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明細書 :細胞増殖促進活性を有するペプチド

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5360738号 (P5360738)
公開番号 特開2009-209064 (P2009-209064A)
登録日 平成25年9月13日(2013.9.13)
発行日 平成25年12月4日(2013.12.4)
公開日 平成21年9月17日(2009.9.17)
発明の名称または考案の名称 細胞増殖促進活性を有するペプチド
国際特許分類 C07K   7/06        (2006.01)
C07K   7/08        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P   7/00        (2006.01)
A61P   9/00        (2006.01)
A61P  17/02        (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
FI C07K 7/06 ZNA
C07K 7/08
A61K 37/02
A61P 7/00
A61P 9/00
A61P 17/02
A61P 25/00
請求項の数または発明の数 13
全頁数 19
出願番号 特願2008-052139 (P2008-052139)
出願日 平成20年3月3日(2008.3.3)
審査請求日 平成23年2月25日(2011.2.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
発明者または考案者 【氏名】谷原 正夫
【氏名】古谷 嘉章
個別代理人の代理人 【識別番号】100065215、【弁理士】、【氏名又は名称】三枝 英二
【識別番号】100108084、【弁理士】、【氏名又は名称】中野 睦子
【識別番号】100115484、【弁理士】、【氏名又は名称】林 雅仁
【識別番号】100124431、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 順也
審査官 【審査官】戸来 幸男
参考文献・文献 特開昭62-259598(JP,A)
特表2003-513016(JP,A)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1988年,vol.85, no.7,pp.2324-2328
再生医療,2008年 2月,vol.7, Suppl.,p.291[P-212]
Cell,2000年,vol.101, no.4,pp.413-424
調査した分野 C07K 7/00-7/66
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS/
REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(1)又は(2)に示すペプチド、又はその塩:
(1)下記一般式(I)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
Phe Phe X1 Arg X2 Glu Ser Asn X3 Tyr (I)
(式(I)において、X1はGluまたはAspを表し;X2はLeuを表し;X3はAsnまたはGlnを表す);
(2)Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr Asn(配列番号4)からなるペプチド。
【請求項2】
下記一般式(II)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、又はその塩
Phe Phe X4 Arg X5 Glu Ser Asn X6 Tyr X7 Thr Tyr Arg Ser Arg Lys (II)
(式(II)において、X4はGluまたはAspを表し;X5はLeuを表し;X6はAsnまたはGlnを表し;X7はAsnまたはGlnを表す)。
【請求項3】
下記配列のいずれかからなる請求項1または2に記載のペプチド又はその塩:
(i) Phe Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr(配列番号1);
(ii) Phe Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr Asn Thr Tyr Arg Ser Arg Lys(配列番号2);
(iii) Phe Phe Asp Arg Leu Glu Ser Asn Gln Tyr Gln Thr Tyr Arg Ser Arg Lys(配列番号3)。
【請求項4】
ミノ酸配列のアミノ末端のアミノ基の水素が、アセチル基、メトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、1~3残基のペプチドで置換された、請求項1~3のいずれかに記載のペプチド又はその塩。
【請求項5】
ミノ酸配列のカルボキシ末端のカルボキシル基が、アミド基、メチルエステル基、ブチルエステル基、1~3残基のペプチドで置換された、請求項1~3のいずれかに記載のペプチド又はその塩。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のペプチド又はその塩、及び薬学的に許容される基材又は担体を含む医薬製剤。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載のペプチド又はその塩が、生分解性基材に担持されている、請求項6に記載の医薬製剤。
【請求項8】
生分解性基材がアルギン酸ゲルである、請求項7に記載に医薬製剤。
【請求項9】
幹細胞、皮膚線維芽細胞、神経細胞又は血管内皮細胞の増殖又は分化制御用である、請求項6~8のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項10】
幹細胞が、胚性幹細胞、神経幹細胞、骨髄幹細胞及び造血幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の医薬製剤。
【請求項11】
血管新生用である請求項6~10のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項12】
皮膚潰瘍の予防又は治療用である請求項6~11のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項13】
皮膚潰瘍が、褥瘡、糖尿病性潰瘍及び熱傷潰瘍からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項12に記載の医薬製剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は新規な細胞増殖促進活性を有するペプチド、細胞増殖促進活性とヘパリン結合活性を有するペプチド、ならびにそれらの生理学的に許容される塩に関する。さらに詳しくは、本発明は胚性幹細胞や神経幹細胞、造血幹細胞などの幹細胞、皮膚繊維芽細胞や神経細胞、血管内皮細胞の増殖、分化制御、皮膚疾患や神経疾患、皮膚潰瘍などの治療に有用なペプチドならびにその薬学的に許容される塩に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞や体性幹細胞を用いる再生医療は、従来回復が不可能と考えられていた神経変性疾患などの難病の治療に希望を与えるものであり、既に先駆的な臨床試験も開始されている。しかし、神経疾患の治療においても、移植する神経幹細胞の供給源、数量、神経への分化効率などの多くの問題があり、神経幹細胞等の有効な増殖・分化方法が求められている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
上記のような、細胞の増殖促進活性を示す物質は数多く知られているが、一方で無制限な増殖は細胞の癌化や腫瘍の悪性化を引き起こすことも知られている。代表的な増殖因子である繊維芽細胞増殖因子(FGF)はヘパリンやヘパラン硫酸結合性ならびに強力な細胞増殖、移動、分化、血管新生を示すとともに、種々の癌遺伝子産物との相同性が指摘されている。(例えば、非特許文献2を参照)
塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)の受容体結合部位とヘパリン結合部位の探索がなされ、FGF-(24-68)-NH2とFGF-(106-115)-NH2がbFGFの作用を阻害すること、これらのペプチド単独で弱いbFGF様活性を示すことが報告されている。(例えば、非特許文献3を参照)
マルチドメイン合成ペプチドF2A4-K-NSが、FGF受容体と結合しFGF様活性、即ち細胞増殖、移動、血管新生作用を示すとともにヘパリン結合性を持つことが報告されている。(例えば、非特許文献4を参照)
絹タンパクの非結晶部から分離、分収された分子量が1万以下のペプチドが細胞接着剤、細胞増殖促進剤、創傷治癒促進剤、化粧料として有用であることが知られている。(例えば、特許文献1を参照)
新しい血管の増殖、ヒト内皮細胞の遊走の誘導作用を持つIGDペプチド、特にGGIGDGGを含む組成物が知られている。(例えば、特許文献2を参照)
酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF)を含むスキンケア用組成物が知られている。(例えば、特許文献3を参照)
上記のaFGFやbFGFなどは、活性は高いが分子量が大きいタンパク質であるので、抗原性、投与方法、安定性に問題がある。一方、低分子量ペプチドは活性が低い、特異性が十分でないなどの問題がある。

【特許文献1】特開2004-339189
【特許文献2】特開2005-518409
【特許文献3】特開2006-265221
【非特許文献1】実験医学、Vol.20(9),1276-1279、2002
【非特許文献2】Methods in Enzymology, 147, 106-119, 1987
【非特許文献3】Proc Natl Acad Sci USA, 85, 2324-2328, 1988
【非特許文献4】Int J Mol Med, 17, 833-839, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な(i)細胞増殖促進活性を有するペプチド、(ii)細胞増殖促進活性とヘパリン結合活性を有するペプチド、ならびに(iii)それらの生理学的に許容される塩を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、胚性幹細胞や神経幹細胞、造血幹細胞、骨髄幹細胞などの幹細胞、皮膚繊維芽細胞や神経細胞、血管内皮細胞の増殖、分化制御に有用であり、皮膚疾患(例えば、褥瘡、熱傷潰瘍、糖尿病性潰瘍等の皮膚潰瘍)や神経疾患等の治療に有効なペプチドならびにその薬学的に許容される塩を与えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記(1)~(4)に示されるペプチドが優れた細胞増殖促進活性を有することを見出した。本発明は、このような知見に基づいてさらに研究を重ねた結果完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のペプチド又はその塩、当該ペプチド又はその塩を有効成分とする医薬製剤を提供する。
項1.以下の(1)又は(2)に示すペプチド、又はその塩:
(1)下記一般式(I)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
Phe Phe X1 Arg X2 Glu Ser Asn X3 Tyr (I)
(式(I)において、X1はGluまたはAspを表し;X2はLeuまたはPheを表し;X3はAsnまたはGlnを表す);
(2)上記一般式(I)で表されるアミノ酸配列において、1~3個のアミノ酸が置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、水溶性を示し、且つ細胞増殖促進活性を有するペプチド。
項2.以下の(3)又は(4)に示すペプチド、又はその塩:
(3)下記一般式(II)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
Phe Phe X4 Arg X5 Glu Ser Asn X6 Tyr X7 Thr Tyr Arg Ser Arg Lys (II)
(式(II)において、X4はGluまたはAspを表し;X5はLeuまたはPheを表し;X6はAsnまたはGlnを表し;X7はAsnまたはGlnを表す);
(4)上記一般式(II)で表されるアミノ酸配列において、1~3個のアミノ酸が置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、ヘパリン結合性であって、且つ細胞増殖促進活性を有するペプチド。
項3.上記(1)~(4)に記載のペプチドにおいて、アミノ酸配列のアミノ末端のアミノ基の水素が、アセチル基、メトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、1~3残基のペプチドで置換された、請求項1または2に記載のペプチド又はその塩。
項4.上記(1)~(4)に記載のペプチドにおいて、アミノ酸配列のカルボキシ末端のカルボキシル基が、アミド基、メチルエステル基、ブチルエステル基、1~3残基のペプチドで置換された、項1又は2に記載のペプチド又はその塩。
項5.下記配列のいずれかからなる項1~4のいずれかに記載のペプチド又はその塩:
(i) Phe Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr(配列番号1);
(ii) Phe Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr Asn Thr Tyr Arg Ser Arg Lys(配列番号2);
(iii) Phe Phe Asp Arg Leu Glu Ser Asn Gln Tyr Gln Thr Tyr Arg Ser Arg Lys(配列番号3);
(iv) Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr Asn(配列番号4)。
項6.項1~5のいずれかに記載のペプチド又はその塩、及び薬学的に許容される基材又は担体を含む医薬製剤。
項7.項1~5のいずれかに記載のペプチド又はその塩が、生分解性基材に担持されている、項6に記載の医薬製剤。
項8.生分解性基材がアルギン酸ゲルである、項7に記載に医薬製剤。
項9.幹細胞、皮膚線維芽細胞、神経細胞又は血管内皮細胞の増殖又は分化制御用である、項6~8のいずれかに記載の医薬製剤
項10.幹細胞が、胚性幹細胞、神経幹細胞、骨髄幹細胞及び造血幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種である、項9に記載の医薬製剤。
項11.血管新生用である項6~10のいずれかに記載の医薬製剤。
項12.皮膚潰瘍の予防又は治療用である項6~11のいずれかに記載の医薬製剤。
項13.皮膚潰瘍が、褥瘡、糖尿病性潰瘍及び熱傷潰瘍からなる群より選択される少なくとも1種である、項12に記載の医薬製剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明により提供される新規なペプチドは、優れた細胞増殖促進活性を有することから、胚性幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞等の幹細胞、及び皮膚細胞、神経細胞の増殖又は分化制御に有用である。また、例えば神経幹細胞の増殖や分化を促進することによって神経疾患の治療に用いることができる。さらに、血管内皮細胞の増殖を促進することによって、血管新生を促すことができることから、例えば、褥瘡、皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下腿潰瘍、糖尿病性潰瘍)等の治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明においては各種アミノ酸残基を次の略号で記述する。
【0009】
Ala :L-アラニン残基
Arg :L-アルギニン残基
Asn :L-アスパラギン残基
Asp :L-アスパラギン酸残基
Gln :L-グルタミン残基
Glu :L-グルタミン酸残基
Gly :グリシン残基
Leu :L-ロイシン残基
Lys :L-リジン残基
Phe :L-フェニルアラニン残基
Ser :L-セリン残基
Thr :L-トレオニン残基
Tyr :L-チロシン残基
また、本明細書においては、常法に従ってペプチドのアミノ酸配列を、そのN末端のアミノ酸残基が左側に位置し、C末端のアミノ酸残基が右側に位置するように記述する。
【0010】
1.細胞増殖促進活性を有するペプチド及びその塩
本発明の細胞増殖促進活性を有するペプチドとしては、下記(1)~(4)に示されるペプチド又はその塩が挙げられる。
【0011】
(1)下記一般式(I)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
Phe Phe X1 Arg X2 Glu Ser Asn X3 Tyr (I)
(式(I)において、X1はGluまたはAspを表し;X2はLeuまたはPheを表し;X3はAsnまたはGlnを表す);
(2)上記一般式(I)で表されるアミノ酸配列において、1~3個のアミノ酸が置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、水溶性を示し、且つ細胞増殖促進活性を有するペプチド;
(3)下記一般式(II)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
Phe Phe X4 Arg X5 Glu Ser Asn X6 Tyr X7 Thr Tyr Arg Ser Arg Lys (II)
(式(II)において、X4はGluまたはAspを表し;X5はLeuまたはPheを表し;X6はAsnまたはGlnを表し;X7はAsnまたはGlnを表す);
(4)上記一般式(II)で表されるアミノ酸配列において、1~3個のアミノ酸が置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、ヘパリン結合性であって、且つ細胞増殖促進活性を有するペプチド。
【0012】
以下、(1)~(4)に示されるペプチドについて詳述する。
【0013】
(1)一般式(I)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
Phe Phe X1 Arg X2 Glu Ser Asn X3 Tyr (I)
式(I)において、X1はGluまたはAspを表し;X2はLeuまたはPheを表し;X3はAsnまたはGlnを表す。以下、本明細書において上記一般式(I)で表されるアミノ酸からなるペプチドを、単に(1)のペプチドと表記することがある。
【0014】
本発明において(1)のペプチド好ましい態様として、下記(a)の態様が挙げられる。
(a) 一般式(I)において、X1がGluであり、X2がLeuであり、且つX3がAsnであるアミノ酸配列からなるペプチド。
【0015】
このような本発明のペプチドは、水溶性を示し、且つ優れた細胞増殖促進活性を有する。
【0016】
(2)一般式(I)で表されるアミノ酸配列において、アミノ酸が置換、欠失若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ細胞増殖促進活性を有するペプチド
本発明には、さらに、一般式(I)で表されるアミノ酸配列において、1~3個の任意のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、水溶性を示し、且つ細胞増殖促進活性を有するペプチドも含まれる。以下、本明細書において、このペプチドを単に(2)のペプチドと表記することがある。
【0017】
上記(2)のペプチドにおいて、置換、欠失若しくは付加されるアミノ酸の数については、改変されたペプチドが細胞増殖促進活性を有している限り特に限定されないが、1~3個であることが望ましい。
【0018】
例えば、アミノ酸の付加の場合であれば、当該付加されるアミノ酸の数としては、1~3個、好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個である。
【0019】
また、アミノ酸の欠失の場合であれば、当該欠失されるアミノ酸の数としては、1~3個、好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個である。
【0020】
さらに、アミノ酸の置換の場合であれば、当該置換されるアミノ酸の数としては、1~3個、好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個である。
【0021】
また、上記(2)のペプチドにおいて、置換、欠失若しくは付加されるアミノ酸の位置は、改変されたペプチドが水溶性を示し、且つ細胞増殖促進活性を有している限り、特に限定されない。
【0022】
更に、上記(2)のペプチドにおいて、置換若しくは付加されるアミノ酸の種類については、改変されたペプチドが水溶性を示し、且つ細胞増殖促進活性を有することを限度として、特に制限されない。付加されるアミノ酸の種類については、改変されたペプチドが水溶性を示し、且つ細胞増殖促進活性を有している限りにおいて、天然アミノ酸、非天然アミノ酸の別を問わず、任意のアミノ酸を選択することができる。但し、置換については、各アミノ酸残基は側鎖官能基の性質に基づく相同性置換であることが望ましい。アミノ酸の置換の場合であれば、例えば、ArgはLysに、SerはThrにそれぞれ置換可能であり、その逆の置換も可能である。
【0023】
また、アミノ酸の置換、欠失、付加の形態としては、少なくともX3以外について行うもの;N末端から6残基目のGlu(すなわち、(1)のペプチドであればN末端から第6位のグルタミン酸残基)以外について行うもの;あるいはX1~X3以外について行うものが挙げられる。また、他の形態としては、X3以外であって、且つN末端から6残基目のGlu(すなわち、(1)のペプチドであればN末端から第6位のグルタミン酸残基)以外について行うものが挙げられる。
【0024】
(2)のペプチドとして好ましい態様としては下記(b)が例示される。
(b) 一般式(I)において、X1がGlu、X2がLeu、X3がAsnであり、且つN末端から1残基目のPheが欠失し、さらにC末端にAsnが付加されているアミノ酸配列からなるペプチド。
【0025】
本発明の(2)のペプチドの全長は、通常5~20、好ましくは5~15である。
【0026】
上記(1)又は(2)のペプチドの水溶性及び細胞増殖活性の確認は、次のようにして確認することができる。
【0027】
<水溶性の確認>
本発明においては、1mL未満、好ましくは1mL以上10mL未満の25±5℃の水に1mgの確認対象となるペプチドを入れ、5分毎に強く30秒間振り混ぜた際に、30分以内に溶解したことを目視にて確認できた場合に水溶性を有するものとする。
【0028】
<細胞増殖促進活性の確認>
10%のウシ胎児血清を含むダルベッコのMEM培地(DMEM)で継代維持したNIH3T3細胞を、96穴プレート(NUNC社)の各ウエルに1,000個/100μlずつ分注する。これを3時間37℃、5%CO下で静置して細胞を接着させた後、各ウエルをダルベッコのリン酸塩緩衝生食液(PBS, pH = 7.4)で1回洗浄する。その後、各ウエルに100μlずつ0.5%のウシ胎児血清を含むDMEMを分注し、確認対象となるペプチドを、最終濃度が100または200μg/mlになるように加える。その後4日間37℃、5%CO下で培養し、CyQUANT細胞増殖アッセイキット(Invitrogen)を用いて細胞数をカウントする。コントロールとして、ペプチドの代わりにPBSを加えたウエルの細胞数をカウントする。
【0029】
本発明における細胞増殖促進活性は、上記評価において、コントロールの細胞数を100%とした場合、本発明のペプチド又はその塩による細胞増殖率が少なくとも10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上である場合に、そのペプチド(又はその塩)は『細胞増殖促進活性を有する』ものとする。
【0030】
(3)一般式(II)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
Phe Phe X4 Arg X5 Glu Ser Asn X6 Tyr X7 Thr Tyr Arg Ser Arg Lys (II)
一般式(II)において、X4はGluまたはAspを表し;X5はLeuまたはPheを表し;X6はAsnまたはGlnを表し;X7はAsnまたはGlnを表す。
【0031】
以下、本明細書において上記一般式(II)で表されるアミノ酸からなるペプチドを、単に(3)のペプチドと表記することがある。
【0032】
本発明において(3)のペプチドとして、下記(c)又は(d)の態様が挙げられる。
(c) 一般式(II)において、X4がGluであり、X5がLeuであり、X6がAsnであり、且つX7がAsnであるアミノ酸配列からなるペプチド。
(d) 一般式(II)において、X4がAspであり、X5がLeuであり、X6がGlnであり、且つX7がGlnであるアミノ酸配列からなるペプチド。
【0033】
本発明の(3)のペプチドは、水溶性であって、細胞増殖促進活性を有し、且つヘパリン結合性を有するものである。
【0034】
(4)一般式(II)で表されるアミノ酸配列において、アミノ酸が置換、欠失若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ細胞増殖促進活性を有するペプチド
本発明には、さらに、一般式(II)で表されるアミノ酸配列において、1~3個の任意のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、ヘパリン結合性であって、且つ細胞増殖促進活性を有するペプチドも含まれる。以下、本明細書において、このペプチドを単に(2)のペプチドと表記することがある。
【0035】
(4)のペプチドにおいて、置換、欠失、付加されるアミノ酸の好ましい数や種類は、上記『(2)一般式(I)で表されるアミノ酸配列において、アミノ酸が置換、欠失若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ細胞増殖促進活性を有するペプチド』の欄に記載の通りである。
【0036】
但し、(4)のペプチドにおいては、アミノ酸の置換、欠失、付加は、少なくとも6残基目のGlu及びX4~X7以外について行うことが好ましく、さらにN末端側にはアミノ酸を付加しないことが好ましい。
【0037】
また、本発明の(4)のペプチドはヘパリン結合性であって、且つ細胞増殖促進活性を有しする。さらに、本発明の(4)のペプチドは水溶性をも示すものである。従って、アミノ酸の置換、欠失、付加によってこれらの性質を損なわないことが望ましい。特に、N末端から第14~17残基に相当するArg Ser Arg Lysは、ヘパリン結合能を担っていると考えられることから、ヘパリン結合能を損なわない程度に行うことが好ましい。
【0038】
本発明の(4)のペプチドの全長は、通常10~25、好ましくは14~20である。
【0039】
上記(3)又は(4)のペプチドの水溶性及び細胞増殖活性の確認は、上記の方法に従って確認することができる。また、ヘパリン結合性については、次のようにして確認することができる。
【0040】
<ヘパリン結合性>
確認対象となるペプチド20μgをHitrap Heparin HPカラム(5mL、GEヘルスケア)に注入し、流速1.0mL/minのPBSで溶出する。ヘパリン結合性を有する場合、5 mL以降にピークが現れる(溶出される)ことから確認することができる。
【0041】
上記(1)~(4)のペプチドは、N末端の水素がアセチル基、メトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、1~3残基のペプチド等で置換されたものでも良い。また、C末端のカルボキシル基がアミド基、メチルエステル基、ブチルエステル基、1~3残基のペプチド等で置換されたものでも良い。ここで、カルボキシル基が前記置換基で置換されている場合、それぞれ、カルボキシル基の-OHが、アミノ基、メトキシ基、ブトキシ基で置換されていることを意味する。また、カルボキシル基がペプチドで置換されている場合、カルボキシル基と結合されるペプチド間で脱水縮合がおこり、ペプチド結合が形成されていることを指す。
【0042】
また、上記(1)~(4)に示される本発明のペプチドは、薬学的に許容される塩を形成していても良く、その塩としては、例えば、塩酸、硫酸、燐酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマール酸、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸、オレイン酸、パルミチン酸などの酸との塩;ナトリウム、カリウム、カルシウムなどのアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の、またはアルミニウムの水酸化物または炭酸塩との塩;トリエチルアミン、ベンジルアミン、ジエタノールアミン、t-ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、アルギニンなどとの塩などが挙げられる。
【0043】
本発明のペプチドとして好ましいアミノ酸配列としては、以下の具体例が挙げられる。
(i) Phe Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr(配列番号1);
(ii)Phe Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr Asn Thr Tyr Arg Ser Arg Lys(配列番号2);
(iii) Phe Phe Asp Arg Leu Glu Ser Asn Gln Tyr Gln Thr Tyr Arg Ser Arg Lys(配列番号3);
(iv) Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr Asn(配列番号4)。
【0044】
上記(i)~(iv)に示されるペプチドは、C末端のカルボキシル基がアミド基で置換されていることがより好ましく、(ii)のペプチドのC末端のカルボキシル基がアミド基で置換されていることがさらに好ましい。
【0045】
以上のような本発明のペプチドは、通常のペプチド合成方法によって得ることができ、例えば固相合成法または液相合成法によって調製されるが、固相合成法が操作上簡便である。固相合成法は、例えば、日本生化学会編「続生化学実験講座2 タンパク質の化学(下)」(昭和62年5月20日 株式会社東京化学同人発行)、第641-694頁に記載の方法を参考に実施することができる。
【0046】
本発明のペプチドの固相合成法による調製は、例えば、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体などの反応溶媒に不溶性である重合体に目的とするペプチドのC末端に対応するアミノ酸をそれが有するα-COOH基を介して結合させ、次いで該アミノ酸に目的とするペプチドのN末端の方向に向かって、対応するアミノ酸またはペプチド断片を該アミノ酸またはペプチド断片が有するα-COOH基以外のα-アミノ基などの官能基を保護したうえで縮合させて結合させる操作と、該結合したアミノ酸またはペプチド断片におけるα-アミノ基などのペプチド結合を形成するアミノ基が有する保護基を除去する操作とを順次繰り返すことによってペプチド鎖を伸長させ、目的とするペプチドに対応するペプチド鎖を形成し、次いで該ペプチド鎖を重合体から脱離させ、かつ保護されている官能基から保護基を除去することにより目的とするペプチドを得、次いでこれを精製することによって実施される。
【0047】
ここで、ペプチド鎖の重合体からの脱離および保護基の除去は、トリフルオロ酢酸を用いて同時に行うのが副反応を抑制する観点から好ましい。また、得られたペプチドの精製は逆相液体クロマトグラフィ-やゲルパーミエイションクロマトグラフィーで行うのが効果的である。
【0048】
また、本発明のペプチドの塩は、通常の塩生成反応を利用することにより調製される。
【0049】
2.細胞増殖促進活性を有するペプチドを用いた医薬製剤
このように、本発明のポリペプチド又はその塩は、優れた細胞増殖促進活性を有することから、当該ペプチド又は塩を1種単独又は2種以上を組み合わせて、細胞増殖促進剤として使用することができる。
【0050】
また、本発明のペプチド又はその塩は、細胞増殖促進活性を有することから、薬学的に許容される基材又は担体を含む医薬製剤として調製し、使用することができる。医薬製剤として本発明のペプチド又はその塩を使用する場合、当該ペプチド又は塩を1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
当該医薬製剤は、上記細胞増殖促進活性に基づく使用用途、即ち、幹細胞(例えば胚性幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞等)、皮膚線維芽細胞、神経細胞又は血管内皮細胞の増殖又は分化制御に有用であり、例えば血管新生用、神経再生用、皮膚再生用等の目的で使用することができる。
【0052】
また、当該医薬製剤は、皮膚潰瘍の予防又は治療用としても有用である。本発明の医薬製剤が適用される皮膚潰瘍としては、皮膚に発症したものであれば特に発症部位は限定されないが、主に下腿潰瘍、大腿潰瘍、臀部潰瘍、腰部の潰瘍、上腕潰瘍等が例示される。また、皮膚潰瘍の発症原因によって区別されることもあり、例えば、褥瘡等の圧迫性潰瘍;糖尿病性潰瘍等の虚血性潰瘍;熱傷潰瘍等が知られているが、本発明の医薬製剤は、これらの潰瘍に対して特に区別なく適用することができる。
【0053】
例えば、糖尿病患者等は、末梢血行不良の傾向があり、四肢(特に下肢)に糖尿病性潰瘍を生じやすい。潰瘍は放置すると壊疽をおこし、組織の脱落を招く。本発明のペプチド又はその塩を有効成分とする医薬製剤を潰瘍部分に適用することによって血管新生及び皮膚の再生を促進して潰瘍を治療し、ひいては壊疽を予防することが可能である。
【0054】
また、当該医薬製剤は、交通事故等による損傷、腫瘍摘出手術などによる損傷などの末梢神経障害;アルツハイマーやパーキンソン、脊髄損傷などの中枢神経障害の予防又は治療用としても有医用である。例えば、神経が損傷を受けている箇所に当該医薬製剤を投与することによって、本発明のペプチドによって神経が再生され、神経障害を軽減することができ、さらには神経が損傷される以前の状態(正常な状態)にまで回復させることが期待される。
【0055】
当該医薬製剤に使用される基材又は担体については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されず、医薬の製剤化のために配合されている成分を広く使用することができる。具体的には、当該基材としては、水、生理食塩水、乳糖、デンプン、白糖、デキストリン、ブドウ糖、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸塩等の賦形剤が挙げられる。
【0056】
また、当該医薬製剤には、上記成分の他に、添加剤や薬理活性成分を含んでいても良い。当該医薬製剤に配合可能な添加剤としては、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、湿潤化剤、緩衝剤、懸濁化剤、乳化剤、界面活性剤、保存剤等が例示される。これらの添加剤の配合割合は、医薬組成物の用途や製剤形態に応じて適宜設定することができる。
【0057】
当該医薬製剤の剤型としては、適用形態に応じて適宜設定されるが、一例として、スプレー剤、乳剤、懸濁剤等の液状製剤;軟膏、クリーム等の半固形製剤が挙げられる。また、当該医薬製剤は、本発明のペプチド又はその塩をリポソ-ム化して製剤化したものであってもよい。
【0058】
更に、当該医薬製剤は、本発明のペプチド又はその塩を、アルギン酸ゲル、コラーゲンゲル、乳酸ポリマー、セルロース等の生分解性基材に担持(固定化)させたものであってもよい。ここで、コラーゲンゲルとしては、人工的に製造されたものであってもよく、ウシ、ブタ等の動物から得られる天然由来のものであってもよいが、動物由来の病原体感染を防止する意味で、人工コラーゲンを用いることが好ましい。
【0059】
本発明のペプチド又はその塩を上記生分解性基材に担持(固定化)させるには、例えば、アルギン酸ゲルやカルボキシル基を導入した人工コラーゲンゲルに活性エステル化法又は直接法で結合することができる。カルボキシル基を導入した人工コラーゲンゲルは、例えば人工コラーゲンゲルを無水コハク酸と反応させること、或いは人工コラーゲンゲルにグルタミン酸残基を導入することによって作製できる。
【0060】
ゲルの活性エステル化は、例えば、上記ゲルをジメチルホルムアミド等の溶媒に懸濁し、N-ヒドロキシコハク酸イミドと1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(WSCD・HCl)を添加し、室温で一晩振盪することにより実施できる。活性エステル化法において、本発明のペプチド又はその塩を上記生分解性基材に担持(固定化)させるには、ジメチルホルムアミド等の溶媒中で、上記の活性エステル化されたゲル100重量部に対して、本発明のペプチド又はその塩を0.1~200重量部、好ましくは1~100重量部を混合して、ジイソプロピルエチルアミンの存在下10~30℃で3~48時間程度、必要に応じて振盪しながらインキュベートすればよい。
【0061】
一方、直接法で、本発明のペプチド又はその塩を上記生分解性基材に担持(固定化)させるには、例えば、以下の工程(i)~(iii)を順次実施すればよい:工程(i)上記ゲルをジメチルホルムアミド等の溶媒に懸濁する;工程(ii)得られた懸濁液にN-ヒドロキシコハク酸イミドと1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(WSCD・HCl)を添加する;工程(iii)次いで、ジイソプロピルエチルアミンの存在下同時に上記ゲル100重量部(乾燥重量)に対して、本発明のペプチド又はその塩を0.1~200重量部、好ましくは1~100重量部を添加して、10~30℃で3~48時間程度、必要に応じて振盪しながらインキュベートする。
【0062】
また、例えば、上記(3)又は(4)に示されるようなヘパリン結合性を有する本発明のペプチド又はその塩に対しては、例えば、医療用基材の材料にヘパリンを配合して安定性を付与するとともに、当該ペプチド又はその塩のヘパリン結合性を利用して基材に担持させることができる。
【0063】
当該医薬製剤を幹細胞の増殖又は分化制御の用途に使用する場合であれば、当該医薬製剤は、本発明のペプチド又はその塩が上記生分解性基材に担持(固定化)されてなるものが好適である。更に、かかる用途の場合、当該医薬製剤は、上記生分解性基材に担持された本発明のペプチド又はその塩と、神経幹細胞や造血幹細胞等の幹細胞とを混合したものであってもよい。このように幹細胞が含まれる医薬製剤は、直接又は試験管内で培養後に体内に投与することができる。
【0064】
当該医薬製剤の投与形態については、例えば、損傷皮膚、皮下、脊髄、脳内投与等の局所投与が挙げられ、用途や剤型等に応じて適宜設定することができる。また、疾患部位に塗布や散布により本発明のペプチドを、外用剤として直接投与する経皮投与の形態などが挙げられる。
【0065】
本発明の医薬製剤の投与量は、患者の性別や年齢、症状、投与形態、期待される効果等に基づいて、適宜設定することができる。例えば損傷皮膚、皮下、脊髄、脳内投与の場合、当該医薬製剤の1日当たりの投与量の一例として、本発明のペプチド又はその塩の投与量に換算して、通常1μg/kg~1g/kg(成人)であり、好ましくは5μg/kg~100mg/kg(成人)、より好ましくは10μg/kg~10mg/kg(成人)が挙げられる。
【0066】
また、本発明の医薬製剤を外用剤の形態で用いる場合は、患部の大きさや症状に応じて適量を塗布すればよいが、例えば、1~10cmの患部にペプチドに換算して0.01μg~100mg程度、好ましくは0.1μg~10mgとなるように適用すればよい。
【0067】
3.細胞増殖促進活性を有するペプチドを用いた化粧料
本発明のペプチド又はその塩は、優れた細胞増殖促進作用を有することから、経皮適用した場合に優れた血管新生作用、皮膚細胞増殖作用を発揮し、しみ、シワの改善等の効果が期待でき、皮膚の老化防止用としても有用である。従って、本発明のペプチド又はその塩を、香粧学上許容される従来公知の基材や担体と共に混合して化粧料組成物として調製し、これをしみ、シワ改善等を目的として好適に使用することができる。本発明の化粧料組成物におけるペプチド又はその塩の配合量は、剤型によって異なるが、例えば、0.001~5重量%程度、好ましくは0.005~3重量%程度、より好ましくは0.01~1重量%程度である。
【0068】
当該化粧料の形態については、特に制限されないが、例えば、クレンジング剤、皮膚洗浄料、マッサージ剤、軟膏、クリーム、ローション、オイル、パック、洗顔料、化粧水、乳液、ゼリー等が挙げられる。
【0069】
上記の剤型に調製する際の調製方法は特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り、当該分野において公知の方法に従えばよい。
【0070】
本発明の化粧料組成物の適用量は特に限定されず、本発明のペプチド又はその塩を医薬製剤として調製した場合の投与量を参考に、しみやシワの気になる部分及びしみやシワのできやすい部分に、適量を剤型に従って適用すればよい。また、本発明の化粧料組成物を肌に適用することによって、しみ、シワの改善以外にも、肌のはり、ツヤ等を良くする効果、肌のくすみ改善効果等が期待される。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0072】
[実施例1]
Phe Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr-NH2(すなわち、配列番号:1で示されるアミノ酸配列のC末端のカルボキシル基がアミド基で置換されているペプチド)をペプチド自動合成装置を用いて固相合成法により合成した。すなわち、4-(2’、4’-ジメトキシフェニル-フルオレニルメトキシカルボニル)-アミノメチル)-フェノキシアセトアミド-エチル基を0.62ミリモル/g(樹脂)の割合で有するスチレン-ジビニルベンゼン共重合体〔スチレンとジビニルベンゼンの構成モル比:99対1〕からなる粒状樹脂〔米国アプライド・バイオシステムズ社製、Fmocアミドレジン〕0.1ミリモルを用い、目的とするペプチドのC末端からN末端に向かって順次対応するアミノ酸を結合させた。結合反応において、アミノ酸として、米国アプライド・バイオシステムズ社製のNα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-O-t-ブチル-L-チロシン〔Fmocチロシン〕、Nα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-Nβ-トリチル-L-アスパラギン〔Fmocアスパラギン〕、Nα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-O-t-ブチル-L-セリン〔Fmocセリン〕、Nα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-γ-ブチル-L-グルタミン酸〔Fmocグルタミン酸〕、Nα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-L-ロイシン〔Fmocロイシン〕、Nα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-N-(2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルフォニル)-L-アルギニン〔Fmocアルギニン〕、Nα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-L-フェニルアラニン〔Fmocフェニルアラニン 〕を、各結合ステップについてそれぞれ1ミリモルずつ用いた。
【0073】
得られたペプチド樹脂を、7.5%のフェノールと、2.5%のエタンジチオール、5%の水と5%のチオアニソールを含むトリフルオロ酢酸10mlで3時間処理した。得られた溶液をジエチルエーテルに加えて生じる沈殿をさらに数回ジエチルエーテルで洗浄して、ペプチドの脱保護と樹脂からの脱離を行った。粗生成物をPD10カラム(アマシャムファルマシアジャパン)で精製してペプチドを得た。得られた精製ペプチドをHPLC法に付した。すなわち、ファルマシアバイオテク株式会社製AKTA explorer10XT〔カラム:ミリポアウオーターズ株式会社製ノバパックC18 3.9mmφ×150mm、移動相:トリフルオロ酢酸を0.05容量%含有するアセトニトリルと水の混合溶媒(アセトニトリル濃度を30分間で5容量%から50容量%に直線的に変化させた)、流速1.0ml/min〕に付したところ、14.8 minに単一のピ-クが示された。
【0074】
[実施例2]
Phe Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr-OH(ここで-OHは配列番号:1に示されるアミノ酸配列C末端のTyr残基のカルボキシル基に由来するヒドロキシル基を表す)を実施例1と同様の方法で合成した。ただし、固相合成に用いる樹脂として、Fmocアミドレジンの代わりに、4-(Nα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル) -O-t-ブチル-L-チロシン)-オキシメチル-フェノキシ-メチル基を0.60 mmol/g(樹脂)の割合で含むスチレン-ジビニルベンゼン共重合体〔スチレンとジビニルベンゼンの構成モル比:99対1〕からなる粒状樹脂〔米国アプライド・バイオシステムズ社製、HMPチロシン〕0.1ミリモルを用いた。
【0075】
Phe Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr-OHで示される精製ペプチドを実施例1と同様のHPLC法に付したところ、15.6 minに単一のピ-クを示した。
【0076】
[実施例3]
Phe Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr Asn Thr Tyr Arg Ser Arg Lys-NH2(すなわち、配列番号:2で示されるアミノ酸配列のC末端のカルボキシル基がアミド基で置換されているペプチド)を実施例1と同様の方法で合成した。ただし、実施例1に示したアミノ酸以外に、米国アプライド・バイオシステムズ社製のNα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-O-t-ブチル-L-トレオニン〔Fmocトレオニン〕、Nα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-Nε-ブトキシカルボニル-L-リジン〔Fmocリジン〕を、各結合ステップについてそれぞれ1ミリモルずつ用いた。
【0077】
Phe Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr Asn Thr Tyr Arg Ser Arg Lys-NH2で示される精製ペプチドを実施例1と同様のHPLC法に付したところ、14.3 minに単一のピ-クが示された。
【0078】
[実施例4]
Phe Phe Asp Arg Leu Glu Ser Asn Gln Tyr Gln Thr Tyr Arg Ser Arg Lys-NH2(すなわち、配列番号:3で示されるアミノ酸配列のC末端のカルボキシル基がアミド基で置換されているペプチド)を実施例3と同様の方法で合成した。ただし、実施例3に示したアミノ酸以外に、米国アプライド・バイオシステムズ社製のNα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-β-ブチル-L-アスパラギン酸〔Fmocアスパラギン酸〕、Nα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-Nγ-トリチル-L-グルタミン〔Fmocグルタミン〕を、各結合ステップについてそれぞれ1ミリモルずつ用いた。
【0079】
Phe Phe Asp Arg Leu Glu Ser Asn Gln Tyr Gln Thr Tyr Arg Ser Arg Lys-NH2で示される精製ペプチドを実施例1と同様のHPLC法に付したところ、14.3 minに単一のピ-クが示された。
【0080】
[実施例5]
Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr Asn-NH2(すなわち、配列番号:4で示されるアミノ酸配列のC末端のカルボキシル基がアミド基で置換されているペプチド)を実施例1と同様の方法で合成した。
【0081】
Phe Glu Arg Leu Glu Ser Asn Asn Tyr Asn-NH2で示される精製ペプチドを実施例1と同様のHPLC法に付したところ、11.2 minに単一のピ-クを示した。
【0082】
[比較例1]
Phe Phe Glu Arg Leu Ala Ser Asn Glu Tyr-NH2(配列番号:5,アミノ酸配列のC末端のカルボキシル基がアミド基で置換されているペプチド)を実施例1と同様の方法で合成した。ただし、結合反応において、実施例1に示したアミノ酸以外に、米国アプライド・バイオシステムズ社製のNα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-L-アラニン〔Fmocアラニン 〕を、該結合ステップにおいて1ミリモル用いた。
【0083】
Phe Phe Glu Arg Leu Ala Ser Asn Glu Tyr-NH2で示される精製ペプチドを実施例1と同様のHPLC法に付したところ、15.1 minに単一のピ-クを示した。
【0084】
[比較例2]
Gln Leu Gln Ala Glu Glu Arg Gly-NH2(配列番号:6,アミノ酸配列のC末端のカルボキシル基がアミド基で置換されているペプチド)を実施例1と同様の方法で合成した。ただし、実施例1に示したアミノ酸以外に、米国アプライド・バイオシステムズ社製の、Nα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-L-グリシン〔Fmocグリシン 〕、Nα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-L-アラニン〔Fmocアラニン 〕、Nα-9-(フルオレニルメトキシカルボニル)-Nγ-トリチル-L-グルタミン〔Fmocグルタミン〕を、各結合ステップについてそれぞれ1ミリモルずつ用いた。
【0085】
Gln Leu Gln Ala Glu Glu Arg Gly-NH2で示される精製ペプチドを実施例1と同様のHPLC法に付したところ、6.9 minに単一のピ-クを示した。
【0086】
以上の実施例及び比較例で得られたペプチドのアミノ酸配列を下記表1に示す。
【0087】
【表1】
JP0005360738B2_000002t.gif

【0088】
[試験例1]
10%のウシ胎児血清を含むダルベッコのMEM培地(DMEM)で継代維持したNIH3T3細胞を、96穴プレート(NUNC社)の各ウエルに1,000個/100μlずつ分注した。3時間37℃、5%CO下で静置して細胞を接着させた後、各ウエルをダルベッコのリン酸塩緩衝生食液(PBS, pH = 7.4)で1回洗浄した。各ウエルに100μlずつ0.5%のウシ胎児血清を含むDMEMを分注した後、実施例1~5および比較例1、2で得られた配列番号1~6に示すペプチドを、最終濃度が100または200μg/mlになるように加えた。その後4日間37℃、5%CO下で培養し、CyQUANT細胞増殖アッセイキット(Invitrogen)を用いて細胞数をカウントした。コントロールとして、ペプチドの代わりにPBSを加えたウエルの細胞数をカウントした。
【0089】
その結果、コントロールを100としたときの各ペプチドを添加したウエルの細胞数は、実施例1:112、実施例2:125、実施例3:189、実施例4:120、実施例5:112、比較例1:102、比較例2:91であった。明らかに実施例1~5で得られたペプチドを加えたウエルでは、NIH3T3細胞は増殖したが、比較例1に示すペプチドを添加したウエルでは増殖しなかった。また、比較例2に示すペプチドは、NIH3T3細胞の増殖は認められなかった。
【0090】
さらに、上記培養条件下で、実施例3のペプチドを200、100、50、25、0μg/gの濃度でそれぞれ培地に添加した場合のNIH3T3細胞の増殖効果を比較した。結果を図1に示す。図1より、濃度依存的にNIH3T3細胞の増殖が促進されていることが示された。
【0091】
また、本発明者らは、上記実施例1~5及び比較例1及び2のペプチドについて、水溶性について評価したが、いずれのペプチドも1mLの水(25℃)に1mgの確認対象となるペプチドを入れ、5分毎に強く30秒間振り混ぜた場合、30分以内に完全に溶解したことが目視にて確認された。
【0092】
本発明者らは、上記実施例1~5及び比較例1及び2以外のペプチドを多数合成し、それぞれについてNIH3T3細胞の増殖を確認した。しかしながら、これらのペプチドは、水溶性でないために細胞増殖活性を評価できないものや、水溶性であるが細胞増殖活性を有さないものであった。すなわち、評価したペプチドのうち、水溶性を示し且つ細胞増殖が促進されたのは上記実施例1~5に示されるペプチドのみであった。
【0093】
[試験例2]
実施例3で得られたペプチド、比較例1で得られたペプチド各20μgをHitrap Heparin HPカラム(5mL、GEヘルスケア)に注入し、流速1.0mL/minのPBSで溶出した。
【0094】
比較例1のペプチドが4.7mLに溶出されたのに対して、実施例3のペプチドでは19.1mLに溶出された。この結果より、実施例3のペプチドがヘパリン結合性を有することが分かった。
【0095】
[試験例3]
2.3g(20mmol)のN-ヒドロキシコハク酸イミド(HOSu、(株)ペプチド研究所)を酢酸エチル150mlに溶解し、10mlの酢酸エチルに溶解した0.6g(10mmol)のエチレンジアミン(EDA、和光純薬工業株式会社)を、室温で撹拌しながら滴下した。滴下終了後さらに1時間撹拌を続けた。析出した結晶を熱メタノールから再結晶して2.0g(収率約70%)のエチレンジアミン2N-ヒドロキシコハク酸イミド塩(EDA・2HOSu)を得た。
【0096】
アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、500~600cp)の1重量%水溶液70ml(カルボキシル基:3.5mmol)に、700mgのヘパリン(シグマ社、Na塩、ブタ小腸由来、176USP-U/mg)、0.62gのEDA・2HOSu(2.1mmol)、2.2gの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl、(株)ペプチド研究所)を溶解して、13cm×17cmのテフロン(登録商標)被覆したステンレス製トレイに流延し、約25℃で約48時間静置し架橋体を得た。
【0097】
得られた架橋体を2.5mMの塩化カルシウムと143mMの塩化ナトリウムを含む水溶液で十分に洗浄した。その後、数回水で洗浄し、凍結乾燥してキセロゲル状のヘパリン結合性成長因子用徐放基材を得た。
【0098】
得られたヘパリン結合性成長因子用徐放基材10mgを計り取り、実施例3で得られたペプチド1mgを溶解したミリQ水200μLを添加して室温で一晩静置した。その後、PBS 1mLを加え室温で時々攪拌しながら7日間静置した。この間、毎日上清を新しいPBSに交換し、上清に放出されたペプチドの量を実施例1に示したのと同じ条件のHPLC法で測定した。
【0099】
ペプチドの積算放出速度を図2に示す。ヘパリン結合性成長因子用徐放基材から実施例3のペプチドは1週間にわたって徐放された。図2中、棒グラフは各24時間毎の放出割合(%/日)を表し、折れ線グラフは積算放出割合(%蓄積)を表す。
【0100】
[参考例1]
アルギン酸ナトリウム(フナコシ株式会社、粘度550cp、M/G比 1.0)の1重量%水溶液30mLに、66mgのEDA・2HOSuと0.48gのEDC・HClを溶解して、10 cm×10 cmのテフロン製トレイに流延し25℃で48時間静置して、アルギン酸の共有結合架橋ゲルを得た。
【0101】
これを、2.5 mMのCaCl2と143 mMのNaClを溶解したミリQ水で十分に洗浄し、その後ミリQ水のみで洗浄した。洗浄後のアルギン酸ゲルを凍結乾燥して、白色のスポンジ状ゲルを得た。
【0102】
得られたスポンジ状ゲルの14mgをジメチルホルムアミドで洗浄した後、ジメチルホルムアミド200μL中で、6mgのN-ヒドロキシコハク酸イミドと10mgのEDC・HClを加えて、室温で一晩振盪した。スポンジ状ゲルをジメチルホルムアミドで5回洗浄した後、実施例1に示すペプチド13mgを含むジメチルホルムアミド溶液200μLとジイソプロピルエチルアミン1.6μLを加えて、室温で一晩振盪した。ジメチルホルムアミド、メタノールとエタノールで良く洗浄して、実施例1で示すペプチドが固定化されたアルギン酸ゲルを得た。
【0103】
[試験例4]
参考例1で得られた実施例1で示すペプチドが固定化されたアルギン酸ゲル3.5mg、実施例3で得られたペプチド1mgを含むヘパリン結合性成長因子用徐放基材(試験例3で調製された基材)3.5mgを、それぞれ10週齡の雄性SDラット(エスエルシー)背部皮下に2週間埋植した。それぞれの試料を周辺組織と一緒に採取し、ホルマリン固定後パラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン-エオシン染色を行った。いずれの試料においても、ゲル基材内部に血管の新生が認められた。また、ペプチドを結合していない基剤を埋植したコントロール群では、何れのゲル基材内部にも血管の新生は認められなかった。
【0104】
[処方例]
以下に本発明の化粧料の処方例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
下記成分を混合して、化粧料(クリーム)を得た。
処方例1.クリーム
成分名 配合量
(重量%)
1.配列番号1のペプチド 0.1
2.酢酸dl-α-トコフェロール 0.1
3.カルボキシビニルポリマー 3.0
4.ベヘニルアルコール 2.0
5.流動パラフィン 2.0
6.濃グリセリン 2.0
7.防腐剤 適量
8.pH調整剤 適量
9.精製水 残余
(全量100g)

【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】実施例3のペプチドが濃度依存的にNIH3T3細胞の増殖を促進していることを表すグラフである。
【図2】ヘパリン結合性成長因子用徐放基材から放出されるペプチドの積算放出速度を表すグラフである。

【配列表フリ-テキスト】
【0106】
配列番号1は、実施例1及び2で得られるペプチドのアミノ酸配列を表す。
配列番号2は、実施例3で得られるペプチドのアミノ酸配列を表す。
配列番号3は、実施例4で得られるペプチドのアミノ酸配列を表す。
配列番号4は、実施例5で得られるペプチドのアミノ酸配列を表す。
配列番号5は、比較例1で得られるペプチドのアミノ酸配列を表す。
配列番号6は、比較例2で得られるペプチドのアミノ酸配列を表す。
図面
【図1】
0
【図2】
1