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明細書 :太陽光透過制御素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5493073号 (P5493073)
公開番号 特開2008-134628 (P2008-134628A)
登録日 平成26年3月14日(2014.3.14)
発行日 平成26年5月14日(2014.5.14)
公開日 平成20年6月12日(2008.6.12)
発明の名称または考案の名称 太陽光透過制御素子
国際特許分類 G02B   5/32        (2006.01)
G02F   1/061       (2006.01)
G02B   5/18        (2006.01)
E06B   9/24        (2006.01)
FI G02B 5/32
G02F 1/061
G02B 5/18
E06B 9/24 E
請求項の数または発明の数 9
全頁数 23
出願番号 特願2007-279698 (P2007-279698)
出願日 平成19年10月26日(2007.10.26)
優先権出願番号 2006292535
優先日 平成18年10月27日(2006.10.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年10月5日(2010.10.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
発明者または考案者 【氏名】垣内田 洋
【氏名】田澤 真人
【氏名】荻原 昭文
個別代理人の代理人 【識別番号】100102004、【弁理士】、【氏名又は名称】須藤 政彦
審査官 【審査官】横川 美穂
参考文献・文献 特開2003-270419(JP,A)
特開2006-145970(JP,A)
特開2002-023107(JP,A)
荻原昭文,液晶を用いた回折光学素子の偏光依存性の解析,電子情報通信学会論文誌C,日本,電子情報通信学会,2006年11月 1日,Vol.89-C/No.11,Page.941-950
調査した分野 G02B 5/32
E06B 9/24
G02B 5/18
G02F 1/061
特許請求の範囲 【請求項1】
高分子分散液晶型ホログラフィック回折素子(HPDLC回折素子)において、当該HPDLC回折素子内に含まれる液晶のネマティック-アイソトロピック(NI)相転移による屈折率及び屈折率異方性-等方性の変化を利用して、NI相転移温度に対応している特定の温度範囲で光の伝播方向あるいは偏光状態を変えて、それにより光の透過率を制御して調光を行うようにした光回折型の光透過制御素子を含み、当該光透過制御素子に対して、温度変化に伴って変化する前記光透過制御素子の光の透過及び当該光透過制御素子からの入射光の伝播方向あるいは当該入射光の偏光状態に応じて、当該入射光の透過率を変える役割を果たす光処理機能部が配置されたことを特徴とする光透過制御部材。
【請求項2】
上記HPDLC回折素子が、PあるいはS偏光のどちらか一方の回折光強度を優先的に温度で制御するように構成された、請求項1記載の光透過制御部材。
【請求項3】
0.04を上回る異方性屈折率を有し、ネマティック-アイソトロピック(NI)相転移点を有する液晶材料からなるHPDLC回折素子を用いてなる、請求項1記載の光透過制御部材。
【請求項4】
10~90℃にNI相転移点を有する液晶材料からなるHPDLC回折素子を用いてなる、請求項3記載の光透過制御部材。
【請求項5】
上記光処理機能部として、視野角制限部材あるいは偏光選択部材、又はこれら両部材が回折光と非回折光の内の一つの光の透過を制御するように配置された、請求項1記載の光透過制御部材。
【請求項6】
PあるいはS偏光のどちらか一方の回折光強度が優先的に、温度変化により変調されるHPDLC回折素子を2つ組み合わせて、上記光処理機能部として、視野角制限部材あるいは偏光選択部材、又はこれら両部材がPとS両偏光の回折による光の透過を制御するように配置された、請求項1記載の光透過制御部材。
【請求項7】
HPDLC回折素子が、可視光波長域の透過率(可視光透過能)及び日射透過制御能の両性能が高くなる条件として、HPDLC厚2~50μm、格子ピッチ0.3~2.0μmの範囲で構成された、請求項1記載の光透過制御部材。
【請求項8】
可視光透過能及び日射透過制御能を高めるために、
(HPDLC厚)=K×(格子ピッチ)
を満たす関係式(ここで、Kは、範囲4~15μm-1を満たす定数を表わす。)に、HPDLC厚と格子ピッチの値が設定されている、請求項7記載の光透過制御部材。
【請求項9】
上記光透過制御部材が、太陽光の透過を制御する太陽光透過制御窓材である、請求項1から8のいずれかに記載の光透過制御部材。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子分散液晶型ホログラフィック回折素子(以下、HPDLC回折素子と記載する。)を用いた光透過制御素子及び当該光透過制御素子を含む光透過制御部材に関するものであり、更に詳しくは、上記HPDLC回折素子を用いた、自動調光窓材等に好適に使用される光透過制御素子、ある特定の波長範囲で透過率制御できる性質を有し、この波長範囲を用途に応じて自在に変えることができる光透過制御素子、及び当該光透過制御素子を含む光透過制御部材、例えば、自動調光遮熱窓材、このような窓材を用いた調光及び空調の方法及び装置等に関するものである。
【0002】
本発明は、例えば、建築物や自動車、列車、船舶、飛行機などの移動体に、省エネルギー、快適住居性能、採光性能などの機能を付加することを可能とする新しい光透過制御素子、当該光透過制御素子を用いた機能性自動調光遮熱窓材及びその応用技術等を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、多くのサーモクロミック(熱着色型)材料が提案されているが、その中でも、VOが環境応答型調光材料として有力候補である。そして、このVOを用いたサーモクロミック窓材が多く提案されており、これを、単独あるいは他の材料と組み合わせることで、可視波長域において、透明性を保持しつつ、主として近赤外、赤外波長域で、光透過率を温度によって制御することが実現されている(特許文献1、2)。
【0004】
また、先行技術として、温度に対して、可逆的に透明状態と白濁遮光状態との間を変わる曇天現象を利用した調光技術が報告されている。例えば、ある温度を上回ると白濁化する水溶性化合物を溶解した水性組成物を、調光ガラスに積層した、低温では透明状態であるが、高温になると白濁し、散乱体となって可視波長域を含む広い波長範囲にわたって遮光するため、調光性能が高く、かつ調光温度も生活温度を含めて広い範囲で設定できるという利点を有する調光ガラスを使用した窓材が、開発されている(特許文献3)
【0005】
しかし、VOによるサーモクロミック窓材では、太陽光の室内への光量調整の性能の課題として、(1)可視透過性能が窓材としては低い、(2)調光性能に改善の余地がある、(3)調光温度が生活温度範囲より高い、という問題があるが、これらは、VOがもつ材料の本質に強く結びつく問題であり、改善が簡単ではない。
【0006】
上記(1)の問題は、VOの光学バンドギャップが狭く、光吸収端の裾が波長500nm付近まで迫っていることに起因する。また、これが要因で、可視透過率が全体に低いだけでなく、短波長側での透過率がより小さいため、茶黄色に着色する傾向がある。また、上記(2)の問題は、VOのサーモクロミズムによる透過率変化が主に波長1000nmより長波長側にあることが理由である。地上に届く太陽光の強度は、可視から赤外にわたって波長とともに緩やかに減少する分布をもつ。
【0007】
したがって、太陽光の輻射が大きい1000nmより短波長側で調光する方が近赤外及び赤外域でより効果的であるが、VOの本質的な特徴であるサーモクロミック特性を変えることは容易ではない。上記(1)と(2)の問題を改善するためには、VO薄膜を適切な屈折率をもつ媒質(例えば、TiO)膜によって挟んで、可視光反射防止とし、調光性能をできるだけ弱めずに可視域の透明度を上げることなどが行われているが、このような手法では、要望によっては不十分な場合がある(特許文献4、非特許文献1)。
【0008】
更に、上記(3)の問題は、VOの相転移温度が70℃付近と、実生活の温度範囲(例えば、日本では、-10から40℃)より高いという意味であるが、これについては、不純物添加を始めとして、種々の方法で転移温度を低減する試みがなされている。しかし、転移温度の低下とともにサーモクロミズムによる透過率変化も減少するといった課題が残されている(非特許文献2、3)。
【0009】
以上のように、従来技術では、ある程度まで調光性能が得られているが、これを実生活に導入するためには、更に改善の必要性が高く、VOを用いて、この要望に応えるには不十分な点が残されているのが実情である。一方、曇天現象を利用した調光材料では、温度上昇にともなう光散乱の発生により可視波長域を含めて広い波長範囲で透過率が変わるため、調光性が非常に高く、また、調光温度についても、材料として生活温度域に合わせて設計されており、既に、実用化レベルに達している。しかしながら、調光の原理上、高温時には可視光においても不透明となるため、室外の景色を見る、あるいは採光するという、窓の基本機能が失われるという問題がある。
【0010】
一方、従来、ホログラフィック光学素子及びそれを用いた部材に関する研究/開発例が種々報告されており、先行技術として、例えば、ホログラフィック高分子分散液晶光学素子及び画像表示装置(特許文献5)、調光層がマトリックス樹脂と液晶材料からなる液晶光学素子(特許文献6)、第1及び第2の絶縁性基板間に液晶を挟持した調光層を有する反射型液晶表示素子(特許文献7)、が提案されている。
【0011】
更に、先行技術として、例えば、光吸収基板上に調光層が積層されている高解像度のホログラフィック型高分子分散液晶光学素子(特許文献8)、調光層を挟持した高電荷保持率のホログラフィック高分子分散液晶光学素子(特許文献9)、ホログラフィック光学素子を用いた投影型液晶表示装置(特許文献10)、ホログラフィック表示装置(特許文献11)、が提案されている。これらの先行技術は、いずれも、ホログラフィック光学素子を液晶表示装置に利用することを示すものである。
【0012】

【特許文献1】特開2004-4795号公報
【特許文献2】特開2002-86606号公報
【特許文献3】特開2000-155345号公報
【特許文献4】特開2003-94551号公報
【特許文献5】特開2003-337298号公報
【特許文献6】特開2000-147478号公報
【特許文献7】特開平11-52364号公報
【特許文献8】特開平11-38392号公報
【特許文献9】特開平11-2802号公報
【特許文献10】特開平10-104618号公報
【特許文献11】特開平9-222583号公報
【非特許文献1】M. H. Lee, "Better thermochromic glazing of windows with anti-reflection coating", Thin Solid Films 365, 5 (2000)
【非特許文献2】W. Burkhardt, et al., "Tungsten and fluorine co-doping of VO2 films", Thin Solid Films 402, 226 (2002)
【非特許文献3】M. Soltani, et al., "Effects of Ti-W codoping on the optical and electrical switching of vanadium dioxide thin films grown by a reactive pulsed laser deposition", Appl. Phys. Lett. 85, 1958 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、日射透過量制御の性能が高く、かつ可視波長域で良好な透明性を保持できる新しい調光素子を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、高分子分散液晶型ホログラフィック回折素子(HPDLC回折素子)を用いて光透過制御素子を構築することで所期の目的を達成できるとの新規知見を得ることに成功して、本発明を完成させるに至った。本発明は、上記HPDLC回折素子を調光に利用した、温度による日射透過量制御の性能が高く、かつ可視波長域で良好な透明性を保持できる新しい光透過制御素子及び当該調光素子を用いた光透過制御部材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)高分子分散液晶型ホログラフィック回折素子(HPDLC回折素子)において、当該HPDLC回折素子内に含まれる液晶のネマティック-アイソトロピック(NI)相転移による屈折率及び屈折率異方性-等方性の変化を利用して、NI相転移温度に対応している特定の温度範囲で光の伝播方向あるいは偏光状態を変えて、それにより光の透過率を制御して調光を行うようにした光回折型の光透過制御素子を含み、当該光透過制御素子に対して、温度変化に伴って変化する前記光透過制御素子の光の透過及び当該光透過制御素子からの入射光の伝播方向あるいは当該入射光の偏光状態に応じて、当該入射光の透過率を変える役割を果たす光処理機能部が配置されたことを特徴とする光透過制御部材。
(2)上記HPDLC回折素子が、PあるいはS偏光のどちらか一方の回折光強度を優先的に温度で制御するように構成された、前記(1)記載の光透過制御部材。
(3)0.04を上回る異方性屈折率を有し、ネマティック-アイソトロピック(NI)相転移点を有する液晶材料からなるHPDLC回折素子を用いてなる、前記(1)記載の光透過制御部材。
(4)10~90℃にNI相転移点を有する液晶材料からなるHPDLC回折素子を用いてなる、前記(3)記載の光透過制御部材。
(5)上記光処理機能部として、視野角制限部材あるいは偏光選択部材、又はこれら両部材が回折光と非回折光の内の一つの光の透過を制御するように配置された、前記(1)記載の光透過制御部材。
(6)PあるいはS偏光のどちらか一方の回折光強度が優先的に、温度変化により変調されるHPDLC回折素子を2つ組み合わせて、上記光処理機能部として、視野角制限部材あるいは偏光選択部材、又はこれら両部材がPとS両偏光の回折による光の透過を制御するように配置された、前記(1)記載の光透過制御部材。
(7)HPDLC回折素子が、可視光波長域の透過率(可視光透過能)及び日射透過制御能の両性能が高くなる条件として、HPDLC厚2~50μm、格子ピッチ0.3~2.0μmの範囲で構成された、前記(1)記載の光透過制御部材。
(8)可視光透過能及び日射透過制御能を高めるために、
(HPDLC厚)=K×(格子ピッチ)
を満たす関係式(ここで、Kは、範囲4~15μm-1を満たす定数を表わす。)に、HPDLC厚と格子ピッチの値が設定されている、前記(7)記載の光透過制御部材。
(9)上記光透過制御部材が、太陽光の透過を制御する太陽光透過制御窓材である、前記(1)から(8)のいずれかに記載の光透過制御部材。
【0015】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、高分子分散液晶型ホログラフィック回折素子(HPDLC回折素子)を用いた光回折型の光透過制御素子であって、HPDLC回折素子内に含まれる液晶のネマティック-アイソトロピック(NI)相転移による屈折率異方性と等方性の変化を利用して、特定の温度範囲で光の伝播方向あるいは偏光状態を変えて、それにより光の透過性を制御して調光を行うようにしたことを特徴とするものである。
【0016】
本発明では、上記HPDLC回折素子が、PあるいはS偏光のどちらか一方の回折光強度を優先的に温度で制御するように構成されたこと、0.04を上回る異方性屈折率を有し、ネマティック-アイソトロピック(NI)相転移点を有する液晶材料からなるHPDLC回折素子を用いてなること、10~90℃にNI相転移点を有する液晶材料からなるHPDLC回折素子を用いてなること、を好ましい実施の態様としている。
【0017】
また、本発明では、上記光透過制御素子を含み、当該光透過制御素子に対して、光の伝播方向あるいは偏光状態により透過率を変える役割を果たす光処理機能部が配置されたこと、上記光処理機能部として、視野角制限部材あるいは偏光選択部材、又はこれら両部材が回折光と非回折光の内の一つの光の透過を制御するように配置されたこと、PあるいはS偏光のどちらか一方の回折光強度が優先的に、温度変化により変調されるHPDLC回折素子を2つ組み合わせて、視野角制限部材あるいは偏光選択部材、又はこれら両部材がPとS両偏光の回折による光の透過を制御するように配置されたこと、を好ましい実施の態様としている。
【0018】
更に、本発明では、HPDLC回折素子が、可視光波長域の透過率及び日射透過制御能の両方が高くなる条件として、HPDLC厚2~50μm、格子ピッチ0.3~2.0μmの範囲で構成されたこと、可視光透過能及び日射透過制御能を高めるために、(HPDLC厚)=K×(格子ピッチ)を満たす関係式(ここで、Kは、範囲4~15μm-1を満たす定数を表わす。)に、HPDLC厚と格子ピッチの値が設定されていること、上記光透過制御部材が、太陽光の透過を制御する太陽光透過制御窓材であること、を好ましい実施の態様としている。
【0019】
本発明では、調光原理として、液晶がもつサーモトロピック性、すなわち、ネマティック-アイソトロピック(NI)相転移の屈折率異方性と等方性の変化を利用する。このような液晶は、低温で屈折率異方性を示すが、温度が上昇し、NI相転移することによって、光学的に等方性となり、この変化を、本発明の調光作用の基本原理とする。
【0020】
更に、具体的には、これは、液晶とポリマーとを組み合わせて屈折率の空間分布を適切に調整した光回折格子(ポリマー分散型液晶(HPDLC)回折素子)を形成し、温度変化により、NI転移点前後で光の進行方向が変えられる構造とすることで可能となる。そして、このような構造をシート状にするなどして窓材として窓に付随させ、これを通して、外部から室内への日射光量が温度変化によって、自律応答的に制御されるようにする。
【0021】
本発明は、高分子分散液晶型ホログラフィック回折素子(HPDLC回折素子)を用いた光透過制御素子であって、HPDLC回折素子内に含まれる液晶のネマティック-アイソトロピック(NI)相転移の屈折率異方性と等方性の変化を調光原理として、特定の温度範囲で光透過率が変わり、かつ可視光の高透過性能を保持する点に特徴を有している。
【0022】
本発明では、光の伝播方向あるいは偏光状態により透過率を変える役割を果たす光処理機能部が配置される。また、HPDLC回折素子は、PあるいはS偏光のどちらか一方の回折光強度を優先的に温度で制御するように構成される。また、本発明では、上記光処理機能部として、視野角制限部材あるいは偏光選択部材、又はこれら両部材が回折光と非回折光の内の一つの光の透過を制御するように配置される。
【0023】
また、本発明では、PあるいはS偏光のどちらか一方の回折光強度が優先的に、温度変化により変調されるHPDLC回折素子を2つ組み合わせて、視野角制限部材あるいは偏光選択部材、又はこれら両部材がPとS両偏光の回折による光の透過を制御するように配置される。HPDLC回折素子が、可視光波長域の透過率及び日射透過制御能の両方が高くなる条件としては、好適には、例えば、HPDLC厚2~50μm、格子ピッチ0.3~2.0μmの範囲で構成する。
【0024】
可視光波長域の透過率及び日射透過制御能を高めるために、(HPDLC厚)=K×(格子ピッチ)を満たす関係式(ここで、Kは、範囲4~15μm-1を満たす定数を表わす。)に、HPDLC厚と格子ピッチの値が設定することが好ましい。本発明では、好適には、0.04を上回る異方性屈折率を有し、ネマティック-アイソトロピック(NI)相転移点を有する液晶材料からなるHPDLC回折素子を用いること、また、10~90℃にNI相転移点を有する液晶材料からなるHPDLC回折素子を用いることが好ましい。
【0025】
HPDLC回折素子は、温度変化にともなう光回折の発現・消失により、入射される光の一部の伝播方向を変える役割を有する。これは、回折格子を形成する液晶分子とポリマーの屈折率を適切に選択し、光学設計することで、温度変化による回折光の強度や偏光状態が制御されることを意味する。HPDLC回折素子は、回折という光の波の性質を利用し、光の伝播方向を変える機能のみをもつ。したがって、回折光あるいは非回折光を適切に処理する必要があり、素子の形状やHPDLCの設計に応じて、視野角制限部材や偏光選択部材など、角度や偏光状態により透過光量が可変である素子を光処理機能部として別途配置させることが好ましい。
【0026】
偏光選択部材としては、いわゆる偏光板と呼ばれる特定の角度の直線偏光のみを透過するフィルターを利用でき、また、視野角制限部材としては、いくつかの手法が考えられるが、これらも、例えば、既に、視野角制限透過フィルム(通称、プライバシーフィルターと呼ばれたりするフィルム。)などの市販品を利用でき、これらの従来技術を適宜流用することが可能である(特開2006-47550号公報)。
【0027】
本発明では、上記光透過制御素子は、単独で、又は当該光透過制御素子に対して、視野角制限部材や偏光選択部材を配置して、光透過制御部材(調光制御装置)を構築し、これを、例えば、窓部材として使用することができる。HPDLC回折素子は、例えば、NI相転移点以下の低温(以下、単に「低温」と記載する。)では、P偏光が回折し、S偏光が回折しないように、また、NI相転移点を超えた高温(以下、単に「高温」と記載する。)では、P、S偏光ともに回折しないように設計することで、斜入射する太陽光線に最も機能する回折格子を作製することができる。
【0028】
また、本発明では、複数のHPDLC回折素子を組み合わせて配置することで、例えば、低温では、2つのHPDLC回折素子でP、Sの両偏光を回折させ、高温では、どちらも回折させずに、そのまま直進透過させることが可能である。これらに、更に、視野角制限部材や偏光選択部材を組み合わせて、例えば、太陽光のうち、P偏光を、第1のHPDLC回折素子で回折させ、第2のHPDLC回折素子をそのまま透過させて、その後方にある視野角制限部材に垂直に入射させ、透過制限を受けずに室内まで到達させることが可能である。
【0029】
一方、S偏光は、第1のHPDLC回折素子をそのまま透過させ、第2のHPDLC回折素子で回折させて、その後方の視野角制限部材に垂直入射させて、透過制限を受けずに、室内まで到達させることが可能である。また、高温では、P、S偏光ともに、第1及び第2のHPDLC回折素子のどちらにも回折させないで、直進透過させ、後方の視野角制限部材の視野角外に入射させ、ここで遮光させることが可能である。
【0030】
また、本発明では、体積反射型格子を形成したHPDLC回折素子を単独で用いて、例えば、低温において、S偏光を室外方向に回折させ、P偏光をそのまま直進透過させ、室内に到達させ、高温において、P、S偏光ともに室外に回折させ、光を室内方向に到達させないようにすることができる。
【0031】
上述のP、S偏光の回折、非回折(透過)については、HPDLC回折素子内部の液晶分子とポリマーの屈折率n、n、n及びnを適宜選択して設定し(図1参照)、P、S偏光の回折、非回折の状態を当該HPDLC回折素子と視野角制限部材あるいは偏光選択部材との組み合わせ、室外及び室内条件等を総合的に考慮して光学設計することで、任意に設定することができる。それにより、例えば、室外の温度が低いときには、太陽光を室内に入射させ、また、室外の温度が高いときには、遮光により、太陽光を室内に入射しないように設定することで、自立応答的な調光を行うことが可能となる。
【0032】
従来、HPDLC回折素子が、温度変化にともなう光回折の発現・消失により、NI転移点前後で光の進行方向が変わる液晶としての利用は公知である。しかし、従来、HPDLC回折素子を、太陽光の調光制御部材として有効であるかどうかを確認したこと及び当該HPDLC回折素子を用いた光透過制御部材については報告されていない。本発明は、上記HPDLC回折素子を用いた光透過制御素子及び当該光透過制御素子の光透過制御部材としての新規用途を提供するものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)HPDLC回折素子内に含まれる液晶のネマティック-アイソトロピック(NI)相転移を調光原理とする新しい光透過制御素子を提供できる。
(2)本発明により、特定の温度範囲で光透過率が変わり、かつ可視光の透過性が良好な光回折型の太陽光等の光透過制御素子を構築し、提供できる。
(3)上記光透過制御素子をガラスに形成した自動調光断熱窓材を作製し、提供できる。
(4)本発明により、例えば、建築物や自動車、列車、船舶、飛行機などの移動体に、省エネルギー、快適住居性能、採光性能などの機能を付加した光透過制御部材、新しい機能性自動調光断熱窓材及びその応用技術等を提供できる。
(5)上記光透過制御素子は、温度による光回折、偏光の変化を利用した計測センサーや(サーモ)スイッチに応用することができる。
(6)可視光波長域に調光機能を合わせることで、温度による室内外の模様換え(例えば、夏は青く、冬は赤系で目を楽しませること等)が可能となる。
(7)基板の1つを反射型にすることで、反射方向や偏光を温度によって変更する反射率制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
本実施例では、透明ガラス基板2枚とスペーサービーズを用いて10μmのギャップを形成し、そこにメルク製液晶とモノマー、オリゴマー、光重合開始剤などの有機分子を流し込み、波長532nmのレーザーで干渉露光することでHPDLC回折素子部を作製した。(文献:武田棟一、他、「液晶を用いた回折光学素子の作製と光学特性解析」、信学論C、J89-C、No.125、2006)。本発明の光透過制御部材は、このHPDLCと、視野角制限部材(マイクロルーバーフィルム:スリーエム社製)を組み合わせて、HPDLC回折素子部と視野角制限部とからなる体積型HPDLC回折素子を用いた光透過制御部材(調光制御装置)を構築し、窓部材として配置することで実現される。尚、以下に示す実施例では、図1の構成例に基づいて、光透過制御素子及び部材をシミュレーションで設計、作製し、評価した結果について説明する。
【0036】
上記HPDLC回折素子は、NI相転移点以下の低温(単に「低温」と記述する。)では、P偏光が回折し、S偏光が回折しないように、また、NI転移を超えた高温(単に「高温」と記述する。)では、P、S偏光ともに回折しないように設計、作製した(図1(a)参照)。
【0037】
図1に、体積型HPDLC回折素子を用いた調光制御の構成例を示す。図1(a)は、本実施例の構成図である。これは、斜入射する太陽光に対応して、HPDLC回折素子と視野角制限部材とを組み合わせたP偏光のみの調光システムの例である。すなわち、この構成では、斜入射する太陽光線に最も機能するように回折格子を設計し、作製した。図中に、液晶屈折率n、n、nの温度依存性とポリマーの設定屈折率nを示す。この場合、HPDLC回折素子内部の屈折率をn=n≒n<nと設定した。構成図と併せて、以下に低温と高温での動作を説明する。
【0038】
低温では、nとnの屈折率差が大きいため、太陽光線のP偏光の大部分が回折する。回折光は、視野角制限部の面に対し、ほぼ垂直に入射し、透過制限を受けずに通過して、室内に到達する。一方、nは、nに近い値のため、太陽光線のS偏光成分は、HPDLC回折素子部にほとんど回折されないで直進透過し、視野角制限部の視野角外で入射し、ここで遮光される。
【0039】
高温では、NI転移によって、P、S偏光ともに液晶屈折率がnとnに近づくため、HPDLC回折素子部は、回折能力を失う。その結果、P、S偏光ともに、そのまま直進透過し、その後方の視野角制限部によって遮光される。この例では、NI転移点を所定の温度範囲に設定することで、窓から室内に入射する太陽光の量を調光することが実現できる。
【実施例2】
【0040】
本実施例では、実施例1と同様のHPDLC回折素子と視野角制限部材を組み合わせて、HPDLC回折素子部と視野角制限部とからなる体積型HPDLC回折素子を用いた調光制御装置を構成し、窓部材として配置した(図1(b)参照)。2つのHPDLC回折素子部を配置することによって、P、S偏光の両者を低温で回折させるように設計し、作製した。
【0041】
2つのHPDLC回折素子部でPとSの両偏光を回折させるには、幾つかの手法で実現できるが、ここでは、HPDLC回折素子部内の屈折率をn=n≒n<nとし、更に、HPDLC回折素子部2での液晶分子の配列方向が、HPDLC回折素子部1のそれ(この場合、紙面内縦方向)に対して、90°回転させ、紙面に対し垂直方向にした。
【0042】
したがって、低温では、それぞれのHPDLC回折素子部1、2でP及びS偏光が回折され、高温では、回折せず、そのまま直進透過する。また、HPDLC回折素子部1、2は、どちらが太陽光線の入射側に配置されていても構わない(図では、太陽光側からP偏光、次いで、S偏光を回折するように、HPDLCが配置されている。)。この構成では、実施例1と同様に、斜入射する太陽光線に対応している。
【0043】
低温では、太陽光線のうち、P偏光は、HPDLC回折素子部1で回折され、HPDLC回折素子部2でそのまま透過して、その後方にある視野角制限部面にほぼ垂直で入射し、透過制限を受けずに、室内まで到達する。一方、S偏光は、HPDLC回折素子部1ではそのまま透過し、HPDLC回折素子部2で回折されて、その後方の視野角制限部に垂直入射して、これも透過制限を受けずに、室内まで到達する。高温では、P、S偏光ともに、HPDLC回折素子部1と2のどちらにも回折されないで、直進透過し、後方の視野角制限部の視野角外で入射され、ここで遮光される。
【実施例3】
【0044】
本実施例では、実施例1と同様のHPDLC回折素子と視野角制限部材を組み合わせて、HPDLC回折素子部、視野角制限部とからなる体積型HPDLC回折素子を用いた調光制御装置を構成し、窓部材として配置した(図1(c)参照)。図1(c)に、垂直入射する太陽光に対応して、HPDLC回折素子部と視野角制限部を組み合わせた調光システムの例を示す。
【0045】
ここでは、回折格子を構成する液晶とポリマーの屈折率をn≒n<n=nと設定し、HPDLC回折素子部は、低温でS偏光のみ回折し、高温でP、S偏光ともに回折するように設計し、作製した。
【0046】
低温では、S偏光が回折し、P偏光はそのまま直進透過する。その後方の視野角制限部では、回折されたS偏光を遮光し、非回折光であるP偏光は透過制限を受けずに通過する。高温では、HPDLC回折素子部で、P、S偏光ともに回折される。回折された光は、後方の視野角制限部の視野角外で入射され、ここで遮光され、結果的に、室外には光は到達しない。
【実施例4】
【0047】
本実施例では、反射型体積HPDLC回折格子としたHPDLC回折素子を用いて、HPDLC回折素子部のみからなる調光制御装置を構成し、窓部材として配置した(図1(d)参照)。図1(d)に反射型体積HPDLC回折格子としたHPDLC回折素子部単独による調光システムの例を示す。回折格子を構成する液晶とポリマーの屈折率をn≒n<n=nと設定した点では、実施例3と同様であるが、回折光が反射方向(太陽入射に対して逆方向)へ回折されるように、回折格子の格子面方向が形成される。
【0048】
実施例1から3では、体積透過型格子と呼ぶのに対して、これは、体積反射型格子と言う。温度による動作に関しては、実施例3と同様で、低温において、S偏光を回折し、P偏光が透過するのに対して、高温では、P、S偏光ともに回折される。低温では、太陽光線のS偏光を室外方向に回折し、P偏光はそのまま直進透過し、室内に到達する。高温では、P、S偏光ともに、室外に回折され、室内方向に到達する光はない。
【実施例5】
【0049】
本実施例では、上記実施例1から実施例4で示した調光制御装置の構成で得られる光透過性能を、次の(1)から(4)に示す通り、評価した。
(1)波長、光入射角による回折効率の高さについて
(2)可視光波長域での透明性について
【0050】
HPDLC回折素子部に入射した光は、回折光と非回折光(透過光)とに分かれる。したがって、回折光強度を増やすと言うことは、すなわち、非回折光強度を低減することであり、ここで述べる回折効率は、非回折光の低減率に相当する。実際、これらの関係を見積もる際は、HPDLC回折素子部の素子による反射や内部光損失などの影響を考慮する必要があるが、本発明の原理を説明する都合上、ここでは無視する。
【0051】
波動光学理論に基づいて、回折効率ηと光波長λ及び入射角Δθとの関係を見積もって評価した。図2(a)から(d)に、格子ピッチと厚さを変えたときの計算結果を一例として示す。ここで、入射角Δθは、回折効率が最大となる角度(これを、Bragg角と言う。)からの角度差とする。HPDLCの作製で設計可能なパラメータは、基本的に厚さd、格子ピッチλ、回折格子中の屈折率の変調振幅Δnである。
【0052】
図2で明らかなように、dが増加すると、主にηの波長分布が変わるのに対して、λが増加すると、ηは角度方向に分布を拡げる。そして、ηとλ及びΔθとの関係は、d、λ、Δnに強く依存する。実際に、HPDLC回折素子を作製し、回折効率の測定を行って、回折効率η(%)と波長及び入射角との関係を計算によりシュミレーションした。
【0053】
図3に、回折効率の角度依存性の測定結果を示す。すなわち、図3は、その一例で、d=10μm、λ=1μmでHPDLC回折素子を作製し、回折効率の角度依存性を評価した結果である。実線は、内部光損失や反射などは考慮せずに見積もった計算結果である。ほぼ設計どおりにHPDLCが形成されていることが分かった。
【0054】
回折によって生じる非回折光の減少を、分光透過率測定により調べた。この実験では、ランダム偏光(すなわち、P及びS偏光がそれぞれ50%存在)の光を入射しているのに対して、HPDLC回折素子の回折では、偏光選択性があるため、各偏光成分で回折効率が100%になったとすると、ランダム偏光の透過率は50%減少することになる。実線及び破線は、NI相転移点を間に挟んだ低温(実際には、27℃)と高温(90℃)での分光透過率(それぞれ、T(λ)、T(λ)と記述する。)の測定結果である。
【0055】
図4に、作製したHPDLC回折素子の分光透過率を示す。図4(a)から(c)は、厚さd=10μmの素子への入射角Δθを変えたときの結果であり、(a)は、入射角Δθを-2°、(b)は入射角を0°、(c)は入射角を+2°と変えたときの測定結果である。(d)は厚さd=5μmで入射角Δθ=0°のときの結果である。また、入射角0°とし、2つのHPDLC回折素子を互いに直交させて光入射方向を軸として90°回転して重ねて測定した結果を、図4(e)に示す。更に、従来技術との比較として、図4(f)に、VOのサーモクロミック特性の測定結果も示す。図中、斜線塗りつぶしの曲線は、視感度係数φlum(λ)と日射エネルギーφsol(λ)を示す。
【0056】
HPDLC回折素子の場合、実線で示すように、低温では回折によりある特定の波長範囲で透過率が減少し、この分布は、Δθとともに波長方向にシフトする。一方、このHPDLC回折素子は、NI相転移点を上回ると回折能力が失われるように構成されているため、高温では回折光が消失して、透過率(非回折光強度に相当)が上昇する(太い破線参照)。斜線で示したJIS規格記載の日射エネルギーφsol(λ)と透過率T(λ)、T(λ)とで、下記式により、日射透過制御能、が求められる。
【0057】
【数1】
JP0005493073B2_000002t.gif

【0058】
ここで、日射透過制御能とは、全波長にわたる太陽光の透過エネルギーを制御する性能の指標であり、例えば、HPDLC回折素子が全波長にわたり透過率がT(λ)=1、T(λ)=0と制御されるという理想条件を仮定すると、日射透過制御能は、最大値ΔTsol=1となる。一方、波長400~700nmにわたる斜線部は、視感度係数φlum(λ)である。対象となる素子の可視光透過能Tlumは、一般に、この視感度曲線と素子の透過率とから、以下の計算式、によって求まる。
【0059】
【数2】
JP0005493073B2_000003t.gif

【0060】
本発明での調光窓材としての重要な機能は、
*室内に入射する太陽光輻射エネルギーの温度による制御性能、
*室外の景色が見えるという点、すなわち、可視光の透過性能、
の二点で、これらは、それぞれ日射透過制御能ΔTsol及び可視光透過能Tlumに相当する。
【0061】
表1に、実験試料での日射透過制御能と可視光透過能の結果を示す。表1は、図4で示した作製条件の異なるHPDLC回折素子の分光透過率から、式(1)と式(2)を用いて求めたΔTsol、Tlumである。比較のために、(f)に、サーモクロミックVOでの結果も示す。VOのサーモクロミック特性は、基本的に、材料の本質で決まるため、この特性を制御することは簡単ではない。一方、ここで提案するHPDLC回折素子は、液晶分子やポリマーの材料選択、素子の厚み、格子ピッチなどの設計条件を変えることで、日射透過制御能と可視光透過能を幅広く変えることができ、目的や要望に柔軟に応えることが可能である。
【0062】
【表1】
JP0005493073B2_000004t.gif

【0063】
図5(a)、(b)に、それぞれ日射透過制御能と可視光透過能と厚さd及び格子間ピッチλとの関係のシミュレーション結果を示す。ここでは、HPDLCの屈折率変調振幅Δn=0.1とし、光が素子面垂直方向に対し±10°の範囲で入射したときの角度平均で示している。すなわち、図は、Δn=0.1と固定したときのd及びλと、ΔTsol及びTlumとの関係を示すものである。一方、HPDLC素子は、体積型であることがその性能を満たす光学的要請である。これは、Qパラメータ(文献:「ホログラフィーの原理」、P.ハリハラン著、吉川浩、他訳、オプトロニクス社、pp.29-39、2004年)で評価され、理論的にはQ≧1が最低限であるが、更に、実験的にQ≧10がより好適である。
【0064】
図5(c)は、このQパラメータとd、λとの関係を示すもので、太線で示したQ=10より下の領域が、HPDLCが好適となる条件になる。Qが大きくなるようにdとλを選ぶと、ΔTsolとTlumは減少する傾向にあるため、この場合、結果的に、図5(c)で示した太い曲線上でdとλを選ぶことが、好適な性能が得られる条件となる。段落0014の(9)に示した関係式は、この太線で示した曲線が根拠であり、式中の係数Kは、この関係曲線の幅に相当するトレーランスである。
【0065】
dが増加するとΔTsolは最大ピークを示した後、一定値に近づくのに対して、Tlumは周期的に変化し、その振幅は緩やかに減衰していく。一方、λを増加すると、ΔTsolは基本的に緩やかに増加するのに対して、Tlumはdの値により緩やかに増加あるいは減少する。これらの図から、好適な条件を検討すると、例えば、d=5μm、λ=0.9μmとすれば、ΔTsol=32%、Tlum=85%、Q=10と見積もることができる。本発明では、種々の条件を設定して、このようなシミュレーションをすることで、要求されるΔTsol、Tlumに合わせて素子を設計することができる。
【0066】
(3)温度による透過率変化の制御性について
温度による透過率変化の制御性は、NI相転移温度の制御性そのものである。現在、市場には20℃台から100℃を超える広い範囲でNI相転移点の異なる液晶が開発されており、これを流用することで達成できる。図6に、異なるNI転移温度をもつ液晶を用いて作製したHPDLC回折素子の回折効率の温度依存性を示す。図中、PとSは偏光状態を示し、upとdownはそれぞれ昇温及び降温過程で測定した結果を示す。
【0067】
図6(a)から(c)は、市販されている3つの異なるNI相転移点をもつ液晶(メルク製)で作製したHPDLC回折素子の回折効率の温度依存性である。この場合、室温でP偏光が回折し、高温でP、Sともに回折されないように構成されているので、温度上昇とともにP偏光の回折光強度が減少して、全偏光での回折光強度がゼロに近づくことが分かる。
【0068】
(4)回折及び非回折光の透過あるいは遮光能力について
基本的に、HPDLC回折素子は、回折によって光の伝播方向を変えるだけであるため、回折方向によっては、光を適切に透過・遮断する素子が必要になる場合がある。視野角制御部材は、そのような機能をもつ素子の一つであり、プライバシーフィルムなどと言う名称で既に市販されており、これを流用することで達成できる。
【0069】
図7に、市販されている視野角制御部材シート(スリーエム社のマイクロルーバーフィルム)での分光透過率の角度依存性を測定した結果を示す。垂直入射(角度0°に相当)から角度をつけるとともに、可視から近赤外波長域にわたる透過率が減少することが分かる。
【実施例6】
【0070】
本実施例では、メルク製あるいは大日本インキ製の液晶材料(K-15、RDP-98487)と、モノマー(ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、オリゴマー(フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンポリマ)、光重合開始剤(Nフェニルグリシン)、及び色素(ジブロモフルオレセイン)を表2のような重量比率(%)で攪拌混合し、それを出発原料とした。
【0071】
ただし、原料調合としては、これらの材料や比率に制限されるものでなく、液晶材料として、他に、例えば、メルク製のBL005(ネマティック-アイソトロピック相転移点TNI=64℃)やK-18(TNI=29℃)など、また、モノマーとしては、他に、ペンタブロモフェニルメタクリレートやジペンタエリスリトールペンタアクリレートや高分子液晶性モノマー、例えば、メルク製のRM-257などを含めた多様な組み合わせでも使用することができる。
【0072】
次に、透明ガラス基板2枚とスペーサービーズを用いて、5~50μmの範囲で、いろいろな値で形成したギャップ間に前記の出発原料を流し込み、これを50℃程度に温調しつつ、波長532nm、強度5mW/cm程度のレーザで二光束干渉させて、約5分間露光することで、HPDLC回折素子部を作製した。ここで示した露光時の条件(温度、照射波長、光強度、時間)は、一例であり、原料や組成により、これらの条件を適切に選ぶことが重要である。
【0073】
図8に、前記条件で作製した試料の光学的評価の一例として、低温及び高温での透過スペクトルを示す。また、同図中に、日射エネルギーの波長分布と視感度(両者ともJIS規格:R3106に記載)も併せて示す。図8(a)から(c)は、厚さを10μmで一定にし、格子ピッチを0.5から1.5μmに変えて作製した試料の結果である。格子ピッチの変化により、低温、高温でのスペクトルは大きく変わる。
【0074】
一方、図8(d)は、低温から高温にわたってスペクトルが徐々に変化する様子を詳細に示している。素子の作製条件を適切に制御することで、図8(d)に示すように、可視波長域で透過率を高く保ちつつ、且つ紫外と近赤外領域で温度変化にともなうスペクトル変化を大きくすることができる。図8(e)は、液晶(BL024)と高分子液晶性モノマー(RM-257)との組み合わせで回折格子を形成し、透過率の温度特性を反転させた例である。温度上昇とともに、回折効率が増加し、特定の波長範囲で透過率が下がっている。これらの透過スペクトルの結果を、前述の式(1)と式(2)に適用して、日射制御能ΔTsolと可視光透過能Tlumを求めた。
【0075】
本実施例で作製した種々の格子構造での光学的評価の結果を表3にまとめて示す。表3(a)から(c)は、図8(a)から(c)に相当し、前記2つの性能(ΔTsol、Tlum)と格子ピッチとの関係が記載されている。格子ピッチを適切な値に設定することで、日射制御能や可視光透過能を高めることができ、太陽光透過制御素子の特性を幅広い条件で設計することができる。また、表3(d)は、図8(d)の結果に対応し、日射制御能と可視光透過能の両者をバランス良く高めた例である。表3(e)は、図8(e)の結果に対応しており、温度特性が反転した場合でも調光性能が確保されていることが分かる。
【0076】
この太陽光透過制御素子の動作温度については、作製条件や液晶の種類によって柔軟に調整することができる。図9に、透過率と温度との関係で、露光温度を変えて作製したHPDLC回折素子の結果を示す。この液晶材料(メルク:BL024)のTNIは81℃であるが、露光温度を変えることで、矢印に示すように転移温度がシフトし、透過率の温度に対する振る舞いを変えることが可能である。
【0077】
一方、図10に、回折効率と温度との関係で、より室温に近いTNIをもつ液晶(本実施例では、K-15、RDP-98487)における回折効率と温度との関係の例を示す。このように、種々のTNIをもつ液晶材料が市販されており、これらを用いて更に作製条件を最適化することで、太陽光透過制御素子の温度特性を柔軟に制御することができる。表2は、出発原料の材料及び混合比率の一例を示したものであり、表3は、作製素子の太陽光透過制御素子の性能の評価例を示したものである。それぞれの値に対応する透過スペクトルは、図8(a)から(e)に示されている。低温とは20℃であり、高温とは(a)から(c)及び(e)で100℃、(d)では40℃である。
【0078】
【表2】
JP0005493073B2_000005t.gif

【0079】
【表3】
JP0005493073B2_000006t.gif

【0080】
前述のように、それぞれの値に対応する透過スペクトルは、図8(a)から(e)に示されている。図8は、作製した素子の低温、高温時の分光透過率を示している。斜線で塗られた曲線はJIS規格R3106記載の日射エネルギーφsol(λ)と視感度φlum(λ)である。(a)から(c)は、格子ピッチをそれぞれ0.5、1.0、1.5μmと変えたときの測定結果である。(d)は、可視域の透過率を高く保ったまま、紫外と近赤外波長域の変化が大きくなるように設計した結果である。また、(d)では、温度とともに透過スペクトルが変わる様子が詳細に示されている。一方、(e)は、温度特性が他のものと反転された結果である。これらのスペクトル変化から、前述の式(1)と(2)を用いて求めたΔTsol、Tlumが、表3に記載されている。
【0081】
また、前述のように、図9は、透過率と温度との関係を示している。露光時の温度(作製温度)を変えることで、NI相転移によって生じると見られる透過率の温度依存性の屈曲点(矢印参照)を移動することができることが分かる。図10は、回折効率と温度との関係を示している。より低いNI相転移点(TNI)をもつ液晶材料をHPDLC回折格子の原料とすることで、より室温付近で動作可能な調光素子を作製することができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】体積型HPDLC回折素子を用いた調光制御の構成例を示す。(a)は斜入射する太陽光に対応して、HPDLC回折素子と視野角制限部材とを組み合わせたP偏光のみの調光システム例、(b)は斜入射する太陽光に対応して、2つのHPDLC回折素子と視野角制限部材とを組み合わせたP、S両偏光の調光システム例、(c)は垂直入射する太陽光に対応して、HPDLC回折素子と視野角制限部材とを組み合わせた調光システム例、(d)は反射型体積HPDLC回折格子としHPDLC回折素子部単独による調光システム例、である。
【図2】回折効率η(%)と波長及び入射角との関係の計算例(異なるHPDLC部の厚さdと格子ピッチλでの結果)を示す。
【図3】回折効率の角度依存性の測定結果を示す。波長544nm、HPDLCの厚さ10μm、格子ピッチ1μmで作製した。
【図4】作製したHPDLC回折素子の分光透過率を示す。厚さd=10μmの素子で入射角Δθを(a):-2°、(b):0°、(c):+2°と変えたときの測定結果、(d)はd=5μm、入射角Δθ=0°での結果、(e)はd=10μmの素子二枚を光入射方向を軸として90°回転して重ね、Δθ=0°で測定した結果、(f)はVO薄膜のサーモクロミック特性の一例、である。図中の斜線塗りつぶしの曲線は、視感度係数φlum(λ)と日射エネルギーφsol(λ)、である。
【図5】日射透過制御能ΔTsol、可視光透過能Tlum及びQパラメータと、厚さd及び格子間ピッチλとの関係のシミュレーション結果を示す。ここでは、HPDLCの屈折率変調振幅Δn=0.1とし、入射光が素子面垂直方向に対し±10°の範囲で入ったときの各値の平均で示している。(a)はΔTsol、(b)はTlumである。(c)はQパラメータを示し、これは、HPDLCが体積型であることの指標で、理論的にはQ≧1が要請されるが、実験的にはQ≧10(図中の太い曲線より下の領域)がより好適な条件となる。ここで、図(a)及び(b)中の点線は、図(c)の太曲線に対応している。
【図6】異なるNI転移温度をもつ液晶を用いて作製したHPDLC回折素子の回折効率の温度依存性を示す。PとSは偏光状態を示し、upとdownはそれぞれ昇温及び降温過程で測定した結果である。これら3つの液晶はメルクより一般に提供されている製品である。
【図7】スリーエム(3M)社から市販されているマイクロルーバーフィルムと呼ばれる視野角制限シートの分光透過率の角度依存性の測定結果を示す。
【図8】実施例6で作製した試料の光学的評価の一例である。低温及び高温での透過スペクトルを示す。図(a)から(c)は、厚さを10μmで一定にし、格子ピッチを0.5から1.5μmに変えて作製した試験の結果である。図(d)は、低温から高温にわたってスペクトルが徐々に変化する様子を詳細に示している。図(e)は、温度特性が他のものと反転された結果である。低温とは20℃であり、高温とは(a)から(c)及び(e)で100℃、(d)では、40℃である。
【図9】透過率と温度との関係で、露光温度を変えて作製したHPDLC回折素子の結果を示す。
【図10】回折効率と温度との関係で、より低いNI相転移点(TNI)をもつ液晶材料をHPDLC回折格子の原料とすることで、より室温付近で動作可能な調光素子を作製できることを示している。
図面
【図3】
0
【図6】
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【図7】
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【図9】
3
【図1】
4
【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図10】
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