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明細書 :非特発性間質性肺炎の治療薬のスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5632994号 (P5632994)
公開番号 特開2010-145294 (P2010-145294A)
登録日 平成26年10月24日(2014.10.24)
発行日 平成26年12月3日(2014.12.3)
公開日 平成22年7月1日(2010.7.1)
発明の名称または考案の名称 非特発性間質性肺炎の治療薬のスクリーニング方法
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
FI G01N 33/53 D
G01N 33/53 ZNAM
C12Q 1/68 A
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
請求項の数または発明の数 12
全頁数 16
出願番号 特願2008-324484 (P2008-324484)
出願日 平成20年12月19日(2008.12.19)
審査請求日 平成23年11月30日(2011.11.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
【識別番号】599045903
【氏名又は名称】学校法人 久留米大学
【識別番号】508374520
【氏名又は名称】学校法人獨協学園獨協医科大学
発明者または考案者 【氏名】出原 賢治
【氏名】白石 裕士
【氏名】鈴木 章一
【氏名】内田 賢
【氏名】太田 昭一郎
【氏名】相澤 久道
【氏名】星野 友昭
【氏名】岡元 昌樹
【氏名】福田 健
【氏名】石井 芳樹
【氏名】相良 博典
【氏名】福島 泰次
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100095360、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 英二
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100149010、【弁理士】、【氏名又は名称】星川 亮
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】海野 佳子
参考文献・文献 国際公開第2002/052006(WO,A1)
特開2005-030852(JP,A)
特表2005-500059(JP,A)
太田昭一郎ほか,特発性間質性肺炎における細胞外マトリクス分子periostin発現解析の意義 ,臨床病理 ,2008年10月31日,Vol.56 補冊 ,P.151
調査した分野 G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)

特許請求の範囲 【請求項1】
薬剤投与を受けた患者、放射線照射を受けた患者、膠原病患者又は感染症患者由来の被
検試料におけるペリオスチンタンパク質の発現レベルを測定する工程を含む、非特発性間
質性肺炎の検出方法。
【請求項2】
(i) 薬剤投与を受けた患者、放射線照射を受けた患者、膠原病患者又は感染症患者由来
の被検試料におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルと、(i
i)正常試料におけるペリオスチンタンパク質の発現レベルとを比較する工程を含む、請求
項1に記載の方法。
【請求項3】
(i) 薬剤投与を受けた患者、放射線照射を受けた患者、膠原病患者又は感染症患者由来
の被検試料におけるペリオスチンタンパク質の発現レベルが、(ii)正常試料におけるペリ
オスチンタンパク質の発現レベルよりも高いときに、前記患者は非特発性間質性肺炎であ
る、又は非特発性間質性肺炎が疑われることを示す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
非特発性間質性肺炎が、薬剤性間質性肺炎及び放射線照射に基づく間質性肺炎からなる
群から選択される少なくとも1つである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
被検試料が肺組織及び/又は血液である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
測定が免疫測定法によるものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ペリオスチンを産生する能力を有する細胞又は組織を薬物処理するとともに候補物質と
接触させた場合におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルを
測定する工程を含む、非特発性間質性肺炎の予防又は治療薬の候補薬のスクリーニング方
法。
【請求項8】
(i) ペリオスチンを産生する能力を有する細胞又は組織を薬物処理するとともに候補物
質と接触させた場合におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベ
ルと、(ii) ペリオスチンを産生する能力を有する細胞又は組織を薬物処理するが候補物
質と接触させない場合におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レ
ベルとを比較する工程を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(i)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞又は組織を薬物処理するとともに候補物
質と接触させた場合におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベ
ルが、(ii)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞又は組織を薬物処理するが候補物質
と接触させない場合におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベ
ルよりも低いときに、候補物質を非特発性間質性肺炎の予防又は治療薬の候補薬として選
択する工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
非特発性間質性肺炎が、薬剤性間質性肺炎、放射線照射に基づく間質性肺炎、膠原病に
基づく間質性肺炎及び感染症に基づく間質性肺炎からなる群から選択される少なくとも1
つである、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
測定が免疫測定法によるものである、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ペリオスチンに対する抗体、又は配列番号1、3若しくは5に示される塩基配列から設
計されたペリオスチン遺伝子検出用プローブ若しくは増幅用プライマーセットを含む、請
求項1~6のいずれか1項に記載の検出用又は請求項7~11のいずれか1項に記載のス
クリーニング方法用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、非特発性間質性肺炎の検出方法及び非特発性間質性肺炎の治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間質性肺炎は線維化を特徴とする肺疾患であり、組織学的にはコラーゲンなどのマトリックスタンパク質の沈着とそれに伴う肺胞構造の破壊を特徴とする。薬剤により誘導される薬剤性肺障害と原因不明な特発性間質性肺炎がその代表である。薬剤性肺障害に対する治療は、原因薬剤の除去が第一義となっており、また、特発性間質性肺炎の治療薬として、ピルフェニドンが実用化されつつある。しかし、これ以外の治療薬が存在しないため、間質性肺炎を治療することが困難である。間質性肺炎は進行すると肺組織におけるガス交換を障害し、最終的には死に至る場合も多い。このため、間質性肺炎における線維化に関連する分子を標的として治療薬を開発することができれば、患者にとって有用となる。
【0003】
他方、本発明者らは、ペリオスチン(骨芽細胞特異因子2)が気管支喘息の線維化における新規の構成成分であり、ペリオスチン遺伝子の発現レベルの測定がアレルギー性疾患の検査方法として有用であることを見出し、ペリオスチン遺伝子の発現レベルを測定する工程をアレルギー性疾患の検査方法を開発した(第4155561号特許、G. Takayama et al., J Allergy Clin Immunol, vol.118, 98-104, 2006)。

【特許文献1】第4155561号特許
【非特許文献1】G. Takayama et al., J Allergy Clin Immunol, vol.118, 98-104, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、非特発性間質性肺炎の治療薬のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ペリオスチン(骨芽細胞特異因子2)の発現を抑制する物質が非特発性間質性肺炎の治療薬として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)薬剤投与を受けた患者、放射線照射を受けた患者、膠原病患者又は感染症患者由来の被検試料におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルを測定する工程を含む、非特発性間質性肺炎の検出方法。
(2)(i) 薬剤投与を受けた患者、放射線照射を受けた患者、膠原病患者又は感染症患者由来の被検試料におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルと、(ii)正常試料におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルとを比較する工程を含む、(1)に記載の方法。
(3)(i) 薬剤投与を受けた患者、放射線照射を受けた患者、膠原病患者又は感染症患者由来の被検試料におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルが、(ii)正常試料におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルよりも高いときに、前記患者は非特発性間質性肺炎である、又は非特発性間質性肺炎が疑われると判断する工程を含む、(3)に記載の方法。
(4)非特発性間質性肺炎が、薬剤性間質性肺炎及び放射線照射に基づく間質性肺炎からなる群から選択される少なくとも1つである、(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)被検試料が肺組織及び/又は血液である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)測定が免疫測定法によるものである、(1)~(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞又は組織を微生物感染処理、薬物処理及び/又は放射線処理するとともに候補物質と接触させた場合におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルを測定する工程を含む、非特発性間質性肺炎の予防又は治療薬のスクリーニング方法。
(8)(i) ペリオスチンを産生する能力を有する細胞又は組織を微生物感染処理、薬物処理及び/又は放射線処理するとともに候補物質と接触させた場合におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルと、(ii) ペリオスチンを産生する能力を有する細胞又は組織を微生物感染処理、薬物及び/又は放射線処理するが候補物質と接触させない場合におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルとを比較する工程を含む、(7)に記載の方法。
(9)(i)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞又は組織を微生物感染処理、薬物及び/又は放射線処理するとともに候補物質と接触させた場合におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルが、(ii)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞又は組織を微生物感染処理、薬物及び/又は放射線処理するが候補物質と接触させない場合におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルよりも低いときに、候補物質を非特発性間質性肺炎の予防又は治療薬として選択する工程を含む、(8)に記載の方法。
(10)非特発性間質性肺炎が、薬剤性間質性肺炎、放射線照射に基づく間質性肺炎、膠原病に基づく間質性肺炎及び感染症に基づく間質性肺炎からなる群から選択される少なくとも1つである、(7)~(9)のいずれか1項に記載の方法。
(11)生体試料が肺組織及び/又は血液である、(7)~(10)のいずれか1項に記載の方法。
(12)測定が免疫測定法によるものである、(7)~(11)のいずれか1項に記載の方法。
(13) ペリオスチンに対する抗体、又は配列番号1、3若しくは5に示される塩基配列から設計されたペリオスチン遺伝子検出用プローブ若しくは増幅用プライマーセットを含む、(1)~(6)のいずれか1項に記載の検出用又は(7)~(12)のいずれか1項に記載のスクリーニング方法用キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、非特発性間質性肺炎の治療薬のスクリーニング方法が提供される。本発明によれば、ペリオスチンを標的とする化合物、すなわちペリオスチンの発現や機能を抑制する物質を、非特発性間質性肺炎の治療薬として開発することができる。
【0008】
これまで、間質性肺炎の病態形成に重要な分子を標的とした治療薬はピレスパ(ピルフェニドン)以外に実用化されていない。このため、本発明は、間質性肺炎患者の症状を改善する治療薬の開発にとって有用となる。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、薬物投与を受けた患者、放射線治療を受けた患者、膠原病患者、又は感染症患者から得られた試料のペリオスチンの発現レベルを測定し、得られた測定結果を指標として、患者が非特発性間質性肺炎であるか否かを検出するものである。また、本発明は、薬物処理及び/又は放射線照射処理を行なった組織又は細胞サンプルと候補物質とを接触させて組織又は細胞サンプル中のペリオスチン遺伝子又はタンパク質の発現量を測定し、得られた測定結果を指標として、非特発性間質性肺炎の治療薬をスクリーニングするものである。
【0011】
1.概要
本発明者らは、ペリオスチン(骨芽細胞特異因子2)が気管支喘息の線維化における構成成分であり、ペリオスチン遺伝子の発現レベルを測定することにより、当該発現レベルとアレルギーとの関連性を導き出した。そして、発現が上昇するとアレルギーとなる知見から、アレルギー性疾患を検査することが可能であることを見出した(G. Takayama et al., J Allergy Clin Immunol, vol.118, 98-104, 2006)。また本発明者らは、特発性間質性肺炎の肺組織、末梢血液においてペリオスチンの発現レベルが増加していることから、間質性肺炎の病態形成にペリオスチンが関与している可能性を考え、ペリオスチンの発現レベルを測定することにより特発性間質性肺炎を検出できることを見出した。
【0012】
本発明者らは、ペリオスチンの発現レベルを抑制する物質は、非特発性間質性肺炎にも有用であると考え、薬剤性肺障害患者の肺組織を用いて組織染色法によりペリオスチンの発現レベルを測定した。
【0013】
その結果、薬剤性肺障害患者由来の検体の全てにおいて、ペリオスチンの強い発現を認めた。これに対し、正常肺組織においてはいずれもペリオスチンの発現は認めなかった。また、ブレオマイシン吸入による間質性肺炎モデルマウスにおいて、ペリオスチンの発現が増加していた。野生型マウスとペリオスチン欠損マウスに対してブレオマイシンを吸入させたところ、野生型マウスにおいては線維化とともにマウスの生存率が低下したのに対し、ペリオスチン欠損マウスにおいては生存率がほとんど低下せず、ペリオスチンの存在が非特発性間質性肺炎発症後の予後を決定する大きな要因となっていることが明らかとなった。
【0014】
以上のような知見に基づいて、本発明者らは、非特発性間質性肺炎の病態形成にペリオスチンが重要な役割を果たしており、非特発性間質性肺炎に対する治療薬の開発においてペリオスチンを標的とした化合物の探索が有用であることを明らかにすることに成功した。
【0015】
2.ペリオスチン
ペリオスチン(periostin)は、骨芽細胞特異因子2とも呼ばれる、約90kDaのタンパク質である(OSF2os;Horiuchi K,Amizuka N, Takeshita S,Takamatsu H, Katsuura M, Ozawa H, Toyama Y,Bonewald LF, Kudo A.;Identification and characterization of a novel protein, periostin, with restricted expression to periosteum and periodontal ligament and increased expression by transforming growth factor beta.J Bone Miner Res.1999 Jul;14(7):1239-49.)。ペリオスチンには、選択的スプライシング(alternative splicing)によるC末側の長さの違いで区別できるいくつかの転写物(variant)が存在することが知られている。
【0016】
本発明の検出方法において検出の対象となるタンパク質及び遺伝子はペリオスチンタンパク質及びそれをコードする遺伝子である。
【0017】
ペリオスチンの全長タンパク質のアミノ酸配列の一例を配列番号2に示し、配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする遺伝子、すなわち、ペリオスチン遺伝子の全てのエクソンによる転写産物の塩基配列(Accession No. D13666)を配列番号1に示す。また、ヒトのペリオスチンのその他のsplicing variantのアミノ酸配列を配列番号4及び6に示し、これらのアミノ酸配列をコードするペリオスチン遺伝子の塩基配列を、それぞれ配列番号3及び5に示す(それぞれ、Accession Nos. AY918092、AY140646)。
【0018】
本発明において、配列番号2で表されるアミノ酸配列のほか、配列番号2で表されるアミノ酸配列から派生するvariant(例えば、配列番号4又は6で表されるアミノ酸配列からなるペリオスチン)をコードするペリオスチン遺伝子、又はこれらのアミノ酸配列を含むペリオスチンタンパク質の発現レベルを測定する。
【0019】
3.本発明の非特発性間質性肺炎の検出方法又は診断方法
ペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質量は、薬剤投与を受けた患者、放射線治療を受けた患者、膠原病患者、又は感染症患者であって非特発性間質性肺炎を発症した患者由来の組織で発現が増加しているため、薬剤投与を受けた患者、放射線治療を受けた患者、膠原病患者、又は感染症患者由来の生体試料において、ペリオスチンは非特発性間質性肺炎を検出又は診断するためのマーカーとして利用し得る。従って、本発明は、薬剤投与を受けた患者、放射線治療を受けた患者、膠原病患者、又は感染症患者由来の被検試料におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルを測定する工程を含む、非特発性間質性肺炎の検出方法を提供する。
【0020】
非特発性間質性肺炎とは、原因が判明している間質性肺炎を意味し、原因不明の特発性間質性肺炎以外の間質性肺炎である。そして、非特発性間質性肺炎には、薬剤投与が原因で発症するもの、放射線照射が原因で発症するもの、膠原病患者由来のもの、又は感染症患者由来のものが含まれる。薬剤投与が原因で発症するものには、例えば、癌患者に対して抗癌剤を投与した後に発症する間質性肺炎などが挙げられる。また、膠原病患者は、関節リウマチ、全身性強皮症、皮膚筋炎、多発性筋炎等において、線維化を来たすことがあるため、間質性肺炎が出現する頻度が高い。さらに、放射線照射が原因で発症するものとして、画像診断程度の弱い放射線照射による発症、及び癌治療等の強い放射線照射による発症がある。従って、本発明においては、被検試料として、薬剤投与が原因となる薬剤性間質性肺炎患者由来の生体試料、放射線照射が原因となる間質性肺炎患者由来の生体試料、膠原病が原因で発症する間質性肺炎患者由来の生体試料、及び感染症が原因で発症する間質性肺炎患者由来の生体試料を使用することができる。
【0021】
本発明の検出方法においては、例えば以下の(i)の発現レベルと以下の(ii)の発現レベルを測定して、両者を比較する工程を含む。
【0022】
(i) 薬剤投与を受けた患者、放射線照射を受けた患者、薬剤投与及び放射線照射の併用を行った患者、膠原病患者、又は感染症患者由来の被検試料を用いた、ペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベル
(ii) 対照として、正常試料におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベル
そして、これらの測定結果を比較することにより、患者が非特発性間質性肺炎を発症したものであるか否かを判定する。
【0023】
発現レベルとは、遺伝子発現及びタンパク質発現のレベルを指し、DNAからmRNAへの転写活性レベル及びmRNAからタンパク質への翻訳活性レベルの両者を意味する。従って、本発明の工程には、遺伝子発現量及び/又はタンパク質発現量を定性的又は定量的に測定する工程が含まれる。発現レベルは、ペリオスチンタンパク質の量又は存否、あるいはペリオスチンをコードする核酸(DNA、RNA等)の量又は存否として測定される。
【0024】
発現レベルの測定に用いる生体試料としては、例えば、上記患者から採取された、肺組織、血液、喀痰、呼気凝縮液若しくは肺胞洗浄液、又は気管支鏡等を用いて採取した気道被覆液等を用いることができ、上記患者由来の肺組織又は血液を用いることが好ましい。肺組織、血液、喀痰、呼気凝縮液、肺胞洗浄液、又は気道被覆液等を採取する方法は、当業者において公知である。
【0025】
正常試料は、例えば、非特発性間質性肺炎に罹患していない者又は健常者由来の試料であり、比較対照として使用される組織又は細胞の由来は、患者から採取された測定対象の組織又は細胞と同じ種類のものであることが好ましい。例えば被検試料として血液を使用するときは、正常試料も血液を使用することが好ましい。但し、本明細書においては、被検試料と正常試料とを同一種類のものに限定することを意味するものではない。
【0026】
生体試料が肺組織及び喀痰等である場合には、発現レベルの測定に利用するために、例えば、そのライセートを調製すること、又はDNA若しくはRNA(例えばmRNA)を抽出することが好ましい。ライセートの調製及びRNAの抽出は、公知の方法又は市販のキットを使用して行うことができる。また、生体試料が、血液及び肺胞洗浄液等の液状のものである場合には、例えば、緩衝液等で希釈してペリオスチンをコードするDNA又はRNA量の測定などに利用することが好ましい。
【0027】
ペリオスチンタンパク質の発現レベルの測定は、操作が容易で高感度である点で免疫測定法が好ましい。免疫測定法としては、例えば放射免疫測定法(RIA)、免疫蛍光測定法(FIA)、免疫発光測定法、酵素免疫測定法(例えば、Enzyme Immunoassay(EIA)、Enzyme-linked Immunosorbent assay (ELISA))、免疫組織化学染色法、又はWestern blot法などが挙げられる。
このような検出方法としては、例えば、ペリオスチンタンパク質に結合する抗体を利用することができる。
【0028】
この検出に用いる抗体は、当業者に周知の技法を用いて得ることができる。本発明に用いる抗体は、ポリクローナル抗体でもよく、モノクローナル抗体(Milstein C,et al.,1983,Nature 305(5934):537-40)でもよい。例えば、ペリオスチンタンパク質に対するポリクローナル抗体は、抗原を感作した哺乳動物の血液を取り出し、この血液から公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用することができる。あるいは必要に応じてこの血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに単離することもできる。また、モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物から免疫細胞を採取して骨髄腫細胞などと細胞融合させる。こうして得られたハイブリドーマをクローニングして、その培養物から抗体を回収しモノクローナル抗体とすることができる。
【0029】
RIAで標識に用いる放射性物質としては、例えば、125I、131I、14C、3H、35S、又は32Pを利用することができる。FIAで標識に用いる蛍光物質としては、例えば、Eu(ユーロピウム)、FITC、TMRITC、Cy3、PE、又はTexas-Redなどの蛍光物質を利用することができる。免疫発光測定法で標識に用いる発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等を用いることができる。酵素免疫測定法で標識に用いる酵素としては、例えば西洋わさびペルオキシターゼ(HRP)、アルカリホファターゼ(ALP)、グルコースオキシターゼ(GO)等を用いることができる。さらに、抗体又は抗原と、これらの標識物質との結合にビオチン-アビジン系を用いることもできる。
【0030】
ペリオスチンをコードするDNA又はRNAの発現レベルの測定は、公知の方法により実施することができ、例えばPCR法、ノーザンブロッティングなどが挙げられ、蛍光標識に基づく定量化、アガロースゲル電気泳動による発現産物の可視化などを行うことができる。一般に、高等動物の遺伝子は、高い頻度で多型を伴う。また、スプライシングの過程で相互に異なるアミノ酸配列からなるアイソフォームを生じる分子も多く存在する。多型やアイソフォームによって塩基配列に変異を含む遺伝子であっても、前記ペリオスチン遺伝子と同様の活性を持ち、非特発性間質性肺炎に関与する遺伝子は、いずれも本発明の検出の対象遺伝子に含まれる。前記ペリオスチン遺伝子の塩基配列は公知である。
【0031】
例えば、配列番号1、3若しくは5に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド、又はその一部を含有するポリヌクレオチドをプローブとして用いてノーザンハイブリダイゼーションを行うことができる。
【0032】
本発明の検査に用いられるプローブまたはプライマーは、前記ペリオスチン遺伝子の塩基配列に基づいて設定することができる。従って、例えば配列番号1、3若しくは5に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド又はこれらの一部を含有するヌクレオチドからプライマーを設計し、ペリオスチンをコードするDNA又はRNAを増幅するPCR法を行うことができる。
【0033】
プライマー又はプローブには、前記指標遺伝子の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又はその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを利用することができる。ここで「相補鎖」とは、A:T(RNAの場合はU)、G:Cの塩基対からなる2本鎖DNAの一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の塩基配列上の相同性を有すればよい。塩基配列の相同性は、BLAST等のアルゴリズムにより決定することができる。
【0034】
このようなポリヌクレオチドは、ペリオスチン遺伝子を検出するためのプローブとして、また当該遺伝子を増幅するためのプライマーとして利用することができる。プライマーとして用いる場合には、通常、15bp~100bp、好ましくは15bp~35bpの鎖長を有する。また、プローブとして用いる場合には、ペリオスチン遺伝子又はその相補鎖の少なくとも一部若しくは全部の配列を有し、少なくとも15bpの鎖長のDNAが用いられる。プライマーとして用いる場合、3'側の領域は相補的である必要があるが、5'側には制限酵素認識配列やタグなどを付加することができる。
【0035】
これらポリヌクレオチドは、合成されたものでも天然のものでもよい。また、ハイブリダイゼーションに用いるプローブDNAは、通常、標識したものが用いられる。標識方法として、公知の任意の方法を用いることができる。なお用語オリゴヌクレオチドは、ポリヌクレオチドのうち、重合度が比較的低いものを意味している。オリゴヌクレオチドは、ポリヌクレオチドに含まれる。
【0036】
ハイブリダイゼーション技術を利用した検査は、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイを用いた方法などを使用して行うことができる。さらに、RT-PCR法等の遺伝子増幅技術を利用することができる。RT-PCR法においては、遺伝子の増幅過程においてPCR増幅モニター法を用いることにより、本発明の遺伝子の発現について、より定量的な解析を行うことが可能である。
【0037】
そして、例えば、上記(i)の場合のペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルが、上記(ii)の場合のペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルと比較して高い場合、例えば、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上、約100%以上、約150%以上、又は約200%以上高い場合に、非特発性間質性肺炎である、又は非特発性間質性肺炎が疑われると判断できる。
【0038】
また、免疫組織化学により、ペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルを測定することも可能である。具体的には、免疫組織化学によりペリオスチン又はペリオスチンをコードするRNAを可視化し、ペリオスチンタンパク質量又はRNA量を比較する。免疫組織化学染色法としては、具体的には、酵素標識抗体法、蛍光抗体法などが挙げられる。
【0039】
酵素標識抗体法は特に限定されるものではなく、直接法、間接法、アビジン・ビオチン化ペリオキシダーゼ複合体法(ABC法)、若しくはストレプトアビジン・ビオチン化抗体法(SAB)法などの標識抗体法、あるいはペルオキシダーゼ・抗ペルオキシダーゼ法(PAP法)などの非標識抗体法が挙げられる。
【0040】
蛍光抗体法も特に限定されるものではなく、直接法及び間接法のどちらも採用することができる。標識に用いる酵素又は蛍光物質としては、前記と同様のものが挙げられる。そして、上記(i)の場合のペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルが、上記(ii)の場合のペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルと比較して高い場合、例えば、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、又は約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上、約100%以上、約150%以上、又は約200%以上高い場合に、検出の対象となった患者は非特発性間質性肺炎であるか、あるいは非特発性間質性肺炎が疑われると判断できる。
【0041】
ここで、(i) 薬剤投与及び/又は放射線照射を受けた患者由来の被検試料において、ペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルと、(ii) 正常試料におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルとの差は、非特発性間質性肺炎の検出又は診断の臨界値となるものであり、例えば次のように設定することができる。
【0042】
先ず、2例以上の非特発性間質性肺炎(例えば薬物性特発性間質性肺炎)患者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルを測定し、その平均値(A)を求める。このとき、対象となる患者の例数は2例以上であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上又は100例以上である。
【0043】
一方、2例以上の健常者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルを測定し、その平均値(B)を求める。このとき、対象となる健常者の例数は2例以上であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上又は100例以上である。
【0044】
そして、求めた平均値A及びBから[(A-B)/B]×100(%)を計算して、非特発性間質性肺炎患者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルの平均値が、健常者由来の試料におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルの平均値と比較して何%高いかを求める。このようにして求めた値を、非特発性間質性肺炎の検出又は診断の臨界値として設定する。すなわち、上記(i)の場合のペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルが、上記(ii)の場合のペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルと比較して求めた差以上に高い場合(例えば、統計的に有意に高い場合)に、検出の対象となった患者は、特発性間質性肺炎である、又は特発性間質性肺炎が疑われると判断できる。
【0045】
また、本発明の非特発性間質性肺炎の検出方法又は診断方法では、複数の患者由来の生体試料を用いてペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルを測定する場合があるので、得られた測定値を平均値(A)及び(B)に組み入れて、対象となる患者の例数及び対象となる健常者の例数を増やすことが好ましい。例数を増やすことにより、非特発性間質性肺炎の検出又は診断の精度を高めることができる。また、求めた健常者由来の試料におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルの平均値(B)を、被検試料の対照として使用する標準発現レベルとしても良い。
【0046】
上記非特発性間質性肺炎の検出結果は、例えば非特発性間質性肺炎の確定診断を行う場合の主要資料又は補助資料とすることができる。特発性間質性肺炎の確定診断を行う場合には、上記検出結果に加えて、理学所見の結果、血清学的検査の結果(例えば、血清のKL-6、LDH又はSC-A等)、呼吸機能検査の結果、胸部X線画像所見の結果、及び胸部HRCT画像所見の結果の結果からなる群から選択される少なくとも1つと組み合わせて、総合的に判断するようにしても良い。ペリオスチンは線維化の指標となるため、ペリオスチンを測定することは、線維化の重症度、臨床的な活性化の状況を評価することができる点で有用である。
【0047】
4.スクリーニング方法
ペリオスチン遺伝子は、非特発性間質性肺炎の患者由来の組織又は細胞で発現が増加している。従って、患者の組織又は細胞においてペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルを減少させる化合物又はその塩、例えば、発現を阻害する化合物又はその塩は、非特発性間質性肺炎の予防及び/又は治療剤として使用し得る。
【0048】
従って、本発明は、ペリオスチンを産生する能力を有する細胞又は組織を、微生物感染処理、薬物処理若しくは放射線処理、又はこれらを組み合わせた処理を施すするとともに候補物質と接触させた場合におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルを測定する工程を含む、非特発性間質性肺炎の予防又は治療薬のスクリーニング方法を提供する。
【0049】
本発明のスクリーニング方法は、非特発性間質性肺炎の予防又は治療薬となる物質を得ることを目的とするため、上記発現レベルの測定系においては、非特発性間質性肺炎の原因となる条件を設定しておくことが好ましい。そこで、測定系は、微生物や薬物に曝された環境、あるいは放射線照射された環境下で実施することが好ましい。
【0050】
本発明においては、例えば以下の(i)の発現レベルと以下の(ii)の発現レベルを測定して、両者を比較する工程を含む。
【0051】
(i) ペリオスチンを産生する能力を有する細胞又は組織を微生物感染処理、薬物処理及び/又は放射線処理するとともに、候補物質と接触させた場合におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベル
(ii) ペリオスチンを産生する能力を有する細胞又は組織を微生物感染処理、薬物処理及び/又は放射線処理するが候補物質とは接触させない場合におけるペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベル
具体的には、上記(i)と(ii)の場合におけるペリオスチン遺伝子又はぺリオスチンタンパク質の発現レベルを測定して、両者のレベルを比較する。本発明の好ましい態様においては、ペリオスチンタンパク質量又はペリオスチンをコードするmRNA量を測定して比較すればよい。
【0052】
微生物感染処理、薬物処理及び放射線処理の対象となる細胞又は組織は、in vitroの系でもin vivoの系でもよい。従って、細胞又は組織は、培養細胞、培養組織、実験動物(例えばマウスやラット)中の細胞又は組織が挙げられる。
薬物処理方法は、ブレオマイシンなどの抗癌剤、漢方薬の小柴胡湯、インターフェロン、抗生物質などを、適当な用量で細胞培養系又は組織培養系に添加する。
【0053】
放射線照射処理の場合は、画像診断を行うときの強さ又は癌の放射線治療を行うときの強さの放射線により処理すればよい。但し、放射線の強度及び曝露時間は、適宜変更することができる。
微生物処理は、マイコプラズマなどの細菌感染処理、ウイルス感染処理などが挙げられ、処理する量や時間は、適宜設定することができる。
薬物処理及び放射線処理を動物に対して行う場合は、薬物の用法・用量、放射線照射量、微生物感染程度を適宜設定することができる。薬物と放射線照射とを併用するときは、単独使用よりも少なくしてもよい。
【0054】
「接触」とは、ペリオスチンを産生する細胞又は組織と候補物質とを同一の反応系又は培養系に存在させることを意味する。具体的には、上記細胞又は組織を含む培養器に候補物質を添加すること、上記細胞又は組織と候補物質とを混合すること、上記細胞又は組織を候補物質の存在下で培養すること、あるいは、ペリオスチン遺伝子を発現するトランスジェニック動物、ペリオスチン遺伝子を発現する疾患モデル動物(例えば膠原病モデル動物)、又は薬物処理、微生物感染処理若しくは放射線処理により間質性肺炎を誘導した動物に候補物質を投与することなどが挙げられる。候補物質の存在下で細胞又は組織を培養する場合の、細胞又は組織の培養条件及び培養日数は、培養する細胞又は組織に合わせて適宜選択することができる。
【0055】
薬物処理と放射線処理とは、同時に行ってもよく、一方が先で他方が後でもよい。また、これらの処理は候補物質が存在しているか否かを問わず、候補物質を添加する前、添加中、及び添加後のいずれであってもよい。
【0056】
「ペリオスチンを産生する能力を有する細胞」とは、天然に又は遺伝子工学的にペリオスチンを発現し得る細胞を意味し、例えば、非特発性間質性肺炎患者由来の肺組織から樹立された細胞、微生物感染、薬剤投与又は放射線照射により非特発性間質性肺炎を発症させた実験動物由来の細胞、ペリオスチンをコードするDNAを含有するベクターで形質転換された形質転換体(形質転換された細胞、組織又はトランスジェニック実験動物)などが挙げられる。
【0057】
形質転換する宿主細胞としては、例えば、大腸菌、酵母などのほか、CHO細胞、HEK293細胞、及び293細胞などの動物細胞が挙げられる。また、ベリオスチン遺伝子が導入されたトランスジェニック実験動物としては、トランスジェニックマウス、トランスジェニックラット等が挙げられる。ベクターの構築、形質転換、及び形質転換された細胞の培養、トランスジェニック動物の作製は、公知の方法で行うことができる(例えばSambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., (Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))。
【0058】
候補物質としては、例えば、天然又は合成の低分子化合物ライブラリー由来の化合物、遺伝子ライブラリーの発現産物(ペプチド、タンパク質等)、天然又は合成のオリゴ核酸、天然又は合成のペプチドライブラリー由来のペプチド、抗体、細菌由来の物質(細菌から代謝により放出される物質等)、微生物、植物細胞抽出液、動物細胞抽出液、培養液(微生物、植物細胞、動物細胞等の培養上清)又は培養液由来の化合物、土壌中の化合物、ランダムファージペプチドディスプレイライブラリー等に含まれる化合物などが挙げられる。
【0059】
これらの化合物は新規化合物であっても公知化合物であってもよい。さらに、候補化合物は、化学的、物理的又は生化学的手段により、適当な修飾又は変異が施されたものを使用することも可能である。さらに、候補化合物は、ファーマコフォア検索、又はコンピューターを用いた構造比較プログラムにより同定される化合物であってもよい。さらに、候補化合物は塩や水和物を形成してもよい。
【0060】
ペリオスチンタンパク質の発現量の測定は、例えば、前記した免疫測定法又はプロテインチップ法により行うことができる。また、DNA又はRNA量の測定は、公知の方法、例えば、前記PCR法、ノーザンハイブリダイゼーション、DNAチップ等を用いて行うことができる。そして、例えば、上記(i)の場合のペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルを、上記(ii)の場合のペリオスチン遺伝子又はペリオスチンタンパク質の発現レベルと比較して減少させる候補物質、例えば、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上、又は約100%以上減少させる候補物質を、ペリオスチン遺伝子の発現を阻害する化合物又はその塩として選択することができる。
【0061】
さらに本発明においては、本発明のペリオスチン遺伝子の転写調節領域を取得し、レポーターアッセイ系を構築することができる。レポーターアッセイ系とは、転写調節領域の下流に配置したレポーター遺伝子の発現量を指標として、該転写調節領域に作用する転写調節因子をスクリーニングするアッセイ系をいう。レポーター遺伝子とは、プロモーターやエンハンサーの転写活性などを調べるためにDNAへ組み込まれる目印用の遺伝子であり、その発現量を測定できる遺伝子であれば特に限定されず、一般的には検出が簡単で定量化可能なものが好ましい。このようなレポーター遺伝子としては、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、CAT (クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子、β-Gal (β-ガラクトシダーゼ)遺伝子、GFP (緑色蛍光タンパク質)遺伝子、およびGUS (β-グルクロニダーゼ)遺伝子などが挙げられる。
【0062】
レポーター遺伝子を使用するアッセイは、当業者であれば適宜実施することができる。例えば、ペリオスチン遺伝子の転写調節領域と、この転写調節領域の制御下に発現するレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と候補物質とを接触させ、前記レポーター遺伝子の活性を測定し、対照と比較してレポーター遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を選択する。
【0063】
5.キット
本発明は、本発明の非特発性間質性肺炎の検出方法、又は本発明の非特発性間質性肺炎の治療又は予防薬をスクリーニングするためのキットを提供する。本発明のキットには、上記検出方法に使用するために、ペリオスチンタンパク質に対する抗体、又は配列番号1、3又は5に示される塩基配列から設計されたペリオスチン遺伝子検出用プローブ、さらにはペリオスチン遺伝子増幅用プライマーを含めることができる。また、本発明のスクリーニング方法に使用するために、配列番号1、3又は5に示される塩基配列から設計された、ペリオスチン遺伝子増幅用プライマーセットを含む。
【0064】
また、本発明のキットには、上記検出法又はスクリーニング法に使用される、ペリオスチンを産生する能力を有する細胞若しくは組織又は動物、レポーター遺伝子、遺伝子発現産物検出用試薬、反応容器、光学的解析のためのフィルター、アッセイプロトコルを記載した指示書などを適宜含めることができる。また、必要に応じて、保存剤や防腐剤を試薬に加えることができる。
【0065】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0066】
ウサギポリクローナル抗ペリオスチン抗体の作製
ペリオスチン(ヌクレオチド配列:配列番号1、Accession No.D13666;アミノ酸配列:配列番号2、Accession No. BAA02837)にV5エピトープ/Hisタグを付加させたリコンビナントタンパク質を昆虫細胞であるS2細胞において発現させた上で精製した。
【0067】
具体的には、S2細胞の形質転換体は次のように作製した。pMT/Bip/V5-HisAプラスミド(Invitrogen,Carlsbad, CA)にペリオスチンの上記部分をコードするcDNAを挿入して、これをpMT/Bip/V5-HisA-periostinとした。S2細胞にpMT/Bip/V5-HisA-periostin及びハイグロマイシン耐性遺伝子を発現するプラスミドであるpCoHygro(Invitrogen)を公知の方法で共導入し、形質転換した。ハイグロマイシンにより形質転換体を選択し、安定形質転換体を得た。
そして、S2細胞の形質転換体では、V5エピトープ/Hisタグの結合したペリオスチンを発現させた。
【0068】
リコンビナントタンパク質の精製は次のように行った。ペリオスチン遺伝子安定形質転換体S2細胞の培地に硫酸銅を加えることにより、リコンビナントタンパク質の発現を誘導した。これにより、リコンビナントタンパク質は培養上清中に発現分泌された。この培養上清をPBSに透析した後、ニッケルレジン(Ni-NTA Agarose, Qiagen, Hilden, Germany)と混合して、リコンビナントタンパク質をレジンに結合させた。レジンを洗浄して夾雑物を取り除き、イミダゾール含有緩衝液にてリコンビナンタンパク質を溶出した。溶出されたリコンビナントタンパク質をPBSに透析し、これを動物の免疫原とした。
次に、これらのリコンビナントタンパク質をCFA(完全フロイントアジュバント)(Sigma社製のFreund's Adjuvant, Complete)と混合してラビットに免役し、その後血清を採取した。
【0069】
具体的な手順は次の通りである。ラビットとして、New Zealand Whiteラビット, 雌、体重1.5-2 kg(ケービーティーオリエンタル、鳥栖)を用いた。
これらのラビットは、免疫原であるリコンビナントペリオスチンとCFAの混合物をラビット背部皮下数カ所に注射することにより免疫した。
免疫の5~7週後、免疫ラビットの耳静脈より注射針と注射器を用いて採血し、血清を得た。
最後に、血清からIgGを次のように精製した。すなわち、採取した血清に二倍量の50 mM酢酸ナトリウム(pH4.0)を加えた後、塩酸でpHを4.0に調整した。血清を攪拌しながら、血清の1/15量のカプリル酸を加え、30分攪拌した後、9200gで10分間遠心した。上清をPBSに透析して、精製IgGとした。
【0070】
組織免疫染色法
組織免疫染色法は、一般的なABC法により行った。
生体試料としてパラフィン包埋肺組織を用いた。パラフィン包埋肺組織は、4例のブレオマイシンによる間質性肺炎患者から採取された肺、または4例のゲフィチニブによる間質性肺炎患者から採取された肺、ならびに正常者(間質性肺炎非罹患者)から、それぞれ肺組織を採取し、作製しておいたものである。これに、脱パラフィン、内因性ペルオキシダーゼ活性の阻害、ブロッキングといった処理を施した。具体的には、これらの操作は次のように行った。組織を脱パラフィン処理した後、メタノール+3%H2O2で15-30分間処理し、Protein Block Serum-Free(DAKO、Glostrup、Denmark)で5-10分間処理した。
【0071】
ラビットポリクローナル抗ペリオスチン抗血清を1000倍希釈の濃度で一次抗体として加えた。その後、HRP標識された一次抗体に対する抗体(Envision、DAKO社から購入)を二次抗体として加え、DAB(diaminobenzidine)(Sigma社)にて発色させた。さらに、核染色、脱水、封入などの操作を行った。
【0072】
具体的には、これらの操作は次のように行った。100μlの一次抗体を組織上にのせ、室温で60分間静置した。一次抗体を洗浄した後、100μlの二次抗体を組織上にのせ、室温で60分間静置した。二次抗体を洗浄した後、DAB基質溶液中に組織スライドを浸して、1-20分間発色させた。ヘマトキシリンで核染色した後、公知の方法で脱水、封入した。
結果を図1に示す。図1は、ペリオスチンの発現を示す図である。茶色に染まっている部分がペリオスチンの発現部位である。薬剤性肺障害患者の肺組織では、ペリオスチンの発現が強いのに対し、正常者の肺組織ではほとんどペリオスチンの発現が見られない。
【実施例2】
【0073】
本実施例では、ブレオマイシン投与マウスを作製し、そのマウスの肺を摘出し、抗ペリオスチン抗体を用いて免疫染色を行った。具体的には以下のように行った。
8週齢のBalb/cマウス(メス)に10mg/kgのブレオマイシン(日本化薬株式会社、東京、日本)を100μlの生理食塩水で溶解し、トリフルオロエタンによる麻酔下に気管内投与した。対照としては生理食塩水100μlを投与した。4週間後、肺を取り出し、ホルマリン固定し、パラフィン包埋組織薄片を作製した。
【0074】
以下、ラビットポリクローナル抗ペリオスチン抗血清を用いた組織免疫染色法については実施例1の記載と同様である。
結果を図2に示す。図2は薬物(ブレオマイシン)に曝露された肺組織におけるペリオスチンの発現を示す図である。茶色に染まっている部分がペリオスチンの発現部位であり、ブレオマイシンを投与したマウスの肺組織では、線維化とともにペリオスチンの発現が増加している。
【実施例3】
【0075】
本実施例では、7~10週齢のペリオスチン欠損Balb/cマウス(米国インディアナ大学コンウェイ博士より供与、Periostin null mice exhibit dwarfism, incisor enamel defects, and an early-onset periodontal disease-like phenotypes, Mol Cell Biol, vol.25, 11131-11144, 2005)とその同腹仔(野生型)を実験に用いた。
具体的には、上記マウスに10mg/kgのブレオマイシン(実験例2参照)を100μlの生理食塩水で溶解し、トリフルオロエタンによる麻酔下に気管内投与した。4週間観察し、生存率を計測した。
結果を図3に示す。図3はマウスの生存曲線を示す図である。ブレオマイシンを投与した野生型マウスでは、投与8日以降全マウスが死亡した。これに対し、ブレオマイシンを投与したペリオスチン欠損マウスのほとんどは生存していた。従って、ペリオスチンの活性を抑制すると、ブレオマイシンなどの薬剤障害が生じないことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】ペリオスチンの発現を示す図である。
【図2】ペリオスチンの発現を示す図である。
【図3】マウスの生存曲線を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2