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明細書 :光通信波長帯高速単一光子検出器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5326081号 (P5326081)
登録日 平成25年8月2日(2013.8.2)
発行日 平成25年10月30日(2013.10.30)
発明の名称または考案の名称 光通信波長帯高速単一光子検出器
国際特許分類 H01L  31/107       (2006.01)
G01J   1/42        (2006.01)
FI H01L 31/10 B
G01J 1/42 H
請求項の数または発明の数 6
全頁数 19
出願番号 特願2008-503827 (P2008-503827)
出願日 平成19年3月2日(2007.3.2)
国際出願番号 PCT/JP2007/054060
国際公開番号 WO2007/102430
国際公開日 平成19年9月13日(2007.9.13)
優先権出願番号 2006059505
優先日 平成18年3月6日(2006.3.6)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年3月1日(2010.3.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】井上 修一郎
【氏名】行方 直人
【氏名】笹森 真司
個別代理人の代理人 【識別番号】100099254、【弁理士】、【氏名又は名称】役 昌明
【識別番号】100108729、【弁理士】、【氏名又は名称】林 紘樹
【識別番号】100139675、【弁理士】、【氏名又は名称】役 学
審査官 【審査官】道祖土 新吾
参考文献・文献 特表2001-507168(JP,A)
特開2003-142724(JP,A)
特開2003-243694(JP,A)
特開2003-282933(JP,A)
特開2003-289298(JP,A)
特開2005-114712(JP,A)
笹森真司他,1550nm帯単一光子検出器の500MHz動作,電子情報通信学会論文誌,2006年,Vol.J89-c,No.12,pp.1085-1096
調査した分野 H01L 31/10-31/119
G01J 1/42
特許請求の範囲 【請求項1】
通信波長帯の単一光子を検出するアバランシェフォトダイオードと、前記アバランシェフォトダイオードの降伏電圧を超えない直流電圧をカソードに印加するバイアス手段と、前記降伏電圧を超えるように前記直流電圧に重ねて正弦波ゲート信号を加えるゲート手段と、前記アバランシェフォトダイオードの出力信号中の正弦波ゲート信号成分を取り除くフィルターとを具備し、前記正弦波ゲート信号の周波数は、前記アバランシェフォトダイオードの特性に対応してS/N比を最大化する周波数であり、前記正弦波ゲート信号が前記降伏電圧を超える超過電圧は、前記正弦波ゲート信号の周波数に応じて1Vから5Vの間に設定されることを特徴とする単一光子検出器。
【請求項2】
通信波長帯の単一光子を検出するアバランシェフォトダイオードと、前記アバランシェフォトダイオードの降伏電圧を超えない直流電圧をカソードに印加するバイアス手段と、前記降伏電圧を超えるように前記直流電圧に重ねて基本波の正弦波と高調波とからなるゲート信号を加えるゲート手段と、前記アバランシェフォトダイオードの出力信号中のゲート信号成分を取り除く複数のフィルターとを具備し、前記ゲート信号の周波数は、前記アバランシェフォトダイオードの特性に対応してS/N比を最大化する周波数であり、前記ゲート信号が前記降伏電圧を超える超過電圧は、前記ゲート信号の周波数に応じて1Vから5Vの間に設定されることを特徴とする単一光子検出器。
【請求項3】
通信波長帯の単一光子を検出するアバランシェフォトダイオードと、前記アバランシェフォトダイオードの降伏電圧を超えない直流電圧をカソードに印加するバイアス手段と、前記降伏電圧を超えるように前記直流電圧に重ねて光子到来周波数の整数倍の周波数の正弦波ゲート信号を加えるゲート手段と、前記アバランシェフォトダイオードの出力信号中の正弦波ゲート信号成分を取り除くフィルターとを具備し、前記正弦波ゲート信号が前記降伏電圧を超える超過電圧は、前記正弦波ゲート信号の周波数に応じて1Vから5Vの間に設定されることを特徴とする単一光子検出器。
【請求項4】
通信波長帯の単一光子を検出するアバランシェフォトダイオードと、前記アバランシェフォトダイオードの降伏電圧を超えない直流電圧をカソードに印加するバイアス手段と、前記降伏電圧を超えるように前記直流電圧に重ねて光子到来周波数の整数倍の周波数の基本波の正弦波と高調波とからなるゲート信号を加えるゲート手段と、前記アバランシェフォトダイオードの出力信号中のゲート信号成分を取り除く複数のフィルターとを具備し、前記ゲート信号が前記降伏電圧を超える超過電圧は、前記ゲート信号の周波数に応じて1Vから5Vの間に設定されることを特徴とする単一光子検出器。
【請求項5】
前記ゲート手段は、光源レーザーのモードロック信号から矩形波を生成する手段と、前記矩形波から所望の高調波を取り出す帯域通過濾波器と、前記高調波を前記ゲート信号に加える正弦波とする手段とを備えることを特徴とする請求項4記載の単一光子検出器。
【請求項6】
前記フィルターは、方向性結合器を用いるフィルターであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の単一光子検出器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信波長帯高速単一光子検出器に関し、特に、アバランシェフォトダイオードを正弦波でゲート駆動する光通信波長帯高速単一光子検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信においては、光ファイバの損失が最も少ない1550nm帯が利用される。次世代の量子情報通信を実用化するためには、この通信波長帯における高速な単一光子検出器が必要である。現在、1550nm帯の単一光子の検出には、この波長において最も高い感度を有するInGaAs/InPアバランシェフォトダイオード(Avalanche Photo-Diode: APD)が利用されている(非特許文献1、2、3)。APDにより単一光子を検出する方法は、基本的にガイガーモード方式である。それを改良したゲート方式とアクティブクエンチ方式もある。
【0003】
APDを用いた光子検出において、繰返し動作を制限する最大の要因は、アフターパルスの発生である。アフターパルスは、なだれ電子の一部が欠陥準位などに捕獲され、一定時間後に放出されて、新たななだれを発生することにより出力されるパルスである。アフターパルスの発生確率は、APD中を流れるなだれ電流の大きさに比例する。なだれ増倍の終息後、時間の経過とともに低下する。バイアス電圧を低くしてなだれの規模を小さくすることにより、アフターパルスの発生を抑えることができるが、なだれを小さくすると光子検出が難しくなる。
【0004】
ガイガーモード方式では、APDに降伏電圧以上の直流電圧をかけて、光子により発生するなだれ増倍電流を電圧に変換して光子を検出する。InGaAs/InPのAPDをガイガーモード動作させた場合は、アフターパルスの発生確率が非常に大きい。なだれ電流とアフターパルス雑音が終わるまで次の光子を検出できないので、1μsに1つ程度しか検出できない。よって、このAPDを使用する際には、短い時間のみAPDをガイガーモードにするゲート動作が用いられる。
【0005】
ゲート方式では、アフターパルス雑音を低減するために、光子の到達予定時刻において1ns程度の短い時間だけ、APDをガイガーモードにする。図18に示すように、APDに降伏電圧よりも低い直流電圧を印加し、直流電圧にゲートパルス信号を重畳して、1ns程度の短い時間だけ、APDの降伏電圧を超えるようにする。光子により発生するなだれ増倍電流を電圧に変換して光子を検出する。ゲート信号に矩形波を用いる検出方法では、検出の閾値を、出力信号中のゲート信号成分(チャージパルス)の電圧以上に設定しなくてはならない。よって、光検出の際には、この閾値を超える大きななだれ増倍電流が必要になる。1個の光子に対するなだれ発生率である量子効率は、APDに印加する電圧に比例する。熱雑音でなだれが発生する暗計数率も電圧に比例するため、量子効率と暗計数率は常にトレードオフの関係にある。典型的な動作例では、動作温度は-30℃(243K)であり、繰返し周波数は100kHz前後であり、ゲート信号の幅は数nsである(非特許文献3、4)。
【0006】
アクティブクエンチ方式では、光子検出に応じて、強制的にアバランシェ増幅を停止させて、アフターパルス雑音を抑圧する。APDに降伏電圧を超える電圧を印可し、光子検出によるなだれ増倍の発生を検知すると、APDの両端電圧を降伏電圧以下にして、なだれ増倍を終息させる。その後再び、APDに、降伏電圧を超える電圧を印加する。この動作を繰り返しながら、光子検出を連続的に行う。以下に、これに関連する従来技術の例をいくつかあげる。
【0007】
特許文献1に開示された「単一光子検出器」は、波長1550nm付近に感度を有する高効率な単一光子検出器である。波長1550nm付近に感度を有するInGaAs-APDをガイガーモードで動作させる。その際に、APDを冷却し、かつAPDを、GPQCによってゲートモードで動作させる。
【0008】
特許文献2に開示された「単一光子の検出方法」は、単一光子の入射を精度良く検出できる方法である。アバランシェフォトダイオードのブレークダウン電圧を下回る所定電圧を発生する。この所定電圧との合成電圧がブレークダウン電圧を上回るパルス電圧を、単一光子発生源による光子の出射と共に出力されるトリガー信号に同期して生成して、アバランシェフォトダイオードに印加する。その状態において、アバランシェフォトダイオードに光子を入射させる。アバランシェフォトダイオードによって出力されるパルス信号の出力レベルが、所定のしきい値を超えたときに、光子の入射を検出する。アバランシェフォトダイオードに対するパルス電圧の印加開始タイミングを、光子の入射付近の最適タイミングに調整する。
【0009】
特許文献3に開示された「単一光子検出装置」は、休止時間に相当する基準値の設定変更と、発生したアフターパルスの除去が、簡単容易にできるものである。アバランシェフォトダイオードを受光素子とする単一光子検出手段で、光子を検出する。制御手段で、すべての検出時刻を記憶する。直前の光子検出時刻との時間差が、予め設定した基準値よりも長い検出時刻のみを有効と判断する。こうして、アフターパルスを除去する。
【0010】
特許文献4に開示された「長距離量子暗号システム」は、受信部の光子の損失を少なくし、高効率低ダークカウント確率の単一光子検出器を用いて、伝送距離を長くした量子暗号システムである。暗号鍵情報受信部で、波長1550nmのレーザー光パルスを、水平偏光の参照光パルスと垂直偏光の信号光パルスに分割する。信号光パルスを遅延させて送出する。暗号鍵情報送信部では、参照光パルスの偏光面を90°回転させる。信号光パルスには、ランダムな位相シフトを与えて、偏光面を90°回転させる。これらを減衰させて単一光子パルスにして送り返す。暗号鍵情報受信部では、帰還参照光パルスにランダムな位相シフトを与えて遅延させ、帰還信号光パルスと重ね合わせて、偏光分割器で偏光状態に応じて分離し、トラップキャリアの緩和時間だけ休止させるAPDで検出することで、暗号鍵情報を得る。
【0011】
特許文献5に開示された「光子検出装置」は、アバランシェフォトダイオードの充電パルスによるノイズを除去しないで光子を検出する装置である。アバランシェフォトダイオードに、降伏電圧よりも低めの直流電圧をバイアス電圧として印加する。光子到着予定時刻に、狭幅の電圧パルスを直流電圧に重畳して、アバランシェフォトダイオードに印加する。光子が到達してアバランシェ電流が発生すると、充電パルスによるノイズが小さくなるので、それを波高弁別器で検知して、光子到達を判定する。
【0012】
非特許文献1には、「電子冷却したInGaAsアバランシェフォトダイオードを用いる単一光子検出器」が報告されている。電子冷却したInGaAsアバランシェフォトダイオードを用い、1550nmの光に感度があるゲートモードの単一光子検出器である。238Kの動作温度において、24.3%の量子効率を得た。ゲート当たりのダークカウント確率は、9.4×10-5である。
【0013】
非特許文献2には、「ペルチエ冷却したInGaAs/InP APDを用いる量子鍵配布のための光子計数器」が報告されている。3種類のInGaAs/InPアバランシェフォトダイオードを電子冷却して、1550nmにおける光子計数の動作を調べた。最良の結果は、ゲート(2.4ns)当たりのダークカウント確率は、2.8×10-5である。検出効率は10%で、温度は-60℃である。アフターパルス確率とタイミングジッタも調べて、その結果を他の報告と比較し、量子鍵配布システムのシミュレーションに応用した。54km伝送では、誤り率は10%になるようだ。
【0014】
非特許文献3には、「長距離光ファイバ量子鍵配布用単一光子検出器」が報告されている。液体窒素冷却したInGaAs/InPアバランシェフォトダイオードについて、1550nmにおける光子計数の動作を調べた。-55℃で、量子効率は13.7%である。1nsのゲート当たりのダークカウント確率は、2.4×10-5である。この単一光子検出器は、理想的な状態では、104.4kmの光ファイバで量子鍵を配布できる。
【0015】
非特許文献4には、「単一光子検出用のアバランシェフォトダイオードとクエンチ回路」が報告されている。アバランシェフォトダイオードは、ガイガーモードでは、アバランシェクエンチ回路が接続されて、降伏電圧以上で動作し、単一光子の検出に用いられる。それで、単一光子アバランシェダイオード(SPAD)と呼ばれる。この動作に適当な回路構成を詳細に調べて、光子計数における相対的利点と動作タイミングを評価した。単純な受動クエンチ回路(PQC)は、SPAD素子の試験と選択に有用であるが、応用範囲にかなり制限がある。適切に設計された能動クエンチ回路(AQC)では、SPADの能力を最大に引き出すことができる。厚いシリコンのSPADは、高電圧(250-450V)で動作し、光子検出効率は、540nmから850nmの波長において50%以上であり、1064nmでも3%である。薄いシリコンのSPADは、低電圧(10-50V)で動作し、効率は500nmで45%である。830nmで10%であり、1064nmでは0.1%である。薄いシリコンのSPADでは、光子のタイミングにおける時間分解能は、20ps(FWHM)である。厚いシリコンのSPADでは、350~150ps(FWHM)である。最小の計数不感時間と最大計数率は、厚いシリコンのSPADでは40nsと10Mcpsであり、薄いシリコンのSPADでは、10nsと40Mcpsである。ゲルマニウムとIII-V族元素の化合物半導体のSPADでは、光子計数可能な範囲は、少なくとも波長1600nmの近赤外領域まで延びる。
【0016】
非特許文献5には、「通信波長用高性能一体型単一光子検出器」が報告されている。商用のアバランシェフォトダイオード(APD)と、それを単一光子検出器(SPD)として動作させる回路を、単一のプリント基板に一体化した。ペルチエ冷却器で冷却可能な温度(200-240K)において、この一体型単一光子検出器は、1308nmと1545nmで低いダークカウント確率で高い検出効率を達成した。例えば、220Kで検出効率20%のとき、バイアスパルス当たり約10-6である。それは、量子鍵配布に役立つ。高速のバイアスパルスを発生して、変化時ノイズをキャンセルして信号を増幅し、一体の判別器に送る。デジタル消去回路で、アフターパルスを抑圧する。
【0017】
非特許文献6には、「1550nmにおける量子ビット判別用平衡型ゲートモード光子検出器」が報告されている。2つのアバランシェフォトダイオード(APD)を組み合わせて、1550nmにおける量子ビット判別用の光子検出器を作製した。ゲートモードにおいて発生するスパイクノイズは、2つのAPDの平衡出力で相殺する。スパイクノイズの相殺により、判別器の閾値を下げることができる。それにより、ゲートパルス電圧も下げることができる。ダークカウント確率とアフターパルスの確率は、178Kにおける検出効率(11%)に悪影響を与えることなく、それぞれ7×10-7と7×10-4に下げられた。
【0018】
非特許文献7には、「室温におけるInGaAs/InPアバランシェフォトダイオードによる14MHzでの光子計数」が報告されている。InGaAs/InPアバランシェフォトダイオードを用いて、波長1550nm用の高速のゲートモード単一光子計数器を開発した。室温で14MHzまで動作し、アフターパルス確率は0.2%以下である。量子効率が14%でダークカウント確率が0.2%の場合、最適雑音等価電力は、2.2×10-15WHz-1/2である。高速光子計数器を比較するための指標として、ゲート周波数当たりの雑音等価電力を用いる。この指標では、この装置は、波長1550nmの従来の計数器を凌駕している。1ns以下のゲート幅で、光子計数に対するダークカウントの相違を示す振幅分布に基づいて、所与のバイアス電圧に対して最適判定閾値を設定できる。
【0019】
非特許文献8には、「波長1550nmの10.5kmの光ファイバによる鍵配送速度45kHzでの量子鍵配布」が報告されている。高速単一光子検出器は、効率的な量子鍵配布に不可欠である。波長1550nmの光を使い、単一光子検出器を10MHzで動作させて、光ファイバで鍵配布を行った。アフターパルス発生を抑圧するために、放電パルス計数により、単一光子を検出した。さらに、単一光子検出に不感時間を設定してアフターパルスを無視し、量子鍵配布におけるビット誤り数を減らした。量子鍵配布において、放電パルス計数を行い、アフターパルスを無視することにより、ビット誤り率が2%で45kHzの鍵配送速度を達成した。光ファイバの長さは、10.5kmである。
【0020】

【特許文献1】特開2003-142724号公報
【特許文献2】特開2003-243694号公報
【特許文献3】特開2003-282933号公報
【特許文献4】特開2003-289298号公報
【特許文献5】特開2005-114712号公報
【0021】

【非特許文献1】A. Yoshizawa, and H. Tsuchida, "A single-photon detector using a thermoelectrically cooled InGaAs avalanche photodiode," Jpn. J. Appl. Phys., vol.40, no.1, pp.200-201, 2001
【非特許文献2】D. Stucki, G. Ribordy, A. Stefanov, H. Zbinden, J. G. Rarity, and T. Wall, "Photon counting for quantum key distribution with Peltier coold InGaAs/InP APD's," J. Mod. Opt., vol.48, no.13, pp.1967-1982, 2001.
【非特許文献3】N. Namekata, Y. Makino, and S. Inoue, "Single-photon detector for long-distance fiber optic quantum key distribution,"Opt. Lett., vol.27, no.11, pp.954-956, 2002.
【非特許文献4】S. Cova, M. Ghioni, A. Lacaita, C. Samori, and F. Zappa, "Avalanche photodiodes and quenching circuits for single-photon detection," Appl. Opt., vol.35 no.12, pp.1956-1976, 1996.
【非特許文献5】D. S. Bethune, W. P. Risk, and G. W. Pabest, "A high-performance integrated single-photon detector for telecom wavelengths," J. Mod. Opt., vol.51, no.9-10, pp.1359-1368, 2004.
【非特許文献6】A. Tomita and K. Nakamura, "Balanced gated-mode photon detector for quantum-bit discrimination at 1550nm," Opt. Lett., vol.27, no.20, pp.1827-1829, 2002.
【非特許文献7】P. L. Voss, K. G. Koprulu, S.-K. Choi, S. Dugan, and P. Kumar,・"14MHz rate photon counting with room temperature InGaAs/InP avalanche photodiodes," J. Mod. Opt., vol.51, no.9-10, pp.1369-1379, 2004.
【非特許文献8】A. Yoshizawa, R. Kaji, and H. Tsuchida, "10.5 km fiber-optic quantum key distribution at 1550 nm with a key rate of 45 kHz," Jpn. J. Appl. Phys., vol.43, no.6A, pp. L735-L737.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかし、従来の単一光子検出器では、アフターパルスにより、単一光子検出速度は10MHz程度以下に制限されるという問題がある。アフターパルスを減らすためには、なだれ増倍の程度を小さくする必要があるが、そうすると検出信号も小さくなる。ゲート信号パルスに起因するノイズが大きいので、信号分をそれより小さくできない。ゲート信号パルスは、出力側に双極性のパルスを誘起するので、従来の方法では十分に取り除くことができない。非特許文献5、6に報告されている方法では、繰り返し動作周波数については、まだ改善の余地がある。しかし、ケーブルの損失や、個々のAPDのゲート信号に対する応答の違いによって、完全にチャージパルスを除去することは不可能であり、閾値はチャージパルスを除去する前の1/8程度の低減にとどまっている。
【0023】
本発明の目的は、上記従来の問題を解決して、単一光子検出器を高速に動作させることである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の課題を解決するために、本発明では、光通信波長帯高速単一光子検出器を、通信波長帯の単一光子を検出するアバランシェフォトダイオードと、アバランシェフォトダイオードの降伏電圧を超えない直流電圧を印加するバイアス手段と、降伏電圧を超えるように直流電圧に重ねて正弦波ゲート信号を加えるゲート手段と、アバランシェフォトダイオードの出力信号中の正弦波ゲート信号成分を取り除くフィルターとを具備する構成とした。
【発明の効果】
【0025】
上記のように構成したことにより、単一光子検出器において、なだれ電流を最小限に抑えて、500MHzの高速動作においてもアフターパルスを6%程度に抑圧することができ、従来の100倍程度の検出感度を得ることができる。すなわち、APDに加えるゲート信号を矩形波から正弦波に変更し、帯域阻止濾波器(Band Rejection Filter: BRF)によってチャージパルスを除去することにより、閾値を1/200まで低減させた。これにより、従来のInGaAs/InP APDを用いた光子検出に比べて、はるかに小さな増倍電流で光子検出を可能とした。その結果、アフターパルス発生確率を低減させ、高い繰り返し動作を実現した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1~図17を参照しながら詳細に説明する。
【実施例】
【0027】
本発明の実施例は、InGaAs/InPのAPDに、降伏電圧より低い直流バイアス電圧をかけ、周波数500MHzの正弦波のゲート信号を直流バイアス電圧に重ねて、1周期の一部で降伏電圧を4V程度超えるようにAPDに加え、APDを通過した正弦波のゲート信号をフィルターで取り除く単一光子検出器である。
【0028】
図1(a)は、本発明の実施例における単一光子検出器の概念図である。図1(b)は、ゲート信号と検出信号の図である。図1において、アバランシェフォトダイオード(APD)1は、InGaAs/InPのアバランシェフォトダイオードである。直流バイアス電圧2は、APD1の降伏電圧より低い直流バイアス電圧である。ゲート信号3は、正弦波信号であり、直流バイアス電圧と加算することで、APD1の降伏電圧を超える電圧の信号である。第2高調波あるいは第3高調波を含んでいてもよい。フィルター4は、ゲート信号の成分を除去する帯域除去フィルター(BRF)である。検出信号5は、APD1の出力信号からゲート信号3の成分を除去した信号である。
【0029】
図2は、周波数・振幅の変化と検出時間の関係を示す図である。図2の(a)は、振幅を変えずに周波数を変化させたゲート信号であり、(b)は、周波数を変えずに振幅を変化させたゲート信号である。Vbは、ブレークダウン電圧(降伏電圧)であり、Veは、余剰電圧(降伏電圧以上の電圧分)である。図3は、APDから出力される信号のスペクトルを示す図である。図3(a)は、余剰電圧が1.9Vの場合であり、図3(b)は、余剰電圧が4.2Vの場合である。図4は、BRF通過後20dBの増幅を行った後の出力信号を示す図である。
【0030】
図5は、特性測定のためのシステム全体を示すブロック図である。図6(a)は、異なる温度での量子効率対アフターパルス発生確率を示すグラフである。図6(b)は、異なる温度での量子効率対暗計数を示すグラフである。図7は、異なる温度でのアフターパルス発生確率の時間依存性を示すグラフである。図8は、ゲート周波数及びゲート振幅変化による量子効率対アフターパルス発生確率を示すグラフである。図9は、ゲート周波数及びゲート振幅変化による量子効率対暗計数を示すグラフである。図10(a)は、周波数の違いによる量子効率対アフターパルス発生確率を示すグラフである。図10(b)は、周波数の違いによる量子効率対暗計数の関係を示すグラフである。ただし、800MHzに関してはゲート振幅は4Vであり、その他の周波数に関しては6Vである。図10(c)は、ゲート振幅6Vの時の検出可能時間と余剰電圧を示す表である。
【0031】
図11(a)は、異なる検出方法でのアフターパルス発生確率の時間依存性を示すグラフである。図11(b)は、検出器の性能を示す表である。図12は、16dB減衰させたモードロック信号から取り出したゲート信号を示すグラフである。図12(a)は、出力波形を示すグラフである。図12(b)は、スペクトルを示すグラフである。図13は、80MHz検出時の量子効率対アフターパルスと暗計数を示すグラフである。図14は、光子検出時の相関を示すグラフである。図15は、基本波と高調波からなるゲート信号を示す波形図である。
【0032】
図16は、方向性結合器と実験系の概念図とWilkinson電力結合器(WPC)の写真である。図17は、WPCのアイソレーション特性と、検出効率、暗計数確率および総アフターパルス発生確率の測定結果を示すグラフである。
【0033】
上記のように構成された本発明の実施例における単一光子検出器の機能と動作を説明する。最初に、図1を参照しながら、単一光子検出器の機能の概要を説明する。単一光子検出器の基本的な構成は、従来のゲート方式のものと同じであるが、ゲート信号とフィルターが、従来のものと異なる。ゲート信号3に正弦波を使用する。APD1から出力される出力信号中のゲート信号成分を、帯域除去フィルター4により除去する。ゲート信号3を正弦波としたので、出力信号中のゲート信号成分も正弦波となる。これは、ほとんど線スペクトルとなるので、信号成分に悪影響を及ぼすことなく除去できる。信号成分は、ゲート信号3のノイズなしに検出できるので、なだれ増倍率を小さくしても、十分検出可能である。なだれ増倍率を小さくできるので、APD1に流れる電流を減少させて、アフターパルス発生確率を小さくできる。アフターパルス発生確率を小さくできるので、繰返し周波数を高くできる。繰返し周波数を500MHzとして動作させた場合では、量子効率が12%であり、暗計数が1×10-5であり、アフターパルス確率が6.5%である。また、繰返し周波数を80MHzとして、モードロックレーザーにより発生されたパルス列の光子を検出した場合には、量子効率が9%であり、暗計数が5.9×10-6であり、アフターパルス発生確率が0.5%である。
【0034】
ゲート信号3に正弦波を用いて、振幅が最大となる時刻と光子の到着時刻を同期させる。このとき、APD1から出力されるチャージパルスは、入力した正弦波成分だけである。これは、帯域阻止濾波器(Band Rejection Filter: BRF)4を用いることにより、容易に除去できる。また、光検出信号は、インパルス的であるため、幅広い周波数成分を持っている。よって、低損失でBRF4を透過する。そのため、S/N比が改善され、検出閾値を小さな値にできる。その結果、APD1のなだれ増倍率が低い状態においても、光検出が可能となる。APD1の駆動回路には、従来のゲート信号に矩形波を用いた検出方法と同様のゲート動作型受動クエンチング回路(Gated passive quenching
circuit: GPQC)が、そのまま利用可能である。APD1のカソードに、1μFのカップリングコンデンサと、51Ωの入力抵抗と、47kΩの安定抵抗(電源制限抵抗)が接続してある。APD1のアノードに、51Ωの出力抵抗が接続してある。
【0035】
次に、図2を参照しながら、ゲート信号に用いる正弦波の周波数・振幅の変化と、光子検出可能時間(detection time)について説明する。ブレークダウン電圧以上の電圧(降伏電圧+余剰電圧)が印可される時間を、検出可能時間とする。ゲート信号の周波数を高くすると、検出可能時間幅は減少する。また、余剰電圧の大きさを一定として、バイアス電圧を下げてゲート信号の振幅を大きくしても、検出可能時間幅は減少する。なだれ増倍は、この時間内でしか起きないため、検出可能時間幅を狭くすると、なだれ増倍がクエンチされて、APDから出力される電流は小さくなる。しかし、検出可能時間幅をあまり狭くすることはできない。それは、光子吸収からなだれ増倍が起きるまでの応答時間が数百ps程度必要であるためである。すなわち、光子吸収から励起電子の発生まで、ある程度の時間がかかる。検出可能時間が短すぎると、励起された電子がまだない状態でAPDに余剰電圧が印加されることになるので、この応答時間経過まで実効がない。そのため、見かけの量子効率は減少する。
【0036】
次に、図3と図4を参照しながら、動作原理を説明する。GPQCのゲート信号に、振幅が4Vで周波数が250MHzの正弦波を用いる。出力される信号を、RFスペクトラムアナライザーによって測定する。APD(商品名EPITAXX EPM239-BA)の温度は20℃であり、ブレークダウン電圧は52.1Vである。ゲート信号を入力した状態で、余剰電圧を1.9Vとしたときのスペクトルを、図3(a)に示す。出力信号は、250MHzとその高調波に集中している。余剰電圧を4.2Vにしたときのスペクトルを、図3(b)に示す。スペクトルは、幅広い周波数帯に現れている。このスペクトルの変化は、熱励起によるなだれ増倍によるもので、光子を検出した場合と同等の信号である。この結果、APDの出力からチャージパルスを除去しても、なだれ増倍による信号の変化を出力として得ることが可能なことがわかる。実際に、チャージパルスを除去し、20dB増幅した波形を、図4に示す。50nsに表れているピークは、熱励起によるなだれ増倍によるものである。検出閾値は、2mV程度に設定できる。APDから出力されるチャージパルスは、51Ωの出力抵抗上では、僅か10mV程度であった。このチャージパルスを除去するために、中心周波数が250MHzで、減衰幅が100MHzで、電力減衰量が33dBのBRFを用いる。第2高調波を除くために、中心周波数が500MHzで、減衰幅が150MHzで、電力減衰量が19dBのBRFも用いる。
【0037】
次に、図5を参照しながら、量子効率と暗計数とアフターパルス発生確率を測定する方法を説明する。信号発生器で生成された正弦波は、分配器によって、ゲート信号に用いる信号と、レーザーのトリガーに用いる信号に分配される。ゲート信号に用いる信号は、増幅器により振幅を6Vまで増幅し、可変減衰器で所望の電圧にする。検出器から出力された信号は、チャージパルスを減衰させるために、BRFを通す。その後、広帯域増幅器により20dBの増幅を行い、計数器(商品名STANFORD
RESEARCH SYSTEMS SR400)によって計数される。
【0038】
図5の(1)に示す装置を用いて、アフターパルスを測定する。検出器から出力された信号は、計数器によって計数されると同時に、NIMレベルのデジタル信号に変換される。このデジタル信号を分岐し、マルチチャンネルスケーラー(MCS)の開始および停止信号に用いて、時間相関を測定する。アフターパルスの評価は、暗計数によって得られた時間相関を、時系列のデータとして扱い、自己相関によって評価する。暗計数を用いるのは、レーザーの出力に依存する相関を無視するためである。また、暗計数による信号と光子検出時の信号が出力するなだれ増倍電流は、見分けが付かず、同等な信号である。そのため、暗計数によるアフターパルス発生確率は、光子を検出した場合と等しい発生率だと考えられる。
【0039】
自己相関関数は、次式で与えられる。
(2)(kt')={n(t)n(t+kt')}/{n-(t)n-(t+kt')} (1)
ここで,t'は測定間隔(bin)、n(t)は時間tの前後t'内の計数、n(t+kt')はkt'時間後の計数、n-(t)、n-(t+kt')はそれぞれの時間におけるt'内に計数する平均値である。
【0040】
アフターパルスは、検出信号が出力された後の相関を見ることにより評価できる。時間tにおいて必ず計数(開始信号)すると仮定すると、(1)式は、次のよう書き換えられる。
(2)(kt')=n(t+kt')/n-(t+kt')} (2)
ここで、k→∞では、開始信号(k=0の暗計数)と相関のない計数のみとなるので、自己相関は1となり、1以上になるのは、開始信号と相関のあるアフターパルスの影響である。よって、kt'時間後のアフターパルス確率をp(kt')とすると、次のように書き換えられる。
(2)(kt')=1+p(kt')/n-(kt')} (3)
よって、アフターパルス確率は、
p(kt')=[G(2)(kt')-1]n-(kt') (4)
となる。検出器全体のアフターパルス確率は、次式で与えられる。
x=Σk=1Mp(kt') (5)
ここで、Mは測定点の数である。MCSの測定間隔t'は2.5nsであり、測定点の数Mは、216である。式(4)(5)を用いることにより、アフターパルス発生確率を求めることができる。また、MCSの測定不能時間が50ns程度あるので、この間は指数関数として近似して補正する。
【0041】
図5の(2)に示す装置で、単一光子を発生して、量子効率と暗係数を測定する。レーザー(商品名HAMAMATSU: PLP-01)の波長は1550nmであり、パルス幅は50psecである。このレーザーの最大繰返し周波数は10MHzであるため、レーザーのトリガー用に分岐した信号を、分周器により10MHz以下にする。その後、遅延発生器により、検出器の検出可能時間に合わせて、レーザーをトリガーする。出力された光は、光減衰器によって、1パルスあたり平均光子数を0.1個まで減衰させ、APDにより検出し、計数器で計測する。量子効率は、次式で計算する。
η={(Nc-Nd)/uν}(1-x) (6)
ここで、uは平均光子数であり、νはレーザーの繰返し周波数であり、Ncは光を入射したときの1秒間のカウント数であり、Ndは1秒間の暗計数であり、xはアフターパルス確率である。
【0042】
次に、図6と図7を参照しながら、量子効率に対するアフターパルス発生確率が最小となる温度を求める方法を説明する。ゲート周波数が250MHzで、レーザー繰返し周波数が3.90MHzで、温度を-25℃から-45℃まで5℃おきに変化させる。図6に、温度を変化させたときの量子効率とアフターパルス確率と暗係数の関係を示す。温度が-35℃のとき、量子効率に対するアフターパルスと暗計数が最小となる。図7に、量子効率が7%で、温度が-25℃、-35℃、-45℃のときの測定時間ごとのアフターパルスを示す。1μsec以内では、温度を変えることにより、アフターパルス発生確率に大きな変化が現れる。
【0043】
アフターパルス発生確率の温度依存性について説明する。APDは、低温で駆動するほど、APDの欠陥にトラップされたキャリアの寿命は長くなり、-45℃では、6μs程度までアフターパルス発生確率が存在している。このため、測定時間全体のアフターパルス発生確率は大きくなってしまう。また、温度が高い場合には、ブレークダウン電圧が高くなるため、APDに高い電圧を印加しなければならない。この高い電界により、APD内に発生したキャリアは、低温の場合より大きな加速を得ることによって、ひとつの検出可能時間で出力される電流が大きくなる。このため、低温の場合よりトラップされるキャリアが多くなり、測定時間あたりのアフターパルス発生確率が増大してしまう。このため、-35℃が最適な温度となる。
【0044】
次に、図8と図9と図10を参照しながら、動作条件の最適値を求める方法を説明する。温度を-35℃(ブレークダウン電圧46.1V)に固定し、ゲート周波数を100MHz、250MHz、500MHz、800MHzとする。800MHzの時は128分周し、その他の場合は64分周して、光子を発生する。したがって、レーザーの繰返し動作周波数は、それぞれ1.56MHz、3.90MHz、7.81MHz、6.25MHzである。検出可能時間を変化させるため、全ての測定点で、ゲート振幅を3Vから6Vまで1Vおきに変化させる。図8と図9に、繰返し周波数とゲート振幅を変化させたときの結果を示す。500MHzまでは、ゲート振幅を大きくし、検出可能時間を短くすることにより、量子効率に対するアフターパルスは抑圧できる。しかし、800MHzの場合は、振幅4Vの場合が最良で、量子効率10%のとき、検出可能時間は500ps、余剰電圧は3.6Vである。図10(c)の表1に、検出可能時間が最小となる振幅6Vで、量子効率10%のときの各ゲート周波数における検出可能時間と余剰電圧を示す。
【0045】
検出可能時間が短くなるにつれ、大きな余剰電圧が必要になる。APDから出力される電流は、検出可能時間が短くなると減少する。計数器によって検出が可能となる最小の電流を得るには、高い余剰電圧が必要になる。光子検出可能時間が400psになると、量子効率が低下する。400psの検出可能時間が、光子吸収からなだれ増倍開始までの応答時間より短いので、十分ななだれ増倍が得られない。検出可能時間が500ps程度になる点が最適である。図10に、それぞれのゲート周波数において、量子効率に対するアフターパルス発生確率と暗計数が最良となる検出可能時間での結果をまとめて示す。500MHzのとき、量子効率は12%で、暗計数は1×10-5で、アフターパルス確率は6.5%である。
【0046】
次に、図11を参照しながら、従来の検出方法と比較して説明する。図11(a)に、正弦波ゲート信号を用いたときと、矩形波ゲート信号を用いたときのアフターパルス発生確率を比較して示す。正弦波ゲート信号では、繰返し周波数が500MHzで、量子効率は12%で、暗計数は1×10-5、である。矩形波ゲート信号では、繰返し周波数が5MHzで、量子効率は9%で、暗計数は2×10-5である。ゲート信号に用いた矩形波は、ピーク電圧は6Vで、立ち上がりと立ち下がりがともに1nsで、量子効率が9%時の検出可能時間は1.4nsで、余剰電圧は4.7Vである。また、500MHzの正弦波ゲート信号は、検出可能時間が500psで、余剰電圧が3.6Vである。
【0047】
200ns後の1つの測定点におけるアフターパルス発生確率を比較すると、正弦波ゲート信号を用いたものでは、矩形波ゲート信号を用いた場合の1/20に抑圧されている。また、矩形波ゲート信号の検出可能時間は1.4nsと長い時間だが、余剰電圧は、正弦波ゲート信号を用いたほうが小さくなっている。このことから、正弦波ゲート信号を用いた検出方法では、従来の検出方法と比べ、少ないなだれ増倍で検出が可能である。それぞれの測定点において、アフターパルス発生確率を抑圧している。しかし、矩形波を用いたものは、ゲート周波数が5MHzなので、測定点の数が500MHzの場合と比べて1/100になっている。その結果、測定時間全体のアフターパルス発生確率は1%と小さくなっている。
【0048】
図11(b)の表2に、10MHz以上のゲート動作を行っている従来例との比較を示す。量子効率は低いが、平均光子数が0.1個の光パルスを検出する場合では、繰返し周波数が50倍となっている。1秒間に得られる光子計数は、レーザーの繰返し周波数と効率の積で求められるので、30倍程度の光子計数を得ることが可能である。
【0049】
次に、図12と図13と図14を参照しながら、80MHzでの同期検出について説明する。ゲート周波数が100MHz以下になると、検出可能時間が長くなるため、アフターパルス確率の低減は期待できない。そこで、希望するゲート周波数の高調波を用いて、検出器のゲート周波数を500MHz付近に設定する。その結果、レーザー繰返し周波数が、100MHz以下の周波数に固定されている場合であっても、光子検出が可能となる。光源として、モードロックレーザー(波長1550nm)による微弱コヒーレントパルス光を用いて、繰返し周波数が80MHzの光子検出を行う。レーザーからのモードロック信号(80MHz)を増幅し、振幅のピークを切り取ることにより、80MHzの矩形波を生成する。矩形波には多くの高調波成分が含まれているので、その中から帯域通過濾波器
(Band Pass Filter: BPF)を使用することにより、第6高調波(480MHz)が取り出せる。このようにゲート信号を作製することで、増幅器とBPFを構成する受動素子によって、容易に80MHzの基準信号と同期したゲート信号を取りだすことが可能である。
【0050】
図12に、ゲート信号の波形とスペクトルを示す。これより、ゲート信号は、濾波しきれなかった高調波成分を含んでいることが見て取れる。そこで、APDから出力されるゲート信号の除去ために、480MHzと960MHzのBRFを用いる。ここで注目すべき点は、高調波を含んだ信号のパルス幅は、単一周波数の場合より細くなっている点である。この事実は、ゲート及び非ゲート時間のデューティ比を小さくし、アフターパルス抑圧を助けていることを意味する。なお、第6高調波(480MHz)のみを取り出せれば、それをゲート信号とすることができるので、他の高調波を除くBRFは不要になる。
【0051】
量子効率に対するアフターパルス発生確率と暗計数を、図13に示す。ゲート信号の振幅は6Vで、量子効率は9%で、暗計数は3.5×10-5で、アフターパルス確率は3.7%である。余剰電圧と検出可能時間は、それぞれ3.4V、500ps程度である。図14に、光子を入射したときの自己相関を示す。このときの測定間隔t'は、2.4psである。光子到達時間以外のゲートには際立った相関はなく、レーザーの繰返し周波数に等しい12.5ns間隔で相関が現れている。また、光子検出信号の揺らぎは1ns程度であり、ゲート周波数480MHzの間隔(2ns)に収まっている。これは、APDによって吸収された光子が、ひとつの検出可能時間内で増倍し、出力されることを意味している。これらのことから、レーザーから出力される光子とゲート信号は、正確に同期している。
【0052】
ゲート信号に第6高調波を用いたため、光と同期していないゲートにおいても、暗計数とアフターパルス発生確率が存在する。よって、APDの出力から光子到達時間だけの信号を切り出し、残りの信号を破棄することにより、暗計数は6分の1になり、アフターパルス発生確率もさらに減少する。量子効率が9%のとき、暗計数は5.9×10-6、アフターパルス発生確率は0.5%程度の値となる。
【0053】
既存のGPQCに正弦波をゲート信号として用いて、出力からチャージパルスを取り除くことにより、小さい増倍率で検出が可能となり、アフターパルス発生確率を抑圧できる。この検出方法は、GPQCの出力にゲート信号の周波数を減衰させる濾波器と、出力を増幅する増幅器を挿入することにより、実現可能である。このため、従来のゲート信号に矩形波を用いて行っている検出方法のAPD駆動回路を変更することなく、高速動作が可能である。最大の繰返し周波数は500MHzで、量子効率は12%で、暗計数は1×10-5で、アフターパルス発生確率は6.5%である。また、100MHz以下の検出においても、ゲート信号に基本波と同期した500MHz付近の高調波を用いることにより、アフターパルス発生確率を低減させた検出が可能である。
【0054】
次に、図15を参照しながら、基本波と高調波からなるゲート信号を用いる方法を説明する。図15(a)に示すように、基本波に第3高調波を逆相で加えたゲート信号を作成する。第3高調波を逆相で加えることにより、ゲート信号の幅が狭くなりピーク値が高くなる。ゲート信号の周波数を高くしても、ゲート時間を短くできる。ゲート時間を短くできるので、なだれ増倍時間を短くできる。したがって、アフターパルスの発生確率を小さくできる。出力信号に現れるチャージパルスのノイズは、基本波成分と第3高調波成分であるので、それぞれBRFで容易に取り除くことができる。
【0055】
図15(b)に示すように、基本波に第2高調波を同相で加えたゲート信号を作成する。第2高調波を同相で加えることにより、ゲート信号の幅が狭くなりピーク値が高くなる。ゲート信号の周波数を高くしても、ゲート時間を短くできる。ゲート時間を短くできるので、なだれ増倍時間を短くできる。したがって、アフターパルスの発生確率を小さくできる。出力信号に現れるチャージパルスのノイズは、基本波成分と第2高調波成分であるので、それぞれBRFで容易に取り除くことができる。
【0056】
光子の到来周波数に応じて、直流バイアスの電圧と、ゲート信号の周波数と高調波の位相と振幅を適切に選択することで、最適なゲート時間と余剰電圧を設定することができる。例えば、ゲート時間を短くしながら余剰電圧も低くすることができる。これにより、アフターパルスの発生確率を極限まで小さくできる。
【0057】
次に、図16と図17を参照しながら、アバランシェフォトダイオードの出力信号中の正弦波ゲート信号成分を取り除くフィルターとして、方向性結合器を用いる方法を説明する。正弦電圧を用いたゲート動作では、帯域阻止濾波器(Band elimination filter: 以下BEF)を用いてなだれフォトダイオード(APD)から出力される背景雑音(主成分はゲート周波数ωを持つ正弦電圧信号)を除去することで、微弱ななだれ信号の識別が可能となる。このことにより、APDを通過する増倍電子数を減少することができ、ゲート繰り返し周波数向上の妨げとなっていたアフターパルス雑音を引き起こす捕獲電子の数は抑圧される。つまり、BEFの持つ背景雑音の除去率となだれ信号の透過率が、ゲート繰り返し周波数向上にとって最も重要な要素となる。
【0058】
BEFは背景雑音である周波数ω成分を強く減衰するが、有限の阻止帯域を持つため、なだれ信号の持つω近傍の周波数成分も強く減衰してしまう。250MHzの例で見ると阻止帯域は100MHz程度存在するため、なだれ信号が持つ200~300MHz付近の周波数成分は大きな損失を伴う。より高効率に背景雑音を取り除くためには、より狭帯域なBEFを使用しなければならない。
【0059】
より狭帯域なBEFは、作成が困難等の理由から、現実的ではない。そこで、方向性結合器を用いた方法を提案する。図16(a)に、方向性結合器の概念図を示す。図中に示されるように、方向性結合器は2入力、2出力ポートを持ち、2つの入力信号の合成されたものが出力される。よって、入力ポート1にAPDからの信号を入力し、入力ポート2にゲートとして用いた正弦電圧と位相同期された正弦電圧を逆位相で入力することにより、背景雑音(周波数ω)のみを相殺することができる(出力ポート1)。一方、ω以外の周波数帯域は方向性結合器の分岐率で決まる損失のみを受ける。例えば、分岐率3dBの場合、損失は3dBとなり、分岐率10dBの場合は1.5dBの損失を受ける。以上の原理により、方向性結合器は狭帯域なBEFとして動作する。
【0060】
図16(b)に、実験系の概念を示す。電圧増幅器によって14Vppまで増幅された500MHzの正弦電圧を90:10の分配器により分岐し、この90%分はゲート電圧として使用する。APDから出力された信号は方向性結合器の入力ポート1へ入力される。入力ポート2へは、分配器により分岐された10%の正弦電圧が入力される。この正弦電圧は方向性結合器において干渉度が最大となるよう電圧振幅と位相が、それぞれ減衰器と位相器により、前もって調節される。方向性結合器からの出力は500MHzの背景雑音のみが相殺されている。実際には、背景雑音は2次以上の高調波成分を持つが、それは方向性結合器によって相殺されない。よって、2次高調波以上の背景雑音に関しては中心周波数1GHzのBEFと帯域600MHzの低域透過濾波器(LPF)を用いて除去した。方向性結合器には、簡単なため、3dB-Wilkinson電力結合器(WPC)を用いた。図16(c)に、使用したWPCを示す。このWPCは3つの出入力ポートで構成され、今回はポート1、2を入力、ポート3を出力用として用いた。WPCはポート1から2、及び2から1へのアイソレーション特性は周波数に依存する。今回、500MHzの正弦電圧ゲート動作させるためにその周波数でアイソレーションが最大となるよう設計した。図17(a)に、作成したWPCのアイソレーション特性を示す。周波数500MHzでポート1から2へのアイソレーションは30dBである。上記の系により蒸留されたなだれ信号は20dB増幅され最終的に識別器に入力される。ここで、識別閾値は3mVとBEFを用いた時よりも低い値に設定可能となった。また、APDに印加する直流電圧値を平均0.5V下げた状態で光子検出が可能となった。これは、より高効率になだれ信号の蒸留が可能となっていることを示す。
【0061】
図17(b)、(c)に、検出効率、暗計数確率および総アフターパルス発生確率の測定結果を示す。検出効率14%において、暗計数確率4.7×10-5、総アフターパルス発生確率5.5%を得た。先のBEFを用いた実験の結果と比較すると、総アフターパルス発生確率が若干改善されている。大きな改善にいたらなかった原因として、識別器の持つ帯域幅が上げられる。現在使用している識別器はStanford Research Systems社製のSR400であるが、この帯域幅は300MHzである。よって、ゲート周波数ωである500MHz付近の減衰特性の差が見えにくかったと考えられる。また、本実験では、簡単なために3dBのWPCを用いた。よって、3.5dB程度の信号損失が存在する。この損失を低下するためには、10dB(この時、1.5dBの損失)以上の非対称分岐率を持つ方向性結合器を用いることで解決する。上記2点を改善することで検出器の性能は飛躍的に向上すると推測される。
【0062】
上記のように、本発明の実施例では、単一光子検出器を、InGaAs/InPのAPDに、降伏電圧より低い直流バイアス電圧をかけ、周波数500MHzの正弦波のゲート信号を直流バイアス電圧に重ねて、1周期の一部で降伏電圧を4V程度超えるようにAPDに加え、APDを通過した正弦波のゲート信号をフィルターで取り除く構成としたので、アフターパルス発生を抑えて、500MHzで高速検出ができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の光通信波長帯高速単一光子検出器は、量子暗号などの量子情報通信や、Optical Time Domain Reflectometer (OTDR)等に用いる単一光子検出器として最適である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施例における単一光子検出器の概念図と、ゲート信号と検出信号の図である。
【図2】周波数・振幅の変化と検出時間の関係を示す図である。
【図3】APDから出力される信号のスペクトルを示す図である。
【図4】BRF通過後の出力信号を示す図である。
【図5】システム全体を示すブロック図である。
【図6】異なる温度での量子効率対アフターパルス発生確率を示すグラフと、異なる温度での量子効率対暗計数を示すグラフである。
【図7】異なる温度でのアフターパルス発生確率の時間依存性を示すグラフである。
【図8】ゲート周波数及びゲート振幅変化による量子効率対アフターパルス発生確率を示すグラフである。
【図9】ゲート周波数及びゲート振幅変化による量子効率対暗計数を示すグラフである。
【図10】周波数の違いによる量子効率対アフターパルス発生確率を示すグラフと、周波数の違いによる量子効率対暗計数の関係を示すグラフである。
【図11】異なる検出方法でのアフターパルス発生確率の時間依存性を示すグラフである。
【図12】16dB減衰させたモードロック信号から取り出したゲート信号を示すグラフである。
【図13】80MHz検出時の量子効率対アフターパルスと暗計数を示すグラフである。
【図14】光子検出時の相関を示すグラフである。
【図15】基本波と高調波からなるゲート信号を示す波形図である。
【図16】方向性結合器と実験系の概念図とWilkinson電力結合器(WPC)の写真である。
【図17】WPCのアイソレーション特性と、検出効率、暗計数確率および総アフターパルス発生確率の測定結果を示すグラフである。
【図18】従来の単一光子検出器の概念図と、ゲート信号と検出信号の図である。
【符号の説明】
【0065】
1 アバランシェフォトダイオード(APD)
2 直流バイアス電圧
3 ゲート信号
4 フィルター
5 検出信号
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17