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明細書 :酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法及び酸化イットリウム前駆体水系ゾル

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5570011号 (P5570011)
公開番号 特開2011-246331 (P2011-246331A)
登録日 平成26年7月4日(2014.7.4)
発行日 平成26年8月13日(2014.8.13)
公開日 平成23年12月8日(2011.12.8)
発明の名称または考案の名称 酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法及び酸化イットリウム前駆体水系ゾル
国際特許分類 C01F  17/00        (2006.01)
FI C01F 17/00 A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 12
出願番号 特願2010-124027 (P2010-124027)
出願日 平成22年5月31日(2010.5.31)
審査請求日 平成25年5月28日(2013.5.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304019399
【氏名又は名称】国立大学法人岐阜大学
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
発明者または考案者 【氏名】櫻田 修
【氏名】加藤 大樹
【氏名】吉田 道之
【氏名】大矢 豊
【氏名】田中 誠
【氏名】北岡 諭
個別代理人の代理人 【識別番号】100098224、【弁理士】、【氏名又は名称】前田 勘次
【識別番号】100140671、【弁理士】、【氏名又は名称】大矢 正代
審査官 【審査官】森坂 英昭
参考文献・文献 国際公開第2005/044773(WO,A1)
特開2003-301167(JP,A)
特表2003-529516(JP,A)
特開2006-045015(JP,A)
特開2006-182604(JP,A)
調査した分野 C01F 17/00
特許請求の範囲 【請求項1】
イットリウム塩の水溶液をアルカリ性とし、水酸化イットリウムの沈殿物を生成させる工程と、
生成した水酸化イットリウムを溶媒と分離する工程と、
分離された水酸化イットリウムを乾燥させることなく、イットリウムイオン1モルに対しカルボキシル基が1.5モル以上3モル未満となる割合でカルボン酸としての酢酸と混合し撹拌することにより、無色透明のゾルを得る工程と
を具備することを特徴とする酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法。
【請求項2】
水酸化イットリウムに対するカルボン酸の割合は、イットリウムイオン1モルに対しカルボキシル基1.5モル~2.5モルとなる割合である
ことを特徴とする請求項1に記載の酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法。
【請求項3】
水酸化イットリウムを溶媒と分離する工程の後に、水酸化イットリウムの沈殿物を水洗する工程を具備する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法。
【請求項4】
イットリウムイオン1モルに対し1.5モル以上3モル未満の酢酸イオンを含有し、
硝酸イオン、塩化物イオン、及び硫酸イオンを含有しないと共に、
無色透明である
ことを特徴とする酸化イットリウム前駆体水系ゾル。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱処理により酸化イットリウムが生成する酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法、及び、該製造方法により製造される酸化イットリウム前駆体水系ゾルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属や合金の鋳造プロセスにおいて、溶融金属(溶湯)を収容する容器、溶湯の運搬・移送のために使用される柄杓状、樋状の部材などは、溶湯との接触により損傷を受け易い。そのため近年では溶湯に接触する部材として、従来の鋳鉄に替えて、チタン酸アルミニウムセラミックス、アルミナセラミックス、ムライトセラミックスなど、耐熱性、耐食性に優れるセラミックス材料が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところが、アルミニウムやマグネシウムは非常に還元性が高いため、上記のようなセラミックス材料であっても、アルミニウム溶湯、アルミニウム合金溶湯、マグネシウム合金溶湯との接触によりマトリクス中の金属イオンが還元され、浸食される。また、溶湯と直接接触しない部材であっても、還元性の高い金属を含むガスに曝されることにより浸食される。そこで、より耐還元性に優れる材料、あるいは、従来から使用されている材料をコーティングすることにより耐還元性を高めることができる材料が望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、後述のように、酸化イットリウムが耐還元性に優れる耐火材料として有望であることを見出し、本発明に至ったものである。イットリウムの酸化物は、ガスセンサや高強度構造材料として使用される安定化ジルコニアの安定化剤、赤色蛍光体、固体レーザ発振素子等に使用されているが、耐火材料としては従来着目されていなかった材料である。
【0005】
ここで、酸化イットリウムが生成することに加え、コーティング膜を形成させることが可能であるためには、前駆体はゾルまたは溶液であることが望ましい。金属酸化物の前駆体ゾルを製造する一般的な方法としては、金属アルコキシドを有機溶媒に溶解し加水分解させるという方法がある。しかしながら、近年では、産業界に対してVOC(揮発性有機化合物)の排出を低減することが要請されており、媒液は水系であることが望ましい。
【0006】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、環境に与える負荷が低減された酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法、及び、該製造方法により製造される酸化イットリウム前駆体水系ゾルの提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法は、「イットリウム塩の水溶液をアルカリ性とし、水酸化イットリウムの沈殿物を生成させる工程と、生成した水酸化イットリウムを溶媒と分離する工程と、分離された水酸化イットリウムを乾燥させることなく、イットリウムイオン1モルに対しカルボキシル基が1.5モル以上3モル未満となる割合でカルボン酸としての酢酸と混合し撹拌することにより、無色透明のゾルを得る工程ととを具備する」ものである。

【0008】
本発明において「水系」とは、ゾルの分散媒が水であり、アルコール等の有機溶媒は分散媒に含有されないことを意味している。
【0009】
「イットリウム塩」としては、例えば、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩を使用することができる。また、イットリウム塩の水溶液をアルカリ性に調整するための添加剤としては、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリム水溶液、水酸化カリウム水溶液、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を使用することができる。
【0010】
「カルボン酸」として、本願発明では酢酸を使用する。なお、「イットリウムイオン1モルに対しカルボキシル基3モル未満となる割合」とは、カルボン酸がモノカルボン酸である場合はイットリウムイオン1モルに対しカルボン酸が3モル未満、カルボン酸がジカルボン酸である場合はイットリウムイオン1モルに対しカルボン酸が1.5モル未満、カルボン酸がトリカルボン酸である場合はイットリウムイオン1モルに対しカルボン酸が1モル未満、という意味であり、カルボン酸が酢酸である本願発明の場合はイットリウムイオン1モルに対し酢酸が3モル未満である

【0011】
本発明において、酸化イットリウムを耐還元性に優れる耐火材料として有望であると考える根拠は、以下のようである。図7に、酸化物生成の標準生成エネルギー△Gを定圧比熱の文献値に基づいて算出し、温度との関係で示したエリンガム図を示す。本発明者らは、種々の金属酸化物について標準生成エネルギー△Gを算出して検討を行った結果、イットリウムはアルミニウムやマグネシウムより酸化物として安定であることに着眼した。すなわち、エリンガム図においては、下に位置するほど酸化物として安定である。図7に示すように、Alの酸化物の線及びMgの酸化物の線より、Yの酸化物の線は下に位置する。従って、酸化イットリウムでコーティングされた部材や酸化イットリウムで形成された部材は、アルミニウムやマグネシウムの溶湯と接触しても還元され難く、長期に亘り酸化物として安定であると期待される。
【0012】
そこで、単に酸化イットリウムを生成するだけではなく、酸化イットリウムのコーティング膜を形成するためのコーティング剤としても使用可能なゾル、という新規なゾルを実現すべく検討を行った結果、上記構成の製造方法により酸化イットリウム前駆体水系ゾルを製造することに成功した。すなわち、本発明によれば、イットリウム塩の水溶液をアルカリ性として水酸化イットリウムを沈殿させ、この水酸化イットリウムをカルボン酸と混合し撹拌するのみの極めて簡易な方法で、酸化イットリウムの前駆体であるゾルを製造することができる。
【0013】
ここで、水酸化イットリウムを「乾燥させることなく」カルボン酸と混合し撹拌することは、本発明の特徴の一つである。水酸化イットリウムを溶媒と分離した後、乾燥させた場合は、カルボン酸と混合し撹拌しても透明なゾルは得られない。また、市販されている水酸化イットリウムの粉末材料を水に懸濁し、カルボン酸と混合し撹拌しても透明なゾルは得られない。これらの理由は明らかではないが、生成したばかりの水酸化イットリウムは結晶が小さく、水酸化物としても不安定なためと考察している。
【0014】
また、イットリウムイオンは3価のイオンであるため、水酸化イットリウムとカルボン酸を混合しようとする場合、カルボン酸の割合はイットリウムイオン1モルに対してカルボキシル基が3モルとなる割合とするのが当業者の通常の考え方である。或いは、より確実に反応させるために、イットリウムイオン1モルに対するカルボキシル基の割合を3モル以上とするのが、当業者の通常の考え方であるかもしれない。これに対し、本発明では、イットリウムイオン1モルに対してカルボキシル基が3モルに満たない割合のカルボン酸の添加で、安定なゾルを製造できることも特徴の一つである。これにより、酸化イットリウムを生成するための加熱処理の際に発生する二酸化炭素が低減するため、環境に与える負荷を低減することができる。加えて、製造されるゾルをコーティング剤として使用した場合に、加熱処理の際に消失する成分が少ないことにより、コーティング膜の収縮や欠損が少なく、均一な膜が形成することが期待される。
【0015】
更に、本製造方法では有機溶媒を使用しないため、VOC排出の低減に対する社会的な要請に沿うものであり、この点からも環境に与える負荷を低減することができる。
【0016】
また、酸化イットリウムのコーティング膜を形成するための前駆体として、イットリウムイオンを含む水溶液を想到し得るところ、イットリウムの塩化物、硝酸塩、硫酸塩の水溶液を使用した場合は、酸化イットリウムを生成させる加熱処理において、塩素、窒素、硫黄を含有する有害なガスが発生する。これに対し、水酸化イットリウムとカルボン酸から生成した本発明のゾルは、イットリウム、炭素、水素、及び酸素の元素のみからなる。加えて、イットリウムの塩化物、硝酸塩、硫酸塩を出発物質のイットリウム塩として使用する場合であっても、水酸化イットリウムの沈殿物を経てゾルとなるため、沈殿物を溶媒と分離する工程において、塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンは溶媒と共に水酸化イットリウムと分離される。従って、本発明によれば、加熱処理において有害なガスが発生するおそれが低減されたゾルを製造することができ、環境に与える負荷をより低減することができる。
【0017】
なお、イットリウム塩の水溶液をアルカリ性に調整するための添加剤に由来するイオンも、水酸化イットリウムの沈殿を溶媒と分離する工程において溶媒と共に分離される。これにより、添加剤としてアンモニア水を使用した場合に、酸化イットリウムを生成させるゾルの加熱処理の際に窒素を含むガスが発生するおそれや、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを添加剤として使用した場合に、ゾルから生成した酸化イットリウムの耐熱性が、ナトリムやカリウムの存在によって低下するおそれが低減される。
【0018】
本発明にかかる酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法は、上記構成において、「水酸化イットリウムに対するカルボン酸の割合は、イットリウムイオン1モルに対しカルボキシル基1.5モル~2.5モルとなる割合である」ものとすることができる。
【0019】
イットリウムイオンに対するカルボキシル基の割合を、より低減して透明なゾルを得ることを目的として検討を行った結果、イットリウムイオンに対するカルボキシル基の割合の大きい方が、水酸化イットリウムから透明なゾルが生成する速度が大きいものの、イットリウムイオン1モルに対するカルボキシル基の割合を、少なくとも1.5モル~2.5モルまで低減させても、十分に速い速度で透明なゾルが得られることが明らかとなった。換言すれば、イットリウムイオン1モルに対するカルボキシル基の割合を1.5モル~2.5モルまで低減させても、ほぼ全量の水酸化イットリウムからゾルを得ることができる。従って、本発明によれば、酸化イットリウムを生成するためにゾルを加熱処理する際に発生する二酸化炭素を、より低減することができると共に、加熱により消失する成分をより少なくすることができ、ゾルをコーティング剤として使用した場合により均一なコーティング膜が形成することが期待される。
【0020】
本発明にかかる酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法は、上記構成に加え、「水酸化イットリウムを溶媒と分離する工程の後に、水酸化イットリウムの沈殿物を水洗する工程を具備する」ものとすることができる。
【0021】
水洗する工程を備えることにより、水酸化イットリウムの沈殿物に付着する溶媒から、イットリウム塩に由来する陰イオンや、イットリウム塩の水溶液の液性を調整するために使用した添加剤に由来するイオンを、ほぼ完全に除くことが可能となる。これにより、酸化イットリウムを生成させるゾルの加熱処理の際に有害なガスが発生するおそれや、生成する酸化イットリウムの性状に影響及ぼす不純物が存在するおそれが、ほとんどないものとなる。
【0022】
次に、本発明にかかる酸化イットリウム前駆体水系ゾルは、「イットリウムイオン1モルに対し1.5モル以上3モル未満の酢酸イオンを含有し、硝酸イオン、塩化物イオン、及び硫酸イオンを含有しないと共に、無色透明である」ものである。
【0023】
これは、上述の酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法において、カルボン酸として酢酸を使用した場合に製造されるゾルである。酢酸は炭素数の小さい構造であるため、酸化イットリウムを生成する加熱処理の際に発生する二酸化炭素が少ない。また、加熱処理により消失する成分が少ないため、均一なコーティング膜を形成できると期待される。加えて、同じく炭素数が小さいギ酸やシュウ酸とは異なり劇物ではないため、取り扱いが容易であるという利点も有している。
【0024】
また、酸化イットリウムのコーティング膜を形成するための前駆体として、水に易溶な酢酸イットリウム4水和物の水溶液も想到し得るところ、この場合はイットリウムイオン1モルに対し3モルの酢酸イオンが存在する。これに対し、本発明のゾルに含有される酢酸イオンは、イットリウムイオン1モルに対し3モル未満であるため、酢酸イットリウム4水和物の水溶液を使用した場合より、酸化イットリウムを生成する加熱処理の際に発生する二酸化炭素が少ないと共に、均一なコーティング膜を形成するという点においても、より有望であると考えられる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明の効果として、環境に与える負荷が低減された酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法、及び、該製造方法により製造される酸化イットリウム前駆体水系ゾルの提供を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態である酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法の工程図である。
【図2】図1の製造方法で製造された本実施形態の酸化イットリウム前駆体水系ゾルであるサンプルY-1.5乾燥物,Y-2乾燥物について、室温で測定したX線回折パターンを酢酸イットリウム4水和物と対比した図である。
【図3】昇温しながら測定したX線回折パターンを(a)サンプルY-1.5乾燥物、(b)サンプルY-2乾燥物、及び、(c)酢酸イットリウム4水和物について対比した図である。
【図4】示差熱重量分析の結果を(a)サンプルY-1.5乾燥物、(b)サンプルY-2乾燥物、及び、(c)酢酸イットリウム4水和物の脱水和物について対比したグラフである。
【図5】サンプルY-1.5乾燥物を400℃、500℃、及び600℃でそれぞれ2時間加熱処理した試料のX線回折パターンを示す図である。
【図6】酸化イットリウムの水における溶解平衡を濃度とpHの関係で示した図である。
【図7】金属酸化物の標準生成エネルギーの算出に基づき作成したエリンガム図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態である酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法、及び、該製造方法により製造される本実施形態の酸化イットリウム前駆体水系ゾルについて、図1乃至図5を用いて説明する。

【0028】
本実施形態の酸化イットリウム前駆体水系ゾルの製造方法(以下、単に「製造方法」と称する)は、図1に示すように、イットリウム塩の水溶液を調整する工程S1と、イットリウム塩の水溶液をアルカリ性とし、水酸化イットリウムの沈殿物を生成させる工程S2と、生成した水酸化イットリウムを溶媒と分離する工程S3と、分離された水酸化イットリウムを水洗する工程S4と、分離後に水洗された水酸化イットリウムを乾燥させることなく、イットリウムイオン1モルに対しカルボキシル基3モル未満となる割合でカルボン酸と混合し撹拌する工程S5とを、具備している。

【0029】
なお、工程1で、イットリウム塩として酢酸塩、シュウ酸塩、炭酸塩を使用する場合など、ハロゲン、窒素、硫黄など加熱により有害なガスを発生する元素をイットリウム塩が有していない場合は、分離された水酸化イットリウムを水洗する工程S4を省略することが可能である。ただし、有害なガスの源とならないイットリウム塩を使用する場合であっても、水洗する工程S4を行うことにより、水酸化イットリウムの沈殿物に付着する水中の陰イオンがほぼ完全に除かれるため、製造されたゾルを加熱処理する際の二酸化炭素の発生を低減することができる。
【実施例】
【0030】
塩化イットリウム6水和物(関東化学製,高純度試薬99.99%)を水に溶解させ、0.1M水溶液とした(工程S1)。図6に、イットリウム水酸化物の水における溶解平衡を水溶液の濃度及びpHの関係で示すように、水溶液がアルカリ性であれば濃度に殆んど影響されず水酸化イットリウムが沈殿する。ここで、0.1M水溶液の場合は、図中に破線で示したように、pH約7以上の領域で水酸化物が生成する。本実施例では1.5Mに調製したアンモニア水(ナカライテスク製,試薬特級28%)を、塩化イットリウムの0.1M水溶液20mlに添加することによりpH9.5に調整し、白色の水酸化イットリウムを沈殿させた(工程S2)。ここで、pH測定には、ガラス電極式水素イオン濃度計(岩城硝子製,AC-50)及びpH電極(テルモ製,Orion81-72)を使用した。
【実施例】
【0031】
沈殿物を含む水溶液を遠心分離機(トミー精工製,TD-65)で遠心分離し(回転数3000rpm,15分間)、水酸化イットリウムを溶媒と分離した(工程S3)。上澄み液(溶媒)のイットリウム濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(堀場製作所製,ICP-AES ULTIMA2)で測定し、水酸化イットリウムの収率を算出したところ、96.8%~99.4%であった。なお、誘導結合プラズマ発光分光分析のための標準溶液としては、原子吸光分析用1000ppmイットリウム標準溶液(関東化学製)を使用した。
【実施例】
【0032】
遠心分離された水酸化イットリウムに純水を加えて撹拌し、上記の遠心分離機で同条件で遠心分離する水洗操作を行った。この水洗操作は、塩化イットリウム6水和物に由来する塩化物イオン、及び、アンモニア水に由来するアンモニウムイオンを除去することを目的としており、上澄み液の電気伝導度が0.1S/m以下となることを目安とし、4回繰り返して行った(工程S4)。なお、電気伝導度の測定は、ガラス電極式水素イオン濃度計(堀場製作所製,D-24)及び電気伝導度電極(堀場製作所製)を使用した。
【実施例】
【0033】
水洗されたゲル状の水酸化イットリウムに、酢酸(ナカライテスク製,試薬特級99.7%)を添加して混合し撹拌した(工程S5)。撹拌は、振とう器(東京理科器製,マルチシェイカーMMS BASE-L50)を使用し、混合液が無色透明となるまで時間を計測しつつ、振とう速度260rpmで行った。この工程は、下記の表1に示すように、添加する酢酸のイットリウムイオンに対する割合(カルボキシル基の割合)を異ならせた5種類のサンプルY-3,Y-2.5,Y-2,Y-1.5,Y-1について行い、混合液の撹拌による変化を対比した。
【実施例】
【0034】
【表1】
JP0005570011B2_000002t.gif
【実施例】
【0035】
その結果、表1に示すように、イットリウムイオン1モルに対し酢酸3モルのサンプルY-3、及び、イットリウムイオン1モルに対し酢酸2.5モルのサンプルY-2.5は、酢酸の添加により直ちに無色透明のゾルとなった。また、イットリウムイオン1モルに対し酢酸2モルのサンプルY-2は、酢酸の添加時には白濁した状態であったが、時間の経過に伴って透明度が増し、1日間の撹拌で無色透明のゾルとなった。イットリウムイオン1モルに対し酢酸1.5モルのサンプルY-1.5も、同様に酢酸添加時の白濁した状態から4日間の撹拌で無色透明のゾルとなった。このように、サンプルY-3,Y-2.5,Y-2,Y-1.5については、無色透明なゾルが得られたことから、水酸化イットリウムのほぼ全量からゾルが生成したと考えられた。そして、これらの無色透明のゾルは、何れも半年以上を経過した時点でも、分散状態は安定していた。
【実施例】
【0036】
一方、イットリウムイオン1モルに対し酢酸1モルのサンプルY-1の混合液は、3カ月間の撹拌によっても完全には無色透明とならなかった。しかしながら、上澄み液は白濁していたため、水酸化イットリウムの全量ではないまでも部分的にゾルが生成していると考えられた。
【実施例】
【0037】
上記の結果から、少なくともイットリウムイオン1モルに対し酢酸1.5~2.5モルの範囲であれば、十分に実用的な速度で、且つ、高い割合(ほぼ全量)で水酸化イットリウムからゾルを生成させることができ、酸化イットリウムを生成させる加熱処理時に消失する成分の割合が低減されたゾルを製造することができる。
【実施例】
【0038】
生成されたゾルの同定を目的として、サンプルY-1.5,Y-2のゾルの乾燥物について、室温でX線回折パターンの測定を行った。ゾルの乾燥は、常温乾燥機(DRN-420DA)を使用し、150℃で12時間行った。また、対照として、市販の酢酸イットリウム4水和物(関東化学製,高純度試薬99.99%)についても、同様に室温でX線回折パターンの測定を行った。ここで、X線回折にはX線回折装置(マックサイエンス製,MXP18)を使用し、線源CuKα線、計測時間1.00sec、ステップ幅0.02degree、出力8.000kW(電圧40.00kV,電流200.00mA)の条件で測定を行った。
【実施例】
【0039】
測定されたX線回折パターンを図2に示す。サンプルY-1.5乾燥物及びY-2乾燥物について、測定された回折パターンから読み取られた格子定数と合致する値は、JCPDSには見当たらず結晶相の同定はできなかった。しかしながら、サンプルY-1.5乾燥物、サンプルY-2乾燥物は何れも酢酸イットリウム4水和物とは結晶相が異なり、サンプルY-1.5乾燥物とサンプルY-2乾燥物も、結晶相が異なっていると考えられた。
【実施例】
【0040】
そこで、サンプルY-1.5乾燥物及びサンプルY-2乾燥物について、有機元素分析を行った。分析には有機微量元素分析装置(ヤナコ分析工業製,CHNコーダーMT-6)を使用した。また、酢酸イットリウム4水和物についても同様に有機元素分析を行った。結果を表2に示す。
【実施例】
【0041】
【表2】
JP0005570011B2_000003t.gif
【実施例】
【0042】
市販の酢酸イットリウム4水和物についての分析結果は、化学式から算出されるモル比(Y:C:H=1:6:17)と比較的よく一致していた。サンプルY-1.5乾燥物については、元素分析の結果から化学式としてY(OH)1.5(CH3COO)1.5が考えられ、サンプルY-2乾燥物については、元素分析の結果から化学式としてY(OH)(CH3COO)が考えられる。これにより、本実施形態の製造方法によって、これまで確認されていなかった新規なゾルが製造されていると考えることができる。
【実施例】
【0043】
更に、上記の製造方法で得られた本実施形態のゾルは、以下に示すように、加熱処理により酸化イットリウムを生成する酸化イットリウムの前駆体であることが、X線回折パターンの測定により確認された。ここで、X線回折パターンの測定は、サンプルY-1.5乾燥物及びサンプルY-2乾燥物を白金製試料ホルダーに収容し、温度を昇温速度5℃/minで上昇させながら測定する以外は、上記と同一の装置及び測定条件で行った。また、酢酸イットリウム4水和物についても同様に測定を行った。その結果を図3に示す。
【実施例】
【0044】
JCPDSに記載された格子定数と対比すると、何れの試料も400℃から酸化イットリウムのブロードなピークが認められ、結晶性の悪い、或いは、結晶子の小さい酸化イットリウムが生成していると考えられた。そして、ピークは700℃でより明瞭となり、800℃ではシャープなピークとなった。従って、徐々に昇温しつつ800℃まで加熱することにより、何れの試料からも結晶性の高い酸化イットリウムが生成すると考えられた。
【実施例】
【0045】
なお、図3から明らかなように、何れの試料においても300℃~400℃の間で結晶構造が大きく変化している。これについては、図4(a),(b),(c)に示すように、示差熱重量分析において300℃~400℃の間で発熱ピーク及び重量減少が測定されたことと考え合わせると、この温度域で酢酸イオンが消失し、酸化イットリウムが生成し始めているためと考えられた。ここで、示差熱重量分析は、示差熱重量同時測定装置(SII製,EXSTAR TG/DTA6300)を使用して行い、図4(a)及び図(b)はそれぞれサンプルY-1.5乾燥物及びサンプルY-2乾燥物の結果である。また、図4(c)は酢酸イットリウム4水和物を予め150℃で12時間乾燥し、水和水を除去した試料についての測定結果である。この水和水を除去する条件は、図示しない示差熱重量分析の結果により、100℃付近に水和水の脱離によると考えられる重量減少及び吸熱ピークが観察されたことに基づいて定めたものである。
【実施例】
【0046】
また、図3を用いて上述したように、5℃/minの速度で温度を上昇させながら測定したX線回折パターンによれば、800℃までの加熱処理で酸化イットリウムのシャープなピークが観察されたが、所定温度で所定時間の加熱処理を行う場合は、もっと低い温度で結晶性の高い酸化イットリウムが生成することが分かった。図5に、サンプルY-1.5乾燥物を所定温度で2時間加熱処理を行った後、室温でX線回折パターンを測定した結果を例示する。500℃の加熱処理によって、かなりシャープな酸化イットリウムのピークが観察され、600℃の加熱処理によって酸化イットリウムのピークはより明瞭となった。
【実施例】
【0047】
従って、上記の製造方法で得られた本実施形態のゾルからは、500℃~600℃、2時間の加熱処理により、酸化イットリウムが生成することが確認された。一般的に、酸化物セラミックスの前駆体ゾルでセラミックス材料や金属の部材をコーティングしようと試みる場合、酸化物セラミックスの生成温度が1000℃を下回ることが目標とされる。このことを鑑みると、500℃~600℃で酸化イットリウムが生成する本実施形態のゾルは、コーティング剤として極めて有用であると期待される。
【実施例】
【0048】
上記のように、本実施形態によれば、耐還元性に優れる耐火材料として有望であると考えられる酸化イットリウムの前駆体となるゾルを、極めて簡易な製造方法で製造することができる。そして、製造されたゾルは分散状態が長期間安定であり、且つ、500℃~600℃という低温で酸化イットリウムが生成する。
【実施例】
【0049】
加えて、本実施形態の製造方法によれば、イットリウムイオン1モルに対する酢酸イオンの割合を、少なくとも1.5~2.5モルまで低減させて安定なゾルを製造することが可能である。これにより、本実施形態のゾルは加熱により消失する成分が少なく、均一なコーティング膜を形成できると期待される。
【実施例】
【0050】
また、本実施形態のゾルは、イットリウムイオン1モルに対する酢酸イオンの割合が少ないことに加え、分散媒に有機溶媒を含有せず、ハロゲン、窒素、硫黄など加熱により有害なガスを発生する元素を有しないため、環境に与える負荷を極めて低減して酸化イットリウムを生成することができる。更に、水酸化物の沈殿を水洗する工程を経て製造されるため、出発物質の塩化イットリウムに由来する塩化物イオンや、液性を調整するための添加剤として使用したアンモニア水に由来するアンモニウムイオンがほぼ完全に除かれており、環境に与える負荷がより確実に低減されている。
【実施例】
【0051】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【実施例】
【0052】
例えば、上記で記載した製造方法により製造されるゾルは、単独で熱処理することにより酸化イットリウムを生成するゾルであるが、他の金属酸化物の前駆体と混合して加熱処理を行うことにより、イットリウムと他の金属との複酸化物を生成させることも可能であると考えられる。
【実施例】
【0053】
また、上記で記載した製造方法により製造されるゾルは、酸化イットリウムのコーティング膜を形成するコーティング剤として有用であると期待されるが、もちろん酸化イットリウムのバルク体やイットリウムの酸化物を含む材料のバルク体を製造するための前駆体としても、使用することが可能である。
【先行技術文献】
【0054】

【特許文献1】特表2003-506217号公報
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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