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明細書 :金属珪化物薄膜製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5610391号 (P5610391)
公開番号 特開2012-121753 (P2012-121753A)
登録日 平成26年9月12日(2014.9.12)
発行日 平成26年10月22日(2014.10.22)
公開日 平成24年6月28日(2012.6.28)
発明の名称または考案の名称 金属珪化物薄膜製造法
国際特許分類 C01B  33/06        (2006.01)
C23C  24/04        (2006.01)
FI C01B 33/06
C23C 24/04
請求項の数または発明の数 6
全頁数 8
出願番号 特願2010-273405 (P2010-273405)
出願日 平成22年12月8日(2010.12.8)
審査請求日 平成25年12月3日(2013.12.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】吉門 進三
【氏名】佐藤 祐喜
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査官 【審査官】西山 義之
参考文献・文献 特開平10-098216(JP,A)
特開2008-060506(JP,A)
特開2000-034581(JP,A)
特開2008-243460(JP,A)
特開2005-222746(JP,A)
特開2008-288098(JP,A)
調査した分野 C01B 33/00-33/193
C23C 24/00-30/00
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
エアロゾル薄膜堆積法を用い、金属珪化物の微粒子をキャリアガスと混合してエアロゾル化したものを、常温減圧下の雰囲気で、ノズルを通じて基板に噴射し、衝撃固化現象を利用して前記微粒子を前記基板上に付着させることによって、前記金属珪化物の微粒子の結晶構造を維持した前記金属珪化物の薄膜を製造することを特徴とする金属珪化物薄膜製造法。
【請求項2】
加熱した前記基板上に、前記金属珪化物の微粒子をキャリアガスと混合してエアロゾル化したものを噴射することを特徴とする請求項1に記載の金属珪化物薄膜製造法。
【請求項3】
前記金属珪化物は、モリブデンまたはタングステンまたはタンタルまたはクロムまたはそれらの合金の珪化物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属珪化物薄膜製造法。
【請求項4】
前記金属珪化物は、正方晶の結晶構造を有する珪化モリブデンであることを特徴とする請求項1に記載の金属珪化物薄膜製造法。
【請求項5】
前記キャリアガスは、不活性ガスであることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の金属珪化物薄膜製造法。
【請求項6】
前記基板は、ITO基板またはガラス基板またはシリコン基板またはサファイア基板またはプラスチック基板であることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかに記載の金属珪化物薄膜製造法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、金属珪化物薄膜の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属珪化物、例えば、珪化モリブデン(MoSi、MoSi等)、珪化タングステン(WSi、WSi等)、珪化タンタル(TaSi等)、珪化クロム(CrSi等)あるいはそれらの合金は、金属並みの高い電気伝導性を示し、また珪素を含んでいるので、半導体デバイスの電極材料や配線材料として使用するのに適している。
【0003】
金属珪化物のなかでも、MoSiは、常温で最も高い導電率を有し、融点も約2030℃と高く、また高い化学的安定性を有することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。この場合、MoSiは、他の金属珪化物と同様、その結晶構造により抵抗率や耐酸化性能が異なり、実用上、正方晶が最も良好な特性を示す。
したがって、半導体デバイスへの応用にあたり、MoSi等の金属珪化物の正方晶の薄膜を形成することが重要である。
【0004】
ところで、従来技術においては、MoSi等の金属珪化物の正方晶の薄膜を製造するには、1000℃の基板加熱を行って、金属MoとSiとを共スパッタ法で成膜する方法等があるが、いずれの方法においても1000℃近い高温での処理が必要であった。しかし、高温処理を行うと、焼き縮みに起因して熱的な相互拡散や剥離が生じ、このため、熱膨張係数の大きく異なる低融点の金属やガラス、プラスチックとの複合化、集積化が妨げられ、半導体デバイスの高性能化や軽量化が困難になるという問題があった。
【0005】
このため、常温程度の低温度でMoSi等の金属珪化物の正方晶の薄膜を製造する方法が切望されてきているが、これまでに常温下で正方晶の薄膜を製造することに成功した例はなかった。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】望月徹、「VLSIのゲート及び配線電極としてのモリブデンシリサイド」、静岡大学大学院電子科学研究科研究報告、1986年3月15日、第7巻、p.45-47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、金属珪化物の正方晶の薄膜を常温下で製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、エアロゾル薄膜堆積法(Aerosol Deposition Method、AD法)を用い、金属珪化物の微粒子をキャリアガスと混合してエアロゾル化したものを、常温減圧下の雰囲気で、ノズルを通じて基板に噴射し、衝撃固化現象を利用して前記微粒子を前記基板上に付着させることによって、前記金属珪化物の微粒子の結晶構造を維持した前記金属珪化物の薄膜を製造することを特徴とする金属珪化物薄膜製造法としたものである。
【0009】
上記構成において、加熱した前記基板上に、前記金属珪化物の微粒子をキャリアガスと混合してエアロゾル化したものを噴射することが好ましい。
前記金属珪化物としては、モリブデンまたはタングステンまたはタンタルまたはクロムまたはそれらの合金の珪化物を用いること、特に、正方晶の結晶構造を有する珪化モリブデンを用いることが好ましい。
また、上記構成において、前記キャリアガスは、不活性ガスであることが好ましく、また、前記基板は、ITO基板またはガラス基板またはシリコン基板またはサファイア基板またはプラスチック基板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エアロゾル薄膜堆積法(AD法)を用いて、常温下で、原料の金属珪化物微粒子の結晶構造を維持した緻密な金属珪化物の薄膜を基板上に堆積させることができ、それによって、原料として正方晶の金属珪化物微粒子を用い、常温下で、金属珪化物の正方晶の薄膜を製造することができる
したがって、熱に弱い材料を基板として用いることが可能になり、電子回路基板に直接電子部品を埋め込み、小型集積化を実現することができる。この場合、抵抗率の低い珪化モリブデンの正方晶の薄膜を、Si系の半導体デバイスの電極材料や配線材料として用いると、接触抵抗を小さくすることができ、オーミックコンタクトも容易に実現できる。
【0011】
また、本発明によれば、ノズルの形状や寸法等を調節することによって、微細パターンの薄膜を製造することができるので、常温下で、マスクレスの配線パターンが容易に得られる。
また、本発明により製造された金属珪化物の薄膜は、ナノオーダーの結晶構造をもつため、高き透明性を有しているので、光通信用デバイスへの応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による金属珪化物薄膜製造法を実施するのに適したエアロゾル成膜装置の一例の全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明の方法によって製造されたMoSi薄膜のX線回折図である。
【図3】MoSi薄膜堆積時の基板温度と、得られたMoSi薄膜の抵抗率との関係を示すグラフである。
【図4】MoSi薄膜堆積後の基板の熱処理温度と、得られたMoSi薄膜の抵抗率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施例について説明する。
本発明によれば、エアロゾル薄膜堆積法(Aerosol Deposition Method、AD法)を用いて金属珪化物薄膜が製造される。AD法においては、公知のエアロゾル成膜装置が使用される。図1は、エアロゾル成膜装置の一例の全体構成を示す概略図である。

【0014】
図1を参照して、エアロゾル成膜装置は、成膜チャンバ1を備えている。成膜チャンバ1の上壁内面には、基板4を支持、固定するためのXYステージ2が取り付けられ、成膜チャンバ1の内部には、XYステージ2に固定された基板4に向けてエアロゾルを噴射するためのスリット状のノズル3が配置される。ノズル3は、上向き状態で、(図示されない)適当な支持手段を介して、成膜チャンバ1の壁に固定されている。XYステージ2およびノズル3間の距離は調節可能になっている。また、図示されないが、XYステージ2には、基板4を加熱するための加熱手段が備えられている。
成膜チャンバ1の内部は、真空ポンプ(メカニカルブースタポンプ5およびロータリポンプ6)によって減圧され得る。

【0015】
エアロゾル成膜装置は、また、エアロゾル化チャンバ7と、エアロゾル化チャンバ7がその上に置かれた振動台8と、巻き上げガスノズル9と、圧力調整ガスノズル10とを備えている。エアロゾル化チャンバ7には、エアロゾル輸送管11の一端が接続され、エアロゾル輸送管11の他端は、成膜チャンバ1のノズル3に接続される。
エアロゾル化チャンバ7には、ガス供給管13を通じてキャリアガスが供給される。ガス供給管13は、途中で2本に分岐している(13a、13b)。分岐管13a、13bには、それぞれ、マスフローメータ10a、10bが設けられる。

【0016】
巻き上げガスノズル9は、ガスボンベ12からガス供給管13、13aを通じて供給されるキャリアガスを、エアロゾル化チャンバ7内に導入することにより、サイクロン流を生成する。それによって、エアロゾル化チャンバ7内に配置された原料となる微粒子15が巻き上げられて分散し、エアロゾルが生成される。
圧力調整ガスノズル10は、ガスボンベ12からガス供給管13、13bを通じて供給されるキャリアガスを、エアロゾル化チャンバ7内に導入することにより、エアロゾル化チャンバ7内のガス圧を調節する。それによって、エアロゾル化チャンバ7内および成膜チャンバ1内の圧力差が調節される。

【0017】
そして、原料となる微粒子15が、エアロゾル化チャンバ7内でガスと攪拌、混合されてエアロゾル化され、微粒子15は、エアロゾル化チャンバ7および成膜チャンバ1間の圧力差によって生じるガス流により、エアロゾル輸送管11を通じて成膜チャンバ1に輸送され、スリット状のノズル3を通して加速され、基板4に向けて噴射される。ガス搬送された微粒子は、1mm以下の微小開口のノズル3を通すことで、数百m/secまで容易に加速される。微粒子15の基板4への噴射の間に、XYステージ2によって基板4が所定のタイミングで1軸方向に動かされ、基板4上に成膜がなされる。

【0018】
本発明によれば、まず、基板が洗浄される。基板としては、公知の適当なもの、例えば、ITO基板またはガラス基板またはシリコン基板またはサファイア基板またはプラスチック基板が使用され得る。洗浄は、使用される基板との組み合わせで適当な洗浄液(例えば、純水、エタノール、アセトン等)を用いて実行される。

【0019】
次いで、金属珪化物の微粒子(正方晶の結晶構造を有する)が、ホットプレート等を用いて加熱乾燥される。使用される金属珪化物は、特に限定されないが、好ましくは、モリブデンまたはタングステンまたはタンタルまたはクロムまたはそれらの合金の珪化物である。
そして、加熱乾燥した金属珪化物の微粒子が、エアロゾル成膜装置のエアロゾル化チャンバ7内に投入される。このとき、エアロゾル成膜装置作動時のエアロゾルエアロゾル化チャンバ7内のエアロゾル化を促進すべく、加熱乾燥した金属珪化物の微粒子と共に、それと同量のガラスビーズがエアロゾル化チャンバ内に投入されることが好ましい。

【0020】
また、成膜チャンバ1のXYステージ2には、基板4が取り付けられる。使用される基板4の種類は特に限定されず、例えば、ITO基板またはガラス基板またはシリコン基板またはサファイア基板またはプラスチック基板が用いられ得る。そして、基板4およびノズル3間の距離と、ノズル3のスリットの間隙とが調節された後、真空ポンプ5、6によって、成膜チャンバ1が所定の圧力になるまで減圧される。
さらに、XYステージ2の(図示されない)加熱手段によって基板4が加熱される。また、振動台8が作動せしめられ、エアロゾル化チャンバ7を振動させる。

【0021】
その後、ガスボンベ12から、キャリアガスがガス供給管13、13aおよび13、13bを通じてエアロゾル化チャンバ7に供給される。このとき、マスフローメータ14a、14bによってガス供給量が制御され、エアロゾル化チャンバ7および成膜チャンバ1間に所定の圧力差が生じるように設定される。

【0022】
こうして、微粒子15が、エアロゾル化チャンバ7内でガスと攪拌、混合されてエアロゾル化され、エアロゾル輸送管11を通じて成膜チャンバ1に輸送され、ノズル3を通して加速され、基板4に向けて噴射される。また、微粒子15の基板4への噴射の間に、XYステージ2によって基板4が所定のタイミングで1軸方向に動かされる。

【0023】
このとき、基板4に高速で衝突した微粒子15は、常温下において、衝撃固化現象によって基板4上に付着し、あるいは微粒子15同士で互いに付着し、それによって、基板4上には、金属珪化物の高密度の膜が堆積する。この金属珪化物の薄膜は、原料の微粒子15の結晶構造(正方晶)を維持している。

【0024】
[実験]
図1に示したエアロゾル成膜装置を用いてMoSiの薄膜を製造した。
原料となるMoSiの微粒子15として、日本新金属製のMoSi微粉末(MoSi‐F、平均粒度2.0~5.0μm)を使用し、基板4として、Water Works製のサファイア基板(α‐Al単結晶、面方位C面(0001)、off方位A軸0.2±0.05°、厚さ430.00±25.00μm)を3枚(以下、「基板No.1」、「基板No.2」、「基板No.3」とする。)使用した。

【0025】
3枚の基板No.1~No.3をアセトン、エタノールの順にそれぞれ5分間洗浄した。そして、まず、基板No.1をエアロゾル成膜装置のXYステージ2に固定し、ノズル3およびサファイア基板4間の距離を10mmに設定し、ノズル3のスリットの間隙を3×0.3mmに設定した。
また、ホットプレートを用いて、30gのMoSiの微粒子15を、200℃で2時間加熱し、乾燥させた。得られたMoSi微粒子30gを、それと同量のガラスビーズ(平均粒径1mm)と共にエアロゾル化チャンバ7に投入し、振動台8を作動させて、エアロゾル化チャンバ7を振動させた。

【0026】
その後、成膜チャンバ1を真空ポンプ5、6によって10Pa以下に減圧した。次いで、ガスボンベ12からキャリアガスとして窒素ガスを供給し、マスフローメータ14aのガス流速が10L/min、マスフローメータ14bのガス流速が1L/minとなるようにガス供給量を制御し、MoSi微粒子を基板No.1に噴射した。それと同時に、基板No.1を1軸方向に10mm幅で20往復させ、基板No.1上に、3×10mmのMoSi膜を成膜した。
なお、MoSi微粒子を基板No.1上に堆積させている間の成膜チャンバ1内の温度は、常温(25℃)であった。

【0027】
次に、基板No.2をエアロゾル成膜装置のXYステージ2に固定し、基板No.2の温度を100℃に維持した状態でMoSi微粒子を堆積させた点を除き、基板No.1の場合と同じ成膜条件で、基板No.2上にMoSi膜を成膜した。
次に、基板No.3をエアロゾル成膜装置のXYステージ2に固定し、基板No.3の温度を200℃に維持した状態でMoSi微粒子を堆積させた点を除き、基板No.1の場合と同じ成膜条件で、基板No.3上にMoSi膜を成膜した。

【0028】
こうして得られた、MoSi薄膜を有する各基板No.1~No.3をX線回折した。また、比較のために、原料のMoSi微粒子についてもX線回折を行った。それらのX線回折図を図2に示す。図2に示すように、基板No.1~No.3のいずれについても、原料のMoSi微粒子と同様のX線回折パターンとなっている。このことから、MoSi微粒子の堆積時の基板温度とは無関係に、基板上に形成されたMoSi薄膜は、原料のMoSi微粒子の結晶構造を維持していることがわかった。

【0029】
次に、各基板No.1~No.3について、その上に堆積されたMoSi薄膜の抵抗率を、四探針法により測定した。測定結果を図3のグラフに示す。図3のグラフからわかるように、MoSi微粒子の堆積時の基板温度が上がるにつれて、得られるMoSi薄膜の抵抗率は指数関数的に減少する。こうして、本発明によれば、従来のスパッタ法によるMoSi薄膜製造時に必要な基板温度(500℃以上)よりもはるかに低い温度(200℃程度)で、極めて小さい値の抵抗率を実現することができる。

【0030】
なお、MoSi薄膜堆積後の基板の熱処理温度が、得られたMoSi薄膜の抵抗率に影響を及ぼすが否かを確認すべく、基板No.1と同じ基板を4枚準備し、4枚の基板について、それぞれ、基板No.1の場合と同じ成膜条件でMoSiを成膜した後、真空中で、200℃、400℃、500℃、600℃で所定時間加熱し、加熱処理後のMoSi薄膜の抵抗率を、四探針法により測定した。測定結果を図4のグラフに示す。図4のグラフから、MoSi薄膜堆積後の基板を熱処理しても、得られたMoSi薄膜の抵抗率に殆ど影響を及ぼさないことがわかった。
【符号の説明】
【0031】
1 成膜チャンバ
2 XYステージ
3 ノズル
4 基板
5 メカニカルブースタポンプ
6 ロータリポンプ
7 エアロゾル化チャンバ
8 振動台
9 巻き上げガスノズル
10 圧力調整ガスノズル
11 エアロゾル輸送管
12 ガスボンベ
13、13a、13b ガス供給管
14a、14b マスフローメータ
15 原料となる微粒子
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3