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明細書 :発芽種子およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5641467号 (P5641467)
公開番号 特開2011-024472 (P2011-024472A)
登録日 平成26年11月7日(2014.11.7)
発行日 平成26年12月17日(2014.12.17)
公開日 平成23年2月10日(2011.2.10)
発明の名称または考案の名称 発芽種子およびその製造方法
国際特許分類 A23L   1/30        (2006.01)
A23L   1/10        (2006.01)
A23L   1/212       (2006.01)
A23L   1/20        (2006.01)
FI A23L 1/30 B
A23L 1/10 Z
A23L 1/212 A
A23L 1/20 A
A23L 1/20 F
請求項の数または発明の数 14
全頁数 19
出願番号 特願2009-172977 (P2009-172977)
出願日 平成21年7月24日(2009.7.24)
審査請求日 平成24年7月23日(2012.7.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
発明者または考案者 【氏名】大坪 研一
【氏名】中村 澄子
個別代理人の代理人 【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】鳥居 敬司
参考文献・文献 Plant Physiol., 1992, Vol.100, p.902-907
Appl. Environ. Microbiol., 1991, Vol.57, No.5, p.1485-1488
Indian Journal of Experimental Biology, 1981, Vol.19, p.707-709
J. Agric. Food. Chem., 2007, Vol.55, p.10067-10080
調査した分野 A23L 1/00-1/48
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/WPIX(STN)
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特許請求の範囲 【請求項1】
食用植物種子を、鱗葉部分を含む赤玉葱を含有する溶液中に浸漬して発芽処理を行うこと、を特徴とする発芽種子の調製方法。
【請求項2】
前記鱗葉部分を含む赤玉葱が、乾燥物粉末にしたものである、請求項1に記載の発芽種子の調製方法。
【請求項3】
前記発芽種子の調製方法が、種子の発芽速度、発芽率、抗菌性、呈味成分、および機能性成分、が向上されたものである、請求項1又は2のいずれかに記載の発芽種子の調製方法。
【請求項4】
前記溶液が、pH5.0~7.0であり、且つ、前記鱗葉部分を含む赤玉葱を乾燥物換算で0.2~10.0重量%含有するものである、請求項1~3のいずれかに記載の発芽種子の調製方法。
【請求項5】
前記溶液が、前記鱗葉部分を含む赤玉葱を含有させた後に固形分を除去した溶液である、請求項1~4のいずれかに記載の発芽種子の調製方法。
【請求項6】
前記食用植物種子が、稲、豆類、麦類、雑穀類、および野菜類のうちの1以上からの種子である、請求項1~のいずれかに記載の発芽種子の調製方法。
【請求項7】
前記食用植物種子が、稲の種子である、請求項6に記載の発芽種子の調製方法。
【請求項8】
前記稲の種子が、グルコース重合度12以下のアミロペクチン短鎖の割合がデンプン全体の20%以下の超硬質米の種子である、請求項7に記載の発芽種子の調製方法。
【請求項9】
前記稲の種子が、巨大胚芽米の種子である、請求項7に記載の発芽種子の調製方法。
【請求項10】
請求項7~9のいずれかに記載の発芽種子の調製方法において、前記稲の種子を、25~40℃の温度の前記溶液中に浸漬して、3~6時間で迅速に発芽処理を行うものである、発芽種子の調製方法。
【請求項11】
前記食用植物種子が、大豆又は小豆の種子である、請求項6に記載の発芽種子の調製方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の方法により発芽種子を調製し、当該発芽種子を食品中に含有させることを特徴とする、発芽種子含有食品の製造方法。
【請求項13】
前記発芽種子が発芽玄米である、請求項12に記載の発芽種子含有食品の製造方法。
【請求項14】
前記発芽種子含有食品が、米飯、パン、麺、菓子、もしくは液状食品のいずれかの食品である、請求項12又13のいずれかに記載の発芽種子含有食品の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、発芽種子の調製方法に関し、詳しくは、葱類(特に赤玉葱)を含有する溶液中に浸漬して発芽処理を行うことを特徴とする、種子の発芽速度、発芽率、抗菌性、呈味成分、および機能性成分、が向上された発芽種子の調製方法、に関する。
また、本発明は、前記方法によって得られる発芽種子、;前記発芽種子を含有する発芽種子含有食品(特に、発芽玄米を含有する米飯、パン、麺、菓子、液状食品)、;に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の最も身近な食品素材である米は、一人あたりの消費は昭和37年以降減少傾向にあるが、新しい加工技術の開発により、安全性および炊飯性に優れた実用的な発芽玄米が開発された(特許文献1参照)。
【0003】
発芽玄米は、玄米を水に浸漬することで酵素を活性化し、胚芽中のタンパク質が加水分解され多量のグルタミン酸を生成し、このグルタミン酸がグルタミン酸デカルボキシラーゼ(glutamate decarboxylase; GAD)の作用で、γ-アミノ酪酸(以下、単にGABAと記載する場合あり)に生合性される。発芽玄米のGABA含量は、玄米の約2倍、白米の約10倍以上になる(非特許文献1参照)。
GABAは、抑制性の神経伝達物質として知られており、広く自然界に存在する非蛋白性アミノ酸である。GABAは、高血圧症予防、中性脂肪の増加の抑制、精神安定作用等の効果がある(非特許文献2,3参照)。
また発芽玄米は、発芽時にデンプンから生成されるグルコースを主体とする各種の遊離糖やオリゴ糖類が食味の改善効果を現し、玄米の持つヌカ臭や食感等の問題点を克服・改善した米の新たな商品として注目されている(非特許文献4参照)。
【0004】
このような発芽玄米の優れた特徴を活用して、米の消費を拡大し、日本人の食生活を豊かにすると同時に、食料自給率(現在の日本の食料自給率は、約40%と先進国中で最低水準)を高めることが期待とされている。
さらに、現在は、世界的にスプラウト(発芽作物)のブームが起こっており、発芽によって、栄養機能性の付与された穀類、豆類、野菜の需要が急速に拡大しており、発芽玄米や作物発芽種子の栄養性の向上、特に‘呈味性や機能性の向上’は、作物全体のニーズにおいてきわめて強い課題である。
【0005】
また、これら発芽種子、特に発芽玄米は、発芽処理の際に雑菌が増殖しやすく、耐熱性芽胞菌が付着しやすい。そこで、発芽処理後に加熱殺菌するか(特許文献1参照)、あるいは、食品加工時にエクストルーダーによる高温高圧加工(非特許文献5参照)が必要とされている。しかし、特に発芽玄米にはおいては、上記微生物の発酵に由来する特有の不快臭が発生する(特許文献1参照)。また、加熱処理は、各種の酵素やビタミンB、ビタミンCなどの活性を損なうので、機能性の観点からは好ましくない。
そこで、発芽処理後の加熱工程ではなく、‘発芽処理中における雑菌増殖を抑える’ための安全な手段として、が求められている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2000-217520号公報
【0007】

【非特許文献1】Saikusa T. et al., Journal of Agricultural and Food Chemistry, 42, 1122-1125, 1994
【非特許文献2】Takashi.T.et al.,Japanese Journal of Physiology, 22, 89-95, 1961
【非特許文献3】Leventhal A.G. et al., Science, 300, 812-815, 2003
【非特許文献4】Ohtsubo, K. et al., Journal of Food Composition and Analysis, 18(2005) 303-316
【非特許文献5】Ohtsubo, K. et al., Journal of Food Composition and Analysis, 18(2005) 303-316
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を解決し、発芽種子を調製するにあたり、‘発芽種子の呈味性および機能性を向上させる’と同時に‘発芽処理中における雑菌増殖を安全な手段で抑える’方法、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、発芽種子を調製するにあたり、葱類(特に赤玉葱)を含有する溶液に、種子に対する発芽促進作用(発芽率および発芽速度を向上させる作用)、および、抗菌作用があることを見出した。そして、これにより、発芽処理の時間を大幅に短縮することが可能となり、‘雑菌増殖を安全な手段で抑える’ことができることを見出した。
また、発芽種子中の呈味成分であるグルコース、機能性成分であるGABAを増加でき、さらに、葱類に含まれるケルセチン配糖体など(機能性成分)も付与できること、を見出した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0010】
即ち、請求項1に係る本発明は、食用植物種子を、鱗葉部分を含む赤玉葱を含有する溶液中に浸漬して発芽処理を行うこと、を特徴とする発芽種子の調製方法、に関するものである。
請求項2に係る本発明は、前記鱗葉部分を含む赤玉葱が、乾燥物粉末にしたものである、請求項1に記載の発芽種子の調製方法、に関するものである。
請求項3に係る本発明は、前記発芽種子の調製方法が、種子の発芽速度、発芽率、抗菌性、呈味成分、および機能性成分、が向上されたものである、請求項1又は2のいずれかに記載の発芽種子の調製方法、に関するものである。
請求項4に係る本発明は、前記溶液が、pH5.0~7.0であり、且つ、前記鱗葉部分を含む赤玉葱を乾燥物換算で0.2~10.0重量%含有するものである、請求項1~3のいずれかに記載の発芽種子の調製方法、に関するものである。
請求項5に係る本発明は、前記溶液が、前記鱗葉部分を含む赤玉葱を含有させた後に固形分を除去した溶液である、請求項1~4のいずれかに記載の発芽種子の調製方法、に関するものである。
請求項6に係る本発明は、前記食用植物種子が、稲、豆類、麦類、雑穀類、および野菜類のうちの1以上からの種子である、請求項1~のいずれかに記載の発芽種子の調製方法、に関するものである。
請求項7に係る本発明は、前記食用植物種子が、稲の種子である、請求項6に記載の発芽種子の調製方法、に関するものである。
請求項8に係る本発明は、前記稲の種子が、グルコース重合度12以下のアミロペクチン短鎖の割合がデンプン全体の20%以下の超硬質米の種子である、請求項7に記載の発芽種子の調製方法、に関するものである。
請求項9に係る本発明は、前記稲の種子が、巨大胚芽米の種子である、請求項7に記載の発芽種子の調製方法、に関するものである。
請求項10に係る本発明は、請求項7~9のいずれかに記載の発芽種子の調製方法において、前記稲の種子を、25~40℃の温度の前記溶液中に浸漬して、3~6時間で迅速に発芽処理を行うものである、発芽種子の調製方法、に関するものである。
請求項11に係る本発明は、前記食用植物種子が、大豆又は小豆の種子である、請求項6に記載の発芽種子の調製方法、に関するものである。
請求項12に係る本発明は、請求項1~11のいずれかに記載の方法により発芽種子を調製し、当該発芽種子を食品中に含有させることを特徴とする、発芽種子含有食品の製造方法、に関するものである。
請求項13に係る本発明は、前記発芽種子が発芽玄米である、請求項12に記載の発芽種子含有食品の製造方法、に関するものである。
請求項14に係る本発明は、前記発芽種子含有食品が、米飯、パン、麺、菓子、もしくは液状食品のいずれかの食品である、請求項12又13のいずれかに記載の発芽種子含有食品の製造方法、に関するものである。


【発明の効果】
【0011】
本発明は、種子の発芽を促進する(発芽率および発芽速度を向上する)ことを可能とする。これにより本発明は、発芽種子を調製するにあたり、迅速且つ高効率に発芽処理を行うことが可能となる。
また本発明により、通常の水浸漬では発芽が困難な巨大胚芽米や超硬質米も、発芽玄米として使用することが可能になる。
【0012】
また本発明は、発芽処理中における雑菌増殖を安全な手段で抑えることを可能とする。そして本発明は、発芽処理中の雑菌の発酵に由来する不快臭の発生を抑制することを可能とする。
【0013】
また本発明は、発芽種子中の呈味成分であるグルコース、機能性成分であるGABAを増加すること、さらに、葱類に含まれるケルセチン配糖体(機能性成分)などを付与することを可能とする。即ち、発芽種子の呈味性および機能性を向上することを可能とする。
【0014】
また本発明は、呈味性や機能性が向上した上記発芽種子を含有する食品や加工食品(特に、発芽玄米を含有する米飯、パン、麺、菓子、もしくは液状食品)を提供することを可能とする。
【0015】
また本発明により、あらゆる品種の稲の種子(米)、大豆等の豆類種子、大麦等の麦類の種子、アワ等の雑穀類種子、レタス等の野菜種子からも、迅速且つ高効率に発芽種子を調製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1において、赤玉葱含有溶液が玄米の発芽に与える影響を示した図である。
【図2】実施例1における発芽玄米の発芽状態を示す写真像図である。
【図3】実施例2において、赤玉葱含有溶液が発芽種子のグルコース含量に与える影響を示した図である。
【図4】実施例3において、白玉葱含有溶液が玄米の発芽に与える影響を示した図である。
【図5】実施例3において、長葱含有溶液が玄米の発芽に与える影響を示した図である。
【図6】比較例1において、黒豆水抽出物、紫キャベツ水抽出物、朝紫(紫黒米)水抽出物が、玄米の発芽に与える影響を示した図である。
【図7】実施例4において、赤玉葱含有溶液が豆類種子の発芽に与える影響を示した図である。
【図8】実施例4において、赤玉葱含有溶液が豆類種子の発芽に与える影響を示した図である。
【図9】実施例4における発芽豆類種子の発芽状態を示す写真像図である。
【図10】実施例4における発芽豆類種子の発芽状態を示す写真像図である。
【図11】実施例5において、赤玉葱含有溶液が発芽玄米のGABA含量に与える影響を示した図である。
【図12】実施例10において、赤玉葱含有溶液が玄米の発芽に与える影響を示した図である。
【図13】実施例11における発芽玄米の発芽状態を示す写真像図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、葱類(特に赤玉葱)を含有する溶液中に浸漬して発芽処理を行うことを特徴とする、種子の発芽速度、発芽率、抗菌性、呈味成分、および機能性成分、が向上された発芽種子の調製方法、に関する。
また、本発明は、前記方法によって得られる発芽種子、;前記発芽種子を含有する発芽種子含有食品(特に、発芽玄米を含有する米飯、パン、麺、菓子、液状食品)、;に関する。

【0018】
<葱類を含有する溶液>
本発明における「葱類を含有する溶液」とは、葱類を含有する溶液を指すものである。
例えば、葱類を生のまま又は半乾燥状態で、細片化、磨砕、もしくは擂潰して、溶液に含有させることができるが、特には、乾燥(具体的には凍結乾燥)させてから細片化(好ましくは粉末化)して、含有させることが望ましい。また、攪拌や混合処理を行い、固形分を懸濁させた状態にすることが望ましい。
なお、当該溶液としては、前記固形分を除去した溶液(即ち、葱類の水抽出物を含有する液体)を用いることもできる。また、これを希釈して用いることもできる。

【0019】
ここで、「葱類」とは、ネギ属(genus Allium)に分類される植物を指し、玉葱(タマネギ、オニオン、A. cepa)、葱(ネギ、A. fistulosum)、分葱(ワケギ、A. wakegi)、浅葱(アサツキ、A. schoenoprasum var. folisum)、ニンニク(A. sativum)、ラッキョウ(A. chinensis)、ニラ(A. tuberosum)、リーキ(A. porrum)、ヒメニラ(A. monanthum)、カンケイニラ(A. togashii)、ノビル(A. gayi)、ギョウジャニンニク(A. victorialis subsp. plafyphyllum)、イトラッキョウ(A. virgunculae)、ミヤマラッキョウ(A. splendens)、ヤマラッキョウ(A. thunbergii)、ギガンチウム(A. giganteum)、クリストフィ(A. cristophii)、パープルセンセーション(A. hollandicum)、チャイブ(A. schoenoprasum)、などを挙げることができる。
なお、本発明の性質を鑑みると、これらの中でも特に食用であるものが好ましく、さらには、玉葱、葱、もしくはこれらと極めて近縁な分葱、浅葱、などが望ましい。
本発明では、上記葱類の中でも、特に、「玉葱」と「葱」が好ましい。

【0020】
本発明において、さらに好ましくは、「玉葱」を用いることが望ましい。本発明における玉葱とは、中央アジアが原産地の玉葱(タマネギ、オニオン、A. cepa)、すなわち植物学的にはユリ科の越年草の葉菜で、一般的に、赤玉葱、白玉葱、小玉葱、葉玉葱、黄玉葱、ペコロス、エシャロット、などの種類がある植物を指し、如何なる品種、亜種、系統のものであっても用いることができる。
最も好ましくは、これらの中でも、「赤玉葱」(例えば、ストックトン・アーリーレッド、湘南レッドなど)を用いることが望ましい。

【0021】
本発明では、前記葱類の植物体のうち、茎葉部分であれば如何なる部分も用いることができるが、具体的には鱗葉(もしくはこれに相当する部分)を用いることが望ましい。

【0022】
当該溶液は、前記葱類を、乾燥物換算で0.2~10.0重量%含有するものであることが望ましい。また、含有量の下限としては、好ましくは1.0重量%以上、さらには2.0重量%以上含有するものであることが、発芽促進作用の向上の点で望ましい。含有量が低すぎると、発芽促進効果が十分発揮されないので、不適当であり、含有量が高すぎると、糖濃度が高すぎるために発芽促進作用が損なわれるうえに、発芽種子の食味も損なわれので、不適当である。

【0023】
当該溶液に用いる液体としては、具体的には、水を用いることができるが、種子の発芽を阻害しない程度であれば、薄い塩や緩衝剤を含有するものも用いることができる。
当該溶液のpHとしては、pH5.0~7.0、好ましくはpH6程度、に調整されたものを用いることが望ましい。
また、当該溶液を調製する工程は、葱類に含有される有効成分の分解、変性、失活、等を防ぐために、非加熱で行うことが望ましい。

【0024】
このようにして得られた‘葱類を含有する溶液’は、種子に対して‘優れた発芽促進作用’(発芽率および発芽速度を向上させる作用)、並びに、‘抗菌作用’を有するものである。また、種子に‘呈味成分や機能性成分を付与する作用’を有するものである。

【0025】
<発芽処理>
本発明では、前記‘葱類を含有する溶液’中で種子を発芽させて、発芽種子を調製するものである。
本発明の発芽種子の調製方法は、基本的に被子植物の「種子」に対して用いることが可能であるが、特には農作物である、稲、豆類、麦類、雑穀類、野菜類の種子に用いることが有効である。さらに具体的には、稲、豆類、について有効に用いることができる。

【0026】
ここで本発明に用いることができる稲の種子(玄米)としては、如何なる品種や系統のもの、例えば、一般良食米(コシヒカリなど)、低アミロース米(ミルキークイーンなど)、高アミロース米(夢十全、ホシユタカ、越のかおり、ホシニシキ、など)、低グルテリン米(春陽など)、紫黒米(朝紫、紫宝、おくのむらさきなど)、モチ米(こがねもちなど)、超硬質米(グルコース重合度12以下のアミロペクチン短鎖の割合がデンプン全体の20%以下の品種系統、;EM10、EM72、EM129、EM192など)、巨大胚芽米(胚芽の割合が大きいので玄米としての利用に好ましい品種系統、;超車、夏雲など)、タンパク質変異米、インド型米、の種子を挙げることができる。
本発明は、これらの中でも特に、通常の水浸漬では発芽率の低い、超硬質米、巨大胚芽米、インド型米、タンパク質変異米、などに対して用いることが、発芽率の向上の点で有効である。

【0027】
また、本発明に用いることができる豆類の種子としては、大豆(茶豆、黒豆など)、小豆、えんどう豆、インゲン豆、空豆、などの種子を挙げることができる。具体的には、大豆、小豆に用いることができる。
また、本発明に用いることができる麦類の種子としては、小麦、大麦に属する如何なる品種系統のもの(例えば、小麦であるハルユタカ、ふくさやか、農林61号、ナンブコムギ、キタノカオリ、など、;大麦であるダイシモチ、サンシュウ、スカイゴールデン、ニシノチカラ、タカホゴールデン、大系HP19、中間母本農2、9551、マンテンボシ、など)、を挙げることができる。
また、本発明に用いることができる雑穀類の種子としては、鳩麦(ハトムギ)、蕎麦(ソバ)、粟(アワ)、稗(ヒエ)、黍(キビ)、玉蜀黍(トウモロコシ)、などを挙げることができる。
また、本発明に用いることができる野菜類の種子としては、ピーマン、トウガラシ、カブ、ダイコン、ハツカダイコン、ミニセロリ、ルッコラ、コマツナ、シソ、アオジソ、ニンジン、ミズナ、サラダミズナ、カラシナ、キャベツ、芽キャベツ、ホウレンソウ、カボチャ、アスパラガス、アシタバ、レタス、トマト、イチゴ、アルファルファ、カイワレダイコン、ヒマワリ、クレソン、サニーレタス、グリーンレタス、フリルレタス、チマサンチュ、ベビーリーフ、リーフレタス、キュウリ、パセリ、イタリアンパセリ、バジル、スイートバジル、チャービルなどの種子を挙げることができる。

【0028】
ここで「発芽」とは、吸水現象に始まり、‘幼根や子葉が種皮を破って出現するまで’の一連の複雑な生理・生化学変化を含む過程を指す。水分は種子の発芽を規制している第一の要因で、成熟した種子は水分含量が少なく、種子内の代謝活動が著しく抑制されており、発芽に際して多量の水分を必要とする。

【0029】
本発明における発芽処理は、種子を前記溶液中に浸漬し、一定温度もしくは温度を段階的に変化させて行うものである。具体的には20~42℃、好ましくは25~40℃の範囲で行うものである。
なお、発芽における温度条件は、環境要因のなかで種間の差違が大きく、種子の生理的状態によっても著しく異なるため、種子の種類や状態によって、至適温度の調節が必要である。例えば、稲の種子(玄米)の発芽処理を行う場合、35~40℃付近で行うことが望ましい。

【0030】
前記‘葱類を含有する溶液’には、優れた発芽促進作用があるため、大幅に発芽処理にかける時間を短縮することができる。例えば、発芽率が極端に低くないほとんどの稲の品種系統では、3~18時間、好ましい場合には3~6時間で、迅速に発芽種子(発芽玄米)を調製することが可能となる。
なお、前記‘葱類を含有する溶液’に抗菌作用があるため、十分な発芽種子が得られるまでの時間をかけて行うこともできる。例えば、発芽が困難な稲の品種系統や豆類の種子を用いる場合、30~72時間かけて行っても、雑菌等の繁殖を抑制することができる。

【0031】
<発芽種子>
上記発芽処理を経ることによって、得られた発芽種子は、発芽の際の雑菌の繁殖、菌の付着、が抑制されたものである。
また、当該発芽種子は、呈味成分や機能性成分の含量が向上したものである。

【0032】
例えば、呈味成分の‘グルコース’を2.5重量%以上、好ましくは3.0重量%以上含有するものである。
例えば、上記発芽処理によって調製した発芽種子の一例である発芽玄米では、通常の発芽玄米に比べて、約2以上(品種によっては24倍)にグルコース含量を向上させることができる。

【0033】
また、機能性成分の‘GABA’については、15mg/100g以上、好ましくは30mg/100g以上、含有するものである。
例えば、上記発芽処理によって調製した発芽種子の一例である発芽玄米では、通常の発芽玄米の約2倍以上にGABA含量を向上させることができる。なお、これは、通常の玄米に比べて約4倍以上、通常白米に比べて約20倍以上の含量に相当する。
なお、GABA(γ-アミノ酪酸)とは、グルタミン酸がグルタミン酸デカルボキシラーゼの作用によって脱炭酸された非タンパク性アミノ酸を指し、広く自然界に存在する。GABAは、抑制性の神経伝達物質として機能することが知られており、さらに高血圧症予防、中性脂肪の増加の抑制、精神安定作用等の効果を有する機能性成分である。

【0034】
また、本発明における発芽種子は、葱類に含まれる機能性成分である‘ケルセチン配糖体’が新たに付与されて、含有するものである。
具体的には、ケルセチン配糖体を2~500ppm、好ましくは50~300ppm、含有するものである。
なお、前記葱類として玉葱を用いた場合、玉葱に多く含まれるケルセチン配糖体である、「ケルセチン-3,4-グルコシド」や「ケルセチン-4-グルコシド」(M. Takenaka et al., Food Science and Technology Research, 10(4), 405-409, 2004.)を主に含有するものとなる。

【0035】
<発芽種子含有食品>
本発明では、前記で得られた発芽種子を用いることで、前記したような呈味性や機能性が向上した食品を製造することができる。
当該発芽種子含有食品は、全量あたり前記発芽種子を5重量%以上、好ましくは10重量%以上含有させることが、呈味性や機能性を向上の点で望ましい。
また、当該発芽種子は、粥状、液状、粉末状にして、食品原料と混合して用いることができる。

【0036】
発芽種子含有食品としては、具体的には、米飯、パン、麺、菓子、もしくは液状食品の形態を想定することができる。

【0037】
ここで‘発芽種子含有米飯’としては、発芽種子を上記所定量含有する米飯を指すものである。例えば、上記工程を経て発芽種子を調製した後、炊飯した米飯と混合することで、製造することができる。炊飯は、通常の家庭用電気釜による炊飯に加え、マイクロ波加熱、蒸気炊飯、レトルト加熱などによっても行うことができる。
また、発芽種子調製前に前記種子と米を混合したり、もしくは、前記種子として玄米のみを用いた場合においては、前記発芽処理を行うだけで(澱粉が糊化し炊飯状態になるため)、直接、発芽種子含有米飯を製造することもできる。

【0038】
また、‘発芽種子含有パン’としては、前記発芽種子を、パンの材料(小麦粉等)に配合して生地を調製し、発酵および焼成を行うことで、製造することができる。
また、‘発芽種子含有麺’としては、前記発芽種子を、麺の材料(小麦粉等)に配合して生地を調製し、麺帯を作製して切り出すか、あるいは細孔から押し出して麺状とすることで、製造することができる。うどん、パスタ、中華麺、ソーメン、などを挙げることができる。
また、‘発芽種子含有菓子’としては、前記発芽種子を、菓子の材料(小麦粉、米粉等)に配合して生地を用いて製造することができる。具体的には、煎餅やあられ等の米菓や、洋菓子を製造することができる。また、饅頭、点心の皮として用いて、和菓子や中華菓子を製造することもできる。
また、‘発芽種子含有液状食品’としては、‘発芽種子と米粉’もしくは‘発芽玄米’を加熱して澱粉を糊化させた後に加水することによって液状にした食品や、前記加熱糊化後に、その澱粉やタンパク質を、酸や酵素によって分解して液状にした食品、などを挙げることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施形態を実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
<実施例1> 発芽率の低い米における赤玉葱含有溶液の発芽促進作用
まず、赤玉葱の鱗葉を凍結乾燥し粉末化した。そして、その凍結乾燥物を水に対して2重量%で含む溶液(pH5.9)を調製した。
次いで、平成20年産のコシヒカリ、春陽、ホシユタカ、夢十色、ミルキークイーンの各玄米(種子)約2gを、前記赤玉葱の乾燥物粉末を含有する溶液(以下、単に赤玉葱含有溶液と記載する場合あり。)に浸漬し、37℃で18時間の条件で発芽処理を行って、発芽玄米(‘発芽種子’)を得た。
また、対照として、前記各玄米を、脱イオン水(pH6.9およびpH5.9)に浸漬して上記と同様の条件で発芽処理を行って発芽玄米を得た。
そして、得られた各発芽玄米の発芽率を算出した。結果を図1に示す。また、発芽玄米の発芽状態を示す写真像図を図2に示す。
【実施例】
【0040】
この結果、赤玉葱含有溶液を用いて発芽処理を行った場合、全ての玄米で70%以上の発芽率を示し、脱イオン水を用いた場合を上回る発芽率を示した。特に、通常の水浸漬では発芽率の低い春陽、夢十全、ミルキークイーンで、顕著に向上することが示された。
なお、赤玉葱含有溶液の発芽率と脱イオン水(pH6.9)による発芽率の間には、危険率1%の有意差が認められた。
また、発芽処理後の赤玉葱含有溶液は透明で、微生物の繁殖が認められなかった。
【実施例】
【0041】
また、赤玉葱含有溶液(pH5.9)による発芽率は、pH5.9の脱イオン水による発芽率を上回る(特にミルキークイーンおよび春陽においては約20%以上上回る)ことから、赤玉葱含有溶液による発芽率の向上は、至適pHの他に、赤玉葱含有溶液に含まれていた発芽促進作用を有する成分に由来することが示された。
なお、各玄米において、pH5.9の脱イオン水による発芽率が、pH6.9の脱イオン水による発芽率を上回ったことから、玄米の発芽時に活性化する酵素の至適pHは、弱酸性(pH5.9)であることが明らかになった。
【実施例】
【0042】
<実施例2> 赤玉葱含有溶液による発芽玄米中のグルコース増加作用
発芽玄米の食味の一要因であるグルコース含量について、赤玉葱含有溶液中で発芽処理を行った発芽玄米の場合の含量を測定した。
平成20年産のコシヒカリ、春陽、ホシユタカ、夢十色、ミルキークイーンの各玄米(種子)約2gを、実施例1に記載の方法と同様にして、赤玉葱含有溶液(赤玉葱乾燥物粉末2重量%、pH5.9)を用いて発芽処理(37℃、18時間)を行い、発芽玄米(‘発芽種子’)を得た。
また、対照として、前記各玄米を、脱イオン水(pH6.9)に浸漬して上記と同様の条件で発芽処理を行って、発芽玄米を得た。
そして、得られた各発芽玄米を凍結乾燥し粉末にして各0.1gずつ秤量し、60%エタノール1mlを用いローテーターで1時間抽出した。この抽出液を15000rpm、15分間遠心し、上清0.1mlを回収して、グルコース抽出キット(F-キット:Roche Diagnostics GmbH)を用いて、グルコース含量をもとめた。結果を図3に示す。
【実施例】
【0043】
この結果、赤玉葱含有溶液を用いて発芽処理を行った発芽玄米は、脱イオン水で発芽処理を行った発芽玄米に比べグルコース含量が大きく増加した。具体的には、コシヒカリ〔図3のA〕4.8倍、ミルキークイーン〔図3のE〕2.0倍、ホシユタカ〔図3のC〕2.4倍、夢十色〔図3のD〕24.0倍、春陽〔図3のB〕2.2倍、のグルコース含量を示した。このことから、赤玉葱含有溶液を用いた発芽処理は、発芽玄米の食味を向上させることが明らかとなった。
また、発芽処理が終了した後の赤玉葱含有溶液は透明で、微生物の繁殖が認められなかった。
【実施例】
【0044】
<実施例3> 赤玉葱、白玉葱、長葱を含有する各溶液の発芽促進作用の比較
赤玉葱、白玉葱、長葱を含有する各溶液について、発芽における影響を発芽率で検討した。
まず、白玉葱、長葱、の鱗葉を各々凍結乾燥し粉末化した。そして、その凍結乾燥物を水に対して2重量%で含む溶液(白玉葱含有溶液:pH5.9、長葱含有溶液:pH5.2)を調製した。
次いで、平成20年産のコシヒカリ、春陽、ホシユタカ、夢十色、ミルキークイーンの各玄米(玄米)約2gに対して、前記各溶液を用いたことを除いては実施例1に記載の方法と同様にして、発芽処理(37℃、18時間)を行い、発芽玄米(‘発芽種子’)を得た。
また、対照として、前記各玄米を、脱イオン水(pH6.9)に浸漬して上記と同様の条件で発芽処理を行って、発芽玄米を得た。
そして、得られた各発芽玄米の発芽率を算出した。白玉葱の結果を図4に、長葱の結果を図5に示す。また、これら各溶液(および実施例1の赤玉葱含有溶液)の発芽率について、脱イオン水の発芽率(対照)に対する比率を算出した。結果を表1に示す。
【実施例】
【0045】
【表1】
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【実施例】
【0046】
この結果、赤玉葱含有溶液と同様に、白玉葱含有溶液や長葱含有溶液を用いて発芽処理を行った場合においても、発芽玄米の発芽率が向上することが示された。
なお、各溶液における発芽率の向上は、「赤玉葱含有溶液>白玉葱含有溶液>長葱含有溶液」の順で高く、特に、赤玉葱含有溶液で高い(白玉葱含有溶液や長葱含有溶液の約1.6倍)ことが示された。
これらの結果から、葱類の鱗葉からの水抽出物には、発芽促進作用を有する成分が含まれることが示された。なお、特に、赤玉葱含有溶液でその作用が顕著であるが、これは有効成分の含有量の違い、分子種の違い、配糖体、酵素、植物ホルモンなどの分子構造の相違などが、その原因と考えられる。
また、これら発芽処理が終了した後の赤玉葱含有溶液、白玉葱含有溶液、長葱含有溶液は、いずれも透明で、微生物の繁殖が認められなかった。
【実施例】
【0047】
<比較例1> 色素ポリフェノール類に発芽促進作用がないことの確認
まず、黒豆、紫キャベツ、朝紫(紫黒米)各30gを、200mlの脱イオン水(pH6.9)で30分間抽出することで、各色素ポリフェノールを含む水抽出液(黒豆水抽出液:pH7.1、紫キャベツ水抽出液:pH6.48、朝紫水抽出液:pH7.21)を調製した。
次いで、平成20年産のコシヒカリ、春陽、ホシユタカ、夢十色、ミルキークイーンの各玄米(玄米)約2gに対して、前記各水抽出液を用いたことを除いては実施例1に記載の方法と同様にして、発芽処理(37℃、18時間)を行い、発芽玄米(‘発芽種子’)を得た。
また、対照として、前記各玄米を、脱イオン水(pH6.9)に浸漬して上記と同様の条件で発芽処理を行って、発芽玄米を得た。
そして、得られた各発芽玄米の発芽率を算出した。結果を図6に示す。また、各水抽出液の発芽率と脱イオン水の発芽率(対照)の比率を算出した。結果を表2に示す。
【実施例】
【0048】
【表2】
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【実施例】
【0049】
この結果、脱イオン水での発芽率に比べ、黒豆水抽出液での発芽率は約60%、紫キャベツ水抽出液による発芽率は約13%、朝紫水抽出液による発芽率は約89%であり、いずれも低い値を示した。これらのことから、各色素ポリフェノールを含む水抽出液には、発芽促進作用はないことが確認された。
この結果から、赤玉葱含有溶液における発芽向上作用についての有効成分は、色素ポリフェノールではないことが示唆された。
【実施例】
【0050】
<実施例4> 豆類における赤玉葱含有溶液の発芽促進作用
平成20年産、播種用途用茶豆、小豆、黒豆の各種子約20gを、前記実施例1に記載の方法と同様に調製した赤玉葱含有溶液(赤玉葱乾燥物粉末2重量%、pH5.9)に浸漬し、25℃で30時間の条件もしくは25℃で54時間の条件で発芽処理を行って、‘発芽種子’を得た。
また、対照として、前記各種子を、脱イオン水(pH6.9)に浸漬して上記と同様の条件で発芽処理を行って発芽種子を得た。
そして、得られた各発芽種子の発芽率を算出した。発芽処理を25℃で30時間で行った時の結果を図7に、25℃で54時間で行った時の結果を図8に示す。また、各溶液の発芽率と脱イオン水の発芽率(対照)の比率を表3に示す。また、これら発芽種子のうち、黒豆の発芽状態を示す写真像図を図9に,小豆の発芽状態を示す写真像図を図10に示す。
【実施例】
【0051】
【表3】
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【実施例】
【0052】
この結果、赤玉葱含有溶液の発芽促進作用は、豆類においても確認された。特に発芽処理の時間を増やすことで、発芽率が向上することが示され、小豆では90%、黒豆では60%を超える発芽率を示した。また、脱イオン水での発芽率に比べて、茶豆では16.5倍、黒豆では7.8倍に発芽率が向上することが示された。
また、発芽処理が終了した後の赤玉葱含有溶液は、長時間の発芽処理にもかかわらず透明性を維持し、微生物の繁殖が認められなかった。
【実施例】
【0053】
<実施例5> 赤玉葱含有溶液による発芽玄米中のγ-アミノ酪酸
まず、赤玉葱の鱗葉を凍結乾燥し粉末化した。そして、その凍結乾燥物を水に対して2重量%、10重量%、もしくは15重量%で含む溶液(pH5.9)を調製した。
次いで、九州大学試験農場で生産されたEM10(超硬質米)の玄米(種子)約100gを、前記各赤玉葱含有溶液に浸漬し、37℃で6時間の条件で発芽処理を行って、発芽玄米(‘発芽種子’)を得た。
また、対照として、前記各玄米を、脱イオン水(pH6.9)に浸漬して上記と同様の条件で発芽処理を行って、発芽玄米を得た。
そして、得られた各発芽玄米について、γ-アミノ酪酸(以下単にGABAと記載する場合あり)を、アミノ酸自動分析計(日立、L-8500A)により測定した。赤玉葱含有溶液(2重量%)での結果を図11に示す。
また、得られた各発芽玄米を電気釜で炊飯して米飯を作成し、食味を調べた。
【実施例】
【0054】
その結果、赤玉葱含有溶液(2重量%)で発芽処理を行ったEM10の発芽玄米のGABA含量(mg/乾物100g)は、脱イオン水で発芽処理を行った発芽玄米に比べて、2.3倍高い値を示した。また、発芽処理が終了した後の赤玉葱含有溶液は透明で、微生物の繁殖が認められなかった。
なお、発芽玄米の食味については、赤玉葱乾燥粉末の添加量が2重量%、10.0重量%である溶液の場合は良好であったが、添加量が15.0重量%の場合は、発芽促進効果が顕著でないばかりか、発芽玄米の玉葱臭が強くなりすぎるために不適当であった。
【実施例】
【0055】
<実施例6> 麦類種子および雑穀種子に対する発芽促進作用
‘大麦種子’としてダイシモチ、‘小麦種子’としてハルユタカを試料とし、‘雑穀種子’として、ハトムギ、ソバ、アワ、ヒエ、キビの各種子を準備した。
上記各種子約2gを、前記実施例1に記載の方法と同様に調製した赤玉葱含有溶液(赤玉葱乾燥物粉末2重量%、pH5.9)に浸漬し、37℃で72時間の条件で発芽処理を行って、‘発芽種子’を得た。
また、対照として、前記各種子を、脱イオン水(pH6.9)に浸漬して上記と同様の条件で発芽処理を行って発芽種子を得た。
そして、得られた各発芽種子の発芽率を算出した。
【実施例】
【0056】
この結果、赤玉葱含有溶液の発芽促進作用は、上記の麦類と雑穀類においても確認され、脱イオン水での発芽率に比べて発芽率が向上することが示された。そして、全ての種子で60%以上の発芽率を示した。また、赤玉葱含有溶液は、長時間の浸漬後も透明で、微生物の繁殖が認められなかった。
【実施例】
【0057】
<実施例7> 野菜種子に対する発芽促進作用
‘野菜種子’として、ピーマン、トウガラシ、カブ、ダイコン、ハツカダイコン、ミニセロリ、ルッコラ、コマツナ、シソ、アオジソ、ニンジン、ミズナ、サラダミズナ、カラシナ、キャベツ、芽キャベツ、ホウレンソウ、カボチャ、アスパラガス、アシタバ、レタス、トマト、イチゴ、アルファルファ、カイワレダイコン、ヒマワリ、クレソン、サニーレタス、グリーンレタス、フリルレタス、チマサンチュ、ベビーリーフ、リーフレタス、キュウリ、パセリ、イタリアンパセリ、バジル、スイートバジル、チャービルの各種子を準備した。
上記各種子約1gを、前記実施例1に記載の方法と同様に調製した赤玉葱含有溶液(赤玉葱乾燥物粉末2重量%、pH5.9)に浸漬し、37℃で36時間の条件で発芽処理を行って、‘発芽種子’を得た。
また、対照として、前記各種子を、脱イオン水(pH6.9)に浸漬して上記と同様の条件で発芽処理を行って発芽種子を得た。
そして、得られた各発芽種子の発芽率を算出した。
【実施例】
【0058】
この結果、赤玉葱含有溶液の発芽促進作用は、上記の野菜類においても確認され、脱イオン水での発芽率に比べて発芽率が向上することが示された。そして、全ての種子で60%以上の発芽率を示した。また、赤玉葱含有溶液は、長時間の浸漬後も透明で、微生物の繁殖が認められなかった。
【実施例】
【0059】
<実施例8> 赤玉葱含有溶液による発芽玄米中の各成分
九州大学試験農場で生産されたEM10(超硬質米)の玄米(種子)約2gに対して、実施例1に記載の方法と同様にして、赤玉葱含有溶液(赤玉葱乾燥物粉末2重量%、pH5.9)を用いて発芽処理(37℃、18時間)を行い、発芽玄米(‘発芽種子’)を得た。
そして、得られた発芽玄米のγ-アミノ酪酸、アリインおよびケルセチン配糖体を高速液クロ法により測定し、グルコースをF-キットを用いて測定した。
その結果、γ-アミノ酪酸を43mg/100g、グルコースを3.8重量%、アリインを16ppm、ケルセチン-3,4-グルコシドを27ppm、含むことが確認された。
【実施例】
【0060】
<実施例9> 発芽玄米飯
実施例2で製造した赤玉葱含有溶液で発芽処理したコシヒカリ発芽玄米種子を、電気釜で炊飯して米飯を作成した。そして、米飯中のγ-アミノ酪酸含量を高速液体クロマトグラフで測定した。
その結果、食味の良好な発芽玄米飯が得られた。また、当該米飯中のγ-アミノ酪酸含量は、18mg/100gであった。
【実施例】
【0061】
<実施例10> 巨大胚芽米に対する発芽促進作用
まず、赤玉葱の鱗葉を凍結乾燥し粉末化した。そして、その凍結乾燥物を水に対して1重量%もしくは2重量%で含む溶液(pH5.9)を調製した。
次いで、巨大胚芽米である越車および夏雲、一般良食米であるコシヒカリ、の玄米(種子)約2gを、前記各赤玉葱含有溶液に浸漬し、40℃で30分次いで37℃で18時間の条件で発芽処理を行って、発芽玄米(‘発芽種子’)を得た。
また、対照として、前記各玄米を、脱イオン水(pH6.9)に浸漬して上記と同様の条件で発芽処理を行って発芽玄米を得た。
そして、得られた各発芽玄米の発芽率を算出した。結果を図12に示す。
【実施例】
【0062】
この結果、赤玉葱含有溶液の発芽促進作用は、巨大胚芽米においても確認された。また、赤玉葱の含量は、乾燥物換算で1重量%よりも2重量%の方が強い効果が得られることが示された。
【実施例】
【0063】
<実施例11> 巨大胚芽米に対する発芽促進作用
巨大胚芽米である越車の玄米(種子)約2gを、実施例10に記載の方法と同様にして、各赤玉葱含有溶液(赤玉葱乾燥物粉末1重量%、もしくは、2重量%)に浸漬し、40℃で30分次いで37℃で72時間の条件で発芽処理を行って、発芽玄米(‘発芽種子’)を得た。
得られた発芽玄米の発芽状態を示す写真像図を図13に示す。
この結果、赤玉葱含有溶液の発芽促進作用は、赤玉葱の含量は、乾燥物換算で1重量%よりも2重量%の方が強い効果が得られることが示された。
【実施例】
【0064】
<実施例12> 発芽玄米含有食品(加工品)の製造
巨大胚芽米である越車の玄米(種子)100gを、実施例1に記載の方法と同様にして、赤玉葱含有溶液(赤玉葱乾燥物粉末2重量%、pH5.9)を用いて発芽処理(37℃、18時間)を行い、発芽玄米(‘発芽種子’)を得た。
この発芽玄米に3倍量の水を加えて炊飯し、発芽玄米がゆを調製した。このかゆ300gに、豚ロース肉30g、加熱したなめこ30gを加え、TESCOM製スティックブレンダーTHM500によって、豚肉およびなめこが発芽玄米がゆと均一になるようホモゲナイズした。
このホモゲナイズ物360gに、市販の小麦粉(日清製粉製カメリヤ)300g、食塩1.5g、脱脂ミルク8.5g、無塩バター15g、砂糖17g、パン酵母3gを加え、パナソニック製家庭用製パン器(SD-BH101)を用いて食パン(‘発芽玄米含有食品’)を作成した。
【実施例】
【0065】
そして、得られたパンの物性を、植物種子置換法によって測定した。その結果、パンの比容積は4.2、テンシプレッサーを用いる多重バイト法で測定したhardnessは1.8gw/cmであった。また、6名で試食した結果、硬さや弾力性などの物理性においては市販の食パンと同等であり、外観と味については、市販の食パンを上まわる評価であった。
【実施例】
【0066】
また、このパンに含まれるγ-アミノ酪酸、アリイン、ケルセチン配糖体を高速液クロ法により、グルコースをF-キットを用いて測定した。
その結果、γ-アミノ酪酸を16mg/100g、グルコースを2.8重量%、アリインを6ppm、ケルセチン-3,4-グルコシドを180ppm、含むものであった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、あらゆる品種の稲の種子(米)、大豆等の豆類種子、大麦等の麦類の種子、アワ等の雑穀類種子、レタス等の野菜種子からも、迅速且つ高効率に発芽種子を調製するものである。
なお、現在は、世界的にスプラウト(発芽作物)のブームが起こっており、栄養機能性の付与された穀類、豆類、野菜の需要が急速に拡大しており、本発明によって、呈味性・機能性の向上した発芽玄米や作物発芽種子は、これらのニーズに答えるものであると期待される。
また本発明の発芽玄米の優れた特徴を活用して、発芽玄米を含有する食品(特に米飯、パン、麺、菓子、もしくは液状食品など)を提供することにより、米の消費を拡大し、日本人の食生活を豊かにすると同時に、食料自給率を高めることが期待される。
また本発明により、加熱によらずに微生物の繁殖を抑制することが可能となり、高い機能性を維持しながら安全性も確保することが可能になることが期待される。
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図11】
7
【図12】
8
【図2】
9
【図9】
10
【図10】
11
【図13】
12