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明細書 :鳥類由来細胞用の培養液、及び培養方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4997451号 (P4997451)
登録日 平成24年5月25日(2012.5.25)
発行日 平成24年8月8日(2012.8.8)
発明の名称または考案の名称 鳥類由来細胞用の培養液、及び培養方法
国際特許分類 C12N   5/02        (2006.01)
C12N   5/071       (2010.01)
FI C12N 5/02
C12N 5/00 202A
請求項の数または発明の数 5
全頁数 7
出願番号 特願2008-517749 (P2008-517749)
出願日 平成18年5月31日(2006.5.31)
国際出願番号 PCT/JP2006/310852
国際公開番号 WO2007/138689
国際公開日 平成19年12月6日(2007.12.6)
審査請求日 平成21年5月26日(2009.5.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】門井 克幸
個別代理人の代理人 【識別番号】100079108、【弁理士】、【氏名又は名称】稲葉 良幸
【識別番号】100080953、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 克郎
審査官 【審査官】柴原 直司
参考文献・文献 特表2000-512128(JP,A)
Exp. Cell Res., (1994), 214, [2], p.642-653
Dev. Growth Differ., (1982), 24, [1], p.115-123
GIBCO 細胞培養カタログ2003~2004, (2003), p.24-26
調査した分野 C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
L-オルニチンおよび加熱不活化したウシ胎児血清を含む、鳥類由来細胞用の培養液。
【請求項2】
前記L-オルニチンの含有量が170~250mg/Lである、請求項1に記載の培養液。
【請求項3】
L-アラニン、L-アルギニン、L-システイン、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-オルチン、L-フェニアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオン、L-卜リプ卜ファン、L-タイシン、及びL-バリン、を含む、請求項1または2に記載の培養液。
【請求項4】
鳥類由来細胞の培養方法であって、
(a)鳥類由来細胞を準備する工程と、
(b)培養液中にて前記細胞を培養する工程と、を含み、
前記培養液が、L-オルニチンおよび加熱不活化したウシ胎児血清を含む、培養方法。
【請求項5】
前記培養工程は、ホウケイ酸ガラス容器又は細胞培養用プラスチック容器内で行われる、請求項4に記載の培養方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、鳥類由来細胞用の培養液及び培養方法に係り、より詳細には、鳥類由来細胞の多数の継代培養が可能な培養液及び培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
培養細胞を用いた実験研究では、試験管や細胞培養フラスコ内で容易に長期培養できる株化細胞を用いると実験が容易に行えることが知られている。基礎免疫学の実験では、実験動物由来株化細胞を用い、その同種の実験動物で実験研究が行われている。
従来から、哺乳動物の組織由来の細胞の培養に適した多種の細胞培養液が、提供されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来提供されている各種の細胞培養液は、哺乳動物の組織由来の細胞の培養には適しているが、鳥類組織由来の細胞の培養には適しておらず、鳥類由来細胞についての多数の継代培養は実現されていなかった。
そこで、本発明者は、鳥類由来細胞の多数の継代培養を実現することができる培養液及び培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記事情に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、L-オルニチンを少なくとも含む、鳥類由来細胞用の培養液を用いて培養することにより、鳥類由来細胞を極めて優位に培養することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、
(1)L-オルニチンを少なくとも含む、鳥類由来細胞用の培養液;
(2)前記L-オルニチンの含有量が、170~250mg/Lである、前記(1)記載の培養液;
(3)前記培養液が、加熱不活化したウシ胎児血清、又は健常なヒナ鶏血清をさらに含む、前記(1)又は(2)記載の培養液;
(4)L-アラニン、L-アルギニン、L-システイン、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-オルニチン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-タイロシン、及びL-バリン、を含む、前記(1)~(3)の何れかに記載の培養液;
(5)鳥類由来細胞の培養方法であって、(a)鳥類由来細胞を準備する工程と、(b)培養液中にて前記細胞を培養する工程と、を含み、前記培養液が、L-オルニチンを少なくとも含む、培養方法;
(6)前記培養液が、加熱不活化したウシ胎児血清、又は健常なヒナ鶏血清をさらに含む、前記(5)記載の培養方法;
(7)前記培養工程は、ホウケイ酸ガラス容器又は細胞培養用プラスチック容器内で行われる、前記(5)又は(6)記載の培養方法;を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、鳥類由来細胞の多数の継代培養が可能な培養液及び培養方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。以下の実施形態は、本発明を説
明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することできる。
【0008】
〔培養液〕
本発明の培養液は、鳥類由来細胞用の培養液であって、l-オルニチンを少なくとも含むものである。
このような培養液を用いれば、鳥類由来細胞をフラスコ容器内で容易に優位に培養することができ、鳥類由来細胞の多数の継代培養が可能となる。
【0009】
本発明の目的を一層達成するために、L-オルニチンの溶媒1リットル中における含有量は、170~250mg/Lであることが好ましく、特に、190~220mg/Lであることが好ましい。
【0010】
上記「鳥類由来細胞」とは、ニワトリ(鶏)、七面鳥、アヒル、鴨、チャボ、ダチョウ等の鳥類に由来する細胞という意味である。
【0011】
上記培養液は、溶媒として再蒸留水を用いることが好ましく、例えば、脱イオン化し、2回蒸留後に、オートクレープ処理した水が好ましい。培養液の無菌化は、メンブランフィルター処理により行われる。
【0012】
上記培養液は、加熱不活化(例えば、56℃、30分)したウシ胎児血清、又は健常なヒナ鶏血清をさらに含むことが好ましい。これにより、本発明の目的を一層達成することができる。
前記のごとく加熱不活化したウシ胎児血清、又は健常なヒナ鶏血清は、培養液に対して5~10容量%添加することが好ましい。
【0013】
上記培養液は、L-アラニン、L-アルギニン、L-システイン、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-オルニチン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-タイロシン、及びL-バリン、を含むことが好ましい。これにより、本発明の目的を一層達成することができる。
【0014】
上記培養液は、培養液作製時に炭酸ナトリウムを含んだ状態で作製してもよい。また、培養液作製時に炭酸ナトリウムを不含の状態で作製しておき、使用時に血清添加と同時に、別に濾過滅菌しておいた7.5%の炭酸ナトリウム液を添加してもよい。その場合、7.5%の炭酸ナトリウム液の添加量は、1000mLの培養液当たり20~30mLが好ましい。
【0015】
上記培養液は、塩類、糖、アミノ酸、ビタミン類、抗生物質等を含んでもよい。
上記培養液には、通常の細胞培養液に添加される各種抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、ナイスタチン等)を添加してもよい。
上記培養液は、表1に示す組成を有することが好ましい。
【0016】
【表1】
JP0004997451B2_000002t.gif
なお、上記培養液は2~8℃の冷暗所に保存することが好ましい。保存に供した後、pHが変化した場合、沈殿物や凝集物の形成が認められた場合、混濁した場合、又は色調が変化した場合は、使用不可とする。
上記培養液は乾燥させ、粉末状にして保存することもできる。この場合、2~8℃で乾燥状態にて保存することが好ましい。粉末が変色、顆粒状/凝集状態、不溶解性を示した場合は、使用不可とする。
【0017】
〔培養方法〕
本発明の培養方法は、鳥類由来細胞の培養方法であって、(a)鳥類由来細胞を準備する工程と、(b)培養液中にて前記細胞を培養する工程と、を含み、前記培養液が、L-オルニチンを少なくとも含むものである。
このような培養方法によれば、鳥類由来細胞をフラスコ内で容易に優位に培養することができ、鳥類由来細胞の多数の継代培養が可能となる。
【0018】
本発明の培養方法においては、上記の培養液を用いることができる。
本発明の培養方法においては、培養液は、加熱不活化(例えば、56℃、30分)したウシ胎児血清、又は健常なヒナ鶏血清をさらに含むことが好ましい。
【0019】
本発明の培養方法においては、前記培養工程は、ホウケイ酸ガラス容器又は細胞培養用プラスチック容器内で行われることが好ましい。
具体的には、前記培養工程では、容器として、洗浄・滅菌した中性ガラス製細胞培養瓶、又は市販の滅菌済み細胞培養用プラスチックフラスコ(例えば、デンマークのNunc社製品、米国のCorning社製品、米国のFalcon社製品、日本の住友ベークライト社製品)を用いることが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
〔実施例1〕
上記表1に示す組成を、脱イオン化した後、2回蒸留し、高圧滅菌処理した水、又は超純水装置(米国のミリポア社製)で作製した水であって、室温(20~24℃)下で、約90%容量分の上記精製水に培養液組成を添加し、完全に溶解し透明になるまで撹拌した。この溶液約9000mLに対して1N-HCl液を1mL加えた後、さらに精製水を加えて100容量分とした。
次に、200~220nmの細孔のメンブランフィルターで濾過滅菌した。そして、この溶液に、前記のごとく加熱不活化したウシ胎児血清を10容量%添加して細胞増殖液(実務上の細胞培養液)を得た。
【0022】
得られた上記細胞培養液を用いて、ホウケイ酸ガラス製フラスコ、及び細胞培養用プラスチック製フラスコ内で、孵化直前の鶏胎児及びヒナ鶏の、肺臓、腎臓、脾臓、及び骨髄の細胞を培養した。
組織細切片を0.1~0.05%EDTA(エチレンジアミン四酢酸/リン酸緩衝液)液中で単個に分離し、その細胞を遠心沈殿して集め、細胞増殖液中に浮遊させ、フラスコに分注して38.5~39.0℃に培養した。7日程度の培養(初代培養細胞)で充分の細胞増殖が得られた。
この初代培養細胞をさらにEDTA液で単個に分散し、細胞増殖液中に浮遊したものを96穴のマイクロプレート(Flow laboratories, Inc社製)に、限界希釈法(Limited Dilution Method)によって培養し、クローン細胞株を樹立した。各クローン細胞株は、フラスコ培養に移し、継代することで、株化細胞を樹立した。鶏胎児の肺臓及び腎臓由来の培養細胞から、2つの株化細胞を樹立した。これらいずれの細胞株も、38.5~39.0℃の培養温度条件で容易に増殖し、少なくとも40代までの継代に成功した。
【0023】
これより、鶏胎児の肺臓及び腎臓からの培養細胞が、in vitroで極めて優位に培養できることが分かった。なお、鶏胎児の肺由来の細胞は、繊維芽細胞形態を示し、鶏胎児腎臓由来の細胞は、上皮細胞形態を示した。
【0024】
次に、細胞における、非特異的エステラーゼ及び酸ホスファターゼの生産性を、常法により検査した。その結果、鳥胎児の肺由来細胞について両酵素の生産が認められたことから、これら細胞は単球-マクロファージ系統であることが分かった。
【0025】
次に、発ガン性との関連を調べる目的で、細胞の浮遊液(リン酸緩衝液1mL当たり2,000,000個の細胞を含む)0.5mLを、生後3日目の白色レグホーン種のヒナ鶏10体の皮下にそれぞれ接種し、1ケ月後に剖検した結果、発ガン性に関する病理学的な所見は認められなかった。
【0026】
また、これらの培養細胞を、鶏白血病の共通抗原として知られるP27抗原の検出キット(米国のIDEXX社製)を用いて調べたところ、明確な陽性反応は認められなかった。
【0027】
さらに、これらの細胞培養に、鶏ニューカッスル病ウイルス(宮寺株)を感染重度0.01で感染させたところ、結果として、ウイルスは細胞内で増殖し、強い細胞病変を惹起し、ウイルス感染後、2~4日の培養過程で、大部分の細胞は死滅した。また、接種ウイルスの有意の複製(感染させたウイルスの増殖)も認められた。
【0028】
〔実施例2〕
加熱不活化したウシ胎児血清の代わりに、健常なヒナ鶏血清を10容量%添加した培養液を用いた場合であっても、上記の細胞株は極めて良く増殖し、少なくとも40代までのフラスコ培養での継代に成功した。
【0029】
〔比較例1〕
L-オルニチンを含まない、市販の各種哺乳動物用細胞培養液に、加熱不活化したウシ胎児血清を10容量%添加した培養液を用いて、上記鶏由来の細胞を培養したところ、5~6代までしか継代できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上の結果から、本発明の培養液を用いれば、鳥類由来細胞のフラスコ内培養が極めて容易にできることが分かった。特に、培養液に加熱不活化したウシ胎児血清、又は健常なヒナ鶏血清を添加して用いることにより、鳥類細胞の単個培養や骨髄細胞の培養も可能となることが分かった。
これにより、本発明の培養液を用いれば、鳥類由来の種々の細胞が容易に培養できたことから、それら培養細胞で増殖可能な鳥類由来のウイルスの培養が可能となる。すなわち、細胞培養で増殖が可能となったウイルスを抗原として用いれば、ワクチン開発も可能となる。また、本発明の培養液により培養される細胞は、鳥類由来細胞のウイルス学、免疫学、生化学、薬理学、病理学に多様な応用の可能性がある。例えば、本発明の培養液は、鳥インフルエンザウイルスの研究に有用である。