TOP > 国内特許検索 > Ni3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成された高温用軸受及びその製造方法 > 明細書

明細書 :Ni3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成された高温用軸受及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5445750号 (P5445750)
公開番号 特開2011-026683 (P2011-026683A)
登録日 平成26年1月10日(2014.1.10)
発行日 平成26年3月19日(2014.3.19)
公開日 平成23年2月10日(2011.2.10)
発明の名称または考案の名称 Ni3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成された高温用軸受及びその製造方法
国際特許分類 C22C  19/05        (2006.01)
C22F   1/10        (2006.01)
C22F   1/02        (2006.01)
C22F   1/00        (2006.01)
FI C22C 19/05 Z
C22F 1/10 H
C22F 1/02
C22F 1/00 630C
C22F 1/00 630G
C22F 1/00 631Z
C22F 1/00 681
C22F 1/00 682
C22F 1/00 691C
C22F 1/00 691B
C22F 1/00 692A
請求項の数または発明の数 7
全頁数 21
出願番号 特願2009-175851 (P2009-175851)
出願日 平成21年7月28日(2009.7.28)
審査請求日 平成24年5月30日(2012.5.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
【識別番号】505060026
【氏名又は名称】日本ピローブロック株式会社
発明者または考案者 【氏名】高杉 隆幸
【氏名】金野 泰幸
【氏名】藤井 秀和
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
審査官 【審査官】河野 一夫
参考文献・文献 特開2008-266754(JP,A)
特開2007-084903(JP,A)
特開平03-267343(JP,A)
特開2006-299410(JP,A)
特開2001-131665(JP,A)
調査した分野 C22C 1/00 - 49/14
C22F 1/00 - 3/02
特許請求の範囲 【請求項1】
Si:7.5~12.5原子%,Ti:4.5~10.5原子%,Nb:0~3原子%,Cr:0~3原子%,残部Niよりなる合計100原子%の組成の合計重量に対してB:25~500重量ppmを添加したNi3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成されたことを特徴とする高温用軸受。
【請求項2】
前記Ni3(Si,Ti)系金属間化合物合金は、
Si:10.0~12.0原子%,Ti:5.5~9.5原子%,Nb:1.5~2.5原子%,Cr:1.5~2.5原子%,残部Niよりなる合計100原子%の組成の合計重量に対してB:25~100重量ppmを含む請求項1に記載の高温用軸受。
【請求項3】
前記Ni3(Si,Ti)系金属間化合物合金が、L12相からなる単相組織、又はL12相とNi固溶体相からなる組織を有する請求項1又は2に記載の高温用軸受。
【請求項4】
内輪と、外輪と、内輪と外輪の間で転動する転動体とから構成され、
前記転動体がセラミック材料で形成され、
前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方が、前記Ni3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成された請求項1~3の何れか1つに記載の高温用軸受。
【請求項5】
前記転動体が窒化ケイ素で形成された請求項4に記載の高温用軸受。
【請求項6】
高温用軸受の製造方法であって、
Si:7.5~12.5原子%,Ti:4.5~10.5原子%,Nb:0~3原子%,Cr:0~3原子%,残部Niよりなる合計100原子%の組成の合計重量に対してB:25~500重量ppmを添加した鋳塊に対して950℃~1100℃で均質化熱処理を行う工程と、
均質化熱処理がされた鋳塊を用いて軸受を形成する工程とを備える軸受の製造方法。
【請求項7】
高温用軸受の製造方法であって、
Si:7.5~12.5原子%,Ti:4.5~10.5原子%,Nb:0~3原子%,Cr:0~3原子%,残部Niよりなる合計100原子%の組成の合計重量に対してB:25~500重量ppmを添加した鋳塊を用いて軸受を形成する工程と、
鋳塊を用いて形成された軸受に対して950℃~1100℃で均質化熱処理を行う工程とを備える軸受の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、高温用軸受に関し、特に、Ni3(Si,Ti)を基本組成とする金属間化合物合金(以下,「Ni3(Si,Ti)系金属間化合物合金」と呼ぶ。)で形成された高温用軸受及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受は、多くの産業分野で使用される機械要素であり、タービンやエンジンのような高温での動作が要求される機械でも使用されている。高温で用いられる軸受は、マルテンサイト系ステンレス鋼や軸受用耐熱鋼などの材料で形成されているが、このような軸受は、約300~400℃程度が動作の限度とされている。このため、高温で動作可能な軸受の研究・開発が進められている。高温特殊環境下でも長期の寿命が得られる軸受として、転動体の母材を軸受鋼又はステンレス鋼としその表面に窒化処理を施した軸受が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2002-221227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、近年、半導体や液晶等の製造分野や熱処理の産業設備において、さらに高温でも動作可能な軸受が求められるようになっている。高温の環境で優れた特性を有する軸受が求められており、特に、優れた寿命を備える軸受が求められている。
【0005】
この発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高温で優れた寿命を備える軸受を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によれば、Niを主成分とし且つSi:7.5~12.5原子%,Ti:4.5~10.5原子%,Nb:0~3原子%,Cr:0~3原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:25~500重量ppmを含むNi3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成されたことを特徴とする高温用軸受が提供される。
【発明の効果】
【0007】
この発明の発明者らは、材料の硬さ特性は高温になるに従い低下する傾向があるとされるところ、常温で優れた硬さ特性を有する材料が、高温で優れた寿命を備える軸受の材料と限らないと考え、鋭意研究を行った。そして、その結果、Ni3(Si,Ti)系金属間化合物合金(以下、「金属間化合物」とも呼ぶ。)において、7.5~12.5原子%のSi,4.5~10.5原子%のTi,0~3原子%のNb及び0~3原子%のCrを含有させた金属間化合物で形成した軸受が400℃から800℃の高温で優れた寿命を有することを見出し、この発明の完成に到った。この発明の軸受は、高温で好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態の軸受の断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態の軸受の断面図である。
【図3】本発明の実証実験での実施例試料1のSEM写真である。(a)と(b),(c)と(d)は、同一視野であり、(a)と(c)は2次電子像(SEM-SE像)で、(b)と(d)は反射電子像(SEM-BE像)である。
【図4】本発明の実証実験での実施例試料1のSEM写真である。(a)は、均質化熱処理を施していない凝固材試料のSEM写真であり、(b)~(d)は、凝固材に熱処理を施した試料のSEM写真である。
【図5】(a)は均質化熱処理をしていない実施例試料1(凝固材)の、(b)は1050℃で48時間保持する均質化熱処理をした実施例試料1(均質化熱処理材)のそれぞれのX線プロファイルである。
【図6】本発明の実証実験における、高温でのビッカース硬さの測定結果を示すグラフである。
【図7】スラスト転がり寿命試験機の概念図である。
【図8】転がり寿命試験片の(a)上面図及び(b)断面図である。
【図9】耐熱回転試験前の軸受及びその部品である内輪・外輪の写真である。
【図10】耐熱回転試験後の高温槽内での軸受と摩耗粉の状態を示す写真である。
【図11】耐熱回転試験後の軸受を分解したときの写真である。(a)~(c)は、SUS440Cで形成された軸受であり、(d)~(f)は、実施例試料1で形成された軸受である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.軸受の材料
この発明の一実施形態の高温用軸受は、Ni3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成され、その化合物は、Niを主成分とし且つSi:7.5~12.5原子%,Ti:4.5~10.5原子%,Nb:0~3原子%,Cr:0~3原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:25~500重量ppmを含む。
まず、各組成の含有量について詳述する。なお、この明細書において、「~」は、端の点を含む。

【0010】
Siの含有量は、7.5~12.5原子%であり、好ましくは、10.0~12.0原子%である。Siの具体的な含有量は、例えば,7.5,8.0,8.5,9.0,9.5,10.0,10.5,11.0,11.5,12.0又は12.5原子%である。Siの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。

【0011】
Tiの含有量は、4.5~10.5原子%であり、好ましくは、5.5~9.5原子%である。Tiの具体的な含有量は、例えば,4.5,5.0,5.5,6.0,6.5,7.0,7.5,8.0,8.5,9.0又は9.5原子%である。Tiの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。

【0012】
Nbの含有量は、0~3原子%であり、好ましくは、1.5~2.5原子%である。Nbの具体的な含有量は、例えば,0,0.5,1.0,1.5,2.0,2.5又は3.0原子%である。Nbの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。

【0013】
Crの含有量は、0~3原子%であり、好ましくは、1.5~2.5原子%である。Crの具体的な含有量は、例えば,0,0.5,1.0,1.5,2.0,2.5又は3.0原子%である。Crの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。

【0014】
Niの含有量は、例えば,78.5~81.0原子%であり、好ましくは,78.5~80.5原子%である。Niの具体的な含有量は、例えば,78.5,79.0,79.5,80.0,80.5又は81.0原子%である。Niの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
上記各元素の含有量は、Si,Ti,Nb,Cr及びNiの含有量の合計が100原子%になるように適宜調整される。

【0015】
Bの含有量は、25~500重量ppm,好ましくは,25~100重量ppmである。Bの具体的な含有量は、例えば,25,40,50,60,75,100,150,200,300,400又は500重量ppmである。Bの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。

【0016】
この実施形態の高温用軸受に用いる金属間化合物の具体的な組成は、例えば、表1~3に示す組成(又は表1~3に示す組成のうちの何れか2つの間の範囲の組成)に上記含有量のBを添加したものである。

【0017】
【表1】
JP0005445750B2_000002t.gif

【0018】
【表2】
JP0005445750B2_000003t.gif

【0019】
【表3】
JP0005445750B2_000004t.gif

【0020】
次に、Ni3(Si,Ti)系金属間化合物合金の組織について説明する。この実施形態の高温用軸受に用いる金属間化合物合金は、好ましくは、L12相からなる単相組織、又はL12相とNi固溶体相からなる組織を有する。Ni3Nbのような硬質第二相を分散させると剥離やクラック導入の起点となりやすいため、L12単相、又はNi固溶体相のような、マトリックスと硬さがあまり違わない相として存在する方が軸受の形成に好ましいからである。L12相は、Nbを固溶したNi3(Si,Ti)相であり、Ni固溶体相は、fcc構造で、その格子定数は、L12相とほぼ同等の値である。
これらの組織は、ビッカース硬さの観点からすると、L12相からなる単相組織が好ましく、軸受の製造性・加工性の観点からすると、L12相とNi固溶体相からなる組織が好ましい。なお、組織又は変形の均一性の観点からすると、Ni固溶体相よりもL12相組織のほうが好ましいので、軸受の変形や寸法精度による寿命の点でも、L12相からなる単相組織が好ましい。

【0021】
2.軸受の構成
本発明の軸受は、転がり軸受であってもよいし、また、すべり軸受であってもよい。転がり軸受やすべり軸受であれば特に限定されないが、例えば、玉軸受、ころ軸受、ジャーナル軸受であってもよいし、ラジアル軸受やスラスト軸受であってもよい。
一実施形態として、すべり軸受を挙げると、この軸受は、軸を支える部分(例えば、すべり面)が前記Ni3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成される。この一実施形態の軸受は、高温で硬さを維持できる材料により、軸を支える部分が形成されているので、この発明の軸受は、摩耗しにくい構造となり、その結果、優れた寿命を備えることとなる。
また、他の実施形態として、転がり軸受を挙げると、この軸受は、内輪と、外輪と、内輪と外輪の間で転動する転動体とから構成され、前記転動体がセラミック材料で形成され、前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方(つまり、一方又は両方)が、前記Ni3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成される。この実施形態の軸受は、高温で硬さを維持できる材料により内輪、外輪及び転動体が形成されているので、上記の実施形態の軸受と同様に、摩耗しにくい構造となり、その結果、優れた寿命を備えることとなる。つまり、内輪や外輪などの軌道部品がNi基金属間化合物合金で形成されることが好ましく、転動体がセラミック材料で形成されることが好ましい。ここで、軌道部品とは、軌道面や軌道溝を備える軌道輪をいい、たとえば、転がり軸受の場合、内輪、外輪が該当し、スラスト軸受の場合、軌道盤がこれに該当する。
前記セラミック材料には、例えば、窒化ケイ素が好ましい。ほか、セラミック材料として、炭化ケイ素、アルミナ(酸化アルミニウム)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)等の材料であってもよい。線膨張係数が小さく、凝着や損傷が生じにくいため、転動体の材料としてセラミック材料が好適である。このため、転動体がセラミック材料で形成されることにより、優れた寿命を備える軸受が提供される。

【0022】
3.耐熱特性
この発明の一実施形態の軸受は、高温で好適に用いることができる。高温用軸受とは、400℃から800℃までの温度で用いる軸受をいう。この温度は、例えば、400℃,450℃,500℃,550℃,600℃,650℃,700℃,750℃,800℃を挙げることができ、ここに例示した数値のいずれか2つの範囲内であってもよい。ビッカース硬さの観点からすると、SUS630(Fe-17Cr-4Ni-4Cu-0.35Nb)との比較により、500℃以上での使用がより好ましく、SUS440C(Fe-18Cr-1C)との比較により、600℃以上での使用がさらに好ましい。また、Ni3(Si,Ti)系金属間化合物の材質の観点からすると、最高使用温度は800℃以下が好ましい。

【0023】
4.軸受の製造方法
まず、軸受を形成するNi3(Si,Ti)系金属間化合物合金の鋳塊を作製する。例えば、上記実施形態の組成になるように各元素の地金を用意し、その後、これらを溶解炉で溶融し鋳型に注入して凝固させることにより、L12相、又はL12相とNi固溶体相からなる組織を有する鋳塊を作製する。高温強度及び変形の均一性の観点からすると、凝固した鋳塊に対して、さらに熱処理を行うことが好ましい。この熱処理は、不均一な凝固組織を除去するために行う熱処理(均質化熱処理)であり、その条件は、特に限定されない。熱処理は、例えば、真空中において、950℃~1100℃の温度で24~48時間処理してもよい。この熱処理により、凝固速度に起因する凝固ひずみや大型の鋳塊で発生する鋳造組織の不均一性を解消することができる。また、fcc型のNi固溶体相を低減でき、ビッカース硬さを向上させることができる。このため、より優れた寿命を備える軸受の材料を得ることができる。
次に、得られた金属間化合物合金の鋳塊を所定の形状に加工し、軸受を作製する。例えば、得られた鋳塊を切断し、切削加工することにより所定の形状の軸受を作製する。ここで鋳塊を切断し、切削加工することを挙げたが、例示にすぎず、これに限られない。例えば、塑性加工のような周知の方法を適宜適用することができる。あるいは、内輪および外輪の形状に直接、溶解・鋳造する方法や粉末冶金法により、内輪,外輪の形状に直接仕上げてもよい。
最後に、上記内輪および外輪,転動体を用いて軸受を組み立てる。なお、転動体は、内輪と外輪が所定の間隙をなす大きさのものを選定し入手すればよい。
なお、得られた鋳塊を切断し、切削加工したのちに、熱処理を行ってもよい。

【0024】
次に、この発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
図1に、実施形態の例として転がり軸受(玉軸受)を示す。図1は、転がり軸受の断面図である。図1に示す転がり軸受1は、内周面と外周面とを有する内輪2と、内周面と外
周面とを有し、前記内輪2の外周面に内周面を向けて配置された外輪3と、内輪2の外周面と外輪3の内周面との間で転動する転動体4と、転動体4が転動可能な状態で転動体4を保持する保持器5から構成されている。内輪2の外周面と外輪3の内周面にはそれぞれ転動体が転動する軌道面2A、3Aが設けられ、この軌道面2A、3Aで転動体4が転動するように所定の間隙で内輪2と外輪3が設置されている。この転がり軸受1では、内輪2、外輪3がNi3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成され、転動体4が、セラミック材料で形成されている。この内輪2及び外輪3は、例えば、内輪2と外輪3の軌道面2A、3AがNi3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成されてもよいし、また、内輪2、外輪3のいずれか一方、又は軌道面2A、3Aのいずれか一方がNi基金属間化合物合金で形成されてもよい。なお、保持器4には、潤滑機能を持った材料で形成された保持器が好ましい。例えば、グラファイト、軟質金属、セラミック又はこれらの複合体が好ましい。

【0025】
また、図2に、他の実施形態のすべり軸受を示す。図2は、すべり軸受の断面図である。図2に示すすべり軸受1Aは、いわゆる1層構造(ソリッドタイプ)のジャーナル軸受である。円筒形状に形成され、その内周面にすべり面2Bが形成されている。この実施形態の軸受では、すべり面2Bを含む軸受全体がNi基金属間化合物合金で形成されている。軸受全体がNi基金属間化合物合金で形成されてもよいが、例えば、内周面を構成しNi基金属間化合物合金で形成された合金層と、その外周側に鋼で形成された裏金層で構成される、いわゆる2層構造(バイメタルタイプ)のすべり軸受であってもよい。

【0026】
以上の実施形態で示した種々の特徴は、互いに組み合わせることができる。1つの実施形態中に複数の特徴が含まれている場合、そのうちの1又は複数個の特徴を適宜抜き出して、単独で又は組み合わせて、本発明に採用することができる。

【0027】
5.性能試験
次に、この発明の性能試験について説明する。以下の試験では、上記実施形態で示した組成のNi3(Si,Ti)系金属間化合物合金から作製した試料と、ステンレス鋼のなかで最高の硬さを示す硬質材料であるSUS440Cの試料の機械的特性、転がり疲労寿命試験及び耐熱回転試験の評価を行い、本発明の高温用軸受が、高温において優れた性能を示すことを実証した。

【0028】
A.試料の作製
以下の方法で、金属間化合物から形成された試料を作製した。
(1)鋳塊の作製
まず、表4に示す組成になるようにNi,Si,Ti,Nbの地金(それぞれ純度99.9重量%)とBを秤量した。Nbを含む試料は、真空誘導溶解(VIM)法により78φ×280mm(約11kg)の鋳塊からなる試料を作製し、Nbを含まない試料はアーク溶解により厚さ10mmの鋳塊からなる試料を作製した。なお、アーク溶解の雰囲気は、まず、溶解室内を真空排気し、その後不活性ガス(アルゴンガス)に置換した。電極は、非消耗タングステン電極を用い、鋳型には水冷式銅ハースを使用した。さらに、Nbを含まない試料は、鋳造偏析を解消し、均質化するために、1050℃で48時間保持の真空熱処理(炉冷)を行う均質化熱処理を行った。
Nbを含む試料が本発明の実施例に用いた素材のNi3(Si,Ti)系金属間化合物合金であり、以下、「実施例試料1」と呼ぶ。Nbを含まない試料は、本発明の軸受に用いる素材のNi3(Si,Ti)系金属間化合物合金の一例であり、以下、「試料2」と呼ぶ。

【0029】
【表4】
JP0005445750B2_000005t.gif

【0030】
(2)玉軸受の加工
次に、実施例試料1の鋳塊を所定の厚さに切断し、得られた円盤状素材を切削加工して、軸受の内輪及び外輪を製作した。内径・外径及び端面には粗研削加工を施し、内輪と外輪の軌道面には、最終仕上げである超仕上げ研削加工を施した。

【0031】
(3)高温用玉軸受の組立
さらに、前記製作した内輪と外輪とが所定のすきまをなすように、窒化ケイ素セラミックス球を組み込み、更に、固体潤滑剤保持器を装着して、図1に示す玉軸受を完成させた。

【0032】
B.評価
(1)組織観察
実施例試料1の鋳塊について、断面組織を評価した。図3に実施例試料1のSEM写真を示す。図3の(a),(b)を参照すると、凝固材である実施例試料1では、デンドライト状組織であることがわかる。さらに高倍率で観察した写真を図3の(c),(d)に示す。図3の(c),(d)を参照すると、黒色のコントラストの領域では単相組織が形成され、灰色のコントラストの領域では矩形状の微細組織が形成されていることが確認された。黒色のコントラスト領域はL12構造のNi3(Si,Ti)金属間化合物相で、灰色のコントラスト領域はfcc構造のNi固溶体相であると考えられ、実施例試料1はL12構造にfcc構造のNi固溶体相が出現した組織を有していることがわかる。なお、図2の反射電子像(BEI)より、L12相とNi固溶体相では色調の濃淡は少なく、両相は互いに類似した合金組成を有していることが推察された。
さらに、鋳造偏析を解消し均質化するため、実施例試料1に均質化熱処理を施し、組織観察をした。

【0033】
図4(a)に、真空熱処理(炉冷)を行っていない実施例試料1のSEM写真を示し、図4(b)に、1050℃で48時間保持する真空熱処理(炉冷)を行った実施例試料1のSEM写真を示す。図4(a),(b)を参照すると、1050℃で48時間保持する均質化熱処理をした後は、デンドライト状組織が消失しつつあり、Ni固溶体相も減少していることがわかる。図5(a)に均質化熱処理をしていない実施例試料1(凝固材)と図5(b)に1050℃で48時間保持する均質化熱処理をした実施例試料1(均質化熱処理材)のX線回折(XRD)測定結果を示す。図5を参照すると、均質化熱処理をすると、結晶配向は変化しているが、ピーク位置は変化していないことがわかる。図3,図4の組織観察結果から均質化熱処理をしていない実施例試料1(凝固材)と均質化熱処理をした実施例試料1(均質化熱処理材)とはともにL12相中にNi固溶体相が分散した組織状態になっていることがわかるが、XRDプロファイルに明確なピーク分離やピークシフトが無いことから、L12相とNi固溶体相の格子定数にはほとんど差異がないものと考えられる。なお、図4より明らかなように、L12あるいはNi固溶体相以外の相は存在していない。

【0034】
発明者は、Ni過剰組成のNi3(Si,Ti)でも、前記同様のNi固溶体相が出現し、Ni過剰組成のNi3(Si,Ti)に低温熱処理を行うとNi固溶体相が消失することを見いだしている。そこで、熱処理温度を1050℃から950℃に下げて組織観察の変化を調査した。図4(c)に、1050℃で48時間保持する真空熱処理にくわえ、さらに、950℃で48時間保持する真空熱処理をくわえた実施例試料1の写真を示す。また、図4(d)に、950℃で48時間保持する真空熱処理(炉冷)をした実施例試料1の写真を示す。
図4(c),図4(d)を参照すると、いずれの場合もNi固溶体相が減少していることがわかる。また、表5に示すように、Ni固溶体相の減少に伴い、熱処理材では凝固材に比べてビッカース硬さが若干増加した。

【0035】
【表5】
JP0005445750B2_000006t.gif

【0036】
(2)高温ビッカース硬さ試験
実施例試料1、試料2及び950℃で48時間保持する真空熱処理(炉冷)をした実施例試料1について、高温(300℃,500℃,600℃,800℃)でのビッカース硬さ試験を行った。また、あわせてSUS440C、SUS630の二つの材料についても高温でのビッカース硬さ試験を行った。SUS440Cは、300℃,500℃,800℃の高温で、SUS630は、300℃,500℃,600℃,800℃の高温で、それぞれビッカース硬さ試験を行った。荷重は1kgで、保持時間は20秒であった。測定は還元雰囲気中(Ar+約10%H2)で行い、昇温速度は毎分10℃で行った。なお、上記の高温でのビッカース硬さ測定に用いたものと同一の試験片における常温でのビッカース硬さを、上記の高温での測定に先立って、同一の測定条件(荷重1kg,保持時間20秒)で測定した。

【0037】
図6に測定結果を示す。また、図6には、SUS440C、SUS630の二つの材料についてのビッカース硬さのデータも合わせて示す。なお、SUS440Cは、ステンレス鋼中で最高硬さを示し、耐熱・特殊環境用のボールベアリングの材料である。
図6を参照すると、SUS440C等の一般的な軸受材料は、温度が上昇するに従いビッカース硬さが急激に低下するのに対し、実施例試料1、試料2及び950℃で48時間保持する真空熱処理(炉冷)をした実施例試料1は、温度が上昇してもビッカース硬さがあまり低下しないことがわかる。また、実施例試料1、試料2及び950℃で48時間保持する真空熱処理(炉冷)をした実施例試料1は、500℃以上の温度域において、SUS630よりもビッカース硬さの値が高いことが分かる。また、均質化熱処理をした試料はおよそ600℃以上でSUS440Cよりも高いビッカース硬さを示すことがわかる。なお、軸受の使用環境を考慮すると、SUS440C等の合金は、高温で酸化による劣化や組織の粗大化が生じることが考えられる。このため、これらの材料で軸受を形成した場合、より低温域で実施例試料の優位性が現れると推定できる。
そして、実施例試料1よりも、試料2及び950℃で48時間保持する真空熱処理(炉冷)をした実施例試料のほうがビッカース硬さの値が高いことが分かる。これは実施例試料1(凝固材)がNi固溶体相を多く含むことに起因しているものと考えられる。高温での硬さの観点からはL12単相組織が望ましいと推察される。

【0038】
(3)転がり疲労寿命試験
実施例試料1について、転がり疲労寿命試験を行った。具体的には、スラスト転がり寿命試験機を用いた。図7にスラスト転がり寿命試験機の概念図を示す。また、図8に試験対象である試験片の上面図及び断面図を示す。図7に示すスラスト転がり寿命試験機10は、軸受箱15側から負荷をかけるとともに駆動軸11を駆動させることにより、内輪12を介してボール13を、試験片14のうえで転動させ、どの程度の負荷でどの程度の寿命があるのかを調べるための試験機である。
まず、実施例試料1を図7に示すドーナツ円盤状(外径D60mm×内径d20mm×厚さt6mm)に加工し、次いで、スラスト転がり寿命試験機10の軸受箱15にその試験片14を設置し、駆動軸11を回転させた際の転がり試験の結果により評価した。各試験とも試験回数は2回とした。

【0039】
転がり疲労寿命試験の条件
試験の条件は次に示す様に、2種類の軸受型式を用いて行った。
1)軸受型式51305、最大面圧(ボールと試験片間):4.4GPa、3.3GPa、負荷ボール直径:3/8インチ(9.525mm)、負荷ボール軌道径φ38.5mm、回転数1200rpm、潤滑油:スーパーマルパス10(新日本石油製)、潤滑方式:油中、試験室温度:20℃~25℃、で行った。
2)軸受型式51105、最大面圧(ボールと試験片間):3.2GPa、負荷ボール直径:1/4インチ(6.35mm)、負荷ボール軌道径φ33.5mm、回転数1200rpm、潤滑油:スーパーマルパス10(新日本石油製)、潤滑方式:油中、試験室温度:20℃~25℃、で行った。

【0040】
表6に結果を示す。SUS630(Fe-17Cr-4Ni-4Cu-0.35Nb)の転がり疲労寿命試験の結果も合わせて示す。
表6を参照すると、負荷250kgfの条件で、SUS630と同等の寿命であることがわかる。特に負荷43kgfでは500時間以上の寿命時間となる結果も得られ、常温において十分使用に耐えることがわかる。

【0041】
【表6】
JP0005445750B2_000007t.gif

【0042】
(4)耐熱回転試験
実施例試料1の内輪及び外輪を用いた玉軸受(実施例)について、耐熱回転試験を行った。具体的には、高温の環境下で玉軸受を回転動作させ、その後、その玉軸受の外観や寸法測定から評価した。また、SUS440C(Fe-18Cr-1C)で形成された外輪及び内輪で組み立てた、実施例と同一形状の玉軸受についても、同様の試験を行い、評価した。
試験の条件は、温度:600℃,負荷:60kgf,回転数:166rpmである。玉軸受は、仕様:6206SO(T02)Y3とし,転動体:セラミックボール3/8インチ(9.525mm,品番FYN-SN),保持器:BS10609 UR-06(虹技社製)を用いた。

【0043】
図9に、耐熱回転試験前の軸受及びその部品である内輪・外輪の写真を示す。また、図10に、耐熱回転試験後の高温槽内での軸受の状態を示す。さらに、図11に耐熱回転試験後の軸受を分解したときの内輪及び外輪の写真を示す。図10を参照すると、SUS440Cで形成された軸受は多くの摩耗粉が発生しているのに対し、実施例試料1で形成された軸受は摩耗粉がほとんど発生していないことがわかる。また、図9及び図11を参照すると、SUS440Cで形成された内輪・外輪及び実施例試料1で形成された内輪・外輪は、ともに酸化し金属色を失い黒く変色しているものの、発生した欠陥の有無で相違していることがわかる。つまり、SUS440Cで形成された内輪・外輪の軌道面には細かい凹凸が多数みられ、転動痕幅が広いのに対し、実施例試料1で形成された内輪・外輪の軌道面には細かい凹凸があまりなく、転動痕幅が広くないことがわかる。さらに、焼き付きも発生していないことがわかる。

【0044】
また、表7に寸法測定の結果を示す。表7を参照すると、内外輪部材の材質をSUS440Cとした場合よりも、実施例試料1とした場合のほうが、その摩耗量が大幅に小さいことがわかる。図10,図11及び表7の結果から、実施例試料1で形成された軸受は、高温で焼き付きにくく、摩耗しにくいことがわかる。高温になるに従い接触面積が増え、そのため摩擦や摩耗の影響が大きくなると推定される。これらの結果から、実施例試料1で形成された軸受は、特に摩耗特性が優れていると理解できる。さらに高温で硬さが維持されたことから軌道面に欠陥が生じにくいと理解できる。
さらに、実施例試料1の材料が疲労に内輪と外輪との摩耗量が軸受の摩耗量であるとし、SUS440Cを基準として軸受の寿命時間を算出すると、実施例試料1で内輪と外輪を形成した実施例は、SUS440Cで内輪と外輪を形成した軸受と同等の摩耗量に達するまでに8336時間を要することが確認できた(表7)。実施例試料1を用いた軸受が、高温環境下できわめて寿命が長く、優れた耐熱性を示すことがわかる。

【0045】
【表7】
JP0005445750B2_000008t.gif

【0046】
(C)まとめ
以上の評価結果から分かるように、実施例試料は、SUS440C等の一般的な軸受材料と特性が全く異なり、温度が上昇しても機械的特性があまり変化しない。また、実施例試料で形成された軸受は、常温での転がり疲労寿命試験ではSUS440Cと同等であるものの、高温の環境下での耐熱回転試験では、きわめて寿命が長く、優れた耐熱性を有している。従って、実施例試料で形成された軸受は、高温で寿命が要求される用途に好適に用いることができる。なお、Ni3(Si,Ti)系金属間化合物合金は非磁性の特性を有するから、磁化することによる摩耗粉の軌道輪内への堆積が生じ難く、結果として、摩耗の加速を抑制する性質を有している。また、非磁性であることが求められる用途(例えば、半導体製造装置)でも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 転がり軸受(玉軸受)
1A すべり軸受
2 内輪
2A、3A 軌道面
2B すべり面
3 外輪
4 転動体
5 保持器
10 スラスト転がり寿命試験機
11 駆動軸
12 内輪
13 ボール
14 試験片
15 軸受箱
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図3】
6
【図4】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10