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明細書 :薬剤を識別するための器具およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5645019号 (P5645019)
公開番号 特開2012-183182 (P2012-183182A)
登録日 平成26年11月14日(2014.11.14)
発行日 平成26年12月24日(2014.12.24)
公開日 平成24年9月27日(2012.9.27)
発明の名称または考案の名称 薬剤を識別するための器具およびその利用
国際特許分類 A61J   1/14        (2006.01)
FI A61J 1/00 390Q
請求項の数または発明の数 15
全頁数 33
出願番号 特願2011-048068 (P2011-048068)
出願日 平成23年3月4日(2011.3.4)
審査請求日 平成25年11月1日(2013.11.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】506208908
【氏名又は名称】学校法人兵庫医科大学
【識別番号】304025138
【氏名又は名称】国立大学法人 大阪教育大学
発明者または考案者 【氏名】前田 初男
【氏名】石崎 真紀子
【氏名】岡本 幾子
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】岩田 洋一
参考文献・文献 国際公開第2008/068911(WO,A1)
特開2006-109900(JP,A)
特開2007-260252(JP,A)
特開2002-236748(JP,A)
米国特許出願公開第2007/0251337(US,A1)
調査した分野 A61J 1/14
特許請求の範囲 【請求項1】
薬剤を保持する薬剤保持部を備えており、
該薬剤保持部における、薬剤を配置する面に、有色の領域が設けられており、
該領域内の平均明度(Vavg)が、2.5≦Vavg<5.5の範囲内である
薬剤を識別するための器具。
【請求項2】
前記領域内の平均彩度(Cavg)が、Cavg<4である、請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記領域が、単一の明度および単一の彩度からなる第1の色を有する材料からなる、請求項1または2に記載の器具。
【請求項4】
網目模様の罫線が前記領域内に形成されており、
該罫線に囲まれた個々の領域の色が、単一の明度および単一の彩度からなる第1の色であり、
該罫線が第2の色からなり、
第1の色の明度(V)が、1≦V<4.5の範囲内であり、
第1の色の彩度(C)が、C<4である、請求項1または2に記載の器具。
【請求項5】
前記領域が、単一の明度および単一の彩度からなる第1の色を有する塗装によって形成されている、請求項1または2に記載の器具。
【請求項6】
網目模様の罫線が前記領域内に形成されており、
該罫線に囲まれた個々の領域が、単一の明度および単一の彩度からなる第1の色を有する塗装によって形成されており、
該罫線が第2の色を有する塗装によって形成されており、
第1の色の明度(V)が、1≦V<4.5の範囲内であり、
第1の色の彩度(C)が、C<4である、請求項1または2に記載の器具。
【請求項7】
第1の色の彩度(C)が、C<0.55である、請求項3~6のいずれか1項に記載の器具。
【請求項8】
前記領域の平均彩度(Cavg)が、Cavg<0.55である、請求項2または7に記載の器具。
【請求項9】
前記領域の表面上に光沢が付与されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の器具。
【請求項10】
前記領域の表面上に微小突起が複数形成されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の器具。
【請求項11】
シート形状である、請求項1~10のいずれか1項に記載の器具。
【請求項12】
請求項11に記載の器具、および
該器具が配置される面を有している容器
を備えている、薬剤を識別するためのキット。
【請求項13】
請求項3または5に記載の器具、および
該器具の前記領域上に重層するための透明シート
を備えている、薬剤を識別するためのキット。
【請求項14】
前記器具および前記透明シートが配置される面を有している容器
をさらに備えている、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
2.5≦Vavg<5.5の範囲内である平均明度(Vavg)を有する有色の領域の上に複数の薬剤を配置する工程を包含する、薬剤を識別する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を識別するための器具およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の薬剤を組み合わせて用いる多剤併用療法が行われており、患者1人当たりに処方される薬剤種類数が近年増加する傾向にある。特に65歳以上の高齢者では、その傾向が顕著であり、後期高齢者(75歳以上)では、1件当たりの平均薬剤種類数は4種類以上である。また、75歳以上で5種類以上の処方薬を調剤される患者の割合は4割以上であり、約4分の1の患者が7種類以上の薬剤を処方されている。
【0003】
複数種の薬剤を服用する場合、従来は、個別にシート包装された薬剤が用量や服用日数に応じて患者に渡され、服用する際に、患者自身が、薬剤の種類や個数を選別していた。しかし、服用する際に患者が間違えないようにするために、一度に服用する医薬を一体化した「一包化調剤」の利用が増加している。一包化調剤では、服用1回分の複数の薬剤が、1つの薬包に入れられている。このため、一包化されることによって、薬剤が誤って服用されることが少なく、特に高齢者において服用が容易であるという利点がある。
【0004】
一度に服用する薬剤を1回分ずつまとめる、一包化のための装置も開発されている。しかし、一包化調剤が増えてきている現状において、一包化包装における調剤エラーは大きな医療事故にもなりかねない。一包化包装の装置における調剤エラーの可能性を完全に排除することは困難であるので、調剤後に十分な鑑査を行うことが重要である。現在では、包装された個々の薬剤を薬剤師が目視で識別することによって、薬の入れ違いがないかを鑑査している。しかし、鑑査の作業は、膨大な時間を費やす上に集中力を要する作業であり、薬剤師の負担を大きくさせている。
【0005】
調剤後の鑑査を補助する装置も開発されている。このような装置としては、薬剤の形状や色を識別する装置、カメラ(CCD、C-MOS等)で拡大撮影した可視光画像を表示する装置が挙げられる。しかし、可視光画像を用いたとしても、最終的には薬剤師の目視で鑑査することが必要となる。また、外観が類似した薬剤が多数存在するので、形状や色に基づいて識別することは容易でない。このように、従来の技術は、薬剤師の負担を大幅に低減させるものとはいえない。
【0006】
特許文献1には、薬剤に固有の電磁波周波数特性を用いて薬剤を判別する薬剤判別システムが開示されている。特許文献2には、テラヘルツ波照射時の応答と可視光画像情報に基づき薬剤の種類を識別する、一包化包装された薬剤の種類や数をそのままの状態で判別するための薬剤の識別方法及び識別装置が開示されている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2010-91516号公報(2010年4月33日公開)
【特許文献2】特開2007-198802号公報(2007年8月9日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
確かに、このような技術を用いれば、従来の鑑査に要していた薬剤師の負担を大幅に低減することが可能となる。しかし、これらの技術には、薬剤師の負担を大幅に低減させるために、大掛かりな装置やシステムを用いなければならないという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、薬剤を識別するための器具、キットおよび方法を提供する。
【0010】
本発明の器具は、薬剤を識別するために、薬剤を保持する薬剤保持部を備えており、該薬剤保持部における、薬剤を配置する面に、有色の領域が設けられており、該領域内の平均明度(Vavg)が、2.5≦Vavg<5.5の範囲内であることを特徴としている。
【0011】
上記構成を有することにより、複数の薬剤が存在する状況であっても、個々の薬剤の識別を容易に行うことができる。
【0012】
本明細書中において、色名は、JIS Z 8102の規定に基づいており、色の三属性を表す数値は、JIS Z 8721の規定に基づいている。なお,JIS Z 8721は、マンセル表色系と等価であり、本明細書中に示す色の三属性の値は、マンセル表色系により表す三属性の値と交換可能である。
【0013】
本発明の器具において、上記領域内の平均彩度(Cavg)は、Cavg<4であることが好ましく、Cavg<0.55であることがより好ましい。
【0014】
本発明の器具において、上記領域は、単一の明度および単一の彩度からなる第1の色を有する材料からなっても、複数の色を有する材料からなってもよい。上記材料が複数の色を有する場合は、例えば、網目模様の罫線が上記領域内に形成されており、罫線に囲まれた領域の色と罫線の色が異なる。罫線に囲まれた領域の色(第1の色)は単一の明度および単一の彩度からなり、罫線は第2の色からなり、第1の色の明度(V)が、1≦V<4.5の範囲内であり、第1の色の彩度(C)が、C<4であることが好ましい。なお、第2の色は、第1の色と異なっていればよく、複数の第2の色が用いられてもよい。また、第2の色は、領域内の平均明度および平均彩度が上述した範囲内となるように、第1の色に応じて適宜選択され得る。
【0015】
本発明の器具において、上記領域は、単一の明度および単一の彩度からなる第1の色を有する塗装によって形成されていても、複数の色の塗装によって形成されていてもよい。複数の色の塗装が施される場合は、例えば、網目模様の罫線が上記領域内に形成されており、罫線に囲まれた領域の色と罫線の色が異なる。罫線に囲まれた領域は、単一の明度および単一の彩度からなる色(第1の色)を有する塗装によって形成されており、罫線は第2の色を有する塗装によって形成されている。この場合、第1の色の明度(V)が、1≦V<4.5の範囲内であり、第1の色の彩度(C)が、C<4であり、第2の色は、領域内の平均明度および平均彩度が上述した範囲内となるように、第1の色に応じて適宜選択され得、第1の色と異なっていればよく、複数の第2の色が用いられてもよい。
【0016】
本発明の器具において、上記領域の平均彩度(Cavg)は、Cavg<0.55であることがより好ましい。また、本発明の器具において、第1の色の彩度(C)は、C<0.55であることがより好ましい。
【0017】
本発明の器具において、上記領域の表面上に光沢が付与されていてもよく、上記領域の表面上に微小突起が複数形成されていてもよい。また、本発明の器具において、上記領域は、反発係数の低い材料によって形成されていてもよい。
【0018】
本発明の器具の形状は特に限定されないが、シート形状であると応用範囲が広いので好ましい。
【0019】
本発明の第1のキットは、薬剤を識別するために、上述した器具、および該器具が配置される面を有している容器を備えていることを特徴としており、該器具の上記領域上に重層するための透明シートをさらに備えていてもよい。
【0020】
本発明の第2のキットは、上述した器具、および該器具の上記領域上に重層するための透明シートを備えていることを特徴としており、該器具および該透明シートが配置される面を有している容器をさらに備えていてもよい。
【0021】
本発明の方法は、薬剤を識別するために、2.5≦Vavg<5.5の範囲内である平均明度(Vavg)を有する有色の領域の上に複数の薬剤を配置する工程を包含することを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明を用いれば、薬剤名および識別コードが印刷されているPTP(Press Through Package)包装シートやSP(Strip Package)包装シートから取り出した、色、形状およびサイズにおける類似性が高い固形薬剤を識別可能とするとともに、薬剤師による一包化製剤の鑑査、および高齢患者における服薬アドヒアランスを効果的に支援することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、薬剤を識別するための器具を提供する。本発明の器具は、識別されるべき複数の薬剤を保持する薬剤保持部を備えており、薬剤保持部以外の部材は必ずしも必要でなく、本発明の器具は薬剤保持器具でもあり得る。

【0024】
本発明は、薬剤の識別に有用である。薬剤は、その形態および形状によって、固形製剤、液状製剤、半固形製剤に分類される。本発明は、固形製剤を識別する際に特に有用であるが、透明の容器に封入することによって本発明の薬剤保持部にて保持可能な態様であれば、液状製剤または半固形製剤の識別にもまた有用である。

【0025】
本明細書中で使用される場合、固形製剤は、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、丸剤、顆粒剤および散剤が意図される。本発明において、固形製剤は、錠剤、カプセル剤、トローチ剤および丸剤からなる群より選択されるものが好ましく、錠剤、カプセル剤およびトローチ剤からなる群より選択されるものがより好ましい。

【0026】
錠剤は、医薬品を一定の形状に圧縮したものであるか、または、溶媒に湿潤させた医薬品の練合物を、一定の形状に成形するか、もしくは一定の型に流し込んで成形したものである。錠剤は、糖類もしくは糖アルコール類を含むコーティング剤で剤皮を施した糖衣錠であっても、適切なコーティング剤で薄く剤被を施したフィルムコーティング錠であってもよく、徐放錠または腸溶錠であってもよい。カプセル剤は、医薬品を液状、懸濁液状、半固形状、粉末状、顆粒状もしくは成形物などの形態にてカプセルに充填するか、またはカプセル基剤で被包成形したものであり、硬カプセル剤および軟カプセル剤に分類される。トローチ剤は、通常、医薬品を一定の形状に製したものであり、口中で徐々に溶解または崩壊させて、口腔や咽頭などに適用する製剤である。丸剤は、医薬品を球状に製造したものであり、顆粒剤は、医薬品を粒状に製造したものであり、散剤は、医薬品を粉末状または微粒状に製造したものである。なお、これらの定義は、医薬品の第15改正日本薬局方に従うものである。

【0027】
本明細書中で使用される場合、用語「識別性」は「識別容易性」と交換可能に用いられる。すなわち「識別性が高い」状況は「識別容易」であることが意図され、「識別性が低い」状況は「識別困難」であることが意図される。

【0028】
本発明の器具において、薬剤保持部は薬剤を配置するための面を少なくとも1つ有しており、該面には有色の領域が設けられている。本発明の器具を用いて薬剤を識別する際に、識別されるべき複数の薬剤は該領域上に配置される。本発明の器具において、上記面の形状は、特に限定されないが、面上に薬剤を容易に載置する観点から、平面または凹面が好ましい。上述したように、識別されるべき複数の薬剤は有色の領域に載置されるので、該領域内における薬剤が配置される部位のみが平面または凹面であってもよい。また、載置された薬剤の転がり防止のために、上記領域の表面上に微小突起(例えば、芝状構造)が複数形成されていてもよい。

【0029】
本発明の装置において、上記領域内の平均明度(Vavg)は、2.5≦Vavg<5.5の範囲内であることを特徴としている。また、本発明の器具において、上記領域内の平均彩度(Cavg)は、Cavg<4であることが好ましく、Cavg<0.55であることがより好ましい。

【0030】
色は、互いに独立した3つの属性(色相、明度、彩度)によって規定することができる。マンセル表色系では、色相を「Hue(ヒュー)」と称し、明度を「Value(バリュー)」と称し、彩度を「Chroma(クロマ)」と称し、有彩色をHV/Cで表示し、無彩色をNで表示する。

【0031】
マンセル表色系において色相の表示に用いられるアルファベットはR(赤)、Y(黄)、G(緑)、B(青)、P(紫)の5種類である。これらの色は円周上に時計回りに配置されていて色相環を構成する。さらに、上記5種類それぞれの間に、隣り合う色相を表す記号の組合せで、YR(黄赤)、YG(黄緑)、BG(青緑)、PB(青紫)、RP(赤紫)が円周上に配置されている。

【0032】
マンセル表色系では、100%光を反射する理想的な白の明度を10とし、100%光を吸収する理想的な黒の明度を0とし、この間にて明るさが均等に変わっていくように感じられる9色の無彩色を挿入して11段階の明度を設定している。色票では、最も暗い黒が明度1.0であり、最も明るい白が明度9.5である。

【0033】
また、マンセル表色系では、それぞれの色相における最高彩度段階のChromaの値は、無彩色を0とし、その色と同じ明度の無彩色との間にどの程度の段階を設けることができるかによって決められており、彩度の低い方から1、2、3・・・と位置付けられる(最大14程度まで)。グラフでは円の中心に無彩色を配置し、円の外側ほど鮮やかになり、無彩色からどの程度離れているのかを表す。

【0034】
マンセルの色立体では、明度、彩度および色相をマンセル表色系によってそれぞれ三次元座標系の縦軸、半径軸および環状軸で表す。具体的には、色相環を水平に配置しかつ無彩色をその中心に配置するとともに座標値に対応する色彩を三次元的に示す。

【0035】
なお、JIS Z 8102において表示と系統色名の関係は付図1~25に示されており、JIS Z 8102では、個々の区分は下限線を含み上限線は含まず、無彩色と色みを帯びた無彩色の区分線の彩度は、明るい方から順に、0.25、0.35、0.45、0.55、0.75である。これらより、「明度<2.5かつ彩度<0.75」は黒を、「2.5≦明度<4.5かつ彩度<0.55」はいわゆる「ダークグレー」を、「2.5≦明度<4.5かつ0.55≦彩度<4」は「色みのあるダークグレー」を定義付ける。本発明に用いられる色としては、「2.5≦平均明度<5.5かつ平均彩度<4」がより好ましく、厳密な「ダークグレー」を定義付ける「2.5≦平均明度<5.5かつ平均彩度<0.55」が最も好ましい。

【0036】
上記構成を有することにより、上記有色の領域に薬剤を複数配置した際に、個々の薬剤を容易に識別することができる。

【0037】
本発明の器具を構成する材料としては、紙、布、ガラス、ゴム、樹脂(例えば、アクリル樹脂、PDMS、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、PET、塩ビ等)が挙げられるが、上述した構造上の特徴点を備えている限り、特に限定されない。載置される際に、識別されるべき薬剤が本発明の器具から跳ね返ることを防止するために、本発明の器具は少なくとも上記領域が、反発係数の低い材料によって形成されていることが好ましく、天然ゴムまたは合成ゴム(例えば、アクリルゴム(ACM)、ニトリルゴム(NBR)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム(U)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、エピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム(Q)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、フッ素ゴム(FKM)、ポリイソブチレン(ブチルゴム IIR)など))がより好ましい。

【0038】
本発明の器具において、上記領域が単一の明度および単一の彩度からなる単一色のみを有している場合、上記領域は、単一の明度および単一の彩度からなる第1の色を有する材料からなっても、単一の明度および単一の彩度からなる第1の色を有する塗装によって形成されてもよい。この場合、第1の色の明度(V)は、2.5≦V<5.5の範囲内であり、第1の色の彩度(C)は、C<4であることが好ましく、C<0.55であることがより好ましい。

【0039】
本発明の器具において、上記領域が複数の色を有している場合、上記領域は、複数の色を有する材料からなっても、複数の色の塗装によって形成されていてもよい。この場合、例えば、網目模様の罫線が上記領域内に形成されており、罫線に囲まれた領域の色(第1の色)と罫線の色(第2の色)が異なることが好ましい。上記領域内に網目模様の罫線が形成されている場合、第1の色の明度(V)は、1≦V<4.5の範囲内であり、第1の色の彩度(C)は、C<4であることが好ましく、C<0.55であることがより好ましい。そして、第2の色は、第1の色と異なっていれば、複数の第2の色が用いられてもよく、領域内の平均明度および平均彩度が上述した範囲内となるように、第1の色に応じて適宜選択され得る。

【0040】
本発明の器具において、第2の色からなる罫線の幅は0.1mm~3.0mmの範囲内であることが好ましい。0.1mmを下回ると、目視で確認しづらく、本発明による効果を期待することが困難である。また、3.0mmを上回ると、平均明度が5.5を超える可能性が高くなり、本発明による効果を期待することが困難である。より好ましくは、罫線の幅は0.2mm~1.0mmの範囲内であり、さらに好ましくは0.3mm~0.7mmの範囲内であり、約0.5mmが最も好ましい。特に、白色(明度=9.5)で0.5mm幅の罫線を10mm間隔で設けた場合は、平均明度(Vavg)を上述した範囲内とすることが非常に容易である。

【0041】
また、本発明の器具において、罫線によって形成される網目構造の形状は特に限定されず、円形状、楕円形状、三角形状、四角形状(例えば、正方形状、長方形状、菱形状)、五角形状、六角形状などの任意の形状であり得る。

【0042】
本発明の器具の形状は特に限定されないが、シート形状であると応用範囲が広いので好ましい。本明細書中で使用される場合、用語「シート」は、平面状の薄い構造物であって折り曲げ等の加工が容易である構造物が意図される。本明細書中で意図されるシートの厚さは特に限定されないが、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下であり、さらに好ましくは2mm以下である。なお、マイクロレベルの「薄膜」もまたシートであることが当業者に容易に理解される。

【0043】
本発明に利用可能なシートは、市販のものであっても、所望の色を配合した材料をシート状に加工してもよい。シート状に加工するための方法は、当該分野において周知の方法を使用すればよく、特に限定されない。また、加工後のシートに有色領域や罫線を設ける場合、所望の色を有する材料を蒸着法、スパッタリング法などの乾式法によって形成させてもよく、インクジェット方式またはスクリーン方式のような印刷法や、フォトリソグラフィー法などを用いて形成させてもよい。

【0044】
本発明はまた、薬剤を識別するためのキットを提供する。本明細書中で使用される場合、「キット」は各種成分の少なくとも1つが別物質中に含有されている形態であることが意図される。用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。好ましくは各材料を使用するための指示書を備える。本明細書中においてキットの局面において使用される場合、「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図される。「指示書」は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD-ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。本発明のキットはまた、希釈剤、溶媒、洗浄液またはその他の試薬を内包した容器を備え得る。さらに、本発明のキットは、薬剤の識別に利用可能な他の器具をあわせて備えていてもよい。

【0045】
本発明の第1のキットは、薬剤を識別するために、上述した器具、および該器具が配置される面を有している容器を備えていることを特徴としており、該器具の上記領域上に重層するための透明シートをさらに備えていてもよい。本発明の第2のキットは、上述した器具、および該器具の上記領域上に重層するための透明シートを備えていることを特徴としており、該器具および該透明シートが配置される面を有している容器をさらに備えていてもよい。

【0046】
本発明のキットに利用可能な容器は、本発明の器具および/または透明シートが配置される面を有していれば特に限定されない。また、上記容器を構成する材料も特に限定されず、本発明の器具を構成する材料と同様に、例えば、紙、布、ガラス、ゴム、樹脂であり得る。

【0047】
本発明に用いられる透明シートは、透明性が良く、透過率の大きな材料からなることが好ましく、例えば、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリオレフィン系樹脂およびガラスなどが挙げられるがこれらに限定されない。また、光の反射/吸収が低くなるように設計されたセラミック材料およびプラスチック材料であってもよい。透明シートの光透過率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることがなおさらに好ましい。このように、透明シートは、光透過性であれば特に限定されないが、本発明の器具の有色領域と重ねた際に、シート外部から測定した平均明度および平均彩度を上述した範囲内とするものであれば特に限定されない。また、透明シートの屈折率は特に限定されないが、シート外部から測定した有色領域の平均明度および平均彩度を上述した範囲内とするために、透明シートは屈折率の低い物質(低屈折率材料)からなることが好ましい。

【0048】
このように、本発明に利用され得る透明シートは、上述した条件を満たすものであれば、特に限定されず、重層した際に上記領域上に接する面またはその対面に、上述した特徴を有する網目模様の罫線が設けられた罫線シートであっても、本発明の器具を挟持する保持シートであっても、上記領域の視野を拡大するレンズシートであってもよい。

【0049】
本発明はさらに、上述した器具またはキットを用いた、薬剤を識別する方法を提供する。本発明の方法は、2.5≦Vavg<5.5の範囲内である平均明度(Vavg)を有する有色の領域の上に複数の薬剤を配置する工程を包含することを特徴としている。本方法を実行するに必要な構成については、上述した器具またはキットを参照のこと。

【0050】
老人性白内障は、80歳以上でほぼ100%が罹患するといわれている。老人性白内障に罹患すると、水晶体が白濁し、外から入る光が眼球の中で散乱する。これによって、明るいところであっても物が見えにくい,かすんで見えるなどの症状が起こる。高明度かつ低彩度で形状が類似している薬剤は,老人性白内障の患者にとって非常に識別しにくいといえる。

【0051】
色覚異常は日本男性の20人に1人といわれている。色覚異常の主な症状としては、赤から緑の波長域の色差を感じにくく両者の区別が難しいこと、青と紫、水色とピンク、また彩度の低い色の組合せなども区別が難しいことが挙げられる。よって、色覚異常者にとっても高明度かつ低彩度で形状が類似している薬剤は識別しにくいといえる。

【0052】
処方される薬剤の色彩は圧倒的に白が多く、しかも類似性が高い。このことは、視覚機能が低下した高齢患者だけでなく、一般患者にとっても薬剤識別に起因するミスが起こりやすいといえる。本発明は、正常色覚者だけでなく、色覚異常者や老人性白内障患者などにおいても薬剤の識別性を高めることができる。このような効果は、日本製の薬剤に対して特に顕著である。このように、本発明は、薬剤効果を最大限に発揮し得、薬剤治療の成功を支援するものである。

【0053】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0054】
〔薬剤の色〕
薬剤に使用されている色素について、日本では、「医薬品等に使用することができるタール色素を定める省令(昭和四十一年八月三十一日厚生省令第三十号),(医薬品用タール色素) 第一条の一 ,外用医薬品以外の医薬品,別表第一部に規定するタール色素」に規定されており、赤が多いものの、黄、緑、青と、ほぼ全ての色相が利用されている。米国では、「食品医薬品局,FDA(Food and Drug Administration)」が管理する “Federal Food, Drug, and Cosmetic Act (FD&C Act)”に規定されており、赤の種類は日本の2倍であるが、黄、緑、青については,ほぼ同数である。このように、日米で医薬品に規定されている色素の色相はほとんど差がない。
【実施例】
【0055】
実際の製品の色相を検討すると、日本の製品(369種)では、白または白に近い無彩色が圧倒的に多く、黄~黄赤~赤などの色みを有するものは高明度かつ低彩度のものが多かった。具体的には、原点付近の無彩色から低彩度のものが多く、高明度の領域に9割以上(92.1%)の製品が集中していた(データは示さず)。このように、日本の製品は、白または白に近い無彩色と低彩度の製品が大半を占めていた。また、その色相は赤~黄が多く、赤の製品は中彩度、黄の製品は高彩度、高明度にわたって分布が認められるのに対し、青方向や緑方向の分布は極めて少なかった(データは示さず)。
【実施例】
【0056】
これに対して、米国の製品(656種)では、白や白に近似する色が多いが、色相および彩度のいずれも変化に富んでおり、明度も中明度から高明度まで分散していた。具体的には、原点付近の低彩度の製品が多いが、色相の偏りは少なく、黄方向や赤方向への分布が多いものの、青方向や緑方向への分布も認められた。また,高明度の製品と同様に,中~低明度の製品も多かった(データは示さず)。
【実施例】
【0057】
なお、日本および米国のいずれにおいても、色と薬効との間に関連性はほとんど認められなかった(データは示さず)。
【実施例】
【0058】
〔薬剤のサイズ〕
サイズおよび形状は、色と同様に、識別に必要な視覚情報として重要な要素である。そこで、日米の製品におけるサイズおよび形状の比較を行った。
【実施例】
【0059】
日本の円形の製品は、直径が6.0mm~8.0mmのものが最も多く、全体の6割を占める(平均値は7.5mm)。厚みが3~4mmのものが多く、直径にほぼ比例している(平均値は,3.4mm)。また,直径は5.0mm~11.0mmにわたって0.1mm単位で分布していた(データは示さず)。
【実施例】
【0060】
米国の円形の製品(274種)は、日本と同様に直径6.0~8.0mmのものが最も多かった(平均値は8.2mm)。また,直径は4.5mm~21mmにわたって変化に富んで分布しており、8.0mm以上の製品は日本よりも多かった(データは示さず)。これは、チュアブルタイプと言われる口内で溶かすタイプの薬剤が多いためと考えられる。
【実施例】
【0061】
〔薬剤の形状〕
日本の製品において最も多い形状は円形であり、全体の8割以上を占めていた。米国の製品において、円形の錠剤は全体の約4割であり、最も多い形状は楕円形(ラグビーボール型、長楕円形を含む。)であり、全体の約半数を占めていた。円形や楕円形以外の形状の製品は、日本でほとんど存在しなかったが、米国で1割程度存在した(例えば、三角型、四角型、長方形型、六角形型、八角形型(いずれも角は丸い)、双子型、やじり型、星型など)。
【実施例】
【0062】
〔材料および方法〕
上述したように、日本では薬剤の色相がY~YR~R、明度が8~10、彩度が0~2に遍在している。このような外観的な特徴を考慮して、薬剤を、黄群、黄赤群、赤群、混合群に分類した。各群を、5つの円形錠剤(主に直径6.0~8.0mm)で構成した。
【実施例】
【0063】
【表1】
JP0005645019B2_000002t.gif
【実施例】
【0064】
各群における錠剤の具体的な色の3属性は以下のとおりである。
【実施例】
【0065】
【表2-1】
JP0005645019B2_000003t.gif
【実施例】
【0066】
【表2-2】
JP0005645019B2_000004t.gif
【実施例】
【0067】
【表2-3】
JP0005645019B2_000005t.gif
【実施例】
【0068】
【表2-4】
JP0005645019B2_000006t.gif
【実施例】
【0069】
識別器具として、マンセル表色系での表示が「N7.5 (0.25PB 7.53/0.16)」、「N5.5 (0.46PB 5.52/0.30)」、「N3.5 (2.37PB 3.50/0.40)」、「7.82P 6.55/5.57」、「3.67PB 6.34/5.84」、「6.1BG 7.36/5.05」として表示される色(背景色)を有する6種のシートを準備した(それぞれを、適宜、シートA~Fと称する。)。識別器具を配置する作業面には、マンセル表色系での表示が「N6.03」のシートを準備した。また、無色透明のアクリルシートに、製図用テープ(白色:N9.5)を用いて10mm間隔にて方眼を作成した(適宜、方眼シートと称する。)。
【実施例】
【0070】
大阪教育大学の学生17人および兵庫医療大学の学生25人(合計42人)を被験者とした。被験者には、実験を行う前に、本実験の背景と意義、本実験の実施方法、個人情報の秘守を説明した上で、同意を得た。実験環境は「表面色の視感比較方法(JIS Z 8723)」に準拠した。
【実施例】
【0071】
裸眼での評価、色弱疑似体験グラス装着での評価、および白内障疑似体験ゴーグル装着での評価を行った。
【実施例】
【0072】
識別容易性について4件法(「わかりやすい」、「ややわかりやすい」、「ややわかりにくい」、「わかりにくい」)を用い、それぞれを4点~1点と得点化した上で集計した。
【実施例】
【0073】
得られた評価を得点化し,平均値の差が有意か否かに基づいて識別性を分析した。分析は、薬剤色要因(4水準)、背景色要因(6水準)、方眼要因(2水準)の3要因分散分析であり、これらを、正常色覚、老人性白内障、色覚異常の条件ごとに検証した。なお、色覚異常の疑似体験には、色弱模擬フィルタ「バリアントール」(伊藤光学工業社製)を用いた。老人性白内障の疑似体験には、「白内障疑似体験ゴーグル」(パナソニック社製)を用いた。
【実施例】
【0074】
なお、本実施例にて用いた視野角は9°である。これは、視野角2θが、開口寸法Wおよび観察距離Dに対してtanθ=W/2Dであることに基づいて、本実施例にて用いた開口寸法を9.1cmおよび観察距離を60cmから算出した。
【実施例】
【0075】
〔1:正常色覚における薬剤の識別性について〕
3要因分散分析の結果、薬剤色要因×背景色要因×方眼要因の2次の交互作用は、有意でなかった(F(15,600)=1.286,MSe=.206,ns)。薬剤色要因×背景色要因の1次の交互作用、および背景色要因×方眼要因の1次の交互作用がいずれも有意であった(それぞれ、F(8.652,346.091)=14.008,MSe=.673,p<.001、およびF(4.047,161.893)=2.889,MSe=.318,p<.05)。しかし、薬剤色要因×方眼要因の1次の交互作用は有意でなかった(F(3,120)=1.331,MSe=.494,ns)。そこで、下位検定として単純主効果の検定、多重比較(Bonferroniの方法)を行った。
【実施例】
【0076】
〔1-1:薬剤色要因の各水準における背景色要因の検定〕
以下に、薬剤色要因の各水準における背景色要因の平均値と標準偏差を示す。
【実施例】
【0077】
【表3】
JP0005645019B2_000007t.gif
【実施例】
【0078】
さらに、単純主効果の検定、および引き続く多重比較の結果を示す(*** p < .001、** P < .01、* p < .05)。
【実施例】
【0079】
【表4-1】
JP0005645019B2_000008t.gif
【実施例】
【0080】
【表4-2】
JP0005645019B2_000009t.gif
【実施例】
【0081】
【表4-3】
JP0005645019B2_000010t.gif
【実施例】
【0082】
【表4-4】
JP0005645019B2_000011t.gif
【実施例】
【0083】
黄群の薬剤では、背景色として、シートCが他のシートに対して0.1%水準で有意に識別しやすく、次いで、シートEが、シートAに対して0.1%水準で、シートDに対して1%水準で、シートFに対して5%水準で有意に識別しやすく、次いで、シートBが、シートAに対して0.1%水準で有意に識別しやすいことがわかった。
【実施例】
【0084】
黄赤群の薬剤では、背景色として、シートCが他のシートに対して0.1%水準で有意に識別しやすく、次いで、シートBが、シートAおよびシートDに対して0.1%水準で有意に識別しやすく、次いで、シートFが、シートDに対して0.1%水準で、シートAに対して1%水準で有意に識別しやすく、次いで、シートEが、シートAおよびシートDに対して0.1%水準で有意に識別しやすいことがわかった。
【実施例】
【0085】
赤群の薬剤では、背景色として、シートA,B,C,EおよびFはシートDに対して0.1%水準で有意に識別しやすいことがわかった。
【実施例】
【0086】
混合群の薬剤では、背景色として、シートCがシートA、シートDおよびシートFに対して0.1%水準で、シートEに対して1%水準で、シートBに対して5%水準で有意に識別しやすく、次いで、シートBが、シートAに対して0.1%水準で、シートDに対して1%水準で有意に識別しやすく、シートEが、シートAおよびシートDに対して0.1%水準で、シートFに対して1%水準で有意に識別しやすいことがわかった。
【実施例】
【0087】
これらの結果より、正常色覚では、いずれの薬剤色要因であっても背景色としてシートC(いわゆるダークグレー(dkGy))の評価が最高であり、この色が、薬剤色の全ての群を最も識別しやすい背景色であることがわかった。
【実施例】
【0088】
〔1-2:背景色要因の各水準における薬剤色要因の検定〕
以下に、背景色要因の各水準における薬剤色要因の平均値と標準偏差、ならびに、単純主効果の検定、および引き続く多重比較の結果を示す(*** p < .001、** P < .01、* p < .05)。
【実施例】
【0089】
【表5-1】
JP0005645019B2_000012t.gif
【実施例】
【0090】
【表5-2】
JP0005645019B2_000013t.gif
【実施例】
【0091】
【表5-3】
JP0005645019B2_000014t.gif
【実施例】
【0092】
【表5-4】
JP0005645019B2_000015t.gif
【実施例】
【0093】
【表5-5】
JP0005645019B2_000016t.gif
【実施例】
【0094】
【表5-6】
JP0005645019B2_000017t.gif
【実施例】
【0095】
示されるように、
・シートAでは、赤群が全ての薬剤色群に対して0.1%水準で識別しやすいことがわかった。
・シートBでは、赤群が黄赤群に対して1%水準で、黄群に対して5%水準で有意に識別しやすいことがわかった。
・シートCでは、4群とも平均値は高く、中でも黄群および混合群の評価が高い。ただし、有意な主効果はなかった。
・シートDでは、黄群、混合群および赤群が黄赤群に対して0.1%水準で有意に識別しやすいことがわかった。また、黄赤群が全ての薬群に比べて識別しにくいことがわかった。
・シートEでは、赤群,黄群が黄赤群に対して1%水準で有意に識別しやすいことがわかった。また、黄赤群は識別しにくいこともわかった。
・シートFでは、赤群が全ての薬剤色群に対して0.1%水準で識別性が高いことがわかった。
【実施例】
【0096】
これらの結果より、正常色覚では、シートA,B,E,Fが赤群で識別しやすく、特に、シートAおよびFでは他の全ての薬剤色群に対して赤群の識別性が有意に高い。一方、シートCでは、全ての薬剤色群の識別性が高い。また、シートDでは黄群で識別性が高い。
【実施例】
【0097】
〔1-3:背景色要因の各水準における方眼要因の検定〕
以下に、背景色要因の各水準における方眼要因の平均値と標準偏差、ならびに、単純主効果の検定、および引き続く多重比較の結果を示す(*** p < .001、** P < .01、* p < .05)。
【実施例】
【0098】
【表6】
JP0005645019B2_000018t.gif
【実施例】
【0099】
示されるように、
・シートCでは、方眼無し(平均値3.65,SD=0.06)が方眼有り(平均値3.49,SD=0.08)よりも5%水準で有意に識別しやすいことがわかった。
・シートBでは、方眼無し(平均値3.27,SD=0.10)が方眼有り(平均値2.97,SD=0.10)よりも0.1%水準で有意に識別しやすいことがわかった。
・シートAでは、方眼無し(平均値2.77,SD=0.09)が方眼有り(平均値2.57,SD=0.10)よりも1%水準で有意に識別しやすいことがわかった。
・シートD~Fでは、有意な主効果は見られなかった。
【実施例】
【0100】
これらの結果より、正常色覚では、無彩色のシート(シートA~C)を用いた場合、方眼無しが方眼有りよりも識別性が高いといえる。これは、方眼の白色によって背景の明度が上昇して、各薬剤色群との明度差が小さくなったことに起因すると考えられる。
【実施例】
【0101】
〔1-4:方眼要因の各水準における背景色要因の検定〕
以下に、方眼要因の各水準における背景色要因の平均値と標準偏差、ならびに、単純主効果の検定、および引き続く多重比較の結果を示す(*** p < .001、** P < .01、* p < .05)。
【実施例】
【0102】
【表7-1】
JP0005645019B2_000019t.gif
【実施例】
【0103】
【表7-2】
JP0005645019B2_000020t.gif
【実施例】
【0104】
示されるように、正常色覚では、方眼の有無に関係なくシートCの評価が高く、他のすべての背景色に対して識別性が有意に高い。
【実施例】
【0105】
〔1-5:まとめ〕
正常色覚では、背景としてシートC(いわゆるダークグレー(dkGy))を用いた場合、他のシートに対して薬剤の識別が容易である。また、無彩色(シートA~C)を用いた場合は、方眼無しの方が薬剤の識別が容易である。
【実施例】
【0106】
〔2:老人性白内障における薬剤の識別性について〕
3要因分散分析の結果、薬剤色要因×背景色要因×方眼要因の2次の交互作用は、有意でなかった(F(9.241,378.876)=1.333,MSe=.377,ns)。薬剤色要因×背景色要因の1次の交互作用は有意であった(F(9.631,394.856)=11.712,MSe=.610,p<.001)。しかし、薬剤色要因×方眼要因の1次の交互作用、および背景色要因×方眼要因の1次の交互作用がいずれも有意でなかった(それぞれ、F(3,123)=.274,MSe=.651,ns、およびF(4.078,167.207)=.853,MSe=.321,ns)。そこで、下位検定として単純主効果の検定、多重比較(Bonferroniの方法)を行った。
【実施例】
【0107】
〔2-1:薬剤色要因の各水準における背景色要因の検定〕
以下に、薬剤色要因の各水準における背景色要因の平均値と標準偏差を示す。
【実施例】
【0108】
【表8】
JP0005645019B2_000021t.gif
【実施例】
【0109】
さらに、単純主効果の検定、および引き続く多重比較によって、有意な効果の有無を検討した。
【実施例】
【0110】
【表9-1】
JP0005645019B2_000022t.gif
【実施例】
【0111】
【表9-2】
JP0005645019B2_000023t.gif
【実施例】
【0112】
【表9-3】
JP0005645019B2_000024t.gif
【実施例】
【0113】
【表9-4】
JP0005645019B2_000025t.gif
【実施例】
【0114】
これらの結果より、老人性白内障では、背景としてシートC(いわゆるダークグレー(dkGy))において黄群、黄赤群、混合群の識別性が高く、次いでシートB(いわゆるミディアムグレー(mGy))、シートE(いわゆる青)の順で、黄群、黄赤群、混合群の識別性が高いことがわかった。
【実施例】
【0115】
〔2-2:背景色要因の各水準における薬剤色要因の検定〕
以下に、背景色要因の各水準における薬剤色要因の平均値と標準偏差、ならびに、単純主効果の検定、および引き続く多重比較の結果を示す(*** p < .001、** P < .01、* p < .05)。
【実施例】
【0116】
【表10-1】
JP0005645019B2_000026t.gif
【実施例】
【0117】
【表10-2】
JP0005645019B2_000027t.gif
【実施例】
【0118】
【表10-3】
JP0005645019B2_000028t.gif
【実施例】
【0119】
【表10-4】
JP0005645019B2_000029t.gif
【実施例】
【0120】
【表10-5】
JP0005645019B2_000030t.gif
【実施例】
【0121】
【表10-6】
JP0005645019B2_000031t.gif
【実施例】
【0122】
これらの結果より、老人性白内障では、正常色覚と同様に、シートA,B,E,Fが赤群で識別性が高く、特に、シートAおよびFでは他の全ての薬剤色群に対して識別性が有意に高い。また、シートCおよびDでは、正常色覚と同様に、黄群で識別性が高い。
【実施例】
【0123】
〔2-3:背景色要因の各水準における方眼要因の検定、および方眼要因の各水準における背景色要因の検定〕
上述したように、背景色要因と方眼要因の1次の交互作用は有意でなく、背景色要因の各水準における方眼要因はいずれの組合せにおいても有意な主効果はみられなかった(データは示さず)。また、方眼要因の主効果も有意ではなかった(F(1,41)=.009, MSe=.876,ns)。平均値は、方眼なしが2.50 (SD=0.75)、方眼有りが2.49(SD=0.88)であり、両者はほぼ同じである。
【実施例】
【0124】
背景色要因では有意な主効果がみられ(F(2.840,116.443)=64.235,MSe=1.702,p<.001)、シートCでは、他の背景色全てに対して有意であった(データは示さず)。
【実施例】
【0125】
このように、老人性白内障では方眼の有無は背景色の評価に対して影響がないといえる。これは、白内障のために色がかすんで見え、方眼の白による同化現象に起因して明度差の変化が正常色覚と比較して少なく感じられたためであると考えられる。
【実施例】
【0126】
〔2-4:まとめ〕
老人性白内障では、背景色としてシートC(いわゆるダークグレー(dkGy))を用いた場合、黄群、黄赤群、混合群を他の背景色よりも有意に識別することができた。また、シートA,B,E,Fを用いた場合、赤群を最も有意に識別することができた。方眼の有無による識別性の差異はなかった。
【実施例】
【0127】
〔3:色覚異常における薬剤の識別性について〕
3要因分散分析の結果、薬剤色要因×背景色要因×方眼要因の2次の交互作用が有意であった(F(9.335,382.749)=2.292,MSe=.449,p<.05)。よって、単純交互作用の検定、単純主効果の検定、その後の多重比較(Bonferroniの方法)を行った。
【実施例】
【0128】
〔3-1:薬剤色要因×背景色要因の各水準における方眼要因の下位検定および多重比較〕
以下に、薬剤色要因×背景色要因の各水準における方眼要因の平均値と標準偏差を示す。
【実施例】
【0129】
【表11】
JP0005645019B2_000032t.gif
【実施例】
【0130】
薬剤色要因×背景色要因の各水準の組合せにおける平均値を方眼の有無で比較すると、方眼有りが方眼なしよりも高いものが多いことがわかった。
【実施例】
【0131】
さらに、薬剤色要因×背景色要因の各水準における方眼要因の多重比較によって、有意な主効果の有無を検討した。
【実施例】
【0132】
【表12-1】
JP0005645019B2_000033t.gif
【実施例】
【0133】
【表12-2】
JP0005645019B2_000034t.gif
【実施例】
【0134】
【表12-3】
JP0005645019B2_000035t.gif
【実施例】
【0135】
【表12-4】
JP0005645019B2_000036t.gif
【実施例】
【0136】
これらの結果より、色覚異常では、方眼有りが方眼なしよりも識別性が高いといえる。
【実施例】
【0137】
〔3-2:薬剤色要因×方眼要因の各水準における背景色要因の下位検定および多重比較〕
【実施例】
【0138】
【表13-1】
JP0005645019B2_000037t.gif
【実施例】
【0139】
【表13-2】
JP0005645019B2_000038t.gif
【実施例】
【0140】
【表13-3】
JP0005645019B2_000039t.gif
【実施例】
【0141】
【表13-4】
JP0005645019B2_000040t.gif
【実施例】
【0142】
色覚異常では,薬剤色要因×方眼有無要因の各水準の組合せによって、背景色要因の評価にばらつきがある。しかし、黄群、黄赤群、混合群では方眼の有無に関係なくシートE(いわゆる青)およびシートC(いわゆるダークグレー)の識別性の評価が高かった。また、赤群は、方眼の有無に関係なくシートC(いわゆるダークグレー)における識別性の評価が低かった。これらの結果より、色覚異常では、明度差だけでなく、彩度差および色相差が識別性に影響すると考えられる。
【実施例】
【0143】
〔3-3:背景色要因×方眼要因の各水準における薬剤色要因の下位検定および多重比較〕
以下に、背景色要因×方眼要因の各水準における薬剤色要因の平均値と標準偏差、ならびに、単純主効果の検定、および引き続く多重比較の結果を示す(*** p < .001、** P < .01、* p < .05)。
【実施例】
【0144】
【表14-1】
JP0005645019B2_000041t.gif
【実施例】
【0145】
【表14-2】
JP0005645019B2_000042t.gif
【実施例】
【0146】
【表14-3】
JP0005645019B2_000043t.gif
【実施例】
【0147】
【表14-4】
JP0005645019B2_000044t.gif
【実施例】
【0148】
【表14-5】
JP0005645019B2_000045t.gif
【実施例】
【0149】
【表14-6】
JP0005645019B2_000046t.gif
【実施例】
【0150】
示されるように、
・シートAでは、方眼有無に関係なく赤群の錠剤の評価が高い。特に,方眼なしでは全ての薬群に対して識別性が有意に高い。方眼有無に関係なく黄赤群の錠剤の評価が低い。
・シートBでは、方眼有無に関係なく赤群の錠剤の評価が高く、黄赤群の評価が低い。
・シートCでは、方眼有無に関係なく混合群の錠剤の評価が高い。
・シートDでは、方眼有無に関係なく赤群の錠剤が黄赤群と比較して識別性が有意に高い。方眼有無に関係なく黄赤群の錠剤の評価が低い。
・シートEでは、方眼有無に関係なく赤群の錠剤が黄赤群および混合群と比較して識別性が有意に高い。
・シートFでは、方眼有無に関係なく赤群の錠剤が他の全ての背景色に対して識別性が有意に高い。方眼有無に関係なく黄赤群の錠剤の評価が低い。
【実施例】
【0151】
これらの結果より、方眼の有無に関係なくシートA,B,D,E,Fでは赤群を識別しやすく、シートCでは混合群を識別しやすいことがわかった。また、黄赤群は,シートCまたはE以外では識別性が低いこともわかった。
【実施例】
【0152】
〔3-4:まとめ〕
色覚異常では、薬剤色要因×方眼要因の組合せによって結果がばらつくものの、相対的には背景色としてシートC(いわゆるダークグレー(dkGy))またはシートE(青)を用いた場合に識別性が高い。シートC以外では、赤群を識別しやすいこともわかった。また、方眼ありのシートにおいて、識別性が有意に高い。
【実施例】
【0153】
〔4:総括〕
正常色覚(裸眼)、白内障および色覚異常の視点から総括すると、薬剤の識別性を向上するには、シートC(いわゆるダークグレー)が最良であるといえる。また、方眼を併用した場合、正常色覚または白内障において、シートC、B、Eの評価が高く、特にシートCは薬剤の識別性が顕著に高く、色覚異常において、黄赤群または混合群についてシートCの評価が高く、赤群または黄群についてシートEの評価が高い。
【実施例】
【0154】
本発明を用いれば、正常色覚者だけでなく、色覚異常者または老人性白内障患者もまた、類似性の高い錠剤を自ら識別した上で服薬することを可能にする。
【実施例】
【0155】
〔5:服薬アドヒアランス〕
近年、内服遵守について、「治療は医師の指示に従うという考え」から、「患者と医師が相互に理解を深め、治療における患者の積極的役割を重視する」考えへと変化している。内服遵守に対する用語も、「compliance(コンプライアンス)」から「adherence(アドヒアランス)」に変わりつつある。コンプライアンスは,医師の指示による服薬管理であり、アドヒアランスは患者の理解、意志決定、治療協力に基づく服薬である。服薬アドヒアランスを向上させるためには、患者と医療者が情報を共有し、患者にとって服薬を妨げる因子があれば、それが何であるのかを、患者と医療者がともに考えて解決していくことが不可欠である。
【実施例】
【0156】
薬剤効果を最大限に発揮し、薬剤治療を成功させるためには、薬剤治療の過程における患者の服薬ミスを回避させることが重要である。そのためには、患者が疾病自体を理解し、納得した上で服薬を行う自己管理が重要である。薬剤の効果を最大限に発揮させるには、服薬アドヒアランスを向上させることが重要である。薬剤治療の成功を阻害する、患者側での原因として、飲み忘れ、誤用、紛失などが考えられる。本発明を検証する際に、処方薬の種類の多さや処方薬の識別性が低いことに起因する不満を何度も耳にした。このことは、薬剤の管理の困難性が患者にとって服薬を妨げる因子であり、服薬アドヒアレンスを低下させる原因であることを示唆する。
【実施例】
【0157】
(JP 2011-30934 A 2011.2.17)、(JP 2011-31036 A 2011.2.17)等には、患者の服薬を支援する従来の技術が多数列挙されているとともに、新たな服薬補助技術が開示されている。このような服薬支援によって、服用の煩雑さを低減させ得、服薬アドヒアランスの向上が期待される。
【実施例】
【0158】
また、一包化調剤であれば患者による薬剤の管理を容易にし得ると考えられる。しかし、患者が一包化調剤に依存しすぎると、患者が服薬に対する主体性を喪失しかねないので、積極的に治療に参加するという服薬アドヒアランス向上の面から懸念が生じる。薬剤の管理を容易にすることだけでなく、服薬に対する患者の主体性を養いかつ維持することが、患者の服薬アドヒアランスの向上につながると考えられる。
【実施例】
【0159】
本発明を実施することによって、被験者の全員(18名中18名)が薬剤の識別に関心をもつようになり、その多くが、色の比較に最も効果的な黒色よりもむしろ本発明が好ましい旨を回答し(18名中12名)、薬剤トレーに汎用されている白色よりもむしろ本発明が好ましい旨を回答している(18名中16名)。このように、本発明を用いれば、薬剤の識別を容易にすることによって、服薬に対する患者の主体性を誘発することができる。もちろん、本発明を用いれば、薬剤の管理を容易にすることができるので、本発明は、患者の服薬アドヒアランスを向上させるといえる。
【実施例】
【0160】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明は、薬剤の識別性を高める識別トレー、識別シート等の製品の開発に寄与することにより、関連産業の発達に貢献し得る。