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明細書 :ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌を用いた親油性溶媒処理方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5747371号 (P5747371)
公開番号 特開2011-041541 (P2011-041541A)
登録日 平成27年5月22日(2015.5.22)
発行日 平成27年7月15日(2015.7.15)
公開日 平成23年3月3日(2011.3.3)
発明の名称または考案の名称 ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌を用いた親油性溶媒処理方法
国際特許分類 C12N   1/20        (2006.01)
C12N   1/26        (2006.01)
C12N   1/00        (2006.01)
FI C12N 1/20 F
C12N 1/26
C12N 1/00 P
請求項の数または発明の数 5
全頁数 10
出願番号 特願2009-193018 (P2009-193018)
出願日 平成21年8月24日(2009.8.24)
審査請求日 平成24年8月22日(2012.8.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】岩淵 範之
【氏名】中嶋 睦安
【氏名】砂入 道夫
【氏名】明瀬 由美子
【氏名】鷲崎 友哉
個別代理人の代理人 【識別番号】100093861、【弁理士】、【氏名又は名称】大賀 眞司
【識別番号】100129218、【弁理士】、【氏名又は名称】百本 宏之
審査官 【審査官】伊達 利奈
参考文献・文献 特開2006-325433(JP,A)
特開2005-002212(JP,A)
日本農芸化学会大会講演要旨集,2009.03.05, Vol.2009, p.339, #3P1387A
日本農芸化学会大会講演要旨集,2008, Vol.2008, p.41, #2A11a09
調査した分野 C12N 1/00-1/38

JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
親油性溶媒を含む培地にロドコッカス属細菌を添加し、培地でのロドコッカス属細菌の局在性について、培地中の無機塩の濃度を調整して、該ロドコッカス属細菌が親油性溶媒に吸着する形態と、親油性溶媒に転移する形態との割合を制御し、ロドコッカス属細菌を代謝させて親油性溶媒を分解し、
前記親油性溶媒は、炭素数13以下の炭化水素であり、
前記培地として、(NH4)2SO4とK2HPO4とを含むNP溶液を用い、
前記無機塩として、マグネシウム塩を無添加または88.5nM以下に調整する親油性溶媒処理方法。
【請求項2】
前記親油性溶媒は、常温・常圧下で液体の炭化水素である、請求項1に記載の親油性溶媒処理方法。
【請求項3】
前記ロドコッカス属細菌は、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)である、請求項1または請求項2記載の親油性溶媒処理方法。
【請求項4】
前記ロドコッカス属細菌が、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4株である、請求項3に記載の親油性溶媒処理方法。
【請求項5】
前記マグネシウム塩は塩化マグネシウムである、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の親油性溶媒処理方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素の処理方法及び炭化水素の処理システムに関し、詳細には、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌を利用した効率のよい炭化水素の処理方法及び炭化水素の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌は、土壌や海洋などにありふれて存在するグラム陽性細菌、高G+C含量のコリネ型細菌の一種である。ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌には、石油系炭化水素やポリ塩化ビフェニール類(PCB)などをはじめとした数多くの難分解性化合物に対して分解・資化能力をもつことに加え、アクリルアミドや有用酵素群、あるいは細胞外多糖をはじめとした機能性バイオポリマーなどの生産菌が多く存在することが知られている。
【0003】
それゆえ、産業的に重要な菌群として位置づけられており、低エネルギー化や環境負荷を削減できるバイオプロセスによる環境浄化・物質生産への応用などが期待されている(非特許文献1)。
【0004】
特に、バイオプロセスを考える場合、応用が期待される微生物には、有機溶媒を含む特殊な環境下での良好な生育や活発な代謝活動などの性質が求められる。また、石油流出事故などによる石油汚染環境の浄化に必要な微生物にも、高濃度難揮発性化合物存在下でこれらの分解を行いながら良好な生育を示すために、これらに対する分解能だけでなく、共存する難揮発性化合物の毒性に対する耐性能が高いことが求められる。
【0005】
上述したこれらの性質を解析するためには、まず、その切り口として微生物の有機溶媒耐性が必要であり、特にバイオプロセスにおいては、高濃度有機溶媒存在下での生育が求められる。
【0006】
微生物の有機溶媒耐性に関する研究では、これまでにグラム陰性菌の大腸菌やシュードモナス(Pseudomonas)属細菌などのモデル微生物を中心に遺伝生化学的な研究が行われ、細胞表層構造の変化やエプラックスポンプ、ベシクルの形成などの耐性機構が提案されている(非特許文献2)。
【0007】
一方、グラム陽性菌においては、炭化水素分解遺伝子などに関する遺伝性化学的研究は進んできたが、有機溶媒耐性に関した研究は多くない。このことは、一般にグラム陽性菌は陰性菌に比べ有機溶媒耐性レベルが低いと考えられていることに起因していると予想される。
【0008】
しかしながら、バイオプロセスを考える場合には、極めて応用に近い段階の微生物において、実際の利用環境に近い条件での有機溶媒耐性に関する情報が求められる。上述したようにロドコッカス(Rhodococcus)属細菌はバイオプロセスへの応用が期待されていることから、同菌の有機溶媒耐性に関する知見の蓄積が必要である。
【0009】
岩淵らは、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)S-2株が高濃度石油耐性石油分解菌であることを見出し、その石油耐性に検討を加えた結果、同菌の生産する細胞外多糖(以下、「EPS」という)が長鎖アルカンなどの難揮発性有機溶媒の耐性に深く関与していることを明らかにした。
【0010】
さらに、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌のコロニー形態と溶媒耐性について検討したところ、EPS生産量の少ないラフ型菌は溶媒に親和性が高く結果的に溶媒感受性であり、一方で、EPS生産量の多いムコイド型菌は耐性を示したことから、同属細菌においては、コロニー形態と有機溶媒耐性に高い相関があることを明らかにした。
【0011】
また、EPSは溶媒に感受性のラフ型菌にも溶媒耐性を与えることが示されており、これらのことから、ムコイド型コロニーの形成が同属細菌の溶媒耐性を考える上での一つの指標であることが見出された(非特許文献3)。
【0012】
ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4株は分岐アルカンの一種であるプリスタン(2,6,10,14-tetramethyl-pentadecane)分解菌として単離された株であり(非特許文献4)、培養の経過と共にEPSの生産に基づいた自身のコロニー形態をラフ型→ムコイド型→ラフ型へと変化させる株である。同株は難揮発性有機溶媒に耐性を示すことが知られていることから、ゲノム解析株に選定され、また、宿主-ベクター系の開発にも着手されている。従って、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4株(以下、「Rh-PR4」又は、「PR4株」という。)は、近い将来、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌の中で、遺伝子操作系の発達した株になることが予想される。
【0013】
一般に、有機溶媒を細菌で処理する場合、有機溶媒と培地成分を含む水性溶媒との二層培養系で行う。しかしながら、水性溶媒中に添加された細菌は、有機溶媒-水性溶媒界面でしか反応できないため、バイオプロセスによる環境浄化・物質生産への応用には、菌体の親油性を改善し、菌体が炭化水素に転移するようにしての処理効率を向上させる必要がある。
【0014】
R .erythropolis PR4株は培地/アルカンの二層培養系において、添加するアルカンの炭素数によって、アルカン粒子表面へ吸着する「吸着型」とアルカン粒子内へ転移する「転移型」の二つの異なる局在性を示す株であり、バイオリメディエーションやバイオプロセスの宿主として期待されている。
【0015】
岩淵らは、Rh-PR4が前記炭素数14以上のテトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、プリスタン、スクワラン等に転移して、これらの炭化水素を代謝・分解できることを明らかにした(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0016】

【特許文献1】特開2006-325433号公報
【0017】

【非特許文献1】Finnerty, W. R. et al. (1992) Annual Review of Microbiology, p193-218.
【非特許文献2】Ramos, J. L. et al. (2002) Annual Review of Microbiology, p743-768.
【非特許文献3】Iwabuchi, N. et al. (2000) Applied Environmental Microbiology, 66: 5073-5077.
【非特許文献4】Komukai-Nakamura, S. et al. (1996) Journal of Fermentation and Bioengineering, 82:p570-574
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
既述のように、ロドコッカス属微生物は炭化水素の分解・代謝に有用であるものの、炭素数が一定以下の炭化水素には転移出来ないなど、分解・代謝できる炭化水素には制限があるという課題があった。
【0019】
そこで、本願発明は、ロドコッカス属微生物の親油性溶媒に対する親和性を制御、即ち、親油性溶媒に吸着する状態からこれに転移する状態に変化させることにより、新油性溶媒を効率よく分解することができる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するために、本発明は、ロドコッカス属細菌を用いた対象物の処理方法であって、当該細菌の培地に添加されるマグネシウム塩の濃度を制限することによって、前記培地に添加される代謝対象新油性化合物に対する前記細菌の局在性を、前記化合物に吸着する形態から前記化合物に転移する形態に変更することを特徴とするものである。
【0021】
さらに、本発明は、実質的にマグネシウム塩を含有しないか、又は、制限された濃度以下のマグネシウ塩を含有する水溶性培地に、ロドコッカス属細菌を添加する工程と、前記水溶性培地に、代謝対象物を添加して、当該代謝対象物を前記細菌によって代謝する工程と、を備えることを特徴とするものである。
【0022】
ロドコッカス属細菌は、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)であり、好ましくはそのPR4株である。ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)属細菌は、天然に由来する菌株の他、炭化水素を分解・代謝する性質を維持・向上した形質転換体を含む。
【0023】
ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)属細菌が、炭化水素内に転移して、これを分解できる場合の炭化水素には、特に制限はないが、このましくは、常温・常圧で液体状又は半固形状であり、炭素数が16以好ましくは13以下のn-アルカンと分岐アルカンが好ましい。
【0024】
前記特許文献1で説明したように、従来、低炭素数の炭化水素、例えば、炭素数が13以下の炭化水素に対しては、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)属細菌は通常吸着するだけで、それに転移することはできず、これを代謝・分解することはできなかったが、本発明に従って、同細菌の培地に添加される無機塩の濃度を制限することによって、当該細菌を低炭素数の炭化水素に転移させることができる。
【0025】
前記マグネシウムの濃度は、88.5 nM以下、好ましくは、8.9 nM以下、さらに好ましくは、0.9 nM以下である。前記マグネシウム塩は、特に、塩化マグネシウムである。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本願発明によれば、ロドコッカス属微生物の炭化水素などの代謝対象成分に対する親和性を制御、即ち、当該成分に吸着する状態からこれに転移する状態に変化させることにより、これを効率よく分解することができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】培地に対するイーストエキストラクト(YE)濃度の検討結果を示すもので、顕微鏡写真と、PR4株の炭化水素(C12,C19)に対する局在性を示す特性表である。
【図2】培地に対するグルコース(Glu)濃度の検討結果を示すもので、顕微鏡写真と、PR4株の炭化水素(C12,C19)に対する局在性を示す特性表である。
【図3】培地にグルコース無添加時のイーストエキストラクト(YE)濃度の検討結果を示すもので、顕微鏡写真と、PR4株の炭化水素(C12,C19)に対する局在性を示す特性表である。
【図4】無機塩類を培地に添加した際のPR4株の測定検討結果を示すもので、顕微鏡写真と、PR4株の炭化水素(C12,C19)に対する局在性を示す特性表である。
【図5】PR4株が炭化水素に転位することを阻害する成分を培地に添加した際の測定検討結果を示すもので、顕微鏡写真と、PR4株の炭化水素(C12 ,C19)に対する局在性を示す特性表である。
【図6】塩化マグネシウムを培地に添加した際のPR4株の測定検討結果を示すもので、顕微鏡写真と、PR4株の炭化水素(C12,C19)に対する局在性を示す特性表である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4株ロドコッカス属細菌を用いた代謝方法は、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門より入手できる。

【0029】
2.培養液の作成
Rh-PR4の培地、溶液を以下のように作製した。

【0030】
IB 液体培地: 約700 mlのミリQ水(Synthesis A10, Millipore)に10 gのグルコース (和光純薬工業)、10 gのイーストエキストラクト( Becton, Dickison and company )、0.2 gのMgCl2・6H2O (和光純薬工業)、0.10 gのCaCl2・2H2O (和光純薬工業)、0.10 gのNaCl (和光純薬工業)、0.02 gのFeCl2・4H2O (和光純薬工業)、0.50 gの(NH4)2SO4 (和光純薬工業)を加え、pHメーターを用いてpH 7.2に調整し、1Lまでメスアップして121℃で15分間オートクレーブした。

【0031】
NP溶液:適当量のミリQ水に0.5 gの (NH4)2SO4、0.5 gのK2HPO4を加えて1Lまでメスアップし、121℃で15分間オートクレーブした。

【0032】
全ミネラル溶液:適当量のミリQ水に0.18 gのMgCl2・6H2O、0.10 gのCaCl2・2H2O、0.10 gのNaCl、0.02 gのFeCl2・4H2O、0.50 gの(NH4)2SO4 、0.50 gのK2HPO4を加えて1Lまでメスアップし、121℃で15分間オートクレーブした。

【0033】
全ミネラル溶液に含まれる成分を個別に組み合わせた溶液を作製して。酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウムについては、塩化マグネシウムと同濃度になるように調整し、適宜、(CH3COO)2・4H2O(和光純薬工業)、[CH3CH(OH)COO]2Mg・3H2O (和光純薬工業)、Mg(NO3)2・6H2O (和光純薬工業)、MgSO4 (和光純薬工業)を調整し培地に加えた。

【0034】
3.培養系の作製
まず、IB液体培地5 mlにPR4株を一白金耳摂取し、28 ℃、110 rpmで2~3日培養した。この前培養液を、15 ml溶の遠心チューブに移し変え、4℃、10,000 rpmで10分間遠心分離した。その後、上清を捨て、5 mlの滅菌ミリQ水を加え、菌体をよく懸濁した後に、ボルテックスにて十分に攪拌した。

【0035】
この懸濁液を再度4℃、10,000 rpmで10分間遠心し、上清を取り除いた。この操作を合計で6回行い菌体を洗浄した。次に、洗浄菌体を希釈し、菌体初期濃度が106cfu/mlになるように10 mlの各種培地に摂取した。最後に、アルカン類を終濃度5-10% (v/v)になるように摂取し、28℃、110 rpmで定常期になるまで培養した。

【0036】
4.顕微鏡観察
得られた培養サンプルの有機層と水層が完全に分離した後、水層と有機層を別々に、あるいは、十分に懸濁して混合液をそれぞれ採取し、プレパラート(IWAKI)に滴下し、カバーガラス(IWAKI)を載せ、それぞれを水層、有機層、混合液として用意した。

【0037】
システム生物顕微鏡(OLYMPUS BX50)のステージにサンプルを乗せ、スライドガラスにイマージョンオイルを一滴垂らし、対物レンズの倍率を100 倍にして観察した。各サンプルにつき、典型的な5視野を選択し、接続されている顕微鏡カメラ(OLYMPAS DP72)にて撮影し、画像処理ソフト(OLYMPAS DP2-BSW ver 2.1)にて解析した。

【0038】
5.結果と考察
菌体が吸着するアルカンの代表としてn-ドデカン(C12)、転移する代表としてプリスタン(C19)を用い、これらを含む二層培養系の各種培地成分を、個別または組み合わせて細胞の局在性が変化する条件の探索を試みた。IB培地の各主成分をイーストエキストラクト、グルコース、無機塩類に大別しそれぞれを個別に検討した。

【0039】
5-1.イーストエキストラクト濃度の検討
イーストエキストラクトの濃度について検討を行った。IB液体培地中のイーストエキストラクトの終濃度が1.0、0.1、0.08、0.06、0.04、0.03、0.02、0.01%、0.001% (w/v)になるように培地を調製しC12またはC19を終濃度5%(v/v)にあるように添加した二層培養系を作製して、PR4株の生育および細胞の局在性に変化が出るか否かを検討した(図1)。

【0040】
コントロールとして生育させたC12またはC19を含むIB培地ではこれまでと同様の結果を示した。イーストエキストラクトが、1%から0.03%までの間では、培養液に白濁がみられたが0.02%以下の濃度では、白濁は見られなかった。

【0041】
位相差顕微鏡で細胞の局在性を観察した結果、ドデカンを添加した0.1%から0.02% イーストエキストラクト溶液濃度の条件では、Rh-PR4の細胞が油滴の表面に吸着している様子が確認され、また、プリスタンを添加した場合にもRh-PR4細胞が油滴に転移している様子が確認された。以上の結果は、コントロールと同様の傾向であったことから、両者共に0.02%以上の条件では、細胞の局在性、即ち、細胞が炭化水素の油滴表面に吸着するか、それに転移するかの区別に影響は無いと判断した。

【0042】
一方で、0.02%以下の条件では、菌体を観察することはできなかった。このことから、PR4株が生育に必要なイーストエキストラクト濃度の限界値は0.02%であると考えられた。

【0043】
5-2.グルコース濃度の検討
続いてグルコースについて検討を行った。イーストエキストラクトを終濃度1%、グルコースの終濃度を1.0、0.1、0.08、0.06、0.04、0.02、0.01、0.001、0%になるように調整し、C12またはC19を添加した二層培養系を作製して、PR4株の生育および細胞の局在性に変化が出るか否かを検討した(図2)。その結果、培養の様子、顕微鏡観察ともに全てコントロールと同様の傾向が確認された。

【0044】
次に、イーストエキストラクトが添加されていない条件を設定し、これにグルコースを上述した条件で添加し、検討した。その結果、全ての条件で細胞の増殖を確認する事はできなかった。このことから、同菌の供試した二層培養環境下での生育には、グルコースは影響しないもものの、イーストエキストラクトが増殖に必須であることが示唆された。

【0045】
5-3.グルコース無添加時のイーストエキストラクト濃度の検討
前述のようにグルコースがPR4株の生育への影響がないことが分かったため、グルコースを添加しない条件でのイーストエキストラクト濃度の下限を検討した(図3)。その結果グルコースを添加した条件の場合と同様に、生育下限濃度が0.02%でそれ以下の条件では生育が確認できなかった。

【0046】
以上の結果、PR4株の生育に必要な成分はイーストエキストラクトで、その最低濃度は0.02%であることが明らかとなった。この時、供試した1.0、0.1、0.08、0.06、0.04、0.02%までの全ての条件で、PR4株は、C19添加の場合には転移型、C12添加の場合には吸着型を示しながら生育したことから、イーストエキストラクトおよびグルコースは、同菌の細胞の局在性に影響を与えないと判断された。

【0047】
5-4.無機塩類の検討
無機塩類について検討を行った。IB培地中に添加されている全無機塩類のみで調整した培地を作製し、これにC12またはC19を添加し、これまでと同様の条件で培養し、観察した(図4)。

【0048】
その結果、K2HPO4及び(NH4) 2SO4が含まれない全ての条件ではPR4株の生育が確認できなかったが、K2HPO4及び(NH4) 2SO4だけを含む条件ではC19、C12共に生育が確認された。
C19を添加した場合には、これまで同様、細胞が転移している様子が確認されたが、興味深いことにC12を添加した場合にも細胞が油滴の中に転移して存在している様子が確認された。

【0049】
一方で、全無機塩類を添加した場合には、PR4株は、C12に転移することなく、吸着して存在することが分かっていることから、使用した無機塩類の中に上記条件での転移を阻害している成分があると予想し、続いて、その成分を検討した。

【0050】
アルカンとしてC12、無機塩類としてK2HPO4及び(NH4)2SO4を基本とした培地に、各種無機塩をIB培地と同濃度になるようにそれぞれ添加して、PR4株のアルカンに対する局在性を確認したところ、MgCl2を添加した場合、PR4株は油滴へ転移することなく、吸着にして存在しているに過ぎないことが確認された(図5)。以上のことから、MgCl2を添加することで同菌のアルカンに対する局在性を制御できることが分かった。

【0051】
5-5.マグネシウム塩の濃度の検討
MgCl2がPR4株の炭化水素に対する局在性を変化させることに関与することが分かったので、さらに、MgCl2濃度が、細菌の局在性に及ぼす影響を検討した。IB培地のMgCl2濃度が885 mMであることから、K2HPO4及び(NH4) 2SO4の濃度を一定にした培地に、段階的に希釈したマグネシウム塩の濃度を順次低下させた培地を作製し、同菌の細胞の炭化水素に対する局在性を調べた(図6)。

【0052】
細胞の局在性を明快に転移型、吸着型のいずれかに区別できなかったので、顕微鏡写真を、吸着、一部に転移を含む吸着、一部に吸着を含む転移、転移の4つのパターンに分け、マグネシウム塩の濃度による推移に合わせて、4つのパターンの割合を検討した。

【0053】
その結果、コントロールのIB培地と同濃度の条件でも一部に転移している菌体を確認したが、MgCl2濃度の減少と共に吸着型の菌体の割合が少なくなり、全ての写真が転移型になったのは、塩化マグネシウムの濃度が88.5 nMであった。

【0054】
一方、MgCl2無添加時でも一部吸着している菌体も確認されたが、多くの菌体がC12中に転移していることが確認された。

【0055】
以上の結果、MgCl2濃度を減少させていくことにより、その局在性は転移型から吸着型へ変化する方向に向かい、その濃度が8.9 mMの付近で転移型と吸着型の割合が逆転し、それ以下の濃度では転移型の菌体の割合が多くなることが示唆された。

【0056】
また、既述の現象が塩化マグネシウムに特有な現象かどうかを検討するため、上述したK2HPO4及び(NH4)2SO4のみを含む培地に、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウムをIB倍地中の塩化マグネシウムと同濃度になるように添加し、C12存在下で局在性を検討した。その結果、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウムを添加した条件でも、塩化マグネシウムと同様に細胞はC12粒子表面に吸着して存在した。

【0057】
したがって、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等塩化マグネシウム塩以外のマグネシウム塩の濃度を制限することにより、ロドコッカス属の細菌の炭化水素に対する局在性を調整できることが分かった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5