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明細書 :誘電泳動装置および方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5120968号 (P5120968)
登録日 平成24年11月2日(2012.11.2)
発行日 平成25年1月16日(2013.1.16)
発明の名称または考案の名称 誘電泳動装置および方法
国際特許分類 B03C   5/02        (2006.01)
FI B03C 5/02
請求項の数または発明の数 16
全頁数 24
出願番号 特願2009-536128 (P2009-536128)
出願日 平成20年9月26日(2008.9.26)
国際出願番号 PCT/JP2008/068114
国際公開番号 WO2009/044902
国際公開日 平成21年4月9日(2009.4.9)
優先権出願番号 2007262058
優先日 平成19年10月5日(2007.10.5)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年7月8日(2011.7.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
発明者または考案者 【氏名】山川 烈
【氏名】今里 浩子
個別代理人の代理人 【識別番号】100080322、【弁理士】、【氏名又は名称】牛久 健司
【識別番号】100104651、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 正
【識別番号】100114786、【弁理士】、【氏名又は名称】高城 貞晶
審査官 【審査官】関口 哲生
参考文献・文献 特表2003-527601(JP,A)
特開2003-066004(JP,A)
特表2003-519176(JP,A)
特開2005-291870(JP,A)
特開2005-058840(JP,A)
調査した分野 B03C 5/00- 5/02
B01D 57/02
B03B 13/04
特許請求の範囲 【請求項1】
誘電体溶液を充填しかつ誘電体部分を含む対象小物体を入れるためのケース,
上記ケース内の対象小物体に働く誘電泳動力と重力および浮力に基づく力との釣り合いに関して少なくとも一つの安定平衡点を生じさせる不均一交番電場を上記ケース内に形成する複数の電極を含む電極装置,ならびに
上記ケースおよび上記電極装置を保持して傾動させる傾動機構,
を備えた誘電泳動装置。
【請求項2】
上記電極装置において,上記複数の電極の互いに向い合う辺が,電極間中心線に関して線対称で,一端から他端に向って電極間隔が狭く平行に延び,続いてしだいに電極間隔が増大するように曲線に形成されている,請求項1に記載の誘電泳動装置。
【請求項3】
上記ケースおよび上記電極装置を,上記傾動機構による傾きの平面内で回転させる回転機構をさらに備えた,請求項1または2に記載の誘電泳動装置。
【請求項4】
上記複数の電極に印加する,少なくとも周波数または電圧が可変な交流電圧を発生する交流発生装置をさらに備えている,請求項1ないし3のいずれか一項に記載の誘電泳動装置。
【請求項5】
上記傾動機構による傾きの角度および上記回転機構による回転の角度が測定可能である,請求項3に記載の誘電泳動装置。
【請求項6】
上記電極装置が,高周波電圧が印加されることにより上記ケース内の空間内に不均一交番電場を形成する2個一対の上記電極を備え,
上記一対の電極の互いに向い合う辺が,電極間中心線に関して線対称で,一端から他端に向って電極間隔が狭く平行に延び,続いてしだいに電極間隔が増大するように曲線に形成されている,
請求項1に記載の誘電泳動装置。
【請求項7】
上記ケースに対象小物体を吸引または排出するための口があけられている,請求項1に記載の誘電泳動装置。
【請求項8】
上記ケース内に誘電体溶液を注入する注入口および誘電体溶液を排出する排出口が上記ケースにあけられている,請求項1または7に記載の誘電泳動装置。
【請求項9】
ケース内に誘電体溶液を充填しかつ誘電体部分を含む対象小物体を入れ,
上記ケース内に不均一交番電場を形成し,
上記ケースの傾きの方向および角度を調整して,上記ケース内の対象小物体に働く誘電泳動力と重力および浮力に基づく力との間に不均衡を生じさせて対象小物体を所望の方向に移動させる,
誘電泳動を利用した小物体のハンドリング方法。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか一項に記載の誘電泳動装置を用い,
上記ケース内に誘電体溶液を充填しかつ対象小物体を入れ,
上記電極装置の複数の電極に交流電圧を印加して上記ケース内に不均一交番電場を形成し,
上記ケースの傾きの方向および角度を調整して,上記ケース内の対象小物体に働く誘電泳動力と重力および浮力に基づく力との間に不均衡を生じさせて対象小物体を所望の方向に移動させる,
誘電泳動を利用した小物体のハンドリング方法。
【請求項11】
上記対象小物体を安定平衡点で停止させる,請求項9または10に記載のハンドリング方法。
【請求項12】
ケース内に誘電体溶液を充填しかつそれぞれが誘電体部分を含む異なる複数種類の対象小物体を入れ,
上記ケース内に不均一交番電場を形成し,
上記ケースの傾きの方向および角度を調整して,上記ケース内の対象小物体に働く誘電泳動力と重力および浮力に基づく力との間に不均衡を生じさせて異なる複数種類の対象小物体を別個の方向に移動させ,所望の種類の対象小物体を所望の安定平衡点で停止させる,
誘電泳動を利用した小物体の分別方法。
【請求項13】
ケース内に誘電体溶液を充填しかつ誘電体部分を含む対象小物体を入れ,
上記ケース内に不均一交番電場を形成し,
不均一交番電場の強さおよび周波数ならびに上記ケースの傾きの方向および角度のうちの少なくとも一つを調整して,上記ケース内の対象小物体に働く誘電泳動力と重力および浮力に基づく力とを釣り合わせて小物体を静止させ,
上記小物体が静止したときの上記ケースの所定方向の傾き角度を用いて誘電泳動力を算出する,
誘電泳動を利用した小物体の誘電泳動力の測定方法。
【請求項14】
対象小物体が生体細胞である請求項9ないし13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から8のいずれか一項に記載の誘電泳動装置を用いる請求項12に記載の分別方法。
【請求項16】
請求項1から8のいずれか一項に記載の誘電泳動装置を用いる請求項13に記載の測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は誘電泳動装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電泳動とは,不均一電場内におかれた物質が電場とそれにより誘導される双極子モーメントの相互作用により駆動される現象である。この現象を利用して,現在,生体試料の分離,同定をはじめ,さまざまな分野で研究が進められている。たとえば,次の文献を参照。
H.Li and R.Bashir,“Dielectrophoretic separation and manipulation of live and heat-treated cells of Listeria on microfabricated devices with interdigitated electrodes”,Sensors and Actuators B:Chemical,vol.86,no.2-3,pp.215-221,2002.
P.Gascoyne,J.Satayavivad and M.Ruchirawat,“Microfluidic approaches to malaria detection”,Acta Tropica,vol.89,pp.357-369,2004.
特定の物質に生じたこの駆動力,すなわち,誘電泳動力を測定することは,極めて重要であるが,その具体的数値を求めることは容易ではない。一般に設計された電極によって生ずる誘電泳動力を解析的に求めることは不可能に近いので,有限要素法を用いて,計算によって求められる。しかしこれは,実際の誘電泳動力を測定していることにならない。
【発明の開示】
【0003】
この発明は,誘電泳動力の測定を含めて,それのみならず誘電体部分を含む対象小物体の移動,停止,分離,排斥,分別等のハンドリングが可能な誘電泳動装置を提供することを目的とする。
この発明はまた,上記誘電泳動装置に適したディバイス(装置)も提供するものである。
この発明はさらに上記対象小物体のハンドリング方法,分別方法,誘電泳動力の測定方法等も提供する。これらの方法は上記誘電泳動装置を用いて好適に実施できる。
この発明による誘電泳動装置は,誘電体溶液を充填しかつ誘電体部分を含む対象小物体を入れるためのケース,上記ケース内の対象小物体に働く誘電泳動力と重力および浮力に基づく力との釣り合いに関して少なくとも一つの安定平衡点を生じさせる不均一交番電場を上記ケース内に形成する複数の電極を含む電極装置,ならびに上記ケースおよび上記電極装置を保持して傾動させる傾動機構を備えているものである。
上記電極装置の電極に交流電圧を印加すると,上記ケース内に不均一交番電場を形成することができる。小物体に働く誘電泳動力は印加する不均一交番電場の強さおよびその勾配に依存する。重力および浮力に基づく力はケースの傾き角に依存する。この傾き角は上記傾動機構により得ることができる。上記の2つの力が釣り合っていない,すなわち不均衡が生じているときには小物体は溶液中を移動していくことになる。移動方向と速度はケースの傾きの方向および角度,または電極に印加する電圧もしくは周波数により調整することができる。すなわち,小物体のハンドリングが可能となる。
上記の2つの力が釣り合うと小物体は静止する(上記安定平衡点)。誘電泳動力は小物体が静止したときの重力および浮力に基づく力と等しいから,重力および浮力に基づく力を算出すれば誘電泳動力が求まる。重力および浮力に基づく力はケースの傾き角に依存するので,傾き角を変えて小物体が静止したときの傾き角度を測定すれば,誘電泳動力が測定できることになる。
上記誘電泳動装置はさらに,上記ケースおよび上記電極装置を,上記傾動機構による傾きの平面内で回転させる回転機構を備える。
上記誘電泳動力と重力および浮力に基づく力とが正反対方向にない場合には,上記回転機構を利用して上記ケースを,斜めに傾いた平面内で回転させることにより,上記誘電泳動力と重力および浮力に基づく力とを釣り合わせることができる。もちろん,上記回転機構によるケースおよび電極装置の回転により積極的に不均衡を生じさせて小物体の移動を制御することもできる。上記回転機構は小物体のハンドリングにも活用できる。
上記電極装置における電極は,好ましい実施態様では,複数の(一対の)電極の互いに向い合う辺が,電極間中心線に関して線対称で,一端から他端に向って電極間隔が狭く平行に延び,続いてしだいに電極間隔が増大するように曲線に形成されている。この一対の電極は安定平衡点と不安定平衡点とを生じさせる。
上記誘電泳動装置はさらに,上記複数の電極に印加する,少なくとも周波数または電圧が可変な交流電圧を発生する交流発生装置を備えている。
好ましい実施態様では,上記傾動機構による傾きの角度および上記回転機構による回転の角度が測定可能である。角度の測定は目視によってもよく,センサにより自動的に測定してもよい。
この発明はまた,上記誘電泳動装置で好適に用いられるディバイス(装置)を提供する。このディバイスは,内部に誘電体溶液を充填しかつ誘電体部分を含む対象小物体を入れるためのケース,および上記ケース内に不均一交番電場を形成する複数の電極を備え,上記複数の電極の互いに向い合う辺が,電極間中心線に関して線対称で,一端から他端に向って電極間隔が狭く平行に延び,続いてしだいに電極間隔が増大するように曲線に形成されているものである。
一実施態様では,上記ケースに対象小物体を吸引または排出するための口があけられている。
他の実施態様では,上記ケース内に誘電体溶液を注入する注入口および誘電体溶液を排出する排出口が上記ケースにあけられている。
このようなディバイスは,小物体の分離,排斥,分別等に利用することができる。
この発明による小物体のハンドリング方法は,ケース内に誘電体溶液を充填しかつ誘電体部分を含む対象小物体を入れ,上記ケース内に不均一交番電場を形成し,不均一交番電場の強さおよび周波数ならびに上記ケースの傾きの方向および角度のうちの少なくとも一つを調整して,上記ケース内の対象小物体に働く誘電泳動力と重力および浮力に基づく力との間に不均衡を生じさせて対象小物体を所望の方向に移動させるものである。小物体を移動させたのち,所望の位置(安定平衡点)で停止させることもできる。
この発明による小物体の分別方法は,ケース内に誘電体溶液を充填しかつそれぞれが誘電体部分を含む異なる複数種類の対象小物体を入れ,上記ケース内に不均一交番電場を形成し,不均一交番電場の強さおよび周波数ならびに上記ケースの傾きの方向および角度のうちの少なくとも一つを調整して,上記ケース内の対象小物体に働く誘電泳動力と重力および浮力に基づく力との間に不均衡を生じさせて異なる複数種類の対象小物体を別個の方向に移動させ,所望の種類の対象小物体を所望の安定平衡点で停止させるものである。
この発明による小物体の誘電泳動力の測定方法は,ケース内に誘電体溶液を充填しかつ誘電体部分を含む対象小物体を入れ,上記ケース内に不均一交番電場を形成し,不均一交番電場の強さおよび周波数ならびに上記ケースの傾きの方向および角度の少なくとも一つを調整して,上記ケース内の対象小物体に働く誘電泳動力と重力および浮力に基づく力とを釣り合わせて小物体を静止させ,上記小物体が静止したときの上記ケースの所定方向の傾き角度を用いて誘電泳動力を算出するものである。
この発明においては,対象小物体としては生体細胞を含むあらゆる誘電体または誘電体部分を一部に含む小物体に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
第1図は,誘電体粒子に働く重力の斜面分力と誘電泳動力との釣り合いの原理を示す。
第2図は,DEPディバイスを示す断面図である。
第3図は,DEPディバイスのカバーガラスを除いた状態の平面図である。
第4a図は,粒子に働く力を示すもので,粒子が中心線上にあり,釣り合っている状態を示す。
第4b図は,誘電泳動力のプロファイルと重力の斜面分力とを示すグラフである。
第5a図はDEPディバイスの上下を逆にして配置したときの粒子に働く力を示し,第5b図はこのとき生じる誘電泳動力のプロファイルと重力の斜面分力とを示すグラフである。
第6図は,粒子に働く力を示すもので,粒子が中心線から外れて合力が生じている状態を示す。
第7図は,粒子に働く力を示すもので,粒子が中心線から外れているが,釣り合っている状態を示す。
第8図は,傾動板と回転盤の配置関係,すなわちDEPディバイスの傾きを示す。
第9図は,傾動板と回転盤の配置関係,すなわちDEPディバイスの回転を示す。
第10図は,座標軸を示す。
第11a図および第11b図は,角度θpitchを60°から15°へ,および15°から60°へそれぞれ急激に変化させたときの粒子の移動量を時間の経過にしたがって示すグラフである。
第12図は,複数回の連続する角度ステップ応答を示すグラフである。
第13a図は角度ステップ応答における粒子の位置を示し,第13b図は角度ごとの安定平衡点を示すグラフである。
第14図は,重力の斜面分力と誘電泳動力とが釣り合っている静止粒子の位置の変化を角度θpitchを横軸にして示すグラフである。
第15a図および第15b図は,電圧を8Vppから20Vppへ,および20Vppから8Vppへそれぞれ急激に変化させたときの粒子の移動量を時間の経過にしたがって示すグラフである。
第16図は,複数回の連続する電圧ステップ応答を示すグラフである。
第17a図は電圧ステップ応答における粒子の位置を示し,第17b図は電圧ごとの安定平衡点を示すグラフである。
第18図は,重力の斜面分力と誘電泳動力とが釣り合っている静止粒子の位置の変化を電圧Vppを横軸にして示すグラフである。
第19a図および第19b図は,周波数fを300KHzから5MHzへ,および5MHzから300KHzへそれぞれ急激に変化させたときの粒子の移動量を時間の経過にしたがって示すグラフである。
第20図は,複数回の連続する周波数ステップ応答を示すグラフである。
第21a図は周波数ステップ応答における粒子の位置を示し,第21b図は周波数ごとの安定平衡点を示すグラフである。
第22図は,重力の斜面分力と誘電泳動力とが釣り合っている静止粒子の位置の変化を周波数fを横軸にして示すグラフである。
第23図は,誘電体粒子の移動(ハンドリング)の様子を示す。
第24図は,複数の誘電体粒子を分離させた状態を示す。
第25図は,誘電泳動装置の全体構成を示す斜視図である。
第26図は,誘電泳動装置における傾動板の取付構造を示す斜視図である。
第27図は,誘電泳動装置における傾動板の位置決め固定構造を示す側面図である。
第28図は,第27図におけるa-a線に沿う拡大断面図である。
第29図は,誘電泳動装置におけるXYテーブル上に回転盤が設けられている様子を示す斜視図である。
第30図は,誘電泳動装置における回転盤の取付構造を示す断面図である。
第31図は,誘電泳動装置の電気的構成を示すブロック図である。
第32図は,DEPディバイスの変形例を示すもので,一部を切欠いて示す平面図である。
第33図は,第32図の縦断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
(1)誘電泳動と誘電泳動力
誘電体溶液の中に誘電体粒子を置き,不均一な(場所によって電場の強さが異なる)交番(交流)電場(電界)を印加すると,誘電体粒子には次式で与えられる力FDEP(これを誘電泳動力(dielectrophoretic forcce)という)が働き,誘電体粒子はこの誘電泳動力によって溶液(不均一交番電場)内を移動する(この現象を誘電泳動という)。
JP0005120968B2_000002t.gif ここで,εは真空中の誘電率,εは溶液の比誘導率,rは粒子(球形と仮定する)の半径,R(fCM)はクラウジウス-モソッチ(Clausius-Mosotti)の式の実部であり,式(2)で表わされる。Ermsは交流電場の強さを実効値として表現したものである。
JP0005120968B2_000003t.gif ここでεおよびεはそれぞれ粒子および溶液の複素比誘電率である。
ε<εの場合には粒子は電界分布の疎の方へ向う誘電泳動力を受ける(これを負の誘電泳動という),ε>εの場合には粒子は電界分布の密な方へ移動する誘電泳動力を受ける(これを正の誘電泳動という)。
溶液中の非荷電粒子,特に生体細胞(赤血球や白血球の正常細胞および癌細胞,マラリア原虫寄生赤血球,各種の細菌など),DNA分子などの分類方法(フィルタリング)や特性評価は,その粒子の大きさが数ミクロン以下となると極めて困難である。これらの対象物を操作(ハンドリング)することも容易ではない。
誘電泳動力は,溶液(溶媒)の誘電率と比べて粒子(上記生体細胞を含む)の誘電率が大きいか小さいかによって誘電泳動力の方向と大きさが異なるので,粒子の移動と停止,混合粒子(上記生体細胞を含む)の分離または分別,特定粒子(上記生体細胞を含む)の同定などのハンドリングが可能となる。
(2)誘電泳動力と重力との釣り合いおよびその応用
第1図に示すように,溶液中に粒子を収容する誘電泳動ディバイス(装置)(以下,DEPディバイスという)(ケース)を考える。このDEPディバイスは,平坦な基板ガラス(下面板)上の周囲にスペーサによる枠体を固定し,このスペーサによって囲まれた空間内に溶液を充填するとともに,粒子を入れ,その上を平坦なカバーガラス(上面板)で覆って内部に溶液で満たされた(密閉)空間を形成したものである。(密閉)空間内に不均一交番電場を形成する電極を基板ガラス等に設けるが,その詳細は後述する。
DEPディバイス内の粒子には,粒子の重力と溶液による浮力が働く。浮力よりも重力の方が大きいとすれば,粒子に働く力F(以下,これを単に「重力」という)は次式で与えられる(粒子の重力よりも浮力の方が大きい場合には(ρ-ρ)を(ρ-ρ)と置きかえ,粒子に働く力の方向を上方向にすれば,以下の議論はすべて同じようにあてはまる)。
JP0005120968B2_000004t.gif ここでρは粒子の密度,ρは溶液の密度,gは重力の加速度である。
上記のDEPディバイスを斜面の上に置く。斜面の傾斜角度をθpitch,斜面を上る方向をX軸方向とする。
上記の力Fの斜面に平行に下方向に向う分力はFsinθpitch(以下,この力を重力の斜面分力という)である。不均一交番電場を加えて,溶液中の粒子に斜面に平行に上方向に向う誘電泳動力FDEPが働くようにし,もし,これらの力FsinθpitchとFDEPが釣り合ったとすると,粒子は静止する。
この状態(誘電体粒子が静止する状態)では次式が成り立つ。
JP0005120968B2_000005t.gif すなわち,斜面の傾斜角度θpitchを変えることにより,FDEP>FsinθpitchまたはFDEP<Fsinθpitchの状態をつくれば誘電体粒子を斜面に沿って上方または下方に移動させることができるし,式(4)が成り立つ状態をつくり出すことにより,誘電体粒子を静止させることができる(粒子のハンドリング)。
さらに,Fsinθpitchを表わすすべてのパラメータr,ρ,ρ,g,θpitchが既知であるとすると,式(4)が成り立つ状態をつくり出すことにより,式(4)を用いて誘電泳動力FDEPを測定することができる(これを零位法という)。また,ε,ε,εが既知であるとすると,式(1),(2)から電界の強さEの値を算出することもできる。
この誘電泳動力測定法の特徴は次の点にある。
粒子が静止するので,粘性抵抗による測定誤差を除くことができる。
斜面の角度θpitchを変えることにより釣り合いをつくり,粒子を静止させることができる(誘電泳動力を生じさせる交番電場の強さ(印加電圧や周波数)を変化させても粒子を静止させることはもちろん可能であるが,必ずしもそうしなくてもよい)。
(3)DEPディバイスの構造と特徴
DEPディバイス10の構成の一例が第2図および第3図に示されている。
基板ガラス11の平坦面上のほぼ中央に左右一対の電極(クリーク・ギャップ電極:Creek-Gap Electrode)13A,13Bが形成されている。電極13A,13Bは互いに向い合う辺が,一方側すなわち第3図右側(斜面に配置されたときに下部に位置する側)(以下,これを下側または端子側という)から他方側,すなわち第3図左側(斜面に配置されたときに上部に位置する側)(以下,これを上側という)に向うにしたがって,まず,電極の長さの1/3~1/4程度の長さについては非常に狭い間隔で平行にのび,続いてしだいに間隔が増大するように(増大する割合も増大する)曲線に形成されている。電極13A,13Bの下側からそれぞれ配線パターンがのび,基板ガラス11の端部に形成された電極端子13a,13bにつながっている。電極13A,13Bの上記の辺の中間を通る線を仮想し,これを電極間の中心線Nということにする。電極13Aと13Bは中心線Nに関して線対称である。
これらの電極13A,13B,配線パターン,端子13a,13bは基板ガラス11表面にスパッタリングによりアルミニウム薄膜を形成し,フォトリソグラフィ技術を用いてパターニングすることにより形成することができる。
基板ガラス11の表面上には,電極13A,13Bおよびその配線パターンの上を含めて絶縁膜14(たとえば感光性ポリイミド:厚さ1μm以下)が形成されており,その表面は基板ガラス11の表面と平行でかつ平坦である。絶縁膜14は端子13a,13bを含む基板11の右端部上には形成されていない。
円形の穴15Aがあけられたスペーサ15が絶縁膜14上に配置されかつ固定されている。電極13A,13Bが穴15Aの中にすっぽりと入るように穴15Aの位置と大きさが定められている。スペーサ15はたとえばシリコンゴム(厚さ100μm)でつくることができる。
スペーサ15の穴15Aの中に比誘電率εの誘電体溶液S(たとえば蒸留水)を満たし,かつ比誘電率εの1個または複数個の誘電体粒子P(たとえば直径9.9μmのポリスチレンビーズ)を入れる。
溶液Sと粒子Pが入った空間(穴15A)に空気が入らないようにしてスペーサ15の上にカバーガラス12を乗せ,固定する。これにより誘電体溶液が充填され,かつ誘電体粒子(対象小物体)が入ったケースができ上がる。端子13a,13bは外部に露出している。
端子13a,13b間に高周波電圧を印加することにより,穴15Aによって規定される溶液Sが満たされた空間内において,電極13Aと13Bとの間(上述した電極の2つの辺の間)に不均一な交番電場が形成される。上述した例でいうと,ポリスチレンビーズの誘電率は蒸留水Sの誘電率よりも小さいので負の誘電泳動が生じ,ポリスチレンビーズ(粒子P)は電極間隔の大きい方に向う誘電泳動力を受け,DEPディバイス10が水平に配置されているとすればその方向(第3図左方向)に移動する。
このようなDEPディバイス10を端子側を下側にして第1図に示すような斜面上に置く。簡単のために,1個の誘電体粒子PがDEPディバイス10内の空間において中心線N上に存在するとする。また,中心線Nの傾きをθpitchとする。上述のように粒子Pには,斜面に沿って上向きの誘電泳動力FDEPと斜面に沿って下向きの重力の斜面分力Fsinθpitchが働く。この様子が第4a図および第4b図に示されている。第4b図において,誘電泳動力FDEPが曲線で示され,重力の斜面分力Fsinθpitchが直線で示されている(傾斜角度θpitchに応じて変化する)。これらの2つの力FDEPとFsinθpitchの交点が上述したように2つの力が釣り合う点(「平衡点」という)である。
クリーク・ギャップ電極においては平衡点は2つある。それは誘電泳動力FDEPが第4b図に示すように中央にピークをもつ曲線プロファイルをもつからである。電極の下の方では2つの電極13Aと13Bとの間の間隔が狭いので電界強度は大きいが左右の電極13A,13Bの向い合う辺が平行であるから電界の傾きが無いので誘電泳動力は生じない。他方,電極の上の方では電極間隔がきわめて広く,電界の強さも傾きも極めて小さくなり,誘電泳動力はほぼ零になる。この結果,誘電泳動力は中央にピークを持つことになる。
2つの平衡点のうち上側の平衡点は安定平衡点である。すなわち,この平衡点よりも下にある粒子に働く誘電泳動力FDEPは重力の斜面分力Fsinθpitchよりも大きく,粒子は平衡点に向って上昇し,平衡点よりも上にある粒子に働く誘電泳動力FDEPは重力の斜面分力Fsinθpitchよりも小さく,粒子は平衡点に向って下降する。いずれにしても粒子は平衡点に向って移動するので安定な平衡点である。これとは逆に,下側の平衡点は,その平衡点の上または下に存在する粒子には,粒子を平衡点から離れる方向に動かす力が働くので不安定な平衡点である。
第5a図はDEPディバイスを第4a図とは上下逆にして斜面に配置した様子を示すもので,第5b図はそのときに誘電体粒子に働く誘電泳動力のプロファイルを示している。この場合にも2つの平衡点が生じ,そのうちの一つは安定平衡点である。
このようにして,クリーク・ギャップ電極をもつDEPディバイスは,正,負の誘電泳動力のいずれにおいても,一つの安定平衡点を確保することができ,粒子を安定な状態で静止(停止)させることができる。
上記は粒子Pが電極間中心線N上に存在する場合である。
第6図に示すように,粒子Pが中心線Nにない場合には,誘電泳動力FDEPの方向は中心線Nと平行な方向ではなく,中心線Nから傾く。重力の斜面分力Fsinθpitchは中心線Nと平行な方向に働くから,これらの力の合成力Cが生じ,この力Cによって粒子Pは溶液中を移動する。
この合成力Cを打ち消す方向に重力が働くようにするために,DEPディバイス10を斜面上で回転させる(後述するようにDEPディバイス10を置載した回転盤50を回転させる)(回転角をθyawで表わす)。すると,DEPディバイス10(回転盤50)のある角度位置θyawで,第7図に示すように,誘電泳動力FDEPと重力の斜面分力Fsinθpitchが釣り合い,粒子は静止(停止)する。すなわちこの場合にも安定平衡点が存在する。また,このときにも式(4)は成立つ。
したがって,粒子が中心線N上に存在しない場合にも,粒子の移動と停止(中心線N上のみならず,中心線Nを横切る方向にも移動する)が可能であり,粒子が静止したときの条件を用いて式(3),(4)により誘電泳動力FDEPを算出することもできる。
次に述べる誘電泳動装置と関連づけるために,斜面を構成する傾動板30,およびDEPディバイス10を保持し斜面(傾動板30)上で回転する回転盤50の位置,角度関係および座標軸が第8図から第10図に簡潔にまとめて示されている。
第1図に示すように傾動板30に沿う方向がX軸であり,このX軸に直交し,かつ傾動板30の表面に沿う方向がY軸,傾動板30の表面に垂直な方向がZ軸である(後述するXYテーブル41のX,Y軸とは異なる座標系である)。傾動板30の傾きθpitchはY軸の回転に相当する。回転盤50の回転はZ軸のまわりの回転θyawに相当する。回転盤50を回転させることにより,上述した合成力Cが打消されるのが理解できるであろう。傾動板30の傾き角θpitchは誘電泳動力FDEPの大きさに関係し,回転盤50の回転角θyawは誘電泳動力FDEPの方向を表わす。
(4)誘電泳動装置および方法
誘電泳動装置の一例が第25図から第31図に示されている。この誘電泳動装置は,誘電泳動力測定装置,誘電体粒子のハンドリング装置,分別装置としても用いることができ,各種の方法(誘電泳動力測定方法,ハンドリング方法,分別方法)を実現することができる。
特に第25図,第26図を参照して,傾動機構について説明する。基台20上に傾動板30が傾動自在にその下端部で枢着されている。すなわち,基台20上には複数の軸受21が固定されている。他方,傾動板30の下端部には軸孔が形成された複数の取付部32が一体的に形成され,これらの取付部32の軸孔内に回転軸31が挿通され,かつ固定されている。回転軸31は軸受21に回転自在に受けられている。基台20(又は1つの軸受21)には回転軸31の回転角を検出する回転トランスデューサ(たとえばポテンショメータ)25が取付けられている。
特に第27図,第28図を参照して,基台20の一側には扇形の位置決め板22が基台20の表面に垂直に立設されている。位置決め板22の円弧状の側縁の近くには位置決め溝23が円弧状に形成されている。他方,傾動板30の一側には,傾動板30の傾動に伴って上記位置決め溝23に沿って動く箇所に,ねじ孔が形成されたスライド33が傾動板30の一側からやや突出して設けられている。つまみ24aを持つ固定ねじ24が位置決め板22の外側から位置決め溝23内にゆるく入り,スライド33のねじ孔にねじ嵌められている。
傾動板30は上述した斜面を形成するもので,回転軸31を中心に手動操作で傾動板30を回転させることにより,θpitchが少なくとも0°から90°の間で,傾動板30を任意の角度位置にもたらすことができる。そして,固定ねじ24を締め付けることにより,傾動板30を位置決めした位置に固定することができる。傾動板30の角度位置(角度θpitch)は回転トランスデューサ25の出力により電気信号の形で得ることができるし,位置決め板22に角度目盛22Aを刻んでおくことにより,目視により知ることもできる。傾動板30が水平状態のときの角度θpitchを0°とする。
特に第25図,第29図を参照して,傾動板30上にはXYテーブル機構40が固定されている。XYテーブル機構40はその上部にXYテーブル41を備え,XYテーブル41の位置はつまみ42,43によりX,Y方向に調整することができる。XYテーブル41の表面は傾動板30の表面と平行である。XYテーブル機構40のX方向(第1図に示す斜面に沿うX方向とは異なる座標系のものである)はXYテーブル41の表面内にあり,かつ傾動板30の回転軸31と平行な方向であり,Y方向はXYテーブル41の表面内においてX方向と直交する方向である。
さらに第29図,第30図を参照して,回転機構について説明する。XYテーブル41には円形の凹所44が形成され,この凹所44内に回転盤50が回転自在に入っている。すなわち,回転盤50の中心下部に固定された回転軸52がXYテーブル41に設けられた軸受45に回転自在に受けられている。XYテーブル41には回転軸52(すなわち回転盤50)の回転角度位置(角度θyaw)を検出する回転トランスデューサ46が設けられている。
XYテーブル41には,180°(-90°~+90°)以上の角度範囲にわたって,円形凹所44の周囲に位置決め溝47が形成されている。この位置決め溝47はその下部において溝幅が広く形成され,この幅広の溝内にスライド55が溝にそって移動自在に入っている。
他方,回転盤50の周縁には径方向外方にのびる取手53が固定されている。この取手53には孔があけられ,この孔内につまみ54aを有する固定ねじ54が回転自在に通り,固定ねじ54の先端部はスライド55にあけられたねじ孔内にねじ嵌められている。
したがって,回転盤50は取手53をもって手動操作により(少なくとも-90°~90°の範囲内で)回転させることができ,かつ任意の角度位置において,つまみ54aを回転させ,固定ねじ54を締めることによりXYテーブル41に固定することができる。回転盤50の角度位置は回転トランスデューサ46から電気信号の形で得ることができるし,回転盤50の周囲の場所においてXYテーブル41に描かれた(刻まれた)目盛41Aを使って目視により読取ることもできる。
回転盤50の表面にはDEPディバイス10を収納するための凹所51が形成されている。凹所51はDEPディバイス10を丁度収納する大きさにつくられ(DEPディバイス10よりも凹所51の方が大きくてもよい),この凹所51内に収められたDEPディバイス10は,上方向への移動を除いて動かない。凹所51にはDEPディバイス10をピンセット等により着脱するための切欠き51Aが形成されている。
回転盤50には凹所51の周囲の複数箇所においてバネ材よりなる爪58がピンにより回転可能に取付けられている。この爪52により,凹所51内に収められたDEPディバイス10の固定をより強固にすることができる。もっとも,凹所51の底面とDEPディバイス10の裏面との間に粘着剤等を入れてDEPディバイス10の固定を確保するようにしてもよい。
回転盤50の表面,その凹所51の底面もXYテーブル41の表面および傾動板30の表面と平行である。したがって,凹所51内に収められたDEPディバイス10(基板ガラス11,絶縁膜14の表面)の傾き角度は傾動板30の傾き角度と等しく,傾動板30の傾き角度として測定することができる。また,凹所51内に収められたDEPディバイス10の電極13A,13Bの中心線Nは,回転盤50の角度位置が0°のときに,傾いたときの傾動板30,XYテーブル41,回転盤50の最も角度の大きい方向(XYテーブル41のY方向)に一致する。逆にいえば,傾動板30のある角度位置で,中心線Nの方向が最も角度の大きい方向と一致しているときの回転盤50の角度位置(θyaw)を0°とする。
最後に第25図において,傾動板30上には支持体63が固定され,顕微鏡60がこの支持体63に上下方向(傾動板30の表面に垂直な方向)に昇降自在に支持されている。顕微鏡60は回転盤50にセットされたDEPディバイス10内の粒子Pを(たとえば回転盤50の回転中心付近を)視野内に収めることができる位置に配置されている。顕微鏡60の視野の位置は,XYテーブル機構40によってXYテーブル41をX,Y方向に動かすことにより調整することができる。顕微鏡60の視野像のフォーカシングはつまみ62で調整できる。また顕微鏡60にはCCDカメラ(第31図に符号61で示す)が内蔵され,視野像を表わす映像信号を得ることができる。もちろん,顕微鏡60は倍率調整を行うことが可能である。
第31図は誘電泳動装置の電気的構成の概要を示すものである。
処理装置70は好ましくはコンピュータ・システムにより構成され,誘電泳動力等を測定するときには,後述する各種入力を受付,上述した式(1)ないし式(4)にしたがう演算を行い,誘電泳動力FDEP,電界の強さE等を求めて,出力装置72(プリンタ,表示装置など)に出力する。
高周波発生装置73は,DEPディバイス10の電極13A,13B間に印加する高周波電圧を発生するもので,その周波数fと電圧Vが可変である。発生した高周波信号波形はオシロスコープ75により観察することができる。高周波電圧の周波数fと電圧Vは処理装置70に与えられる。周波数fと電圧Vをオシロスコープ75の波形表示から目視により読取ることも可能である。処理装置70が高周波発生装置73を制御し,周波数fと電圧Vを変えるようにしてもよい。
回転トランスデューサ25,45が検出する傾動板30の傾き角度θpitch,回転盤50の角度位置θyawを表わす信号はインターフェース76を介して処理装置70に入力する。これらの角度θpitch,θyawは目盛22A,41Aから目視で読取り,入力装置71(キーボード,表示装置とマウスなど)から入力することもできる。
顕微鏡60内のCCDカメラ61から出力される映像信号は表示装置74に常時(ムービーとして)表示される。必要に応じて映像信号はインターフェース76によりディジタル画像データに変換され,処理装置70に与えられる。処理装置70はこれらのディジタル画像データの画像処理を行い,粒子Pが静止しているかどうかを判定するようにプログラムすることができる。
誘電泳動力FDEPの演算に必要なパラメータ(粒子の半径r,溶液の密度ρ,粒子の密度ρ,重力の加速度gなど)は入力装置71から処理装置70に入力される。必要に応じて,空気の誘電率ε,溶液の比誘電率ε,粒子の比誘電率εも入力装置71から入力される。
最も発展した形態では,入力するディジタル画像データにもとづいて処理装置70によって,オートフォーカス,倍率などを調整する顕微鏡制御装置77を制御することもできるし,回転軸31,52を回転させるモータ78,79を設け,処理装置70によるプログラム制御の下で,粒子Pが静止するように傾動板30の角度θpitch,回転盤50の角度θyawを調整するようにすることもできる。
この誘電泳動装置を用いた誘電体粒子のハンドリングおよび誘電泳動力測定の例について説明する。
DEPディバイス10を回転盤50の凹所51にセットし,回転盤50の角度位置を0°(θyaw=0)にした状態で,DEPディバイス10の電極13A,13B間に,高周波電圧(周波数fと電圧Vは固定値とする)を印加する。
粒子Pが第4a図に示すように,中心線N上にあれば,傾動板30(すなわちDEPディバイス10)の角度θpitchを変化させることにより,粒子Pを移動または停止(静止)させることができる。粒子Pに働く誘電泳動力FDEPと粒子Pに作用する重力の斜面分力Fsinθpitchが釣り合ったときに粒子Pは静止するので,このときの傾き角度θpitchを用いて,式(3),(4)により誘電泳動力FDEPを求めることができる。
第6図に示すように,粒子Pが中心線Nにない場合には,誘電泳動力FDEPの方向は中心線Nと平行な方向ではなく,中心線Nから傾く。重力の斜面分力Fsinθpitchは中心線Nと平行な方向に働くから,これらの力の合成力Cが生じ,この力Cによって粒子Pは溶液中を移動する。
この合成力Cを打ち消す方向に重力が働くようにするために回転盤50を回転させる。すると,回転盤50のある角度位置θyawで,第7図に示すように,誘電泳動力FDEPと重力の斜面分力Fsinθpitchが釣り合う。このときにも式(4)は成立つので,式(3),(4)により誘電泳動力FDEPを算出することができる。
第23図に示すように,DEPディバイス10内の空間において,任意の位置Gにある粒子Pを他の所望の位置Hまで移動させて,位置Hに停止させることもできる。このとき,最も好ましくは,傾動板30の傾き角度θpitchと回転盤50の回転角度θyawを変えることが好ましいが,電極13A,13Bに印する電圧Vまたは周波数fを変えてもよい(後述するように基台20を傾動または回転させるようにしてもよい)。
誘電泳動力FDEPは,式(1),(2)から明らかなように粒子Pの誘電率(比誘電率)および半径の関数であるから,誘電率や半径の異なる複数の粒子をDEPディバイス10内に入れ,傾き角度θpitch,回転角度θyaw,電圧,周波数等を調整(基台20の傾動,回転を含む)して,各粒子をそれぞれの方向に移動させ,最終的に第24図に示すように分離することが可能である。この図においてP1,P2,P3は誘電率または径の異なる粒子を表わしており,中心線N上に分離して位置決めされている。
粒子のハンドリングや誘電泳動力FDEPの測定は,手動操作による測定から自動制御による測定までさまざまな形態がある。
顕微鏡60のCCDカメラ61から出力される映像信号に基づくDEPディバイス10の電極13A,13Bや粒子Pの画像(第4a図,第6図,第7図,第23図,第24図に示すような)を表示装置74に表示しながら,粒子Pの動き(速度と方向)を観察して,傾動板30の傾きθpitchや回転盤50の角度θyaw等を手動操作で調整して粒子Pを所望の位置まで移動させる,または静止させる。粒子が静止したときの傾き角θpitchを入力装置71から手動操作で入力し,処理装置70に誘電泳動力FDEPを計算させることができる。または粒子Pが静止したときの角度θpitchを回転トランスデューサ25から取込めば,手動操作による入力は不要となる。もちろん,誘電泳動力FDEPの計算を処理装置70に行なわせることなく手動操作により行ってもよい。
CCDカメラ61から得られるディジタル画像データを処理装置70に取込み,処理装置70内において粒子Pの動き(方向と大きさ)を判断して傾動板30の傾き,回転盤50の回転等を粒子Pが静止するように自動制御することも可能であり,静止したときの傾き角θpitchから誘電泳動力FDEPを算出することができる。
電極13A,13B間に印加する高周波信号の電圧Vまたは周波数fを変えることによっても(傾き角θpitchを固定しても,変えてもよい)(必要に応じて回転盤50の角度θyawを変える),粒子Pを移動または静止させることができる。
上述したように,電界の強さErpmの測定も可能である。
(5)ステップ応答
DEPディバイス内で粒子を移動または停止させるために必要な時間は充分に実用化可能な範囲内であることを以下に実験結果により示す。
この実験は上述したDEPディバイス10および誘電泳動装置を用いて行った。粒子Pは直径9.9μmのポリスチレンビーズ,溶液は蒸留水である。
第11a図,第11b図,第12図,第13a図,第13b図および第14図は角度ステップ応答を示すものである。
角度ステップ応答は,印加電圧20Vpp,周波数1MHzの条件下において,角度θpitchを60°から15°(BからA)へ,および15°から60°(AからB)へ急激に変化させて(第12図,第13a図,第13b図参照),粒子の移動量を測定して得た。B点からA点への移動の時定数は3分,A点からB点への時定数は1.9分である(第11a図,第11b図参照)。第14図は重力の斜面分力と誘電泳動力とが釣り合っている状態の粒子の静止位置の変化(移動量)を角度θpitchを横軸にして示すものである。角度θpitchが大きくなるほど下方の位置で釣り合っていることが分る。
電圧ステップ応答は,周波数1MHz,角度θpitch=30°(149fN)の条件下において,電圧8Vppから20Vpp(DからC)へ,および20Vppから8Vpp(CからD)へ急激に変化させて(第16図,第17a図,第17b図参照)粒子の移動量を測定して得た。D点からC点への移動の時定数は1分,C点からD点への移動の時定数は5分である(第15a図,第15b図参照)。静止位置は電圧が上昇するにつれて上方に移る(第18図参照)。
周波数特性は,印加電圧15Vpp,角度θpitch=30°(149fN)の条件下において,周波数300KHzから5MHz(FからE)へ,および5MHzから300KHz(EからF)へ急激に変化させて(第20図,第21a図,第21b図参照)粒子の移動量を測定して得た。F点からE点への移動の時定数は0.7分,E点からF点への移動の時定数は2.8分である(第19a図,第19b図参照)。静止位置は周波数が高くなるにつれて上方に移る(第22図参照)。
このように,各ステップ応答において時定数は数分以内であり,約15分で定常状態に達している。充分に実用に耐えうる応答の速さである。
(6)変形例
上述したように,誘電泳動装置を用いて誘電体粒子のハンドリングと誘電泳動力の測定とが可能である。第32図,第33図はさらに粒子のハンドリングの範囲を広げることが可能なDEPディバイスの例を示している。
このDEPディバイス10Aの基本構造は第2図,第3図に示すものと同じであり,したがって第32図,第33図では細部の構造の図示は省略され,電極13A,13Bのみが図示されている。
DEPディバイス10Aは,その一端部中央に溶液の注入口17Aを有し,他端部中央に溶液の排出口18Aを有している。これらの注入口17A,排出口18Aにはそれぞれ溶液の注入管(チューブ)17,排出管(チューブ)18が結合され,これらの管17,18にはそれぞれ弁(コックまたはバルブ)17B,18Bが設けられている。さらに,電極間中心線上または他の適当な位置において,下面板に粒子の吸引口(トラップ口)16Aがあけられ,これに吸引管(チューブ16)が結合している。
このDEPディバイス10Aは,たとえばDEPディバイス内に導入された多数の粒子(対象小物体)の中から1個の粒子のみを分別するために用いることができる。すなわち,上述したように角度θpitchもしくはθyaw,または電圧もしくは周波数(さらに必要なら基台20の傾きまたは回転)を調整することにより特定の粒子を吸引口16Aの位置まで移動させ,その粒子を吸引して吸引管16(またはそれに接続された適当なトラップ)に退避させる。この状態で注入管17を通して溶液を注入口17AからDEPディバイス10A内部に注入してディバイス内部に存在する他の粒子を排出口18A,排出管18を通して排出する。そして,吸引管16に退避しておいた特定の粒子をDEPディバイス10A内部に戻す。このようにして,DEPディバイス10A内部には特定の粒子のみを確保することができる。上記の分別操作の過程で溶液の注入,排出時にバルブ17B,18Bを開閉する。吸引管16にも必要に応じてバルブを設けておく。
上述のステップ応答からも分るように,DEPディバイスを急激に傾けたり,急激に回転させたり,電圧や周波数を急激に変化させることにより,粒子の移動を速くすることができるので,粒子のハンドリングにおいては,上述のような急激な変化を生じさせて粒子を目標位置に向って移動させ,目標位置に近づいたところで角度,電圧,周波数を微調整するとよい。そのときに,必要ならば基台20そのものを回転(第10図に示すX軸を角度θpitch逆方向に回転させて基台20上に移動させたときのX軸の回りの回転θroll)させてもよいし,基台20をθpitch方向に回転させてもよい。
上記実施例ではDEPディバイスを載置しかつ回転させるために回転盤が用いられているが必ずしも盤状体である必要はない。特に第32図,第33図に示すような吸引口16Aや吸引管16が設けられたDEPディバイス10Aの場合には,その支持に適した形状の回転体を用いればよい。同じように傾動機構の傾動板に代えて板状でない傾動体を用いることができるのはいうまでもない。
さらに上記実施例では1対の電極13A,13Bが用いられているが,複数対の電極を縦に(上下方向に)間隔をあけて配置してもよいし,横に配置してもよい。横に配置した場合には隣り合う2つの電極(異なる対に属する)を一体化してもよい。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4a】
3
【図4b】
4
【図5a】
5
【図5b】
6
【図6】
7
【図7】
8
【図8】
9
【図9】
10
【図10】
11
【図11a】
12
【図11b】
13
【図12】
14
【図13a】
15
【図13b】
16
【図14】
17
【図15a】
18
【図15b】
19
【図16】
20
【図17a】
21
【図17b】
22
【図18】
23
【図19a】
24
【図19b】
25
【図20】
26
【図21a】
27
【図21b】
28
【図22】
29
【図23】
30
【図24】
31
【図25】
32
【図26】
33
【図27】
34
【図28】
35
【図29】
36
【図30】
37
【図31】
38
【図32】
39
【図33】
40