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明細書 :半導体の電気伝導特性の非接触測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5500621号 (P5500621)
公開番号 特開2010-281640 (P2010-281640A)
登録日 平成26年3月20日(2014.3.20)
発行日 平成26年5月21日(2014.5.21)
公開日 平成22年12月16日(2010.12.16)
発明の名称または考案の名称 半導体の電気伝導特性の非接触測定方法
国際特許分類 G01R  27/02        (2006.01)
FI G01R 27/02 R
請求項の数または発明の数 3
全頁数 12
出願番号 特願2009-134286 (P2009-134286)
出願日 平成21年6月3日(2009.6.3)
審査請求日 平成24年5月29日(2012.5.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
発明者または考案者 【氏名】孫 勇
個別代理人の代理人 【識別番号】100090697、【弁理士】、【氏名又は名称】中前 富士男
【識別番号】100127155、【弁理士】、【氏名又は名称】来田 義弘
審査官 【審査官】吉岡 一也
参考文献・文献 実開昭55-059347(JP,U)
特開2003-139746(JP,A)
特開平06-273477(JP,A)
特開2006-064537(JP,A)
国際公開第2009/069660(WO,A1)
P. Das, M.K. Roy, R.T. Webstar and K. Varahramyan,NONDESTRUCTIVE EVALUATION OF Si WAFERS USING SAW,Proc Ultrason Symp,米国,IEEE,1979年,278-283
P. DAS, R.T. Webstar and H. ESTRADA-VAZQUEZ,CONTACTLESS SEMICONDUCTOR SURFACE CHARACTERIZATION USING SURFACE ACOUSTIC WAVES,Surface Science,NL,North-Holland Publishing Company,1979年,86,848-857
波多江政明、寺司英昭、孫勇,高温超伝導体YBa2Cu3O7表面におけるガス吸着効果,平成19年度応用物理学会九州支部学術講演会,日本,応用物理学会九州支部事務局,2007年12月 1日,94
調査した分野 G01R 27/02
特許請求の範囲 【請求項1】
両側にそれぞれ入力電極及び出力電極を備えた平板状の圧電体の表面で該入力電極及び該出力電極の間の領域に対して、隙間を設けて平板状の半導体を該圧電体に平行に配置する第1工程と、
前記半導体の温度を変化させて、各温度毎に前記入力電極に高周波入力電圧を印加して前記圧電体の表面に弾性表面波を発生させ、該弾性表面波に伴って発生する交流電界を前記半導体に印加しながら該弾性表面波を前記出力電極に向けて移動させて、該出力電極で該弾性表面波による高周波出力電圧を測定する第2工程と、
各温度で測定した前記高周波入力電圧の振幅電圧値Vin及び前記高周波出力電圧の振幅電圧値Voutから、各温度毎に前記弾性表面波が前記入力電極から前記出力電極に移動する際の伝搬率をVout/Vinとして演算し、該伝搬率を用いて前記半導体の電気伝導率の相対値を求める第3工程とを有し、
前記電気伝導率の前記半導体の温度の逆数に対する温度依存性から前記半導体中の不純物原子の電子の束縛準位を求めることを特徴とする半導体の電気伝導特性の非接触測定方法。
【請求項2】
請求項記載の半導体の電気伝導特性の非接触測定方法において、前記高周波入力電圧の前記振幅電圧値Vin及び周波数をそれぞれ調整し、前記振幅電圧値Voutの最大値を求めることを特徴とする半導体の電気伝導特性の非接触測定方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の半導体の電気伝導特性の非接触測定方法において、前記圧電体の表面と前記半導体との間に設けられる前記隙間は1~10μmであることを特徴とする半導体の電気伝導特性の非接触測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波を用いた半導体の電気伝導特性の非接触測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不純物がドープされた半導体の電気伝導特性、例えば電気伝導率を測定することで、半導体の性能、信頼性、劣化等の判定が可能なため、簡便な方法で電気伝導率を高感度かつ高精度で測定する必要が生じている。このため、ホール測定法や四探針法等の接触測定法を用いて、半導体の電気伝導率の測定が従来より行なわれている。
一方、半導体の抵抗率(電気伝導率)の非接触測定法として、半導体試料に所定のエネルギー準位に存在するキャリア(電子)を励起するのに適した波長の励起光を照射すると共に電磁波を照射し、半導体試料の表面に発生する渦電流を検知して抵抗率を測定する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2007-212341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ホール測定法や四探針法等の接触測定方法では、測定しようとする半導体製品から測定用の試料を作製して電極を取付ける必要があり、測定効率が低く、しかも半導体製品を直接測定することができないという問題がある。更に、電極の取付け作業上の制約から、電極間の距離を小さくすることに限界があり、測定時に試料中に存在する電界の強度を大きくできないことから、半導体中の電子に十分なエネルギーを与えることができず、電気伝導率の測定から不純物準位(半導体中の不純物原子の電子の束縛準位)を測定できないという問題がある。
一方、特許文献1に記載された発明では、特定波長の励起光を発生させるために専用光源を準備したり、分光器で特定波長の光を分光しなけらばならず、測定装置が複雑になってコストが上昇するという問題が発生すると共に、測定が煩雑になるいう問題がある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、簡単、低コストで効率的に電気伝導率を測定できると共に、電気伝導率から移動度、不純物準位の特定が可能な弾性表面波を用いた半導体の電気伝導特性の非接触測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う発明に係る半導体の電気伝導特性の非接触測定方法は、両側にそれぞれ入力電極及び出力電極を備えた平板状の圧電体の表面で該入力電極及び該出力電極の間の領域に対して、隙間を設けて平板状の半導体を該圧電体に平行に配置する第1工程と、
前記半導体の温度を変化させて、各温度毎に前記入力電極に高周波入力電圧を印加して前記圧電体の表面に弾性表面波を発生させ、該弾性表面波に伴って発生する交流電界を前記半導体に印加しながら該弾性表面波を前記出力電極に向けて移動させて、該出力電極で該弾性表面波による高周波出力電圧を測定する第2工程と、
各温度で測定した前記高周波入力電圧の振幅電圧値Vin及び前記高周波出力電圧の振幅電圧値Voutから、各温度毎に前記弾性表面波が前記入力電極から前記出力電極に移動する際の伝搬率をVout/Vinとして演算し、該伝搬率を用いて前記半導体の電気伝導率の相対値を求める第3工程とを有し、
前記電気伝導率の前記半導体の温度の逆数に対する温度依存性から前記半導体中の不純物原子の電子の束縛準位を求める
【0008】
発明に係る半導体の電気伝導特性の非接触測定方法において、前記高周波入力電圧の前記振幅電圧値Vin及び周波数をそれぞれ調整し、前記振幅電圧値Voutの最大値を求めることが好ましい。
【0009】
発明に係る半導体の電気伝導特性の非接触測定方法において、前記圧電体の表面と前記半導体との間に設けられる前記隙間は1~10μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
発明に係る半導体の電気伝導特性の非接触測定方法においては、高周波入力電圧の振幅電圧値Vinと高周波出力電圧の振幅電圧値Voutから、弾性表面波が入力電極から出力電極に移動するまでの伝搬率をVout/Vinとして演算し、伝搬率を用いて半導体の電気伝導率の相対値を求めるので、簡便な方法で効率的に半導体の電気伝導率を測定することができる。その結果、例えば、シリコン結晶太陽電池の性能を左右する不純物の影響を電気伝導率の測定から評価することができ、シリコン結晶太陽電池の出荷前の性能検査や、使用中のシリコン結晶太陽電池の劣化判定を効率的かつ安価に行うことができる。
【0012】
電気伝導率の半導体の温度の逆数に対する温度依存性から、半導体中の不純物原子の電子の束縛準位を求めるので、電気伝導率の温度依存性は、束縛準位に束縛されている電子が熱励起されて伝導帯に遷移することに対応しており、束縛準位を容易に決定することができると共に、電子(キャリア)の濃度及び移動度の温度依存性を求めることもできる。
【0013】
発明に係る半導体の電気伝導特性の非接触測定方法において、高周波入力電圧の振幅電圧値Vin及び周波数をそれぞれ調整し、振幅電圧値Voutの最大値を求める場合、伝搬率を高感度かつ高精度で測定することができる。
【0014】
発明に係る半導体の電気伝導特性の非接触測定方法において、圧電体の表面と半導体との間に設けられる隙間が1~10μmである場合、弾性表面波(ひずみ波)が半導体中に侵入するのを防止でき、交流電界による作用の影響だけを取出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係る半導体の電気伝導特性の非接触測定方法を適用する非接触測定装置の説明図である。
【図2】同非接触測定装置の弾性表面波発生手段の説明図である。
【図3】弾性表面波発生手段の入力電極の説明図である。
【図4】(A)、(B)は本発明の一実施の形態に係る半導体の電気伝導特性の非接触測定方法の説明図である。
【図5】アンチモンをドープしたシリコンの電気伝導率の温度依存性の説明図ある。
【図6】アンチモンをドープしたゲルマニウムの電気伝導率の温度依存性の説明図である。
【図7】ゲルマニウムの電気伝導率の温度依存性を示すグラフである。
【図8】ゲルマニウムの電気伝導率の温度依存性を複数の直線領域で近似した場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1、図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る半導体の電気伝導特性の非接触測定方法を適用する非接触測定装置(以下、単に非接触測定装置という)10は、両側にそれぞれ入力電極11及び出力電極12が設けられて水平に配置された平板状の圧電体13(例えば、LiNbO板)を備え、圧電体13の表面で入力電極11及び出力電極12の間の領域に対して隙間Gを設けて平行に配置した平板状の、例えば不純物原子がドナーとしてドープされた半導体(例えば、シリコン、ゲルマニウム)14に、入力電極11に高周波入力電圧を印加して圧電体13の表面に発生した弾性表面波に伴って発生する交流電界を印加しながら弾性表面波を出力電極12に向けて移動させる弾性表面波発生手段15を有している。

【0017】
また、非接触測定装置10は、半導体14及び弾性表面波発生手段15を収納する測定容器16と、測定容器16内の半導体14の温度を調整する温度調整手段17と、高周波入力電圧の振幅電圧値Vin及び周波数をそれぞれ設定して入力電極11に高周波入力電圧を印加する高周波電源18と、弾性表面波が出力電極12に到達した際に発生する高周波出力電圧を測定し振幅電圧値Voutを求める電圧測定手段の一例であるピークボルト計19とを有している、更に、非接触測定装置10は、高周波電源18から入力される振幅電圧値Vin及びピークボルト計19から入力される振幅電圧値Voutから、弾性表面波が入力電極11から出力電極12に移動する際の伝搬率をVout/Vinとして演算し、伝搬率を用いて半導体15の電気伝導率の相対値を求めるデータ処理手段の一例であるパーソナルコンピュータ20とを有している。以下詳細に説明する。

【0018】
ここで、圧電体13及び半導体14の各サイズに制約はないが、本実施の形態では、入力電極11と出力電極12を結ぶ方向を圧電体13の長手方向、長手方向に直交する方向を圧電体13の幅方向として、圧電体13の幅は8~15mm(例えば10mm)、長手方向の長さは25~35mm(例えば30mm)、厚さは0.3~0.8mm(例えば0.5mm)である。また、圧電体13に隙間を設けて平行に配置する半導体14において、圧電体13の長手方向と同じ方向を半導体14の長手方向、半導体14の長手方向に直交する方向を半導体14の幅方向として、半導体14の幅は8~15mm(例えば10mm)、長さは8~15mm(例えば10mm)、厚さは0.2~0.8mm(例えば0.5mm)である。

【0019】
図2、図3に示すように、入力電極11は、圧電体13表面上の一方側において互いに噛み合うように対向して形成された第1、第2の櫛形電極21、22を有している。そして、第1、第2の櫛形電極21、22は、Wの距離を設けて対向して平行に配置された電極基部23、24をそれぞれ有している。また、第1の櫛形電極21には電極基部23から電極基部24側に直角に突出する第1の電極歯状部25が、発生させる弾性表面波の波長λに相当する距離だけ離れて平行に並べて設けられ、第2の櫛形電極22には第1の櫛形電極21の隣合う第1の電極歯状部25間に電極基部24から電極基部23側に直角に突出するように第2の電極歯状部26がλの距離だけ離れて平行に並べて設けられている。なお、電極基部23、24の幅は、例えば、0.001~0.1mmである。

【0020】
ここで、第1の電極歯状部25は、幅がλ/8、長さが距離Wの90~95%で、λ/8の間隔を有して平行に配置され基側が電極基部23に接続する対となる第1の素電極27、27aを備え、第2の電極歯状部26は、幅がλ/8、長さが距離Wの90~95%で、λ/8の間隔を有して平行に配置され基側が電極基部24に接続する対となる第2の素電極28、28aを備えている。そして、隣り合う第1の素電極27(27a)と第2の素電極28a(28)の間の距離はλ/8である。更に、第1、第2の電極歯状部25、26において、一側に配置される第1、第2の素電極27a、28aの質量は、他側に配置される第1、第2の素電極27、28の質量と異なる(例えば0.5倍以上1倍未満、又は1倍を超え1.5倍以下となる)ように調整されている。そして、電極基部23、24は、第1、第2のリード線29、30を介して高周波電源18の出力部(図示せず)に接続されている。なお、電極基部23、24間の距離Wは、半導体14の幅に応じて設定し、半導体14の幅をMとした場合、例えば、Mの0.5~0.8倍である。

【0021】
出力電極12は、入力電極11と同様の構成となって、互いに噛み合うように対向して圧電体13表面上の他方側において形成された第1、第2の櫛形電極31、32を有し、第1、第2の櫛形電極31、32は、Wの距離を設けて対向して平行に配置され電極基部33、34をそれぞれ有している。そして、電極基部33、34は、第1、第2のリード線35、36を介してピークボルト計19の信号入力部(図示せず)に接続されている。

【0022】
入力電極11において、一側に配置される第1、第2の素電極27a、28aの質量を、他側に配置される第1、第2の素電極27、28の質量より、例えば大きくすることで、第1の素電極27と第2の素電極28a間及び第1の素電極27aと第2の素電極28間で励起された励起波が第1、第2の素電極27a、28aに衝突した際の反射係数を大きくすることができる。これにより、第1の素電極27と第2の素電極28a間及び第1の素電極27aと第2の素電極28間で励起波と反射波との位相差を一方向では同位相に、他方向では逆位相にすることができ、表面弾性波を一方向にのみ励振することができる。また、出力電極12を入力電極11と同様の構成とすることで、出力電極12では、到達した弾性表面波による高周波出力電圧を効果的に測定することができる。

【0023】
測定容器16は、半導体14及び弾性表面波発生手段15を収納する密閉容器で、測定時に内部を真空状態に保つ真空ポンプ37が接続されている。また、温度調節手段17は、測定容器16内に設けられ半導体14に当接して半導体14の冷却及び加熱を行うヒータを備えた試料ホルダー38と、試料ホルダー38に冷却媒(例えば、液体窒素、液体水素、液体ヘリウム)を供給する冷却機39と、ヒータに電力を供給して半導体14の温度を制御する温度制御器40とを有している。なお、試料ホルダー38には、図示しない温度センサ(例えば熱電対)が設けられ、温度センサからの信号はパーソナルコンピュータ20に入力され、半導体14の温度が記録される。これによって、半導体14の温度を所定の温度に保つことができ、入力電極11に高周波入力電圧を印加して圧電体13の表面に弾性表面波を発生させると、弾性表面波に伴って発生する交流電界を所定の温度の半導体14に印加しながら弾性表面波を出力電極12に向けて移動させることができる。

【0024】
続いて、本発明の一実施の形態に係る半導体の電気伝導特性の非接触測定方法について説明する。
図4(A)、(B)に示すように、両側にそれぞれ入力電極11及び出力電極12を備えた平板状の圧電体13の表面で入力電極11及び出力電極12の間の領域の幅方向両側に長手方向に沿って絶縁膜41(例えば、4フッ化エチレン樹脂製の膜)を配置する。次いで、試料ホルダー38に取付けられた半導体14の長手方向と圧電体13の長手方向とを一致させて、絶縁膜41を介して半導体14を圧電体13の上方に配置する。これにより、圧電体13の表面で入力電極11及び出力電極12の間の領域に対して隙間Gを設けて半導体14を配置することができる(第1工程)。ここで、絶縁膜41の厚みT、すなわち隙間Gの距離は、1~10μm、例えば5μmである。

【0025】
半導体14の配置が終了すると、測定容器16を密閉して真空ポンプ37で測定容器16内を真空にする。そして、冷却機39から試料ホルダー38に冷却媒を供給し温度制御器40でヒータに供給する電力を調整して半導体14の温度を予め設定した測定温度に保持する。次いで、高周波電源18から入力電極11に設定した周波数の高周波入力電圧を印加すると、圧電体13が励振して弾性表面波SAWが発生し出力電極12に向けて移動する。このとき、弾性表面波SAWに伴って交流電界Eが発生する。ここで、半導体14は、圧電体13の表面で入力電極11及び出力電極12の間の領域に対して隙間Gを設けて配置されているので、半導体14には弾性表面波SAWは伝達せず、入力電極11から出力電極12に向けて移動する弾性表面波SAWに伴う交流電界Eのみが半導体14に印加され、弾性表面波SAWが出力電極12に到達すると、出力電極12では高周波出力電圧が測定される。そして、半導体14を測定温度に保持した際の高周波出力電圧の測定が終了すると、温度制御器40で半導体14の温度を次の測定温度に向けて変化させ、半導体14の温度が測定温度に保持された時点で高周波出力電圧を測定することを繰り返す(第2工程)。

【0026】
弾性表面波SAWが出力電極12に到達すると、出力電極12に発生する高周波出力電圧の振幅電圧値Voutがピークボルト計19で測定され、ピークボルト計19から振幅電圧値Voutの値がパーソナルコンピュータ20に入力される。一方、パーソナルコンピュータ20には、高周波電源18から入力電極11に印加した高周波入力電圧の振幅電圧値Vinが入力されているので、パーソナルコンピュータ20では、高周波入力電圧の振幅電圧値Vin及び高周波出力電圧の振幅電圧値Voutから、弾性表面波SAWが入力電極11から出力電極12に移動する際の伝搬率をVout/Vinとして演算する。

【0027】
圧電現象においては、機械エネルギーと電気エネルギーは相互変換可能で、その変換率は圧電体13の特性で決まる電気機械結合係数で規定される。このため、電気エネルギーが減衰すると、機械エネルギーも減衰する関係にある。ここで、半導体14に交流電界Eが印加されると、半導体14中の伝導電子が印加された交流電界Eの作用で振動し、交流電界Eの電気エネルギーの一部がジュール熱に変換され、電気エネルギーが減衰する。従って、入力電極11で発生した弾性表面波SAWに伴って発生する交流電界Eを半導体14に印加しながら弾性表面波SAWが出力電極12に向けて移動する場合、弾性表面波SAWに伴って発生する交流電界Eの電気エネルギーは弾性表面波SAWの移動に伴って減衰するため、入力電極11で発生した弾性表面波SAWも出力電極12に到達した時点で減衰している。

【0028】
入力電極11で発生する弾性表面波SAWの機械エネルギーは入力電極11に印加した高周波入力電圧の振幅電圧値Vinに比例し、出力電極12で検出される弾性表面波SAWの機械エネルギーは出力電極12で測定される高周波出力電圧の振幅電圧値Voutに比例する。このため、弾性表面波SAWが入力電極11から出力電極12に移動した際の減衰は、伝搬率Vout/Vinとして求まる。一方、弾性表面波SAWの減衰と電気エネルギーの減衰(ジュール熱の発生)は比例するので、ジュール熱の発生は伝搬率Vout/Vinに比例する。一方、発生するジュール熱は、交流電界の二乗と電気伝導率の積に比例するので、伝搬率Vout/Vinは電気伝導率に比例する。従って、伝搬率Vout/Vinを半導体14の電気伝導率の相対値とすることができる。

【0029】
なお、ピークボルト計19で出力電極12に発生する高周波出力電圧の振幅電圧値Voutを測定する場合、高周波電源18で入力電極11に印加する高周波入力電圧の周波数及び振幅電圧値Vinを調整し、振幅電圧値Voutの最大値を求めるようにする。これによって、伝搬率Vout/Vinを高感度かつ高精度で測定することができる。

【0030】
ここで、半導体14の電気伝導率σは、電子(キャリアともいう)の電荷をq、伝導帯の電子(伝導電子)の濃度をn、電子の移動度をμとすると、σ=qnμとなる。すなわち、電気伝導率σは、伝導電子の濃度n及び移動度μによって変化する。なお、伝導電子は、主に、例えば、半導体14中にドナーとしてドープされた不純物原子の束縛準位(不純物準位ともいう)に存在する電子(ドナー電子)がフォノン(半導体14を構成している原子の格子振動)のエネルギーを得て伝導帯に遷移したものである。

【0031】
一方、弾性表面波SAWに伴って発生する交流電界Eが半導体14に印加されると、伝導電子は交流電界Eにより振動しエネルギーを得る。そして、交流電界Eの強さは入力電極11に印加する高周波入力電圧の振幅電圧値Vinに比例するので、振幅電圧値Vinを調整することで、伝導電子の得るエネルギーを調整できる。このため、半導体14の伝導電子のエネルギーを、半導体14中にドープした不純物原子の束縛準位中で最も深い準位のエネルギーよりも大きくすると、交流電界でエネルギーを得た伝導電子は、ある確率で束縛準位(不純物ポテンシャル)を透過する可能性がある。そして、伝導電子が束縛準位を透過する際には、共鳴透過(ラムザウアー効果)という現象が起こり、伝導電子は束縛準位に一定時間留まる(トラップされる)ことになる。そして、トラップされた電子は、フォノンのエネルギーを得て、伝導帯に遷移して伝導電子となることができる。従って、共鳴透過が生じると、伝導電子がトラップされる不純物準位にドナー電子が存在することになり、このドナー電子が伝導帯に遷移することで、伝導電子の濃度nが変化することになる。

【0032】
ここで、半導体14の温度(絶対温度)Tの逆数に対する半導体14の電気伝導率σの温度依存性を考える。今、ボルツマン定数をkとして、1/kTをxとおくとき、電気伝導率σの温度依存性dσ/dxは、
dσ/dx=q・(∂μ/∂x)・n-q・μ・|∂n/∂x|
となる。すなわち、xの変化に対し移動度μの変化が緩やかなもので、電子濃度nはxに対し急激な変化になる。このため、電気伝導度σの温度依存性から移動度μと電子濃度nを分離することができる。半導体14の温度(絶対温度)Tが低下する(1/kTが増加する)のに伴って、半導体14中の不純物原子の束縛準位が深い準位から順に励起されなくなっていくが、ある温度帯域(あるフォノンエネルギー帯域)においては、特定の束縛準位に占有されているドナー電子が励起されて、電気伝導率σの温度依存性dσ/dxは-q・μ・|∂n/∂x|、すなわち伝導電子の電子濃度nの変化に支配される。逆に、特定の束縛準位よりもフォノンエネルギーが小さくなると、ドナー電子は励起されず、電気伝導率σが減少する。

【0033】
このため、半導体14の電気伝導率σの温度Tの逆数、例えば1/kTに対する温度依存性を求めると、不純物原子の束縛準位に対応するピーク領域が現れる(図5参照)。そして、ピーク領域の右側部分(1/kTが増加する側)の勾配が∂n/∂xに対応し、勾配の値から電子濃度nの温度依存性が求まり、全てのピーク領域のバックグランドの値から移動度μの温度依存性が求まる。

【0034】
なお、不純物原子の束縛準位間のエネルギー差が小さい場合、束縛準位に占有されているドナー電子の励起が連続して起こる。このため、半導体14の電気伝導率σの半導体14の温度Tの逆数、例えば1/kTに対する温度依存性を求めると、半導体14の電気伝導率σは連続的に低下する(図6参照)。

【0035】
不純物原子の束縛準位Eは、アレニウスプロット法を用い活性化エネルギーから求めた。すなわち、温度Tにおいて、不純物原子の束縛準位Eに占有されているドナー電子がフォノンエネルギーによって励起される場合、束縛準位Eをドナー電子の活性化エネルギーと言い換えることができ、ドナー電子の励起確率は、ボルツマン定数をkとしてe-En/kTと表せるので、温度Tにおける電気伝導率σは、σを係数として、σ=σμ(T)e-En/kTとなる。従って、電気伝導率σの温度Tの逆数、例えば1/kTに対する温度依存性に現れるピーク領域の形状、又は電気伝導率σが連続的に低下する領域に対してe-En/kTを当てはめることにより、不純物原子の電子(ドナー電子)の束縛準位Eを求めることができる(第3工程)。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
弾性表面波発生手段のLiNbO(ニオブ酸リチウム)板(長さ30mm、幅10mm、厚さ0.5mm)の表面で入力電極及び出力電極の間の領域の両側に長手方向に沿って長さ10mm、幅3mm、厚さ5μmの4フッ化エチレン樹脂膜をそれぞれ配置し、試料ホルダーに取付けられたシリコン板(長さ15mm、幅8mm、厚さ0.5mm)の長手方向をニオブ酸リチウム板の長手方向と一致させて、4フッ化エチレン樹脂膜を介してシリコン板をニオブ酸リチウム板の上方に配置する。なお、シリコン板には不純物原子としてアンチモンがドープされ、抵抗率は12~18Ω・cm(温度300K)である。
【実施例】
【0037】
次いで、測定容器を密閉して真空ポンプで測定容器内を真空にする。そして、冷却機から試料ステージに冷却媒を供給し温度制御器でヒータに供給する電力を調整してシリコン板の温度を徐々に低下させ、シリコン板の温度が250Kに到達した時点から、16Kまで1Kステップで温度を下げながら、各温度毎に高周波電源から入力電極に200MHzの高周波入力電圧を印加して弾性表面波を発生させ、弾性表面波が出力電極に到達した際の高周波出力電圧の振幅電圧値Voutを測定した。ここで、高周波出力電圧の振幅電圧値Voutを測定する場合、高周波電源で入力電極に印加する高周波入力電圧の振幅電圧値Vinを調整し、振幅電圧値の最大値をVoutとした。
【実施例】
【0038】
次いで、パーソナルコンピュータで、高周波入力電圧の振幅電圧値Vin及び高周波出力電圧の振幅電圧値Voutから、弾性表面波が入力電極から出力電極に移動する際の伝搬率をVout/Vinとして演算し、伝搬率Vout/Vinをシリコン板の電気伝導率の相対値として、シリコン板の電気伝導率σの1/kTに対する温度依存性を求めた。その結果を図5に示す。
【実施例】
【0039】
図5では、シリコン板の電気伝導率σの1/kTに対する温度依存性には、A~Eの5つのピーク領域が現れるので、各ピーク領域の形状に対してe-En/kTを当てはめることにより、アンチモンの電子の活性化エネルギーを求めた。A~Eの5つのピーク領域から求めたアンチモンの電子の活性化エネルギーの値は、100.4meV、44.5meV、32.6meV、30.2meV、及び16.6meVであった。ここで、Aのピーク領域から求めた100.4meVはシリコン中の電子の移動度の温度依存性に対応している。一方、B~Eの各ピーク領域からそれぞれ求めた44.5meV、32.6meV、30.2meV、16.6meVの各準位は、それぞれアンチモンの電子の束縛準位の基底準位、2番目の準位、3番目の準位、及び4番目の準位に対応している。
【実施例】
【0040】
なお、アンチモンの電子の束縛準位の基底準位、2番目の準位、3番目の準位、及び4番目の準位の各文献値は、42.7meV、32.9meV、30.5meV、11.5meVであり、本方法により、シリコン中のアンチモンの電子の束縛準位が簡便な方法で精度よく求まることが確認できた。また、A~Eの5つのピーク領域の勾配から移動度の温度依存性を求めると、T3/2と求まった。
【実施例】
【0041】
(実施例2)
ゲルマニウム板の電気伝導率σの1/kTに対する温度依存性をシリコン板の場合と同様の方法で求めた。なお、ゲルマニウム板には不純物原子としてアンチモンがドープされ、抵抗率は10~25Ω・cm(温度300K)であり、測定温度領域は27~300Kである。また、高周波電源から入力電極に印加する高周波入力電圧の周波数は50MHzである。その結果を図6に示す。
【実施例】
【0042】
図6では、ゲルマニウム板の電気伝導率σは、1/kTの増加に対して連続的に低下し、シリコン板の電気伝導率σに現れたピーク領域は観察されなかった。このため、ゲルマニウム板の電気伝導率σを自然対数に変換した変換値の1/kTに対する温度依存性を求めた。その結果を図7に示す。そして、図7に現れる各直線の傾きF~Iに対して-En/kTを当てはめることにより、アンチモンの電子の活性化エネルギーを求めた。F~Iの4つの直線領域から求めたアンチモンの電子の束縛準位Eの値は、99.2meV、10.3meV、5.1meV、及び2.5meVであった。ここで、Fの直線領域から求めた99.2meVはゲルマニウムの電子の移動度の温度依存性に対応している。一方、G~Iの各直線領域からそれぞれ求めた10.3meV、5.1meV、及び2.5meVの各準位は、それぞれアンチモンの不純物準位の基底準位、2番目の準位、及び3番目の準位に対応している。なお、アンチモンの電子の束縛準位の基底準位、2番目の準位、及び3番目の準位の各文献値は、10.32meV、4.74meV、及び2.57meVであり、本方法により、ゲルマニウム中のアンチモンの不純物準位が簡便な方法で精度よく求まることが確認できた。
【実施例】
【0043】
また、図6の電気伝導率σの温度依存性を、図8に示すように、複数の直線領域a、b、cで近似し、各直線領域の勾配dσ/dxを用いて移動度の温度依存性を求めると、Tー1.3/2と求まった。
【実施例】
【0044】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、不純物原子としてアンチモンをドープしたが、リン等の5族元素、アルミニウム等の3族元素をドープしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
弾性表面波に伴って発生する交流電界を半導体に印加することで、伝導電子が不純物ポテンシャルを共鳴透過するラムザウアー効果が観察されるので、弾性表面波を用いて半導体中の不純物原子の束縛準位に占有された電子に関する量子情報(例えば、束縛準位の電子の波動関数に関する情報)の読み取りや書き込みが可能になると考えられる。このため、量子情報を制御することで、例えば、量子コンピュータを実現することが可能になる。
【符号の説明】
【0046】
10:非接触測定装置、11:入力電極、12:出力電極、13:圧電体、14:半導体、15:弾性表面波発生手段、16:測定容器、17:温度調整手段、18:高周波電源、19:ピークボルト計、20:パーソナルコンピュータ、21:第1の櫛形電極、22:第2の櫛形電極、23、24:電極基部、25:第1の電極歯状部、26:第2の電極歯状部、27、27a:第1の素電極、28、28a:第2の素電極、29:第1のリード線、30:第2のリード線、31:第1の櫛形電極、32:第2の櫛形電極、33、34:電極基部、35:第1のリード線、36:第2のリード線、37:真空ポンプ、38:試料ホルダー、39:冷却機、40:温度制御器、41:絶縁膜
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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