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明細書 :X線反射装置及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5540305号 (P5540305)
公開番号 特開2010-085304 (P2010-085304A)
登録日 平成26年5月16日(2014.5.16)
発行日 平成26年7月2日(2014.7.2)
公開日 平成22年4月15日(2010.4.15)
発明の名称または考案の名称 X線反射装置及びその製造方法
国際特許分類 G21K   1/06        (2006.01)
G02B   5/08        (2006.01)
G02B   5/10        (2006.01)
FI G21K 1/06 D
G21K 1/06 B
G21K 1/06 C
G02B 5/08 C
G02B 5/08 A
G02B 5/10
請求項の数または発明の数 5
全頁数 7
出願番号 特願2008-256136 (P2008-256136)
出願日 平成20年10月1日(2008.10.1)
審査請求日 平成23年10月3日(2011.10.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503361400
【氏名又は名称】独立行政法人 宇宙航空研究開発機構
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
発明者または考案者 【氏名】満田 和久
【氏名】江副 祐一郎
【氏名】中嶋 一雄
【氏名】山口 ひとみ
個別代理人の代理人 【識別番号】100092093、【弁理士】、【氏名又は名称】辻居 幸一
【識別番号】100082005、【弁理士】、【氏名又は名称】熊倉 禎男
【識別番号】100067013、【弁理士】、【氏名又は名称】大塚 文昭
【識別番号】100086771、【弁理士】、【氏名又は名称】西島 孝喜
【識別番号】100109070、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 洋之
【識別番号】100109335、【弁理士】、【氏名又は名称】上杉 浩
審査官 【審査官】遠藤 直恵
参考文献・文献 特表2003-515728(JP,A)
特開平10-132764(JP,A)
特開平11-165252(JP,A)
特開2000-351960(JP,A)
特開平11-133190(JP,A)
特許第4025779(JP,B2)
調査した分野 G21K 1/00-3/00,5/00-7/00
特許請求の範囲 【請求項1】
シリコンウェハに異方性ドライエッチングを行って、表面と垂直な方向に一括して複数の曲線状のスリットを形成する工程と、
磁性流体を使って前記複数のスリットの各側壁を研磨してX線反射面を形成する工程と、
を含んだX線反射装置の製造方法。
【請求項2】
X線反射面の形成後に、シリコンウェハ全体を塑性変形して曲面を含む所定の形状にする工程を含む、請求項1に記載のX線反射装置の製造方法。
【請求項3】
シリコンウェハと、
異方性ドライエッチングにより、前記シリコンウェハに同心円状に表面と垂直な方向に設けられた複数の曲線状のスリットと、
前記各スリットの側壁をX線の反射が可能な程度まで平滑化して得られるX線反射面と、
を含んだX線反射装置。
【請求項4】
請求項3に記載のX線反射装置を、曲面を含む所定の形状に塑性変形したことを特徴とする曲面状X線反射装置。
【請求項5】
請求項4に記載の曲面状X線反射装置を複数配置したことを特徴とするX線光学装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙空間におけるX線観測機器、あるいは地上における放射線計測や微量分析装置に利用されるX線反射装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線は、可視光とは異なり、直入射光学系の利用が困難である。このため、金属のX線に対する屈折率が1よりも小さいことを利用した金属面の全反射による斜入射光学系が用いられている。この場合の全反射の臨界角は1度程度と小さいため、反射面の有効面積を大きくとるために、直径の異なる金属製の円筒状の反射鏡を、同軸状に多数配置する方法が知られている。しかしながら、この方法ではX線反射装置全体の重量が増大するため、宇宙空間で利用する場合に、地上からの輸送に支障を来すという問題があった。
【0003】
また、X線反射装置は、一定以上の反射率を確保するために、反射鏡の表面がX線の波長と同程度まで滑らかである必要がある。このため、これまでのX線反射装置は、表面を滑らかにするために反射面を研磨する必要があった。これまでは、研磨成形した母型に薄膜を押しつけて作ったレプリカ鏡を多数用意するなどして、一枚一枚の鏡を作成する手間がかかっていた(非特許文献1参照)。さらに、近年、ガラスファイバをX線導波管として使うX線光学系も実用化されているが、ガラスファイバが高価であるため全体としてのコスト増につながる(非特許文献2参照)。
【0004】
そこで、本出願の発明者らは、異方性エッチングを行ったシリコンウェハの断面を用いるX線光学系を提案した(特許文献1、非特許文献3)。これはは、厚みがミクロンオーダーの薄いシリコンウェハに10μmレベルのエッチングにより細かい穴を開け、エッチングで得られた滑らかな側壁を反射面として使う。このような方法を用いることにより、一度のエッチングで多数の鏡を簡単に形成できる。しかも、前述のようにウェハが薄いため、このようなX線光学系を用いてX線反射鏡を製作することによって、全体の重量を一桁以上軽量化することが可能となる。
【0005】
しかしながら、異方性エッチングで形成できる穴は、直線的なスリット状の穴に限られるため、上記のようなX線光学系を作る際には、理想曲面を直線で近似する必要があり、結果として、結像性能が制限される。また、理想曲面に近づけるために、上記のようなX線光学系を小さくして理想曲面に沿って配置することになるので、多数のX線光学系が必要になるという問題もある。
【0006】

【特許文献1】特許第4025779号
【非特許文献1】『X線結晶光学』波岡武、山下広順共編(培風館)(従来のX線反射装置について)
【非特許文献2】Kumakov & Sharov (1992) Nature 357, 390 (ファイバー光学系について)
【非特許文献3】Ezoe et al. 2007, Transducers, 1, 1321 (シリコン異方性エッチングを用いたX線光学系と内壁の粗さについて)
【非特許文献4】Chang et al. 2005, J. Micromech. Microeng, 15, 5808 (ドライエッチング及びその面粗さについて)
【非特許文献5】Kondo et al. 2000, Microsystem. Technologies, 6, 218 (X線LIGA及びその面粗さについて)
【非特許文献6】山口他 2006, 精密工学会誌, 72, 100 (磁性流体を用いた研磨について)
【非特許文献7】Sato & Yonehara, 1994, Applied Physics letter, 65, 1924 (シリコンウェハのアニールによる平滑化について)
【非特許文献8】Nakajima et al. 2005, Nature Materials, 4, 47 (シリコンウェハの熱塑性変形について)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような背景のもとになされたものであり、従来のX線反射装置の利点を備えつつ、さらに直線的なスリットを形成したX線反射装置の欠点を解消することのできるX線反射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のX線反射装置の製造方法は、シリコンウェハをドライエッチングして、複数の曲線状のスリットを形成する工程と、前記複数のスリットの各側壁を磁性流体を使った研磨して、X線反射面を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のX線反射装置の製造方法は、さらに、X線反射面の形成後に、シリコンウェハ全体を塑性変形して曲面状にする工程を含む。
【0010】
本発明のX線反射装置は、シリコンウェハと、前記シリコンウェハに同心円状に設けられた複数の曲線状のスリットと、前記各スリットの側壁をX線の反射が可能な程度まで平滑化して得られるX線反射面とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の曲面状X線反射装置は、さらに、前記X線反射装置を、曲面を含む所定の形状に塑性変形したことを特徴とする。
【0012】
本発明のX線光学装置は、前記曲面状X線反射装置を複数配置したことを特徴とする。
【0013】
本発明のX線反射装置の製造方法は、X線LIGAプロセスで、複数の曲線状のスリットが形成された金属基板を形成する工程と、前記複数のスリットの各側壁を磁性流体を使った研磨して、X線反射面を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明のX線反射装置の製造方法は、さらに、X線反射面の形成後に、金属基板全体を塑性変形又は弾性変形して曲面を含む所定の形状にする工程を含む。
【0015】
本発明のX線反射装置は、金属基板と、前記金属基板に同心円状に設けられた複数の曲線状のスリットと、前記各スリットの側壁をX線の反射が可能な程度まで平滑化して得られるX線反射面とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の曲面状X線反射装置は、前記X線反射装置を曲面状に塑性変形又は弾性変形したことを特徴とする。
【0017】
本発明のX線光学装置は、前記曲面状X線反射装置を複数配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、X線反射に必要な平滑度を有する曲面を含む所定の形状の反射面を含むX線反射鏡を一括して大量に製作することができるので、X線反射鏡の製作コストを大幅に下げることができる。また、特にシリコンウェハの場合は非常に薄くすることができるので、重量を大幅に下げることができ、重量制限が厳しい宇宙用途に好適である。また、多数の鏡を用意してこれを正確に並べるという手間が省けるため、製作効率が向上する。さらに、曲線状のスリット構造の形成とその後の曲面状、例えば曲面状への変形により、理由曲面に近いX線光学系を構成できるため、従来の技術に比べ、結像性能が大幅に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。図1(A)は、シリコンウェハに、ドライエッチングで多数の曲線状のスリットを形成した状態を示した平面図であり、同図(B)は、同図(A)線X-Xに沿って切った断面図である。ウェハの厚さは、一例として300~1000μm程度である。各スリットは、同心円状にシリコンウェハを貫通するように形成されており、その幅は一例として5~20μm程度である。
【0020】
図1のようなスリットは、シリコンウェハの表面にマスクを塗布し、これをパターニングした後、ドライエッチングプロセスによりウェハ表面と垂直な方向にエッチングすることによって一括して形成される。各スリットの側壁は、円筒形の側面の一部からなる曲面である。ドライエッチングによって得られるスリットの各側壁の面粗さは、せいぜい10nm程度であり、異方性エッチングを用いた場合に比べて1桁程度悪い(非特許文献4参照)。
【0021】
そこで、本実施形態では、各スリットの側壁を平滑化するために、磁性流体を用いる。磁性流体は、磁場を印加することで粘性が変化する流体であり、既に光学部品の研磨などに実用化されている(非特許文献6参照)。具体的には、磁性流体と研磨材の混合液を各スリットに流し込み、図2に示すように、シリコンウェハと垂直に変動磁場を印加する。前記混合液は磁場の変動に合わせてスリット内をランダムに移動する。シリコンウェハを中心軸の周りに回転させて、前記混合液とスリットの側壁との相対運動を促進することも可能である。こうすることにより、前記混合液が各スリットの側壁面を研磨し、表面の粗さを平滑化することができる。このような方法でドライエッチングによって形成したスリットの側壁を研磨することによって、nmレベルもしくはそれ以下の面粗さを実現することができる(非特許文献6参照)。
【0022】
混合液としては、例えば平均粒径0.01 μmの四三酸化鉄水分散体(フェリコロイドW40、タイホー工業株式会社製、固形分40重量%)と粒径0-1/2μmのダイヤモンドスラリーを用い、スリットに流し込む。加工部に適当な強さの交流磁場(0.7 A、周波数20Hz)を印加することで、前記混合液は磁場に感応してスリット内を移動し、即壁面を1~2nmの面粗さに研磨加工できる。
【0023】
なお、この磁性流体による研磨の際に、水素アニールを併せて行うことにより、さらなる平滑化が可能である(非特許文献7参照)。
【0024】
このようにして平滑度を向上させたスリットの側壁は、X線反射面として機能する。ただし、この状態のX線反射面はウェハの表面と垂直であるため、点源からのX線を別の一点に収束させるX線反射鏡としては使用可能であるが、宇宙X線観測に必要な、平行X線を点に集光する目的には使用できない。
【0025】
そこで、上記のようにして得られたウェハを、図2に示すような球面状にするために、塑性変形の技術を利用する(非特許文献8)。すなわち、シリコンウェハを予め用意した球面状の型に入れ、水素雰囲気中で1300度程度の高温とし、圧力をかける。このようにすることによって、シリコンウェハは型に沿って、曲率半径が10cm~10m程度の球面状に塑性変形し、その後、形状は安定する。もちろん、用途に応じて球面以外の曲面状とすることもできる。
【0026】
図3は、塑性変形後のX線反射鏡の断面図である。同図のように、シリコンウェハを球面状に変形させることによって、上方から入来する平行なX線を各X線反射面で反射させることによって、一点に集光させることができる。
【0027】
図4は、塑性変形後のX線反射鏡を2段に重ねて構成した集光系の断面図であり、球面の曲率半径が異なる二つのX線反射鏡を重ねて構成される、2回反射光学系(Walter type-I)となっている。このような2回反射光学系は、宇宙X線観測でしばしば用いられる。このような構成により、収差のより小さいX線光学系が得られる。また、曲率半径のより小さいものを多段に重ねれば、焦点距離をより短くすることができる。さらに、入射口と出射口を逆に配置すれば、点状のX線源から平行X線を作る逆望遠鏡としての利用も可能となる。
【0028】
図5は、図4に示した集光系を2対対峙させた、点光源からの光を点へ集光する集光系の断面図である。このような光学系は、X線反射鏡を微量分析などを行うX線顕微鏡として利用することができる。このように、本実施形態のX線反射鏡は、宇宙用途だけでなく、地上における各種用途にも用いることができる。
【0029】
これまで説明してきたX線反射鏡は、シリコンウェハをベースとしたものだが、シリコンウェハの代わりに金属の基板をベースとしたX線反射鏡を製作することもできる。金属の基板をベースとする場合は、シリコンウェハの場合のドライエッチングの代わりに、X線LIGAプロセスを用いる。すなわち、まず、高い面精度でスリットが形成されたレジトスを加工し、電析によって、ニッケルなどの金属で、レジストのレプリカを製作する。その後、各スリットの側壁面を、磁気流体を用いて研磨する。これにより、nmレベルあるいはそれ以下の面粗さを実現でき、X線反射面として十分に機能するレベルの平滑度が得られる。
【0030】
このままの状態で、点源からのX線を別の一点に収束させるX線反射鏡としては使用可能であるが、さらに、平行X線を点に集光するために目的の場合は、球面状に変形させる。この変形は、シリコンウェハの場合よりも容易に、通常の弾性変形又は塑性変形により球面状にすることができる。なお、X線LIGAプロセスを利用する場合は、材質がニッケルなどの金属であるため、シリコンウェハの場合よりも高いエネルギーのX線の反射が可能になるという利点がある。
【0031】
金属をベースとしたX線反射鏡についても、シリコンウェハをベースとした場合と同様に、2回反射光学系(Walter type-I)、多段に重ねたX線反射鏡、逆望遠鏡を構成することができる他、微量分析などにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】シリコンウェハにドライエッチングで多数の曲線状のスリットを形成した状態を示した平面図及び断面図である。
【図2】磁性流体を用いてX線反射面を研磨する場合の磁場のかけ方と回転軸を示した図である。
【図3】塑性変形後のX線反射鏡の断面図である。
【図4】塑性変形後のX線反射鏡を2段に重ねて、平行光を点へ集光する集光系の断面図である。
【図5】図4に示した集光系を2対対峙させた、点光源からの光を点へ集光する集光系の断面図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4