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明細書 :固体高分子形燃料電池

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5234461号 (P5234461)
公開番号 特開2010-160993 (P2010-160993A)
登録日 平成25年4月5日(2013.4.5)
発行日 平成25年7月10日(2013.7.10)
公開日 平成22年7月22日(2010.7.22)
発明の名称または考案の名称 固体高分子形燃料電池
国際特許分類 H01M   8/02        (2006.01)
H01M   8/10        (2006.01)
H01M   8/04        (2006.01)
FI H01M 8/02 R
H01M 8/10
H01M 8/04 K
請求項の数または発明の数 5
全頁数 10
出願番号 特願2009-003135 (P2009-003135)
出願日 平成21年1月9日(2009.1.9)
審査請求日 平成23年11月4日(2011.11.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
発明者または考案者 【氏名】谷川 洋文
【氏名】鶴田 隆治
個別代理人の代理人 【識別番号】100108660、【弁理士】、【氏名又は名称】大川 譲
審査官 【審査官】松本 陶子
参考文献・文献 特開2007-042496(JP,A)
特開2004-253366(JP,A)
特開2003-346851(JP,A)
特開2007-207725(JP,A)
特開2001-135324(JP,A)
特開2005-050691(JP,A)
調査した分野 H01M 8/02
H01M 8/04
H01M 8/10
特許請求の範囲 【請求項1】
高分子材料の電解質膜およびその両面に配した一対の電極からなる膜-電極アッセンブリMEAと、このアッセンブリMEAを挟持する一対のカソード側セパレータ及びアノード側セパレータとで構成された単セルが積層されたセルスタック構造を有する固体高分子形燃料電池において、
前記アノード側セパレータには、燃料ガスのガス流路を形成する一方、前記カソード側セパレータには、酸化ガスのガス流路を形成し、
前記カソード側セパレータには、酸化ガスの流れを制御する可動型のリブを備えて、安定発電時にはセパレータ中央部を含めてガス流路を形成する流路位置に前記リブを移動し、電解質膜乾燥時には必要な水分量に対応して、セパレータ中央部の酸化ガスの流れが低下した偏流を発生させる流路位置に前記リブを移動するよう構成した、
ことから成る固体高分子形燃料電池。
【請求項2】
前記電解質膜乾燥は、燃料電池の温度上昇、出力変化または生成水量変化を検出することにより検知する請求項1に記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項3】
前記リブ位置の温度変化に応じた可動機構として、形状記憶合金バネや前記温度上昇等のセンサ出力に応じて可動型のリブを駆動するモータを用いた請求項2に記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項4】
前記安定発電時の酸化ガスの流路は、サーペンタイン型の流路であり、かつ、前記電解質膜乾燥時の酸化ガスの流路は、前記カソード側セパレータ入口から流入した酸化ガスが、二分割してストレート状に出口に向かうストレート形の流路である請求項1に記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項5】
前記可動型のリブは、細長い壁状形状を有する一対構成であり、その長さ方向にも、幅方向にも移動可能に構成された請求項1に記載の固体高分子形燃料電池。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード側セパレータにおける酸化ガスの流れを制御する可動型のリブを備えた固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、運動部分を持たず、無重力環境下でも作動し、排出物は環境に無害な水のみといった特徴からクリーンなエネルギー源として数多くの利用が考えられている。特に低温で動作する固体高分子形燃料電池は、近年、MEMS技術を利用し、携帯電話やパソコンなどの電源とするための小型化が進んでいる。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜およびその両面に配した一対の電極からなる膜-電極アッセンブリMEAと、このMEAを挟持する一対のセパレータとで構成された単セルが積層されたセルスタック構造となっている。このような構造の燃料電池においては、各セパレータに形成されているガス流路を介して酸化ガス(空気)または燃料ガスが各電極に供給されることにより発電が行われるが、この空気流量を、高負荷時と低負荷時に応じて切り替える技術が公知である(特許文献1参照)。
【0004】
図11は、特許文献1に記載のセパレータに対する空気の分配について模式的に示した図であり、(A)は、高負荷時の流路を、また(B)は低負荷時の流路をそれぞれ示している。高負荷時においては流路切替機構を開とし、空気の流路を複数のストレート流路とする。高負荷時においてはガス流量が多いため、流路を複数としてもセルの出入り口間での差圧が十分に確保される。このため発電反応によって生じた生成水が流路を閉塞することなく安定した運転を行うことが可能である。
【0005】
一方、低負荷時においては、反応部の内部に設けられた2つの仕切壁によってS字状のサーペンタイン流路が形成され、流路が途中で2回折り返す構造となっている。低負荷時においては空気流量が少ない。このため、低負荷時においては流路切替機構を閉止することにより、セル内の流路をサーペンタイン流路に切り替える。
【0006】
このように、負荷に応じて流路形状を切り替えることで、負荷変動が生じた場合にも安定した対応を行うことが可能となる。さらに、負荷状態に関係なくセル面内の全ての部位を常に利用した発電が可能であることから、膜の加湿条件が一定となり、フル負荷運転が必要になったときに速やかに負荷変動に対応することができる。
【0007】
固体高分子形燃料電池を日常生活温度領域で作動させた場合、カソード(酸素極)側で生成した水蒸気は、電極構造体内で凝縮・残留し、反応面への燃料ガスの供給を阻害し出力の低下をもたらす(フラッディング、プラッギング)。一方で燃料電池を構成する固体高分子膜は、湿潤状態でのみ高いイオン伝導率を示して出力が維持され、乾くとやはり出力の低下が生じる(ドライアウト)。よって固体高分子形燃料電池は、アノード側(水素極側)を加湿器により加湿して運転しているのが現状である。すなわち、固体高分子形燃料電池内部の水分管理は、燃料電池の性能向上に関連して重要な課題である。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2007-42496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の技術によれば、セル面内の全ての部位について、膜の加湿条件を一定にすることができる。しかし、さらに、反応で生成した水を“保水”し電解質膜の加湿に利用することで外部加湿器の必要を無くすこと、及び安定運転時は、反応で生成した水を排出し、電解質膜乾燥時は、この生成水を“保水”し電解質膜の加湿に利用する“生成水の制御”が必要である。
【0010】
そこで、本発明では、発電時に生成した水を固体高分子膜の加湿に利用できる機能を固体高分子形燃料電池に持たせ、この外付けの加湿器を排除し、構造をシンプルにするだけでなく、発電状況に応じてセル内部で反応生成した水を適当な量にする自動的かつ連続的な制御を可能にすることを目的としている。
【0011】
本発明では、ガス流路を形成するセパレータリブの位置を安定発電時には排水性の高い一様なガス流路を形成する(例えば、サーペンタイン型)流路位置に移動し、電解質膜乾燥時には保水性の高い(例えば、ストレート型)流路位置に移動する可動型セパレータを有する固体高分子形燃料電池を提供する。図4を参照して後述するように、出力密度が低下すると、燃料電池の温度が上昇する。すなわち、この温度上昇を検知すれば電解質膜の乾燥を検知することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の固体高分子形燃料電池は、高分子材料の電解質膜およびその両面に配した一対の電極からなる膜-電極アッセンブリMEAと、このアッセンブリMEAを挟持する一対の集電板とカソード側セパレータ及びアノード側セパレータとで構成された単セルが積層されたセルスタック構造を有する。アノード側セパレータには、燃料ガスのガス流路を形成する一方、カソード側セパレータには、酸化ガスのガス流路を形成する。このカソード側セパレータには、酸化ガスの流れを制御する可動型のリブを備えて、安定発電時にはセパレータ中央部を含めてガス流路を形成する流路位置にリブを移動し、電解質膜乾燥時には必要な水分量に対応して、セパレータ中央部の酸化ガスの流れが低下した偏流を発生させる換言すれば保水性の高い流路位置にリブを移動するよう構成した。
【0013】
電解質膜乾燥は、燃料電池の温度上昇または生成水量変化を検出することにより検知することができる。リブ位置の可動機構として、形状記憶合金バネを用いることができる。或いは、検出された信号をもとに可動型のリブを駆動するモータを制御することもできる。
【0014】
安定発電時の酸化ガスの流路は、S字状のサーペンタイン流路であり、電解質膜乾燥時の酸化ガスの流路は、カソード側セパレータ入口から流入した酸化ガスが、二分割してストレート状に出口に向かうストレート形の流路である。可動型のリブは、細長い壁状形状を有する一対構成であり、その長さ方向にも、幅方向にも移動可能に構成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無加湿運転が可能となる自己水分管理機能を有する燃料電池を実現できることから、加湿器等の補機が不要となり、燃料電池の小型化、高性能化を達成することができる。これによって、燃料電池技術の本格的普及が可能となり、燃料電池産業へ及ぼす波及効果は極めて大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に基づき具体化した固体高分子形燃料電池の概略構成を示す図である。
【図2】組み立てたセルスタック構造に対するガスの流れを説明する図である。
【図3】カソード側セパレータについて説明する図である。
【図4】ドライアウトが発生した運転時の出力密度と温度の変化を示すグラフである。
【図5】ドライアウトが発生した運転時との比較のため示したグラフである。
【図6】数値解析によって得られたガス拡散層内水分量の時間変化を示すグラフである。
【図7】数値解析によって得られた定常発電時におけるカソード側ガス拡散層内部の凝縮水分布を示す図である。
【図8】セパレータリブ位置の温度変化による可動機構を例示する図である。
【図9】解析系を説明する図である。
【図10】数値解析によって得られた定常発電時におけるカソード側の酸素ガス流動を示す図である。
【図11】特許文献1に記載の反応部70に対する空気の分配について模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、例示に基づき本発明を説明する。図1は、本発明に基づき具体化した固体高分子形燃料電池の概略構成を示す図であり、本発明の特徴とするカソード側セパレータの構成を除いて、通常の構成を有している。例示の固体高分子形燃料電池は、高分子材料のイオン交換膜からなる電解質膜およびその両面に配した一対の電極(GDL)からなる膜-電極アッセンブリ(MEA:Membrane Electrode Assembly)と、このMEAを挟持する一対の集電板(多孔板)とカソードセパレータ及びアノードセパレータとで構成された単セルが積層されたセルスタック構造となっている。カソード及びアノードは、それぞれセパレータと集電板からなる。集電板は、導電性の材料であり、ガス拡散層にガスを供給するため透過性のある多孔質構造体(パンチングメタル、金属メッシュ等)によって構成される。ガス拡散層(GDL: Gas Diffusion Layer)は、白金などの触媒を結着した例えば多孔質のカーボン素材で構成されている。カソード側GDLには、空気や酸化剤などの酸化ガスが供給され、他方のアノード側GDLには、燃料ガスとしての水素ガスが供給される。この二つのガスによってMEA内で電気化学反応が生じ、単セルは起電力を得る。

【0018】
セパレータは燃料電池を構成する主要部材の一つであり、燃料電池セルの間に挟んで燃料ガスと空気を遮断する役割を有し、加えて、各セパレータには、燃料ガス、空気を送り込む流路が必要である。各セパレータには、材料に制約はない。カソード側セパレータのGDL側となる内側の面には、本発明の特徴とする構成を有するガス流路(詳細は、後述する)が設けられている。アノード側のセパレータのGDL側となる内側の面には、通常の技術に従い、例えばサーペンタイン状の、水素ガスのガス流路が形成されている。

【0019】
図2は、組み立てたセルスタック構造に対するガスの流れを説明する図である。カソードセパレータに形成された流路には、酸素ガス(空気)を供給する。その出口には、酸素ガスと共に生成された水が流出する。アノードセパレータに形成された流路には、水素を供給する。水素は、MEA電極(アノードGDL)のカーボンブラック粒子上に塗布されている触媒(Pt)の作用により、電子と水素イオン(プロトン)に分解され、プロトンは水を伴いながら電解質膜内を移動してカソードGDLに達し、触媒上で酸素と外部回路を通ってきた電子と結合して水になる。

【0020】
図3は、カソード側セパレータのリブの移動について説明する図である。カソード側セパレータには酸素ガス(空気)が、図中の入口から供給されて、出口側に排出される。セパレータ内部の酸素ガスの流れは、一対の可動型リブ(セパレータリブ)によって制御される。各リブは、細長い壁状形状を有して、その長さ方向にも、幅方向にも移動可能に構成される。今、一対の可動型リブは、図3(a)に示すタイプ1の状態にあるとする。このとき、一対の可動型リブは、それぞれの長さ方向の一端を、セパレータ内部の互いに相対する端部に接するように移動した状態にある。即ち、セパレータ内部に設けられた2つの可動型リブによってS字状のサーペンタイン流路が形成され、流路が途中で2回折り返す構造となっている。これによって、セパレータの中央部を含む全面に略均等に一様なガス流路が形成される。この状態で電解質膜が乾燥すると、図3(b)に示すタイプ2の状態に移動する。

【0021】
図3(b)においては、一対の可動型リブは、それぞれの長さ方向の両側端にそれぞれ流路を形成するように、かつ、リブとリブの間に所定の間隔を空けて配置した状態にある。これによって、一対の可動型リブは、保水性の高いストレート型の流路位置に移動して、固体高分子膜の保水に使用できる。このとき、入口から流入した酸素ガスは、図中に矢印で示すように、二分割してストレート状に出口に向かい、そこから流出する。このリブ位置では、リブとリブの間の間隔に流れる酸素ガス流量は大きく低下する。即ち、セパレータ中央部でガス流量が低下した偏流が発生する。このため、図中の中央部に、円で表示したように水が溜まることになる。この水が、固体高分子膜の加湿に利用できる。但し、図3(b)に例示したような完全なストレート型に移行することに代えて、必要な水分量に応じた偏流を発生させるために、後述する図8(b)に例示したようなサーペンタイン流路とストレート型流路を併せ持つような流路(タイプ4)にすることができる。

【0022】
図3(b)に示す状態でも、依然として、電解質膜の乾燥が検出されるときには、さらに、一対のリブの間の間隔が小さくなる方向にリブを移動させる。即ち、必要な水分量に対応して、さらに大きく偏流を発生させる。図3(c)に示すタイプ3は、リブとリブの間の隙間を最も小さくした状態で示している。リブとリブの間の酸素ガス流は、事実上遮断されて、図中に円内に示すように、さらに、水が溜まり、電解質膜の乾燥が解消することになる。但し、この状態で、フラッディングが発生して、検出されると、リブを、図3(d)の状態に移動させる。

【0023】
図3(d)の状態は、最初の図3(a)に示したタイプ1の状態に相当する。即ち、セパレータ内部に設けられた2つのリブによってS字状のサーペンタイン流路が形成される状態にある。この状態で、最適な水分量が検出される限り、この状態を維持し、また、電解質膜の乾燥が検出されると、上述したように、図3(b)に示すタイプ2の状態に移動する。

【0024】
図4に、ドライアウトが発生した運転時の出力密度と温度の変化を示すグラフである。図示のように、ドライアウトが発生することにより出力密度が低下すると、燃料電池の温度が上昇する。すなわち、この温度上昇を検知すれば電解質膜の乾燥を検知することができる。図5は、ドライアウトが発生した運転時との比較のため示したグラフである。低負荷時の場合は、出力密度が低下することもなく、燃料電池温度が一定になっている安定発電時であることを示している。

【0025】
電解質膜の乾燥を検知するために温度上昇を検知する他にも、例えば、リブ下の水分量変化の検知が考えられる。水分量変化によって形状(体積)が繰り返し変化する材料を用いて、形状記憶合金(実施例1参照)と同様にその形状変化をリブの駆動力に利用することができる。或いは、温度変化、水分量、又は出力の変化を検知するセンサを設けて、このセンサ出力に応じて、可動型のリブを駆動するモータを制御することもできる。

【0026】
図6は、数値解析によって得られたガス拡散層内水分量の時間変化を示す。定常発電時のガス拡散層内水分量は、サーペンタイン型流路(タイプ1)と比較してストレート型流路(タイプ2、タイプ3)の方が多い。

【0027】
図7は、数値解析によって得られた定常発電時におけるカソード側ガス拡散層内部の凝縮水(低温水粒子)分布を示す図である。ガス拡散層内の凝縮水は、各タイプ共にセパレータリブの下部に多く存在している。すなわち、セパレータリブは、排水のための流路を塞ぐ蓋の効果、換言すれば保水効果を持つと考えられる。ここで(B)タイプ2の場合は、(A)タイプ1と比較して、中央のガス流路にも多くの凝縮水が存在している。これは酸素ガスの偏流によって凝縮水が排水されにくいためである。すなわちセパレータリブの面積が同じでもサーペンタイン型よりもストレート型の方が偏流の影響で保水効果が高いことが分かる。
【実施例1】
【0028】
図8は、セパレータリブ位置の温度変化による可動機構を例示する図である。温度変化に応じた可動機構として、形状記憶合金バネを用いることができる。低温では柔らかく(弱く)、高温では硬い(強い)特性が得られる形状記憶合金バネと通常のバネ材で出来たバイアスバネを互いに押し合うようにセットしたバイアス式2方向性アクチュエータが知られている。図8に示すアクチュエータとして、このようなバイアス式2方向性アクチュエータ(http://www.sogospring.co.jp/product/product3.html参照)を用いることにより、温度が低温から高温に変化するのに応じて、図7(A)から(B)、そしてさらに(C)の状態にリブ位置を連続的に移動させることができる。
【実施例1】
【0029】
なお、図3には、リブの典型的な位置をそれぞれ、タイプ1,タイプ2、タイプ3として例示したが、図8(b)にタイプ4として示したように、リブ位置は、別のタイプ位置(例えば、タイプ4)を設けること、或いは段階的なリブ位置制御だけでなく、連続的なリブ位置の制御が可能である。
【実施例2】
【0030】
図1及び図2を参照して説明した構成に対して、数値解析を行った。図9は、解析系を説明する図である。固体高分子形燃料電池内物質移動三次元シミュレータは、流体(気体、液体)を粒子と仮想し、仮想粒子間の衝突、相互作用を考慮しながらランダムに移動させることにより、その流動を模擬する“格子ガス法”である。燃料電池は、カソード、アノードそれぞれのセパレータおよびガス拡散層と、触媒層と固体高分子膜を一体化した膜電極接合体(MEA)(厚みゼロ)の積層構造とする。なお、解析系は正立方体で格子分割され、計算領域全体の格子数は、x方向864、y方向816、z方向72である。セパレータガス流路形状は、アノード側はサーペンタイン型流路とし、カソード側はサーペンタイン型流路、ストレート型流路2タイプの3タイプを対象とする(図3参照)。ガス拡散層は、多孔質層とみなし(厚さt)、計算格子点上に仮想固体粒子を空隙率ε=0.8となるようにランダムに配置して構成している。またMEA面には、触媒(白金)を模擬した仮想粒子を計算格子点上に任意の確率αでランダムに配置する。
【実施例2】
【0031】
格子ガス法における仮想粒子としては、燃料の水素ガス粒子、酸化剤である酸素ガス粒子、反応(発電)によって発生した水粒子、初期条件として燃料電池内に充填する窒素ガス粒子を考える。なお、水粒子は、高温水粒子(水蒸気をイメージ)と低温水粒子(凝縮水をイメージ)を仮定し、計5粒子を解析対象とする。水素ガス粒子、酸素ガス粒子は、両極のセパレータの入口側開口部からほぼ一定の粒子数で流入し(流入確率パラメータ:V、酸素ガス、水素ガス流量に対応)、セパレータ反対側の開口部から出口圧力を考慮した状態で流出する(流出は初期充填している窒素ガス粒子、生成水粒子も同様)。なお5粒子間すべての衝突規則としては、最も基本的なHPPモデルを適用する。
【実施例2】
【0032】
本解析では、酸素極と水素極を仕切る厚みゼロのMEA面上にランダムに配置(確率α)した白金触媒粒子の上を、水素極の水素ガス粒子と酸素極の酸素ガス粒子が同時に通過すると、水素ガス粒子が消え、酸素ガス粒子が高温水粒子(水蒸気)に置き換わるとする。この消滅・置換を触媒層での反応、すなわち発電と模擬する。各格子点上に存在する高温水粒子数(1~6個)は、そこでの水蒸気分圧を模擬すると考えられる。そこで本解析では、発電時の燃料電池温度に対する飽和蒸気圧(露点温度)に相当する粒子数を設定し、その設定粒子数を超えた分の高温水粒子は低温水粒子に置換するとした(凝縮をイメージ)。この飽和蒸気圧に相当する粒子数を飽和粒子数Nsatと定義する。すなわち、Nsatが小さい場合は相対的に燃料電池が低温環境下での発電を、大きい場合は高温環境下での発電を模擬する。低温水粒子間には、数格子(距離r)離れた位置の粒子との相互作用(引力)を考慮した相変化モデルであるLGモデルを適用する。また、低温水粒子と構造体表面間に引力(距離rw)を考慮するかしないかで、それぞれ親水性表面、疎水(撥水)性表面を模擬することができる。本解析では、セパレータ(ガス流路)表面は親水性面(rw/r=1)、ガス拡散層は撥水性の条件(rw/r=0)を与えた。
【実施例2】
【0033】
図10は、数値解析によって得られた定常発電時におけるカソード側の酸素ガス流動を示す図である。流量に比例して、矢印の大きさを変化させて表示している。ストレート型の場合(タイプ2、タイプ3)、酸素ガスはセル中央部を流れておらず、偏流が発生している。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
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【図10】
9
【図11】
10