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明細書 :デルフィニウム(Delphiniumspp.)から単離された配糖体化酵素とその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5477619号 (P5477619)
公開番号 特開2011-019447 (P2011-019447A)
登録日 平成26年2月21日(2014.2.21)
発行日 平成26年4月23日(2014.4.23)
公開日 平成23年2月3日(2011.2.3)
発明の名称または考案の名称 デルフィニウム(Delphiniumspp.)から単離された配糖体化酵素とその利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/10        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12P  17/06        (2006.01)
C12P  21/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 9/10
A01H 1/00 A
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 103
C12P 17/06
C12P 21/00 C
請求項の数または発明の数 10
全頁数 12
出願番号 特願2009-166995 (P2009-166995)
出願日 平成21年7月15日(2009.7.15)
審査請求日 平成24年1月30日(2012.1.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
発明者または考案者 【氏名】橋本 文雄
【氏名】清水 圭一
【氏名】坂田 祐介
【氏名】ウレド ラバ イセルモ
【氏名】緒方 潤
【氏名】福田 良絵
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
審査官 【審査官】上條 肇
参考文献・文献 特開2005-095005(JP,A)
国際公開第2009/062259(WO,A1)
国際公開第2007/046148(WO,A1)
調査した分野 C12N 15/09 - 15/90
A01H 1/00
C12N 5/10
C12N 9/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)~(d)のいずれか記載のポリペプチド。
(a) 配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b) 配列番号2に示すアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸の置換、付加、欠失若しくは挿入を含みかつ配糖体化フラボノイドの生成を触媒する活性を有するポリペプチド、
(c) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなりかつフラボノイドの配糖体化を触媒する活性を有するポリペプチド、
(d) 配列番号1に示すヌクレオチド配列に対して90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにコードされ、かつフラボノイドの配糖体化を触媒する活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
請求項1記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号1に示すヌクレオチド配列からなる、請求項2記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項2又は3記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項5】
請求項4記載の組換えベクターで形質転換された形質転換宿主細胞。
【請求項6】
請求項5記載の形質転換宿主細胞を、前記組換えベクターにコードされるポリペプチドの発現を可能にする条件下で培養すること、及び該ポリペプチドを回収することを含む、請求項1記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項7】
非配糖体化フラボノイドを含む溶液を、請求項1記載のポリペプチドを用いて酵素処理することを含む、配糖体化フラボノイドの製造方法。
【請求項8】
非配糖体化フラボノイドはアントシアニジンである、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
請求項2又は3記載のポリヌクレオチドを開花植物の細胞若しくは組織培養物に導入することを含む、変異体植物の製造方法。
【請求項10】
開花植物はデルフィニウム(Delphinium spp.)である請求項9記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、デルフィニウム(Delphinium spp.)のがく片に含まれる、配糖体化酵素及びその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アントシアニンの配糖体化酵素はいくつかの植物ですでに単離されているが、デルフィニウム(Delphinium spp.)では、アントシアニンの配糖体化酵素を含む、花の色素の生合成に関与する遺伝子の単離は全くなされてなかった。
【0003】
例えば、アントシアニジンはUDP-グルコシル転移酵素、いわゆるアントシアニジン3-O-グルコシルトランスフェラーゼ(3GT)の作用によって、フラボノイド骨格の3位が配糖体化される。このことによって、アントシアニンは安定化することが知られている(非特許文献1)。3GTの性質はよく調査されており、金魚草(Antirrhinum majus)(非特許文献2)、リンドウ(Gentiana triflora)(非特許文献3)、ペチュニア(Petunia hybrida)(非特許文献4)、花菖蒲(Iris hollandica)(非特許文献5)での報告例の記載がある。
【0004】
デルフィニウムはキンポウゲ科に属し、切り花として重要な観賞花卉である。がく片に含まれるアントシアニン色素について、青色がく片には過度にアシル化された、シアノデルフィン(cyanodelphin)が含まれていることが知られている(非特許文献6)。また、紫色のがく片にはアシル化アントシアニンであるヴィオルデルフィン(violdelphin)が含まれていることが明らかにされ、これらの色素がそれぞれのがく片を青色及び紫色に着色する本体であることが報告されている(非特許文献7)。
【0005】
特許文献1には、組織培養苗により増殖して得られるメリクロン苗を用いて、その苗同士を交配してF1種子を得る方法の記載がある。具体的には、「二つの自殖系統デルフィニウムの選抜個体のうち、少なくとも一つを組織培養により増殖し、得られた一方のメリクロン苗と他方の自殖系統個体、または双方のメリクロン苗どうしを交配して、デルフィニウムF1種子を得ることを特徴とするデルフィニウムF1品種の作出方法」が開示されている。
【0006】
特許文献2には、種間交雑苗生産方法の記載がある。具体的には、デルフィニウム属植物の種間交雑を行って得た種子の胚を摘出又は胚の少なくとも一部を露出して、胚培養を行うことを特徴とするデルフィニウム属植物の種間交雑苗生産方法が開示されている。
【0007】
特許文献3には、八重の花を持ち、青色の二色系の花であるデルフィニウムの新規園芸品種「ドルチェヴィタ(Dolce Vita)」が開示されている。
【0008】
特許文献4には、植物学的にはデルフィニウムの交雑品種であり、青紫色/淡緑色の花色を特徴とする、デルフィニウムの新規園芸品種「デルガスタム(Delga Stam)」が開示されている。
【0009】
また特許文献5には、デルフィニウムの後代に特定の花色を遺伝させる花色交配法、デルフィニウムの後代に二色系の花色を遺伝させる花色交配法、暖地で効率よく季節咲きさせる方法、及び萼片中の主要な内性色素の比率からデルフィニウムの花色を決定する方法、並びに、全色系花色のデルフィニウムを花粉親または種子親として他殖交配し、特定の花色を後代に遺伝させることができると共に、二色系の花色を後代に遺伝させることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開平11-103704号公報
【特許文献2】特開平11-032604号公報
【特許文献3】米国特許第13010号
【特許文献4】米国特許第14152号
【特許文献5】WO2005/027622号
【0011】

【非特許文献1】Heller W. and G. Forkmann, (1994) Biosynthesis of flavonoids, The Flavonoids, 1994年、Chapman and Hall, London, (pp. 499-535).
【非特許文献2】Martin C., A. Prescott, S. Mackay, J. Bartlett, E. Vrijlandt. Plant J. 1991年、Control of anthocyanin biosynthesis in flowers of Antirrhinum majus, 137-49.
【非特許文献3】Tanaka Y., K. Yonekura, M. Fukuchi-Mizutani, Y. Fukui, H. Fujiwara, T. Ashikari, T. Kusumi. Plant Cell Physiol. 1996年. Molecular and biochemical characterization of three anthocyanin synthetic enzymes from Gentiana triflora. 37711-716.
【非特許文献4】Yamazaki M., E. Yamagishi, Z. Gong, M. Fucuchi-Mizutani, Y. Fukui, Y. Tanaka, T. Kusumi, M. Yamaguchi, K. Saito. Plant Mol. Biol. 2002年. Two flavonoid glucosyltransferase from Petunia hybrida: molecular cloning, biochemical properties and developmentally regulated expression. 48 401-411.
【非特許文献5】Yoshihara, N., T. Imayama, Y. Matsuo, M. Fukuchi-Mizutani, H. Okuhara, Y. Tanaka, I. Ino and T. Yabuya. Plant Science. 2005年. cDNA cloning and characterization of UDP-glucose: anthocyanidin 3-O-glucosyltransferase in Iris hollandica. 169: 496-501.
【非特許文献6】Kondo、T.、他6名、Structure of Cyanodelphin, a Tetra-p-hydroxybenzoated Anthocyanin from Blue Flower of Delphinium hybridum、Tetrahedron Lett.、1991年、第44巻、P.6375-6378」。
【非特許文献7】Kondo、T.、他3名、Structure of Violdelphin、an Anthocyanin from Violet Flower of Delphinium hybridum、Chem.Lett.、1990年、P.137-138。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の通り、デルフィニウムの後代に特定の花色を遺伝させる花色交配法や、デルフィニウムの後代に二色系の花色を遺伝させる花色交配法が報告されているが、デルフィニウムの花色を発現するアントシアニン色素の配糖体化酵素は明らかにされていなかった。
【0013】
そこで本発明は、デルフィニウムの花色発現に関与する配糖体化酵素及び該酵素を利用する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、既存の植物で既に知られている配糖体化酵素の配列情報から、比較的保存性の高い領域を特定し、該領域を基にデルフィニウムの全長酵素の特定を試みた。その過程で、金魚草や花菖蒲の3-O-グルコシルトランスフェラーゼ遺伝子と類似性を有する1種のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが、フラボノイド配糖体の生成を触媒する活性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち本発明は以下の特徴を包含する。
【0016】
(1) 以下の(a)~(d)いずれか記載のポリペプチド。
(a) 配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列番号2に示すアミノ酸配列において1~複数個のアミノ酸の置換、付加、欠失若しくは挿入を含みかつ配糖体化フラボノイドの生成を触媒する活性を有するポリペプチド、
(c) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなりかつフラボノイドの配糖体化を触媒する活性を有するポリペプチド
(d) 配列番号1に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされ、かつフラボノイドの配糖体化を触媒する活性を有するポリペプチド
(2) 上記(1)記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0017】
(3) 配列番号1に示すヌクレオチド配列からなる、上記(2)記載のポリヌクレオチド。
(4) 上記(2)又は(3)記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
(5) 上記(4)記載の組換えベクターで形質転換された形質転換宿主細胞。
(6) 上記(5)記載の形質転換宿主細胞を、前記組換えベクターにコードされるポリペプチドの発現を可能にする条件下で培養すること、及び該ポリペプチドを回収することを含む、上記(1)記載のポリペプチドの製造方法。
【0018】
(7) 非配糖体化フラボノイドを含む溶液を、上記(1)記載のポリペプチドを用いて酵素処理することを含む、配糖体化フラボノイドの製造方法。
(8) 非配糖体化フラボノイドはアントシアニジンである、上記(7)記載の製造方法。
(9) 上記(2)又は(3)記載のポリヌクレオチドを開花植物の細胞若しくは組織培養物に導入することを含む、変異体植物の製造方法。
(10) 開花植物はデルフィニウム(Delphinium spp.)である上記(9)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、デルフィニウムの花色発現に関与する配糖体化酵素が提供される。
【0020】
本発明の酵素は、フラボノイド(例えばアントシアニジン)の配糖体の生成を触媒することができるため、新花色を有するデルフィニウムの育種や、フラボノイド配糖体の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、大腸菌に発現させたDel3GTタンパク質のSDS-Pageの図を示す。IPTG-はIPTGを加えていない大腸菌の水溶性のたんぱく抽出物、IPTG+はIPTGによってDel3GTタンパク質の発現を誘導した大腸菌の水溶性のたんぱく抽出物である。
【図2】図2は、Del3GTを用いてデルフィニジン(Dp)とシアニジン(Cy)を反応させたクロマトチャートである。(A)はデルフィニジンをDel3GTで処理したチャートであり、(B)はシアニジンをDel3GTで処理したチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、デルフィニウム由来の配糖体化酵素(3-O-グルコシルトランスフェラーゼ;3GTポリペプチドとも称する)とその利用方法に関する。

【0023】
デルフィニウム3GT遺伝子(以下、3GTポリヌクレオチドとも称する)のヌクレオチド配列の一例を配列番号1に示し、配列番号1に示すヌクレオチド配列によってコードされる3GTポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号2に示す。なお、3GTポリヌクレオチドによりコードされる3GTポリペプチドとしては、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに限定されず、配列番号2に示すアミノ酸配列において1~複数個のアミノ酸の置換、付加、欠失若しくは挿入を含みかつフラボノイドの配糖体化を触媒する活性を有するポリペプチド、又は配列番号2に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性、好ましくは80%以上の相同性、より好ましくは90%以上の相同性、最も好ましくは95%以上の相同性を有するポリペプチドからなりかつフラボノイドの配糖体化を触媒する活性を有するポリペプチド(以下、これらを「変異型ポリペプチド」と称する)であってもよい。ここで、置換、欠失、付加又は挿入するアミノ酸は、例えば1~50個、好ましくは1~25個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個とすることができる。相同性の値は、複数のアミノ酸配列間の相同性を演算するソフトウェア(例えば、FASTA、DANASYS、BLAST)を用いてデフォルトの設定で算出した値を意味する。

【0024】
また3GTポリヌクレオチドとしては、配列番号1に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドに限定されず、配列番号1に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、フラボノイドの配糖体化を触媒する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、変異型ポリヌクレオチドとも称する)も含まれる。変異型ポリヌクレオチドは、配列番号2に示すアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、フラボノイドの配糖体化を触媒する活性を有する変異型ポリペプチドをコードすることとなる。

【0025】
ここでストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。ストリンジェントな条件下としては、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列相同性を有するポリヌクレオチド同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いポリヌクレオチド同士がハイブリダイズしない条件を挙げることができる。そのような条件は、例えばJ. Sambrook, et al., "Molecular Cloning", Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989を参照することにより当業者には自明である。

【0026】
本発明でいう「フラボノイドの配糖体化を触媒する」とは、フラボノイド骨格の3位の配糖体化を触媒することをいう。上述した変異型ポリペプチドがフラボノイドの配糖体化を触媒する活性を有するか否かは、非配糖体化フラボノイドを基質として該変異型ポリペプチドを作用させ、配糖体化したフラボノイドの生成の有無を検出することによって行うことができる。基質として使用することができる非配糖体化フラボノイドとしては、これに限定されるものではないが、ペラルゴニジン、シアニジン、デルフィニジンなどのアントシアニジン;クエルセチン、ミリセチンなどのフラバノール;カテキン(例えばエピカテキン(ECG)、エピガロカテキンガレート(EGCG))などのポリフェノールを用いることができる。具体的に、変異型ポリペプチドが配糖体化フラボノイドの生成を触媒する活性を有するか否かは、次のようにして試験することができる。すなわち、1.5mlの遠心分離用チューブを用意し、これに0.1Mトリス-塩酸緩衝液(pH8.0)、0.5mM 基質(例えばデルフィニジン)、1mM UDP-グルコース及び変異型ポリペプチド溶液30μlを含む反応液50μlを30℃で反応させる。1M塩酸水溶液10μlを加えて反応を停止させ、クロロホルム:メタノール=2:1を等量加え攪拌後遠心し、上層部(50μl)を新しいチューブに移し替える。次いで、これを高速液体クロマトグラフィーに供し、色素を同定することで、上記活性の有無を評価する。

【0027】
本発明の3GTポリヌクレオチドは、配列番号1に示すヌクレオチド配列情報に基づいて、該配列を特異的に増幅することができるプライマーセットを設計し、デルフィニウム(例えば青紫色系統や品種ブルーミラーを自然交配させて維持している系統など)の花弁から抽出した総DNAを鋳型としてPCR増幅を行うことによって、クローニングすることができる。

【0028】
あるいは、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号1に示すヌクレオチド配列情報に基づいて、当業者に周知の方法、例えば適当な配列のクローニング及び制限酵素による切断、ホスホトリエステル法(例えばNarangら,1979年,Meth.Enzymol.,第68巻,p90~99参照)、ホスホジエステル法(例えばBrownら,1979年、Meth.Enzymol.,第68巻,p109~151参照)、エチルホスホアミダイト法(例えばBeaucageら,1981年,Tetrahedron Lett.,第22巻,p1859~1862参照)などの方法により、直接的に合成することができる。また市販の自動DNA合成装置を使用することによって合成してもよい。

【0029】
本発明の3GTポリペプチドは、上記のようにしてクローニングした3GTポリヌクレオチドを利用して、定法に従って製造することができる。例えば、本発明の3GTポリペプチドは、3GTポリヌクレオチドを適当な宿主細胞内で発現させ、培養物から3GTポリペプチドを回収することにより製造することができる。

【0030】
本発明で使用できる宿主細胞としては、これに限定されるものではないが、大腸菌などの原核細胞、酵母、昆虫培養細胞(例えばカイコガ培養細胞)、動物細胞細胞(例えばマウス培養細胞)、植物培養細胞(例えばタバコ培養細胞)などの真核細胞を挙げることができる。

【0031】
具体的に、宿主細胞での発現を誘導するプロモーターの下流に前記3GTポリヌクレオチドを組込んだ組換えベクターを作製し、これを宿主細胞に遺伝子導入することによって宿主細胞を形質転換し、該形質転換宿主細胞を発現調節配列が機能する条件下で培養し、その培養物から本発明の3GTポリペプチドを回収することができる。

【0032】
本発明で使用できるベクターとしては、プラスミドベクター、Tiプラスミドベクター、ファージベクター、ファージミドベクター、YACベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。これらベクターは、その後の形質転換に使用する宿主細胞のタイプに応じて、該宿主細胞中での3GTポリペプチドの発現を調節・補助する追加の配列を含むことができる。そのような配列としては、これに限定されるものではないが、エンハンサー、ターミネーター、オペレーター、SD配列などを挙げることができる。また上記ベクターは、形質転換宿主細胞を選別するための選択マーカー(例えばアンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子など)を含むことができる。

【0033】
上記発現構築物による宿主細胞の形質転換は、当業者に慣用の手法、例えばプロトプラスト法、コンピテントセル法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、アグロバクテリウム法を用いて行うことができる。

【0034】
形質転換宿主細胞の培養は、使用される宿主細胞の培養方法と実質的に同様であってよく、例えば資化しうる炭素源、窒素源、金属塩、ビタミン等を含む培地を用いて適当な条件下で培養すればよい。こうして得られた培養液から、一般的な方法によって分取や精製を行い、必要に応じて、限外ろ過濃縮、凍結乾燥、噴霧乾燥、結晶化等によって、その活性を保持するかたちで3GTポリペプチドを得ることができる。

【0035】
あるいは、本発明の3GTポリペプチドは、無細胞発現系、すなわち上記発現構築物を試験管内で用いて製造することもできる。本発明で使用できる無細胞発現系としてはセルフリーサイエンス社のWEPRO(登録商標)シリーズなどが挙げられる。

【0036】
本発明の3GTポリペプチドは、配糖体化形態のフラボノイド、例えばデルフィニジン3-O-グルコシドの生成を触媒する活性を有するものである(図2参照)。

【0037】
したがって、本発明の3GTポリペプチドは、配糖体化フラボノイドの製造に使用することができる。

【0038】
本発明の配糖体化フラボノイドの製造方法は、非配糖体化フラボノイドを含有する溶液を、本発明の3GTポリペプチドを用いて酵素処理することを含んでいる。

【0039】
上記方法に供する溶液は、非配糖体化フラボノイドを含有する溶液であれば特に制限されず、天然物からの抽出物であってもよいし、調製した溶液であってもよい。配糖体化フラボノイドの中で、アントシアニンは、近年、抗酸化作用や癌抑制機能を有する化合物として注目されており、機能性食品や医薬品などの有効成分として有用な化合物であると考えられている。したがって、好ましくは、非配糖体化フラボノイドを含有する溶液はアントシアニジンを含有する溶液である。アントシアニジンを含有する溶液としては、これに限定されるものではないが、リンゴ、ブルーベリー、カンキツ、ブドウ、トマト由来抽出物等を挙げることができる。

【0040】
また使用する3GTポリペプチドの形態は特に制限されず、精製ポリペプチドの他、粗製ポリペプチド(例えば該ポリペプチドを発現する宿主細胞からの抽出物など)を用いることができ、また3GTポリペプチドを発現する宿主細胞を用いてもよい。粗製酵素を使用する場合には、本発明の3GTポリペプチドの酵素活性を阻害する因子を含まないようにする点に留意する。

【0041】
また本発明において、上記ポリペプチドは担体に固定化して使用することができる。本発明に使用し得る固定化ポリペプチドの調製方法には、担体結合法(物理的吸着法、イオン結合法、共有結合法、生化学的特異結合法など)、架橋法及び包括法等の当業者に周知の方法が含まれる。担体結合法は、酵素を水不溶性の担体に結合させる方法であり、この場合、セルロース、デキストラン、アガロースなどの多糖類の誘導体、ポリアクリルアミドゲル、ポリスチレン樹脂、イオン交換樹脂などの合成高分子、多孔性ガラス、金属酸化物などの無機物質などを担体として使用できる。架橋法は官能基を2個以上もった試薬と酵素とを反応させて、酵素間で架橋化を行うことで固定化する方法であり、架橋試薬として、グルタルアルデヒド、イソシアン酸誘導体、N,N-エチレンビスマレイミド、ビスジアゾベンジシン、N,N-ポリメチレンビスヨードアセトアミドなどが使用できる。包括法は天然高分子や合成高分子のゲルマトリックスの中に酵素を閉じ込める格子型等を含み、その際に用いる高分子化合物として、ポリアクリルアミドゲル、ポリビニルアルコール、光硬化性樹脂、デンプン、コンニャク粉、ゼラチン、アルギン酸、カラギーナンなどが含まれる。

【0042】
酵素反応の条件は特に制限されないが、例えばフラボノイド基質10mM当たり、本発明の3GTポリペプチドを1~10ユニット使用し、5~30分間反応を行えばよい。また反応温度及びpHは、本発明の3GTポリペプチドの至適温度及び至適pH近位の値を採用するものとし、具体的には25~30℃の温度、pH6.5~8.5の条件を用いればよい。なお、3GTポリペプチドは、1M Tris-HCl(pH8、15μl)、S-アデノシル-L-メチオニン(10mM、10μl)(Sigma-Aldrich, Inc., St. Louis, USA)、10mM シアニジン(10μl)及びポリペプチド溶液(10μl)を加えて全量を50μlからなる反応液において、1分間に1mMモルのペオニジンを生成する量を1ユニットと定義する。

【0043】
また本発明の3GTポリペプチドは、配糖体化形態のフラボノイド、例えばデルフィニウムの花色に関与するデルフィニジン3-O-グルコシド、シアニジン3-O-グルコシドなどを生成する活性を有するものである(図2参照)。

【0044】
したがって本発明の3GTポリヌクレオチドは、変異体植物の製造に使用することができる。本発明でいう「変異体植物」とは、外的に導入した3GTポリヌクレオチドの発現の結果、野生型とは異なる花色を有している開花植物である。また本発明で変異体植物の製造対象となる開花植物は、花色発現にフラボノイドの配糖体化が関与している植物であれば特に制限されない。本発明において、変異体植物の製造対象となる開花植物は、好ましくはデルフィニウム(Delphinium spp.)である。

【0045】
具体的に、変異体植物の製造は、当業者に公知のトランスジェニック技術を用いて、本発明の3GTポリヌクレオチドを、必要に応じて該ポリヌクレオチドを含む植物発現用ベクターの形態で、開花植物の細胞若しくは組織培養物に導入することによって行うことができる。

【0046】
本発明に使用することができるトランスジェニック技術として、例えばアグロバクテリウム(Agrobacterium)を利用した形質転換を挙げることができる。簡潔に説明すると、植物感染性であるアグロバクテリウムからプラスミドを取り出し、該プラスミドのT-DNA遺伝子を本発明の3GTポリヌクレオチドで置換し、これをアグロバクテリウムに戻して植物組織の感染に利用する。その際、3GTポリヌクレオチドと共に当業者に公知の選択マーカー遺伝子を挿入することで、3GTポリヌクレオチドが導入されている植物を選択することができる。そのような選択マーカー遺伝子として、例えばカナマイシン、テトラサイクリン、リファンピシン、スペクチノマイシン、カルベニシリン、ゲンタマイシンなどの抗生物質に対する耐性を付与する遺伝子などを使用することができる。アグロバクテリウムを利用した形質転換の実例は、例えばモデル植物の実験プロトコール、イネ・シロイヌナズナ編、細胞工学別冊、植物細胞工学シリーズ4、島本功・岡田清孝監修 (1996)や米国特許第5,188,958号などに記載されている。

【0047】
本発明で使用することができる他のトランスジェニック技術として、これに限定されるものではないが、ウイルスベクターを介した形質転換、エレクトロポレーション及びパーティクルガンなどを挙げることができる。パーティクルガンを利用した形質転換の実例は、例えば米国特許第5,204,253号などに記載されている。

【0048】
本発明の3GTポリヌクレオチドで形質転換された細胞又は組織培養物は、その後、当業者に公知の技術によって植物体まで再生させることができる。植物体の再生は、当業者に公知の手法に従って行えばよい。また変異体植物を効率よく製造するために、形質転換に用いられる標的組織が高い再生能を有していることが好ましく、そのような組織として子葉、胚軸組織、葉、茎、花器官、根、胚、未熟胚、葯、子房、胚珠、胚乳、雌蕊、雄蕊などを挙げることができる。

【0049】
以下、本発明の一例を実施例として詳細に説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
材料
デルフィニウムを上記特許文献5記載の方法で栽培し、花(がく片)を供試した。予め、パシフィックジャイアントを交配し、得られたF1種子を2006年8月にシャーレ内で播種した。シャーレ内は予め脱脂綿を引き、種が半分沈む程度に水を吸わせた。種を播いたシャーレを15℃の冷蔵庫に約7日~10日暗黒条件下で発芽させた。発芽したものから順次セルトレイに移植した。移植したセルトレイを温室内で25~32℃の高温度で育苗し、11月上旬にビニルハウスへ定植した。生育促進のため、12月下旬から暖房による加温をはじめ、ビニルハウス内の温度を15℃に保温した。花芽分化促進のため、2007年1月中旬から4月下旬の開花期まで、電照による長日処理を行った。電照の条件は以下の通りである。畝からの高さ1.1m、9平米の広さに100ワット白熱球1個を割り当て、午後9時~午前3時の6時間の間、照明した。2007年4月~5月に開花に至った。
【実施例】
【0051】
[実施例1]
3GT(3-O-グルコシルトランスフェラーゼ)のクローニング
全RNAは、RNeasyマキシキット(Qiagen)を用いて、1gのデルフィニウムの青紫色系統のがく弁(花)から抽出した。ポリ(A)RNAは、Oligotex-dT30<Super>(タカラバイオテック)のキットを用いて全RNAから精製し、mRNAを得た。cDNAは、GeneRacerキット(Invitrogen)を用いてmRNAから合成した。いずれも製品に添付されたプロトコールに従って実験を行った。
【実施例】
【0052】
次に、上記の合成したcDNAを鋳型とし、既に報告されている各配糖体化酵素遺伝子の配列を参考に設計した下記プライマーを用いて、5'RACE(Rapid amplification of cDNA ends)及び3'RACE法により、3GT遺伝子の5’末端及び3’末端を含む断片をPCR増幅した:5’-プライマー、5’-CGACTGGAGCACGAGGACACTG-3’; 5’-ネストプライマー、5’-GGACACTGACATGGACTGAAGGAGTA-3’。また、HCGWNから誘導したreverseプライマー:GTRv1, NSW RTT CCA NCC RCA RTG並びにGVPMVTWPから誘導したreverseプライマー:GTRv2, GGN GTN CCN ATG GTN ACN TGG CCNも用いた。具体的に、希釈された1μlを含むcDNAと、10pmolの各reverseプライマーを各組み合わせて反応させた。PCR反応は、0.2microLのKOD plus(TOYOBO)を含む反応溶液を94℃で2分間インキュベートし、その後、熱変性後(94℃で30秒間)、アニーリング(52℃で30秒間)、伸長反応(68℃で1分間)を1サイクルとし、30回のサイクルを繰り返した。最後に68℃で10分間処理した。PCR増幅産物をアガロースゲルの電気泳動で分離した後、QIAEX II Gel Extraction Kit (QIAGEN)を用いて精製した。精製されたPCR断片をpCR-Blunt-II-TOPO(登録商標)vector (Invitrogen)に導入し、シークエンス解析した。全ての塩基配列の決定は、鹿児島大学遺伝子実験施設のDNAシークエンスサービス(ABI PRISM(登録商標) 3100 Genetic Analyzer、BlastX program)を利用して行った。
【実施例】
【0053】
[実施例2]
デルフィニウム3GTタンパク質のE.coliによる組換え生産と抽出
デルフィニウム3GTの全長cDNAのクローンをpET vector (Promega)に組み込むことによりコード領域の全長cDNAのクローンを発現するベクターを得た。次いで、このベクターをE.coli BL21(DE3)(Novagen)に導入し、デルフィニウム3GTタンパクを発現する組み換え体E. coli BL21(DE3)を、カナマイシン(50μg/ml)を含む2YT液体培地中、37℃で一晩培養した後、引き続き、IPTG(400μM)を加え30℃で6時間培養した。E.coli細胞を遠心分離(10,000g, 30秒間)で回収し、50mM K-Pi緩衝液(pH7.0、500μl)に懸濁し、再び同条件で遠心分離した。ペレット試験管に同様の緩衝液(300μl)と2-メルカプトエタノール14mMを加え懸濁し、超音波破砕機(Brandson Sonifier Model 250, BRANDSON ULTRASONICS, Danbury, CT. USA )を用いて大腸菌細胞を溶解させた。細胞残片を遠心分離(12,000g、20分間、4℃)で除去し、粗たんぱく溶液を得た。得られた粗たんぱく溶液は、-20℃で保存した。
【実施例】
【0054】
その後、SDS-PAGEによる粗たんぱく溶液の電気泳動解析は、SDS電気泳動試薬セット(ナカライテスク株式会社製)を用いて、製品添付書に記載されている方法に従って行った。
【実施例】
【0055】
その結果を図1に示す。E.coli BL21(DE3)に組み込まれた3GT酵素が発現していることが分かる。
【実施例】
【0056】
[実施例3]
酵素(粗たんぱく)の機能性検定
粗たんぱく溶液の酵素活性検定は以下の方法に従った。1.5mlの遠心分離用チューブを用意し、これに0.1M Tris-HCl(pH8)、0.5mM 基質(デルフィニジン及びシアニジン)及び粗たんぱく溶液(30μl)を加えて全量を50μlとした。溶液を30℃で30分間反応させた。反応後、溶液にクロロホルム混液(CHCl3:ethanol/1MHCl, 2:1)を10μl加え、反応を停止した。遠心分離(10,000g、3分間)行い、上層部(50μl)を新しいチューブに移し替え、高速液体クロマトグラフィーにて色素を同定した。
【実施例】
【0057】
標準品として、デルフィニジン(Dp)及びシアニジン(Cy)を用いた。HPLCの結果を図2に示す。図2から分かるとおり、粗たんぱく質により、Dpからはデルフィニジン3-グルコシドが、Cyからはシアニジン3-グルコシドがそれぞれ生成したことが分かる(図2)。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、デルフィニウム(Delphinium spp.)由来の3-O-グルコシルトランスフェラーゼ(3GT)が提供される。
【0059】
本発明に係る3GTをコードする遺伝子cDNA配列を、公知の方法によって、デルフィニウムの種内に単独で若しくは他の遺伝子と組合せて同時に導入するか、又は他の植物種に単独で若しくは他の遺伝子と組合せて導入することにより、その植物中でフラボノイドの生合成を改変又は制御することができ、これによってその植物中で生理活性物質を産生すること及び花色に多様性や新たな機能を付与した植物を開発することが可能になる。
【0060】
また、本発明に係る3GT遺伝子を大腸菌などの適当な宿主で発現させたり、公知の方法により無細胞生物系で発現させて、精製タンパク質を取得し、これを触媒としてフラボノイドの化学構造を変化させて新たな機能をもたせることが可能になると期待できる。
図面
【図1】
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【図2】
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