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明細書 :新規微生物及びこの微生物を用いた植物病害防除剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5617092号 (P5617092)
登録日 平成26年9月26日(2014.9.26)
発行日 平成26年11月5日(2014.11.5)
発明の名称または考案の名称 新規微生物及びこの微生物を用いた植物病害防除剤
国際特許分類 C12N   1/20        (2006.01)
A01N  63/02        (2006.01)
A01P   3/00        (2006.01)
FI C12N 1/20 A
C12N 1/20 ZNAE
A01N 63/02 E
A01P 3/00
請求項の数または発明の数 5
微生物の受託番号 NPMD NITE BP-569
全頁数 10
出願番号 特願2010-519635 (P2010-519635)
出願日 平成21年7月3日(2009.7.3)
国際出願番号 PCT/JP2009/003090
国際公開番号 WO2010/004713
国際公開日 平成22年1月14日(2010.1.14)
優先権出願番号 2008181449
優先日 平成20年7月11日(2008.7.11)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年6月14日(2012.6.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
発明者または考案者 【氏名】高柳 勉
【氏名】鈴木 俊二
【氏名】古屋 誠一
個別代理人の代理人 【識別番号】100097043、【弁理士】、【氏名又は名称】浅川 哲
審査官 【審査官】上條 肇
参考文献・文献 特表2001-507237(JP,A)
特表2001-503642(JP,A)
特開平05-051305(JP,A)
特開平08-175919(JP,A)
特開2003-199558(JP,A)
特開2003-277210(JP,A)
特表平06-511258(JP,A)
特表2002-539820(JP,A)
調査した分野 C12N 1/20
A01N 63/02
特許請求の範囲 【請求項1】
バチルス・ズブチリスに属する新規微生物、バチルス・ズブチリスKS1株(Bacillus subtilis KS1)(NITE BP-569)。
【請求項2】
前記バチルス・ズブチリスKS1株(NITE BP-569)の培養物及び/又は微生物菌体を有効成分として含む植物病害防除剤。
【請求項3】
前記バチルス・ズブチリスKS1株(NITE BP-569)の培養物及び/又は微生物菌体がブドウの葉又は果実に発生する病原菌に作用する請求項2記載の植物病害防除剤。
【請求項4】
前記バチルス・ズブチリスKS1株(NITE BP-569)の培養物及び/又は微生物菌体が灰色かび病菌、べと病菌、晩腐病菌に作用する請求項2又は3記載の植物病害防除剤。
【請求項5】
前記バチルス・ズブチリスKS1株(NITE BP-569)の培養物及び/又は微生物菌体が化学農薬に対して耐性を有する請求項2記載の植物病害防除剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は新種のバチルス・ズブチリス及びこの微生物の菌体および培養物を用いた植物病害防除剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年は、化学農薬に比べて環境負荷が小さく、人畜に対しても安全性の高い生物農薬を用いた生物的防除技術に対する関心が高まっている。しかし、生物農薬は化学農薬に比べて即効性や治療効果が低いことや防除可能な病原菌が限られていること、また、化学農薬と併用すると生物農薬自体の効力を失ってしまうなどの理由から、全農薬市場の0.4%に留まっているのが現状である。
【0003】
生物農薬を用いた技術は、植物に病気を引き起こす植物病原微生物および害虫の天敵となる生物を利用するものであり、従来からバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)が、植物病原菌に対して生育の抑制や殺菌などの拮抗性を示すことから、ナスやトマト、ブドウの灰色かび病菌の生物農薬として利用されている。
【0004】
従来、バチルス・ズブチリスを利用した生物農薬として、例えば、バチルス・ズブチリスなどのバチルス属細菌の培養物から胞子を乾燥重量で50重量%以上含むように調整された胞子画分を含有する植物病害防除法が知られている(特許文献1参照)。また、フィトフィトラ属による植物病害を防除するために、バチルス・リケニホルミスなどのバチルス属細菌の菌体又は培養物、さらには同細菌が産生する有機酸およびその塩を有効成分とする病害防除剤が知られている(特許文献2参照)。
【0005】
さらに、バチルス・スフェリカスの菌体又は培養物を含む植物病害防除剤が知られており(特許文献3参照)、バチルス・ズブチリスの特定株を有効成分として用いる植物病害防除剤も知られている(特許文献4、5参照)。
【0006】
しかしながら、上記従来の植物病害防除剤をブドウに適用した場合の効果は、ブドウ組織上での栄養や住処をバチルス属細菌が占有することによって拮抗性を示すことによる。そのため、病害発生前に散布することによってもたらされる予防効果はあるものの、殺菌作用などの治療効果がなく、病害発生後に使用することができなかった。
【0007】
また、上記従来の植物病害防除剤は、3大ブドウ病害であるブドウ灰色かび病、べと病、晩腐病の各病原菌のうち、ブドウ灰色かび病菌に対してのみ効果があり、それ以外のべと病菌や晩腐病菌、またその他のブドウ病原菌に対しては防除効果が期待できないものであった。
【0008】
さらに、上記従来の植物病害防除剤は、ブドウの葉には定着するものの、果皮への定着率が低かった。ブドウの果皮も口に含むため、安全面から化学農薬の使用も難しく、果実にも発生する灰色かび病や晩腐病などの病害防除は困難であった。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開平8-175919号公報
【特許文献2】特開2001-206811号公報
【特許文献3】特開2003-277210号公報
【特許文献4】特開平6-133763号公報
【特許文献5】特開平5-51305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、予防効果にのみならず治療効果も期待することができ、且つ種々の植物病原菌に対して適用され、化学農薬との併用によっても効果が低減しない新規微生物及びこの微生物を用いた植物病害防除剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る新規微生物は、バチルス・ズブチリスKS1株(Bacillus subtilis KS1)(NITE BP-569)であることを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る植物病害防除剤は、前記バチルス・ズブチリスKS1株(NITE BP-569)の培養物及び/又は微生物菌体を有効成分として含むことを特徴としている。

【0013】
また、本発明の植物病害防除剤は、ブドウの葉又は果実に発生する病原菌に有効に作用し、一例では灰色かび病菌、べと病菌、晩腐病菌などに効果がある。
【0014】
また、本発明に係る植物病害防除剤は化学農薬に対して耐性を有するため、併用が可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るバチルス・ズブチリスKS1株、及びバチルス・ズブチリスKS1株の培養物又は微生物菌体を有効成分として含む植物病害防除剤は、べと病菌、灰色かび病菌、晩腐病菌など幅広い植物病原菌に対する予防効果および治療効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のバチルス・ズブチリスKS1株と対峙培養したときのブドウ灰色かび病菌の菌糸先端の顕微鏡写真である。
【図2】本発明のバチルス・ズブチリスKS1株と対峙培養したときのブドウ晩腐病菌の菌糸先端の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明に係るバチルス・ズブチリスKS1株は、ブドウの果皮から探索された細菌であり、ブドウの葉への定着性が高いといった特徴を有している。以下に、バチルス・ズブチリスKS1株の細菌学的性質を示す。

【0018】
A.細菌の形態
(1)形状:桿菌
(2)大きさ:0.8×3~5μm
(3)運動性:なし

【0019】
B.コロニーの形態(31℃、2日間培養)
(1)培地名:SCD寒天培地
(2)形状:不規則円形
(3)大きさ:5mm
(4)隆起:扁平状
(5)周辺形状:波状
(6)表面形状:しわ状
(7)質:粘性質
(8)透明度:不透明
(9)光沢:鈍光
(10)色:淡ベージュ色

【0020】
C.生理的性状
【表1】
JP0005617092B2_000002t.gif

【0021】
16Sのサブユニットに相当するrDNAの塩基配列は以下の通りである。

【0022】
[配列番号1]
JP0005617092B2_000003t.gif

【0023】
以上の細菌学的性状および16SrDNA塩基配列の配列番号1に基づいて、本菌株をバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)と同定し、バチルス・ズブチリス KS1株(Bacillus subtilis KS1)と命名した。なお、このバチルス・ズブチリス KS1株は、2008年5月13日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託し、受託番号「NITE P-569」として受託され、2009年5月20日にブタペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号「NITE BP-569」 が付与されている。

【0024】
なお、本発明に係るバチルス・ズブチリスKS1株は、上記配列番号1に示された16SrDNA塩基配列と完全同一の塩基配列のみに限定されるものではなく、当該塩基配列の1若しくは数個の塩基が、欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなる場合においても、植物病害防除作用、特にブドウ病害防除作用において、バチルス・ズブチリスKS1株と同様の形質を備えるものも含む。

【0025】
本発明において使用することができる培地は、本菌株が培養により増殖し得るものであれば特に制約を受けない。例えば、炭素源として、グルコース、シュークロース、カゼイン、酵母エキス、肉エキスなどが利用され、窒素源として、酵母エキス、肉エキス、ポリペプトン、ペプトン、トリプシンなどが利用される。また、他の栄養素として、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、カルシウムなども添加される。

【0026】
本発明における培養は好気的条件下で、例えば通気攪拌や振盪培養あるいは固体培養法などによって培養することができる。培養条件は特に限定されないが、温度は30~37℃、pHは6.5~7.5、時間は12~48時間の範囲が適当である。

【0027】
以上のようにして培養したバチルス・ズブチリスKS1株は、培養物から分離することなく利用することができ、また遠心分離法により菌体を分離して利用することができる。さらに、これを植物病害防除剤として利用する場合には、界面活性剤(例えば、sorbitan monolaurate、通称Tween20)、展着剤(例えば、シンジェンタ・ジャパン製のサブマージ)などの種々の添加物と共に製剤化し、粒剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤などとして使用することができる

【0028】
このようにして調整されたバチルス・ズブチリスKS1株の菌体又は培養物を、植物体あるいは土壌に施用することによって植物の病害を防除することができる。本発明の防除剤は、例えば、ブドウ灰色かび病菌、ブドウ晩腐病菌、ブドウ白紋羽病菌、ブドウべと病菌などによって引き起こされるブドウ病害の防除に顕著な効果を示す他、ブドウ以外の植物、例えばイチゴやキュウリなどに感染する灰色かび病菌や炭疽病菌の防除にも効果を示す。

【0029】
防除剤の施用方法は、製剤の形態や植物の種類、病害の種類や程度によって適宜選択され、例えば液化した防除剤を地上液剤散布や空中液剤散布する方法、あるいは直接植物の葉に散布、塗布する方法、さらには防除剤溶液中に浸漬する方法などがある。

【0030】
施用量は病害の種類や適用植物などによって異なるが、例えば、1.5×108
cells/mL(0.02% Tween20含有)の濃度で、圃場1アールあたり5Lである。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されないことは勿論である。
【実施例】
【0032】
実施例1:培養例
ブイヨン培地(肉エキス10g、ペプトン10g、塩化ナトリウム5g、水1L)に本発明に係るバチルス・ズブチリスKS1株を1白金耳植菌し、37℃、150rpmで12時間振盪培養して培養液を得た。この培養液から遠心分離法によりKS1株菌体を集菌した。その後、集菌したKS1株菌体を1.3~1.5×10cells/mLになるように水で調整し、界面活性剤としてTween20(最終濃度0.02%)を添加し、フロアブル剤とした。
【実施例】
【0033】
実施例2:適用病原菌試験1
この実施例では、バチルス・ズブチリスKS1株のブドウべと病菌に対する防除効果試験を行なった。山梨大学ワイン科学研究センターの実験圃場に植栽されている樹齢10年の甲州種ブドウ(垣根仕立て)に、上記実施例1で調製したフロアブル剤を散布して効果を調べた。この実験圃場は平成17年度から完全な無農薬栽培を行っているため、毎年ブドウべと病が頻発する。そこで、平成19年5月11日から8月17日まで、上記のフロアブル剤を週1回の割合で毎週ブドウの新梢に均一に散布した。散布量は圃場1アールあたり5L程度である。同時に本実施例に対する比較例として、市販の微生物農薬ボトキラー水和剤(登録商標、出光興産社製)を同濃度、同頻度で散布した。また、何の薬剤も散布しない無処理区についても比較した。
【実施例】
【0034】
平成19年8月21日にべと病の発生調査を行い、べと病の病症が現れた葉の数を基にして発病率(%)を、また、実験区の全ての病症面積を基にして発病度(cm)を算定した。その結果を表2に示す。
【実施例】
【0035】
【表2】
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【実施例】
【0036】
上記の表2の結果からも明らかなように、バチルス・ズブチリスKS1株のブドウべと病菌に対する防除効果、特に予防効果が非常に高いことが認められた。
【実施例】
【0037】
実施例3:適用病原菌試験2
この実施例では、バチルス・ズブチリスKS1株の灰色かび病菌および晩腐病菌に対する防除効果試験を行なった。先ず、検定するための病原菌(灰色かび病菌および晩腐病菌)を、PDA培地(寒天中にジャガイモ・エキスとグルコースを含んだもの)上で25℃、5日間ほど前培養する。次に、成長した菌糸をコルクボーラを用いて直径6mmのディスクにくり抜き、これをPDA培地が入っている新しいシャーレの中心に置く。さらに、同じシャーレの端にバチルス・ズブチリスKS1株を直線的に塗り、対峙培養することで検定菌の菌叢とバチルス・ズブチリスKS1株との相互作用を見る。
【実施例】
【0038】
図1及び図2は、検定菌を25℃で3日間対峙培養した後の菌糸先端の顕微鏡写真(200倍)である。この写真によれば、灰色かび病菌および晩腐病菌のいずれもが菌糸先端が膨潤して破裂し、病原菌の生育が抑制された状態を示している。この生育抑制のメカニズムの一つは、バチルス・ズブチリスKS1株が産生する抗菌性物質によるものと推察される。この実施例からも明らかなように、バチルス・ズブチリスKS1株は、ブドウの主要病原菌の一種である灰色かび病菌や晩腐病菌に対する防除効果、特に殺菌作用による治療効果のあることが確認された。
【実施例】
【0039】
実施例4:薬剤耐性試験
この実施例では、バチルス・ズブチリスKS1株の化学農薬に対する耐性試験を行なった。先ず、対象となる化学農薬を含有したYBS培地(寒天中に酵母エキスと肉エキスを含んだもの)をシャーレに作る。この時の化学農薬の濃度(ppm)は一般的な散布濃度と同じである。次に、前記化学農薬を含有する培地の表面にバチルス・ズブチリス KS1株を塗り、37℃で2日間培養した。対照区として、ボトキラー水和剤から分離したバチルス・ズブチリスの化学農薬に対する耐性試験も同時に行なった。この場合は、YBS培地にボトキラー水和剤の懸濁液を塗り、37℃で1晩培養したのち出現した菌をボトキラー水和剤の構成菌とした。耐性試験は、前記バチルス・ズブチリスKS1株の場合と同様、化学農薬を含有する培地の表面にボトキラー水和剤の構成菌を塗り、37℃で2日間培養した。
【実施例】
【0040】
37℃で2日間培養した後に、バチルス・ズブチリスKS1株およびボトキラー水和剤の構成菌の成長が認められるかどうかを肉眼で観察した。成長が認められる場合(大きく成長した場合)には、その化学農薬に対して耐性があると認められる。現在ブドウ栽培で一般に使用されている化学農薬11種類に対する耐性試験の結果を表3に示す。
【実施例】
【0041】
【表3】
JP0005617092B2_000005t.gif
【実施例】
【0042】
試験結果によれば、本発明のバチルス・ズブチリスKS1株は、試験した全ての化学農薬に対して耐性を示し、特にべと病や晩腐病などに広く使用されているManeb(商品名:マンネブダイセンM水和剤)に対しても耐性を示すことから、化学農薬との効果的な併用散布の可能性を示唆している。なお、ボトキラー水和剤の構成菌は、前記Manebに対しては耐性を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係るバチルス・ズブチリスKS1株は、べと病菌、灰色かび病菌、晩腐病菌など幅広いブドウの病害に有効である。この広範な防除効果は、現在ブドウ病害を防除するために散布されている薬剤(化学農薬および生物農薬)の種類や散布量を減らすことができることを意味し、環境保全に加え、ブドウ栽培におけ労力やコストの軽減に貢献できるといった効果を奏するので、生物農薬として産業上の利用が可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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