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明細書 :がん治療用の遊走阻害剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5435461号 (P5435461)
登録日 平成25年12月20日(2013.12.20)
発行日 平成26年3月5日(2014.3.5)
発明の名称または考案の名称 がん治療用の遊走阻害剤
国際特許分類 A61K  31/4164      (2006.01)
A61K  31/223       (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61P  35/04        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
FI A61K 31/4164
A61K 31/223
A61K 45/00
A61P 35/04
A61P 35/00
請求項の数または発明の数 1
全頁数 27
出願番号 特願2009-135486 (P2009-135486)
出願日 平成21年6月4日(2009.6.4)
審査請求日 平成24年5月9日(2012.5.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
発明者または考案者 【氏名】石内 勝吾
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
特許請求の範囲 【請求項1】
放射線がん治療における腫瘍細胞への放射線照射に伴う腫瘍細胞の遊走性の亢進を阻害する遊走阻害剤であって、一酸化窒素(NO)および一酸化窒素合成酵素(NOS)の産生抑制活性を有する以下の化合物(1)(2)、
(1)2-(4-carboxyphenyl)-4,4,5,5-tetramethylimidazoline-1-oxyl 3-oxide (C-PTIO)、
(2)NG-Nitro-L-arginine Methyl Ester, Hydrochloride (L-NAME)、
のうちの少なくともいずれかを含有することを特徴とする遊走阻害剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線等を用いてのがん治療における腫瘍細胞の遊走性の亢進を抑制、阻害する遊走阻害剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線は固形がんの治療において、重要な治療手段であるが、臨床的には、照射野内外での腫瘍の再発がしばしば認められる。原因としては、照射前にすでに微小転移巣が存在しているという考え、あるいは照射野・照射線量が十分な効果が得られる量に達していないなどの不適切さにあると説明されてきた。
【0003】
臨床の現場において、高線量照射を広範囲に行えば、脳壊死を引き起こす可能性が高まり、一方線量を低く抑えれば、照射野内の局所再発が必須である。最近では、腫瘍塊には90Gy相当の照射を施行し、周囲浸潤部位に60Gy、周囲脳に40-50Gyと重み付け可能な強度変調照射法であるトモテラピー(登録商標)などの新しい治療装置を用いたり、従来の外照射にガンマナイフやサイバーナイフを組み合わせ施行されるなどの工夫がなされている。
【0004】
現行の放射線治療は、脳壊死を引き起こさない安全な量を見極め、最大限の治療効果を上げる照射野、照射法の臨床経験から得られた探索の成果といえる。さらに新しい線源として、重粒子線の応用も開始されている。
【0005】
しかしながら、肺、消化器、婦人科臓器、乳房、肝臓など主要臓器に発生する未分化腫瘍、悪性黒色腫、悪性脳腫瘍ことに神経膠芽腫などに対する治療は十分な治療効果を上げているとは言えない状況が続いている。これ等浸潤性増殖を示す固形癌では、手術後の局所再発のみならず、腫瘍臓器への遠隔転移や脳転移も稀ではなく、臨床上大きな問題となっている。
【0006】
とりわけ悪性度の高い神経膠芽腫については、様々な試みが施行されているが、長期の生存期間を得るまでにはいたっていない。神経膠芽腫に対して90Gy高線量照射の試みが報告されているが、平均生存中央値は16.2ヶ月、髄液播種の頻度が標準量照射群に比して増加している(非特許文献1)。重粒子線の一種である炭素線単独による22例の神経膠芽腫の治療の現状は、平均生存中央値は10-11ヶ月であり、いまだ安全な照射量、最大限の治療効果を上げられる照射野、照射法(分割回数など)テモゾロマイド併用などを探索中である(第29回中枢神経腫瘍臨床研究班会議 中枢神経系II(0101)班会議報告書 報告年月日:2008年9月8日)。
【0007】
これ等の経緯から、照射量を上げるのみでは難治性がんは治らず、また新しい治療装置である重粒子線も単独治療では、局所制御が可能となっても照射外転移や遠隔転移の制御は困難であり、有意な生命予後の達成は難しく、結果として浸潤性増殖を示すがんを征圧することはできないことが判明しつつある。
【0008】
社会の高齢化が進み、がん人口の増加に伴い難治性のがんの克服は、長い間の解決すべき課題であり、緊急性を有する重大な問題である。放射線による難治性がんの治療不応性は、従来から腫瘍細胞の照射線抵抗性として説明されてきたが、最近では、放射線の生物学的効果の解析が進み、放射線そのものが腫瘍細胞の脱分化を促進する、あるいは遊走性を高めるという報告や(非特許文献2-4)、照射線抵抗性の背景を説明する分子機構の仮説の提示がなされてきた。具体的には、照射により、DNA修復酵素が活性化するとする仮説(非特許文献5)、照射細胞の上皮増殖因子や(非特許文献6)リン酸化イノシトール3燐酸の経路の特異的な活性化などの報告があるが(非特許文献7)、具体的な臨床成果に結びついていない。従来技術を探索し、過去の文献からの類推だけでは、照射による遊走、浸潤の亢進を説明する分子機構の解明は難位であり、未だ解決されていない状態が続いている。
【0009】
一方、本発明者は、神経膠芽腫細胞にグルタミン酸受容体のうちのカルシウム透過性AMPA受容体が発現し、このチャンネルを介した緩徐な細胞内カルシウム濃度の上昇が腫瘍細胞の増殖と遊走を促進することを見出している(非特許文献8,9)。
【0010】
そして本発明者は、AMPA受容体についての検討を進め、その拮抗薬が腫瘍細胞の増殖を抑制し神経膠芽腫治療剤となり得ることを、ヌードマウスを用いたin vivoの実験系で証明し、AMPA受容体拮抗薬を「神経膠芽腫治療剤」として提案(特許文献1)している。
【0011】
また本発明者は、神経膠芽腫細胞に発現するカルシウム透過性AMPA受容体チャンネルを不透過性に変換するGluR2 DNAが神経膠芽腫細胞の浸潤と増殖を抑制することを見出し、GluR2 DNAを組み込んだアデノウイルスベクターが神経膠芽腫の遺伝子治療剤として有用であることを提案している(特許文献2)。
【0012】
さらに、本発明者は、独自に樹立したヒト神経膠芽腫細胞モデルを用いて照射及び非照射細胞をタイムラプス顕微鏡により長期にわたり観察することにより、グリオーマ細胞において細胞質の分裂増殖と細胞の移動(遊走)が関連した一連の現象であることを見出している。より具体的には、細胞質分裂促進物質の産生抑制活性を有する化合物が重粒子線をはじめとする放射線の照射によるがん治療において、放射線照射にともなう腫瘍細胞の遊走性の亢進を抑制、阻害することができ、放射線増感性の遊走阻害の手段を提供することを見出している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【0013】

【特許文献1】国際公開WO2003/082332号パンフレット
【特許文献2】特開2004-67627号公報
【特許文献3】特願2007-127361
【0014】

【非特許文献1】Lancet Oncology 6, 953-960 (2005).
【非特許文献2】J. Radiat. Res. (Tokyo) 46, 43-50 (2005).
【非特許文献3】Eur. J. Cancer 43, 1214-1224 (2007).
【非特許文献4】Cancer Res. 61, 2744-2750 (2001).
【非特許文献5】Nature 444, 756-760 (2006).
【非特許文献6】Mol. Cancer Res. 6,996-1002 (2008).
【非特許文献7】J. Neurooncol 76, 227-237 (2006).
【非特許文献8】Nature Med. 8,971-978 (2002).
【非特許文献9】J. Neurosci. 27, 7987-8001 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者は、このようなイオン型グルタミン酸受容体の一種で速い速度の神経伝達に関与するAMPA型受容体についての検討を進めるとともに、照射グリオーマ細胞における細胞の移動(遊走)性亢進の現象を解析する過程で、腫瘍塊に照射をすると、腫瘍塊から次々と直接照射されていない腫瘍細胞も速い速度で遊走すること、またマイクロビーム照射装置を用いて、腫瘍塊の一部を照射しても腫瘍塊全体の遊走亢進を惹起することから、照射細胞周囲の非照射細胞においても、細胞遊走現象の亢進が認められることを発見した。
【0016】
この現象は、マイクロビーム照射装置を用いて、培養皿を空打ちした場合は起こらないことから、被照射細胞が何らかのシグナルを出し、このシグナルが腫瘍細胞の遊走促進を誘発する現象であると考えた。一酸化窒素(NO)の蛍光プローブであるdiaminofluorescein-2 diacetate (DAF-2 DA)を用いてNOの細胞内分布をコンフォーカル顕微鏡にて細胞内のNOと反応したDAF-2Tの蛍光を捉えることで解析することにより、NOが遊走性亢進の細胞間シグナルとして働くばかりでなく、NOがAMPA型受容体GluR1サブユニットの細胞膜への移動を促進させ、細胞内カルシウムの上昇を来たし、細胞遊走を促進することを見出した。
【0017】
つまり、照射細胞からされたNOシグナルがGluR1の局在移動に重要であることが判明した(図1の概念図を参照)。GluR1の細胞外ドメインを認識する抗体で生染色すると、実際、NOにより、GluR1が細胞膜にtraffickingされる。さらにcrosslinker solutionであるBS3(bis[sulfosuccinimidyl]suberate, Pierce Biotechnology, Rockford,IL 61105 USA)を用いて細胞表面蛋白をクロスリンクさせたのち、1Mのグリシンにてクエンチングを行い、細胞表面の受容体と細胞質内受容体を分離して解析すると、照射によりGluR1受容体の細胞膜へのトラフィッキングが促進されることを見出した。
【0018】
この所見に応じて照射細胞をカルシウム測光にてAMPAとcyclothiazide(CTZ)に反応する細胞内カルシウム濃度を測定すると非照射細胞の2倍に亢進することを確認した。マイクロビーム装置を用いて厳密に単一細胞に放射線照射を行うと、NOの細胞間伝播を認めることを確認した後、さらにGluR1をRNA干渉させて、その発現を抑えた状態で、放射線照射を行うと、NOの細胞間伝播が消失することから、照射細胞の遊走亢進及び周囲非照射細胞の遊走亢進の背景にはNO-GluR1の双方向的なシグナルが存在することが示唆された。
【0019】
NO中和剤やNOS阻害剤およびAMPA受容体の拮抗薬を照射と組み合わせることで、NO産生が抑制され、GluR1の膜へのtraffickingは制御され、照射による遊走促進が停止する。この一酸化窒素の産生抑制活性および中和活性を有する化合物の照射との組み合わせによる特異な遊走阻害効果は、従来の知識、そして発明者自身のこれまでの発表知見からは全く予期、予見できなかったことである。
【0020】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、固形がんで解決しなければならない転移、浸潤、播種に対する、放射線増感剤、遊走阻害を兼ねるがん治療剤、がん転移予防剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0022】
第1:一酸化窒素(NO)および一酸化窒素合成酵素(NOS)の産生抑制活性を有する化合物を有効成分として含有することを特徴とする放射線がん治療用の放射線増感性遊走阻害剤。
【0023】
第2:前記化合物は、少なくともiNOSの産生抑制活性を有することを特徴とする上記第1の放射線がん治療用の放射線増感性遊走阻害剤。
【0024】
第3:前記化合物は、エブセレン
エダラボン(商品名ラジカット)
プラバスタチンNa(商品名メバロチン)
シンバスタチン(商品名リポバス)
フルバスタチンNa(商品名ローコール)
アトルバスタチンCa水和物(商品名リピトール)
ピタバスタチンCa(商品名リバロ)
から選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする上記第1または第2の放射線がん治療用の放射線増感性遊走阻害剤。
【0025】
第4:前記化合物は、1400W
[N-(3-Aminomethyl)benzylacetamidine, 2HCl]
1-Amino-2-hydroxyguanidine, p -Toluenesulfonate
Aminoguanidine, Hemisulfate
Angeli’s Salt (AS; Disodium Diazen-1-ium-1,2,2-triolate; Sodium α-Oxyhyponitrite; Sodium Trioxodinitrate)
Bromocriptine Mesylate (BCT; BRC; 2-Bromo-α-ergocryptine, Methanesulfonate)
NG,NG´-Dimethyl-L-arginine, Dihydrochloride (SDMA, 2HCl)
NG,NG-Dimethyl-L-arginine, Dihydrochloride (ADMA, 2HCl)
Diphenyleneiodonium Chloride (DPI)
2-Ethyl-2-thiopseudourea, Hydrobromide (S-Ethyl-ITU, HBr; S-Ethylisothiourea, HBr)
L-Thiocitrulline, Dihydrochloride (2-Thioureido-L-norvaline)
MEG, Hydrochloride (Mercaptoethylguanidine, HCl)
NG-Monomethyl-D-arginine, Monoacetate Salt (NG-Me-D-Arg, AcOH; Nω-Me-D-Arg; D-NMMA)
NG-Monomethyl-L-arginine(L-NMMA)
NG-Monomethyl-L-arginine, Monoacetate (Nω-Me-L-Arg; NG-Me-L-Arg, AcOH; L-NMMA)
L-NIL, Dihydrochloride [L-N6-(1-Iminoethyl)lysine, DiHCl]
7-Nitroindazole, Sodium Salt (7-NiNa)
7-Nitroindazole, 3-Bromo-, Sodium Salt (BrNINa)
{(4S)-N-(4-Amino-5[aminoethyl]aminopentyl)-N´-nitroguanidine, TFA}
L-N5-(1-Iminoethyl)ornithine, HCl
S-Methyl-L thiocitrulline, HCl
NG-Monomethyl-L-arginine Monoacetate Salt
NG-Nitro-L-arginine Methyl Ester, HCl
NG-Nitro-D-arginine Methyl Ester, HCl
7-Nitroindazole
L-Thiocitrulline, HCl
Nα-Tosyl-Phe Chloromethyl Ketone (TPCK)
1,3-PBITU, Dihydrobromide [S,S´-1,3-Phenylene-bis(1,2-ethanediyl)-bis -isothiourea, 2HBr]
NG-Propyl-L-arginine (N-PLA; Nω-Propyl-L-arginine)
PTIO (2-Phenyl-4,4,5,5-tetramethylimidazoline-1-oxyl-3-oxide)
SIN-1, Hydrochloride (3-Morpholinosydnonimine, HCl)
S-Methylisothiourea, Sulfate (2-Methyl-2-thiopseudourea, Sulfate; SMT)
L-NMMA
S-Methyl-L-thiocitrulline, Dihydrochloride [Nδ-(S-Methyl)isothioureido-L-ornithine]
Sodium Nitroprusside, Dihydrate [SNP; Sodium Nitroferricyanide(III) Dihydrate]
TRIM [1-(2-Trifluoromethylphenyl)imidazole]
Zinc (II) Protoporphyrin IX (ZnPP-9)
NG-Nitro-L-arginine (L-NNA; NG-NO2-L-Arg)
NG-Nitro-L-arginine Methyl Ester, Hydrochloride (L-NAME, HCl; Nω-NO2-L-Arg-OMe; NG-NO2-L-Arg-OMe)
LY 83583 (6-Anilino-5,8-quinolinequinone)
ODQ (1H-[1,2,4]Oxadiazolo[4,3-a]quinoxalin-1-one)
S-Methyl-ITU
S-Ethyl-ITU
S-Isopropyl-ITU
S-Aminoethyl-ITU
2-Iminopiperidine
DAHP
7-Nitroindazole
3-Bromo-7- Nitroindazole
APDC
から選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする上記第1または第2の放射線がん治療用の放射線増感性遊走阻害剤。
【0026】
第5:一酸化窒素(NO)および一酸化窒素合成酵素(NOS)の産生抑制活性を有する化合物を有効成分として含有することを特徴とするがん治療用の遊走阻害剤。
【0027】
第6:前記化合物は、少なくともiNOSの産生抑制活性を有することを特徴とする上記第5のがん治療用の遊走阻害剤。
【0028】
第7:前記化合物は、エブセレン
エダラボン(商品名ラジカット)
プラバスタチンNa(商品名メバロチン)
シンバスタチン(商品名リポバス)
フルバスタチンNa(商品名ローコール)
アトルバスタチンCa水和物(商品名リピトール)
ピタバスタチンCa(商品名リバロ)
から選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする上記第5または第6のがん治療用の遊走阻害剤。
【0029】
第8:前記化合物は、1400W
[N-(3-Aminomethyl)benzylacetamidine, 2HCl]
1-Amino-2-hydroxyguanidine, p -Toluenesulfonate
Aminoguanidine, Hemisulfate
Angeli’s Salt (AS; Disodium Diazen-1-ium-1,2,2-triolate; Sodium α-Oxyhyponitrite; Sodium Trioxodinitrate)
Bromocriptine Mesylate (BCT; BRC; 2-Bromo-α-ergocryptine, Methanesulfonate)
NG,NG´-Dimethyl-L-arginine, Dihydrochloride (SDMA, 2HCl)
NG,NG-Dimethyl-L-arginine, Dihydrochloride (ADMA, 2HCl)
Diphenyleneiodonium Chloride (DPI)
2-Ethyl-2-thiopseudourea, Hydrobromide (S-Ethyl-ITU, HBr; S-Ethylisothiourea, HBr)
L-Thiocitrulline, Dihydrochloride (2-Thioureido-L-norvaline)
MEG, Hydrochloride (Mercaptoethylguanidine, HCl)
NG-Monomethyl-D-arginine, Monoacetate Salt (NG-Me-D-Arg, AcOH; Nω-Me-D-Arg; D-NMMA)
NG-Monomethyl-L-arginine(L-NMMA)
NG-Monomethyl-L-arginine, Monoacetate (Nω-Me-L-Arg; NG-Me-L-Arg, AcOH; L-NMMA)
L-NIL, Dihydrochloride [L-N6-(1-Iminoethyl)lysine, DiHCl]
7-Nitroindazole, Sodium Salt (7-NiNa)
7-Nitroindazole, 3-Bromo-, Sodium Salt (BrNINa)
{(4S)-N-(4-Amino-5[aminoethyl]aminopentyl)-N´-nitroguanidine, TFA}
L-N5-(1-Iminoethyl)ornithine, HCl
S-Methyl-L thiocitrulline, HCl
NG-Monomethyl-L-arginine Monoacetate Salt
NG-Nitro-L-arginine Methyl Ester, HCl
NG-Nitro-D-arginine Methyl Ester, HCl
7-Nitroindazole
L-Thiocitrulline, HCl
Nα-Tosyl-Phe Chloromethyl Ketone (TPCK)
1,3-PBITU, Dihydrobromide [S,S´-1,3-Phenylene-bis(1,2-ethanediyl)-bis -isothiourea, 2HBr]
NG-Propyl-L-arginine (N-PLA; Nω-Propyl-L-arginine)
PTIO (2-Phenyl-4,4,5,5-tetramethylimidazoline-1-oxyl-3-oxide)
SIN-1, Hydrochloride (3-Morpholinosydnonimine, HCl)
S-Methylisothiourea, Sulfate (2-Methyl-2-thiopseudourea, Sulfate; SMT)
L-NMMA
S-Methyl-L-thiocitrulline, Dihydrochloride [Nδ-(S-Methyl)isothioureido-L-ornithine]
Sodium Nitroprusside, Dihydrate [SNP; Sodium Nitroferricyanide(III) Dihydrate]
TRIM [1-(2-Trifluoromethylphenyl)imidazole]
Zinc (II) Protoporphyrin IX (ZnPP-9)
NG-Nitro-L-arginine (L-NNA; NG-NO2-L-Arg)
NG-Nitro-L-arginine Methyl Ester, Hydrochloride (L-NAME, HCl; Nω-NO2-L-Arg-OMe; NG-NO2-L-Arg-OMe)
LY 83583 (6-Anilino-5,8-quinolinequinone)
ODQ (1H-[1,2,4]Oxadiazolo[4,3-a]quinoxalin-1-one)
S-Methyl-ITU
S-Ethyl-ITU
S-Isopropyl-ITU
S-Aminoethyl-ITU
2-Iminopiperidine
DAHP
7-Nitroindazole
3-Bromo-7- Nitroindazole
APDC
から選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする上記第5または第6のがん治療用の遊走阻害剤。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、重粒子線をはじめとする放射線の照射によるがん治療において、放射線照射にともなう腫瘍細胞の遊走性の亢進を抑制、阻害することのできる、放射線増感性の遊走阻害剤が提供され、さらには、薬剤等によるがん治療一般においても腫瘍細胞の遊走性の亢進を抑制、阻害することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】臨床検体を用いた実験から得られた一酸化窒素を介する放射線誘発浸潤性増殖の亢進の分子機構の概念図を示した図である。照射による腫瘍細胞の遊走亢進はAktとiNOS(NOS2)の関与によりNOの発現が惹起され、蓄積されたNOがGluR1サブユニットの細胞膜への移動を促進させ、その結果生じる細胞内カルシウムの上昇の亢進による。
【図2】臨床検体を用いた遊走能評価の結果を示した図である。分散培養(凝集化培養)を用いたX-線および粒子線照射の細胞遊走に関する実験結果から、照射されていない細胞も凝集塊より高速で放射状に走行することより、照射細胞が非照射細胞に細胞遊走亢進の信号を出している可能性が示唆された。非構造体ガスであるNitric Oxide (NO)に着目し、凝集塊に高線量照射10Gyを行い、NO検出薬であるDiaminofluorescein-2 Diacetate(DAF-2 DA)とMitotrackerによる染色を照射後4時間、8時間、15時間、24時間、30時間、35時間で試行した(n=3)。またタイムラプス顕微鏡にて照射直後より35時間まで遊走速度を解析した。実験結果はX線および粒子線照射細胞とも同様の結果を示した。つまり、照射4時間で凝集塊周囲の遊走細胞がNO陽性となり、8-15時間後より、腫瘍塊の辺縁の細胞が陽性となり、さらに15-24時間後より腫瘍塊が強く陽性となり、高いNO陽性像は35時間後まで続いた。NO中和剤である2-(4-carboxyphenyl)-4,4,5,5-tetramethylimidazoline-1-oxyl 3-oxide (cPTIO),20-100μM投与にて、DAF-2 DA付加による染色性は抑制され、同時に照射による細胞遊走亢進は停止し、遊走速度は非照射細胞レベルに低下した。図は炭素線照射10Gy, 15h後のDAF-2T(緑)とMitotracker(赤)にてlive staining後に4%パラフォルムアルデヒドで固定しコンフォーカル顕微鏡で観察した。凝集塊周囲に遊走する紡錘型細胞がDAF-2T陽性(緑)で、NO中和剤cPTIO投与群ではDAF-2T陽性(緑)遊走細胞が著明に減少している。X線10Gy照射, 35h後のDAF-2T(緑)、Mitotracker(赤)およびDAPI(青)染色像では、凝集塊から遊走する紡錘型細胞が棘状にemergeするのとは対照的にNO中和剤cPTIO投与群では凝集塊から出現する遊走細胞を認めない。Bar; 100μm。
【図3】臨床検体を用いたNO中和剤(20 μM cPTIO)による遊走抑制(分散培養)の結果を示した図である。移植片培養に10GyのX線照射を行い同時にNO中和剤(20 μM cPTIOをメディウム中に付加すると遊走速度は非照射群レベルに低下した。同図は照射直後より12時間までの1時間ごとのタイムラプス画像である。NO中和剤を処理した腫瘍細胞の遊走速度は8.5 ± 3.2 μm/h for 12h, 12.5 ± 4.2 μm/h for the next 24h (n=3)、NO中和剤を処理をしない群では21.5 ± 5.7 μm/h during the first 12 h (n=6), 23.5 ± 4.7 μm/h for the next 24h (n=3). *p<0.05, Bar; 100μm。【図5】臨床検体を用いた遊走能評価の結果を示した図である。照射によるNOの産生がAkt1をRNA干渉することにより抑制されることを示している。10Gy X-線を照射しクローニングリング内に細胞を播き培養6時間後に非照射コントロール、10GyX線照射し、cPTIO, 20μM、GYKI52466 100μM照射直前1hのみ投与およびAkt1 siRNA をtransfectionしRNA干渉し、さらに12時間培養後にリングをはずし(白色がリングの境界)、さらに24時間培養後にDAF-2DAを投与し(NO発現細胞はDAF-2Tに変わり緑色となる)、固定後、DAPIで核染色(青)した。10GyX線照射群ではNO産生の上昇と共に遊走細胞の増加およびAkt Ser 473のリン酸化が促進されている。cPTIO, GYKI52466,Akt1のRNA干渉群ではNO産生の低下、遊走抑制、及びAkt Ser473の脱リン酸化が認められた。Bar; 100μm.
【図6】臨床検体を用いた照射による細胞内カルシウム濃度の評価を示した図である。Fluo 3-AMを細胞にロードし488 nmで励起し照射細胞と非照射細胞に200 μM AMPA と100 μM CTZを投与しAMPAによって誘発される細胞内カルシウム濃度([Ca2+]i)を測定した。照射により[Ca2+]iは変化し約2倍に上昇した。
【図7】臨床検体を用いた照射によるGluR1の細胞膜への移動がcGMP依存性に誘導されることを示した図である。GluR1のN-terminalを認識する抗体を用いて間接蛍光染色を施行した。細胞は表面のみ4%PFAで1分間固定した。細胞の各種薬剤を投与した。括弧内に投与濃度と暴露時間を記載。NOC-18 (1mM, 24h), NOC18(1mM, 24h)+cPTIO (100 μM, 24h), NOC18(1mM, 24h) + cPTIO (100μM,24h) + 8Br-cGMP (500μM,24h), 8Br-cGMP (500μM,2h), 8Br-cGMP (500μM,2h) + cPTIO (100μM,2h), 8Br-cGMP (500μM,2h) + KT5823 (10μM,2h), RT10Gy, RT10Gy + KT5823 (10μM, 24h), RT10Gy + cPTIO (100 μM, 24h), and RT10Gy + cPTIO (100 μM, 24h) + 8Br-cGMP (500μM,24h)。 GluR1 のsuface expressionを定量化した(mean ± SEM; n=4.)。
【図8】臨床検体を用いて照射により細胞膜した移動GluR1の局在とcGKIIが共発現していることを示した図である。GluR1 surface expressionとcGKII染色像。上段;X線10Gy 照射細胞。下段;非照射細胞。
【図9】臨床検体を用いて照射により細胞膜GluR1の局在が増加するのをcrosslinking assayを用いて示した図である。10Gy X線照射および非照射細胞を用いたGluR1 crosslinking assay 。放射線により膜表面の受容体は2倍に増える。非照射細胞では細胞質成分と膜成分が半々であるが、照射細胞では受容体全体の3/4が膜成分であることが判明した。*p<0.01【図12】照射治療を施行した患者の手術摘出標本を用いて浸潤性増殖最先端部位でのGluR1,iNOS,cGKIIの蛋白発現を免疫組織学的に示した図である。図中aは、照射後の浸潤最先端部の定型的な病理学的所見を示し、照射後の摘出組織の代表的所見を示す。Massive necrosis (N)とhyalinized microvascular proliferations (V)を認める。小型円形細胞 (赤矢印)、と紡錘形(青矢印) が周囲脳組織に浸潤している。 H.E. 染色像。図中bは、浸潤最先端部の小型円形細胞と紡錘形細胞の免疫組織学的所見を示す。浸潤最先端部(左図、白枠)をvimentin (VIM)とGluR1で2重染色を施行(右図上段)、左図の黒枠部分をiNOSとcGKIIで2重染色を施行(右図下段)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について詳細に説明する。

【0033】
12C、20Ne、40Arイオンビーム等の高線エネルギー付与(LET)荷電粒子線は、低LET X線と比べて相対的に高い生物学的活性を持つ。従ってグリア芽腫細胞などの最も未分化であり侵襲的であるヒト癌は従来のX線療法に通常は抵抗性を有することから、それらの癌の治療に対して高LET放射線療法という新手法が有望である。さらに高LET荷電粒子線はBraggピークが鋭いために空間分布が一層正確になり、定位がよく定まることから、周辺の生体構造に及ぼす有害作用を最小限にしながら病変部の治療を行うことが可能となる。

【0034】
12Cイオンビーム、20Neイオンビーム、40Arイオンビームなどの高線エネルギー付与(LET)荷電粒子線は、X線抵抗性癌の治療に用いる新しい療法となる可能性を有しているが、本発明では、腫瘍の放射線反応性が、腫瘍細胞増殖と転移の両者に対する放射線感受性により決定されることが確認されている。高LET放射線はヒトグリア芽腫細胞株であるCGNH-89に対して顕著な細胞毒性作用を示す。12C、20Neならびに40ArイオンビームのX線に対する相対的な生物学的作用を、D10、すなわちクローン化可能細胞の10%生存率を示す線量としてそれぞれ計算したところ、3.4、4.5ならびに6.2Gyになった。高LETならびに低LET放射線の単回大量10Gy線量により腫瘍細胞の転移が促進される。

【0035】
本発明において有効成分として用いられる、一酸化窒素(NO)および一酸化窒素合成酵素(NOS)の産生抑制活性を有する化合物(以下、NO,NOS阻害剤)の具体例としては、
エブセレン
エダラボン(商品名ラジカット)
プラバスタチンNa(商品名メバロチン)
シンバスタチン(商品名リポバス)
フルバスタチンNa(商品名ローコール)
アトルバスタチンCa水和物(商品名リピトール)
ピタバスタチンCa(商品名リバロ)
等が挙げられる。これらの物質は、公知文献に記載された合成方法を参照し、あるいは通常の合成法を用いることにより製造することができ、また、これらの物質の製造、販売、開発会社等から入手することもできる。

【0036】
また、選択的NO,NOS阻害剤として以下のものを挙げることができる。
1400W
[N-(3-Aminomethyl)benzylacetamidine, 2HCl]
1-Amino-2-hydroxyguanidine, p -Toluenesulfonate
Aminoguanidine, Hemisulfate
Angeli’s Salt (AS; Disodium Diazen-1-ium-1,2,2-triolate; Sodium α-Oxyhyponitrite; Sodium Trioxodinitrate)
Bromocriptine Mesylate (BCT; BRC; 2-Bromo-α-ergocryptine, Methanesulfonate)
NG,NG´-Dimethyl-L-arginine, Dihydrochloride (SDMA, 2HCl)
NG,NG-Dimethyl-L-arginine, Dihydrochloride (ADMA, 2HCl)
Diphenyleneiodonium Chloride (DPI)
2-Ethyl-2-thiopseudourea, Hydrobromide (S-Ethyl-ITU, HBr; S-Ethylisothiourea, HBr)
L-Thiocitrulline, Dihydrochloride (2-Thioureido-L-norvaline)
MEG, Hydrochloride (Mercaptoethylguanidine, HCl)
NG-Monomethyl-D-arginine, Monoacetate Salt (NG-Me-D-Arg, AcOH; Nω-Me-D-Arg; D-NMMA)
NG-Monomethyl-L-arginine(L-NMMA)
NG-Monomethyl-L-arginine, Monoacetate (Nω-Me-L-Arg; NG-Me-L-Arg, AcOH; L-NMMA)
L-NIL, Dihydrochloride [L-N6-(1-Iminoethyl)lysine, DiHCl]
7-Nitroindazole, Sodium Salt (7-NiNa)
7-Nitroindazole, 3-Bromo-, Sodium Salt (BrNINa)
{(4S)-N-(4-Amino-5[aminoethyl]aminopentyl)-N´-nitroguanidine, TFA}
L-N5-(1-Iminoethyl)ornithine, HCl
S-Methyl-L thiocitrulline, HCl
NG-Monomethyl-L-arginine Monoacetate Salt
NG-Nitro-L-arginine Methyl Ester, HCl
NG-Nitro-D-arginine Methyl Ester, HCl
7-Nitroindazole
L-Thiocitrulline, HCl
Nα-Tosyl-Phe Chloromethyl Ketone (TPCK)
1,3-PBITU, Dihydrobromide [S,S´-1,3-Phenylene-bis(1,2-ethanediyl)-bis -isothiourea, 2HBr]
NG-Propyl-L-arginine (N-PLA; Nω-Propyl-L-arginine)
PTIO (2-Phenyl-4,4,5,5-tetramethylimidazoline-1-oxyl-3-oxide)
SIN-1, Hydrochloride (3-Morpholinosydnonimine, HCl)
S-Methylisothiourea, Sulfate (2-Methyl-2-thiopseudourea, Sulfate; SMT)
L-NMMA
S-Methyl-L-thiocitrulline, Dihydrochloride [Nδ-(S-Methyl)isothioureido-L-ornithine]
Sodium Nitroprusside, Dihydrate [SNP; Sodium Nitroferricyanide(III) Dihydrate]
TRIM [1-(2-Trifluoromethylphenyl)imidazole]
Zinc (II) Protoporphyrin IX (ZnPP-9)
NG-Nitro-L-arginine (L-NNA; NG-NO2-L-Arg)
NG-Nitro-L-arginine Methyl Ester, Hydrochloride (L-NAME, HCl; Nω-NO2-L-Arg-OMe; NG-NO2-L-Arg-OMe)
LY 83583 (6-Anilino-5,8-quinolinequinone)
ODQ (1H-[1,2,4]Oxadiazolo[4,3-a]quinoxalin-1-one)
S-Methyl-ITU
S-Ethyl-ITU
S-Isopropyl-ITU
S-Aminoethyl-ITU
2-Iminopiperidine
DAHP
7-Nitroindazole
3-Bromo-7- Nitroindazole
APDC
これらの物質に対する1時間曝露後に放射線に曝露した細胞では、細胞増殖と細胞運動の阻害が顕著に促進されることが示された。これらの結果から、新しい放射線療法は細胞移動阻害剤の投与と組み合わせるべきであることが確認されている。

【0037】
本発明においては、以上のような放射線がん治療用の放射線増感性遊走阻害剤が提供されるとともに、薬剤等による他のがん治療用の遊走阻害剤も提供される。

【0038】
本発明に係る遊走阻害剤の製剤は、通常製剤化に用いられる担体や賦形剤、その他の添加剤を用いて調製される。製剤用の担体や賦形剤としては、固体または液体のいずれであってもよく、たとえば、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、スターチ、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、オリーブ油、ゴマ油、カカオバター、エチレングリコール、その他常用のものが挙げられる。

【0039】
投与は、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤などによる経口投与、あるいは静注、筋注などの注射剤、坐剤、経皮などによる非経口投与のいずれの形態であってもよい。

【0040】
放射線がん治療においては、たとえば、NO,NOS阻害剤の使用方法は分割照射の場合は連日照射直前に内服または注射を行い、単回照射の場合は照射直前および照射後も最低2週間は連日投与することが好ましい。特に重粒子線照射を病巣部に限局して照射する場合は激しく腫瘍細胞が遊走することを考慮し十分な照射前後のNO,NOS阻害剤の投与が必要である。

【0041】
また、X線と重粒子線照射を併用する場合は、従来技術により安全な線量が開示されているX線をNO,NOS阻害剤と併用して腫瘍塊中心部と浸潤領域を含む範囲に比較的広く分割照射したのち、重粒子線照射はX線照射後に腫瘍塊中心部に限局してやはりNO,NOS阻害剤と併用して照射を行い、照射後も2週間以上投与するのが効果的である。

【0042】
高線量の重粒子線は脳壊死を引き起こし、また低線量でも広範囲に重粒子線照射を行うと顕著な脳萎縮、水頭症の発現など重篤な副作用が出現する可能性があるため、安全性が確立されているX線照射をまず広範囲に行った後に、腫瘍塊限局重粒子線照射を行うのが安全性が高く効果的な治療法であると考えられる。

【0043】
この際NO,NOS阻害剤との併用が必要で、照射単独では従来技術の成果しか望めず、したがって照射野内における局所再発や髄空内播種、および浸潤性増殖が起こり得る。NO,NOS阻害剤を併用することで照射による浸潤性増殖の抑止抗効果が期待できる。

【0044】
サイバーナイフなど比較的高線量・分割照射可能な装置を用いてNO,NOS阻害剤の併用を行うとさらに治療効果が上がる。具体的には、サイバーナイフ装置にて1回線量5Gyで6~8分割にて照射しNO,NOS阻害剤と併用して行い、さらに照射後も2週間NO,NOS阻害剤を投与する。また、比較的病変が広範で浸潤領域が広い場合には、通常のX線照射を浸潤部位を含む領域に広範囲に40Gy(2Gy/日×20回)照射し、その後サイバーナイフ装置を用いて腫瘍塊に限局して20Gy(5Gy/回×4)照射を行う。この際も、照射単独では照射による腫瘍細胞の遊走と浸潤性の亢進を引き起こすので、照射直前より照射後2週間は連日NO,NOS阻害剤を併用するのがよい。

【0045】
臨床的には薬剤の副作用を軽減するためには、分割照射開始から初期10日間に限り薬剤を施行するのも良い。現行の標準治療であるtemozolomide (テモダール(R))、インターフェロン(フェロン(R))、さらにはAMPA型受容体拮抗薬(タランパネル(R))などの遊走阻害剤と併用するのも効果的である。

【0046】
本発明の遊走阻害剤の投与量は、症状、投与対象の年齢、性別などを考慮して、個々の場合に応じて適宜に決定されるが、通常成人1日当たり10~2000mg、好ましくは1日当たり150mg程度である。成人1日当たり10~2000mgを、1回で、あるいは2~4回に分けて投与してもよい。静脈内投与や、持続的静脈内投与の場合には、1日当たり1~24時間で投与してもよい。投与量は、有効成分の種類や遊走阻害剤の形態などに応じて決められるが、有効である場合には上記の範囲よりも少ない投与量を用いることもできる。

【0047】
本発明の遊走阻害剤は、主に非経口投与、具体的には、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮投与、髄腔内投与、硬膜外、関節内、および局所投与、あるいは可能であれば経口投与など、種々の投与形態で投与可能である。

【0048】
非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性または非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤などが挙げられる。水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えば注射用蒸留水および生理食塩水などが挙げられる。非水溶性の溶液剤、懸濁剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類、ポリソルベート80(商品名)などが挙げられる。

【0049】
非経口投与のための組成物はさらに、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤(例えば、ラクトース)、溶解補助剤(例えば、メグルミン酸)などの補助剤を含んでいてもよい。これらは、たとえばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合、または光照射によって無菌化される。また、非経口投与のための組成物は、無菌の固体組成物を製造しておき使用前に無菌水または無菌の注射用溶媒に溶解して調製することもできる。

【0050】
本発明の遊走阻害剤を経口投与のための固体組成物とする場合、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤などの形態とすることができる。このような固体組成物は、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸、アルミン酸マグネシウムなどの不活性な希釈剤を、有効成分としての活性物質と混合して調製することができる。

【0051】
固体組成物には、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えばステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤、繊維素グリコール酸カルシウム等の崩壊剤、ラクトース等の安定化剤、グルタミン酸およびアスパラギン酸等の溶解補助剤などを配合することができる。錠剤や丸剤には、必要に応じて、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等の糖衣、あるいは、胃溶性または腸溶性物質のフィルムを被膜してもよい。

【0052】
本発明の遊走阻害剤を経口投与のための液体組成物とする場合、薬理上許容される乳濁剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水、エタノールを含む。この組成物は不活性な希釈剤以外に湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有してもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
以下の実施例においては次の手段が採用されている。
1)外科標本と細胞培養
本実施例で調べた外科標本は、世界保健機関の分類に従って組織学的に多形性グリア芽腫細胞であることが同定された。細胞培養は既報に従い調製した。CGNH-89の亜系統であるCGNH-PMも使用した。細胞培養は10%ウシ胎児血清と2mMグルタミンを添加したイーグル最少必須培地(Life Technologies, Rockville, MD)中で行った。
2)X線照射
細胞に対する放射線照射は、140kV、4.5mAで運転するMBR-1505R X線装置(日立製)に0.5mm Al濾過を用い、焦点源距離30cm、1.11Gy/分の条件で既報(Akimoto, T. et al. Int. J. Radiat. Oncol. Bial. Phys. 50, 195-201(2001))に従って実施した。
3)炭素線照射
炭素線照射は日本原子力研究開発機構 高崎量子応用研究所 AVFサイクロトロンより作られた12C イオン線(220 MeV),LET;linear energy transfer, 108KeV/μm broad beamを用いて照射した。照射中は培養上清を抜き腫瘍細胞は、このための乾燥を防ぐために8μmの厚さのポリイミド・フィルム(Kapton; DuPont-Toray Co., Ltd.)を被せた。
4)免疫蛍光法
間接蛍光抗体染色は既報に従い実施した(Huang, X. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 1065-1070(2005))。二重免疫蛍光法には、フルオレセインイソチオシアネートならびにローダミン結合二次抗体(Molecular Probes, Inc.)を用いて結合抗体を可視化した。染色細胞はレーザー走査共焦点顕微鏡(Pascal LSM5; Carl Zeiss)を用いて検査した。デオキシリボ核酸対比染色はDAPIを用いて実施した。用いた一次抗体はPhospho-Akt (Ser-473;Cell Signaling Technology), vimentin (V9; Dako), GluR1(C-terminal) (Chemicon), GluR1(N-terminal)(Carbiochem), GluR1(S845phosphorylated)(Upstate), cGKII (Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA), iNOS (BD Transduction Laboratories), GFAP(DAKO)である。
5)遊走アッセイ
遊走アッセイでは、一端をシリコングリスでコーティングしたガラス製クローニングシリンダ(直径7mm)を培養皿の中央に配置した。このシリンダ内に5×104個の細胞を蒔いた。このプレーティング後24時間の時点で、細胞に放射線照射を行い、このクローニング環を除去した。細胞をさらに48時間にわたり培養した。続いてこのクローニング環の境界を越えた細胞数を計数した。
6)NO産生細胞の同定および標識
NO産生細胞の同定および標識はdiaminofluorescein-2 diacetate (DAF-2 DA、10μMで使用、第一化学薬品株式会社)を用いて行った(Nakatsubo, Kojima FFBS Letters 427,273-266,1998)。NO産生細胞の分布はNO存在下でDAF-2より変換したDAF-2T fluorescenceを共焦点顕微鏡(Pascal LSM5; Carl Zeiss)で可視化することで捉えた。
7)Surface GluR1 cross linking.
回収した細胞はice-cold PBSで冷却し2 mM BS3 (Pierce, Rockford, IL)で30 min at 4℃で攪拌。半分にはBS3を入れice-cold PBSのみで攪拌した。100 mM glycine (10 min, 4°C)でクエンチングしCross-linkingを終了する。ペレットはlysis buffers [25 mM HEPES, pH 7.4, 500 mM NaCl, 2 mM EDTA, 1 mM DTT, 1 mM phenylmethyl sulfonyl fluoride, 20 mM NaF, 1 mM sodium orthovanadate, 10 mM sodium pyrophosphate, 1 mM microcystin-LF, 1 μM okadaic acid, 1 μL protease inhibitor mixture (Calbiochem, La Jolla, CA), and 0.1% Nonidet P-40 (v/v)]でサスペンドした後5秒間回転しホモジェナイズした後Lowry 法 (Lowry et al., 1951)にてたんぱく定量した。
8)データ分析
データは平均±標準誤差で示している。統計比較は対応のないt検定、または一元配置分散分析(事後分析のためにはSchaffeの試験)を用いて実施した。
<実施例1>
臨床検体を用いた遊走実験から一酸化窒素を介する放射線誘発浸潤性増殖の亢進の分子機構を解析した。
【0055】
図2の遊走能評価試験では、X線および炭素線照射により、遊走する細胞が照射直後よりNOの発現を呈することを確認し、このNOはその後、非照射細胞に伝播することを見出した。また図3に示すようにNO中和剤(C-PTIO)により、細胞の走行性が低下するとを見出した。
【0056】
図4に示すようにNOの合成阻害剤L-NAMEも細胞の走行性を低下させること、またNOS1(nNOS), NOS2(iNOS), NOS3(eNOS)を選択的にRNA干渉するとNOS2のみでNOの発現が低下し遊走抑制が生じることから腫瘍細胞に発現するNOS2(iNOS)の阻害がNO産生の抑止に重要であることを確認した。
【0057】
NOSに対するRNA干渉実験はInvitrogen社より購入したNOS1、NOS2、NOS3に対するRNAiプローブを用いてtransfectionした。RNA干渉実験に用いたprobeの配列は次のとおりである。
【0058】
【表1】
JP0005435461B2_000002t.gif

【0059】
Fluorescent Oligo(Invitrogen社)を導入マーカーとしてプローブと一緒に共transfectionした。
【0060】
本発明者はカルシウム透過性AMPA受容体を介するカルシウムの細胞内流入によりAktのSer473のリン酸化が惹起されこれにより細胞遊走の亢進が起きることを報告している(J Neuroscience27:7987-8001,2007)。実際照射下腫瘍塊の遊走最先端でAktのSer473のリン酸化が起こることは、特許文献3に示した。図5では腫瘍細胞をあらかじめRNA干渉し、Aktをknock outすると細胞遊走が阻害されるばかりではなく、NO産生も低下することからAktはNOの基質となっていると考えられた。照射によって促進される細胞遊走の分子機構の背景にはNO-AMPA receptor-Akt signalingが関与していることが判明した。AktのRNA 干渉実験ではInvitrogen社より購入したAkt1に対するRNAiプローブを用いてtransfectionした。用いたprobeの配列は次のとおりである。
【0061】
【表2】
JP0005435461B2_000003t.gif

【0062】
Fluorescent Oligo(Invitrogen社)を導入マーカーとしてプローブと一緒に共transfectionした。
【0063】
図6で示すように、Fluo-3を用いたカルシウム測光の実験から、遊走亢進している紡錘型細胞ではAMPA+CTZ刺激による細胞内カルシウムの上昇が非照射細胞と比較して約二倍に上昇していることを確認した。
【0064】
以上より放射線がNOS2を介してNO産生を促進し、腫瘍細胞に発現しているカルシウム透過性AMPA型受容体を介し細胞内カルシウムの上昇を倍加し、Aktのセリン473のリン酸化を促進することで遊走亢進が惹起されることが判明した。またAktはNOの基質となることも判明した。これ等より、図1の概念図を創作した。
<実施例2>
GluR1サブユニットの細胞膜への移動機序の分子機構について解析した。
【0065】
図7では、GluR1の細胞外ドメインN-末端を認識する抗体を用いて、細胞を生染色することで細胞表面の受容体を同定し、その表現量を解析したものである。放射線処理同様にNO donorであるNOC-18や8-Br-cGMP処理群ではGluR1の細胞膜で発現が倍加した。NOC-18にNO中和剤C-PTIOを同時に投与した群、8-Br-cGMPにcGMP dependent kinase II (cGKII)の選択的阻害剤KT5823を投与した群では発現量での増加を認めなかった。照射してもKT5823を併用すると発現の増加は抑制され、8Br-cGMPにcPTIOを同時投与しても発現が倍加し、照射にC-PTIOを同時に投与しても8Br-cGMPを同時併用すると発現が倍加することより、GluR1サブユニットの細胞膜への移動にcGKIIの介在が必須であることが示唆された。
【0066】
図8では、N-末を認識するGluR1抗体とcGKII抗体の2重染色像であるが、非照射、放射群ともsurface GluR1に一致しcGKIIの局在を認めた。
【0067】
以上よりGluR1サブユニットの細胞膜への移動にcGKIIが介在することが判明した。
<実施例3>
Crosslinking assay法によるGluR1の細胞膜成分と細胞質内成分の解析
図9に示すように放射線により膜表面の受容体は非照射細胞に比較して2倍に増加する。GluR1の細胞膜成分と細胞質内成分の比率も、非照射細胞では細胞質成分と膜成分が半々であるが、照射細胞では受容体全体の3/4が膜成分1/4が細胞質成分であることが判明した。このようにNOが腫瘍細胞内のカルシウム透過性AMPA型受容体の再配分に関与していることが判明した。
<実施例4>
照射によるGluR1のSer845のリン酸化の誘導
図10は照射によりGluR1のSer845のリン酸化が惹起され、このリン酸化はGluR1の細胞膜への移動を促進する。X線及び炭素線とも非照射対照に比較して約1.5倍GluR1のリン酸化を促進させる。NO中和剤、cPTIOはリン酸化の促進を抑制するのでGluR1のSer845のリン酸化におけるNOの重要性を見出している。
<実施例5>
NO-GluR1シグナリングの重要性について
図11は照射による腫瘍細胞の遊走性の亢進に、NOシグナルのバイスタンダー効果を見出し、このシグナルの非照射細胞への伝播にGluR1が重要であることを示している。
<実施例6>
放射線治療を施行した直後(1ヶ月以内)の臨床検体を用いたiNOS-NO-cGKII-GluR1シグナリングの同定。
【0068】
手術摘出11例の臨床検体を用いて、iNOS、cGKII、GluR1の蛋白発現を免疫組織学的に解析した。対照は非照射摘出組織14検体とした。
照射組織に特徴的な所見を抽出すると、
1) 広範な壊死組織。血管の閉塞をともなうischemic necrosis
2) 腫瘍血管の硝子化、閉塞
3) 広範巣周囲の円形の小型細胞または紡錘型細胞の浸潤性増殖と新生血管の存在
4) 少数の核破砕象、奇怪な多角巨細胞の出現
などの神経病理学的所見を呈する。
【0069】
図11に示すように、照射組織の浸潤性増殖最先端部位で顕著なiNOS、cGKII、GluR1の蛋白発現を認めた。非照射組織のいわゆるnecrosis pseudopalisading部位にはこのような所見は認めなかった。
【0070】
以上実施例1~6によりiNOS-NO-cGKII-GluR1シグナリングを同定し、臨床検体での裏付けを確認できた。図1の概念図に示すように、放射線療法を用いる際には、NOおよびNOSを介する遊走性亢進のシグナルを遮断することが重要で、ここにNO,NOS阻害剤の併用の有用性を証明できた。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
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【図10】
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【図11】
10
【図12】
11