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明細書 :スピントロニクスデバイス及び情報伝達方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5339272号 (P5339272)
公開番号 特開2009-295824 (P2009-295824A)
登録日 平成25年8月16日(2013.8.16)
発行日 平成25年11月13日(2013.11.13)
公開日 平成21年12月17日(2009.12.17)
発明の名称または考案の名称 スピントロニクスデバイス及び情報伝達方法
国際特許分類 H01L  29/82        (2006.01)
FI H01L 29/82 Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 14
出願番号 特願2008-148556 (P2008-148556)
出願日 平成20年6月5日(2008.6.5)
審査請求日 平成23年6月2日(2011.6.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】梶原 瑛祐
【氏名】内田 健一
【氏名】安藤 和也
【氏名】齊藤 英治
個別代理人の代理人 【識別番号】100105337、【弁理士】、【氏名又は名称】眞鍋 潔
審査官 【審査官】佐久 聖子
参考文献・文献 特開2005-181071(JP,A)
特開2002-182176(JP,A)
特開2005-285242(JP,A)
特開2009-277704(JP,A)
K. Ando, S. Takahashi, K. Harii, K. Sasage, J. Ieda, S. Maekawa, and E. Saitoh,Electric Manipulation of Spin Relaxation Using the Spin Hall Effect,Physical Review Letters,米国,American Physical Society,2008年 7月18日,Vol. 101,pp. 036601-1~036601-4
調査した分野 H01L 29/82
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
Scopus
特許請求の範囲 【請求項1】
磁性誘電体層と、前記磁性誘電体層上に設けられたPt、Au、Pd、Ag、Bi、またはそれらの合金、或いは、f軌道を有する元素のいずれかからなる少なくとも一つの金属電極とを備え、前記磁性誘電体層と前記金属電極との界面でスピン波スピン流-純スピン流の交換を行うスピントロニクスデバイス。
【請求項2】
前記金属電極が少なくとも2個設けられ、1つの金属電極が前記磁性誘電体層へスピン波スピン流を注入するスピン流注入電極であり、他の少なくとも1つの金属電極が前記磁性誘電体層からのスピン波スピン流を電流として取り出す出力電極である請求項1記載のスピントロニクスデバイス。
【請求項3】
前記磁性誘電体層が、強磁性誘電体或いは反強磁性誘電体のいずれかからなる請求項1または2に記載のスピントロニクスデバイス。
【請求項4】
前記磁性誘電体層が強磁性誘電体からなるとともに、前記磁性誘電体層が該磁性誘電体層の磁化方向を固定する反強磁性層上に設けられたものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスピントロニクスデバイス。
【請求項5】
前記強磁性誘電体が、Y3 Fe5-x Gax12(但し、x<5)からなる請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスピントロニクスデバイス。
【請求項6】
磁性誘電体層上にPt、Au、Pd、Ag、Bi、またはそれらの合金、或いは、f軌道を有する元素のいずれかからなる少なくとも一対の金属電極を設け、前記一対の金属電極の一方に信号電流を流すことによって前記磁性誘電体層中に信号電流に対応したスピン波スピン流を注入し、前記一対の金属電極の他方において、前記磁性誘電体層中を輸送されたスピン波スピン流によって純スピン流を生起し、前記純スピン流と直交する方向に信号電流を取り出す情報伝送方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、スピントロニクスデバイス及び情報伝達方法に関するものであり、特に、スピン流をmmオーダー以上の距離を輸送するためにスピン流をスピン波スピン流として伝達する磁性誘電体層を備えたスピントロニクスデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の半導体装置等のエクトロニクス分野においては、電子の有する電荷の自由度を利用しているが、電子は電荷以外にスピンという自由度を有している。近年、このスピンの自由度を利用したスピントロニクスが次世代の情報技術の担い手として注目を集めている。
【0003】
このスピントロニクスでは電子の電荷とスピンの自由度を同時に利用することによって、従来にない機能や特性を得ることを目指している。
【0004】
この様なスピントロニクスの具体的応用としてGMR素子或いはTMR素子に直接電流を流して電流の担い手となる電子のスピンによりフリー層の磁化方向を制御するスピンRAMが提案されている(例えば、特許文献1或いは特許文献2参照)。
【0005】
また、スピントロニクスの別の形態としては、量子コンピュータが挙げられ、この量子コンピュータにおいては、原子、イオン、或いは、分子の有するスピンを利用して量子ビット(Qubit)とするものである(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
このように、磁気記録においてスピンのダイナミクスを利用した量子計算や量子情報蓄積が可能であることが明らかにされるとともに、その読み出しや制御にスピン流を用いることが有効であることが知られている。
【0007】
現在の情報処理装置における情報の伝達は電子流によって行われているが、電子流はジュール熱を伴う。このジュール熱の発生は情報処理単位の高集積度化に伴い消費電力の増加として問題となるため、電子流に代えてスピン流による情報の伝達を検討されている。これは、固体中における伝導電子の電子流が時間的に非可逆過程であるのに対して、スピン流は可逆過程であり、エネルギーの散逸が殆どないために消費電力の増大に繋がらないことを利用するものである。
【0008】
このようなスピントロニクスにおけるスピンの作用による現象としては、スピンホール効果(spin-Hall effect)が知られており、試料中に電流を流すと、電流方向に垂直な向きに電荷の流を伴わない純スピン流が発生し、スピン流方向の試料端にスピン偏極が生ずる(例えば、非特許文献1参照)。
【0009】
また、本発明者等は、逆に、試料中に純スピン流を注入すると、純スピン流の方向と垂直方向に電流が流れることを見いだしている。この逆スピンホール効果を利用することによって、試料端に電位差が発生するので、この電位差を検出することによって、純スピン流の流れの有無の検出が可能になる(例えば、非特許文献2参照)。

【特許文献1】特開2002-305337号公報
【特許文献2】特開2007-059879号公報
【特許文献3】特開2004-102330号公報
【非特許文献1】Science,Vol.301,p.1348,2003
【非特許文献2】Applied Physics Letters Vol.88,p.182509,2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、導電体を用いたスピントロニクスデバイスにおいてはスピン流は伝導電子によって輸送されるが、スピン流の輸送に伴ってスピン或いは磁気モーメントの歳差運動の減衰を意味するスピン緩和が起こる。このスピン緩和時間は個々の部材に固有のスピン緩和時間で規定されてしまうため、純スピン流の輸送は数十~数百nmの距離が限界であるという問題がある。
【0011】
そのため、エネルギーの散逸が殆どないために消費電力の増大に繋がらない純スピン流を情報伝達手段や電流輸送手段として用いようとしても、その輸送距離の短さが問題となる。
【0012】
一方、スピン流を低損失且つ長距離輸送するために、スピン波スピン流を利用することが可能であることは予言されている(例えば、応用物理, 第77巻, 第3号, p.255,2008参照)。このスピン波スピン流とは、図14に模式的に示すように、スピンが平衡位置の周りで歳差運動し、その位相の変化が波としてスピン系を伝わっていくものである。
【0013】
このスピン波スピン流による輸送は、エネルギーの散逸が少ないため、長距離伝達が可能になる。しかし、スピン波スピン流の利用可能性は予言されているが、これをどの様に実現していくのかについては暗中模索の状況にある。
【0014】
したがって、本発明は、スピン波スピン流による長距離輸送を可能にする具体的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ここで、本発明における課題を解決するための手段を説明する。
上記課題を解決するために、本発明は、スピントロニクスデバイスであって、磁性誘電体層と、前記磁性誘電体層上に設けられたPt、Au、Pd、Ag、Bi、またはそれらの合金、或いは、f軌道を有する元素等のスピン軌道相互作用の大きな元素からなる少なくとも一つの金属電極とを備え、前記磁性誘電体層と前記金属電極との界面でスピン波スピン流-純スピン流の交換を行う。
【0016】
本発明者等は鋭意研究の結果、誘電体として磁性誘電体を用いるとともに、スピン波スピン流の注入手段或いは取り出し手段として、Pt、Au、Pd、Ag、Bi、またはそれらの合金、或いは、f軌道を有する元素等のスピン軌道相互作用の大きな元素からなる金属電極を用いることによって、磁性誘電体層と金属電極との界面でスピン波スピン流-純スピン電流の交換を行うことが可能であることを発見したものである。この場合、スピン波スピン流の注入に際してはスピンホール効果を用いることになり、スピン波スピン流の取り出しに際しては逆スピンホール効果を用いることになる。
【0017】
したがって、磁性誘電体とPt、Au、Pd、Ag、Bi、またはそれらの合金、或いは、f軌道を有する元素のいずれかからなる金属電極との界面を利用することにより、低損失なスピン流輸送や、磁性誘電体を介した電流の輸送が可能になる。
【0018】
この場合の金属電極を少なくとも2個設け、1つの金属電極を磁性誘電体層へスピン波スピン流を注入するスピン流注入電極とし、他の少なくとも1つの金属電極を磁性誘電体層からのスピン波スピン流を電流として取り出す出力電極とすれば、情報伝達や電流輸送が可能になる。
【0019】
また、磁性誘電体層は、強磁性誘電体或いは反強磁性誘電体のいずれでも良く、強磁性誘電体を用いる場合には、磁性誘電体層の磁化方向を固定するために反強磁性層を設けることが望ましい。なお、反強磁性誘電体は、典型的には酸化ニッケルやFeOが挙げられるが、磁性誘電体の大半は反強磁性誘電体である。
【0020】
また、強磁性誘電体としては、FeやCoを含むものであれば何でも良いが、実用的には、入手が容易で且つエネルギーの散逸の小さいYIG(イットリウム鉄ガーネット)やイットリウムガリウム鉄ガーネット、即ち、一般式で表記するとY3 Fe5-x Gax12(但し、x<5)を用いることが望ましい。これは、Y3 Fe5-x Gax12はバンドギャップが大きいので伝導電子が非常に少なく、したがって、伝導電子によるエネルギーの散逸が小さいためである。
【0021】
また、本発明は、情報伝達方法であって、磁性誘電体層上にPt、Au、Pd、Ag、Bi、またはそれらの合金、或いは、f軌道を有する元素のいずれかからなる少なくとも一対の金属電極を設け、前記一対の金属電極の一方に信号電流を流すことによって前記磁性誘電体層中に信号電流に対応したスピン波スピン流を注入し、前記一対の金属電極の他方において、前記磁性誘電体層中を輸送されたスピン波スピン流によって純スピン流を生起し、前記純スピン流と直交する方向に信号電流を取り出すものである。
【発明の効果】
【0022】
提示されたスピントロニクスデバイスによれば、低損失なスピン流輸送や、磁性誘電体を介した電流の輸送が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
ここで、図1乃至図11を参照して、本発明の実施の形態を説明する。本発明は、スピン流をスピン波スピン流として磁性誘電体中を非常に低損失で輸送し、Pt、Au、Pd、Ag、Bi、またはそれらの合金、或いは、f軌道を有する元素等のスピン軌道相互作用の大きな元素からなる金属電極との界面において、スピン波スピン流-純スピン流の交換を行うものである。
【0024】
このスピン波スピン流-純スピン流交換においては、金属電極中で電流により生起されたスピン流と磁性誘電体中におけるスピンとが交換されて磁性誘電体を伝搬するスピン波スピン流となる。一方、磁性誘電体中におけるスピン波スピン流が金属電極中のスピンと交換し金属電極中にスピン流が生起され、このスピン流により電流が生ずる。
【0025】
また、磁性誘電体層は、強磁性誘電体或いは反強磁性誘電体のいずれでも良く、強磁性誘電体を用いる場合には、強磁性誘電体としては、FeやCoを含むものであれば何でも良いが、実用的には、入手が容易で且つエネルギーの散逸の小さいYIG(イットリウム鉄ガーネット)やイットリウムガリウム鉄ガーネット、即ち、一般式で表記するとY3 Fe5-x Gax12(但し、x<5)を用いる。
【0026】
図1は、YIG(Y3 Fe512)の結晶構造図であり、結晶構造としては立方晶であり、磁気構造としてはフェリ磁性である。また、YIGにおける磁気イオンはFe3+のみであり、単位格子当たりFe↑(アップスピン)は24個、Fe↓(ダウンスピン)は16個存在する。したがって、YIGは単位格子値Fe8個分の磁気モーメントを持つことになる。なお、他のFeイオンは反強磁性的に結合している。
【0027】
なお、Y3 Fe5-x Gax12の場合には、Y3 Fe512におけるFe原子の占めるサイトをGa原子でランダムに置換した構造となり、Ga組成比xに応じて磁気モーメントを持つFe原子の数は減少する。
【0028】
また、反強磁性誘電体を用いる場合には、典型的には酸化ニッケルやFeOが挙げられるが、磁性誘電体の大半は反強磁性誘電体である。また、磁性誘電体層を強磁性誘電体で構成する場合には、磁性誘電体層の磁化方向を固定するために反強磁性層を設けることが望ましい。
【0029】
また、磁性誘電体層の成膜方法としては、スパッタ法、MOD法、或いは、ゾル-ゲル法のいずれを用いても良い。また、磁性誘電体層の結晶性としては単結晶でも良いし或いは多結晶でも良い。
【0030】
ここで、まず、磁性誘電体から金属電極へのスピン波スピン流-純スピン流交換を説明する。図2は、本発明の実施の形態に用いる試料の製造工程の説明図であり、ここでは、MOD法により磁性誘電体としてY3 Fe4 GaO12を成膜した試料として説明する。
【0031】
まず、図2(a)に示すように、{100}面を主面とするGGG(Gd3 Ga512)単結晶基板11上にY3 Fe4 GaO12組成のMOD溶液12をスピンコート法で塗布する。この場合のスピンコート条件としては、まず、500rpmで5秒間回転させたのち、3000~4000rpmで30秒間回転させてMOD溶液12を焼成後の膜厚が100nmになるように均一に塗布する。なお、MOD溶液12としては(株)高純度化学研究所製のMOD溶液を用いた。
【0032】
次いで、図2(b)に示すように、例えば、150℃に加熱したホットプレート上で5分間乾燥させて、MOD溶液12に含まれる余分な有機溶媒を蒸発させる。
次いで、図2(c)に示すように、電気炉中において、例えば、550℃で5分間加熱する仮焼成によって酸化物層13とする。
【0033】
次いで、図2(d)に示すように、電気炉中において、750℃で1~2時間加熱する本焼成において酸化物層13の結晶化を進めてYIG層14とする。なお、この場合のYIG層14の組成はY3 Fe4 GaO12であり、多結晶膜となる。
【0034】
次いで、図2(e)に示すように、スパッタ法を用いてYIG層14上に、厚さが、例えば、10nmのPt膜15を設ける。最後に、この試料を1.0mm×3.0mmのサイズに切り出すことによって試料が完成する。
【0035】
次に、成膜したYIG膜14の特性を検証するが、ここでは、図2(d)の状態においてファラデー効果と強磁性共鳴(FMR)特性を調べた。その結果、図3(a)に示すように、強磁性体としてはファラデー効果が確認されるとともに、図3(b)に示すように強磁性共鳴特性も確認された。したがって、上記の製造工程で形成したYIG層14は良好な強磁性体として特性を示しており、良好な結晶性を有することが分かる。
【0036】
次に、この試料を用いたYIG/Pt接合におけるスピン波スピン流-純スピン流の交換が行われていることを検証する。この際、YIGのスピン波スピン流が、Pt内に純スピン流に交換されたことを逆スピンホール効果によって検証する。図4(a)は試料の概念的構成図であり、試料の面内に磁界Hを印加した状態でPt膜15側からマイクロ波を照射し、磁界Hと直交する方向の試料端における電位差Vを電圧計16によって検出する。
【0037】
図4(b)は、強磁性共鳴特性図であり、上述のように試料に用いたYIG層14が良好な結晶性を有していることを示している。また、図4(c)は出力電圧Vの印加磁場H依存性であり、共鳴磁界強度においてμVオーダーの出力電圧が得られた。
【0038】
図5は、比較のためのYIG膜のみの参考試料における逆スピンホール効果の検証結果の説明図であり、ここでも、図5(a)に示すように、試料の面内に磁界Hを印加した状態でPt膜15側からマイクロ波を照射し、磁界Hと直交する方向の試料端における電位差Vを電圧計16によって検出する。
【0039】
図5(b)は、強磁性共鳴特性図であり、ここでも試料に用いたYIG層14が良好な結晶性を有していることを示している。また、図5(c)は出力電圧Vの印加磁場H依存性であり、有為な出力電圧が検出されなかった。なお、ここでは、出力電圧が小さいことを予想してロックイン法で測定しており、したがって、縦軸は出力電圧Vを印加磁場Hで微分した値となる。
【0040】
YIG/Pt接合で得られた信号が、Ptに純スピン流が生起され、逆スピンホール効果によって生じた起電力であることをさらに詳しく検証する。そのために、逆スピンホール効果の面内・面外角度依存性および物質依存性について検証した。図6は、逆スピンホール効果の面内角度依存性の説明図であり、図6(a)は試料系の構成説明図であり、印加磁場Hを電圧測定方向の法線に対してθ傾斜させて測定した。図6(b)は、出力電圧Vの面内角度θ依存性の説明図であり、電流方向とスピン流方向とスピンの向きとの関係から予測されるように、cos曲線を示している。また、図6(c)も、出力電圧Vの面内角度依存性の説明図であり、磁場Hの面内角度を変化させることで出力電圧が変化していることを示している。なお、ここでは、YIGの強磁性共鳴の磁界として、Hを原点にした磁場依存性として示しており、上記の図4(c)と同じ特性を示すものである。
【0041】
図7は、逆スピンホール効果の面外角度依存性の説明図であり、図7(a)は試料系の構成説明図であり、印加磁場Hを主平面に対してφ傾斜させて測定した。図7(b)は、出力電圧Vの面外角度φ依存性の説明図であり、ここでも、電流方向とスピン流方向とスピンの向きとの関係から予測されるように、cos曲線を示している。また、図7(c)も、出力電圧Vの面内角度依存性の説明図であり、磁場Hの面外角度を変化させることで出力電圧が変化していることを示している。
【0042】
以上の図4乃至図7による検証結果から、YIG/Pt界面においてスピン波スピン流-純スピン流の交換が行われていることが本発明者により初めて確認された。
【0043】
図8は、逆スピンホール効果の物質依存性の説明図であり、図8(a)は試料系の構成説明図であり、ここでは、出力電極17として、厚さが、例えば、10nmのPt膜、10nmのCu膜、及び、厚さが、例えば、30nmのSiO2 膜を介して10nmのPt膜を設けたSiO2 /Pt積層膜の3種類の試料を用意した。
【0044】
図8(b)は出力電圧V-マイクロ波電力相関特性の物質依存性の説明図であり、出力電極17として上述のようにPt膜を用いた場合には出力電圧がマイクロ波電力にほぼ比例して得られる。一方、Cu膜及びSiO2 /Pt積層膜の場合には殆ど出力が検出されなかった。
【0045】
これは、Ptはスピン軌道相互作用が大きな元素であるため、YIGからPtへ注入された純スピン流が大きな逆スピンホール効果を示すためである。一方、Cuの場合にはスピン軌道相互作用が非常に小さいため、YIG中のスピン波スピン流がCu中で純スピン流に交換しても、逆スピンホール効果が小さいため電流がほとんど生起されないためである。また、SiO2 /Pt積層膜の場合には、YIGとSiO2 の界面でスピン波スピン流の交換が行われないため、Ptに純スピン流は流れず逆スピンホール効果も生じない系であると考えられる。この系で、起電力が生じなかったことから、前記検証によって生じた起電力がPt内に純スピン流が生じ、逆スピンホール効果により生じた起電力であり、別の電気的な信号ではないことを実証するものである。
【0046】
図9は、図8の結果に基づいた出力電圧Vの物質ごとのマイクロ波電力依存性の説明図であり、図8の場合と同様に出力電極17としてPt膜を用いた場合にのみ出力電圧が検出された。このことから、出力電極としては、逆スピンホール効果が大きくなると考えられるスピン軌道相互作用の大きな元素を用いる必要があることが分かる。このようなスピン軌道相互作用の大きな元素としては、Pt以外には、PdやAu、Ag、Bi、またはそれらの合金、或いは、f軌道を有する元素を用いれば良い。
【0047】
次に、スピンホール効果を用いた金属から磁性誘電体へのスピン輸送を検証する。図10は、スピンホール効果を用いた金属から磁性誘電体へのスピン輸送を検証するための試料系と測定結果の説明図である。図10(a)と図10(b)は互いにバイアス磁場Hの向きを逆にしている。
【0048】
この場合の試料系は、図に示すように、厚さが1μmで、長さが8.0mmで幅が3.0mmのYIG層21上に、厚さが15nmで、幅が0.60mmの一対のPt電極22,23を1.0mmの間隔を隔てて設けたものである。なお、図においては説明の都合上、注入電極となる左側のPt電極22を強調して図示している。
【0049】
この試料系においては、実際にスピンホール効果が生じている場合には、左側のPt電極22にYIG膜21の幅方向(図における縦方向)に沿って電流Iを流すと、スピンホール効果によって、Pt電極22において電流方向と垂直な方向(図における横方向)に純スピン流が発生する。発生した純スピン流はPt/YIG界面で純スピン流からスピン波スピン流へ交換することによりYIG層21中にスピン波スピン流を生じさせる。
【0050】
このスピン波スピン流はYIG層21中を輸送されて、右側のPt電極23との界面において、Pt電極23中に純スピン流を発生させ、逆スピンホール効果により、純スピン流と直交する方向(図における縦方向)に電流が流れて、Pt電極23の両端に電位差Vが発生する。
【0051】
測定結果としては、Pt電極22に流した電流Iの値にほぼ比例した出力電圧Vが得られており、Pt電極22からYIG層21へスピンホール効果により生成されたスピン流がスピン波スピン流に変換されてスピン輸送が生じたことが確認された。また、得られたV-I特性からは、固定磁場の方向の正負に依存しないことが示された。
【0052】
図11は、出力電圧Vの電流極性依存性の説明図であり、印加磁場の方向が+Hの場合にも、-Hの場合にも、出力電圧Vは電流方向によって反転することが確認された。このことは、Pt電極23で検出された出力電圧Vが、熱、即ち、YIG層21の長さ方向の両端の温度差に起因して発生したスピン波スピン流によるものではないことを示している。したがって、この結果から、図10に示した測定結果は、Pt電極22からYIG層21へスピンホール効果によりスピン輸送が生じたことを保証することになる。
【0053】
このように、本発明者は、誘電体としてYIG等の磁性誘電体を用いるとともに、接合を形成する金属としてスピン軌道相互作用の大きなPtを用いることによって、金属/磁性誘電体界面においてスピンの輸送が行われることを初めて発見したものである。この発見を応用することによって、伝導電子を媒介とした純スピン流を用いた場合に比べてエネルギー損失の非常に少ないスピン波スピン流を用いた長距離の情報伝送或いはエネルギー伝送が可能になる。
【実施例1】
【0054】
以上を前提として、次に、図12を参照して、本発明の実施例1のスピントロニクスデバイスを説明する。図12(a)は、本発明の実施例1のスピントロニクスデバイスの概念的構成図であり、GGG単結晶基板31上にスパッタ法を用いて厚さが、例えば、50nmのY3 Fe4 GaO12組成のYIG層32を形成し、その上に厚さが、例えば、10nmのPt膜をマスクスパッタ法で堆積することによって、幅が1.0mmで、間隔が5.0mmのPt電極33,34を形成する。
【0055】
図12(b)は、スピントロニクスデバイスを用いた情報伝達方法の説明図であり、Pt電極33にパルス信号を印加すると、Pt電極33にパルス電流が流れ、スピンホール効果により、このパルス電流の方向に直交する方向にパルス純スピン流が生ずる。Pt電極33/YIG層32界面においてこのパルス純スピン流によりYIG層32中にパルス純スピン流の変化に対応して位相が変化したスピン波スピン流が発生する。
【0056】
このスピン波スピン流はYIG膜32中を輸送されてPt電極34に達し、YIG層32/Pt電極34界面におけるによってPt電極34内に、スピン波スピン流の位相変化に応じたパルス純スピン流が生ずる。このパルス純スピン流に起因して、逆スピンホール効果によりPt電極34内においてパルス純スピン流に直交する方向にパルス電流が発生し、Pt電極34の両端においてパルス電圧として検出される。
【0057】
この場合、YIG膜32中におけるスピン輸送はパルス波スピン流により、伝導電子が関与していないので、スピンの摩擦によるエネルギー散逸がなく、数mm以上、例えば、メートルオーダーの距離の情報伝達が可能になる。
【0058】
特に、スピン波スピン流によるスピン輸送は、直流や低周波数帯ではスピンが応答しづらく、GHzオーダーの高周波帯において高効率で行われるので、GHzオーダーの高周波帯における情報伝達として有効となる。
【実施例2】
【0059】
次に、図13を参照して、本発明の実施例2のスピントロニクスデバイスを説明する。図13は、本発明の実施例2のスピントロニクスデバイスの概念的構成図であり、GGG単結晶基板31上にスパッタ法を用いて厚さが、例えば、100nmのPdPtMn反強磁性層35を堆積させる。このPdPtMn反強磁性層35の堆積に際して面内の試料の幅方向に磁場を印加しておく。
【0060】
次いで、PdPtMn反強磁性層35上に、再び、スパッタ法を用いて厚さが、例えば、50nmのY3 Fe4 GaO12組成のYIG層32を形成し、その上に厚さが、例えば、10nmのPt膜をマスクスパッタ法で堆積することによって、幅が1.0mmで、間隔が5.0mmのPt電極33,34を形成する。
【0061】
この場合、YIG層32を構成する多結晶の各グレインの磁化方向はPdPtMn反強磁性層35により固定されて方向が揃うので、外部磁界により磁化方向を揃えることなくスピン輸送を行うことが可能になる。なお、この実施例2における情報伝達方法及びその原理は上記の実施例1と全く同様である。
【0062】
以上、本発明の実施の形態及び各実施例を説明したが、本発明は実施の形態及び各各実施例に記載された構成・条件に限られるものではなく、各種の変更が可能である。例えば、上記の各実施例においては、スピン輸送によって情報伝達を行っているが、スピン輸送によって電流輸送、即ち、エネルギー輸送を行っても良い。
【0063】
上述のように、スピン流は電流と直交する方向に流れるので、磁性誘電体の幅を大きくすることによって、スピン流量を大きくすることができ、大型化によるオームの法則に基づく抵抗増大による損失の増大を伴うことなく電流を輸送することができる。
【0064】
また、上記の各実施例においては、スピントロニクスデバイスそのものとして説明しているが、このようなスピントロニクスデバイスを半導体集積回路内に組み込んで三次元立体回路網を構成しても良い。この場合、スピン輸送媒体となる磁性誘電体として反強磁性誘電体を用いることによって、半導体デバイスの動作に対して磁性誘電体の磁性が影響を及ぼすことがない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の活用例としては、情報伝達手段としてのスピントロニクスデバイスが典型的なものであるが、電流輸送或いはエネルギー輸送手段としても適用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】YIG(Y3 Fe512)の結晶構造図である。
【図2】本発明の実施の形態に用いる試料の製造工程の説明図である。
【図3】YIG膜の特性の説明図である。
【図4】YIG/Pt接合における逆スピンホール効果の検証結果の説明図である。
【図5】YIG膜のみの参考試料における逆スピンホール効果の検証結果の説明図である。
【図6】逆スピンホール効果の面内角度依存性の説明図である。
【図7】逆スピンホール効果の面外角度依存性の説明図である。
【図8】逆スピンホール効果の物質依存性の説明図である。
【図9】図8の結果に基づいた出力電圧Vの物質ごとのマイクロ波電力依存性の説明図である。
【図10】スピンホール効果を用いた金属から磁性誘電体へのスピン輸送の検証結果の説明図である。
【図11】出力電圧Vの電流極性依存性の説明図である。
【図12】本発明の実施例1のスピントロニクスデバイスの説明図である。
【図13】本発明の実施例2のスピントロニクスデバイスの概念的構成図である。
【図14】スピン波スピン流の模式的説明図である。
【符号の説明】
【0067】
11 GGG単結晶基板
12 MOD溶液
13 酸化物層
14 YIG層
15 Pt膜
16 電圧計
17 出力電極
21 YIG層
22,23 Pt電極
31 GGG単結晶基板
32 YIG層
33,34 Pt電極
35 PdPtMn反強磁性層
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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