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明細書 :可視光感応型光触媒の調製方法及びこれにより調製された可視光感応型光触媒

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4665225号 (P4665225)
公開番号 特開2005-342601 (P2005-342601A)
登録日 平成23年1月21日(2011.1.21)
発行日 平成23年4月6日(2011.4.6)
公開日 平成17年12月15日(2005.12.15)
発明の名称または考案の名称 可視光感応型光触媒の調製方法及びこれにより調製された可視光感応型光触媒
国際特許分類 B01J  35/02        (2006.01)
B01J  23/52        (2006.01)
B01J  37/16        (2006.01)
FI B01J 35/02 J
B01J 35/02 H
B01J 23/52 M
B01J 37/16
請求項の数または発明の数 9
全頁数 21
出願番号 特願2004-164396 (P2004-164396)
出願日 平成16年6月2日(2004.6.2)
審査請求日 平成19年5月18日(2007.5.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
発明者または考案者 【氏名】田嶋 和夫
【氏名】今井 洋子
個別代理人の代理人 【識別番号】100069073、【弁理士】、【氏名又は名称】大貫 和保
【識別番号】100102613、【弁理士】、【氏名又は名称】小竹 秋人
審査官 【審査官】後藤 政博
参考文献・文献 特開平10-273705(JP,A)
特開2000-042411(JP,A)
特開平06-269684(JP,A)
特開2003-190812(JP,A)
特開平11-207149(JP,A)
特開2002-316946(JP,A)
田嶋和夫 今井洋子,制限反応場による複合体ナノ粒子の直接生成,化学工業,日本,株式会社 化学工業社,2001年 3月 1日,第52巻 第3号,175~181頁
調査した分野 B01J 21/00 - 37/74
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
非水系の制限反応場で、金イオンを還元して金コロイドを形成し、前記金コロイドの粒子面で有機チタン錯体を加水分解と縮合反応させて前記金コロイドを酸化チタン層で包摂することを特徴とする可視光感応型光触媒の調製方法。
【請求項2】
非水系の制限反応場は、炭素数5~16の炭化水素油からなる溶媒中において、HLBが10~16の非イオン性両親媒性物質が形成する逆ミセルまたは逆マイクロエマルション中であることを特徴とする請求項1記載の可視光感応型光触媒の調製方法。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性物質は、下記の一般式(化1)で示すポリオキシエチレンモノアルキルエーテル(Polyoxyethylene monoalkyl-ether)のうち、mが10から16、n
が4から6の界面活性剤であることを特徴とする請求項2記載の可視光感応型光触媒の調製方法。
【化1】
JP0004665225B2_000010t.gif

【請求項4】
HLBが10~16の非イオン性両親媒性物質を炭素鎖長5~16の炭化水素油からなる溶媒中に溶解させ、この溶液に水溶性の金塩を可溶化させる工程と、
この可溶化させた金イオンに対し、還元剤を所定の比で添加し、攪拌することで逆ミセルまたは逆マイクロエマルション中に金コロイドを調製する工程と、
前記金コロイドを含有した逆ミセルの外相の炭化水素油に所定量の有機チタン錯体を添加して加水分解と縮合反応させることで前記金コロイドを酸化チタン層で包摂する工程とを含むことを特徴とする可視光感応型光触媒の調製方法。
【請求項5】
前記金コロイドと前記有機チタン錯体とをモル比が1:1~1:150となるように前記有機チタン錯体を添加することを特徴とする請求項4記載の可視光感応型光触媒の調製方法。
【請求項6】
前記金コロイドを酸化チタン層で包摂した粒子を取り出し、前記非イオン性界面活性剤の分解温度よりも高く、酸化チタンのアナタース変換温度よりも低い温度で加熱処理する工程をさらに含むことを特徴とする請求項4記載の可視光感応型光触媒の調製方法。
【請求項7】
あらかじめ調製された金微粒子分散溶液を逆ミセル中へ可溶化させ、その後、前記金微粒子を含有した逆ミセル界面で前記有機チタン錯体を加水分解と縮合反応させることで前記金微粒子を酸化チタン層で包摂することを特徴とする可視光感応型光触媒の調製方法。
【請求項8】
あらかじめ金微粒子分散溶液を調製する工程と、
非イオン性界面活性剤を炭素数5~16の炭化水素油からなる溶媒中に溶解させ、この溶液に前記金微粒子分散溶液を可溶化させる工程と、
前記金微粒子を含有した逆ミセルの外相の炭化水素油に所定量の有機チタン錯体を添加して加水分解と縮合反応させることで前記金微粒子を酸化チタン層で包摂する工程と
を含むことを特徴とする可視光感応型光触媒の調製方法。
【請求項9】
前記金微粒子を酸化チタン層で包摂した粒子を取り出し、前記非イオン性界面活性剤の分解温度よりも高く、酸化チタンのアナタース変換温度よりも低い温度で加熱処理することを特徴とする請求項8記載の可視光感応型光触媒の調製方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒であるTiO2を可視光感応型として用いることを可能にした可視光感応型光触媒とその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体光触媒による酸化還元反応を利用した商品開発が盛んに行われている。例えば、塗布された光触媒により自浄作用を有するトンネル照明、添加された光触媒により抗菌作用を有するタイル、エアフィルタに担持された光触媒により空気中の有害物を分解する空気清浄機などが挙げられる。これらの商品に用いられている半導体光触媒のほとんどは、酸化チタンである。
【0003】
酸化チタンは、化学的に安定で安価かつ人体に対して安全であるため広く採用されているが、励起するために、アナタース型で380nm以下、ルチル型で400nm以下の紫外光を必要とする。
【0004】
しかし,太陽光を構成する要素の主たる部分は波長400 ~ 800 nmの可視光であり,これらの光触媒が機能する波長380 nm以下の紫外線はわずか3 % 前後である。また,蛍光灯の光も波長400 ~ 500 nmの可視光が主である。したがって,これらの可視光を有効に活用するためには、可視領域の光で作用する光触媒の開発が必要である。
【0005】
従来、光触媒であるTiO2を可視光感応型に改質させ、環境清浄化が可能となる光触媒の開発が多くの研究者によって試みられてきた。可視光応答化の方法としては、1)酸化チタンに不純物準位を形成させ、励起に必要なバンドギャップエネルギーを減少させる方法、2)色素を酸化チタン表面へ吸着させ、色素の励起によって生じた電子と正孔を用いる方法があり、例えば,酸化チタン格子中に遷移金属イオンをイオン注入して酸化チタンの吸収端を長波長側へシフトするイオン注入法や、N2/Arプラズマ雰囲気中での酸化チタンスパッタリング、アンモニア含有雰囲気下での酸化チタンの熱処理による窒素ドープは、上記1)に分類されるものである(非特許文献1~3等参照)。
【0006】

【非特許文献1】"M.Anpo, Catal. Surv. Jpn. 1 169 (1997)
【非特許文献2】"R.Asahi, T.Morikawa, T.Ohwaki, K.Aoki, Y. Taga, Science. 293,296 (2001)
【非特許文献3】"T.Morikawa, R.Asahi, T.Ohwaki, K.Aoki, Y. Taga, Jpn. J. Appl. Phys. 40, L561(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した多くの方法は、いずれも製法上の制約があり、コストがかかったり、また、長期安定性に乏しい等、光活性能などの点で十分な評価が得られておらず、いまだ実用化されていない。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、多量に存在し、しかも安全な可視光線を利用してTiO2を誘起することを可能にした可視光感応型光触媒とその調製方法を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、可視光によるTiO2 活性化のためにコロイド状のAu が発光するプラズモンを用いることを提案しており、一例として,LB膜を用いてTiO2微粒子を一粒子膜状にし,さらにAu コロイドを付着させる研究を行っている。
一方,逆ミセル法で調製された酸化チタン微粒子は、焼成することなしに紫外光で光触媒能(触媒活性)を示すことを見出している。
【0010】
本発明は、これらの知見に基づき、完成されたものであり、逆ミセル法によってAu 微粒子を内包したTiO2 の複合微粒子を調製し,Auのプラズモンによって光触媒としてのTiO2 のバンドギャップ領域を変移させ,可視光領域でも光触媒活性機能を示すことが可能な可視光感応型の光触媒を調製しようとするものである。
【0011】
即ち、この発明で調製しようとする可視光感応型光触媒は、金微粒子を酸化チタン層で包摂した複合微粒子を形成成分とするものである。ここで、金微粒子を酸化チタン層で包摂するとは、完全に覆っている状態、若しくは、完全に覆っていなくても、少なくとも覆っている状態が存在することを意味し、AuとTiO2とが単に隣同士に共存しているような状態を除く意味である。
【0012】
このような構成とすることで、Au微粒子に可視光が照射されることにより生じるプラズモン電子で酸化チタンを活性化させることができ、可視光で作用する光触媒を創製することが可能となる。
【0013】
このような金微粒子を包摂したチタニア微粒子を調製するには、非水系の制限反応場で、金イオンを還元して金コロイドを形成し、前記金コロイドの粒子面で有機チタン錯体を加水分解と縮合反応させて前記金コロイドを酸化チタン層で包摂するとよい(請求項1)。ここで、非水系の制限反応場は、炭素数5~16の炭化水素油、好ましくは炭素数6~7の環状又は直鎖の炭化水素油からなる溶媒中において、HLBが10~16の非イオン性界面活性物質、好ましくは、下記の一般式(化1)で示すPolyoxyethylene monoalkyl-ether [ 以下Cm(EO)nと略す]のうち、m が10から16、n が4から6の界面活性剤が形成する逆ミセルまたは逆マイクロエマルション中を利用するとよい(請求項2,3)
【0014】
【化1】
JP0004665225B2_000002t.gif

【0015】
例えば、シクロヘキサン溶媒中でペンタオキシエチレンドデシルエーテルが形成する非イオン界面活性剤の逆ミセルまたは逆マイクロエマルション中を利用するとよい。
また、有機チタン錯体は、チタン金属アルコキシドならいずれも使用可能である。
【0016】
より具体的な調製法としては、HLBが10~16の非イオン性界面活性剤を炭素数5~16の炭化水素油からなる溶媒中に溶解させ、この溶液に水溶性の金塩を可溶化させる工程と、この可溶化させた金イオンに対し、還元剤を所定の比で添加し、攪拌することで逆ミセル中に金微粒子を調製する工程と、前記金微粒子を含有した逆ミセルの外相の炭化水素油に所定量の有機チタン錯体を添加して加水分解と縮合反応させることで前記金コロイドを酸化チタン層で包摂する工程とを含むとよい(請求項4)。
ここで、水溶性の金塩は、溶解後に金イオンを形成する、例えば、塩化金(III)酸・四水和物などを用いればよく、上述の調製法は、例えば、非イオン性界面活性剤をシクロヘキサンに溶解させ、この溶液に塩化金(III)酸水溶液を可溶化させる工程と、この可溶化させた金イオンに対し、還元剤を所定の比で添加し、攪拌することで逆ミセル中に金微粒子を調製する工程と、金微粒子を含有した逆ミセルの外相のシクロヘキサンに所定量の有機チタン錯体を添加して加水分解と縮合反応させることで前記金コロイドを酸化チタン層で包摂する工程とを含むように構成してもよい。
【0017】
さらに、前記金コロイドと前記有機チタン錯体とをモル比が1:1~1:150となるように前記有機チタン錯体を添加することが好ましく(請求項5)、金コロイドと酸化チタン層との間の挟雑物を除去して可視光の感応性を高めるために、前記金コロイドを酸化チタン層で包摂した粒子を取り出し、前記非イオン性界面活性剤の分解温度よりも高く、酸化チタンのアナタース変換温度よりも低い温度で加熱処理する工程をさらに含むとよい(請求項6)。
【0018】
また、このような金微粒子を包摂したチタニア微粒子を調製するには、あらかじめ調製された金微粒子分散溶液を逆ミセル中へ可溶化させ、その後、前記金微粒子を含有した逆ミセル界面で前記有機チタン錯体を加水分解と縮合反応させることで前記金微粒子を酸化チタン層で包摂するようにしてもよい(請求項7)。ここで、有機チタン錯体は、チタン金属アルコキシドならいずれも使用可能である。
【0019】
より具体的な調製法としては、あらかじめ金微粒子分散溶液を調製する工程と、非イオン性界面活性剤を炭素数5~16の炭化水素油からなる溶液中に溶解させ、この溶液に前記金微粒子分散溶液を可溶化させる工程と、前記金微粒子を含有した逆ミセルの外相の炭化水素油に所定量の有機チタン錯体を添加して加水分解と縮合反応させることで前記金微粒子を酸化チタン層で包摂する工程とを含むとよい(請求項8)。
【0020】
例えば、上述の調製法を、あらかじめ金微粒子分散溶液を調整する工程と、非イオン性界面活性剤をシクロヘキサンに溶解させ、この溶液に前記金微粒子分散溶液を可溶化させる工程と、前記金微粒子を含有した逆ミセルの外相のシクロヘキサンに所定量の有機チタニア錯体を添加して加水分解させることで前記金微粒子を酸化チタン層で包摂する工程とを含むように構成してもよい。
【0021】
このような製法においても、可視光での感応性を高めるために、前記金微粒子を酸化チタン層で包摂した粒子を取り出し、前記非イオン性界面活性剤の分解温度よりも高く、酸化チタンのアナタース変換温度よりも低い温度で加熱処理する工程をさらに含むとよい(請求項9)。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、この発明に係る製造方法により得られた可視光感応型光触媒によれば、金微粒子を酸化チタン層で包摂した複合微粒子を形成成分としているので、金微粒子に可視光を照射させることにより生じるブラズモン電子を酸化チタンの活性化のために利用することができ、可視光領域でTiO2を誘起する機能を有する光触媒を提供することが可能となる。また、金のプラズモン現象は、光照射によって劣化が起こらないので、実用化において適切な材料を提供することが可能となる。
【0023】
また、このような金微粒子を酸化チタン層で包摂した複合微粒子を調製するにあたり、非水系の制限反応場で、金イオンを還元して金コロイドを形成し、前記金コロイドの粒子面で有機チタン錯体を加水分解と縮合反応させて金コロイドを酸化チタン層で包摂する方法と、あらかじめ調製された金微粒子分散溶液を逆ミセル中へ可溶化させ、その後、前記金微粒子を含有した逆ミセル界面で前記有機チタン錯体を加水分解と縮合反応させることで金微粒子を酸化チタン層で包摂する方法とを採用することで、金微粒子を包摂した酸化チタンの複合微粒子を効率良く調製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明の最良の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1に金微粒子を酸化チタン層で包摂したAu/TiO2 複合微粒子の概念図が示されている。このような複合微粒子にあっては、金微粒子が可視光照射によりプラズモン現象を起こし、このプラズモン電子により、TiO2が光触媒活性を示すことが期待される。そこで、このようなAu/TiO2 複合微粒子を製造するにあたり、本発明者らは次の2つの製造方法(ルート1、ルート2)を完成させるに至った。
【0026】
[ルート1] 非水系の制限反応場である逆ミセル中でAu微粒子を調製し、それを用いてAu/TiO2 複合微粒子を調製する方法。即ち、Au微粒子の原料である塩化金(III)酸水溶液を逆ミセル中に可溶化して還元することで、金コロイドを形成し(Au微粒子含有逆ミセル溶液を生成し)、しかる後にこの非水溶液に有機チタン錯体を添加し、逆ミセル界面で有機チタン錯体を加水分解と縮合反応させて金コロイドをTiO2 で包摂したAu/TiO2 複合微粒子を生成する方法。
【0027】
[ルート2] 予め水溶液中で調製したAu微粒子を原料に用いる方法。即ち、予め調製されたAu微粒子分散溶液を逆ミセル中へ可溶化させ、続いてAu微粒子含有逆ミセル溶液へ有機チタン錯体を添加し、逆ミセル界面で有機チタン錯体を加水分解と縮合反応させることにより金コロイドをTiO2 で包摂したAu/TiO2 複合微粒子を生成する方法。
【0028】
1[試薬]
Au/TiO2 複合微粒子を製造する以上の方法を実現するために、次の試薬を用いた。
○ 逆ミセルを形成するのに使用した界面活性剤は非イオン性界面活性剤 Polyoxyethylene monoalkyl-ether ( NIKKOL ) [ 以下Cm(EO)nと略す ] を精製せずにそのまま用いた。Cm(EO)nの構造を化2に示す。
【0029】
【化2】
JP0004665225B2_000003t.gif

【0030】
○ 溶媒には、Cyclohexane ( 和光純薬 )を精製せずにそのまま用いた。
○ 逆ミセル中に可溶化させる試薬は, Au 微粒子の原料である塩化金(III)酸・四水和物 : HAuCl4 ・4H2O ( 和光純薬 ) を用い,所定の濃度に調製した。
○ 還元剤には、Trisodium Citrate Dihydrate:Na3C6H5O・2H2O(クエン酸ナトリウム二水和物、和光純薬)、又は、Sodium Tetrahydroborate : NaBH4 ( Wako ) を用いた。
○ TiO2 の原料は,Tetraethoxy-o-titanate ( MERCK ) [ 以下TEOTと略す ] を用いた。TEOT の構造を化3に示す。
【0031】
【化3】
JP0004665225B2_000004t.gif

【0032】
○ 光触媒反応を調べるために,水溶性色素であるRhodamine B (関東化学)[以下、RhBと略す]及びMethyl Orange ( 和光純薬) [ 以下MOと略す ] を用いた。RhBとMO の構造を化学4、化学5に示す。
【0033】
【化4】
JP0004665225B2_000005t.gif

【0034】
【化5】
JP0004665225B2_000006t.gif

【0035】
○ 光照射による分解実験を比較するために、市販されているアナタース型酸化チタンであるST-01を用いた。
【0036】
2 [測定装置]
複合微粒子を製造するために、以下の装置を利用した。
○バス型超音波照射装置 ( 100mW, TRANSSONIC T570, Elma )
○紫外可視分光光度計 : UV-vis ( V-570, Jasco )
○電気泳動光散乱光度計( ELS-8000, OTSUKA ELECTRONICS )
○透過型電子顕微鏡 : TEM ( JEM-2000EX/FXII, 日本電子 )
○遠心分離器 テーブルトップ高速冷却遠心機 (クボタ)
遠心機(H-108NA,コクサン)
○光照射装置,光源 超高圧水銀ランプ(500W, Optical Module,ウシオ電機 )
高圧水銀ランプ(100W,UM-102,ウシオ電機)
○紫外線遮蔽用フィルター
(V-Y47,50×50mm,厚さ3mm,東京芝浦株式会社)
【0037】
3 ルート1について
3-1 Au/TiO2 複合微粒子の調製手順
図2に示されるように、このルートで提案される調製方法は、Au微粒子の原料である塩化金(III)酸水溶液を逆ミセル中に可溶化するステップと、この可溶化された逆ミセルを還元して金コロイドを形成(Au微粒子含有逆ミセル溶液を生成)するステップと、この非水溶液に有機チタン錯体を溶解させて、逆ミセル界面で加水分解と縮合反応させることでTiO2 を形成し、金コロイドをTiO2 で包摂したAu/TiO2 複合微粒子を生成するステップとを有している。
【0038】
3-2 試薬の調製
3-2-1 塩化金(III)酸水溶液の調製
Au 微粒子の原料である塩化金 (III) 酸・四水和物を正確に秤量し,Millipore超純水装置で精製して得た純水に溶解した。濃度 20mmol/dm3 ~ 40mmol/dm3 とした。
3-2-2 逆ミセル溶液の調製
界面活性剤 C12(EO)5 を Cyclohexane に溶解させ,0.1 mol/dm3 のC12(EO)5/ Cyclohexane 溶液を調製した。この際,均一溶解を早めるためにバス型超音波照射装置 ( 100mW, TRANSSONIC T570, Elma ) を用いて,超音波を照射した。本研究では,界面活性剤濃度は cmc 以上の 0.1 mol/ dm3 で一定とした。次に,このC12(EO)5/cyclohexane 溶液に 3-2-1で調製した塩化金(III)酸水溶液を可溶化した。このとき,界面活性剤に対する水のモル比 (Rw = H2O/ C12(EO)5 ) をRw = 5 で一定とし,可溶化時間を2時間とした。尚、Rwは、5~20とすることが好ましい。Rw = 20よりも大きくすると、逆ミセルが保てなくなるからである。
3-2-3 逆ミセル法によるAu微粒子の調製
3-2-2で調製された、逆ミセル溶液へ可溶化されたAu3+ に対して、還元剤NaBH4をAu3+とNaBH4のモル比を1/5となるように溶液中に直接加えた後、20℃で2時間攪拌することにより、逆ミセル内でAu微粒子を調製した。
3-2-4 逆ミセル法によるAu/TiO2 複合微粒子の調製
3-2-3で調製された Au 微粒子を含有した逆ミセル溶液の外相である Cyclohexane に所定量の TEOT を撹拌しながら添加し,逆ミセル界面で TEOT を加水分解と縮合反応させることにより Au/TiO2複合微粒子を調製した。このとき, Au と加水分解してできる TiO2 の物質量比 ( Au : TiO2 ) を変化させて調製した。還元時間を2時間,加水分解反応時間を24時間,反応温度を20±1℃ とした。
3-2-5 調製された複合微粒子の精製
調製されたAu/TiO2 複合微粒子を遠心分離機:テーブルトップ高速冷却遠心器(クボタ、15000rpm×20min)もしくは遠心器(H-108NA,コクサン、3500rpm×30min)を用いて遠心分離した。上澄みを除去し、沈殿物へMethanolを加えてさらに遠心分離を行なう洗浄工程を5~6度繰り返した。洗浄した複合微粒子を減圧下100℃×5時間乾燥し、紫色の粉末を得た。
【0039】
3-3 Au微粒子の調製条件の検討
以上の逆ミセル法におけるAu微粒子の調製は,界面活性剤濃度を0.1 mol/dm3 一定,可溶化量をRw = 5,可溶化時間と還元時間をそれぞれ2時間とし,反応温度20±1 ℃で行ったが、可溶化させる塩化金(III) 酸水溶液の濃度を20mmol/dm3 ~ 40mmol/dm3とした理由は,濃度を増加させて60mmol/dm3以上にすると,大きなAu微粒子が形成されて沈降してしまうためである。さらに,逆ミセルに可溶化したAu3+ に対する還元剤NaBH4の物質量比 ( Au3+ : NaBH4 ) を1 : 5 とした理由は,Au3+ : NaBH4 = 1 : 5以下の範囲ではAu3+ が還元しきれず残存 ( 320 nm ) してしまうが,これ以上NaBH4を加えると生成したAu の特性吸収波長 ( 530 nm ) がブロードなピークになり,その上Au粒子が沈降してしまうためである。これに対して、Au3+: NaBH4 = 1 : 5の場合は、Au の特性吸収波長がはっきりと確認することができ,しかも安定したサスペンションとなるためである。
【0040】
3-4 AuとTiO2 の物質量比および調製粒子の分散状態との関係
次にAuとTiO2 との物質量比の関係について検討を行なった。
3-3で決定した条件でAu微粒子を逆ミセル中で調製した後に、Au微粒子を含む逆ミセル溶液にTEOT を添加し,逆ミセル中で加水分解と縮合反応させてできる TiO2 との物質量比 ( Au : TiO2 ) を変化させてAu/TiO2複合微粒子を調製した場合の複合微粒子の分散状態を図3に示す。全ての系においてAu微粒子と同じ深赤色を示した。Au3+濃度は全て,同一であるがTiO2に包含されると外観上,吸収による色が濃くなった。また,反応溶媒中でTEOTの添加量を増加させると,Au : TiO2 = 1 : 4 までは分散していたが,Au : TiO2= 1 : 6を超えたところで粒子が沈降した。この理由は,TEOTの添加量が増すことにより,加水分解して生成されるTiO2 微粒子数が多くなり,衝突,合一の結果,粒子が大きくなるためと考えられる。また,沈降物はAu微粒子と同じ深赤色を示し,Au : TiO2 = 1 : 10 以上での上澄相は透明になった。
【0041】
次に,これらの系のUV‐vis 測定の結果を図4に示す。Au 微粒子は530 nm 付近にプラズモンによる特性吸収波長をもつことが確認できた。530 nmでの吸収強度は1:4が最も大きくなった。また,TEOT を添加することにより低波長側(<350 nm)のTiO2 の吸収を確認することができた。
さらに、図3に示したように沈降が始まるAu : TiO2 = 1 : 6以上の系では,TEOT の添加量を増すにつれて溶液中でのAu微粒子が示す深赤色が薄くなるのと同時に,スペクトルでも530 nm 付近のAu の特性吸収波長とTiO2 の吸光度は低下した。以上の結果,TEOT の添加量を一定以上に増加させると,Au微粒子はTiO2微粒子に包含されて共に沈降することが分かった。
【0042】
3-5 TEMによる複合微粒子の観察
上述した逆ミセル法で調製したAu/TiO2 複合微粒子の形や大きさを調べるためにTEM 観察を行った。図5は、Au 微粒子と分散したAu : TiO2 = 1 : 1~ 1 : 20 のTEM 写真である。まず,Au微粒子はDLS 測定では約30 nmであったが,TEM 観察では粒子径約10 nmと確認できた。20 nmほどの粒子も観察できたが,これらはサンプル作製時に水分の蒸発と共に粒子が凝集し,一つの粒子のように写ったのではないかと考えられる。
次に,TEOTの添加量を増加していくと,DLS 測定では表1に示すように粒子径が大きくなった。この差異はDLS測定が光散乱面に基づいて測定しているために生じると考えられる。TEM 観察ではAu/TiO2複合微粒子は数nmのTiO2 微粒子がAu微粒子含む構造となり,Au:TiO2=1:4までは安定に分散した。Au:TiO2=1:6以上では沈降がおこるが,TEMでの粒子径は約100~200 nmとなった。また,上澄相が透明になったAu : TiO2 = 1 : 10 , 1 : 20 では上澄相中にAu微粒子の存在は確認できずTiO2微粒子のみ確認することができた。このことは、3-4で述べた、酸化チタン量の増加に伴ってAu微粒子が沈殿し、上澄みの金微粒子濃度が減少することを裏付けるものである。
【0043】
【表1】
JP0004665225B2_000007t.gif

【0044】
3-6 Au/TiO2複合微粒子の表面分析
調製したAu/TiO2複合微粒子の電子状態を調べるために,XPS測定を行った。測定に用いたサンプルは,Au : TiO2 = 1 : 10 で調製し,沈降した複合微粒子をcyclohexane で界面活性剤を洗浄,除去し乾燥させたものを用いた。図6はAu/TiO2 複合微粒子のXPS測定の結果を示す。Auの存在が確認できた。Au 4f7/2の電子状態は複合微粒子では86.6eVと83.2eVに観測された。文献より金コロイドまたは金インゴットでは87.3eVと83.8eVになり,コロイド状態でもインゴットでも変化はなかった。しかし,複合系にすると金の電子状態が変化することが認められた。この結果,図4のUV-visスペクトルでAu : TiO2 = 1 : 4で吸収強度が増加する現象にも関係していると考えられる。また,Tiは2価のTiOと4価のTiO2が存在した。この知見からも沈降した粒子にAuが含まれていることが確認できた。また,逆ミセル法で調製したTiO2微粒子についても測定を行い,その結果を図7に示した。Tiの電子状態は複合微粒子のときと変化はなかった。
【0045】
3-7 Au/TiO2複合微粒子の光触媒能の検討
逆ミセル法で調製したAu/TiO2複合微粒子の光触媒能を調べるため,Au/ TiO2複合微粒子によるMOの光分解反応について検討した。測定に使用した試料は,Au:TiO2=1:10で調製した複合微粒子を遠心分離器を用いてcyclohexaneで界面活性剤を数度洗浄後,cyclohexaneを蒸発・乾燥してから0.01 mmol/dm3 MO水溶液中に加え分散させ,光照射装置 ( 超高圧水銀ランプ,500W ) を用いて一定時間光照射した。このとき,ガラスフィルターを用いて紫外線を遮断して可視光 ( 波長500 nm以上 ) を照射した場合と,遮断せずに紫外線を含めて照射した場合によるMOスペクトルの吸光度の経時変化をUV-vis測定した。その結果を図8に示す。ガラスフィルターを用いず紫外線を照射した場合はスペクトル測定で464 nmのMO特性吸収における強度に変化が現れたが,ガラスフィルターを用いて可視光を照射した場合には変化がほとんど現れずMOに顕著な分解を見ることができなかった。
【0046】
微粒子の表面に洗浄しきれずに付着していた界面活性剤が調製後の複合微粒子内に残存しているため,MOの光分解を妨げている可能性があると考えられる。そこで,この界面活性剤を完全に除去するため,電気炉を用いて200℃,3時間空気中で粒子を熱処理した。C12(EO)5 の界面活性剤の熱分解温度は200~350℃である。熱処理をしたAu/TiO2複合微粒子を0.01 mmol/dm3のMO水溶液に分散させて,可視光を照射し,触媒活性能を調べた。図9はその結果を示す。図9に示すように紫外線を遮断して可視光を照射したとき464 nmにおける吸光度に変化が見られMOの光分解を確認することができた。同様に熱処理をしたAu/TiO2複合微粒子をMO水溶液に分散させ,紫外線照射による結果も図9に示した。図8の結果よりも分解速度が増大したことが認められた。すなわち,微粒子内に残存するC12(EO)5 が光分解速度に大きく影響していることがわかった。次に,この吸光度の変化がAu微粒子のプラズモンに関係があるかどうかを検討した。逆ミセル法で調製したAuを内包していないTiO2微粒子を,電気炉を用いて同様に熱処理した。そして,紫外線を遮断して可視光を照射したときのMOの分解能を調べた。図10はその結果を示す。
【0047】
逆ミセル法で調製したTiO2微粒子は,可視光ではMOを分解しないことがわかった。その結果を図10に比較のために示した。また,逆ミセル法で調製したAu微粒子についてもMOの分解実験を同様に行った。しかし,Au微粒子単独では全く分解が起こらなかった。これらの結果から,Au/TiO2複合微粒子はAuのプラズモンからの電子がTiO2部位を活性化することによって,可視光領域でも光触媒能を示すことを確認することができた。
【0048】
3-8 Au / TiO2複合微粒子のバンドギャップ測定
TiO2の光触媒機能はバンドギャップエネルギーが通常3.2~3.3eVと言われている。そこで,逆ミセル法で調製したAu/TiO2複合微粒子とTiO2微粒子のバンドギャップエネルギーを測定した。
測定試料は,調製して得たAu/TiO2複合微粒子の分散液または沈殿した粒子を石英ガラス上に滴下,塗布し,乾燥して用いた。バンドギャップエネルギーは照射波長λとhνの関係式 hv=1240/λ (eV)より,吸収波長をエネルギーに変換させ,吸収強度との関係から求めた。
逆ミセル法で調製したAu/TiO2複合微粒子のバンドギャップ測定の結果を表2に示す。Au : TiO2の物質量比を変化させても,バンドギャップエネルギーの値はほとんど変化しなかった。次に,逆ミセル法で調製したTiO2微粒子についてもバンドギャップ測定を行った結果,3.56eVであった。逆ミセル法で調製したAu/TiO2複合微粒子とTiO2微粒子では,バンドギャップエネルギーに大きな差がないことがわかった。
【0049】
【表2】
JP0004665225B2_000008t.gif

【0050】
以上の結果から,Au/TiO2複合微粒子が可視光領域で光触媒能を示すのは,TiO2部位のバンドギャップエネルギー変化によるものではないことを明らかにすることができた。
【0051】
3-9 まとめ
以上の検討により、以下のような結論が得られた。
1) 逆ミセル法によりAu微粒子が内包されたAu/酸化チタン複合微粒子を調製することができた。
2) XPS測定から、複合微粒子中のAuの電子状態は、Auコロイドやインゴットの状態における電子状態と異なることがわかった。
3) 複合微粒子は焼かなくても紫外線なら光触媒活性を持つことがわかった。
4) Au/酸化チタン複合微粒子は、Auのプラズモンからの電子がTiO2 部位を活性化することによって、可視光領域でも光触媒能を示すことが確認された。
5) 複合微粒子中の酸化チタンのバンドギャップエネルギー値は酸化チタン単独微粒子の値とほぼ同じであった。
【0052】
4 ルート2について
4-1 Au/TiO2 複合微粒子の調製手順
図11に示されるように、このルートで提案される調製方法は、予め調製されたAu微粒子分散溶液を逆ミセル中に可溶化させるステップと、続いてAu微粒子含有逆ミセル溶液へTEOTを滴下して逆ミセル界面で加水分解と縮合反応させるステップとにより、金微粒子を酸化チタンで包摂した複合微粒子を調製するものである。
【0053】
4-2 試薬の調製
4-2-1 Au微粒子分散液の調製
Au微粒子分散液を、3-1で調製された40mmol/dm3 塩化金(III)酸水溶液を用いて純水で希釈した後に、オイルバス中で加熱した。溶液が沸騰を開始したところで、還元剤として5.0wt% クエン酸ナトリウム水溶液をAu3+とクエン酸ナトリウムのモル比が1/2.1となるように加え、30分間加熱還流を行ない、Au微粒子分散液を調製した。
4-2-2 逆ミセル溶液の調製
界面活性剤 C12(EO)5を Cyclohexane に溶解させ,0.1 mol/dm3 のC12(EO)5/ Cyclohexane 溶液を調製した。この際,均一溶解を早めるためにバス型超音波照射装置 ( 100mW, TRANSSONIC T570, Elma ) を用いて,超音波を照射した。本研究では,界面活性剤濃度は cmc 以上の 0.1 mol/ dm3 で一定とした。次に,このC12(EO)5/cyclohexane 溶液に4-2-1で調製された金微粒子水溶液を可溶化した。このとき,界面活性剤に対する水のモル比 ( H2O/ C12(EO)5 ) をRwで表しRw = 5~20とし,可溶化時間を2時間とした。
4-2-3 逆ミセル法によるAu/TiO2 複合微粒子の調製
4-2-2で調製された Au 微粒子を含有した逆ミセル溶液の外相である Cyclohexane に所定量の TEOT を撹拌しながら添加し,逆ミセル界面で TEOT を加水分解と縮合反応させることにより Au/TiO2 複合微粒子を調製した。このとき, Au と加水分解してできる TiO2 の物質量比 ( Au : TiO2 ) を変化させて調製した。還元時間を2時間,加水分解反応時間を24時間,反応温度を20±1℃ とした。
4-2-4 調製された複合微粒子の精製
調製されたAu/TiO2 複合微粒子を遠心分離機:テーブルトップ高速冷却遠心器(クボタ、15000rpm×20min)もしくは遠心器(H-108NA,コクサン、3500rpm×30min)を用いて遠心分離した。上澄みを除去し、沈殿物へMethanolを加えてさらに遠心分離を行なう洗浄工程を5~6度繰り返した。洗浄した複合微粒子を減圧下100℃×5時間乾燥し、紫色の粉末を得た。
尚、上述において、Au微粒子分散溶液は0.25wt% のものを用い、添加するTEOTとAu微粒子のモル比(Au/TEOT)を1/1,1/2,1/4,1/6,1/8,1/10,1/20,1/30,1/50,1/100と変化させて、Au/酸化チタン複合微粒子を調製した結果、1/10までは調製後の溶液がAu微粒子のプラズモンに起因する紫色の均一な分散液であったのに対し、1/20以上の比で分散系が非常に不安定になり、紫色の沈殿が生じた。上澄み溶液は透明であった。
Au/TEOT=1/10のものを試料として用い、遠心分離とエタノール洗浄を繰り返し、100℃5時間の乾燥により精製した。
【0054】
4-3 ルート2で得られた複合微粒子の性状
4-3-1 紫外可視吸収スペクトル
複合微粒子調製前後の紫外可視スペクトルを測定した結果を図12に示す。
Au微粒子のみ、即ち複合化前のサンプルでは、500~600nmにわずかなピークが見られる。これは、Au微粒子に特徴的なプラズモン吸収に起因するものである。これに対して、複合微粒子では、Au微粒子のプラズモン吸入が保たれたまま、350nm以下の波長域で急峻な吸収が現れた。この吸収は、酸化チタン成分に由来するものであり、Au微粒子と酸化チタンとが何らかの形で複合していると考えられる。
【0055】
4-3-2 ラマン散乱スペクトル
一般に、ルチル型酸化チタンとアナターゼ型酸化チタンのラマン散乱スペクトルは、600cm-1 付近にそれぞれの結晶型に特有のピークを有する。従って、ラマン散乱を用いて酸化チタンの結晶型を判別することができるので、複合微粒子のラマン散乱スペクトルを測定することで、酸化チタン層の結晶型の同定を試みた。
得られたスペクトルをルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン、及び逆ミセル法で調製された酸化チタンと比較した。比較結果を図13に示す。複合微粒子のそれは、ルチル型酸化チタンのピークに近いものの完全には一致せず、また逆ミセル法で調製した酸化チタンのスペクトルとも一致しなかった。これは、極微少な領域(結晶径よりも小さいスケール)においても、純粋な酸化チタンの結晶格子中の原子間の結合モード(ラマン散乱の場合は分極率の違い)と今回得られた複合微粒子のそれとは微妙に異なっていることを意味している。即ち、Au微粒子と酸化チタン微粒子のマクロスケールの混合物ではなく、少なくともナノスケールで両者が混合しているものと示唆される。
【0056】
4-3-3 TG-DTA測定
調製された複合微粒子の熱分析結果を図14に示す。
複合微粒子の熱分析測定により、昇温開始直後から500℃近辺にかけて重量減少が観測された。このうち、一般に200℃までの重量減少は、脱水と粒子中に残存していたアルコキシ基の縮合によるものと考えられる。200℃~350℃にかけての重量減少は、その温度領域がC12(EO)5 の分解温度と一致することから、複合微粒子中に残存するC12(EO)5によるものと考えられる。
【0057】
4-3-4 TEM観察
調製された複合微粒子の形状をTEMを用いて観察した。複合微粒子調製直後の逆ミセル溶液を、TEMの銅メッシュ上にサンプリングしたものを用いた。図15に示されるように、複合微粒子はほぼ球形であった。画像を基に100個の粒子の粒子径を測り、その平均を求めたところ、平均粒子径は約7.5nmであった。原料である0.25wt%Au微粒子分散溶液の粒径分布と比較した結果、全体的に約0.6nm粒子径が増大していた。粒子径の増加分が複合化された酸化チタンによるものと仮定すると、AuとTEOTのモル比が1/10の複合微粒子においては、Au微粒子は約0.3nmの酸化チタン層で覆われていると考えられる。
【0058】
4-3-5 複合微粒子の光触媒活性
高圧水銀灯の290nm以下の波長を、Pyrexフィルターでカットした光源を用いた。0min,15min,30min,45min,60min,90min,120min,150min後に反応溶液を0.5mlサンプリングした。試料を0.2μmPTFEメンブランフィルターでろ過し、HPLCで分析して各時間におけるRhBの濃度を測定した。得られた結果を反応開始時(0min)の値で除し残存率としてプロットした。UV照射における光触媒反応の結果を図16に示す。ここで、290nm以下の波長をカットしたのは、RhBは290nm以下の波長の光を強く吸収し、光分解反応を受けるためである。
上述した結果から分かるように、紫外光を含んだ光照射の実験では、ST-01の活性が複合微粒子よりも高かった。これは、酸化チタンの吸収波長である290~300nmが主に光触媒に作用したためであり、その作用はより純粋な酸化チタンであるST-01の方が高いことによるものである。複合微粒子の値はブランクよりもずっと小さいことから、紫外線を含んだ光の照射による光触媒の作用が確認できるが、その作用がST-01と同様の酸化チタンの光キャリア生成(290~300 nm)によるものなのか、Au微粒子のプラズモン吸収(500~600nm)によるものなのかは、この実験では判断できない。そこで、酸化チタンのバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの波長、即ち、450nm以上の波長の光を照射して、光触媒活性を評価した。可視光照射における光触媒反応の結果を図17に示す。UV照射と可視光照射下における120min後の基質残存率を表3にまとめた。
【0059】
【表3】
JP0004665225B2_000009t.gif

【0060】
RhBのみの値が、RhB自身が光照射によって分解されたことによるバックグランド値である。ST-01の値がバックグランド値とほぼ一致していることから、ST-01の可視光による光触媒活性は非常に小さい。これに対して、今回得られた複合微粒子のその値は、バックグランド及びST-01の両方よりもずっと小さい値であることから、可視光照射下において光触媒活性を示していることが確認された。
【0061】
4-4 まとめ
以上の検討により、予め調製されたAu微粒子分散溶液を逆ミセル中へ可溶化し、TEOTを加えて逆ミセル界面で加水分解と縮合反応することにより、Au/酸化チタン複合微粒子が調製され、AuとTEOTのモル比が1/10で得られた複合微粒子において、以下のような結論が得られた。
1) TEM像により平均粒子径7.5nmのほぼ球形の粒子であり、Au微粒子表面が0.3nmの酸化チタン層で覆われていた。
2) 得られた複合微粒子はナノレベルでAu微粒子と複合しているため、ラマン散乱スペクトルから、酸化チタン成分はルチル型ともアナターゼ型とも一致しない特徴的なスペクトルを有した。
3) 450nm以下をカットした可視光下において光触媒活性を示した。
したがって、可視光応答酸化チタン光触媒として機能するAu/酸化チタン複合微粒子は、ルート2においても生成可能であり、このルート2の製法は、Au微粒子の調製条件が温和且つ簡便であることから、前述したルート1の製法と比較して、より調製しやすい方法である。
【0062】
以上述べたように、上述した2つのルートを用いてAu微粒子が酸化チタン層で包摂された複合微粒子を調製することで、Au微粒子のプラズモン電子を酸化チタンの活性化に用いた可視光で作用する光触媒を創製することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
可視光活性光触媒機能を持つ微粒子材料や、紫外線活性化光触媒に代わる多方面における有機物を光分解させる材料等に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、Au/TiO2 複合微粒子の概念図である。
【図2】図2は、Au/TiO2 複合微粒子の調製手順(ルート1)を示す図である。
【図3】図3は、Au : TiO2 を変化させてAu/TiO2複合微粒子を調製した場合の複合微粒子の分散状態を図である。
【図4】図4は、UV‐vis 測定の結果を示す図である。
【図5】図5は、Au 微粒子と安定に分散したAu : TiO2 = 1 : 1 - 1 : 20 のTEM 写真である。
【図6】図6は、Au/TiO2 複合微粒子のXPS測定の結果を示す図である。
【図7】図7は、逆ミセル法で調製したTiO2微粒子のXPS測定の結果を示す図である。
【図8】図8は、焼成前のAu/ TiO2複合微粒子によるMOスペクトルの吸光度の経時変化をUV-vis測定した結果を示す図である。
【図9】図9は、焼成後のAu/ TiO2複合微粒子によるMOスペクトルの吸光度の経時変化をUV-vis測定した結果を示す図である。
【図10】図10は、逆ミセル法で調製したAuを内包していないTiO2微粒子を,電気炉を用いて熱処理した後に紫外線を遮断して可視光を照射したときのMOの分解能を示す図である。
【図11】図11は、Au/TiO2 複合微粒子の他の調製手順(ルート2)を示す図である。
【図12】図12は、複合微粒子調製前後の紫外可視スペクトルを測定した結果を示す図である。
【図13】図13は、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン、及び逆ミセル法で調製された酸化チタンのラマン散乱スペクトルを示す図である。
【図14】図14は、調製された複合微粒子の熱分析結果を示す図である。
【図15】図15は、調製された複合微粒子の形状のTEM写真を示す図である。
【図16】図16は、UV照射における複合微粒子の光触媒反応の結果を示す図である。
【図17】図17は、可視光照射における複合微粒子の光触媒反応の結果を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図9】
6
【図10】
7
【図11】
8
【図12】
9
【図13】
10
【図14】
11
【図16】
12
【図17】
13
【図3】
14
【図5】
15
【図15】
16