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明細書 :薬物送達複合体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5382682号 (P5382682)
登録日 平成25年10月11日(2013.10.11)
発行日 平成26年1月8日(2014.1.8)
発明の名称または考案の名称 薬物送達複合体
国際特許分類 A61K  47/34        (2006.01)
A61K  47/36        (2006.01)
A61K  47/24        (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
A61K   9/107       (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
FI A61K 47/34
A61K 47/36
A61K 47/24
A61K 9/127
A61K 9/107
A61K 48/00
請求項の数または発明の数 9
全頁数 26
出願番号 特願2008-224118 (P2008-224118)
出願日 平成20年9月1日(2008.9.1)
審査請求日 平成23年3月30日(2011.3.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
発明者または考案者 【氏名】佐々木 均
【氏名】▲黒▼▲崎▼ 友亮
【氏名】北原 隆志
【氏名】藤 秀人
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
特許請求の範囲 【請求項1】
薬物とカチオン性分子との複合体およびそれを内包するアニオン性分子を含有し、実質的に非荷電であるか負の表面電荷を有する薬物送達複合体であって、該アニオン性分子がγ-ポリグルタミン酸、およびその塩である、薬物送達複合体。
【請求項2】
薬物とカチオン性分子との複合体が、薬物とカチオン性分子との自己組織化による複合体、薬物を内包するカチオン性ミセルおよび薬物を内包するカチオン性リポソームからなる群より選択される、請求項1記載の薬物送達複合体。
【請求項3】
薬物が核酸、ペプチド、タンパク質、多糖および低分子化合物からなる群より選択される、請求項1又は2記載の薬物送達複合体。
【請求項4】
カチオン性分子の正電荷を有する官能基と、アニオン性分子の負電荷を有する官能基とのモル比が3:1~1:4である、請求項1~3のいずれかに記載の薬物送達複合体。
【請求項5】
アニオン性分子の分子量が10万以下である、請求項1~4のいずれかに記載の薬物送達複合体。
【請求項6】
薬物を脾臓に送達させるためのものである、請求項1~5のいずれかに記載の薬物送達複合体。
【請求項7】
全身投与可能な請求項1~6のいずれかに記載の薬物送達複合体。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の薬物送達複合体をインビトロ、またはヒト個体を除く細胞に接触させることを特徴とする、該細胞内への薬物送達方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の薬物送達複合体をインビトロ、またはヒトを除く哺乳動物に投与することを特徴とする、該動物の細胞内への薬物送達方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は新規薬物送達複合体に関する。より詳細には、本発明は、薬物とカチオン性分子との複合体を内包するアニオン性分子を含有してなる薬物送達複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の表面は負に荷電していることから、正に荷電したカチオン性分子を用いて医薬品の吸収(取り込み)を促進させる方法が盛んに研究されてきた。非ウイルス性ベクターによる遺伝子導入についても様々なカチオン性分子が研究され、高い遺伝子導入効率を有するカチオン性の高分子や脂質が報告されている。しかしながら、その多くは細胞毒性が高く、血液や種々の臓器と非特異的に結合することから、赤血球凝集などの副作用を引き起こし、また遺伝子のターゲッティングも困難であった。これらの問題に対し、ポリエチレングリコール(PEG)などの親水性高分子による修飾を図る方法が考えられたが、血液内での滞留性は改善するもののその立体障害により細胞との接触が低下し、十分な遺伝子発現が得られないという大きな欠点があった。PEG鎖を細胞表面受容体に対する抗体やリガンドで修飾して細胞への送達効率を高める試みも行われてはいるが、成分が複雑化するなどの理由から医薬品としての開発は困難であると予測される。
【0003】
このようなカチオン性分子の欠点を、アニオン性分子を用いて表面の正電荷を減じることにより克服しようとする試みがなされている。例えば、非特許文献1には、ポリエチレンイミン(以下、PEIと略記する場合がある)とDNAとの複合体を、少量のアルギン酸塩で被覆して表面の正電荷を減じることにより、赤血球凝集や細胞毒性が軽減されたことが記載されている。
【0004】
一方、アニオン性分子のみを用いた核酸導入試薬についても報告があり、例えば特許文献1には、核酸とポリグルタミン酸とを含む非封入性の製剤を局所投与し、エレクトロポレーションにより筋肉細胞内に導入したことが記載されている。
しかしながら、細胞毒性や赤血球凝集などの副作用がなく、しかも所望の臓器に核酸などの薬物を効率よくターゲッティングでき、且つそこで十分な遺伝子発現をもたらし得る薬物送達システム(DDS)は、未だに開発されていない。
【特許文献1】国際公開第01/066149号パンフレット
【非特許文献1】Jiang, G. et al., Yao Xue Xue Bao, 41(5): 439-45 (2006)
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、薬物を所望の細胞内へ送達させるための複合体(本明細書においては「薬物送達複合体」という)を提供する。本発明の薬物送達複合体は、薬物とカチオン性分子との複合体およびそれを内包するアニオン性分子を含有し、実質的に非荷電であるか負の表面電荷を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の薬物送達複合体に用いられるアニオン性分子は、γ-ポリグルタミン酸(γ-PGA)、コンドロイチン硫酸(以下、CSと略記する場合がある)、アルギン酸(以下、AGAと略記する場合がある)およびそれらの塩から選択される。γ-PGAまたはその塩としては、下式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0011】
【化1】
JP0005382682B2_000002t.gif

【0012】
(式中、Rは水素原子、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属原子、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、トリメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメタノールアミン、エタノールアミン等の第三級アミン、またはテトラメチルアミン、テトラエチルアミン等の第四級アミンであり、分子中に存在するRは同一でも異なってもよく、nは40以上の整数である。)
【0013】
CSまたはその塩としては、下式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0014】
【化2】
JP0005382682B2_000003t.gif

【0015】
(式中、R~Rは独立してそれぞれ水素原子またはスルホン酸基であり(但し、RまたはRの少なくとも一方はスルホン酸基である)、R~Rは独立してそれぞれ水素原子、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属原子、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、トリメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメタノールアミン、エタノールアミン等の第三級アミン、またはテトラメチルアミン、テトラエチルアミン等の第四級アミンであり、分子中に存在するスルホン酸基はそれぞれナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属原子、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、トリメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメタノールアミン、エタノールアミン等の第三級アミン、またはテトラメチルアミン、テトラエチルアミン等の第四級アミンで置換されていてもよく、nは10以上の整数である。)
【0016】
AGAまたはその塩としては、下式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0017】
【化3】
JP0005382682B2_000004t.gif

【0018】
(式中、R~Rは独立してそれぞれ水素原子、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属原子、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、トリメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメタノールアミン、エタノールアミン等の第三級アミン、またはテトラメチルアミン、テトラエチルアミン等の第四級アミンであり、mおよびnはブロック共重合体の各ブロックの総数を表し、mとnとの和は20以上である。)
【0019】
これらのアニオン性分子は、それぞれ自体公知の方法により調製することができる。
【0020】
該アニオン性分子がポリマー、即ちγ-PGA、CS、AGAまたはその塩である場合、その重合度に特に制限はないが、例えば分子量5,000以上、より好ましくは10,000以上のものが挙げられる。また、アニオン性分子の配合量の影響を受けずに安定に薬物を内包し得る点で、該アニオン性ポリマーは、例えば分子量20万以下、好ましくは15万以下、より好ましくは10万以下である。
【0021】
本発明の薬物送達複合体に用いられるカチオン性分子は、上記アニオン性分子と静電的相互作用により複合体を形成し得るものであればよく、例えば、カチオン性ポリマー[例えば、ポリエチレンイミン(以下、PEIと略記する場合がある)、キチンやキトサンなどのポリカチオン性多糖、ポリリジン、ポリアルギニン、プロタミン等のポリカチオン性ポリペプチドなど]、あるいはカチオン性脂質[例えばホスファチジルコリン(大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルエタノールアミン(ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等)、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、水素添加リン脂質等のリン脂質、例えばスルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド等のグリセロ糖脂質、例えばガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシド等のスフィンゴ糖脂質に、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアンモニウム基、モノアシルオキシアルキル-ジアルキルアンモニウム基、ジアシルオキシアルキル-モノアルキルアンモニウム基等の第4級アンモニウム基が導入された脂質など]などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0022】
これらのカチオン性分子もまた、それぞれ自体公知の方法により調製することができる。
【0023】
本発明の薬物送達複合体により細胞内へ送達され得る薬物はいかなるものであってもよく、例えば、核酸、ペプチド、タンパク質、脂質、ペプチド脂質、糖、低分子化合物、その他の合成もしくは天然化合物等が挙げられる。細胞内への送達が疾患の治療および/または予防を目的とする場合、該薬物は該疾患の治療および/または予防活性を有するものであり、例えば、抗高血圧剤、抗低血圧剤、抗精神病剤、鎮痛剤、抗鬱剤、抗躁剤、抗不安剤、鎮静剤、催眠剤、抗癲癇剤、オピオイドアゴニスト、喘息治療剤、麻酔剤、抗不整脈剤、関節炎治療剤、鎮痙剤、ACEインヒビター、鬱血除去剤、抗生物質、抗狭心症剤、利尿剤、抗パーキンソン病剤、気管支拡張剤、分娩促進剤、抗利尿剤、抗高脂血症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、制吐剤、抗感染症剤、抗新生物剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗糖尿病剤、抗アレルギー剤、解熱剤、抗腫瘍剤、抗痛風剤、抗ヒスタミン剤、止痒剤、骨調節剤、心血管剤、コレステロール低下剤、抗マラリア剤、喫煙を中止するための薬剤、鎮咳剤、去痰剤、粘液溶解剤、鼻詰り用薬剤、ドパミン作動剤、消化管用薬剤、筋弛緩剤、神経筋遮断剤、副交感神経作動剤、プロスタグランジン、興奮薬、食欲抑制剤、甲状腺剤又は抗甲状腺剤、ホルモン、抗偏頭痛剤、抗肥満剤、抗炎症剤などとして作用し得るものが挙げられる。
【0024】
特に好ましい一実施態様において、細胞内に導入され得る薬物は核酸である。核酸としては、特に制限はなく、DNA、RNA、DNAとRNAのキメラ核酸、DNA/RNAのハイブリッド等いかなるものであってもよい。また、核酸は1~3本鎖のいずれも用いることができるが、好ましくは1本鎖又は2本鎖である。核酸は、プリンまたはピリミジン塩基のN-グリコシドであるその他のタイプのヌクレオチド、あるいは非ヌクレオチド骨格を有するその他のオリゴマー(例えば、市販のペプチド核酸(PNA)等)または特殊な結合を含有するその他のオリゴマー(但し、該オリゴマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などであってもよい。さらには公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えば蛋白質(ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチドなど)や糖(例えば、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例えば、アクリジン、プソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。
【0025】
例えば、DNAの種類は、使用の目的に応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、例えばプラスミドDNA、cDNA、アンチセンスDNA、染色体DNA、PAC、BAC等が挙げられ、好ましくはプラスミドDNA、cDNA、アンチセンスDNAである。プラスミドDNA等の環状DNAは適宜制限酵素等により消化され、線形DNAとして用いることもできる。また、RNAの種類は、使用の目的に応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、例えばsiRNA、miRNA、shRNA、アンチセンスRNA、メッセンジャーRNA、一本鎖RNAゲノム、二本鎖RNAゲノム、RNAレプリコン、トランスファーRNA、リボゾーマルRNA等が挙げられ、好ましくはsiRNA、miRNA、shRNA、mRNA、アンチセンスRNA、RNAレプリコンである。
【0026】
核酸の大きさは、特に限定されず、染色体(人工染色体等)等の巨大な核酸分子(例えば約10kbpの大きさ)から、低分子核酸(例えば約5bpの大きさ)を導入することが可能であるが、細胞内への核酸導入効率を考慮すると、15kbp以下であることが好ましい。例えばプラスミドDNAのような高分子核酸の大きさとしては、2~15kbp、好ましくは2~10kbpが例示される。また、siRNAのような比較的低分子の核酸の大きさとしては5~1000bp、好ましくは10~500bp、さらに好ましくは15~200bpが例示される。
【0027】
核酸は天然に存在するもの又は合成されたもののいずれでもよいが、100bp程度以下の大きさのものであれば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、通常用いられる核酸自動合成装置を利用して合成することが可能である。
本発明において用いられる核酸は、特に限定されないが、当業者が通常用いる方法により精製されていることが好ましい。
【0028】
本発明の薬物送達複合体を構成する、薬物とカチオン性分子との複合体(以下、カチオン性複合体という場合がある)は、カチオン性複合体がアニオン性分子との静電的相互作用により、実質的に非荷電であるか、あるいは負の表面電荷を有する薬物送達複合体を形成し得る限り、いかなる形態であってもよく、例えば、(a)薬物とカチオン性分子(カチオン性ポリマーまたはカチオン性脂質により構成されるリポソームやミセルを含む)との混合により自己組織化して得られる正の表面電荷を有する複合体(以下、自己組織化複合体という場合がある)、(b)薬物を内包したカチオン性ミセル(マイクロスフェア)、(c)薬物を内包したカチオン性リポソームなどが挙げられるが、それらに限定されない。リポソームの場合、単層型、多重層型のいずれであってもよい。また、ミセルやリポソームはカチオン性脂質分子以外に自体公知の中性脂質(リン脂質、ペプチド脂質、糖脂質等)、ポリオキシアルキレングリコール(PEG、PPG等)などを構成分子として含んでいてもよい。当業者は、含有させる薬物の物理化学的性質に応じて、適宜カチオン性複合体の形態を選択することができる。例えば、核酸やペプチド、タンパク質などの負電荷を有する水溶性薬物の場合、上記(a)または(c)の複合体を用いることができ、脂質や脂溶性低分子薬などの脂溶性薬物の場合、上記(b)または(c)の複合体を用いることができる。また、正電荷を有する水溶性薬物の場合は、上記(c)の複合体を用いることができる。
また、カチオン性複合体は正の表面電荷を有する限り、例えば上記した形態の2つ以上を組み合わせた形態であってよく、例えば、上記(a)もしくは(b)複合体を封入したカチオン性リポソームのような形態が挙げられるが、これに限定されず、任意の他の組み合わせが利用可能である。
【0029】
本発明のカチオン性複合体の調製に用いられる薬物とカチオン性分子との配合比は特に制限されないが、例えば、カチオン性複合体が負電荷を有する薬物とカチオン性分子との混合により得られる自己組織化複合体である場合、該薬物の負電荷を有する官能基(例えば、核酸におけるリン酸基、タンパク質やペプチドにおけるカルボキシル基等)と、該カチオン性分子の正電荷を有する官能基(例えば、PEIにおけるイミノ基、ポリリジンやポリアルギニンにおけるアミノ基等)とのモル比が1:1~1:20、好ましくは1:2~1:15、より好ましくは1:2~1:10の割合で用いることができる。
【0030】
本発明の薬物送達複合体において、上記カチオン性複合体は上記アニオン性分子に内包されている。ここで「内包する」とは内部に含んでいることを意味し、例えばカチオン性複合体表面をアニオン性分子が静電的相互作用により結合して覆うような非封入性の形態であってもよいし、あるいはリポソームのようにカチオン性複合体を封入した形態をとることもできる。前者の場合、薬物送達複合体が実質的に非荷電であるか、あるいは負の表面電荷を有している限り、カチオン性複合体が完全にアニオン性分子で被覆されている必要はない。薬物送達複合体が「実質的に非荷電である」とは、該薬物送達複合体を血液と接触させた場合に赤血球凝集を引き起こさず、また、該薬物送達複合体を細胞と接触させた場合の該細胞の生存率が少なくとも50%である程度に、正電荷が低下していることを意味する。具体的には、薬物送達複合体の表面電荷(ζ電位)は+20mV以下、好ましくは+10mV以下、より好ましくは+5mV以下、さらに好ましくは0mV以下、いっそう好ましくは-10mV以下、特に好ましくは-15mV以下である。表面電荷(ζ電位)の下限は特に制限はないが、例えば-50mV以上、好ましくは-40mV以上、より好ましくは-30mV以上である。
【0031】
本発明の薬物送達複合体の調製に用いられるカチオン性分子とアニオン性分子との配合比は、該薬物送達複合体が実質的に非荷電であるか、あるいは負の表面電荷を有するようになる限り特に制限はないが、例えば該カチオン性分子の正電荷を有する官能基(例えば、PEIにおけるイミノ基、ポリリジンやポリアルギニンにおけるアミノ基等)と、該アニオン性分子の負電荷を有する官能基(例えば、γ-PGA、AGA、CSのスルホン酸基およびカルボキシル基)とのモル比が5:1~1:5、好ましくは4:1~1:4、より好ましくは3:1~1:4である。しかしながら、カチオン性分子の性質に合わせて最適化が可能でこの比率に限定されない。
【0032】
本発明の薬物送達複合体は、薬物とカチオン性分子とを適当な配合比で接触させてカチオン性複合体を形成させ、さらに、該カチオン性複合体とアニオン性分子とを適当な配合比で接触させることにより調製することができる。
例えば、核酸等の負電荷を有する水溶性薬物とPEI等の水溶性カチオン性ポリマーとの間の静電的相互作用を利用したカチオン性複合体は、薬物とカチオン性ポリマーとを水または適当な緩衝液中で混合し、室温で0.5~300分間、好ましくは1~180分間インキュベートすることにより調製することができる。混合物中の薬物濃度は、用いる薬物の種類、サイズ(分子量)等を考慮し適宜設定できるが、該薬物が核酸である場合は、通常0.01~1000ng/μLの範囲である。該薬物が通常のプラスミドDNA(サイズが3kbp程度)である場合は、当該混合液中のDNA濃度は好ましくは50~500ng/μLの範囲である。濃度が低すぎると細胞へ導入されたDNAが期待された機能を発現することができず、濃度が高すぎるとかえって核酸導入効率が低下する。該薬物がRNAである場合も、RNAのサイズ等を考慮し、濃度を適宜設定できるが、RNAのサイズが数kbp程度である場合は、上記混合液中のRNA濃度は、通常3~100ng/μLの範囲である。特に核酸がsiRNAのように約20~約200bpの非常に小さいものである場合、該核酸の濃度は、通常1~500nMの範囲である。尚、薬物とカチオン性ポリマーとの配合比は、上記した範囲から適宜選択することができる。混合液のインキュベーション時間は、用いる薬物とカチオン性ポリマーの種類に応じて上記の範囲内で適宜選択することができるが、インキュベーション時間が短すぎると、薬物とカチオン性ポリマーとの複合体形成が不十分となり、インキュベーション時間が長すぎると、形成された複合体が不安定化する場合があり、いずれも細胞への薬物送達効率が低下する。
【0033】
薬物を内包したカチオン性ミセルの場合、例えば、カチオン性脂質塩と脂溶性薬物をクロロホルムに溶解し、十分に混和した後にエバポレーター、デシケーターを用いてクロロホルムを完全に除去し、任意の等張溶液を加えて一晩水和する。水和後にソニケーションによって薬物を内包したカチオン性ミセルを作成する。作成に用いる薬物量とカチオン性脂質との配合比率は薬物の脂溶性等の物理化学的性質によって適宜調整することができる。また、この方法に限らず、公知の方法により調製することができる。使用する薬物量、薬物とカチオン性脂質との配合比は、それぞれ上記した範囲から適宜選択することができる。
【0034】
また、薬物を内包したカチオン性リポソームの場合、例えば、超音波処理、加熱、ボルテックス、エーテル注入法、フレンチ・プレス法、コール酸法、Ca2+融合法、凍結-融解法、逆相蒸発法等などの自体公知の方法により調製することができる。使用する薬物量、薬物とカチオン性脂質との配合比は、それぞれ上記した範囲から適宜選択することができる。
【0035】
得られたカチオン性複合体溶液にアニオン性分子を添加し、室温で0.5~300分間、好ましくは15~60分間インキュベートして自己組織化させることにより、カチオン性複合体がアニオン性分子により被覆されてなる薬物送達複合体を得ることができる。インキュベーション時間が短すぎると、カチオン性複合体とアニオン性分子との複合体形成が不十分となり、インキュベーション時間が長すぎると、形成された複合体が不安定化する場合があり、いずれも細胞への薬物送達効率が低下する。カチオン性複合体を構成するカチオン性分子とアニオン性分子との配合比は、上記した範囲から適宜選択することができる。
【0036】
このようにして得られた薬物送達複合体は、その表面が実質的に非荷電であるか、あるいは負の表面電荷を有する。ここで「実質的に非荷電」とは上記の通りである。具体的には、実質的に非荷電とは、表面電荷(ζ電位)が+20mV以下かつ-20mV以上、好ましくは+10mV以下かつ-10mV以上、より好ましくは+5mV以下かつ-5mV以上である。また、「負の表面電荷」とは0mV以下、好ましくは-5mV以下、より好ましくは-10mV以下、さらに好ましくは-15mV以下である。表面電荷(ζ電位)の下限は特に制限はないが、例えば-50mV以上、好ましくは-40mV以上、より好ましくは-30mV以上である。薬物送達複合体のζ電位は、市販のζ電位測定装置を用いて測定することができる。
本発明の薬物送達複合体は実質的に非荷電もしくは負荷電であることから、静脈内投与等の全身投与によっても、PEI等のカチオン性ポリマーやカチオン性リポソームを用いた従来のキャリア分子のように赤血球の凝集を引き起こすことがない。また、標的以外の細胞への非特異的な薬物の送達も低減される。
【0037】
本発明の薬物送達複合体は、200nm以下、好ましくは150nm以下、さらに好ましくは100nm以下の平均粒径を有する。薬物送達複合体の粒径分布および平均粒径は、例えば動的光散乱測定装置を用いて得られる散乱強度分布から算出することができる。
従来、粒子サイズを大きくして標的部位の細網内皮系に塞栓させることによって肺などの臓器への移行性を向上させる試みがなされてきたが、この手法では粒子が全身の毛細血管に詰まって、塞栓症を引き起こす危険性があった。これに対し、本発明の薬物送達複合体は、カチオン性複合体とほぼ同等の粒子サイズで十分な滞留性を実現し、かつ特定の臓器への薬物の送達効率を向上させ得ることから、安全に全身投与が可能である。
【0038】
本発明の薬物送達複合体は、アニオン性分子を含まない、PEI等のカチオン性ポリマーを用いたカチオン性複合体と比較して顕著に細胞毒性が低減されるので、望ましくない副作用を最小限に抑えることができる。
【0039】
本発明の薬物送達複合体は、単独で、あるいは薬理学上許容されうる担体とともに常套手段に従って製剤化し、医薬もしくは試薬組成物として使用することができる。薬物送達複合体を試薬組成物として製剤化する場合は、該複合体は、そのままで、あるいは例えば水もしくはそれ以外の生理学的に許容し得る液(例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、通常の細胞培養で用いられる培地(例えばRPMI1640、DMEM、HAM F-12、イーグル培地等)等の水性溶媒、エタノール、メタノール、DMSOなどの有機溶媒もしくは水性溶媒と有機溶媒との混合液等)との無菌性溶液もしくは懸濁液として提供され得る。該組成物は適宜、自体公知の生理学的に許容し得る賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤等を含むことができる。
【0040】
また、薬物送達複合体を医薬組成物として製剤化する場合は、該複合体は、そのままで、あるいは医薬上許容される担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに、一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって経口剤(例えば錠剤、カプセル剤等)あるいは非経口剤(例えば注射剤、スプレー剤等)として製造することができる。
【0041】
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチンなどのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射剤用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例:エタノール)、ポリアルコール(例:プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例:ポリソルベート80TM、HCO-50)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤である安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。
【0042】
また、上記医薬組成物は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤(例えばアスコルビン酸など)などと配合してもよい。
【0043】
本発明はまた、上記本発明の薬物送達複合体を細胞に接触させることを特徴とする、該細胞内への薬物送達方法を提供する。
細胞の種類は特に限定されず、原核生物及び真核生物の細胞を用いることができるが、好ましくは真核生物である。真核生物の種類も、特に限定されず、例えば、ヒトを含む哺乳類(ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウシ等)、鳥類(ニワトリ、ダチョウ等)、両生類(カエル等)、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ等)などの脊椎動物、昆虫(蚕、蛾、ショウジョウバエ等)などの非脊椎動物、植物、酵母等の微生物等が挙げられる。より好ましくは、本発明で対象とされる細胞は、動物もしくは植物細胞、さらに好ましくは哺乳動物細胞である。当該細胞は、癌細胞を含む培養細胞株であっても、個体や組織より単離された細胞、あるいは組織もしくは組織片の細胞であってもよい。また、細胞は接着細胞であっても、非接着細胞であってもよい。
【0044】
薬物送達複合体と細胞とを接触させる工程をより具体的に説明すると、例えば次の通りである。
即ち、細胞は薬物送達複合体との接触の数日前に適当な培地に懸濁され、適切な条件で培養される。薬物送達複合体との接触時において、細胞は増殖期にあってもよいし、そうでなくてもよい。接触時の培養液は、血清含有培地であっても血清不含培地であってもよいが、培地中の血清濃度は30%以下、好ましくは20%以下であることが好ましい。培地中に過剰な血清等の蛋白質が含まれていると、薬物送達複合体と細胞との接触が阻害される可能性があるからである。
【0045】
接触時の細胞密度は、特に限定されず、細胞の種類等を考慮して適宜設定することが可能であるが、通常0.1×10~5×10細胞/mL、好ましくは0.1×10~4×10細胞/mL、より好ましくは0.1×10~3×10細胞/mL、更に好ましくは0.2×10~3×10細胞/mL、最も好ましくは0.2×10~2×10細胞/mLの範囲である。
【0046】
このように調製された細胞を含む培地に、薬物送達複合体含有溶液を添加する。複合体含有溶液の添加量は、特に限定されず、細胞数等を考慮して適宜設定することが可能であるが、培地1mLにつき、通常1~1000μL、好ましくは1~500μL、より好ましくは1~300μL、更に好ましくは1~200μL、最も好ましくは1~100μLの範囲である。
【0047】
培地に複合体含有溶液を添加後、細胞を培養する、培養時の温度、湿度、CO濃度等は、細胞の種類を考慮して適宜設定する。哺乳動物の細胞の場合は、通常約37℃、湿度約95%、CO濃度は約5%である。
また、培養時間も用いる細胞の種類等の条件を考慮して適宜設定することが可能であるが、通常1~72時間、好ましくは1~60時間、より好ましくは1~48時間、更に好ましくは1~40時間、最も好ましくは1~32時間の範囲である。
上記培養時間が短すぎると、薬物が十分細胞内へ導入されず、培養時間が長すぎると、細胞が弱ることがある。
【0048】
上記培養により、薬物が細胞内へ導入されるが、好ましくは培地を新鮮な培地と交換するか、培地に新鮮な培地を添加して更に培養を続ける。細胞が哺乳動物由来の細胞である場合は、新鮮な培地は血清又は栄養因子を含むことが好ましい。
更なる培養の時間は、薬物に期待される機能等を考慮して、適宜設定することが可能であるが、該薬物が発現ベクター等のプラスミドDNAである場合は、通常8~72時間、好ましくは8~60時間、より好ましくは8~48時間、更に好ましくは8~36時間、最も好ましくは12~32時間の範囲である。該化合物がsiRNAなどの標的遺伝子の発現を制御し得る低分子核酸である場合には、通常0~72時間、好ましくは0~60時間、より好ましくは0~48時間、更に好ましくは0~36時間、最も好ましくは0~32時間の範囲である。
【0049】
本発明はまた、上記本発明の薬物送達複合体を対象に投与することを特徴とする、該動物の細胞内への薬物送達方法を提供する。
即ち、該複合体を対象に投与することにより、該複合体が標的細胞へ到達・接触し、生体内で該複合体に含まれる化合物が細胞内へ導入される。
該複合体を投与可能な対象としては、特に限定されず、例えば、ヒトを含む哺乳類(ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウシ等)、鳥類(ニワトリ、ダチョウ等)、両生類(カエル等)、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ等)などの脊椎動物、昆虫(蚕、蛾、ショウジョウバエ等)などの無脊椎動物、植物等を挙げることができる。好ましくは、該複合体の投与対象としては、ヒトまたは他の哺乳動物が挙げられる。
【0050】
薬物送達複合体の投与方法は、標的細胞へ該複合体が到達・接触し、該複合体に含まれる薬物を細胞内へ導入可能な範囲で特に限定されず、薬物の種類や、標的細胞の種類や部位等を考慮して、自体公知の投与方法(経口投与、非経口投与(静脈内投与、筋肉内投与、局所投与、経皮投与、皮下投与、腹腔内投与、スプレー等)等)を適宜選択することができる。
【0051】
薬物送達複合体の投与量は、薬物の細胞内への導入を達成可能な範囲で特に限定されず、投与対象の種類、投与方法、薬物の種類、標的細胞の種類や部位等を考慮して適宜選択することができるが、経口投与の場合、一般的に例えばヒト(体重60kgとして)においては、その1回投与量は複合体として約0.001mg~10000mgである。非経口的に投与する場合(例えば静脈内投与等)は、一般的に例えばヒト(体重60kgとして)においては、その1回投与量は複合体として約0.0001mg~3000mgである。
【0052】
本発明の薬物送達複合体は、静脈投与等の全身投与後に、アニオン性分子としてγ-PGA、CSもしくはAGAまたはその塩、好ましくはγ-PGAもしくはCSまたはその塩、より好ましくはγ-PGAまたはその塩を用いた場合には、脾臓に高い選択性をもって送達される。
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0054】
実施例1
(方法)
プラスミドDNA(以下、pDNAと略記する)としてCMVプロモータを含み、ホタルルシフェラーゼ遺伝子をコードしたpCVM-Lucを使用した。pDNAの5%グルコース溶液(1mg/mL)10μLと5%糖液20μLとを混合した後に、PEI(分子量25000)の5%グルコース溶液(1mg/mL、pH=7.4)10μLと混合し(pDNAのリン酸基とPEIのアミノ基とのモル比1:8)、室温で15分間インキュベートした。この混合液に種々の濃度のγ-PGA(分子量10000~100000)の5%グルコース溶液を加えて、pDNAのリン酸基(P)、PEIのアミノ基(N)およびγ-PGAのカルボキシル基(C)のモル比(以下、「PNC比」と略記する)が、それぞれ1:8:2、1:8:4、1:8:6になるようにし、室温で15分間インキュベートした。各PNC比について、得られたpDNA/PEI/γ-PGA複合体の表面電荷(ζ電位)および粒子径を、それぞれゼータサイザーナノ(Nano-ZS、Malvern 社製)を用いて測定した。また、同様の方法でコンドロイチン硫酸、アルギン酸について検討した。
(結果)
粒子径と表面電荷の測定結果を図1に示す。棒グラフが粒子径、線グラフが表面電荷の数値を表す。三種類のアニオン性分子全てにおいてPNC比が1:8:4のものと1:8:6のものは粒子径がpDNA/PEI複合体とほぼ同等であり、負の表面電荷を有していた。表面電荷が安定したアニオン性を示すことから、以後の遺伝子導入実験では、特にことわらない限りPNC比1:8:6の複合体を用いた。
【0055】
実施例2
(方法)
実施例1で調製した3種のpDNA/PEI/γ-PGA複合体と、実施例1と同様にして調製したpDNA/PEI/CS(分子量10万以下)複合体(PNC比(但し、CはCS中のカルボキシル基およびスルホン酸基のモル数を意味する。以下の実施例においても同様)1:8:6)およびpDNA/PEI/AGA(分子量12000 ~80000)複合体(PNC比1:8:6)とについて、赤血球溶液(2%、v/v)と混合し、室温で15分インキュベートし、凝集を誘発するか否かを調べた。測定は顕微鏡下(400倍)で行った。
(結果)
結果を図2に示す。pDNA/PEI複合体と接触させた場合は赤血球が凝集したが、pDNA/PEI/γ-PGA複合体、pDNA/PEI/CS複合体、pDNA/PEI/AGA複合体はどれも赤血球の凝集を誘発しなかった。
【0056】
実施例3
(方法)
分子量の4種類(Aタイプ:1,500,000、Bタイプ:500,000~800,000、Cタイプ:200,000~400,000、Dタイプ:10,000~100,000)のγ-PGAを用い、実施例1と同様にしてpDNA/PEI/γ-PGA複合体(それぞれについてPNC比1:8:2、1:8:4、1:8:6)を作製した。各複合体を0.8%アガロースゲル電気泳動に付し、泳動後ゲルをEtBrで染色した。
(結果)
結果を図3に示す。Aタイプ、Bタイプ、Cタイプのγ-PGAを使用した場合、PNC比1:8:4と1:8:6の複合体ではpDNAの流出が認められたが、Dタイプのγ-PGAを使用した複合体では、調べた全てのPNC比においてpDNAの流出が認められなかった。配合比に関係なく優れたpDNA保持能を示すことから、以後の実験では、特に断わらない限りDタイプのγ-PGAを用いた。
【0057】
実施例4
(方法)
実施例3のDタイプのγ-PGA、Dタイプに分子量が近似しているα-PGAを使用して、実施例1と同様にしてpDNA/PEI/γ-もしくはα-PGA複合体(それぞれPNC比が1:8:2、1:8:4、1:8:6、1:8:8)を作製し、実施例3と同様にして複合体のpDNA保持能を調べた。同様に、pDNA/PEI/CSもしくはAGA複合体(それぞれPNC比が1:8:2、1:8:4、1:8:6)も作製し、pDNA保持能を調べた。
(結果)
結果を図4に示す。α-PGAを使用した場合はα-PGAの配合比が高くなるにつれてpDNAの流出が認められたが、γ-PGAを使用した場合は調べた全てのPNC比においてpDNAの流出が認められなかった。また、アニオン性分子としてCSまたはAGAを使用した場合でも、調べた全てのPNC比においてpDNAの流出が認められなかった。
【0058】
実施例5
(方法)
pDNAとして緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするpEGFP-C1を用い、ローダミンBで蛍光標識したPEI(R-PEI)と、種々のポリアニオン(ポリA、ポリIC、フコイダン、λ-カラギーナン、キサンタン、α-ポリアスパラギン酸、α-PGA、γ-PGA、CS、AGA)とを用いて、実施例1と同様にしてpDNA/R-PEI/ポリアニオン複合体を作製した。各複合体をB16/F10メラノーマ細胞(入手元:東北大学加齢医学研究所)と血清非存在下で2時間接触させ、接触後にさらに22時間培養した後の蛍光顕微鏡下での蛍光を観察した。
(結果)
結果を図5および6に示す。上段は細胞内取り込みにより発色する様子を、下段は遺伝子発現により発色する様子を示している。pDNA/R-PEI複合体、pDNA/R-PEI/γ-PGA複合体、pDNA/PEI/CS複合体、pDNA/PEI/AGA複合体は上下段とも発色が認められたが、他の複合体では上下段とも発色は認められなかった。
【0059】
実施例6
(方法)
pDNAとしてホタルルシフェラーゼ遺伝子をコードしたpCMV-Lucを用い、非標識のPEIを用いる以外は、実施例5と同様の方法でpDNA/PEI/ポリアニオン複合体を作製して、B16/F10メラノーマ細胞にトランスフェクトし、遺伝子発現を定量化した。また、WST-1アッセイ(文献:In Vitro Toxicol. 8, 187-190 (1995))により、細胞毒性を評価した。
(結果)
遺伝子発現の程度を図7、細胞毒性の程度を図8に示す。図7より、アニオン性分子としてγ-PGAまたはCSを使用した複合体によるルシフェラーゼ発現は、pDNA/PEI複合体と比較して有意に低いものの、十分高レベルであった。AGAを使用した場合も、γ-PGAやCSと比べて発現レベルは低いが、遺伝子導入試薬としての使用にたえ得る程度の発現が認められた。また、図8より、pDNA/PEI/γ-PGA、CSもしくはAGA複合体では、pDNA/PEI複合体に比べて、細胞の生存率が顕著に高く、これらのアニオン性分子でpDNA/PEI複合体を被覆することによって、細胞毒性が大きく改善されることが示された。
【0060】
実施例7
(方法)
実施例6の要領で、γ-PGA、CSおよびAGAについて、それぞれPNC比が1:8:4、1:8:6、1:8:8となるようにpDNA/PEI/ポリアニオン複合体を作製し、B16/F10メラノーマ細胞にトランスフェクトした場合のルシフェラーゼ発現を測定、比較した。
(結果)
結果を図9に示す。いずれのアニオン性分子においても、調べたPNC比の範囲で、ほぼ同等の遺伝子発現が認められた。
【0061】
実施例8
(方法)
pDNA/PEI複合体、pDNA/PEI/γ-PGA複合体およびpDNA/PEI/CS複合体をddY系雄性マウス(5週齢、SLCより入手)3匹の尾静脈内にpDNA量として40μg投与し、6、12、24時間後に肝臓、腎臓、脾臓、心臓、肺を摘出し、各臓器におけるルシフェラーゼ発現を測定した。
(結果)
結果を図10に示す。pDNA/PEI/γ-PGAもしくはCS複合体を投与した場合、pDNA/PEI複合体と比較して肺でのルシフェラーゼ発現が顕著に抑制され、脾臓でのみ臓器1gあたり10RLUを超える高レベルの発現が認められ、γ-PGAもしくはCSの利用により、全身投与によっても高い選択性をもって脾臓に遺伝子導入され得ることが示された。
【0062】
実施例9
(方法)
カチオン性分子としてPEIの代わりにポリリジン、ポリアルギニン、プロタミンを用いる以外は、実施例1と同様にしてpDNA/カチオン性分子/γ-PGA複合体(それぞれについてPNC比1:8:2、1:8:4、1:8:6)を作製し、実施例3と同様にしてpDNA保持能を検定した。
(結果)
結果を図11に示す。全ての複合体でpDNAの流出が見られず、γ-PGAで被覆することにより、カチオン性分子の種類に関係なくpDNAが安定に内包されることが示された。
【0063】
実施例10
(方法)
pDNAとしてホタルルシフェラーゼ遺伝子をコードしたpCMV-Lucを用い、カチオン性分子としてポリリジン、ポリアルギニンまたはプロタミンを、アニオン性分子としてγ-PGAをそれぞれ用いてpDNA/カチオン性分子/γ-PGA複合体を作製し、実施例6と同様にしてB16/F10メラノーマ細胞にトランスフェクトし、遺伝子発現を定量化した。
(結果)
結果を図12に示す。いずれのカチオン性分子を用いた場合でも、γ-PGAで被覆した複合体は、被覆していないカチオン性複合体と同等の発現を示した。
【0064】
実施例11
(方法)
pDNAを、代表的なカチオン性リポソームであるDOTMA-DOPEまたはDOTMA-CHOLを作製してリポソームと混合し、室温で15分間インキュベートし、複合体を形成した。さらに、このpDNA内包リポソームの懸濁液とγ-PGA溶液とを混合し、室温で15分間インキュベートすることにより、該リポソームをγ-PGAで被覆した複合体も作製した(それぞれについてPNC比1:2:2~12。但し、NはDOTMA中のトリメチルアンモニウム基のモル数を意味する)。実施例3と同様にしてこれらの複合体を電気泳動した。また、実施例6と同様にしてこれらの複合体と細胞を接触させてルシフェラーゼ活性を測定した。
(結果)
電気泳動の結果を図13に、ルシフェラーゼ活性の測定結果を図14に示す。図13に示される通り、いずれのカチオン性リポソームを用いた場合でも、調べた全てのPNC比の範囲で複合体からのpDNAの流出が見られず、安定にpDNAが内包されていることがわかった。また、図14より、いずれのカチオン性リポソームをγ-PGAで被覆した場合でも、被覆していないリポソームと同等の遺伝子発現を示すことが明らかとなった。
【0065】
実施例12
(方法)
常法により作製したDOTMA-CHOLリポソームまたは1-アミドデカンミセルを作製と、γ-PGA溶液とを種々の割合で混合し、室温で30分間インキュベートすることにより、該リポソームまたはミセルをγ-PGAで被覆した複合体を作製した。これらの複合体を実施例3と同様にして電気泳動した。
(結果)
結果を図15に示す。図中、上がマイナス極、下がプラス極である。カチオン性リポソームとカチオン性ミセルとはそのままの状態ではどちらもマイナス極側に移行するが、γ-PGAで被覆することにより、プラス極側に移行していることが確認された。したがって、γ-PGAがカチオン性リポソームとカチオン性ミセルのどちらも内包できることが明らかになった。
【0066】
本発明の薬物送達複合体は、赤血球凝集を引き起こさず、細胞毒性も低く、しかも細胞内取り込み効率に優れるので、安全かつ有効に薬物を細胞に標的細胞へ送達するためのベクターとして有用である。また、静脈投与のような全身投与によっても脾臓への選択的な薬物送達が可能なため、簡便な脾臓への薬物ターゲッティング手段として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1における粒子径と表面電荷の測定結果を示す図である。棒グラフが粒子径を、線グラフが表面電荷を示している。
【図2】実施例2における赤血球凝集の様子を示す図である。
【図3】実施例3における電気泳動の結果を示す図である。
【図4】実施例4における電気泳動の結果を示す図である。
【図5】実施例5におけるpDNAの細胞内取り込みの様子と遺伝子発現の様子を示す図である。上段が細胞内取り込み、下段が遺伝子発現により発色する様子を示している。
【図6】実施例5におけるpDNAの細胞内取り込みの様子と遺伝子発現の様子を示す図である。上段が細胞内取り込み、下段が遺伝子発現により発色する様子を示している。
【図7】実施例6におけるルシフェラーゼ活性を示す図である。
【図8】実施例6における細胞毒性の程度を示す図である。
【図9】実施例7におけるルシフェラーゼ活性を示す図である。
【図10】実施例8における6時間後、12時間後、24時間後の肝臓、腎臓、脾臓、心臓、肺におけるルシフェラーゼ活性を測定した結果を示す図である。縦軸がルシフェラーゼ活性の数値である。
【図11】実施例9における電気泳動の結果を示す図である。
【図12】実施例10におけるルシフェラーゼ活性を示す図である。
【図13】実施例11における電気泳動の結果を示す図である。
【図14】実施例11におけるルシフェラーゼ活性の測定結果を示す図である。
【図15】実施例12における電気泳動の結果を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14