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明細書 :同位体化合物を標識として使用するタンパク質の分析方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4883540号 (P4883540)
登録日 平成23年12月16日(2011.12.16)
発行日 平成24年2月22日(2012.2.22)
発明の名称または考案の名称 同位体化合物を標識として使用するタンパク質の分析方法
国際特許分類 G01N  27/62        (2006.01)
FI G01N 27/62 V
請求項の数または発明の数 5
全頁数 18
出願番号 特願2009-520532 (P2009-520532)
出願日 平成20年6月19日(2008.6.19)
国際出願番号 PCT/JP2008/061243
国際公開番号 WO2008/156139
国際公開日 平成20年12月24日(2008.12.24)
優先権出願番号 2007164249
優先日 平成19年6月21日(2007.6.21)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年5月13日(2010.5.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
発明者または考案者 【氏名】松川 茂
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100122688、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 健二
【識別番号】100117743、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 美由紀
審査官 【審査官】廣田 健介
参考文献・文献 特開2005-181011(JP,A)
特開2003-107066(JP,A)
特開2007-127631(JP,A)
Douglas B. Craig et al.,Determination of picomolar concentrations of proteins using novel amino reactive chameleon labels and capillaryelectrophoresis laser-induced fluorescence detection,ELECTROPHORESIS,2005年 5月 9日,Volume 26, Issue 11,2208-2213
Ion Ghiviriga et al.,Rotation Barriers in Pyridinium Salts Depend on the Number ofAvailable Ground State Conformations,CROATICA CHEMICA ACTA,2004年,Vol. 77, No. 1-2,391-396
調査した分野 G01N 27/60-27/70
CA/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
質量分析計を用いて2種以上のタンパク質含有試料を対比して、それぞれの試料に含まれる同種のタンパク質の量比を分析するタンパク質分析方法であって、式(I):
【化1】
JP0004883540B2_000008t.gif
(式中、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、水素、ハロゲン又はアルキルを示す)
で表される化合物又はその塩の2種以上の安定同位体の組み合わせを標識化合物として用いてそれぞれの前記タンパク質含有試料に含まれる同種のタンパク質に質量差を与えることを含み、且つ、
質量分析されるタンパク質を含有する内部標準試料もまた前記標識化合物の安定同位体の一つで標識して質量分析に付すこと、及び前記内部標準試料由来のMSスペクトル強度に対する前記タンパク質含有試料由来のMSスペクトル強度の比を求めることにより、それぞれの前記タンパク質含有試料に含まれる同種のタンパク質の量比を決定することを含み、ここで前記内部標準試料は、分析される全ての前記タンパク質含有試料から総タンパク質含有量が等しい出発試料をそれぞれ作製した後、前記出発試料を等量混合することによって作製されたものである、
タンパク質分析方法。
【請求項2】
式(I)の化合物が、2,4,6-トリメチルピリリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組み合わせに含まれる安定同位体間の質量差が2以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組み合わせに含まれる安定同位体間の質量差が4以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
式(I)で表される化合物の塩が、2,4,6-トリメチルピリリウム・テトラフルオロホウ酸塩であり、且つ、前記組み合わせに含まれる安定同位体間の質量差が4又は8である、請求項1に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質を分析する方法に関する。さらに詳細には、本発明は、質量分析計を用いて2種以上のタンパク質含有試料を対比して、それぞれの試料に含まれる同種のタンパク質の量比を分析する方法に関する。本発明はまた、質量分析計を用いたタンパク質の分析に有用な試薬キットを提供する。
【背景技術】
【0002】
様々な生物のゲノム構造解析が進展して、細胞内で働くことがあると予想されるタンパク質の候補がその一次構造情報として集積されてきた。しかし、遺伝子情報から引き出されるタンパク質情報はあくまでも情報であり、実体ではないことに注意が必要である。事実、細胞や組織では核内の全遺伝子情報の一部しか翻訳されていないといわれ、しかも、細胞や組織の由来によってその種類は様々である。また、発生から分化の過程でも、発現するタンパク質の質や量が刻々と変化しているようである。細胞内では、更に、多様なタンパク質が複雑に相互作用して細胞の生命活動を維持しているが、それら相互の関連を明らかにすることにより、遺伝子の機能解析を進めていくことが求められている。
【0003】
プロテオーム解析は、細胞の機能を支える多様なタンパク質間の関係を総合的にとらえようとする試みである。この目的に合致する合理的方法論が開発されてきているが、ある特定の代謝反応に関与するタンパク質の一群の構成成分を明らかにすること(同定)さえも、現状では多くの困難を伴う。このように多様性に富むタンパク質の集合であるプロテオームの変化を、総合的に、しかも迅速に把握することが求められている。
【0004】
従来タンパク質の分離のために利用されているSDSゲル電気泳動法は、分子量に関して高い分離能を持つ。一方、タンパク質の荷電に基づき分離する等電点電気泳動法は、技術的な問題を克服しているが、試料調製に困難を抱えている。この両者の性質を併せ持つ分離技術である2次元電気泳動法は、現状では最も優れた分離能をもつ方法ではあるが、再現性に問題を残し、それを克服するために多色蛍光標識法と併用した所謂DIGE法が開発実用化されている。この方法は自動化が困難ではあるが、再現性や定量性の確保が難しいという問題はある程度克服された。
【0005】
一方、液体クロマトグラフ、質量分析計及びデータ解析システムを結合し、試料の分離からタンパク質の同定に至る過程を一貫してオンラインで自動的に行う大規模なタンパク質同定システムが開発されている。このシステムは感度が極めて高く、試料はほんの少しでよいうえに質量が極めて正確に得られるため、標的タンパク質に由来する2、3種のペプチド断片の質量が分かるだけでそのタンパク質を同定することが出来ることが多い。或いは、質量分析を用いてペプチドのアミノ酸配列を直接決定し、そのアミノ酸配列からタンパク質を同定することも可能である。
【0006】
また、正常と病態との間における細胞や組織内のタンパク質の量の変化や、発生中の組織、脳を含めた様々の疾患の組織、又は遺伝子の変異によって機能変化した組織で発現するタンパク質の量を知ることは、病態解明のための重要なヒントになる。それゆえ、細胞内のタンパク質を同定する技術だけでなく、タンパク質を定量する技術への需要もまた高まっている。
従来、標的タンパク質に対して特異的に結合する抗体の結合を間接的に検出することで標的タンパク質の存在量を相対的に決めてきた。この方法においては、標的タンパク質が既に同定されていて、かつそのタンパク質を検出できる抗体が得られている必要がある。
一方、同位体を利用して同一タンパク質に試料間で質量差を与えた後質量分析に付すことにより、存在比を分析する方法も現在用いられている。この方法は、未同定のタンパク質の同定と定量を一度の分析で達成出来る利点がある。この方法のために、ICAT(登録商標)試薬、iTRAQ(登録商標)試薬、ICPL(登録商標)試薬、NBS(登録商標)試薬などの標識試薬が利用されている(例えば、特許文献1参照)。また、軽酸素原子と重酸素原子とを含む2種類の水の中で対比試料に別々に消化酵素を働かせた時に、新生するカルボン酸のOHとして酸素が取り込まれ、質量差が2のペプチドが出来、それを質量分析で分離して量比を決める方法、或いはCやNの軽原子と重原子とを含むアミノ酸中で培養した細胞の全タンパク質をこれらのアミノ酸で構成するようにしてから両者の成分の存在比を調べる方法など多くの工夫がなされている。
上述した標識試薬の内、ICAT試薬及びNBS試薬については、それらが結合するアミノ酸残基はそれぞれシステイン及びトリプトファンであり、これらはタンパク質中での含有量が少ないため、タンパク質によっては分析にかからない場合があることや、2種の試料間での比較に限定されていることなど、様々の欠点を抱えている。また、タンパク質のリジン残基のアミノ基を標識するiTRAQ試薬とICPL試薬は、不安定な活性カルボン酸を用いてアミド結合を形成するために試薬の保存が難しい。また、これら4種類の試薬はいずれも高価であり、それもまたこれらの利用を制限する原因となっている。

【特許文献1】特開2003-107066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述のような従来のタンパク質定量技術の問題点を鑑みなされたものであり、タンパク質の同定及びその定量情報をより簡単な処理で得ることのできるタンパク質分析方法を提供することを主眼とする点では先行技術から大きな違いはないが、本発明の目的は、機能性、利便性及び経済性に優れたタンパク質分析方法及びそれに用いるキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、標的ペプチドを質量分析計にて同定・定量することを特徴とするタンパク質分析方法に着目し鋭意検討を重ねた結果、本発明に用いる化合物であるピリリウム誘導体の安定同位体の組み合わせが、質量分析によるタンパク質の定量のための標識化合物として非常に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]質量分析計を用いて2種以上のタンパク質含有試料を対比して、それぞれの試料に含まれる同種のタンパク質の量比を分析するタンパク質分析方法であって、式(I):
【0010】
【化1】
JP0004883540B2_000002t.gif

【0011】
(式中、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、水素、ハロゲン又はアルキルを示す)
で表される化合物又はその塩の2種以上の安定同位体の組み合わせを標識化合物として用いてそれぞれの試料に含まれる同種のタンパク質に質量差を与えることを含む、タンパク質分析方法。
[2]式(I)の化合物が、2,4,6-トリメチルピリリウムである、[1]に記載の方法。
[3]前記組み合わせに含まれる安定同位体間の質量差が2以上である、[1]に記載の方法。
[4]質量分析計を用いて2種以上のタンパク質含有試料を対比して、それぞれの試料に含まれる同種のタンパク質の量比を分析するために用いられる試薬キットであって、標識化合物として式(I):
【0012】
【化2】
JP0004883540B2_000003t.gif

【0013】
(式中、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、水素、ハロゲン又はアルキルを示す)
で表される化合物又はその塩の2種以上の安定同位体の組み合わせを含む、キット。
[5]式(I)の化合物が、2,4,6-トリメチルピリリウムである、[4]に記載のキット。
[6]前記組み合わせに含まれる安定同位体間の質量差が2以上である、[4]に記載のキット。
[7]質量分析されるタンパク質を含有する内部標準試料もまた前記標識化合物の安定同位体の一つで標識して質量分析に付すこと、及び内部標準試料由来のMSスペクトル強度に対するタンパク質含有試料由来のMSスペクトル強度の比を求めることにより、それぞれのタンパク質含有試料に含まれる同種のタンパク質の量比を決定することを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のタンパク質分析方法によれば、簡単な処理でタンパク質の定量情報を得ることが可能となる。本発明はまた、かかるタンパク質分析方法に利用されるキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】内部標準試料を利用したタンパク質の定量方法の流れを示す図である。
【図2】内部標準試料を利用して多種類試料中のタンパク質を定量する方法の流れを示す図である。
【図3】ヒト血清アルブミンの同位体標識物由来のペプチドのトータルイオンクロマトグラムを表す図である。横軸は保持時間(分)、縦軸は相対強度(%)を表す。
【図4】図3のクロマトグラム上の時間23.86分から23.92分の間のイオンの質量分析データを表す図である。横軸は質量(m/z)、縦軸は相対強度(%)を表す。

【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、質量分析計を用いて2種以上のタンパク質含有試料を対比して、それぞれの試料に含まれる同種のタンパク質の量比を分析するタンパク質分析方法に関わる。本発明は特に、上記式(I)で表される化合物又はその塩(以下、これらを単に本発明の化合物とも称する)の2種以上の安定同位体の組み合わせを標識化合物として用いてそれぞれの試料に含まれる同種のタンパク質に質量差を与えることを含む、タンパク質分析方法を提供する。
【0017】
式(I)中のR、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、水素、ハロゲン又はアルキルを示す。R、R及びRは、好ましくは水素、ハロゲン、又は炭素数1~6のアルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル等)であり、より好ましくは炭素数1~3のアルキル(例えば、メチル又はエチル)である。また、前記ハロゲンとしては、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。
【0018】
式(I)の化合物の好ましい例としては、2,4,6-トリメチルピリリウム、2-エチル-4,6-ジメチルピリリウム及び2,6-ジエチル-4-メチルピリリウムなどが挙げられる。
【0019】
本発明の化合物は、通常、塩の形態で利用される。その場合、該塩は式(I)の化合物及び任意の陰イオン原子又は陰イオン分子からなる塩である。該陰イオン原子又は陰イオン分子としては、ヘキサフルオロリン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロホウ酸等の陰イオンが挙げられ、タンパク質の標識反応を妨げない限り特にその種類は限定されないが、好ましくはテトラフルオロホウ酸の陰イオンである。
【0020】
従って、好ましい本発明の化合物の例としては、2,4,6-トリメチルピリリウム・テトラフルオロホウ酸、2-エチル-4,6-ジメチルピリリウム・テトラフルオロホウ酸塩又は2,6-ジエチル-4-メチルピリリウム・テトラフルオロホウ酸などが挙げられる。
【0021】
本発明においては、質量の異なる本発明の化合物の安定同位体によりそれぞれの試料に含まれるタンパク質又はペプチドを標識することによって、同種のタンパク質又はペプチドに質量差を与える。使用される安定同位体間の質量差は、質量分析計により質量差を与えられた同種のタンパク質又はペプチドを分離することが出来る限り特に限定されないが、通常2以上であり、好ましくは3以上である。質量差の上限も、本発明の化合物が安定に存在し得る限り特に限定されない。通常は化合物間の質量差を12Cと13Cとの間の質量差により与えるので、質量差の上限は本発明の化合物中に含まれる炭素原子の個数に等しい。
【0022】
本発明の化合物は、例えば
1) Balaban, A.T., Boulton A.J., Organic Synthesis, Coll., vol.5, p.1112(1973);vol.49, p.121(1969).
2) Balaban, A.T., Boulton A.J., Organic Synthesis, Coll., vol.5, p.1114(1973)
3) Ghiviriga I., Czerwinski E. W., Balaban A.T., Croatia Chemica Acta, vol.77(1-2), p.391-396 (2004)
等で教示されている方法に従って合成することが出来る。
【0023】
次に、上に挙げた3つの化合物、2,4,6-トリメチルピリリウム・テトラフルオロホウ酸塩、2-エチル-4,6-ジメチルピリリウム・テトラフルオロホウ酸塩及び2,6-ジエチル-4-メチルピリリウム・テトラフルオロホウ酸塩を例として、標識化合物として用いられる好適な安定同位体について説明する。
【0024】
2,4,6-トリメチルピリリウム・テトラフルオロホウ酸塩の好適な3種の安定同位体の組み合わせの一例を式(II):
【0025】
【化3】
JP0004883540B2_000004t.gif

【0026】
に示す。但し、13Cに置換する炭素原子の位置は任意であり、各化合物中に含まれる13C原子の数を変更しない範囲で式(II)に示された位置以外の炭素原子が13Cに置換されていてもよい。上記3種の化合物から選択される2又は3種を組み合わせて本発明の方法に用いることが出来る。なお、以後、式(II)中に示すように、各同位体をそれぞれPy0、Py4又はPy8と呼称し、また、これらを総称してPy化合物と呼ぶこととする。式(II)中、Cの左肩に数字13がある炭素原子が質量数13の炭素原子である。すなわち、最低質量の標識化合物(化学式(Py0))の全ての炭素は質量数12で、中間の質量数の標識化合物(化学式(Py4))は質量数12の炭素原子8個のうち4個を質量数13の炭素原子で置き換えている。第三番目の同位体化合物(化学式(Py8))はPy0の全ての炭素原子を質量数13の炭素原子に置換してある。そのため、三種の標識化合物の質量差の関係はPy0、Py0+4(=Py4)、Py0+8(=Py8)となる。また、これらのPy化合物における前記安定同位体間の質量差は4である。
【0027】
同様に、2-エチル-4,6-ジメチルピリリウム・テトラフルオロホウ酸塩の好適な4種の安定同位体の組み合わせの一例を式(III):
【0028】
【化4】
JP0004883540B2_000005t.gif

【0029】
に示す。但し、13Cに置換する炭素原子の位置は任意であり、各化合物中に含まれる13C原子の数を変更しない範囲で式(III)に示された位置以外の炭素原子が13Cに置換されていてもよい。上記4種の化合物から選択される2、3又は4種を組み合わせて本発明の方法に用いることが出来る。なお、以後、式(III)中に示すように、各同位体をそれぞれPyE0、PyE3、PyE6又はPyE9と呼称し、また、これらを総称してPyE化合物と呼ぶこととする。式(III)中、黒丸は質量13の炭素原子を表す。すなわち、最低質量の標識化合物(化学式(PyE0))の全ての炭素は質量数12で、第二番目の質量数の標識化合物(化学式(PyE3))は質量数12の炭素原子9個のうち3個を質量数13の炭素原子で置き換えている。第三番目の標識化合物(化学式(PyE6))はPyE3における12Cを全て13Cに置換し、かつPyE3における13Cを全て12Cに置換したもので、第四番目の標識化合物(化学式(PyE9))はPyE0の全ての炭素原子を13Cに置換してある。そのため、4種の標識化合物の質量差の関係はPyE0、PyE0+3(=PyE3)、PyE0+6(=PyE6)、PyE0+9(=PyE9)となる。また、PyE化合物における前記安定同位体間の質量差は3~9である。
【0030】
更に、同様に、2,6-ジエチル-4-メチルピリリウム・テトラフルオロホウ酸塩の好適な4種の安定同位体の組み合わせの一例を式(IV):
【0031】
【化5】
JP0004883540B2_000006t.gif

【0032】
に示す。但し、13Cに置換する炭素原子の位置は任意であり、各化合物中に含まれる13C原子の数を変更しない範囲で式(IV)に示された位置以外の炭素原子が13Cに置換されていてもよい。上記4種の化合物から選択される2、3又は4種を組み合わせて本発明の方法に用いることが出来る。なお、以後、式(IV)中に示すように、各同位体をそれぞれPydE0、PydE4、PydE6又はPydE10と呼称し、また、これらを総称してPydE化合物と呼ぶこととする。式(IV)中、黒丸は質量数13の炭素原子を表している。4種の標識化合物の質量差の関係はPydE0、PydE0+4(=PydE4)、PydE0+6(=PydE6)、PydE0+10(=PydE10)となっている。また、PydE化合物における前記安定同位体間の質量差は、2~10である。
なお、上記のPy化合物、PyE化合物及びPydE化合物において、質量数13の炭素原子の位置は合成過程から論理的に帰納されたものであり、質量数は質量分析装置で確認されている。
【0033】
本発明の化合物によるタンパク質又はペプチドの標識は、例えば以下の文献:Craig D.B., Wetzl B.K., Duerkop A., and Wolfbeis O.S., Electrophoresis, vol.26, p.2208-2213(2005)等に記載された周知の方法により行うことができる。
また、本発明の化合物は例えば下記の反応:
【0034】
【化6】
JP0004883540B2_000007t.gif

【0035】
で、タンパク質又はペプチドのリジン残基のε-アミノ基と結合する。稀にα-アミノ基と反応することもある。この反応により、本発明の化合物はタンパク質又はペプチドを標識する。
【0036】
なお、本明細書において、ペプチドという用語は、アミノ酸の個数が数個から十数個のものを指す事とする。当該分野で周知のように、標的タンパク質を同定・定量するために、通常、そのタンパク質をタンパク質分解酵素で切断することにより得られるペプチドが質量分析に付される。
【0037】
本発明の化合物を標識として利用する利点は例えば次の通りである。すなわち、前記標識反応は温和かつ迅速であること;前記標識反応により4級アミンを形成し、標的タンパク質の電荷に影響しないため、その後の電気泳動分離も可能であること;本発明の化合物は室温保存が可能であること;及び、本発明の化合物の溶液も室温で安定であること、などである。また、例えば前記Py化合物、PyE化合物及びPydE化合物でそうであったように、本発明の化合物は、3種以上の安定同位体の組み合わせで標識化合物として用いることが出来るため、最大比較対象試料数は通常3種以上であり、これは多種試料間での同種のタンパク質の量比の分析において高い効率性をもたらす。更にはまた、本発明の化合物は、タンパク質質量分析に用いられる前記試薬(ICAT試薬、NBS試薬、iTRAQ試薬及びICPL試薬)と比較して、サンプルあたりの費用が安価であるという利点を有する。
【0038】
本発明の方法は、対比される2種以上のタンパク質含有試料に対して、本発明の化合物の2種以上の安定同位体の組み合わせを標識化合物として用いてそれぞれの試料に含まれる同種のタンパク質に質量差を与えることを含む。標識された同種のタンパク質は、試料間で化学的性質に違いは無く、質量数のみ異なる。そのため、後述するように、化学的性質による分離(例えば液体クロマトグラフ、SDS-PAGE又は2次元電気泳動)によって同種のペプチドを他の種類のペプチドから分離し、その後の質量分析で同種のペプチドを質量差を利用して互いに分離することが可能となる。
【0039】
前記2種以上のタンパク質含有試料としては、例えば、同種の生体組織について、健常状態のサンプル及び疾病状態のサンプルから採取した計2種類の試料の場合、或いは種々の発生段階の、ある種の細胞培養由来の試料などが挙げられる。
【0040】
本発明の方法の実施に当たっては、タンデム型の質量分析計を用いて、タンパク質の同定も定量と同時に行うことが通常想定される。本発明の方法に利用される質量分析計としては、例えば、四重極飛行時間型のタンデム型質量分析計(MS/MS)又はフーリエ変換質量分析計(FT-MS)などが挙げられる。これらの装置構成としては、従来と同様なものを利用することが可能である。
【0041】
本発明の化合物を用いるタンパク質の分析は、当業者に周知の手順に従って実施され得る。以下に、本発明の方法を利用してタンパク質を定量するための一般的な手順を簡単に説明する。以下の説明では、対比するタンパク質含有試料の種類数に触れていないが、実際は標識に用いる安定同位体の種類までの試料を対比することが出来、更には、後述する内部標準法を用いることにより、実質的に試料が何種類であってもそれらを対比することが可能となる。
【0042】
本発明の方法を利用するタンパク質の定量は、通常、以下の工程:
工程1)対比するタンパク質含有試料のそれぞれを、同位体によって異なる質量数を持つ本発明の化合物で標識し、それぞれのタンパク質含有試料に含まれる同種のタンパク質に質量差を与える工程;
工程2)各同位体標識したタンパク質含有試料を混合する工程;
工程3)工程2の混合物中のタンパク質を任意で相互に分離した後、制限酵素によりタンパク質を特定アミノ酸部位で切断し、同位体標識したペプチド含有試料とする工程;及び
工程4)前記同位体標識したペプチドのMSスペクトルを測定し、同位体標識によって質量差を与えられた同種のペプチドのそれぞれについてMSスペクトル強度を得て、その強度比によってタンパク質の量比を求める工程;
を含む。
【0043】
以下に前記各工程について詳細に説明するが、以下の説明は本発明の実施態様を制限するものではない。なお、本発明の方法の大まかな流れを図1に示したので、より良い理解のために適宜参照されたい。図1の分析では、患部由来のタンパク質含有試料(前記Py0化合物(質量M)で標識)、正常部由来のタンパク質含有試料(前記Py4化合物(質量M+4)で標識)及びそれらから作製される内部標準試料(前記Py8化合物(質量M+8)で標識)からなる3種類の試料中のタンパク質の定量を行っている。
工程1における標識は、例えば以下のようにして行う。すなわち、前以て分析される試料中の全タンパク質のSH基を還元・アルキル化しておいてから、塩基性条件下で、適当な溶媒中(例えば、トリス塩酸緩衝液を含む尿素中)に溶解したタンパク質含有試料に本発明の化合物を添加し、瞬時に混合し反応させる。反応は室温下30分間で終えても良く、又は標識効率を増大させるために12時間まで延長しても良い。
工程2において、工程1で標識した各タンパク質含有試料を混合する。未反応の標識化合物はゲルろ過法又はタンパク質沈殿試薬によって除去し、標識タンパク質を集めて濃縮する。
工程3は、大別して以下の2つの方法:
(a)前記タンパク質混合液を1次元ゲル分離、2次元ゲル分離又は適当なクロマトメディアで大まかに分離するなどしたタンパク質をタンパク質分解酵素で加水分解し、ペプチドを遊離する;又は、
(b)前以て(a)のように含有タンパク質を相互分離のためにゲル分離やクロマト展開することなく、前記タンパク質混合物を直接タンパク質分解酵素で分解する、
のいずれかに従う。タンパク質の分解のためには、一次選択のトリプシン以外に、ArgペプチダーゼやGluペプチダーゼなどを二次選択として用いるが、Lysエンドペプチダーゼは用いない。
【0044】
ペプチドを遊離した後、該ペプチドを質量分析に付すまでの流れは以下の通りである。すなわち、
(a)の操作により分離したタンパク質から遊離した標識ペプチド及び非標識ペプチドについては、ペプチドの分離操作無しで直接MALDI-TOF/MSにより質量分析する場合もある。また、液体クロマトグラフによりペプチドを分離後、ESI/MS/MS分析することも可能である。
一方(b)の操作により遊離したペプチドは、2次元液体クロマトグラフシステムによって、例えば、1次元分離をSCXカラムで行い、溶出した成分を第2の逆相樹脂カラムにより分離し、ESI/MS/MSに導入することで、標識ペプチドの相対強度とそのアミノ酸配列情報を一度の分析で獲得する。
ここで、次工程のMSスペクトルの測定に用いるペプチドの分子量は、特に限定されないが、天然に存在する同位体元素の影響による分析精度の低下を考慮すると、該分子量は好ましくは1000~3000であり、より好ましくは1500~2000である。従って、工程3は、好ましくは、タンパク質の分解酵素分解産物から、上記範囲の分子量を有するペプチドを単離することを含む。
【0045】
次いで、周知の分析技術を用いて前記ペプチド由来のMSスペクトルを得ることが出来る。同位体標識によって、異なる試料由来の同種のペプチドは異なる質量を持つため、前記MSスペクトルデータにおいては、異なる試料由来のペプチドは分離したピークとして現れる。従って、それら分離したピークの強度を対比することにより、前記ペプチドの試料間での量比、すなわち前記タンパク質の試料間での量比が求まる。
但し、前述のMSスペクトルデータからのピーク強度の対比においては、例えば特開2005-181011に教示されているようにして、天然に存在する同位体元素に起因するペプチドの同位体ピークとの重なりを除去して量比の補正をする必要がある。
【0046】
更に、前記工程1~4に引き続いて以下の工程:
工程5)工程4のMSスペクトルを参照して、各ペプチドからアミノ酸配列を特定すべきペプチドを選択し、該ペプチドから生成されるプロダクトイオンのMS/MSスペクトルによって、該ペプチドのアミノ酸配列を定性する工程;及び
工程6)前記ペプチドのアミノ酸配列に基づき、既知DNA配列より対応するタンパク質を同定する工程;
も加えることにより、前記タンパク質を同定することも可能である。タンパク質の同定は、工程5及び6に示した手順に従って、周知の方法で行うことが出来る。
【0047】
本発明の実施態様の一つにおいて、上述した本発明によるタンパク質分析方法であって、質量分析されるタンパク質を含有する内部標準試料もまた本発明の化合物の安定同位体の一つで標識して質量分析に付すこと、及び内部標準試料由来のMSスペクトル強度に対するタンパク質含有試料由来のMSスペクトル強度の比を求めることにより、それぞれのタンパク質含有試料に含まれる同種のタンパク質の量比を決定することを含む、タンパク質分析方法もまた提供される。
【0048】
本明細書において、内部標準試料という用語は、同種のタンパク質の試料間での量比を分析するに当たって、内部標準試料以外の各試料中での該タンパク質の量と内部標準試料中の該タンパク質の量とを比較することにより各試料中での含有量の相対値を求め、その相対値を試料間で対比することにより、分析される全試料間での該タンパク質の量比を決定するために利用される試料をいう。
【0049】
上記目的のために、内部標準試料は、分析される試料中に存在するあらゆるタンパク質を含むことが好ましい。そのため、例えば以下のようにして内部標準試料は作製される。すなわち、分析される全てのタンパク質含有試料から総タンパク質含有量が等しい出発試料をそれぞれ作製した後、該出発試料を等量混合する。
【0050】
内部標準試料を用いるタンパク質分析は、内部標準試料もまた本発明の化合物の安定同位体の一つで標識して、分析される他のタンパク質含有試料と共に上述した本発明によるタンパク質分析方法を適用することによってなされる。
【0051】
内部標準試料を使用することにより、本発明の方法に用いる標識化合物の安定同位体の種類数より多くの種類の試料を定量することが可能となる。また、内部標準試料を利用することにより、複数試料間でのタンパク質の含有量の比較が高い精度で可能となる。
【0052】
図2に多種類試料間での同種のタンパク質の量比を分析する手順の一例を示す。図2の分析は、説明の便宜上、その試料数は6であり、かつ標識に用いる安定同位体の組み合わせは4種である場合を想定している。
まず、6種類の試料から前述のようにして内部標準試料(図2ではISと表記)を作製する。また、6種類の試料をそれぞれ3種類の試料からなるグループ1(試料A、B、Cを含む)及びグループ2(試料D、E、Fを含む)に分別する。前述した手順に従って、標的タンパク質由来のペプチドのMSスペクトルの測定をグループ毎に行う。その結果得られるのが、図2の下部にあるようなMSスペクトルである。前述の通り、標識ペプチドのMSスペクトルはペプチド中の天然同位体存在比を反映して質量1ずつ異なる複雑なものであり、その補正をする必要がある。前記補正後の最大強度のスペクトル(例えば図2のA1、B1及びC1について前記補正をしたもの)は天然同位体の存在の影響が無く、ペプチドの存在量を反映している。また、内部標準試料由来の標識ペプチドのMSスペクトル強度を各グループの分析での共通の比較の基準とするために、混合試料作製にあたって内部標準試料から分析毎に等量加える。内部標準試料由来のペプチドのMSスペクトル強度は理論的には両グループの測定で等しいので、前記補正したIS1の強度で前記補正したA、B及びCの強度を規格化し、また同様に前記補正したIS2の強度で前記補正したD、E及びFの強度を規格化したものは、共通の基準で規格化したものとなり相互に比較することが出来る。この比較から6種類の試料間での標的タンパク質の量比が求まる。
【0053】
本発明の化合物は、3種以上の安定同位体の組み合わせで標識化合物として用いることが出来るため、2種の安定同位体のみの標識化合物と比較して、内部標準試料を利用する多種試料間での同種のタンパク質の量比の分析において、顕著に向上した能率を示すことは明らかである。それゆえ、本発明の方法は、例えば以下の用途:
(1)多数患者の臨床試料における病気のマーカータンパク質の発見と変動の解析(臨床検査);
(2)ヒトや動物の様々の組織で発現しているタンパク質の存在比の網羅的比較解析(生化学);
(3)培養細胞や動物に薬剤を投与した後での細胞内での発現タンパク質の存在量の時系列変化の解析;及び
(4)発生段階における発現タンパク質の詳細な時系列変動の解析(発生工学)、
など、他種試料の網羅的プロテオミクス解析の必要な場合において、非常に有用である。
【0054】
別の局面において、本発明はまた、上述したタンパク質分析方法に用いられる試薬キットであって、標識化合物として式(I)で表される化合物又はその塩の2種以上の安定同位体の組み合わせを含む、キットを提供する。式(I)で表される化合物又はその塩に関する定義、安定同位体や組み合わせの態様は上述の通りである。
【0055】
前記キットに含まれる式(I)の化合物の例としては:
(a)前記Py0化合物、Py4化合物及びPy8化合物から選択される2又は3種の組み合わせ;
(b)前記PyE0化合物、PyE3化合物、PyE6化合物及びPyE9化合物から選択される2、3又は4種の組み合わせ;及び
(c)前記PydE0化合物、PydE4化合物、PydE6化合物及びPydE10化合物から選択される2、3又は4種の組み合わせ
が挙げられる。
【0056】
本発明の一つの実施態様において、前記キットに含まれる式(I)の化合物は、2,4,6-トリメチルピリリウムである。
【0057】
本発明の別の実施態様において、前記キットにおける前記組み合わせに含まれる安定同位体間の質量差は2以上である。
【0058】
前記キットは、前記安定同位体の組み合わせ以外に、1種以上のタンパク質分解酵素、反応緩衝液、洗浄溶液、又は本発明の化合物との組み合わせ使用に必要若しくは好適なその他の成分を含んでいても良い。前記キットはまた、任意でその使用説明書を含む。また、本発明のキットは、未反応成分除去試薬(洗浄試薬)、制限酵素、ペプチド精製用カラム、精製用溶媒などを更に含んでいてもよい。
【0059】
本明細書中で挙げられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0060】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0061】
実施例1:同位体標識HASのLC/MS分析
ヒトの血清蛋白の一種であるHSA(Human Serum Albumin)を前以て前記同位体標識化合物Py0、Py4及びPy8(Py化合物)で標識した。Py化合物は、
1) Balaban, A.T., Boulton A.J., Organic Synthesis, Coll., vol.5, p.1112(1973);vol.49, p.121(1969).
2) Balaban, A.T., Boulton A.J., Organic Synthesis, Coll., vol.5, p.1114(1973)
3) Ghiviriga I., Czerwinski E. W., Balaban A.T., Croatia Chemica Acta, vol.77(1-2), p.391-396 (2004)
に記載された合成法に従い合成した。即ち、無水酢酸13mmolとt-ブタノール1mmolの混合溶液にテトラフルオロホウ酸0.95mmolを滴下し、発熱が90℃を超えないようにして反応させた。反応液を室温冷却後に析出した粗結晶を得、これをメタノールで再結晶して精製した。更に得られた結晶をODSカラムに付し、水-アセトニトリルグラジエント溶出にて精製した。同位体標識Py4は、炭素原子が全て13Cで置換したt-ブタノール13C4 [13C3アセトン及び13C1ヨウ化メチル(米国ケンブリッジ・アイソトープ・ラボラトリーズ:CILより購入)からグリニア反応により合成した]と12Cの無水酢酸から前記と同様の方法で合成し精製した。またPy8は13C4無水酢酸及び13C4 t-ブタノ-ルから合成し精製した。29.2μg HSAを6M尿素含有ホウ酸緩衝液(pH8.5)50μLに溶解し、5mM DTT、10mMモノヨードアセトアミドで還元メチル化(総量60μL)してから、3分割(A,B,C各20μL)し、AにPy0、BにPy4、CにPy8を1mMで加え55℃で30分間反応させて標識した。標識後に2D-CleanUp試薬(GEヘルスケアバイオサイエンス)により未反応試薬を取り除いた。3種の同位体標識HASを1:2:0.5(=Py0標識物:Py4標識物:Py8標識物)で混合してから、トリプシン消化した。遊離したペプチド(標識、非標識ペプチドを含有)をLC/MSで分析した。
図3は同位体標識HAS由来のペプチドのトータルイオンクロマトグラムを表す図である。横軸は液体クロマト(LC)の溶出時間(分)、縦軸は相対強度(%)を表している。ピークは分離されたペプチドに対応するが、質量数のみ異なる同一のペプチドは同一のピークに含まれることに注意されたい。
図4はクロマトグラム上の時間23.86分から23.92分までの間のイオンの質量分析(MS)データを表す図である。これは同位体標識試薬Py0、Py4及びPy8で標識された同一ペプチドが溶出した時間における質量スペクトルに対応している。Py0で標識されたペプチドが最も小さな質量を持っている。それから質量が4大きい位置にPy4で標識されたペプチドのピークが現れた。更に、それより質量が4大きい位置にPy8で標識されたペプチドのピークが現れた。これらのピーク強度の比は、3種の同位体標識HASを混合した割合の1:2:0.5(=Py0標識物:Py4標識物:Py8標識物)であった。この結論に至る分析結果の解析は以下のように行った。HASのトリプシン分解物をLC/MS分析し、Py標識された3種のピークがセットで備わったペプチドを19種類選び、その質量分布をコンピューターソフトで解析しピーク高さの比を計算した。結果は全ての標識ペプチドの平均値で1:2.2(±0.34):0.55(±0.27)であった。ペプチド分子量とこの比の分布をプロットすると分子量が1500~2000の間では正確な比率(1:2:0.5)が得られ、この範囲が好適な分析対象実用域となることが判明した。分子量が2000を超えるとスペクトルが天然同位体元素の影響を受けて複雑化し、主ピークの質量数が4離れても、サブピークの混入がかなり認められ、主ピークの実質のピーク高の判定が難しくなることがわかった。一般的には使用した分析装置ではイオンの価数zは3が多かったが、2、4、5価も認められた。
質量数4違いの間にあるサブピークは、天然に存在する同位体元素の影響で現れる。なお、LC/MS分析で用いたイオン化法のESI法(electron spray ionization)では、イオンの価数は2以上となるが、このペプチドイオンは2価となり、実際のペプチドの質量は測定値の2倍になる。実測値が700.8917と702.8966の差を2倍すると4になる。704.9054と702.8966の差を2倍すると4になる。
前記質量分析の結果は、本発明の化合物が、2種以上の試料のそれぞれに含まれる同種のタンパク質の量比を分析するために有用であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のタンパク質分析方法によれば、簡単な処理でタンパク質の定量情報を得ることが可能となる。本発明はまた、かかるタンパク質分析方法に利用されるキットを提供する。
本発明は日本で出願された特願2007-164249(出願日:2007年6月21日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
図面
【図3】
0
【図4】
1
【図1】
2
【図2】
3