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明細書 :ヒドロゲルカプセルの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5858451号 (P5858451)
公開番号 特開2012-011269 (P2012-011269A)
登録日 平成27年12月25日(2015.12.25)
発行日 平成28年2月10日(2016.2.10)
公開日 平成24年1月19日(2012.1.19)
発明の名称または考案の名称 ヒドロゲルカプセルの製造方法
国際特許分類 B01J  13/02        (2006.01)
C08F   2/44        (2006.01)
B01J  13/16        (2006.01)
B01J  13/22        (2006.01)
FI B01J 13/02
C08F 2/44 Z
B01J 13/16
B01J 13/22
請求項の数または発明の数 6
全頁数 21
出願番号 特願2010-147438 (P2010-147438)
出願日 平成22年6月29日(2010.6.29)
審査請求日 平成25年6月27日(2013.6.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】小野 努
【氏名】木村 幸敬
【氏名】安川 政宏
個別代理人の代理人 【識別番号】110001070、【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
審査官 【審査官】近野 光知
参考文献・文献 特開2003-096108(JP,A)
特開2009-167168(JP,A)
特開昭61-087734(JP,A)
特開平01-123626(JP,A)
特開昭52-043779(JP,A)
特開平02-255704(JP,A)
特開2004-190038(JP,A)
特表平10-500889(JP,A)
安川政宏ら,水性二相系を利用したW/W/Oエマルションの調製とゲルカプセルへの応用,ポリマー材料フォーラム講演予稿集,2009年,18th,75
調査した分野 B01J 13/02~13/22
特許請求の範囲 【請求項1】
親水性でかつ多官能ラジカル重合性もしくは多官能反応性を有する単量体(α1)から誘導される単位を含む重合体(a1)を含む、架橋網目構造を有する重合体からなるヒドロゲル(A)で構築された外殻層(II)と、上記外殻層(II)の内部に形成された中空部(I)とからなる構造を有し、
上記中空部(I)の一部または全部が、上記ヒドロゲル(A)の原料(a)を含む水相(W2)と二相を形成する、水溶性封入物質(s)を含む水相(W1)で満たされているヒドロゲルカプセルを製造する方法であって、
下記工程(1)および工程(2)を含み:
[工程1]前記ヒドロゲル(A)の原料(a)を含む水相(W2)と、上記水相(W2)と二相を形成する、前記水溶性封入物質(s)を含む水相(W1)と、上記水相(W2)および上記水相(W1)と相溶しない油相(O)とからなる、W1/W2/Oエマルションを調製する工程;
[工程2]上記水相(W2)に含まれる原料(a)を反応させることにより、ヒドロゲル(A)で構築された外殻層(II)を形成する工程、
前記原料(a)は前記単量体(α1)として重量平均分子量が700~20000の範囲にある親水性ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートを含むことを特徴とする、製造方法
【請求項2】
前記工程(1)が、下記1次乳化工程および2次乳化工程を含むものである、請求項に記載の製造方法:
[1次乳化工程]前記水相(W1)と前記水相(W2)とを乳化してエマルションを調製する工程;
[2次乳化工程]上記1次乳化工程で調製されたエマルションと前記有機溶媒相(O)とを乳化した後、所定の時間を経過させて、W1/W2/Oエマルションを調製する工程。
【請求項3】
前記工程(2)が光重合開始剤の存在下に紫外線を照射することを含む、請求項またはに記載の製造方法。
【請求項4】
前記2次乳化工程がマイクロ流路分岐乳化法によって行われる、請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
さらに下記工程(5)を含むことを特徴とする、請求項のいずれかに記載の製造方法:
[工程5]前記外殻層(II)の外層に、前記ヒドロゲル(A)と直接的または間接的に結合している架橋重合体(B)で構築された被覆層(III)を形成する工程。
【請求項6】
前記工程(5)が、コアセルベーション法またはin situ重合法により行われる、請求項に記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロゲルを被膜とするカプセル(ヒドロゲルカプセル)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲルは、多量の水を吸着させることができる親水性の架橋網目構造体(架橋重合体)であり、各種の用途における機能性素材として注目されている。特に、ヒドロゲルを被膜とするカプセル(ヒドロゲルカプセル)は、たとえばDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)において医薬品を封入するなど、幅広い用途が想定されている。
【0003】
このようなヒドロゲルカプセルおよびその製造方法はこれまでにもいくつか報告されているが、たとえば、マイクロ流体工学を利用してO/W/O(Oil-in Water-in-Oil)エ
マルションを調製した後、液滴を形成している中間相(W)をヒドロゲル化するという手法が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Jin-Woong Kim, Andrew S. Utada, Alberto Fernandez-Nieves, Zh ibing Hu, and David A. Weits, Angew Chem. Int. Ed. 2007, 46,1-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、ヒドロゲルカプセルを調製することは極めて難しいとされている。前記非特許文献1に記載されているような手法を用いればヒドロゲルカプセルを調製することは可能であるが、精密なO/W/Oエマルションを調製するために高度な複合ノズルの設計が必要である。また、O/W/Oエマルションから製造されるヒドロゲルカプセルは内部が油相のものであり、これから内部が水相のヒドロゲルカプセルを得たい場合には溶媒置換など複雑なプロセスが要求される。しかも、そのような溶媒置換を用いたとしても、いったんヒドロゲルカプセルが構築された後は、ヒドロゲル膜を透過できないサイズの水溶性物質をカプセル外部から内部に導入することはできない。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決した、水溶性物質を内包したヒドロゲルカプセルを効率的に製造するための方法、ならびにそのような製造方法によりもたらされる、所望の水溶性物質を内包したヒドロゲルカプセルなどを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、まず、ヒドロゲル膜の原料を含む水溶液相とカプセルに内封する水溶性物質を含む水溶液相とを乳化してW/Wエマルションを調製し、ついで当該エマルションと油相と乳化してW/W/Oエマルションを調製し、その後外水相に含まれている原料から所定の反応によりヒドロゲル膜を形成することにより、完全水系のヒドロゲルカプセルを調製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は一つの側面において、架橋網目構造を有する重合体からなるヒドロゲル(A)で構築された外殻層(II)と、上記外殻層(II)の内部に形成された中空部(I)とからなる構造を有し、上記中空部(I)の一部または全部が、上記ヒドロゲル(A)の原料(a)を含む水相(W2)と二相を形成する、水溶性封入物質(s)を含む水相(W1)で満たされていることを特徴とする、ヒドロゲルカプセルを提供する。
【0009】
前記ヒドロゲル(A)は、代表的には、親水性でかつ多官能ラジカル重合性もしくは多官能反応性を有する単量体(α1)から誘導される単位を含む重合体(a1)を含むものである。前記単量体(α1)は、好ましくは親水性ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、特に好ましくはポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートである。また、前記単量体(α1)の重量平均分子量は、好ましくは100~20000の範囲にある。
【0010】
前記ヒドロゲルカプセルの数平均粒子径は、好ましくは0.1~10000μmの範囲にある。また、前記ヒドロゲルカプセル子の粒子径の変動係数(CV)は、好ましくは1~10%範囲にある。
【0011】
前記前記水溶性封入物質(s)は、たとえば、多糖、タンパク質、薬効成分、微生物、農薬、キレート剤および金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0012】
本発明はもう一つの側面において、下記工程(1)および工程(2)を含むことを特徴とする、上述したようなヒドロゲルカプセルを製造する方法を提供する:
[工程1]前記ヒドロゲル(A)の原料(a)を含む水相(W2)と、上記水相(W2)と二相を形成する、前記水溶性封入物質(s)を含む水相(W1)と、上記水相(W2)および上記水相(W1)と相溶しない油相(O)とからなる、W1/W2/Oエマルションを調製する工程;
[工程2]上記水相(W2)に含まれる原料(a)を反応させることにより、ヒドロゲル(A)で構築された外殻層(II)を形成する工程。
【0013】
前記工程(1)は、代表的には、下記1次乳化工程および2次乳化工を含むものである:
[1次乳化工程]前記水相(W1)と前記水相(W2)とを乳化してエマルションを調製する工程;
[2次乳化工程]上記1次乳化工程で調製されたエマルションと前記有機溶媒相(O)とを乳化した後、所定の時間を経過させて、W1/W2/Oエマルションを調製する工程。
【0014】
このような製造方法は、たとえば、前記原料(a)として親水性ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートを含み、前記工程(2)が光重合開始剤の存在下に紫外線を照射することを含むようにして行われる。また、前記2次乳化工程は、好ましくはマイクロ流路分岐乳化法によって行われる。
【0015】
本発明は別の側面において、架橋網目構造を有する重合体からなるヒドロゲル(A)で構築された外殻層(II)と、上記外殻層(II)の内部に形成された中空部(I)とからなる構造を有し、上記中空部(I)の一部または全部は、空気または空気以外の気相で満たされており、かつ前記架橋重合体(A)の原料(a)の水溶液と二相を形成する水相(W1)の溶質である水溶性封入物質(s)が含まれているまたは含まれていないことを特徴とする、たとえば下記のような製造方法よって得られる、気相内包ヒドロゲルカプセルを提供する。
【0016】
このような気相内包ヒドロゲルカプセルの製造方法は、たとえば、前述したような製造方法に含まれる工程(1)および(2)に加えて、下記工程(3)を含み、さらに下記工程(4)を含んでいてもよい:
[工程3]前記工程(2)を経て得られたヒドロゲルカプセルを洗浄した後、乾燥する工程;
[工程4]上記工程(3)を経て得られたヒドロゲルカプセル乾燥物を水相中に分散する工程。
【0017】
本発明はさらなる側面において、架橋網目構造を有する重合体からなるヒドロゲル(A)で構築された外殻層(II)と、上記外殻層(II)の外層に形成された、前記ヒドロゲル(A)と直接的または間接的に結合している架橋重合体(B)で構築された被覆層(III)とからなる構造を有し、上記外殻層(II)の内部に中空部(I)が形成されているまたは形成されていないことを特徴とする、たとえば下記のような製造方法よって得られる、被覆ヒドロゲルカプセルを提供する。
【0018】
前記被覆層(III)は、好ましくは、コアセルベーション法またはin situ重合法に
より架橋重合体(B)で構築されたものであり、前記架橋重合体(B)は、代表的には、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂または尿素樹脂である。
【0019】
このような被覆ヒドロゲルカプセルの製造方法は、たとえば、前述したような製造方法に含まれる工程(1)および(2)に加えて、下記工程(5)を含み、さらに前述したような製造方法に含まれる工程(3)か工程(3)および(4)の両方を下記工程(5)の前に含んでいてもよい:
[工程5]前記外殻層(A)の外層に、前記ヒドロゲル(A)と直接的または間接的に結合している架橋重合体(B)で構築された被覆層(III)を形成する工程。
【0020】
前記工程(5)は、好ましくは、コアセルベーション法またはin situ重合法により行
われる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、従来は達成できなかった水溶性封入物質を内包するヒドロゲルカプセルを調製できるようになり、水系における各種の反応を主体とする多様な用途が創出されるものと期待される。特に、本発明の製造方法では、マイクロリアクタを利用した乳化処理手法を採用することができるため、サイズの揃った単分散のエマルションおよび最終的なヒドロゲルカプセルを容易に調製することができる。さらに、そのような乳化工程から連続的に、ヒドロゲル膜を形成するための工程(光照射等)を行うことができるため、複雑な工程を含まない一連の操作のみで、極めて効率的にヒドロゲルカプセルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】単分散W/W/Oエマルションの液滴[左]、および単分散ゲルカプセル[右]の光学顕微鏡写真。
【図2】エタノールに分散した単分散ゲルカプセルの光学顕微鏡写真。
【図3】エタノールに分散した単分散ゲルカプセルの光学顕微鏡写真(左:エタノール揮発後,右:エタノール揮発前)。
【図4】単分散ゲルカプセルのSEM画像。
【図5】再生された単分散ゲルカプセルおよび中空ゲルカプセルの光学顕微鏡写真
【図6】実施例で用いた単分散ゲル粒子調製装置の概略図。
【図7】PEGゲル粒子の光学顕微鏡写真。
【図8】MFコーティング前の光学顕微鏡写真(コーティング0回)。
【図9】MFコーティング後の光学顕微鏡写真(コーティング1回)。
【図10】MFコーティング後のPEGゲル粒子のSEM画像(左:コーティング1回,右:コーティング2回)。
【図11】MFコーティング後のPEGゲル粒子のSEM画像(左:コーティング1回,右:コーティング2回)。
【図12】MFコーティング後のPEGゲル粒子の表面の様子のSEM画像(左:コーティング1回,右:コーティング2回)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
- ヒドロゲルカプセル -
本発明のヒドロゲルカプセルは、特定の架橋網目構造体(A)で構築された外殻層(II)と、当該外殻層(II)の内部に形成された中空部(I)とを含む構造を有するものであって、その中空部(I)の少なくとも一部が水溶性封入物質(s)が溶解した水相(W1)で満たされているか、あるいは、その中空部(I)の少なくとも一部が空気または空気以外の気相で満たされているものである。

【0024】
ここで、ヒドロゲルカプセルの「中空部」とは、架橋網目構造体(A)が充填されていない部分を指しており、中空部に存在していた水相(W1)を乾燥によりすべて蒸発させるなどして、そこに溶解していた水溶性封入物質(s)が残存している場合には、その水溶性封入物質(s)の残存物が占める空間は当該中空部から除外される。そのような中空部は、全部が水相(W1)で満たされていてもよいし、中空部の一部が水相(W1)で満たされ、残部が空気または空気以外の気体で満たされていてもよし、全部が空気または空気以外の気体で満たされていてもよい。

【0025】
また、ヒドロゲルカプセルの外殻層(II)は、架橋網目構造体(A)で構築されているため、所定のメッシュサイズを有するものとなる。そのため、外殻層(II)のメッシュサイズよりも大きな水溶性物質を中空部(I)に保持する一方、そのメッシュサイズよりも小さな水性溶媒分子や水溶性物質を中空部(I)に出入りさせることが可能である。また、架橋網目構造体(A)は親水性であり、外殻層(II)は水で膨潤するため、そのメッシュサイズよりも小さな水性溶媒分子や水溶性物質は水溶液中とほぼ同様の速度で移動可能である。このような本発明のヒドロゲルカプセルの外殻層(II)のメッシュサイズは、架橋網目構造体(A)の性状、たとえば高分子鎖の長さや架橋密度によって調整することができるが、一般的には孔径1nm~10μmの範囲、好ましくは孔径20nm~200nmの範囲である。

【0026】
<粒子径>
本発明のヒドロゲルカプセルのサイズは特に限定されるものではなく、用途に応じて、適切な乳化手法を用いることにより調整することができる。たとえば、ヒドロゲルカプセルの数平均粒子径は、一般的には0.1~10000μm、好ましくは0.5~10000μmの範囲で調整することができる。また、ヒドロゲルカプセルの粒子径の変動係数(=標準偏差/数平均粒子径)は、一般的には1~10%、好ましくは2~5%の範囲とすることができる。このような数平均粒子径および粒子径の変動係数の両方の条件を満たすヒドロゲルカプセルを製造するためには、たとえば後述するような本発明の製造方法、特にマイクロ流路分岐乳化法を用いることが望ましい。

【0027】
ヒドロゲルカプセルの内部に形成された中空部(I)は、(被覆)ヒドロゲルカプセルの用途に応じて調整することができ、特に限定されるものではないが、直径(数平均値)であれば、一般的には0.5~500μm、好ましくは1~50μmの範囲で調整することができる。また、ヒドロゲルカプセルの粒子径に対する中空部の直径の比率(数平均値)は、一般的には10~90%、好ましくは50~90%の範囲で調整することができる。このようなサイズの中空部(I)を有するヒドロゲルカプセルは、後述するような本発明の製造方法において、中間相(W2)に含まれているヒドロゲル(A)の原料(a)の量やヒドロゲル膜形成工程における反応条件などを調整することにより作製することができる。

【0028】
なお、ヒドロゲルカプセルの数平均粒子径および変動係数(CV)や、中空部(I)の直径は、たとえば走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて所定の数(たとえば50個)のヒドロゲルカプセルを観察することにより(中空部の径については、分割されて中空部が現れたヒドロゲルカプセルを対象とすることにより)算出することができる。また、ここでいうヒドロゲルカプセルの粒子径は、ヒドロゲル(A)で構築された外殻層(II)までの構造によるものであり、架橋重合体(B)で構築された被覆層(III)を含む架橋ヒドロゲルカプセルの粒子径を指すものではない。

【0029】
<ヒドロゲル(A)>
外殻層(II)を形成する架橋網目構造体、すなわち架橋網目構造を有する重合体からなるヒドロゲル(A)としては、公知の各種のヒドロゲルを用いることができ、その態様は特に限定されるものではないが、たとえば、次のような重合体(a1)を含むものがある。

【0030】
ヒドロゲル(A)の第1の態様としては、特定の重合体(a1)単独からなるものが挙げられる。この重合体(a1)は、より具体的には、たとえば、親水性でかつ多官能ラジカル重合性もしくは多官能反応性を有する単量体(α1)から誘導される単位を含む重合体である。また、重合体(a1)は、単量体(α1)から誘導される単位に加えて、当該単量体(α1)と共重合可能な他の単量体(α2)から誘導される単位を含むものであってもよい。換言すれば、重合体(a1)は、単量体(α1)のホモポリマーであってもよいし、単量体(α1)と単量体(α2)とコポリマーであってもよい。

【0031】
ヒドロゲル(A)の第2の態様としては、上述したような第1の重合体(a1)と、これに直接的または間接的に結合した第2の重合体ないし単量体(a2)とからなるものが挙げられる。ここで、「直接的」に結合するとは、より具体的には、重合体(a1)および重合体ないし単量体(a2)が共有結合をしていること、たとえば、重合体(a1)の側鎖が有する官能基と、重合体ないし単量体(a2)の側鎖が有する官能基とが所定の反応により共有結合して一つの高分子を形成していることをいう。一方、「間接的」に結合するとは、より具体的には、重合体(a1)および重合体ないし単量体(a2)が上記共有結合以外の化学的な結合、たとえば疎水結合、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス結合などにより結合(吸着)しているか、あるいはそれらが物理的に容易に分離しない状態で組み合わされていることをいう。なお、これらの直接的または間接的な結合は、複数の様式のものが同時に起きていてもよい。

【0032】
・ヒドロゲル(A)の原料
重合体(a1)を合成するための単量体(α1)としては、上述のように、親水性でかつ多官能ラジカル重合性もしくは多官能反応性を有する単量体を用いることができる。なお、「反応性」とは、ラジカル重合以外の、分子間の結合を生ずる反応性であって、共有結合的なもの、非共有結合的なものいずれも包含されるが、本発明のヒドロゲルカプセルの用途に鑑み、ヒドロゲル(A)で構築される外殻層(II)が所定の強度を有するものとしたい場合には、共有結合を生ずる反応性であることが好ましい。このような共有結合的な反応性としては、たとえば縮合反応が挙げられる。

【0033】
多官能ラジカル重合性を有する単量体(α1)の代表例としては、親水性ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。この化合物は、親水性のポリアルキレングリコール鎖と、その両末端にエステル結合した2つの(メタ)アクリル酸残基とにより構成されており、後者の多官能(二官能)ラジカル重合性により架橋重合体を形成することができる。このような親水性ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとしては、たとえばポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。また、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の単量体(α1)は、重量平均分子量(Mw)が1
00~20000の範囲にあるものが好ましい。

【0034】
なお、このような化合物の態様に示されるように、本発明における単量体(α1)は、後述するようなヒドロゲル膜形成工程で反応することとなる官能基が未反応であることから広い意味で「単量体」と呼んでいるが、そのような反応以外の反応によってあらかじめ形成された多量体ないし重合体といえる部分を含んでいる化合物(成分)であってもよい。後述する単量体(α2)についても同様である。

【0035】
一方、多官能反応性を有する単量体(α1)としては、上述した縮合反応が可能な官能基を複数有する単量体の他にも、たとえば、直鎖状の重合体の形成が可能な官能基(ラジカル重合性の官能基であってもよい)と側鎖に所定の反応に関与する官能基とを有する単量体からあらかじめ調製された、高分子鎖の側鎖に所定の反応に関与する官能基を複数有する多量体(重合体)が挙げられる。そのような単量体(α1)を用いて合成される重合体(a1)同士で上記側鎖の官能基を反応させるか、あるいは、単量体(α1)の側鎖の官能基と反応しうる少なくとも2つの官能基を有する、第2の重合体ないし単量体(a2)を併用し、それらの官能基を反応させることによって、上記多量体が上記側鎖の官能基を介して架橋された、親水性の部位を有する架橋重合体を形成することができる。このような様式のための反応としては、たとえばメルカプト基同士の反応によるジスルフィド結合が挙げられる。

【0036】
さらに、所望により用いられる、単量体(α1)と共重合可能な単量体(α2)としては、たとえば、単量体(α1)として親水性ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートを用いる場合には、それとラジカル重合による共重合が可能な(メタ)アクリレート誘導体、たとえばポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。また、ラジカル重合以外の反応によりヒドロゲル(A)を構築するために、単量体(α1)としてそのような所定の反応に関与する官能基(ラジカル重合に関与するビニル基以外)を有するものを用いる場合には、その官能基と反応しうる官能基を有する化合物が単量体(α2)となり得る。

【0037】
このようなヒドロゲル(A)の原料、すなわち、重合体(a1)を合成するための単量体(α1)や、必要に応じて用いられる単量体(α2)、重合体ないし単量体(a2)などの成分は、それらを含む水相(W2)が水溶性封入物質(s)を含む水相(W1)と二相を形成することができるなどの本発明の要件を満たすものであれば、ヒドロゲルの原料として公知の各種の化合物の中から選択することができ、それぞれ、1種単独の化合物からなるものであっても、2種以上の化合物からなる混合物であってもよい。

【0038】
<水溶性封入物質(s)>
水溶性封入物質(s)は、本発明のヒドロゲルカプセルの用途に応じて、その内部の中空部(I)に内封される物質である。本発明における水溶性封入物質(s)は特に限定されるものではなく、それを含む水相(W1)がヒドロゲル(A)の原料を含む水相(W2)と二相を形成することができるなどの本発明の要件を満たすものであればよい。

【0039】
本発明における代表的な水溶性封入物質(s)としては、多糖、タンパク質、薬効成分、微生物、農薬、キレート剤および金属塩が挙げられる。

【0040】
多糖としては、たとえばデキストラン、水溶性セルロースが挙げられる。タンパク質としては、各種の生体的な反応に関与する酵素や、抗原および抗体などが挙げられる。薬効成分としては、医薬品、化粧品、(機能性)食品などに用いられているもの、たとえば、造影剤、抗がん剤、抗菌剤、抗炎症剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ビタミン類、核酸(DNAもしくはRNAのセンス鎖もしくはアンチセンス鎖
、プラスミド、ベクター、mRNA、siRNA等)などの物質、特にDDSにおける利用が想定されるものが挙げられる。微生物としては、大腸菌や酵母のような、発酵技術、特に遺伝子組換え技術を応用した物質生産が想定されるものが挙げられる。農薬ないし肥料としては、特に徐放的な使用が想定されているものが挙げられる。キレート剤としては、たとえば金属(レアメタル)を吸着して回収するためのものが挙げられる。このキレート剤は、内封するのに適するよう高分子化したものであってもよい。金属塩としては、たとえば塩化ナトリウム、塩化リチウムなどの電池材料に用いられる化合物が挙げられる。その他、塗料やインクなどに用いられる顔料、染料、色素、蛍光色素なども、水溶性封入物質(s)として挙げられる。

【0041】
- ヒドロゲルカプセルの製造方法 -
本発明のヒドロゲルカプセルの製造方法は、以下に述べる工程(1)および(2)を含むものであり、必要に応じてその他の工程をさらに含んでいてもよい。たとえば、中空部(I)の一部または全部が空気または空気以外の気相で満たされているヒドロゲルカプセル(本発明において「気相内包ヒドロゲルカプセル」とよぶ。)を製造する場合、その製造方法は、工程(2)の後に、下記工程(3)を含み、さらに下記工程(4)を含んでいてもよい。

【0042】
なお、以下の製造方法で用いられるヒドロゲル(A)ならびに水溶性封入物質(s)は、先に説明した通りのものである。また、以下の説明における原料(a)は、ヒドロゲル(A)を構成する重合体(a1)および必要に応じて用いられる重合体(a2)を合成するための原料となる、単量体(α1)、(α2)等の総称である。

【0043】
・水相および油相の調製方法
水相(W1)および(W2)を構成する水性溶媒としては、基本的に水が用いられるが、必要であれば水と相溶性の高い他の溶媒を組み合わせて用いてもよい。

【0044】
一方、油相(O)を構成する有機溶媒としては、たとえば、エステル(酢酸エチルなど)、エーテル、ケトン、ハロゲン化炭化水素(クロロホルムなど)、芳香族化合物(トルエン,ベンゼン,キシレンなど)、アルコール、ミネラルオイル、シリコーンオイル、炭酸エステルなどを用いることができる。

【0045】
水相(W1またはW2)に含まれることとなる成分および油相(O)に含まれることとなる成分の添加方法は特に限定されるものではないが、採用する乳化手法に応じた一般的な手順に従って添加すればよい。

【0046】
たとえば、水相(W2)は、本発明では必ず、外殻層(II)を構築する架橋重合体(A)を合成するための原料(a)を含むので、あらかじめ水性溶媒(w2)と原料(a)とを混合して水相(W2)を調製しておき、一方で水性溶媒(w1)と水溶性封入物質(s)とを混合して水相(W1)も調製しておき、これらを用いて水相(W1)と水相(W2)の乳化処理を行えばよい。

【0047】
また、本発明の製造方法では、架橋重合体(A)を合成するための反応を開始ないし促進するための物質、たとえばラジカル重合に対しては光重合開始剤や、乳化の挙動をよくするための乳化剤(界面活性剤)などの成分を、水相(W1もしくはW2)または油相(O)に添加することがある。その場合も上記と同様に、乳化処理に供される水相(W1もしくはW2)または油相(O)があらかじめそのような物質を含むものとなるようにしておけばよい。

【0048】
水相(W2)中の原料(a)の濃度は、たとえば形成される外殻層(II)の厚さや、
それらの成分の水に対する溶解度などを考慮しながら調整することができるが、通常1~40重量%、好ましくは10~20重量%の範囲で調整すればよい。

【0049】
水相(W1)中の水溶性封入物質(s)の濃度は、中空微粒子の用途や、用いる水溶性封入物質(s)の水に対する溶解度などを考慮しながら調整すればよい。

【0050】
<工程(1):W1/W2/Oエマルション調製工程>
本発明の製造方法の第1の工程は、
外殻層(II)を構成するヒドロゲル(A)の原料(a)を含む水相(W2)と、
この水相(W2)と二相を形成する、水溶性封入物質を含む水相(W1)と、
これらの水相(W1)および(W2)と相溶しない油相(O)とからなる、W1/W2/Oエマルションを調製する工程である。

【0051】
本発明において、上記W1/W2/Oエマルションは、代表的には、次のような1次乳化工程および2次乳化工程により調製することができる。しかしながら、本発明におけるW1/W2/Oエマルションの調製方法はそのようなものに限定されるものではなく、その他の手法を用いて調製するようにしてもよい。

【0052】
・1次乳化工程
1次乳化工程では、まず、ともに水性であるが性状の違いにより相溶せず二相を形成する、水相(W1)と水相(W2)とを乳化する。

【0053】
この1次乳化工程における水相(W1)および(W2)の使用量の割合を調整することにより、次の乳化工程で得られるW1/W2/Oエマルションの液滴中に形成される水相(W1)の径および水相(W2)の厚みの割合、ひいては最終的に得られるヒドロゲルカプセルにおける水相(W1)ないし中空部(I)の径と外殻層(II)の厚みの割合を調整することができる。

【0054】
ここで、乳化する2種類の水溶液相のうち、次の2次乳化工程でW1/W2/Oエマルションが調製される際に、どちらが内水相(W1)となりどちらが外水相(W2)となるのかは、使用量によって決定されるわけではなく、次に述べるような界面張力の関係性により決定されるものである。仮に、内水相となるべき水相(W1)の使用量が比較的少なく、外水相となるべき水相(W2)の使用量が比較的多い場合、この1次乳化工程で調製されるエマルションは、水相(W1)が水相(W2)中に分散した状態のW1/W2エマルションである。逆に、内水相となるべき水相(W1)の使用量が比較的多く、外水相となるべき水相(W2)の使用量が比較的少ない場合、この1次乳化工程で調製されるエマルションは、水相(W2)が水相(W1)中に分散した状態のW2/W1エマルションである。しかし、次の2次乳化工程において、上記どちらのエマルションを分散相として油相(O)中に分散した場合でも、時間の経過と共に、外水相となるべき水相(W2)の内部に、内水相となるべき水相(W1)が合一した状態が生み出され、結局はW1/W2/Oエマルションとなる。

【0055】
・2次乳化工程
つづいて行われる2次乳化工程では、相対的に少量の上記1次乳化工程で調製されたエマルション(W1/W2エマルションまたはW2/W1エマルション)と、相対的に多量の油相(O)とを乳化し、その後所定の時間を経過させることにより、W1/W2エマルションが油相(O)中に分散した状態のW1/W2/Oエマルションを調製する。

【0056】
ここで、乳化処理をしたばかりのエマルションにおける、油相(O)中の分散相は、1次乳化工程の説明において前述したような違いによって、通常複数のW1の液滴がW2内
に分散した多核の状態のW1/W2か、通常複数のW2の液滴がW1内に分散した多核の状態のW2/W1かである。しかしながら、時間の経過とともに、次に述べる界面張力の関係性に応じて、多核になっている液滴同士が内水相側または外水相側の位置にまとまって合一し、どちらにしても、単核の水相(W1)を内水相とし、その周囲すべてを取り囲むように水相(W2)からなる外水相が形成された液滴となり、結局はW1/W2/Oエマルションが形成される。

【0057】
このようなW1/W2/Oエマルションの形成には、油相(O)と水相(W1)の間の界面張力(σ13)および油相(O)と水相(W2)の間の界面張力(σ23)が影響し、水相(W1)と水相(W2)の間の界面張力(σ12)は非常に小さいため無視できるものとすると、σ13>σ23の大小関係が満たされている。上記界面張力σ12、σ13、σ23は、水相(W1)および(W2)ならびに油相(O)の性状、たとえば溶媒として用いる化合物や溶媒中に存在する物質およびその濃度、あるいは液滴のサイズなどによって変動するが、そのような条件について適切に調整することにより、上記所定の大小関係を満たすようにすることが可能である。

【0058】
・乳化手法
本発明の製造方法における乳化処理のための手法は、撹拌、超音波、ホモジナイザー、マイクロリアクター、マイクロチャンネル、多孔質膜などを用いる各種の公知の手法から選択することができる。また、これらの各種の乳化手法の諸条件は、調製されるエマルションが本発明における要件を満たすものとなるよう、当業者であれば調整することが可能である。

【0059】
W1/W2エマルションの調製のためには、たとえば、ホモジナイザー等を用いて水相(W1)および(W2)を撹拌、混合するような乳化手法を用いることができる。

【0060】
また、W1/W2/Oエマルションの調製のためには、上記のような撹拌乳化法を用いることもできるが、マイクロ流路分岐乳化法を用いることが特に好適である。この乳化手法は、Y字型のマイクロ流路を備えたマイクロリアクターを使用するものであり、その流路の一方から分散相(W1/W2エマルション)を、もう一方から連続相(油相(O))を流入させ、合流点付近で当該連続相により分散相の流れを切断して液滴を形成するようにして、目的のエマルション(W1/W2/Oエマルション)を調製することができる。マイクロ流路分岐乳化法を用いれば、液滴のサイズが所望の範囲にあり、かつ変動係数が極めて小さな(つまり液滴のサイズが揃っている)単分散のエマルションが得られ、しかも内水相(W1)が単核のものが形成されやすいという利点がある。

【0061】
<工程(2):ヒドロゲル膜形成工程>
本発明の製造方法の第2の工程は、上記工程(1)により調製されたW1/W2/Oエマルションの中間相(W2)に含まれているヒドロゲル(A)の原料(a)を反応させる、たとえば単量体(α1)同士を単独重合したり、単量体(α1)と単量体(α2)とを共重合させたり、あるいはそのようにして合成された重合体(a1)と重合体(a2)とを反応させたりすることにより、ヒドロゲル(A)で構築された外殻層(II)を形成する工程である。

【0062】
この工程では、ヒドロゲル(A)の原料として用いる成分に応じて、反応が適切に進行する条件下での処理を行えばよい。たとえば、本発明の代表的な態様において、単量体(α1)としてポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートを用いる場合、この化合物は光(紫外線)硬化性であるので、通常は重合開始剤の存在下に適切な波長の光を照射することにより重合反応が開始、進行し、ヒドロゲル(A)が合成される。

【0063】
このような工程により、ヒドロゲル(A)で構築された外殻層(II)と、その内部に形成された中空部(I)とからなる構造を有し、この中空部(I)の一部または全部(通常は全部)が水溶性封入物質(s)を含む水相(W1)で満たされているヒドロゲルカプセルが得られる。

【0064】
<工程(3):乾燥工程>
特に気相内包ヒドロゲルカプセルを製造する場合に用いられる、本発明の製造方法における第3の工程は、上記工程(2)を経て得られたヒドロゲルカプセルを洗浄した後、乾燥する工程である。

【0065】
ヒドロゲルカプセルの洗浄は、純水ないし適切な水性溶媒または有機溶媒を用いて行えばよい。洗浄後は、適切な手段によりヒドロゲルカプセルを回収する。また、回収された、洗浄後のヒドロゲルカプセルの乾燥は、一般的な乾燥手法を用いて、必要であれば加熱、送風等をしながら行えばよい。洗浄および乾燥のための諸条件は適切に調整することができる。

【0066】
このような工程により、中空部(I)を満たしていた、および外殻層(II)を膨潤させていた水等の溶媒が除去された、ヒドロゲルカプセルの乾燥物が得られる。溶性封入物質(s)が溶解した水相(W1)で中空部(I)が満たされていた場合には、溶性封入物質(s)の乾燥物もそこに現れる。

【0067】
<工程(4):水相分散工程>
特に気相内包ヒドロゲルカプセルを製造する場合に用いられる、本発明の製造方法における第4の工程は、上記工程(3)を経て得られたヒドロゲルカプセル乾燥物を水相中に分散させる工程である。

【0068】
このような工程により、外殻層(II)が再び水で膨潤し、また中空部(I)にも水が浸透して、水溶性封入物質(s)の乾燥物があれば再びそれ溶解した水相(W1)で満たされたヒドロゲルカプセルを調製することができる。一方、外殻層(II)は水で膨潤するものの、中空部(I)はすべてが水相(W1)で満たされることとはならず、一部または全部が取り残された空気で満たされた状態の気相内包ヒドロゲルカプセルを調製することもできる。前者のようにヒドロゲルカプセルの中空部(I)が水相(W1)で満たされることとなるか、後者のようにヒドロゲルカプセルの中空部(I)の一部または全部が気相で満たされることとなるかは、乾燥条件(洗浄溶媒、乾燥の程度)などによって調整することができる。なお、空気以外の気体の雰囲気下でヒドロゲルカプセル乾燥物を水相中に分散させる操作を行うことにより、その気体が封入された気相内包ヒドロゲルカプセルを調製することも可能である。

【0069】
- ヒドロゲルカプセルの用途 -
本発明のヒドロゲルカプセルは多様な用途を有するが、特に、ヒドロゲルで構築された被膜を介して、カプセルの内外で水溶性物質の交換を迅速に行うことができること、また、一定の容積を確保できる中空部にヒドロゲルのメッシュサイズに応じた水溶性封入物質の水溶液あるいは気体を封入できることといった特性を活用しうる用途が望ましい。

【0070】
そのようなヒドロゲルカプセルの用途としては、たとえば、化粧品,バイオリアクター,電池材料,機能性フィルム,水性塗料,濃縮・分離材料,表示素子,蓄熱材,アクチュエーター,食品,香粧品,徐放性農薬,DDS,医用材料などが挙げられる。

【0071】
一例を挙げれば、本発明のヒドロゲルカプセルの中空部(I)に、外殻層(II)のメッシュサイズよりも大きな、所定の基質から所望の生成物を産生する反応に関与する酵素
を内包させておき、そのメッシュサイズよりも小さな基質および生成物をヒドロゲルカプセルの内外でやりとりさせることにより、水溶液中と同程度の速度で所定の酵素反応を進行させるといった、バイオリアクターとして使用することができる。

【0072】
- 被覆ヒドロゲルカプセル -
本発明の被覆ヒドロゲルカプセルは、前述したヒドロゲルカプセルにおけるものと同様の外殻層(II)と、その外殻層(II)の外層に形成された、ヒドロゲル(A)と直接的または間接的に結合している架橋重合体(B)で構築された被覆層(III)とからなる構造を有するものである。

【0073】
この被覆ヒドロゲルカプセルにおける外殻層(II)の内部には、中空部(I)が形成されていてもよいし、形成されていなくてもよい。それ以外の、被覆ヒドロゲルカプセルにおける外殻層(II)および中空部(I)に関する事項については、前述したヒドロゲルカプセルにおける外殻層(II)および中空部(I)と同様のことが適用できる。

【0074】
<架橋重合体(B)>
本発明における架橋重合体(B)は、被覆層(III)を構築するためのものであって、被覆層(II)を構築するヒドロゲル(A)と直接的または間接的に結合することのできるものである。

【0075】
ここで、「直接的」に結合するとは、より具体的には、ヒドロゲル(A)および架橋重合体(B)が共有結合をしていること、たとえば、ヒドロゲル(A)の側鎖が有する官能基と、架橋重合体(B)の側鎖が有する官能基とが所定の反応により共有結合して一つの高分子を形成していることをいう。一方、「間接的」に結合するとは、より具体的には、ヒドロゲル(A)および架橋重合体(B)が上記共有結合以外の化学的な結合、たとえば疎水結合、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス結合などにより結合(吸着)していること、あるいはヒドロゲル(A)および架橋重合体(B)が物理的に容易に分離しない状態で組み合わされていることをいう。なお、これらの直接的または間接的な結合は、複数の様式のものが同時に起きていてもよい。このようにしてヒドロゲル(A)および架橋重合体(B)が直接的または間接的に結合しているとはいえども、ヒドロゲル(A)による外殻層(II)はあらかじめ形成されているものであるのに対し、架橋重合体(B)による被覆層(III)は、境界面付近におけるヒドロゲル(A)と架橋重合体(B)との上記の結合を伴いつつ、その外側に形成されるものであり、特に架橋重合体(B)はいわゆるヒドロゲルには該当しないという点で、両者は区別されうる。

【0076】
このような架橋重合体(B)としては、典型的な製造方法における工程(5)に関して後述する、in situ重合法またはコアセルベーション法により合成することが可能な架橋
重合体が好適である。in situ重合法により合成することができる架橋重合体(B)とし
ては、たとえば、メラミン樹脂および尿素樹脂が挙げられる。メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとの重縮合反応物であり、尿素樹脂は、尿素とホルムアルデヒドの重縮合反応物である。一方、コアセルベーション法により合成することができる架橋重合体(B)としては、たとえば、ゼラチンおよびアラビアゴムが挙げられる。

【0077】
本発明の代表的な態様では、架橋重合体(B)としてメラミン樹脂が用いられる。メラミン樹脂は緻密な架橋重合体を形成するので、これで構築された被覆層(III)はヒドロゲルからなる外殻層(II)と異なり、ヒドロゲルカプセルに内包した水溶液、空気、その他の物質を通さない。たとえば、空気または着色料を内包させたヒドロゲルカプセルを用いて、その表面にメラミン樹脂で構築された被覆層(III)を形成すれば、内包した空気または着色料が漏れない、蓄熱材または塗料として有用な被覆ヒドロゲルカプセルが得られる。

【0078】
- 被覆ヒドロゲルカプセルの製造方法 -
本発明の被覆ヒドロゲルカプセルの製造方法は、ヒドロゲルカプセルの製造方法において前述した工程(1)および(2)に加えて、以下に述べる工程(5)を含むものであり、必要に応じてその他の工程をさらに含んでいてもよい。たとえば、工程(5)の前に、気相内包ヒドロゲルカプセルの製造方法において前述した工程(3)か、工程(3)および(4)の両方を含んでいてもよい。

【0079】
なお、上述のような製造方法により得られる被覆ヒドロゲルカプセルは、工程(1)および(2)により、外殻層(II)の内部に中空部(I)が形成されているものとなる。この中空部(I)が形成されていない被覆ヒドロゲルカプセルを製造する場合は、工程(1)に代えて、以下に述べる工程(1’)を行うようにすればよい。

【0080】
<工程(5):被覆層形成工程>
特に被覆ヒドロゲルカプセルを製造する場合に用いられる、本発明の製造方法における第5の工程は、すでに調製されているヒドロゲルカプセルの外殻層(II)の外層に、そのヒドロゲル(A)と直接的または間接的に結合している架橋重合体(B)で構築された被覆層(III)を形成する工程である。

【0081】
なお、この被覆工程に供するヒドロゲルカプセルは、たとえば工程(2)から連続的に供給される水性溶媒(w2)中に分散した状態のものであってもよいし、工程(2)の後に工程(3)を経て乾燥した状態のもの、さらに工程(4)を経て水相中に分散され、気相を内包しつつ外殻層(II)が再び水で膨潤した状態のものであってもよい。

【0082】
この工程には、一般的に、in situ重合法(芯物質の内側または外側一方からモノマー
を供給して界面上で重合反応させる)およびコアセルベーション法(新物質を含む親水性ポリマーの水溶液の電荷を上げて相分離・膜形成させる)として知られている手法を適用することができ、用いられる架橋重合体(B)に応じて、被覆層(III)を構築するための反応が適切に進行する条件下での処理を行えばよい。

【0083】
たとえば、本発明の代表的な態様において、ポリエチレングリコールジアクリレートで構築された外殻層(II)を有するヒドロゲルカプセルの最外層にメラミン樹脂で構築された被覆層(III)を形成する場合、in situ重合法に従って、メラミン樹脂の原料と
なるメラミンおよびホルムアルデヒドを上記ヒドロゲルカプセルの水性分散液に添加し、必要に応じてさらに高分子界面活性剤を添加した上で、酸性条件下で加熱し、メラミン樹脂の合成反応(上記原料の縮合反応)を進行させるようにすればよい。

【0084】
なお、上記のような態様においては、ポリエチレングリコールジアクリレート中の、本来は親水的な環境で水和しているポリエチレングリコールに由来する部位が、加熱により疎水的な環境になり、この部位に合成されたメラミン樹脂が直接または間接的に結合することにより、外殻層(II)と被覆層(III)とが密接に結合しているものと考えられる。

【0085】
また、上記のような処理によりメラミン樹脂で構築された被覆層(III)を形成した後に、さらに同様の処理を繰り返し行うことにより、被覆層(III)が複数回コーティングされた被覆ヒドロゲルカプセルを製造することができる。コーティングの回数を増やすにつれ、被覆層(III)全体の厚さ、すなわち被覆ヒドロゲルカプセル全体の粒子径を増大させることができる。

【0086】
このような工程により、最外層に架橋重合体(B)で構築された被覆層(III)を有
する被覆ヒドロゲルカプセルが得られる。

【0087】
<工程(1’):W2/Oエマルション調製工程>
特に中空部(I)が形成されていない被覆ヒドロゲルカプセルを製造する場合、前述した工程(1)は、水相(W2)と二相を形成する水相(W1)を用いず、水相(W2)と油相(O)とからなるW2/Oエマルションを調製する工程へと変更される。この際の乳化手法としては、工程(1)において説明したのと同様のものを適用することができる(工程(1)の説明における「W1/W2エマルション」が工程(1’)における「W2」に相当する)。

【0088】
このような工程(1’)により調製されたW2/Oエマルションを、前記工程(2)と同様の工程に供し、架橋重合体(A)を合成することにより、当該架橋重合体(A)で構築された中実のヒドロゲルカプセル(ヒドロゲルカプセル全体が前記外殻層(II)で占められているともいえる。)が得られる。
【実施例】
【0089】
実施例1
(1)マイクロチャネル乳化法を利用し、下記の組成を用いて、単分散なW1/W2/Oエマルションを調製した。なお、水相および油相は、それぞれの成分をあらかじめ撹拌して調製しておいた。また、マイクロリアクターには、通常のガラス基板の表面を1-オクタデシルトリメトキシシランで疎水化処理したものに、Y字の流路(水相流入路A1および油相流入路A2:それぞれ151μmW×74μmD、エマルション流出路A3:152μmW×74μmD)を形成したものを用いた。
水相(2 ml/min):
11.8 wt% ポリエチレングリコールジアクリレート(Mw: 700)(モノマー)
11.8 wt% デキストラン(Mw: 40,000) (PEGDAと二相形成する高分子)
油相(40 ml/min):
ヘキサデカン(油相溶媒)
3 wt% Solsperse 19000(界面活性剤)
10 wt% 2-ジエトキシアセトフェノン(光重合開始剤)
(2)得られたエマルションをスライドガラス中心部に回収し、単核化を促進するため5分間程度放置した。その後、下方向からUV照射(312 nm)を2分間行い、W2のゲル化を行った。
【実施例】
【0090】
(3)得られたゲルを光学顕微鏡にて観察した(図1)。
【実施例】
【0091】
得られたゲルカプセルを回収し、ヘキサンで油相(ヘキサデカン)と界面活性剤(Solsperse19000)を洗浄した。その後、エタノールを加えることで内部のデキストランを析出させた。エタノールで洗浄途中を観察した光学顕微鏡写真を図2に示す。
【実施例】
【0092】
液滴の中心に析出物(Dextran)が観察された。また中心のDextranは析出しているために膨潤収縮しないが、ゲルカプセル相はエタノールの揮発に伴い、膨潤収縮する様子が観察された(図3)。
次に得られたゲルカプセルのSEM観察を行った(図4)。エタノール洗浄後、減圧乾燥
を行い、試料を調製した。断面図は得られていないが,そのSEM画像より内部が中空であ
ることが分かった。
【実施例】
【0093】
また、一旦乾燥させたゲルカプセルを再び超純水中へ分散させると、内部まで水に膨潤してゲルカプセルを再生することができる他に、ゲルカプセル層部分のみ膨潤して、内部に空気を内封した浮遊性ゲルカプセルも調製できることがわかった。これは、本発明でい
う「気相内包ヒドロゲルカプセル」としての応用を可能にするものである(図5)。
【実施例】
【0094】
実施例2
(1)単分散ゲル粒子の調製
図6に示す装置を作成した。なお、UV照射装置に対向している鏡は、流路(Teflon (R) tube)中のゲル粒子にまんべんなくUVが照射されるようにするためのものである。
【実施例】
【0095】
まず、マイクロリアクター(実施例1で用いたものと同じ)でマイクロ流路分岐乳化法によりエマルションを調製した。送液速度は、水相側は4μL/min、油相側は20μL/minとした。つづく流路でUV(312nm)を照射して水相中のポリエチレングリコール
ジアクリレートを重合させることにより、単分散ゲル粒子(PEGゲル)を調製した。水相および油相の組成は下記の通りである。各粒子は回収後、ヘキサン、アセトンを用いて洗浄し、乾燥後に回収した。得られたゲル粒子の光学顕微鏡写真を図7,図8に示す。
水相(2 ml/min): 30 wt% ポリエチレングリコールジアクリレート(モノマー)
1 wt% IRGACURE 2959(光重合開始剤)
0.5 wt% n-ビニルピロリドン(促進剤)
油相(40 ml/min): ヘキサデカン(油相溶媒)
3 wt% Solsperse 19000(界面活性剤)
(2)MFコーティング
上記工程により得られた単分散PEGゲル粒子を用いて、以下の手順のin situ重合法
によりMFコーティングを行った。得られたゲル粒子の光学顕微鏡写真を図9に示す。また,SEM写真を図10~図12に示す。
(i) 2.5 wt%のpoly(ethylene-alt-maleic anhydride)(以下Poly(EMA))水溶液を調製し、5NのNaOHaq.を用いてpH4.2に調整した。全量を50 gにメスアップした。
(ii) (i)の水溶液に単分散PEGゲル粒子を加え、分散させた。
(iii) 超純水に10 wt%のメラミンと9.25 wt%のホルムアルデヒドを添加し、全量を12.5 gとした。
(iv) 70℃、3時間反応させた。この際、ディスクタービン型の撹拌翼を用いて撹拌(250 rpm)した。
(v) 反応後、超純水を用いて洗浄し、網目径が20 μmのふるいを用いてカプセルを回収
した。
(vi) 回収後、光学顕微鏡とSEM観察を行った。
(vii) また、同様の手順でMFコーティングを行った。一回目はpH4.2だが、二回目はpH4.4に調整した。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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