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明細書 :ウシの発情同期化法およびそのためのキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5435422号 (P5435422)
登録日 平成25年12月20日(2013.12.20)
発行日 平成26年3月5日(2014.3.5)
発明の名称または考案の名称 ウシの発情同期化法およびそのためのキット
国際特許分類 A61K  31/5575      (2006.01)
A61K  31/57        (2006.01)
A61D   1/08        (2006.01)
A61P  15/08        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI A61K 31/5575
A61K 31/57
A61D 1/08 Z
A61P 15/08
A61P 43/00 121
請求項の数または発明の数 4
全頁数 15
出願番号 特願2009-170260 (P2009-170260)
出願日 平成21年7月21日(2009.7.21)
審査請求日 平成24年2月21日(2012.2.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】竹之内 直樹
【氏名】平尾 雄二
【氏名】志水 学
【氏名】伊賀 浩輔
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
特許請求の範囲 【請求項1】
ウシの発情同期化方法において、
(i)ウシに、黄体退行薬および膣内留置型黄体ホルモン製剤を同時に処置するステップ、
(ii)ウシから膣内留置型黄体ホルモン製剤を、ステップ(i)の処置後3~14日に除去するステップ
を含むことを特徴とするウシの発情同期化方法。
【請求項2】
黄体退行薬がプロスタグランジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ウシの作出方法において、
(i)ウシに、黄体退行薬および膣内留置型黄体ホルモン製剤を同時に処置するステップ、
(ii)ウシから膣内留置型黄体ホルモン製剤を、ステップ(i)の処置後3~14日に除去するステップ、
(iii)自然交配により、または人工授精もしくは胚移植により、ウシを妊娠させ、仔ウシを分娩させるステップ
を含むことを特徴とするウシの作出方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法で使用するための、黄体退行薬および膣内留置型黄体ホルモン製剤を含むキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ウシの発情同期化のための方法およびその方法に使用するためのキットに関する。また本発明は、かかるウシの発情同期化を利用したウシの作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農林水産業における獣医臨床および家畜繁殖分野の使命として、家畜の改良および増殖は国として推進すべき任務であり、その詳細は家畜改良増殖法に規定されている。家畜の改良増殖に関わる繁殖関連の技術の中で、人工授精や胚移植等は生産性や育種改良速度を飛躍的に向上させうる技術であり、不可欠な技術として普及定着している。ウシにおける人工授精および胚移植は、それぞれ発情日または発情後約7日目に実施する。そのため、発情日は繁殖を行うための最も重要な基準日であり、適正な繁殖管理のためには連日の牛群行動観察とその記録が推奨されている。しかしながら、近年、牛群の繁殖能力の変化を原因とする発情行動の不明瞭化や飼養頭数の多頭化に起因する発情の見逃し等が顕在化してきており、生産現場で人工授精や胚移植の適正な実施を阻害する重篤な問題となっている。
【0003】
例えば黒毛和種は日本固有の優良な肉用品種であり、脂肪交雑に優れる形質は世界的にも注目されている。黒毛和種では年1産を目標とした子畜生産が推奨されており、そのためには分娩後の発情周期の把握と分娩後3ヵ月目までの受胎が重要となる。しかしながら、生産現場では発情周期の把握がなされていないことにより、しばしば分娩間隔の延長を認める個体が散見される。分娩後の空胎期間の延長は、人為的な繁殖管理失宜による発情の見逃しあるいは鈍性発情などの繁殖障害による発情の異常を原因とすることが多い。またウシの発情周期は21日間と長いことから、発情行動の見逃しは大きな経済的損失に繋がる。
【0004】
また日本短角種は東北地域の特定品種であり、放牧を主体とした飼養形態や自然交配による繁殖形態などから、生産される牛肉は安全で安心なものとして近年注目を集めている。しかし、黒毛和種との比較ではその市場価格は1/2~2/5程度と低く、日本短角種の生産現場を活性化するために、その対応策が求められている。日本短角種は放牧適性や哺乳能力に優れるため、放牧飼養下で子畜は良好な発育を示すことが知られており、近年ではこの能力に注目して受胚牛としての活用が期待されている。胚移植では受胚牛以外の個体から採取した胚を利用できるため、受胚牛固有の能力と比べてより優秀な能力を有する子畜の増産が可能となることが利点である。そのため、黒毛和種やホルスタイン種では優良子畜や種雄牛の生産に積極的に活用されており、その経済効果は極めて高い。そのことから、胚移植を活用し日本短角種の繁殖牛群の一部で市場価値の高い黒毛和種子畜を生産することは日本短角種飼養農家の収益向上に貢献すると考えられる。さらに、生産した黒毛和種子畜を育成する上でも、舎飼いを主体とする黒毛和種の生産現場とは異なり、親子放牧での飼養が期待できることから、飼料コストの低減や管理の省力化などの利点も派生する。胚移植等の人為的な繁殖技術では、発情日は重要な基準日となる。しかし、日本短角種は自然交配による繁殖管理を主とするため、多くの生産現場では発情周期を把握する必要性が低く、このことは胚移植導入の大きな隘路となっている。この問題に対応する技術として、牛群の発情日を揃えるとともに明瞭な発情行動を人為的に誘起できる発情同期化の活用は有効と考える。
【0005】
この問題に対応した技術として、後述するような、牛群の発情日を揃えるとともに明瞭な発情行動を誘起できる発情同期化が開発された。この技術により、発情観察のための労力が軽減でき、人工授精や胚移植の実施に際してもより集約的な繁殖管理が可能となっている。
【0006】
発情同期化法としては、黄体退行薬または腟内留置型黄体ホルモン製剤を用いる手法が一般的であり、国内外で広く普及している。具体的には以下の3つの手法に大きく分けられるが、共通する機序は生体内で制御されている発情発現機構のうち、黄体退行を反映する急激な血中黄体ホルモンの低下を人為的に誘起することにある。
【0007】
1つの手法は、黄体退行薬の単独投与法である(非特許文献1~3)。黄体退行薬は、プロスタグランジンF2α(PGF2α)の類縁物質であり、国内では多くの薬物が市販されている。黄体への直接作用により、黄体退行とそれに伴う急激な黄体ホルモンの低下を引き起こし、ウシでは薬物投与後3日目を中心として牛群の70%以上で発情が発現する。PGF2αに感受性を持たない時期に薬物を投与する場合、ならびに黄体退行途中で機能を回復する場合が少なからずあるために発情同期化効果は完全ではない。
【0008】
またもう1つの手法は、腟内留置型黄体ホルモン製剤の単独処置法である。腟内留置型黄体ホルモン製剤として、CIDR(controlled intravaginal drug releasing device, InterAg, Australia)(特許文献1)およびPRID(progesterone releasing intravaginal device, CEVA Sante Anima1, France)(特許文献2)が国内で市販されている。これらは黄体ホルモンを含有する腟内留置型の器具であり、PRIDではさらに発情ホルモンも含有する。いずれも腟内に12~14日間留置する間に器具から持続的に黄体ホルモンが放出される。この黄体ホルモンの作用は下垂体を介した黄体へ間接的な作用である。器具の留置終了までに黄体は黄体ホルモンの合成機能を失うため、器具の抜去直後から急速な血中黄体ホルモンの低下を引き起こし、ウシでは器具抜去後2日目を中心として発情が発現する。発情同期化率は黄体退行薬の単独投与と同等以上である。しかしながら、器具抜去時に黄体機能が存続することを理由として発情同期化効果は完全ではない。
【0009】
また別の手法は、腟内留置型黄体ホルモン製剤の処置終了日に黄体退行薬を投与する併用法である。これは、上述した黄体退行薬の単独投与および腟内留置型黄体ホルモン製剤の単独処置法での発情同期化率を改善するために考案された手法であり、腟内留置型黄体ホルモン製剤の抜去時あるいはその前日に黄体退行薬(すなわちPGF2α製剤)を投与する。腟内留置型黄体ホルモン製剤の抜去時に機能を存続する黄体を退行させることができるため、発情同期化率はほぼ100%を達成できる。なお、この方法では発情同期日は腟内留置型黄体ホルモン製剤の推奨投与法に準じ12~14日間となる。
【0010】
上述した3つの手法では、いずれも薬物の処置開始日から発情同期日までの日数が限定される。そのため、薬物投与日あるいは発情同期日は慎重に決定する必要があり、また発情同期予定日前後に畜生の事情により発情観察を行い得なくなる状況では、発情同期化処置が無効となるばかりだけではなく、無駄な薬物代の支出や空胎期間の延長による経済的損失を招くことになる。
【0011】
近年では飼養頭数の多頭化や畜主の高齢化等のため繁殖管理の労働力が低下しつつあり、今後も子畜の増産を進める上で発情同期化の重要度はさらに高まっていくと推測される。そこで、畜生の意志決定により、処置開始日にたいして発情同期日をより自由に選択できる発情同期化法の開発が重要である。
【先行技術文献】
【0012】

【特許文献1】国際公開WO97/40776号
【特許文献2】国際公開WO99/065497号
【0013】

【非特許文献1】Rowson LE et al. J Reprod Fertil. 1972 Apr;29(1): 145.
【非特許文献2】Roche JF. J Reprod Fertil.1974 Mar; 37(1): 135-8.
【非特許文献3】Peters JB, et al. J Anim Sci. 1977 Aug;45(2):230-5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、処置開始日にたいして発情同期日をより自由に選択できる発情同期化のための方法および手段を提供することを目的とする。また本発明は、発情同期化を行った後にウシを作出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、黄体退行薬と膣内留置型黄体ホルモン製剤とを同時期にウシに処置することによって、その膣内留置型ホルモン製剤の抜去後に高確率で発情を発現させることができること、またその膣内留置型ホルモン製剤の抜去時期に応じて発情の時期を調整できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は以下の(1)~(3)である。
(1)ウシの発情同期化方法において、
(i)ウシに、黄体退行薬および膣内留置型黄体ホルモン製剤を同時期に処置するステップ、
(ii)ウシから膣内留置型黄体ホルモン製剤を除去するステップ
を含むことを特徴とするウシの発情同期化方法。
【0017】
上記(1)の方法では、黄体退行薬および膣内留置型黄体ホルモン製剤は、好ましくは同日に、より好ましくは同時に、ウシに処置されることが好ましい。
また上記(1)の方法で使用される黄体退行薬は、例えばプロスタグランジンまたはその類縁物質である。
上記(1)の方法において、膣内留置型黄体ホルモン製剤は、好ましくは処置後3~14日に、より好ましくは処置後4~8日に除去される。
【0018】
(2)ウシの作出方法において、
(i)ウシに、黄体退行薬および膣内留置型黄体ホルモン製剤を同時期に処置するステップ、
(ii)ウシから膣内留置型黄体ホルモン製剤を除去するステップ、
(iii)自然交配により、または人工授精もしくは胚移植により、ウシを妊娠させ、仔ウシを分娩させるステップ
を含むことを特徴とするウシの作出方法。
【0019】
(3)黄体退行薬および膣内留置型黄体ホルモン製剤が同時期にウシに処置されることを特徴とする、ウシの発情同期化のための、黄体退行薬および膣内留置型黄体ホルモン製剤を含むキット。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、ウシにおいて効果的かつ高精度に発情を発現させることができる発情同期化方法が提供される。本発情同期化方法は、処置から発情同期日までの期間に柔軟性があり、発情管理の効率化や省力化に寄与するものである。また本発情同期化方法を利用することで、効率的に低コストでウシを繁殖することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発情同期化方法と、従来の発情同期化方法の処置スケジュールを示す図である。
【図2】発情同期化処置時のステロイドホルモンおよび卵巣上構造物の推移を示す。グラフは、最小自乗平均+標準誤差(n=4)で示している。
【図3】CIDR抜去後のステロイドホルモンおよび卵巣上構造物の推移を示す。グラフは、最小自乗平均+標準誤差(n=4)で示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ウシにおける発情を同期化する方法に関する。ウシの発情においては、卵巣に発情卵胞が存在する約1日間発情行動が起こり(発情日)、その翌日に卵胞が排卵して、黄体ができる。この黄体が存在する期間は発情が起こらず、発情から次の発情までの発情周期は約3週間であり、この期間は黄体が優勢に存在する。排卵後に妊娠状態となると、その妊娠を維持するために黄体が妊娠期間にわたって存在することになる。

【0023】
本明細書中、「発情の同期化」とは、雌畜群における繁殖管理の効率化または計画的な生産を目的として、人為的な処置によって雌畜で一定期間内に集中して発情を誘起することを意味する。

【0024】
具体的には、本発明に係る発情同期化方法においては、ウシに黄体退行薬および膣内留置型黄体ホルモン製剤を同時期に処置し、所望期間(約4~8日)経過後にウシから膣内留置型黄体ホルモン製剤を除去することによって、その除去後数日内(約1~3日)にウシにおいて発情が発現する(図1)。この方法は、特定の理論に拘束されるものではないが、次の作用機序によると考えられる:
すなわち、従来法での問題点は、単独投与法および併用投与法いずれの方法でも黄体退行薬ならびに腟内留置型黄体ホルモン製剤は「黄体機能を消失させる」ことを主作用として利用していることに起因している。黄体退行薬は黄体を退行させること以外の作用はほぼない。一方、腟内留置型黄体ホルモン製剤では擬似的な黄体期を誘起する結果として、黄体機能が消失している。本発明では、「黄体を退行させる」主薬物として黄体退行薬を用い、腟内留置型黄体ホルモン製剤は、「黄体退行後に疑似黄体期を誘起する」薬物として用いることを特徴としている。

【0025】
本発明は、黄体退行薬と腟内留置型黄体ホルモン製剤の併用法である。その処置方法に関して従来法との相違点は、腟内留置型黄体ホルモン製剤の留置開始と同時期に黄体退行薬の投与を行うことにある。本発明では、処置開始後約2日目までに単独投与法の場合と同様に黄体退行薬の作用により黄体退行が完了する。

【0026】
黄体退行後に起こる発情行動は黄体ホルモンが機能的な濃度以下に達していることに加え、黄体退行時期に同調して成熟する卵胞に由来する発情ホルモンの濃度上昇によって明瞭に発現する。本発明では、後述する実施例において確認されたように、黄体の退行が完了した時期以降も、腟内留置型黄体ホルモン製剤の併用により、生体内の黄体ホルモンが機能的な濃度で維持されるため発情は抑制される。これは、発情ホルモンが黄体ホルモンと拮抗する関係にあり、機能的な黄体ホルモンの存在下では、卵胞の成熟が抑制されるため発情ホルモンが低濃度で推移することを理由とする。処置開始後約3日目以降は黄体の機能は消失しており、任意の時期に膣内留置型黄体ホルモン製剤を抜去した場合でも、腟内留置型黄体ホルモン製剤の単独処置法と同様に抜去後2日目を中心として発情が発現する。すなわち、本発明の方法において、発情が抑制される期間は、腟内留置型黄体ホルモン製剤の留置期間に依存する。

【0027】
以上のような点から、本発明では、黄体退行薬と膣内留置型黄体ホルモン製剤とをウシに同時期に処置することが重要である。ここで「同時期」とは、一方の薬剤ともう一方の薬剤による処置が、同日に(すなわち約24時間以内に)、好ましくは約12時間以内に、より好ましくは0~約1時間以内(すなわち同時)に行われることを意味する。

【0028】
ウシに処置される黄体退行薬は、投与後直ちに黄体退行を誘起させる機能を有する薬剤であれば特に限定されるものではなく、例えば、プロスタグランジンF2α(PGF2α)、その類縁物質、ジノプロスト、トロメタミンジノプロスト、エチプロストントロメタミン、クロプロステノール、ならびにフェンプロスタレンなどが挙げられる。このような黄体退行薬は、当業者であれば容易に入手または合成することができる。例えば、PGF2αの類縁物質製剤として、パナセラン・F液(明治製菓株式会社)、パナセラン・Hi液(明治製菓株式会社)、動物用プロナルゴンF注射液(ファイザー株式会社)、プロスタベットC(三共ライフテック株式会社)、エストラメイト(シェリング・プラウ アニマルヘルス株式会社)、レジプロンC(あすか製薬株式会社)、クロプロステノールC(フジタ製薬株式会社)、クロプロ(フジ)263(富士ケミカル工業株式会社)、ゼノアジンC注射液(日本全薬工業株式会社)などが市販されている。また黄体退行薬は、複数種を組み合わせて用いることも可能である。

【0029】
このような黄体退行薬は、その投与経路に応じて、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸薬、ペレット、カプセル剤、散剤、徐放性製剤、坐剤、エアロゾル、スプレーなど、使用に適したいかなる他の剤形であってもよい。

【0030】
黄体退行薬は、当技術分野で公知の方法により、任意の投与経路で投与することができる。例えば、非経口投与(筋肉内、皮下、子宮内投与など)で投与することができる。その投与量は、投与対象のウシの種類、年齢、体重などに応じて、当業者であれば適宜決定することができる。例えば黄体退行薬としてエストラメイト(1ml中250μgのクロプロステノールを含有、シェリング・プラウ アニマルヘルス株式会社)を用いる場合には、ウシ1頭あたり2ml(クロプロステノール0.5mg)の量で投与することができる。

【0031】
またウシに処置される膣内留置型黄体ホルモン製剤は、一定期間、例えば約7日~約15日間にわたってウシの膣内に留置され、黄体ホルモンを持続放出する製剤またはデバイスである。例えば、CIDR(controlled intravaginal drug releasing device, InterAg, Australia)(特許文献1)が公知であり、当技術分野で広く用いられている。このCIDRは、ウシの膣内に挿入されて、黄体ホルモンであるプロゲステロンを放出する。他には、プリッドテイゾー(あすか製薬株式会社)などが知られている。

【0032】
処置の対象となるものは、雌ウシであれば、その品種は特に限定されるものではない。ウシの繁殖生理は異なる品種でもほぼ共通であり、黄体退行薬および黄体ホルモン薬の作用機序は同一であることが知られている。従って、品種間での薬物の感受性の違いを考慮する必要はあるが、本発明の方法は実施例で確認された品種(黒毛和牛および日本短角種)だけではなく、他の品種への適応も可能である。例えば、本発明において処置の対象となるウシとしては、国内で飼養されている黒毛和牛(Japanese black)、日本短角種(Japanese Shorthorn)、褐毛和種(熊本)(Japanese Brown(Kumamoto))、褐毛和種(高知)(Japanese Brown(Kochi))、無角和種(Japanese Polled)、見島牛(Mishima Cattle)、ホルスタイン種(Holstein-Friesian)、ジャージー種(Jersey)などの品種やそれらの交雑種、さらには世界で飼養されているウシのうち人工授精等の人為的繁殖が実施されている品種などが挙げられる。

【0033】
上記処置後、所望の期間が経過した後に、ウシから膣内留置型黄体ホルモン製剤を除去する。処置から除去までの期間は、任意に設定することが可能であるが、好ましくは処置開始後3~14日、より好ましくは4~8日である。

【0034】
ウシから膣内留置型黄体ホルモン製剤を除去した後、ウシの品種・個体による差はあるが、約2~3日で発情が発現する。

【0035】
従来法では処置開始から発情発現までの期間は、黄体退行薬の単独投与法および腟内留置型黄体ホルモン製剤を利用した単独または併用法で、それぞれ約3日間または14~16日間に限定される。本発明では、腟内留置型黄体ホルモン製剤の抜去が留置開始後任意の時期(例えば4日~8日目)が選択でき、処置開始から発情発現までの期間を6~10日間と自由に設定できるようになる。また、発情同期化法として本手法が選択肢として加わることにより、従来法も含めると処置開始後3~14日目の任意の日に発情を誘起でき、このことは発情管理の効率化や省力化に大きく貢献すると考えられる。

【0036】
また本発明は、上述したような発情同期化を利用して、ウシを作出する方法を提供する。具体的には、本発明のウシの作出方法は、(i)ウシに、黄体退行薬および膣内留置型黄体ホルモン製剤を同時期に処置するステップ、(ii)ウシから膣内留置型黄体ホルモン製剤を除去するステップ、(iii)自然交配により、または人工授精もしくは胚移植により、ウシを妊娠させ、仔ウシを分娩させるステップを含む。

【0037】
発情同期化後のウシの妊娠は、当技術分野で公知の方法、例えば自然交配、人工授精、胚移植などで行うことができる。例えば、自然交配によりウシを作出する場合には、発情同期の予定日前後に処置した雌ウシと種雄ウシとを混牧または同居させる。人工授精によりウシを作出する場合には、例えば処置した雌ウシの発情日に、同種の又は異種の雄ウシ由来の精液を注入する。胚移植を行う場合には、例えば処置した雌ウシの発情後約7日目に胚を移植する。移植する胚は、仮親(すなわち処置した雌ウシ)と同種であってもよいし、又は異種であってもよい。例えば、日本短角種の雌ウシに対して本発明の発情同期化方法を実施し、その雌ウシを受胚ウシとして、黒毛和牛種の胚を移植し、黒毛和牛種の仔ウシを作出することができる。上記方法において、発情の確認は、行動観察、発情発見器具を用いた検査、卵巣の変化の観察、内分泌物(黄体ホルモン、発情ホルモンなど)の検査などによって行うことができる。また受胎の確認は、当技術分野で公知の方法により行うことができる。例えば、直腸検査および超音波画像診断を利用することが可能である。ウシは、およそ285日間の妊娠期間後に、仔ウシを分娩することになる。

【0038】
以上のように本発明の発情同期化方法を利用してウシを作出する場合には、高確率および高精度で、かつ所望の発情同期日においてウシを発情させることができ、結果として効率的にウシを作出することが可能となる。
【実施例】
【0039】
本方法の黒毛和種における有効性の検討と機序の解明
東北農業研究センターで飼養されている正常な発情周期を営む経産の黒毛和種4頭(延べ21頭)を用いた。
【実施例】
【0040】
牛1頭あたり、黄体期にPGとして、プロスタグランジンF2α類縁体製剤であるエストラメイト(ナガセ医薬品販売会社)2ml、すなわちクロプロステノール0.5mgを筋肉内に注射投与した。また同時に(5分以内に)腟内留置型黄体ホルモン製剤として、CIDR(controlled intravaginal drug releasing device, InterAg社, Hamilton, New Zealand)を腟内に留置した。試験区として、CIDRの腟内留置期間により以下の3区に分けた:1)96時間(4日区、n=5)、2)144時間(6日区、n=8)、3)192時間(8日区、n=8)。
【実施例】
【0041】
検査項目として、(i)発情同期化効果、(ii)卵巣所見、(iii)内分泌所見、を行った。
(i)の発情同期化効果については、各区において留置期間後にCIDRを抜去し、その後、行動観察および発情発見器具により、発情発現の有無と発現開始時間を調べた。また、(ii)卵巣所見については、同期化処置を開始する数日前からCIDR抜去後約1週間までの間、連日、直腸検査と超音波画像診断により卵巣の変化(黄体および主席卵胞)を追跡した。(iii)の内分泌所見については、血液を採取し、血中の黄体ホルモン(progesterone; P)と発情ホルモン(estradiol-17β; E2β)を酵素イムノアッセイ(EIA)(Takenouchi N et al. J Vet Med Sci, 2004 Nov;66(11):1315-21)により測定した。EIAは、第二抗体(抗ウサギIgGヤギ血清)をマイクロプレートに固相した二抗体法を原理としている。PならびにE2β測定のための第一抗体として、11α-ヒドロキシ-P-ヘミスクシネート(HS)-BSAおよびE2β-17HS-BSAをそれぞれ抗原としたウサギ血清を自家作製した。ステロイド酵素胞合体としては、P-3(O-カルボキシメチル)オキシム-西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)ならびにE2β-17HS-HRPをそれぞれ用いた。測定の前処置として、ウシ血漿からPの抽出ならびにE2βの抽出精製を行い、それぞれ測定用試料として用いた。第二抗体を固相したマイクロプレートに測定用試料、第一抗体、ステロイド酵素胞合体の順に加え、マイクロプレートを洗浄後に残ったステロイド酵素胞合体の量を測定し、標準曲線を元に濃度を算出した。
統計解析はHarveyの最小自乗分散分析により行い、発情同期化成績ならびに臨床内分泌学的所見を試験区間で比較検討した。
【実施例】
【0042】
発情同期化成績を表1に示す。上記試験の結果、試験供試牛の全頭で乗駕許容行動を伴う発情が発現した。またCIDRの抜去から発情開始までの時間は、試験区間で有意な差は認められず、平均で39.1時間(約1.6日)であった。なお、発情発現までの時間は個体間で有意(P<0.01)な差が認められた。【0043】
【表1】
JP0005435422B2_000002t.gif
【実施例】
【0044】
また、発情同期化処置時の卵巣および内分泌所見の推移を図2に示す。いずれの試験区でも、処置開始直後から黄体は急速に大きさを減じ、さらに日数経過に伴い縮小した。プロゲステロン(P)濃度は、黄体直径の推移と一致して経時的に低下した。なお、CIDR留置中は1ng/ml以上の機能的な濃度で推移した。CIDR留置中の黄体直径ならびにPの推移は試験区間で差はなかった。CIDR抜去後はいずれの区でも、翌日に1ng/ml以下の低濃度まで急激に低下した。
【実施例】
【0045】
処置開始時に存在していた直径10mm以上の卵胞、すなわち主席卵胞は、処置開始後いずれの試験区でも退行を開始し、日数の経過とともに縮小した。それと相反して新たな卵胞の発育が認められ、処置開始後4日目以降は10mm以上の直径に達し、主席卵胞として発育を継続した。発情ホルモンであるエストラジオール17β(E2β)は処置開始時は低濃度であったが、新たな卵胞の発育に伴って緩徐に上昇した。CIDR留置期間中の主席卵胞群の推移ならびにE2βの推移は試験区間で差はなかった。各試験区ともCIDR抜去後にE2β濃度は大きく上昇し、抜去後1~2日目にピークに達した。また、このピーク日は発情日と一致していた。
【実施例】
【0046】
続いて、発情同期化処置後の卵巣および内分泌所見の推移を図3に示す。CIDR抜去後、主席卵胞は発育を継続し、発情日には15mm前後の大きさに達した。さらに、発情翌日に卵胞は排卵により消失した。これら卵胞の変化と一致してE2βは上昇し、発情日にはピーク濃度に達した。その後、E2βは急速に低下し、排卵後である発情後2日目には4pg/ml以下の低濃度となった。
【実施例】
【0047】
発情後2日目には、排卵部位に新たな黄体の形成が認められ、黄体は日数経過に伴い発育増大した。さらに黄体の発育と一致してP濃度は上昇し、発情後5日目以降は1ng/ml以上の機能的な濃度に達した。なお、前発情周期中に退行していた黄体は観察期間中を通じてさらに緩徐に縮小した。
【実施例】
【0048】
黄体の出現と同時期に新たな卵胞の発育が認められ、発情後5日目には直径は約10mm以上に達した。この10mm以上に発育する時期に卵胞の主席化を反映して一過性にE2β濃度は上昇した。
【実施例】
【0049】
排卵後の卵巣上構造物ならびに内分泌学的変化、すなわち黄体および主席卵胞の発育ならびにP、E2βの推移は各試験区で差は認められなかった。
【実施例】
【0050】
上記試験では、全試験区において処置終了(CIDR抜去)後2日目を中心として乗駕許容行動を伴う明瞭な発情が発現し、発情同期化率は100%と極めて優良な結果が得られた。従来法におけるウシの発情同期化率は70~100%であることが報告されており、今回の試験結果は、本法が従来法と同等以上の発情同期化効果を有する手法であることを示した。
【実施例】
【0051】
各試験区で処置終了から発情発現までの時間に有意な差はなく、処置開始から発情発現までの期間はCIDRの留置期間に依存していた。すなわち、本手法はCIDRの留置期間を調整することで発情同期化処置開始から発情の同期化日までの期間を人為的に設定でき、かつ高精度に発情を同期化できる手法であることが証明された。
【実施例】
【0052】
発情発現までの時間は、個体間で有意(P<0.01)な差が認められ、個体の違いに大きく依存していた。発情は、急激な黄体の退行、主席卵胞の発育とそれに続く発情卵胞としての成熟などの一連の組織変化を反映した内分泌学的変化に基づく情動行動である。また、発情同期化処置における薬物の作用点は卵巣上構造物であることから、個体間の差は薬物に対する卵巣組織の感受性やその後の卵巣反応が異なることに起因すると推測される。【0053】
発情同期化処置中の黄体に関する臨床内分泌学的所見では、処置開始直後から起こる急速な縮小が顕著であった。PGの単独投与法では、投与後直ちに黄体の退行とそれを反映した急激なP濃度の低下が起こり、投与後2日目には明瞭な発情発現に必須となる1ng/ml以下まで低下することが報告されている。本試験でも、PGの単独投与法と類似した黄体の変化が観察されたことは、処置開始後の急速な黄体の縮小は主にPGの黄体退行作用によるものと推測できる。また、CIDR留置中の機能的なP濃度はCIDR由来のPを反映した結果であり、4日区でCIDR抜去翌日にはP濃度が1ng/ml以下まで低下したことは、4日目には黄体機能がすでに消失していたことを示している。すなわち、CIDR留置開始とPG投与を同時に行った場合、PGの直接作用により直ちに黄体は退行を開始し、CIDR留置の早期に黄体本来のP分泌能は消失していると推察された。従来法であるCIDR単独投与法ならびに併用法では、黄体機能を消失させる製剤としてCIDRが使用されている。一方、本手法では黄体機能を代替させる製剤として利用しており、これは従来法との大きな相違点である。
【実施例】
【0054】
発情同期化処置開始から発情までの卵胞に関する臨床内分泌学的所見では、新たな主席卵胞の持続的な発育とCIDR抜去後に起こるE2βの急激な上昇が特徴的な共通所見であった。ウシでは発情前3~4日目以降に黄体の急速な退行を反映したPの急激な低下が起こり、それが引き金となり卵胞の成熟を反映してPと拮抗するホルモンであるE2βの上昇が開始することが知られている。それらのことから、CIDR留置中はCIDR由来のPによって主席卵胞は発育を継続するのみに留まり、発情卵胞への成熟が抑制されていると推測される。
【実施例】
【0055】
発情同期化処置時の臨床内分泌学的所見から、本手法における発情同期化機序は、1)PGによる黄体退行、2)黄体退行後のCIDRによる黄体機能の代替と卵胞成熟の抑制、ならびに3)CIDR抜去による卵胞成熟抑制の解除であると考えられる。また、本手法が投与スケジュールの自由度を有することは、卵胞成熟の抑制期間がCIDR留置期間の設定により調整可能であることに基づいている。さらに、発情同期化精度の高さは、CIDR抜去から発情までの時間が主に卵胞の成熟期間に依存しており、CIDRの留置期間や黄体が退行に要する時間に大きな影響を受けないことを理由とすると考えられる。
【実施例】
【0056】
発情同期化後は、排卵、黄体形成と主席卵胞の発育ならびにそれら卵巣上構造物の変化を反映したP、E2β推移が観察された。これら一連の所見は全試験区で同等であり、正常な発情周期を営む黒毛和種雌牛における一般的な変化に一致していた。そのことから、発情同期化処置後の卵巣機能はほぼ正常に推移し、異常は認められない。
【実施例】
【0057】
本方法の日本短角種における有効性の検討
東北農業研究センターで飼養されている日本短角種の未経産牛延べ30頭ならびに経産牛延べ8頭を用いた。
【実施例】
【0058】
牛1頭あたり、黄体期に黄体退行薬(PG)として、プロスタグランジンF2α類縁体製剤であるエストラメイト(ナガセ医薬品販売会社)2ml、すなわちクロプロステノール0.5mgを筋肉内に注射投与した。また同時に腟内留置型黄体ホルモン製剤として、CIDR(controlled intravaginal drug releasing device, InterAg社, Hamilton, New Zealand)を腟内に留置した。試験区として、CIDRの腟内留置期間により以下の3区に分けた:1)96時間(4日区、未経産牛8頭および経産牛2頭)、2)144時間(6日区、未経産牛14頭および経産牛3頭)、3)192時間(8日区、未経産牛8頭および経産牛3頭)。
【実施例】
【0059】
発情同期化効果について、各区において留置期間後にCIDRを抜去し、その後、行動観察および発情発見器具により、発情発現の有無と発現開始時間を調べた。また、受胎性を調べるため、一部の試験牛では、自然交配、人工授精または胚移植を行い、その後の受胎性を調べた。自然交配は発情を同期する予定日前後に試験牛群と日本短角種の種雄牛を混牧または同居させることにより行い、人工授精は発情日に日本短角種の凍結精液を用いて行った。また、胚移植は発情後約7日目に黒毛和種雌牛から採取した凍結胚を用いて行った。受胎の確認は発情後30日目以降に直腸検査および超音波画像診断により行った。
統計解析はHarveyの最小自乗分散分析により行い、発情同期化成績を試験区間で比較検討した。
【実施例】
【0060】
発情同期化成績を表2に示す。未経産牛8日区および経産牛の全試験区では全頭で発情が発現した。未経産牛4日区および6日区での発情発現率はそれぞれ87.5%および85.7%であった。全平均では95.5%の発情発現率を示し、いずれの発情でも乗駕許容行動が認められた。発情牛群におけるCIDRの抜去から発情開始までの時間は、全平均で42.2時間(約1.8日)であった。
分散分析の結果、発情発現率ならびに抜去から発情開始までの時間は試験区間で差は認められなかった。
【実施例】
【0061】
【表2】
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【実施例】
【0062】
また、受胎成績を表3に示す。発情が発現した牛群において自然交配(n=5)、人工授精(n=6)ならびに胚移植(n=10)を実施した結果、それぞれ2、4ならびに2頭で受胎が確認された。
【実施例】
【0063】
【表3】
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【実施例】
【0064】
本試験では95.5%の発情同期化率が得られ、CIDR抜去後約42時間目を中心として乗駕許容行動を伴う明瞭な発情が発現した。日本短角種より薬物感受性が高いと考えられる黒毛和種において、従来法による報告では発情同期化率は70~100%である。この黒毛和種での報告と比較しても、今回の試験結果は十分な発情同期化効果を示しており、発情同期化成績は良好であった。また実施例1で得られた黒毛和種の成績と比較しても、発情発現率ならびにCIDR抜去から発情発現までの時間に有意な差はなかった。それらのことから、本手法は日本短角種においても有効な発情同期化法であることが示された。
【実施例】
【0065】
受胎試験では全ての妊娠誘起法で受胎例が得られた。本試験での自然交配による受胎成績はそれほど優れていないが、人工授精での受胎率は他品種での一般的な受胎率と同等であった。また胚移植での受胎は、日本短角種を受胚牛として黒毛和種胚の移植に成功した事例として、本手法の意義は大きい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明により、ウシにおいて効果的かつ高精度に発情を発現させることができる発情同期化方法が提供される。本発情同期化方法は、処置から発情同期日までの期間に柔軟性があり、発情管理の効率化や省力化に寄与するものである。また本発情同期化方法を利用することで、効率的に低コストでウシを繁殖することが可能となるため、本発明は、特に獣医臨床繁殖分野および家畜繁殖分野において有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2