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明細書 :インフルエンザ治療/予防薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5396111号 (P5396111)
登録日 平成25年10月25日(2013.10.25)
発行日 平成26年1月22日(2014.1.22)
発明の名称または考案の名称 インフルエンザ治療/予防薬
国際特許分類 C07K   9/00        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
FI C07K 9/00 ZNA
G01N 33/53 D
請求項の数または発明の数 10
全頁数 23
出願番号 特願2009-60242 (P2009-60242)
出願日 平成21年3月12日(2009.3.12)
審査請求日 平成23年12月27日(2011.12.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
発明者または考案者 【氏名】佐藤 智典
個別代理人の代理人 【識別番号】110000176、【弁理士】、【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号1、3、5のいずれかのアミノ酸配列からなり、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)がセリン残基に付加していることを特徴とするヘマグルチニン結合ペプチド。
【請求項2】
N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が付加したセリン残基をC末端に付加した、配列番号5のアミノ酸配列からなるヘマグルチニン結合ペプチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のヘマグルチニン結合ペプチドを含有する医薬組成物。
【請求項4】
インフルエンザの治療または予防に用いるための、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
変異ヘマグルチニン結合ペプチドとヘマグルチニンとの間の結合活性の測定方法であって、
配列番号1、3、5のいずれかのアミノ酸配列において、数アミノ酸が欠失、挿入、置換した配列を有し、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が付加されたセリン残基を有する変異ヘマグルチニン結合ペプチドを、ヘマグルチニンと接触させる工程と、
前記変異ヘマグルチニン結合ペプチドと前記ヘマグルチニンとの間の結合活性を測定する工程と、
を含む、測定方法。
【請求項6】
変異ヘマグルチニン結合ペプチドとヘマグルチニンとの間の結合活性の測定方法であって、
配列番号1、3、5のいずれかのアミノ酸配列において、セリン残基以外の数アミノ酸が、欠失、挿入、又は置換した配列を有し、前記セリン残基にN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が付加した変異ヘマグルチニン結合ペプチドを、ヘマグルチニンと接触させる工程と、
前記変異ヘマグルチニン結合ペプチドと前記ヘマグルチニンとの間の結合活性を測定する工程と、
を含む、測定方法。
【請求項7】
変異ヘマグルチニン結合ペプチドとヘマグルチニンとの間の結合活性の測定方法であって、
N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が付加したセリン残基がC末端に付加された配列番号5のいずれかのアミノ酸配列において、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が付加したセリン残基以外の数アミノ酸が、欠失、挿入、又は置換した配列を有する変異ヘマグルチニン結合ペプチドを、ヘマグルチニンと接触させる工程と、
前記変異ヘマグルチニン結合ペプチドと前記ヘマグルチニンとの間の結合活性を測定する工程と、
を含む、測定方法。
【請求項8】
変異ヘマグルチニン結合ペプチドのインフルエンザウイルス感染阻害活性の測定方法であって、
配列番号1、3、5のアミノ酸配列において、数アミノ酸が欠失、挿入、置換した配列を有し、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が付加されたセリン残基を有する変異ヘマグルチニン結合ペプチドの、インフルエンザウイルス感染阻害活性を評価する工程を含む、測定方法。
【請求項9】
変異ヘマグルチニン結合ペプチドのインフルエンザウイルス感染阻害活性の測定方法であって、
配列番号1、3、5のいずれかのアミノ酸配列において、セリン残基以外の数アミノ酸が、欠失、挿入、又は置換した配列を有し、前記セリン残基にN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が付加した変異ヘマグルチニン結合ペプチドの、インフルエンザウイルス感染阻害活性を評価する工程を含む、測定方法。
【請求項10】
変異ヘマグルチニン結合ペプチドのインフルエンザウイルス感染阻害活性の測定方法であって、
N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が付加したセリン残基がC末端に付加された配列番号5のアミノ酸配列において、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が付加したセリン残基以外の数アミノ酸が、欠失、挿入、又は置換した配列を有する変異ペプチドの、インフルエンザウイルス感染阻害活性を評価する工程を含む、測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザ治療/予防薬に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルス膜にはヘマグルチニン及びノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)といった2種類のスパイク糖蛋白質が存在し、それぞれウイルスの感染成立及びウイルスの宿主細胞からの出芽に重要な役割を果たしている。前者のヘマグルチニンは、ヒトやその他の動物(ほ乳類、鳥類、は虫類、魚類、両生類等)といった宿主の細胞膜上に普遍的に存在するシアル酸含有糖鎖を受容体として認識して特異的に結合し、インフルエンザウイルスの細胞内へのエンドサイトーシスを導く。一方、後者のノイラミニダーゼは、受容体破壊酵素であり、宿主細胞からウイルス粒子が出芽または遊離する際に、自らのまたは宿主細胞膜上のシアル酸残基を切断する役割を担っている。
【0003】
現在、インフルエンザウイルス感染治療剤として、ヘマグルチニンの抗原性を基に作製されるワクチンが一般的に用いられている。インフルエンザウイルス感染の第1ステップに関与するヘマグルチニンには、抗原決定領域(A~E、25~75%の相同性)のアミノ酸配列の多様性に基づいて、種々の亜型が存在する。このため、完全に感染防止や発症阻止できるワクチンの開発は非常に困難である。さらに、この抗原決定領域は突然変異しやすく、既存ワクチンに耐性を有するウイルスが生じやすいという問題もある。一方、ヘマグルチニンにおける、宿主細胞の受容体と結合するいわゆる受容体結合ポケット領域は、比較的変異が少なく、その三次元構造はよく保存されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
従って、ヘマグルチニンに特異的に結合する物質によってインフルエンザウイルスの宿主細胞への結合を阻害すれば、広くインフルエンザウイルスの感染防止に効果があることが期待される。このため、ヘマグルチニン結合ペプチドを有効成分として含有するインフルエンザウイルス感染阻害剤の開発が進められている(例えば、特許文献1、2参照)。これらのペプチドは、アルキル化によってミセルを形成しやすくなり、インフルエンザウイルス感染阻害活性の向上がみられることが開示されているが(例えば、特許文献3参照)、一方でペプチドの溶解性が低下するという問題も生じていた。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2002-284798号公報
【特許文献2】特開2007-145777号公報
【特許文献3】特開2006-101709号公報
【0006】

【非特許文献1】Y. Suzuki, Prog. Lipid. Res., 33, 429 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、十分な可溶性と、高いインフルエンザウイルス感染阻害活性を有するヘマグルチニン結合ペプチドを提供し、このヘマグルチニン結合ペプチドを含む医薬組成物、インフルエンザ感染阻害剤、インフルエンザ治療薬、インフルエンザ予防薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るヘマグルチニン結合ペプチドは、糖鎖で修飾されていることを特徴とする。このヘマグルチニン結合ペプチドは、GLAMAPS(配列番号1)、SVGHVRQHG(配列番号3)、あるいはGLAMAPSVGHVRQHG(配列番号5)のアミノ酸配列を有していてもよい。また、ヘマグルチニン結合ペプチドを修飾する糖鎖はN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)であることが好ましい。また、前記糖鎖が、セリン残基に付加されていることが好ましい。
【0009】
本発明に係る医薬組成物は、上記いずれかのヘマグルチニン結合ペプチドを含有することを特徴とする。この医薬組成物は、インフルエンザの治療または予防のために用いてもよい。
【0010】
本発明に係るヘマグルチニン結合ペプチドのヘマグルチニン結合性を向上させるための方法は、糖鎖で修飾することを特徴とする。このヘマグルチニン結合ペプチドは、GLAMAPS(配列番号1)、SVGHVRQHG(配列番号3)、あるいはGLAMAPSVGHVRQHG(配列番号5)のアミノ酸配列を有していてもよい。また、本方法に係る糖鎖はN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)であることが好ましい。また、前記糖鎖を、セリン残基に付加することが好ましい。
【0011】
また、本発明のペプチドは、GLAMAPS(配列番号1)、MAPSVGHVR(配列番号2)、あるいはSVGHVRQHG(配列番号3)のアミノ酸配列を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、十分な可溶性と、高いインフルエンザウイルス感染阻害活性を有するヘマグルチニン結合ペプチドを提供し、このヘマグルチニン結合ペプチドを含む医薬組成物、インフルエンザウイルス感染阻害剤、インフルエンザ治療薬、インフルエンザ予防薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態であるD1ペプチドの合成概要を示した図である。
【図2】本発明の一実施形態であるD1(GalNAc-S7)の合成概要を示した図である。
【図3】本発明の一実施形態であるビオチン化変異D1ペプチドの合成概要を示した図である。
【図4】本発明の一実施形態である、各ビオチン化変異D1ペプチドのH1N1(A)およびH3N2(B)に対する相対的結合アフィニティを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。

【0015】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。

【0016】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。

【0017】
==糖鎖修飾ヘマグルチニン結合ペプチド==
本発明に係るヘマグルチニン結合ペプチドは糖鎖で修飾されていることを特徴とする。

【0018】
ヘマグルチニン結合ペプチドの結合対象であるヘマグルチニンは、インフルエンザウイルスの膜上に存在するタンパク質であって、少なくとも16種類存在し、それらのサブタイプはH1~H16と呼ばれ、そのうち、H1~H3はヒトインフルエンザウイルスに由来する。

【0019】
ヘマグルチニン結合ペプチドは、ヘマグルチニンに結合性を有するペプチドであれば、天然由来のアミノ酸配列を有しても、人為的に作出されたアミノ酸配列を有しても制限されず、例えば、
GLxMxPxxxHVRxxx(配列番号4)
の配列を有するペプチドが挙げられる。
さらに、具体的な配列として、
GLAMAPSVGHVRQHG(配列番号5)
SRAFDLLDQPLSNAR(配列番号6)
TSVNRGFLLQRASHP(配列番号7)
QPYGFIAFSRAAHSP(配列番号8)
等を有するペプチド(特開2002-284798)であってもよく、あるいは
(A-1、配列番号9)
や、これに人為的に変異を付加した
ARLSPNMVHLNPAQP(s-1、配列番号10)
ARLPRTMVHPLPAQP(s-2、配列番号11)
ARLSPTMVHPHPALS(s-3、配列番号12)
ARLPPTMVRPNGPQP(e-1、配列番号13)
ARLPPAMVRPNGPQP(e-2、配列番号14)
ARLSPTMVRPIGAQP(e-3、配列番号15)
ARLSPTMVHLNGAQP(e-4、配列番号16)
ARLSHIMVHRNGAQP(e-5、配列番号17)
ARLPPAMVHPNGAQH(e-6、配列番号18)
ARLSPTMVHPNGAQH(e-7、配列番号19)
ARLSPAMVHPNGARL(e-8、配列番号20)
ARLSPAMVRPNGARP(e-9、配列番号21)
ARLSPTMVHRHGAQP(e-10、配列番号22)
TRLPPTMIHPNGAQP(e-11、配列番号23)
ARLSPTMVHPRGAQP(e-12、配列番号24)
ARLSPTMVHRNGVQP(e-13、配列番号25)
ARLPPAMARPNSAQP(e-14、配列番号26)
等を有するペプチド(特開2006-101709)であってもよい。

【0020】
また、上記いずれかのヘマグチニン結合ペプチドのアミノ酸配列において、数アミノ酸(好ましくは、6アミノ酸以下、より好ましくは3アミノ酸以下、最も好ましくは1アミノ酸)が欠失、挿入、又は置換されたアミノ酸配列を有するペプチドも、ヘマグチニン結合性を有する範囲内で、ヘマグチニン結合ペプチドに含まれる。

【0021】
また、ヘマグルチニン結合ペプチドは、上記いずれかの配列のみを含むペプチドであってもよいが、ヘマグルチニン結合性を有する限り、その部分配列を有するペプチドであってもよい。その部分配列は特に限定されないが、5アミノ酸以上であることが好ましく、7アミノ酸以上であることがより好ましい。例えば、その配列として、
GLAMAPS(配列番号1)
MAPSVGHVR(配列番号2)
SVGHVRQHG(配列番号3)
等が挙げられる。

【0022】
あるいは、上記いずれかの配列のN末端側、C末端側、あるいはその両方に任意のペプチドが付加されたペプチドであってもよく、ヘマグルチニン結合性を有する範囲において制限されない。特に、当該配列の片方の末端あるいは両方の末端にセリン残基が付加されたペプチドが好ましい。

【0023】
さらに、ヘマグルチニン結合ペプチドは、適宜化学修飾することができ、例えばアルキル化、または脂質化(リン脂質化)等によって、その細胞親和性や組織親和性を増大させたり、血中半減期を延長させて薬理効果を増強させたりすることができる。

【0024】
本発明に係るヘマグルチニン結合ペプチドは糖鎖で修飾されている。ここで、修飾する糖鎖は、ヘマグルチニン結合ペプチドのヘマグルチニン結合性を保持し、あるいは、ヘマグルチニン結合性を向上させることができる範囲で特に限定されないが、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)であることが好ましい。

【0025】
このように糖鎖で修飾されたヘマグルチニン結合ペプチドにおける、糖鎖付加位置は、そのペプチドのヘマグルチニン結合性を保持し、あるいは、ヘマグルチニン結合性を向上させることができる範囲で特に限定されないが、セリン残基に付加させることが好ましく、例えば、D1ペプチド(配列番号5)においてはC末端から7番目のアミノ酸であるセリン残基であることが好ましい。あるいは、ヘマグルチニン結合ペプチドの末端に付加したセリン残基であってもよい。

【0026】
ここで、糖鎖修飾ヘマグルチニン結合ペプチドのヘマグルチニンに対する結合活性は、例えば、ELISA法によって測定することができるが、これに限らず、RIA、EIA、ウエスタン・ブロッティングなど、タンパク質間の相互作用を定量的に測定できる周知の手法を用いて測定することができる。

【0027】
==糖鎖修飾ヘマグルチニン結合ペプチドの製造方法==
本発明に係る上記いずれの糖鎖修飾ヘマグルチニン結合ペプチドも、化学合成法等の常法によって製造することができるが、その方法は、目的の糖鎖修飾ペプチドを合成することができる範囲で特に制限されない(例えば、Mizuno, Trends in Glycoscience and Glycotechnology, vol. 13(69), p.11-30, 2001参照)。

【0028】
例えば、あらかじめペプチド鎖を合成し、最後に糖鎖とペプチドを結合させてもよい(コンバージェント法)。ペプチド鎖の合成は化学合成法や遺伝子組換え等の常法によって製造することができ、その後、例えば、ペプチド鎖中のアミノ酸残基のβカルボキシル基と糖鎖アミンとを縮合させて、糖鎖修飾ペプチドとすることができる。この場合の糖鎖の合成方法は、固相樹脂を担体として糖と糖を化学反応させて合成させる方法、低分子量ポリエチレングリコールを担体として化学反応させる方法、あるいは酵素を用いた糖鎖合成手法等の周知の方法を用いることができる。

【0029】
しかし、反応条件の容易さで、アミノ酸または糖鎖アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させるステップワイズエロンゲーション法や、アミノ酸および糖鎖アミノ酸が数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法が好ましい。これらの方法で用いる糖鎖アミノ酸としては、例えばN-結合型糖アミノ酸、O-結合型糖アミノ酸あるいはC-結合型糖アミノ酸を挙げることができ、糖鎖修飾ペプチド合成に使用するアミノ酸は当業者が適宜選択することができる。

【0030】
N-結合型糖アミノ酸(アスパラギン結合型アミノ酸)は、対応する糖アミンとアスパラギン酸誘導体のβ-カルボキシル基との縮合により得ることができる。この場合の縮合剤としては、DCC、EEDQ、EDC、TBTU等を例示できる。糖アミンは、パラジウム黒、リンドラー触媒、酸化白金、ラネーニッケル等の触媒を用いた糖アジドの触媒還元、またはプロパンジチオールによる還元により合成することができる。または、遊離の糖を飽和炭酸水素アンモニウム、もしくは炭酸アンモニア水溶液中で数日間反応させることで遊離の糖アミンを調製することもできる。あるいは、糖アミンを経ずに、トリアルキルホスフィン存在下で、糖アジドとアスパラギン酸誘導体から糖アスパラギン酸を合成することもできる。あるいは、糖イソチオシアネートやペンテニルグルコシドを用いる反応によってN-結合型等アミノ酸を合成することもできる。

【0031】
O-結合型アミノ酸(セリン/スレオニン結合型アミノ酸)は、ハロゲン糖、グリコシルトリクロロアセトイミデート、チオグリコシド、アセチル化糖等を糖供与体とした一般的なグリコシル化反応により合成することができる。特に、Fmoc-セリンやFmoc-スレオニンのペンタフルオロフェニルエステルを糖受容体として用いる方法は、得られる糖アミノ酸のカルボキシル基が既に活性化された状態であり、そのまま糖ペプチド合成に用いることができるため、好ましい。

【0032】
C-結合型アミノ酸は、人工の糖アミノ酸であり、上記N-およびO-結合天然型アミノ酸に比較して安定であり、生体内で医薬等として利用されるためには特に有用である。合成法としては、例えば、グリコシルアルデヒドのwitting反応によってβ-Gal-CH-SerのC-グリコシドアナログを合成したり、GlcとGalのトリクロロアセロミデート体をアミノ酸より誘導したシリルエノール誘導体と反応させGlc-CH-SerとGal-CH-Serをそれぞれ合成したりすることができることが報告されているが、これらに限定されない。

【0033】
ペプチド合成に採用される縮合法も、公知の各種方法に従うことができる。その具体例としては、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシサクシンアミド、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド等)、ウッドワード法等を例示できる。これら各方法に利用できる溶媒もこの種のペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えば ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることができる。

【0034】
なお、ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸ないしペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p-メトキシベンジルエステル、p-ニトロベンジルエステルアラルキルエステル等として保護することができる。また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばTyrの水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第三級ブチル基等で保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。更に例えばArgのグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、2-メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン-2-スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。上記保護基を有するアミノ酸、ペプチド及び最終的に得られる本発明のペプチドにおけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸等を用いる方法等に従って行うことができる。

【0035】
このように作製された糖鎖修飾ペプチドは、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法等、ペプチド化学の分野で汎用されている常法に従って、適宜その精製を行うことができる。

【0036】
さらに、糖鎖修飾ペプチドをアルキル化あるいは脂質化する場合、当業者に周知の方法に従って行うことができる(例えば、特開2006-101709参照)。

【0037】
==糖鎖修飾ヘマグルニチン結合ペプチドを含有する医薬組成物==
本発明に係る医薬組成物は、上記いずれかの糖鎖修飾ヘマグルチニン結合ペプチドを含有することを特徴とする。本医薬組成物の使用用途は限定されず、例えば、下記に説明するようにインフルエンザの治療・予防等のために用いても、あるいは、インフルエンザウイルス検出やインフルエンザ診断のためのキット等に用いても、ヘマグルチニンを介して生じるインフルエンザウイルスの感染、および、それに伴う種々の細胞機能や生命現象を解明するためのツールとして用いてもよい。

【0038】
また本医薬組成物は、必要に応じ、糖鎖修飾ヘマグルチニン結合ペプチドをリポソーム製剤として調製したものであってもよい。この場合、酸性リン脂質を膜構成成分とするか、あるいは、中性リン脂質と酸性リン脂質とを膜構成成分とするリポソームに、本発明の糖鎖修飾ヘマグルチニン結合ペプチドが保持されている(例えば、特開2006-10170参照)。

【0039】
==インフルエンザの治療または予防に用いるための医薬組成物==
本発明に係る、糖鎖修飾ヘマグルチニン結合ペプチドを含有する医薬組成物は、インフルエンザの治療または予防に用いられることが好ましい。

【0040】
本医薬組成物の対象とするインフルエンザウイルスはその型や由来を特に制限するものでなく、A型、B型またはC型ないしヒト分離型、ブタやウマ等の他の哺乳動物分離型または鳥類分離型等のいずれであってもよい。

【0041】
インフルエンザウイルスが細胞に感染する際、インフルエンザウイルスの有するヘマグルニチンが、宿主細胞の受容体に特異的に結合し、その受容体を足場として、ウイルスが細胞に感染する。よって、ヘマグルチニンに結合する物質によってインフルエンザウイルスの宿主細胞受容体への結合を阻害することができ、つまり、インフルエンザウイルスが宿主細胞に感染するのを阻害することができる。実際、これまでに阻害効果の有無を調べた全てのヘマグルチニン結合性ペプチドは、ヘマグルチニンの宿主細胞への結合を阻害することができた(国際公開WO00/59932、特開2002-284798公報)。

【0042】
このように、本発明の糖鎖修飾ヘマグルチニン結合ペプチドは、インフルエンザウイルスが宿主細胞に感染するのを阻害することができる。よって、以上のように、本発明の糖鎖修飾ヘマグルチニン結合ペプチドを有効成分として含有する医薬組成物として、インフルエンザウイルスが宿主細胞に感染するのを阻害するためのインフルエンザウイルス感染阻害剤、インフルエンザに罹患した患者を治療するためのインフルエンザ治療剤、インフルエンザに罹患する前に予防的に投与するためのインフルエンザ予防剤などが考えられる。

【0043】
これらの医薬組成物は、有効成分としての糖鎖修飾ヘマグルチニン結合性ペプチドと、必要に応じて薬学的に許容される担体とを含有する製剤として、インフルエンザウイルスに感染した患者に投与したり、感染前の健常人に予防的に投与したりすることができるが、投与対象動物はヒトに限定されず、インフルエンザウイルスに感染する可能性のあるいずれの脊椎動物にも投与することができる。

【0044】
ここで用いられる薬学的に許容される担体は、調製される医薬組成物の形態に応じて、慣用されている担体の中から適宜選択して用いることができる。例えば、医薬組成物が溶液形態として調製される場合、担体として、精製水(滅菌水)または生理学的緩衝液、グリコール、グリセロール、オリーブ油のような注射投与可能な有機エステルなどを使用することができる。また、この医薬組成物には、慣用的に用いられる安定剤、賦形剤などを含むことができる。

【0045】
これらの医薬組成物の投与方法には特に制限はなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別、その他の条件、疾病の重篤度等に応じて適宜決定すればよいが、製剤形態としては、特に注射剤、点滴剤、噴霧剤(点鼻剤や吸入剤など)等の非経口投与形態が好ましい。その場合、特に注射剤や点滴剤として調製する場合は、必要に応じて塩溶液、ブドウ糖やアミノ酸等の通常の補液などと混合して静脈内、筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内に投与する。噴霧剤として調製する場合、例えば、受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ有効成分を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体として、乳糖、グリセリン等を使用してエアロゾル、ドライパウダー等に製剤化した噴霧剤を、口腔または気道粘膜へ噴霧することにより粘膜投与する。

【0046】
また、これらの医薬組成物の1日当りの投与量は、投与する者の症状、年齢、体重、性別、治療期間、治療効果、投与方法などにより適宜変更しうるが、ヘマグルチニン結合ペプチドの量に換算して通常成人1回当り約0.001~2000mg程度の範囲であることが好ましい。当該製剤は1日1回投与に限らず、数回に分けて投与してもよい。当該製剤は1日1回投与に限らず、数回に分けて投与してもよい。

【0047】
これらの医薬組成物は、単独で使用してもよいし、あるいは他の薬剤(例えば、他の抗ウイルス剤、抗炎症剤や、症状を緩和する薬剤など)と組み合わせて使用してもよい。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
本実施例では、ヘマグルチニン結合D1ペプチドまたはその部分配列を有するペプチド、および、糖鎖修飾ヘマグルチニン結合D1ペプチドまたはその部分配列を有するペプチド(表1)を合成した。
【0049】
【表1】
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【0050】
図1および2に示す合成概要に従って、上記各ペプチドを固相法によるFmoc化学を用いて自動ペプチド合成機(PSSM-8、島津製作所)と手作業で合成した。
【0051】
==非修飾ペプチド合成法==
非糖修飾ペプチド合成のため、反応容器(code 292-05250-02、島津製作所)に樹脂Fmoc-NH-SAL-Resin(code A00102、渡辺化学工業)を添付マニュアルに従って所定量加え、リアクションベッセルインサート(code 292-05211、島津製作所)を挿入した。この時、糖鎖修飾ペプチド合成のためにはFmoc-NH-SAL-PEG-Reginを樹脂として用いた。ペプチド合成のためのデータをロードした自動ペプチド合成機に、各試薬(Fmoc-アミノ酸、HOBt(1-hydroxybenzotriazole)/DMF(N,N-dimethylformamide)、NMM(4-methylmorpholine)/DMF、PIP(piperidine)/DMF)と反応容器をセットし、添付マニュアルに従って操作し、各ペプチド合成を行った。プログラムに従ったN末端のFmoc基脱保護反応により、この合成工程で生じるN末端のFmoc基が脱保護された。
【0052】
==糖鎖修飾ペプチド合成法==
糖鎖修飾ペプチドは、表1のアミノ酸配列における下線部を上述の非修飾ペプチド合成法に従い合成した後、ペプチド合成機から反応容器を取り出し、DMFで4回洗浄した。ここにPIP/DMFを加えて1分間ボルテックスし、さらにPIP/DMFを加えて15分間ボルテックス後、DMFで5回洗浄した。この反応容器に各糖アミノ酸、PyBOP(benzotriazol-1-yl-oxy-tripyrolidinophosphorium hexafluorophosphate、HOBt、DIEA(diisopropylethylamine)を加え、DMF中で静置して反応させた。反応条件を表2に示す。なお、GalNAc修飾のためのFmoc-アミノ酸としてFmoc-Ser(GalNAc(AC)3-α-D)-OH・0.6 IPE(分子量717.06、code M01980、渡辺化学工業)、Glc(グルコサミン)修飾のためのFmoc-アミノ酸としてtetra-O-acetyl-β-D-Glc-Fmoc-Ser(分子量685.27、code 3-02670、Carbo Mer, Inc社)、Lac(ラクトシル)修飾のためのFmoc-アミノ酸としてhepta-O-acetyl-β-D-lactosyl-Fmoc-Ser(分子量1059.14、code 3-02672、Carbo Mer, Inc社)を用いた。
【0053】
【表2】
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反応後、DMFとDCM(dichloromethane)で各4回洗浄した。この反応容器を再びペプチド合成機にセットし、上述の非修飾ペプチド合成法と同様に残りのアミノ酸伸長反応を行った。
【0054】
==アルキル基付加法==
ペプチドを合成した後の反応容器をDMFで4回洗浄後、PIP/DMFを加えて1分間ボルテックスで攪拌し、PIP/DMFを加えてさらに15分間攪拌した後、DMFで5回洗浄した。ここに、各0.06mmolのステアリン酸(CH3(CH216COOH)とPyBOP、0.36 mlの 0.5 mmol/ml HOBt/DMF、および、0.3 ml の1.0 mmol/ml NMM/DCMを加えて30分間ボルテックスで攪拌した。反応後、DCMで4回、ステアリン酸の溶け残りが完全に取り除かれるまで洗浄し、DMFで4回、HOBtの溶け残りが完全に取り除かれるまで洗浄した。
【0055】
==合成ペプチドの樹脂からの切り出し==
上記のようにして得られた、ペプチドを樹脂から切り出すため、各ペプチド樹脂をポリプロピレン製のミニカラム(アシスト社)に回収し、メタノール洗浄と真空乾燥を5回繰り返した。その後、t-ブチルメチルエーテルで洗浄と真空乾燥を2回繰り返した。ここに、合成したペプチドの種類に従って、表3のクリーベイジカクテルを1ml加え、所定時間インキュベートした。その後、反応容器の蓋を取り外し、容器上部口から加圧して15 ml遠心管にカクテルを回収した。この遠心管に、糖鎖非修飾ペプチドの場合はジエチルエーテル、糖鎖修飾ペプチドの場合はジエチルエーテル:DCM(20:1)を10ml加えて反応を停止させ、遠心によってペプチドを沈殿させた。このペレットを、ジエチルエーテルまたはジエチルエーテル:DCM(20:1)で洗浄後、遠心管に残ったペプチドのペレットに窒素ガスを吹き付けてエーテルを飛ばし、各種粗ペプチドを得た。
【0056】
【表3】
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【0057】
==糖鎖修飾ペプチドのアセチル基除去==
上記のように取得された粗糖鎖修飾ペプチドに、0.01 mol/lの NaOMe-MeOH 溶液(28%ナトリウムメトキシド-メタノール溶液(197-02463、Wako社)の500倍希釈)を加え、表2に従い6時間または一晩ボルテックスで攪拌して反応させた。反応後、1MHClを加えて反応を停止させた後、3500rpmで5分間遠心して沈殿を回収した。
【0058】
==ペプチドの精製==
得られた凍結乾燥粗ペプチドを、非修飾ペプチドはMilliQ水、アルキル化または糖鎖修飾ペプチドは酢酸に溶解し、0.45μmフィルター(Millex-LH, 4mm, code SLLH H04、Millipore社)でろ過した。ろ過の際必要に応じて遠心した。この各種合成ペプチドはODS(オクタデシル)カラムあるいはC4カラム(直径4.6x250mmまたは20x250mm、WC社)を用いた逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分画し、所望のペプチドを単離した。溶出条件は表4に示した。単離された各ペプチドは、マススペクトロメトリー(MALDI-TOF-MS)によって分子量を測定し、同定した。
【0059】
【表4】
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【0060】
本実施例で合成した全てのペプチドのマススペクトロメトリーの結果、HPLCにより得られたペプチド純度、および、分析条件、収量、収率をそれぞれ表4および5に示す。収量や収率は各ペプチドでばらつきがある。
【0061】
【表5】
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【0062】
[実施例2]
本実施例では、ヘマグルチニン結合ペプチドにおけるヘマグルチニン結合モチーフを同定する。
【0063】
==ビオチン化変異D1ペプチドの合成==
図3に示す合成概要に従い、各ビオチン化変異D1ペプチドを、固相法によるFmoc化学を用いて自動ペプチド合成機(PSSM-8、島津製作所)と手作業で合成した。Fmoc-ビオチン化アミノ酸として、Fmoc-Lys(biotin)-OH (code 04-12-1237, Novabiochem社)を用いた。この時、表6に示すように、D1ペプチド(配列番号5)におけるアミノ酸配列の、C末端側から3番目および5番目のアラニンを除いた全てのアミノ酸残基を一つずつアラニンに置換し、ビオチン化D1ペプチド、および、13種類のビオチン化変異D1ペプチドを合成した。
【0064】
【表6】
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【0065】
==ヘマグルチニン固定化膜の作製==
ヘマグルチニン(H1N1(A/New Caledonia/20/99) または H3N2(A/New York/55/2004))溶液をPBSで希釈し、70μg/mlに調製した。これを、96穴ポリスチレンプレート(code 442404, nunc社)に各穴100μlずつ加え、4℃で一晩インキュベートしてヘマグルチニンを吸着させた。その後、各穴200μlのPBSで3回ずつ洗浄し、これをヘマグルチニン固定化膜とした。
【0066】
==ヘマグルチニン結合解析==
上記のように作製したヘマグルチニン固定化膜に、20、40、あるいは50μMに希釈したビオチン化変異D1ペプチドを一穴あたり100μl加え、室温で2時間インキュベートした。その後、各穴を200μlのPBSで3回洗浄した。ここに、1%ウシ血清アルブミン添加PBSで10000希釈したペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン(code 189733, Calbiochem社)を100μl加え、室温で1時間インキュベートした。各穴を200μlのPBSで5回ずつ洗浄した。発色基質として、30%H溶液(4℃)を最終濃度0.02%になるように加えたフェニレンジアミン(0.4mg/ml 0.1Mクエン酸、0.1M Na2HPO4, pH5.0)を調製し、これを各穴100μlずつ加え、遮光して15分間インキュベートした。その後、各穴に1.5M HSOを100μlずつ加えて反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(Multiskan MS, Labosystems 社)で、492nm波長における吸光度を測定した。
【0067】
図4は、ビオチン化D1ペプチドの各ヘマグルチニンへの結合を1とした場合の、各ビオチン化変異D1ペプチドのH1N1(A)およびH3N2(B)に対する相対的結合アフィニティを示している。
【0068】
H1N1型ヘマグルチニンに対する結合アフィニティは、変異D1ペプチドA2、A4、A12ではD1ペプチドと比較して顕著に低下(約50%)した。また、A1でも結合活性が低下(約60%)した。従って、H1N1型ヘマグルチニンへの結合に特に重要なアミノ酸残基は、C末端から1番目、2番目、4番目、12番目である。
【0069】
また、H3N2型ヘマグルチニンに対する結合アフィニティは、すべてのペプチド希釈濃度において、変異D1ペプチドA1、A2、A4、A12でD1ペプチドと比較して顕著に低下した。また、20μMではA6、A10、A11でも結合活性が低下した。従って、H3N2型ヘマグルチニンへの結合に特に重要なアミノ酸残基はC末端から1番目、2番目、4番目、12番目であり、6番目、10番目、11番目も結合に関与することが示された。
【0070】
以上の結果は、
GLxMxPxxxHVRxxx(配列番号4、xは任意のアミノ酸)
のアミノ酸配列を有するペプチドは、ヘマグルチニン結合性を有するペプチドであることを示す。
【0071】
[実施例3]
本実施例では、各合成ヘマグルチニン結合ペプチドの感染阻害活性を示す。
【0072】
==感染阻害活性評価(プラークアッセイ法)==
10%FBS添加MEM培地中で培養したMDCK細胞(Mardin-Darby canine kidney、理研BRC セルバンク)を、1ウエルあたり100mlずつ3x10細胞/mlの密度で6穴マイクロプレートに播種し、5%CO、37℃で一晩培養した。全てのウエルにおいて細胞が単層飽和になっていることを確認した後、血清非含有MEM培地で2回洗浄した。ここで、系列希釈したA亜型インフルエンザウイルス(HA1(A/PR/8/34)あるいはHA3(A/Aichi/2/68))(100~200pfu(plaque forming units))と 同じく系列希釈した評価対象のヘマグルチニン結合ペプチド(実施例1で合成)の混合液を各ウエルに200μlずつ接種した。これを5%CO、37℃で30分間インキュベートした後、ウイルス—ペプチド混合液を除き、PBSで1回洗浄した。ここに、50℃に加温した寒天と重層用培地の混合培地を2ml/ウエル加え、室温で30分静置して寒天を固めた後にプレートを反転して5%CO、37℃で2日間培養した。ウイルス感染後2日目に重層培地を除き、プレートを乾燥させた。その後、クリスタルバイオレット染色液を用いて室温で3~5分染色・固定化した後、水道水で洗浄し、プラークの形成(pfu/ml)を計算した。
【0073】
ウイルスのMDCK細胞への感染が最大時の50%である時のヘマグルチニン結合ペプチドの濃度がIC50である。log変換したペプチド濃度(x)を横軸、logit変換したウイルスの感染量/ウイルスの最大感染量(y)を縦軸とし、直線回帰分析を行った。縦軸が0の時のペプチド濃度がIC50となる。
【0074】
表7に各ペプチドのインフルエンザウイルス感染阻害活性を示す。D1ペプチドそのものはH1、H3のいずれのインフルエンザウイルスの感染阻害活性も示さなかった。一方で、糖鎖修飾D1ペプチド(D1(GalNAc-S7))、および、D1(1-7、GalNAc-S7)、D1(7-15、GalNAc-S7)は著しく高い阻害活性を示した。糖鎖修飾の位置は、D1ペプチド中央のセリンに付加した場合(D1(GalNAc-S7))に活性がより高かったが、糖鎖修飾したセリンをC末端に付加した場合(D1(0-15,GalNAc-SO))もD1ペプチドに比較して活性が高かった。
【0075】
一方、アルキル化したD1ペプチド(C18-D1)、D1(4-12)、D1(7-15)では、D1ペプチドと比較し、インフルエンザ感染阻害活性が向上していた(D1ペプチドに関しては、特開2002-284798参照)。しかし、糖鎖修飾D1ペプチドの場合には、アルキル化した場合(C18-D1(GalNAc-S7))でも、アルキル化しない場合(D1(GalNAc-S7))と比べ、感染阻害活性の有意な上昇を示さなかった。さらに、糖鎖修飾されていても、アミノ酸配列がD1配列と逆の場合(rD1(GalNAc-S7))には阻害活性を示さず、また、D1ペプチドであってもGlcあるいはLacで糖鎖修飾されている場合には阻害活性を示さなかった。
【0076】
【表7】
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【0077】
このように、糖鎖修飾されていないヘマグルチニン結合ペプチドは、そのアルキル化によりウイルス阻害活性が向上する。しかし、GalNAc糖鎖修飾されたヘマグルチニン結合ペプチドでは、そのアルキル化の有無に関わらず、H1あるいはH3を有するウイルスの感染阻害活性が向上する。
【0078】
[実施例4]
本実施例では、各合成ヘマグルチニン結合ペプチドの臨界ミセル濃度を測定する。
【0079】
上記実施例1で合成した各ペプチドのうちD1、C18-D1、D1(GalNAc-S7)、およびC18-D1(GalNAc-S7)を0.001μM~30μMの濃度に希釈し、各1mlをガラスチューブ(13x100mm)に導入した。これを、分光蛍光光度計(FL-2500、日立)により440nm波長を照射して蛍光強度を測定した。ここで得られた結果について、縦軸に測定した蛍光強度、横軸にlog変換した濃度をプロットし、蛍光強度が増大し始めるペプチド濃度を臨界ミセル濃度と決定した。
【0080】
背景技術および実施例3でも述べた通り、インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドをアルキル化することにより、ペプチドがミセルを形成しやすくなり、同時にその感染阻害活性が向上することは既に開示されている(特開2006-101709、特開2007-145777)。表8に示すように、アルキル化ペプチドであるC18-D1とC18-D1(GalNAc-S7)はそれぞれ0.29μM、0.38μMの濃度でミセルを形成することが示された。一方で、D1およびD1(GalNAc-S7)はミセルを形成しないことが示された。
【0081】
【表8】
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【0082】
このように、糖鎖修飾ヘマグルチニン結合ペプチドは、ミセルを形成しないにも関わらず、高いインフルエンザウイルス感染阻害活性を有する。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3