、機械的強度が大きく、しかも十分な柔軟性を有しているゲル)を製造することができる。
【0036】
従って、本発明のゲルは、医療用材料として好適に使用することができる。医療用材料は、例えば、医療用器具材料として使用することができる。医療用器具の全体が本発明のゲルで構成されていてもよいし、その部分又は部材が本発明のゲルで構成されていてもよい。医療器具としては、例えば、人工血管、癒着防止膜、創傷被覆材、血管カテーテル、カニューラ、モニタリングチューブ、人工腎臓、人工心肺、体外循環用血液回路、人工腎臓用A-Vシャント、人工血管、人工心臓、人工心臓弁、血液の一時的バイパスチューブ、人工透析用血液回路、ステント、血液バッグ、血液成分分離装置のディスポーザブル回路、透析膜、人工肝臓、ナノ粒子被覆材、バイオセンサー被覆材等が挙げられる。
【0037】
例えば、本発明のゲルを人工血管用材料として使用する場合、本発明のゲルにより人工血管の全体を形成してもよいし、生体内の血管の内側又は外側を本発明のゲルで被覆してもよい。生体内の血管の内側又は外側を本発明のゲルで被覆することにより、血管への細胞浸潤を抑制することができ、これにより組織過増殖の抑制又は組織再生促進を図ることができる。
【実施例】
【0038】
〔実施例1〕各種コラーゲンゲルの調製
1.ポリ(MPC-co-メタクリル酸)(PMA)の合成
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)0.01mol及びメタクリル酸0.024molをエタノール15mLに溶かし、重合開始剤としてα,α'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.2mmolを加えた後、60℃で16時間反応させることにより重合を行った。反応混合溶液をジエチルエーテルに投じて重合物を沈殿させ、これを濾別し、アセトニトリルで洗浄した後、減圧乾燥し、次式(VII)で表されるポリ(MPC-co-メタクリル酸)(PMA)を得た(収率80%)。
【化7】
JP0005119442B2_000008t.gif

【0039】
得られたPMAの分子量をゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)(標準物質:ポリエチレンオキサイド)により測定した結果、数平均分子量は約300,000であった。また、得られたPMAにおけるMPC残基及びメタクリル酸残基のモル分率をプロトン核磁気共鳴装置(1H-NMR)により測定した結果、x=3、y=7であった。
【0040】
2.コラーゲンゲルの調製
(1)EDC/NHS架橋ゲル(E/N-acゲル,E/N-alゲル)の調製
コラーゲン(タイプIコラーゲン(高研製))0.5質量%水溶液(pH3)をインキュベーター中で加温することにより、コラーゲンフィルムを調製した。コラーゲンフィルム0.05gを1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-1-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)6×10-5mol/mL及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)6×10-5mol/mLを含有する2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)水溶液(pH10)(pHは水酸化ナトリウム滴下により調整)8mL中に浸漬し、4℃で4時間反応させることにより(COOH:EDC:NHS=1:5:5)、コラーゲン分子が有するカルボキシル基とアミノ基とを結合させ、複数のコラーゲン分子が-CO-NH-を介して架橋されているコラーゲンゲル(E/N-alゲル)を得た。
【0041】
また、pHが酸性条件(pH4.5)であるMES水溶液(pHは塩酸滴下により調整)を用いて、上記と同様にコラーゲンゲル(E/N-acゲル)を調製した。
各コラーゲンゲルは、NaHPO水溶液中で2時間リンスし、蒸留水にて3日間洗浄した。
【0042】
(2)PMA固定化ゲル(MiC-acacゲル,MiC-acalゲル,MiC-alacゲル,MiC-alalゲル)の調製
PMA12.5mgを、MES水溶液(pH4.5又は10)8mL中で、EDC(6×10-5mol/mL)/NHS(6×10-5mol/mL)と4℃で10分間反応させた。その後、E/N-acゲル(50mg)又はE/N-alゲル(50mg)を加え、4℃で4時間反応させ、PMA固定化コラーゲンゲルとして、MiC-acacゲル(E/N-acゲルをpH4.5で架橋)、MiC-acalゲル(E/N-acゲルをpH10で架橋)、MiC-alacゲル(E/N-alゲルをpH4.5で架橋)、MiC-alalゲル(以下単に「MiCゲル」ともいう)(E/N-alゲルをpH10で架橋)を調製した。
各コラーゲンゲルは、NaHPO水溶液中で2時間リンスし、蒸留水にて3日間洗浄した。
【0043】
(3)PMA多重固定化ゲル(MiCIIゲル,MdCゲル,MdCIIゲル)の調製
MiC-alalゲル(MiCゲル)に上記と同様のPMA固定化を再度行い、PMAの含有率の高いMdCゲルを得た。また、PMAの架橋量を増加させるために、E/N-alゲルと反応させるPMA及び架橋剤の量を2倍に増加させ、MiCIIゲルを調製した。MiCIIゲルに上記と同様のPMA固定化を行い、MdCIIゲルを調製した。
以上のように調製された各種コラーゲンゲルを表1に要約する。
【0044】
【表1】
JP0005119442B2_000009t.gif

【0045】
〔実施例2〕コラーゲンゲルの物性評価
1.コラーゲンゲルの表面分析
サンプルを凍結乾燥した後、表面をX線光電子分光解析法(XPS)により光電子の放出角度を90°にして分析した。そして、走査電子顕微鏡(SEM,SM-200,Topcon,Tokyo,Japan)を使用して各種コラーゲンゲルの表面と破断表面を観察した。結果を図1に示す。なお、図示はしないが、MiC-acacゲル及びMiC-alalゲルは透明であった。
【0046】
2.コラーゲンゲルのネットワーク解析
(1)収縮温度
各種コラーゲンゲルの収縮温度を示差走査熱量計(DSC6000,セイコー電子、Japan)で測定した。20℃から150℃まで5℃/分の速度で温度を上げ、各種コラーゲンゲルの収縮温度(Ts(℃))を測定した。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
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【0048】
表2に示すように、MiC-acacゲル、MiC-acalゲル、MiC-alalゲル、MiC-alacゲル、MdCゲル及びMdC IIゲルの収縮温度は、Uc-ゲル、E/N-acゲル及びE/N-alゲルよりも高かった。特に、MiC-alalゲル、MiC-alacゲル、MdCゲル及びMdC IIゲルの収縮温度は、Uc-ゲル、E/N-acゲル及びE/N-alゲルよりも顕著に高かった。このことから、コラーゲンゲルへのPMA固定化により、ゲルの収縮温度を高められること、すなわち、ゲルの水分保持性及び寸法安定性を高められることが明らかとなった。また、コラーゲンゲルへのPMA固定化の際のpH条件(アルカリ条件又は酸性条件)を調節することにより、又はPMAによる架橋度を調節することにより、又はEDC/NHS架橋ゲルの調製時のpH条件(アルカリ条件又は酸性条件)を調節することにより、ゲルの水分保持性及び寸法安定性を調節できることが明らかとなった。
【0049】
(2)引張強度
各種コラーゲンゲルの引張強度を引張強度試験機(STA-1150,オリエンテック社製)で測定した。すなわち、各種コラーゲンゲル断片(4cm×1cm)を作製し、0.5mm/秒の速度で引っ張り、応力・歪み曲線及び引張強度を算出した。応力・歪み曲線を図2に示し、引張強度を表3に示す。
【0050】
【表3】
JP0005119442B2_000011t.gif

【0051】
表3に示すように、MiC-alalゲル及びMdCゲルの引張強度は、Uc-ゲル及びE/N-alゲルよりも高かった。このことから、コラーゲンゲルへのPMA固定化により、ゲルの引張強度(機械的強度)を高められることが明らかとなった。また、PMAによる架橋度を調節することにより、ゲルの引張強度(機械的強度)を調節できることが明らかとなった。
【0052】
(3)膨潤度
各種コラーゲンゲルの膨潤度の測定は、次のようにして行った。凍結乾燥したサンプルを10mgに切断し、3mLのリン酸緩衝液(pH7.4)の中に入れ、37℃で24時間で放置した。その後、膨潤したサンプルの重量を測定し、膨潤度(Swelling ratio(%))を算出した。膨潤度は次式にて算出した。
【0053】
膨潤度(%)=(W-W)/W×100
なお、Wは膨潤したサンプル重量、Wは凍結乾燥したサンプル重量を表す。 また、上記と同様にして、酸性水溶液(pH2.1)中での膨潤度を測定した。
【0054】
結果を図3に示す。
図3に示すように、MiC-acacゲル、MiC-acalゲル、MiC-alalゲル、MiC-alacゲル、MiC IIゲル、MdCゲル及びMdC IIゲルの膨潤度はいずれも100%を越えており、十分な膨潤度(柔軟性)を有していることが明らかとなった。すなわち、コラーゲンゲルへのPMA固定化により、ゲルの十分な膨潤度(柔軟性)を保持したまま、ゲルの引張強度(機械的強度)を高めることができることが明らかとなった。また、コラーゲンゲルへのPMA固定化の際のpH条件(アルカリ条件又は酸性条件)を調節することにより、又はPMAによる架橋度を調節することにより、又はEDC/NHS架橋ゲルの調製時のpH条件(アルカリ条件又は酸性条件)を調節することにより、ゲルの膨潤度(柔軟性)を調節できることが明らかとなった。また、ゲルの膨潤度はpHに応答して変化することが明らかとなった。
【0055】
(4)コラーゲンゲルの生分解性評価
凍結乾燥したコラーゲンゲルを5×10-3M 塩化カルシウム及び8×10-4M アジ化ナトリウムを含有する0.1M Tris-HCl緩衝液(pH7.4)2mLに入れ、1時間安定化させた。そして、そのゲルの重さを測定し、Tris-HCl緩衝液に戻した。その後、ゲルを含有するTris-HCl緩衝液に、コラゲナーゼ(コラゲナーゼ活性:300units/mg)(EC3.4.24.3)を1.32mg/mLの濃度で溶かした0.1M Tris-HCl緩衝液(pH7.4)2mLを添加し、コラゲナーゼの全体濃度を100units/mLに調節した。37℃でコラゲナーゼを活性化し、1時間から72時間までのコラーゲンゲルの重量の変化を測定し、コラゲナーゼによるコラーゲンゲルの分解率を計算した。結果を図4に示す。
【0056】
図4に示すように、コラーゲンゲルへのPMA固定化により、ゲルのコラゲナーゼ分解耐性を高められることが明らかとなった。コラーゲンゲルへのPMA固定化の際のpH条件(アルカリ条件又は酸性条件)を調節することにより、又はPMAによる架橋度を調節することにより、又はEDC/NHS架橋ゲルの調製時のpH条件(アルカリ条件又は酸性条件)を調節することにより、ゲルのコラゲナーゼ分解耐性(生分解性)を調節できることが明らかとなった。
【0057】
〔実施例3〕コラーゲンゲルの物性評価
(1)各種コラーゲンゲルの調製
実施例1に準じて各種コラーゲンゲルを調製した。
架橋剤として1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-1-カルボジイミド塩酸(EDC)とN-ヒドロキシスシニルイミド酸(NHS)を使用した。まず、EDC及びNHSでコラーゲンフィルムを架橋し、EDC/NHSコラーゲンゲル(E/Nゲル)を作製した。MES緩衝液(C13NOS・HO;0.05mol,pH9.0)20mLにEDC及びNHSを溶かした後、コラーゲンフィルムを入れ、4℃で4時間反応させた(EDC:NHS:COOH=5:5:1)。その後、E/NゲルをNaHPO水溶液で2時間洗浄し、すぐ蒸留水で洗浄して、未反応物質及び塩を除去した。また、コラーゲンフィルムをpH9.0のMES緩衝液に1日漬け、架橋されていないコラーゲンゲル(Ucゲル)を作製し、E/Nゲルとともに対照ゲルとして使用した。
【0058】
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ユニットを有するPMAを使用し、コラーゲンとの架橋を行った。PMAをコラーゲンゲルに固定化するため、まずPMAをMES緩衝液(pH9.0)中でEDC及びNHSと10分間反応させ(EDC:NHS:COOH=5:5:1)、PMAのカルボキシル基を活性化した。その活性化PMAをコラーゲンフィルム又はE/Nゲルと4℃で48時間反応させ、PMA-活性化コラーゲンゲル(MPC immobilized collagen gel;MiCゲル)を作製した。このゲルをNaHPO水溶液で2時間洗浄し、すぐ蒸留水で洗浄して未反応物質と塩を除去した。最後に、コラーゲンゲルに含まれているMPCの分率の上昇させるため、EDC及びNHSで活性化させたPMAをMiCゲルと反応させ、PMA-二重活性化コラーゲンゲル(MPC double immobilized collagen gel;MdCゲル)を作製した。このゲルもNaHPO水溶液で2時間洗浄し、すぐ蒸留水で洗浄して未反応物質と塩を除去した。すべてのコラーゲンゲルは凍結乾燥して保存した。また、もっともMPCの分率が高いリン質・コラーゲンハイブリッドゲルを作製するため、MdCゲルに、活性化したPMAを反応させ、PMA-三重活性化コラーゲンゲル(MPC triple immobilized collagen gel;MtCゲル)を作製した。
【0059】
(2)各種コラーゲンゲルの生物学的特性
(a)透明性
Ucゲル及びMiCゲルの透明性を図5に示す。なお、図5(a)はブルーライトを当てた状態を示し、図5(b)は明るい場所で観察した状態を示し、AはUcゲル、BはMiCゲルを示す。
図5に示すように、MiCゲル(架橋されたコラーゲンゲル)は高い透明性を有する。また、ブルーライトを当てたUcゲル(架橋されていないゲル)は青色を反射し、白く見える(若干青色)が、ブルーライトを当てたMiCゲル(架橋されたゲル)は、透明だった。
【0060】
(b)表面分析
接触角及びX線光電子分光法(X-ray photoelectron spectroscopy;XPS)により、各種コラーゲンゲルの表面分析を行った。各種コラーゲンゲルの接触角については、ゴニオメーターを用いて静的接触角を測定した。Bil-mont注射器で試料の表面に水滴を形成させ、その接触角を測定した。また、XPSについては、光電子の放出角を90°にし、各種コラーゲンゲルの表面分子状態を調べた。
接触角の測定結果を図6に示す。
図6に示すように、リン脂質ポリマー(PMA)の固定が進むとともに接触角が低下することが確認された。コラーゲンゲル表面の親水化はタンパク質の吸着と細胞の接着を抑制する因子の一つである。リン脂質ポリマーの固定化は、コラーゲンゲル表面を親水化した。また、再架橋による接触角の低下が観察された。これは、リン脂質ポリマーで再架橋すると緻密なポリマー層が形成され、表面がより親水化されるからであると考えられる。そして、表面の親水化によって、タンパク質の吸着と細胞の接着が抑制されることが期待される。
【0061】
XPSの結果を図7に示す。
図7に示すように、PMAで架橋したコラーゲンのみリンピークが検出された。これにより、コラーゲンゲル層の外部にPMA層が生成されていることが確認された。即ち、PMAがコラーゲン層の中に入り込まずに、コラーゲン層の表面全体に固定化されることにより、細胞及び生物的活性を抑制するリン脂質基がゲルの表面に存在し、これによりゲルの表面特性が変化したことが示された。
【0062】
(c)収縮実験
各種コラーゲンゲルを80℃で3時間最小必須培地(MEM)中で放置した後、各種コラーゲンゲルの体積を測定し、放置前の体積と比較して、収縮した体積を算出した。
結果を図8に示す。なお、図8中、AはUcゲル、BはENゲル、CはMiCゲル、Dはグルタルアルデヒド架橋ゲルを示す。
図8に示すように、80℃で3時間各コラーゲンゲルを放置した結果、架橋されていないコラーゲンゲルの場合、温度上昇とともに収縮し、最終的に解けることが確認された。架橋されたゲルの場合、収縮が抑えられることが確認された。架橋されていない場合、収縮率は約67%であり、PMAで架橋されたゲルの場合、収縮率は約7~8%であった(表4)。このことは、リン脂質ポリマー/コラーゲンハイブリッドゲルの場合、リン脂質ポリマー(PMA)とコラーゲン繊維間架橋により、コラーゲンの収縮を防ぐことが可能であることを意味する。
【0063】
【表4】
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【0064】
(d)タンパク質吸着実験
タンパク質吸着実験はフィブリノゲン血漿を使って行った。フィブリノゲン血漿(1mg/mL)に試料を入れ、37℃で3時間培養した。その後、PBSで洗浄し、1wt%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を使ってタンパク質を全部剥がした。剥がしたタンパク質を回収し、Micro BCA キット(波長750nm)で吸着タンパク質濃度を測定した。
結果を図9に示す。
図9に示すように、架橋されたコラーゲンゲルは、架橋されていないコラーゲン及び内部架橋ゲル(ENゲル)に比べ、タンパク質吸着量が減ることが確認された。フィブリノゲン血漿は血液に含まれているタンパク質で、血液が材料表面と接触した時、表面で活性化されて血小板及び細胞の接着を助ける。しかしながら、リン脂質ポリマーを固定した場合、フィブリノゲン血漿の吸着を防ぐことができ、血小板及び細胞の接着を抑制することが可能である。
【0065】
(e)細胞接着実験
L-929細胞(マウス繊維雅細胞)を使用して、コラーゲンゲルと細胞との間の接着特性を調べた。L-929細胞をEagle’s Minimum Essential Medium(最小必須培地;E-MEM)で培養した。0.25%トリプシンで処理後、細胞の密度を5×10cells/dishに調整し、コラーゲンゲルの表面に播いた。24時間又は48時間後、乳酸脱水素酵素分析(LDH;波長560nm)を使い、ゲルの表面に接着した細胞の数を数えた。接着した細胞の形態は走査電子顕微鏡(SEM)を使用して観察した。試料に接着した細胞をPBSで洗浄し、2.5%グルタルアルデヒドで固定した。そして、試料を脱水化し、真空で乾燥した。乾燥した試料はすべて滅菌し、走査電子顕微鏡で観察した。
結果を図10に示す。
図10に示すように、48時間で約16,000個の細胞が吸着されたUcゲルに対し、E/Nゲルは約4,500個、MiCゲル及びMdCゲルは約2,000個の細胞が吸着された。細胞の吸着抑制は、PMAのリン脂質基による。すなわち、ゲル表面の外側に並んであるリン脂質基がタンパク質との相互作用を防ぐ機能がある。そして、PMAを固定化することによってコラーゲンゲルの表面は親水化され、細胞の吸着が難しくなると考えられる。UcゲルとENゲルの場合、接着した細胞はゲルの表面と強い相互作用を起こすため、接着した細胞の形態は扁平化した(図11)。一方、MiC、MdC及びMtCゲルの場合、接触した細胞の形態は丸だった。これはPMA表面と細胞との間の相互作用が弱いことを示しており、細胞は増殖できないと考えられる。
【0066】
(f)毒性実験
毒性実験は3-(4,5-dimethylthiazolyl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide (MTT)キットを使って行った。L929細胞(5,000cells/well)を試料に播き、48時間培養した。その後、PBSで試料をよく洗い、MTT溶液200μL(0.5 mg/mL in medium, filter-sterilized)を試料に加え37℃で4時間放置した。そして、MTTを捨て、ブルーフォルマザンを100μLのジメチルスルホキシドに溶かし、試料に添加した。Micro BCA kit(波長570nm)を使い、毒性を調べた。TCPS(Tissue culture polystyrene)に接着した細胞の数を100%に設定し、比較した。
結果を図12に示す。
図12に示すように、各種コラーゲンゲルに接着している細胞は殆ど生きていることが分かった。組織 SHAPE \* MERGEFORMAT 培養用ポリスチレン(TCPS)を基準として生きている細胞の割合を調べた結果、TCPSとあまり変わらないことが分かった。このことは、接着細胞の数の減少は毒性ではなく、コラーゲンゲル表面と細胞との間の弱い相互作用による細胞接着抑制特性に起因することを示している。
【0067】
〔実施例4〕コラーゲン繊維間架橋とコラーゲン繊維/ポリマー架橋による高密度ネットワークゲルの作製
EDC及びNHSを利用したコラーゲンとポリマーの架橋は、反応後、架橋剤が残らない長点があることから汎用されている。しかしながら、EDC及びNHSとポリマーとの反応率は低いため、我々はポリマー再固定化(再架橋)を行い、ポリマーの架橋率を高めることに成功した。このシステムの場合、コラーゲンの内部架橋は微小繊維間架橋によるものの、コラーゲン繊維間架橋は存在しない。微小繊維間架橋とコラーゲン繊維間架橋の役割はあまり知られていないので、内部架橋の明確な役割に関して調べる必要がある。そこで、我々は、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDGE)を使い、その問題点の解決に望んだ。BDDGEは酸性の条件ではカルボキシル基と反応し、アルカリ性の条件ではアミン基と反応する特徴を持っている。そこで、我々は内部架橋されていないリン脂質ポリマー/コラーゲンハイブリッドゲルにBDDGEを酸性条件で架橋し、リン脂質ポリマーとコラーゲン繊維架橋、コラーゲン繊維間架橋を行い、もっとも強くて高い安定性を持つ新しいタイプの高密度ネットワークゲルドゲルを作製した。このゲルを使用し、微小繊維間架橋とコラーゲン繊維間架橋の差異を調べた。
【0068】
(1)コラーゲンゲルの作製
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ユニットを有するPMAを使用し、コラーゲンとの架橋を行った。PMAをコラーゲンゲルに固定化するため、まずPMAをEDC/NHSと10分間MES緩衝液で反応させ(EDC:NHS:COOH=5:5:1)、PMAのカルボキシル基を活性化した。その活性化PMAをコラーゲンフィルム及びE/Nゲルと4℃で48時間反応させ、PMA-活性化コラーゲンゲル[MPC immobilized collagen gel (without intrahelical cross-links);MiC-0ゲル]を作製した。このゲルをNaHPO水溶液で2時間洗浄し、すぐ蒸留水で洗浄して未反応物質と塩を除去した。
MiC-0ゲルが有するカルボキシル基同士を架橋し、もっと緻密なネットワークを有するコラーゲンゲルを作製するため、BDDGEを含有するMES緩衝液(pH4.5)にMiC-0ゲルを入れ、25℃で5日間反応させた。その後、ゲルを水で30分間4回洗い、カルボキシル基間架橋を有するMiC-0/diolゲル(高密度ネットワークゲル)を作製した。高密度ネットワークゲルの構造式を図13に示す。
【0069】
(2)含水率
乾燥した試料(高密度ネットワークゲル)を蒸留水の中に入れて重さの変化を測定し、膨潤度を計算した。各試料を25℃又は37℃の蒸留水中に入れ、24時間放置した。その後、水を軽く拭いて膨潤したゲルの重さを量り、含水率を計算した。含水率(%)は以下の式に基づき算出した。
含水率(%)=(W-W)/W×100
なお、Wは乾燥した試料の重さ、Wは膨潤した試料の重さである。
また、含水率実験の前の試料の重さと実験後の乾燥した試料の重さの変化を測定し、コラーゲンゲルの浸食率も計算した。
【0070】
結果を図14に示す。なお、図14(a)は含水率に関する結果であり、図14(b)は浸食率に関する結果である。
図14(a)に示すように、コラーゲンゲルの含水率は架橋とともに低下した。MiC-0/diolゲルは、MiC-0ゲルと比較して含水率が最も低下した。含水率を膨張度に換算すると、約70%にも及ばなかった。また、E/Nゲルと比較しても、非常に含水率が低かった。これは、カルボキシル基間架橋がかなり緻密な構造を形成させることを示している。結局、このゲルは水の中に高い安定性を持つことを表している。25℃及び37℃における含水率を比べた結果、Ucゲル以外に変化は見られなかった。これは、コラーゲンゲルの膨潤を抑え、α-へリックス構造の水による変性を防ぐことにより、安定したネットワーク構造が維持されるからであると考えられる。
また、図14(b)に示すように、約30%の浸食率が観察されたUcゲルに対し、高密度ネットワークゲルの浸食率は約2%以下だった。他のゲルと比べても、非常に低い浸食率であった。このことは、このゲルが非常に安定性が高く、緻密なネットワークを形成していることを示している。すなわち、微小繊維間架橋よりもコラーゲン繊維間架橋の方が安定したコラーゲンゲルを形成できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】各種コラーゲンゲルの表面と破断表面の観察結果を示す図である。
【図2】各種コラーゲンゲルの応力・歪み曲線を示す図である。
【図3】各種コラーゲンゲルの膨潤度の測定結果を示す図である。
【図4】コラゲナーゼによる各種コラーゲンゲルの分解率を示す図である。
【図5】Ucゲル(A)及びMiCゲル(B)の透明性を示す図であり、(a)はブルーライトを当てた状態を示し、(b)は明るい場所で観察した状態を示す。
【図6】接触角の測定結果を示す図である。
【図7】X線光電子分光法(XPS)の測定結果を示す図である。
【図8】収縮実験の結果を示す図であり、AはUcゲル、BはENゲル、CはMiCゲル、Dはグルタルアルデヒド架橋ゲルを示す。
【図9】タンパク質吸着実験の結果を示す図である。
【図10】細胞接着実験の結果を示す図である。
【図11】ゲルの表面に接着した細胞の形態を示す図である。
【図12】毒性実験の結果を示す図である。
【図13】カルボキシル基間架橋を有するMiC-0/diolゲル(高密度ネットワークゲル)の構造を示す図である。
【図14】(a)は含水率の測定結果であり、(b)は浸食率の測定結果である。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図9】
5
【図10】
6
【図12】
7
【図13】
8
【図14】
9
【図1】
10
【図5】
11
【図8】
12
【図11】
13