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明細書 :ES細胞を用いた肝細胞調製法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5083832号 (P5083832)
登録日 平成24年9月14日(2012.9.14)
発行日 平成24年11月28日(2012.11.28)
発明の名称または考案の名称 ES細胞を用いた肝細胞調製法
国際特許分類 C12N   5/0735      (2010.01)
A61K  38/48        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
C12N   9/72        (2006.01)
C07K  14/745       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 5/00 202C
A61K 37/547
A61P 35/00
C12N 9/72
C07K 14/745
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 4
全頁数 46
出願番号 特願2008-507348 (P2008-507348)
出願日 平成18年3月24日(2006.3.24)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 日本血栓止血学会誌第16巻第5号(平成17年10月1日)日本血栓止血学会発行第534頁に発表
特許法第30条第1項適用 日本農芸化学会2006年度(平成18年度)大会講演要旨集(平成18年3月5日)社団法人日本農芸化学会発行第276頁に発表
特許法第30条第1項適用 日本農芸化学会2006年度(平成18年度)大会一般講演トピックス集(平成18年3月14日)社団法人日本農芸化学会発行第122頁~第123頁に発表
国際出願番号 PCT/JP2006/306783
国際公開番号 WO2007/110966
国際公開日 平成19年10月4日(2007.10.4)
審査請求日 平成21年2月26日(2009.2.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】有賀 豊彦
【氏名】関 泰一郎
【氏名】渡邉 豪
【氏名】中嶋 寛人
【氏名】奥村 暢章
【氏名】長谷部 祐一
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100095360、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 英二
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100141195、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 恵美子
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】上條 肇
参考文献・文献 国際公開第95/026974(WO,A1)
国際公開第98/049321(WO,A1)
日本農芸化学会大会講演要旨集,2003年,Vol.2003,p.7
調査した分野 C12N 5/0735
A61K 38/48
A61P 35/00
C07K 14/745
C12N 9/72
特許請求の範囲 【請求項1】
ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子を含有する、ES細胞から肝細胞への分化促進剤。
【請求項2】
ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子を含有する、テラトーマ予防剤。
【請求項3】
ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子をES細胞に接触させることを含む、ES細胞から肝細胞への分化促進方法。
【請求項4】
ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子をES細胞に接触させ、当該ES細胞を肝細胞に分化させることを含む、肝細胞の調製方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ES細胞の分化促進方法およびES細胞を用いた肝細胞の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、体内の代謝の中心的役割を担う生体内最大の大きさの臓器である。肝臓は生体内で唯一再生する臓器であり、全重量の約80%を切除しても、元の重量にまで再生する能力を有することが知られている。
一方、C型肝炎や肝硬変などの重篤な慢性肝疾患では、肝臓の機能的な再生は困難であるため、現在では肝臓提供者(ドナー)からの肝臓を移植する肝臓移植療法がこれらの慢性肝疾患に対する最も有効な治療法であると言われている。また、ハイブリッド型人工肝臓や細胞移植療法においても、生体由来の肝細胞を必要とする。このため、これらの療法において、ドナーの不足が深刻な問題となっている。さらに、移植後の拒絶反応またはドナーにおける組織欠損等も、これらの治療法を実施する上で、解決しなくてはならない重要な課題の一つである。
近年、このような問題点を踏まえ、臓器移植に代わる治療法として胚性幹細胞(embryonic stem cell(ES細胞))を用いた細胞移植療法が注目されている。ES細胞は、受精卵の胚盤胞から株化された細胞であり、個体を構成するさまざまな機能細胞への分化誘導が可能であると考えられている。また、ES細胞の段階で、拒絶反応に関わる細胞表面抗原を改変することも可能である。したがって、ES細胞を効率よく肝細胞に分化させて細胞移植に用いることができれば、ドナー不足、拒絶反応、臓器提供者における組織欠損など移植療法に関連するさまざまな問題の解決につながるものと期待されている。
【発明の開示】
【0003】
そこで、本発明は、上述した実状に鑑みて、ES細胞の分化促進剤、好ましくはES細胞から肝細胞への分化促進剤、またはテラトーマの予防剤を提供することを目的とする。
別の態様において、本発明は、ES細胞の分化促進方法、好ましくはES細胞から肝細胞への分化促進方法、または肝細胞の調製方法を提供することを目的とする。
別の態様において、本発明は、肝細胞の移植方法またはテラトーマの予防方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を行い、ES細胞を効率よく肝細胞へと分化誘導するための方法を確立することを試みた。その結果、ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA)がES細胞を肝細胞へ効率よく分化誘導することを初めて明らかにし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子を含有する、ES細胞の分化促進剤。
(2)ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子を含有する、ES細胞から肝細胞への分化促進剤。
(3)ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子を含有する、テラトーマ予防剤。
(4)ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子をES細胞に接触させることを含む、ES細胞の分化促進方法。
(5)ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子をES細胞に接触させることを含む、ES細胞から肝細胞への分化促進方法。
(6)ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子をES細胞に接触させ、当該ES細胞を肝細胞に分化させることを含む、肝細胞の調製方法。
また、本発明は以下に関する。
(7)ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子をES細胞に接触させ、当該ES細胞から分化した肝細胞を生体に移植することを含む、肝細胞移植方法。
(8)ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子をES細胞に接触させ、当該ES細胞から分化した肝細胞を生体に移植することを含む、テラトーマの予防方法。
本発明により、uPAを含む効率的なES細胞の分化促進剤、好ましくはES細胞から肝細胞への分化促進剤、またはテラトーマの予防剤が提供される。また、本発明により、ES細胞の分化促進方法、好ましくはES細胞から肝細胞への分化促進方法、または肝細胞の調製方法が提供される。また、本発明により、テラトーマの発現確率の低い肝細胞の移植方法が提供される。さらに、本発明により、テラトーマの予防方法が提供される。
本発明により、ES細胞から肝細胞への分化はuPAにより誘導されることが初めて明らかとなり、uPAを用いてES細胞から肝細胞に効率的に分化させることが可能となった。
本発明は、好ましくは、ドナー不足、拒絶反応、臓器提供者における組織欠損など移植療法に関連するさまざまな問題の解決策の一つになり得る。
さらに、本発明により得られる肝細胞は、好ましくは従来の分化誘導方法による細胞と比べて分化度が高いものである。そのため、本発明により、好ましくは、移植に起因するテラトーマ(奇形腫)を発症する危険性が低く、移植療法により適した肝細胞を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、ハンギングドロップ法による胚葉体の形成方法および分化誘導方法を示す図である。
図2は、ハンギングドロップ法で分化誘導したES細胞における各種分化マーカーの発現を示す図である。
図3は、分化誘導培養後のインドシアニングリーン取り込み細胞の観察像を示す図である。
図4は、肝細胞の発生における心筋中胚葉の役割を示す模式図である。
図5は、FGFレセプター阻害剤Su5402またはaFGF添加による各種分化マーカーの発現量の変化を示す図である。
図6は、uPA添加による各種分化マーカーの発現量の変化を示す図である。
図7は、p-アミノベンザミジンがES細胞から肝細胞への分化に及ぼす影響を示す図である。
図8は、uPA添加による遺伝子発現傾向の経時的な変化を示す図である。
図9は、PAS染色によるグリコーゲン貯蔵細胞の染色像を示す図である。
図10は、Albuminの蛍光免疫染色像を示す図である。
図11は、uPA、DFP処理uPA、tPA添加による遺伝子発現量の変化を示す図である。
図12は、マウス成熟肝細胞のFACS解析結果を示す図である。
図13は、uPA、DFP処理uPA、tPAを添加した分化誘導細胞のFACS解析結果を示す図である。
図14は、ES細胞由来の分化細胞を経脾的にマウスに移植する方法を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定するものではない。
明細書中の参考文献は、全体を通して本明細書に組み込まれるものとする。
1.概要
本発明は、uPAによるES細胞の分化促進作用に関するものであり、ES細胞をuPAの存在下で分化させると、ES細胞が肝細胞に効率的に分化するという知見に基づいて完成されたものである。本発明により得られる肝細胞は、従来のuPAを用いない方法で分化させた肝細胞に比べて分化度が高いという特徴を有する。このため、本発明は、細胞移植時に懸念されるテラトーマの発症を予防可能であるという側面をも有するものである。
2.ES細胞
胚性幹細胞(ES細胞)は、受精後5,6日目の胚盤胞の内部細胞塊(inner cell mass;ICM)から取り出され、培養された細胞である。ES細胞は、培養によって増殖させることができ、また、胚の初期段階から得られるために生体のいかなる細胞にも成長できる性質(多能性)を有するものである。
本発明においてES細胞の由来は特に限定されないが、レシピエントと同じ種に由来する細胞を用いることが好ましい。例えば、本発明の方法で調製された肝細胞をヒトに移植する場合は、用いるES細胞はヒト由来のES細胞であることが好ましい。
また、ES細胞が同種異系を交配して樹立したES細胞の場合は、交配に用いられるいずれかの系統がレシピエントと同じ系統であることが好ましい。
さらに、レシピエントと異なる性別に由来するES細胞を分化させ、ES細胞由来分化細胞を移植する場合は、レシピエントの臓器における性別判定マーカーの発現を調べることで、移植した細胞の生着の程度を確認することができる。
本発明において使用されるES細胞は、特に限定されないが、例えばTT2細胞を挙げることができる。TT2細胞は、C57/BL6マウス(メス)とCBAマウス(オス)とを交配して樹立したオスマウス由来のES細胞である(Yagi Tet al.,Anal Biochem 1993 Oct;214(1):70-6.)。TT2細胞は、C57/BL6マウスとCBAマウスを交配して得られた4日胚をフィーダー細胞上で展開させて、得られた内部細胞塊を数回フィーダー細胞上で継代して株化することで製造することができる。したがって、本発明によってTT2細胞由来分化細胞を移植するレシピエントには、C57/BL6マウス、好ましくはC57/BL6メスマウスを用いることができる。
ES細胞は、通常の方法で培養(継代も含む)することができ、当業者であれば適宜培養条件を設定することができる。ES細胞は、例えば、実施例に示す方法で培養することができる。
培養時には、ES細胞の分化を抑制するための添加物を培地に加えることができ、例えば、LIF(白血病抑制因子)の存在下でES細胞を培養することができる。
また、フィーダー細胞とLIFを併用してES細胞の未分化状態を維持することもできる。
ES細胞を分化させるには、まずES細胞から胚葉体(Embryoid body;EB)を形成させ、そこから分化を誘導することもできる。
EBを形成させる方法としては、ハンギングドロップ法およびアガロース法などが知られているが、当業者であれば、公知の手法に基づいて適宜実施することができる。例えば、実施例に記載の方法でEBを形成させることができる。
また、超低接着性培養器を用いてES細胞からEBを形成することもできる。
3.ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA)
ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(単に「ウロキナーゼ」と称する場合もある)は、線溶系の酵素として知られている分子量約54kDのタンパク質(高分子型)である。
また、uPAは上記の活性型(二本鎖)の高分子型uPAのほかに、高分子型の一部が分解された分子量31kDの低分子型uPAとしても存在することが知られている。この低分子型のuPAは、高分子型uPAの活性中心を含むポリペプチド断片である。さらに、uPAは不活性(一本鎖)な前駆体pro-uPA(分子量約54kD)としても存在することが知られている。これらの高分子型のuPA、低分子型のuPA、前駆体pro-uPAは、いずれも本発明においてuPAとして使用することができる。
本発明において使用するuPAの由来は特に限定されず、いずれの種に由来するものも使用することができる。
本発明において、uPAは、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質を含むものであり、好ましくは、配列番号2で示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるuPAは、ヒト由来の高分子型uPAである。配列番号2で示されるアミノ酸配列は、GenBankにアクセッション番号NP_002649およびNM_002658として登録されている。
「配列番号2で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列」としては、配列番号2で示されるアミノ酸配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性(同一性)を有するアミノ酸配列であって、ES細胞分化促進作用を有するポリペプチドのアミノ酸配列などが挙げられる。
また、「配列番号2で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列」としては、上記のアミノ酸配列の他、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列であって、かつ、ES細胞分化促進作用を有するポリペプチドのアミノ酸配列を挙げることができる。
本発明において、「ES細胞分化促進作用」は、ES細胞の分化を促進させる作用、好ましくはES細胞から肝細胞への分化を促進させる作用を意味する。また、本発明において、「ES細胞分化促進作用を有する」とは、ポリペプチドが、当該ポリペプチドで処理しない対照と比べて、ES組胞の分化の速度を大きくする作用、分化する細胞の数もしくは割合を増やす作用(分化度を高める作用)またはES細胞の分化成熟の程度を高くする作用を有することを意味する。
ES細胞分化促進作用の測定方法については後述する。
前記の配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列としては、例えば、(i)配列番号2で示されるアミノ酸配列中の1~10個(好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個、最も好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii)配列番号2で示されるアミノ酸配列中の1~10個(好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個、最も好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、(iii)配列番号2で示されるアミノ酸配列に1~10個(好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個、最も好ましくは1個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iv)配列番号2で示されるアミノ酸配列に1~10個(好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個、最も好ましくは1個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(v)上記(i)~(iv)を組み合わせたアミノ酸配列などが挙げられる。
また、本発明において使用するuPAは、ES細胞分化誘導作用を有する限り、アルカリフォスファターゼ(AP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)などとの融合タンパク質であってもよい。
また、本発明において、uPAは配列番号1で示される塩基配列と同一または実質的に同一の塩基配列を有するDNAによってコードされるポリペプチドを含むものであり、好ましくは、配列番号1で示される塩基配列と同一または実質的に同一の塩基配列からなるDNAによってコードされるポリペプチドが挙げられる。配列番号1で示される塩基配列からなるDNAは、ヒト由来の高分子型uPAをコードするDNAである。配列番号1で示される塩基配列はGenBankにアクセッション番号NM_002658として登録されている。
「配列番号1で示される塩基配列と実質的に同一の塩基配列」としては、配列番号1で示される塩基配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性(同一性)を有する塩基配列が挙げられる。
また、「配列番号1で示される塩基配列と実質的に同一の塩基配列」としては、上記の塩基配列の他、配列番号1で示される塩基配列において、1個または数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列であって、かつ、コードするポリペプチドがES細胞分化促進作用を有する塩基配列を挙げることができる。
前記配列番号1で示される塩基配列において、1個または数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列としては、例えば、(i)配列番号1で示される塩基配列中の1~10個(好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個、最も好ましくは1個)の塩基が欠失した塩基配列、(ii)配列番号1で示される塩基配列中の1~10個(好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個、最も好ましくは1個)の塩基が他の塩基で置換された塩基配列、(iii)配列番号1で示される塩基配列に1~10個(好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個、最も好ましくは1個)の塩基が付加した塩基配列、(iv)配列番号1で示される塩基配列に1~10個(好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個、最も好ましくは1個)の塩基が挿入された塩基配列、(v)上記(i)~(iv)を組み合わせた塩基配列などが挙げられる。
DNAに変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuik ChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社)等を用いることができる。
また、配列番号1で示される塩基配列と実質的に同一の塩基配列としては、配列番号1で示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、コードするポリペプチドがES細胞分化誘導作用を有するDNAの塩基配列が挙げられる。
ここで、ストリンジェントな条件としては、例えば、「5×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件としては「1×SSC、0.1%SDS、65℃」「0.5×SSC、0.1%SDS、50℃」、「0.1×SSC、0.1%SDS、55℃」等の条件を挙げることができる。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))等を参照することができる。
本発明において、低分子型uPAは、配列番号2中、156~431番目に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質を含むものである。また、本発明において、低分子型uPAは、配列番号1中、466~1293番目に示される塩基配列と同一または実質的に同一の塩基配列を含むDNAによりコードされるタンパク質を含むものである。
また、前駆体pro-uPAは、プラスミンやカリクレインにより二本鎖に切断されることによって活性型のuPAに転換される。本発明において、前駆体pro-uPAは、活性型のuPAに転換することで、ES細胞の分化を促進することができる。
本発明において、uPAは生体由来のものであってもよい。例えば、uPAは尿中に含有されることが知られているため、尿から公知の方法により採取したものを用いることができる。また、uPAを発現している細胞を破砕し、破砕液から公知の方法により採取したものを用いることもできる。公知の方法としては、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー、硫安沈殿、透析などを挙げることができ、当業者であれば公知の方法を適宜一つまたは複数を選択して実行することができる。
また、本発明において、uPAは市販のものを使用してもよい。例えば、ウロキナーゼ(ベネシス-三菱ウェルファーマ)、ウロナーゼ(持田製薬)、ウロキナーゼ(日本製薬-武田、わかもと-藤沢、興和)などを購入することにより入手することができる。
本発明において、uPAはそのまま用いてもよく、製剤化した医薬組成物としてもよい。医薬組成物は、uPAを含有する組成物であれば、特に限定されない。例えば、本発明において、医薬組成物としては、uPAを含む種々の剤形、例えば経口剤であれば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤等、非経口剤であれば坐剤、注射剤、軟膏剤、パップ剤等があげられる。当業者であれば、公知の方法を用いてuPAを製剤化することができる。
本明細書において、uPAを含む溶液の濃度は、単位溶液量あたりのuPA活性(例えば、u/ml)として表すことができる。ここでのuPA活性は、国際単位によって定められた方法で測定された酵素活性を用いる。
uPA活性は発色性合成基質S-2444,フィブリン標準平板法などにより測定できる。
以下の実施例で示すように、線溶系因子の一つであるuPAは、ES細胞から肝細胞への分化誘導を促進する作用を有する。一方、組織由来のtPAはES細胞から肝細胞への分化には影響を及ぼさなかった。また、各種阻害剤を用いた実験から、uPAによるES細胞の分化促進作用は、uPAの活性に起因する可能性が高いことが示唆されている。
4.ES細胞の分化促進方法
本発明において、uPAはES細胞の分化を促進することができる。本発明において、uPAは好ましくはES細胞から肝細胞への分化を促進することができる。
本発明において、ES細胞は前述のように胚葉体を形成し、そこから分化させてもよいし、胚葉体(EB)を形成せずに分化させてもよい。
ES細胞は、LIFなどの分化抑制因子を含む培養培地から分化抑制因子を除いた培地で培養して分化させることができる。例えば、ES細胞をLIFを含まない培地(例えば、20%FBS含有IMDM)中で培養して分化させることができる。
EBを形成したES細胞を分化させる場合は、例えば、ハンギングドロップ法で培養を開始72時間~168時間後のEBをコラーゲンコートディッシュに播種し、20%FBS含有IMDMを用いて培養することで分化させることができる。コラーゲンコートディッシュは市販のもの(例えば、Iwaki,code#4010-010)を使用することができるし、公知の方法で作製したものを使用することもできる。
本発明において、uPAはEBをコラーゲンコートディッシュに播種した後、終濃度が0.1~1000u/ml、好ましくは1~100u/ml、より好ましくは5~50u/ml、最も好ましくは10u/mlとなるように培地に添加することで、ES細胞に接触させることができる。
ES細胞にuPAを接触させる条件は、当業者であれば適宜選択することができるが、例えば、37℃、5%COインキュベータ中で、1~30日、好ましくは5~25日、より好ましくは10~20日最も好ましくは15日間接触させることができる。ES細胞にuPAを接触させることで、ES細胞の分化、好ましくはES細胞から肝細胞への分化を促進することができる。
本発明において、uPAのES細胞分化促進作用またはES細胞の分化の態様は、分化マーカーの発現量の測定、光学顕微鏡を用いた形態観察などから判定することができる。
分化マーカーは、公知のものを使用することができ、その発現量を測定することで、ES細胞が分化した細胞の種類、分化する時期、または分化した細胞の量といったES細胞の分化の態様を知ることができる。例えば、未分化細胞のマーカーとしてoctmer binding protein-4(Oct-4)が挙げられ、胆管系の分化マーカーとしてcytokeratin19(CK-19)が挙げられ、肝細胞の分化マーカーとしてalbumin(Alb)、α-fetoprotein(AFP)(胎児期肝細胞)、cytochrome P450 7A1(Cyp7a1)、α-anti-trypsin(AAT)、transthyretin(TTR)が挙げられ、心筋中胚葉の分化マーカー遺伝子としてcardiac muscle actin(CMA)が挙げられる。したがって、例えばAlbの発現が確認されれば、その細胞は肝細胞に分化した可能性が高いと言える。
また、ES細胞の生着を判定するために、sex-determining region Y gene(SRY)などの性別判定マーカーを用いることができる。
分化マーカーまたは性別判定マーカーの発現量は、例えば、細胞に発現するmRNAの量またはタンパク質の量を測定することで明らかにすることができる。
mRNAの測定は、例えば、RT-PCR、リアルタイムPCR、DNAマイクロアレイ、ノザンブロット、in situハイブリダイゼーションなどの方法が挙げられ、好ましくはRT-PCRである。上記の方法は、当業者であれば定法に従い行うことができる。この際、対照遺伝子として、glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)などのハウスキーピング遺伝子を用いてもよい。
タンパク質の測定は、例えば、免疫組織化学的方法、免疫沈降法、ウエスタンブロット、フローサイトメトリーまたは蛍光標識細胞分取(fluorescence activated cell sorting;FACS)、ELISA、RIAなどの免疫化学的方法、または質量分析などによる方法が挙げられ、好ましくはウエスタンブロットが挙げられる。上記の方法は、定法に従い行うことができる。
また、肝細胞への分化は、PAS染色によるグリコーゲン貯蔵細胞の染色によっても確認することができる。PAS染色では、肝細胞に分化した細胞は、濃く染色させる。また、肝細胞への分化は、抗albumin抗体を用いた免疫組織染色またはFACS解析によっても明らかにすることができる。これらの方法は、例えば実施例で用いた方法などの公知の方法によって行うことができる。
さらに、肝細胞の分化機能の指標として、尿素合成能をジアセチルモノオキシム法により測定することもできる。例えば、細胞を洗浄後、5mM NHCl含有Hank’s培地中で、37℃、2時間インキュベーションした後、培養液を回収し、培養液中に含まれる合成された尿素量を定量すればよい。
このように、uPAをES細胞に接触させることによって、ES細胞を分化を促進させることができ、好ましくはES細胞から肝細胞の分化を促進させることができる。また、uPAをES細胞に接触させ、分化させることで、あるいは分化した肝細胞を採取することで肝細胞を調製することができるため、本発明は肝細胞の調製方法を提供することができる。また、uPAはES細胞の分化を促進し、好ましくはES細胞から肝細胞への分化を促進することから、本発明によりuPAの新しい用途、即ち、ES細胞の分化促進剤、好ましくはES細胞から肝細胞への分化促進剤を提供することが可能となった。
また、本発明により調製される肝細胞の集団は、従来のuPAを用いないES細胞の分化方法で調製される細胞集団よりも、未分化の細胞の割合の低いもの(分化度の高いもの)である。
ES細胞は、所定の分化誘導剤の存在下で培養するとどの体細胞にでも分化する能力を有している。また、分化抑制物質の存在下で培養することにより未分化状態のまま細胞を限りなく増殖させることが可能である。そのため、新たな細胞移植療法の細胞供給源として期待されている。しかし、特定の細胞へと分化を誘導することができても、細胞移植に使用できるとは限らない。その理由は、移植に用いる細胞集団の中に未分化の細胞が混在していると、テラトーマを形成する可能性があるからである。テラトーマとは、胚細胞から分化して形成される奇形腫のことである。
そこで、本発明においては、uPAによりテラトーマを予防または防止する方法、およびテラトーマの発症確率の低い肝細胞の移植方法を提供する。
以下に示す実施例では、uPA添加(a)もしくは無添加(b)で18日間分化誘導培養を行ったES細胞に由来する分化細胞、または分化誘導培養を行わないで未分化状態が維持されているES細胞(c)を用いて細胞移植を行った。細胞(b)または細胞(c)をマウスに移植すると、移植を行ったマウス全例でテラトーマが形成した。テラトーマを形成した肝臓では、未分化細胞のマーカーであるoct-4の発現が確認された。uPAによる分化誘導を行わない細胞では、より未分化な細胞が多く含まれており、生着した臓器で多様な細胞へと分化し、テラトーマを形成したと考えられる。一方、uPAを添加して分化誘導した細胞(a)を用いて細胞移植を行ったマウスでは、テラトーマを形成しなかった。これらのことから、uPA添加により分化誘導を行うと、細胞移植の際にテラトーマが形成される確率を減少させることが明らかになった。
すなわち、ES細胞は未分化細胞が多く残っている場合ではテラトーマを形成するが、uPA添加により分化度を高めることで、テラトーマ形成の確率を下げることが可能であること、またはテラトーマの発症を予防もしくは防止することが可能であることが明らかとなった。本発明において、予防は、uPAを用いない従来の移植方法におけるテラトーマの発症率を低減すること、テラトーマの発症時期を遅らすこと、テラトーマの発症を防ぐことなどの意味を含む。
したがって、本発明により、uPAを含有するテラトーマの発症確率低減剤または予防剤が提供される。また、本発明によりuPAをES細胞に接触させ、当該ES細胞から分化した肝細胞(ES細胞由来分化細胞)を生体に移植することを含む、肝細胞移植方法、およびテラトーマの発症確率低減方法またはテラトーマの予防もしくは防止方法が提供される。
ここで、細胞を移植される生体(レシピエント)は、特に限定されず、哺乳動物であることが好ましい。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウシ、サル、ヒト等を挙げることができ、好ましくは、ヒトまたはマウスである。
細胞の移植方法は、公知の手法を用いることができ、例えば経脾移植、門脈注入法を挙げることができる。
【実施例】
【0006】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
方法
1.ES細胞の培養と肝細胞への分化誘導
(1)ES細胞の培養方法
以下の実施例では、マウス由来のTT2 ES細胞をモデル細胞として実験を行った。
まず、ゼラチン(Nacalai tesque,Code# 16631-05)を0.1%になるように溶解させたPBS(-)8mlを100mm tissue culture dish(Falcon,Code#35-3002)に入れ、3時間以上静置させたディッシュ(以下、「ゼラチンコートディッシュ」ともいう)を作製した。TT2細胞の培養は、ゼラチンコートディッシュ上で行った。培養条件は、Dulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM;日水製薬株式会社,Code#05915)に以下の物質を添加したDMEM(以下、「ES細胞培養用培地(medium)」または「ESM」ともいう)を用い、37℃、5%CO/95%air存在下で細胞がコンフルエントになるまで培養した(Heath and Smith,J Cell Sci Suppl.1988;10:257-66.)。
DMEMに添加した物質
非動化済20%fetal bovine serum(FBS;Bio west,Lot#S05115S1820,Code#S1820)
1.5mg/ml sodium hydrogen carbonate(Nacalai tesque,Code#168-06)
20mM D-(+)-glucose(Nacalai tesque,Code#31213-15)
25mM HEPES(Nacalai tesque,Code#175-14)
1000U/ml recombinant mouse leukemia inhibitory factor(LIF;Amrad,Code#539-24301)
100μM 2-mercaptoethanol(2-ME;Nacalai tesque,Code#214-18)
10mM non-essential amino acids for MEM(NEAA;sigma,Code#M-7145)
(2)ES細胞の解凍方法
クライオチューブで液体窒素中に凍結保存しておいたTT2細胞を37℃の湯浴中で素早く解凍し、直ちにESMを入れた遠沈管に移して細胞を懸濁した。遠心分離(1000rpm,4℃,5min)後、上清を除去した。この作業を二回繰り返して、細胞を洗浄した。細胞洗浄後、再度ESM中に細胞を懸濁し、100mmゼラチンコートディッシュに細胞を播種し、24時間後に未接着細胞を除去し、以後コンフルエントになるまで72時間毎に培地交換を行ってES細胞を培養した。
(3)ES細胞の継代方法
細胞がコンフルエントに到達後、培地を除去してPBS(-)で洗浄した。0.25%トリプシン-EDTA溶液(0.25%trypsin,0.1M EDTA・2Na-PBS)を加え、COインキュベーター内で1~2分間インキュベートし、細胞をディッシュ表面から剥離させた。ESMを加え、酵素反応を停止後、細胞懸濁液を遠沈管に回収し、遠心分離(1000rpm,4℃,5min)した。分離後上清を除去し、再びESMに懸濁し、1.7×10cells/100mm dishの細胞密度で10cmゼラチンコートディッシュに播種し、以後コンフルエントになるまで72時間毎に培地交換を行って培養した。
(4)ES細胞の保存法
ES細胞を0.25%トリプシン-EDTA溶液(0.25%trypsin,0.1M EDTA・2Na-PBS)によりディッシュから剥離、回収後、10%dimethyl sulfoxide含有ESMに細胞密度6.0×10cells/mlとなるように懸濁させ、クライオチューブに1mlずつ分注した。1分間に1℃ずつ液体温度が下がるようにチューブを発砲スチロールの容器に入れ、-80℃フリーザー内で静置し、24時間後、液体窒素に移して保存した。
(5)ハンギングドロップ法によるES細胞からの胚葉体(Embryoid body,EB)の形成方法
細胞培養液を、分化誘導用のLIF未添加、FBS、sodium hydrogen carbonate、2-ME含有Iscove’s modified Dulbecco’s medium(IMDM)(以下、「20%FBS含有IMDM」ともいう)に交換後、ハンギングドロップ法によりEBを形成させた。具体的には、図1に示すように、未分化培養を行っている細胞をPBS(-)により洗浄し、トリプシン処理により細胞を単離した(A)。単離した細胞を20%FBS含有IMDMに懸濁させ、ドロップ中30μlの細胞密度が1×10cellsになるように、100mm petri dish(Falcon,Code#35-1005)のフタに播種し、さらにディッシュ部分には乾燥防止用のphosphate-buffer saline(PBS(-);日水製薬株式会社,Code#5913)を満たして5日間培養した(B)(C)。形成されたハンギングドロップ中のEBはdrop形成5日目に60mm collagen-coated dish(Iwaki,Code#4010-010)に移植し、ディッシュに接着させて20%FBS含有IMDMで分化誘導培養を行った(D)。以下、「20%FBS含有IMDM」を「分化誘導培地」ともいう。図2,8,13に記された培養日数は、ハンギングドロップ法で培養開始後の日数を示す。
実施例において、ハンギングドロップ法を用いて形成したEB由来の細胞の分化度は、分化マーカーのmRNAやそのタンパク質発現量、光学顕微鏡を用いた形態観察などから判定した。例えば、これらの細胞からIsogen TM(NipponGene)を用いてtotal RNAを精製後、RT-PCRにより各種マーカー遺伝子の発現を検討した。また、タンパク質の発現量はWestern blot法により検討した。以下にこれらの方法について記載する。
2.Reverse transcriptase-polymerase chain reaction(RT-PCR)による各種分化マーカーmRNA発現の解析
細胞は、培養液を除去後PBS(-)で2回洗浄し、60mmディッシュに対してIsogenTM(ニッポンジーン,Code#311-02501)を1ml添加して、5分間放置後、セルスクレーパーで回収した。この溶液に、chloroform(Nacalai tesque,Code#08402-55)を0.2ml添加して15秒間攪拌後、常温で3分間放置した。12000rpmで15分間、4℃で遠心分離後、上清を回収した。得られた上清に2-propanolを0.5ml加えて転倒攪拌し、5分間常温で静置後、12000rpmで10分間、4℃で遠心分離後、上清を除去した。得られた沈殿に70%ethanolを1ml添加して洗浄し、さらに7500rpm、5分間、4℃で遠心分離後、沈殿は常温で自然乾燥させた。その後50μlのオートクレーブ処理超純水(DW)に溶解させてtotal RNAとした。
調製したtotal RNAはDWで100倍希釈した後、UV法(RNA;O.D.260=40μg/ml;1.0)により定量した。一定量のtotal RNAをRT-PCRに用いた。PCR反応はGene Amp PCR System9700(Applied Biosystems,Norwalk,USA)を用いて行った。プライマーとPCRの条件は以下の通りである。
0.25μgのtotal RNAを含む5μlの以下の反応液中でfirst strandのcDNAを合成後、サーマルサイクラー(GeneAmp PCR System9700,Perkin-Elmer,CA,USA)によりPCRを行った。PCRはTaq DNA polymerase(ニッポンジーン,Code#317-04161)を用い、cDNAの増幅は、cDNAの変性(94℃、1分)、アニーリング反応(下記に示す各プライマーに最適な温度、1分)、伸長反応(72℃、1分)を1サイクルとし、所定のサイクル数行った。
反応液組成
5×Reaction Buffer(和光純薬工業,Code#186-01251)1μl
10pmol/μl Primer0.25μl、10mM dNTPs(Toyobo Co.Ltd.,Code#ATP-101,TTP-101,CTP-101,GTP-101)0.5μl
10U/μl RNase inhibitor(和光純薬工業,Code#547-00601)0.25μl
10U/μl M-MLV RNase(和光純薬工業,Code#186-01251)0.5μl
total RNA0.25μg
プライマーはマウスの遺伝子情報を基にして設計合成したものを使用した。各プライマーの塩基配列、アニーリング温度、サイクル数は以下に示した通りである。
Transthyretin(TTR)(5’-CGT GGC TGT AAA AGT GTT CA(配列番号3),5’-AGA GTC GTT GGC TGT GAA AA(配列番号4);55.2℃;20cycles)、
α-fetoprotein(AFP)(5’-CCC CCA TTC TCT GAG GAT AA(配列番号5),5’-CTT TGG ACC CTC TTC TGT GA(配列番号6);55.2℃;25cycles)、
α1-anti-trypsin(AAT)(5’-TGT CCC TCT CTG GAA ACT AT(配列番号7),5’-TGT TGA AGT TCA GGA TAG GG(配列番号8);54.2℃;28cycles)、
albumin(Alb)(5’-TTC CTC CTT TGC CTC GCT GGA CTG GTA TTT(配列番号9),5’-GCG AAT TCA TGG AAC GGG GAA ATG CCA AGT(配列番号10);60℃;30cycles)、
glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)(5’-ACC ACA GTC CAT GCC ATC AC(配列番号11);5’-TCC ACC ACC CTG TTG CTG TA(配列番号12);60℃;18cycles)、
octmer binding protein-4(Oct-4)(5’-GGC GTT CTC TTT GGA AAG GTG TTC(配列番号13),5’-CTC GAA CCA CAT CCT TCT CT(配列番号14);60℃;18cycles)、
cytokeratin19(CK-19)(5’-AAG CAG CTC ATG GAC ATC AA(配列番号15);5’-CTT TTA TCA CCC CAG TCA GG(配列番号16);57.6℃;22cycles)、
cytochrome P450 7A1(Cyp7a1)(5’-AGG ACT TCA CTC TAC ACC(配列番号17);5’-GCA GTC GTT ACA TCA TCC(配列番号18);56℃;30cycles)、
sex-determining region Y gene(SRY)(5’-CAG TTC CAC GAC CAG CAG CTT ACC TAC(配列番号19);5’-AGC CAG GCA TCT AGT AAG AGT CCT TGA CC(配列番号20);58℃;36cycles)、
cardiac muscle actin(CMA)(5’-AAA TCA CTG CAC TGG CTC C(配列番号21);5’-TGG GCC TGC CTC ATC ATA C(配列番号22);56℃;23cycles)、
urokinase-type plasminogen activator(uPA)(5’-TTC AAT CCC ACA TTG GAG AAG(配列番号23);5’-TCT TTT CAG CTT CTT CCC TC(配列番号24);58℃;25cycles)。
増幅したDNAは1.5%アガロースゲルでDNA分子量マーカー(株式会社ニッポンジーン,Smart Ladder,Code#315-00664)と共に電気泳動を行った。その後、エチジウムブロマイドを添加した超純水中で染色し、泳動像をポラロイドカメラで撮影し、スキャナーを用いてPCR産物のバンドを画像解析ソフトにより定量的に解析した。
3.Western blot法を用いたalbuminタンパク質発現量測定
各タイムポイントの細胞は、培養液を除去後PBS(-)で2回洗浄し、60mmディッシュに対しPBS(-)を500μl添加し、セルスクレーパーで剥離し、回収した。さらに超音波破砕機により細胞を破砕し、これをサンプルとした。サンプルは、タンパク濃度を測定し、比較するサンプルの中で一番濃度の薄いタンパク質濃度に合わせた(1075~1200μg/ml)。サンプルと等量のサンプルバッファー(0.5M Tris-HCl,10%SDS,10%glycerol,1%bromophenol blue,pH6.8)とを混合し、SDS化した。SDS化したサンプル15μlを10%(ランニングゲル)、5%(スタッキングゲル)のポリアクリルアミドゲルにより8mAで泳動した。ろ紙(Whatman,Chromatography Paper,46×57cm,3MM Chr,Code#3030-917)、メンブレン(Advantec,cellulose nitrate membrane,220×220mm0.45μm,Code#A045A224D)をトランスファーバッファー(20mM Tris,150mM glycine,20%methanol)で浸し、泳動終了後のランニングゲルとともにブロッティング装置にセットして、4℃、30V、500mA、40Wの条件で16時間ブロッティングを行った。さらに、4℃、70V、500mA、40Wの条件で1時間ブロッティングを行った。ゲルをメンブレンから剥離し、ウォッシュバッファー(0.05%Tween20 in TBS,pH7.4)で室温、10分間の洗浄を2回行い、ブロッキングバッファー(3%スキムミルク,0.05%sodium azide in TBS,pH7.4)により室温で2時間、メンブレンをブロッキングし、一次抗体の抗原以外への結合を防いだ。ブロッキング後、ウォッシュバッファーにより室温で、10分間の洗浄を2回行い、抗体インキュベーションバッファー(0.3%non-fat milk,0.05%Tween20 in TBS,pH7.4)により1000倍希釈した抗マウスアルブミンポリクローナル抗体(Bio genesis,Cat#0220-1829,Batch#22062005)を用い、4℃で2時間抗原抗体反応を行った。その後、ウォッシュバッファーにより室温、10分間の洗浄を2回行った。さらに、ペルオキシダーゼ標識したヤギ抗ウサギIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories,Code#111-035-003)を抗体インキュベーションバッファーにより3000倍希釈したものを二次抗体とし、室温で1時間反応させた。その後、ウォッシュバッファーによる洗浄を室温、20分間で2回行い、コニカイムノステインHRP-1000(コニカ株式会社,Code#HRP-1000)を用いてメンブレン上に濃青色のシグナルを得た。
4.タンパク質量測定
BCA Protein Assay Reagent Kit(Pierce,Code#23227)を用いて細胞の全タンパク質濃度を測定した。BCA Protein Assay Reagent A(Pierce,Code#23221)とBCA Protein Assay Reagent B(Pierce,Code#23224)を50:1で良く混合し、マイクロプレート(Nalge Nunc International,Code#269620)に200μlアプライした。サンプルを各wellに50μl添加し、攪拌後、30分間37℃でインキュベートした。マイクロプレートリーダー(ImmunoMini NJ-2300,System Instrument Co.Ltd.)を用い590nmにおける吸光度を測定した。標準液として2mg/ml bovine serum albumin(BSA;Nacalai tesque,Code#012-02)を0,31.25,62.5,125,500,1000,2000μg/mlのタンパク質濃度となるように希釈し、検量線を作成し、サンプルのタンパク質濃度を算出した。
5.PAS染色法
(i)試薬
1)0.5%過ヨウ素酸水溶液;過ヨウ素酸二水和物(Nacalai tesque,Code#26605-32)0.5gを超純水に溶解し、100mlにfill upした。
2)シッフ試薬;塩基性フクシン(和光純薬,Code#064-00582)を1g、亜硫酸水素ナトリウム(Nacalai tesque,Code#312-20)を1g、1N塩酸を20ml超純水に加えて、遮光しながら溶解し、超純水200mlにFill upした。
3)亜硫酸水素ナトリウム(使用時調製);10%亜硫酸水素ナトリウムを6ml、1N塩酸を5ml超純水に加えて、超純水で100mlにfill up後、1時間以上撹拌した。
培養細胞から培養液を除去し、PBS(-)5mlで3回細胞を洗浄した。洗浄後、95%アルコールを5ml加え、30分静置して固定した。30分後、アルコール濃度を80%,5ml、1分、続いて70%,5ml、1分続いて50%,5ml、1分と減少させて徐々に親水させ、最後に超純水で細胞を洗浄した。細胞の洗浄が終了後、0.5%過ヨウ素酸水溶液を加えて10分静置した。10分後、超純水で軽く水洗し、シッフ試薬を加えて10分静置した。10分後、水洗を行わずに、2%亜硫酸水素ナトリウムを加えて1分静置する作業を3回行い、流水で水洗した。水洗終了後、50%アルコール,3分、続いて70%アルコール,2分、続いて95%アルコール,2分、続いて100%アルコール,3分の操作を3回繰り返して脱水操作を行い、脱水終了後に光学顕微鏡で観察を行った。
6.蛍光免疫染色法を用いたalbumin陽性細胞の観察
細胞は、培地を除去し、PBS(-)を3ml加えて、2回洗浄した。洗浄後、0.1%Triton X-100含有PBS(-)を3ml細胞に加えて5分静置した。氷冷100%メタノールを加えて1分細胞固定を行い、メタノールを除去して5%スキムミルク含有PBS(-)3ml中で1時間静置してブロッキングした。5%スキムミルク含有PBS(-)を除去して5%スキムミルク含有PBS(-)で500倍に希釈したウサギ抗マウスアルブミンポリクローナル抗体(Bio genesis,Cat#0220-1829,Batch#22062005)を2ml添加し、1時間インキュベーションした。0.1%Triton X-100含有PBS(-)で3回洗浄し、5%スキムミルク含有PBS(-)で500倍に希釈した二次抗体(sheep anti-rabbit IgG FITC conjugated,MP Biomedicals Inc.,Catalog#55647,Lot#02756)を2ml添加し、遮光した状態で1時間インキュベーションした。洗浄bufferで3回洗浄し、倒立リサーチ顕微鏡(OLYMPUS,IX71)で観察した。
7.Diisopropyl fluorophosphate(DFP)を用いたuPAの不活性化
DFP(和光純薬株式会社,Code#046-28561,Lot#CEE3951)は、水溶液中で速やかに分解される物質である。そのため、DFPの溶解・希釈はイソプロパノールを用いて行った。3000U/mlのuPA(持田製薬)に対し、DFPを終濃度5mMになるように添加した。DFP添加後、室温で2時間放置した。放置後、透析用セルロースチューブ(三光純薬,Code#UC36-32-100)に全量を移し、PBS(-)1Lに対して4℃で24時間透析した。この間、外液を2回交換した。透析処理終了後、zymography、fibrin plateを用いてuPAの不活性化を確認した。確認後、ろ過滅菌を行い、培養添加実験に用いた。
8.Fluorescence activated cell sorting(FACS)を用いたalbumin陽性細胞の解析
培養細胞の培地を除去してPBS(-)で洗浄、0.25%トリプシン溶液にて細胞をディッシュ表面から剥離させた後、以下の組成のコラゲナーゼ溶液を5ml加えて30分間37℃でインキュベートし、細胞間の接着を消化した。
コラゲナーゼ溶液
トリプシインヒビター5mg(Sigma,Trypsin Inhibitor,Type II-O:Chicken Egg White,Code#232-906-9)
コラゲナーゼ50mg(Wako,catalog#035-17604,Lot#CEH0328)
HEPES0.238g,
NaHCO0.035g含有ハンクス溶液100ml(日水製薬株式会社,Code#05906)
消化後、遠心分離(1000rpm,4℃,5分)により細胞を回収して氷冷100%メタノール1mlを用いて細胞を固定した。細胞固定処理後、遠心分離(1500rpm,4℃,5分)し、メタノールを除去した。PBS(-)を500μl添加し、ウサギ抗マウスアルブミンポリクローナル抗体(Bio genesis,Cat#0220-1829,Batch#22062005)を1μl添加して室温で1時間静置後、FITC結合ヒツジ抗ウサギIgG(MP Biomedicals Inc.,Catalog#55647,Lot#02756)を添加し、遮光して1時間静置した。1時間静置後、FSC voltageを80,FITC voltageを300,thresholdを1000に設定したFACS CantoTM(Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)で細胞を取り込み、BD DiVa Softwareを用いて解析した。図12、13は、縦軸にFSC,横軸にFITC強度を表示した。
9.経脾肝移植法を用いたES細胞由来分化細胞の細胞移植法ならびに検討法
先に述べたように、実施例で用いたTT2細胞は、C57/BL6マウスとCBAマウスを交配して樹立されたオスマウス由来のES細胞である。そこで、細胞移植実験には、レシピエントとしてC57/BL6メスマウスを用いた。移植に用いるES細胞は、ハンギングドロップ法によりEBを作製し、コラーゲンコートディッシュに播種して分化誘導培養を行ったものを使用した。分化誘導培養時に、uPA添加もしくは非添加(control)の条件下で細胞を18日間培養し、トリプシン処理およびコラゲナーゼ処理を行い、単離した。
経脾肝細胞移植方法の手順を図14に示す。マウスの体重20gあたり20%CCl溶液(20μl CClに80μlのオリーブオイル添加)を100μl腹腔内に投与し(20μl CCl/20gマウス体重)、肝障害を誘導した(0日)。四塩化炭素投与から6時間後にES細胞由来分化細胞(5×10cells/ml)の懸濁液100μlを脾臓から注入した。移植を行ってから14日後に肝臓と脾臓を回収し、形態観察を行い、テラトーマ形成の有無を確認した。テラトーマを形成した臓器の場合はテラトーマ形成部分を含む2箇所から、テラトーマが観察されなかった肝臓では葉の中心部と端の部分から、テラトーマが観察されなかった脾臓では脾臓を3等分した下極部と中極部からtotal RNAを精製した。オスマウス由来細胞が臓器に生着しているかを確認するため、RT-PCR法を用いてsex determining region on Y chromosome(SRY)の発現を確認した(Kidokoro T et al.,Dev Biol.2005 Feb 15;278(2):511-25.)。また、生着した細胞が未分化細胞、もしくは分化細胞であるのかを確認するため、oct-4の発現を確認した。
実施例1: ハンギングドロップ法による胚葉体(EB)の形成と肝細胞への分化誘導
本実施例では、マウス由来のTT2 ES細胞をモデル細胞に用いて実験を行った。ES細胞から胚葉体(EB)の形成は、ハンギングドロップ法を用いた。ハンギングドロップ培養を開始して5日目のEBをコラーゲンコートディッシュに播種し、20%FBS含有IMDMを用いて培養して肝分化を誘導した。
図2にハンギングドロップ法で分化誘導したES細胞における各種分化マーカーの発現解析結果を示す。分化を誘導したこれらの細胞からtotal RNAを単離後、RT-PCRにより各種分化マーカーの発現を観察した。
図2中、Oct-4はoctmer binding protein-4、CK-19はcytokeratin 19、AFPはα-fetoprotein、TTRはtransthyretin、Albはalbumin、AATはα1-antitrypsin、CMAはcardiac muscle actin、GAPDHはglyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenaseをそれぞれ示す。
上記のようにES細胞を培養した結果、未分化の細胞マーカーであるOct-4はコラーゲンコートディッシュにおいて分化誘導させたEBで6日後以降に発現が確認できなくなった。Albuminやα-fetoproteinなどの肝細胞の分化マーカー、cardiac muscle actin(CMA)などの心筋中胚葉マーカーの遺伝子発現は、ハンギングドロップ法により形成したEBをcollagen-coated dishで培養することによって誘導された。心筋のマーカーであるCMAは、肝細胞の分化マーカーよりも早い段階から発現することがわかった。さらに、ES細胞はEB形成開始18日目に肝細胞への分化度が高くなっていることが示された。
また、分化誘導培養18日後の細胞に、インドシアニングリーン(indocyanine green)を取り込ませて染色した。その結果を図3に示す。図3右の写真は、左の写真の四角で囲んだ部分を拡大したものである。左の写真の矢頭は心筋様細胞を示し、右の写真の矢印は肝様細胞を示す。
その結果、肝細胞特有の大きな核を有する細胞が観察された。また、拍動する心筋様細胞の周辺でインドシアニングリーンを取り込んだ細胞、すなわち肝細胞が多数観察された。この現象は、発生における心筋中胚葉に接する前腸内胚葉が肝細胞へと分化する現象とよく似た現象である(図4)。発生時期には心筋から分泌されるFGFが肝細胞の発生に重要であることも最近報告されている。
本実施例から、EBを形成してES細胞を培養することにより、ES細胞から肝細胞を誘導することが可能であることが明らかになった。そして、この培養系では、まず心筋細胞が出現して心筋由来の何らかの誘導因子により肝細胞への分化が促進されることが明らかになった。
以下の実施例2~6では、肝発生に重要であることが明らかなFGF、またはuPAが、ES細胞の肝細胞への分化に及ぼす影響について検討した。
ハンギングドロップ法により作製したEBを、コラーゲンコートディッシュに播種し、播種と同時にaFGF(Sigma,code#F5542,終濃度20ng/ml)またはヒト由来uPA(持田製薬株式会社、終濃度10u/ml)を添加して培養し、肝細胞への分化に及ぼす影響を検討した。肝細胞への分化度の検討は、肝細胞特異的マーカー遺伝子やタンパク質の発現に加え(実施例2、3、5)、PAS染色によるグリコーゲン貯蔵細胞(実施例4)、蛍光免疫染色によるalbumin産生細胞(実施例4)について検討した。さらに、FACS解析により、albumin産生細胞の質的、量的変化をコラゲナーゼ潅流法により単離したマウス成熟肝細胞と対比しつつ検討した(実施例6)。
実施例2: FGFレセプター阻害剤またはaFGF添加による各種遺伝子、タンパク質発現量の変化
本実施例では、肝臓の発生の初期段階に関与しているFGFに着目し、FGFがES細胞の分化誘導に及ぼす影響を検討した。
分化誘導培地にFGFレセプター阻害剤であるSu5402またはaFGFを添加して18日間培養した。培養後、RT-PCRにて各種分化マーカーの発現を観察した。また、タンパク質の発現量はwestern blot法により解析した。
図5中、Albはalbuminを、AATはα1-antitrypsinを、TTRはtransthyretinを、uPAはurokinase-type plasminogen activatorを、GAPDHはglyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenaseを示す。
ハンギングドロップ法により作製したEBをaFGFの存在下でcollagen-coated dish上で培養したところ、albuminまたはcytochrome P450 7A1(Cyp7a1)(データ示さず)などの各種肝分化マーカーの発現が有意に増加した(図5)。
また、aFGFレセプターのシグナル阻害剤であるSu5402を添加したところ、肝細胞の分化マーカーの発現が濃度依存的に抑制された。
これらの結果から、aFGFはES細胞から肝細胞への分化を誘導する際に、FGFレセプターのシグナルを介してES細胞から肝細胞への分化を促進することが示された。
実施例3: uPA活性阻害剤p-アミノベンザミジン(p-aminobenzamidine)またはuPA添加による各種遺伝子、タンパク質発現量の変化
FGFはuPAの遺伝子発現を誘導することが報告されている。そこで、本実施例では、uPAをES細胞に加えて、その分化に及ぼす影響を検討した。
分化誘導培地にuPA活性阻害剤であるp-アミノベンザミジンまたはuPAを添加して18日間培養した。RT-PCR法にて各種分化マーカーの遺伝子発現を観察した。また、タンパク質の発現量はwestern blot法により解析した。
図6または図7において、Albはalbumin、TTRはtransthyretin、AATはα1-antitrypsin、AFPはα-fetoprotein、uPAはurokinase-type plasminogen activator、GAPDHはglyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase、Cyp7a1はcytochrome P450 7A1、CMAはcardiac muscle actinを示す。
その結果、aFGFと同様にuPAはalbuminやCyp7a1(データ示さず)の発現を増加させ、肝分化を誘導することが示された(図6)。
また、uPAの活性阻害剤であるp-アミノベンザミジン(p-ab)(終濃度100μMまたは200μM)の添加によっても、肝細胞マーカーの発現が抑制された(図7)。
一方、diisopropyl fluorophosphate(DFP)により活性を阻害したuPAまたはuPAと同一の基質特異性を有するtissue-type PAは、肝細胞への分化を誘導しなかった。これらの結果から、肝分化の誘導にはuPA活性が必要である可能性が高いことが明らかになった。
次に、uPA添加による遺伝子発現傾向の経時的な変化を検討した。
分化誘導培地にuPA添加または無添加して18日間培養を行った。RT-PCR法によって、各種分化マーカーの発現を観察した。
図8において、Albはalbumin、Cyp7a1はcytochrome P450 7A1、CMAはcardiac muscle actin、GAPDHはglyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenaseを示す。
その結果、FGFやuPAを添加しないcontrol細胞における肝細胞分化マーカー(Cyp7a1)の発現は、心筋の分化マーカーであるCMAの発現ピークが現れた後に発現が増加した。これは、心筋細胞により産生される何らかの誘導因子が肝細胞への分化に重要であることを示している(図8)。
一方、uPAを添加するとCMAの発現がピークに達する前に肝細胞分化マーカーの発現が上昇した(図8)。
本実施例から、uPAがES細胞の肝細胞への分化を誘導することがはじめて明らかになった。
実施例4: PAS染色によるグリコーゲン貯蔵細胞の観察および蛍光免疫染色によるalbumin産生細胞の観察
本実施例では、FGFまたはuPA等を添加しないcontrol細胞とuPA添加細胞に対して、PASによるグリコーゲン貯蔵細胞の染色およびalbuminの蛍光免疫染色を行った。
分化誘導培地にuPAを10u/mlになるように添加または無添加して培養し、15日目にPAS染色を行い、培養9日目に抗albumin抗体を用いてalbumin産生細胞を検出(緑色)した。PAS染色の結果を図9に示す。白矢印は心筋様細胞を示す。Albuminの蛍光免疫染色像を図10に示す。図10A)は明視野像を示し、B)は蛍光像を示す。図10の左図は、分化誘導を行っていないES細胞の結果を示す。
その結果、control細胞では心筋細胞周囲にPAS染色陽性のグリコーゲン顆粒陽性細胞が局在しているのに対し、uPA添加細胞では心筋細胞の周囲以外にもグリコーゲン顆粒陽性細胞が多数観察された(図9)。さらに、controlと比較してuPA添加細胞により強いPAS染色像が確認された。
また、albuminの発現はcontrol細胞ではほとんど確認できなかった。Albuminを発現する細胞はPAS染色陽性細胞の局在とよく一致して、細胞が多層構造を形成している部分で観察され、albumin陽性細胞もuPA添加により増加していた(図10)。
実施例5: uPA、DFP処理uPAまたはtPA添加による遺伝子発現量の変化
分化誘導培地にuPA、DFP処理uPA(DFP-uPA)またはtPAの各因子を添加、もしくは、無添加(cont)で18日間培養した。uPAをDFPで処理することによりuPAを不活化することができる。RT-PCR法にて各種分化マーカーの発現を観察した。
その結果、uPAの添加により、肝分化マーカーであるalbuminまたはCyp7a1の発現量が増加した(図11)。DFP-uPA、tPAの添加によっては、肝分化マーカーの発現量はほとんど変化しなかった(図11)。
実施例6: albumin産生細胞の解析
本実施例では、肝細胞の発現マーカーであるalbuminを産生する細胞をFACSで解析した。すなわち、uPAの添加により分化した細胞が、肝細胞と同じ特徴を有するかをFACS解析により検討した。
まず、マウス成熟肝細胞のFACS解析を行った。コラゲナーゼ潅流法により調製したマウス成熟肝細胞を抗albumin抗体を用いてFACS解析を行った。その結果、マウス成熟肝細胞中に、albumin陽性な細胞集団を同定することができた(図12)。
次に、分化誘導培地にuPA、DFP処理uPAまたはtPAを添加して9日間培養した。トリプシンおよびコラゲナーゼ処理を施して細胞を単離し、抗albumin抗体を用いてFACS解析を行った。
その結果、uPAを添加したES細胞由来分化細胞では、controlと比較してalbuminを産生する細胞が増加していた(図13)。このalbuminを産生する細胞集団は、マウスから単離した成熟肝細胞とほぼ同様な大きさ、albumin発現量を示した。ES細胞から分化させた細胞(Cont)では、全体の22%がこのようなalbumin産生細胞であるのに対し、uPA添加により分化を誘導した細胞(uPA)では、albumin産生細胞は全体の52%にまで増加していた。
また、albumin産生細胞は、DFP処理uPA(DFP-uPA)を添加した細胞では全体の27.8%であり、tPAを添加した細胞では27.2%であった。
したがって、uPAのみがES細胞から肝細胞への誘導を促進することが明らかになった。
実施例7: 移植後の肝臓および脾臓の形態観察並びに各種分化マーカーのRT-PCR解析
マウスへの細胞移植は、(i)分化誘導培養を行わないで未分化状態が維持されているES細胞を用いた群、および(ii)uPA添加による細胞分化誘導を行わないcontrol細胞を用いた群と(iii)uPA添加により分化誘導を行った細胞を移植するuPA群を設け、ES細胞移植群は4匹、そのほかそれぞれの群について3匹ずつに移植を行った。移植後14日後に臓器を回収し、テラトーマの形成を観察した。
また、細胞移植後、肝臓と脾臓からtotal RNAを回収してRT-PCRを行い、各種遺伝子発現を測定した。テラトーマ形成が確認された臓器では、テラトーマ形成部位からtotal RNAを単離した。テラトーマ形成が確認されなかった肝臓では、葉の中心部分と端の部分からtotal RNAを単離し、脾臓では脾臓を三等分し、細胞注入を行った下極部分と中極部分からtotal RNAを単離した。
結果を表1に示す。表1中、Oct-4はoctmer binding protein-4を示し、SRYはsex-determining region Y geneを示す。
【表1】
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Control細胞を移植したマウス(uPA(-))では、肝臓で3匹中3匹にテラトーマが形成していた。また、細胞を注入した脾臓でも3匹中1匹にテラトーマの形成が確認された。一方、uPA添加群(uPA(+))では、肝臓に明確なテラトーマを形成したマウスは存在しなかった。また、脾臓についてもテラトーマを形成したマウスは存在しなかった。なお、分化誘導培養を行わないで未分化状態が維持されているES細胞を細胞移植に用いると、全例でテラトーマを形成した。
Control細胞(uPA(-))を移植したマウスの肝臓では、オスのマーカーであるSRY遺伝子発現は3匹中3匹で確認されたことから、細胞移植に用いたオス細胞がメスマウスの肝臓中で生着したことが示された。また、未分化細胞のマーカーである、oct-4の発現も3匹中3匹で発現が確認された。脾臓でのSRY遺伝子の発現は3匹中1匹のみ確認され、oct-4遺伝子の発現は脾臓では1匹も確認されなかった。Oct-4遺伝子の発現は見られなかったものの、移植に用いた細胞がテラトーマを形成する原因であった可能性が高い。
一方、uPA添加群(uPA(+))の肝臓でのSRY遺伝子発現は3匹中2匹で確認され、oct-4遺伝子の発現は3匹中0匹であった。脾臓でのSRY遺伝子の発現は3匹中1匹で確認され、oct-4の発現は3匹中0匹であった。これらのことから、uPA添加により分化誘導を行うと、細胞移植の際にテラトーマが形成される確率を減少させることが明らかになった。
本実施例において、uPAを用いて分化させた細胞をマウスに経脾移植すると、テラトーマ形成率が低下した。また、未分化マーカーであるoct-4遺伝子の発現も観察されなかった。また、uPA非存在下で分化誘導した細胞を移植すると、肝臓や脾臓においてテラトーマが形成された。これらの臓器では、oct-4の発現が観察されたことから、uPAを用いて分化させた細胞に比べて移植した細胞の分化度が低いことが示された。このことから、uPAによる分化を行わなかった細胞では、より未分化な細胞が多数含まれており、生着した臓器で多様な細胞へと分化し、テラトーマを形成したと考えられる。そして、uPAを用いて分化させた細胞は、従来方法で分化させた細胞に比べて分化度が高いことが示された。
また、本実施例により、ES細胞は特定の機能細胞に分化させ、好ましくはその分化度を高めることにより、移植が可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0007】
本発明により、uPAを含む効率的なES細胞の分化促進剤、好ましくはES細胞から肝細胞への分化促進剤、または効率的なES細胞の分化促進方法、好ましくはES細胞から肝細胞への分化促進方法が提供される。また、本発明により、肝細胞の調製方法が提供される。また、本発明により、テラトーマの発現確率の低い移植方法が提供される。さらに、本発明により、テラトーマの予防剤またはテラトーマの予防方法が提供される。
本発明により、ES細胞から肝細胞への分化はuPAにより誘導されることが初めて明らかとなり、uPAを用いてES細胞から肝細胞に効率的に分化させることが可能となった。
本発明は、好ましくは、ドナー不足、拒絶反応、臓器提供者における組織欠損など移植療法に関連するさまざまな問題の解決策の一つになり得る。
さらに、本発明により得られる肝細胞は、好ましくは従来の分化誘導方法による細胞と比べて分化度が高いものである。そのため、本発明により、好ましくは、移植に起因するテラトーマ(奇形腫)を発症する危険性が低く、移植療法により適した肝細胞を提供することができる。
【配列表フリ-テキスト】
【0008】
配列番号3~24:プライマー
[配列表]
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図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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