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明細書 :ホログラム記録媒体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4348446号 (P4348446)
公開番号 特開2004-252327 (P2004-252327A)
登録日 平成21年7月31日(2009.7.31)
発行日 平成21年10月21日(2009.10.21)
公開日 平成16年9月9日(2004.9.9)
発明の名称または考案の名称 ホログラム記録媒体
国際特許分類 G03H   1/02        (2006.01)
G03C   1/73        (2006.01)
FI G03H 1/02
G03C 1/73 503
請求項の数または発明の数 6
全頁数 15
出願番号 特願2003-044632 (P2003-044632)
出願日 平成15年2月21日(2003.2.21)
審査請求日 平成18年2月9日(2006.2.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
発明者または考案者 【氏名】池田 富樹
【氏名】佐藤 大輔
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100080919、【弁理士】、【氏名又は名称】田崎 豪治
審査官 【審査官】竹村 真一郎
参考文献・文献 国際公開第03/021350(WO,A1)
特開平03-038603(JP,A)
特開2001-265199(JP,A)
特開2001-294652(JP,A)
調査した分野 G03H 1/00-20
G03C 1/73
特許請求の範囲 【請求項1】
フォトクロミック成分、透明性付与成分および液晶成分を含むフォトクロミック高分子をホログラム記録材料として用いてなり、フォトクロミック高分子がフォトクロミックモノマー、透明性付与モノマーおよび液晶モノマーを重合させて得られ、フォトクロミックモノマーが、幾何異性化反応によりフォトクロミック特性を示す化合物であり、かつそのフォトクロミック特性を示す化合物がアゾベンゼン系化合物である、
ホログラム記録媒体。
【請求項2】
透明性付与モノマーが、有機ガラス重合用モノマーである請求項1記載のホログラム記録媒体。
【請求項3】
有機ガラス重合用モノマーが、アルキル(メタ)アクリレート類、ポリオールアリルカーボネート類もしくはチオウレタン類である請求項記載のホログラム記録媒体。
【請求項4】
液晶モノマーが、ビフェニル、フェニルシクロへキサン、シクロヘキシルシクロへキサン、シクロヘキシルカルボン酸エステル、ピリミジン、シッフ塩基もしくは安息香酸エステル系モノマーである請求項1記載のホログラム記録媒体。
【請求項5】
フォトクロミック高分子中のフォトクロミック成分、透明性付与成分および液晶成分の比が、それぞれ1~10モル%、40~90モル%および10~50モル%の範囲から選ばれる請求項1~のいずれかに記載のホログラム記録媒体。
【請求項6】
ホログラムにおける回折がブラッグ回折である請求項1~のいずれかに記載のホログラム記録媒体。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ホログラム記録媒体に関し、さらに詳しくはブラッグ回折に適したホログラム記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
IT(情報)分野はそのインフラの整備とともに急速な発展を遂げており、さらに高度な情報化社会が到来すると考えられている。そのためには、必要な情報を高速かつ大量に記録・表示・伝送する技術が必要不可欠である。しかしながら、現在の情報処理システムの主流であるエレクトロニクスは、その情報処理能力に限界が近づいており、次世代技術であるフォトニクスは、エレクトロニクスに変わる技術として注目されている。
【0003】
フォトニクスは、光情報通信をはじめとする広い分野での光技術を支える光子のプロセスである。光は、電子と比較して波長、位相、偏光性など独立した多くの物理量を持ち、情報の高速処理、多重処理、並列処理の点で優れていることである。
【0004】
情報処理は、素子に信号を入力し、これを別の信号によって変換し出力信号を制御することである。フォトニクスで信号制御する場合、入力・出力・刺激信号のいずれも光であることが望ましく、刺激光の照射に応答して入力光の持つ波長、強度、偏光などの特性が変化すれば、「光で光を制御する」ことが可能となる。
【0005】
「光-光制御」の応用例として、ホログラフィーが挙げられる。ホログラフィーは光の干渉・回折という基本的現象によるものであり、光の干渉によって被写体の空間情報を干渉縞という形で記録し、再生することで完全な三次元物体を表示することができる。このため、情報の表示技術としての期待が大きい。また、多重記録が可能などの特性を活かし、高密度情報記録の一つのアプローチとしても注目されている。原理はガボール(D.Gabor)により1948年に提唱されたが,注目され始めたのは1960年代のレーザーの発明によって良質の光源が利用できるようになってからである。
【0006】
ホログラム記録材料に求められる特性は、高感度(高速応答、低強度)、高回折効率、高分解能などがある。ホログラフィーの応用範囲は多岐にわたっているが、再生像の明るさを表わす回折効率はどの分野においても求められており、最も重要な特性であるといえる。
【0007】
ホログラフィーは干渉縞の記録方式、使用する記録材料、記録光学系により分類される。干渉縞の記録方式により、ホログラムは振幅型ホログラムと位相型ホログラムに分類される。振幅型ホログラムは、干渉縞の強度分布が透過率分布の変化として記録され、再生時に光の吸収が起こるため鮮明な再生像を得ることができない。一方、位相型ホログラムは材料内部の屈折率変化もしくは表面凹凸(表面レリーフ)として干渉縞が記録されるため、再生時における光吸収がほとんどなく、振幅型ホログラムに比べ明るい再生像を得ることができる。回折効率の理論値は、振幅型より位相型の方が高くなるため、高い解析効率を得るためには位相型を用いる方がよい。さらに、記録の高速化を考えた場合、物質移動をともなう表面形状の変化よりも分子の形状や配向の変化に由来する屈折率変調を利用した方が有利である。
【0008】
次に、使用する記録材料により、ホログラムは薄いホログラム(ラマン-ナス回折)と厚いホログラム(ブラッグ回折)に分類される。記録される格子周期に比べて記録材料の膜厚が薄いか同じ程度の場合を薄いホログラム、格子周期に比べて膜厚が数十倍以上ある場合を厚いホログラムという。この二種類のホログラムを分類する指標であるQパラメーターを式(1)に示す。
【0009】
Q=2πλd/nΛ (1)
ここで、λは読み出し光の波長、dは記録材料の厚さ、nは記録材料の平均屈折率、Λは格子周期である。一般に、Q<1の場合にはラマン-ナス回折、Q>10の場合にはブラッグ回折が起こるといわれているが、材料によってその値が変わるともいわれている。位相型ホログラムの場合、理論的にラマン-ナス回折は多次の回折光が生じるため、最大回折効率が約34%であるのに対し、ブラッグ回折は一つの回折光しか生じず、最大回析効率は100%に達する。回折効率が高いということは鮮明な再生像を得られることであり、ホログラフィックディスプレイの分野でも、またホログラフィック光学素子への応用においても望ましいことであるため、近年、ブラッグ回折を利用したホログラムの研究が盛んに行われている。
【0010】
記録光学系によっては次のように分類される。物体光と参照光とが記録材料面に対して片面から入射する場合を透過型ホログラムという。透過型ホログラムにおいて再生を行う場合、ホログラム材料に参照光を当て、透過する再生光によって像を観察する。ブラッグ回折に基づく透過型ホログラムにおける理論的な回折効率(η)は、式(2)により求められる。
【0011】
η=sin(πdΔn’/λcosθ) (2)
ここで、Δn’は材料中に誘起される屈折率変調度、θはサンプルに対して垂直な角度からみた読み出し光の入射角度である。式(2)より、回折効率にはdとΔn’が大きく効いてくることがわかる。
【0012】
これに対し、物体光と参照光とが記録材料に対して両面から入射する場合を反射型ホログラムという。反射型ホログラムでは再生光はホログラム面からの反射によって生じる。ブラッグ回折に基づく反射型ホログラムにおける理論的な回折効率は、式(3)により求められる。
【0013】
η=tanh(πdΔn’/λcosθ) (3)
反射型においても透過型と同様に、回折効率にはdとΔn’の寄与が大きく、より高い回折効率を達成するためには、大きいdとΔn’が有利であることがわかる。
【0014】
このように、ホログラムにおいて高い回折効率を達成するためには、ブラッグ回折を利用し、厚膜において高い屈折率変調を誘起する必要がある。近年、高い屈折率変調を誘起できるホログラム材料として、液晶材料が注目を集めている。
【0015】
特に、アゾベンゼン液晶を用いた系は、記録・再生・消去が繰り返しおこなえるホログラム材料として精力的に研究されている。特に、高分子化したアゾベンゼン液晶は、高分解能であるだけでなく、ガラス転移点(Tg)以下では記録を長期間保持でき、Tg以上に加熱すると記録を容易に消去できるため、高性能記録材料として多くの研究がなされている。ラマン-ナス回折を用いた系においては、アゾベンゼン液晶の配向変化を利用し、31%とほぼ理論値に近い回折効率が得られている。一方、ブラッグ解析を用いた系においては、Ramanujamらがアゾベンゼン誘導体を有するオリゴマ-を用いて80%の回折効率を得ているが、理論最大回折効率を考慮した場合、まだ充分な値であるとはいえないうえ、回折格子形成に2500mW/cm2という高い光強度を必要としている(非特許文献1)。また、Kimらも、PMMAに少量の低分子アゾベンゼンをドープしたサンプルを用いて80%の回折効率を達成したが、照射時間が1時間以上かかるうえ、安定性の面でもまだ問題が残されている(非特許文献2)。
【0016】
【非特許文献1】
J.Am.Chem.Soc.1999,121,4738
【非特許文献2】
Opt.Lett.2002,27,1105
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の課題を解決し、回折効率100%を達成しうる、安定なホログラム記録媒体を提供する。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明のホログラム記録媒体は、フォトクロミック成分、透明性付与成分および液晶成分を含むフォトクロミック高分子をホログラム記録材料として用いてなり、フォトクロミック高分子がフォトクロミックモノマー、透明性付与モノマーおよび液晶モノマーを重合させて得られ、フォトクロミックモノマーが、幾何異性化反応によりフォトクロミック特性を示す化合物であり、かつそのフォトクロミック特性を示す化合物がアゾベンゼン系化合物である
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明のホログラム記録媒体は、フォトクロミック成分、透明性付与成分および液晶成分を含むフォトクロミック高分子をホログラム記録材料として用いてなるが、このフォトクロミック高分子は、フォトクロミックモノマー、透明性付与モノマーおよび液晶モノマーを重合させて得られる。
【0020】
フォトクロミックモノマーとしては、幾何異性化反応、開閉環反応、酸化還元反応等によりフォトクロミック特性、すなわち光応答性を示す化合物が挙げられる。幾何異性化反応としてはアゾベンゼン系化合物、スチルベン系化合物等のトランス-シス異性化等、開閉環反応としてはスピノベンゾピラン系化合物等の開環/閉環が挙げられるが、アゾベンゼン系化合物が好適である。このアゾベンゼン系化合物としては、従来知られている種々の化合物を用いることができる。
【0021】
そして、透明性付与モノマーとしては、有機ガラス重合用モノマーが好適に使用される。この有機ガラス重合用モノマーとしては、従来有機ガラスの重合に用いられるものが使用され得、たとえばアルキル(メタ)アクリレート類、ポリオールアリルカーボネート類、チオ(メタ)アクリレート類、ポリエトキシ化芳香族(メタ)アクリレート類、もしくはチオウレタン類等が挙げられる。特に好ましくは、メチルメタクリレートである。
【0022】
さらに、液晶モノマーとしては、液晶化合物として知られているビフェニル、フェニルシクロへキサン、シクロヘキシルシクロへキサン、シクロヘキシルカルボン酸エステル、ピリミジン、シッフ塩基もしくは安息香酸エステル系モノマーが挙げられる。
【0023】
本発明におけるフォトクロミック高分子は、上記のフォトクロミックモノマー、透明性付与モノマーおよび液晶モノマーを重合させて得られるが、重合温度および時間、さらには重合開始剤の使用等の重合法自体は一般的な方法によることができる。モノマーが重合性の基を有さない場合には、たとえばラジカル重合性の基を適宜常法により導入して用いることができる。
【0024】
重合に際しては、フォトクロミック高分子中のフォトクロミック成分、透明性付与成分および液晶成分の比が、それぞれ1~10モル%、40~90モル%および10~50モル%の範囲になるように各モノマーの量が選択されるのが好適である。
【0025】
上記の重合開始剤としては、たとえばt-ブチルパーオキシベンゾエ-ト等のパーオキシエステル類、アセチルパーオキサイド等のアシルパーオキサイド類、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ類、等が挙げられる。
【0026】
このようにして得られるフォトクロミック高分子は液晶形成部位を有しながら、巨視的には等方的であり、透明性が高い(すなわち、液晶性に由来する可視光散乱がないか、非常に小さい。)高分子である。好適には、液晶分子のドメインが可視光の波長以下のサイズでミクロ相分離し、光の散乱もなく、高い回折効率が得られうる。このようなフォトクロミック高分子をホログラム記録材料として用いることにより、ブラッグ回折の形成に好適な、本発明のホログラム記録媒体が得られる。本発明のホログラム記録媒体においては、セルの膜厚を好適には、たとえば50~300μmとすることによりホログラムの回折をブラッグ回折とすることができる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例
1.サンプルの調製
モノマーとして、メタクリル酸メチル(MMA)、アゾベンゼンモノマー(M6AB2)およびシアノビフェニルモノマー(M6CB)を用い、(それぞれx、yおよびzモル%)、さらに熱重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)をモノマーに対して2モル%用いた。それぞれの構造式を次に示す。
【0028】
【化1】
JP0004348446B2_000002t.gif【0029】
この混合物をセルに封入し、セル中で共重合して得たフォトクロミック高分子を測定用サンプルとした。セルは次のように作製した。中性洗剤およびイソプロピルアルコール中で超音波洗浄した2枚のガラス基板を、シリカスペーサーを介して貼り合わせた。シリカスペーサーは目的のセル厚に応じて20,60,100,200μmのものを用いた。上記の混合物をホットステージ(Mettler製FP-90,FP-802)上で加熱し、MMA中に溶解させ、毛細管現象によりガラスセルに封入した。その後、61℃に保持したオーブン(Yamato製DX300)中で24時間加熱することで重合した。重合後、セル中に体積収縮による気泡が存在していたため、セルを150℃で加熱し、気泡を取り除いたものをサンプルとした。サンプルの熱物性は、示差走査熱量計(DSC;セイコー電子工業SSC-5200 DSC220C)を用い、昇温降温速度10℃/分で測定した。ポリマーの分子量はゲル浸透クロマトグラム法(GPC;JASCO DG-980-50;カラム:Shodex GPC K802+K803+K804+K805;溶出液:クロロホルム)により決定した。数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)はポリスチレンで換算した。GPC測定では、アゾベンゼンの吸収のλmax(365nm)によるUV検出と、MMAの屈折率によるRI検出を行った。M6CBを20モル%含むサンプルの溶出曲線を得た。UVとRIの溶出時間がほぼ同じであることから、MMA部位とアゾベンゼン部位とが共重合していることを確認した。GPC測定によって得たサンプルの分子量および熱物性を表1に示す。
【0030】
【表1】
JP0004348446B2_000003t.gif【0031】
すべてのサンプルにおいてM6ABを5モル%とし、M6CBを0モル%含むものをCB0,M6CBを20モル%含むものをCB20,M6CBを30モル%含むものをCB30とした。
【0032】
厚さ20μmのCB20セルの室温における偏光吸収スペクトル測定を行なった。その結果、波長488nmにおける吸光度は1.6であり、角度によらずほぼ一定の値を示すことがわかった。これにより、アゾベンゼン部位が等方的な状態にあり、サンプルの奥まで書き込み光が十分に染み込むことが明らかになった。また、波長633nmにおける光透過率は約95%と、ほとんど光散乱のないサンプルを作製することができた。側鎖にアゾベンゼンを有する高分子液晶である、下記のPM6AB4(分子量38000、M/M=2.1、Tg=95℃)を用いた膜厚20μmのホメオトロピック配向セルにおいては、波長633nmの透過率が84%であったのに対し、MMAを導入したことによる効果が顕著に現れたと考えられる。
【0033】
【化2】
JP0004348446B2_000004t.gif【0034】
2.測定方法
直線偏光照射による透過光量測定は、図1に示す光学系を用いて行った。ポンプ光としてArレーザーの波長488nmのs-偏光を用いた。プローブ光として、He-Neレーザーの波長633nmの光を用い、2枚の直交した偏光板を透過する透過光強度の変化をフォトダイオードにより検出した。透過型回折格子は読み出し光に波長500nm付近の光を用いる反射型と比べ、読み出し光が吸収されないため、厚膜においても高い回折効率が期待できる。そのため、直線偏光照射による回折格子形成は、図2に示す光学系を用いて行った。図2において、(a)は平面図、(b)は(a)における試料(サンプル)周辺の拡大図である。書き込み光にはs,s‐偏光を用い、入射角度(θ)を7°、つまり格子周期3μmで照射した。書き込み光はs,s-偏光を用い、入射角度(θ)を7°、つまり格子周期3μmで照射した。読み出し光の入射角度(α)は9.3°でs-偏光を用い、測定開始から30秒後にArレーザーの照射をおこなった。加熱および等温保持が必要となる測定では、温度コントローラー(オムロン製E5CX-RTC)およびサンプルホルダーを用いた。それ以外の測定はすべて室温でおこなった。回折効率(η)は、前記式(3)を用いて算出し、Iは+1次の回折光強度、Iは回折格子形成前のサンプルにおけるHe-Neレーザーの透過光強度とした。
3.偏光照射による配向変化挙動
室温において、波長488nm、光強度72mW/cm2のArレーザーの直線偏光を、CB20の200μmセルに照射したときに観察されたプローブ光の透過光量変化をみた。透過光量の初期値として空のパラレルニコル下における透過光量を100%とした。その結果、初期状態においてほぼ0%であった透過光量が直線偏光照射と同時に増加し、その後減少した。一般に、クロスニコル下におけるプローブ光の透過光量とサンプルの屈折率異方性(Δn)の間には式(4)のような関係が成り立つ。
【0035】
T=sin(πdΔn/λ)×100(%) (4)
ここで、Tは透過光量、dはサンプルの厚さ、λはHe-Neレーザーの波長である。この式(4)から得られる透過光量とΔnの関係は直線偏光照射後、透過光量が増加し減少した後にArレーザーの照射を止めると、透過光量が増加した。先に観察されたように直線偏光照射とともに透過光量が増加し、その後減少するという透過光量変化は、前述の透過量とΔnの変化に対応していると考えられる。これは、光照射前のサンプルでは屈折率異方性がなかったのに対し、直線偏光照射によって屈折率異方性が誘起されたこと、つまりアゾベンゼンのみ、もしくはアゾベンゼンとシアノビフェニルの配向が変化したことを示唆している。光照射15分後のΔnの値は、2.3×10‐3となることが明らかになった。
【0036】
直線偏光照射後のサンプルの配向状態を評価するために、光照射後、室温暗所で2日間放置し、アゾベンゼンのシス体が全く存在しない状態でCB20の200μmセルの偏向吸収スペクトル測定を行なった。この結果、光照射前は角度によらず一定の吸光度であったのに対し、直線偏光に対して垂直な成分の方が平行な成分よりも吸光度が高くなることがわかった。これは、直線偏光に対して垂直な方向にアゾベンゼン分子が多く配向したためであると考えられる。
4.ブラッグ回折に基づく回折格子の形成挙動
膜厚200μmのCB20セルを用い、光強度36mW/cm2の直線偏光を格子周期3μmとなるような角度で照射し、透過型回折格子形成を行なった。その結果、0次光と+1次光しか現れなかった。このときのQ値が58.9になることから、ブラッグ回折格子を形成できることを確認した。読み出し光には書き込み光に対して平行な偏光を用いて、回折効率の時間変化について測定した結果、光照射とともに+1次光強度が増加していき、約15分後に最大で約90%の値に達し、その後減少した。また、0次光強度は+1次光と全く逆のプロファイルを示し、光照射とともに減少し、その後増加した。これは、光照射とともに干渉縞明部の配向が変化することで、干渉縞明部と暗部の屈折率差(Δn’)が増加して行き、照射し続けると干渉縞暗部の配向が変化し始め、Δn’が減少するためであると考えられる。約90%という高い回折効率が達成されたたのは、光吸収や光散乱を抑えた厚膜を作製できたためであると考えられる。また、回折格子形成過程において、回折効率が最大値を示したときに書き込み光の照射を止めると、回折効率は10%前後減少し、その後安定した。これは光照射を止めると同時に干渉縞明部の配向が若干初期の配向状態に戻ろうとするためであると考えられる。
【0037】
次に、膜厚200μmのCB20セルにおいて記録-消去が行なえるかを確認するため、回折格子形成後、サンプルをTg以上に加熱することにより、記録の消去を試みた(図3)。読み出し光には書き込み光に対して平行な偏光を用いた。書き込み光照射から15分後に照射を止め、温度コントローラーを用いて室温からTg以上である100℃まで加熱した。その結果、加熱と同時に回折効率は低下していき、約3分でほぼ0%の値となった。これは、加熱することによってアゾベンゼンやシアノビフェニルの配向がゆらぎ、干渉縞明部で誘起された配向がランダムな状態、つまり初期の状態に戻ったためであると考えられる。また、記録を消去したサンプルに再び書き込みを行なうという記録‐消去サイクルを繰り返し行っても、サンプルが劣化しないことがわかった。さらに、回折格子形成後、光によっても記録を消去できるかを確認するため、波長488nmの円偏光を用いて記録の消去を試みた。読み出し光には書き込み光に対して平行な偏光を用いた。回折格子形成(2光束)は、光強度36mW/cm2のs,s‐偏光を15分間照射することにより行なった。記録の消去(1光束)には波長488nmの円偏光を用い、光強度800mW/cm2で10分間照射を行った。回折格子形成後、1光束照射を行ったところ、10分間では記録を完全に消去できなかった。しかしながら、1光束照射の時間を長くすれば、回折効率が0%に近い値になると考えられる。また、熱による記録の消去と同様に、繰り返し記録-消去を行えることがわかった。
【0038】
次に膜厚200μmのCB20セルを用い、書き込み光強度が回折格子形成におよぼす影響について検討した。その結果、書き込み光強度が36mW/cm2までは回折効率が増加するが、それ以上の強度になると低下することが明らかとなった。回折格子形成過程において、光強度が増加すると、干渉縞明部におけるアゾベンゼンの配向が変化しやすくなる。しかしながら、高い光強度だと干渉縞暗部における配向も変化しやすくなるため、干渉縞明部と暗部の屈折率差が減少し、回折効率が低下したと考えられる。Ramanujamらが光強度2500mW/cm2で80%の回折効率を達成しているのを考えると、今回のCB20の系では、その1/70の光強度で約90%の回折効率を達成することができた。低い光強度で回折格子を形成できるということは、記録の大面積化を容易に行なえることを示しており、大面積型のホログラフィックディスプレイなどへの応用が期待できる。
5.回折格子形成のメカニズム
(1)回折効率におよぼすモノマーの影響
前記のように、36mW/cm2という低い光強度で高い回折効率を達成できることが明らかになったが、従来アゾベンゼンを用いた系で、これほど低い光強度で高い回折効率を達成した例はない。低い光強度で高い解説効率を達成できた原因として、サンプルセル中に残存したMMAモノマーが可塑剤として働き、アゾベンゼンの配向偏かが誘起されやすくなった可能性がないかどうかを確かめるために、セル中で重合したCB20の未反応モノマーを沈殿によって除去してサンプルを作製した。すなわち、重合したCB20セルの片面のガラス基板を剥がし、サンプルを削り取った。それを少量のクロロホルムに溶かした後、メタノールに滴下し、ポリマーだけを沈殿させた。沈殿したポリマーをガラスフィルター(G-40)で回収した後、真空乾燥してサンプルとした。洗浄した2枚のガラス基板で、200μmのシリカスペーサーとともにTg以上の温度でポリマーを挟み込むことで、モノマーを除去したサンプルセルを作製した。CB20のモノマーを除去したサンプルとモノマーを除去していないサンプルの200μmのセルを用いて、回折格子形成を試みた。その結果、モノマーを除去したサンプルでは、モノマーを除去していないサンプルに比べ、どの光強度でも数%回折効率が低下した。しかし、モノマーを除去したサンプルセルでは、光照射前の段階でわずかな散乱が生じていたため、モノマーの割合が少なくなることによって回折効率が低下したというよりも、光散乱が生じていたために回折効率が若干低下したと考えられる。実際に、モノマーを除去していないサンプルと同じような強度で高い回折効率を達成していることにより、CB20セルの残存モノマーが回折格子形成過程に及ぼす影響はほとんどないことがわかった。
【0039】
アゾベンゼンとシアノビフェニルの共重合サンプルを用いて回折格子形成をおこなった報告があるが、最大の回折効率を示したのは測定温度80℃で光強度120mW/cm2の書き込み光を用いた場合である。アゾベンゼンとシアノビフェニルの共重合体では低い強度で高い回折効率を誘起できないことから、CB20セルにおいて低い強度で高い回折効率を誘起できる原因としてポリマー鎖中のMMA成分の存在が挙げられる。ポリマー鎖中のMMA成分の存在によって自由体積が増加し、アゾベンゼンのtrans-cis-trans異性化サイクルが起きやすくなる。そのため、低い光強度でもアゾベンゼンの配向変化が起こりやすくなり、サンプル内部の屈折率変調が誘起されやすくなったと考えられる。また、膜厚を厚くし得たことも原因の1つであると考えている。式(2)から、膜厚が厚ければ厚いほど、低いΔn’で高い回折効率を達成できることが可能であり、低いΔn’であれば、低い光強度でも誘起できるためである。
【0040】
(2)回折効率におよぼす読み出し光の偏光依存性
膜厚μmのCB20セルにおいて、光強度36mW/cm2の偏光を用いて、15分間書き込み光照射をおこなった後、読み出し光の偏光が回折効率におよぼす影響について検討した。干渉縞明部において、アゾベンゼン部位が書き込み光に対して垂直方向に若干配向変化していることが明らかなため、書き込み光に対して垂直な偏光を読み出し光に用いた場合に高い回折効率を示すと予測されたが、結果はその逆であった。書き込み光にたいして平行な偏光を読み出し光に用いた場合(0°、180°、360°)、垂直な偏光を用いた場合(90°、270°)よりも、約6倍も高い回折効率を示すことがわかった。これは書き込み光照射によって干渉縞明部におけるアゾベンゼンの配向が、書き込み光の偏向方向に対して垂直な配向(A)と光の伝搬方向に対して平行な配向(B)の二つになるためであると考えられる。
6.ブラッグ型回折格子における回折効率の依存性
(1)回折効率の角度依存性
膜厚200μmのCB20セルに、光強度36mW/cm2、格子周期3μmで回折格子形成をおこなった後、格子に対する読み出し光の角度(α)を変え、回折効率におよぼす読み出し光の角度の影響について検討した。結果を図4に示す。読み出し光には書き込み光に対して平行な偏光を用いた。これにより、回折効率が最大を示す角度は9.3°であり、この角度から1°ずれただけで、回折効率は大幅に低下した。CB20セルにおいてもブラッグ回折に基づく角度選択性を確認することができた。前記のPM6AB4のホメオトロピック配向セル(20μm)では、角度選択性の基準となるΔθ(回折光強度が最大となる角度から0になるまでの角度)が約15°であったのに対し、CB20の200μmセルでは、Δθが約3°となり角度選択性が大幅に向上した。この角度選択性の向上は膜厚の増加によるものであると考えられる。
【0041】
光強度36mW/cm2で15分間書き込み光照射をおこなった後のCB20の200μmセルに微弱な白色光を照射したところ、回折光を観察することができた。観察する角度によって見える光の色が異なり、格子に対して一番角度の大きい(A)では、赤色(630nm付近)の回折光を観察することができ、(B)、(C)と格子に対する角度を狭めていくと、徐々に短波長の光が回折されるようになり、(D)においては水色(480nm付近)の回折光を観察することができた。このことからも,ある波長の光はある角度にしか回折されないという、高い角度選択性を確認することができた。また、480nm付近から630nm付近の光を観察できたことから、波長選択性はあまり高くないことがわかった。
【0042】
(2)回折効率の格子周期依存性
ホログラム記録材料として必要な条件に、干渉縞を忠実に記録できる高い分解能をもつこと、つまり狭い格子周期で記録できることが挙げられる。膜厚200μmのCB20セルを用いて、格子周期を変化させると、格子周期が狭くなるにつれて回折効率が低下する傾向を示した。これは格子周期が狭くなることで、干渉縞暗部の配向が変化しやすくなり、誘起されるΔn’が小さくなるためであると考えられる。格子周期が1μmのとき(1mm当たりに1000本の干渉縞を記録したとき)、回折効率は約30%の値を示した。
【0043】
(3)回折効率の温度依存性
次に膜厚200μmのCB20セルの回折格子形成過程におよぼす測定温度の影響について検討した。室温で測定をおこなったときに一番高い回折効率を示すことが明らかになった。室温よりも高い温度では、どの光強度においても回折効率が低下し、特にTg以上の温度では、ほとんど回折光が検出されなかった。MMA部位が可塑剤として働き、さらに温度が上がることで、アゾベンゼン部位がより動きやすくなる。そのため、干渉縞暗部の配向が変化しやすくなり回折効率が低下したと考えられる。
【0044】
(4)回折効率におよぼす膜厚の影響
CB20セルにおいて、膜厚が回折効率およびΔn’におよぼす影響を検討した(図5)。回折格子形成は、光強度36mW/cm2のs,s-偏光を用いておこなった。その結果、誘起されるΔn’は、膜厚の増加に伴い、わずかに減少していった。これは、膜厚の増加に伴い吸光度が増加したために、サンプルの奥まで十分な光が染み込まず、サンプルの奥の方で誘起されるΔn’がサンプルの手前で誘起されるΔn’よりも低下してしまったためであると考えられる。CB20セルでは液晶性を示さず分子配向変化が散乱を引き起こさないので、膜厚の増加による吸光度の増加が主原因となる。これより、膜厚においてΔn’を大きく低下させる一番の原因は、液晶分子の配向の乱れによる光吸収や光散乱の増加であると考えることができる。膜厚の増加に伴いΔn’はわずかに減少したが、回折効率は大きく増加した。これは、回折効率に及ぼすΔn’の減少による寄与よりも、膜厚の増加による寄与の方が大きいためであると考えられる。また膜厚を20μmから60μmへと厚くしたときに回折効率が一番増加した。格子周期3μm、材料の平均屈折率を1.5としたときのホログラムにおける回折現象を決めるQ値を式(1)より計算した。Q値はそれぞれ、5.9(20μm)、17.7(60μm)、29.4(100μm)、58.9(200μm)となる。先に述べたように、一般にQ値が10よりも大きい時にブラッグ回折が起こると言われている。また1<Q<10のときは、ブラッグ回折とラマン-ナス回折のどちらとも定義されていない。このことから、膜厚が60μm以上の時にはブラッグ回折によって回折効率が大幅に増大したと考えることができる。
7.回折格子形成に及ぼす液晶性化合物の影響
CBを全く含まないCB0の200μmセルと、CBを30モル%含むCB30の200μmセルと比較することで、液晶化合物であるCBの影響について検討した(図6)。その結果、CBを全く入れない系(CB0)では、回折効率が最大で50%までしか達しなかったのに対し、CBを入れた系(CB20,CB30)では、より高い回折効率を得ることができた。これは液晶化合物であるCBを入れることで、より大きなΔn’が誘引されたことを示唆している。このことから、書き込み光照射によるアゾベンゼン部位の配向変化に伴って、CBの配向も変化していると考えることができる。つまり、サンプル中で協同効果と同様な力が働いていると考えることができる。また、CBを30モル%加えたCB30の方が、CBを20モル%加えたCB20よりも若干高い回折効率を示した。これも、協同効果と同様な力によるCBの配向変化が、より大きなΔn’を誘起したためであると考えられる。
【0045】
膜厚200μmのCB20セルおよびCB30セルに、光強度42mW/cmのs,s-偏光を格子周期3μmとなるような角度で照射し、透過型回折格子形成を行なった。その結果を図7に示す。CB30セルを用いた場合、約13分で最大の回折効率である98.7%に達した。ブラッグ回折における理論最大回折効率が100%であることを考えると、ほぼ理論値の値が得られた。可逆型のホログラム材料において、このような高い回折効率は従来、達成されていない。しかも、42mW/cm2という低い光強度で誘起できるため、ホログラムの大面積化も容易であり、高性能なホログラム材料といえる。また、光照射後、CB30の方がCB20よりも速く回折効率が増加していくことが明らかになった。これはアゾベンゼンの配向変化によって、CBの含有量が多いCB30ではCBの配向変化が比較的誘起されやすくなり、より速くΔn’が大きくなるためであると考えられる。
【0046】
次に、CB0、CB20およびCB30セルを用いて、回折効率に及ぼす膜厚の影響について検討した(図8)。その結果、どのサンプルにおいても膜厚の増加に伴い回折効率が増加した。特にQ値が10以上である60μm以上の膜厚ではブラッグ回折が起こっているためであると考えられる。また、CBの含有量が多いとどの膜厚においても高い回折効率を示すことがわかった。このように、どの膜厚においてもCBを有するサンプルではアゾベンゼンの配向に伴って、CBの配向が起きることがわかった。また、CBの含有量を増やすと、200μmより薄い100μm、60μm等の膜で高い回折効率を達成しうることが示唆された。
【0047】
上記の実施例においては、フォトクロミックモノマー、透明性付与モノマーおよび液晶モノマーとして、メタクリル酸メチル(MMA)、アゾベンゼンモノマー(M6AB2)およびシアノビフェニルモノマー(M6CB)を用いる例を示したが、それぞれのモノマーの機能を有するものであれば前述の種々のモノマーを使用しうる。アゾベンゼンモノマーおよびシアノビフェニルモノマーを用いる場合でも、上述の構造式で示されるものに限定されず、種々の従来知られている種々の置換基を導入されうることは明らかである。
【0048】
以上のように、吸光度および光散乱を抑えた高分子アゾベンゼン圧膜を作製し、ブラッグ型回折格子の形成挙動について検討した結果、角度選択性の高いブラッグ型回折格子を形成でき、繰り返し記録-消去できることが明らかになった。膜厚を厚くすることにより回折効率は増加し、膜厚200μmのセルを用いたとき、ほぼ100%という理論値に近い回折効率が達成された。干渉縞明部においては、アゾベンゼンの配向変化とそれに伴うシアノビフェニルの配向変化が誘起されているためと考えられる。また、シアノビフェニルの含有量を30モル%に増加することで、より高い回折効率が達成され得た。
【0049】
【発明の効果】
本発明は、回折効率100%を達成し得、室温で長期間安定なホログラム記録媒体を提供しうるものであり、角度選択性の高いブラッグ型回折格子を形成でき、繰り返し記録-消去できる書換型ホログラム記録媒体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】直線偏光照射による透過光量測定に用いた光学系を示す概略図。
【図2】直線偏光照射による回折格子形成に用いた光学系を示す概略図。
【図3】膜厚200μmのCB20セルにおける記録-消去の様子を示す図。
【図4】回折効率におよぼす読み出し光の角度の影響を示す図。
【図5】膜厚が回折効率およびΔn’におよぼす影響を示す図。
【図6】回折効率と液晶化合物の量の関係を示す図。
【図7】回折効率と時間の経過の関係を示す図。
【図8】回折効率と膜厚の関係を示す図。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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