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明細書 :歯肉上皮細胞の培養方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5598951号 (P5598951)
公開番号 特開2011-078326 (P2011-078326A)
登録日 平成26年8月22日(2014.8.22)
発行日 平成26年10月1日(2014.10.1)
公開日 平成23年4月21日(2011.4.21)
発明の名称または考案の名称 歯肉上皮細胞の培養方法
国際特許分類 C12N   5/071       (2010.01)
C12M   3/00        (2006.01)
FI C12N 5/00 202A
C12M 3/00 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 17
出願番号 特願2009-231339 (P2009-231339)
出願日 平成21年10月5日(2009.10.5)
審査請求日 平成24年9月6日(2012.9.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】山口 洋子
【氏名】大島 光宏
個別代理人の代理人 【識別番号】110000774、【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
審査官 【審査官】上條 肇
参考文献・文献 田村太一,細胞外基質がヒト歯肉上皮細胞の細胞機能に及ぼす作用,日本歯周病学会会誌,2001年,Vol.43, No.3,p.217-226
山口洋子他,IV型コラ-ゲンは初代培養ヒト歯肉上皮細胞の走化性を誘導する,日本歯周病学会学術大会プログラムおよび講演抄録集,2008年,Vol.51st,p.126
調査した分野 C12N 5/07 - 5/10
C12M 1/16
C12M 3/00
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
培養によって歯肉上皮細胞が産生したラミニン(laminin)、コラーゲン(collagen)、パールカン(perlecan)、テネイシン(tenascin)、FAD104(fibronectin type III domain containing 3B)、フィブリリン(fibrillin)、neugrin、ニドジェン(nidogen)、アグリン(agrin)、フィブロネクチン(fibronectin)のいずれかひとつ以上の細胞外マトリックスがコートされた培養器を用いて歯肉上皮細胞を培養することを特徴とする歯肉上皮細胞の培養方法。
【請求項2】
培養によって歯肉上皮細胞が産生したラミニン(laminin)、コラーゲン(collagen)、パールカン(perlecan)、テネイシン(tenascin)、FAD104(fibronectin type III domain containing 3B)、フィブリリン(fibrillin)、neugrin、ニドジェン(nidogen)、アグリン(agrin)、フィブロネクチン(fibronectin)のいずれかひとつ以上の細胞外マトリックスがコートされた培養器。
【請求項3】
請求項2に記載の培養器であって、歯肉上皮細胞を培養した後、該培養器を4℃で保存して得られる培養器または該培養器を凍結乾燥して得られる培養器。
【請求項4】
請求項2または3に記載の培養器を用いて凍結保存後の歯肉上皮細胞を再培養することを特徴とする歯肉上皮細胞の凍結保存方法。
【請求項5】
請求項1に記載の培養方法または請求項4に記載の凍結保存方法によって培養または凍結保存された歯肉上皮細胞。
【請求項6】
請求項2または3に記載の培養器または請求項に記載の歯肉上皮細胞を1つ以上含む歯肉上皮細胞培養キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は歯肉上皮細胞の培養方法、凍結保存方法および当該方法によって培養され、保存された歯肉上皮細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病や口腔粘膜疾患などの発症には、歯肉上皮細胞が深く関与していることが知られており、従来から歯肉上皮細胞を用いた研究が数多く行われてきた。しかし、歯肉上皮細胞の初代培養は技術的に困難であり、in vitroでの発症機序の解析が遅れていた。
また、歯肉上皮細胞の初代培養に成功した場合であっても継代培養が難しく、数代の継代で細胞が増殖しなくなってしまうことから、実験を終了せざるを得ないことが多かった。
そこで、株細胞を用いた研究が行われているが、株細胞は不死化しているため、生体と異なった反応を示すことが多く、より生体に近い性質を維持した歯肉上皮細胞の培養方法の提供が望まれてきた。
【0003】
歯肉上皮細胞以外の上皮細胞の培養としては、ヒト表皮角化細胞を培養するキットなどが市販されているが、vial購入時の細胞数の約150倍までの増殖しか保証されておらず、凍結保存後の増殖も補償されていないことから、継代培養によって十分な細胞数を得ることができるとはいえない。
また、基底膜細胞外基質でコートした培養皿上で羊膜由来の上皮細胞や間質細胞を培養する方法(特許文献1)や、インシュリン、トランスフェリン等を含む細胞培養基とラミニン等で皮膜された細胞基体等を用い、表皮細胞または表皮ケラチン細胞を連続継代培養する方法(特許文献2)等が開発されている。しかし、これらの培養方法では、培養後の細胞を一旦凍結保存した後、研究の進捗に応じて再度、凍結保存後の細胞を培養に用いるという、研究において必要とされる細胞の凍結保存方法については検討されていない。従って、凍結保存後であっても、増殖能を維持している上皮細胞を得ることができないという問題があった。
【0004】
そこで、本発明者らは、より生体に近い性質を維持した歯肉上皮細胞を提供できる該細胞の培養方法と、凍結保存後も増殖能を維持している歯肉上皮細胞が提供できる該細胞の凍結保存方法の提供を試みた。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2006-6249号公報
【特許文献2】特許第2577114号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、歯肉上皮細胞の培養方法および凍結保存方法の提供を課題とする。さらに当該方法によって培養され、保存された歯肉上皮細胞の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ラミニン、フィブロネクチン等の細胞外マトリックス(細胞外基質)がコートされた培養皿を使用することにより、歯肉上皮細胞の初期培養および長期的な継代培養が可能であることを見出した。本発明の培養方法では、より生体に近い性質を維持した歯肉上皮細胞を約10,000倍に増殖させることができる。また、本発明者らは、本発明の培養方法を用いて培養した歯肉上皮細胞が、液体窒素での凍結保存後も増殖能を維持し得る歯肉上皮細胞の凍結保存方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)~(7)の歯肉上皮細胞の培養方法や凍結保存方法等に関する。
(1)歯肉上皮細胞の培養において、細胞外マトリックスがコートされた培養器を用いることを特徴とする歯肉上皮細胞の培養方法。
(2)細胞外マトリックスが、ラミニン(laminin)、コラーゲン(collagen)、パールカン(perlecan)、テネイシン(tenascin)、FAD104(fibronectin type III domain containing 3B)、フィブリリン(fibrillin)、neugrin、ニドジェン(nidogen)、アグリン(agrin)、フィブロネクチン(fibronectin)のいずれかひとつ以上である上記(1)に記載の歯肉上皮細胞の培養方法。
(3)細胞外マトリックスが、歯肉上皮細胞が産生する細胞外マトリックスである上記(1)または(2)に記載の歯肉上皮細胞の培養方法。
(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載の細胞外マトリックスがコートされた歯肉上皮細胞培養用の培養器。
(5)上記(4)に記載の培養器を用いて凍結保存後の歯肉上皮細胞を再培養することを特徴とする歯肉上皮細胞の凍結保存方法。
(6)上記(1)~(3)のいずれかに記載の培養方法または上記(4)に記載の凍結保存方法によって培養または凍結保存された歯肉上皮細胞。
(7)上記(4)に記載の培養器または上記(6)に記載の歯肉上皮細胞を1つ以上含む歯肉上皮細胞培養キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明の歯肉上皮細胞の培養方法および凍結保存方法によって、大量の歯肉上皮細胞を長期間に亘って安定して入手できるため、研究の早期進展を図ることができる。また本発明の培養方法によって大量に培養される歯肉上皮細胞は、生体に近い性質を維持していることから、培養歯肉上皮シート等の原料として用いることができ、インプラントや歯周外科に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】歯肉上皮細胞が分泌した細胞外マトリックスを示した図である(試験例1)。
【図2】歯肉上皮細胞が発現した細胞外マトリックス遺伝子を示した図である(試験例1)。
【図3】歯肉上皮細胞の性質を確認した図である(試験例2)。
【図4】歯肉上皮細胞の増殖を確認した図である(試験例3)。
【図5】歯肉上皮細胞の細胞付着、増殖および形態の変化を確認した図である(試験例4)。
【図6】再々凍結保存後の歯肉上皮細胞の増殖能を確認した図である(試験例5)。
【図7】再々凍結保存後の歯肉上皮細胞の形態を確認した図である(試験例6)。
【図8】凍結乾燥後のフラスコによる歯肉上皮細胞の付着、増殖および形態の変化を確認した図である(試験例7)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の「歯肉上皮細胞の培養方法」は、細胞外マトリックスがコートされた培養器を用いて、歯肉上皮細胞の培養を行うことを特徴とする。ここで、「細胞外マトリックスがコートされた培養器」とは、培養器の歯肉上皮細胞が接着し、増殖する面に、細胞外マトリックスがコートされた培養器のことをいう。この細胞外マトリックスは、歯肉上皮細胞が増殖できる細胞外マトリックスであればいずれの細胞外マトリックスでもよい。
例えば、ラミニン(laminin)、コラーゲン(collagen)、パールカン(perlecan)、テネイシン(tenascin)、FAD104(fibronectin type III domain containing 3B)、フィブリリン(fibrillin)、neugrin、ニドジェン(nidogen)、アグリン(agrin)またはフィブロネクチン(fibronectin)等が挙げられ、これらのいずれかひとつ以上が、培養器の歯肉上皮細胞が接着し、増殖する面にコートされていればよい。

【0012】
このような培養器としては、例えば、これらの細胞外マトリックスがコートされた市販の培養器や、市販のプラスチック等の培養器に市販の細胞外マトリックスをひとつまたは複数組み合わせ、従来知られている方法によって独自にコートした培養器等が挙げられる。
また、歯肉上皮細胞を培養した後の培養器にも、歯肉上皮細胞が自ら産生した細胞外マトリックスがコートされていることから、この培養器も「細胞外マトリックスがコートされた培養器」に含まれる。
ここで、「歯肉上皮細胞が産生する細胞外マトリックス」としては、ラミニン(laminin)としてラミニン-5およびラミニン-10/11、コラーゲン(collagen)としてType V collagen、Type IV collagen、Type XIII collagen、Type XVII collagenおよびType XVIII collagen、パールカン(perlecan)、テネイシン(tenascin)としてテネイシンC、フィブリリン(fibrillin)としてフィブリリン2、neugrin、ニドジェン(nidogen)としてニドジェン-1、アグリン(agrin)またはフィブロネクチン(fibronectin)としてフィブロネクチン1等が本発明において示唆されている。

【0013】
本発明の「細胞外マトリックスがコートされた培養器」のうち、この歯肉上皮細胞が自ら産生した細胞外マトリックスがコートされた培養器は、歯肉上皮細胞を培養して、細胞を剥がした後、すぐに使用することができる。また、細胞を剥がした日を0日目として5日目までのものは、4℃で保存しておけば使用することができる。
さらに、歯肉上皮細胞を培養した後の培養器は凍結乾燥して保存したものも用いることができる。雑菌汚染等を避け、使用できる状態で保存された培養器であればどのように凍結乾燥処理され、保存されたものでも良いが、例えば、次のような手順で歯肉上皮細胞を除き、凍結乾燥処理を行い、保存したものを用いることができる。
1)通常の継代と同様にトリプシン(trypsin)-EDTA溶液を用いて細胞を剥がした後、培地を入れ、細胞浮遊液を作り、細胞浮遊液をきれいに取り除いた。
2)培地にて洗浄した後、フラスコ内の培地を丁寧に取り除いた。
3)フラスコを-80℃で30分以上凍結後、凍結乾燥機にセットし、凍結乾燥した。
4)凍結乾燥が終了したら、乾燥機から取り外し、常温で保存した。
このように凍結乾燥した培養器は、凍結乾燥後、1ヶ月~1年以上常温保存したものも使用することができる。

【0014】
本発明の「歯肉上皮細胞の凍結保存方法」とは、歯肉上皮細胞を培養できる状態で維持できる凍結保存方法であればいずれの方法も含まれる。
例えば、本発明の「歯肉上皮細胞の培養方法」で培養し、増殖した歯肉上皮細胞を培養器0.05%トリプシン(trypsin)-EDTA(GIBCO)等を加えて剥離した後、凍結保存液に懸濁し、凍結保存用のチューブに分注して、-80℃でまたは液体窒素中で保存する方法などが挙げられる。ここで用いる凍結保存液とは、歯肉上皮細胞を培養できる状態で維持できる凍結保存液であればいずれの凍結保存液であってもよく、セルバンカー1(日本全薬工業株式会社)等の市販の凍結保存液であってもよい。
このように凍結保存した後、凍結保存後の歯肉上皮細胞を再培養する場合には、従来知られているいずれの方法でも再培養を行うことができるが、例えば、-80℃で凍結保存していた歯肉上皮細胞であれば、手の体温でやや溶かした後、予め加温しておいた培養液を加えてピペッテイングしながら融解し、歯肉上皮細胞を培養した後の培養器に入れて再培養する方法等が挙げられる。

【0015】
本発明の方法によって培養され、また凍結保存された歯肉上皮細胞は、より生体に近い性質を維持していることから、歯肉上皮細胞を用いた基礎研究や、培養歯肉上皮シート等の開発のための原料等として用いることができる。
「歯肉上皮細胞培養キット」は、本発明の細胞外マトリックスがコートされた歯肉上皮細胞培養用の培養器や、本発明の培養方法または凍結保存方法によって培養または凍結保存された歯肉上皮細胞を1つ以上含むものであればいずれのものでも良いが、例えば、凍結保存した歯肉上皮細胞と細胞外マトリックスがコートされた培養器を組み合わせたものや、これらにさらに、歯肉上皮細胞の培養において必要となる培養液、細胞を培養器から剥がす際に必要となるトリプシン等を組み合わせたもの等が挙げられる。

【0016】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
<歯肉上皮細胞の培養方法>
1.歯肉上皮細胞
歯周外科手術の際に切除され、不要となった歯肉片より、Ohshimaらの方法(参考文献1)によって、ヒト歯肉上皮細胞を得た。
ヒト歯肉上皮細胞を得るにあたり歯肉片をディスパーゼ(Dispase、合同酒精)処理した後、上皮組織部分を結合組織部分から剥離した。上皮組織を細切後、組織片をプレート(I型コラーゲンコート:住友ベークライト)の底に静置し、組織片から外生した細胞を第1代として歯肉上皮細胞の培養に用いた。
参考文献1:J Periodontol 79, 912-918, 2008.
【実施例1】
【0018】
2.歯肉上皮細胞の培養方法
1)初代培養
I型コラーゲンがコートされたプレート(I型コラーゲンコート:住友ベークライト)を用い、細胞はEpi Life medium(Invitrogen)に増殖添加剤(S7、Invitrogen)および1%の抗生物質溶液(PSN、Sigma)を加えた培地(EL+)を用いて上記1.の歯肉上皮細胞を増殖させた。
【実施例1】
【0019】
2)歯肉上皮細胞の継代培養
上記1)でコンフルエントに増殖した歯肉上皮細胞を、トリプシン(trypsin)-EDTA溶液を用いてプレートから剥がし、継代培養に用いた。
歯肉上皮細胞の培養に用いたプレートは、細胞を剥がした後、培養液でフラスコを洗浄し、アスピレーターで吸引することによりプレート中の水分を可及的に取り除いた。
水分を除去した後、5日以内にこのプレートを使用する場合は4℃で保存した。それ以上の期間保存する場合は、-80℃で凍結保存、または凍結乾燥機(EDU-830、東京理化学器械株式会社)にて凍結乾燥した後、室温にて保存した。
【実施例1】
【0020】
[試験例1]
マトリックス成分の分析
実施例1、1)で歯肉上皮細胞の培養に用いたプレートに付着したと考えられる細胞外マトリックス成分を次の1)~3)の手順でWestern blotting法により確認し、歯肉上皮細胞が培養時に分泌した物質を特定した。
【実施例1】
【0021】
1.培養上清に分泌された物質の特定
1)実施例1、1)でコンフルエントに増殖した歯肉上皮細胞について、プレートから培地(EL+)を除去し、増殖添加剤フリーのEpi Life medium(Invitrogen)(+1%の抗生物質溶液(PSN、Sigma)を含む)(以下EL-と略す)で洗浄した後、 EL-にてさらに48~72時間培養を行った。
2)培養後の培養上清を取り出し、限外濾過で濃縮、蒸留水で透析して脱塩後、凍結乾燥機(EDU-830、東京理化学器械株式会社)にて凍結乾燥したものを試料とした。
3)上記2)の試料を電気泳動用サンプルバッファー(8%SDS(sodium dodecyl sulfate),0.005%ブロモフェニルブルー(bromophenol blue))に溶解した。
4)試料に含まれる培養上清中のタンパク(20μg)を非還元条件下(-DTT)で4%ポリアクリルアミドスラブゲル(polyacrylamide slab gel)で電気泳動を行った。その後,SDS-PAGEを行い、試料に含まれるタンパクをPVDF膜(Millipore)にブロットし,ブロックエース(雪印乳業)でブロッキングを行った。
5)4)でブロッキングしたPVDF膜に、一次抗体として、特異抗体(抗ラミニンα3マウスモノクローナル抗体(anti-laminin alpha3 mouse monoclonal)(横浜市立大学木原生物学研究所 宮崎香教授から分与を受けた)、抗ラミニンα5マウスモノクローナル抗体(anti-laminin alpha5 mouse monoclonal)(大阪大学蛋白質研究所 関口清俊教授、藤原裕展先生、三千典子先生から分与を受けた)、抗ラミニンγ1またはγ2マウスモノクローナル抗体(anti-laminin gamma1 or gamma2 mouse monoclonal)および抗ヒロフィブロネクチンモノクローナル抗体(anti-human fibronectin monoclonal)(Chemicon))を加えインキュベートすることで抗原抗体反応を行った。
このPVDF膜を洗浄した後、次に、二次抗体としてビオチン標識抗マウスIgG抗体(Zymed),さらにHRP標識ストレプトアビジン(KPL)を加えてインキュベートした後洗浄し,ECL法(ImmunoStar Reagent,Wako)でX線フィルム(Hyperfilm ECL,Amersham)上にバンドを検出することで、マトリックス成分を特定した。
【実施例1】
【0022】
その結果、歯肉上皮細胞が培養時に分泌した物質として、ラミニン-α3(LM-α3),ラミニン-α5(LM-α5),ラミニン-γ1(LM-γ1),ラミニン-γ2(LM-γ2)鎖およびフィブロネクチン(FN)が特定された(図1)。
ラミニンは通常3量体で分泌され、分子量が80万Daと非常に大きくなる。従って、非還元条件下のウェスタンブロッティング(Western Blotting)において、高分子領域にα3とγ2が検出されたことから、上皮細胞が分泌する典型的なラミニンである、γ2も含んだ3量体のラミニン-5(LM332)が分泌されていると推定された。また、高分子領域にα5とγ1が検出されたことから、β1またはβ2を含むラミニン-10/11(LM511/LM521)が分泌されていると推定された。
【実施例1】
【0023】
2.上皮細胞中に発現が確認された物質の特定
1)実施例1、1)でコンフルエントに増殖した歯肉上皮細胞(プレート2つ)からトライゾール・リージェント(Trizol Reagent,Invitrogen)を用いてそれぞれ全RNAを抽出した。
PrimerScriptTM RT reagent(Takara)を用いて、それぞれの歯肉上皮細胞のmRNAをcDNAに変換した後,特異的プライマーおよび内部標準としてGAPDHのプライマー(表1)(すべて終末濃度200nM)と,SYBRR Premix EX TaqTM II(TaKaRa)とでPCR master mixを作製した。
ここに20倍希釈したcDNAを加え、Thermal Cycler Dice Real Time System(TaKaRa)を用いてリアルタイム(Real-time)PCRを行った。PCR条件は,95℃30秒,その後95℃5秒,60℃30秒のサイクルを40回繰り返した。各遺伝子の発現レベルはΔΔCT法により,GAPDHの発現レベルでノーマライズして求めた。
【実施例1】
【0024】
各プライマーは、Primer Bank(表中には*で示した)およびRTPrimerDB(表中には**で示した)により検索し、SIGMA GENOSYSにオリゴ合成を依頼した(番号を表中に記載した)。また、ラミニン-α3およびラミニン-γ2は、参考文献2(表中には***で示した)より検索したものでオリゴ合成を依頼した。
Primer Bank: http://pga.mgh.harvard.edu/primerbank/index.html
RTPrimerDB: http://medgen.ugent.be/rtprimerdb/
参考文献2:S AMANO, N AKUTSU, Y OGURA, T NISHIYAMA: Increase of laminin5 synthesis in human keratinocytes by acute wound fluid, inflammatory cytokines and growth factors, and lysophospholipids, British Journal of Dermatology (2004) 151, 961-970.
【実施例1】
【0025】
【表1】
JP0005598951B2_000002t.gif
【実施例1】
【0026】
その結果、図2に示したように、各歯肉上皮細胞において、培養時に発現した物質として、ラミニン-α3(図2、LAMA3),ラミニン-α5(同LAMA5),ラミニン-β1(同LAMB1)、ラミニン-β2(同LAMB2)、ラミニン-γ1(同LAMC1)およびラミニン-γ2(同LAMC2)鎖の遺伝子発現が見られたことから、タンパクとしてラミニン-5およびラミニン-10/11が歯肉上皮細胞に発現されていると推定された。
また、COL4A1、COL4A2、COL5A1、COL13A1、COL17A1およびCOL18A1の遺伝子発現が見られたことから、タンパクとしてType V collagen、Type IV collagen、Type XIII collagen、Type XVII collagenおよびType XVIII collagenが歯肉上皮細胞に発現していると推定された。
さらにパールカン(perlecan)、テネイシンC(tenascin C)、フィブリリン2(fibrillin 2)、neugrin、ニドジェン-1(nidogen-1)、アグリン(agrin)、フィブロネクチン1(fibronectin 1)の遺伝子発現が見られたことから、タンパクとしてそれぞれが歯肉上皮細胞に発現していると推定された。また、FAD104の遺伝子発現が見られたことからfibronectin type III domain containing 3Bも発現していると推定された。
【実施例1】
【0027】
[試験例2]
歯肉上皮細胞の性質の確認
実施例1、1)で歯肉上皮細胞の培養に用いたプレートを再利用して歯肉上皮細胞の継代培養に用いた(以下、reuseとする)。比較として、I型コラーゲンがコートされた新品のプレート(I型コラーゲンコート:住友ベークライト)を歯肉上皮細胞の継代培養に用いた(以下、newとする)。
これらの歯肉上皮細胞について、上皮系幹細胞マーカーとされているp75NTRおよびES細胞の未分化能維持に重要な働きをしていることが知られている Oct3/4の発現を調べ、歯肉上皮細胞としての性質および増殖能の維持を調べた。
それぞれコンフルエントに増殖した歯肉上皮細胞(reuse(継代13代目),new(継代12代目))から上記2.(1)と同様の方法でリアルタイム(Real-time)PCRを行い、各歯肉上皮細胞中に発現が確認された物質を特定した。リアルタイム(Real-time)PCRに用いたプライマーの塩基配列は表2に示した。各プライマーは、Primer Bank(表中には*で示した)により検索し、SIGMA GENOSYSにオリゴ合成を依頼したものを用いた。また、p75NTRおよびOct3/4は、参考文献3(表中には****で示した)より検索したものでオリゴ合成を依頼した。
参考文献3:特開2007-195533号公報
【実施例1】
【0028】
【表2】
JP0005598951B2_000003t.gif
【実施例1】
【0029】
その結果、図3に示したように、p75NTRの発現が、newでは全く認められなかった。また、Oct3/4の発現量においても、reuseとnewで大きく差があった。これらの結果より、newを用いて培養した場合、reuseを用いた場合と比べて細胞の増殖能が早期に限界に達することが示唆された。
【実施例1】
【0030】
[試験例3]
細胞増殖の確認
実施例1、1)で歯肉上皮細胞の培養に用いたプレートを再利用して歯肉上皮細胞の継代培養に用いた(reuse)。比較として、I型コラーゲンがコートされた新品のプレート(I型コラーゲンコート:住友ベークライト)を歯肉上皮細胞の継代培養に用いた(new)。
各フラスコに3×105cells/25cm2ずつ歯肉上皮細胞(継代6代目)を播種し,播種時から48時間経過後の細胞をトリプシン-EDTAを用いて剥がし、細胞数を血球算定版にて計測することで、細胞増殖を比較した。
【実施例1】
【0031】
その結果、図4に示したように、3×105cells/25cm2として培養を開始した歯肉上皮細胞(継代6代目)が、reuseでは、3×105cellが3×109cells,newでは、3×105cellsが1.5×108cellsまで増えたことから、newでは約500倍に増殖したのに比べて、reuseだと約10,000倍まで増殖させることができることが確認された。
凍結融解後、reuse、newともに培養開始時に3×105cells/25cm2となるように細胞を播種し、培養開始から48時間後に細胞を剥がして細胞数を計測した。細胞数は、reuseでは5×105cells/25cm2であり、newでは2.8×105cells/25cm2であり、reuseの方が1.78倍高かった。その後、newのフラスコを継代するたびに、new とreuseにそれぞれ同じ数の細胞を播種し、細胞数を計測し、その差を算出した結果、reuseの方が1.4-1.6倍細胞付着率が高いことが確認された。また、再々凍結融解後の細胞を用いた場合でも、reuseの方が1.27倍(reuse;3.68×105cells/25cm2 new;2.88×105cells/25cm2)高かったことから、reuseのフラスコを用いると効率的に歯肉上皮細胞の培養ができることが示された。
そして、このような継代培養を繰り返すと、計算上、コンフルエントのフラスコがnewでは960個,reuseでは21600個得られることになり、reuse使用の効果はnew使用時の約23倍になることが示唆された。
【実施例1】
【0032】
[試験例4]
歯肉上皮細胞の細胞付着、増殖および形態の変化の確認
上皮細胞播種時(継代6代目(P-6)の凍結細胞融解時)をTime0として,試験例3と同様に、reuseとnewの融解後60分の細胞のフラスコへの付着状態を比較した。さらに、24および48時間後の歯肉上皮細胞の増殖状態を比較し、継代12,15,18,20代目(P-12,P-15,P-18,P-20)の細胞形態の比較も行った。
その結果、図5に示したように、reuseと比較してnewでは、60分後の付着細胞数が明らかに少ないことが、また24および48時間後における細胞増殖が、明らかに劣っていることが観察された。
また、継代数と細胞形態との関係として、reuseでは18継代目においても小型の増殖中の細胞が多く見られたのに対し、newでは15継代目ですでに増殖しない大型の細胞が増え、増殖速度が落ちていることが観察された。
【実施例2】
【0033】
<歯肉上皮細胞の凍結保存方法>
歯肉上皮細胞の凍結保存
実施例1において増殖させた歯肉上皮細胞を凍結保存した。
実施例1、1)で増殖した歯肉上皮細胞について、プレートから培地を除去した後、滅菌したPBS溶液で洗浄した後、0.05%トリプシン(trypsin)-EDTA(GIBCO)を加えてプレートから歯肉上皮細胞を剥離した。その後、セルバンカー1(日本全薬工業株式会社)を用いて作成した凍結保存液に懸濁し、凍結保存用のチューブに分注して、-80℃でまたは液体窒素中で保存した。
【実施例2】
【0034】
[試験例5]
凍結保存後の歯肉上皮細胞の増殖能の確認
上記1.の方法による凍結保存を繰り返し、再々凍結保存した歯肉上皮細胞を用いて凍結保存後の歯肉上皮細胞が増殖能を維持しているか否かを確認した。
継代12代目(P-12)で再々凍結保存(-80℃)していた歯肉上皮細胞を、手の体温でやや溶かした後、予め加温しておいた培養液を加えてピペッテイングしながら融解し、実施例1に記載の培地をreuseのフラスコに入れプレインキュベートし、これに融解した細胞を播種し、実施例1に記載の培養方法によって培養した。
その結果、図6.Aに示したように、試験例4で用いた凍結保存をしていない歯肉上皮細胞(継代6代目(P-6))と同様に増殖することが確認された。また、図6.Bに融解後24時間の歯肉上皮細胞(P-12)と、これを培養し、次の代に継代する直前(P-15,P-18,P-20)の歯肉上皮細胞の様子を示したが、いずれの代においても、reuseフラスコを使用することによって、再凍結細胞と同様に増殖できることが確認された。
【実施例2】
【0035】
[試験例6]
再々凍結保存後の歯肉上皮細胞の形態の確認
再々凍結保存後の歯肉上皮細胞の継代培養後の細胞形態を調べた。
その結果、図7に示したように、A.new(継代16代目(P-16))の歯肉上皮細胞は,肥大し、細胞膜がギザギザして形が崩れ,細胞の接着力が弱く,剥がれかけている細胞が多数観察された。一方、B.reuse(継代20代目(P-20))および試験例5で培養した再々凍結保存した歯肉上皮細胞を培養したものであるC.(継代12代目(P-12)における再々凍結融解reuse)は、いずれも肥大した細胞も見られるものの、小型の増殖期にある細胞も多数観察され、まだ増殖が続くことが予想された。
【実施例3】
【0036】
フラスコの凍結乾燥
歯肉上皮細胞を培養後のフラスコを次のような手順によって凍結乾燥した後、常温保存し、再度歯肉上皮細胞の培養に使用した。
1)通常の継代と同様にトリプシン(trypsin)-EDTA溶液を用いて細胞を剥がした後、培地を入れ、細胞浮遊液を作り、細胞浮遊液をきれいに取り除いた。
2)培地にて洗浄した後、フラスコ内の培地を丁寧に取り除いた。
3)フラスコを-80℃で30分以上凍結後、凍結乾燥機にセットし、凍結乾燥した。
4)凍結乾燥が終了したら、乾燥機から取り外し、常温で保存した。
【実施例3】
【0037】
[試験例7]
凍結乾燥後の培養器による歯肉上皮細胞の増殖
実施例3の手順により凍結乾燥後保存した、歯肉上皮細胞自身が作る細胞外マトリックス成分が付着したフラスコを歯肉上皮細胞の培養に用い、歯肉上皮細胞が増殖するか否かを確認することで、常温保存した凍結乾燥後の培養器が歯肉上皮細胞の培養に向くかどうかを検討した。
【実施例3】
【0038】
1.凍結乾燥用培養器(FD)の作成
1)歯肉上皮細胞を培養したフラスコにトリプシンを作用させて細胞を剥離した後、FD1~FD4のそれぞれの血清、凍結用細胞保存液または培養液を用いてフラスコを洗浄する以外が、実施例3と同様に凍結乾燥を行った。
FD1~FD4の組成
FD1:ウシ胎児血清(FBS)、
FD2:セルバンカー、
FD3:D-MEM/F-12、
FD4:D-MEM/F12:EL(1:1)、
FD3およびFD4は、10%FBSおよび増殖添加剤(S7、Invitrogen)を含んでいた。
【実施例3】
【0039】
2)凍結乾燥したフラスコを3日間常温で保存した後、歯肉上皮細胞の培養に用いた。
歯肉上皮細胞は、継代14代目(2009年6月13日に凍結)および継代15代目(2009年6月26日に凍結)で凍結保存していた細胞を融解し、ひとまとめにしたものを用い、1.5×105cells/25cm2となるように細胞を播種した。培養開始72時間後の増殖した細胞数を計数し、歯肉上皮細胞の増殖における凍結保存したフラスコの有効性を確認した。
3)その結果、図8A.に示したように、FD1~4のいずれの培地で洗浄し、凍結乾燥したフラスコにおいても、-80℃保存したreuseフラスコ(reuse(-80℃))を上回る良好な細胞付着および増殖を得ることができることが確認された。
また、図8B.に示したように、reuse(-80℃)と比較するとFDは1.2~1.3倍、newと比較すると1.6~1.8倍という高い増殖率を示した。上記と同様に凍結乾燥し、7日間以上室温で保存したフラスコにおいても細胞接着や増殖は良好であったことから、歯肉上皮細胞が産生する細胞外マトリックスが付着された培養器は、凍結乾燥したものであっても歯肉上皮細胞の培養に使用できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の歯肉上皮細胞の培養方法および凍結保存方法によって、長期間に亘って安定して提供される歯肉上皮細胞は、さまざまな研究に用いることができる。また、本発明で得られる歯肉上皮細胞は生体に近い性質を維持していることから、培養歯肉上皮シート等の原料として、インプラントや歯周外科に用いることができる。
図面
【図2】
0
【図4】
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【図8B】
2
【図1】
3
【図3】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
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【図8A】
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