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明細書 :フォトクロミック化合物及び追記型光記録分子材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5219076号 (P5219076)
公開番号 特開2010-064968 (P2010-064968A)
登録日 平成25年3月15日(2013.3.15)
発行日 平成25年6月26日(2013.6.26)
公開日 平成22年3月25日(2010.3.25)
発明の名称または考案の名称 フォトクロミック化合物及び追記型光記録分子材料
国際特許分類 C07D 417/04        (2006.01)
C07D 513/14        (2006.01)
G11B   7/244       (2006.01)
B41M   5/26        (2006.01)
C09K   9/02        (2006.01)
G03C   1/73        (2006.01)
FI C07D 417/04
C07D 513/14
G11B 7/24 516
B41M 5/26 Y
C09K 9/02 B
G03C 1/73 503
請求項の数または発明の数 5
全頁数 9
出願番号 特願2008-230738 (P2008-230738)
出願日 平成20年9月9日(2008.9.9)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 「日本化学会第88春季年会2008年講演予稿集I」、平成20年3月12日、社団法人日本化学会発行、2PA-078 「日本化学会第88春季年会(2008)」、社団法人日本化学会主催、平成20年3月26~30日
審査請求日 平成23年8月2日(2011.8.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
発明者または考案者 【氏名】河合 壯
【氏名】中嶋 琢也
【氏名】河合 重和
【氏名】中川 久子
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
【識別番号】100095670、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 良平
【識別番号】100155228、【弁理士】、【氏名又は名称】市岡 牧子
審査官 【審査官】岩井 好子
参考文献・文献 特開平08-245579(JP,A)
特開平10-251630(JP,A)
特開2006-185506(JP,A)
特開2008-038132(JP,A)
Chemistry Letters,2000年,p.1358-1359
Eur. J. Org. Chem.,2005年,p.91-97
Chem. Mater.,2007年,Vol.19, No.14,p.3479-3483
2005年 光化学討論会 講演要旨集,2005年 9月11日,318頁
日本化学会第88春季年会(2008)講演予稿集I,2008年 3月26日,2PA-078
調査した分野 C07D 417/04
B41M 5/26
C07D 513/14
C09K 9/02
G03C 1/73
G11B 7/244
CA/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記式(2)もしくはその閉環体(2')
【化3】
JP0005219076B2_000006t.gif

(式(2)、(2')中、Xはアルコキシ基を表し、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~3のアルキル基若しくはアルコキシ基、ハロゲン元素、シアノ基、ホルミル基、又は芳香族環及び/又は複素芳香族環を表す。RとR、RとRは、それぞれ互いに結合して環を形成しても良い。)
で表され、且つ光反応によって誘起される脱離反応により、吸収スペクトルが変位した下記式(2")
【化4】
JP0005219076B2_000007t.gif

で表される化合物に変化するフォトクロミック化合物。
【請求項2】
式(2")を有する化合物に変化することにより、吸収スペクトルが長波長側に変位することを特徴とする請求項に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項3】
式(2")で表される化合物が、所定の励起光により蛍光を発することを特徴とする請求項1又は2に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項4】
記録光の照射により情報が記録され、再生光の照射により前記情報が再生される追記型光記録媒体の記録材料として用いられる追記型光記録分子材料であって、
下記式(2)もしくはその閉環体(2')
【化3】
JP0005219076B2_000008t.gif

(式(2)、(2')中、Xはアルコキシ基を表し、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~3のアルキル基若しくはアルコキシ基、ハロゲン元素、シアノ基、ホルミル基、又は芳香族環及び/又は複素芳香族環を表す。RとR、RとRは、それぞれ互いに結合して環を形成しても良い。)
で表され、且つ前記記録光の照射によって誘起される脱離反応により、吸収スペクトルが変位した下記式(2")
【化4】
JP0005219076B2_000009t.gif

で表される化合物に変化するフォトクロミック化合物からなる追記型光記録分子材料。
【請求項5】
式(2")で表される化合物は、再生光の照射により蛍光を発することを特徴とする請求項に記載の追記型光記録分子材料。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック化合物及びそれを用いた追記型光記録分子材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光記録媒体は、記録媒体中に光応答性の色素を分散させ、この色素の熱劣化反応を利用して情報を記録、再生している。即ち、細く絞り込んだ光ビームを記録媒体上で熱に変換し、この熱によって色素を破壊して破壊されていない部分との屈折率の違いを利用している。
このようなヒートモード記録方式は、光エネルギーを熱エネルギーに変換しているため、エネルギー効率が悪い。また、S/N比や記録密度、耐久性の点で問題があった。
【0003】
これに対して、フォトクロミック化合物のフォトクロミズムを利用した光記録媒体が提案されている(特許文献1)。フォトクロミズムとは、光照射により単一の分子が化学結合を組み換え、それによって吸収スペクトルの異なる2つの異性体を可逆的に生成する現象をいう。フォトクロミズムを利用した光記録媒体では、2つの異性体の色調の変化を情報として記録する。また、これら2つの異性体は吸収スペクトルが異なるため、一方の異性体の生成状態における所定波長に対する光の吸収強度と他方の状態における光の吸収強度との違いを検出することによって情報の再生が可能となる。

【特許文献1】特開2006-134365
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、フォトクロミズムを利用した光記録媒体は、フォトクロミック化合物の高い光可逆反応性のため、再生光等の記録光以外の光照射による情報の破壊が問題になる。
本発明が解決しようとする課題は、記録保持性、耐久性に優れた高感度光記録媒体として有用なフォトクロミック化合物及びこれを用いた追記型光記録分子材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、固体中でも高いフォトクロミック反応を示し、閉環状態が熱的に安定なヘキサトリエン骨格フォトクロミック分子に着目し、追記型光記録材料に展開可能な化合物の開発を進めた結果、下記の骨格構造(1)及び(1’)を有するフォトクロミック化合物が優れた諸特性を有することを見出した。
【化1】
JP0005219076B2_000002t.gif

上記のフォトクロミック化合物は、光照射により骨格構造(1)がその閉環体(1’)に可逆的に変化するが、XがpKa<20を満たす官能基であるため、光反応に誘起される脱離反応によってH-Xが脱離し、前記閉環体(1’)は吸収スペクトルが変位した下記の骨格構造(1”)に不可逆に変化する。
【化2】
JP0005219076B2_000003t.gif

【0007】
本発明のフォトクロミック化合物の好ましい例は、下記の式(2)もしくはその閉環異性体(2’)で表されるジアリールエテン構造から成る。
【化3】
JP0005219076B2_000004t.gif

【0008】
一般式(2)もしくは(2’)のそれぞれにおいて、Xはアルコキシ基であるため、光反応により誘起される脱離反応によって次の式(2”)
【化4】
JP0005219076B2_000005t.gif

に不可逆的に変化する。

【0009】
(2”)で表される化合物(以下、縮環体ともいう)の吸収スペクトルは、式(2)及び(2’)で表されるフォトクロミック化合物の吸収スペクトルよりも長波長側に変位していることが好ましい。
さらに、式(2”)で表される化合物は、所定の励起光によって蛍光を発することが好ましい。

【0010】
上記した本発明の元のフォトクロミック化合物は、光照射によって単一の分子が吸収スペクトルの異なる状態に不可逆に変化することから、追記型光記録媒体の材料として用いることができる。
この場合、式()で表される開環体から式(”)で表される縮環体に変化させる波長を記録光とし、この縮環体の蛍光発光を与える励起光の波長を再生光とする。また、式(’)で表される閉環体から縮環体(”)に変化する際に脱離するH-Xは無色であり、且つ縮環体(1”)の励起波長域に吸収を持たないことが必要となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフォトクロミック化合物は、光の照射によりフォトクロミック反応を起こし、さらに、光反応に誘起される脱離反応により閉環体からXが脱離して吸収スペクトルが変位した縮環体に不可逆に変化する。
フォトクロミック化合物の閉環体から一旦脱離したXが再結合する反応は通常では起こりにくく、脱離反応により得られる縮環体は安定性に優れる。特に、縮環体の主体は光学的、熱的に安定なベンゼン環からなることから、当該縮環体は光化学的、熱的に安定であり、記録光や再生光の照射によって元のフォトクロミック化合物に戻ることはない。
【0012】
このような性質から、本発明のフォトクロミック化合物は、種々の光機能性材料として有用であり、特に、記録された情報が消失することがないことから、記録保持性、耐久性に優れた高感度光記録分子材料として有用である。
特に、縮環体として、再生光を照射したときに蛍光発光するものを採用することにより、三次元光記録、近接場光記録、ホログラム型光記録が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のフォトクロミック化合物は、光照射によりフォトクロミック反応が起きるという一般的な性質に加えて、光反応により脱離反応が誘起される点に大きな特徴を有する。
図1に、本発明の具体例として開環体(A)及びその閉環体(A')で表されるフォトクロミック化合物のフォトクロミック反応及び光反応誘起脱離反応を示す。なお、図1中、Meはメチル基を示す。開環体(A)は、ヘキサン溶液中で紫外光の照射により閉環体(A')に可逆に変化し、可視光の照射により閉環体(A')から開環体(A)に可逆に変化する。さらに、紫外光の照射により閉環体(A')が生成した後に脱離反応が誘起されてメトキシ基が脱離し、化合物(A")(以下、縮環体(A")ともいう)に不可逆に変化する。なお、メトキシ基の脱離反応は、自発的に進行し、酸の存在により速やかに起こるが、酸の存在は必須ではない。
【0014】
開環体(A)はヘキサン中で無色であり、閉環体(A')はヘキサン中で赤色である。また、縮環体(A")はヘキサン中で黄色である。従って、開環体(A)から閉環体(A')への変化、閉環体(A')から開環体(A)への変化を利用して情報の記録、消去を行うことができる。また、閉環体(A')から一旦変化した縮環体(A")を長時間放置しても閉環体(A')に戻ることはないため、情報を固定化することができる。
【0015】
上記フォトクロミック化合物(A)は、種々の反応を利用して合成することができる。図2に、フォトクロミック化合物(A)の合成手順の一例を示す。
このフォトクロミック化合物(A)の構造に関する分析データは以下の通りである。
質量分析(m/z):455.05(計算値)、456.001(実測値)。
1H NMR(300MHz, CDCL3):δ=7.98-8.02(2H,m), 7.90-7.93(1H,m), 7.83-7.87(1H,m), 7.76(1H,s), 7.66-7.68(1H,m), 7.56-7.60(1H,m), 7.40-7.45(3H,m), 7.21-7.32(4H,m), 3.90(3H,s)。
なお、縮環体(A")の質量分析データは以下の通りである。
質量分析(m/z):423.02(計算値)、424.259(実測値)。
【0016】
図3に、ヘキサン溶液中における化合物(A)~(A")(濃度4.8×10-5M)の吸収スペクトルの変化を示す。図3から、開環体(A)が閉環体(A')及び縮環体(A")に変化することにより吸収スペクトルが変化し、特に、縮環体(A")の吸収スペクトルは化合物(A)及び閉環体(A')の吸収スペクトルよりも長波長側に変位していることが分かる。
また、縮環体(A")は図4に示すような蛍光特性を示し、トルエン溶媒中の縮環体(A")の発光量子収率(Φem)は10%であった。
【0017】
図4で示される蛍光励起スペクトルから、縮環体(A")は、ブルーレイディスクに用いられている青紫色のレーザ光(405nm)で励起可能であることが明らかである。また、開環体(A)の吸収スペクトルが縮環体(A")の吸収スペクトルよりも短波長側に位置し、開環体(A)が405nmの光を吸収しないことから、記録再生光、即ち縮環体(A")に対する励起光によって開環体(A)が破壊されることがない。
【0018】
図5~図7は、それぞれ本発明のフォトクロミック化合物の第2の実施例である開環体(C)及びその縮環体(C")の化学構造、開環体(C)の吸収スペクトルの推定値、縮環体(C")の吸収スペクトルの推定値を示している。
図8~図10は、それぞれ本発明のフォトクロミック化合物の第3の実施例である開環体(D)及びその縮環体(D")の化学構造、開環体(D)の吸収スペクトルの推定値、縮環体(D")の吸収スペクトルの推定値を示している。
図5~図10から明らかなように、本発明のフォトクロミック化合物には、縮環体に変化することにより吸収スペクトルが長波長側に変位するもの、短波長側に変位するものがあることが分かる。
【0019】
このことは、本発明のフォトクロミック化合物において置換基(R1,R2,R3,R4,R5)を適切に選択することにより開環体と縮環体の吸収スペクトルの変化をコントロール可能であることを示唆している。
ただし、本発明者が、本発明の要件を満たす種々のフォトクロミック化合物の開環体と縮環体の吸収スペクトルを量子科学計算に基づいて求めた結果、多くのフォトクロミック化合物において開環体の吸収スペクトルよりも縮環体の吸収スペクトルの方が短波長側に位置していた。
上述したように、開環体から縮環体に変化することにより吸収スペクトルが長波長側に変位するフォトクロミック化合物は、記録再生光によって開環体が破壊されることがなく、追記型光記録分子材料として優れている。
以上より、本発明のフォトクロミック化合物の中でも、開環体から縮環体に変化することにより吸収スペクトルが長波長側に変位するという特性を有するフォトクロミック化合物の合成が、実用上非常に重要となる。
【0020】
本発明のフォトクロミック化合物(A)をポリビニルアルコール樹脂中に分散させて紫外光を照射したときの吸収スペクトルの変化は図3とほぼ同様であった。
また、波長405nmの光を照射することにより蛍光発光が確認された。つまり、フォトクロミック化合物(A)を用いて追記型光記録媒体を構成したときに、記録光(波長:~380nm)と再生光を分離することができる。
以上より、フォトクロミック化合物(A)を光記録分子材料として用いることにより、記録保持性、耐久性に優れた大容量追記型光記録媒体を実現することができる。また、高いS/N比及び記録の三次元化を実現できる。さらに、縮環体(A")の発光量子収率が10%程度であることから、高感度化を図ることができる。

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のフォトクロミック化合物の一例である開環体(A)とその閉環体(A')及び縮環体(A")の化学構造を示す図
【図2】開環体(A)の合成スキームの一例を示す図。
【図3】開環体(A)、閉環体(A')及び縮環体(A")の吸収スペクトルを示す図。
【図4】縮環体(A")の励起スペクトル及び蛍光スペクトルを示す図。
【図5】本発明のフォトクロミック化合物の第2の例である開環体(C)とその縮環体(C")の化学構造を示す図。
【図6】開環体(C)の吸収スペクトルを示す図。
【図7】縮環体(C”)の吸収スペクトルを示す図。
【図8】本発明のフォトクロミック化合物の第3の例である開環体(D)とその縮環体(D")の化学構造を示す図。
【図9】開環体(D)の吸収スペクトルを示す図。
【図10】縮環体(D”)の吸収スペクトルを示す図。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9