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明細書 :光学活性な3-オキサビシクロ[3.3.0]オクタン骨格を有する化合物およびその使用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4621904号 (P4621904)
公開番号 特開2005-082559 (P2005-082559A)
登録日 平成22年11月12日(2010.11.12)
発行日 平成23年2月2日(2011.2.2)
公開日 平成17年3月31日(2005.3.31)
発明の名称または考案の名称 光学活性な3-オキサビシクロ[3.3.0]オクタン骨格を有する化合物およびその使用
国際特許分類 C07D 307/93        (2006.01)
A01N  43/12        (2006.01)
A01P  19/00        (2006.01)
FI C07D 307/93
A01N 43/12 A
A01P 19/00
請求項の数または発明の数 8
全頁数 23
出願番号 特願2003-318779 (P2003-318779)
出願日 平成15年9月10日(2003.9.10)
審査請求日 平成18年8月9日(2006.8.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】若村 定男
【氏名】秋野 順治
【氏名】安居 拓恵
【氏名】安田 哲也
【氏名】深谷 緑
【氏名】小野 裕嗣
【氏名】河野 務
【氏名】清末 義信
【氏名】楢原 稔
個別代理人の代理人 【識別番号】100102842、【弁理士】、【氏名又は名称】葛和 清司
【識別番号】100102842、【弁理士】、【氏名又は名称】葛和 清司
【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】早乙女 智美
参考文献・文献 特開平11-80039(JP,A)
Yasuhiro Takahashi et al.,Synthesis of (±)-desepoxy-4,5-didehydromethylenomycin A,Chemistry Letters,1982, (6), p.815-816
調査した分野 C07D 307/00-307/94
A01N 43/08
CA/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
式I
【化1】
JP0004621904B2_000018t.gif
式中、Rはメチル基であり、Rは式II
【化2】
JP0004621904B2_000019t.gif
で表される基であり、破線部を含む二重結合は、単結合であることができる
で表される化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物1、2および3:
【化3】
JP0004621904B2_000020t.gif

【請求項3】
ゴマダラカミキリ雌成虫の鞘翅のエーテル抽出物の酢酸エチル画分に含まれる成分を含むゴマダラカミキリの性刺激剤であって、前記酢酸エチル画分に含まれる成分としては、請求項2に記載の化合物3を含む、ゴマダラカミキリの性刺激剤。
【請求項4】
請求項2に記載の化合物1および2、ヘプタコサン、ノナコサン、4-メチルヘキサコサン、4-メチルオクタコサン、9-メチルヘプタコサン、9-メチルノナコサン、15-メチルヘントリアコンタン、15-メチルトリトリアコンタン、10-ヘプタコサノン、(Z)-18-ヘプタコセン-10-オン、(18Z,21Z)-18,21-ヘプタコサジエン-10-オンおよび(18Z,21Z,24Z)-18,21,24-ヘプタコサトリエン-10-オンからなる群からの1種または2種以上をさらに含む、請求項3に記載のゴマダラカミキリの性刺激剤。
【請求項5】
請求項3または4に記載のゴマダラカミキリの性刺激剤を有効成分として含む、ゴマダラカミキリ防除材。
【請求項6】
さらに殺虫活性成分を含む、請求項5に記載のゴマダラカミキリ防除材。
【請求項7】
ゴマダラカミキリの性刺激剤を塗布したゼラチンカプセル、ガラス片、金属片またはプラスチック片を含む、請求項5または6に記載のゴマダラカミキリ防除材。
【請求項8】
ゴマダラカミキリの性刺激剤を含浸した不撚布またはスポンジ状物体を含む、請求項6に記載のゴマダラカミキリ防除材。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、3-オキサビシクロ[3.3.0]オクタン骨格を有する化合物およびその使用に関し、とくに該化合物を有効成分として含むゴマダラカミキリの防除あるいは発生予察のために有効な性刺激剤等の生理活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性体は、生命科学分野において極めて重要な研究材料である。なぜなら、生態に関与する酵素や受容器は、一般にエナンチオ選択的に反応するからである。
したがって、天然型鏡像体のみならず、その対掌体やジアステレオマーを用いることによって、特定の生理活性物質を受容する受容器と活性物質との相互作用の立体選択性に関する知見を得ることができる。
【0003】
しかしながら、光学活性体を高純度で合成することは必ずしも容易ではない。したがって、ある特定の光学活性体に対して、極力少ない工程数によって該光学活性体を合成することが常に希求されている。
【0004】
前記のような少ない工程数による光学活性体の合成においては、その前駆体としての他の光学活性体が必須である。
例えば、抗腫瘍活性物質の一種であるサルコマイシンの合成は、シクロサルコマイシンを用いることによって、下記のように簡便に行えることが知られている。
【化4】
JP0004621904B2_000002t.gif

【0005】
また、抗生物質であるメチレノマイシンやそのエピマーであるエピメチレノマイシンの合成においても、光学活性体が用いられる。
【0006】
上記は前駆体としての光学活性体を用いることによる、目的物である光学活性体を合成する合成例である。しかしながら、上記のような前駆体としての光学活性体自体の合成が困難である場合には、このような光学活性体の簡便な合成は行い得ない。前記シクロサルコマイシンを用いたサルコマイシンの合成においても、シクロサルコマイシンは多段階の化学合成によってのみ得られているのが現状である
【0007】
一方、特定の光学活性体が、生物によって生合成されていることが知られている。昆虫の各種フェロモン成分がその例である(非特許文献1)。
しかしながら、生合成された光学活性体の合成量は極めて微量であることが多い上に、その構造が複雑であるため、生物活性を有する光学活性体の前駆体として用い得る光学活性体を見いだすことは、必ずしも容易ではない。
【0008】
以上のとおり、医薬、農薬分野等において、新たな光学活性体に対する多大なるニーズが存在している反面、そのニーズを満たすに足る、新たな光学活性体の供給はなされていないのが現状である。
【0009】
一方、最近多くの害虫について、性フェロモンの化学構造が明らかにされ、誘引性の性フェロモンを用いて害虫の発生消長調査や交信撹乱法などによる害虫防除が実施されるようになっている。
【0010】
フェロモンを利用した害虫防除法は、該フェロモンによって防除対象害虫を誘殺あるいは正常な生殖行動を攪乱することによって対象害虫を防除するものである。該方法は、対象害虫以外の生物に対する安全性の面等において、優れた方法である。
【0011】
フトカミキリ亜科に属するゴマダラカミキリは、幼虫が柑橘類やプラタナスなど多種の木本植物の幹部及び地下部に食入して形成層付近を食害すると共に羽化した成虫が茎葉部を食害することによって、樹勢を著しく弱め、枯死に至らしめることも珍しくない、これらの植物に対する大害虫である。しかもゴマダラカミキリは、発生時期が数ヶ月と長期にわたる上、産卵が樹皮下になされるので殺虫剤による防除が困難である。また、果樹や街路樹に対する殺虫剤の使用には多くの制限がある。従って、ゴマダラカミキリを効果的に防除するためにも、殺虫剤に代わる新たな防除手段を開発する必要があり、フェロモンはゴマダラカミキリ防除の有効な資材になる可能性がある。
【0012】
ゴマダラカミキリに関しては、本出願人らの出願による15-メチルヘントリアコンタンおよび/または4-メチルオクタコサンを活性成分として含有する性刺激剤に係る発明が特許第3079259号として、既に特許付与されている(特許文献1)。
また、これら以外の炭化水素類、すなわち、ヘプタコサン、ノナコサン、4-メチルヘキサコサン、9-メチルヘプタコサン、9-メチルノナコサンおよび15-メチルヘントリトリアコンタンならびに10-ヘプタコサノン等も、ゴマダラカミキリ雌性フェロモンの成分であることが明らかになっている(例えば特許文献2)。
【0013】
しかしながら、ゴマダラカミキリの雌性フェロモンは、上記活性成分以外にも活性成分を含むものであると考えられていた。したがって、該未同定成分の特定、およびそれらの合成方法の確立が望まれていた。
【0014】

【特許文献1】特開平11-80039
【特許文献2】特願2002-064763明細書
【非特許文献1】森謙治、「生物活性天然物の不斉合成」、化学と生物、1994年、第32巻、第2号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の課題は、上記各問題点に鑑み、新規な光学活性体を提供すること、およびゴマダラカミキリの性刺激剤のための新規化合物およびそれを用いた性刺激剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意研究を行う中で、ゴマダラカミキリの雌性フェロモンが3つの化合物群によって構成され、驚くべきことに、その1群には極めて特徴的な光学活性な新規化合物群が含有されていることを見出し、当該物質の同定に成功するとともに、それらがゴマダラカミキリに対する優れた性刺激活性を有することを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、式I
【化5】
JP0004621904B2_000003t.gif
式中、Rはメチル基であり、Rは式II
【化6】
JP0004621904B2_000004t.gif
で表される基であり、破線部を含む二重結合は、単結合であることができる、
で表される化合物に関する。
【0018】
らに、本発明は、化合物1、2および3に関する:
【化7】
JP0004621904B2_000005t.gif

【0019】
また、本発明は、前記化合物3を有効成分として含む、ゴマダラカミキリの性刺激剤に関する。
さらに、本発明は、前記化合物1および2、ヘプタコサン、ノナコサン、4-メチルヘキサコサン、4-メチルオクタコサン、9-メチルヘプタコサン、9-メチルノナコサン、15-メチルヘントリアコンタン、15-メチルトリトリアコンタン、10-ヘプタコサノン、(Z)-18-ヘプタコセン-10-オン、(18Z,21Z)-18,21-ヘプタコサジエン-10-オンおよび(18Z,21Z,24Z)-18,21,24-ヘプタコサトリエン-10-オンからなる群からの1種または2種以上をさらに含む、前記ゴマダラカミキリの性刺激剤に関する。
【0020】
またさらに、本発明は、前記ゴマダラカミキリの性刺激剤を有効成分として含む、ゴマダラカミキリ防除材に関する。
また、本発明は、さらに殺虫活性成分を含む、前記ゴマダラカミキリ防除材に関する。
さらに、本発明は、ゴマダラカミキリの性刺激剤を塗布したゼラチンカプセル、ガラス片、金属片またはプラスチック片を含む、前記ゴマダラカミキリ防除材に関する。
そして、本発明は、ゴマダラカミキリの性刺激剤および殺虫活性成分を含浸した不撚布またはスポンジ状物体を含む、前記ゴマダラカミキリ防除材に関する。
【0021】
式Iの化合物は、合成することが可能であるため、光学活性な生理活性物質の前駆体またはリード化合物として極めて有用である。
とくに、式Iの化合物群には昆虫の体表物質が包含されているため、外敵からの防御物質、例えば制菌性物質、抗菌性物質、忌避物質が包含されている可能性がある。
また、式Iの化合物は前記サルコマイシンと構造的に類似しているため、抗生物質としての活性を有することが期待される。
【0022】
さらに、式Iの化合物群にはゴマダラカミキリの性刺激活性化合物が包含されているところ、自然界にはある光学活性体の鏡像異性体またはジアステレオマーが、より高い活性を有する場合、当該化合物の活性を阻害する活性を有する場合、他の類縁種に対する同様な活性を有する場合等があることが知られている。
すなわち、式Iの化合物は、光学活性な生理活性物質の前駆体またはリード化合物として極めて有用である。
【0023】
本発明者らは、ゴマダラカミキリの雄成虫に対して顕著な活性を有する成分を雌成虫から抽出分画し、前記のとおり活性画分が3群あることを同定し、該活性画分の1群に含有される成分数を特定した上で、前記活性化合物はいずれも前記15-メチルヘントリアコンタンおよび4-メチルオクタコサンより極性が高く、複雑な構造を有する化合物であったため、MS、NMRおよび微量化学反応等を用いて、前記1群に含有される全活性化合物の構造を特定した。その結果、本発明者らは、光学活性な新規化合物である前記化合物1、2および3を見出した。
【0024】
さらに本発明者らは、前記化合物1、2および3が、ゴマダラカミキリ雄に顕著な活性を示すことを確認し、また、前記3群のうちの2群以上を含むもの、とくに3群の全てを含む性刺激剤(組成物)が、いずれかの群の成分を欠いたものより雄成虫に対する活性が遙かに優れたものであることを見出した。
【0025】
すなわち、本発明者らは、ゴマダラカミキリ防除に関する上記事情に鑑み、ゴマダラカミキリの性フェロモンの研究を行い、雄に対して顕著な活性を有する新たな成分をゴマダラカミキリの雌成虫から抽出・同定した。
【0026】
本発明は、上記の通り、ゴマダラカミキリの接触性フェロモン物質の探求を端緒として、構造の全く予見し得ない一群の化合物の存在を確認し、該化合物の単離、構造解析の結果、これらの化合物が産業上有用な3-オキサビシクロ[3.3.0]オクタン骨格を有する物質であることを見いだしたものである。すなわち、本発明は、ゴマダラカミキリの体表物質を抽出することによって、高付加価値な光学活性体の供給を可能ならしめたものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明の式Iの化合物によれば、高付加価値を有する光学活性な生理活性物質の前駆体またはリード化合物を極めて簡便に得ることができる。
また、本発明の式Iの化合物のうち、Rがメチル基であり、Rが式II
【化8】
JP0004621904B2_000006t.gif
であるものは、より高い生物活性を有する。したがって、該化合物によれば、より高い付加価値を有する光学活性な生理活性物質が提供される。
【0028】
また、本発明の下記化合物:
【化9】
JP0004621904B2_000007t.gif
は、ゴマダラカミキリの性刺激活性を有するのみならず、ゴマダラカミキリの体表に存在するという特徴を有するため、前記化合物によれば、外敵からの防御物質、例えば制菌性物質、抗菌性物質、忌避物質の前駆体またはリード化合物が提供されることが期待される。
【0029】
さらに、前記化合物1、2および3からなる群の1種または2種以上を有効成分として含む、本発明のゴマダラカミキリの性刺激剤によれば、ゴマダラカミキリの生殖行動を攪乱することによってゴマダラカミキリの生息個体数を低減せしめ、ゴマダラカミキリの防除を行うことができる。しかも、本発明の前記ゴマダラカミキリの性刺激剤によれば、防除対象害虫以外の生物に対する安全性を確保したままゴマダラカミキリの防除を行うことができる。
【0030】
とくに、ヘプタコサン、ノナコサン、4-メチルヘキサコサン、4-メチルオクタコサン、9-メチルヘプタコサン、9-メチルノナコサン、15-メチルヘントリアコンタン、15-メチルトリトリアコンタン、10-ヘプタコサノン、(Z)-18-ヘプタコセン-10-オン、(18Z,21Z)-18,21-ヘプタコサジエン-10-オンおよび(18Z,21Z,24Z)-18,21,24-ヘプタコサトリエン-10-オンからなる群からの1種または2種以上をさらに含む、本発明のゴマダラカミキリの性刺激剤によれば、ゴマダラカミキリの防除をさらに一層効果的かつ安全に行うことができる。
【0031】
前記ゴマダラカミキリの性刺激剤を有効成分として含む、本発明のゴマダラカミキリ防除材によれば、ゴマダラカミキリの防除をより簡便に行うことができる。
また、さらに殺虫活性成分を含む、本発明のゴマダラカミキリ防除材によれば、ゴマダラカミキリの防除を速効的に行うことができる。
さらに、ゴマダラカミキリの性刺激剤を塗布したゼラチンカプセル、ガラス片、金属片またはプラスチック片を含む、本発明のゴマダラカミキリ防除材によれば、ゴマダラカミキリの防除をさらに簡便に行うことができる。
そして、ゴマダラカミキリの性刺激剤および殺虫活性成分を含浸した不撚布またはスポンジ状物体を含む本発明のゴマダラカミキリ防除材によれば、ゴマダラカミキリの防除を簡便かつ速効的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、式Iの新規な化合物(物質)を提供するものであり、さらに当該新規物質の1種または2種以上を活性成分(有効成分)として含有することを特徴とするゴマダラカミキリの性刺激剤およびゴマダラカミキリ防除材を提供するものである。以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0033】
前記のとおり、本発明の化合物は、式I
【化10】
JP0004621904B2_000008t.gif
式中、RおよびRは、相互に独立して、1~10個の炭素原子を有する飽和または不飽和の直鎖または分枝アルキル基であり、これらの基は置換基として水酸基を有していてもよく、そして破線部を含む二重結合は、単結合であることができる、
で表される化合物である。
【0034】
式Iの化合物のうち、Rがメチル基であるものは好ましい。また、Rが2~8個の炭素原子を有する飽和または不飽和のアルキル基であるものが好ましく、R
【化11】
JP0004621904B2_000009t.gif
であるものはとくに好ましい。
【0035】
したがって、式Iの化合物のうち、Rがメチル基であり、Rが式IIで表される基であるものは極めてとくに好ましい。
【0036】
本発明の式Iの各化合物には、ジアステレオマーおよび鏡像異性体が存在するが、本発明の化合物はこれらのジアステレオマーおよび鏡像異性体のいずれをも包含する。
したがって、Rがメチル基であり、Rが式IIで表される基である式Iの化合物は、下記化合物を包含する。
【化12】
JP0004621904B2_000010t.gif

【0037】
これらの化合物のうち、下記化合物:
【化13】
JP0004621904B2_000011t.gif
は、ゴマダラカミキリの性刺激活性を有するのみならず、ゴマダラカミキリの体表に存在するという特徴を有するため、前記化合物によれば、外敵からの防御物質、例えば制菌性物質、抗菌性物質、忌避物質の前駆体またはリード化合物が提供されるため好ましい。
【0038】
また、本発明の化合物のうち、前記化合物1、2および3は、ゴマダラカミキリ雌成虫からのエーテル抽出、カラムクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーによる分離によっても得ることができる。
【0039】
したがって、式Iの化合物は、ゴマダラカミキリの性刺激剤の成分としても用いることができる。とくに、前記化合物1、2および3からなる群の1種または2種以上を有効成分として含む、ゴマダラカミキリの性刺激剤は高活性を有するため好ましい。
【0040】
本発明のゴマダラカミキリの性刺激剤のうち、ヘプタコサン、ノナコサン、4-メチルヘキサコサン、4-メチルオクタコサン、9-メチルヘプタコサン、9-メチルノナコサン、15-メチルヘントリアコンタン、15-メチルトリトリアコンタン、10-ヘプタコサノン、(Z)-18-ヘプタコセン-10-オン、(18Z,21Z)-18,21-ヘプタコサジエン-10-オンおよび(18Z,21Z,24Z)-18,21,24-ヘプタコサトリエン-10-オンからなる群からの1種または2種以上をさらに含むものは、さらに高活性であるためより好ましい。
【0041】
本発明に係る性刺激剤の活性成分である前記化学構造を持つ化合物1、2および3を小さな物体表面に処理した場合、これにふ節や触角などで接触したあるいは近辺に存在するゴマダラカミキリの雄に対し、刺激活性を示すと共に、それを抱き込みさらに腹部末端の先端を小物体の下部に押しつけるという一連の行動を引き起こす活性を示す。この一連の行動は、生きている雌に対する行動と全く同一で区別できない。
【0042】
この活性は、例えば長さ30mm、幅10mm、高さ10mm程度の様々な物体、例えば、ゼラチンカプセルやガラス片、金属片、プラスチック片などの表面で雄成虫が接触可能な状態に処理することによって発現させることができる。
【0043】
本発明のゴマダラカミキリの性刺激剤は、有効成分である化合物1、2および3からなる群からの1種または2種以上を含むものであれば、その他の成分に特に制限はない。また、ゴマダラカミキリの性刺激剤の有効成分として化合物1、2および3からなる群からの2種以上を含む場合、それらの有効成分である化合物の含有比率も限定されない。
【0044】
本発明のゴマダラカミキリの性刺激剤の活性は、ヘプタコサン、ノナコサン、4-メチルヘキサコサン、4-メチルオクタコサン、9-メチルヘプタコサン、9-メチルノナコサン、15-メチルヘントリアコンタン、15-メチルトリトリアコンタン、10-ヘプタコサノン、(Z)-18-ヘプタコセン-10-オンからの任意の炭化水素類、および/または10-ヘプタコサノン、(Z)-18-ヘプタコセン-10-オン、(18Z,21Z)-18,21-ヘプタコサジエン-10-オン、(18Z,21Z,24Z)-18,21,24-ヘプタコサトリエン-10-オン(ケトン類)の1種または2種以上と共に併用された場合にも増強される。したがって、本発明のゴマダラカミキリの性刺激剤のうち、前記炭化水素類および/またはケトン類をさらに含むものは好ましい。
【0045】
本発明のゴマダラカミキリの性刺激剤のうち、前記炭化水素類および/またはケトン類をさらに含み、化合物1、2および3のうち化合物3のみを含むものはとくに高活性であるためより好ましい。また、本発明のゴマダラカミキリの性刺激剤のうち、化合物1、2および3を含み、前記炭化水素類および/またはケトン類をさらに含むものはさらに高活性であるためとくに好ましい。
【0046】
本発明のゴマダラカミキリの性刺激剤は、1~2雌当量の処理量においてもゴマダラカミキリ雄成虫に対して性刺激活性を示す。したがって、実防除場面において、本発明のゴマダラカミキリの性刺激剤は、当該当量範囲の処理量もしくはそれ以上の処理量での使用が好適である。
【0047】
本発明のゴマダラカミキリの性刺激剤は、化合物1、2および3からなる群からの1種または2種以上を変性させない溶媒に溶解することによって好適に用いられる。前記溶媒としては、n-ヘキサン、酢酸エチルおよびメタノール、エタノールのようなアルコール類が挙げられる。
【0048】
本発明のゴマダラカミキリの性刺激剤を有効成分として含む、ゴマダラカミキリ防除材によれば、ゴマダラカミキリの防除をより簡便に行うことができる。例えば、ゴマダラカミキリ防除材として、ゴマダラカミキリの性刺激剤を適切な溶媒(n-ヘキサン、酢酸エチル、アルコール類)に溶解して塗布した小物体(ゼラチンカプセルやガラス片、金属片、プラスチック片等)を用いた場合、該防除材をゴマダラカミキリ発生域に設置または散布することによって、雄成虫が性刺激剤を含む該防除材に長時間逗留し雌成虫との交尾の機会が減少するため、次世代の生息密度を減じることができる。
小物体の大きさは、例えば長さ約20から約30mm、幅約5~約10mm、高さ約5~10mm程度であればよい。小物体の形状は円筒状、角柱状、球状等が挙げられる。
前記ゴマダラカミキリの性刺激剤を塗付した小物体を防除対象区域に設置または散布することによって、ゴマダラカミキリを防除することができる。
【0049】
また、前記ゴマダラカミキリ防除材に殺虫活性成分をさらに塗布せしめたものを用いれば、ゴマダラカミキリの生息密度をより速効的に減じることができるため好ましい。
殺虫活性成分としては、各種合成殺虫活性成分(有機リン、カーバメート、合成ピレスロイド等)および/または生物由来の殺虫活性成分(Beauveria bassiana(白きょう病菌)等の昆虫病原糸状菌等)が挙げられる。とくに、生物由来の殺虫活性成分は、標的外生物に対する安全性が高いため好ましい。
【0050】
白きょう病菌のように、合成殺虫活性成分に比してやや速効性に劣る成分を用いる場合においても、本発明のゴマダラカミキリ防除材を用いれば、ゴマダラカミキリ雄成虫は本発明の性刺激剤の作用によって、前記防除材により長時間逗留し殺虫活性成分に曝露される時間が長くなるため、該成分の効力を十分に発揮せしめることができる。
殺虫活性成分を併用する場合には、本発明のゴマダラカミキリ防除材は、本発明のゴマダラカミキリ性刺激剤を含浸した不撚布またはスポンジ状物体であってもよく、かかる防除材によれば、ゴマダラカミキリの生息密度をより速効的かつ簡便に減じることができるため好ましい。
前記不撚布またはスポンジ状物体を含むゴマダラカミキリ防除材は、樹幹の周囲に巻くことによって、ゴマダラカミキリを防除することができる。
【0051】
次に、実施例を掲げ、活性成分物質の活性試験及び活性物質の単離と同定について詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
(実施例1)活性成分物質の単離及び同定
活性成分の追跡は、直径12mm、長さ35mmで両端を丸めたガラス棒(以下、俵型ガラス片という)の表面に塗布した試料に触れたゴマダラカミキリの雄の行動を観察する検定法によった。
野外から採集したゴマダラカミキリの雌成虫528頭分の鞘翅をエーテル800mlで3回それぞれ5分間抽出し、抽出物は合わせた。抽出物はヘキサンに転溶しシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分画し、順にヘキサンで溶出される画分(以下ヘキサン画分と記す)、10%酢酸エチルを含むヘキサンで溶出される画分(以下、10%酢酸エチル画分と記す)及び酢酸エチルで溶出される画分(以下、酢酸エチル画分と記す)を得た。
【0053】
そこで、ヘキサン画分をガスクロマトグラフ直結質量分析計(GC-MS)を用いて分析し、質量スペクトルから、ヘプタコサン、ノナコサン、4-メチルヘキサコサン、4-メチルオクタコサン、9-メチルヘプタコサン、9-メチルノナコサン、15-メチルヘントリアコンタン、15-メチルトリトリアコンタンなどの炭化水素類が含まれていることが判明した。分画された画分(各1雌当量)の活性を試験したところ、合成炭化水素類(ヘプタコサン、ノナコサン、4-メチルヘキサコサン、4-メチルオクタコサン、9-メチルヘプタコサン、9-メチルノナコサン、15-メチルヘントリアコンタン、15-メチルトリトリアコンタンの混合物)、10%酢酸エチル画分、及び酢酸エチル画分を混合することにより強い活性が認められた(表1)。
【0054】
【表1】
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【0055】
また、10%酢酸エチル画分を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分画し、GC-MS、核磁気共鳴装置(NMR)を用いた機器分析や微量化学反応を組み合わせて分析したところ、この画分には10-ヘプタコサノン、(Z)-18-ヘプタコセン-10-オン、(18Z,21Z)-18,21-ヘプタコサジエン-10-オン、(18Z,21Z,24Z)-18,21,24-ヘプタコサトリエン-10-オンなど、ケトン類が含まれていることが判明し、これらのケトン類混合物には10%酢酸エチル画分に相当する活性が認められた。
【0056】
次に、酢酸エチル画分を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析したところ、3つのピークが認められたため、それぞれのピークを分取して対応する物質を単離した。なお、HPLCにはODSカラムを用い、溶出液として52%メタノール/水から54%メタノール/水を用い、グラジエント0.2%/minであり、化合物1、2および3のリテンションタイムは、それぞれ9.15、10.8および11.2分であった。また、前記528頭のゴマダラカミキリ雌成虫から得られた化合物1、2および3の収量は約500μgであった。
【0057】
単離された物質、すなわち化合物1、2および3の活性(各1雌当量)を試験したところ、合成炭化水素類(ヘプタコサン、ノナコサン、4-メチルヘキサコサン、4-メチルオクタコサン、9-メチルヘプタコサン、9-メチルノナコサン、15-メチルヘントリアコンタン、15-メチルトリトリアコンタンの混合物)、10%酢酸エチル画分、及び化合物3あるいは化合物1、2および3を混合することにより強い活性が、合成炭化水素類、10%酢酸エチル画分、及び化合物1あるいは化合物2を混合することにより中程度の活性が認められた(表2)。
【0058】
【表2】
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【0059】
次に活性の認められた化合物1、2および3の化学構造を推定、決定するためにGC-MS、核磁気共鳴装置(NMR)、高分解能質量分析計(HR-MS)、紫外・可視分光測定装置(UV-VIS)及び円2色性測定装置(CD)を用いた機器分析を組み合わせて分析し、詳細に検討したところ、これらの化合物は前記の化学構造を持つことが判明した。これらはすべて新規物質であり、シクロペンテノン(化合物1および2)またはシクロペンタノン(化合物3)と、二重結合を有するアルコール側鎖を3位に持つ5員環ラクトンが縮環しているという特徴を持つ構造を有する下記化合物である。
【化14】
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【0060】
これらの化合物のスペクトルデータ(NMR、HR-MS、UV、CD)の一部を示す(表3~5および図1~12)。
【0061】
【表3】
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【0062】
【表4】
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【0063】
【表5】
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【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の化合物によれば、高付加価値を有する光学活性な生理活性物質の前駆体またはリード化合物を極めて簡便に得ることができる。また、本発明のゴマダラカミキリの性刺激剤および/またはゴマダラカミキリ防除材によれば、ゴマダラカミキリの防除を低コストでかつ安全に行うことができる。したがって、本発明は、医薬産業、農薬産業、害虫防除産業およびこれらの関連産業の発展に寄与するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】(1)のプロトン核磁気共鳴(HNMR)スペクトルである。
【図2】(2)のプロトン核磁気共鳴(HNMR)スペクトルである。
【図3】(3)のプロトン核磁気共鳴(HNMR)スペクトルである。
【図4】(3)の高分解質量(HR-MS)スペクトルである。
【図5】(3)の高分解質量(HR-MS)スペクトルである。
【図6】(3)の高分解質量(HR-MS)スペクトルである。
【図7】(1)の紫外吸収(UV)スペクトルである。
【図8】(2)の紫外吸収(UV)スペクトルである。
【図9】(3)の紫外吸収(UV)スペクトルである。
【図10】(1)のCD(円2色性)スペクトルである。
【図11】(2)のCD(円2色性)スペクトルである。
【図12】(3)のCD(円2色性)スペクトルである。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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