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明細書 :包接錯体結晶材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5561780号 (P5561780)
公開番号 特開2012-092229 (P2012-092229A)
登録日 平成26年6月20日(2014.6.20)
発行日 平成26年7月30日(2014.7.30)
公開日 平成24年5月17日(2012.5.17)
発明の名称または考案の名称 包接錯体結晶材料
国際特許分類 C08B  37/16        (2006.01)
C09B  67/08        (2006.01)
C07D 487/22        (2006.01)
G02B   1/02        (2006.01)
FI C08B 37/16
C09B 67/08 CSPC
C07D 487/22
G02B 1/02
請求項の数または発明の数 5
全頁数 12
出願番号 特願2010-240977 (P2010-240977)
出願日 平成22年10月27日(2010.10.27)
審査請求日 平成24年9月21日(2012.9.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】596134367
【氏名又は名称】公益財団法人九州先端科学技術研究所
発明者または考案者 【氏名】新海 征治
【氏名】土屋 陽一
【氏名】白木 智丈
個別代理人の代理人 【識別番号】100099634、【弁理士】、【氏名又は名称】平井 安雄
【識別番号】100087675、【弁理士】、【氏名又は名称】筒井 知
審査官 【審査官】伊藤 幸司
参考文献・文献 特開2004-022424(JP,A)
特開2003-217692(JP,A)
特開2005-98963(JP,A)
調査した分野 C08B
C07D
C09B
G02B
CAPLUS/REGISTRY(STN)
JSTPLUS(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
π平面を有する色素であるポルフィリンをゲスト色素分子とし、グルコースユニットが7であるβシクロデキストリンまたはその誘導体をホスト分子とする包接錯体から成り、1分子の前記ゲスト色素分子が2分子の前記βシクロデキストリンまたはその誘導体によりカプセルされたバイキャップ構造を基本単位とし前記ゲスト色素分子が会合することなく配列した結晶構造を有する結晶材料を製造する方法であって、
前記ゲスト色素分子と前記ホスト分子からなる包接錯体の水溶液を調製する工程、および
前記包接錯体の水溶液を100℃以下の温度に静置して前記包接錯体を結晶化する工程を含み、
前記包接錯体の水溶液の調製工程が、
(1)ゲスト色素分子であるポルフィリンが酸性下で水に溶解する場合は、該ゲスト色素分子を酸性水溶液に溶解させ、該ゲスト色素分子に対して等量以上のホスト分子の共存下に、該水溶液を中性または弱塩基性にすることにより包接錯体の水溶液を得るか、
(2)ゲスト色素分子であるポルフィリンが塩基性下で水に溶解する場合は、該ゲスト色素分子を塩基性水溶液に溶解させ、該ゲスト色素分子に対して等量以上のホスト分子の共存下に、該水溶液を中性または弱酸性にすることにより包接錯体の水溶液を得るか、
(3)ゲスト色素分子であるポルフィリンが高い水溶性を有する場合は、該ゲスト色素分子を水に溶解させ、該ゲスト色素分子に対して等量以上のホスト分子の共存下に、塩を添加することにより包接錯体の水溶液を得るか、または
(4)ゲスト色素分子であるポルフィリンの疎水性が高く水に溶解しない場合は、該ゲスト色素分子とホスト分子を該ゲスト色素分子に対して等量以上のホスト分子の比率で固体状態で混合してコンプレックスを形成させた後に、水に溶解させることにより包接錯体の水溶液を得る、
ことを特徴とする結晶材料の製造方法。
【請求項2】
前記包接錯体の水溶液の調製工程において、(1)ゲスト色素分子として、酸性下で水に溶解するポルフィリンであるテトラキス(4-ピリジル)ポルフィリンを用いるか、(2)ゲスト色素分子として、塩基性下で水に溶解するポルフィリンであるテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリンを用いるか、(3)ゲスト色素分子として、高い水溶性を有するポルフィリンであるテトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリンを用いるか、または(4)ゲスト色素分子として、疎水性が高く水に溶解しないポルフィリンであるテトラフェニルポルフィリンもしくはNiイオンに配位したテトラフェニルポルフィリンを用いる、請求項1に記載の結晶材料の製造方法。
【請求項3】
ホスト分子として、2,3,6-トリ-O-メチルβシクロデキストリンを用いる、請求項1または2に記載の結晶材料の製造方法。
【請求項4】
ゲスト色素分子として、テトラキス(4-ピリジル)ポルフィリンを用いる、請求項1~3のいずれか1項に記載の結晶材料の製造方法。
【請求項5】
π平面を有する色素であるポルフィリンをゲスト色素分子とし、βシクロデキストリンまたはその誘導体をホスト分子とする包接錯体から成り、1分子の前記ゲスト色素分子が2分子の前記βシクロデキストリンまたはその誘導体によりカプセルされたバイキャップ構造を基本単位とし前記ゲスト色素分子が会合することなく配列した結晶構造を有する結晶材料であって、ゲスト色素分子であるポルフィリンが、テトラキス(4-ピリジル)ポルフィリンであり、ホスト分子が、2,3,6-トリ-O-メチルβシクロデキストリンであることを特徴とする結晶材料。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な結晶(性)材料に関し、特に、光学、電気化学または光電気化学などの分野において機能性材料としての応用が期待される包接錯体からなる結晶材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高効率な光-電気エネルギー変換に基づく光電変換素子やEL素子などを目指して、色素分子を配列することによる光捕集や電荷分離などのシステムが数多く構築されている。多くの場合、このような超分子システムの構築には、精密かつ多段階の合成を必要とし、コストが高くなることが実用面での問題である。また、構築した超分子システムを固体デバイスとして利用するために、自己組織化法やラングミュアー-ブロジェット法などの成膜手法を用いて電極表面に集積すると、色素分子の会合によってシステムの性能が低下してしまうことが多い。そのため、溶液中での物性評価において良い値を示す、光捕集系や電荷分離システムを構築した場合でも、固体デバイスとして展開した際の高性能化に繋がりにくいという問題がある。
【0003】
この問題を解決する手法のひとつに、シクロデキストリンやカリックスアレーンに代表される大環状化合物をホストとし、色素をゲストとする包接錯体を形成する方法がある。包接錯体を形成させることによって色素を孤立化し、色素分子同士の会合を抑制することで色素の持つ本来の光機能を引き出すことができる(特許文献1)。しかし、このような系では、色素分子間の会合と色素-ホスト化合物との相互作用の競争となるため、平衡を偏らせるために大過剰のホスト化合物を溶液中に溶解させた、湿式デバイスとする必要がある。
【0004】
水溶性ホスト化合物として汎用されているシクロデキストリン類は、様々な化合物との包接錯体の形成が試みられており、その相互作用や様式については、非常に多くの報告例がある(例えば、非特許文献1)。これらの研究の多くは溶液中において研究されているが、いくつかの包接錯体については包接結晶として固体で取り出され、その構造について詳しく議論されている。この事実は、色素包接錯体を非湿式材料として利用できる可能性を示唆している。しかし、ポルフィリンに代表される大きなπ平面を有する色素と、シクロデキストリン誘導体の包接錯体については、溶液中において詳細に検討されている(非特許文献2)にもかかわらず、包接錯体結晶の作成に成功した例は知られていない。
【0005】
これは、ポルフィリンやフタロシアニン、ナフタレンジイミドに例示される大きなπ平面を有する色素は、その電気化学的特性や蛍光特性などが非常に優れている一方、色素自身の会合性も非常に高いために、結晶化する際に錯体の形成と色素会合体の形成が競争してしまうため、単一の結晶(単結晶:完全結晶)として取り出すことが困難なことによる。そのため、これらの大きなπ平面を有する色素を用いる場合は、嵩高い置換基を導入することで、会合を抑制する方法がとられてきた。しかし、この方法は、合成ステップ数の増加や、結晶性の低下、自己組織化膜の不安定性と集積密度の低下を招く一因となり、根本的な解決手段になっていない。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2004-022424ホスト-ゲスト錯体を含有する光電変換素子
【0007】

【非特許文献1】Cyclodextrin and Their Complexes; H. Dodziuk, Ed.; Wiley-VCH,Weinheim, 2006.
【非特許文献2】K. Kano et al., J. Org. Chem., 2005, 70, 3667-3673.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した問題を解決すべく、ホスト化合物を用いて大きなπ共役系を有する色素分子が会合することなく孤立して配列(配向・配列)した包接錯体からなる結晶材料を簡易に得ることのできる新しい技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、高い会合性を示す大きなπ共役平面を有する色素を、安定に分散した包接結晶を与える為に最適な包接錯体溶液の調製条件および結晶の成長条件を見出し、その包接錯体の単結晶を得、構造を特定し、その単結晶の構造に由来する特徴的な物性を見出すことに成功した。即ち、本発明は、
(1)π共役平面を有する会合性色素の包接錯体結晶
(2)π共役平面を有する会合性色素の包接錯体結晶の作成手法(製造方法)、および
(3)π共役平面を有する会合性色素の包接錯体結晶に特徴的な構造に由来する光、光電気化学、電気化学などの分野における材料応用に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大きなπ共役平面を有する会合性色素が、ホスト化合物によって孤立化され、一定の方向に整然と配列(配向・配列)した固体材料が得られる。得られた材料は、その色素の配列構造に由来する光学、電気化学、光電気化学特性を有し、これまでにない新しい機能性材料を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に従う包接錯体結晶に用いた化合物の構造と略号を例示する。
【図2】本発明に従う包接錯体結晶のX線結晶構造解析による結晶構造を例示する;(a)単位格子、(b)111面、(c)a軸沿い。
【図3】本発明に従う包接錯体結晶の顕微鏡像を例示する:(a)透過像、(b)蛍光像、(c),(d)偏光像。
【図4】本発明に従う包接錯体(水溶液・固体)の発光スペクトルをポルフィリン単体と比較して示す。
【図5】本発明に従う包接錯体の結晶構造の上方図を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に従う包接錯体は、シクロデキストリンまたはその誘導体をホスト分子とする。この包接錯体におけるゲスト分子としての色素はホスト分子の空孔に合致するものであれば、基本的にはいずれでもよい。大きさの合致する組み合わせとしては、グルコースユニットが6であるαシクロデキストリンまたはその誘導体では、アルキル鎖や芳香環、グルコースユニットが7であるβシクロデキストリンまたはその誘導体では、芳香環の複環構造やポルフィリン、フタロシアニン、ナフタレンジイミド、カロテノイド、グルコースユニットが8であるγシクロデキストリンまたはその誘導体では、ポルフィリン、ナフタロシアニン、フラーレン類等が例として挙げられる。

【0013】
ゲストとなる色素としてより具体的な好ましい例としては、基本骨格としてポルフィリン、N混乱ポルフィリン、多環ポルフィリン、メソメソ連結ポルフィリン等のポルフィリン系色素;フタロシアニン、ナフタロシアニン等のフタロシアニン系色素;ナフタレンジイミド、ペリレンジイミド等のナフタレンテトラカルボン酸ジイミド系色素;βカロチン、リコピン、アスタキサンチン等のカロテノイド系色素等が挙げられる。

【0014】
シクロデキストリンの空孔を貫通する部位は結晶形状に影響を及ぼすものの、結晶の形成に対してはそれほど強く影響はない。これは、結晶化のドライビングフォースがシクロデキストリンの糖骨格の脱溶媒和によって疎水性が強く発現することに寄るからである(非特許文献1)。即ち、ゲスト色素分子がホストによる包接に影響を及ぼさない範囲でアルキル鎖や芳香環などの官能基によって誘導体化されることは、本発明を制限するに当たらない。

【0015】
また、ポルフィリンやフタロシアニンなどの中心部位に金属イオンの配位したメタロポルフィリン色素やメタロフタロシアニン色素などは、中心金属がホスト化合物との包接錯体形成に影響を及ぼさないことが一般に知られている。即ち、色素中心部位に金属イオンが配位した色素化合物も本発明に従うゲストとして使用でき、本発明を制限するには当たらない。

【0016】
したがって、以上に例示した色素の誘導体、類縁体、金属錯体も特に制限するものではなく、本発明に従う包接錯体におけるゲストとして使用できる。例えば、ポルフィリンについてはメソ位の置換基としてメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ピリジル基、チエニル基、ピロリル基、ナフチル基等のアリル基等で置換されたものが挙げられる。また、これらの置換基がさらにメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、などのアルキル基、フェニル基、ピリジル基、チエニル基、ピロリル基、ナフチル基、などのアリル基、メトキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基など、等の官能基によって修飾されることや、1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム、アミド化合物、カルボニル化合物、エステル化合物、エーテル化合物、ハロゲン化物等の誘導体となることも特に限定されない。加えて、4つのメソ位に関してこれらの置換基の数や種類、組み合わせについても限定されない。
また、如上のゲスト色素分子が鉄、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、金、銀、白金、ルテニウム、マンガン等の金属イオンと錯体を形成することについても特に限定されない。

【0017】
他方、本発明に従う包接錯体結晶に用いられるホスト化合物は、シクロデキストリンおよびその誘導体であれば何れでもよく、ゲスト分子に対して高い会合定数を示すものを選択する。シクロデキストリンを構成するグルコースの一部またはすべての2位、3位、6位の水酸基について、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基やアセチル基等によって修飾されることや、1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム、アミド化合物、カルボニル化合物、エステル化合物、エーテル化合物、ハロゲン化物、カルボン酸等に誘導されることも特に限定されず、シクロデキストリンの誘導体として使用できる。好ましい例としてゲスト分子がテトラキスアリルポルフィリンの場合は2,3,6-トリ-O-メチルβシクロデキストリン(以下、TMβCDと略すことがある)や2,3-ジ-O-メチルβシクロデキストリン等が挙げられるが、これに限定されるものではない。

【0018】
本発明に従えば、煩雑な工程を要することなく、以上に述べたような包接錯体の結晶(単結晶)を製造することができる。即ち、本発明は、ゲスト色素分子とホスト分子からなる包接錯体の水溶液を調製し、その包接錯体の水溶液を100℃以下の温度に静置して包接錯体を結晶化するという簡易な工程から成る包接錯体結晶材料の製造方法も提供する。
ここで、本発明者は、既述したように大きなπ共役平面を有し高い会合性を示す色素から、包接錯体の単結晶を得ることのできる最適な包接錯体溶液の調製条件および結晶の成長条件を見出して本発明を導き出した。

【0019】
すなわち、本発明者は、結晶形成時に色素間の会合を防ぎ、安定に結晶を得るためには、ホスト分子とゲスト色素分子の水溶液中での疎水性相互作用を高めることが重要であることを見出した。具体的には、ゲスト色素分子の疎水性をpH調整などによって強めることが、包接結晶を安定かつ大量に調製する鍵である。また、ゲスト色素分子の親水性が非常に強く、溶液のpH調整でも十分な疎水性を得られない場合でも、塩添加によるイオン強度の調整(イオン化の抑制や脱溶剤和)によって補うことが可能である。一方、疎水性が強く、水に溶解しない色素分子をゲスト分子として用いる場合には、固体間によるプレ抽出処理を行うことで、結晶を作成するために適当な濃度の包接錯体水溶液を得ることができる。

【0020】
かくして、本発明に従えば、ゲスト色素分子の水溶性や疎水性の程度に応じて、下記の(1)~(4)のいずれかの手段により包接錯体の水溶液を調製する。
(1)ゲスト色素分子が酸性下で水に溶解する場合は、ゲスト色素分子を酸性水溶液に溶解させ、該ゲスト色素分子に対して等量(等モル)以上、好ましくは4当量以上のホスト分子の共存下に、該水溶液を中性または弱塩基性にすることにより包接錯体の水溶液を得る。
このように溶液のpHを調整することにより、水溶液中でのホスト分子とゲスト色素分子の間の疎水性相互作用が高められて包接錯体が安定に分散した水溶液を調製することができる。当初に酸性水溶液にするには、例えば、塩酸などを用い、その後、水溶液を中性または弱塩基性にするには、例えば、飽和重曹水などを用いる。

【0021】
(2)ゲスト色素分子が塩基性下で水に溶解する場合は、ゲスト色素分子を塩基性水溶液に溶解させ、該ゲスト色素分子に対して等量以上、好ましくは4当量以上のホスト分子の共存下に、該水溶液を中性または弱酸性にすることにより包接錯体の水溶液を得る。
このように溶液のpHを調整することにより、水溶液中でのホスト分子とゲスト色素分子の間の疎水性相互作用が高められて包接錯体が安定に分散した水溶液を調製することができる。当初に塩基性水溶液にするには、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用い、その後、水溶液を中性または弱酸性にするには、例えば、塩酸などを用いる。

【0022】
(3)ゲスト色素分子が高い水溶性を有する場合は、ゲスト分子を水(少量の水)に溶解させ、該ゲスト色素分子に対して等量以上、好ましくは4当量以上のホスト分子の共存下に、塩を添加することにより包接錯体の水溶液を得る。
このように溶液のイオン強度を調整することにより、水溶液中でのホスト分子とゲスト色素分子の間の疎水性相互作用が高められて包接錯体が安定に分散した水溶液を調製することができる。塩を添加する手段としては、例えば、飽和食塩水を用いる。

【0023】
(4)ゲスト色素分子の疎水性が高く水に溶解しない場合は、ゲスト色素分子とホスト分子を該ゲスト色素分子に対して等量以上、好ましくは4当量以上の比率で固体状態で混合してコンプレックスを形成させた後に、水に溶解させることにより包接錯体の水溶液を得る。
混合には、従来から知られた各種の手段が適用でき、例えば、小規模の場合に乳鉢で擂るなどの手段の他、効率的な手段としてボールミルと高速振とう粉砕機を用いることなどが挙げられる。混合の時間と力加減は、得ようとする包接錯体水溶液の濃度に依存する。

【0024】
上記の(1)~(4)のいずれかの場合においても、包接錯体水溶液の最終濃度は、一般に、5mMまたはそれ以上が好ましい。得られた包接錯体溶液は、適当な濾過手段(例
えば、0.5μmポアのメンブレンフィルター)に供して、錯化されなかったゲスト分子を取り除く。

【0025】
本発明に従えば、以上のようにして得られた包接錯体の水溶液を温和な条件下に静置するという簡単な操作により、所望の包接錯体の結晶が得られる。結晶化のための静置操作の温度は、一般に、100℃以下であり、好ましくは45~80℃、例えば、50℃程度である。静置操作は、一般に、一定温度に設定された恒温器中に包接錯体水溶液を入れて、少なくとも2日間、好ましくは3~4日間行われる。

【0026】
以上のようにして、本発明に従えば、ゲスト色素分子の疎水性や水溶性の程度に応じて、包接錯体が安定に分散した包接錯体水溶液を調製することができ、この水溶液から包接錯体の結晶(単結晶)を得ることができる。ゲスト色素分子として、ポルフィリンについて例示すれば、酸性下に水溶性のものとしてテトラキス(4-ピリジル)ポルフィリン(以下、TPyPと略す)等、塩基性下で水溶性を示すものとして、テトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン(以下、TCPPと略す)等、高い水溶性を有するポルフィリンとしてテトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリン(TSPP)等が挙げられ、また、疎水性のポルフィリンとしてテトラフェニルポルフィリン(以下、TPPと略す)等が挙げられ、これらのいずれのタイプのゲスト色素分子からでも包接錯体の結晶を製造することができる。

【0027】
以上のようにして得られる本発明の包接錯体結晶(結晶材料)は、一般に、ゲスト分子となる色素分子の1分子がホスト分子となるシクロデキストリンまたはその誘導体の2分子によりカプセルされた構造(バイキャップ構造)を基本単位とする。そして、結晶中、色素分子は互いに会合することなく一定方向に配列(配列・配向)している。

【0028】
このような特徴的な構造に因り、本発明の包接錯体結晶は、結晶そのものが全体として光学系ないしは(光)エネルギー移動系のように挙動するため、各種の分野での応用が期待される。
例えば、TPyPとTMβCDの包接錯体からなる本発明の包接錯体結晶は、蛍光を発するとともに、直線偏光発光材料であり、さらに、円偏光発光材料としても有用であることが見出されている(後述の実施例参照)。このように、本発明の包接錯体結晶は、その偏光、発光、直線偏光発光および/または円偏光発光特性に基づく各種の光学材料として利用できる。

【0029】
また、本発明の包接結晶中、各色素分子は、互いに会合することなく、しかも、光エネルギー移動(もしくは電子移動)を起こすのに十分な距離で、配列されている。したがって、本発明の包接錯体結晶は、その電荷分離および/または光エネルギー捕集能に基づく光電気化学材料(例えば、光電変換素子や太陽電池など)として利用できる。さらに、本発明の包接錯体結晶は、その電荷もしくはホール輸送能および/または酸化還元特性に基づく電気化学材料(例えば、FET素子や有機EL素子など)としても利用できる。

【0030】
以下に本発明の特徴をさらに明らかにするために実施例を示すが、本発明はこの実施例によって制限されるものではない。
先ず、実施例として、代表的なゲスト分子の骨格としてポルフィリンを選び、酸性下で水に溶解するもの(TPyP)、アルカリ性(塩基性)下で水に溶解するもの(TCPP)、水への溶解性が非常に高いもの(TSPP)、水に溶解しないもの(TPP)を用い、代表的なホスト分子としてTMβCDを用いた包接錯体溶液の作成法および、包接結晶の作成法を述べる。(図1参照)
【実施例1】
【0031】
TPyPを用いた包接錯体溶液の調製:
TPyP(62mg,0.1mmol)とTMβCD(572mg,0.4mmol)を2mmolのHClを含む18mLの水に溶解した。この溶液をよく撹拌しながら飽和重曹水2mLを加え、中和した。孔径0.5μmのメンブレンフィルターで濾過後、濃赤色の包接錯体水溶液を得た。
【実施例2】
【0032】
TCPPを用いた包接錯体溶液の調製:
TCPP(79mg,0.1mmol)とTMβCD(572mg,0.4mmol)を1Mの水酸化ナトリウム水溶液5mLに溶解した。この溶液をよく撹拌しながら1M塩酸5mLを加え、中和した。蒸留水を加え、全量を15mLとし孔径0.5μmのメンブレンフィルターで濾過後、濃赤色の包接錯体水溶液を得た。
【実施例3】
【0033】
TSPPを用いた包接錯体溶液の調製:
TSPP(79mg,0.1mmol)とTMβCD(572mg,0.4mmol)を2mLの水に溶解させ、飽和塩化ナトリウム水溶液を添加し、全量を15mLとし孔径0.5μmのメンブレンフィルターで濾過後、濃赤色の包接錯体水溶液を得た。
【実施例4】
【0034】
TPPを用いた包接錯体溶液の調製:
メノウ乳鉢にTMβCDを429mg(0.3mmol)取り、さらにTPPを31mg(0.05mmol)加え、均等になるまでよく擂った。混合物がかたまってきたら細かく砕いてさらに擂った。得られた混合粉末をよくかき混ぜながら水に分散させ、孔径0.5μmのメンブレンフィルターで濾過し、濃赤色の包接錯体水溶液を得た
【実施例5】
【0035】
Ni-TPPを用いた包接錯体溶液の調製:
メノウ乳鉢にTMβCDを429mg(0.3mmol)取り、さらにNi-TPP(ニッケルイオンに配位したTPP)を31mg(0.05mmol)加え、均等になるまでよく擂った。混合物がかたまってきたら細かく砕いてさらに擂った。得られた混合粉末をよくかき混ぜながら水に分散させ、孔径0.5μmのメンブレンフィルターで濾過し、濃橙色の包接錯体水溶液を得た。
【実施例6】
【0036】
TPyP、TPP、Ni-TPP、TCPPおよびTSPPから得られる包接錯体結晶:
上記のように得た包接錯体溶液を50℃に保った恒温器で3日間静置すると、黒褐色の結晶が得られる。顕微鏡観察すると、結晶の形状はTPyP、TPPおよびNi-TPPの包接錯体溶液から得られる結晶は平行四辺形板状であった。TCPPの包接錯体溶液から得られる結晶温度によって結晶形状が異なり、50℃では柱状晶、60℃では六角板状晶であった。TSPPに関してはより高い温度が必要であり、80℃に保ったまま3日間静置することで、赤色の微結晶が得られた。
各々の結晶は、結晶化溶液の温度を保ったまま濾過することで安定に取り出すことが可能で、結晶の洗浄は結晶化溶液と同じかそれ以上の温度の水によって洗浄することができる。洗浄時に結晶が崩れたり、溶解したりする場合は、洗浄水にホスト分子を添加することが好ましい。
【実施例6】
【0037】
上記各実施例で得られた包接結晶は、潮解することなく安定であるが、水に易溶である。また、結晶を粉末にすることでも包接錯体は壊れることはなく安定で、何れの場合もゲスト色素分子を包接錯体として水に容易に再溶解することができる。
【実施例7】
【0038】
TPyP系包接結晶の結晶構造および光学的性質:
得られた結晶の構造およびその特性について、TPyPの包接結晶を例に挙げて述べる。単結晶X線構造解析は0.9×0.3×0.1mmの結晶を用い、Rigaku Saturn724によって行った。また、光学顕微鏡による観察はLEICA DM2500を用いた。
【実施例7】
【0039】
TPyPとTMβCDの包接錯体の結晶はa=16.1864Å、b=17.532Å、c=17.712Å、α=99.0°、β=103.3°、γ=112.9°の結晶格子を持つ三斜晶である。結晶格子は1分子のTPyPが2分子のTMβCDにカプセルされたバイキャップ構造を基本単位とし、色素分子同士で会合することなく一定方向に整然と配列していることが理解される(図2参照)。この構造は、溶液中の包接錯体の分光学的手法によって予測されていた構造と非常に良く一致する。本結晶構造解析においては、19721点の回折光を解析に用い、信頼度因子(R)が0.0677、解析によって得られる構造の確からしさを示すGoodness-of-fit
indicatorは1.059と非常に良好な値であった。
【実施例7】
【0040】
結晶中のTPyPは会合することなく孤立化されており、近接するTPyP同士の中心間距離は最短で1.7nm、最長で2.9nmである。この距離は結晶内のTPyP間で、光エネルギー移動もしくは電子移動を起こすのに十分な距離であり、この包接錯体結晶が、電荷分離系や光エネルギー捕集系の光電気化学材料や、電荷もしくはホール輸送を行う電気化学材料して有用であることが示している。
【実施例7】
【0041】
TPyPとTMβCDの包接錯体の結晶は偏光顕微鏡のクロスニコル観察において消光角45°の偏光特性が見られ、単ニコル観察において結晶の長軸に対して135°で偏光が消光する(図3参照)。
【実施例7】
【0042】
この結晶は560nm以下の光を照射すると蛍光を発する。全光量子収率を測定したところ、純粋なTPyPはほぼ0%であるのに対し、3.5%であった。この値は当該包接錯体の水溶液の全光量子収率(5.2%)に近い値であると言える。すなわち、TPyPの包接結晶とすることで、純粋なTPyPの固体に対して蛍光特性が大幅に向上していることがわかる(図4参照)。
【実施例7】
【0043】
結晶から発される蛍光を、偏光子を通して観察すると、結晶の長軸に対して、60°で蛍光強度が最小となり、150°で最大となる。すなわち、本包接結晶は直線偏光発光材料であることがわかった。また、結晶構造に示されるように(図5参照)、結晶内のTPyPのπ平面は左方向に7.3°ねじられており、包接結晶を形成することで、本来不斉を持たない(アキラルな)TPyPに不斉が誘起されていることがわかった。この不斉は結晶内で一様に揃っており、得られた包接結晶が円偏光発光材料として有用であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によって得られる色素包接錯体の結晶は、結晶材料という高密度色素材料であるにもかかわらず、ゲスト色素分子間の会合が阻害されており、かつ、一定方向に整然と配列しているという非常にユニークな構造を持つ。その構造的特徴から、偏光材料、発光材料、偏光発光材料、円偏光発光材料としての光学材料、電界効果トランジスタや電荷・ホール輸送媒体としての電気化学材料、有機色素太陽電池や有機ELなどの光電気化学材料として非常に有用であると見込まれる。また、包接錯体の結晶化において構造的な制約がほとんどないため、使用目的に応じた自由な設計が可能である。さらに、既存の色素材料をそのまま利用することが可能で、安価かつ簡便に作成することが可能である。上記のこ
とから、本発明の産業上の利用可能性は非常に高いと言える。
図面
【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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