TOP > 国内特許検索 > 合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体への曝露の検出方法 > 明細書

明細書 :合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体への曝露の検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5757519号 (P5757519)
公開番号 特開2012-173061 (P2012-173061A)
登録日 平成27年6月12日(2015.6.12)
発行日 平成27年7月29日(2015.7.29)
公開日 平成24年9月10日(2012.9.10)
発明の名称または考案の名称 合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体への曝露の検出方法
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/544       (2006.01)
FI G01N 33/53 Q
G01N 33/53 J
G01N 33/544 Z
請求項の数または発明の数 5
全頁数 10
出願番号 特願2011-033755 (P2011-033755)
出願日 平成23年2月18日(2011.2.18)
審査請求日 平成26年2月17日(2014.2.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
発明者または考案者 【氏名】川本 俊弘
【氏名】吉田 安宏
【氏名】一瀬 豊日
個別代理人の代理人 【識別番号】100099508、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 久
【識別番号】100139262、【弁理士】、【氏名又は名称】中嶋 和昭
審査官 【審査官】赤坂 祐樹
参考文献・文献 特開2006-220518(JP,A)
特開2003-149242(JP,A)
調査した分野 G01N 33/53-33/68
特許請求の範囲 【請求項1】
(a)タンパク質上の官能基と結合可能な2以上の反応性基を有する合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体と、血清タンパク質とを接触させて両者を反応させ、前記合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体が前記血清タンパク質上の2以上の官能基と反応し結合した診断抗原を作製する工程において、前記合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体と前記血清タンパク質とを複数の互いに異なる反応条件下で接触および反応させ、1つの前記合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体あたり複数の診断抗原を作製する工程と、
(b)被験者から採取した血清サンプルと前記診断抗原とを接触させ、前記診断抗原に特異的な抗体の前記診断抗原への結合量を測定する工程とを有することを特徴とする合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体への曝露の検出方法。
【請求項2】
前記工程(b)において、前記複数の前記診断抗原と前記血清サンプルとを接触させ、複数の前記診断抗原に特異的な抗体の前記診断抗原への結合量を一度に測定することを特徴とする請求項記載の検出方法。
【請求項3】
前記診断抗原の作製において、前記合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体と前記血清タンパク質とをモル比1~10,000:1で接触させることを特徴とする請求項1または2記載の検出方法。
【請求項4】
前記工程(a)において、前記合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体と、前記血清タンパク質の水溶液とを油水二相系で接触させることを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の検出方法。
【請求項5】
前記血清タンパク質が血清アルブミンであることを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の検出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体への曝露を検出する方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我々は、多くの合成樹脂(プラスチック)製品に囲まれて生活している。樹脂自体は高分子量の固体状の有機化合物であり、揮発性も有しないため、呼吸や接触により体内に吸収される可能性は低いが、合成樹脂製品には、未反応の原料モノマー、中間体であるオリゴマー、反応溶媒等が残留している場合があり、これらの幾分かは体内に取り込まれ、何らかの健康障害に関与している可能性が示唆されている。また、合成樹脂の生産現場において、作業者は、原料モノマー、オリゴマー、重合開始剤および添加剤等の多くの揮発性有機化合物の存在下で作業を行っており、これらによって引き起こされる職業性アレルギーも問題となっている。
【0003】
しかしながら、現時点では合成樹脂原料モノマーや、オリゴマー等の合成樹脂前駆体がどの程度体内に摂取されているのかを推定する方法は皆無である。それは体内にごく微量摂取されたこれらの成分を直接測定することが困難であり、またその曝露指標(マーカー)も存在しないためである。
【0004】
そこで、対象化学物質をハプテンとして用い、架橋剤によりKLM(Keyhole Light Hemocyanin)やOVA(Ovalbumin)等のキャリアータンパク質に付加し、化学物質そのものに対する患者血清中の化学物質特異的IgE、IgGを測定して、当該化学物質に対する感作の有無を調べる方法が採用されてきた。例えば、非特許文献1には、トルエンに感受性を有する患者において、ヒト血清アルブミンに結合させたp-アミノ安息香酸に対するT-細胞抗原結合分子のレベルの上昇が観測され、化学物質ハプテンに対するT-細胞抗原結合分子の測定が、化学物質に対する感受性の評価に有効である可能性を有することが記載されている。
【0005】
また、特許文献1には、(a)血清アルブミンと非共有結合的に複合体化させた標的抗原を提供して、標的抗原-血清アルブミン複合体を提供する工程と、(b)該標的抗原-血清アルブミン複合体を、該標的抗原-血清アルブミン複合体が、該サンプル中に存在する該標的抗原に対する1つ以上の抗体に結合するのに適切な条件下および充分な時間該サンプルと接触させ、抗体結合複合体を提供する工程、および(c)該抗体結合複合体を検出し、そしてそこから該サンプルが該標的抗原の該抗体を含有するか否かを決定する工程を含む、サンプル中の標的抗原に対する抗体の検出のためのアッセイ方法が開示されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特表2001-502803号公報
【0007】

【非特許文献1】Little CH, et al. Clinical and Immunological Responses in Subjects Sensitive to Solvents. Arch. Environ. Health, 54: 6-14, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、合成樹脂原料であるモノマーや、合成樹脂合成の中間体であるオリゴマーは高い反応性を有しており、生体内に摂取されると、血清タンパク質等と速やかに結合し、反応性の官能基はその殆どが結合形成のために消費されると考えられる。そのため、化学物質をハプテンとして用いている非特許文献1記載の方法では、合成樹脂原料モノマーやオリゴマーに対する感受性を特異的に評価できない可能性がある。また、特許文献1記載のアッセイ方法においては、単一抗原を用いて化学物質に対する感受性を測定している。しかしながら、合成樹脂原料と生体内タンパク質との結合様式により、結合に伴うタンパク質の3次構造変化は単一ではなく、様々な変性自己タンパク質が形成される。そのため変性自己タンパク質は単一ではなく、多数存在し、したがってそれを認識する抗体も単一ではないと考えられる。またヒト(個体)により産生される抗体も異なっていることが十分予想される。逆に、先行研究のような特定の化学物質に対する特異的抗体が産生されるのではなく、異なる合成樹脂原料でも結合するアミノ酸部位の組合せが同じならば3次構造の変化はほぼ等しく、それゆえ異なる合成樹脂原料または前駆体に曝露を受けていても、一つの抗体が交差反応を示すと考えられる。したがって、単一抗原を用いた測定では実際の合成樹脂原料モノマーまたは前駆体への曝露の有無を判定するには不十分である。
【0009】
さらに、特許文献1において、実施例において検証されているのは、HCV(ヒトC型肝炎ウィルス)、HIV-1(ヒト免疫不全ウィルス)、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウィルス)等のウィルスタンパク質に対する特異的抗体の検出のみであって、化学物質に対する特異的抗体の検出への適用可能性は必ずしも明らかではない。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体オリゴマーによる変性血清タンパク質に対する一群の特異的抗体を包括的かつ半定量的に検出することにより合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体への曝露を検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
2つ以上の反応性基を有する合成樹脂原料モノマーや合成樹脂前駆体であるオリゴマーは非常に高い反応性を有するため、体内でタンパク質中の離れた2個以上のアミノ酸残基と共有結合を形成し、あるいは複数のタンパク質同士を架橋することにより、僅かな量でもタンパク質の3次構造に変化を与える。この3次構造変化した生体内タンパク質は免疫システムから非自己タンパク質と認識され、合成樹脂原料または前駆体の曝露を受けたヒトの体には3次構造変化(変性)した生体内タンパク質に対する抗体が産生されると考えられる。そこで本発明者は、この変性自己タンパク質に対する抗体を測定することにより、合成樹脂原料への曝露量を推測できると考え、鋭意検討を重ねることにより、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記の(1)~()に記載の合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体への曝露の検出方法を提供するものである。
(1) (a)タンパク質上の官能基と結合可能な2以上の反応性基を有する合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体と、血清タンパク質とを接触させて両者を反応させ、前記合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体が前記血清タンパク質上の2以上の官能基と反応し結合した診断抗原を作製する工程において、前記合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体と前記血清タンパク質とを複数の互いに異なる反応条件下で接触および反応させ、1つの前記合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体あたり複数の診断抗原を作製する工程と、
(b)被験者から採取した血清サンプルと前記診断抗原とを接触させ、前記診断抗原に特異的な抗体の前記診断抗原への結合量を測定する工程とを有する合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体への曝露の検出方法。
(2) 前記工程(b)において、前記複数の前記診断抗原と前記血清サンプルとを接触させ、複数の前記診断抗原に特異的な抗体の前記診断抗原への結合量を一度に測定する上記()記載の検出方法。
(3) 前記診断抗原の作製において、前記合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体と前記血清タンパク質とをモル比1~10,000:1で接触させる上記(1)または(2)記載の検出方法。
(4) 前記工程(a)において、前記合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体と、前記血清タンパク質の水溶液とを油水二相系で接触させる上記(1)から()のいずれか1項記載の検出方法。
(5) 前記血清タンパク質が血清アルブミンである上記(1)から()のいずれか1項記載の検出方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体オリゴマーによる変性血清タンパク質に対する一群の特異的抗体を包括的かつ半定量的に検出可能な合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体への曝露の検出方法が提供される。本発明の合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体(以下、「合成樹脂前駆体」と略称する。)への曝露の検出方法では、合成樹脂原料をハプテンとして用いる代わりに、合成樹脂前駆体との結合により3次構造が変化した血清タンパク質を診断抗原として用い、それに対する特異的抗体を曝露指標(マーカー)として用いることにより、合成樹脂前駆体への曝露の測定が可能になる。特に、診断抗原の作製において、合成樹脂前駆体と血清タンパク質とを複数の反応条件下で接触および反応させ、1つの合成樹脂前駆体あたり複数の診断抗原を作製し、それらに対する特異的抗体の定量を一度に行うことにより、反応条件の違いや個人差により、単一の合成樹脂前駆体について様々な特異的抗体が産生されるような場合についても、合成樹脂前駆体への曝露を包括的に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】被験者の血清サンプルを用いたウェスタンドットブロットの結果を示す写真である。
【図2】ヒトIgGの濃度とウェスタンドットブロットの発光強度との関係を示す写真である。
【図3】ヒトIgGの濃度とウェスタンドットブロットの発光強度との関係を示すグラフである。
【図4】被験者群における診断抗原特異的IgG濃度の測定値をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施の形態に係る合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体への曝露の検出方法(以下、「検出方法」と略称する場合がある。)は、下記の工程(a)および(b)を含んでいる。
(a)タンパク質上の官能基と結合可能な2以上の反応性基を有する合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体と血清タンパク質とを接触させて両者を反応させ、合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体が血清タンパク質上の2以上の官能基と反応し結合した診断抗原を作製する工程
(b)被験者から採取した血清サンプルと上記工程(a)で作製した診断抗原とを接触させ、血清サンプル中に存在する、診断抗原に特異的な抗体の前記診断抗原への結合量を定量する工程
以下、各工程についてより詳細に説明する。

【0016】
診断抗原の作製に用いる合成樹脂原料モノマーは、タンパク質上の官能基と結合可能な2以上の反応性基を有するものであれば、任意のものを制限なく用いることができる。合成樹脂原料モノマーの例としては、縮重合によりポリマーを形成する熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂の原料となるモノマーが挙げられ、より具体的には、エピクロロヒドリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のポリフェノール類、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸等のジカルボン酸ならびにこれらの酸無水物および酸クロリド、メラミン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、m-キシリレン-α,α-ジアミン等のポリアミン類、ヘキサメチレンジシアネート、トルエン-2,5-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物等が挙げられる。

【0017】
合成樹脂前駆体とは、前述の合成樹脂原料モノマー以外の化合物で、縮合反応により熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を形成するオリゴマーまたはプレポリマーのうち、タンパク質上の官能基と結合可能な2以上の反応性基を有するものであれば、任意のものを制限なく用いることができる。上記の条件を満たす合成樹脂前駆体の具体例としては、ノボラック、レゾール、エポキシプレポリマー、ウレタンプレポリマー等が挙げられる。また、重合開始剤や添加剤のうちタンパク質上の官能基と結合可能な2以上の反応性基を有するものも「合成樹脂前駆体」に含まれる。

【0018】
診断抗原の作製に用いることができる血清タンパク質には特に制限はないが、入手の容易性や血清中の含有量の高さ等の観点から好ましいのは血清アルブミンである。

【0019】
上述のような合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体(以下、「合成樹脂前駆体」と総称する。)と血清タンパク質とを接触させ、血清タンパク質上の複数の官能基と合成樹脂前駆体の反応性基とを共有結合させ、3次構造を変化させた診断抗原を作製する。合成樹脂前駆体と血清タンパク質の混合比は、合成樹脂前駆体の種類、分子量等にも依存するため、必ずしも一義的に決定できないが、モル比で1~10,000:1であることが好ましい。合成樹脂前駆体の血清タンパク質に対するモル比が1:1を下回ると、血清タンパク質への結合量が不十分となり、逆に10,000:1を超えると、合成樹脂前駆体の濃度が高くなりすぎ、1つの血清タンパク質分子に複数の合成樹脂前駆体が結合したりするために、所望の診断抗原が得られなくなる。

【0020】
両者の混合の際の温度、水溶液のpH等の混合条件は、合成樹脂前駆体および血清タンパク質の種類等に応じて適宜決定される。混合時の温度は室温でもよいが、必要に応じて、例えば30~40℃程度に加熱してもよく、0~10℃程度に冷却してもよい。また、混合時に用いる水溶液のpHは、血清タンパク質が変性を起こさない任意の値であってよく、例えば、5以上11以下である。

【0021】
両者の混合は、均一系および不均一系のいずれで行ってもよく、固相系、液相系、固液2相系のいずれで行ってもよい。合成樹脂前駆体は脂溶性であり、血清タンパク質は水溶性であるため、前者を有機溶媒、後者を水に溶解し、あるいは前者を後者の水溶液に加え激しく撹拌しながら不均一系(油水2相系)で接触させることが好ましい。接触面積を大きくするために超音波を印加してもよく、界面活性剤を添加してエマルション(W/O型およびO/W型のいずれであってもよい)状態で混合を行ってもよい。あるいは、アルコール系溶媒、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の水溶性有機溶媒を用いることにより、水-有機溶媒混合系からなる均一系で混合を行ってもよい。

【0022】
被験者(合成樹脂前駆体の曝露を受けたヒトまたは動物)の体内における反応条件の違いや個体差により様々な抗原タンパク質が生成する状況を再現するために、これらの反応条件を系統的に変化させた複数の条件下で平行して接触を行い、複数の診断抗原を作製することが好ましい。例えば、両者の混合比(モル比)、温度、血清タンパク質の溶媒として用いられる水溶液のpHについて、それぞれ、上記範囲内の複数の値を適宜選択し、組み合わせることができる。

【0023】
このようにして作製された診断抗原を用いて、被験者から採取された血清タンパク質と接触させ、診断抗原に対し特異性を有する抗体の結合量を測定する。抗体の結合量の測定には、免疫染色法、電気化学発光(ECL)法等の任意の公知の方法を用いることができる。

【0024】
以下、測定方法の一例について述べる。まず、診断抗原を、ニトロセルロース膜やPVDF膜等の基材上に吸着させる。これに、被験者から採取後適当な倍率に希釈した血清サンプルを接触させ、所定の条件下で抗原抗体反応を起こさせる。血清サンプルの希釈に用いる希釈溶液としては、生理食塩水、リン酸緩衝液等を適宜用いることができる。

【0025】
希釈率は100~1000倍が好ましく、200~500倍がより好ましい。診断抗原に特異性を有する抗体が血清サンプル中に存在する場合、基材上に固定された診断抗原に特異的に結合する。

【0026】
診断抗原への特異的抗体の結合を検出するために、診断抗原-抗体複合体に、標識された二次抗体を接触させる。二次抗体としては抗ヒトIgG、抗ヒトIgM、抗ヒトIgA、抗ヒトIgE等を用いることができる。標識としては、フルオレセイン、FITC等の蛍光標識、HRP(セイヨウワサビペルオキシダーゼ)、AP(アルカリホスファターゼ)等の酵素と発光基質との組み合わせ等が挙げられる。特異的抗体の結合量を半定量的に測定する場合には、検量線法を用いることができる。

【0027】
この際、上述のように異なる条件下で作製した複数の診断抗原について、特異的抗体の結合を検出するようにすると、反応条件の違いや個体差に左右されることなく、合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体への曝露を検出できる。また、この場合において、複数の診断抗原を、単一の基材上のそれぞれ異なる位置に吸着させておくと、それらに対する特異的抗体の結合を一度に測定することができるためより好ましい。また、複数の診断抗原に対する測定結果を比較検討し、感度や誤判定の確率等を検討の上、最適な診断抗原の作製条件および測定に使用される1または複数の診断抗原の選別を行うことができる。
【実施例】
【0028】
(1)材料および使用機器
血清タンパク質として、ヒト血清アルブミン(HSA、和光純薬またはSigma社製)を用いた。診断抗原を作製するための合成樹脂前駆体として無水フタル酸(和光純薬製)、エポキシ樹脂合成に使用されるビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE、Fluka社製)、m-キシリレン-α,α'-ジアミン(和光純薬製)、n-ブチルグリシジルエーテル(和光純薬製)、Product X(企業より分与)を用いた。
【実施例】
【0029】
ウェスタンドットブロットおよびELISA法では、陽性コントロールとしてヒトIgG(Zymed社製)、検出用の2次抗体としてビオチンを結合した抗ヒトIgG、抗ヒトIgM、抗ヒトIgA(OpenBiosystem社製)、アビジン結合セイヨウワサビペルオキシダーゼ(Peprotech社製)、アビジン結合アルカリホスファターゼ(Sigma社製)、反応基質としてPNPP(Pierce社製)およびABTS(Sigma社製)を使用した。また蛍光法にはFDP(3,6-フルオレセインリン酸)、FITC結合抗ヒトIgG抗体を用いた。ドット密度の解析にはライトキャプチャー機器を用い、発光強度を数値化した。
【実施例】
【0030】
ELISA法のプレートとして、Nunc-269620、およびNunc-478042covalentプレートを用いた。検出機器として、ウェスタンドットブロットにはLight-captute cooled CCD camera system(ATTO-AE-6972)を、ELISA法における吸光度測定にはImmunomini NJ-2300(波長405nM、InterMed社製)を、蛍光測定には蛍光マイクロプレートリーダー(波長485/528mm或いは490/520nm)をそれぞれ用いた。
【実施例】
【0031】
(2)化学物質アレルギー患者からの血清サンプルの採取
産業医科大学倫理委員会の承認の下、アレルギー専門医あるいは産業医を介して、生活に関する聞き取り調査や臨床所見からエポキシ樹脂前駆体に感作されていると推定されるアレルギー患者(気管支喘息、アレルギー性皮膚炎等)20名程度を集め、インフォームド・コンセントを得たのちに、採血(約20~30mL)を行った。
【実施例】
【0032】
(3)ウェスタンドットブロット
上記4つの合成樹脂前駆体で処理したHSAを1枚のメンブランにプロットし、患者血清によるウェスタンドットブロットを行った。その結果の一例を図1に示す。白く見えているのが陽性反応である。左下の3点はヒトIgGをブロットした陽性コントロールである。
【実施例】
【0033】
患者Aの血清ではProduct Xで処理したHSAでのみ陽性反応が観察された。処理をする際のpHを7.4、8.0、9.2の3点で比較したところ、pH9.2が最も感度がよかった。なお、酸性条件下で作製した診断抗原に対しては陽性反応が見られなかった)。
【実施例】
【0034】
HSAと化学物質の混合比率をモル比で1:1から1:1000までの範囲で比較検討したところ、1:200、1:1000で反応が観察された。患者血清の希釈倍率について検討したところ(100、200、1000、2000、10000倍)、200倍希釈の感度がよかった。これらの条件検討をもとに、20名の患者血清で検討したところ、13名の陽性反応が認められた。またアレルギー症状がない患者血清7名に関しては6名がウェスタンドットブロット陰性であった(患者Cがその一例である。)。患者の中には、少数であるがBADGEに陽性を示すものもあった(患者B参照)。これらのことから、この検出システムは擬陽性を拾う可能性が比較的低く、陽性検出感度も良好な検出方法であると考えられた。
【実施例】
【0035】
(4)検量線の作成
標準曲線の作成最初に種々の濃度(25μg/mL~0.76μg/mL)のヒトIgGを標準物質としてメンブランにスポットし(各スポットは0.5μL)、抗ヒトIgG-HRP抗体で処理した後、基質と反応させ、それぞれのドットの発光強度を定量した。図2に示すように、濃度依存的に発光強度が測定できた。またスポットによる実験誤差(縦に同じ濃度をトリプリケイトでスポットしている)も少ないことが示された。各スポットの発光強度の実測値の平均値を濃度に対してプロットしたものが図3である。このグラフの近似曲線を解析するとy=0.1805×Exp(0.0002×d)という式になった。dは発光強度の実測値で、yは抗原特異的なlgGの濃度である。相関係数Rは0.98であった。
【実施例】
【0036】
(5)患者血清による診断抗原特異的IgG測定
そこで、pH9.2、抗原濃度4%で作成した診断抗原で得られた発光強度を、それぞれのメンブランの標準曲線から換算し、診断抗原特異的IgG濃度とプロットしたのが図4である。その際、化学物質に対するアレルギーの診察結果により4段階に分けてプロットした。3名がアレルギー+++、5名がアレルギー++、3名がアレルギー+、9名がアレルギー症状なし(コントロール群)、という群である。「+」の数が多いほど、アレルギー症状が強いことを表している。グラフの中の縦線は平均標準偏差を表している。コントロール群に対してTTESTを行ったところ、アレルギー+++群とはp=0.0047、アレルギー++群とはp=0.0065、アレルギー+群とはp=0.13であったことから、アレルギー+++とアレルギー++との場合に統計的な有意差が認められた。コントロール群には2名ほどアレルギー+群の平均より高い被験者が含まれていた。この2名を除いて、アレルギー+群とコントロール群でTTESTを行うとp=0.029であった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によると、合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体オリゴマーによる変性血清タンパク質に対する一群の特異的抗体を包括的かつ半定量的に検出可能な合成樹脂原料モノマーまたは合成樹脂前駆体への曝露の検出方法が提供される。
この検出方法では、合成樹脂原料をハプテンとして用いる代わりに、合成樹脂前駆体との結合により3次構造が変化した血清タンパク質を診断抗原として用い、それに対する特異的抗体を曝露指標(マーカー)として用いることにより、合成樹脂前駆体への曝露の測定が可能になる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3