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明細書 :耐食性に優れたマグネシウム材

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4625944号 (P4625944)
公開番号 特開2005-350730 (P2005-350730A)
登録日 平成22年11月19日(2010.11.19)
発行日 平成23年2月2日(2011.2.2)
公開日 平成17年12月22日(2005.12.22)
発明の名称または考案の名称 耐食性に優れたマグネシウム材
国際特許分類 C23C   4/08        (2006.01)
C23C   4/06        (2006.01)
FI C23C 4/08
C23C 4/06
請求項の数または発明の数 4
全頁数 8
出願番号 特願2004-172850 (P2004-172850)
出願日 平成16年6月10日(2004.6.10)
審査請求日 平成19年3月12日(2007.3.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
発明者または考案者 【氏名】西尾 一政
【氏名】内林 哲夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100112771、【弁理士】、【氏名又は名称】内田 勝
審査官 【審査官】祢屋 健太郎
参考文献・文献 特開2001-192854(JP,A)
特開2002-348679(JP,A)
特開平10-081993(JP,A)
特開2003-105593(JP,A)
特開平11-036035(JP,A)
特開平07-173635(JP,A)
特開平07-018324(JP,A)
特開2001-335914(JP,A)
特開2002-235190(JP,A)
特開平06-136505(JP,A)
特開平09-078220(JP,A)
調査した分野 C23C 4/00-6/00
特許請求の範囲 【請求項1】
マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる基材の表面に錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を形成してなる耐食性に優れたマグネシウム材。
【請求項2】
マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる基材の表面に錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を形成しさらに、該錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を下地層として耐磨耗性金属材料又は各種耐磨耗性炭化物、酸化物、サーメットの溶射による溶着層を形成してなる耐食性、耐摩耗性に優れたマグネシウム材。
【請求項3】
マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる基材の表面に錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を形成しさらに、該錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を下地層として該下地層上に密着塗膜層を形成してなる耐食性に優れたマグネシウム材。
【請求項4】
マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる基材の表面に錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を形成しさらに、該錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を下地層として耐磨耗性金属材料又は各種耐磨耗性炭化物、酸化物、サーメットの溶射による溶着層を形成し、該耐磨耗性溶着層上に密着塗膜層を形成してなる耐食性、耐摩耗性に優れたマグネシウム材。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性、耐摩耗性に優れさらに、意匠性に優れた皮膜を有するマグネシウム或はマグネシウム基合金材料(成型品等)に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム或はマグネシウム基合金は実用金属材料中最も軽量であって切削性にも富み、強度/密度比が高く、高比弾性率を有する処から、リサイクルが困難である合成樹脂材料に代わる機器材料たとえば自動車部品、車両のホイール、パソコン・携帯電話の筐体等の材料として、その実用化が進められている。
【0003】
マグネシウム或はマグネシウム基合金は上記卓越した長所をもつ反面、実用金属材料中電気化学的に最も卑であるために、空気中でも腐食を受けやすいという致命的な短所がある。この短所を補完すべく、マグネシウム或はマグネシウム基合金材に表面処理を施すことが不可欠である。マグネシウム或はマグネシウム基合金材に耐食性を付与するための代表的な技術として、湿式プロセスである化成処理、陽極酸化処理等のめっき或はめっきを下地処理層とした塗装等がある(たとえば、特許文献1参照)。

【特許文献1】特開2001-192854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら先行技術によるときは、めっき浴の制限もあって大きな成形体(基材)には適用されていない。また、上記何れの処理も基材に適用されるめっき層の厚さは数十μmで基材を傷や摩耗から保護することが困難でありまた、塗膜層に強度は期待できない。機械的な摺動部、人の手や身体の一部が繰り返し接触する機器の部位、他の部材が接触する部位等において基材に達する傷がつきやすい。傷が基材に達すると、この傷の部分から基材であるマグネシウム或はマグネシウム基合金の腐食が進み、長期に亘る機能および意匠性を維持することが困難であるという問題がある。
【0005】
さらに、マグネシウム或はマグネシウム基合金材は活性に富む処から、有害なクロム酸や弗酸等を用いる前処理を行う必要がり、環境汚染対策が必要であるという問題もある。
【0006】
本発明は、上記従来技術における問題を解決し、環境汚染の原因を全く伴うことのない製造プロセスによって得られる、耐食性、耐摩耗性に優れさらに、意匠性にも優れた皮膜を有するマグネシウム或はマグネシウム基合金材料(以下、マグネシウム材と称する。)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための、請求項1に記載の発明は、マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる基材の表面に錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を形成してなる耐食性に優れたマグネシウム材である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる基材の表面に錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を形成しさらに、該錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を下地層として耐磨耗性金属材料又は各種耐磨耗性炭化物、酸化物、サーメットの溶射による溶着層を形成してなる耐食性、耐摩耗性に優れたマグネシウム材である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる基材の表面に錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を形成しさらに、該錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を下地層として該下地層上に密着塗膜層を形成してなる耐食性に優れたマグネシウム材である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる基材の表面に錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を形成しさらに、該錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を下地層として耐磨耗性金属材料又は各種耐磨耗性炭化物、酸化物、サーメットの溶射による溶着層を形成し、該耐磨耗性溶着層上に密着塗膜層を形成してなる耐食性、耐摩耗性に優れたマグネシウム材である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の耐食性、耐摩耗性に優れたマグネシウム材(成型品等)は、乾式プロセスである、マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる基材の表面に錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を形成するプロセスによって得られるから、錫又は錫基合金皮膜厚さを容易に100μm以上の水準とすることができるとともに、大型構造物への適用も可能である。さらに、従来技術におけるようなめっき浴やめっき下地処理に用いられるクロム酸、弗酸といった環境汚染原因を伴うことが全くない。
【0012】
本発明によれば、耐食性皮膜として錫又は錫基合金の溶射による50μm以上の厚さの溶着層を形成し、これをベース皮膜として耐摩耗性材料、塗料等を適切に選択し、組み合わせることによって、耐食性、耐摩耗性、意匠性に優れたマグネシウム材を得ることができる。而して、機械的な摺動部、人の手や身体の一部が繰り返し接触する機器の部位、他の部材が接触するようなマグネシウム材成型体や機器において、基材に達する傷がつき難いため、長期に亘って機能、意匠性(美観)を維持し得る。
【0013】
また、本発明によるときは、化学的腐食を受けやすいという短所を補完してマグネシウム或はマグネシウム基合金からなる成型体や機器のもつ低密度、高比強度(強度/密度)、高比弾性率といった優れた特性ならびにリサイクル性を十分に活かすことができる。さらに、本発明の耐食性、耐摩耗性、意匠性に優れたマグネシウム材は、溶射による錫又は錫基合金皮膜形成を行うものであるから、大型成型品を対象とすることができ、たとえば軽量ロボット等の機械構造部材や大型構造材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明者らは、湿式プロセスに必然する、めっき浴、クロム酸、弗酸といった廃液処理を必要としない乾式プロセスによるマグネシウム或はマグネシウム基合金からなる成型体や機器といった基材への耐食性、耐摩耗性、高密着塗装性付与について鋭意研究を進めた結果、マグネシウム或はマグネシウム基合金からなる成型体や機器といった基材へ錫(Sn)或は錫基合金の溶射による皮膜形成によって卓越した耐食性を付与することができることを知見し、本発明を完成させた。
【0015】
本発明は、マグネシウム或はマグネシウム基合金からなる成型体や機器といった基材の表面に錫又は錫基合金の溶射による皮膜を有する点によって特徴づけられる。基材表面に錫又は錫基合金の溶射による皮膜を形成したマグネシウム材の縦断面を、図1に模式的に示す。図1において、1はマグネシウム基材、2は錫溶射皮膜である。
【0016】
また、錫又は錫基合金の溶射による皮膜を下地層として、耐磨耗性金属材料又は各種耐磨耗性炭化物、酸化物、サーメット等の溶射による溶着層を形成して耐食性、耐摩耗性に優れたマグネシウム材とすることができる。この実施形態のマグネシウム材の縦断面を、図2に模式的に示す。図2において、1はマグネシウム基材、2は錫溶射皮膜、3は耐摩耗性溶射皮膜である。
【0017】
さらに、錫又は錫基合金の溶射による皮膜或は耐摩耗性溶射皮膜を下地層として、合成樹脂塗料等の塗膜を形成することによって、耐食性と併せ色彩・光沢等の意匠性に優れたマグネシウム材とすることができる。錫又は錫基合金の溶射による皮膜を下地層として、合成樹脂塗料等の塗膜を形成したマグネシウム材の縦断面を図3に模式的に示す。図3において、1はマグネシウム基材、2は錫溶射皮膜、4は塗装皮膜である。
【0018】
マグネシウム或はマグネシウム基合金からなる成型体や機器といった基材の表面への錫又は錫基合金の溶射による皮膜の厚さは、少なくとも50μm、好ましくは100μm以上である。50μmに満たない皮膜厚さでは、長期に亘って機能、意匠性(美観)を維持し得る耐食性を、マグネシウム或はマグネシウム基合金からなる成型体や機器において確保することができない。錫又は錫基合金の溶射による皮膜のマグネシウム或はマグネシウム基合金からなる成型体や機器といった基材への密着力は、約6MPaである。なお、溶射に際しての基材の予熱温度を200℃程度とすることによって、密着力を高くすることができる。
【0019】
錫又は錫基合金の溶射による皮膜の耐摩耗性を補完する耐摩耗性皮膜としては、鉄系材料、銅・銅合金、バビットメタル、アルミニウム・アルミニウム合金、モリブデン、ニッケル・ニッケル合金、コバルト・コバルト合金といった金属材料のほか高硬度を有する各種炭化物、酸化物、サーメット等の溶射による皮膜が好ましい。
【0020】
マグネシウム或はマグネシウム基合金からなる成型体や機器に色彩・光沢等の意匠性を付与する塗料としては、特に限定されるものではないが、有色或は透明のアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等の樹脂系塗料、光触媒として機能する酸化チタン含有無機系塗料を用いることができる。塗膜層の下地層である錫溶射皮膜或は耐摩耗性皮膜の表面粗さは、Rz:50程度である。塗膜下地層の粗面は塗膜のアンカーとなり、塗膜の高密着性に寄与する。
【実施例1】
【0021】
基材としてマグネシウム基合金(JIS AZ31:Al=3%、Zn=1%、残部=Mg)を用いた。基材をアルコールで脱脂、乾燥後基材表面にアルミナグリット(#36)を用いてショットブラスト処理を施し、粗面化した。次いで、錫線材を用いて溶射し、膜厚:250μmの錫溶射層を形成した。
比較材として、JIS AZ31マグネシウム基合金基材をアルコールで脱脂、乾燥後基材表面にアルミナグリット(#36)を用いてショットブラスト処理を施し、粗面化した後、アルミニウム線材および15%アルミニウム-亜鉛合金線を用いて溶射し、膜厚:250μmの溶射層を形成した。
然る後、実施例1および比較材について、耐食性を評価した。
【0022】
[溶射皮膜の耐食性について]
耐食性の評価は、3%塩化ナトリウム水溶液による浸漬試験によった。試験結果を表1に示す。表1から明らかなように、実施例1の錫溶射皮膜を有するマグネシウム基合金材が優れた耐食性を示している。
【0023】
【表1】
JP0004625944B2_000002t.gif

【0024】
図4に、実施例1および比較材について、3%塩化ナトリウム水溶液による浸漬試験による耐食性評価試験結果を、グラフで示す。図4から明らかなように、実施例1の錫溶射皮膜を有するマグネシウム基合金材が、3%塩化ナトリウム水溶液による浸漬試験という通常の使用環境を超えた苛酷な試験条件の下でも、優れた耐食性を示している。
【実施例2】
【0025】
マグネシウム或はマグネシウム基合金からなる成型体や機器といった基材の表面への錫又は錫基合金の溶射による皮膜の厚さと耐食性の関係を明らかにすべく、基材としてマグネシウム基合金(JIS AZ31:Al=3%、Zn=1%、残部=Mg)を用いた。基材をアルコールで脱脂、乾燥後基材表面にアルミナグリット(#36)を用いてショットブラスト処理を施し、粗面化した。次いで、錫線材を用いて溶射し、膜厚:50μm、100μm、および150μmの錫溶射層を形成した。マグネシウム或はマグネシウム基合金からなる基材の露出および錫溶射皮膜における基材に達する気孔の存在は許されない。錫溶射皮膜の表面粗さは、Rz:50程度である。従って、基材であるマグネシウム材が露出する可能性のある錫溶射皮膜の厚さは、50μm近傍である。而して、膜厚:50μm、100μm、および150μmの錫溶射層をもつマグネシウム材の耐食性を調査した。
【0026】
[錫溶射皮膜の膜厚と耐食性について]
実施例2で得られた、各膜厚を有する錫溶射層をもつマグネシウム材について、皮膜の貫通孔を調査するために、3%塩化ナトリウム水溶液による浸漬試験を行った。溶射皮膜に基材表面に達する気孔が存在する場合、基材を保護することができない。試験結果を表2に示す。表2から明らかなように、少なくとも50μmの膜厚が必要であり、100μm以上であれば貫通孔がなくほぼ完全に基材を保護することができる。
【0027】
【表2】
JP0004625944B2_000003t.gif

【実施例3】
【0028】
耐摩耗性を有するマグネシウム或はマグネシウム基合金からなる成型体や機器を得るべく、基材としてマグネシウム基合金(JIS AZ31:Al=3%、Zn=1%、残部=Mg)を用いた。基材をアルコールで脱脂、乾燥後基材表面にアルミナグリット(#36)を用いてショットブラスト処理を施し、粗面化した。次いで、基材を200℃に予熱し、錫線材を用いて溶射して膜厚:100μmの錫溶射層を形成した。この錫溶射層を下地層として、膜厚:300μmのSUS420J2溶射層を形成した。
【0029】
[耐摩耗性皮膜の耐食性および耐摩耗性について]
第1層として錫溶射皮膜を、第2層としてSUS420J2溶射皮膜を有するマグネシウム材の耐食性を評価するために、3%塩化ナトリウム水溶液による浸漬試験を行った。一方、耐摩耗性を評価すべく、硬さ試験を行った。比較のために、マグネシウム基合金からなる基材ままのマグネシウム材についても同様の試験を行った。これらの結果を表3に示す。表3から明らかなように、実施例3で得られたマグネシウム材の耐食性は良好であり、上層皮膜であるSUS420J2溶射皮膜は、基材であるマグネシウム材に比し高硬度を示している。
【0030】
【表3】
JP0004625944B2_000004t.gif

【実施例4】
【0031】
実施例1および実施例3で得られたマグネシウム材表面に、透明のアクリル樹脂塗料を塗布して塗装膜を形成した。何れも光沢のある意匠性に優れたマグネシウム材を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
マグネシウム材は、軽量、高比強度、高比弾性率、放熱特性、電磁波シールド、振動吸収性等の優れた特性を活かして、携帯電話やパソコンの筐体等小型形状物に実用されている。本発明によって、ディメンジョンの制約をあまり受けない特性を活かしてマグネシウム材からなる大型構造物を得ることができる。たとえば、ロボットや福祉機器等の骨組み材、軽量電磁波シールドパネル、建材等へ適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】基材表面に錫又は錫基合金の溶射による皮膜を形成したマグネシウム材の縦断面を示す模式図
【図2】錫又は錫基合金の溶射による皮膜を下地層として、耐磨耗性溶射皮膜を形成したマグネシウム材の縦断面を示す模式図
【図3】錫又は錫基合金の溶射による皮膜を下地層として、合成樹脂塗料等の塗膜を形成したマグネシウム材の縦断面を示す模式図
【図4】基材表面に錫又は錫基合金の溶射による皮膜を形成したマグネシウム材および比較材について、3%塩化ナトリウム水溶液による浸漬試験による耐食性評価試験結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0034】
1 マグネシウム基材
2 錫溶射皮膜
3 体摩耗性溶射皮膜
4 塗装皮膜
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3