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明細書 :被加工物の加工方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5194319号 (P5194319)
登録日 平成25年2月15日(2013.2.15)
発行日 平成25年5月8日(2013.5.8)
発明の名称または考案の名称 被加工物の加工方法
国際特許分類 B23C   3/00        (2006.01)
FI B23C 3/00
請求項の数または発明の数 5
全頁数 11
出願番号 特願2008-526755 (P2008-526755)
出願日 平成19年7月23日(2007.7.23)
国際出願番号 PCT/JP2007/064420
国際公開番号 WO2008/013134
国際公開日 平成20年1月31日(2008.1.31)
優先権出願番号 2006203516
優先日 平成18年7月26日(2006.7.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年6月14日(2010.6.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】800000080
【氏名又は名称】タマティーエルオー株式会社
発明者または考案者 【氏名】大塚 寛治
個別代理人の代理人 【識別番号】100110858、【弁理士】、【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
【識別番号】100100413、【弁理士】、【氏名又は名称】渡部 温
審査官 【審査官】大川 登志男
参考文献・文献 特開2002-254304(JP,A)
特開2003-191104(JP,A)
特開2003-033738(JP,A)
調査した分野 B23C 3/00
特許請求の範囲 【請求項1】
被加工物を構成する材料における圧縮応力波の横波伝播速度以上の速度で、刃を前記被加工物の面に対して相対的に移動させることにより前記被加工物の面を削る、被加工物の加工方法。
【請求項2】
前記被加工物に当たる前の前記刃の運動エネルギーが、前記被加工物を構成する材料の原子間結合子を剪断するためのエネルギーと、削り取られた前記被加工物が前記刃とともに移動するときの運動エネルギーと、前記刃が前記横波伝播速度以上の速度で移動するときの運動エネルギーとの総和よりも大きい請求項1に記載の被加工物の加工方法。
【請求項3】
前記被加工物は複数の材料により形成されており、
前記刃は、前記複数の材料のうち最も弾性率が高い材料における圧縮応力波の横波伝播速度以上で移動する請求項1又は2に記載の被加工物の加工方法。
【請求項4】
前記刃は、少なくとも表面がダイヤモンド、窒化ボロン、モリブデン、ダングステン及び超鋼材料から選択される少なくとも一つの材料により形成されている請求項1~3のいずれかに記載の被加工物の加工方法。
【請求項5】
前記被切削物は、前記面が略鉛直に延在するように配置され、
前記刃を前記面に対して相対的に鉛直方向に上から下に移動させることにより前記被加工物の前記面を削る請求項1~4のいずれか一項に記載の被加工物の加工方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の面を鏡面に仕上げることができる被加工物の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物となる基板の表面を鏡面に仕上げる処理は、種々の分野で実施されている。例えば半導体製造分野においては、シリコンウエハ(基板)の表面を回路デバイスの構造に仕上げる途中で金属、有機物、セラミックなどの複合表面を鏡面に仕上げるために、CMP研磨処理(Chemical Mechanical Polishing)が施される。
【0003】
このシリコンウエハの回路デバイス製造工程の途中で数回の平坦化処理を行うとき、機械的なポリッシングのみでは複合材料の軟らかい材料が硬い材料に比べて余分に研磨され、ディンプル状(別名ディッシュシェープ)になってしまう。この欠点への対応策がCMP研磨である。この方法は、化学的なエッチング作用を持った研磨液を用いて複合材料を選択的にエッチングしながらポリッシングを行うことで平坦化する方法である。
【0004】
CMP研磨は、研磨液を複合材料構成が変わるたびに微調整する必要があり、加工条件もそのつど最適化する必要があり、かつ長い加工時間を要するという問題があった。例えばAlとSiO/SiNの複合材料とCuとSiO/SiNの複合材料では研磨液とその条件が全く異なる。また、注意して加工しても、パターニングされた複合表面が完全に平坦になるまでには至らない。
【0005】
一方、切削加工は、加工時間を大幅に短縮し得るが、加工品質上の問題があって、半導体基板の研磨には実用化されていないのが実情である。このような状況において、特許文献1及び非特許文献1に、基板(特に半導体基板)の厚みばらつきを均一化し、うねりや反りの発生を防止し、ディッシング等の不都合を発生させることなく、配線デザインの制約も無く、容易且つ安価に高速な平坦化を実現する方法として、基板に配線を形成し、その後この配線上にアルミナ、シリカ、ガラス等のフィラーが分散されてなる絶縁膜を形成し、配線の表面及絶縁膜の表面を切削して表面を平滑化する方法が記載されている。
【0006】
特許文献1に記載の半導体基板の切削技術は、特別に選択されたフィラー入りの樹脂(絶縁膜)、配線の表面よりも絶縁膜の表面が10nm以上高くなるような弾性係数を有する材料等を切削対象物とするものである。
【0007】

【特許文献1】特開2004-319965号公報
【非特許文献1】第12回STS(SEMI Technology Symposium)Award受賞記念講演8-25~8-33
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、従来の一般的な切削技術では半導体基板の研磨を行うことはできない。また、特許文献1及び非特許文献1に記載の技術は、配線上に絶縁膜を形成する必要があるため、工程数が増加してしまう。また、特許文献1に記載の技術では、切削対象物の材料特性に条件があるため、本技術を適用することができる切削対象物が限定されてしまう。これに対して、材料特性に関係なく高い平坦性を得ることができるができる非常に一般的な加工方法が求められている。
【0009】
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、高い加工効率で高い平坦性を得ることができる被加工物の加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る加工方法は、被加工物を構成する材料における圧縮応力波の横波伝播速度以上の速度で、刃を前記被加工物の面に対して相対的に移動させることにより前記被加工物の表面を削る。前記刃を前記被加工物に対して相対的に移動させる方法としては、前記刃のみを移動させる場合、前記被加工物のみを移動させる場合、並びに前記刃と前記被加工物の双方を移動させる場合のいずれも含む。
【0011】
前記被加工物に当たる前の前記刃の運動エネルギーが、前記被加工物を構成する材料の原子間結合子を剪断するためのエネルギーと、削り取られた前記被加工物が前記刃とともに移動するときの運動エネルギーと、前記刃が前記横波伝播速度以上の速度で移動するときの運動エネルギーとの総和よりも大きいのが好ましい。
【0012】
前記被加工物が複数の材料により形成されている場合、前記刃は、前記複数の材料のうち最も弾性率が高い材料における圧縮応力波の横波伝播速度以上で移動するのが好ましい。 前記刃は、少なくとも表面がダイヤモンド、窒化ボロン、モリブデン、ダングステン及び超鋼材料から選択される少なくとも一つの材料により形成されているのが好ましい。前記被切削物は、前記面が略鉛直に延在するように配置され、前記刃を前記面に対して相対的に鉛直方向に上から下に移動させることにより前記被加工物の前記面を削るのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る被加工物の加工方法によれば、従来の被加工物の表面加工処理方法である研磨加工に比較して、加工時間を大幅に短縮することができ、かつ切削面の平坦性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る面加工装置の構成を説明する為の概略図。
【図2】実施形態に係る被加工物の加工方法の原理を説明するための図。
【図3】実施形態に係る被加工物の加工方法の原理を説明するための図。
【図4】実施形態に係る被加工物の加工方法の原理を説明するための図。
【図5】バイト2の刃2aによる被加工物10の切削を原子モデルで説明する為の図。
【符号の説明】
【0015】
1…面加工装置
2…バイト
2a …刃
3…駆動装置
4…ガイド
5…装着機構
6…水槽
7…水
8…切子
9…泡の層
10…ウエハ(被加工物)
11…表面
20…原子
21…結合手
30…原子
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る被加工物の加工方法に用いる面加工装置1の構成を示す概略図である。面加工装置1は、被加工物(例えばシリコンウエハなどの半導体ウエハ)10の表面11を鏡面加工するためのものであるが、表面加工の対象素材は、半導体ウエハに限定されるものではなく、表面の鏡面加工を必要とする各種材料(金属、無機材料、有機材料等)に広く適用が可能である。
【0017】
面加工装置1は、バイト刃(以下バイトと記載)2、バイト2を回転させる駆動装置3、被加工物10が装着される装着機構5、及び水槽6を有している。バイト刃2(以降バイトと呼ぶ)は、少なくとも表面がダイヤモンド、窒化ボロン、モリブデン、ダングステン及び超鋼材料から選択される少なくとも一つの材料により形成されている。これらの材料は原子間結合力が高いため、後述するようにバイト2を高速回転させて被加工物10の表面加工を実施しても欠けや割れ等が発生することはなく、高い信頼性を持って表面加工処理を実施することができる。
【0018】
また、バイト2は、本体が略円柱形状であり、この本体の側面に、本体の中心軸と同一方向に延伸する刃2aを複数設けた構成である。バイト2の回転に伴い、刃2aが被加工物10の表面11を切削加工する。この切削加工において、バイト2の刃2aが最初に被加工物10に衝突する際、刃2aと被加工物10の表面11とが、垂直に衝突するように構成されている。これにより、被加工物10の原子配列に対して略垂直な剪断力を印加させることができる。
【0019】
また、図1において刃2aは、180度離間して2つ設けられている。例えば被加工物10が、複数の半導体チップが形成される半導体ウエハである場合、刃2aの幅寸法(紙面に対して垂直方向の長さ、即ちバイト2の中心軸方向の長さ)は、好ましくは半導体チップの幅方向の長さと等しいか、或いはチップ寸法の幅の整数倍の長さになるよう設定される。これによって、バイト2の刃2aは、被加工物10の表面11をチップ幅方向に対し一括で表面加工することが可能となり、チップの一括平坦処理が行える。
【0020】
装着機構5は、被加工物10をバイト2の中心軸方向にステップ送りする送り機構を有している。駆動装置3は、ガイド4に移動可能に配設されており、図示しない移動装置により鉛直方向(図中矢印X1,X2方向)に、被加工物10の表面に対して相対的に移動する構成をなっている。また駆動装置3の移動に伴いバイト2も鉛直方向(図中矢印X1,X2方向)に移動する。これにより、被加工物10の全面を加工することができる。また、一回当たりの研磨深さは、バイト2や駆動装置3が受ける切削力に耐えられる範囲で調整する。例えば1μmの必要研磨深さであれば、一回の研磨操作で略鏡面が得られる。
【0021】
装着機構5は、バイト2と対向する位置に設けられている。装着機構5は図示しないベースに固定されており、これにより装着機構5に装着された被加工物10もベースに固定された状態となる。このため、バイト2により表面加工が実施される際に被加工物10に大きな外力が印加されても、被加工物10が変位することを抑制できる。
【0022】
また装着機構5は、被加工物10を、表面11が鉛直方向(X1,X2方向)に延在する状態に装着する。駆動装置3によるバイト2の送り方向も鉛直方向である。水槽6は、被加工物10の下方に配置されている。水槽6は、内部に水7が装填されている。水7の上部には、界面活性剤で、例えば厚さが500mm以上の泡の層9が、形成されている。
【0023】
バイト2により被加工物10の表面11を加工する際に被加工物10から削り取られた切子8は、水槽6内に突入させる構成となっている。面加工装置1では、上記のように被加工物10は表面11が鉛直方向(X1,X2方向)に延在する状態となっている。このため、切子8が被加工物10の表面11に残留して傷つけることを抑制できる。
【0024】
また、被加工物10の下方には水槽6が配置されているため、切子8を確実に水槽6内に突入させることができる。更に、後述するようにこの面加工装置1は、バイト2を高速回転させるため、発生する切子8も高速で飛散する。しかしながら、水7の上部に泡の層9を形成しているため、切子8が水7の表面で跳ね返ること(高速で水面に衝突した場合には、水面が剛体のように作用するため)、及び突入した切子8が水7を飛散させることを防止できる。
【0025】
なお、面加工装置1の構成は図1に示した構成に限られない。例えば被加工物10が円筒形状でる場合、装着機構5は、被加工物10を、中心軸がバイト2の中心軸と重なるように保持する。面加工装置1が被加工物10の内面を加工する場合、刃2aを含むバイト2の直径は、被加工物10の内径に等しくなる。面加工装置1が被加工物10の外面を加工する場合、バイト2も円筒形になり、内面に中心軸と略平行に延伸する刃2aを有する。また刃2aを含むバイト2の内径は、被加工物10の外形に等しくなる。
【0026】
被加工物10を構成する材料の圧縮応力波の縦波伝播速度をc、横波伝播速度をcとした場合、上記構成の面加工装置1において、被加工物10の表面11に対するバイト2の相対的な加工速度すなわち移動速度(以下、このバイト2の加工速度をvと示す)を、v≧c、好ましくはv≧cとなるよう設定する。例えば被加工物10がシリコンウエハの場合、シリコンの横波伝播速度は5,843m/sであるため、バイト2の加工速度vは従来の加工装置に比べて高速回転となる。なお、被加工物10が複数の材料により構成されている場合(例えばシリコンウエハに形成された半導体チップの場合は、シリコン、酸化シリコン、金属など)、最も弾性率が高い材料のc,cを用いる。
【0027】
また、刃2aが被加工物10に衝突する直前のバイト2の運動エネルギー(Es)が、被加工物10を構成するシリコンの原子間結合手21(以下、単に結合手という)を剪断するためのエネルギー(Ea)と、切子8がc以上(好ましくはc以上)の速度で移動するときの運動エネルギー(Ev)と、切削後のバイト2がc以上(好ましくはc以上)の速度で移動するときの運動エネルギー(Ev)の総和よりも大きなエネルギーを持つ(Es≧Ea+ Ev+ Ev)よう設定する。
【0028】
以下、バイト2の加工速度v及びバイト2の運動エネルギーEsを上記のように設定する理由について説明する。固体に応力が加わった場合、固体内では縦波と横波が起こり、固体表面では表面波としてのレイリー波が起こる。固体は、圧縮方向に対して縮むとき、その直角面では伸びるため、これが横波となる。直角面の伸びは、ポアソン比νの大きさに比例する。これが縦弾性率Eと横弾性率Gの関係となる。入力エネルギーに対して横方向にエネルギーが逃げるため、縦波伝播速度vはその分遅くなる。直角面にx方向とy方向があるため、その配慮も必要となる。
【0029】
縦波伝播速度c、横の伝播速度c、レイリー波の伝播速度cとすると、c、c、cはそれぞれ式6、式7、式8で示される。ここでSは剛性率、Cはポアソン比で決まる定数(C<1)である。例えばν=0.25とすると、c:c:c=1.73:1:0.92となる。これらの速度c、c、cは物質ごとに異なる定数である。ここで体積弾性率k、縦弾性率E、剛性率Sの関係を示すと、E=2S(1+ν)、E=3k(1-2ν)である。なお、ポアソン比νは、ガラスで0.25、シリコンで0.07、銅で0.342、アルミニウムで0.345である。また、最もポアソン比ν大きいものはゴムのようなものであり、ポアソン比νは0.6である。
【0030】
=√((1-ν)E/(1+ν)(1-2ν)ρ)=√((3k+4S)/3ρ)・・・(1)
=√(E/2(1+ν)ρ)=√(S/ρ)・・・(2)
=Cc ・・・(3)
【0031】
被加工物10が、半導体チップが形成されたシリコンウエハである場合、被加工物10の構成材料及びその応力伝播速度は、表1のようになる。
【0032】
【表1】
JP0005194319B2_000002t.gif

【0033】
固体中の力の伝達速度は、隣接する原子20の相互作用の変化、具体的には隣接する原子20間を接合している結合手21の追従性を示している(図2参照)。従って、固体中の力の伝達速度は、隣接する原子20間の距離の大小に関係する。
【0034】
ここで固体(本件では、被加工物10がこれに相当する)に対し外力が印加され、かつこの外力の速度が上記した固体中の力の伝達速度より速い場合を想定する。説明を判り易くするために、上記の固体をガラスとし、外力が印加される具体例として、銃の弾丸がこのガラスを貫通した場合を想定する。銃の弾丸は、空気中の音速の数倍である。ガラスを貫通するとき、ガラスには弾丸の大きさに近い穴が開くだけで、周囲にクラックの進展はないことが経験的に知られている。重要なことは、弾丸の通過する範囲にしか応力を与えないことである。
【0035】
この現象をガラスの加工という観点から見ると、弾丸(速度は1000m/s程度)により、ガラスに対して周囲にクラック等の欠陥のない高品質の穴加工が行われたことになる。これは、固体(被加工物10)の横波を越える速度で固体に対して加工された(これは、外力の印加と等価である)とすると、外力が印加された原子20は、この外力が印加された原子の隣の原子20に応力を伝える時間的余裕を与えることなく、結合子21が破壊されることを意味する。
【0036】
続いて、高速加工でもうひとつ重要な現象例を示す。ある物体が高速で水面に衝突すると、水面(c=1500m/s)は硬い固体と等価のように感じる。これは、50m/s(180km/h)という遅い速度でもそのような状態、即ち液体が剛体とみなしうる状態となる。
【0037】
これらの現象を形状加工に適用してみる。図2がそのモデルである。図2(A)に示すように、被加工物10を構成する16個の原子20を考え、結合子21のそれぞれはばね定数κと結合の強さを表すエネルギーUintを有しているものとする。体積弾性率kや凝集エネルギー2γとの関係を示すと、
(体積弾性率k)={κ×原子濃度×(配位数/2)}/{9×(原子半径×2)}
(凝集エネルギー2γ)=Uint×アボガドロ数/(配位数/2)
となる。
【0038】
ここで、図2(B)に示されるように、バイト2の刃2aにより力Fが、16個の原子20の内、中心2列に印加されたとする。刃2aの速度vが結合手21による原子間結合の弾性波伝播速度より十分速いとすると(v≧c)、中心2列の8原子は、その進行方向(図中左方向)の結合手の弾性変形(弾性波伝播の元になる現象)をする暇を与えられず、8原子全体が一括的に左に移動し、このように一括的に移動する8原子の上下の結合手21が剪断力で破断される。これにより、刃2aにより加工が行われた後の表面は、原子20の転移、クラック、残存、歪等のない高精度の鏡面となる。
【0039】
また、上記した表面加工の際、上下の4つの結合子21の切断エネルギーと、4つの原子20の運動エネルギーをバイト2の連動エネルギーから貰い受けるが、その破断に至る変位をδd、破断に至る力をFdとすると式9の関係が成り立つ。
mpv/2>4κδd+4mav/2=4Fd/2κ+4mav/2 (4)
【0040】
換言すれば、バイト2の運動エネルギーEb(=mp/2)が、被加工物10を構成する原子20の結合手21を上記の如く剪断するためのエネルギーEa(=4Fd/2κ)と、削り取られる原子20がc以上(好ましくはc以上)の速度で移動するときの運動エネルギー(運動エネルギーEv(=4ma c/2)と、切削後のバイト2がc以上(好ましくはc以上)の速度で移動するときの運動エネルギー(Ev)の総和よりも大きなエネルギーを持つように(Eb≧Ea+ Ev+ Ev)面加工装置1において加工を行うことにより、基板(被加工物10)に対して上記の高精度の鏡面加工を実施することが可能となる。
【0041】
一方、バイト2の加工速度vが次第に小さくなる(c≦v<c)と、結合手21の多少の弾性変形を許すことになり、横波速度cの速度で力の波動が進行方向の斜め後方に広がっていく。従って、バイト2の加工速度vが横波速度c以上であれば、力の波動はバイト2の進行方向に対して45度以下の立体角を形成する。上記のように波動が進む際、この波動の力の及ぶ45度以下の立体角の中で一番強度の弱い部分で破壊が進行する。1列目の原子20は、バイト2の進行方向に対して略0℃の角度の部分が破壊されるため、2列目以降の原子20も、しばらくはバイト2の進行方向に対して略0℃の角度で破壊が進行する。このため、バイト2の回転数を上げるか、又は刃2aの数を増やして複数の刃2aが被加工物10を切削する時間間隔を十分に短くすることにより、c≦v<cの条件においても高精度の鏡面加工を実施することが可能となる。
【0042】
なお、複数の刃2aが被加工物10を切削する時間間隔が多少長くなった場合、破壊の進行角度は最終的にはarctan(c2/c1)となるが、破壊の進行角度がarctan(c2/c1)となる長さは十分に短いため、この場合においても切削面に凹凸は十分に小さくなり、略鏡面の切削面を得ることができる。
【0043】
図3は、バイト2により被加工物10を表面加工している状態をマクロ的に見た状態を示しており、また図4は、バイト2により被加工物10を表面加工している状態をミクロ的に見た状態を示している。バイト2により被加工物10を加工する場合、バイト2の軸ぶれ及び送りすれはいずれも0.1μm以下であるのが好ましく、かつバイト2の回転速度は10000~50000rpmの高速回転であることが望ましい。
【0044】
なお、図5に見られるように、バイト2の被加工物10(被加工物)への衝突は、原子20と原子30のぶつかりである。今1個の原子20と1個の原子30が同じ質量を持つとすれば、総合エネルギーの強いほうが弱いほうを切断する。これは、図5で分かるように、各部材(バイト2、被加工物10)の密度と凝集エネルギーの関数である。
【0045】
これをマクロ的に見ると、(1/2)(単位体積当たりの質量)(衝突速度)+(単位体積あたりの凝集エネルギー)の大小でどちらが切断されるかが決まり、バイト2の密度を被加工物10の密度より大きく設計すればよい。また、切断状態は、被加工物10のバイト2が衝突する衝突前面の、バイト2の進行方向に対する後ろに控える分子の質量にも関係する。図3及び図5は、このモデルも示している。
【0046】
バイト2が最初に被加工物10に衝突すると、図2を用いて説明したように、被加工物10では水平に原子20の剥離が起こる。図3(A)及び図4(A)は、バイト2が被加工物10に衝突したときを示している。前記したように、バイト2の加工速度vは、c≦vの条件を満たしているため、原子20の剥離は上方に逃げることになる。図3(B)はこの状態を示しており、図3(C)は刃2aか表面11を切削している状態を拡大して示している。
【0047】
切削加工が進展すると、図4(B)~(D)に示すように、バイト2は以前に剥離して逃げた原子20上をトレースすることになる。この際、原子20の原子列が、バイト2によりだるま落としのように下から順に加工されていく。具体的には、図4(B)では、バイト2より原子列Aが加工され、図4(C)ではバイト2により原子列A及び原子列Bが加工され、更に図4(D)ではバイト2により原子列Cが加工され、バイト2は原子列A及び原子列Bから離間する。
【0048】
このように本発明では、バイト2の加工速度vがc≦vの条件を満たしているため、各原子列A~原子列Cは、だるま落としのように被加工物10から剥離してゆく。従って、切削加工により発生する切子8は、全体が原子レベルの層構造を維持したまま、変形しない状態で被加工物10から剥離する。一般的に切子8は変形し、切子8の変形にエネルギーを必要とする。これに対して本発明では、上記したように原子レベルで変形が無いため、切子8の変形エネルギーを必要としない。従って、加工に必要なエネルギーが少なくなる。また、発生する切子8の温度は高くなり、数千℃になって飛ぶことになる。しかし、残された被加工物10の加工表面は、表面11の原子20の剥離に必要なエネルギー以上のエネルギーを与えられず、ひずみも全くないため、温度上昇もわずかで無歪の鏡面となる。尚、表2に元素の凝集エネルギーや密度度などのパラメータを示しておく。
【0049】
【表2】
JP0005194319B2_000003t.gif

【0050】
以上、被加工物10の表面11に対するバイト2の加工速度すなわち移動速度を、被加工物10を構成する材料における圧縮応力波の横波伝播速度をcより速くすることにより、表面11を鏡面切削することができる。
【0051】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を変更しない範囲で様々に変形することが可能である。例えば図1を用いて説明した加工を被加工物10に対して行った後、被加工物10の表面11に対して刃を水平に移動させることにより、表面11を仕上げ加工しても良い。この場合、刃は、例えばタングステンバイトの表面にタイヤモンドをエピタキシャル成長させることにより形成される。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、ウエハやシリンダ内面等の被加工物の表面を加工する被加工物の加工方法に関する。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4