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明細書 :易成形性マグネシウム合金板材及びその作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5467294号 (P5467294)
公開番号 特開2010-013725 (P2010-013725A)
登録日 平成26年2月7日(2014.2.7)
発行日 平成26年4月9日(2014.4.9)
公開日 平成22年1月21日(2010.1.21)
発明の名称または考案の名称 易成形性マグネシウム合金板材及びその作製方法
国際特許分類 C22F   1/06        (2006.01)
C22C  23/04        (2006.01)
B21B   3/00        (2006.01)
C22F   1/00        (2006.01)
FI C22F 1/06
C22C 23/04
B21B 3/00 L
C22F 1/00 606
C22F 1/00 612
C22F 1/00 623
C22F 1/00 630K
C22F 1/00 683
C22F 1/00 684Z
C22F 1/00 685A
C22F 1/00 686Z
C22F 1/00 691B
C22F 1/00 691C
C22F 1/00 694B
C22F 1/00 694A
請求項の数または発明の数 13
全頁数 23
出願番号 特願2008-292848 (P2008-292848)
出願日 平成20年11月14日(2008.11.14)
優先権出願番号 2008148538
優先日 平成20年6月5日(2008.6.5)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年11月14日(2011.11.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】千野 靖正
【氏名】馬渕 守
個別代理人の代理人 【識別番号】100102004、【弁理士】、【氏名又は名称】須藤 政彦
審査官 【審査官】河口 展明
参考文献・文献 特開2005-298885(JP,A)
特開平06-293944(JP,A)
特開2003-126943(JP,A)
調査した分野 C22F 1/06
C22C 23/00-23/06
C22F 1/00
特許請求の範囲 【請求項1】
軽希土類元素(Y、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm)の1種以上、及びZn、及び不可避に混入する不純物からなり、軽希土類元素の総量が0.1~1.0質量%であり、Znの総量が0.4~2.6質量%であるマグネシウム合金を、総圧下率30%以上で試料温度450℃以下の熱間・温間圧延を行い、圧延後に試料温度が、260℃~450℃、保持時間が、10分~3時間の熱処理による焼鈍を行い、該熱処理により、粒界の新しい配列を伴う再結晶を起こすことにより、XRD法(シュルツの反射法)による測定で、(0002)面集合組織の板幅方向に30°回転した付近の位置に極を有し、常温(30℃)で、エリクセン値が少なくとも8.0以上の常温成形性を有するマグネシウム合金板材を製造することを特徴とする易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
【請求項2】
Y及び/又はScの総量が、0.5質量%以下である、請求項1に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
【請求項3】
軽希土類元素の総量が、0.10.5質量%である、請求項1又は2に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
【請求項4】
軽希土類元素として、軽希土類元素を主成分とする希土類元素混合物(ミッシュメタル:Mm)を使用する、請求項1~3のいずれかに記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
【請求項5】
軽希土類元素に代わるCa、及びZn、及び不可避に混入する不純物からなり、Caの総量が0.01~0.6質量%であり、Znの総量が0.4~2.6質量%であるマグネシウム合金を、総圧下率30%以上で試料温度450℃以下の熱間・温間圧延を行い、圧延後に試料温度が、260℃~450℃、保持時間が、10分~3時間の熱処理による焼鈍を行い、該熱処理により、粒界の新しい配列を伴う再結晶を起こすことにより、XRD法(シュルツの反射法)による測定で、(0002)面集合組織の板幅方向に30°回転した付近の位置に極を有し、常温(30℃)で、エリクセン値が少なくとも8.0以上であるマグネシウム合金板材を製造することを特徴とする易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
【請求項6】
Caの総量が、0.01~0.3質量%である、請求項5に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
【請求項7】
更に、総量が0.01~2.0質量%であるAlを添加する、請求項5又は6に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
【請求項8】
更に、総量が0.01~0.8質量%であるMn及び/又はZrを添加する、請求項1から7のいずれかに記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
【請求項9】
Mn及び/又はZrの総量が、0.01~0.5質量%である、請求項8に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
【請求項10】
試料温度を400℃~500℃で熱間圧延する、請求項1~9のいずれかに記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の製造方法により作製されたことを特徴とする易成形性マグネシウム合金板材。
【請求項12】
請求項11に記載の易成形性マグネシウム合金板材の成形体からなることを特徴とするマグネシウム合金製プレス成形体。
【請求項13】
請求項12に記載のマグネシウム合金製プレス成形体からなることを特徴とするマグネシウム合金製部材。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、易成形性マグネシウム合金の製造方法、そのマグネシウム合金板材、マグネシウム合金製プレス成形体及びマグネシウム合金製部材に関するものであり、更に詳しくは、軽希土類元素(Y、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm)、及びZnを含み、Mn、Zrを特定量添加したマグネシウム合金を、熱間・温間圧延し、焼鈍を行うことで、集合組織を改質し、常温においても、5000系もしくは6000系アルミニウム合金並の成形性を有することを可能とする易成形性マグネシウム合金板材の製造方法、マグネシウム合金板材、そのプレス成形体及び部材に関するものである。
【0002】
更に、本発明は、上記軽希土類元素の代わるCa、及びZnを含み、Al、Mn、Zrを特定量添加したマグネシウム合金を、熱間・温間圧延し、焼鈍を行うことで、集合組織を改質し、常温においても、5000系もしくは6000系アルミニウム合金並の成形性を有することを可能とする易成形性マグネシウム合金板材の製造方法、マグネシウム合金板材、そのプレス成形体及び部材に関するものである。本発明は、宇宙・航空材料、電子機器材料、自動車部材等の幅広い分野で利用することが可能な易成形性マグネシウム合金板材、そのプレス成形体及び筐体等のマグネシウム合金製部材を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
マグネシウムは、実用構造金属材料中、最も低密度(=1.7g/cm)であり、金属材料特有の易リサイクル性を有し、資源も豊富に存在することから、次世代の構造用軽量材料として注目されている。現在、日本におけるマグネシウム製品の多くは、ダイキャスト等の鋳造法により作製されている。これらの手法により、薄肉成形が可能となったことが、マグネシウム合金の工業化を助長した最大の要因である。
【0004】
特に、家電製品では、パソコン、携帯電話、デジタルカメラ等の家電製品筐体に、マグネシウム合金鋳造材が利用されている。しかし、現状の鋳造法による生産法には、鋳造欠陥を補うための後処理が必要であること、歩留りが低いこと、部材の強度・剛性に問題があること、等の問題が存在する。
【0005】
一般的に、プレス成形は、歩留まりが高く、成形と同時に高強度・高靭性化を図ることができることから、需要拡大の有効な手段と言える。マグネシウム合金製板材から、プレス成形により成形体を作製できる場合、薄肉、かつ高強度な成形体を、安価なプロセスで、作製することができ、家電製品筐体等の分野で、多くの需要が予測できる。
【0006】
金属の塑性変形の基本となる転位の運動性は、すべり面間隔/原子間距離の比に影響されることが知られている。したがって、最密六方構造(HCP構造)であるマグネシウム合金の場合、a軸長さとc軸長さの比(c/a比)が大きく(c/a=1.6236)、底面すべりと非底面すべりでは、転位の運動性に大きな違いが生じる。
【0007】
そのため、マグネシウム合金の非底面すべりの臨界分解せん断応力(CRSS)は、常温において、他のすべり系と比較して、非常に大きく、常温成形性は、必然的に低い。更に、マグネシウム合金板材には、(0002)面が、板面に対して、平行に配向する集合組織が形成されるため、塑性変形時の板厚方向の歪みが期待できず、そのことが、常温成形性を妨げる一因となっている。
【0008】
成形性に乏しいマグネシウム合金の、常温成形性を向上させる手法としては、規定量のリチウムを添加したマグネシウム合金板材を利用する手法が知られている(特許文献1,2)。この方法は、具体的には、マグネシウム(合金)に、8質量%以上のLiを添加し、HCP構造を有するマグネシウム中に、体心立方晶(β相)を晶出させ、成形性を著しく向上させるものである。更に、Liの添加により、c/a比を低め(非特許文献1)、相乗的に成形性を向上させるものである。一方、Liの添加は、マグネシウムの腐食特性を著しく劣化させるため、実用的ではない。それゆえに、Liを添加せずに、成形性を向上させる技術が望まれている。
【0009】
Liを添加せずに、マグネシウム合金の常温成形性を改善する手段としては、異周速圧延(非特許文献2参照)、クロス圧延法(特許文献3参照)を利用して、(0002)面の集合組織形成を弱めた圧延材を作製する方法が挙げられる。本手法を利用すると、油性潤滑剤が十分利用可能な、150~230℃の温度でも、高い成形性(エリクセン値:約13)を確保することができる。しかし、本手法により作製されたマグネシウム合金の、常温(30℃)における成形性は、低いものであり、せいぜい、エリクセン値で、6程度である(非特許文献3参照)。
【0010】
更に、低温(150℃以下)で、プレス成形を実現する手段としては、適当な熱処理を経た、Ce、La、Y等の軽希土類元素を、適当量添加したマグネシウム合金板材を利用することが挙げられる(特許文献4参照)。この手法は、軽希土類元素を、適当量添加して、マグネシウムのc/a比を低め、マグネシウムの塑性異方性を軽減するものである。しかし、この手法により作製されたマグネシウム合金の、常温(30℃)における成形性は、エリクセン値で、せいぜい4~5程度である。
【0011】
現在、幅広い分野で利用されているアルミニウム合金の常温成形性(エリクセン値)は、上記のマグネシウム合金よりも著しく高く、5000系合金では、8.3(5083-O材)、6000系合金では、9.2(6061-T4材)、1000系合金では、11.0(1100-O材)である(非参考文献4参照)。
【0012】
したがって、マグネシウム合金に関しても、今後、マグネシウム合金板材の著しい需要増加を見込むためには、アルミニウム合金板材に準ずる、もしくは匹敵する常温成形性(常温でのエリクセン値が8.0以上)を付与することが必要であり、当技術分野においては、優れた易成形性を有する新しいマグネシウム合金板材の製造技術及びその製品を開発することが強く要請されていた。
【0013】

【特許文献1】特開2004-156089号公報
【特許文献2】特開平4-32535号公報
【特許文献3】特開2004-10959号公報
【特許文献4】特願2008-148538号
【非特許文献1】R.S.Busk,Transactions AIME,Vol.188(1950)1460-1464
【非特許文献2】Y.Chino et al.:Mater.Trans.,Vol.43(2002),pp.2554-2560
【非特許文献3】千野靖正:金属,Vol.78(2008),pp.327-332
【非特許文献4】アルミニウムハンドブック(第4版),軽金属協会編(軽金属協会発行,東京,1989),p.98
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、アルミニウム合金板材に準ずる、もしくは匹敵する常温成形性、すなわち、常温でのエリクセン値が8.0以上の成形性を有する優れた易成形性マグネシウム合金板材を製造することを目標として鋭意研究を重ねた結果、マグネシウムに、特定量の軽希土類元素類(Y、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm)の1種以上、Zn、及び必要により、Mn、Zrを添加した合金を、適当な条件で熱間・温間圧延し、更に、適当な熱処理に供することにより、集合組織を改質し、常温(30℃)で、アルミニウム合金に準ずる、もしくは匹敵する、優れた易成形性を有するマグネシウム合金板材を作製することに成功した。
【0015】
また、マグネシウムに、特定量のCa、Zn、及び必要により、Al、Mn、Zrを添加した合金を、適当な条件で熱間・温間圧延し、更に、適当な熱処理に供することにより、集合組織を改質し、常温(30℃)で、アルミニウム合金に準ずる、もしくは匹敵する、優れた易成形性を有するマグネシウム合金板材を作製することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、優れた成形性を有する易成形性マグネシウム合金板材の製造方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、該マグネシウム合金板材を成形して、複雑形状を有するマグネシウム合金製プレス成形体及びマグネシウム合金製部材を常温で作製する当該マグネシウム合金製プレス成形体等の製造方法を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、上記手法により作製されたマグネシウム合金板材、マグネシウム合金製プレス成形体及びマグネシウム合金製部材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(1)軽希土類元素(Y、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm)の1種以上、及びZn、及び不可避に混入する不純物からなり、軽希土類元素の総量が0.1~1.0質量%であり、Znの総量が0.4~2.6質量%であるマグネシウム合金を、総圧下率30%以上で試料温度450℃以下の熱間・温間圧延を行い、圧延後に試料温度が、260℃~450℃、保持時間が、10分~3時間の熱処理による焼鈍を行い、該熱処理により、粒界の新しい配列を伴う再結晶を起こすことにより、XRD法(シュルツの反射法)による測定で、(0002)面集合組織の板幅方向に30°回転した付近の位置に極を有し、常温(30℃)で、エリクセン値が少なくとも8.0以上の常温成形性を有するマグネシウム合金板材を製造することを特徴とする易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
(2)Y及び/又はScの総量が、0.5質量%以下である、前記(1)に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
(3)軽希土類元素の総量が、0.10.5質量%である、前記(1)又は(2)に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
(4)軽希土類元素として、軽希土類元素を主成分とする希土類元素混合物(ミッシュメタル:Mm)を使用する、前記(1)~(3)のいずれかに記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
(5)軽希土類元素に代わるCa、及びZn、及び不可避に混入する不純物からなり、Caの総量が0.01~0.6質量%であり、Znの総量が0.4~2.6質量%であるマグネシウム合金を、総圧下率30%以上で試料温度450℃以下の熱間・温間圧延を行い、圧延後に試料温度が、260℃~450℃、保持時間が、10分~3時間の熱処理による焼鈍を行い、該熱処理により、粒界の新しい配列を伴う再結晶を起こすことにより、XRD法(シュルツの反射法)による測定で、(0002)面集合組織の板幅方向に30°回転した付近の位置に極を有し、常温(30℃)で、エリクセン値が少なくとも8.0以上であるマグネシウム合金板材を製造することを特徴とする易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
(6)Caの総量が、0.01~0.3質量%である、前記(5)に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
(7)更に、総量が0.01~2.0質量%であるAlを添加する、前記(5)又は(6)に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
(8)更に、総量が0.01~0.8質量%であるMn及び/又はZrを添加する、前記(1)から(7)のいずれかに記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
(9)Mn及び/又はZrの総量が、0.01~0.5質量%である、前記(8)に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
(10)試料温度を400℃~500℃で熱間圧延する、前記(1)~(9)のいずれかに記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
(11)前記(1)~(10)のいずれかに記載の製造方法により作製されたことを特徴とする易成形性マグネシウム合金板材。
(12)前記(11)に記載の易成形性マグネシウム合金板材の成形体からなることを特徴とするマグネシウム合金製プレス成形体。
(13)前記(12)に記載のマグネシウム合金製プレス成形体からなることを特徴とするマグネシウム合金製部材。
【0018】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、常温(30℃)で、エリクセン値が8.0以上の優れた成形性を有する易成形性マグネシウム合金板材を製造する方法であって、軽希土類元素(Y、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm)の1種以上、及びZnを含み、軽希土類元素の総量が0.1~1.0質量%、好ましくは0.1~0.7質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%の範囲であり、Znの総量が0.4~2.6質量%の範囲であり、適宜、0.01~0.8質量%、好ましくは0.01~0.5質量%の範囲のMn及び/又はZrを含むものであり、他に不可避に混入する不純物を含むことにより構成されるマグネシウム合金を、適当な条件で熱間・温間圧延し、適当な条件で熱処理に供することを特徴とするものである。本発明において、エリクセン値が8.0以上とは、エリクセン値が少なくても8.0の値であることを意味する。
【0019】
また、本発明は、常温(30℃)で、エリクセン値が8.0以上の優れた成形性を有する易成形性マグネシウム合金板材を製造する方法であって、Ca、及びZnを含み、Caの総量が0.01~0.6質量%、好ましくは0.01~0.3質量%の範囲、Znの総量が0.4~2.6質量%の範囲であり、必要に応じて、Mn及び/又はZrを0.01~0.8質量%、好ましくは0.01~0.5質量%の範囲、Alを0.01~2.0質量%の範囲含み、他に不可避に混入する不純物を含むことにより構成されるマグネシウム合金を、適当な条件で熱間・温間圧延し、適当な条件で焼鈍することを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明は、上記製造方法で作製した易成形性マグネシウム合金板材であって、軽希土類元素(Y、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm)の1種以上、及びZnを含み、軽希土類元素の総量が0.1~1.0質量%、好ましくは0.1~0.7質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%の範囲であり、Znの総量が0.4~2.6質量%の範囲であり、適宜、0.01~0.8質量%、好ましくは0.01~0.5質量%の範囲のMn及び/又はZrを含むものであり、他に不可避に混入する不純物を含むことにより構成されるマグネシウム合金からなり、XRD法(シュルツの反射法)による測定で、(0002)面集合組織の板幅方向に極を有し、常温(30℃)で、エリクセン値が少なくとも8.0の成形性を示すことを特徴とするものである。

【0021】
また、本発明は、上記製造方法で作製した易成形性マグネシウム合金板材であって、Ca、及びZnを含み、Caの総量が0.01~0.6質量%、好ましくは0.01~0.3質量%の範囲、Znの総量が0.4~2.6質量%の範囲であり、必要に応じて、Mn及び/又はZrを0.01~0.8質量%、好ましくは0.01~0.5質量%の範囲、Alを0.01~2.0質量%の範囲含み、他に不可避に混入する不純物を含むことにより構成されるマグネシウム合金板材であり、XRD法(シュルツの反射法)による測定で、(0002)面集合組織の板幅方向に極を有し、常温(30℃)で、エリクセン値が少なくとも8.0の成形性を示すことを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明は、上記製造方法で作製した易成形性マグネシウム合金板材の成形体であって、板幅方向に(0002)面の極を有する集合組織を示すマグネシウム合金製プレス成形体、及び該マグネシウム合金製プレス成形体からなるマグネシウム合金部材の点に特徴を有するものである。
【0023】
本発明者らは、以前の研究において、マグネシウム合金プレス成形体を、従来のプレス成形法よりも、低温で作製するための手段として、マグネシウムに、微量の軽希土類元素(Ce、Y)を添加して、マグネシウムの成形性を向上させることを着想した。マグネシウムへの軽希土類元素の添加は、底面すべりと非底面すべりのCRSSの差を低減させ、結果として、圧延材の塑性異方性を低減し、圧延材に優れた成形性をもたらした。しかしながら、これらの合金のエリクセン値は、せいぜい4~5程度であり、アルミニウム合金と比較して、低いものであった。
【0024】
そこで、本発明者らは、上記マグネシウム合金の成形性を更に改善する手段として、Znを適当量添加し、更に、当該合金を、適当な条件で熱間・温間圧延することを着想し、詳細かつ系統的な実験を試みた。その結果の一つとして、図1に、後記する実施例で用いるMg-1.5質量%Zn-0.2質量%Ce合金圧延材の(0002)面集合組織を示す。
【0025】
390℃で圧延した試料には、焼鈍の有無にかかわらず、商用マグネシウム合金圧延材(AZ31B圧延材等)に特有の集合組織が現れた。すなわち、ND方向(垂直方向)からRD方向(圧延方向)に、約30°回転した付近に、(0002)面の極が現れ、RD方向に、(0002)面が傾いた分布を示した。
【0026】
それに対して、450℃で圧延し、更に、350℃(90分)で焼鈍した試料の集合組織には、ND方向からTD方向(板幅方向)に約30°回転した付近に、(0002)面の極が現れ、RD方向よりもTD方向に、(0002)面が傾いた分布を示した。TD方向に広がりを持った集合組織を示すMg-1.5質量%Zn-0.2質量%Ce合金圧延材(450℃圧延材)は、商用マグネシウム合金よりも、ランダムな集合組織を有するため、成形性は、著しく向上した。
【0027】
軽希土類元素と亜鉛を添加したマグネシウム合金を、熱間圧延すると、商用マグネシウム合金とは全く異なる集合組織が現れる原因の一つとして、c/a比の変化が挙げられる。図1の450℃圧延材の焼鈍後の集合組織は、Mg-Li合金の(0002)面集合組織と酷似している(文献:H.Takuda et al.:Mater.Sci.Eng.A Vol.271(1999)251-256)。
【0028】
Mg-18at%Li合金のc/a比(常温)は、1.6086であり、純Mg(1.6236)よりも著しく低い値を取る(非特許文献1)。それゆえに、軽希土類元素類とZnの添加が、マグネシウム合金のc/a比に影響を及ぼし、結果として、図1に示す集合組織が発現すると考えることができる。
【0029】
結果的に、本発明者らは、マグネシウムに、規定量の軽希土類元素(Y、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm)の1種以上、Zn、及び必要により、Mn、Zrを添加した合金を、適当な条件で熱間・温間圧延し、更に、適当な熱処理に供することにより、板材の(0002)面集合組織に板幅方向に極を発現させ、常温(30℃)で、アルミニウム合金に準ずる、もしくは匹敵する成形性及び延性を有する易成形性マグネシウム合金板材及びその加工材を作製することに成功した。
【0030】
すなわち、本発明者らは、具体的には、Liを利用せずに、常温(30℃)で、アルミニウム合金に準ずる、もしくは匹敵する、優れた成形性、すなわち、エリクセン値が8.0以上の成形性を有する易成形性マグネシウム合金板材を作製することに成功した。
【0031】
本発明者らは、更なる詳細かつ系統的な実験を試みた結果、規定量のCa、Zn、及び必要により、Al、Mn、Zrを添加した合金を、適当な条件で熱間・温間圧延し、更に、適当な条件で熱処理を行うことにより、希土類元素を添加した合金とほぼ同じ集合組織が形成され、優れた常温成形性が発現することを発見した。
【0032】
その結果の一つとして、図2(d)に、後記する実施例で用いるMg-1.5質量%Zn-0.08質量%Ca合金圧延材の(0002)面集合組織を示す。本試料は、厚み5mmの試料を、試料温度450℃で、1mmまで圧延し、350℃(90分)の熱処理に供した試料の結果である。
【0033】
Mg-1.5質量%Zn-0.08質量%Ca合金圧延材の集合組織には、ND方向からTD方向(板幅方向)に約30°回転した付近に、(0002)面の極が現れ、RD方向よりもTD方向に、(0002)面が傾いた分布を示した。TD方向の広がりを持った集合組織を示すMg-1.5質量%Zn-0.08質量%Ca合金圧延材は、商用マグネシウム合金よりもランダムな集合組織を有するため、成形性は、著しく向上した。
【0034】
その結果、本発明者らは、マグネシウムに、規定量のCa、Zn、及び必要により、Mn、Zr,Alを添加した合金を、適当な条件で熱間・温間圧延し、更に、適当な条件で熱処理を行うことにより、板材の(0002)面集合組織に、板幅方向に極を発現させ、常温(30℃)で、アルミニウム合金に匹敵する成形性及び延性を有するマグネシウム合金板材を作製することに成功した。
【0035】
すなわち、本発明者らは、具体的には、Liや軽希土類元素を利用せずに、常温(30℃)で、アルミニウム合金に匹敵する易成形性、すなわち、エリクセン値が8.0以上の成形性を有するマグネシウム合金板材を作製することに成功した。
【0036】
次に、本発明を発現させるために必要な合金組成について詳細に説明する。はじめに、軽希土類元素(Y、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm)の1種以上を添加したマグネシウム合金の合金組成について説明する。本発明において、軽希土類元素の1種以上とは、上記元素の1種又は2種以上であることを意味する。
【0037】
Ce、La、Nd、Pr、Smは、マグネシウムに常温で殆ど固溶せず(文献:L.L.Rokhlin:“Magnesium Alloys Containing Rare Earth Metals”,(Taylor & Francis,London,2003)pp.18-67)、固溶硬化の影響は少ない。
【0038】
一方、Ce、La、Nd、Pr、Smの1種以上を1.0質量%以上添加すると、軽希土類元素が析出し、成形性・延性を低下させるため、本発明では、Ce、La、Nd、Pr、Smの1種以上の添加量は、1.0質量%以下、好ましくは0.7質量%以下に設定すべきである。
【0039】
Y、Scは、マグネシウムに、常温で2質量%以上固溶する(文献:L.L.Rokhkin:“Magneium Alloys Containing Rare Earth Metals”,(Taylor & Francis,London,2003)pp.18-67)。しかし、Y及び/又はScを、0.5質量%よりも多く添加すると、固溶硬化の影響が強くなり、成形性及び延性に悪影響を及ぼす。それゆえに、本発明では、Y及び/又はScの添加量は、0.5質量%以下に設定すべきである。
【0040】
なお、軽希土類元素単体と比較して、入手が容易であるミッシュメタル(Mm:軽希土類元素を主成分とする希土類元素群)を代用品として利用しても、同様の効果が発現することを実験により確認している。本発明では、該ミッシュメタル(Mm)を、「La、Ce、Pr、Nd、Sm、Y、Scのいずれかを主成分とする希土類元素群」として、それらと同等のものとして取り扱うこととする。
【0041】
前述の通り、Ce、La、Nd、Pr、Smは、常温で、Mgに固溶せず、その1種以上を1.0質量%以上添加すると、析出物として、素材の成形性に悪影響を及ぼす。一方、Y、Scは、常温で、Mgに固溶するが、その1種以上を0.5質量%以上添加すると、固溶硬化の影響が無視できず、素材の成形性に悪影響を及ぼす。なお、それぞれの添加元素が素材の成形性に及ぼす因子は、独立しており、軽希土類元素群を合わせて、添加することができる。
【0042】
Znは、マグネシウムに、常温で、2~3質量%固溶する(文献:Binary alloy phase diagrams,T.B.Massalski(ed.)(American Society for Metals,Metals Park,Ohio,1986),pp.2571-2572)。
【0043】
3質量%程度のZnを添加すると、析出物が形成され、成形性・延性が低下するため、添加量は、2.6質量%以下と設定すべきである。また、Zn添加の影響を顕在化させるためには、0.4質量%以上の添加が必要である。
【0044】
Mn、Zrの添加は、マグネシウム合金板材の結晶粒径を微細にするため、材料強化に有効である。一方、Mn、Zrを一定以上添加すると、粗大なMn、Zr相、もしくはMn、Zr基金属間化合物相が内部に形成され、材料の成形性及び延性が劣化する。それゆえに、本発明では、Mn、Zrの添加量は、0.01~0.8質量%、より好ましくは0.01~0.5質量%に設定することが好ましい。
【0045】
次に、軽希土類元素の代わりに、Caを添加したマグネシウム合金の合金組成について説明する。Caは、マグネシウムに、常温で、殆ど固溶せず[文献:Binary alloy phase diagrams,T.B.Massalski(ed.)(American Society for Metals,Metals Park,Ohio,1986),pp.925-928]、固溶硬化の影響は少ない。
【0046】
一方、0.6質量%以上(あるいは0.3質量%以上)のCaを添加すると、金属間化合物のMgCa等が析出し、圧延性、成形性、延性を低下させるため、Caの添加量は、0.6質量%以下、好ましくは0.3質量%以下と設定すべきである。また、Ca添加の影響を顕在化させるためには、0.01質量%以上の添加が必要である。
【0047】
Znは、マグネシウムに、常温で、2~3質量%固溶する[文献:Binary alloy phase diagrams,T.B.Massalski(ed.)(American Society for Metals,Metals Park,Ohio,1986),pp.2571-2572]。
【0048】
3質量%程度のZnを添加すると、析出物が形成され、成形性・延性が低下するため、Znの添加量は、2.6質量%以下と設定すべきである。また、Zn添加の影響を顕在化させるためには、0.4質量%以上の添加が必要である。
【0049】
Mn、Zrの添加は、マグネシウム合金板材の結晶粒径を微細にするため、材料強化に有効である。一方、Mn、Zrを一定以上添加すると、粗大なMn、Zr相、もしくはMn、Zr基金属間化合物相が内部に形成され、材料の成形性及び延性が劣化する。それゆえに、本発明では、Mn,Zrの添加量は、0.01~0.8質量%、より好ましくは0.01~0.5質量%に設定することが好ましい。
【0050】
Alは、マグネシウムに、常温で、1~2質量%固溶し[文献:Binary alloy phase diagrams,T.B.Massalski(ed.)(American Society for Metals,Metals Park,Ohio,1986),pp.169-171]、固溶強化を手段とした材料強化に有効である。
【0051】
しかし、Alを一定以上添加すると、Ca、Zn添加の効果が無くなり、板材の(0002)面集合組織に、板幅方向の極が発現しなくなるため、Alの添加量は、2.0質量%以下と設定すべきである。なお、軽希土類元素を添加した合金にAlを添加すると、Al-RE(希土類元素)系金属間化合物が形成し、常温成形性が劣化する。そのため、軽希土類元素を添加した合金へのAlの添加は、避けるべきである。
【0052】
次に、上記組成により構成されるマグネシウム合金の圧延条件及び焼鈍条件について説明する。上記組成により構成されるマグネシウム合金板材の成形性を向上させるためには、試料を、熱間・温間圧延等の熱間・温間加工に供し、更に、焼鈍を行うことにより、板幅方向に(0002)面の極が現れる集合組織を作り込む必要がある。板幅方向に(0002)面の極が現れる集合組織を作り込むために必要とされる加工条件は、添加する元素(軽希土類元素、Ca)の種類により異なる。
【0053】
図1に示す通り、Mg-Zn-Ce系合金においては、試料を、高温(450℃程度)に加熱した上で、熱間・温間圧延を行い、更に、焼鈍を行うと、板幅方向に(0002)面の極が現れる集合組織が発現する。一方、試料温度390℃で、圧延を実施すると、焼鈍を行っても、板幅方向に(0002)面の極は現れず、成形性は、改善されない。なお、この現象は、Mg-Zn-La系合金においても確認されている(後記する、実施例17、比較例6を参照)。
【0054】
このように、Mg-Zn-Ce系合金及びMg-Zn-La系合金の(0002)面集合組織に、板幅方向の極を発現させるためには、400℃以上の試料温度で、熱間・温間加工を行う必要がある。なお、Mg-Zn-Ce系合金及びMg-Zn-La系合金に好適な試料温度は、ロール加熱機構の有無により若干異なる。ロールに、加熱機構があり、ロール表面を、200℃程度に加熱できる場合は、圧延時の試料温度を、低く設定することができる。具体的には、試料温度を400~430℃程度に設定すると良い。
【0055】
ロールに、加熱機構が無く、ロール表面温度が、常温~100℃である場合は、圧延前の試料温度を430~480℃程度に設定する必要がある。なお、圧延前の試料温度を、500℃以上に設定すると、加熱時に、結晶粒の異常粒成長が起こり、圧延後の試料組織が不均一となるため、避けるべきである。
【0056】
一方、他の軽希土類元素(Y、Sc、Nd、Pr、Sm)の1種以上を添加したマグネシウム合金の(0002)面集合組織には、比較的低温(400℃未満)で、温間加工を行っても、板幅方向に(0002)面の極が現れる。また、軽希土類元素の代わりに、Caを添加したマグネシウム合金に関しても、比較的低温(400℃未満)で、温間加工を行っても、板幅方向に(0002)面の極が現れる。
【0057】
そのため、Ce、La以外の軽希土類元素を主に添加したマグネシウム合金、及び、Caを添加したマグネシウム合金に関しては、圧延温度の制約は無く、熱間・温間圧延を実施することにより、成形性の改善に資する集合組織を作り込むことができる。
【0058】
上記組成により構成されるマグネシウム合金板材の(0002)面集合組織に、板幅方向の極を発現させるためには、一定以上の加工を行い、十分な歪みエネルギーを試料に投入する必要がある。図2に、後記するMg-1.5質量%Zn-0.08質量%Ca合金圧延材の(0002)面集合組織を示す。
【0059】
本試料は、厚み5mmの試料を、試料温度450℃もしくは350℃で、厚み4mm(圧下率20%)もしくは1mm(圧下率80%)まで圧延し、350℃(90分)の熱処理に供した試料の結果である。圧下率20%の圧延を行った試料の(0002)面集合組織には、試料温度に関係無く、板幅方向に明確な極は現れない。
【0060】
一方、圧下率の高い圧延(圧下率80%)を行った試料には、板幅方向に明確な極が発現する。このように、集合組織を改質するためには、少なくとも圧下率30%以上の圧延、より好ましくは50%以上の圧延を行い、試料に十分な歪みエネルギーを投入する必要がある。
【0061】
上記組成により構成されるマグネシウム合金板材の(0002)面集合組織に、板幅方向の極を発現させるためには、上記条件で熱間・温間圧延を行った試料に、適当な条件の熱処理を行うことが不可欠である。図3に、後記するMg-1.5質量%Zn-0.08質量%Ca合金圧延材の熱処理前後の(0002)面集合組織を示す。図3に示す通り、焼鈍前の試料には、圧延温度(390℃及び450℃)に関係なく、板幅方向に、(0002)面の極は現れない。
【0062】
また、低温(250℃)で焼鈍を行っても、板幅方向に、(0002)面の極は現れない。すなわち、適当な条件、260℃、10分以上、好ましくは300℃以上、10分以上で焼鈍を行い、粒界の新しい配列を伴う再結晶を起こさないと、板幅方向に、(0002)面の極は現れず、優れた常温成形性は発現しない。しかし、450℃を越える温度で3時間以上の焼鈍を行うと、焼鈍中に異常粒成長が起こり、常温成形性は劣化する。そのため、焼鈍条件は、450℃以下、3時間未満に設定すべきである。
【0063】
なお、粒界の新しい配列を伴う再結晶とは、焼鈍中に新たな大傾角粒界の発生を伴う再結晶を指し、大傾角粒界の発生を伴わない再結晶(いわゆる回復)とは区別される。一般的に、大傾角粒界の発生を伴う再結晶は、加工した金属を融点の約1/2以上の温度に加熱すると発現する。マグネシウムの融点は、650℃であるので、焼鈍中の粒成長を抑制しつつ、粒界の新しい配列を伴う再結晶を起こすためには、300℃~400℃で、焼鈍を行うことが最も好ましい。
【0064】
上記本発明の要素を駆使して作製されたマグネシウム合金板材は、常温(30℃)で、アルミニウム合金に匹敵する常温成形性、すなわち、エリクセン値が8.0以上の成形性を示す。ここでは、マグネシウム合金板材の成形性を表す指標として、エリクセン値を採用した。また、エリクセン試験は、JIS B7729及びJIS Z2274に準ずる試験を指す。
【発明の効果】
【0065】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)マグネシウムに、規定量の軽希土類元素、Zn、及び必要によりMn、Zrを添加した合金を、熱間・温間圧延に供し、更に、適当な熱処理に供することにより、易成形性マグネシウム合金板材を作製することができる。
(2)マグネシウムに、規定量のCa、Zn、及び必要によりAl、Mn、Zrを添加した合金を、適当な条件で熱間・温間圧延に供し、更に、適当な条件で熱処理に供することにより、易成形性マグネシウム合金板材を作製することができる。
(3)得られた板材の(0002)面集合組織には、板幅方向に極が現れ、Liを利用せずに、常温(30℃)で、アルミニウム合金に準ずる、もしくは匹敵する優れた成形性(常温でエリクセン値が8.0以上)が付与される。
(4)上記易成形性マグネシウム合金板材を成形してなるマグネシウム合金製プレス成形体を作製し、提供することができる。
(5)上記マグネシウム合金製プレス成形体からなる筐体等のマグネシウム合金製部材を作製し、提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0066】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
実施例1~39及び比較例1~14
(1)軽希土類元素を含むマグネシウム合金板材の製造
高周波炉を用いて、純マグネシウムインゴットを溶解した後、軽希土類元素(Y、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm)、ミッシュメタル(Mm)、Zn、Mn、Zrを適宜添加することにより、Mg合金を作製した。利用したMmの組成を表1に示す。
【0068】
また、後記する表2に、Mg合金材料の組成を示す。上記マグネシウム合金(50×30×50mm)を、熱間押出し(押出し温度673K、押出し速度3mm/min、押出し比6)に供し、押出し板材(断面積:50×5mm)を作製した。この押出し板材より、60mm×50mm×5mmの試験片を切出し、それらの試験片を圧延に供した。
【0069】
圧延時の試料温度は、350℃~450℃とし、圧延速度を5m/min、1パス毎の圧下率を15~20%に設定し、厚み5mmの試料を1mmまで圧延した。最後に、圧延材を、350℃で、90分の熱処理に供し、マグネシウム合金板材を製造した。ロール直径は、152mmであり、ロール温度は、80℃とした。ロールと試料の潤滑剤として、エステル系熱間圧延用潤滑剤を用いた。
【0070】
【表1】
JP0005467294B2_000002t.gif

【0071】
比較材として、商用マグネシウム合金(AZ31B:Mg-3mass%Al-1mass%Zn-0.5mass%Mn)の圧延材を作製した。市販の押出し材より、60mm×50mm×5mmの試験片を切り出して、圧延を行った。圧延条件は、他の試験片と同じとした。
【0072】
(2)Caを含むマグネシウム合金板材の製造
高周波炉を用いて、純マグネシウムを溶解後、所定量のCa、Zn、Al、Mn、Zrを添加することにより、Mg合金を作製した。後記する表3に、Mg合金材料の組成を示す。上記Mg合金(50×30×50mm)を、熱間押出し(押出し温度673K、押出し速度3mm/min、押出し比6)に供し、押出し板材(断面積:50×5mm)を作製した。
【0073】
押出し板材より、60mm×50mm×5mmの試験片を切出し、それらの試験片を、圧延に供した。圧延時の試料温度は、350℃~450℃とし、圧延速度を5m/minで、厚み5mmの試料を、4mmもしくは1mmまで圧延した。1パス毎の圧下率を15~20%に設定した。最後に、圧延材を、250℃もしくは350℃で、90分の焼鈍に供した。ロール直径は、152mmであり、ロール温度は、80℃以上とした。
【0074】
(3)マグネシウム合金板材の特性評価
上記マグネシウム合金板材の成形性を評価するために、エリクセン試験を実施した。エリクセン試験は、JIS B7729及びJIS Z2247に準拠した。なお、ブランク形状は、板材形状の都合上、φ60mm(厚み1mm)とした。成形速度は、5mm/minとし、しわ押さえ力は、10kNとした。潤滑剤には、グラファイトグリスを利用した。
【0075】
上記マグネシウム合金板材の(0002)面集合組織を、XRD法(シュルツの反射法)により測定し、(0002)面のTD方向への極の有無を調査した。測定に際しては、圧延材より、20mm×20mm×1mmの板材を切り出し、厚み0.5mmまで面削した上で、#4000のSiC研磨紙で表面研磨を実施した試料を利用した。
【0076】
表2に、軽希土類元素を添加したマグネシウム合金板材のエリクセン試験及び集合組織測定の結果であるエリクセン値及びTD方向の極の有無について、まとめて示す。試験番号4~7、10~25、27~32は、実施例、試料番号1~3、8、9、26は、比較例である。試料番号3~8(比較例3、4、実施例1~4)までは、Ce量を0.2質量%と固定し、Zn量を変化させた際の結果である。
【0077】
Znを規定値(0.1質量%~3.0質量%)に設定し、圧延温度を450℃に設定すると、集合組織にTD方向の極が現れ、エリクセン値は、8.0以上の値を示した。表2の結果より、Mg-Zn-Ce合金の成形性は、AZ31B(試験番号1、2:比較例1、2)と比較して、著しく優れていることが分かる。
【0078】
表2中の試験番号6、9(実施例3、比較例5)は、Znを1.5質量%とし、Ceを0.2質量%とした合金を、450℃又は390℃で圧延した試料のエリクセン試験結果である。Mg-Zn-Ce合金に関しては、圧延温度を450℃に設定すると、(0002)面集合組織にTD方向の極が現れ、エリクセン値8.0以上の成形性が発現した。
【0079】
表2中の試験番号10(実施例5)は、Znを1.5質量%とし、Ceを0.5質量%とした合金を、450℃で圧延した試料のエリクセン試験結果である。Ce添加量を規定量内で変化させても、エリクセン値8.0以上の成形性が発現した。
【0080】
表2中の試験番号11、12(実施例6、7)は、Mg-1.5質量%Zn-0.2質量%Ceに、0.1質量%Mnもしくは0.3質量%Zrを添加した板材のエリクセン試験結果である。Mn及びZrを添加しても、集合組織は、改質され、高い成形性が確保されることが分かる。
【0081】
表2中の試験番号13~16(実施例8~11)は、Znを1.5質量%添加し、Yを0.2~0.4質量%添加した合金を、試料温度350℃~450℃で圧延した試料のエリクセン試験結果である。CeをYに代替しても、また、いずれの圧延温度においても、集合組織は、改質され、板材は、8.0以上のエリクセン値を示すことが分かる。
【0082】
表2中の試験番号17~19(実施例12~14)は、Znを1.5質量%添加し、Scを0.1~0.3質量%添加した合金を、試料温度390℃で圧延した試料のエリクセン試験結果である。YをScに代替しても、集合組織は、改質され、板材は、8.0以上のエリクセン値を示すことが分かる。
【0083】
表2中の試験番号20、21(実施例15、16)は、Znを1.5質量%添加し、Y又はScを0.2質量%添加し、Ceを0.2質量%添加した合金を、試料温度390℃で圧延した試料のエリクセン試験結果である。CeとY、又はCeとScを合わせて添加しても、集合組織は、改質され、板材は、8.0以上のエリクセン値を示すことが分かる。
【0084】
表2中の試験番号22~25(実施例17~20)は、Znを1.5質量%とし、La、Pr、Nd、Smを0.2質量%添加した合金を、試料温度450℃圧延した試料のエリクセン試験結果である。すべての試料のエリクセン値は、8.0以上の値を示すことが分かる。
【0085】
表2中の試験番号26~29(実施例21~23、比較例6)は、Znを1.5質量%とし、La、Pr、Nd、Smを0.2質量%添加した合金を、試料温度390℃圧延した試料のエリクセン試験結果である。Pr、Nd、Smを添加した試料は、エリクセン値8.0以上の値を示す。一方、Laを添加した試料のエリクセン値は、8.0未満である。
【0086】
表2中の試験番号30~32(実施例24~26)は、Znを1.0~1.5質量%とし、Mmを0.2~0.5質量%添加した合金のエリクセン試験結果である。軽希土類元素の混合物を利用しても、エリクセン値8.0以上の成形性を示す。
【0087】
【表2】
JP0005467294B2_000003t.gif

【0088】
表3に、Caを添加したマグネシウム合金板材のエリクセン試験及びTD方向の極について、まとめて示す。試料番号33,47~53は、比較例、試料番号34~46は、実施例である。試料番号33~試料番号36までは、Zn量を1.5質量%と固定し、Ca量を変化させ、試料温度450℃で1mmまで圧延し、350℃(90分)で熱処理に供した際の結果である。
【0089】
Ca量を、適正な値に設定すると、集合組織にTD方向の極が現れ、エリクセン値は、8.0以上の値を示した。表3の結果より、Mg-Zn-Ca系合金の成形性は、Mg-Zn系合金(試料番号33)と比較して、著しく優れていることが分かる。
【0090】
表3中の試験番号35、37、38は、Ca量を0.08質量%とし、Zn量を変化させ、試料温度450℃で1mmまで圧延し、350℃(90分)で熱処理に供した際の結果である。Znを既定値に設定することにより、集合組織にTD方向の極が現れ、エリクセン値は、8.0以上の値を示した。
【0091】
表3中の試験番号39~42は、Ca量を0.08質量%、Zn量を1.5質量%とし、Mn、Zr、Alを添加した合金を、試料温度450℃で1mmまで圧延し、350℃(90分)で熱処理に供した際の結果である。Zr、Mn、Alを添加しても、集合組織にTD方向の極が現れ、エリクセン値は、8.0以上の値を示した。
【0092】
表3中の試験番号43~46は、Zn量を1.5質量%とし、Ca量を0.04質量%~0.12質量%とし、試料温度350℃もしくは390℃で1mmまで圧延し、350℃(90分)で熱処理に供した際の結果である。マグネシウム合金の組成を既定値に設定すると、圧延温度にかかわらず、集合組織にTD方向の極が現れ、エリクセン値は8.0以上の値を示した。
【0093】
表3中の試験番号47、48は、Zn量を1.5質量%とし、Ca量を0.08質量%とし、試料温度350℃もしくは450℃で4mmまで圧延し、350℃(90分)で熱処理に供した際の結果である。規定された値よりも低い圧下率の圧延を行うと、熱処理を行っても、集合組織にTD方向の極は現れない。
【0094】
表3中の試験番号49~53は、Zn量を1.5質量%とし、Ca量を0.08質量%とし、試料温度350℃~450℃で1mmまで圧延した試料の結果である。熱処理を行わない試料(試験番号50、52)の集合組織には、TD方向の極が現れなかった。
【0095】
また、250℃(90分)の熱処理に供した試料(試験番号51、53)の集合組織にも、TD方向の極は現れず、エリクセン値は、8.0未満である。すなわち、マグネシウム合金の組成を既定値に設定しても、適当な条件で熱処理を行わないと、集合組織は、改質されず、アルミニウム合金並の成形性が発現しないことが示された。
【0096】
図1に、実施例で利用したMg-1.5質量%-0.2質量%Ce合金圧延材の(0002)面集合組織を示す。これは、所定の試料温度で、厚さ5mmから1mmまで圧延を実施し、更に、350℃で90分の焼鈍に供した試料の集合組織を表すものである。
【0097】
図中、(a)は、試料温度390℃で圧延を実施した試料の焼鈍前の集合組織を表し、(b)は、試料温度390℃で圧延を実施した試料の焼鈍後の集合組織を表し、(c)は、試料温度450℃で圧延を実施した試料の焼鈍前の集合組織を表し、(d)は、試料温度450℃で圧延を実施した試料の焼鈍後の集合組織を表す。なお、(b)は、試験番号9の試料の集合組織を示し、(d)は、試験番号6の試料の集合組織を示す。
【0098】
図2に、実施例で利用した、異なる圧下率で圧延を行った、Mg-1.5質量%Zn-0.08質量%Ca合金圧延材の、(0002)面集合組織を示す。これは、試料温度350℃又は450℃で、厚さ5mmから4mmまで、もしくは厚さ5mmから1mmまで圧延を実施し、更に、350℃で90分の焼鈍に供した試料の集合組織を表すものである。
【0099】
図中、(a)は、350℃で4mmまで圧延した試料の集合組織を(試験番号47)、(b)は、350℃で1mmまで圧延した試料の集合組織を(試験番号43)、(c)は、450℃で4mmまで圧延した試料の集合組織を(試験番号48)、(d)は、450℃で1mmまで圧延した試料の集合組織を示す(試験番号35)。
【0100】
図3に、実施例で利用したMg-1.5質量%Zn-0.08質量%Ca合金圧延材の熱処理前後の、(0002)面集合組織を示す。これは、試料温度390℃又は450℃で、厚さ5mmから1mmまで圧延を実施し、更に、一部の試料について、250℃又は350℃で90分の焼鈍に供した試料の集合組織を表すものである。
【0101】
図中、(a)は、390℃で圧延した熱処理前の試料の集合組織を(試験番号50)、(b)は、390℃で圧延した試料を250℃(90分)の熱処理に供した試料の集合組織を(試験番号51)、(c)は、390℃で圧延した試料を350℃(90分)の熱処理に供した試料の集合組織を(試験番号45)示す。
【0102】
更に、(d)は、450℃で圧延した熱処理前の試料の集合組織を(試験番号52)、(e)は、450℃で圧延した試料を250℃(90分)の熱処理に供した試料の集合組織を(試験番号53)、(f)は、450℃で圧延した試料を350℃(90分)の熱処理に供した試料の集合組織を(試験番号35)、示す。
【0103】
【表3】
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【産業上の利用可能性】
【0104】
以上詳述したように、本発明は、易成形性マグネシウム合金板材及びその製造方法に係わるものであり、マグネシウムに特定量の軽希土類元素類(Y、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm)の1種以上、Zn、及び必要によりMn、Zrを添加した合金を、熱間・温間圧延に供し、更に、適当な熱処理に供することにより、Liを利用せずに、易成形性マグネシウム合金板材を作製することができる。
【0105】
また、本発明は、マグネシウムに特定量のCa、Zn、及び必要によりAl、Mn、Zrを添加した合金を、熱間・温間圧延に供し、更に、適当な熱処理に供することにより、Liを利用せずに、易成形性マグネシウム合金板材を作製することができる。作製されたマグネシウム合金板材の(0002)面集合組織には、板幅方向に(0002)面の極が現れ、集合組織の改質により、常温(30℃)で、アルミニウム合金に準ずる、もしくは匹敵する優れた成形性が発現する。
【0106】
本発明は、デジタルカメラ、ノートパソコン、PDA等、主に家電製品のプレス成形体を中心として積極的に適用することが可能な易成形性マグネシウム合金板材、そのプレス成形体及び筐体等の部材を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】実施例で利用したMg-1.5質量%-0.2質量%Ce合金圧延材の(0002)面集合組織を示したものであり、所定の試料温度で、厚さ5mmから1mmまで圧延を実施し、更に、350℃で90分の焼鈍に供した試料の集合組織を表す。図中、(a)は、試料温度390℃で圧延を実施した試料の焼鈍前の集合組織を表し、(b)は、試料温度390℃で圧延を実施した試料の焼鈍後の集合組織を表し、(c)は、試料温度450℃で圧延を実施した試料の焼鈍前の集合組織を表し、(d)は、試料温度450℃で圧延を実施した試料の焼鈍後の集合組織を表す。
【図2】実施例で作製した、異なる圧下率で圧延を行った、Mg-1.5質量%Zn-0.08質量%Ca合金圧延材の、(0002)面集合組織を示したものであり、試料温度350℃又は450℃で、厚さ5mmから4mmまで、もしくは厚さ5mmから1mmまで圧延を実施し、更に、350℃で90分の焼鈍に供した試料の集合組織を表す。図中、(a)は、350℃で4mmまで圧延した試料の集合組織を、(b)は、350℃で1mmまで圧延した試料の集合組織を、(c)は、450℃で4mmまで圧延した試料の集合組織を、(d)は、450℃で1mmまで圧延した試料の集合組織を示す。
【図3】実施例で作製したMg-1.5質量%Zn-0.08質量%Ca合金圧延材の、熱処理前後の(0002)面集合組織を示したものであり、試料温度390℃又は450℃で、厚さ5mmから1mmまで圧延を実施し、更に、一部の試料について、250℃又は350℃で90分の焼鈍に供した試料の集合組織を表すものである。図中、(a)は、390℃で圧延した熱処理前の試料の集合組織を、(b)は、390℃で圧延した試料を250℃(90分)の熱処理に供した試料の集合組織を、(c)は、390℃で圧延した試料を350℃(90分)の熱処理に供した試料の集合組織を、(d)は、450℃で圧延した熱処理前の試料の集合組織を、(e)は、450℃で圧延した試料を250℃(90分)の熱処理に供した試料の集合組織を、(f)は、450℃で圧延した試料を350℃(90分)の熱処理に供した試料の集合組織を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2