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明細書 :細胞物性測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5273660号 (P5273660)
登録日 平成25年5月24日(2013.5.24)
発行日 平成25年8月28日(2013.8.28)
発明の名称または考案の名称 細胞物性測定装置
国際特許分類 G01N   3/40        (2006.01)
G01B  21/20        (2006.01)
FI G01N 3/40 C
G01B 21/20 C
請求項の数または発明の数 3
全頁数 14
出願番号 特願2008-548321 (P2008-548321)
出願日 平成19年12月5日(2007.12.5)
国際出願番号 PCT/JP2007/073521
国際公開番号 WO2008/069250
国際公開日 平成20年6月12日(2008.6.12)
優先権出願番号 2006331934
優先日 平成18年12月8日(2006.12.8)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年12月2日(2010.12.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】尾股 定夫
【氏名】村山 嘉延
個別代理人の代理人 【識別番号】100075258、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 研二
【識別番号】100096976、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 純
審査官 【審査官】福田 裕司
参考文献・文献 国際公開第2003/063719(WO,A1)
特開平07-243846(JP,A)
特開平06-194113(JP,A)
調査した分野 G01N 3/40
G01B 21/20
特許請求の範囲 【請求項1】
測定対象物である生体細胞に超音波を入射する振動子と、測定対象物からの反射波を検出する振動検出センサとを有する探触子と、
測定対象物に対し、探触子をXY平面内の任意の位置に相対的に移動させる平面内移動機構と、
測定対象物に対し、探触子をXY平面に対する高さ方向に相対的に移動させる高さ移動機構と、
探触子に増幅器とともに直列に接続され、振動子への入力波形と振動検出センサからの出力波形に位相差が生じるときは、周波数を変化させてその位相差をゼロに補償し、位相差をゼロに補償したときの周波数を出力する位相シフト回路と、
探触子が測定対象物に接触していないときに位相シフト回路が出力する周波数と、探触子が測定対象物に接触していないときに位相シフト回路が出力する周波数との差である周波数変化量を算出し、接触検出部または硬さ算出部に出力する周波数変化量出力部と、
周波数変化量算出部から出力された周波数変化量を受け取り、受け取った周波数変化量が予め任意に設定された周波数変化閾値を超えたときに、探触子が測定対象物に接触したとして接触信号を出力する接触検出部と、
接触信号が出力されたときの高さ移動機構の高さ方向の位置を、探触子が測定対象物に接触した接触高さとして出力する接触高さ出力部と、
測定対象物に対する探触子のXY平面内の移動位置と、その移動位置における接触高さとに基づいて、測定対象物である生体細胞の3次元表面形状を表示する表面形状表示手段と、
高さ移動機構を用いて探触子の先端を接触高さの位置から予め定めた所定の深さ分だけ沈めた測定高さまで測定対象物の内部に向かって押し付け、そのときに位相シフト回路から出力される周波数を用いて算出される周波数変化量を周波数変化量算出部から受け取り、予め求めておいた周波数変化量と硬さとの関係に基づいて、対象物の硬さを算出して出力する硬さ算出部と、
測定対象物に対する探触子のXY平面内の移動位置と、その移動位置における測定対象物の硬さとに基づいて、測定対象物である生体細胞の2次元的硬さ分布を表示する硬さ分布表示手段と、
を備えることを特徴とする細胞物性測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞物性測定装置において、
探触子は、
振動子と振動検出センサとを含む本体部と、
本体部に接続され細長く延び、曲率半径が5μm以上20μm以下の先端部を有する軸状プローブ部と、
を有していることを特徴とする細胞物性測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の細胞物性測定装置において、
平面内移動機構は、探触子の曲率半径より短い距離の測定ピッチで、測定対象物に対し探触子を移動させることを特徴とする細胞物性測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞物性測定装置に係り、特に測定対象物である生体細胞について、その物性分布を測定する細胞物性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の形状評価も含め物性評価には、例えば顕微鏡による形態的観察法が用いられる。また、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)等のように、微小なカンチレバーを用いて細胞の表面の凹凸と、カンチレバーが接触したことによる凹凸の変化から細胞の応力・歪を測定することが行われる。また、細胞に特殊な蛍光体を配置することで細胞の輪郭等の物性を検出することが行われる。例えば、特許文献1には、一定の温度以上で紫外線によって励起され発光する蛍光体を含む代謝プローブの中に細胞を配置し、紫外線の照射による蛍光体の発光から細胞の温度を検出することが開示されている。
【0003】
なお、本願発明者は、特許文献2において開示されているように、位相シフト法を用いて対象物の硬さを精度よく測定できる方法を開発している。この技術は、振動子から測定対象物に振動を入射し、測定対象物からの反射波を振動検出センサで検出し、入射波と反射波との間に測定対象物の硬さに応じて生じる位相差を位相シフト回路によって周波数を変化させることで位相差をゼロに補償し、その位相差をゼロに補償する周波数変化量から測定物の硬さを求めるものである。この方法によれば、測定対象物に接触して振動を入力し反射波を検出する接触式によって測定対象物の硬さを測定することができる。
【0004】

【特許文献1】特開平11-258159号公報
【特許文献2】特開平9-145691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術において、AFM、SPM等のカンチレバー方式によれば、生体細胞の表面の凹凸と、その凹凸に基づく応力・歪を測定できるが、その測定は細胞の表面に止まり、生体細胞内部を含めた硬さ等の物性を測定するには不十分である。また、特許文献1に示されるようにマーカによって生体細胞の物性を測定する方法では、形状や温度等の測定が可能であるが、例えばガン細胞の硬さ等の物性を測定することができない。また、特許文献2の方法によれば、測定対象物の硬さを測定できるが、測定対象物の表面形状等を測定することができない。
【0006】
本発明の目的は、新しい方法で生体細胞の表面形状を測定できる細胞物性測定装置を提供することである。また、他の目的は、生体細胞の表面形状の測定と共に細胞の硬さを測定できる細胞物性測定装置を提供することである。以下の手段は、これらの目的の少なくとも1つに貢献する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る細胞物性測定装置は、測定対象物である生体細胞に超音波を入射する振動子と、測定対象物からの反射波を検出する振動検出センサとを有する探触子と、測定対象物に対し、探触子をXY平面内の任意の位置に相対的に移動させる平面内移動機構と、測定対象物に対し、探触子をXY平面に対する高さ方向に相対的に移動させる高さ移動機構と、探触子に増幅器とともに直列に接続され、振動子への入力波形と振動検出センサからの出力波形に位相差が生じるときは、周波数を変化させてその位相差をゼロに補償し、位相差をゼロに補償したときの周波数を出力する位相シフト回路と、探触子が測定対象物に接触していないときに位相シフト回路が出力する周波数と、探触子が測定対象物に接触していないときに位相シフト回路が出力する周波数との差である周波数変化量を算出し、接触検出部または硬さ算出部に出力する周波数変化量出力部と、周波数変化量算出部から出力された周波数変化量を受け取り、受け取った周波数変化量が予め任意に設定された周波数変化閾値を超えたときに、探触子が測定対象物に接触したとして接触信号を出力する接触検出部と、接触信号が出力されたときの高さ移動機構の高さ方向の位置を、探触子が測定対象物に接触した接触高さとして出力する接触高さ出力部と、測定対象物に対する探触子のXY平面内の移動位置と、その移動位置における接触高さとに基づいて、測定対象物である生体細胞の3次元表面形状を表示する表面形状表示手段と、高さ移動機構を用いて探触子の先端を接触高さの位置から予め定めた所定の深さ分だけ沈めた測定高さまで測定対象物の内部に向かって押し付け、そのときに位相シフト回路から出力される周波数を用いて算出される周波数変化量を周波数変化量算出部から受け取り、予め求めておいた周波数変化量と硬さとの関係に基づいて、対象物の硬さを算出して出力する硬さ算出部と、測定対象物に対する探触子のXY平面内の移動位置と、その移動位置における測定対象物の硬さとに基づいて、測定対象物である生体細胞の2次元的硬さ分布を表示する硬さ分布表示手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る細胞物性測定装置において、探触子は、振動子と振動検出センサとを含む本体部と、本体部に接続され細長く延び、曲率半径が5μm以上20μm以下の先端部を有する軸状プローブ部と、を有していることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る細胞物性測定装置において、平面内移動機構は、探触子の曲率半径より短い距離の測定ピッチで、測定対象物に対し探触子を移動させることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上記構成により、細胞物性測定装置は、測定対象物に対し、探触子をXY平面内の任意の位置に相対的に移動させることができ、さらにXY平面に対する高さ方向にも相対的に移動させることができる。これにより、探触子を用いて測定対象物に対し2次元的に走査することができる。そして、位相シフト回路を用いて、探触子の高さを移動させて、位相差をゼロに補償する周波数変化量が予め任意に設定された周波数変化閾値を超えたときに、探触子が測定対象物に接触したとする。これにより、測定対象物の接触高さの2次元分布を得ることができる。このように、AFM、SPM等の従来技術とは異なる新しい方式によって、測定対象物である生体細胞の3次元的な表面形状を測定することができる。
【0012】
また、位相差をゼロに補償したときの周波数変化量と硬さとの関係を予め求めておき、探触子の先端を予め任意に定めた測定高さにおいて測定対象物に接触させ、位相差をゼロに補償する周波数変化量から測定対象物の硬さを出力する。測定高さとしては、探触子が測定対象物に接触してからの一定の深さとすることもでき、また、基準面からの一定の深さからとすることもできる。いずれにしても、測定対象物の内部を含めた硬さを測定でき、これによって、測定対象物である生体細胞の表面形状の測定と共に細胞の硬さを測定できる。
【0013】
また、探触子は、振動子と振動検出センサとを含む本体部に接続され細長く延びる軸状のプローブ部を有し、その先端部は、曲率半径が5μm以上20μm以下であるので、測定対象物である生体細胞の微小な部分の表面形状、硬さを測定することができる。
【0014】
また、探触子の曲率半径より短い距離の測定ピッチで、測定対象物に対し探触子を移動させるので、探触子の先端部の大きさよりも細かい測定ピッチで、測定対象物である生体細胞の表面形状、硬さの分布を測定できる。これにより、測定対象物である生体細胞の微小な物性変化を測定できる。また、測定ピッチが細かいことによる測定のばらつきが、探触子の先端部の大きさによって平均化され、測定の信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る実施の形態における細胞物性測定装置の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、探触子と特性算出部の構成について示す図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、位相シフト回路の機能を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、予め求められた周波数変化量Δfと硬さとの対応関係の1例を示す図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、測定対象物であるガン細胞を実体顕微鏡で観察した様子を示す図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において、測定対象物であるガン細胞におけるアクチンの局在について免疫蛍光抗体法を用い、共焦点レーザ顕微鏡にて観察した様子を示す図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、測定対象物であるガン細胞について2次元凹凸分布を測定して表示した例を示す図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、測定対象物であるガン細胞について2次元硬さ分布を測定して表示した例を示す図である。
【符号の説明】
【0016】
6 透明シリコンシート、8 測定対象物、10 細胞物性測定装置、20 探触子、22 軸状プローブ部、24 探触子本体部、26 振動子、28 振動検出センサ、30 XYZ移動機構、32 高さ移動機構、34 測定軌跡、40 特性算出部、42,44,46,48 端子、50 増幅器、52 位相シフト回路、54 周波数変化量算出部、56 接触検出部、58 硬さ算出部、60 制御部、62 平面内移動モジュール、64 高さ方向移動モジュール、66 接触検出モジュール、68 硬さ算出モジュール、70 分布表示モジュール、80 表示部。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、探触子を生体細胞に対し移動させて、XYZ方向に走査するものとして説明するが、走査は相対的なものであればよく、例えば、測定対象物である生体細胞を試料台に固定し、試料台をXYZ方向に移動するものとしてもよい。また、試料台をXY方向に走査するものとし、探触子をZ方向に移動させるものとしてもよい。また、以下において探触子は、振動子と振動検出センサとを積層したものとして説明するが、それ以外の配置方法であってもよい。例えば振動子と振動検出センサとを同心状に配置してもよく、また、振動子と振動検出センサとを並列に別個に配置するものとしてもよい。
【0018】
図1は、細胞物性測定装置10の構成を示す図である。図1には、細胞物性測定装置10の構成要素ではないが、測定対象物8の生体細胞として、コラーゲンシートを貼り付けた透明シリコンシート6の上に培養して付着させたガン細胞が示されている。測定対象物8であるガン細胞の詳細については後述する。細胞物性測定装置10は、探触子20と、探触子20を保持してXYZの3軸方向に移動させるためのXYZ移動機構30と、さらに、探触子20を高さ方向、すなわちZ方向に上下に移動させるための高さ移動機構32と、XYZ移動機構30と、高さ移動機構32と、探触子20のそれぞれに信号線を介して接続される制御部60と、制御部60に接続される表示部80とを含んで構成される。
【0019】
XYZ移動機構30は、測定対象物8である生体細胞に対し、探触子20を図1に示したXYZの3軸方向に任意に移動させる機能を有する。ここで、XY平面は、測定対象物8である生体細胞が固定される試料台の表面に平行な平面である。XYZ移動機構30のうち、Z方向の移動機能は、測定対象物8である生体細胞が試料台の上に固定される高さがばらつく際に、その中心的な高さに探触子20を移動するためのもので、一旦測定対象物8である生体細胞に対して中心的位置の位置決めがなされると、そこでXYZ移動機構30のZ移動機能は完了する。したがって、その後は、XYZ移動機構30は、実質的に、測定対象物8である生体細胞に対し、探触子20をXY平面内の任意の位置に移動させる機能を有することになる。
【0020】
かかるXYZ移動機構30は、いわゆるXYZテーブルと、精密なステッピングモータをX軸、Y軸、Z軸駆動用としてそれぞれ備えるものとして構成することができる。例えば、X軸ステッピングモータは、固定台に対しX軸方向に移動可能なXテーブルを駆動し、Y軸ステッピングモータはXテーブルの上に搭載されY軸方向に移動可能なY軸テーブルを駆動し、Z軸ステッピングモータはYテーブルの上に搭載されZ軸方向に移動可能なZ軸テーブルを駆動するものとして構成することができる。この例では、Z軸テーブル上に探触子20が取り付けられる。固定台は、測定対象物8である生体細胞が固定される試料台と一定の位置関係で相互に固定されている。なお、XYZ移動機構30の制御信号線は、制御部60と接続される。
【0021】
XYZ移動機構30は、そのZ軸方向の移動は、測定対象物8である生体細胞の厚み程度の移動を精密に行う必要があり、そのX軸方向及びY軸方向の移動は、測定対象物8である生体細胞の大きさに対し、十分多数の測定位置を設定できる程度の移動を精密に行う必要がある。これらの精密な移動の必要性から、XYZ移動機構30は、移動分解能として、X軸方向で10nm、Y軸方向で20nm、Z軸方向で10nm程度を確保できる仕様のものが用いられる。
【0022】
高さ移動機構32は、XYZ移動機構32に取り付けられ、探触子20をXY平面に対し高さ方向、すなわちZ方向に上下移動させる機能を有する。上記のXYZテーブル方式のXYZ移動機構30の場合では、Zテーブルに高さ移動機構32が取り付けられ、Zテーブルに対して、探触子20をZ方向に上下移動させる機能を有する。上記のように、XYZ移動機構30は、初期にZ方向の高さ設定を行った後は、実質上XY移動機構、すなわちXY平面内の走査機構として働くが、高さ移動機構32は、このXY走査の間に、各測定点において、高さ方向に探触子20を移動させる。高さ移動機構32の制御信号線は制御部60に接続される。
【0023】
かかる高さ移動機構32は、XYZ移動機構30とは独立のZ軸ステッピングモータで構成することができる。Z軸方向の上下移動は、測定対象物8である生体細胞の厚み方向に対して、十分な分解能の精度で行う必要があることから、10nm程度の移動分解能を有するものが用いられる。
【0024】
探触子20は、振動子26と振動検出センサ28が積層された探触子本体部24と、探触子本体部24から先端に向けて細くなって延びる軸状プローブ部22を含んで構成される。振動子26と振動検出センサ28にそれぞれ一端側が接続される各信号線は、他端側で制御部60に接続される。
【0025】
探触子20は、その根元の部分で高さ移動機構32に接続される。そして、高さ移動機構32は、XYZ移動機構30のZテーブルに取り付けられ、XYZ移動機構30は固定台に対しXYZ方向に移動可能であり、固定台は、測定対象物8である生体細胞が固定される試料台と一定の位置関係にある。したがって、XYZ移動機構30をXY方向に移動させ、適当な測定位置で高さ移動機構32によって探触子20を上下させることで、測定対象物8である生体細胞に対し、2次元的に走査しながら、適当な測定位置で探触子20を生体細胞に接触させることができる。このように、XYZ移動機構30と高さ移動機構32とは、測定対象物8である生体細胞に対し、2次元的に走査しながら、各測定位置で探触子20の先端を生体細胞に接触させる機能を有する測定走査機構である。図1には、測定対象物8である生体細胞に対し、探触子20の先端が2次元的に走査する測定軌跡34が示されている。
【0026】
制御部60は、XYZ移動機構30を制御して、Z方向の初期位置を設定し、XY平面内で探触子20を任意の位置に移動させる平面内移動モジュール62と、高さ移動機構32を制御して、探触子20をXY平面に対する高さ方向に移動させる高さ方向移動モジュール64と、探触子20が測定対象物8に接触することを検出する接触検出モジュール66と、探触子20を測定対象物8に接触させてその硬さを求める硬さ算出モジュール68と、接触検出モジュール66の接触高さ検出機能と、硬さ算出モジュール68の硬さ検出機能とを用いて、測定対象物8の表面形状と硬さ分布とを表示部80に表示する分布表示モジュール70とを含んで構成される。
【0027】
かかる制御部60は、信号処理を行う電子回路と、データ処理等を実行するコンピュータとを組み合わせて構成できる。データ処理等の機能は、ソフトウェアを用いて実行でき、具体的には、例えば細胞物性表示プログラムを実行することで実現できる。
【0028】
図2は、探触子20と、制御部60の接触検出モジュール66、高さ算出モジュール68の機能を実現する電子回路である特性算出部40の構成について抜き出して示す図である。
【0029】
探触子20は、上記のように、先端に向けて細くなって延びる軸状プローブ部22の根元に、振動子26と振動検出センサ28が積層された探触子本体部24を備える。振動子26は、軸状プローブ部22を介してその先端に接触する測定対象物8である生体細胞に超音波を入射する機能を有し、振動検出センサ28は、測定対象物8である生体細胞からの反射波を軸状プローブ部22を介して受け取り検出する機能を有する。図2の例では、振動子26と振動検出センサ28とが直列に積層されて接続され、接続点を接地して用いられている。具体的には、円板状の圧電素子の両面にそれぞれ電極を設けたものを2つ用いて積み重ね、中間の電極2つを一体化して接地電極とし、積み重ねた上面側電極と下面側電極の一方側を振動子26の入力電極とし、他方側を振動検出センサ28の出力電極とする。そして、図2の例では、振動子26の入力電極側の面を軸状プローブ部22の平坦な裏面に接着して固定される。圧電素子としては、市販のPZT素子を用いることができる。
【0030】
軸状プローブ部22は、探触子本体部24から放射される超音波について、小さな測定対象物8である生体細胞上に位置決めして接触できるように、また、小さな生体細胞上のその接触したところからの反射波を探触子本体部24に伝える機能を有する素子である。例えば、探触子20に用いられる振動子26と振動検出センサ28が円板状として、その直径を数mmとすれば、その大きさのままでは、例えば、1mm以下あるいは0.1mm程度の小さな測定対象物8である生体細胞に位置決めして接触することが困難である。そこで、探触子本体部24の外径をできるだけ小さくすると共に、軸状プローブ部22の形状として、探触子本体部24から先端に向けて細くなって延びるものを用いる。
【0031】
具体的な寸法の例を挙げると、探触子本体部24は、軸方向の長さが約15mmで、外径が約2mmから約5mmの円筒部分と、円筒部分に取り付けられ、あるいは一体となって、先端に向けて次第に細くなるテーパ部分とを有する。テーパ部分の先端部の直径は、約0.2mmから約0.5mmである。軸状プローブ部22は、長さが約30mmで、直径が約50μmから約30μmで、先端は、直径dが約1μmから約20μmの半球状に仕上げられる。かかる軸状プローブ部22は、例えば、ガラス棒を加熱溶融し、細長く延ばし、先端を半球状にして成形したものを用いることができる。軸状プローブ部22は、適当な接合材を用いて、探触子本体部24のテーパ部分の先端に取り付けられる。
【0032】
図2には、特性算出部40の構成が示されている。特性算出部40は、振動検出センサ28からの反射波に相当する出力信号を受け取る端子42と、振動子26への入射波に相当する入力信号を出す端子44と、図1に示す制御部60に接続される端子46,48とを有する。特性算出部40の内部は、次のように構成される。
【0033】
振動検出センサ28に接続される端子42は、適当なDCカットコンデンサを介して増幅器50に接続される。増幅器50は、振動検出センサ28によって検出された反射波信号を適当に増幅する電子回路で、周知の増幅回路を用いることができる。
【0034】
増幅器50の出力は、位相シフト回路52に入力され、位相シフト回路52の出力は、端子44を介して振動子26に接続される。したがって、振動子26-軸状プローブ部22-測定対象物8である生体細胞-軸状プローブ部22-振動検出センサ28-増幅器50-位相シフト回路52-振動子26の閉ループが構成される。したがって、位相シフト回路52の内容を適当に設定することで、この閉ループにおいて自励発振を生じさせることができる。
【0035】
位相シフト回路52の機能は、この閉ループにおいて、位相シフト回路52に入力される入力信号の位相θ1と、位相シフト回路52から出力される出力信号の位相θ2との間に位相差が生じるときは、閉ループの発振周波数を変更して、位相差をゼロに補償する機能を有する。そして、位相差をゼロに補償したときの周波数を周波数変化量算出部54に出力する。
【0036】
図3は、位相シフト回路52の機能を説明する図である。図3の横軸は周波数で、縦軸は位相である。ここで、軸状プローブ部22が測定対象物8である生体細胞に接触していないときに、振動検出センサ28からの反射波である位相シフト回路52への入力信号の位相をθ1とし、軸状プローブ部22が測定対象物8である生体細胞に接触していないときの振動子26への入射波である位相シフト回路52からの出力信号の位相をθ2とする。そして、振動検出センサ28からの位相θ1を有する反射波が入力されると、位相シフト回路52は、閉ループの自励発振を持続するために位相θ1と位相θ2の差がゼロとなるように働く。
【0037】
図3において、θ1として示されている位相-周波数特性は、軸状プローブ部22が測定対象物8である生体細胞に接触していないときにおける特性で、位相シフト回路52を除いたとしたとき、つまり位相シフト回路52を用いないときの閉ループの特性である。そして、θ2として示されているのが、位相シフト回路52の位相-周波数特性である。したがって、位相シフト回路52を閉ループ内に設けたときの閉ループの発振周波数f1は、図3においてθ1として示されている位相-周波数特性と、θ2として示されている位相-周波数特性との交点となる。この交点において、位相シフト回路52の入力信号の位相θ1と出力信号の位相θ2との差である位相差がゼロに補償され、閉ループは周波数f1において発振を持続することができる。
【0038】
次に、軸状プローブ部22が測定対象物8である生体細胞に接触すると、空気と生体細胞との振動特性の相違により、振動子26から入射された周波数f1の信号は、周波数も位相も変化を受ける。位相シフト回路52が閉ループ中にない場合には、一般的には周波数の変化は小さい。これに対し位相の変化はかなりあることが知られている。しかしながら、位相の変化を検出する位相検出器はあまり高精度のものがないのが実情である。位相シフト回路52は、この位相の変化を周波数変化に変換する機能を有する。
【0039】
図3において、(θ1+Δθ)として示されている位相-周波数特性は、軸状プローブ部22が測定対象物8である生体細胞に接触したときにおける特性で、θ1として示されている特性と同様に、位相シフト回路52を除いたとしたとき、つまり位相シフト回路52を用いないときの閉ループの特性である。したがって、位相シフト回路52を閉ループ内に設けたときの閉ループの発振周波数f2は、図3において(θ1+Δθ)として示されている位相-周波数特性と、θ2として示されている位相-周波数特性との交点となる。この交点において、位相シフト回路52の入力信号の位相と出力信号の位相との差である位相差Δθがゼロに補償され、閉ループは周波数f2において発振を持続することができる。
【0040】
したがって、軸状プローブ部22が測定対象物8である生体細胞に接触していない状態においてθ1として示される位相-周波数特性と、接触した状態において(θ1+Δθ)として示されている位相-周波数特性との間における位相差Δθは、θ2として示されている位相シフト回路52の位相-周波数特性によって、周波数変化量Δf=f2-f1に変換される。この変換定数=(Δf/Δθ)は、図3から分かるように、位相シフト回路52の特性の設定によって加減できる。このように、位相シフト回路52は、振動子への入力波形と振動検出センサからの出力波形に位相差が生じるときは、周波数を変化させてその位相差をゼロに補償する機能を有する。なお、位相シフト回路52のさらに詳細な内容は、上記特許文献2において開示されている。

【0041】
再び図2に戻り、周波数変化量算出部54は、位相シフト回路52から出力される周波数f1とf2とから周波数変化量を算出する機能を有する。具体的には、閉ループにおいて測定対象物8が含まれないときに位相シフト回路52の作用により自励発振が生じるときの閉ループの発振周波数f1と、閉ループにおいて測定対象物8が含まれるときに位相シフト回路52の作用により自励発振が生じるときの閉ループの発振周波数f2とを受け取って、これらの間の周波数変化量であるΔf=f2-f1を算出する機能を有する。すなわち、周波数変化量算出部54の機能は、測定対象物8が閉ループに含まれないときの発振周波数f1を閉ループから検出してこれを一旦記憶し、次に測定対象物が閉ループに含まれるときの発振周波数f2を閉ループから検出してこれも一旦記憶し、記憶された2つの周波数f1とf2とを読み出して、その差である周波数変化量を演算するという一連の処理を行うものである。
【0042】
算出された周波数変化量Δfは、目的に応じ、接触検出部56、硬さ算出部58に出力される。
【0043】
接触検出部56は、位相差をゼロに補償する周波数変化量Δfが予め任意に設定された周波数変化閾値Δf0を超えたときに、探触子20が測定対象物8である生体細胞に接触したとして接触信号を端子46に出力する機能を有する。ここで、特性算出部40の中で、硬さ算出部58を除いた部分が、図1における制御部の接触検出モジュール66の機能に対応する。
【0044】
周波数変化閾値Δf0は、周波数変化量算出部54における周波数測定の分解能によって定めることができる。例えば、周波数測定の分解能が、測定誤差等を含めて、±1Hz程度であれば、Δf0を数Hz程度に設定することができる。
【0045】
接触検出の手順の1例を、図1、図2を用いて以下に説明する。ここでは、XYZ移動機構30と測定対象物8との間の位置が適切に初期設定されているとする。その状態の後に、高さ移動機構32によって、探触子20を測定対象物8である生体細胞に接触しないように十分高い位置とする。この機能は、制御部60の高さ方向移動モジュール64の機能によって実行される。そして、XYZ移動機構30によって、探触子20を任意の測定位置に移動させる。この機能は、制御部60の平面内移動モジュール62の機能によって実行される。その測定位置において位相シフト回路52から出力される周波数を周波数変化量算出部54で測定し、f1として一旦記憶する。つぎに、高さ移動機構32によって、探触子20を下降させながら、位相シフト回路52からの周波数f2を周波数変化量算出部54で測定し、周波数変化量Δf=f2-f1を求める。周波数変化量Δfは、接触検出部56に出力され、ここで、これを予め設定されている周波数変化閾値Δf0と比較される。ΔfがΔf0以上となると、探触子20の先端が測定対象物8である生体細胞に接触したと判断し、接触検出部56は、接触信号を端子46に出力する。これらの機能は、制御部60の接触検出モジュール66の機能によって実行される。
【0046】
探触子20の先端が測定対象物8である生体細胞に接触したと判断されて接触信号が端子46に出力されると、制御部60は、そのときにおける高さ移動機構32の高さ方向の位置である接触高さ位置を記憶する。この接触高さ位置は、高さ方向移動モジュール64の移動指令の状態等から得ることができる。もちろん、別途に高さ方向移動量検出センサを用いて、接触信号に同期して、探触子20の高さ方向の位置を検出し、これを接触高さ位置としてもよい。接触高さ位置は、相対的なものでもよく、測定対象物8が固定される試料台の表面の高さを基準としたものでもよい。このようにして、測定位置において、測定対象物である生体細胞に接触したときの接触高さ位置を求めることができる。
【0047】
図2に戻り、硬さ算出部58は、探触子20の先端を予め任意に定めた測定高さ位置において測定対象物8に接触させて、周波数変化量Δfから測定対象物8の硬さを算出する機能を有する。上記の接触検出部56によって出力させる接触信号は、測定分解能を適当に上回る程度の周波数変化閾値f0に基づいているので、探触子20が測定対象物8である生体細胞の表面に接触したことを知らせることができるが、生体細胞の内部の硬さを知らせることができない。そこで、測定対象物8である生体細胞の内部の硬さを求めるために、探触子20は、接触高さ位置よりも深い測定高さ位置まで、測定対象物8の内部に向けて押し付けられる。
【0048】
測定高さ位置は、基準高さ位置からの所定の高さとすることができる。例えば、測定対象物8である生体細胞が固定される試料台の表面高さ位置を基準として、任意に設定された高さだけ高い位置を測定高さ位置とすることができる。ここで、測定対象物8である生体細胞は、図1に示されるように、試料台の上に透明シリコンシート6が貼り付けられ、その上のコラーゲンシートの上に付着している。透明シリコンシート6の厚さ、コラーゲンシートの厚さ、生体細胞の厚さ等は、対象とする測定対象物8のそれぞれに対応して異なり、またXY平面内で一様ではない。したがって、好ましくは、測定高さ位置は、各測定位置ごとに、接触高さ位置から所定の深さ分だけ沈ませた高さ位置とすることが好ましい。例えば、接触高さ位置から、さらに1μmだけ、生体細胞の内部に向かって探触子20の先端を沈み込ませた高さ位置を測定高さ位置とすることができる。もちろん、1μmの値は例示であるので、これを別の値、例えば、2μm、3μm等の値に設定してもよい。このように測定高さ位置の高さに探触子20の先端を移動させる機能は、端子46からの接触信号に基づき、高さ移動機構32に指令を出すことで実行できる。すなわち、接触検出モジュール66と高さ方向移動モジュール64の協働によって実現される。
【0049】
探触子20を測定高さ位置まで移動させて、その状態で位相シフト回路52から出力される周波数F2を測定すると、このときの周波数F2は、接触検出の際の周波数f2と一般的には異なった値となる。この周波数F2と、探触子20が測定対象物8と接触していないときの周波数f1との差である周波数変化量Δf=F2-f1は、測定対象物8の硬さ等の物性を反映している。そこで、周波数変化量Δfと硬さとの対応関係を予め求めておくことで、周波数変化量Δfから、その測定位置における測定対象物8である生体細胞の硬さを算出できる。
【0050】
図4は、予め求められた周波数変化量Δfと硬さとの対応関係の1例を示す図である。図4の横軸は、硬さを表すヤング率で、縦軸は位相シフト法による周波数変化量である。ここで、縦軸の周波数変化量は、接触高さ位置から測定高さ位置の間の高さ変化量で規格化してある。図4は、ヤング率がわかっている数種類の試料を予め作成し、図1で説明した細胞物性測定装置10を用い、各試料について、その試料に探触子20が接触していないときの周波数f1と、その試料に探触子20が接触してからさらに1μm沈ませたときの周波数F2をそれぞれ測定し、そのときの周波数変化量Δfを求めて、作成されたものである。異なるヤング率の試料としては、透明シリコン、適当な媒体に60%から100%のシリコンを混ぜたもの、適当な媒体に2%から10%のゼラチンを混ぜたものを用いた。
【0051】
図4から分かるように、ヤング率と周波数変化量Δfとの間には一定の相関関係がある。したがって、図4のような対応関係を予めメモリ等に記憶しておくことで、周波数変化量Δfから、その測定位置における測定対象物8である生体細胞の硬さを算出できる。「Δf-硬さ」の対応関係は、Δfを入力することで硬さが出力される型式で記憶される。具体的には、ルックアップテーブルのような換算テーブルの型式で記憶されてもよく、計算式の形式で記憶されていてもよい。
【0052】
硬さ算出の手順の1例を、図1、図2を用いて以下に説明する。ここでは、接触検出の手順で述べたように、すでに、測定対象物8である生体細胞の任意の測定位置に探触子20が移動され、その測定位置で、接触が検出され、そのときの接触高さ位置が求められているものとする。その測定位置における生体細胞の硬さを求めるには、まず、接触高さ位置から所定の測定高さ位置に探触子20を下降させる。上記の例では、接触高さ位置から1μmさらに下降させる。この機能は、上記のように、制御部60の接触検出モジュール66と高さ方向移動モジュール64の協働によって実行される。そして、その測定高さ位置において、位相シフト回路52からの周波数F2を周波数変化量算出部54で測定し、周波数変化量Δf=F2-f1を求める。周波数変化量Δfは、硬さ算出部58に出力され、ここで、これを予め求められている「周波数変化量Δf-硬さ」の対応関係がメモリ等から読み出され、これを用いて、測定高さ位置における周波数変化量Δfに対応する硬さが算出される。算出された硬さデータは、端子48に出力される。このように、硬さ算出には、図2における特性算出部40の全部の要素が用いられ、その意味で、制御部60の硬さ算出モジュール68は、図2における特性算出部40の全部の要素が対応するとともに、接触検出モジュール66の機能を一部含む。
【0053】
なお、生体細胞のような測定対象物8は、一般的に粘弾性を有する。したがって、同じ測定高さ位置であっても、高い位置から低い位置に探触子20を沈ませて低い位置を測定高さ位置とする場合と、一旦探触子20を低い位置に沈めた後、低い位置から高い位置に探触子20を戻して高い位置を測定高さ位置とする場合とで、測定対象物8の硬さ特性が異なることがある。そこで、測定高さ位置における硬さ測定について、この2種類を区別するものとしてもよい。この場合には、例えば、測定対象物8に接触しない高さから、接触を検知し、そこから1μm沈ませて、沈み状態での硬さを測定し、さらに適当な量沈ませてその後再び測定高さ位置を1μmの位置に戻して、戻し状態での硬さを測定するものとできる。
【0054】
このように、平面内移動モジュール62の機能によってXYZ移動機構30の動作を制御することで、測定対象物8である生体細胞に対し、XY平面内で探触子20を走査させることができ、高さ方向移動モジュール64の機能によって高さ移動機構32の動作を制御することで、測定対象物8について、XY平面に対する高さ方向に探触子20を移動させることができる。そして、さらに、接触検出モジュール66の機能により、走査における各測定位置において探触子20を下降させて、探触子20が測定対象物8の表面に接触した接触高さを検出することができる。ここで、走査における各測定位置のデータと、各測定位置における接触高さのデータとを対応付けることで、測定対象物8である生体細胞の表面の2次元的凹凸、すなわち2次元的表面形状のデータを得ることができる。そして、表示のための適当な画像処理を行うことで、これを表示部80に画像として出力することができる。この機能は、制御部60の分布表示モジュール70の機能によって実行される。
【0055】
そして、さらに、硬さ算出モジュール68の機能により、走査における各測定位置において探触子20を測定高さ位置に移動させて、測定高さ位置における測定対象物8の内部の硬さを検出することができる。ここで、走査における各測定位置のデータと、各測定位置における硬さのデータとを対応付けることで、測定対象物8である生体細胞の硬さの2次元的分布のデータを得ることができる。そして、表示のための適当な画像処理を行うことで、これを表示部80に画像として出力することができる。この機能は、制御部60の分布表示モジュール70の機能によって実行される。
【0056】
以下に、上記の構成の細胞物性測定装置10について、測定対象物8の生体細胞としてガン細胞を用いて、その表面形状と硬さ分布を求めた結果を説明する。以下では、図1、図2の符号を用いて説明する。
【0057】
測定対象物8としては、コラーゲンシートを貼り付けた透明シリコンシート6を、血清1%のDMEM(Dulbecco Modified Eagle’s Medium)培養液に入れ、マウス由来黒色腫瘍B16-F1株胆ガンを、37℃、CO25%の雰囲気の培養器にて2日間培養し、透明シリコン上に付着したガン細胞を用いた。このガン細胞は培養基の上にあり、生きている細胞である。図5に、測定対象物8であるガン細胞を実体顕微鏡で観察した様子を示す。また、図6は、同じガン細胞におけるアクチンの局在について免疫蛍光抗体法を用い、共焦点レーザ顕微鏡にて観察した様子を示す図である。ここでは、細胞の核の周りにアクチンが存在していることが分かる。図5からわかるように、測定対象物8であるガン細胞の大きさは、平面寸法が長手方向で約100μm以下の小さなものである。
【0058】
このガン細胞が付着した透明シートを細胞物性測定装置10の試料台に固定し、XYZ移動機構30によって、高さ位置を適当に調整し、その後、XYZ移動機構30を制御して、測定対象物8である生体細胞について、探触子20をXY平面内で走査した。
【0059】
ここでは、探触子20の先端の直径dが約20μmの半球状であり、ガン細胞の大きさが長手方向でも約100μm以下であることを考慮し、測定領域を約60μm×約60μmに設定し、その領域内で走査し、X方向で2μm、Y方向で2μmのピッチで測定位置を定めた。つまり、場合によっては探触子20の曲率半径より短い距離の測定ピッチで、測定対象物8に対し探触子20を移動させて走査した。そして、各測定位置において、上記の位相シフト法を用いる方法によって、接触高さを求めた。また、各測定位置において、接触高さからさらに1μmだけ生体細胞の内部に向かって探触子20を押し付け、その接触高さ位置において、上記のように、位相シフト法を用いる方法によって、硬さを求めた。
【0060】
60μm×60μmの測定領域において、2μm×2μmのメッシュで測定位置を設定し、各測定位置における接触高さのデータを測定位置データと関連付け、2次元凹凸分布として表示した例を図7に示す。図7から、ガン細胞のテクスチャである表面の凹凸は、中央部が高く隆起し、周辺部が低く平面的になっていることが分かる。測定データによれば、中央部の高さは約+4μm、周辺部の高さは-1μmであった。
【0061】
図8は、同じ測定領域において、各測定位置における硬さのデータを測定位置データに関連付け、2次元的硬さ分布として表示した例である。図の中で、Sとあるのは相対的に硬さ値が低く、柔らかいことを示し、Hとあるのは相対的に硬さ値が高く、硬いことを示す。図8から分かるように、硬さ分布は、中央部の柔らかい部位、その外側の硬い部位、周辺部の柔らかい部位に分けることができる。測定データによれば、中央部の柔らかい部位のヤング率は、約150kPa、その外側の硬い部位のヤング率は、約300kPa、周辺の柔らかい部位のヤング率は、約50kPaであった。
【0062】
図7と図8とを参照すると、このガン細胞は、中央の隆起している部分が柔らかく、その周辺に硬い部分があることが分かる。図5の実体顕微鏡の観察結果も参照すると、中央部の柔らかい部位がガン細胞に対応するものと考えられる。また、図6の組織画像を算用すると、ヤング率の高い部位と低い部位とは、細胞の核とアクチンにそれぞれ対応するものと考えられる。
【0063】
このように、図1の細胞物性測定装置10によれば、位相シフト法を用いることで、測定対象物である微小な生体細胞について、表面凹凸、及び、細胞内部の硬さ分布を測定することができた。上記のように、実験に使用した生体細胞は、培養基の上の生きたガン細胞である。このように、生きた生体細胞について、表面凹凸、及び、細胞内部の硬さ分布を測定することができた。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7