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明細書 :ZnAl系酸化物蛍光体の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5210272号 (P5210272)
公開番号 特開2011-057941 (P2011-057941A)
登録日 平成25年3月1日(2013.3.1)
発行日 平成25年6月12日(2013.6.12)
公開日 平成23年3月24日(2011.3.24)
発明の名称または考案の名称 ZnAl系酸化物蛍光体の製造方法
国際特許分類 C09K  11/64        (2006.01)
C09K  11/08        (2006.01)
FI C09K 11/64 CPB
C09K 11/08 B
請求項の数または発明の数 3
全頁数 16
出願番号 特願2009-212129 (P2009-212129)
出願日 平成21年9月14日(2009.9.14)
審査請求日 平成24年9月12日(2012.9.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
発明者または考案者 【氏名】単 躍進
【氏名】山口 諒仁
【氏名】手塚 慶太郎
【氏名】井本 英夫
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100117226、【弁理士】、【氏名又は名称】吉村 俊一
審査官 【審査官】水島 英一郎
参考文献・文献 特開2002-194349(JP,A)
山口諒仁、単躍進、手塚慶太郎、井本英夫,スピネル型固溶体ZnGa2-xAlxO4の蛍光特性,第47回セラミックス基礎科学討論会講演要旨集,日本,委員長 横尾俊信,2009年 1月 8日,402-403頁
山口諒仁、赤松宜宏、単躍進、手塚慶太郎、井本英夫,スピネル型固溶体ZnGa2-xAlxO4の蛍光特性,第24回日本セラミックス協会関東支部研究発表会講演要旨集,日本,社団法人 日本セラミックス協会,2008年 7月24日,8頁
調査した分野 C09K 11/64
C09K 11/08
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
亜鉛塩及びアルミニウム塩を少なくとも含む原材料と、該原材料を溶解するグリセリンを含む水溶液からなる溶媒とを、ZnAl系酸化物の物質量に対するグリセリンの比(モル比)9~15で混合してなる原料溶液を準備する原料溶液準備工程と、
前記原料溶液を加熱濃縮して該原料溶液中の水を除去して高粘性溶液にする加熱濃縮工程と、
前記高粘性溶液を加熱処理して該高粘性溶液中のグリセリンの少なくとも一部を除去してアモルファス状の粉末を得る仮焼工程と、
前記アモルファス状の粉末を不活性ガス雰囲気中で焼成してZnAl系酸化物を得る焼成工程と、
を含むことを特徴とするZnAl系酸化物蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記焼成工程後、さらに大気中、800℃で焼成する、請求項1に記載のZnAl系酸化物蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガスが、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス又はその混合ガスである、請求項又はに記載のZnAl系酸化物蛍光体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnAl系酸化物蛍光体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピネルはMgAlの鉱物名(和名:尖晶石)に由来し、その構造は、ダイヤモンド構造を基調とした構造で、一般化学式はABのように表されている。この化学式において、Aサイトは4つのXサイトの陰イオン(例えば酸化物イオン)に囲まれた孤立した四面体を形成し、Bサイトは6つの陰イオンに囲まれて辺を共有した八面体を形成した構造で表されている。
【0003】
スピネル型ZnGa系酸化物であるZnGaは、酸素欠損型(母体発光)の青色蛍光体として報告されている(例えば、下記非特許文献1を参照)。しかしながら、ZnGaのBサイトを構成するGaの価格が高く、全体として高価になるという難点がある。コストダウンのために、Bサイトが安価なAlを用いることが考えられるが、ZnGaと同じ構造であるZnAlは、酸素欠損の導入ができないので、蛍光発光しないことが知られている。実際に、下記非特許文献2には、Dy3+を発光中心としてドープしたZnAlについて報告されているが、ZnGaのように母体発光する酸素欠損型の蛍光体を用いたものではない。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Kim,J.S.,“Color variation of ZnGa2O4 phosphor by reduction-oxidation processes”, Applied Physics Letters, 82(13), p.2029-2031(2003).
【非特許文献2】Shu Fen Wang,“Synthesis and photoluminescence characteristics of Dy3+-doped ZnAl2O4 nanocrystals via a combustion process”, Journal of Alloys and Compounds, V.394, Issues1-2, 17 May 2005, p.255-258.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ZnGa系酸化物におけるGaは高価な材料ゆえ、それに代わる安価な材料としてZnAlに代表されるZnAl系酸化物蛍光体の開発が望まれるところである。しかしながら、ZnAlは母体発光せず、他元素をドープしなければ発光しないのが現状である。そこで、こうしたドープを行うことなく、安価なZnAlを母体発光させたZnAl系の酸化物蛍光体の開発が課題となっている。また、こうしたZnAl系酸化物蛍光体を簡易な方法で工業生産可能な製造方法の開発も課題となっている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その第1の目的は、高価なGaを用いずにZnAl系酸化物蛍光体を提供することにある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その第2の目的は、簡易な方法で工業生産可能なZnAl系酸化物蛍光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ZnAlを母体発光させるためには、結晶中に酸素欠損(酸素欠陥ともいう。以下同じ。)を導入することが必要となると考えられる。しかしながら、ZnAlは非常に安定なスピネル構造をとる酸化物であって欠陥の導入がしにくく、発光中心となる酸素欠損を形成することが難しい。そこで、本発明者等は、ZnAlへの酸素欠損の導入につき鋭意検討をした結果、酸化物の製造において、原料溶液に用いる水溶性有機化合物の種類及び添加量を制御し、かつ一旦アモルファス化させた後に還元雰囲気下での焼成により結晶化することによって、ZnAlに酸素欠損を導入できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、上記課題を解決するための本発明のZnAl系酸化物蛍光体は、酸素欠損を有するZnAl系酸化物からなることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、酸素欠損を有するZnAl系酸化物からなるので安価な材料であるAlを利用することができ、その結果、高価なGaを用いずにZnAl系酸化物蛍光体を提供することができる。
【0011】
本発明のZnAl系酸化物蛍光体の好ましい態様においては、励起波長が350nm以上となる。
【0012】
この発明によれば、励起波長が350nm以上の長波長側になり、可視光に近い光で励起することができるようになる。
【0013】
上記課題を解決するための本発明のZnAl系酸化物蛍光体の製造方法は、亜鉛塩及びアルミニウム塩を少なくとも含む原材料と、該原材料を溶解する水溶性有機化合物を含む水溶液からなる溶媒とを混合してなる原料溶液を準備する原料溶液準備工程と、前記原料溶液を加熱濃縮して該原料溶液中の水を除去して高粘性溶液にする加熱濃縮工程と、前記高粘性溶液を加熱処理して該高粘性溶液中の水溶性有機化合物の少なくとも一部を除去してアモルファス状の粉末を得る仮焼工程と、前記アモルファス状の粉末を不活性ガス雰囲気中で焼成して酸素欠損を有するZnAl系酸化物を得る焼成工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、亜鉛塩及びアルミニウム塩を少なくとも含む原材料と、この原材料を溶解する水溶性有機化合物を含む水溶液からなる溶媒とを混合してなる原料溶液を準備する原料溶液準備工程と、原料溶液を加熱濃縮してこの原料溶液中の水を除去して高粘性溶液にする加熱濃縮工程と、高粘性溶液を加熱処理してこの高粘性溶液中の水溶性有機化合物の少なくとも一部を除去してアモルファス状の粉末を得る仮焼工程と、アモルファス状の粉末を不活性ガス雰囲気中で焼成して酸素欠損を有するZnAl系酸化物を得る焼成工程と、を含むので、簡易な工程によって酸素欠損を導入しにくい代表酸化物ZnAlに酸素欠損を導入することが可能となり、その結果、簡易な方法で工業生産可能なZnAl系酸化物蛍光体の製造方法を提供することができる。
【0015】
本発明のZnAl系酸化物蛍光体の製造方法の好ましい態様においては、前記水溶性有機化合物がグリセリンである。
【0016】
この発明によれば、水溶性有機化合物がグリセリンであるので、焼成工程においてZnAl系酸化物に酸素欠損を導入しやすくなり、より良好な発光特性を有するZnAl系酸化物蛍光体を製造しやすくなる。
【0017】
本発明のZnAl系酸化物蛍光体の製造方法の好ましい態様においては、前記不活性ガスが、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス又はその混合ガスである。
【0018】
この発明によれば、不活性ガスが、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス又はその混合ガスであるので、酸化物の焼成が非酸化雰囲気下で行われることとなり、その結果、ZnAl系酸化物に酸素欠損をより導入しやすくなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のZnAl系酸化物蛍光体によれば、安価なAlを用いて蛍光体を形成することができるので、安価な蛍光体を提供することができる。
【0020】
また、本発明のZnAl系酸化物蛍光体の製造方法によれば、簡易な方法で工業生産可能な蛍光体の製造方法を提供することができる。そして、製造されるZnAl系酸化物は蛍光発光するので、高価なGaを用いずに新規ZnAl系酸化物蛍光体を製造でき、蛍光灯やPDP等のディスプレー用途の蛍光材料として好ましく利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】焼成温度を変化させて得られたZnAl系酸化物の粉末X線回折測定結果である。
【図2】グリセリンとZnAlとのモル比を変化させて得られたZnAl系酸化物の粉末X線回折測定結果である。
【図3】焼成温度を変化させて得られたZnAl系酸化物蛍光体を励起波長370nmで測定した蛍光スペクトルの測定結果と、励起スペクトルの測定結果である。
【図4】グリセリンとZnAlとのモル比を変化させて得られたZnAl系酸化物蛍光体を励起波長370nmで測定した蛍光スペクトルの測定結果と、励起スペクトルの測定結果である。
【図5】ZnAl系酸化物蛍光体と標準物質たる(CaWO)との蛍光スペクトルの測定結果である。
【図6】得られたZnAl系酸化物のカソードルミネッセンスの測定結果である。
【図7】得られたZnAl系酸化物の蛍光スペクトル(励起波長370nm)の測定結果である。
【図8】得られたZnAl系酸化物のTG-DTA測定結果である。
【図9】各ZnAl系酸化物のESR測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。

【0023】
[ZnAl系酸化物蛍光体]
本発明のZnAl系酸化物蛍光体は、酸素欠損を有するZnAl系酸化物からなる。これにより、安価な材料であるAlを利用することができ、その結果、高価なGaを用いずにZnAl系酸化物蛍光体を提供することができる。すなわち、ZnAl系酸化物に酸素欠損を導入することにより、例えば、従来発光しないと考えられてきたZnAlを発光させることができるようになる。

【0024】
ZnAl系酸化物蛍光体は、原則的には、Zn,Al,Oの元素で構成される化合物であって、酸素欠損を有するものである。ZnAl系酸化物蛍光体における酸素欠損の程度については、定量化することは容易ではないが、ZnAl系酸化物の組成式をZnAl4-xで表せば、xは、通常0より大きく、好ましくは0.000001以上であり、通常0.001以下となる。上記範囲とすれば、ZnAl系酸化物蛍光体の発光特性を確保しやすくなる。

【0025】
ZnAl系酸化物蛍光体が、酸素欠損を有するか否かは、電子スピン共鳴(ESR)法を利用して確認することができる。すなわち、ESR法は、物質中の自由電子を検出することができるので、酸素欠損が存在すればシグナルが現れる。もっとも、製造方法によっては、ZnAl系酸化物に炭素が含まれる場合があるので、ESR法で炭素によるシグナルが検出される可能性がある。この場合、炭素によるシグナルによって酸素欠損のシグナルの確認が難しくなる。そこで、ZnAl系酸化物に炭素が含まれている場合には、例えば、空気中で焼成をすることによって炭素を取り除いてからESR法による分析を行えばよい。そして、炭素を除去するための焼成温度は、例えば、焼成前の試料を示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)法によって分析を行い、炭素による重量減少がみられた温度を参考にして決めることができる。

【0026】
ZnAl系酸化物蛍光体の性状は、常温/常湿(25±5℃/50±10%RH)において、粉末であるのが通常である。発光特性を確保する見地からは、白色の粉末とすることが好ましい。

【0027】
ZnAl系酸化物蛍光体が粉末状(粒子状)である場合には、その平均粒径は、通常1nm以上、50nm以下である。粒子径の測定は、例えば、小角散乱X線法で測定することができ、測定装置としては、例えば、リガク株式会社製のSmartLabを用いることができる。

【0028】
ZnAl系酸化物蛍光体が粉末状(粒子状)である場合には、その比表面積は、通常10m/g以上、200m/g以下である。比表面積の測定はBET法を用いて行うことができ、測定装置としては、例えば、ユアサ アイオニクス株式会社 NOVA1200を用いることができる。

【0029】
こうして構成された本発明のZnAl系酸化物は、後述の実施例に示すように、安価なAlを使用しても十分な蛍光発光を示すことが確認でき、高価なGaを用いずに新規ZnAl系酸化物蛍光体を提供することができる。本発明のZnAl系酸化物蛍光体は、励起波長が350nm以上となることが好ましい。これにより、可視光に近い光で励起することができるようになる。なお、このZnAl系酸化物蛍光体は、ドーパントが発光中心となる発光体ではなく、母体発光する酸素欠損型の発光体である。もっとも、本発明のZnAl系酸化物蛍光体においては、実用化される用途によってより高い発光強度が求められるような場合等には、適宜ドーパントを導入してもよい。換言すれば、酸素欠損に基づく発光を示すZnAl系酸化物であれば、Zn,AL,O以外の元素が含まれている場合であっても本発明にいうZnAl系酸化物蛍光体となる。

【0030】
本発明のZnAl系酸化物蛍光体は、後述する製造方法で得られたものであってもよいし、それ以外の製造方法で得られたものであってもよい。

【0031】
本発明のZnAl系酸化物蛍光体は、後述のような蛍光発光が確認されたので、高価なGaを用いずに新規ZnAl系酸化物蛍光体を製造でき、蛍光灯やPDP等のディスプレー用途の蛍光材料として好ましく利用可能である。

【0032】
[製造方法]
本発明のZnAl系酸化物蛍光体の製造方法は、亜鉛塩及びアルミニウム塩を少なくとも含む原材料と、この原材料を溶解する水溶性有機化合物を含む水溶液からなる溶媒とを混合してなる原料溶液を準備する原料溶液準備工程と、原料溶液を加熱濃縮してこの原料溶液中の水を除去して高粘性溶液にする加熱濃縮工程と、高粘性溶液を加熱処理してこの高粘性溶液中の水溶性有機化合物の少なくとも一部を除去してアモルファス状の粉末を得る仮焼工程と、アモルファス状の粉末を不活性ガス雰囲気中で焼成して酸素欠損を有するZnAl系酸化物を得る焼成工程と、を含む。これにより、簡易な工程によって酸素欠損を導入しにくい代表酸化物ZnAlに酸素欠損を導入することが可能となり、その結果、簡易な方法で工業生産可能なZnAl系酸化物蛍光体の製造方法を提供することができる。以下、各工程について説明する。

【0033】
原料溶液準備工程は、亜鉛塩及びアルミニウム塩を少なくとも含む原材料と、この原材料を溶解する水溶性有機化合物を含む水溶液からなる溶媒とを混合してなる原料溶液を準備する工程である。本発明では、最終的にZnAl系酸化物を得ようとしているので、この原料溶液準備工程でも、所望の化学量論組成の酸化物になるように各塩の配合量が調整される。例えば、スピネル型のZnAl系酸化物を得ようとする場合には、ABのBサイトがAlで構成され、AサイトがZnで構成されるように各塩の配合量を調整すればよい。なお、酸素欠損型の蛍光発光をする限りにおいて、BサイトにAl以外の他の元素を配合させてもよいし、AサイトにZn以外の他の元素を配合させてもよく、それらの場合には、原料溶液にそうした他の塩を任意の量で配合することができる。

【0034】
塩としては、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩酸塩等を挙げることができる。塩としては水溶性のものが好ましく、例えば、後述の実験例で示すように、亜鉛塩として酢酸亜鉛等を、アルミニウム塩として硝酸アルミニウム等をそれぞれ用いることができる。亜鉛塩及びアルミニウム塩は水和物として用いてもよい。

【0035】
一方、そうした塩からなる原材料を溶解する溶媒としては、水溶性有機化合物を含む水溶液からなる溶媒を用いる。

【0036】
水溶性有機化合物とは、水に溶解する性質を有し、熱処理によって炭化する性質を有する有機化合物をいう。こうした水溶性有機化合物としては、特に制限はなく、例えば、多価アルコール、単糖、二糖等を挙げることができるが、酸素欠損を導入しやすくなるという見地から、多価アルコールを用いることが好ましい。水溶性有機化合物は、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、トリメチレングリコール、グリセリン、エリスリトール、キシリトール、及びソルビトールからなる群から選ばれる少なくとも一つを用いることがより好ましい。これら材料のうち、水溶性有機化合物としてグリセリンを用いることがさらに好ましい。これにより、焼成工程においてZnAl系酸化物に酸素欠損を導入しやすくなり、より良好な発光特性を有するZnAl系酸化物蛍光体を製造しやすくなる。より具体的には、後述するようにグリセリンのような多価アルコールを用いることにより酸素欠損を有するZnAl系酸化物を得やすくなる。なお、水溶性有機化合物は、本発明の要旨の範囲内において、任意の二種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。

【0037】
水溶性有機化合物の沸点又は分解温度は、水の沸点よりも高いものを用いることが好ましい。これは、後述するように、加熱濃縮工程で水分が除去され、その後の仮焼工程で水溶性有機化合物の少なくとも一部が除去されることを想定しているためである。これを上記の好ましい水溶性有機化合物を例にとって説明すれば、1気圧下で、水の沸点は100℃であり、エチレングリコール(C2)は197.6℃であり、プロピレングリコール(C3)は188.2℃であり、1,2-ブチレングリコール(C4)は192~194℃であり、2,3-ブチレングリコール(C3)は177℃であり、トリメチレングリコール(C3)は210~211℃であり、グリセリン(C3)は290℃であり、エリスリトール(C4)は330℃であり、キシリトール(C5)は216℃であり、ソルビトール(C6)は296℃である。すなわち、好ましいとされる水溶性有機化合物はいずれも水よりも高い沸点を有している。

【0038】
水溶性有機化合物は、各塩を構成する元素と配位結合する物質であることが好ましい。各塩を構成する元素と配位結合する水溶性有機化合物を溶媒種として含有させることにより、そうした水溶性有機化合物は、後述する仮焼工程での加熱処理を行っても各塩を構成する元素におそらく配位結合してアモルファス状態又は微結晶状態とするように作用し、その結果、その後の焼成工程での焼成により、配位して残存している水溶性有機化合物のC(炭素)の一部が酸素を引き抜くように還元作用し、酸素欠損を有するZnAl系酸化物を得ることができると推測されるからである。すなわち、ここでいう水溶性有機化合物は、各塩を主に溶解する水よりも高い沸点を持つとともに、塩を構成する元素に配位することができる水溶性の有機化合物であるということができる。こうした特性を有する有機化合物であれば、上記のプロピレングリコールやエチレングリコール等と同種の有機化合物や他の有機化合物であってもよいが、本発明では、後述する実施例で示すようにOH基を3つ有するグリセリンを用いた場合に、酸素欠損を有するZnAl系酸化物が得られたことから、グリセリンのような多価アルコールを用いることが好ましい。

【0039】
水溶性有機化合物を含む水溶液からなる溶媒は、通常、水に水溶性有機化合物を溶解させることによって形成されるが、本発明の要旨の範囲内において、水及び水溶性有機化合物以外の材料を所定の含有量で含有させてもよい。同溶媒中の水の含有量は、通常、原材料を十分に溶解できる量とする。また、同溶媒中の水溶性有機化合物の含有量は、通常、原材料中の各塩を構成する元素との配位結合を確実に形成できる量とするが、水溶性有機化合物を原材料中の亜鉛塩及びアルミニウム塩に対して過剰に含有させることが好ましい。これを、製造されるZnAl系酸化物の物質量に対する水溶性有機化合物の物質量の比(モル比)で表せば、ZnAl系酸化物の物質量を1とした時に水溶性有機化合物の物質量比は、通常1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上、特に好ましくは9以上、また通常50以下、好ましくは40以下、より好ましくは35以下、さらに好ましくは30以下、特に好ましくは20以下、最も好ましくは15以下とする。上記範囲とすれば、良好なZnAl系酸化物蛍光体を得やすくなるが、特に、ZnAl系酸化物の物質量を1とした時に水溶性有機化合物の物質量比を9~15とした場合に、強い蛍光を示しやすくなる。

【0040】
水溶性有機化合物を含む水溶液からなる溶媒と、原材料との混合比は、上記した蛍光特性や原材料の溶解性、原材料中の各塩を構成する元素と水溶性有機化合物との配位結合、後述する加熱濃縮工程での加熱濃縮の温度や時間、及び仮焼工程での加熱処理の温度や時間等の各条件を考慮して適宜決定すればよい。

【0041】
加熱濃縮工程は、原料溶液準備工程で得られた原料溶液を加熱濃縮してこの原料溶液中の水を除去して高粘性溶液にする工程である。この工程では、原料溶液中の水を除去できる程度の温度で加熱濃縮するので、加熱温度は、100℃以上、150℃以下とするのが通常である。また、加熱処理の雰囲気は、特に制限はなく、大気雰囲気、窒素雰囲気やアルゴン等の不活性雰囲気のいずれであってもよい。なお、原料溶液中の水を除去するとは、好ましくは原料溶液中の水をほぼ完全に除去することをいい、より好ましくは原料溶液中の水を完全に除去することをいうが、その後の工程や得られるZnAl系酸化物蛍光体の発光特性を阻害しない場合には、原料溶液中に水分が残留していてもよい。加熱濃縮工程を経て得られた高粘性溶液の性状は、ゾル状となるのが通常である。

【0042】
仮焼工程は、加熱濃縮によって得られた高粘性溶液をさらに加熱処理してこの高粘性溶液中の水溶性有機化合物の少なくとも一部を除去してアモルファス状の粉末を得る工程である。水溶性有機化合物は、加熱処理によってその少なくとも一部が除去されるが、原料溶液準備工程において水溶性有機化合物を原材料中の亜鉛塩及びアルミニウム塩に対して過剰に含有させた場合には、過剰な水溶性有機化合物(例えばグリセリン等の有機溶媒)を除去することが好ましい。より具体的には、加熱処理によって塩を構成する元素に配位する必要十分な水溶性有機化合物以外の「余った水溶性有機化合物」が除去されることが好ましい。

【0043】
仮焼工程における加熱処理温度としては、水溶性有機化合物の種類によっても異なるが、例えば上記したプロピレングリコールの場合にはその沸点(188.2℃)よりも60℃程度(40℃~80℃程度の範囲)高い250℃程度(230℃~270℃程度の範囲)であることが好ましく、例えば上記したグリセリンの場合にもその沸点(290℃)よりも60℃程度(40℃~80℃程度の範囲)高い350℃程度(330℃~370℃程度の範囲)であることが好ましい。いずれにしても、加熱処理して高粘性溶液中の水溶性有機化合物の少なくとも一部を除去し、アモルファス状の粉末を得ることができればよい。また、加熱処理の雰囲気は、特に制限はなく、大気雰囲気、窒素雰囲気やアルゴン等の不活性雰囲気のいずれであってもよい。なお、アモルファス状の粉末とは、加熱処理した後の粉末を粉末X線回折装置で測定して確認でき、結晶性のピークが現れず、いわゆるアモルファス状のピーク又は微結晶状のピークが得られるような粉末のことである。得られるアモルファス状の粉末は、水溶性有機化合物やその炭化物が残留している場合には、白色とならないのが通常である。

【0044】
焼成工程は、アモルファス状の粉末を不活性ガス雰囲気中で焼成して酸素欠損を有するZnAl系酸化物を得る工程である。この工程は、酸素欠損を生じさせることから還元工程ということもできる。本発明では、不活性ガス雰囲気中で焼成を行うことにより、白色を呈した所望のZnAl系酸化物を得ることができる。

【0045】
焼成工程における焼成温度は、炭化した水溶性有機化合物を除去しつつ酸素欠損を形成するという見地から、通常800℃以上、好ましくは850℃以上、より好ましくは900℃以上とし、また通常1500℃以下、好ましくは1200℃以下、より好ましくは1000℃以下とする。

【0046】
焼成工程においては、アモルファス状の粉末を不活性ガス雰囲気中で焼成する。不活性ガスは、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス又はその混合ガスとすることが好ましい。これにより、酸化物の焼成が非酸化雰囲気下で行われることとなり、その結果、ZnAl系酸化物に酸素欠損をより導入しやすくなる。

【0047】
焼成工程では、C(炭素)の一部が酸素を引き抜くように還元作用し、酸素欠損を有するZnAl系酸化物を得ることができる。詳しくは、上述した仮焼工程において、アモルファス状態又は微結晶状態となった酸化物構成元素には、炭化した水溶性有機化合物のC(炭素)がおそらく配位結合して残り、配位結合しない余剰の水溶性有機化合物は熱処理で除去されてアモルファス状の粉末が作製されるが、その後の焼成工程では、焼成により酸化物構成元素におそらく配位結合した水溶性有機化合物中のC(炭素)の一部が酸素を引き抜くように還元作用することによって、ZnAl系酸化物に酸素欠損を与えることになると推測される。

【0048】
こうした製造方法によれば、特別な設備が不要でありかつ粉末焼成のような1100℃以上の高温焼成を行う必要がない。このため、比較的簡便な合成法で、酸素欠損を有するZnAl系酸化物からなる蛍光体を製造できる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
[実験例1:発光特性の確認等]
(試料の作製)
試料の合成は溶液法によって行った。
【実施例】
【0051】
硝酸アルミニウム九水和物[Al(NO・9HO]を原料、溶媒を水として調製した溶液と、酢酸亜鉛二水和物[(CHCOO)Zn・2HO]とを目的の組成となるようなモル比で混合し、水溶性有機化合物(グリセリン)を加えて原料溶液を準備した。このとき、最終的に得られるZnAlの物質量に対するグリセリンの物質量(モル比)を、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)が、3倍、9倍、15倍、36倍となるように原料溶液の調製を行った(原料溶液準備工程)。
【実施例】
【0052】
次に、上記原料溶液を約120℃で加熱濃縮して該原料溶液中の水を除去してゾル(高粘性溶液)を得た(加熱濃縮工程)。
【実施例】
【0053】
次に、上記ゾルを350℃で加熱してアモルファス状の粉末とした(仮焼工程)。仮焼工程により、過剰なグリセリンを除去した後は茶色の粉末が得られたが、粉末X線回折測定したところ、結晶性のピークを表さないブロードなアモルファス状又は微結晶状の回折形態を示した。これは、グリセリンが各塩を構成するZn,Alに配位結合していることに基づいていると考えられる。
【実施例】
【0054】
その後、さらに、このアモルファス状の粉末を、不活性雰囲気(窒素雰囲気中)で、800℃、900℃、及び1000℃でそれぞれ7時間加熱することにより、酸素欠陥の導入を試みて目的物質を得た(焼成工程)。このときの窒素雰囲気は、加熱炉内に窒素ガスを40ml/minの量で常時流しながら行い、200℃まで冷却した後に大気開放した。
【実施例】
【0055】
(X線回折測定)
X線回折測定は、粉末X線回折装置としてリガク社製のRINT2200型を用い、CuKα線、印加電圧40kV、印加電流40mAの条件で行った。X線回折測定を行った試料は、
(ア)(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=15(モル比)とし、焼成工程における加熱温度を、それぞれ800℃、900℃、1000℃と変化させて得た試料、
(イ)焼成工程における加熱温度を900℃とし、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)を、それぞれ3,9,15,36(モル比)と変化させて得た試料、
である。
【実施例】
【0056】
図1は、焼成温度を変化させて得られたZnAl系酸化物の粉末X線回折測定結果である。同図中、「800℃」で示されるX線回折測定結果が800℃で焼成して得た試料のものであり、「900℃」で示されるX線回折測定結果が900℃で焼成して得た試料のものであり、「1000℃」で示されるX線回折測定結果が1000℃で焼成して得た試料のものである。
【実施例】
【0057】
図2は、グリセリンとZnAlとのモル比を変化させて得られたZnAl系酸化物の粉末X線回折測定結果である。同図中、「3」で示されるX線回折測定結果が、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=3とした試料のものであり、「9」で示されるX線回折測定結果が、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=9とした試料のものであり、「15」で示されるX線回折測定結果が、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=15とした試料のものであり、「36」で示されるX線回折測定結果が、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=36とした試料のものである。
【実施例】
【0058】
(蛍光・励起スペクトル測定)
次に、粉末X線回折測定を行った試料について、蛍光・励起スペクトル測定を行った。蛍光・励起スペクトル測定は、分光蛍光光度計(日本分光社製、FP-6300型)を用い、フィルターとしてシャープカットフィルターL-37(HOYAガラス社製、370nm以下の波長を遮断する。370nmでは50%遮断する。)を用い、粉末測定用のフォルダーに試料を詰め、分光蛍光光度計にセットして測定した。なお、分光蛍光光度計にフィルターを装着することで倍波の検出を無くした。蛍光スペクトルは、励起側の波長を固定し、蛍光側の波長をスキャンさせて得られた結果で表した。具体的には、励起側の波長(λex)を370nmに固定し、蛍光側の波長をスキャンさせた蛍光スペクトル測定を行った。また、励起スペクトルは、蛍光側の波長を極大波長に固定して、励起側の波長をスキャンさせ、励起光波長に対して蛍光強度をプロットした結果で表した。
【実施例】
【0059】
図3は、焼成温度を変化させて得られたZnAl系酸化物蛍光体を励起波長370nmで測定した蛍光スペクトルの測定結果と、励起スペクトルの測定結果である。同図中「PL」で示されるスペクトルが蛍光(発光)スペクトルであり、「PLE」で示されるスペクトルが励起スペクトルである。また、同図中「800℃」で示される蛍光スペクトルの測定結果が800℃で焼成して得た試料のものであり、「900℃」で示される蛍光スペクトルの測定結果が900℃で焼成して得た試料のものであり、「1000℃」で示される蛍光スペクトルの測定結果が1000℃で焼成して得た試料のものである。同図から、900℃で焼成した試料が最も強い蛍光を示すことがわかる。なお、365nmの紫外光を試料に照射し、発光色を観察したところ、800℃、900℃焼成のいずれのZnAl系酸化物蛍光体も青色(475nm)の発光を示した。
【実施例】
【0060】
図4は、グリセリンとZnAlとのモル比を変化させて得られたZnAl系酸化物蛍光体を励起波長370nmで測定した蛍光スペクトルの測定結果と、励起スペクトルの測定結果である。同図中「PL」で示されるスペクトルが蛍光(発光)スペクトルであり、「PLE」で示されるスペクトルが励起スペクトルである。また、同図中、「3」で示される蛍光スペクトルの測定結果が、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=3とした試料のものであり、「9」で示される蛍光スペクトルの測定結果が、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=9とした試料のものであり、「15」で示される蛍光スペクトルの測定結果が、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=15とした試料のものであり、「36」で示される蛍光スペクトルの測定結果が、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=36とした試料のものである。同図から、モル比を9~15倍としたものが強い蛍光を示す結果となっている。
【実施例】
【0061】
図5は、ZnAl系酸化物蛍光体と標準物質たる(CaWO)との蛍光スペクトルの測定結果である。同図中、「ZnAl」で示される蛍光スペクトルの測定結果が、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=9とし、焼成温度を900℃として得た試料のものである。なお、励起波長は370nmで測定している。また、同図中、「CaWO」で示される蛍光スペクトルの測定結果が、標準物質としてのCaWO試料のものである。なお、励起波長は256nmで測定している。同図から、製造条件によっては、標準物質たるCaWOよりも強い蛍光を示すZnAl蛍光体が得られることがわかる。
【実施例】
【0062】
また、図5の励起波長を比較してわかるように、256nmの励起波長を用いるCaWOに対して、ZnAl蛍光体では励起波長を370nmとすることが可能となり、可視光に近い光で発光させることが可能であることがわかる。
【実施例】
【0063】
(粒径と比表面積の測定)
グリセリンとZnAlとのモル比を変化させて得られたZnAl系酸化物の粉末につき、粒径と比表面積を測定した。
【実施例】
【0064】
粒径測定は、小角散乱X線法により行い、測定装置として、リガク株式会社製のSmartLabを用いた。その結果、焼成温度900℃、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=15(15倍モル比の溶媒)として得た試料の粒径は、18.206nmであり、焼成温度900℃、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=36(36倍モル比の溶媒)として得た試料の粒径は、16.919nmであり、焼成温度900℃、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=9(9倍モル比の溶媒)として得た試料の粒径は、15.785nmであった。
【実施例】
【0065】
比表面積の測定は、BET法により行い、測定装置として、ユアサ アイオニクス株式会社製のNOVA 1200を用いた。その結果、焼成温度900℃、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=15(15倍モル比の溶媒)として得た試料の比表面積は、50.37m/gであり、焼成温度900℃、(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=36(36倍モル比の溶媒)として得た試料の比表面積は、84.57m/gであった。
【実施例】
【0066】
[実験例2:カソードルミネッセンスの測定]
(グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=54とし、焼成温度を900℃としたこと以外は、実験例1と同様にして目的物質を得た。そして、得られた試料につきカソードルミネッセンスの測定を行った。
【実施例】
【0067】
(カソードルミネッセンス測定)
カソードルミネッセンスの測定は、株式会社日立製作所製のS3000Hを用いて行った。測定条件は以下のとおりである。
【実施例】
【0068】
分光器入射/出射スリット・・・1000nm/1000nm
測定波長範囲・・・200~800nm
測定波長間隔・・・1nm
1波長積算時間/回・・・500μS
1波長2回測定平均
【実施例】
【0069】
図6は、得られたZnAl系酸化物のカソードルミネッセンスの測定結果である。同図からわかるように、本実験例で得られた試料につき電子線照射による発光が確認された。
【実施例】
【0070】
[実験例3:発光メカニズムの確認]
実験例2で得られた試料((グリセリンの物質量)/(ZnAlの物質量)=54とし、焼成温度を900℃として得た試料)を用い、本発明のZnAl系酸化物蛍光体の発光メカニズム(酸素欠損に基づく発光か否か)を確認するために以下の実験を行った。
【実施例】
【0071】
(蛍光スペクトル測定)
実験例1と同様の条件で、実験例2で得られた試料の蛍光スペクトルを測定した。図7は、得られたZnAl系酸化物の蛍光スペクトル(励起波長370nm)の測定結果である。同図中の「900℃,in N」で示される蛍光スペクトルの測定結果が、実験例2で得られた試料のものである。同図からわかるように、実験例2で得られた試料についても蛍光が確認された。
【実施例】
【0072】
(TG-DTA測定)
上記試料(ZnAl系酸化物)につき熱重量分析を行った。熱重量分析は、ブルカー・エイエックスエス株式会社製の示差熱熱重量同時測定装置(型式:TG-DTA/2020S)を用いた。図8は、得られたZnAl系酸化物のTG-DTA測定結果である。図8をみてわかるように、1段目の重量減少は吸着水分によるものであり、2段目と3段目の重量減少が吸着炭素による重量減少である。この結果から、実験例2で得られたZnAl系酸化物(ZnAl)には炭素が吸着(残留)していることがわかる。
(ESR測定)
図8の結果から、実験例2で得られたZnAl系酸化物蛍光体には炭素の吸着がみられた。これらの結果から、ZnAl系酸化物蛍光体の発光に関与しているのは、酸素欠損ではなく、吸着炭素である可能性も考えられる。そこで、別途用意した黒色のZnAl系酸化物粉末(ZnAl、黒色ゆえ過剰な炭素が付着していると考えられる試料)と、実験例2で得られたZnAl系酸化物につきESR測定を行った。さらに、実験例2で得られたZnAl系酸化物については、追加焼成(大気中800℃で1時間)を行った試料を準備し、この試料についてもESR測定を行った。ここで追加焼成を行った理由は、大気中で高温焼成を行うことで、実験例2で得られたZnAl系酸化物に付着している炭素を除去するためである。そして、追加焼成の温度800℃は、図8での吸着炭素の重量減少が起きる温度域を参考にして決めたものである。なお、ESR測定は、電子スピン共鳴装置(日本電子株式会社製、形式:JES-TE100)を用いて行った。
【実施例】
【0073】
図9は、各ZnAl系酸化物のESR測定結果である。同図上段の「excess-carbon」で示されるシグナルは、黒色のZnAl系酸化物のESR測定結果であり、同図中段の「900℃ in N」で示されるシグナルは、実験例2で得られたZnAl系酸化物のESR測定結果であり、同図下段の「900℃ in N+800℃ in air 1h」で示されるシグナルは、実験例2で得られたZnAl系酸化物に追加焼成(大気中800℃で1時間)を行って得た試料のESR測定結果である。
【実施例】
【0074】
図9の上段は、上述のとおり、黒色のZnAl系酸化物粉末のESR測定結果である。このZnAl系酸化物は、黒色の粉末であり炭素が過剰に付着しているため、炭素による対象性のあるシグナル(g=2.0)が強く現れている。
【実施例】
【0075】
図9の中段は、上述のとおり、実験例2で得られたZnAl系酸化物のESR測定結果である。このZnAl系酸化物においても、g=2.0でのシグナルが現れている。これは、上記TG-DTA測定からも確認されるとおり、試料内に残留する炭素によるものである。もっとも、図9の上段・中段ではシグナルの強さが同じようにみえるように、中段のシグナルについては縦軸を拡大して表示しており、実際には、同図の上段のシグナルの強さと比較して、中段のシグナルの強さは非常に小さいものとなっている。すなわち、実験例2で得られたZnAl系酸化物は、黒色のZnAl系酸化物と比較して、炭素の付着量は非常に少なくなっていることがわかる。これは、焼成工程において焼成温度を900℃とすることで炭素が確実に除去されるようになり、この炭素の除去に伴って酸素欠損が導入されることを示唆するものと推測される。
【実施例】
【0076】
図9の下段は、上述のとおり、実験例2で得られたZnAl系酸化物をさらに追加焼成(大気中800℃で1時間)した試料のESR測定結果である。同図からわかるように、g=2.0のシグナルは完全に消滅し弱いシグナルのみが残る結果となった。これは、追加焼成によって炭素がほぼ完全に除去されたことを示すものである。また、このシグナルは、非特許文献1で報告されている酸素欠損を導入したZnGaのESRシグナルと類似している。
【実施例】
【0077】
(再度の蛍光スペクトル測定)
ESRの測定結果から、実験例2で得られたZnAl系酸化物をさらに追加焼成(大気中800℃で1時間)すると酸化物中の炭素がほとんど除去されることがわかった。この炭素がほとんど除去されたZnAl系酸化物が蛍光発光するのであれば、発光に炭素の関与はなく、酸素欠損に基づく発光であることが証明できる。そこで、追加焼成(大気中800℃で1時間)を行った試料につき蛍光スペクトル測定を行った。測定結果を図7に示す。同図中、「900℃,in N+800℃ in air,1h」で示されるスペクトルが、実験例2で得られたZnAl系酸化物に追加焼成を行った試料の蛍光スペクトルである。
【実施例】
【0078】
同図からわかるように、発光強度に差はあるものの、炭素の残留がほとんどない追加焼成を行ったZnAl系酸化物でも発光が確認された。この結果から、本発明のZnAl系酸化物での蛍光発光が、酸素欠損に基づくものであることが証明された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8