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明細書 :細胞シートの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5757706号 (P5757706)
公開番号 特開2012-044905 (P2012-044905A)
登録日 平成27年6月12日(2015.6.12)
発行日 平成27年7月29日(2015.7.29)
公開日 平成24年3月8日(2012.3.8)
発明の名称または考案の名称 細胞シートの製造方法
国際特許分類 C12N   5/07        (2010.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI C12N 5/00 202Z
A61L 27/00 V
A61L 27/00 W
請求項の数または発明の数 5
全頁数 11
出願番号 特願2010-188707 (P2010-188707)
出願日 平成22年8月25日(2010.8.25)
審査請求日 平成25年8月13日(2013.8.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】曽我 賢彦
【氏名】佐藤 公麿
【氏名】山口 知子
【氏名】高柴 正悟
【氏名】大谷 敬亨
【氏名】妹尾 昌治
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】原 大樹
参考文献・文献 特表2007-528755(JP,A)
国際公開第2005/103233(WO,A1)
国際公開第2010/044417(WO,A1)
特開2004-123679(JP,A)
特開2009-073822(JP,A)
Eur. J. Biochem.,2002年,Vol.269,p.307-316
調査した分野 C12N 1/00-5/28
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/WPIX/CAplus(STN)
JSTplus/JMEDplus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
底面に剥離性ポリマー層を有する容器中で、ヒト由来好酸球カチオン性タンパク質(ECP)を含有する培地の存在下に、ヒト由来線維芽細胞を培養する細胞シートの製造方法。
【請求項2】
培地が、さらにアスコルビン酸を含有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
線維芽細胞が、表皮線維芽細胞又は歯肉線維芽細胞である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
剥離性ポリマー層が、温度感受性ポリマーを含有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
温度感受性ポリマーが、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミドである請求項に記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病気や怪我などによって損傷した組織の再建術として、患者自身の正常な部位の組織を採取し、欠損部位に移植する自己移植が用いられている。例えば、歯周病の治療において、損失した歯周組織における結合組織部位を再建するために、結合組織の細胞塊が必要となる場合がある。その際には、保険診療として認められている遊離歯肉移植術が、主な治療方法として用いられている。
【0003】
遊離歯肉移植術とは、具体的には口腔内の正常部位における結合組織床を広範囲に採取し、引き続いて損失した歯周組織に採取した結合組織床を移植するという方法である。この方法には、採取後の正常部位に残る欠損の回復手段が、自然治癒以外になく、術後に大きな疼痛を生じ、患者への負担が大きいという欠点を有している。
【0004】
そこで、病気や怪我等の要因による損傷がもたらす、機能の低下、不全等に陥った組織、臓器等の再建術において、細胞を用いた再生医療の分野が非常に注目されている。
【0005】
この分野では、再生医療に用いる細胞の由来が、臨床応用を展開する上で重要なテーマとなっており、近年では、幹細胞を用いた研究が脚光を浴び、その臨床応用が期待されている。一方で、体細胞を用いた組織、臓器等の再建術も実用性を有する重要な方法であり、現在では、培養皮膚、培養軟骨、培養骨、培養角膜等のように、移植術によって組織、臓器等を再建するための製品が多数開発され、臨床用に用いられる製品として上市されている。また、臨床現場では、熱傷患者の治療において、患者自身の正常な表皮組織を採取し、その組織を体外にて培養して、熱傷部位に移植する施術が、2009年1月に保険診療として認可された。
【0006】
このように、患者自身の細胞等を採取して体外で培養して得られる細胞、組織等を移植に用いる方法は、患者自身の細胞等を原料として選択することができるので、移植後の生体親和性に優れる点で、実用的な治療方法であると認識されている。しかしながら、細胞等を体外で培養する際には、通常3週間程度の期間がかかり、培養効率の悪さに問題を有している。
【0007】
また、細胞等を体外で培養する際において、培養後の細胞等を移植に用いる観点から、細菌などのコンタミネーションを厳密に抑制する必要があるが、培養時に多量の抗生物質を添加してコンタミネーションを防止しようとしても、細胞等の培養に悪影響を与えるので、好ましくないとされる上に、コンタミネーションを高度に抑制する点においても問題が生じている。また、一部の細胞を採取し、その細胞を体外にて培養して作成した細胞シートにおいて、移植術に好適に用いられる程度にまで物理的特性を示すものは開発されていない。
【0008】
好酸球カチオン性タンパク質(ECP:Eosinophil Cationic Protein)とは、好酸球の活性化に伴って、発現が上昇するタンパク質であり、塩基性顆粒中に存在している(非特許文献1)。ECPのアミノ酸配列は霊長類の間で高い相同性をもって保存されており、寄生虫殺傷、神経毒、リンパ球増殖抑制、殺菌、ヒスタミン遊離、リボヌクレアーゼ、凝固時間短縮等の活性を有することが知られている(非特許文献2)。
【0009】
特に、ヒスタミン遊離活性はアレルギー反応を惹起することから、ECPの発現抑制を薬理作用とする抗アレルギー薬が提案されており(特許文献1)、ECPを含む好酸球細胞株を、喘息薬や抗アレルギー薬のスクリーニングに利用することも提案されている(特許文献2)。そして、ECPが殺菌作用を有することは、非特許文献3においても開示されている。
【0010】
また、ECPは細胞の生存維持、増殖及び/又は細胞分化の障害を原因とする疾患に対する治療薬組成物に、薬理学的成分として含有可能であることも知られている。しかしながら、実際に増殖促進効果が確認されているのは、マウス由来の線維芽細胞に対する効果に限られており、ラット由来の平滑筋細胞、ヒト由来の内皮細胞に対しては増殖促進効果を示さないことが開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特表2002-500506号公報
【特許文献2】特開平05-111382号公報
【特許文献3】特許4408615号公報
【0012】

【非特許文献1】Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1986, 83(10): 3146-3150
【非特許文献2】日本臨床 1993,51(3):60(606)
【非特許文献3】Curr Pharm Biotechnol. 2008 Jun;9(3):141-52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の主な目的は、移植治療に用いられる細胞シートの製造方法を開発するところにあり、特にヒトに対する移植治療に用いられる、抗菌性能を有した細胞シートを製造するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、これまで、線維芽細胞のうち、マウス由来の線維芽細胞以外には増殖促進効果を示すことは無いと考えられていたECPが、ヒト由来の線維芽細胞に対して増殖促進作用を示すことを見出した。本発明は係る知見に基づいて完成されたものであり、下記の態様を含むものである。
【0015】
項1 底面に剥離性ポリマー層を有する容器中で、好酸球カチオン性タンパク質(ECP)を含有する培地の存在下に、ヒト由来線維芽細胞を培養する、細胞シートの製造方法。
項2 培地が、さらにアスコルビン酸を含有する上記項1に記載の製造方法。
項3 好酸球カチオン性タンパク質が、ヒト由来である上記項1に記載の製造方法。
項4 ヒト由来線維芽細胞が、表皮線維芽細胞又は歯肉線維芽細胞である上記項1に記載の製造方法。
項5 剥離性ポリマー層が、温度感受性ポリマーを含有する上記項1に記載の製造方法。
項6 温度感受性ポリマーが、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミドである上記項5に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によると、ヒト由来線維芽細胞を用いて細胞シートを製造することが可能となり、特に移植に好適に用いられる細胞シートを製造することが可能である。本発明の製造方法によって得られる細胞シートは、抗菌作用を有するので、移植治療用の細胞シートとして好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】rhECP(ヒト由来組み換え型ECP)がヒト歯肉線維芽細胞に及ぼす増殖促進効果を、MTT法を用いて確認した結果。なお、*はrhECPによる刺激を与えない時と比較して有意な差が存在することを示す(*p < 0.05、ANOVA / Scheffe法)。
【図2】rhECPがヒト皮膚線維芽細胞に及ぼす増殖促進効果を、MTT法を用いて確認した結果。なお、*はrhECPによる刺激を与えない時と比較して有意な差が存在することを示す(*p < 0.05、ANOVA / Scheffe法)。
【図3】rhECP刺激によるヒト皮膚線維芽細胞からのbFGF産生量を、ELISA法にて確認した結果。
【図4】rhECPがStreptococcus sanguisに及ぼす増殖抑制効果を確認した結果。なお、*はrhECP非存在下と比較してコロニー数に有意な差が存在することを示す(*p< 0.05、ANOVA / Scheffe法)。
【図5】rhECPを用いたヒト歯肉線維芽細胞シート。(A)実施例、等倍:(B)比較例、等倍:(C)実施例、5倍:(D)比較例、5倍
【発明を実施するための形態】
【0018】
好酸球カチオン性タンパク質(以下、ECPとする。)について
本発明のECPとは、動物由来のものであれば特に限定はされないが、例えば、ヒト(NCBI Accession No. NP_002926)、チンパンジー(NCBI Accession No. AAC50150)、オランウータン(NCBI Accession No. AAC50147、カニクイザル(NCBI Accession No. AAC50146)、ゴリラ(NCBI Accession No. AAC50143)、ラット(NCBI Accession No. BAA13648)由来のECPが挙げられる。中でも、ヒト由来のECPが特に好ましい。

【0019】
また、本明細書中におけるECPとは、後述するヒト由来の線維芽細胞に対する増殖促進機能、口腔内常在菌に対する増殖抑制機能等、本発明の製造方法を提供するに当って十分な機能を有する範囲内において、置換、欠失、挿入等のあらゆるECPの改変体をも広く包含される。

【0020】
本発明のECPの製造方法は、公知の製造方法を採用することができ、特に限定されないが、例えば、Mallorqui-Fernandezらの記載(Journal of molecular biology. 2000. 300, 1297-1307)に従い、rhECPの発現用ベクター構築を構築し、大腸菌を用いて生合成した後に精製する方法が挙げられる。

【0021】
より具体的には、ヒトECPのcDNA(NCBI Accession No.X15161)をpET3aベクターに組み込み、該ベクターにて形質転換された大腸菌(Escherichia coli BL21(DE3株))を、1 mMのIPTGを添加したLB培地で培養し、菌体を回収した後に超音波破砕処理を行う。菌体内にて発現されるECPは所定の可溶化処理の後、陽イオン交換HPLCカラムならびに逆相HPLCカラムを使用して精製する。

【0022】
このようにして得られるECPは、アミノ末端アミノ酸配列、SDS-PAGE等の解析を行い、得られるECPの純度が確認できる。さらに、リムルステストによるエンドトキシン試験を行ってもよい。

【0023】
ECPは、ヒト由来の線維芽細胞に対して増殖促進効果を有する。例えば、歯肉由来のヒト線維芽細胞に対して、従来培養に用いられる培地(一例として、10 % FBSを含有するDMEM培地)に、0.001~10 μg / ml程度の濃度でECPを含有させることによって、該線維芽細胞の増殖促進効果が認められる。また、皮膚由来のヒト線維芽細胞であれば、従来培養に用いられる培地に、0.5~5 μg / ml程度の濃度でECPを含有させることによって、該線維芽細胞の増殖促進効果が認められる。

【0024】
しかしながら、ECPはヒト由来の線維芽細胞に対して作用させても、該線維芽細胞の増殖を促進する細胞外成長因子である、bFGF、FGF4等の産生を誘導することはない。

【0025】
一方で、ECPはStreptococcus sanguis菌などに代表される、口腔内に常在する細菌に対して、顕著な増殖抑制効果を示す。例えば、Streptococcus sanguis菌に対しては、10~100 ng/ml程度の濃度でECPを作用させると、顕著な増殖抑制効果を示す。

【0026】
細胞シートの製造方法
本発明の細胞シートの製造方法は、底面に剥離性ポリマー層を有する容器中で、好酸球カチオン性タンパク質(ECP)を含有する培地の存在下に、ヒト由来線維芽細胞を培養する細胞シートの製造方法である。

【0027】
本発明の製造方法によると、ヒト由来線維芽細胞を培養することによって、容器の底面に存在する剥離性ポリマー層の上部にて、ヒト由来線維芽細胞が増殖し、その増殖に伴って該細胞から分泌される細胞外マトリックスタンパク質と、単層に増殖した該細胞を含む細胞シートが形成される。

【0028】
剥離性ポリマー層には、容器底面に化学的又は物理的に特定のポリマーが固定されており、該ポリマーとは温度又はpH等の外的環境の変化によって、該ポリマーが有する細胞外マトリックスタンパク質及び/又は細胞に対する接着性が変化するものであり、該層上に存在する細胞シートを剥離させることができるポリマー層である。

【0029】
好ましい剥離性ポリマー層の態様としては、温度の変化によって細胞外マトリックス及び/又は細胞に対する接着性が変化する性質を有する温度感受性ポリマーが固定された剥離性ポリマー層が挙げられ、該温度感受性ポリマーがポリ-N-イソプロピルアクリルアミドであることがさらに好ましい。

【0030】
本発明の製造方法にて用いる容器とは、細胞を培養する際に通常用いられる容器であれば、特に限定されることはないが、例えばシャーレ、フラスコ、ビーカー、トレイ、スライド等が挙げられる。

【0031】
本発明のヒト由来線維芽細胞とは、結合組織を構成する細胞で、コラーゲン等の細胞外マトリックスタンパク質を分泌するものであればよく、線維芽細胞の由来組織については、特に限定はされない。具体的には、口腔内の粘膜若しくは歯肉、皮膚、消化管粘膜、呼吸器粘膜等に由来する線維芽細胞が挙げられ、中でも、口腔内の歯肉由来の線維芽細胞が好ましい。また、本発明の線維芽細胞は初代培養細胞であっても、不死化処理を施して樹立された株化細胞であってもよい。

【0032】
本発明の製造方法において用いるECPは、後に詳述する培地に添加して用いればよい。その使用量は、用いる培地中での終濃度が通常0.1~5000 ng/ ml程度とすればよく、好ましくは1~50 ng/ ml程度、より好ましくは5~200 ng/ ml程度、最も好ましくは50~150 ng/ ml程度である。

【0033】
本発明の製造方法において用いる培地は、上述したそれぞれのヒト由来の線維芽細胞を好適に増殖させる条件を満たすものを適宜選択すればよい。具体的な培地の例としては、MEM、α-MEM、DMEM、IMEM、RPMI-1640、Ham`s F-12等が挙げられる。これらの培地は、商業的に入手が可能であり、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。

【0034】
上述の培地に対して、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、L-グルタミン、L-アラニル-L-グルタミン等の、通常細胞を培養する際に用いられる添加物;PBS、HEPES、HANK`S等の緩衝液を必要に応じて添加してもよい。これらの添加量は、通常の細胞培養に用いられる程度の量であれば特に限定されない。

【0035】
また、上述の培地には、細胞の増殖及び/又は生存の維持のために血清が含まれていてもよい。血清の由来は特に限定されるものではなく、ウシ、ウマ、ヒト等が挙げられる。本発明の細胞シートは、ヒトに対する移植術に好適に用いられるので、移植後の部位に対する生体適合性の観点から、ヒト由来の血清が好ましいが、容易で、且つ安価に入手できる点においてはウシ又はウマ由来の血清も好ましく、得られる細胞シートの用途に応じて好適に用いることができる。

【0036】
これらの血清は、商業的に入手することができるが、ヒト由来の血清に関しては、上述のように生体適合性の観点から、本発明の細胞シートを用いて移植が必要となる患者自身の血清を入手することがさらに好ましい。患者自身からの血清の具体的な入手方法は、患者から許容される量の血液を採取し、その後、遠心分離等の工程に供して公知の方法に基づいて入手すればよい。また、本発明の方法によって使用する血清は、非働化等の処理を別途行った後に使用しても良い。

【0037】
上述した血清の使用量は、培養に用いる培地に対して通常0.1~25質量%程度とすればよく、1~25質量%程度が好ましい。さらに好ましくは16~25質量%程度である。

【0038】
従来、ヒト由来線維芽細胞を培養する際に使用する血清の使用量は、用いる培地に対して多くても15質量%程度までであるが、得られる細胞シートに対して、移植などに用いる際に求められる物理的な強度をさらに付与するためには、16~25重量%程度の使用量とすることが好ましい。

【0039】
また血清は、細胞増殖因子の供給源となるので、細胞の増殖という観点からすれば、その使用量が多いほうが好ましいが、血清中には細胞に対して未知の作用を有する物質も多く含まれており、これらの物質の中には細胞シートの製造に際して悪影響を及ぼす物質が含まれている可能性も否定できず、25質量%程度を超える大量の血清の使用は好ましくない。また、このような大量の使用を採用したとしても、その使用量に見合う効果も得られないので、経済的観念からも好ましくない。

【0040】
上述の培地には、本発明の方法によって得られる細胞シートに移植等に用いる際に求められる力学的な特性をさらに付与すること等の目的から、L-アスコルビン酸が含まれていてもよい。また、その使用量は、培養に用いる培地中に対して終濃度が通常は10~100μg/ ml程度となる量にて使用すればよく、好ましくは40~60μg/ ml程度である。

【0041】
本発明の製造方法において採用する培養条件は、通常5%程度のCO2、及び95%程度の湿潤環境下にて培養すればよく、培養温度は通常37℃程度とすればよい。

【0042】
本発明の製造方法における培養期間は、培養に用いる容器の大きさ、播種する線維芽細胞の数等によって変動するために、一概に決定することはできないが、線維芽細胞がオーバーコンフルエント程度の状態になるまで培養すればよい。例えば、3.5 mmのディッシュに、5×104 個程度の線維芽細胞を初期播種する場合であれば、通常7日程度の培養を行えばよい。

【0043】
本発明の製造方法によって形成された細胞シートは、所定の操作を加えることによって、容器底面に固定したポリマー層のポリマーが有する、細胞外マトリックス及び/又は細胞への接着性能をより弱くした後に、容器から剥離することが可能となる。

【0044】
上述の所定の操作とは、例えば容器底面に固定したポリマー層のポリマーの細胞外マトリックス及び/又は細胞への接着性能が、温度によって変化するものであれば、製造に用いる容器ごと温度を変化させればよく、例えばpHによって変化するものであれば、pHを変化させるために適当な酸又は塩基を培地に加えればよい。

【0045】
例えば、上述したように剥離性ポリマー層に温度感受性ポリマーである、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミドを用いた場合は、容器の温度を通常20~30℃程度に下げることによって、容器底面の剥離性ポリマー層と細胞シートの間の接着を弱め、引き続いて細胞シートを剥離させることが可能となる。

【0046】
具体的な剥離方法は、製造した細胞シートを直接ピンセットなどによって摘み、容器底面から剥離することができる。他の方法として、製造した細胞シートの上面に、細胞に対して親和性を有する膜を被せ、該膜に写し取った後に粘着性を有するゲル等の上に細胞シートと膜を静置し、後に膜を除去する方法が挙げられる。

【0047】
上述の膜として、例えば親水性を有するPVDF膜、ニトロセルロース膜、Cell Shifter(登録商標 株式会社セルシード)等が挙げられ、製造された細胞シートの特性に応じて適宜選択して使用することが可能である。例えば、Cell Shifterを用いる際には、販売先から配布されるプロトコルに記載の方法を参照すればよい。

【0048】
上述したような、底面に剥離性ポリマー層を有する容器として、例えばセルシード社から入手できるUpCell(登録商標)を好適に用いることが可能である。

【0049】
上述の方法によって得られる本発明の細胞シートは、移植用の細胞シートとすることができる。ここで、移植の種類は特に限定はされず、細胞シートを用いる際に使用した線維芽細胞種の由来に応じて、所望の部位に移植することが可能である。

【0050】
本発明の方法によって得られる細胞シートは、抗菌性を有するECPを用いて製造されるために、得られる細胞シート中にECPを含有する。従って、抗菌性を有する細胞シートを製造することができるので、生体への移植に特に好適に用いられ、細胞シート製造時に、特に抗生物質等の添加を必要とせず、さらに得られた細胞シートの保存の点でも有利な点を示す。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
〔実施例1〕rhECPが有する生物活性について
rhECPがヒト線維芽細胞に及ぼす増殖,活性および毒性の検討をヒト歯肉線維芽細胞およびヒト皮膚線維芽細胞を対象に検討した。なお、rhECPは上述した公知の方法により製造して入手したものを用いた。
【実施例】
【0053】
ヒト歯肉線維芽細胞およびヒト皮膚線維芽細胞の培養
健康なヒト歯肉組織から分離・培養した線維芽細胞様細胞を、ヒト歯肉線維芽細胞として用いた。ヒト歯肉線維芽細胞の分離・培養は公知の方法を採用することができ、特に限定されないが、本実験例では、Nishimuraらの記載(Journal of Dental Research. 1996. 75, 986-992)に従って行った。
【実施例】
【0054】
ヒト歯肉線維芽細胞は、20 mMのHEPES、10%のウシ胎仔血清(FBS)、及び10μg / mlのゲンタマイシンを含むDMEM培地を用い、37℃、5%CO2存在下、95%湿潤下で5から9代継代培養した細胞を実験に供した。
【実施例】
【0055】
ヒト皮膚線維芽細胞はLonza社(Lonza Walkersville、Inc., MD,USA)から購入したものを用いた。培養はヒト歯肉線維芽細胞の方法に準じた。
【実施例】
【0056】
ヒト歯肉及び表皮維芽細胞に対するrhECPの細胞増殖促進効果
上述の方法で培養したヒト歯肉あるいは皮膚線維芽細胞を、96-wellプレートに1.6×104 cells / wellの細胞密度で播種し、24時間培養した。その後、DMEM培地を、0.5%のFBSを含有する培地に交換し、さらに24時間培養した。その後、0~10μg / mlのrhECPで24時間刺激を行った。なお、この段階で培地中には抗生剤を添加しなかった。刺激後、Thiazolyl Blue Tetrazolium Bromide(Sigma)を加え、4時間培養した後に上清を除き、HCl-isopropanolを加えて混和した後、各ウェルの595 nmの吸光度を測定し、解析を行った。結果を図1及び図2に示す。
【実施例】
【0057】
図1から、rhECPはヒト歯肉線維芽細胞に対して細胞増殖障害を及ぼすことなく、細胞増殖を促進する効果を示すことが明らかとなった。この効果は、rhECPを1μg / mlの濃度にて刺激した際に最も高い効果を示し、無刺激と比較して1.45倍もの増殖作用を示し、rhECPが有意にヒト歯肉線維芽細胞に対して増殖促進効果を有することが明らかとなった。
【実施例】
【0058】
図2から、rhECPはヒト表皮線維芽細胞に対しても細胞増殖障害を及ぼすことなく、細胞を増殖する効果を示すことが明らかとなった。この効果は、rhECPを1μg / mlの濃度にて刺激した際に最も高い効果を示し、無刺激と比較して1.3倍もの増殖作用を示し、rhECPが有意にヒト歯肉線維芽細胞に対して増殖促進効果を有することが明らかとなった。
【実施例】
【0059】
rhECP刺激によって産生されるサイトカインの測定
ヒト皮膚線維芽細胞を対象に、rhECPによる刺激に応答して、細胞から産生されるbFGFの量を、ELISA法を用いて測定した。
【実施例】
【0060】
6-wellプレートに、10×104 cells / wellの細胞密度で、上述したヒト皮膚線維芽細胞をそれぞれ播種し、10% FBS、10μg / mlのゲンタマイシン含有するDMEM培地で24時間培養後に、FBSを0.5%含有するDMEM培地に交換した。さらに24時間培養した後、0~10μg / mlのrhECPでそれぞれ刺激を行い、24時間後に培養上清を回収した。なお、この段階で培地中に抗生剤は添加しなかった。その後、培養上清中のbFGFを市販のELISA kit(Ray Biotech, Inc. , GA, USA)を用い、添付の使用説明書にしたがって測定した。結果を図3に示す。
【実施例】
【0061】
rhECP刺激によりヒト皮膚線維芽細胞から産生されるbFGFの産生量は変化しないことが明らかとなった。同様に、rhECP刺激によるFGF-4の産生量についても検討を行ったが、こちらも同様に変化はなかった。
【実施例】
【0062】
従来、ヒト線維芽細胞はbFGFやFGF-4を産生し、これらの成長因子がオートクライン的に自らの細胞を刺激し、細胞増殖が惹起されることが知られていたが、rhECPはヒト表皮由来線維芽細胞に対しては増殖促進を惹起すると考えられえているbFGFの産生亢進には関与しないことが明らかになった。これは、rhECPによるヒト線維芽細胞に対する増殖促進効果は、従来知られていない新たな生理機序によって引き起こされていることを示唆している。
【実施例】
【0063】
口腔内常在菌に対するrhECPの抗菌性の検討
口腔内常在菌であるStreptococcus sanguis(ATCC 10556)を被験菌とした。被験菌をLB培地で前培養し,4.0×104CFU / mlになるようにPBS(-)で調製した。各菌液に0~100μg / mlのrhECPを添加し37℃で4時間培養を行った。その後、LB寒天平板培地に菌液を100μlずつ播種し、37℃で24時間培養の後、平板上のコロニー数を調べた。結果を図4に示す。
【実施例】
【0064】
0~100μg / mlの濃度のrhECPは、Streptococcus sanguisに対して有意に増殖を阻害する効果を有することが明らかとなった。従って、rhECPは口腔内の処置に有効に利用されることが示唆された。
【実施例】
【0065】
〔実施例2〕ECPを用いて製造した細胞シート
ヒト歯肉線維芽細胞シートを、市販の細胞シート回収用温度反応性細胞培養器材UpCell(登録商標 Cell Seed、Tokyo)を用いて作製した。
【実施例】
【0066】
取扱説明書に記載された、マウス線維芽細胞の細胞シート作製プロトコルに従い、10%FBS、及び10μg / mlゲンタマイシンを含有するDMEM培地を用いて歯肉線維芽細胞シートの作製を試みたが、シートとして回収可能な状態として培養することはできなかった。
【実施例】
【0067】
そこで、20%FBS、50μg / mlのL-アスコルビン酸、及び100 ng / mlのrhECPを含み10μg / mlのゲンタマイシンを含有しないα-MEM(実施例)、20%FBS、10μg / mlゲンタマイシン、及び50μg / mlのL-アスコルビン酸を含有し、rhECPを含まないα-MEM(比較例)で、ヒト歯肉線維芽細胞を5×104cells / dishの細胞密度でUpCell細胞シート回収用温度応答性細胞培養器材・3.5 mmディッシュに播種し、オーバーコンフルエントになるまで(本例では7日間を要した。)、37℃、5%CO、95%湿潤下にて培養し、細胞シートを製造した。
【実施例】
【0068】
その後、細胞シートを20℃にて30分間インキュベートし、シャーレ底面から培養によって製造された細胞シートを剥離した。作製した細胞シートは、添付の使用説明書の方法ではなく、細胞シート回収用支持体であるCellShifter(登録商標 Cell Seed、Tokyo)を用いて回収し、7.5%ゼラチンゲルを移植床に模してトランスファーを試みた。得られた細胞シートについて説明するために、図5に結果を示す。
【実施例】
【0069】
図5は上記実施例の記載に従って製造した細胞シートの写真像である。AおよびBは等倍の像、CおよびDは拡大した5倍の像である。図5に示す結果から、実施例の細胞シートは、比較例の細胞シートに比べて細胞の密度および量が多く、シートの強さの点において優れていることが明らかとなった。
【実施例】
【0070】
そして、rhECPを用いた作製した細胞シート(実施例)は、全ての実験において移植床として模した7.5%ゼラチンゲルへのトランスファーに成功した。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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