TOP > 国内特許検索 > 高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の製造方法 > 明細書

明細書 :高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4413549号 (P4413549)
公開番号 特開2004-084071 (P2004-084071A)
登録日 平成21年11月27日(2009.11.27)
発行日 平成22年2月10日(2010.2.10)
公開日 平成16年3月18日(2004.3.18)
発明の名称または考案の名称 高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の製造方法
国際特許分類 B22F   3/20        (2006.01)
C22C  33/02        (2006.01)
C22C  38/00        (2006.01)
C22C  38/28        (2006.01)
FI B22F 3/20 B
C22C 33/02 B
C22C 33/02 103B
C22C 33/02 103G
C22C 38/00 302L
C22C 38/28
請求項の数または発明の数 4
全頁数 19
出願番号 特願2003-276554 (P2003-276554)
出願日 平成15年7月18日(2003.7.18)
優先権出願番号 2002231780
優先日 平成14年8月8日(2002.8.8)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成15年7月18日(2003.7.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】独立行政法人 日本原子力研究開発機構
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
発明者または考案者 【氏名】大塚 智史
【氏名】鵜飼 重治
【氏名】皆藤 威二
【氏名】成田 健
【氏名】藤原 優行
個別代理人の代理人 【識別番号】100096862、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 千春
【識別番号】100096862、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 千春
審査官 【審査官】佐藤 陽一
参考文献・文献 特開平08-225891(JP,A)
特開2000-282101(JP,A)
調査した分野 C22C 38/00-38/60
B22F 3/20
C22C 33/02
特許請求の範囲 【請求項1】
元素粉末または合金粉末とY23粉末をAr雰囲気中で機械的合金化処理することにより、質量%で、Cが0.05~0.25%、Crが8.0~12.0%、Wが0.1~4.0%、Tiが0.1~1.0%、Y23が0.1~0.5%、残部がFeおよび不可避不純物からなるY23粒子を分散させたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造する方法において、Tiの含有量を前記0.1~1.0質量%の範囲内で調整することにより、鋼中の過剰酸素量ExO(鋼中の酸素量からY23中の酸素量を差し引いた値)を
0.22×Ti(質量%)<ExO(質量%)<0.46×Ti(質量%)
の範囲に調整して分散酸化物粒子を微細高密度化することを特徴とする高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の製造方法。
【請求項2】
元素粉末または合金粉末とY23粉末をAr雰囲気中で機械的合金化処理することにより、質量%で、Cが0.05~0.25%、Crが8.0~12.0%、Wが0.1~4.0%、Tiが0.1~1.0%、Y23が0.1~0.5%、残部がFeおよび不可避不純物からなるY23粒子を分散させたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造する方法において、前記Ar雰囲気として純度99.9999質量%以上のArガスを用いることにより、鋼中の過剰酸素量ExO(鋼中の酸素量からY23中の酸素量を差し引いた値)を
0.22×Ti(質量%)<ExO(質量%)<0.46×Ti(質量%)
の範囲に調整することを特徴とする高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の製造方法。
【請求項3】
元素粉末または合金粉末とY23粉末をAr雰囲気中で機械的合金化処理することにより、質量%で、Cが0.05~0.25%、Crが8.0~12.0%、Wが0.1~4.0%、Tiが0.1~1.0%、Y23が0.1~0.5%、残部がFeおよび不可避不純物からなるY23粒子を分散させたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造する方法において、機械的合金化処理に使用されるアトライター内部の撹拌装置の回転速度を低下させ、あるいは撹拌装置のピンの長さを短くすることで撹拌エネルギーを小さくして撹拌時の酸素巻き込みを抑制することにより、鋼中の過剰酸素量ExO(鋼中の酸素量からY23中の酸素量を差し引いた値)を
0.22×Ti(質量%)<ExO(質量%)<0.46×Ti(質量%)
の範囲に調整することを特徴とする高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の製造方法。
【請求項4】
元素粉末または合金粉末とY23粉末をAr雰囲気中で機械的合金化処理することにより、質量%で、Cが0.05~0.25%、Crが8.0~12.0%、Wが0.1~4.0%、Tiが0.1~1.0%、Y23が0.1~0.5%、残部がFeおよび不可避不純物からなるY23粒子を分散させたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造する方法において、前記Y23粉末に代えて金属Y粉末またはFe2 Y粉末を使用することにより、鋼中の過剰酸素量ExO(鋼中の酸素量からY23中の酸素量を差し引いた値)を
0.22×Ti(質量%)<ExO(質量%)<0.46×Ti(質量%)
の範囲に調整することを特徴とする高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型(ODS)鋼を製造する方法に関するものである。
【0002】
本発明の方法により製造されたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼は、優れた高温強度やクリープ強度が求められる高速増殖炉燃料被覆管用材料、核融合炉第一壁材料、火力発電用材料等に好ましく利用できる。
【背景技術】
【0003】
優れた高温強度と耐中性子照射特性が要求される原子炉、特に高速炉の構成部材には、従来よりオーステナイト系ステンレス鋼が用いられてきたが、耐スエリング特性などの耐照射特性に限界がある。一方、マルテンサイト系ステンレス鋼は耐照射特性に優れるものの、高温強度が低い欠点がある。
【0004】
そこで、耐照射特性と高温強度特性の両方を具備した材料として、マルテンサイト系酸化物分散強化型鋼が開発され、この鋼中にTiを添加して酸化物分散粒子を微細分散化させることによって、高温強度を向上させる技術が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、質量%で、C:0.05~0.25%、Si:0.1%以下、Mn:0.1%以下、Cr:8~12%(但し12%は含まず)、Mo+W:0.1~4.0%、O(Y2 3 およびTiO2 分は除く):0.01%以下、残部がFeおよび不可避不純物からなり、かつ平均粒径1000Å以下のY2 3 とTiO2 による複合酸化物粒子がY2 3 +TiO2 =0.1~1.0%、分子比でTiO2 /Y2 3 と=0.5~2.0の範囲で基地に均一に分散されている焼戻しマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼が記載されている。
【0006】

【特許文献1】特公平5-18897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、Y2 3 とTiO2 の合計量とそれらの比率、さらにはMoとWの合計量を特平5-1897号公報の教示のように調整してマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造しても、酸化物粒子が均一に微細分散化されない場合もあり、この場合には目的とする高温強度の向上効果が達成できないことになる。

【0008】
そのため本発明は、酸化物粒子が微細化され均一かつ高密度に分散されている組織が確実に得られ、その結果、優れた高温強度が発現するマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、マルテンサイト系酸化物分散強化型鋼中の過剰酸素量ExO(鋼中の酸素量からY2 3 中の酸素量を差し引いた値)が高温強度と密接な関係を有することに着目し、鋼中の過剰酸素量を一定の範囲に調整することによって、高温強度を確実に改善できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0010】
すなわち本発明の高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の製造方法は、元素粉末または合金粉末とY23粉末をAr雰囲気中で機械的合金化処理することにより、質量%で、Cが0.05~0.25%、Crが8.0~12.0%、Wが0.1~4.0%、Tiが0.1~1.0%、Y23が0.1~0.5%、残部がFeおよび不可避不純物からなるY23粒子を分散させたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造する方法において、Tiの含有量を前記0.1~1.0質量%の範囲内で調整することにより、鋼中の過剰酸素量ExO(鋼中の酸素量からY23中の酸素量を差し引いた値)を
0.22×Ti(質量%)<ExO(質量%)<0.46×Ti(質量%)
の範囲に調整して分散酸化物粒子を微細高密度化することを特徴とするものである。(なお、以下の本明細書中の記載において「%」は、特に断りのない限り「質量%」を表すものとする。)
【0011】
かような本発明によれば、鋼中の過剰酸素量ExOが所定範囲となるように鋼中のTi量を0.1~1.0%の範囲内で調整することにより、鋼中に分散したY2 3 粒子を微細高密度化することができ、その結果、鋼の高温短時間強度および高温長時間強度を向上させることが可能となる。
【0012】
上記したごとき本発明の製造方法における機械的合金化処理の過程において、鋼中に混入する酸素量を抑制することによって、得られた鋼中の過剰酸素量を所定の範囲になるようにすることもできる。
【0013】
すなわち本発明は、元素粉末または合金粉末とY23粉末をAr雰囲気中で機械的合金化処理することにより、質量%で、Cが0.05~0.25%、Crが8.0~12.0%、Wが0.1~4.0%、Tiが0.1~1.0%、Y23が0.1~0.5%、残部がFeおよび不可避不純物からなるY23粒子を分散させたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造する方法において、前記Ar雰囲気として純度99.9999質量%以上のArガスを用いることにより、鋼中の過剰酸素量ExO(鋼中の酸素量からY23中の酸素量を差し引いた値)を
0.22×Ti(質量%)<ExO(質量%)<0.46×Ti(質量%)
の範囲に調整することを特徴とするものである。
【0014】
さらに本発明は、元素粉末または合金粉末とY23粉末をAr雰囲気中で機械的合金化処理することにより、質量%で、Cが0.05~0.25%、Crが8.0~12.0%、Wが0.1~4.0%、Tiが0.1~1.0%、Y23が0.1~0.5%、残部がFeおよび不可避不純物からなるY23粒子を分散させたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造する方法において、機械的合金化処理に使用されるアトライター内部の撹拌装置の回転速度を低下させ、あるいは撹拌装置のピンの長さを短くすることで撹拌エネルギーを小さくして撹拌時の酸素巻き込みを抑制することにより、鋼中の過剰酸素量ExO(鋼中の酸素量からY23中の酸素量を差し引いた値)を
0.22×Ti(質量%)<ExO(質量%)<0.46×Ti(質量%)
の範囲に調整することを特徴とするものである。
【0015】
さらにまた本発明は、元素粉末または合金粉末とY23粉末をAr雰囲気中で機械的合金化処理することにより、質量%で、Cが0.05~0.25%、Crが8.0~12.0%、Wが0.1~4.0%、Tiが0.1~1.0%、Y23が0.1~0.5%、残部がFeおよび不可避不純物からなるY23粒子を分散させたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造する方法において、前記Y23粉末に代えて金属Y粉末またはFe2 Y粉末を使用することにより、鋼中の過剰酸素量ExO(鋼中の酸素量からY23中の酸素量を差し引いた値)を
0.22×Ti(質量%)<ExO(質量%)<0.46×Ti(質量%)
の範囲に調整することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鋼中の過剰酸素量に着目して、この過剰酸素量を所定の範囲となるようにTi含有量を調整し、あるいは製造過程での酸素の混入を低減することによって、酸化物分散粒子が微細高密度化された組織を確実に得ることができ、その結果、優れた高温強度を有するマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明のマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の化学成分およびその限定理由について説明する。
【0018】
Crは、耐食性の確保に重要な元素であり、8.0%未満となると耐食性の悪化が著しくなる。また12.0%を超えると、靱性および延性の低下が懸念される。この理由から、Cr含有量は8.0~12.0%とする。
【0019】
Cは、Cr含有量が8.0~12.0%の場合に、組織を安定なマルテンサイト組織とするためには0.05%以上含有させる必要がある。このマルテンサイト組織は1000~1150℃の焼ならし+700~800℃の焼戻し熱処理により得られる。C含有量が多くなるほど炭化物(M236 、M6 C等)の析出量が多くなり高温強度が高くなるが、0.25%より多量に含有すると加工性が悪くなる。この理由から、C含有量は0.05~0.25%とする。
【0020】
Wは、合金中に固溶し高温強度を向上させる重要な元素であり、0.1%以上添加する。W含有量を多くすれば、固溶強化作用、炭化物(M236 、M6 C等)析出強化作用、金属間化合物析出強化作用により、クリープ破断強度が向上するが、4.0%を超えるとδフェライト量が多くなり、かえって強度も低下する。この理由から、W含有量は0.1~4.0%とする。
【0021】
Tiは、Y2 3 の分散強化に重要な役割を果たし、Y2 3 と反応してY2 Ti2 7 またはY2 TiO5 という複合酸化物を形成して、酸化物粒子を微細化させる働きがある。この作用はTi含有量が1.0%を超えると飽和する傾向があり、0.1%未満では微細化作用が小さい。この理由から、Ti含有量は0.1~1.0%とする。
【0022】
2 3 は、分散強化により高温強度を向上させる重要な添加物である。この含有量が0.1%未満の場合には、分散強化の効果が小さく強度が低い。一方、0.5%を超えて含有すると、硬化が著しく加工性に問題が生じる。この理由から、Y2 3 の含有量は0.1~0.5%とする。
【0023】
本発明のマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の一般的製造方法としては、上記した各成分を元素粉末または合金粉末およびY2 3 粉末として目標組成となるように混合し、粉末混合物を高エネルギーアトライターに装入してAr雰囲気中で撹拌する機械的合金化処理(メカニカルアロイング)を行った後、得られた合金化粉末を軟鉄製カプセルに充填して脱気、密封し、1150℃に加熱して熱間押出し行うことにより合金化粉末を固化させる方法が採用できる。
【0024】
この製造過程において、機械的合金化処理時のAr雰囲気におけるArガス純度は通常99.99%のものを使用しているが、かような高純度Arガスを用いた場合でも鋼中への酸素の混入は僅かではあるが避けられない。本発明においては、Arガスとして99.9999%以上の超高純度のものを使用することによって、鋼中への酸素の混入を低減でき、その結果、得られた鋼中の過剰酸素量を所定の範囲になるように調整することができる。
【0025】
また、原料粉末の混合物を高エネルギーアトライターに装入して撹拌することにより機械的合金化処理を行うに際して、アトライター内での撹拌エネルギーを小さくして、撹拌時の酸素巻き込みを抑制することによっても、鋼中の過剰酸素量を低減させることができ、所定の範囲となるように調整することができる。撹拌エネルギーを小さくするための具体的な手段としては、アトライター内部に配設されている撹拌装置(アジテータ)の回転速度を低くすること、あるいは撹拌装置に取り付けられているピンの長さを短くすること等が考えられる。
【0026】
さらにまた、元素粉末または合金粉末およびY2 3 粉末を混合して目標組成に調合する際に、Y2 3 粉末を使用する代わりに金属Y粉末またはFe2 Yを原料粉末として使用することにより、機械的合金化時等の製造プロセスで混入する酸素、あるいは不安定酸化物(Fe2 3 等)を添加した場合に増加する鋼中の過剰酸素と、Y金属が反応して熱力学的に安定なY2 3 分散粒子が形成される。その結果、鋼中の過剰酸素量を所定の範囲に効果的に調整することができる。なお、この場合の鋼中の過剰酸素量は、添加金属YがすべてY2 3 となるものとして算出する。
【試験例】
【0027】
表1は、マルテンサイト系酸化物分散強化型鋼試作材の目標組成、成分の特徴、および製造条件をまとめて示している。
【0028】
【表1】
JP0004413549B2_000002t.gif
【0029】
各試作材とも、元素粉末あるいは合金粉末とY2 3 粉末を目標組成に調合し、高エネルギーアトライター中に装入後、Ar雰囲気中で撹拌して機械的合金化処理を行った。アトライターの回転数は約220rpm、撹拌時間は約48hrとした。得られた合金化粉末を軟鉄製カプセルに充填後、高温真空脱気して約1150~1200℃、7~8:1の押出比で熱間押出しを行い、熱間押出棒材を得た。
【0030】
表1中の各試作材ともに、Y2 3 粉末だけでなくTiを添加して、TiとYの複合酸化物形成により、酸化物分散粒子の微細高密度化を図っている。MM11、MM13、T14およびE5は、組成としては基本組成であり、T3はMM13、T14の基本組成に不安定酸化物(Fe2 3 )を添加して意図的に過剰酸素量を増加させた試料、T4はMM13、T14の基本組成に対してTi添加量を増加させた試料、T5は不安定酸化物(Fe2 3 )を添加して過剰酸素量を増加させるとともにTi添加量を増加させた試料である。
【0031】
また、表1の製造条件(機械的合金化処理条件)における“撹拌エネルギー”とは、機械的合金化処理に際して原料粉末を撹拌するためのアトライター内部に配設した撹拌装置のピンの長さの相違を表わし、“撹拌エネルギー:大”とは通常の長さのピンを使用し、“撹拌エネルギー:小”とは通常より短いピンを使用したことを示している。すなわち、撹拌装置の回転数を同じにしても、ピンが短い場合には通常の長さのピンよりも撹拌エネルギーが小さいため、撹拌時の酸素の巻き込み量が低減される。表1中のMM11のみは、ピンが短かく撹拌エネルギーの小さい撹拌装置を使用したが、その他はすべて通常の長さのピンを有する撹拌エネルギーの大きい撹拌装置を使用した。またAr雰囲気については、表1中のE5のみを純度99.9999%の超高純度Arガスを使用し、その他はすべて純度99.99%の高純度Arを使用した。
上記で得られた各試作材の成分分析結果を表2にまとめて示す。
【0032】
【表2】
JP0004413549B2_000003t.gif
【0033】
〈クリープ破断試験〉
上記で得られた熱間押出棒材のうちT14、T3、T4、T5、E5は、焼ならし(1050℃×1hr・空冷)+焼戻し(800℃×1hr・空冷)からなる最終熱処理を施して棒材として仕上げた。また、MM11とMM13は、管状に加工した後、焼ならし(1050℃×1hr・空冷)+焼戻し(800℃×1hr・空冷)からなる最終熱処理を施した。製管工程は、1回目冷間圧延+軟化熱処理→2回目冷間圧延+軟化熱処理→3回目冷間圧延+軟化熱処理→4回目冷間圧延+最終熱処理により行った。
かくして得られた棒状試験片(T14、T3、T4、T5、E5)および管状試験片(MM11、MM13)について、700℃クリープ破断試験を行った結果を図1のグラフに示す。ここで棒状試験片(T14、T3、T4、T5、E5)は、直径6mm×長さ30mmのゲージ部加工を施して試験に供した。このグラフから、MM11、T4、T5およびE5の各試作材のクリープ破断強度が他の試作材に比べて優れていることがわかる。なお、マルテンサイト系酸化物分散強化型鋼は等方的な組織を有しており強度に異方性がないことから、管状試験片と棒状試験片の比較が可能である。
なお図1のグラフ中の矢印は、試験時間経過時において未だ破断しておらず、破断時間が延び得るものであることを表している。
【0034】
〈引張強度試験〉
試作材MM13、MM11、T5について、試験温度700℃および800℃で引張強度試験を行った結果を図2のグラフに示す。MM11とMM13についてはクリープ破断試験に供したものと同様な管状の試験片を用いた。試作材を管材として用いる場合には周方向の強度が重要となるため、直径6.9mm×肉厚0.4mm(MM13)または直径8.5mm×肉厚0.5mm(MM11)の管状試験片の周方向にゲージ部を設け、周方向の引張強度試験(リング引張強度試験)を行った。ゲージ部の長さは2mm、幅は1.5mmとした。T5は丸棒材であるので、直径6mm×長さ30mmのゲージ部を設け、軸方向の引張強度試験を行った。マルテンサイト系酸化物分散強化型鋼は等方的な組織を有しており強度に異方性がないことから、MM13、MM11の引張強度試験結果とT5の引張強度試験結果を直接比較することができる。歪み速度はJIS Z2241に従って、0.1%/min~0.7%/minの間で設定した。
図2のグラフからわかるように、MM13の基本組成の試作材に比べて、MM11とT5の試作材が0.2%耐力および引張強度ともに優れている。
【0035】
〈顕微鏡観察〉
上記で得られた熱間押出棒材に最終熱処理として焼ならし(1050℃×1hr)熱処理を施した各試作材について、透過型電子顕微鏡観察を行った結果を図3(Ti添加量0.2%の試作材)と図4(Ti添加量0.5%の試作材)に示す。
図3においては、T14、MM13、T3に比べて、MM11の試作材がY2 3 粒子の微細高密度化が生じており、図4においては、T4、T5のいずれもY2 3 粒子の微細高密度化が生じている。
【0036】
〈Ti含有量と過剰酸素量〉
各試作材について、表2の成分分析結果におけるTi含有量と過剰酸素量(Ex.O)との関係を図5のグラフに示す。このグラフの斜線部分に含まれるMM11、T4、T5、E5の各試作材が、クリープ破断強度や引張強度に優れ、Y2 3 粒子の微細高密度化が生じているものである。すなわち、Ti含有量が0.1%以上では過剰酸素量(ExO)<0.46×Tiの関係を満たす試作材が、分散Y2 3 粒子が微細高密度化し、高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼をもたらすことがわかる。
なお、図5のグラフでは0.22×Ti(質量%)<ExO(質量%)という過剰酸素量ExOの下限値については検討していない。下限値については、後述する図8および図9を参照して説明する。
【0037】
〈Ti含有量の調整〉
基本組成のMM13試作材(Ti含有量0.21%;過剰酸素量0.137>0.46×Ti)と、Ti含有量を増加したT4試作材(Ti含有量0.46%;過剰酸素量0.107<0.46×Ti)とを比較すると、T4の方が分散Y2 3 粒子の微細高密度化が生じており、クリープ破断強度も高いものとなっている。
また、基本組成のMM13にFe2 3 を添加して意図的に過剰酸素量を増加させたT3試作材(Ti含有量0.21%;過剰酸素量0.147>0.46×Ti)は、基本組成のMM13試作材より分散Y2 3 粒子が粗大化しており、クリープ破断強度も低下している。しかし、過剰酸素量が増加したT3試作材に対してTiをさらに増加して添加することにより、T5試作材(Ti含有量0.46%;過剰酸素量0.167<0.46×Ti)に見られるように、過剰酸素量を0.46×Ti%未満とすることができ、T3に比べて分散Y2 3 粒子を微細高密度化でき、クリープ破断強度も向上させることができる。
このことから、鋼中のTi含有量を0.1~0.5%の範囲内で過剰酸素量<0.46×Tiとなるように調整したマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼は、分散Y2 3 粒子が微細高密度化され、高温強度に優れたものとなることがわかる。
【0038】
〈Arガスの純度〉
基本組成のMM13試作材(過剰酸素量0.137>0.46×Ti)と同じ組成のE5試作材(過剰酸素量0.084<0.46×Ti)でも、機械的合金化処理時のAr雰囲気に用いるArガスを高純度の99.99%から超高純度の99.9999%とすることにより、アトライター内での撹拌中に酸素の混入が低減でき、鋼中の過剰酸素量を0.46×Ti%未満に抑えることができる。
このことから、機械的合金化処理時のAr雰囲気を99.9999%以上の超高純度Arガスとすることにより、分散Y2 3 粒子が微細高密度化され、高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼が得られることがわかる。
【0039】
〈機械的合金化処理時の撹拌エネルギーの調整〉
基本組成のMM13試作材(過剰酸素量0.137>0.46×Ti)と、同じ組成のMM11試作材(過剰酸素量0.07<0.46×Ti)とを比較すると、機械的合金化処理時のアトライター内部撹拌装置のピンの長さを通常より短くして撹拌エネルギーを小さくして得られたMM11試作材が過剰酸素量を0.46×Ti%未満に抑えることができる。
また、MM11試作材は、MM13試作材に比べて分散Y2 3 粒子を微細高密度化でき、クリープ破断強度や引張強度を向上させることができる。
このことから、機械的合金化処理時の撹拌エネルギーを小さくして撹拌時の酸素巻き込み量を抑制することにより、分散Y2 3 粒子が微細高密度化され、高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼が得られることがわかる。
【0040】
〈Y2 3 粉末に代えて金属Y粉末の使用〉
表3は、試作材の目標組成と目標過剰酸素量をまとめて示している。なお、表3中のE5、T3については、表1中の試作材と同じである。
E5、E7はY2 3 粉末を添加した基本組成の標準材であり、目標過剰酸素量を0.08%としている。Y1、Y2、Y3はY2 3 粉末の代わりに金属Y粉末を添加したものである。すなわち、Y1は金属Y粉末を添加し、不安定酸化物(Fe2 3 )を添加せずに目標過剰酸素量を0%としている。Y2とY3は、金属Y粉末とともにFe2 3 粉末をそれぞれ0.15%および0.29%添加し、目標過剰酸素量をそれぞれ0.05%および0.09%としている。T3は、E5、E7の基本組成にFe2 3 粉末を添加して過剰酸素量を増加させている。
【0041】
【表3】
JP0004413549B2_000004t.gif
【0042】
試作材Y1、Y2、Y3、E7はいずれも前述したMM13と同様な製造方法および製造条件により熱間押出棒材とし、最終熱処理としては、炉冷熱処理(1050℃×1hr→600℃(30℃/hr))または焼ならし(1050℃×1hr・空冷)+焼戻し(780℃×1hr・空冷)熱処理を行った。
各試作材の成分分析を行った結果を表4にまとめて示す。
【0043】
【表4】
JP0004413549B2_000005t.gif
【0044】
図6は、各試作材の目標過剰酸素量と実測値との関係を示すグラフである。ここで目標過剰酸素量は、Fe2 3 粉末とY2 3 粉末から持ち込まれる酸素の他に、原料粉末から約0.04%、機械的合金化処理中に約0.04%、合計0.08%の酸素混入を考慮して設定したものである。なお、原料粉末(Fe、Cr、W、Ti)中の不純物酸素量と機械的合金化処理中の混入酸素量は、それぞれ原料粉末と機械的合金化処理後の化学成分を不活性溶融法により測定して求めた値である。
図6から、過剰酸素量の目標値と実測値は0.1%以下の低量でもほぼ一致しており、金属YとFe2 3 の複合添加によりY2 3 が形成され、0.1%以下の低い範囲で過剰酸素量を制御可能であることがわかる。
【0045】
図7は、各試作材の700℃高温クリープ試験結果を示し、(a)はクリープ破断試験結果を、(b)は1000時間破断応力の過剰酸素量依存性をそれぞれ示すグラフである。過剰酸素量が0.08%近傍の試作材E5とE7で高温クリープ強度はピークとなっており、0.08%の前後では強度は低下する傾向が見られる。このことから、高温強度の改善のためには、0.08%近傍の低いレベルでの過剰酸素量の調整が有効であること、かような低レベルの過剰酸素量の制御手段として、Y2 3 粉末に代えて金属Y粉末を添加することが有効であること、さらには、過剰酸素量の過度の低減は高温強度を低下させるため、鋼中の過剰酸素量は0.46×Ti%未満という上限値だけでなく下限値も設定する必要があることがわかる。
【0046】
図8は、各試作材の700℃高温クリープ試験結果のTiOx(ExO/Ti原子数比)依存性を示し、(a)は1000時間推定破断応力のTiOx依存性を、(b)は引張強さのTiOx依存性をそれぞれ示すグラフである。これらのグラフから、TiOxが0.65から1.4の範囲(斜線範囲)でクリープ強度および引張強度がピークとなることがわかる。
【0047】
図9は、各試作材のTi添加量と過剰酸素量ExOとの関係をプロットしたグラフであり、図8においてクリープ強度がピークとなる[0.65×Ti(原子%)<ExO(原子%)<1.4×Ti(原子%)]の範囲を斜線で示してある。上記の原子%で表した関係を質量%に換算すると[0.22×Ti(質量%)<ExO(質量%)<0.464×Ti(質量%)]となる。
前述したように、TiはY2 3 粉と複合酸化物を形成し、酸化物粒子を微細化させる働きがあるが、この作用はTi添加量が1.0%を超えると飽和する傾向があり、0.1%未満では微細化作用が小さい。このことから、Ti添加量が0.1%から1.0%の範囲で、過剰酸素量を[0.22×Ti(質量%)<ExO(質量%)<0.464×Ti(質量%)]の範囲内、すなわち図9のグラフの斜線範囲内に制御することによって、高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】各試作材の700℃クリープ破断試験結果を示すグラフ。
【図2】試作材MM11、T5、MM13についての700℃および800℃での引張試験結果を示すグラフ。(a)は0.2%耐力および(b)は引張強度である。
【図3】Ti添加量0.2%の試作材MM11、T14、MM13、T3の透過型電子顕微鏡写真。
【図4】Ti添加量0.5%の試作材T4、T5の透過型電子顕微鏡写真。
【図5】各試作材のTi含有量と過剰酸素量ExOとの関係を示すグラフ。斜線部分が酸化物分散粒子微細化が達成されるExO<0.46×Tiを満たす領域である。
【図6】各試作材の目標過剰酸素量と実測値の関係を示すグラフ。
【図7】各試作材の700℃高温クリープ破断試験結果を示すグラフ。(a)はクリープ破断試験結果を、(b)は1000時間破断応力の過剰酸素量依存性をそれぞれ示す。
【図8】各試作材の700℃高温クリープ試験結果のTiOx(ExO/Ti原子数比)依存性を示すグラフ。(a)は1000時間推定破断応力のTiOx依存性を、(b)は引張強さのTiOx依存性をそれぞれ示す。
【図9】各試作材のTi添加量と過剰酸素量ExOとの関係をプロットしたグラフ。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図9】
6
【図3】
7
【図4】
8