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明細書 :クラスレートハイドレートの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5489150号 (P5489150)
公開番号 特開2010-195988 (P2010-195988A)
登録日 平成26年3月7日(2014.3.7)
発行日 平成26年5月14日(2014.5.14)
公開日 平成22年9月9日(2010.9.9)
発明の名称または考案の名称 クラスレートハイドレートの製造方法
国際特許分類 B01J  19/00        (2006.01)
B01F  17/00        (2006.01)
B01F  17/52        (2006.01)
C10L   3/06        (2006.01)
FI B01J 19/00 A
B01F 17/00
B01F 17/52
C10L 3/00 A
請求項の数または発明の数 2
全頁数 13
出願番号 特願2009-044735 (P2009-044735)
出願日 平成21年2月26日(2009.2.26)
審査請求日 平成24年2月23日(2012.2.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】山▲崎▼ 博司
個別代理人の代理人 【識別番号】100079108、【弁理士】、【氏名又は名称】稲葉 良幸
【識別番号】100080953、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 克郎
審査官 【審査官】森 健一
参考文献・文献 特開2000-144159(JP,A)
国際公開第2008/142262(WO,A1)
特開平02-003497(JP,A)
調査した分野 B01J 19/00
C10L 3/00
特許請求の範囲 【請求項1】
クラスレートハイドレートのゲスト物質となるべき物質と水と油と界面活性剤とを含有する油中水滴形エマルジョンを撹拌しながら形成する工程と、
前記油中水滴形エマルジョンを撹拌しながら冷却する工程と、を有するクラスレートハイドレートの製造方法であって、
前記エマルジョン中に前記水を特定の割合で含有させ
前記冷却する工程において、前記形成する工程における撹拌の剪断力よりも弱い剪断力で撹拌する、製造方法。
【請求項2】
前記ゲスト物質がテトラヒドロフランであり、前記油がジメチルシリコンオイルであり、前記界面活性剤がソルビタンモノオレエートである、請求項1に記載のクラスレートハイドレートの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、クラスレートハイドレートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球環境問題の中でも二酸化炭素による温室効果が引き続き注目されており、発電用及び工業用の化石燃料燃焼ガスからの二酸化炭素を分離回収して、海底や地中に輸送し貯留する手段が検討されている。分離法としては、例えば、アミン等の溶液やゼオライト粒子等の固体材料を使った吸収又は吸着による分離法が考えられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2002-346329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1を始めとする従来の分離法のうち、アミン等の溶液によって二酸化炭素を吸収する方法では、二酸化炭素を吸収したアミンを地中に貯留するため、地球環境の観点からは当然に好ましくない。また、二酸化炭素を吸着した固体材料を海底や地中に貯留するには、その固体材料をタンカーやタンクローリーなどの積載して運搬する必要があり、処理コストや煩雑性の観点からやはり好ましくない。
【0005】
ところで、クラスレートハイドレート(包接水和物、以下、単に「ハイドレート」という)は、水分子が水素結合により籠状状態に結合し、その中にゲスト物質を捕捉した構造を有する。ハイドレートは、ゲスト物質がメタンであるメタンハイドレート、二酸化炭素である二酸化炭素ハイドレートに見受けられるように、ゲスト物質の液化保存に対して水を媒体とすることにより圧力条件や温度条件を著しく緩和される。
【0006】
そこで、燃焼ガス中の二酸化炭素の分離回収方法として、二酸化炭素をハイドレート化して分離する方法が考えられる。この方法によると、媒体が水であるため、上述のような地球環境上の問題は著しく低減される。また、媒体が液状の水であるため、配管を用いた輸送も可能であり、タンカーなどにより運搬する必要もなくなると考えられる。
【0007】
しかしながら、従来のハイドレートは、ハイドレート同士が凝集して大きな氷塊の状態で存在するため、配管内を流動させようとしても氷塊の状態で滞留し、場合によっては配管を閉塞する結果、その輸送が困難になるという問題点がある。そこで、液体中におけるハイドレート同士の凝を抑制して、良好な分散性を維持できる技術が求められる。
【0008】
本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、水中におけるハイドレート同士の凝を抑制して、良好な分散性を維持したクラスレートハイドレートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、界面活性剤を利用した油中水滴形エマルジョンを冷却するとハイドレートの生成が可能であることを見出した。さらに本発明者は、そのエマルジョンにおける特定の因子を調節することで、更に驚くべきことに、ハイドレートの良好な分散性を長時間に亘り維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、[1]クラスレートハイドレートのゲスト物質となるべき物質と水と油と界面活性剤とを含有する油中水滴形エマルジョンを撹拌しながら形成する工程と、前記油中水滴形エマルジョンを撹拌しながら冷却する工程と、を有するクラスレートハイドレートの製造方法であって、前記エマルジョン中に前記水を特定の割合で含有させ、前記冷却する工程において、前記形成する工程における撹拌の剪断力よりも弱い剪断力で撹拌する、製造方法、並びに、[2]前記ゲスト物質がテトラヒドロフランであり、前記油がジメチルシリコンオイルであり、前記界面活性剤がソルビタンモノオレエートである、[1]のクラスレートハイドレートの製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水中におけるハイドレート同士の凝を抑制して、良好な分散性を維持したクラスレートハイドレートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態のクラスレートハイドレートの製造方法を示すフローチャートである。
【図2】本実施形態のクラスレートハイドレートの製造方法に用いられる製造装置の一例を示す概略図である。
【図3】クラスレートハイドレートの光学顕微鏡写真を示す図である。
【図4】実施例に係る油中水滴形エマルジョンを冷却した際の温度プロファイルを示す図である。
【図5】油中水滴形エマルジョン中の純水の混合割合とクラスレートハイドレートの粒子径との関係の一例を示すプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。

【0014】
図1は、本実施形態のクラスレートハイドレート(以下、単に「ハイドレート」という)の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態のハイドレートの製造方法は、ハイドレートのゲスト物質となるべき物質と水と油と界面活性剤とを含有する油中水滴形エマルジョンを撹拌しながら冷却する工程(以下「撹拌冷却工程」という)S30を有し、上記エマルジョン中に水を特定の割合で含有させるものである。より具体的には、その製造方法は、ハイドレートのゲスト物質となるべき物質と水と油と界面活性剤とを準備する準備工程S10と、それらを混合して撹拌することにより油中水滴形エマルジョンを生成するエマルジョン生成工程S20と、その油中水滴形エマルジョンを撹拌しながら冷却する撹拌冷却工程S30とを有する。

【0015】
準備工程S10では、ハイドレートの原料となる水、及びハイドレートのゲスト物質となるべき物質に加えて、油及び界面活性剤をそれぞれ準備する。ハイドレートのゲスト物質となるべき物質は、その用途目的に応じて選択され、例えば、二酸化炭素、テトラヒドロフラン、メタン、窒素、酸素、アルゴン、エタンが挙げられる。

【0016】
水としては、例えば、純水、イオン交換水の他、海水に代表される無機塩を含む水があげられる。

【0017】
油としては、油中水滴形エマルジョンを形成可能であり、かつ後述の撹拌冷却工程S30において凝固しないものであれば特に限定されない。その具体例としては、例えば、ジメチルシリコンオイル、メチルフェニルシリコンに代表されるシリコンオイルの他、ヘキサデカン、テトラデカン、ドデカンに代表される炭化水素油、石油パラフィン、植物油が挙げられる。

【0018】
界面活性剤としては、油中水滴形エマルジョンを形成可能であり、かつ後述の撹拌冷却工程S30において凝固しないものであれば、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれであってもよい。カチオン性界面活性剤としては、例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウムが挙げられ、アニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルアミンが挙げられ、ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンラウリルエーテルが挙げられる。

【0019】
上記各材料の組合せは、用途目的に応じて選択されたハイドレートのゲスト物質となるべき物質を基準として、油中水滴形エマルジョンを形成可能であること、ハイドレートを形成可能であること、ハイドレートの良好な分散性を長時間に亘り維持できること、を条件として決定される。例えば、ハイドレートのゲスト物質となるべき物質としてテトラヒドロフランを用いる場合、水として純水、油としてジメチルシリコンオイルに代表されるシリコンオイル又はヘキサデカン、界面活性剤として、ノニオン性界面活性剤であるHLB4.3のソルビタンモノオレエート(C24446)を選択すると好ましい。
また、ハイドレートのゲスト物質となるべき物質として二酸化炭素を用いる場合、油としてシリコンオイル、界面活性剤としてソルビタンモノオレエートを選択すると好ましい。この場合、水は純粋であってもよいが、好適には海水に代表される無機塩を含む水である。

【0020】
次に、エマルジョン生成工程S20では、準備した上記各原料を混合して撹拌することにより油中水滴形エマルジョンを得る。油中水滴形エマルジョンは、油のマトリックス(連続相)中に球状の水滴(分散相)が分散して存在するものであり、その生成は、光学顕微鏡により確認することができる。各原料の混合割合は、油中水滴形エマルジョンを形成可能であること、ハイドレートを形成可能であること、ハイドレートの良好な分散性を長時間に亘り維持できること、を基準にして決定される。例えば、ハイドレートのゲスト物質となるべき物質としてテトラヒドロフラン、油としてジメチルシリコンオイル、界面活性剤としてソルビタンモノオレエートを用いる場合、室温(25℃)における体積基準で、テトラヒドロフラン20体積%、ジメチルシリコンオイル62~67体積%、水10~15体積%、ソルビタンモノオレエート3体積%を混合して撹拌することにより、油中水滴形エマルジョンを得ることができる。

【0021】
なお、本実施形態において、水の混合割合が、最終的に得られるハイドレートの良好な分散性を長時間に亘り維持できるか否かを決める重要な因子の一つとなる。水の混合割合が特定の割合(数値範囲)よりも大きくても小さくても、分散性を長時間に亘り維持することが困難となる。そこで、各原料の混合割合を決定する際は、水以外の各原料の混合割合を決定して固定した後、水の混合割合を種々変化させて、ハイドレートの良好な分散性を長時間に亘り維持できるか否か確認することが好ましい。

【0022】
撹拌方法は、通常のエマルジョンを得るために用いられる撹拌方法であれば特に限定されず、例えばホモジナイザー、スターラーを用いた撹拌方法が挙げられる。あるいは、上記各原料の混合物が配管内を流通している場合は、その流通経路に固定された固定翼や回転翼を設けることによっても撹拌することができる。

【0023】
次いで、撹拌冷却工程S30では、上記油中水滴形エマルジョンを、好ましくは一定圧力の下、冷却しながら撹拌する。冷却方法としては、油中水滴形エマルジョンを収容した容器や、油中水滴形エマルジョンが流通している配管に対して、その外部から冷媒を接触させる方法が挙げられる。冷媒としては、油中水滴形エマルジョンよりも低い温度の液体、気体、固体、あるいは、蒸発に伴う気化熱により油中水滴形エマルジョンを冷却するものであればよく、例えば、空気、水、氷、フロン類、ハロゲン化炭化水素、ブタン、イソブタン、アンモニア、各種アルコール(例えばエチレングリコール)が挙げられる。

【0024】
冷却速度は、特に限定されず、例えば、0.05K/秒であってもよい。ただし、冷却速度が速すぎると過冷却が過大となり(温度条件によっては氷の生成割合が高まり)、ハイドレートの生成を阻害する傾向にあり、遅すぎるとハイドレートの(単位時間当たりの)生成収率が低下する傾向あるため、所望のハイドレートを得るためには、冷却速度を調整する必要がある。また、撹拌冷却工程S30における圧力は、ハイドレートを生成可能な圧力に設定されればよい。

【0025】
なお、本実施形態における「冷却」とは、冷却を開始する温度からの冷却を意味し、上記エマルジョン生成工程S20が終了した際の油中水滴形エマルジョンの温度からの冷却を意味しない。例えば、撹拌冷却工程S30における圧力を40気圧程度の高圧とする場合、大気圧で室温の油中水滴形エマルジョンの冷却を開始する温度は、通常、30℃程度の高温となるので、その温度から冷却を開始する。

【0026】
撹拌冷却工程S30における撹拌操作は、ハイドレートの凝集を防止する上で重要な操作である。その撹拌方法は、特に限定されず、例えばホモジナイザー、スターラーを用いた撹拌方法が挙げられる。あるいは、上記各原料の混合物が配管内を流通している場合は、その流通経路に固定された固定翼や回転翼を設けることによっても撹拌することができる。この工程S30における撹拌は、エマルジョン生成工程S20における撹拌よりも緩やかな撹拌であると好ましい。これにより、油中水滴形エマルジョンに与える剪断力が弱まり、急峻で局所的な剪断力を与えた場合よりも広い範囲での凝を防止できるという効果が得られる。撹拌を緩やかにするには、同じ撹拌手段を用いる場合は、例えばホモジナイザーやスターラーの回転数を低減したりすればよい。また、異なる撹拌手段を用いる場合は、剪断力を弱めればよい。

【0027】
こうして、水分子が水素結合により籠状の状態に結合し、その中にゲスト物質を捕捉した構造を有するハイドレートが得られる。油のマトリックス(連続相)中に、ハイドレート粒子(分散相)が良好に分散して存在するため、その全体はスラリー状になる。ハイドレートの生成は、光学顕微鏡により確認することができる。ハイドレート粒子は、エマルジョンにおける水滴と比較して、球の形状が明らかに崩れていることから、それらを判別することができる。また、エマルジョンを冷却していくと、ある温度Aまで低下した後、極めて急激に別の温度Bまで上昇し、その温度Bを一定時間維持した後、再び温度が低下し始める現象が認められる。この現象は、まさに過冷却の現象であることから、温度Bまで上昇した時点からハイドレートが生成し、再び温度が低下し始める時点でハイドレートの生成が完了することを示唆している。

【0028】
上記ハイドレートは、従来のハイドレートと異なり、ハイドレート粒子同士が互いに凝集するのを十分に抑制され、連続相に良好に分散するものである。意外なことに、エマルジョン中の水の混合割合が特定の割合よりも高くても低くても、連続相中に良好に分散したハイドレートを得ることはできない。その要因としては、現在のところ詳細には明らかにされていないが、本発明者はその要因の一つして下記のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。

【0029】
すなわち、水の混合割合が特定の割合よりも高い場合、生成するハイドレートの量が多くなるため、各ハイドレート粒子間の距離が近くなり、互いに接触しやすくなる。ハイドレート粒子同士が接触すると互いに結合する可能性が高くなるので、粒子が凝集しやすくなる。その結果、ハイドレートの分散性が低下する。また、水の混合割合が特定の割合よりも低い場合、ゲスト物質に対する水の割合が低下するため、ハイドレートとして捕捉されない余剰のゲスト物質が発生し、その余剰のゲスト物質がハイドレート粒子の凝集を促進する(例えば、ハイドレート粒子間のバインダーとして機能する、など)と考えられる。その結果、ハイドレート粒子が凝集しやすくなり、ハイドレートの分散性が低下する。
一方、水の混合割合を特定の割合にすると、生成するハイドレートの量が適切になり、ハイドレート粒子間の距離を一定間隔以上に保つことができる。そのため、ハイドレート粒子同士の接触を防止することができる。また、界面活性剤がハイドレート粒子と油のマトリックスとの分離を適度に抑制する。それらの結果、ハイドレートの凝集が抑制され、その分散性が高くなる。

【0030】
次に、図2を参照しながら、本実施形態のハイドレートの製造方法に用いることのできるハイドレートの製造装置について説明する。図2は、そのハイドレートの製造装置を示す概略図である。そのハイドレートの製造装置100は、エマルジョン/ハイドレート容器(以下、「E/H容器」という)102と、攪拌機103と、断熱冷却容器104と、冷媒容器109と、ポンプ110と、冷却機111a、111bとを備える。

【0031】
E/H容器102は、その中に各材料を投入して混合撹拌することで油中水滴形エマルジョンを生成し、さらにはハイドレートを生成するための容器である。攪拌機103は、上記エマルジョン生成工程S20及び撹拌冷却工程S30での撹拌に用いるものであり、それが備える撹拌羽根(スターラー)を回転することで撹拌が行われる。断熱冷却容器104は、上記E/H容器102を、その中に備えており、断熱性を保つことでE/H容器102の温度制御を容易にする。また、断熱冷却容器104には、冷媒として液体冷媒120と空気130とがE/H容器102を包囲し、それと接触するように充填されている。

【0032】
冷却機111aは、その断熱冷却容器104との間で空気130を循環することができるものであり、断熱冷却容器104から受け入れた空気130を冷却して再び断熱冷却容器104に供給する。冷媒容器109は、液体冷媒120を収容するための容器である。液体冷媒120を、断熱冷却容器104からライン125aを経由してポンプ110により冷媒容器109に送出し、そこで、冷却機111bにより液体冷媒120を冷却し、再びライン125bを経由して断熱冷却容器104に供給する。

【0033】
まず、準備工程S10で準備した各材料を、エマルジョン生成工程S20において、E/H容器102に投入して、攪拌機103により混合、撹拌して油中水滴形エマルジョンを生成する。次いで、撹拌冷却工程S30において、その油中水滴形エマルジョンを攪拌機103により、エマルジョン生成工程S20におけるものよりも好ましくは緩やかに撹拌する。それと同時に、液体冷媒120及び空気130を、断熱冷却容器104と冷却機111a及び冷媒容器109との間で循環しながら、油中水滴形エマルジョンを冷却する。このとき、図示しない熱電対によりE/H容器内の温度を監視し、所定の冷却速度で冷却するよう、液体冷媒120及び空気130の流量を調整してE/H容器102内の温度を制御する。こうして、その製造装置100を用いて本実施形態に係るハイドレートを得ることができる。

【0034】
本実施形態のハイドレートの製造方法は、例えば、燃焼ガス中の二酸化炭素を分離回収する技術に好適に用いられる。すなわち、燃焼ガス中の二酸化炭素を選択的に吸収した油中水滴形エマルジョンから上述のようにして良好な分散性を示す二酸化炭素ハイドレートを生成することで、そのハイドレートを配管により輸送しても、配管内でハイドレートが凝集したり、ハイドレートが配管を閉塞したりすることが防止される。その結果、二酸化炭素ハイドレートを配管により輸送することが可能となるので、タンカーやタンクローリーによる輸送を省略することができる。また、アミン等の地球環境上問題となる材料を用いなくてもよいので、その点でも有用である。

【0035】
本実施形態のハイドレートの製造方法は、天然ガスハイドレート生成プラントで生成された天然ガスハイドレートを輸送する技術にも好適に用いられる。すなわち、天然ガスハイドレートの輸送ラインの配管は、そのハイドレートにより閉塞する場合がある。そこで、その閉塞を防止すべく、天然ガスハイドレートの輸送ラインに、エマルジョンを生成するための水、油、界面活性剤を添加するラインを接続して、天然ガスハイドレートを一旦エマルジョンに変換した後、上述のようにして、撹拌しながら冷却することにより、再度天然ガスハイドレートを生成する。こうすることにより、そのハイドレートの分散性が良好となるので、配管の閉塞を防止することが可能となる。

【0036】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
まず、油としてジメチルシリコンオイル、界面活性剤としてソルビタンモノオレエート(商品名「レオドールSP-O10V」、花王(株)製、HLB=4.3)、ハイドレートのゲスト物質なるべき物質としてテトラヒドロフラン(THF、融点=164.7K)を準備した。次いで、ジメチルシリコンオイル67体積%、テトラヒドロフラン20体積%、純水10体積%、ソルビタンモノオレエート3体積%を密閉可能なガラス製容器に注ぎ入れた。次いで、それらの混合物を収容したガラス製容器をホモジナイザーにセットして、その回転数10000rpm、大気圧下、室温にて混合物を約5分間撹拌した。こうして、油中水滴形エマルジョンを生成した。生成した油中水滴形エマルジョンの一部を採取しシャーレに入れて光学顕微鏡にて観察したところ、図3の(a)に示すとおり、油の連続相中に球状の水滴が良好に分散したエマルジョンであることを確認できた。
【実施例】
【0039】
次に、得られた油中水滴形エマルジョンをハイドレートの製造装置を用いて撹拌しながら冷却した。ハイドレートの製造装置として、図2に示すものと同様の構成を有する装置を用いた。E/H容器として上記ガラス製容器を、密閉可能な断熱冷却容器内にセットした。そのガラス製容器に攪拌機を取り付けた。攪拌機はギアドモーターと2枚撹拌羽根付き撹拌棒とを備え、直流定電圧電源の電圧を調整することによって、撹拌羽根の回転数を20~100rpmの範囲で制御できるものであった。また、空気用の冷却機が断熱冷却容器と空気を循環可能なように接続されていた。さらに、断熱冷却容器から2本の配管が延びており、冷媒容器と接続されていた。そのうち1本の配管の途中には液体冷媒を循環させるためのポンプが取り付けられており、断熱冷却容器と冷媒容器との間で液体冷媒が循環可能になっていた。冷媒容器には液体冷媒用の冷却機が接続されており、それらの間でも液体冷媒が循環可能であり、それにより液体冷媒をも冷却可能になっていた。液体冷媒としてエチレングリコールを用いた。
【実施例】
【0040】
なお、油中水滴形エマルジョン又はハイドレートの温度、断熱冷却容器内及び冷媒容器内での液体冷媒の温度を測定するために、それぞれに熱電対を配置した。その熱電対で測定された各温度は、データロガーにより記録及びデータ処理され、さらにデータロガーに接続したコンピュータにより各温度を所望のとおりに管理するよう、制御した。温度の制御は各冷却機での空気や液体冷媒の循環量、ポンプの吐出量の調整により行った。
【実施例】
【0041】
この製造装置を用いて、ガラス容器内の油中水滴形エマルジョンを大気圧下、冷却速度約0.05K/秒で攪拌機により撹拌しながら冷却した。なお、このときの撹拌は、撹拌羽根の回転数を100rpmに設定して行ったが、この撹拌は上記ホモジナイザーにおけるものと比較して明らかに緩やかなものであった。こうして、冷却を続けたところ、ガラス容器内の温度が約260Kまで低下したところで、急激にその温度が約277Kまで上昇した。さらに冷却したところ、しばらくその温度を一定に維持した後、再び徐々に温度が低下した。そこで、ガラス容器の冷却を停止した。ガラス容器内にはスラリー状のものが生成していた。上記冷却の際の温度プロファイルを図4に示す。
【実施例】
【0042】
ガラス容器内のスラリー状のものの一部を採取しシャーレに入れて光学顕微鏡にて観察したところ、図3の(b)に示すとおり、油の連続相中にハイドレートが良好に分散したものであることを確認できた。ハイドレートの形状は、油中水滴形エマルジョン中の水滴と対比すると、球状よりも歪な形状になっていることが分かった。また、ガラス容器内のハイドレートは分散性が良好であり、数日間の静置でも凝集は認められなかった。
【実施例】
【0043】
次に、ハイドレートの最大粒子径及び平均粒子径を下記のようにして測定した。まず、上記ガラス容器内のシリコンオイル及びそこに分散したハイドレートを採取し、シャーレに入れた。その状態でハイドレートの顕微鏡写真を撮影し、撮影した写真の画像処理により、ハイドレートの粒度分布を求めた。その結果、ハイドレートの最大粒子径は0.821mm、数平均粒子径は0.247mmであった。
【実施例】
【0044】
(実施例2)
ジメチルシリコンオイルの混合割合を67体積%から62体積%に、純水の混合割合を10体積%から15体積%に代えた以外は実施例1と同様にして、油中水滴形エマルジョンを得た。次に、得られた油中水滴形エマルジョンをハイドレートの製造装置を用いて、実施例1と同様にして撹拌しながら冷却した。ガラス容器内にはスラリー状のものが生成していた。
【実施例】
【0045】
ガラス容器内のスラリー状のものの一部を採取しシャーレに入れて光学顕微鏡にて観察したところ、図3の(b)に示すものと近似しており、油の連続相中にハイドレートが良好に分散したものであることを確認できた。また、ガラス容器内のハイドレートは分散性が良好であり、しばらくの間(275K、約3~5時間)静置したが、その凝集はほとんど認められなかった。次に、ハイドレートの最大粒子径及び平均粒子径を実施例1と同様にして測定した結果、ハイドレートの最大粒子径は0.991mm、数平均粒子径は0.313mmであった。
【実施例】
【0046】
(比較例1)
ジメチルシリコンオイルの混合割合を67体積%から57体積%に、純水の混合割合を10体積%から20体積%に代えた以外は実施例1と同様にして、油中水滴形エマルジョンを得た。次に、得られた油中水滴形エマルジョンをハイドレートの製造装置を用いて、実施例1と同様にして撹拌しながら冷却した。ガラス容器内には氷状塊が沈降していた。
【実施例】
【0047】
ガラス容器内の氷状塊の一部を採取しシャーレに入れて光学顕微鏡にて観察したところ、ハイドレートの塊であることを確認できた。また、ガラス容器内のハイドレートを撹拌すると、その際には一時的に分散するものの、撹拌を停止すると速やかに沈降した。次に、ハイドレートの最大粒子径及び平均粒子径を実施例1と同様にして測定した結果、ハイドレートの最大粒子径は2.11mm、数平均粒子径は0.398mmであった。
【実施例】
【0048】
(比較例2)
ジメチルシリコンオイルの混合割合を67体積%から72体積%に、純水の混合割合を10体積%から5体積%に代えた以外は実施例1と同様にして、油中水滴形エマルジョンを得た。次に、得られた油中水滴形エマルジョンをハイドレートの製造装置を用いて、実施例1と同様にして撹拌しながら冷却した。ガラス容器内には氷状塊が沈降していた。
【実施例】
【0049】
ガラス容器内の氷状塊の一部を採取しシャーレに入れて光学顕微鏡にて観察したところ、ハイドレートの塊であることを確認できた。また、ガラス容器内のハイドレートを撹拌すると、その際には一時的に分散するものの、撹拌を停止すると速やかに沈降した。次に、ハイドレートの最大粒子径及び平均粒子径を実施例1と同様にして測定した結果、ハイドレートの最大粒子径は3.58mm、数平均粒子径は0.381mmであった。
【実施例】
【0050】
(比較例3)
ジメチルシリコンオイルの混合割合を67体積%から70体積%に、純水の混合割合を10体積%から7体積%に代えた以外は実施例1と同様にして、油中水滴形エマルジョンを得た。次に、得られた油中水滴形エマルジョンをハイドレートの製造装置を用いて、実施例1と同様にして撹拌しながら冷却した。ガラス容器内には氷状塊が沈降していた。
【実施例】
【0051】
ガラス容器内の氷状塊の一部を採取しシャーレに入れて光学顕微鏡にて観察したところ、ハイドレートの塊であることを確認できた。また、ガラス容器内のハイドレートを撹拌すると、その際には一時的に分散するものの、撹拌を停止すると速やかに沈降した。次に、ハイドレートの最大粒子径及び平均粒子径を実施例1と同様にして測定した結果、ハイドレートの最大粒子径は4.26mm、数平均粒子径は0.409mmであった。
【実施例】
【0052】
以上の結果を、図5に示す。図5は、横軸に純水の混合割合、縦軸にハイドレートの最大粒子径(●)及び数平均粒子径(△)をプロットしたプロット図である。この図から明らかなように、実施例に係る分散性が良好なハイドレートは粒子径が小さくなる一方で、沈降が認められた比較例に係るハイドレートは、その粒子径が、実施例のものよりも極端に大きくなっていた。ハイドレートの沈降は、その凝集により粒子径が大きくなったことに起因することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、燃焼ガスが発生するボイラーなどの設備を備えるプラント及び天然ガスプラントへの適用が期待できる。
【符号の説明】
【0054】
100…クラスレートハイドレートの製造装置、102…ガラス製容器、103…攪拌機、104…断熱冷却容器、109…冷媒容器、110…ポンプ、111a、111b…冷却機、120…液体冷媒、125a、125b…ライン、130…空気、S10…準備工程、S20…エマルジョン生成工程、S30…撹拌冷却工程。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図3】
3
【図5】
4