TOP > 国内特許検索 > 2次元フォトニック結晶 > 明細書

明細書 :2次元フォトニック結晶

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5272173号 (P5272173)
公開番号 特開2008-241891 (P2008-241891A)
登録日 平成25年5月24日(2013.5.24)
発行日 平成25年8月28日(2013.8.28)
公開日 平成20年10月9日(2008.10.9)
発明の名称または考案の名称 2次元フォトニック結晶
国際特許分類 G02B   1/02        (2006.01)
G02B   6/13        (2006.01)
G02B   6/12        (2006.01)
FI G02B 1/02
G02B 6/12 M
G02B 6/12 Z
請求項の数または発明の数 7
全頁数 14
出願番号 特願2007-079342 (P2007-079342)
出願日 平成19年3月26日(2007.3.26)
審査請求日 平成22年3月19日(2010.3.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】野田 進
【氏名】浅野 卓
【氏名】望月 敬太
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
【識別番号】100095670、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 良平
審査官 【審査官】後藤 亮治
参考文献・文献 米国特許第07194175(US,B1)
特開2005-258406(JP,A)
特開2000-284136(JP,A)
特開2006-030279(JP,A)
特開2001-296442(JP,A)
特表2002-522810(JP,A)
調査した分野 G02B 1/02
G02B 6/12
特許請求の範囲 【請求項1】
a) 誘電体の板状部材から成る第1媒体内に該第1媒体よりも屈折率が低い第1異屈折率領域が第1三角格子の格子点に配置されて成る第1層と、
b) 第1層に載置された層であって、所定の誘電率を持つ第2媒体内に該第2媒体よりも屈折率が高い第2異屈折率領域が、前記第1三角格子における最隣接の3個の格子点から成る正三角形の重心を格子点とする第2三角格子の格子点に配置されて成る第2層と、
c) 第2層に載置された層であって、誘電体の板状部材から成る第3媒体内に該第3媒体よりも屈折率が低い第3異屈折率領域が、前記重心を通り第3層に垂直な軸を中心に前記第1三角格子を180°回転させた第3三角格子の格子点に配置されて成る第3層と、
を備えることを特徴とする2次元フォトニック結晶。
【請求項2】
第1異屈折率領域、第2異屈折率領域及び第3屈折率領域のうち少なくとも1つに形成された少なくとも1個の欠陥から成る点状欠陥共振器を備え
第1媒体、第2異屈折率領域及び第3媒体のいずれか1つ又は複数が、複数種の半導体を積層して成り前記点状欠陥共振器の共振波長に対応するサブバンドの間の遷移エネルギーが形成されている量子井戸構造を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項3】
a) 誘電体の板状部材から成る第1媒体内に該第1媒体よりも屈折率が低い第1異屈折率領域が周期的に配置されて成る第1層と、
b) 第1層に載置された層であって、所定の誘電率を持つ第2媒体内に該第2媒体よりも屈折率が高い第2異屈折率領域が前記第1異屈折率領域と同じ周期で配置されて成る第2層と、
c) 第2層に載置された層であって、誘電体の板状部材から成る第3媒体内に該第3媒体よりも屈折率が低い第3異屈折率領域が前記第1異屈折率領域と同じ周期で配置されて成る第3層と、
d) 第1異屈折率領域、第2異屈折率領域及び第3屈折率領域のうち少なくとも1つに形成された少なくとも1個の欠陥から成る点状欠陥共振器と、
を備え、
第1媒体、第2異屈折率領域及び第3媒体のいずれか1つ又は複数が、複数種の半導体を積層して成り前記点状欠陥共振器の共振波長に対応するサブバンドの間の遷移エネルギーが形成されている量子井戸構造を有する
ことを特徴とする2次元フォトニック結晶。
【請求項4】
前記第2媒体が空気であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項5】
前記第1異屈折率領域及び前記第3異屈折率領域が空気から成ることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項6】
第1異屈折率領域、第2異屈折率領域及び第3屈折率領域のうち少なくとも1つに形成された少なくとも1個の欠陥から成る点状欠陥共振器と、
前記点状欠陥共振器の近傍に設けられた、第1異屈折率領域、第2異屈折率領域及び第3屈折率領域のうち少なくとも1つに形成された線状欠陥から成る導波路と、
を備えることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項7】
a) 基板上に誘電体の柱状部材から成る第2異屈折率領域を周期的に形成する工程と、
b) 誘電体の板状部材から成る第1媒体内に該第1媒体よりも屈折率が低い第1異屈折率領域が周期的に配置されて成る第1層と前記柱状部材の一方の端部を熱接着する工程と、
c) 前記基板を除去する工程と、
d) 誘電体の板状部材から成る第3媒体内に該第3媒体よりも屈折率が低い第3異屈折率領域が周期的に配置されて成る第3層と前記柱状部材の他方の端部を熱接着する工程と、
を有することを特徴とする2次元フォトニック結晶製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光分合波器等の光デバイスや熱輻射光源等に用いられる2次元フォトニック結晶に関する。なお、本願において用いる「光」には、可視光以外の電磁波も含むものとする。
【背景技術】
【0002】
波長分割多重通信(Wavelength Division Multiplexing:WDM)に使用される光分合波器等の光通信用デバイスの分野において、高性能化、小型化、低価格化をはかるために、フォトニック結晶を利用したデバイスの開発が進められている。フォトニック結晶は、誘電体に周期構造を人工的に形成したものである。この周期構造は一般に、誘電体本体とは屈折率が異なる領域(異屈折率領域)を誘電体本体内に周期的に配置することにより形成される。その周期構造により、結晶中に光のエネルギーに関するバンド構造が形成され、光の伝播が不可能となるエネルギー領域が形成される。このようなエネルギー領域は「フォトニックバンドギャップ」(Photonic Band Gap:PBG)と呼ばれる。PBGが形成されるエネルギー領域(波長帯)は、誘電体の屈折率や周期構造の周期により定まる。
【0003】
特許文献1には、本体(スラブ)に異屈折率領域を周期的に配置し、その周期的配置に線状の欠陥を設けることにより導波路を形成するとともに、その導波路に隣接して上記周期的配置に点状の欠陥を設けることにより共振器を形成した2次元フォトニック結晶が記載されている。この2次元フォトニック結晶は、導波路内を伝播する様々な波長の光のうち共振器の共振波長に一致する波長の光を外部へ取り出す分波器として機能すると共に、外部から導波路に導入する合波器としても機能する。
【0004】
また、最近、2次元フォトニック結晶を熱輻射光源に用いることが検討されている。非特許文献1には、図1(a)に示すように、異なる半導体材料から成る複数の半導体板111、112、...を積層した量子井戸構造を有するスラブ11に空孔12を周期的に配置し、その空孔を点状に欠損させることにより点状欠陥共振器13を形成した2次元フォトニック結晶10が記載されている。図1(b)(c)に示すように、空孔12は、スラブの上表面では三角格子の格子点141上に、下表面では上表面三角格子を構成する正三角形の重心の直下にある格子点142上に、それぞれ配置されている。そして、空孔12は上表面と下表面の間では、上側格子点141からはそれに最隣接の3個の下側格子点142に向けて3方向にそれぞれ傾斜して延び、下側格子点142からはそれに最隣接の3個の上側格子点141に向けて3方向にそれぞれ傾斜して延びている。この2次元フォトニック結晶10を加熱すると、量子井戸に形成される離散的なエネルギー準位(サブバンド)の間で電子又は正孔の遷移が生じ、このエネルギー差に対応する波長の光が発生する。この光は、点状欠陥共振器13により強度が増幅され、2次元フォトニック結晶10の外部に放出される。
【0005】
一般の熱輻射源では、黒体スペクトルに近い広帯域な赤外線が放射されるため、その帯域からフィルターで所望の波長を切り出したうえで、ガス成分などの分光分析に用いられる。それに対して、2次元フォトニック結晶を用いた熱輻射光源では、最初から所望の波長のみの発光が得られるため、エネルギー利用効率が向上すると期待される。
【0006】

【特許文献1】特開2001-272555号公報([0023]~[0027]、[0032]、図1、図5~6)
【非特許文献1】望月敬太 他3名、「サブバンド間遷移をもつ量子井戸を導入した2次元フォトニック結晶スラブからの熱輻射スペクトルの解析」、2006年秋季第67回応用物理学会学術講演会講演予稿集、2006年8月29日、社団法人応用物理学会発行、第3分冊、講演番号31p-ZD-12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
波長合分波器等の光デバイスでは、多くの場合、電場が本体に平行に振動するTE偏波及び電場が本体に垂直に振動するTM偏波のどちらか一方の偏波の光に対してPBGが形成されるように設計される。例えば、特許文献1に記載の2次元フォトニック結晶ではTE偏波に対してのみPBGが形成され、TM偏波についてはPBGが形成されない。このような場合、両偏波を含む光が2次元フォトニック結晶の導波路や共振器に導入されると、TM偏波は導波路や共振器から本体内に散逸し、損失が発生してしまう。
【0008】
一方、上述の2次元フォトニック結晶10は、異屈折率領域がシェーンフリース表記でC3v(ヘルマンモーガン表記で3m)の対称性を持つこと、及びスラブに垂直な方向について非対称であることにより、偏波の方向に拘わらずPBGを形成することができるという利点を有する。このようにあらゆる偏波に対して形成されるPBGを「完全PBG」と呼ぶ。しかし、前記2次元フォトニック結晶10は、スラブ11に対して傾斜した方向に、しかもスラブの一方の面上の異なる3点から3個の空孔12を他方の面上の1点に向けて作製しなければならない、という点で高度な製造技術を要するという欠点を有する。
【0009】
また、前記2次元フォトニック結晶10における完全PBGの幅は、最大でも、完全PBGが得られるエネルギーの中央値の15%程度である。波長合分波器においては偏波の方向に拘わらず多くの波長の光を合波・分波させるために、また、熱輻射源としては広い帯域における不要な輻射を抑制して所望波長の発光でのエネルギー利用効率を向上させるために、より広い完全PBGを持つ2次元フォトニック結晶が求められる。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、製造が容易であり、従来よりも広い完全PBGを得ることが可能な偏波無依存2次元フォトニック結晶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る2次元フォトニック結晶の第1の態様のものは、
a) 誘電体の板状部材から成る第1媒体内に該第1媒体よりも屈折率が低い第1異屈折率領域が第1三角格子の格子点に配置されて成る第1層と、
b) 第1層に載置された層であって、所定の誘電率を持つ第2媒体内に該第2媒体よりも屈折率が高い第2異屈折率領域が、前記第1三角格子における最隣接の3個の格子点から成る正三角形の重心を格子点とする第2三角格子の格子点に配置されて成る第2層と、
c) 第2層に載置された層であって、誘電体の板状部材から成る第3媒体内に該第3媒体よりも屈折率が低い第3異屈折率領域が、前記重心を通り第3層に垂直な軸を中心に前記第1三角格子を180°回転させた第3三角格子の格子点に配置されて成る第3層と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
このように、第1の態様の2次元フォトニック結晶では、前記第1異屈折率領域は第1三角格子の格子点に配置され、前記第3異屈折率領域は、前記第1三角格子における最隣接の3個の格子点から成る正三角形の重心を通り第3層に垂直な軸を中心に180°回転させた第3三角格子の格子点に配置されている。以下、このような第1三角格子と第3三角格子の関係を「対称」と呼ぶ。また、前記第2異屈折率領域は前記重心を格子点とする第2三角格子の格子点に配置されている。以下、このような第1三角格子と第2三角格子の関係を「相補」と呼ぶ
【0013】
第1の態様の2次元フォトニック結晶において、
第1異屈折率領域、第2異屈折率領域及び第3屈折率領域のうち少なくとも1つにつき形成された少なくとも1個の欠陥から成る点状欠陥共振器を備え、
第1媒体、第2異屈折率領域及び第3媒体のいずれか1つ又は複数が、複数種の半導体を積層して成り前記点状欠陥共振器の共振波長に対応するサブバンドの間の遷移エネルギーが形成されている量子井戸構造を有することができる。
また、本発明に係る2次元フォトニック結晶の第2の態様のものは、
a) 誘電体の板状部材から成る第1媒体内に該第1媒体よりも屈折率が低い第1異屈折率領域が周期的に配置されて成る第1層と、
b) 第1層に載置された層であって、所定の誘電率を持つ第2媒体内に該第2媒体よりも屈折率が高い第2異屈折率領域が前記第1異屈折率領域と同じ周期で配置されて成る第2層と、
c) 第2層に載置された層であって、誘電体の板状部材から成る第3媒体内に該第3媒体よりも屈折率が低い第3異屈折率領域が前記第1異屈折率領域と同じ周期で配置されて成る第3層と、
d) 第1異屈折率領域、第2異屈折率領域及び第3屈折率領域のうち少なくとも1つに形成された少なくとも1個の欠陥から成る点状欠陥共振器と、
を備え、
第1媒体、第2異屈折率領域及び第3媒体のいずれか1つ又は複数が、複数種の半導体を積層して成り前記点状欠陥共振器の共振波長に対応するサブバンドの間の遷移エネルギーが形成されている量子井戸構造を有する
ことを特徴とする。
これらの2次元フォトニック結晶は、熱輻射光源に用いることができる。
【0014】
本発明の2次元フォトニック結晶において、
第1異屈折率領域、第2異屈折率領域及び第3屈折率領域のうち少なくとも1つにつき形成された少なくとも1個の欠陥から成る点状欠陥共振器と、
前記点状欠陥共振器の近傍に設けられた、第1異屈折率領域、第2異屈折率領域及び第3屈折率領域のうち少なくとも1つにつき形成された線状欠陥から成る導波路と、
を備えるものは波長合分波器として用いることができる。
【0015】
本発明に係る2次元フォトニック結晶の製造方法は、
a) 基板上に誘電体の柱状部材から成る第2異屈折率領域を周期的に形成する工程と、
b) 誘電体の板状部材から成る第1媒体内に該第1媒体よりも屈折率が低い第1異屈折率領域が周期的に配置されて成る第1層と前記柱状部材の一方の端部を熱接着する工程と、
c) 前記基板を除去する工程と、
d) 誘電体の板状部材から成る第3媒体内に該第3媒体よりも屈折率が低い第3異屈折率領域が周期的に配置されて成る第3層と前記柱状部材の他方の端部を熱接着する工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る2次元フォトニック結晶では、第1層及び第3層においては第1(3)異屈折率領域よりも屈折率が高い第1(3)媒体が2次元フォトニック結晶に平行な方向に拡がって存在し、第2層においては第2媒体よりも屈折率が高い第2異屈折率領域が2次元フォトニック結晶に垂直な方向に延びている。このような構造としたのは、次の理由による。2次元フォトニック結晶スラブ内に分布している光の電界の方向は、スラブ中心付近と表面付近では異なる。そのため、本発明に係る2次元フォトニック結晶ではそれに対応してフォトニック結晶中心層(第2層)及びそれを挟む表面層(第1層及び第3層)の3層構造とし、各層の電界方向に対して最適となるように設計したものである。このような構成を採ることより、本発明に係る2次元フォトニック結晶は、あらゆる方向の偏波に対する完全PBGを得ることができる。
【0017】
本発明に係る2次元フォトニック結晶の中でも、第1と第3異屈折率領域を対称的配置とし、第2異屈折率領域をそれらに対して相補的配置としたものは、非特許文献1に記載の2次元フォトニック結晶と同様に結晶構造がC3v(3m)の対称性を持つため、本発明の他の2次元フォトニック結晶よりも大きい完全PBGを得ることができる。また、このような3層配置を持つ本発明の2次元フォトニック結晶は、結晶構造の対称性に加えて上述の屈折率分布をもつため、非特許文献1に記載の2次元フォトニック結晶よりも大きい完全PBGを得ることができる。
【0018】
本発明に係る2次元フォトニック結晶は、(i)第1層~第3層の各層を作製する工程と、(ii)第1層と第2層、及び第2層と第3層を接合する工程と、により製造することができる。そのうち(i)の工程は、例えば特許文献1に記載されているようにフォトリソグラフィー法等を用いて容易に行うことができる。また、(ii)の工程は、3次元フォトニック結晶の製造に用いられる熱接着法(例えば特開2001-074955号公報の[0031]~[0034]段落及び図8を参照)により容易に行うことができる。そのため、本発明に係る2次元フォトニック結晶は非特許文献1に記載の2次元フォトニック結晶よりも容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る2次元フォトニック結晶の一実施形態を、図2~図4を用いて説明する。図2は本実施形態の2次元フォトニック結晶20の斜視図である。2次元フォトニック結晶20は第1層21、第2層22及び第3層23から成る3層構造を有する。図3に各層の構成を平面図で示す。第1層21は、板状の誘電体から成る第1層スラブ(第1媒体)211に円形の第1層空孔(第1異屈折率領域)212を三角格子状に配置したものである(図3(a))。第2層22は、空気(第2媒体)中に円柱状の誘電体柱(第2異屈折率領域)222を、第1層空孔212と同じ周期で三角格子状に配置したものである(図3(b))。第3層23は、第1層21と同様に、板状の誘電体から成る第3層スラブ(第3媒体)231に円形の第3層空孔(第3異屈折率領域)232を三角格子状に配置したものである(図3(c))。
【0020】
第1層空孔212と第3層空孔232は前述の対称的配置となっており、第2層の誘電体柱222はそれらに対して相補的配置となっている。この関係を詳しく説明する。図3(a)~(c)に太実線で示した正三角形は第1層空孔212の位置を頂点とする正三角形である。誘電体柱222は太実線正三角形の重心Gの位置にある。第3層空孔232は、重心Gを通り第3層23に垂直な軸を中心に太実線正三角形を180°回転させた太破線の正三角形の頂点の位置にある。
このように第1層空孔212、誘電体柱222、第3層空孔232を配置すると、誘電体柱222の位置は前述のように太実線正三角形の重心Gにあるだけでなく、太破線正三角形の重心の位置にもある。そのため、誘電体柱222は(第1層空孔212及び第3層空孔232ではなく)第1層スラブ211及び第3層スラブ231に接することとなり、第1層スラブ211と誘電体柱222、及び第3層スラブ231と誘電体柱222を接着することができる。
また、第1層空孔212と第3層空孔232の位置関係は、前述の2次元フォトニック結晶10における上側格子点141と下側格子点142の位置関係と同じである。
【0021】
第1層スラブ211及び第3層スラブ231の材料には、例えばSi、InGaAsP、GaAs、AlGaAs等を用いることができる。同様に、誘電体柱222の材料にもSi、InGaAsP、GaAs、AlGaAs等を用いることができる。第1層スラブ211及び/又は第3層スラブ231と誘電体柱222には異なる材料を用いてもよいが、それらの接合性をよくするためには同じ材料を用いることが望ましい。一方、例えば熱輻射光源において第1層、第3層のいずれか一方の側からのみ熱輻射光を取り出したい場合等には、第1層スラブ211と第3層スラブ231に異なる材料を用いることができ、それと共に誘電体柱222に第1層スラブ211及び/又は第3層スラブ231とは異なる材料を用いることもできる。
【0022】
本実施形態の2次元フォトニック結晶20は、以下の2つの理由により、完全PBGを持つ。まず、第1の理由を説明する。従来の1層のみで構成されるスラブ状の2次元フォトニック結晶においては、TE偏波に対してはPBGが比較的容易に開くものの、TM偏波に対してはPBGが開かない。これは、一般にTM偏波モードにおいては、2次元フォトニック結晶の表面付近では電界がスラブ面内方向を向くのに対して中心付近では電界がスラブに垂直な方向を向くという電界分布を持つため、均一な1層のみから成る従来の構造ではPBGを形成することが困難であることによる。それに対して本実施形態の2次元フォトニック結晶20では、第1層21及び第3層23に異屈折率領域よりも屈折率が高い第1層スラブ211及び第3層スラブ231を用いることにより、表面付近での前記電界分布に対してPBGが開きやすい構造になっている。また、第2層22に空気(第2媒体)よりも屈折率が高い誘電体柱222を用いることにより、中心付近での前記電界分布に対してPBGが開きやすい構造になっている。このように、本実施形態の2次元フォトニック結晶では、表面及び中心の層にそれぞれ、その層における電界分布に対応した異なる構造を採用することにより、完全PBGを持つことができた。
【0023】
第2の理由は、相補的配置に起因するものである。相補的配置の場合には1個の誘電体柱222Aと、その誘電体柱222Aに最隣接の3個の第1層空孔212A~212Cと、その誘電体柱222Aに最隣接の3個の第3層空孔232A~232C(図4)により、C3v(3m)の対称性が形成される。これにより、非特許文献1に記載の2次元フォトニック結晶と同様の理由により、2次元フォトニック結晶20は完全PBGを持つ。
【0024】
上記実施形態では、第1層と第3層が対称的位置にあり、第1及び第3層が共に第2層に対して相補的位置にあったが、それ以外の場合、即ち第1層空孔212、誘電体柱222、第3層空孔232の3つの層が互いに対称的・相補的位置にない場合であっても、第1層~第3層が上述の屈折率分布を持つ2次元フォトニック結晶は、上記第1の理由により完全PBGを持つ。
【0025】
また、第1異屈折率領域及び第3異屈折率領域には、2次元フォトニック結晶20で用いた空孔の他に、第1楳体及び第3媒体よりも屈折率が低い部材を用いることもできる。空孔は低屈折率部材を用いる場合よりも第1楳体及び第3媒体との屈折率の差を大きくできる点で、低屈折率部材は空孔を用いる場合よりも製造時における熱処理の際に変形し難いという点で、それぞれ利点を有する。更に、第2媒体には、2次元フォトニック結晶20における空気の他に、第2異屈折率領域よりも屈折率が小さい板状部材を用いることもできる。空気から成る第2媒体は上記空孔の場合と同様に板状部材を用いる場合よりも第2異屈折率領域との屈折率の差を大きくできる点で、板状部材から成る第2媒体は第2層が第1層及び/又は第3層の保持の点で、それぞれ利点を有する。
【0026】
図5を用いて、本発明に係る2次元フォトニック結晶の製造方法を説明する。ここでは上記実施形態の2次元フォトニック結晶20を例に説明するが、他の実施形態のものも同様に作製することができる。
まず、第1層21、第2層22及び第3層23をそれぞれ独立に作製する(a)。第1基板511上に第1層スラブ211を作製し、第1層スラブ211内に第1層空孔212を形成する。第1層スラブ211はその材料に応じて蒸着法やCVD法等の通常の方法により作製することができ、第1層空孔212はフォトリソグラフィーとエッチング法による通常の方法で形成することができる。第3層23は、第1層21と同様の方法により第3基板513上に作製することができる。第2層22は、第2基板512上に誘電体柱222の材料から成る誘電体層を作製した後、フォトリソグラフィーとエッチング法により誘電体柱222以外の部分の誘電体層を除去することにより作製することができる。
【0027】
第1層空孔212と誘電体柱222が相補的関係となるように第1層21と第2層22の相対位置を調整して両者を重ね、両者を加熱することにより熱接着する(b)。このような熱接着は3次元フォトニック結晶を製造する際に行われているものである(上述の特開2001-074955号公報参照)。次に、第2基板512を除去したうえで、誘電体柱222と第3層空孔232が相補的関係となるように第2層22と第3層23の相対位置を調整して両者を重ね、両者を熱接着する(c)ことにより、2次元フォトニック結晶20が得られる。
【0028】
本発明に係る2次元フォトニック結晶において、第1異屈折率領域、第2異屈折率領域及び第3屈折率領域のうちの1つ又は複数について、少なくとも1個の欠陥を設けることにより、点状欠陥共振器を形成することができる。この欠陥は一部の第1(2、3)異屈折率領域を他の第1(2、3)異屈折率領域と異なる大きさ及び/又は形状としたり、その一部第1(2、3)異屈折率領域を欠損させる(設けない)ことにより形成することができる。例えば、2次元フォトニック結晶20において、1個の誘電体柱322、第1層空孔312又は第3層空孔332のみから成る欠陥を設けることができる。図6(a)に、1個の誘電体柱322Aのみから成る点状欠陥共振器の例を示す。また、誘電体柱322A及びそれに隣接する他の誘電体柱322の欠陥から成る1個の点状欠陥共振器322C(図6(b))を設けることもできる(第1層空孔312及び第3層空孔332の場合も同様)。あるいは、誘電体柱322Aに隣接する3個の第1層空孔312及び/又は第3層空孔332から成る三空孔欠陥34Cと誘電体柱322Aの欠陥から成る1個の欠陥34P(図6(c))を設けることができる。
【0029】
図7に、点状欠陥共振器の他の例を示す。この点状欠陥共振器35Pは、第1層21の空孔312のうちの1個を欠損させることにより形成される一空孔欠陥312Aと、一空孔欠陥312Aに最隣接の3個の誘電体柱の代わりにそれら3個の誘電体柱の位置を底面の頂点とする正三角柱から成る正三角柱欠陥322Bから、1個の点状欠陥共振器として構成される。なお、一空孔欠陥312Aまたは正三角柱欠陥322Bのいずれか一方のみを設けた場合にも、それらは点状欠陥共振器として機能する。
【0030】
点状欠陥共振器と同様に、第1異屈折率領域、第2異屈折率領域及び第3屈折率領域のうちの1つ又は複数について、線状の欠陥を設けることにより、導波路を形成することができる。例えば、2次元フォトニック結晶20において、誘電体柱222のみの欠陥を線状に1列設けた線状欠陥(導波路)322L(図8(a))や、線状欠陥322Lに隣接する第1層空孔212の欠陥を線状に1列設けた線状欠陥312Lと線状欠陥322Lから成る導波路34L(図8(b))等を設けることができる。
【0031】
このような線状欠陥導波路の近傍に点状欠陥共振器を設けることにより、本発明に係る2次元フォトニック結晶を波長合分波器として用いることができる(図9)。
【0032】
また、本発明に係る2次元フォトニック結晶において、第1媒体、第2異屈折率領域及び第3媒体のいずれか1つ又は複数を、従来の熱輻射光源に用いられる2次元フォトニック結晶10のスラブ11と同様に、複数種の半導体を積層することにより構成すると共に、上述の波長合分波器と同様に点状欠陥共振器を設けることにより、熱輻射光源用の2次元フォトニック結晶として用いることができる。例えば、図10に示すように、異なる半導体材料から成る第1半導体板材4311及び第2半導体板材4312を積層させた構成を有する第3層スラブ431を用い、誘電体柱222及び第3層スラブ431に上述の点状欠陥共振器35Pを設けることにより、熱輻射光源用2次元フォトニック結晶40を構成することができる。
【実施例1】
【0033】
本発明に係る2次元フォトニック結晶の一例につき、FDTD法によりバンド計算を行った結果を以下に示す。ここでは、第1層と第3層が上述の2次元フォトニック結晶20と同じ構造を有し、第2層において2次元フォトニック結晶20における円柱状の誘電体柱222の代わりに図11に示すように第1層空孔212及び第3層空孔232と接していない部分全体に誘電体柱222Bを設けた場合について計算を行った。この計算では、第1層21の厚さを第1層空孔212の周期aの0.2倍(0.2a)、第2層22の厚さを0.4a、第3層23の厚さを0.2aとし、第1層空孔212及び第3層空孔232の径rの値によるバンドの変化を求めた。
図12に、一例として、r=0.36aの場合についてバンド計算の結果を示す。横軸は波数ペクトルであり、縦軸はフォトニックバンドを規格化周波数(周波数に周期aを乗じ光速cで除したもの)で表したものである。規格化周波数が0.355~0.437の範囲内に完全PBGが形成されている。同様の計算を、r=0.30~0.38の範囲で行った。
【0034】
図13に、完全PBGの上端値、下端値及びΔω/ω0値につき、rによる変化を計算した結果を示す。ここで、Δω/ω0はPBGの周波数幅Δωを完全PBGの中央値ω0で除した値の百分率で定義され、rなどの条件の変化による完全PBGの幅の相対的な変化を示すものである。この結果、計算を行った範囲内においていずれも15%~25%という、従来の2次元フォトニック結晶では得ることができなかった広い完全PBG幅を得ることができることが明らかになった。
【0035】
図14に、各層の厚さが図12、図13のときのものと異なる場合について、バンド計算を行った結果の一例を示す。この例では第1層21、第2層22及び第3層23の厚さをいずれも0.3aとし、rの値を0.34aとした。この結果より、Δω/ω0値は23%であり、図13の場合とほぼ同じ値が得られた。
【実施例2】
【0036】
本発明に係る2次元フォトニック結晶を用いた熱輻射光源に関する計算結果を以下に述べる。上述の熱輻射光源用2次元フォトニック結晶40を用いた場合において、熱輻射により得られ、点状欠陥共振器35Pにより増幅されたTMモードの光が2次元フォトニック結晶40内に漏出することを防ぐことが必要となる。ここでは、そのTMモードの漏出光の強度を計算により求めた(本実施例)。併せて、比較例として、非特許文献1に記載の2次元フォトニック結晶(比較例1)と、第1半導体板材4311及び第2半導体板材4312を交互に積層したものであって異屈折率領域を持たない(即ち、2次元フォトニック結晶ではない)厚さ0.8aのスラブ(比較例2)についても同様の計算を行った。その結果を図15に示す。この結果は、本実施例では比較例1と同様に、完全PBGに対応する周波数領域61において、比較例2よりもTMモードの漏出光を抑えることができることを示している。
【実施例3】
【0037】
第1層と第3層を前述の2次元フォトニック結晶40と同じ構造とし、第2層において円柱状の誘電体柱222に代えて前述の誘電体柱222Bを設けた熱輻射光源用2次元フォトニック結晶につき、第1層21及び第3層23に垂直な方向に放出される熱輻射光(垂直放出光)、及び2次元フォトニック結晶内に漏出する光(結晶内漏出光)のスペクトルを計算した結果を図16に示す。この結果より、2次元フォトニック結晶内への漏出光よりも十分に強い強度で垂直放出光が得られることがわかる。また、垂直放出光につき、第1層21側(即ち第1半導体板材4111及び第2半導体板材4112の積層構造がない側)に放出される光と、第3層23側(積層構造がある側)に放出される光のスペクトルを計算した結果を図17に示す。この結果より、垂直放出光の大半が第3層23側から放出されることがわかる。従って、一方向にのみ熱輻射光を取り出したい場合に正三角柱欠陥322Bのみから成る点状欠陥共振器を好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】従来の偏波無依存2次元フォトニック結晶の一例を示す斜視図(a)並びにその2次元フォトニック結晶11に設けられた空孔12を示す平面図(b)及び斜視図(c)。
【図2】本発明に係る2次元フォトニック結晶の一実施形態を示す斜視図。
【図3】本実施形態の2次元フォトニック結晶20の第1層21、第2層22及び第3層23の平面図。
【図4】誘電体柱222A並びに誘電体柱222Aに最隣接の3個の第1層空孔212A~212C及び誘電体柱222Aに最隣接の3個の第3層空孔232A~232Cを示す斜視図。
【図5】本実施形態の2次元フォトニック結晶の製造方法を示す縦断面図。
【図6】本発明に係る2次元フォトニック結晶に点状欠陥共振器を設けた例を示す平面図。
【図7】点状欠陥共振器の他の例を示す平面図。
【図8】本発明に係る2次元フォトニック結晶に線状欠陥導波路を設けた例を示す平面図。
【図9】本発明に係る2次元フォトニック結晶を用いた波長合分波器の一例を示す斜視図。
【図10】本発明に係る熱輻射光源用2次元フォトニック結晶40の一例を示す斜視図。
【図11】第1実施例に係る2次元フォトニック結晶の誘電体柱の形状を示す平面図。
【図12】第1実施例に係る2次元フォトニック結晶のバンド計算結果の一例を示すグラフ。
【図13】第1実施例に係る2次元フォトニック結晶の第1層空孔212及び第3層空孔232の径rと、完全PBGの上限値及び下限値並びにΔω/ω0値の関係を計算で求めた結果を示すグラフ。
【図14】第1実施例に係る2次元フォトニック結晶のバンド計算結果の他の例を示すグラフ。
【図15】熱輻射光源用2次元フォトニック結晶40における点状欠陥共振器から結晶内への光の漏出強度の計算結果を示すグラフ。
【図16】正三角柱欠陥322Bを有する熱輻射光源用2次元フォトニック結晶に関する、垂直放出光及び結晶内放出光の熱輻射スペクトルの計算結果を示すグラフ。
【図17】正三角柱欠陥322Bを有する熱輻射光源用2次元フォトニック結晶に関する、第1層21側への垂直放出光及び第3層23側への垂直放出光の熱輻射スペクトルの計算結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0039】
10…2次元フォトニック結晶
11…スラブ
111、112…半導体板
12…空孔
13、322C、34P、35P…点状欠陥共振器
141…上側格子点
142…下側格子点
20…2次元フォトニック結晶
21…第1層
211、411…第1層スラブ
212、212A、312…第1層空孔
22…第2層
222、222A、222B、322、322A…誘電体柱
23…第3層
231、431…第3層スラブ
232、232A、332…第3層空孔
312A…一空孔欠陥
312L、322L、34L…線状欠陥導波路
322A…一誘電体柱欠陥
322B…正三角柱欠陥
34C…三空孔欠陥
40…熱輻射光源用2次元フォトニック結晶
4311…第1半導体板材
4312…第2半導体板材
511…第1基板
512…第2基板
513…第3基板
61…完全PBG
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16