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明細書 :六価クロム吸着除去剤及びその製造方法、並びに六価クロムの除去方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4747326号 (P4747326)
公開番号 特開2009-011900 (P2009-011900A)
登録日 平成23年5月27日(2011.5.27)
発行日 平成23年8月17日(2011.8.17)
公開日 平成21年1月22日(2009.1.22)
発明の名称または考案の名称 六価クロム吸着除去剤及びその製造方法、並びに六価クロムの除去方法
国際特許分類 B01J  20/20        (2006.01)
C04B  38/06        (2006.01)
C02F  11/00        (2006.01)
C02F   1/28        (2006.01)
FI B01J 20/20 D
C04B 38/06 C
C02F 11/00 ZABC
C02F 11/00 M
C02F 1/28 J
請求項の数または発明の数 5
全頁数 15
出願番号 特願2007-174298 (P2007-174298)
出願日 平成19年7月2日(2007.7.2)
審査請求日 平成19年11月14日(2007.11.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
発明者または考案者 【氏名】金子 聡
【氏名】勝又 英之
【氏名】鈴木 透
【氏名】太田 清久
【氏名】今井 大蔵
【氏名】アハメド ハムウッド アハメド ダブワン
【氏名】加藤 忠哉
審査官 【審査官】北村 龍平
参考文献・文献 特開2005-145758(JP,A)
特開2006-239583(JP,A)
特開2003-181284(JP,A)
特開昭54-008191(JP,A)
特開昭53-032891(JP,A)
調査した分野 B01J 20/00 - 20/34
C02F 1/28
C02F 11/00
C04B 38/06
特許請求の範囲 【請求項1】
水系の底部から得られる浚渫底泥と木屑と珪酸ナトリウムとを、固形分重量比にて、それぞれ、46~62%と6~18%と25~37%の割合で配合してなる組成物を焼成して得られる多孔質構造の焼結体からなる六価クロム吸着除去剤において、該組成物を酸素の供給を遮断した状態下で400℃~700℃の温度で焼成し、さらに酸濃度が0.01M~10Mの酸性水溶液中に浸積処理され得られた焼結体からなることを特徴とする六価クロム吸着除去剤。
【請求項2】
前記木屑が、おがくずであることを特徴とする請求項1に記載の六価クロム吸着除去剤。
【請求項3】
水系の底部から得られる浚渫底泥と木屑と珪酸ナトリウムとを、固形分重量比にて、それぞれ、46~62%と6~18%と25~37%の割合で配合してなる組成物を調製した後、所定の大きさに成形し、その成形物を焼成して得られる多孔質構造の焼結体からなる六価クロム吸着除去剤の製造方法において、該成形物を酸素の供給を遮断した状態下で400℃~700℃の温度で焼成し、さらに酸濃度が0.01M~10Mの酸性水溶液中に浸積処理して、焼結体を得ることを特徴とする六価クロム吸着除去剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の六価クロム吸着除去剤を、浄化対象である被浄化物に接触せしめて、該被浄化物中に含有される六価クロムを除去することを特徴とする六価クロムの除去方法。
【請求項5】
前記六価クロム吸着除去剤を、pHが2以上、5未満とされた前記被浄化物中に浸漬せしめることを特徴とする請求項4に記載の六価クロムの除去方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、六価クロム吸着除去剤及びその製造方法、並びに六価クロムの除去方法に係り、特に、環境改善及び環境保全を充分に期待できる、六価クロムの吸着除去に有用な環境浄化剤、換言すれば六価クロム吸着除去剤と、それを有利に製造する方法、並びにそれを用いて、六価クロムを除去する方法に関するものである。

【背景技術】
【0002】
近年、人体や環境に与える六価クロムの悪影響が懸念され、金属の表面処理工程等においては、六価クロムフリーの三価クロメート処理が開発される等、六価クロムフリーの技術が急速に確立されつつある。この六価クロムは、酸化力が強く、人体に触れると皮膚や呼吸器官を刺激して、腫瘍や皮膚炎を発生させるおそれがあるため、生活環境への排出は厳しく制限されており、例えば、我が国の環境基準において、水道水に含まれる六価クロムは、その濃度が0.05ppm以下となるように規制されている。
【0003】
このように、六価クロムの排出は厳しく制限されてはいるものの、既に使用された六価クロムを保持する重金属スラッジや電子機器、電子回路、六価クロメート処理が施された金属製品等が、自然界に投棄される可能性がなくなったわけではなく、また、場所によっては、それらが既に野積みされて、土壌汚染を惹起し、そして、雨水等によって、近隣の河川水、湖沼水、池の水、地下水等の陸水に、比較的に高濃度の六価クロムが浸出しているといった現状もある。
【0004】
このような六価クロムの除去方法としては、従来より、還元水酸化物法とイオン交換樹脂法がよく知られている。ここで、前者の還元水酸化物法は、強酸性の条件下(例えば、pHが3以下)において、六価クロムを含む廃水に硫酸第一鉄や亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤を作用させて、六価クロムを三価クロムに還元した後、そこに、生石灰等の中和剤を添加することによって水酸化クロムを生成せしめて、沈殿させ、この沈殿物を濾過することにより、廃水から六価クロムを分離回収するものである。しかしながら、かかる方法では、硫酸鉄等の還元剤の使用によって、SOx等の有害ガスが発生するおそれがあると共に、還元剤が高価であるところから、処理コストが高騰するといった問題を内在している。加えて、この還元水酸化物法においては、六価クロムを完全に除去するために、還元剤が過剰に使用される傾向があり、この過剰の還元剤によって廃水のCOD値が上昇せしめられるといった新たな問題を惹起するおそれがある。
【0005】
一方、後者のイオン交換樹脂法は、強塩基性アニオン交換樹脂を使用して、廃液中の六価クロムを吸着除去せしめるものであるが、廃液中に、塩素イオン等の陰イオン類が多量に共存している場合には、かかる陰イオンによって六価クロムの吸着が阻害されるため、廃液の種類によっては、六価クロムの除去効果が充分に得られない場合があり、また、六価クロムの酸化力によって、イオン交換樹脂の機能が低下し、安定的な六価クロムの処理を継続できないといった問題を内在している。更には、使用電力が大きいために、ランニングコストが高く、経済的ではないといった欠点もある。
【0006】
従って、安価で、環境への影響が殆ど懸念されることのない、六価クロムの除去方法が強く求められているのである。
【0007】
ところで、木材・木製品製造業やパルプ製造業等から大量に排出されるおがくず等の木屑は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」により産業廃棄物として指定されており、この木屑を資源として有効に活用する方法の開発及び木屑の利用先の確保が、非常に重要になってきている。これまでにも、間伐材や廃材からの木質チップや、木材やパルプ製造工程で排出されるおがくずを利用して、六価クロムの吸着に応用した例が、幾つか報告されている。
【0008】
例えば、特許文献1においては、六価クロムを含有する酸性溶液に、おがくずやパルプスラッジ等のセルロースを含む有機材を接触させて、六価クロムを三価クロムに還元し、六価クロムを除去する方法が提案されている。しかしながら、かかる特許文献1に記載の手法では、セルロースを二酸化炭素と水に分解せしめる反応によって、六価クロムを三価クロムに還元するようにしているところから、強酸性及び高温条件下において、浄化対象である被処理液とセルロースを含む有機材とを接触せしめる必要があり、このため、浄化に際して、被浄化液を所定の温度(50℃以上)まで加熱する必要がある。従って、かかる手法を、莫大な量の陸水の浄化に適用することは、現実的ではなく、ましてや、六価クロムを含有する廃棄物の設置場所の周辺等、将来的に六価クロムによる汚染が惹起され得る可能性のある、河川水や地下水等の汚染防止に、かかる手法を適用することは、不可能であったのである。
【0009】
また、特許文献2には、安価で環境にやさしく、陰イオン吸着性に優れた陰イオン吸着炭素材料の製造装置が提案されており、かかる製造装置を用いて、木材チップ等の原料を炭化し、そして、生成された炭化物を酸溶液に接触させて、陰イオン吸着炭素材料を製造した後、これを、ペレット化又は粉砕して、製品としている。しかしながら、おがくず等の木屑を炭化させた場合、ペレット化又は粉砕された陰イオン吸着炭素材料は、何れも、水に浮いてしまう可能性が高く、河川や湖沼の底部や水中に設置して浄化を行うには、不向きなものとなっている。また、陰イオン吸着炭素材料をペレット化する場合には、工程が複雑となってコストが嵩むだけでなく、使用するバインダによっては、陰イオン吸着炭素材料自体の環境への影響も懸念される。
【0010】
また一方、近年においては、閉鎖性海域の水質悪化に伴い、水系の底部に堆積した底泥を除去するために、浚渫事業が、公共事業の一環として行われているのであるが、産業廃棄物である浚渫底泥の埋め立て処分場の確保や費用等の問題から、今後、浚渫事業が継続して行われないおそれがある。このような状況の下、浚渫底泥を処理するための様々な処理技術が提案されており、例えば、特許文献3~5には、湖沼、海洋等からくみ上げた底泥に水ガラス(珪酸ナトリウム)等を添加して、底泥を固化せしめ、再利用可能な処理土とする方法が明らかにされている。
【0011】
また、本願出願人のうちの一人は、先に、特許文献6において、産業廃棄物である浚渫底泥を、貝殻及び/又は蠣殻の粉砕物と混合し、更にこれにバインダとして、珪酸ナトリウム(水ガラス)を加えて得られた組成物を固化焼成してなる焼結体を提案し、これが、工場排水等の産業排水や生活排水の浄化に有効であることを明らかにした。しかし、この先に提案した水質浄化用焼結体にあっては、陽イオン形態で存在する重金属の除去には非常に効果的であったのであるが、前述せる如き六価クロム等の陰イオン形態で存在する重金属の除去には、その効果が有効に発現され得ないことが明らかとなったのである。
【0012】

【特許文献1】特開2001-58192号公報
【特許文献2】特許3822894号公報
【特許文献3】特開平11-61128号公報
【特許文献4】特開平11-235600号公報
【特許文献5】特開平2005-7335号公報
【特許文献6】特開2006-239583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、六価クロムで汚染された被浄化物を、SOx等の有害ガスを発生させることなく、しかも低コストで浄化することができると共に、環境への影響が殆ど懸念されることのない、新規な環境浄化剤(六価クロム吸着除去剤)と、それを有利に製造する方法、並びに、かかる環境浄化剤を用いて、六価クロムを除去する方法を提供することにある。

【課題を解決するための手段】
【0014】
そして、本発明者等が、六価クロムの除去に有用な環境浄化剤について鋭意検討を重ねた結果、浚渫底泥と、おがくず等の木屑と、珪酸ナトリウムとを、それぞれ、特定の割合で配合せしめてなる組成物を焼成して得られた焼結体が、水溶液中において陰イオン形態として存在する六価クロムの除去においても有用であることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0015】
すなわち、本発明は、水系の底部から得られる浚渫底泥と木屑と珪酸ナトリウムとを、固形分重量比にて、それぞれ、46~62%と6~18%と25~37%の割合で配合してなる組成物を焼成して得られた、多孔質構造の焼結体からなることを特徴とする環境浄化剤を、その要旨とするものである。
【0016】
なお、かかる本発明に従う環境浄化剤の望ましい態様の一つによれば、前記木屑としては、おがくずが、用いられることとなる。
【0017】
そして、このような本発明に従う環境浄化剤を有利に製造するために、本発明にあっては、水系の底部から得られる浚渫底泥と木屑と珪酸ナトリウムとを、固形分重量比にて、それぞれ、46~62%と6~18%と25~37%の割合で配合してなる組成物を調製した後、所定の大きさに成形し、その得られた成形物を400℃~700℃の温度で焼成し、多孔質構造の焼結体を得ることを特徴とする環境浄化剤の製造方法をも、その要旨としている。
【0018】
なお、このような本発明に従う環境浄化剤の製造方法の好ましい態様の一つによれば、前記焼成して得られた焼結体が、酸性水溶液中に浸漬処理されることとなる。
【0019】
また、かかる本発明に従う環境浄化剤の製造方法の別の好ましい態様の一つによれば、前記焼成が、酸素の供給を遮断した状態下において行われる。
【0020】
また、本発明は、上述の如き環境浄化剤を、浄化対象である被浄化物に接触せしめて、該被浄化物中に含有される六価クロムを除去することを特徴とする六価クロムの除去方法をも、その要旨とするものである。
【0021】
なお、そのような本発明に従う六価クロムの除去方法における好ましい態様の一つにおいては、前記環境浄化剤が、pHが2以上、5未満とされた前記被浄化物中に接触せしめられることとなる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明に従う環境浄化剤においては、水系の底部から得られる浚渫底泥と木屑と珪酸ナトリウムとを、所定の割合で配合した組成物が用いられ、この組成物を焼成して、多孔質構造の焼結体を得ているところから、木屑の炭化物が、浚渫底泥を主体とする多孔質構造の焼結体中に含有乃至は保持されているのである。このため、SOx等の有害ガスを発生する還元剤を何等使用しなくても、本発明に従う環境浄化剤を与える焼結体中の炭化物と焼結体の多孔質構造によって、水溶液中において陰イオン形態として存在する六価クロムが効果的に吸着除去され得るようになっているのであり、また、原料コストも低廉で、浄化に際して、加熱や通電を何等必要とするものではないところから、低コストで浄化処理を実施することができるようになっている。
【0023】
また、本発明に従う環境浄化剤にあっては、水系の底部から得られる浚渫底泥を主体とする焼結体にて構成されているところから、木屑を炭化して得られる炭化物のみからなる吸着材料とは異なり、多孔質構造であっても、水に浮いてしまうようなことはなく、河川や湖沼の底部や水中に浸漬して浄化を行うことが可能となっているのであり、これにて、被浄化物中に含まれる六価クロムを有利に吸着除去し得ることとなる。
【0024】
さらに、かかる本発明に従う環境浄化剤を、その原料の一つである浚渫底泥の採取場所近辺の水域に適用した場合には、環境浄化剤は、その適用現場に近い物質系を構成することとなる。また、そのような焼結体の他の原料である珪酸ナトリウムや木屑にあっても、自然に豊富に存在する元素から構成されるものであるところから、環境浄化剤の用いられる現場において、環境浄化剤に起因する二次汚染の可能性も殆ど無いのである。つまり、本発明に従う環境浄化剤は、環境への影響を殆ど懸念する必要がないものとなっているのである。
【0025】
しかも、本発明に従う環境浄化剤を与える焼結体は、珪酸ナトリウムがバインダとして所定の割合で配合されているところから、充分な強度を有し、被浄化物中において、容易に崩壊するようなことが防止され得ており、長期に亘って、有効な浄化作用を発揮し得るのである。
【0026】
加えて、本発明にあっては、産業廃棄物として処理される浚渫底泥及び木屑を、有効な資源として、利用するものであるところから、埋め立て処理場の確保等が問題となっている産業廃棄物の削減にも、大いに寄与し得るものとなっている。特に、木屑については、そのリサイクルが早急に要望されているところから、環境浄化剤としての利用は、極めて意義が高いものと言える。
【0027】
また、本発明に従う環境浄化剤の製造方法によれば、浚渫底泥と木屑と珪酸ナトリウムとからなる組成物を用いて成形し、その成形物を所定の温度で焼成することによって、上述の如き六価クロムの吸着除去性能に優れた、多孔質構造の焼結体が、有利に得られるのである。
【0028】
さらに、本発明に従う六価クロムの除去方法によれば、上述せる如き環境浄化剤を、浄化対象である被浄化物に接触せしめることによって、かかる被浄化物中に含まれる六価クロムを効果的に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
ところで、かかる本発明に従う環境浄化剤において、それを与える多孔質構造の焼結体の主たる構成成分たる、水系の底部から得られる浚渫底泥は、河川、湖沼、河口域、閉鎖性の海域等の水系の底部から、浚渫作業等によって、従来と同様にして取り出される、有機質の豊富なもの(例えば、三重県の英虞湾の浚渫底泥では、固形分の10~15%程度が有機質)であって、そのような水系の底部から取り出された底泥は、通常、乾燥等の操作によって、ある程度の脱水が施されて、含水率が30%~40%程度のものとして、用いられることとなる。この水系の底部から得られる浚渫底泥としては、特に限定されるものではないものの、環境浄化剤を水系(例えば、河川、湖沼、河口域、海域等)の浄化に利用する場合には、それによって形成される環境浄化剤が利用される水域の底部から得られる浚渫底泥であることが望ましく、これによって、現場水域に、より適合した環境浄化剤とすることが可能である。
【0030】
また、そのような水系の底部から得られる浚渫底泥に配合される木屑は、本発明に従う環境浄化剤に六価クロムの除去機能を付与するための成分であって、この木屑が所定の割合で配合されて、焼成されることによって、焼結体中に木屑の炭化物が含有乃至は保持されて、六価クロムの吸着除去効率が効果的に高められることとなるのである。なお、この木屑としては、その言葉通り、木材の切り屑や削り屑等の屑であれば、木材の種類は何等限定されるものではなく、同一材質の木屑であっても、或いは異材質の木屑が混合されたものであってもよく、例えば、木材・木製品製造業やパルプ製造業等の木材加工業において排出される木屑を、有効に活用することができる。このような木屑の中でも、特に、細かなものが望ましく、具体的には、0.01mm~5mm程度、より好適には、0.1mm~1mm程度のおがくずが有利に用いられるのであり、このような細かな木屑(おがくず)を用いることによって、浚渫底泥との混合性が有利に高められると共に、木屑の表面だけでなく内部までも炭化度が向上して、より一層優れた六価クロムの除去効果が付与されるようになる。
【0031】
さらに、それら浚渫底泥や木屑に配合される珪酸ナトリウムは、バインダとして機能するものであって、その配合によって、焼成して得られる多孔性の焼結体に、充分な強度を付与し得るものである。これにより、本発明に従う環境浄化剤を浄化対象である被浄化物(河川水、湖沼水、池の水、地下水、海水、土壌等)に、浸漬したり、埋設する等して接触せしめた際に、環境浄化剤が崩壊して粉々になるようなことが防止され、以て、有効な浄化作用が長期に亘って発揮せしめられるのである。
【0032】
そして、それら浚渫底泥と木屑と珪酸ナトリウムとは、目的とする多孔質構造の焼結体からなる環境浄化剤を得る上において、固形分重量比にて、46~62%と6~18%と25~37%の割合で配合せしめられる必要がある。かかる配合割合において、木屑の配合量が6%よりも少ないと、六価クロムの除去効率が極端に低下するようになる一方、その配合量が18%よりも多くなり過ぎると、得られる焼結体が脆くなって、実用に供し得なくなる。また、バインダとしての珪酸ナトリウムの配合量が25%よりも少なくなっても、充分な強度を有する焼結体を得ることが困難となり、そのために、実用に供し難くなる一方、その配合量が37%よりも多くなると、焼結体の強度は高められ得るものの、焼結体の比表面積が小さくなって、焼結体の六価クロムの除去効率が低下するのである。特に、その中でも、本発明にあっては、固形分重量比にて、木屑:10~15%、珪酸ナトリウム:23~30%、浚渫底泥:残部なる配合組成が、有利に採用されることとなる。
【0033】
このように、本発明にあっては、浚渫底泥を主成分としつつ、それに特定量の木屑と珪酸ナトリウムを配合して、目的とする多孔質構造の焼結体を与える組成物が調製されることとなるのであるが、そのような組成物には、それら三成分の他にも、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、必要に応じて、各種の配合剤、例えば水系の底部から取り出された底泥の凝集や脱水のための薬剤や固化剤、結合助剤、多孔化補助剤等を適宜に配合せしめることが可能である。
【0034】
そして、本発明においては、目的とする環境浄化剤を与える多孔質構造の焼結体を得るべく、上述の如くして得られる組成物を用い、先ず、それを、一般的な成形手法に従って、所望とする形状や大きさに成形して、円盤状や粒状等の各種の形状・大きさの未焼成の成形物が、形成されることとなる。次いで、この得られた成形物を、焼成することにより、目的とする焼結体が製造されるのである。
【0035】
なお、このような組成物の焼成に際して、その焼成温度としては、一般に、400~700℃の範囲内の温度において、適宜に選定されることとなるが、特に有利には、600~700℃の範囲内の焼成温度が採用されることとなる。この焼成温度が低くなり過ぎると、充分な焼成を行うことができず、そのために、焼結体の強度を充分に高めることが困難となるからであり、また焼成温度が高くなり過ぎると、焼結体に有効な多孔質構造を形成することが困難となる等の問題を惹起するからである。
【0036】
また、上記焼成は、酸素の供給を遮断した状態下で行うことが望ましく、これによって、組成物中に含まれる木屑の炭化度を有利に高めることができ、以て、より一層高い吸着性能が焼結体に付与されるようになる。
【0037】
そして、組成物を焼成して得られた焼結体には、その表面の有効な多孔構造をより有利に実現するべく、必要に応じて、酸性水溶液中に浸漬する浸漬処理が施される。かかる酸性水溶液としては、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、過塩素酸等の無機酸や、シュウ酸、酢酸、ギ酸等の有機酸の水溶液が何れも用いられるのであり、また、酸濃度としては、0.01~10M程度の酸性水溶液が、焼結体の多孔性を高める上において、好適に採用され得るのである。なお、この酸性水溶液による処理は、一般に3時間以上の時間において実施され、その上限としては24時間程度とされることとなる。処理時間が24時間を超えても、その処理効果に大きな変化を期待することが困難であるからである。
【0038】
さらに、このような焼成操作・必要な処理によって得られた焼結体は、多孔質構造において充分な強度を有するものとして、有利には、焼結体の破壊時における最大荷重を圧縮強度試験機で測定して得られる、一軸圧縮強度(JIS R 5210 セメントの物理試験方法に準拠)が、4.0N/mm2 以上であるものとして、形成されることとなる。また、そのような焼結体の大きさとしては、その取扱い性等を考慮して、一般に、0.5mm~10cm程度の外形寸法のものとして、形成されることとなる。
【0039】
そして、かくの如くして得られた多孔質構造の焼結体にあっては、木屑の炭化物が含有乃至は保持されているのであり、この炭化物の存在によって、陽イオン形態で存在するカドミウムや、鉛、クロム、水銀、アンチモン、バナジウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ビスマス、インジウム等の重金属のみならず、陰イオン形態で存在する重金属、特に六価クロムをも効果的に吸着除去せしめ得るものとなっているのである。また、水系の底部から得られる浚渫底泥を主体として構成されているところから、木屑を炭化して得られる炭化物のみからなる吸着材料とは異なり、水面に浮かぶおそれもない。従って、このような焼結体からなる環境浄化剤は、有効な環境浄化作用、特に水質浄化作用を発揮し得るものであって、これにより、環境改善や環境保全に効果的に寄与し得るのである。
【0040】
ここにおいて、上述せる如き焼結体からなる環境浄化剤を用いて、河川水、湖沼水、池の水、地下水、海水等の被浄化物に含まれる六価クロムを除去するには、環境浄化剤を、目的とする水域、例えば河川、湖沼、河口域、海域等に、投入乃至は撒布せしめて、浸漬するようにすればよい。また、特に、六価クロムを含有する産業廃棄物の集積場等、高濃度の六価クロムの流出が懸念される場所の周辺にある河川等においては、水の流れによって、環境浄化剤が下流に流されないように、かかる環境浄化剤を、水の透過が可能なネットや柵等に収容し、それを河川等に、固定的に設置するようにすればよい。
【0041】
また、上記環境浄化剤は、産業廃棄物が廃棄された土壌等、六価クロムによる汚染が懸念される土壌に対しても、有利に適用することができるのであり、例えば、土壌中に埋設せしめるようにすれば、雨水等によって、六価クロムが浸出しても、土壌に埋設された環境浄化剤によって、土壌中に含まれる六価クロムを有利に吸着除去し得るのであり、その結果として、将来的に起こり得る河川水や地下水等の汚染を、未然に防止乃至は抑制することも可能となる。
【0042】
このように、本発明によれば、上述せる如き環境浄化剤を、浄化対象である被浄化物に接触せしめるだけで、被浄化物中に含まれる六価クロム等の汚染物質を有利に吸着除去せしめることができるのであり、浄化に際して、加熱等が何等必要ではないところから、浄化作業を極めて経済的に行うことができるのである。
【0043】
なお、本発明において、上記環境浄化剤による六価クロムの吸着除去能力を最大限に発現せしめるには、塩酸、硝酸、硫酸、蓚酸、フタル酸等のpH調整剤を用いて、被浄化物のpHを2以上、5未満、より好ましくは、2~4.5、更に好ましくは3前後にすることが望ましく、こうすることによって、六価クロムをより一層効率的に除去することが可能となる。しかし、水域や土壌のpHを直に低下せしめることは、当然のことながら、環境に対して大きな負荷をかけるところから、現実的には困難であるが、河川水等の被浄化物を取り出して、六価クロムを除去する場合には有効であり、例えば、河川水等を取り出して、pHを上記範囲に調整した後、それを、上記環境浄化剤を充填したカラム等に通すようにすれば、連続的に且つより一層確実に六価クロムを吸着除去せしめ得るのであり、その後、カラムを通過した被浄化物を中和して、元の河川等に戻すようにすれば、環境に悪影響を及ぼすこともなく、六価クロムの除去を行うことができるのである。
【0044】
また、かくの如き本発明に従う環境浄化剤を与える焼結体は、所定量の珪酸ナトリウムの配合によって、充分な強度を有しているところから、上述の如き被浄化物への適用に際して、その形状が崩れることなく、適用水又は土壌中において有効に存在せしめられ得ることとなる。そして、それによって、環境浄化作用、特に、水質浄化作用が、長期に亘って、有利に発揮せしめられ得るのである。
【0045】
さらに、そのような焼結体からなる環境浄化剤にあっては、その焼結体の主たる構成成分である浚渫底泥が、水系の底部から取り出されたものであって、そのような環境浄化剤の用いられる水系の底部と同様な環境のものであり、加えて、木屑や珪酸ナトリウムにあっても、自然界に比較的に豊富に存在する元素からなるものであるところから、自然に近い組成から構成される環境浄化剤となり、それが適用される水域における環境浄化剤に起因する環境汚染の懸念は、殆ど無いのである。
【0046】
加えて、本発明は、産業廃棄物として処理される浚渫底泥及び木屑を、共に有効な資源として、利用するものであるところから、埋め立て処理場の確保等が問題となっている産業廃棄物の削減にも、大いに貢献し得ることとなる。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明の試験例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような試験例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の試験例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0048】
試験例1(焼成雰囲気の影響)
先ず、浚渫底泥として、三重県の英虞湾の海底から浚渫により得られた海洋底泥を用い、それを自然乾燥させて、含水率が約30%の底泥を準備した。そして、この含水率の調整された海洋底泥と、木材加工業から排出されたおがくず(大きさ:0.1~0.4mm程度)と、珪酸ナトリウム(珪酸Na)とを、下記表1に示される混合比(固形分重量比)において配合し、更に適宜水を加えて、成形に適した均一な組成物とした。その後、この組成物を円盤状に成形し、更にその得られた成形物を、4℃/分の昇温速度で、400℃の目標温度まで加熱すると共に、その温度下において、2時間固化焼成して、直径:10mm程度、厚さ:5mm程度の大きさの円盤状の焼結体を得た。この際、試料No.1においては、成形物を空き缶内に収容し、酸素の供給を遮断した閉鎖状態(クローズド)で焼成を行う一方、試料No.2においては、成形物に酸素が充分に供給され得る状態(オープン)で焼成を行った。次いで、上記で得られた焼結体を、1Mの硝酸水溶液に24時間浸漬することにより、かかる焼結体の表面を処理して、多孔性を高め、浄化能力が向上せしめられた試料No.1,2に係る焼結体とした。
【0049】
かくして得られた焼結体のそれぞれについて、その水質浄化能力を評価するために、六価クロムの吸着除去効率をバッチ法にて測定した。即ち、それぞれの焼結体の1gを、六価クロムの濃度が100ng/mLである、硝酸(1N)でpHが3に調整されたK2Cr27 水溶液の50mL中に2時間浸漬させた。そして、水溶液中に残存する六価クロムの濃度を、JIS K 0102に準じて、電気加熱原子吸光法により測定し、得られた測定値から、六価クロムの吸着除去効率を求め、その結果を、下記表1に示した。
【0050】
【表1】
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【0051】
かかる表1の結果から明らかなように、試料No.1及び2の何れの焼結体も、六価クロムの吸着除去能を有していることが、明らかとなった。また、酸素の供給を遮断した閉鎖状態(クローズド)で焼成を行った試料No.1の焼結体の方が、オープン状態で焼成したNo.2の焼結体に比べて、六価クロムの吸着除去効率が高いことが、わかった。
【0052】
試験例2(木屑配合量の影響)
主として、木屑及び底泥の配合量を異ならしめた組成物を用いて、酸素の供給を遮断した閉鎖状態(クローズド)で焼成を行った以外は、上記試験例1と同様にして、試料No.3~6に係る焼結体を製造し、そしてそれぞれの焼結体について、試験例1と同様に、六価クロムの吸着除去効率を求め、その結果を、下記表2に示した。
【0053】
【表2】
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【0054】
かかる表2の結果から明らかなように、木屑の配合量が増加するに従って、六価クロムの吸着除去効率が向上することが、認められた。しかしながら、木屑の配合量が18重量%を超えると、焼結体の強度が著しく低下して、脆くなり、実用性に問題があることを、別途確認した。このため、木屑の配合量が多いほど、六価クロムの吸着除去効率は向上するものの、実用的には、木屑の配合量:12重量%前後が最適であると考えられる。
【0055】
また、木屑を含有しない試料No.3に係る焼結体にあっては、六価クロムが殆ど除去されていないことが、認められた。
【0056】
試験例3(珪酸ナトリウム配合量の影響)
主として、珪酸ナトリウム及び底泥の配合量を異ならしめた組成物を用いて、酸素の供給を遮断した閉鎖状態(クローズド)で焼成を行った以外は、上記試験例1と同様にして、試料No.7~9に係る焼結体を製造し、そしてそれぞれの焼結体について、試験例1と同様に、六価クロムの吸着除去効率を求め、その結果を、下記表3に示した。
【0057】
また、得られた試料No.7~9に係る焼結体を用いて、それらの比表面積(m2/g)を、JIS B 9950に準拠して、窒素を吸着ガスとして用いて測定し、得られた結果を、下記表3に示した。更に、一軸圧縮強度をJIS R 5210のセメントの物理試験方法に準拠して測定し、得られた測定値から、試料No.7の一軸圧縮強度に対する相対強度を算出して、得られた算出結果を、下記表3に示した。
【0058】
【表3】
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かかる表3の結果から明らかなように、珪酸ナトリウム(バインダ)の配合量が増加するに従って、比表面積が小さくなり、六価クロムの吸着除去効率が低下するものの、焼結体の強度は向上することが、認められた。また、珪酸ナトリウムの配合量が25重量%に満たない場合には、焼結体の強度が著しく低下して、脆くなり、実用に供し得ないことを、別途確認した。このため、珪酸ナトリウムの配合量は、25重量%前後が最適であると考えられる。
【0059】
試験例4(焼成温度の影響)
底泥と木屑と珪酸ナトリウムの配合比を、下記表4に示される一定の比率とする一方、焼成温度(焼結温度)を、下記表4の如く変化させて、酸素の供給を遮断した閉鎖状態(クローズド)で焼成を行った以外は、上記試験例1と同様にして、試料No.10~13に係る焼結体を製造し、そしてそれぞれの焼結体について、試験例1と同様に、六価クロムの吸着除去効率を求め、その結果を、下記表4に示した。
【0060】
また、得られた試料No.10~13に係る焼結体について、走査型電子顕微鏡により、その表面観察を、5000倍の倍率で行い、その結果を、図1~図4に示した。このような表面観察の結果よりして、焼結体の表面には、かなりの凹凸が見られ、多孔質構造となっていることが、認められた。
【0061】
【表4】
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【0062】
かかる表4の結果から明らかなように、焼成温度が高いほど、六価クロムの吸着除去効率が高くなることが、認められた。また、図1~4を対比すると、焼成温度が700℃になると(図4参照)、表面積(多孔性)が減少するようになることがわかる。このため、焼成温度は、600~700℃程度が最適であると考えられる。
【0063】
試験例5(pHの影響)
底泥と木屑と珪酸ナトリウムの配合比を、下記表5に示される一定の比率とし、600℃の焼成温度で、酸素の供給を遮断した閉鎖状態(クローズド)で焼成を行った以外は、上記試験例1と同様にして、試料No.14~20に係る焼結体を製造した。そして、K2Cr27 水溶液のpHを、下記表5の如く変化させる以外は、試験例1と同様にして、各焼結体における六価クロムの吸着除去効率を求め、その結果を、下記表5に示した。
【0064】
【表5】
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【0065】
かかる表5の結果から明らかなように、六価クロムを含有する水溶液(K2Cr27 水溶液)のpHが1~7の何れの場合にも、六価クロムが除去され得るのであるが、特に、pH3前後であると、焼結体による六価クロムの吸着除去効率が顕著に高くなることが、認められた。
【0066】
試験例6(環境浄化剤量の影響)
上記試験例5と同様にして、試料No.21~24に係る焼結体を製造した。そして、K2Cr27 水溶液への焼結体の添加量を、下記表6の如く変化させる以外は、試験例1と同様にして、各焼結体における六価クロムの吸着除去効率を求め、その結果を、下記表6に示した。
【0067】
【表6】
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【0068】
かかる表6の結果から明らかなように、環境浄化剤である焼結体の添加量が増加するにつれて、六価クロムの吸着除去効率が増加することが、認められた。
【0069】
試験例7(処理時間の影響)
上記試験例5と同様にして、試料No.25~29に係る焼結体を製造した。そして、K2Cr27 水溶液への焼結体の浸漬時間を、下記表7の如く変化させる以外は、試験例1と同様にして、各焼結体における六価クロムの吸着除去効率を求め、その結果を、下記表7に示した。
【0070】
【表7】
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【0071】
かかる表7の結果から明らかなように、浸漬時間(処理時間)が長くなるにつれて、六価クロムの吸着除去率が向上することが、認められた。このため、例えば、焼結体からなる環境浄化剤を、カラム充填材として用いる場合には、カラム長さ(ここでは、カラムに充填される充填材の充填量)が長いほど、六価クロムが除去され得ると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】試験例4において製造された試料No.10に係る焼結体の表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】試験例4において製造された試料No.11に係る焼結体の表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】試験例4において製造された試料No.12に係る焼結体の表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】試験例4において製造された試料No.13に係る焼結体の表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3